ISSN 13490281 拓 殖 大 学 第 86 号 2009 年 10 月 論 文 原価計算制度における費目別計算思考の確立 大蔵省印刷局 印刷局諸規程 「第三 簿記順序」 に見る 部 宏 明 ( 1 ) カーボン付加価値率に関する会計的考察 …………………三代川 正 秀 ( 51 ) 人 ( 65 ) 樹 原価計算制度の初期的展開の一齣 ……………………建 非営利組織における品質管理活動 (Ⅱ) デミング賞および日本経営品質賞の評価基準, 西 五 尾 藤 篤 寿 東アジア市場における貿易構造と企業行動分析 …………武 上 幸之助 ( 95 ) 山 茂 および地方自治体の品質管理活動を中心にして …… 研究ノート イノベーションによる技術の育成 ( 2 ) 技術による情報伝達の変化と関係 ……………………金 雄 (113) 2008 年度 月例研究会報告 …………………………………………………………… (135) 拓殖大学経営経理研究 投稿規則・執筆要領 ……………………………………… (141) 拓殖大学経営経理研究所 前 号 目 次 治 雄 ( 1 ) 30 年来のご厚誼に感謝 …………………………………嶋 和 重 ( 3 ) 退職の辞 ……………………………………………………黄 清 渓 ( 5 ) 清 渓 ( 11 ) 善 朗 ( 37 ) 黄 論 清渓教授への感謝 …………………………………岡 本 文 会社法内部統制の法定化とその理論 ………………黄 公正価値会計と利益情報の質 …………………………伊 藤 日米における物流改革の比較考察序章 ……………芦 田 誠 ( 65 ) 非営利組織における品質管理活動 (Ⅰ) 米国ボルドリッジ賞評価基準の変遷, 各州の品質賞, および non-profit 部門を中心にして 西 五 尾 藤 篤 寿 自己株式の本質と課税 …………………………………稲 葉 知恵子 (137) J.B. セーの企業家と経済システム観 ………………畠 田 英 夫 (159) 山 茂 雄 (187) 中 秋 (209) ………………………………… 人 ( 89 ) 樹 研究ノート 企業価値と日本的経営の再考および雇用形態の変化 技術革新による働く人の意識と雇用の動向 …………………………………金 コンテナ港の競争要因に関する分析手法の研究 …………………………………潘 拓殖大学経営経理研究・執筆要領 ……………………………………… (229) 拓殖大学 経 営 経 理 研 究 第 86 号 拓殖大学経営経理研究所 経営経理研究 第 86 号 2009 年 10 月 pp. 149 論 文〉 原価計算制度における費目別 計算思考の確立 大蔵省印刷局 印刷局諸規程 「第三 簿記順序」 に見る原価計算制度の初期的展開の一齣 建 要 部 宏 明 約 本稿は本誌第 82 号, 第 84 号の続編であり, この 2 つの拙稿で考察した 原価計算制度の先行要件がいかに原価計算制度の初期的展開に繋がったか を考察する。 大蔵省印刷局 印刷局諸規程 「第三 簿記順序」 (明治 15 年) は現時点で発見されている最古の原価計算規定を含んでおり, それに は 「作業費区分及受払例則」 (明治 9 年), 「作業費出納條例」 (明治 10 年), 「(改正) 作業費出納條例」 (明治 12 年) では存在しなかった費目別計算思 考の確立形態が存在する。 したがって, 「第三 簿記順序」 における原価 計算規定はわが国原価計算制度の出発点であり, これの検討によって原価 計算制度の初期的展開の一齣を瞥見できるであろう。 すなわち, 明治維新 後の社会経済的背景と国家会計の進展によって醸成された原価計算制度誕 生のための先行要件を基礎とし, 印刷局諸規程 「第三 簿記順序」 を通 じてわが国原価計算制度の初期的展開を考察する。 キーワード:会計史, 原価計算論, 原価計算史, 原価計算制度史, 原価計 算基準, 費目別計算, 製品別計算, 作業費, 興業費, 営業費, 製造費, 割賦費 ―1― Ⅰ はじめに 前稿 「原価計算制度における費目別計算思考の生成 初期的胎動 2 原価計算制度の 」 (本誌第 84 号) では, 「作業費区分及受払例則」 (明治 9 年), 「作業費出納條例」 (明治 10 年), 「(改正) 作業費出納條例」 (明治 12 年) の作業費に関する 3 つの規程を通して, 作業費概念の形成の視点から 原価計算制度における費目別計算思考の生成を考察した1)。 そこでは経費 中作業にかかわる費途を作業費と称し, それは興業費と営業費に区分され た。 本研究では, こうした区分に関する思考が後の原価計算制度誕生に寄 与したと考えている。 政府の限られた予算をいかに各作業場に配分するかは, 殖産興業を推進 する政府の大きな課題であった。 とくに, 明治政府は鉄道の敷設, 軍備の 増強, 官営工場の建設を推し進めなければならなく, このようなインフラ や軍事力の整備, 近代産業の育成のためには, 資金の集中的な投入を促進 し, 無駄な投資は忌避しなければならなかった。 また, 他方では開始した 事業の不採算部門からの資金の引き揚げも考慮せざるを得なかった。 そこ で, 政府は各作業場に対して作業費を設定し, 興業費を渡し切りにし, 営 業費を運用させるという思考で, 作業場を管理した。 これは各作業場を独 立採算に向かわせるための施策であり, 同時に各作業場間の損益比較を可 能にするねらいがあった。 くわえて, 作業費の執行経過を逐次報告させる ことによって, 大蔵省は細かな作業場の管理から解放され, 欠額の補填, 追加投資などの資金配分のみに専念することが可能になった。 独立採算は 各作業場の効率的な経営の原動力であり, 収益と費用の精確な計上による 損益計算がこの前提となる。 「作業費区分及受払例則」 および 「作業費出納條例」 において作業費は, 行われた支出が開業前か, 開業後かの支出時点別分類によって興業費と営 ―2― 業費が区分された。 このとき, 開業前の投資額である興業費は益金から償 却され, 他方, 開業後の投資額である営業費は繰り返し各種作業へと運用 された。 しかし, この区分では (事業拡張のための) 開業後の大規模な固 定資産への支出が営業費へ組入れられるために, 損益計算が形骸化すると の理由から 「(改正) 作業費出納條例」 においては, 興業費と営業費の費 途区分が改正された。 この改正費途区分では開業前の支出のみならず, 開 業後の大規模な固定資産への支出も興業費へ組入れられ, それは益金から 償却された。 すなわち, 「(改正) 作業費出納條例」 によれば, 開業後に生 じた固定資産に対する支出も営業費ではなく, 支出性格別分類によって興 業費へ算入された。 これにより, 興業費は固定資産に投入された財への支 出, 営業費はある一定期間に購入した物品や作業に投入された労働力に対 する支出に純化された。 これが期間損益計算の精緻化をもたらし, その過 程で費目別計算思考は完成形に近づいたと言える。 今回検討する明治 15 年更正, 大蔵省印刷局 印刷局諸規程 「第三 簿 記順序」 (以後, 「簿記順序」 と略称する) でも, 「(改正) 作業費出納條例」 と同様, 作業費は支出性格別分類で興業費 (ただし, 「簿記順序」 では興 業資産費) と営業費とに区分され, さらに営業費については製造費, 割賦 費に細分されている。 これは直接費と間接費の分類である。 くわえて, 「簿記順序」 には注文作業ごと, 製品ごとに費用を集計するという規定も 存在する。 「簿記順序」 は君塚芳郎先生が発見され, 「明治 14 年の原価計 算規定」 において紹介された規程である 2)。 君塚先生によれば, 「簿記順 序」 には 「工程別原価計算の例示が存在」 し, それは現時点で発見されて いる最も古い原価計算規定であるという3)。 本稿では 「簿記順序」 を概観するとともに, これに関連する文書を国立 公文書館, アジア歴史資料センターから取得し, 「明治 14 年の原価計算規 定」 やこれまでの一連の論文における論攷を加えて, 規定されている原価 計算の仕組みを描出し, わが国原価計算制度の初期的展開を論じていきた ―3― い。 この際, 「簿記」 という用語が多用されているが, それは現代的に用 いられている複式を前提としたそれではなく, いずれも帳簿記入という素 朴な意味である。 また, 「簿記順序」 では多数の帳簿が列挙されているが, 実質的に帳簿の数値例は存在しないので, 本稿は規定されている帳簿の記 帳手続とその特徴をまとめているに過ぎなく, その意味では基礎研究の域 を出ていない。 