大阪市立科学館研究報告 26, 111 - 114 (2016) プラネタリウム投影プログラム「スターズライフ」制作報告 渡部 義弥 * 概 要 「スターズライフ」は、2015年 6 月 ~8月 に公 開したオリジナルのプラネタリウム番組 である。番 組は、生 解 説 で使 用 し、投 影 担 当 者 がパーツとなる映 像 演 出 を実 行 し解 説 を加 えていく形 式 である。番 組 では 「変 わった」五 種 類 の星 をとりあげ、それぞれの解 説をするというオムニバス形 式 の進行 演 出 とし、最 後 に それらの天 体 の分 布 を天 球 にマップし、「変 わった」星がどの程度あるのかを述べてまとめとした。 1.はじめに られるようにはなっている。たとえば彦星=わし プ ラ ネ タ リ ウ ム で 最 も 観 覧 者 を ひ き つ け るのは 、 座アルタイルの形状などもとらえられるようにな 満天の星空である。それを形作る恒星は、星座と ってきている(図1 )、し かし素人に 実 物 の 映 像 で し て 分 布 や 名 前 が 印 象 づ け ら れ 、色 も 言 及 さ れ る 。 目 を 引 い て も ら う にはほ ど遠い状態である。 しかし、この恒星そのものをテーマとして取り上 げることはあまりない。なぜだろうか? 逆にテ ーマとして取り上げられやすい天体から考えてみ る。それは、次のようなものがあげあれる。 1.探査機で詳しい様子が分かっている惑星とそ の衛星。 2.望遠鏡などで拡大するとカラフルで複雑な姿 が う か ん で く る 、メ シ エ 天 体 が 多 数 あ る 星 雲 、 星団、銀河。 3.望遠鏡ではその詳細は見えないが、その物理 的特性が非常にミステリアスで魅力的な、ブ ラックホール 図1 .ジョ ージ ア州立 大 学の CHARA 干渉望遠 鏡が と ら え た 彦 星 の 表 面 形 状 ( c ) John Monnier, いずれも、イメージを喚起するビジュアルが豊 University of Michigan 富にそろっているのが特徴である。このほか、天 体ではないが、オーロラや宇宙探査機や望遠鏡な 一 方 、 恒星をプラネタ リウム番組でとらえると どの観測機器もとりあげられることが多いが、い なると、その「進化」といわれる一生のステージ ずれも映像が豊富に用意できることはかわらない。 の紹介が一般的である。太陽のような恒星も、生 一方で、恒星については、太陽をのぞいては、 まれたり死んだりすることもある。というだけで 映像が豊富とはいかない。太陽以外の恒星は遠距 なく、特に質量の大きな恒星の死は、超新星爆発 離にあるが、サイズは星雲や星団のように大きく という非常に派手な現象であり、映像として見栄 なく、美麗な映像が望みにくいからである。近年 えがする。また、星の誕生や死は星雲や星団とか は、観測技術の発達によって高解像度の画像も得 かわるため、これも映像的に見栄えがするものが 使える。 * 大阪市立科学館 e-mail:[email protected] しかし、夜空の輝いている恒星そのものは、 stable な状態であり、拡大すると基本的には太陽 - 111 - 渡部 義弥 と同様になる(図 2 )。し か も 、映 像 と し て 見 栄 え ぼ変化しないということを示す。 がするのは細かな様子であり、実際の映像として は 図 1 が いまま で に 人 類 が 得 た 最 高 画 質 で あ り 、 2.一部の恒星はその常識とはちょっとずれてい これ以上には見えない。 るものがあることを示し5種類の変わった恒星 を紹介する。 3.標準的な恒星と、やや変わった恒星がどうい う風に分布しているのかを、夜空の星にマーク して示す。 以上のうち、最も比 重が大きいのが2の部分ある。そ こを言う前に、1と3についてかんたんに述べる。 1については 図 2のような太 陽 の映 像 と恒 星 の一 般 的 な一 生 の グ ラフィ ック の 映 像 を 使 っ て、 stable な恒 星 の状 態 がどんなものであるかをイントロ的 に述 べた。 このさい、太 陽 は 全 天 周 映 像 を 使 い、オッと 思 わせる 効果をねらった。 3については、2で取り上 げた星がどう分 布 するのか をマーク で示 すと いう 形 に した。そ して、全 体 と しては 図 2 . PROBA2 衛 星 に よ る 太 陽 の X 線 画 像 stable な星が多く、太陽もそうした恒星の一生のなかで、 (c)ESA/SWAP PROBA2 science centre そうした安定したステージにいるというのを結論とした。 