文明の発展と文字の役割:識字教育の歴史的展開

20007年度第二回リテ研
(2007年5月28日)
文明の発展と文字の役割:識字教育の歴史的展開
I: 文明の興隆と文字は不可分の関係=現代文明の特徴は文字の普遍化
1.人類の誕生:猿人—原人—旧人—新人
人間の条件:2足直立—音声言語—人間家族
言語の役割:集団内のコミュニケーション
思考と言語
2.文字の誕生:これまでに分かっている最初の文字はシュメール語
BC3500年頃と推定される
a) メソポタミア 神殿を中心とする都市国家の誕生
象形文字と楔形文字
粘土板の使用 後に石碑
正書化
言語:シュメール、アッカド、アッシリア、エラム、ヒッタイト、
フリル、ウガリト、ヘブライ、アラム、ペルシャ
b) 殷 原始的象形文字:甲骨文—青銅器—金文字
秦の始皇帝の天下統一(BC221)と文字の統一
c)
エジプト ファラオと民族統一国家の出現
古代エジプトの表音文字と表意文字
ヒエログラフ:神の言葉
パピルスと書記
d) インダス文明(BC3200—BC1800)
インダス文字の萌芽(BC3000)—高度の都市計画と文字・印章
メソポタミア文明との交易
インド・アーリア語族の来往(BC1500)
ベーダ語(イラン方面の言語)から発生
プラークリット語に対する雅語=サンスクリット(梵語)
日本語にも導入
d)
インド・ヨーロッパ語族の波及
インド,イラン、ヒッタイト、ギリ
シャ、イタリック(ラテン語)
、ケルト、ゲルマン、バルト、スラブ、
アルメニア,アルバニア
3.古代文明の衰退と古代文字の消滅;新たな広域共通語の出現
a)
学問と文芸の担い手としてのギリシャ語と教育機関の出現=プラトン
のアカデミア:ローマ帝国 崩壊後ビザンチン帝国,ギリシャ正教の言
語として中世まで残る
b)
ローマ帝国の興隆と古典ラテン語=ギリシャ語の影響
c)
ヨーロッパ中世の唯一の公用普遍語、現代まで教養の象徴
d)
非識字者の俗ラテン語とロマンス語
e)
イスラム教の波及と近隣諸国のアラビア語学習:
古典北アラビア語
(コーランの言葉)=イスラム社会の共通宗教用語(神の言葉故変更、
修正は認められない)
:
f)
歴史の変化の中で現実とのずれ:アラビア語の方言との2重言語
4.古代文字の役割
a)
シュメール人の書きのこした諺
「楽しきはビール,苦しきは旅路」
b)主な機能
行政経済
官職表、生産量、貯蔵量、度量衡、通商、
宗教行事 王権の栄光の記録と歴史,王朝表、年代表、年名表,
神話伝説、呪い、占い、文学、詩、
法典、学修用のテキストとノート 等
c)権力者の占有、エリートとしての書記の誕生(エジプト)
一般大衆とは無縁
d)中国
皇帝の祭り事(秦)=篆書(古筆)
,
臣下用=隷書(秦筆)—楷書(今筆)に変化
政府機関間の文書,指令官への伝達,作戦 (木簡)
5.
文字文明の時代区分
a) 人類の誕生から古代文明の成立まで=無文字時代
(400万年前から BC3500年ころまで) 古代文明から中世まで
=権力者の専有物としての文字文明時代
b)(BC3500からルネサンス(13—16世紀)
,宗教改革(16世紀)
までの5000年間)
c) 18世紀−19世紀:文字の市民社会への普及の始まり
—アメリカ合衆国憲法(1787)
—フランス革命(1789)市民革命と市民の権利
—産業革命
—帝国主義国家の成立と国家主権の確立
—労働運動・社会主義運動
—ヨーロッパ列強時代(ウィーン体制)と植民地の拡大
—教育制度の国家管理と国語の強化、国民皆教育(formal education)
d)
社会主義革命と識字
—1917 ソ連の誕生とレーニンの識字政策
−社会主義、共産主義国家への波及
ブルガリア(1944)
、ポーラ
ンド(1949—51)
、ルーマニア,ユーゴスラビア(1955)ベ
トナム(1945)
II.
識字の重要性についての国際的認識の高まり
6. 国連主導型国際協力
—20世紀と2回の世界大戦:
—国連の成立と世界人権宣言
—途上国の国際社会への参加(1960年以降)
7. 識字の格差の是正(主な事例)
—1946−59 ユネスコ Fundamental Education
—1960 インドネシア:One nation, one people, one language
バハサ・インドネシアによる国内統一、 Kejar (Catch up)
—1965 イラン Army of Knowledge 遊牧民の国家統合
—1960年代初期—Paulo Freire (Brazil): Literacy through
conscientization-psycho-social approach;
キーワードによる環境の理解
—1965 ユネスコ 世界非識字撲滅世界会議(テヘラン)
人権としての識字と機能的識字の葛藤
—1968 ユネスコ
Experimental World Literacy Program
Functional Literacy for development
—1972 ユネスコ:第2回国際成人教育会議
生涯学習の基礎としての識字と開発のための識字
—1984−89 ユネスコ 第2次中期計画 EFA (UPE-識字の link)
人権と開発のための識字
—1990 ジョムティアン世界会議 EFA-NFE Link: New Vision
—2000 ダカール宣言と国連の MDG
8. 市民社会の重要性の高まりと NGO の活動
III.
現代社会における非識字の危険性
9. 非識字と教育格差
—自己学習、生涯教育への不適応
—人間的成長の限界
—限定的行動範囲
—資格社会における疎外と低い雇用可能性
—教育の重要性の認識の欠如
—非識字の社会的再生産と格差の増大
10. 非識字者の社会経済的変化への不適合
—イノベーション、革新への抵抗勢力
—保守、伝統固執的個性と社会勢力の助長
—社会、経済、文化的格差 と社会的停滞の要因
—貧困と低い購買力=社会的 marginalization と孤立
—国内・国際的基準の無理解 と不法行為
11. 政治的また外部からの煽動、宣伝、Manipulation への無防備
—犯罪集団やテロ行為
—国際的伝染病
—新しい社会コードの無理解
IV.
識字に対する政府や国際社会の低い関心
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