今後, 数値が入った実際の帳簿の発見に努めなければなら ない。 Ⅱ 印刷局諸規程 印刷局諸規程 の概要 は大蔵省印刷局で用いられた作業場経営マニュアルで あり, これは一橋大学附属図書館の西川文庫に所蔵されている 4)。 局諸規程 印刷 のうち, 「簿記順序」 が印刷局の会計に関する規定部分であっ た。 「簿記順序」 は明治維新後に国家予算の濫費を防ぐ目的で行われた官 用簿記, いわば出納簿記であり, これまでの本誌の研究で取り上げた一連 の規程と同一線上にあると思われる。 印刷局諸規程 は, 図表 1 のよう な構成である。 図表 1 作業大意 印刷局諸規程 の目次 第六 守警処務規程 第十二 小使規程 第一 職 制 第七 門監規程 第十三 第一区学場規程 第二 成 規 第八 男工規程 第十四 第二区学場規程 第三 簿記順序 第九 女工規程 第十五 第三区学場規程 第四 科室長心得書 第十 男工友伍規程 第十六 夜学科規程 第五 女工取締心得書 女工友伍規程 第十七 懲戒例規 出典:大蔵省印刷局 印刷局諸規程 第十一 印刷局諸規程 第一 明治 15 年, 目次より。 職制の前には, 印刷局長 得能良介 (文政 8 年 (1825) ∼明治 16 年 (1883)) の名で作業大意というはしがきが書かれて ―4― いる5)。 これは当時の工場における管理・会計思考を知るうえで重要であ るので, 本稿に関係する箇所を瞥見したい。 まず, 得能は冒頭において 「夫レ工場作業ノ事タル費途ノ條理齊整ナラ サレハ隆盛ニ至ラリルハ固ヨリ論ヲ待ス」6) と工場における費途 (興業費, 営業費) の整理がきわめて重要であり, 「興業費ヲ償還シ続ヒテ準備積金 ノ法ヲ設置シ其基礎ヲ堅固ナラシムルノ目的ヲ立ルヲ以テ工場緊要ノ順序 トス」 7) と投下資金の確実な回収について言及している。 所期の工場管理 マ マ の目的としては 「製品ノ位格ヲ得ル」, 「支収相償」, 「興業資産費ノ償却ヲ 完了」 が挙げられ, 「興業資産費ノ負債ヲ償還スル」 ことによって, 「工場 ノ信用」 を確立することであった8)。 したがって, 興業費と営業費の費途 区分は, 得能の言う工場管理の基本であり, 「資産営業二途」 に分ける理 由は最終的に 「益金ヲ産出スル」 ことである9)。 このように, 印刷局の各 作業場は独立採算を目指し, 「年々益金ノ内ヨリ幾分ヲ扣除シテ之ヲ蓄積 シ或ハ預金トナシ或ハ運用金トシ興業資産費ヲシテ常ニ欠乏セス循環平均 シテ其基礎ヲ永続スル」10) ことが要求される。 次に, 得能は工場を成功裏に運営するためには 「平素煩雑ヲ禁シ機械ノ 配置ヲ齊整シ厳則ヲ履行従事セシメ専ラ粛静ヲ要シ機械器具物品ニ至ル各 管守アリテ授受ヲ厳正ニシ簿記ヲシテ詳明ナラシメ実地ニ従事スルモノヲ シテ自ラ怠慢ノ情ヲ発起セス不良ノ念ヲ醸成セス」11) と述べ, 作業手続き の確認, 機械などの保守, 簿記の励行, 不正や怠惰を防ぐ目的精神の涵養 が重要であるとしている。 さらに, 得能は工場組織にも言及している。 工場に庶務, 審査, 調度の 3 部を置き, 「工場ノ事ヲ調理整成セシム」12) としている。 審査, 調度の要 務は 「専ラ現金ノ運用収支ノ得失ヲ推究計較スル」 ことであり, 各部より 委員を参集し, 総長が議長となり毎週会計の審議を開いて, 「現金運用ノ 適否緩急ヲ審按」 する13)。 また, 毎年 1 回予算の審議を行う場合には審査 部長が議長となり, 総長, 各部長を参集して 「一年度収支ノ損益得失ヲ審 ―5― 按シ以テ収支ノ予算現金ノ運用其当ヲ得ルヲ期スヘシ」14) とされ, この組 織によって工場が管理運営される。 最後に, 得能は 「今爰ニ各部科室長ノ為メニ作業ノ大略ヲ述ベ以テ各自 意ヲ用ユル所アラシム乞フ以テ浮言トスル勿レ」15) と述べ, 作業大意を締 めくくっている。 印刷局諸規程 は目次からも窺い知ることができるように, 作業場の 独立採算を大きな目的に挙げ, それを達成するための簿記法, モラールの 高揚, 組織運営の重要性など作業場統治に必要な諸規則を集成した作業心 得である。 Ⅲ 「第三 簿記順序」 の概要 「簿記順序」 の構成 「簿記順序」 は 6 章立て約 300 条項で構成されており, それは図表 2 の とおりであった (付された数字は条項を示す 図表 2 第一章 総 則 計 算 編 制 1 費 途 区 分 2∼ 7 興業資産費 8∼ 27 製 造 費 28∼ 35 本 局 経 費 36∼ 37 収 支 予 算 38∼ 43 製 品 定 価 44∼ 53 製 造 品 54∼ 66 物 品 67∼ 81 現 金 82∼ 87 月 計 表 88∼ 95 雑 則 96∼105 期 限 106∼115 「第三 付録 1∼21 は除く)。 簿記順序」 の構成 第二章 製造ノ簿記 製造起因ノ簿記 116∼124 各科室ノ簿記 125∼142 庶務主任ノ簿記 143∼144 出納主任ノ簿記 145∼154 簿記主任ノ簿記 155∼159 調度部ノ簿記 160∼161 第三章 物品ノ簿記 物品請納ノ簿記 162∼170 調度部ノ簿記 171∼184 整理部科ノ簿記 185∼194 各科室ノ簿記 195∼203 第四章 収入金ノ簿記 定価調定ノ簿記 204∼210 出典:大蔵省印刷局 印刷局諸規定 「第三 各部収入ノ簿記 211∼216 調度部ノ簿記 217∼228 審査部ノ簿記 229 第五章 現金ノ簿記 調度部ノ簿記 230∼242 整理部科ノ簿記 243∼249 審査部ノ簿記 250∼251 給料渡方ノ簿記 252∼262 第六章 現費整理ノ簿記 収支予算ノ簿記 263∼270 各科室ノ簿記 271∼274 整理部科ノ簿記 275∼281 調度部ノ簿記 282∼287 審査部ノ簿記 288∼292 簿記順序」 明治 15 年, 1139 頁より作成。 ―6― このように, 「簿記順序」 では各部科ごとの簿記がかなり詳細に示され ている。 各部科の役割については作業大意で 「工場組織」 として得能によっ て概説されたが, 以後, 図表 2 のような各部科の簿記が規定されているの で, 国立国会図書館 HP (日本 (太政官時代) の法令, 法令資料) に掲載されている明治前期 法規分類大全 ([第 13 冊] 第 13 官職門 第 11 官制 大蔵省第 2) の大蔵省印刷局達 「印刷局諸規程ヲ更正ス」 (明治 15 年 2 月 18 日) から各部科の役割を瞥見してみたい。 印刷局は庶務, 審査, 調度の本局 3 部, 工場 8 部 (整理, 彫刻, 製肉, 刷版, 調査, 鈔紙, 活版, 機械 工場各部は複数の科にさらに細分され ている) から構成され, 各部科には主簿といわれる簿記主任ないしは簿記 係が置かれていた。 また, 整理部は工場 8 部の中でも特別な存在で, 庶務, 出納, 簿記の 3 科から成り, 彫刻, 製肉, 刷版, 調査の 4 部の会計処理を 行った。 その他の 3 部 (鈔紙, 活版, 機械) にはそれぞれ部内に整理科が 存在し, 帳簿記入を統括していた。 なお, 本局 3 部の役割は以下のとおり である。 庶務部は編輯科と庶務科の 2 科から構成され, 前者は局中諸規定の総理 および簿書の編輯などの事務を管掌し, 後者は守警, 本営, 学場, 診察所 を管轄する16)。 審査部は審査科と統計科の 2 科から構成される。 審査科は家屋, 機械の 総理簿冊を備え, 物品の顛末を審査し, 本部に属する諸務会計を管掌する。 統計科は興業資産費, 営業費の総理簿を管守し, 各部の月報・月計表, 科 室の月計表を照査して, 比較表を調製し, 半季報告を編成する17)。 審査部 には監工が置かれ, 工場に関する事項を協議し, それを措置する役割を有 する。 監工は局長の指揮に従い, 工場 8 部の事務を総監する18)。 調度部は交付科, 出納科, 購買科, 貯蓄科, 発売科, 営繕科, 精算科か ら構成され, 次のような任務を担っていた19)。 交付科 本部および庁中諸費に関する一切の需用品を交付し, 本部 ―7― の庶務会計を担当する。 出納科―現金出納に関する一切を担当する。 購買科―需用の器械, 物品の購求に関する一切を担当する。 貯蓄科―倉庫を管守し, 機械, 物品の授受, 貯蔵品および不用品処分 を担当する。 発売科―諸製品および官民注文品の発売を担当する。 営繕科―諸建築, 修繕, 土工, 邸地に関することを担当する。 精算科―予算, 精算, 追算を行い, 報告書作成を担当する。 印刷局は上記のような多数の部科を擁する巨大な工場であったことが組 織からもわかる。 