そして、2では5種 類 の恒 星 をとりあげ、それぞれの 一方で、恒星は 他 の 天 体 に 比 べ 輝 度 が 高 いため、 スペクトル観測や変光の観測によって、物理的描 特徴を語っていくことにした。この部分を次の節で詳述 する。 像が相当にあきらかになっている。一見1つに見 えても複数の恒星がまわりあっている連星系や、 2.スターズライフでとりあげた5種類の恒星 近接しているため相互作用をする恒星。恒星から スターズライフでは、夜 空に肉 眼 で見 える、あるいは ガスが吹き出している様子。太陽の50分の1し 見えうる恒星のなかで特に特徴的な5種類の恒星につ かない白色矮星や、逆に500倍以上ある赤色超 いて述 べることと した。基 本 的 には変 光 星 について述 巨星など、話題にことかかない。 べることとなった。ただ、変光 星を紹介するというのでは そこで、本プラネタリウム番組「スターズライ フ 」 で は 、 ふ だ ん 見 上 げ て い る 星 が 、 実 は どんな なく、夜 空の星について詳しくみると、ちょっと変わった 星があるという流れで紹介したかった。 ものであるかを伝える。というのをプログラムの 当 初 は、5種 類 をどういう順 番 でとりあげてもよいよう 主眼とした。つまり、スターズライフは、恒星の にしようと考 えた。いろんな星 がでてくる意 外 性 をねら 一生の最も激しい誕生と死「以外の」パートのお ったが、それではストーリーがわかりにくく、解 説 しにく もしろさを伝えることを主眼にして考えたプログ いという意 見が多かったので。順 番を固 定 することにし ラムである。スターズライフは「星の一生」では た。 なく、 「星の暮ら し 」と い う イ メ ー ジ で つ け たタイ トルである。英語にしたのは、星「での」暮らし さらに、 解 説 上 の 工 夫 として、5種 類 をキャッチフレ ーズで最初から図3に示すタイトルボードで示した。 ととらえてほしくなかったためである。 1.ためいきをつく 2.スターズライフの全 体 構 成 これは、はくちょう座χ型変 光星のことであり、恒星 スターズライフは、次のような構成をとった。 表 面から断続 的にガスや塵 が吹き出る恒星 である。非 常い大きくかつガクっとした変 光をするのが特 徴である。 1.恒星についての一般的な情報を示す 代 表 星 としては、はくちょう座 χのほか、エータ・カリー そこで、恒星は、とてつもないエネルギーを放 ナ(りゅうこつ座η星)がある。 っている太陽と同じ種類の天体であること。一 スペクトルに 恒 星 から近 づく 成 分 と 遠 ざかる成 分 が 方でふだん見ているような時間スケールではほ 同 時 にでてくることから異 常 さがわかり、それが恒 星 か - 112 - プラネタリウム投影プログラム「スターズライフ」制作 ら吹 き出 たガスや塵 が 恒 星 の光 を反 射 することによっ 融 合 を起 こすにいたって発 光 するのである。この過 程 てもたらされたことがわかったものである。 はちょっと複雑なので、アニメーションで示したが、ぴっ これを表 現 するために、バーチャリウムのスクリプトを たりくる映像にならなかった。 利 用 した簡 単 なアニメーションを作 った。ただ 、描 像 が ちゃちになってしまい、改 良 をしたが映 像 としての魅 力 5.星のドキドキ を最後まで出すことができなかった。 恒 星 がふく らんだり縮 んだりすることで明 るさが 変 化 する、脈 動 変 光 星 の紹 介をした。ただ、ここでは、見 栄 えがする現 象 としてライトエコーで恒 星 のまわりのガス が 波 紋 の ように 光 る 映 像 で 紹 介 した 。た だ 、この 映 像 はプラネタリウムドームでは、画 質 調 整 をしても見 栄 え がしなかった。一 方 で、脈 動 を示 したアニメーションは 試 作 段 階 で評 判 がよくなかったので意 見 をくんで取 り 下げることにした。 3.投影公 開 途 中での変更 点 タイトルボードはしばらく使っているうちに、表現のイメ ージが伝 えにくいという声 があったので、途 中 から図 4 の様 に差 し替 えた。より直 接 的 な表 現 に1と3を差 し替 えている。 図3. 5種類 の 変 わ っ た 恒 星 の タ イ ト ル ボ ード ここ でそれ ぞ れ の 恒 星 に つ い て 述 べ る 。 2.「あの星」のすがお 回転によって平べったく変 形 した恒 星を紹 介 した。代 表 星 として彦 星 (わし座 アルタイル)があり、またレグル ス 、アケ ルナ ルと いった 一 等 星 が あ げられる 。