「21世紀の経営倫理」――経営倫理学序説――古山英二 梗概 1.ビジネス・エシックス無用論 『資本主義の未来』、『知識資本主義』、『富のピラミッド』等の著作でも知られる MITスローン・ビジネ ス・スクールのレスター・サロー(Lester Thurou)教授「無用論」の代表としては、 Harvard Business Review No. 46 (1968)に載った Albert Z. Carrの論文 ”Is Business Bluffing Ethical?”が知られている。 2.倫理学は実践科学 倫理学は倫理的主体である人間の行動規制を研究し、主体的行為を支える学問。 倫理学は人間の社会的行為がもたらす帰結、そうした帰結の原因となる行為それ自体、あるいは行為に先行す る動機等に関する評価を行うことを目的とする実践科学( eine praktische Wissenshcaft)の一種である。同様 に、倫理学は哲学、心理学、社会学、経済学、形而上学、その他多くの基礎科学が提供する理論を使って「人間 の社会的行為」を評価することを目的としている。 (宇佐神:倫理学とは間主体的存在としての人間に関し、その判断・行為を導き出す機序を明らかにし、 生の全体を管理し、人間の共生に向けての道筋を提示する学問領域である。関連ある事柄を踏まえて実践に出 ていく、行為主体である人間の、主体的判断、主体的行為機制のプロセスを明らかにする学問。) 3.企業経営それ自体が倫理の実践 「無意味論」の最大の問題点は、ビジネスは聖域である( business is a sanctuary)とする独断と偏見に由 来していることである。 4.言葉について(言葉と人格行為):聖書 『聖書』には『旧約聖書』と『新約聖書』の二つがある。すべてのものは、言葉によって造られた。造られた もので、言葉によらずにできたものは一つもない」。ロゴス=言葉と神の創造、言葉と人間存在そのものの関係 について考えてみたいのである。 5.倫理および倫理学という言葉について:MoralとEthicsとの違い 福沢諭吉、井上哲治郎。次に、漢字の倫という文字。諸橋轍次の『大漢和辞典』(倫理、倫理学)。 6.道徳論の創始者: Francis Wayland著 The Elements of Moral Science 「教育ニ関スル勅語」が明治二三(一八九〇)年に発布され、昭和二三(一九四八)年に廃止されるまでの約六 〇年間、初等教育における日本の公式道徳教育は儒教思想を応用した天皇を頂点に置く「人倫五常」であったこ ~1~ とを思うと、福沢諭吉の先見性には感嘆させられる。 7. Ethicsおよび Moral(Morality)の語源について 『ニコマコス倫理学』として翻訳されているアリストテレスの著書のギリシャ語書名は『エーティコーン・ ニコマケイオーン』である 12 。エトスは英語の habit, customと訳されている 14 。したがって、多くの人々がそ れに従うので、それはやがて社会の慣習として確立し、慣習はやがて規範となって完成する。「従うべき人間行 動の規範的原理」、これが ethicsという言葉が表現している概念的内容である。 次に、 moralという言葉の語源: ethicsの日本語訳としての倫理学は、社会の中で人間が取るべき正しい行 動の規範、そのような行動と結びつく性格、性向、能力を研究する規範科学であると定義することができる。元々 は「社会的慣習」を意味する言葉であった。 カントの『道徳形而上学原論』の原題は、 Die Grundlegung zur Metaphysik der Sittenである。 カントの義務論はブレーキだ ドーキンスと言う無神論者;p 8.応用倫理学としてビジネス・エシックス こうした「哲学的考究」の中で応用される倫理学説が、 ジェレミー・ベンサムに源を持つ「帰結主義」(consequentialism)であり、 カントに源流を持つ「義務論」(deontology)であり、元をたどればアリストテレスにまでさかのぼる「徳 理論」(virtue theory)であり、20世紀最大のアメリカの哲学者の一人、 ジョーン・ロールズの「現代社会契約論」(Contemporary Approaches to the Social Contract)。 帰結主義の代表格、ジェレミー・ベンサムの utilitarianism 義務論について、カントの『道徳形而上原論』 (篠田英雄訳岩波文庫版)Grudlegung zur Metaphysik der Sitten、 英訳は Groundwork of the Methaphysic of Moralsである。 宇佐神:コメント 行為主体としての人間に注目した実存主義や、間主体性に注目した視点が必要と思われる。 ここにヤスパースの人生の段階を踏まえた視点の導入とその総合における交わりの倫理が必要。 また、企業にとっての限界状況(死・苦・争・責)の究明と そこにおけるCSRが問われると思われる。 ~2~
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