こうした各部科における簿記が第一章 総則で規定され, 「簿記順序」 の大枠が示されている。 これは後続の他章との重複している 部分も多いが, 別の観点から取り上げられているので, 重複部分も考察す る。 また, 場合によっては総則と後続の各章における規定に齟齬が生じて いるが, 整合性が保たれていない内容については, 全体の内容からその意 味を推測しながら論述を進めたい。 簿記順序緒言 「簿記順序」 にも, 得能良介による簿記順序緒言というはしがきがある。 簿記順序緒言の大枠は作業大意と同じであるが, 「簿記順序」 に向けた個 別の記述も見られるので, これらを中心に得能の主張の概要を見ていきた い。 冒頭において得能は 「夫レ工場ハ人ナリ金ナリ」 とし, 「工場ニシテ会 計確明ナラサレハ猶ホ人身ニシテ脳髄ナキモノヽ如シ」 と述べ, 会計が工 場経営の基礎であり, このために簿記を行い, 物品管守を機能させること が肝要であるとしている20)。 まず, 得能は費途区分に言及している。 作業 大意では興業費と営業費の区分の重要性に言及していたが, ここでも興業 費と営業費が説明されている (詳細については後述する)。 このように, ―8― 費途区分を挙げ, 「工業者ノ刻苦考索左堤右挈従事スル所ノ事功ヨリ湧出 スル各種ノ費途ニシテ之ヲ整理スルニ部長ノ職アリ科長ノ任アリ主簿ノ務 アリテ各自其本分ニ勵精スヘキハ言ヲ俟タス」21) と費途整理のために各職 能があり, 自らの役割を確実に果たすべきであるとしている。 また, 簿記それ自体の目的は作業大意でも触れたように, 費途区分によっ て算定された益金の明示でもあった。 くわえて, 簿記順序緒言では 「百般 マ マ ノ費途千差萬別ナルモ要スルニ其綱目ヲ紊乱セス」 とし, 「其支収ヲ明瞭 ナラシメ而シテ各部ハ現金ヲ掌トルモノト現品ヲ掌トルモノヲ区割シ部外 ヘ対シ現金現品ヲ授受スルノ際ニ当リテハ必ス金員物品ヲ併記シ金員ヲ記 シテ物品ヲ記サス物品ヲ記シテ金員ヲ記サヽルヲ禁制ス」 と金銭と物品の 取扱法が述べられている22)。 このためには, 簿記の効果を最大限に発揮さ せ, チェック体制の確立が重要であり, 例えば製品を交付して即時に代金 を収納する場合には, 製品交付の主任者と現金収納の主任者, 簿記を行う 者の立ち会いが必要であり, 相互の照査によって 「簿記ノ正確全備ノ点ト ス」 としている23)。 工場の簿記については, 得能は次のように概説してい る24)。 「工場ノ記簿ハ実際ヨリ起リ時刻ヲ区分シ事ニ従フモノハ各手牒ヲ 提携スルヲ則トス之ヲ合計シテ一室ノ計算トナリ一室ハ其要領ヲ合計 シテ日報トナシ翌日ノ予算ヲ作リ併セテ之ヲ本部ニ報ス本部ハ日報ヲ 得テ日締ヲナシ翌日原簿ニ記載シ其要領ヲ合計シテ月報トナシ之ヲ調 度部ニ報ス調度部ハ本月ノ日締ヲ合計シテ各部ノ月報ト照会シテ計算 仕上ヲ成シ審査部ニ於テ総理簿冊ヲ整頓スルヲ以テ会計完備ノ点トス」 こうした簿記一巡の手続きの明確化によって, 「大小綱目脈絡ノ一貫通 マ マ 徹スル」 を目指す25)。 そして, 簿記の実施によって 「支収ノ性質事由」 が 公になり, 「員額聚散ノ理ヲ明カニスルノ精神」 が高揚される 26)。 また, ―9― その過程で作業手順の適否の検討, 作業損益の明示, 業績の評価が可能に なり, ひいては 「貨幣運転ノ妙用モ亦辨知」 できるとされる27)。 マ マ さらに, 得能は 「支収ノ事由ヲ問ハス聚散ノ理ヲ弁セスシテ唯ニ出納員 額ノ会計ノミヲ以テ記載スル所ノ簿記ハ啻ニ得失ヲ審査スルノ実ヲ得サル ノミナラス」28) と続ける。 ここにも, 簿記が損益計算のみならず, 管理の 要具であるという思考が示唆されている。 最後に, 得能は 「簿記順序」 の構成を 「当局其法ヲ大成シテ之ヲ六章ニ 区分」 し, 「曰ク総則曰ク製造ノ簿記曰ク物品ノ簿記曰ク収入金ノ簿記曰 ク現金ノ簿記曰ク現費整理ノ簿記是ナリ」 と以後の流れを概説している29)。 作業大意は印刷局経営の大枠が示されていたが, 簿記順序緒言では簿記の 重要性が強調されている。 「簿記順序」 本文 「簿記順序」 の構成は前掲の図表 2 のとおりであり, 3 章約 300 条項か らなる膨大な規程であるので, 本稿の紙幅の関係からも論点を絞る必要性 がある。 そこで, 本稿の目的がわが国原価計算制度の初期的展開の考察に あることを鑑みて, 第一章 章 製造ノ簿記および第六章 総則からは当時の原価計算機構の概要, 第二 現費整理ノ簿記から原価計算機構を支える 各種帳簿を瞥見していきたい (ただし, 第四章 収入金ノ簿記も付随的に 言及する)。 なお, その際, 原価計算機構を考察するためには材料費, 労 務費, 経費の費目別計算, 製造間接費計算, 部門費計算の部門別計算, 個 別原価計算・総合原価計算の製品別計算に整理して, 「簿記順序」 の構造 を検討すべきであると思われるが, 「簿記順序」 自体にこうした明確な概 念が存在しないこともあり, むしろ 「簿記順序」 の原文の史料価値を損な わないように, その条文どおりに考察を進め, 次章 (Ⅳ) において, これ をこれまでの研究視点から評価したい。 ― 10 ― 1) 第一章 第一章 総 則 総則は第 1 条から第 115 条であり, 「簿記順序」 の全体が概観 できる。 総則は計算編制, 費途区分, 興業資産費, 製造費, 本局経費, 収 支予算, 製品定価, 製造品, 物品, 現金, 月計表, 雑則, 期限の各節から 構成され, 工場における組織とその簿記が大まかに規定されている。 総則 からは, これら各節のうち, 計算編制, 費途区分, 興業資産費, 製造費, 本局経費, 収支予算, 製品定価, 製造品, 物品, 月計表を検討することで, 「簿記順序」 の大枠を捉えたい。 第一條では印刷局の計算編制 (計算組織) が, 次のように説明されてい る30)。 工場各科室では, 手牒に基づいて日報 (日締帳) が作成され, 整理部科 に提出される。 これは整理部科において製品の授受の総計, 良品および仕 損品の総計, 出務人員の総計などと照合が行われ, 製品, 需用品, 現金, 収入金, 製造現費がそれぞれ日締される。 翌日, これらが関係する元簿に 転記される。 整理部科は 1 か月ごとにこの内容を調度部に報告する。 調度 部は諸物品の購入・貯蔵を行い, 各工場の要求に応じてこれを支給し, 不 用品の流用・処分, 発売品の請け払い, 製品代金回収を管理し, 各項目の 費途を区分のうえ諸簿冊に記入し, 各部科の月報を作成する。 審査部は調 度部および各部の月報を審査し, 収支や物財の授受と照合して, その正確 性を検証する。 その組織は, 図表 3 のとおりである。 工場における簿記および原価計算には組織が欠かせないが, この計算組 織では現場からデータを受け取り, それを記録し, 集計し, 報告し, 物財 の流れをチェックする機構が存在している。 第 1 条の計算組織に基づき, 第 2 条∼第 7 条にその計算対象となるべき 作業場における費途区分が次のように規定されている31)。 費途は興業資産費と営業費とに区分される (第二條)。 さらに, 営業費 は製造費および割賦費に区分される (第四條)。 製造費は 「製造品ノ毎種 ― 11 ― 図表 3 計算編制図 調度部及ヒ各部ノ報告ヲ 審査シ局長ノ検印ヲ請ク 各部ノ報告ヲ照査シ総括 ノ精算報告ヲ編製ス 審 査 部 調 度 部 月 報 各科室ノ日締ヲ集 メ編集簿記ス 整理部科 日 報 一 科 室 同 同 日 報 同 工 人 ノ 手 牒 出典:大蔵省印刷局 一 科 室 日 報 同 同 同 工 人 ノ 手 牒 印刷局諸規程 「第三 一 科 室 同 同 手牒ヲ集メテ 日締ヲナス 工 人 ノ 手 牒 簿記順序」 明治 15 年, 24 頁より。 ニ対シ直接ニ決算スル費目ニシテ工人給料, 指揮整理者給, 需用物品代価, 蒸気費, 地金鎔解費」 (第五條) であり, 割賦費は 「各種製品ニ賦課シテ 支消スヘキ常費ニシテ本局経費, 工場常費」 (第六條) である。 本局経費 は一般の施設運営にかかわる費額 (一般管理費) であり, 本局 3 部に属す る俸給, その他の雑給, 庁費, 修繕費である。 他方, 工場常費は製造に付 随して間接的に発生する費額 (製造間接費) であり, 「工場ニ附帯スル所 ノ費額ニシテ部長以下主簿ノ俸給, 給与, 工場費, 家屋修繕及ヒ外国人諸 費」 (第六條) である。 このように, 費途は興業資産費と営業費に, 営業 費は製造費と割賦費に, 割賦費は本局経費と工場常費に区分されており, 営業費は一定期間中幾回か運用し, 益金を創出する基礎となる (第七條)。 