民事訴訟法

民事訴訟法
【1】
未修者の合格者諸君へ
民事訴訟法という法律は、債務の履行義務や所有権の存否、離婚を求めうるかなど、民
事上の紛争についての訴訟(これを「民事訴訟」といいます。)の手続の進め方や判決の下
し方や効力などを規律するものです。どのような事実(要件事実)があれば、どのような
内容の権利(より一般的にいえば、「法的効果」)が認められるかは、民法などの法律(民
事実体法)によって定められています。民事訴訟では、主張されている権利(法的効果)
が発生するために必要な要件事実が存在するかどうかを審理し、その権利がその訴訟の当
事者間に認められるかどうかを判断(判決)することになります。
したがって、権利があるかどうかを判決するためには、どのような民事実体法があるか
ということと、どのような手続でその要件事実の存否が審理・判断されるかということが
問題となります。
そこで、法科大学院では1年次配当の「民事訴訟法講義」を必修科目としており,2年
次以降も民事訴訟法関係の演習等は必修科目とされており、また、新司法試験でも全員が
受験しなければならない科目とされています。
ところで、民事訴訟法は、いろいろな法分野のなかでも、とくに難解で勉強がしにくい
ものであると言われています。その理由はいろいろありますが、さしあたり次の二つを挙
げておきたいと思います。まず一つは、民法上の基本的な事項についての知識がなければ、
民事訴訟法の理解がきわめて困難であるということです。そこで、あらかじめ民法につい
ても早く勉強しておくことが望まれます。
難解な理由のもう一つは、民事訴訟で行われる行為は、その一つ一つが独立し完結した
効果を目的するものではなく、最終的に自分に有利な判決を得ることに向けられた行為で
あり、また、それに対する相手方や裁判所の対応を受けて、その意義や効果に変動が生じ、
別の行為を追加することが必要となることもあります。一つの行為がなされると、それを
前提にしていずれかの側から次の行為がなされ、さらにその次の行為が行われるというよ
うな、いわゆる「手続」とよばれるものを規律の対象としています。要するに、訴えの提
起から審理の過程を経て判決にいたるまでを一体として理解していかなければならないの
で、手続の最初のほうで行われる行為でも、それを理解するためには、後のほうで出てく
る行為や理論が問題になってくるという、厄介なことになります。(このようなことを学者
は、民事訴訟法の理論の「円環構造」などと呼んでいます)。
ともあれ、詳しいことは1年次の講義の中で説明されますが、入学前から民事訴訟法に
ついても少し勉強しておかれることを希望します。そして、その勉強方法としては、訴え
の提起から判決によって訴訟が終了するまでの訴訟手続の流れと、どのようなことが問題
とされているのかを、ざっと眺めておかれるのがよいのではないかと思います。そのため
には、詳細な教科書類を紐解くのは後にして、とりあえずは簡単で頁数の多くない本を、
多少理解ができないところがあっても、一通り最後まで頑張って読んでみるというのがよ
いと思われます。
そのような本としては、中野貞一郎『民事裁判入門(第2版補訂版)』(有斐閣)があり
ます。また、物語風のものとして、福永有利=井上治典『アクチュアル民事の訴訟』(有斐
閣)などもあります。また、既に、中野貞一郎ほか『新民事訴訟法講義』(有斐閣)や伊藤
眞『民事訴訟法』(有斐閣)などをお持ちの方は、訴えの提起から判決までを手続の流れに
そって読むのも有益と思われます。
【2】
既修者の合格諸君へ
2年コースの合格者でも、入学試験における「民事訴訟法」の出来は、一般的に言って
必ずしも良かったわけではありません。民事訴訟法担当者としては、4月からの「民事法
演習Ⅴ」(民事訴訟法関係の演習です。)についていくのに苦労する方もおられるのではな
いかと心配しています。私たちも、民事訴訟法の理解が十分でないと心配している入学者
と未修者で民事法演習Ⅴ・Ⅵのクラスに進む人たちのうちで希望者のために「基礎力養成
クラス」を設けて、基本事項の正確な理解を助けるようにしています。来年度も2クラス
設ける予定にしています(各クラス20名~25名程度)
。このクラスは受講者の希望にも
とづいて編成されます。
民事法演習Ⅴ・Ⅵの準備として基本書を精読されることを希望します。その際、まず、
各制度の趣旨や意義を十分に理解することに努め、その上で、その趣旨や意義との関係を
考えつつその要件と効果がどのように定められているかを読み取るようにして下さい。な
お、教科書や判例などを読まれる場合に条文や規則が挙げられているときは、面倒がらず
に必ずその条文を読むようにされるのがよいでしょう。今のうちから、そのような習慣を
つけましょう。
用いるべき教科書は、定評のある本であれば、どなたの書かれたものでもよいかと思い
ますが、内容が充実した浩瀚なものを読まれるべきでしょう。平成8年の民事訴訟法の大
改正後のものでも、その後に、小改正が各所にありますので、できるだけ新しいものを選
ばれるのがよいでしょう。比較的多くの方が使用している教科書として次のようなものが
あります。参考までに記しておきます。
中野貞一郎ほか『新民事訴訟法講義』
伊藤眞『民事訴訟法』(有斐閣)
上田徹一郎『民事訴訟法』(法学寺院)
また、重要判例を見るのに便利なものとして、
『民事訴訟法判例百選(第四版)』
が、10月に刊行されました。