連載:アジアの旅芸人(1) 砂漠の絵解き芸人ボーパ 田村 仁 に点在する小さな町や 加わり舞 台を盛り 村々を巡回して演じ続 上げてくれることも けてきた代表的な旅芸 ある。 人である。 タール砂漠には ボーパが演じる際に さまざまな旅 芸 人 は、まずラージプットの が 住み多くの歌や 武勇伝が描かれたパド 楽 器もあるが、 や という布幕を広げて地 はりボーパの 奏で インドの北西部に位置したラージャスター 上にたてる。パドは横 4.5 メートル、高さ 1.5 るラボナハータによ ン地方は「王族たちの大地」と言われ、こ メートルほどある横長の絵であるが、その る歌い語りは、砂 の地方で生まれ育った人々は、幾多の戦乱 中心部には物語の主人公である王族たちが 漠が生み出した何 の中を生き抜いてきたラージプット戦士の末 大きく描かれ、その他の登場人物は役柄や ともいいがたい 独 裔として誇りを持って生きている。 物語の順序にそってパドの隅々まで細微に またラージャスターンはジプシーのルーツ 描き込まれている。 特の音色をかなえ、 ボーパの楽器ラボナハータ 深い味わいを感じ と言われるように、今でもさまざまな芸人た ボーパは夫婦で演じるのが一 般的であ させてくれる。 (写真は筆者提供) ちが伝統芸を演じながら放浪の旅を続けて る。ボーパ(夫)はパドの前でラボナハータ いる。その中にはラージプットの英雄伝説 という楽器を奏でながら絵解きをし、ボー の語り部として知られているボーパたちもい ピー(妻)と掛け合いで歌い語り、次々と る。絵解き芸人ボーパは、タール砂漠の中 物語を展開させてゆく。時には娘が踊りに 砂漠の町ジャイサルメールで演じる絵解き芸人ボーパの家族 たむら ひとし 写真家。1967 年より毎年アジア各国に出掛け、文化遺 産や生活文化等の写真取材を続けている。著書「ヒマ ラヤ仏教王国」全 2 巻(1986 年、三省堂) 、 「密林の王 土アンコール」 (1994 年、恒文社)など多数。 アジア太平洋現地発( タイ ) ソフトオープニング 神 研二郎 じん けんじろう 工事完成には程遠く見えるが 5 日後開店の ショッピングセンター(写真は筆者提供) アソシエート・エキスパート/アジア太平洋万人のための教育計画(APPEAL)/ユネスコ・バン コク事務所。 環境計画学修士取得後、日本の商社に就職。ACCU 教育協力課、総務課を経て、ユネスコ・バンコ ク事務所に勤務。コミュニティ学習センター(CLC)を中心とした識字・生涯教育事業を担当。 日本をはじめ、アジア文化では曖昧な態 ング = 一部開業」でもって完成の遅れを取 もちろんここにも「ソフトオープニング」の 度で断定を避ける傾向があります。微笑み り繕う傾向があります。 ちなみに、この 罠が潜んでいます。約束の日にやってきたそ の国タイの国民は、物腰が柔らかで常に人 空港の「グランドオープニング = 全体開業」 の担当者は堂々と、仕事の始めの部分だけ 間関係を平穏に保とうとします。タイ人がよ は未定のようです。 を出して微笑みます。 「え、今日が完成のは く使う「マイペンライ = 気にしない」は誰の また、12 月のタイ国王誕生月に合わせ、 ずでは ?」 「はい、最初の章が完成で残り 責任も追及しない問題解決法 ( 実際、解決 大型プロジェクトが計画されることもよくあ は来週です。 」 はしないのですが ) です。 ります。2005 年 12 月には、タイ国内最大 日本の職場で仕事を全力で完成させるこ 数ヶ月前、1 年遅れで新バンコク国際空 のショッピングセンターがバンコク市中心部 とに慣れた私には、 「ソフトオープニング」 港が開港しました。しかし直前に、政府は に開業しました。ところが、買い物客で賑 は何とも半端に思えます。しかし、タイでは 開港を 2 週間早めると発表。結局、国内 わうこの巨大な建物の上層階では今日もコ それをクッションとし、計画を尊重しながら 線の一部便だけが本番開港まで新空港を ンクリートむき出しの工事が続いています。 も柔軟に対応することで、誰の顔もつぶす 離発着することになったのですが、工事や 開店してから 1 年近くなるのですが。これも ことのない平穏な社会を維持しているよう 準備が間に合わずに問題ばかりだったよう です。タイではこのように「ソフトオープニ 「ソフトオープニング」の典型的な例です。 です。 ユネスコの仕事をタイ企業に発注する時、 ACCUニュース No.360 2007.3 5
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