それではさらに, 興業資産費, 製造費, 割賦費の各費途の詳細をみてい きたい。 興業資産費は簿記順序緒言において, 次のように説明されている32)。 ― 12 ― 「興業資産費ナルモノハ試験ノ業ニ始マリ地所ノ購買家屋ノ建築機 械ノ購入設置ニ至ル都テ作業ノ基礎ニ係ル諸費ニシテ其金額ハ既ニ消 費ニ属スト雖トモ其地所家屋機械尚ホ現存スルヲ以テ之ヲ工場資産ノ 額ト見做スヘシ」 いわば, 興業資産費は固定資産へ投下した資金である。 「(改正) 作業費 出納條例」 では興業費であったが, 「簿記順序」 では興業資産費とされ, 資産としての認識が存在する。 第一章 総則では, 興業資産費について基本的性格, 変更, 維持, 償却, 交換, 除却が第 8 条∼第 27 条で規定されている。 まず, 興業資産費の基本的性格は, 第 8 条から第 17 条で次のように規 定されている33)。 興業資産費は作業場の資本とみなされるものであり, すでに投下された 資金であるが, 益金で償却を行なう (第八條)。 なお, 家屋の建設・建増, 機械の購入・増置は興業資産費とするが, 小屋, 物置などの耐久性のない 構築物は恒久的な財産とみなさず, すべて営業費で処理する (第九條)。 ただし, これらを改築したり, 引建直しをしたりした場合には営業費を削 り, 興業資産費へ組み入れる (第十條)。 新たに設置する機械の据付費, 運送費, 付属品は, 興業資産費とする (第十一條)。 次に, 資産授受に伴う興業資産費の変更に関しては, 次のように規定さ れている34)。 各部間で資産の授受を行うときには, 授受収支の手続きを行わなければ ならなく, それによって興業資産費の増減を行う (第十二條)。 資産を返 納するときにはその事由を明確にし, 局長の許可のもと原価を付して調度 部に引渡し, その額分の興業資産費を減じる。 また, 他の部へ譲渡したり, 払い下げたりする場合は, 収入と代価 (帳簿価額) を記録する (第十三條)。 さらに, 興業資産費における家屋機械の維持, 償却については, 次のよ ― 13 ― うに規定されている35)。 興業資産費の家屋や機械は 「工場ノ所有財産ト雖モ漸次破毀ニ属スルヲ 以テ其価格ヲ永久ニ保ツヲ得ス故ニ予メ保存年限ヲ定メ価格ヲシテ明晰ナ ラシムルヲ要ス之ヲ調定スルハ次條 (第十五條 筆者) ノ順序ニ従フヘ シ」 と規定され, 減価償却の実施が規定されている。 地所の場合も, 財産 価値 (地券面の地価) を保存年限で除して, 償却される (第十四條)。 家 屋や機械の財産の価格 (取得価額) は 「初メテ家屋ヲ建築シ機械ヲ購入セ シ日ニ於テ各主任会合シ保存ノ長短ヲ審定シ局長ノ決裁ヲ請クヘシ」 とさ れ, 但し書きとして, 「補修ノ為メ更ニ保存ノ長短ヲ改正スヘキトキモ亦 本條ノ順序ニ同シ」 (第十五條) と規定されている。 また, 機械附属品の 保存年限は 「其機械ノ年限ニ従フモノトス」 とされ, 年限中付属品を損廃 して新調する場合は 「修繕費ニ編入スヘシ」 と規定されている (第十七條)。 興業資産費の取り扱いについては, 作業大意でも興業資産費は 「地所及家 屋機械等ニ転換 (投下 筆者)」 した資金であり, 「漸次ニ破毀」 するの で, 「保存年限」 を明確にし, 「進歩陳腐」 するものは 「新陳交換」 すると, 時の経過と使用による減価の概念が示されており, くわえて 「破毀陳腐の 欠減」 に対する 「準備貯蓄金」 (いわば, 引当金) の設定が示唆され, こ の観点から 「興業資産ノ額ヲシテ始終欠乏セシメサルヲ以テ会計ノ目的ト スヘシ」 とされ, 減価償却という用語は使用されていないが, それの実施 が主張されている36)。 また, 興業資産費における家屋機械の交換, 除却については, 第 18 条 および第 19 条で次のように規定されている37)。 家屋, 機械を他部科と交換したり, 移転したりする場合, 授受する金額 は第 15 条で規定された価額 (取得価額 筆者) による。 ただし, 「其価 格ニ依リ雖モ事由アレハ更ニ各主任ヲシテ時価ヲ鑑定セシメ以テ局長ノ決 裁ヲ請フヘシ」 (第十八條) と時価の使用を認めている。 減価償却期間が 終わってもなお使用できる場合においては 「家屋機械ノ保存年限既ニ満期 ― 14 ― ニ至リ其価格ヲ有セス猶使用ニ堪ユルモノハ其保護宜キヲ得ルノ致ス所ニ 由ル故ニ該部ノ純益ト見做スヘシ」 (第十九條) と規定され, 償却益を計 上する。 興業費の概念は 「作業費区分及受払例則」 (明治 9 年) に始まり, 「作業 費出納條例」 (明治 10 年) で精緻化され, 「(改正) 作業費出納條例」 (明 治 12 年) で改正された。 「簿記順序」 におけるこの概念は改正後のそれで あり, さらに興業資産費という概念に拡張されている。 すなわち, 「簿記 順序」 では興業費は興業資産費と呼称され, 「作業費区分及受払例則」, 「作業費出納條例」, 「(改正) 作業費出納條例」 の興業費とは異なっている。 「簿記順序」 の興業資産費は固定資本へ投下した資金を示し, 基本的には 資産と見なし, 原則として使用有効期限内に渡って益金から償却を行って いる。 このように, これまでの作業費に関する規程より 「簿記順序」 では 償却思考がより明確に示されている。 次いで, 営業費に関する規定を検討したい。 営業費は作業大意および簿 記順序緒言で基本的性格の説明が行われている。 作業大意で営業費は 「製 造品直接ノ消費」 となるもの (製造費) と 「割賦費」 に分類集計され, そ れらが運用の途中にある場合には 「物品貯蓄」 や 「前払ノ金」 になると説 明されている38)。 また, 簿記順序緒言では, 次のように営業費が規定され ていた39)。 「営業費ナルモノハ工場従事者ニ係ル諸費ニシテ又之ヲ小区シテ製 造費割賦費トス其製造費ナルモノハ専ラ該製造ニ直接スル費途ニシテ 現ニ該業ニ従事スルモノヽ給料及需用物品ノ代価等製造ノ毎種ニ就キ 直接ニ決算スルモノトス其割賦費ナルモノハ則部長以下主簿ノ給料恩 賞外国人諸費家屋機械ノ修繕費被服費工場用度雑品器具費ノ類ニシテ 総テノ製造品ニ賦課シテ支消スルモノトス」 ― 15 ― くわえて, 上述したように第 4 条から第 6 条では用語の定義がなされて いるが, 第 28 条∼第 37 条では製造費と割賦費の集計方法が概説されてい る。 製造費は第 28 条∼第 35 条, 割賦費 (本局経費) は第 36 条∼第 37 条 で規定されている40)。 製造はすべて 「局長ノ令達若クハ上請検印」 を経て着手し, 部内収支品 (部内注文品) の場合は 「監工部長ノ考査検印」 を経て着手する (廿八條)。 したがって, 各科室は 「部長ノ回達」 を得て着手することになる (廿九條)。 着手後, 製造に関する詳細は計算編制で言及した手牒で処理される。 手牒 については 「工業ニ従事スルモノハ都テ其関与スル所ニ従テ各自手牒ヲ有 シ日々製スル所ノ品目数量従事ノ時間及需要物品ノ数量ヲ詳記スルヲ例ト ス」 (第三十條) と規定されており, 現場作業票としての役割を有し, 手 牒によって労務費の計算と工員管理が行われる。 もし, 一つの作業を数人 で共同するような場合には, 1 冊の手牒に各姓名を, また 1 人が複数の機 械に関与するような場合には 1 冊の手牒に機械番号をそれぞれ併記する。 手牒は作業終了時に科室長や当該科室担当の整理者に提出する。 整理者は 手牒に記された内容を照査し, 日記帳へ転記する。 これは整理部科に報告 される。 ただし, 残業時間が生じた場合, 「定刻ヲ以テ区分シ延時執業 (残業 筆者) ニ属スル分ハ各科室ニ於テ当日正算ヲ了シ置キ整理部科 ヘノ報告ハ翌日ノ日締ニ編入」 (第三十條) する。 以上, 製造費規定の大 枠 (第 28 条∼第 30 条) であるが, 手牒を中心とした大きな流れを提示し ているに過ぎない。 さらに, 製造費の計算に関しては, 部科間で生じるいくつかのケースが 次のように規定されている41)。 「甲部若クハ甲科室ニ於テ需用スル製品及物品ヲ乙部若クハ乙科室 ニ要求シ乙ニ於テ製造又ハ購買ヲ了セシ後, 甲ニ於テ既ニ不用タルト キハ其不用ニ属スルモノハ甲ノ負担トシ焼却若クハ払下ノ処分ヲナス ― 16 ― ヘシ」 (第三十一條) 「甲科室ノ人員ニシテ乙科室ノ事業ヲ執ルトキハ其給料ハ乙科室ノ 支払トス若シ甲科室ノ事業ノ為メニ派出スルモノハ素ヨリ甲科室ノ支 払タルヘシ」 (第三十二條) 「製造品ノ内各部ニ跨リ製造スル種類ハ結末整備ノ部ニ於テ其主任 トナリ関係ノ各部ニ註文シ他部ノ費額ハ主任部ヨリ償却シ一手ニ決算 スヘシ尤依頼先ヨリ償還未済中ハ主任部ノ未収入タルヘシ」 (第三十 三條) 「傭人足賃タリトモ直接ニ工業ニ使用スルトキハ製造費ニ編入スヘ シ」 (第三十四條) 「事業間隙又ハ創設ノ際予備業ニ従事スルトキハ製造費ノ外ニ予備 業費ノ科目ヲ設ク費用計算ハ一般ノ順序ニ拠ルヘシ 但事業成立迄割 賦費ヲ賦課セサルコトアルヘシ」 (第三十五條) 製造費と並んで, 何らかの基準を設けて各作業に配賦すべき割賦費であ る本局経費の計算は, 以下のように規定されている42)。 