観 測 映 像 のほか、3Dモデルをつかって、太 陽 よりはるかに巨 大 な 星 が 高 速 回 転 に よ っ て 変 形 している 様 子 を 示 し た。 さらに回 転 によって恒 星 表 面 から円 盤 上 にガスがは がれるような様子を全 天 周 映 像 で示して紹 介した。 図4.差し替えたタイトルボード 3.なかよし! 映 像 については、一 部 チラツキなどがどうしてもとれ 非 常 に 近 距 離 にある 2つ の 恒 星 が 、互 いに まわりあ なかったものがあったが、途 中 で前 のオブジェクトが消 い、互 いを隠 すことがある食 変 光 星 をとりあげた。代 表 え ていなかっ たとか 、ムービー映 像 の 再 生 レ ート が 最 星として、こと座の織 姫 の次 に明 るいβ星 をあげた。ま 適でなかったといったテクニカルな問題がわかったため た、極 端 な例 としておおぐま座 W星 をあげ「キスをして に、逐 次 修 正 した。スクリプトベースで動 画 を多 用 した いる星」という表現で紹 介 した。 ときの問 題 点 であり、このあたりはノウハウを得 ていき、 かつ共有をする必要があろう。 4.新星 また、最 終 的 に全 天 に5種 類 の恒 星 の分 布を映 すと はくちょう座に1975年に現 れた新 星(はくちょう座V1 いうシーンは 、総 合 変 光 星 カタログから明 る い恒 星 の 500)を代 表 星 としてとりあげ、星 座 の形 が変 形 してし みをピックアップして行ったが、肉眼で見えるだけでも2 まうように現 れる恒 星 の紹 介 とした。 必 要 に応 じて、日 000個 程 度 あった。これらを全 て表 示 すると 画 面 がち 本 の 高 校 生 が 発 見 したと いったエピソード もあ わせ て らついたり、表 示 がスムーズにできないといった問 題 が 紹介した。 あった。そこで、しきい値 をみなおし、800 個 程 度 にお 新 星 については、白 色 矮 星 と巨 星 の近 接 連 星 系 で、 として表現するようにした。 巨 星 からあふれたガスが白 色 矮 星 の表 面 にたまり、核 - 113 - 渡部 義弥 4.まとめ プラネタリウム番 組 「 スターズライフ 」では、夜 空 に 見 える星について、さらにその正 体 を詳 しく知 るというコン セプト で製 作 を した 。恒 星 の 世 界 の おも しろさの 一 端 はなかなか伝 える機 会 がないので、そのジャンルで勝 負をしてみた作品である。 ただ 、映 像 が 豊 富 に ないと いう 点 は 、簡 易 アニ メー ションや想 像 画 で補 おうとしたが、想 像 以 上 にちょうど よい絵 が少 なく、解 決 しきれなかったためにいくつかの パートでわかりにくいものになってしまった。 最 後 の 全 天 の 恒 星 のプロ ットについても、技 術 的 な 問題もあり全ての対 象 天 体 をプロットしきれないで概念 的な紹介となってしまったのも残 念 である。 さらに、5種 類 の恒 星 を話 しきるには、やはりどうして も15分 間 では 、解 説 時 間 が 不 足 がちになった のもい なめない。ただ4~5種 類 ないと「色々」というイメージに はならないので、これはどうしても 譲 れない線 でもあっ た。 こ のように 多 々問 題 が ある 試 みと なってしまっ たが 、 夜空の恒星が実際 どんなものか? という切り口はけし て腐 らないもの だと考 える。上 記 の ような問 題 を 、プラ ネタリウム以 外 でも紹 介 しつつ、ネタをあつめて、次 回 はよりよいものを提 供 できるように考 えていきたいと思う。 それまでは、やはり映 像 があるものを中 心 にプログラム を作 り、そこに平 素 の今 夜 の星 空 の紹 介 で使 うための ミニクリップなどを少 しずつ作 りためるなど、少 しずつの 挑戦で映 像 制作 技 術 や映 像 のストックをしていくことに なろう。 最 後 に、今 回 と同 様 なテーマではいくつか優 秀 な書 籍がでている。本 プログラムの企 画 はそれらにインスパ イアされたものである。原 作 というわけではないが、アイ デアとして参照したものを参 考 文 献として示す。 参考文 献 岡崎彰、1994年 、奇 妙な 42 の星たち―宇 宙の秘密 教えます、誠 文 堂 新 光 社 パトリック・ムーア、1992年 、星 ・物 語 ―100 億 光 年の かなたから、丸 善 - 114 -
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