しかしながら, 割 賦費は工場常費も含むはずであるが, その規定はここにはない。 本局経費は 「本局三部ニ於テ毎一月受払報告」 を作成し, 翌月 3 日まで に調度部へ提出し, 調度部は 5 日までにチェックを済ませ, 一事業が終了 する前に, 本局 3 部費額の合計を工場 4 部に割賦し, それを各受払報告に 編入する (第三十六條)。 このとき, 本局経費を工場 4 部に割賦する基準 は, 調度部が前年度 4 部の各収入高 (売上高) を比較したうえで, それら の比率を計算し, この結果は回議決裁を経て当該年度の乗率とされる (第 三十七條)。 営業費の概念は当初, 事業開業後に生じた固定資産への投資額および事 業運営資金であったが, 「(改正) 作業費出納條例」 によって費途区分が改 正され, 事業運営資金のみを示すに至った。 さらに, 「簿記順序」 ではこ ― 17 ― れを製造費と割賦費に分けている。 前者は製造直接費であり, 後者はさら に工場常費と本局経費に分けられ, それはそれぞれ製造間接費, 一般管理 費に相当する。 このように簿記順序では, 費目別計算に不可欠である直接 費と間接費との区分が存在する。 ここまでに, 各費途の個別概念が明らかにされた。 次いで工場における 収入と各費途はすべて収支予算として編成されるので, その手順を考察し てみたい。 それは第 38 条∼第 43 条で規定されている43)。 製造事業の収入および支出については官命, 民頼を問わず, 会計年度毎 に詳細な収支予算を編成する (第三十八條)。 まず, 1 年間の製造高は現 在や過去の注文高を参酌して, 内部製造依頼および外部発売高から概定す る。 概定された製造高に基づいて, 各科室長の協力のもとに整理部科が製 造費額を予算化する (第三十九條, 第四十條)。 割賦費の予算は工場の繁 閑を参酌し, 「常時支出スヘキ費用」 を作成する (第四十一條)。 各部の収 支予算は調度部が取りまとめ, 審査部長が各部長を参集し, 審査査定する。 その後, 調度部長が局長から収支予算の決裁を受け, 決定に至る (第四十 二條)。 なお, 本局経費の予算は第 37 条の規定により, 工場 4 部へ報知す る (第四十三條)。 収支予算では各作業場で生じうる費用の計算が必要であり, これは製品 定価として, 第 44 条∼第 53 条で規定されている44)。 これが本稿で注目す べき原価計算手続きに関する規定である。 定価は受注価格決定や各科室に おける収支予算編成のための見積原価の計算である。 他方, 後に説明する 現費が実際原価であり, 一定期間経過後に両者は比較検討される。 基本的 に印刷局は官営がゆえに営利目的でないので, 見積原価の積算を意味する 定価が設定され, これが発売価格となる。 したがって, すべての製品に定 価が定められ, これは科室長が発議し, 部長の考査を経て, 整理部科にお いて調整を行い, 審査, 調度の両部で審議し, 局長が決定する (第四十四 條)。 ― 18 ― 製品の定価は 「物品代価ト労力費」 すなわち材料費と労務費に, 割賦費 および興業資産費償却相当分を加えて決定される。 物品代価および労力費 は科室において実験や試験を経て予定され, それが行われない場合には他 の事業との比較によって相当の価格が決定される (第四十五條)。 労務費 の計算については, 労力費は工員の等級で支払給与額に上下があるので, 現状を加味して予め一人の作業に対して, 科室の一人当たり額を予定し, 工事の大小, 精粗により, その一人額を基準として, 作業に従事した人数 分を合計して決定する (第四十六條)。 なお, 指揮整理者 (科室長, 技手, 主簿, 女工取締など) の給料は 「労力費ノ十分ノ三」 (第四十七條) とす る。 したがって, 製品の各科室における定価は科室で需用した物品の代価 に, 「従事者労力ノ費額及ヒ労力費十分ノ三」 を加えて計算し, さらに整 理部科で 「之ニ幾分ヲ加算」 して最終の定価を決定する (第四十八條)。 なお, 科室の定価を起算する際には損製 (仕損 以下同様) の見込, 労 力費の積算を正確に行わなければならない (第四十九條)。 科室は作業場 の管理を徹底し, 「従事者ノ熟達トニ因リ損製及物品ノ需用ヲ減シ以テ製 造高ノ増進ヲ期ス」 べきである (第五十條)。 定価の計算は, 第 48 条で具体的に示されている。 「簿記順序」 において, 仮設例として, 実際の数値で説明されているのは同条だけである。 それは 図表 4 のとおりである。 第 48 条では複数の科室を経由し, 数種類の薬品を配合し製煉して完成 するある製品の見積原価の計算が部や科ごとに示されている。 ある部の甲 室で, 薬品代が 5,000 円, 従事者の給料が 3,000 円生じうるとすると, こ れらの合計 (8,000 円) にその給料 3,000 円の 10 分の 3 である 900 円を加 算して, 甲室における製品の定価として 8,900 円が算定できる。 甲室完了 品は次工程である乙室に振り替え, それは乙室では前工程費として処理し, 他室でも甲室と同様の計算を繰り返す。 丁室まで同様に計算して求めた丁 室の定価 25,200 円が当該部の定価となる。 さらに, 他のある部でも同様 ― 19 ― 図表 4 定 価 割整 理 部 賦科 第四十八條に規定されている定価の計算 一 部 ノ 定 価 該 室 ノ 定 価 十労 分 力 ノ 三費 労 物 定前 力 品 室 費 代 価ノ 八 、 九 〇 〇 〇 、 九 〇 〇 三 、 〇 〇 〇 五 、 〇 〇 〇 一 一 、 八 五 〇 〇 、 四 五 〇 一 、 五 〇 〇 一 、 〇 〇 〇 八 、 九 〇 〇 〇 、 五 〇 〇 一 一 、 八 五 〇 二 一 、 四 五 〇 二 五 、 二 〇 〇 三 二 、 七 五 〇 六 三 、 七 四 五 五 、 七 九 五 二 、 一 〇 〇 七 、 〇 〇 〇 〇 、 五 〇 〇 九 、 四 五 〇 一 、 九 五 〇 六 、 五 〇 〇 一 、 〇 〇 〇 一 六 、 六 一 〇 〇 、 八 四 〇 三 、 二 〇 〇 三 、 〇 〇 〇 九 、 四 五 〇 二 四 、 二 五 〇 〇 、 八 四 〇 二 、 八 〇 〇 四 、 〇 〇 〇 一 六 、 六 一 〇 二 、 〇 〇 〇 二 四 、 二 五 〇 五 、 〇 〇 〇 二 一 、 四 五 〇 乙 合計は 57,950 円となる。 部科費として定価合計 丙 (57,950 円) の 10 分の 1 室 (5,795 円) を加算すると, 部 丁 定 価 63,745 円 が 算 定 さ れる。 これについては 室 「整理部科ニ於テ各室製 甲 造ノ代価ヲ合計シ之ニ幾 室 何 分ヲ加算シテ以テ製造品 乙 ノ代価ヲ決定スルヲ例規 室 トス」 とされ, 各部の定 価合計に整理部科割賦額 丙 を加算して最終的な定価 室 部 を算定する。 整理部科割 丁 賦については 「整理部科 室 ハ製品ノ多寡ニ依リ興業 整 理 部 科 「第三 当該部の定価となる。 し この 57,950 円に, 整理 室 五 七 、 九 五 〇 出典:大蔵省印刷局 印刷局諸規程 明治 15 年, 21 頁。 積 も ら れ る 32,750 円 が 造されうる製品の定価の 何 二 、 五 〇 〇 ら丁室までに要すると見 たがって, 2 つの部で製 室 〇 、 七 五 〇 一 、 五 〇 〇 科 何 々 製 造 甲 二 五 、 二 〇 〇 三 二 、 七 五 〇 各 な計算をすれば, 甲室か 資産費ノ償却ト割賦費ノ 概額トヲ参酌シ而テ其品 位ニ対照シ以テ価格ヲ定 簿記順序」 ムヘシ」 (第五十一條) ― 20 ― と規定されているので, 図表 4 において整理部科割賦として加算された 5,795 円は, 興業資産費償却相当分と割賦費の概額分であることになる。 仮に, 科室における定価は材料費, 労務費のみで決定された場合, 割賦費 や興業資産費償却分が加算されないので, この時点で 「幾分の加算」 (第 四十九條) が 「興業資産費ノ償却ト割賦費ノ概額」 (第五十一條) を参酌 して行われることになる。 なお, 指揮教導を主務とする科室長や技手が作業の進捗暢達を図るため に作業に携わるときは, 定価の労力費を積算するにあたり, 第 46 条に定 めた額の一人額の 7 分で計算し (第五十二條), 能率の向上による影響を 反映させる。 また, 各室の定価は毎半期ごとに月計表の比較を行い, 必要 があれば, 第 48 条の手順で定価を改正する (第五十三條)。 定価について は定価表が作成され, 収入の計算がおこなわれる。 上記のような定価計算に関する規定の後, 棚卸資産 (製品, 物品など) の取り扱いに関する規定が続く。 完成した製品の取り扱いについては, 第 54 条から第 66 条で規定されて いる45)。 その基本コンセプトは 「諸製造品整備ニ至レハ速ニ依頼先ヘ交付シ事故 ナクシテ淹滞スルヲ得ス」 (第五十四條) とされ, 速やかな納品が示され ている。 製品の受け払いについては 「諸製造品ヲ部外ヘ交付スルハ必ス整 理部科ヘ請入同部科ヨリ製品交付ノ場所ニ於テ成規ノ證書ヲ徴シ渡方ヲナ スヘシ」 (第五十五條) とされ, 部外交付は整理部科が製品の取り扱いを 担務する。 したがって, 整理部科が製品を官庁ないし民間の依頼先へ交付 し, 交付高ならびに定価を記して調度部へ通知し, 調度部が代価償還の照 合をなし, 現金を徴収する (第五十六條)。 依頼の製品の発売は普通, 掛 けではなく, 代金引換に交付する (第五十七條)。 諸製品や仕掛品は現費 (現費については後述するが, 定価が見積原価で あるに対して, 現費は実際原価である) で請け払いを行い, その損失を計 ― 21 ― 算する場合も同じである (第五十九條)。 また, 損製品 (仕損品 以下 同様) や製造中に生じる雑品 (作業屑) などは各科室が把握し, 整理部科 がこれを集計する。 損製品は焼却処分する場合, 局長の認可を得て実行す る。 原質地金に戻したり, 製造に再利用したりする場合, 部内収支の手続 きを経て, 需用物品に組み入れる。 その際, 売却可能なものについては, 相当の価格を決定する (第六十條)。 したがって, 部内への製品の発売は 調度部が取り仕切り, 工場各部に通知し, 製品の請入売捌人との取引上一 切の責任を有する (第六十三條)。 製造に使用される物品の取り扱いについては, 第 67 条から第 81 条で規 定されている46)。 これは原材料の取り扱いや購入価額や消費価額の計算に 関する規定である。 物品は各科室が使用する需用品であり, おもに原材料である。 物品の管 理はすべて調度部が行う。 品位の良否, 価格の高低は製造に影響を及ぼす ので, 内国品は半期毎, 外国品は 1 年毎に需用する種類, 数量, 代価の予 算を作成する。 物品予算に増減が生じた場合には予算を修正し, ただし製 造の都合により予算外, 臨時購入を要するものについては通知書で請求す る (第六十七條∼六十九條)。 物品の貯蔵は一定限度額を設定し, 過剰にならないように監視する (第 七十條)。 機械器具の新規購入は回議を経て行い, 修繕は通知書で実施し, 器具の不要返納は調度部へ通知する (第七十一條)。 物品代価は購買価格, 時価, 代価の平均を用いる (第七十二條)。 調度部において物品の払下げをするときは, 各部主任を参集し, 甲が不 用であっても乙が有用であるかないかを審査協議し, 需望する部科がない ことを確認したうえ, 入札する (第七十三條)。 物品代価は購買の原価が原則であり, 同一物品同一品質でありながら, 時価に差があり, 購買の原価が確定できない場合には, 前後の代価を平均 して該品の代価とする (第七十五條)。 ― 22 ― 代価未納や代価未精算の場合は, 見込代価や時価で評価し, 原価の場合 と区別する (第七十六條)。 見込代価や時価で計算した物品を組み込んだ 製品の代金決済 (原価) にあたって, 見込代価や時価評価による超過額は 雑収入, 不足額は割賦費として処理する (第七十七條)。 部内で製品の編 入が行われたような場合, 部内収支として処理し, 製品代価は製造費を用 い, 他方局内で製品の編入が行われたような場合, 局内収支として処理し, 定価を用いる (第八十條, 第八十一條)。 これまで, 費途の概念, 定価の計算, 棚卸資産の処理が規定されたが, 最後に整理部科と各科室の月計表ならびに損益計算が第 88 条∼第 95 条で 規定されている47)。 整理部科の月計表 (第八十八條∼第九十五條) には興業資産費の増減, 営業収支からの損益, 器具・物品・現金の請け払い, 製品収入・代価の差 引が記載され, 「就中割賦費償却ノ事ハ専ラ本部科ノ負担スル所トス宣ク 費目ヲ詳ニシ償却歩合等一目明瞭タルへシ」 と規定されている (第八十九 條)。 他方, 各科室の月計表は 「科室長ノ精神ヲ表明スルノ具」 であり, 科室長の 「担任ノ厚薄気力ノ強弱誘導ノ巧拙ハ直チニ従業者ノ勤怠ニ影響」 するので, 成績の提示によるモラールの高揚に大きな役割を果たす (第九 十條)。 各科室の月計表は第一表, 第二表から構成されている。 第一表は 「興業資産費ノ増減半製品ノ有高営業収支ノ損益及ヒ割賦費ニ属スル支出 等」 を示し, 第二表は 「該月整備ノ各品ニ分チ定価ト現費ノ差引損益」 を 示す (第九十條)。 各科室の製品は 「該科室中ニ在テハ現費」 で計算し, 「他室ヘ送付済ニ 至リ第四十八條ノ定価」 で計算する (第九十一條)。 もし現費 (実際原価) と定価 (見積原価) に差が出た場合については 「他室ヘ送付済ノ定価ト現 費トヲ比較シ其差金ヲ営業損或ハ営業益トス」 と規定されている (第九十 二條)。 営業の損益は, 1 か月および 1 年ベースで明示する (第九十三條)。 各科室は 「専ラ製造費ノ損益ヲ負担スト雖モ収支ノ差引ハ割賦費ヲ加ヘ該 ― 23 ― 科室ノ経済ヲ験スルヲ要スヘシ」 (第九十四條) と規定され, 製造費の発 生に加えて割賦費についても負担する責任がある。 整理部科は割賦費を統 括し, 各室の割賦費額を予定し, 毎月その実際額と比較し, 増減を検討し, 無駄が出ないように努めることが求められる (第九十五條)。 このように, 大まかな簿記の流れが総則で規定されている。 これ以降は 製造ノ簿記, 収入金ノ簿記, 現費整理ノ簿記における個別手続き規定を考 察する。 2) 第二章 製造ノ簿記 前節 1)では第一章 総則を概説したが, 第二章 製造ノ簿記では製造 に関する処理手順と帳簿がさらに詳しく説明されているので, その詳細を 検討していきたい。 製造ノ簿記は製造起因ノ簿記, 各科室ノ簿記, 庶務主 任ノ簿記, 出納主任ノ簿記, 簿記主任ノ簿記, 調度部ノ簿記から構成され る。 製造起因ノ簿記は第 116 条∼第 124 条, 各科室ノ簿記は第 125 条∼第 142 条, 庶務主任ノ簿記は第 143 条∼第 144 条, 出納主任ノ簿記は第 145 条∼第 154 条, 簿記主任ノ簿記は第 155 条∼第 159 条, 調度部ノ簿記は第 160 条∼第 161 条で規定されている。 なお, 製造ノ簿記においては数多く の帳簿が用いられ, その記帳法が示されている (使用されている帳簿につ いては初出のみ下線で示した)。 製造ノ簿記における前半の帳簿 (製造起因ノ簿記, 各科室ノ簿記, 庶務 主任ノ簿記) をまとめると, 図表 5 のとおりである (便宜的に, 製造ノ簿 記における帳簿を 2 分し, 前半を帳簿群 1 とした)。 製造起因ノ簿記であるが, 製造起因, すなわち製造の着手によって生じ るさまざまな処理が帳簿で記録され, 受注から製造着手までの手続きが, 次のように規定されている48)。 印刷局における製造は, すべて注文からスタートする。 工場各部におい ― 24 ― 図表 5 製造ノ簿記における帳簿群 1 製造起因ノ簿記 各 科 室 ノ 簿 記 製造注文帳 製造顛末録 (庶務主任ノ簿記と同じ) 貸借証印帳 製造通知帳 臨時試験顛末録 (同上) 写真依頼証券 製造請払帳 科 (室) 内製品 (別途製品) 授受帳 直受注文上申録 製品請入要求帳 手 直受注文帳 製品受入帳 製造品日締帳 局内収支品通知帳 製品送付帳 部内収支製品引渡帳 部内収支品請求帳 製造請渡帳 整備製品納入帳 貯蓄製造品上申録 損製品送付帳 損製品請払帳 部内製機械器具上申録 損製品請入帳 損製品納入帳 原版製造上申録 過量欠減検印帳 臨時試験製品請払帳 臨時試験上申録 別途製品授受帳 日課予算録 製造回達録 庶 注文要件録 出典:大蔵省印刷局 務 主 製造顛末録 (各科室ノ簿記と同じ) 印刷局諸規程 「第三 任 ノ 牒 簿 記 臨時試験顛末録 (同左) 簿記順序」 明治 15 年, 4256 頁より作成。 ては多くの品種を製造するが, 注文は官命, 民頼を問わず, 「依頼者ト各 部トノ間ニ在リテ首尾ヲ周旋スルハ調度部発売科 (以後, 発売科と略称す る)」 であると, 発売科の役割を規定している。 まず, 注文を受けたら, 注文依頼を依頼の順に番号を付して諸製造注文帳へ記帳し, 製造の軽重緩 急に応じて製造通知帳 (または局長達) で主任各部へ送達し, 製造に着手 する (第百十六條)。 写真製作の依頼については, 通常と手続きが異なる。 この場合, 発売科 が写真依頼証券を作成する。 これは写真の依頼に用いられる三枚連続の切 符であり, 番号, 寸法, 代価, 枚数, 依頼者姓名が記入される。 写真依頼 証券は代金徴収後, 3 枚目を依頼者に交付し, 2 枚目を整理部科に送付し, 1 枚目を原本とする (第百十七條)。 ― 25 ― 発売科を通さずに各部に直接製造注文 (直注文) する場合, 直注文主が 直受注文上申録を作成し, 局長の検印を得て発売科へ回付する。 発売科は 回付されてきた直受注文上申録をもとに直受注文帳を記入する (第百十八 條)。 また, 製造の着手に際して発売科を経ないものに, 局内収支品, 部 内収支品, 貯蓄製造品がある。 局内収支品は調度部購買科, 調度部営繕科 の通知 (局内収支品通知帳), 部内収支品は各科室の要求 (部内収支品請 求帳), 貯蓄製造品は部長の見込みに基づく局長の決裁 (貯蓄製造品上申 録) により, それぞれ着手する。 ただし, 局内収支品のうち, 機械とその 付属品, 器具の新規作成や修繕は整理部科で部内製機械器具上申録を作成 し, 審査部を経由して, 局長の認可を得る (第百十九條)。 以上の手順は, 図表 6 のとおりである。 これ (図表 6) 以外に, 彫刻部が原版の製造を着手する場合があるが, これは部長が原版製造上申録で局長の決裁を受ける (第百二十條)。 また, 臨時的に試験を要する場合, 部長が臨時試験上申録で局長の決裁を受けて 着手し, その費額は資本的支出とみなし, 当該部の興業資産費とする (第 百二十一條)。 こうして各部では製造に着手することになる。 その際, 製造回達が回付 される。 これは製造通知帳および達に基づいて登記され, これを監査が調 査したうえで部長の検印を受けて各科室へ回達されるが, 回達済の製造は 製造回達録に類聚編纂される (第百二十二條)。 製造通知帳および達, そ の他注文者の請求により新に定価を調整し, または改正を要し, 日限を定 める場合など, 監査がその要件を註文要件録に登記し, それを部長に差出 す (第百二十三條)。 部長は監督科室長を一同に会し, 見本あるいは下図 をもとに, その注文の要件を説明し, その損製見込高, 整備日限, 代価の 概額などを討議し, これを整理部注文要件録に登記調印するが, 場合によっ て主簿および発売科を列席させる (第百二十四條)。 以上が製造起因ノ簿記であり, 次いで製造開始から完成までに行われる ― 26 ― 図表 6 製造依頼から着手までの手順 通常の注文から製造着手まで 写真の依頼 注文 (官命・民頼) 注文 (官命・民頼) 調度部発売科 調度部発売科 製 造 注 文 帳 三 葉 切 符 (緊急時) 局長達 各 製造通知帳 部 主 着 手 依頼者 任 整理部 原 本 写真依頼証券 着 手 各種製造品の着手 購 局 内 収 支 各 買 ・ 営 室 内 監 工 部 長 繕 部 収 科 支 品 品 着 出典:大蔵省印刷局 部 請 求 帳 貯 長 蓄 製 局 造 長 品 手 印刷局諸規程 「第三 簿記順序」 明治 15 年, 4245 頁より作成。 各科室ノ簿記が以下のように規定されている49)。 各科室では製造着手に当たり, その命令書の受け取り, 製造のための試 験, 前工程完了品の受け入れ, 当該工程完了品の引き渡し, 仕損品の発生, 見本の製作などの処理が行われ, 科室長は業務日誌をつける。 製造終了後, 各科室は製品種類ごとに, 年月日, 名称, 種類, 製造元高, ― 27 ― 損製予備高, 定価, 注文先, 日数, 着手年月日, 送付済年月日, 現費, そ の他記事などが記入された製造顛末録を作成する。 これは現在の製造原価 報告書に相当する。 なお, 臨時試験については, 別冊として臨時試験顛末 録を作成する (第百二十五條)。 製造請け払い, すなわち 「製造高 即注文高ト損製予備高ノ合計 ト着手及 送付高損製高トノ差引」 については製造請払帳を作成する。 このとき, 「製造高ハ回達ニ照シ着手高ハ製品請入帳 (第百二十九條) ニ拠リ送付高 ハ製品送付帳 (第百二十九條) 損製高ハ損製品送付帳 (第百三十條)」 に よって記入する (第百二十六條)。 製造高の内, 例えば 「甲乙丙三室ニ於テ事業ヲ仝クシ 印刷ニテ共ニ号刷 ヲ仝クスルノ類」 の場合, 回達高から判断できないときは, 部長の見込み で 「回達高ヲ適宜分割シテ三室ニ元請トセシム」 という処置がとられる (第百二十七條)。 もし, 後日, 該元請を増減する事態が生じた場合には 「三室互ニ振替請払」 を行う (第百二十七條)。 製造着手に先立ち, 前室 (前工程) から完了品, すなわち原紙原質などを要求するときには, 製品 請入要求帳を用いる。 各室で 「員数期日等ヲ期シ互ニ検印」 する (第百二 十八條)。 科室間における製品の授受は, 製品受入帳, 製品送付帳, 製造請 渡帳の諸帳簿を設け, 相互に検印する (第百二十九條)。 また, 損製品は 損製品送付帳を受付担当の科室へ送付し, 同担当科室は損製品請入帳を設 け, 照会する。 製造中に規定を超える増減を生じる場合には過量欠減検印 帳を設け, 部長の検印を請ける (第百三十條)。 作業屑に関しては, 「製造中屑裁端其他雑品ヲ生スルモノヽ如キハ該名 称ヲ題シタル送納帳ヲ以テ速ニ送納シ若シ物品ヘ請替ヘキ分ハ部内収支ノ 処分ヲ為スヘシ」 (第百三十一條) と規定されている。 試作に関しては, 「試刷品又ハ校正紙 原紙ヨリ振替タル分 ノ如キ製品ノ 別種ニ属スルモノヽ類ハ之ヲ別途製品ト云フ便宜冊ヲ分チ傍ラ其名称ヲ題 ス」 (第百三十二條) と規定されており, 別途製品授受帳を作成する。 ― 28 ― 見本品の作成に関しては, 「製造見本類其他一時ノ貸借ニ係ルモノハ該 名称ヲ題シ 或ハ否ス タル貸借証印帳ヲ以テ授受スヘシ」 (第百三十三條) と規定されている。 また, 一科室中における製品の授受または別途製品の 授受, その他貸借に係るものは, すべて授受帳もしくは貸借証印帳で請渡 をする。 ただし, 第 132 条の授受帳には科 (室) 内を冠する科 (室) 内製 品 (別途製品) 授受帳を作成する (第百三十四條)。 各科室ノ簿記では最も重要な帳簿として手牒がある (先にも規定されて いたが, ここでは帳簿の 1 つとして規定されている)。 これは各個人の作 業記録であり, 作業情報収集の中心となる。 手牒は執業者が当日の製品製 造数量, 従事の時間, 需用物品数量などの作業要件を記し, 終業時に科室 長の検印を受け, 整理者へ差出す (第百三十五條)。 科室の整理者は毎日の終業時に請入帳および送付帳, 科 (室) 内授受帳, 工者手牒などを参照し, 製造の種類別に類聚通計し, 残高を計算し, これ を製造品日締帳に登録し, 科室長および整理者がこれに調印し, 整理部科 簿記主任 (以下, 簿記主任と略称する) へ報告する (第百三十六條)。 部内収支製品は直ちに要求の科室へ送付し, 部内収支製品引渡帳へ検印 を要する (第百三十七條)。 部内収支製品の引き渡しは, 部内収支製品引 渡帳で簿記主任へ報告する (第百三十八條)。 製造の最終段階にとなる科室において製造した製品は整理部科出納主任 へ引渡し, 整備製品納入帳に当該主任の証印を受ける (第百三十九條)。 損製品請付担当の科室は, 損製品請払帳および損製品納入帳を設ける。 損製品請払帳には損製品請入帳 (第百三十條) の請入と損製品納入帳の納 入がそれぞれ転記され, 両者が差引計算される (第百四十條)。 臨時試験によって製出する製品は, 臨時試験製品請払帳を設けて出納す る (第百四十一條)。 科室長は工事の緩急, 先後を酌量し, 人員の配置時間の延長・短縮, 製 品の授受, その他需用品の受け入れ方法などすべて翌日以降の事業を予定 ― 29 ― し, 部長へ稟議し, 各方面へ通知し, 指揮の順序などが誤りのないように 確認する。 このとき, 科室長が用いるこの手録を日課予算録という (第百 四十二條)。 庶務主任ノ簿記に関して, 庶務主任は次の帳簿の記入を行う50)。 庶務主任は製造の顛末を簡明に記録する製造顛末録 (各科室のものと同 じ) を作成する (第百四十三條)。 また, 臨時試験の顛末を示す臨時試験 顛末録は, 上申決裁の年月日, 起業の大意, 着手年月日, 卒業 (終業) 年 月日, 結果の大意, 製品の有無, 費額などを採録する (第百四十四條)。 製造ノ簿記における後半の帳簿 (出納主任ノ簿記, 簿記主任ノ簿記, 調 度部ノ簿記) をまとめると, 図表 7 のとおりである (便宜的に, 製造ノ簿 記における帳簿を 2 分し, 後半を帳簿群 2 とした)。 出納主任ノ簿記では, 出納主任は製造上生じる製品の受け渡しや注文主 への送付, 仕損品の処理などにかかわるので, 次の帳簿の記入を行う51)。 図表 7 製造ノ簿記における帳簿群 2 出 納 主 任 ノ 簿 記 整備品日締帳 交付証罫紙 損製品納入通知帳 製造差引簿 送付券 損製品送付帳 貯蓄製品日締帳 甲号製品渡高通知券 損製品日締帳 貯蓄製品有高表 乙号製品渡高通知券 送付検印帳 見本渡品納帳 簿 記 主 任 ノ 簿 記 製造元簿 製造品加算簿 半製品残高簿 貯蓄品元簿 番記号詳細簿 製造差引内訳簿 原版元簿 番記号詳細帳 工業日表 調 度 部 ノ 簿 記 印刷品出納帳 出典:大蔵省印刷局 印刷局諸規程 「第三 簿記順序」 明治 15 年, 5665 頁より作成。 ― 30 ― 出納主任は製造結尾の科室より整備品の納入があれば, これを受け取り, その納入帳に検印し, かつこれを注文先あるいは引渡先へ渡方の手続きを し, 紙幣, 公債証書などの予備製造高に属するものは調度部に引き渡し, 受け払いの員数は整備品日締帳へ記載し, 監工部長の検印を受け, 簿記主 任へ報告する (第百四十五條)。 この整備高受入の際, 注文高と整備との 差引を要するものについて, 注文高は達通知高により, 整備高は整備製品 納入帳により, 製造差引簿に差引記入する (第百四十六條)。 貯蓄 (貯蔵) に係わる製品の請け渡しは, 貯蓄製品日締帳へ記載し, 監工部長の検印を 受け, 簿記主任へ報告する (第百四十七條)。 貯蓄製品の種類が繁多であ り, この日締帳に記載できないものは別に貯蓄製品有高表を設け, 日々記 入する (第百四十八條)。 調度部へ注文品や発売品を送付する際には, 交付証罫紙 (送り状) と送 付検印帳を用い, これらを日締帳へ添付し, 簿記主任へ回付し, 同主任の 照査を受け, 類聚編成して後証に備える (第百四十九條)。 出納主任は製 品の交付が終わったら, 通知券を発行する。 この券は甲乙種類別 (甲号製 品渡高通知券, 乙号製品渡高通知券) に分けられ, 甲号通知券は注文の通 知に用い, これは四葉連続であり, 第一葉を主任へ, 第二葉は調度部精算 科へ, 第三葉, 第四葉は発売科へ回付する。 他方, 乙号通知券は見本品納 および局内収支品の通知に用い, これは三葉連続であり, 第一葉, 第二葉 は甲号と同じ先に回付し, 第三葉は発売科, 購買科もしくは営繕科へ回付 する (第百五十條)。 この甲号通知券は, 製品渡高および代価渡先, 渡月 日などを詳記して発売科に渡し, 発売科はこの券を受け取り, 注文先へ代 価償還を通知し, 乙号通知券は精算科おいて簿記上収支の振替を行い, 第 二葉に年月日, 振替済の印を捺して, 返付する (第百五十一條)。 貯蔵製品のうち, 地方へ見本として渡すものはすべて局長へ差出し, 検 印を受ける。 その後, 乙号通知券 (第百五十條) と共に見本渡品納帳を発 売科へ送付し, 購買科において購買品基帳の記載を行い, 同科より返付を ― 31 ― 受ける (第百五十二條)。 損製品については各科室より納入の報告を得て, 損製品納入通知帳へ記 載し, 局長の決裁を受け, 該科室より受け入れ, その納入帳へ検印し, こ れを調度部貯蓄科へ引渡し, 損製品送付帳へ該科の証印をもらう (第百五 十三條)。 損製品請渡が完了したら, 出納主任は損製品日締帳へ記載し, 監工部長の検印を受け, 送付帳と共に簿記主任へ報告する (第百五十四條)。 簿記主任ノ簿記に関して, 簿記主任は各科室から各種データを収集し, これを各種元簿に記入し, 最終的には工業日表を作成するために, 次の帳 簿の記入を行う52)。 簿記主任は, 各科室および出納主任から日締帳を受け取り, これを照査 精算して製造元簿および貯蔵品元帳へ記入する。 ただし, 部により製造元 簿中に半製品, 整備品, 損製品の口取を分けたり, あるいは別冊としても よい。 かつ, 整理部科においては別に原版元簿を設け, 製造品加算簿で各 室製品の請け払いを詳明する (第百五十五條)。 また, 紙幣, 公債証書, 鑑札の製造のように連番記号を要するものは, 整理部科において番記号詳 細簿を設けて記載する。 くわえて, 各科室においては番記号詳細帳を設け る (第百五十六條)。 なお, 製造元簿では半製品残高のみが記載され, 詳細が把握できないの で, 各科室における事業実績が通観できるように, 半製品残高簿を設け, 各科室日締帳残高を各事業毎に区分登録して, 元簿の残高と照合する (第 百五十七條)。 製造超過が生じないように, 製造注文高, 損製予備高, 着手高のそれぞ れを監視しなければならない。 そのため, 製造差引内訳簿を設け, 製造注 文高および損製予備高を合わせて元高とし, 着手高などを差引き, 過不足 をチェックする (第百五十八條)。 簿記主任は諸元簿に基づいて, 日々整備品の品目, 数量, 定価を工業日 表に登記し, 部長監工の検印を受け, 局長の覧閲に供する (第百五十九條)。 ― 32 ― 調度部ノ簿記に関して, 調度部では次の帳簿の記入を行う53)。 調度部は印刷品出納帳を設け, 紙幣, 公債証書などの予備札保存の分お よび諸損製品, 種類, 員数, 番記号などの詳細を記載する (第百六十條)。 製造ノ簿記では, 製造の着手, 製造, 製造の完了, 製品の貯蔵, 製品の 引き渡しの各段階が帳簿によって, 記録管理されている。 帳簿は金額のみ ならず, 数量も記されたものと思われる。 3) 第四章 収入金ノ簿記 収入金ノ簿記は, 定価調定ノ簿記, 代価請求ノ簿記, 各部収入ノ簿記, 調度部ノ簿記, 審査部ノ簿記から構成され, 図表 8 のような帳簿が用いら れた54)。 図表 8 収入金ノ簿記における帳簿群 定価調定ノ簿記 調 度 部 ノ 簿 記 製造代価予算録 発売品通知帳 不用品払代収入明細簿 定価調製録 発売品請払帳 雑収入明細簿 定価決裁録 発売品請入帳 官舎宿代収入明細簿 定価表 発売品払下券 官舎修繕費収入明細簿 発売品払下通知券 作業収入精算表 製造代価請求録 発売品受払表 作業収入明細表 前金請入通知券 作業収入受納簿 官舎修繕費収入精算帳 諸向注文品代価収入明細簿 官舎修繕費収入明細表 収入元簿 発売品代価収入明細簿 作業収入総計報告 部内収支報告 局内収支品代収入明細簿 各部前金収入差引簿 現金納払券 部内収支品代収入明細簿 代価請求ノ簿記 各部収入ノ簿記 未収入月締簿 未収入月締報告 審 査 部 ノ 簿 記 製造品定価簿 官舎修繕費収入報告 出典:大蔵省印刷局 印刷局諸規程 「第三 簿記順序」 明治 15 年, 92105 頁より作成。 ― 33 ― 科室長は製造代価予算録に製造日数, 損製の見込高, 労力費, 需用品数 量・代価を見積もり, これに労力費の 10 分の 3 を加えて製造代価 (これ は見積原価である) を記入する。 すなわち, この予算録は簿記主任が集録 通算して製造費や割賦費, その他加算額を定め, 割引などを考慮して, 定 価を決定し (定価調製録), 局長の決裁を受け (定価決裁録), これを一覧 表 (定価表) にする。 この手順については, 総則 (第 45 条) で規定され ていたが, ここでは具体的な帳簿記入が規定されている。 製品を発売するときは, 出納主任が製品渡高通知券を作成し, 簿記主任 がこれを校閲して, 調度部発売科に渡し, 注文主に代金を請求する。 この とき, 製造代価請求録が作成される。 もし前受金を受け取ったときには, 前金請入通知券が作成され, 注文主からの入金は現金納払券に基づいて収 入元簿に記録される。 また, 部内収支品の収入ならば, 部内収支報告に記 載される。 未収入金については未収入月締簿および未収入月締報告が作成 される。 上記の帳簿群が示すように, 注文主への完成品の引き渡しに関する処理 が収入金の処理として行われている。 これは定価として見積計算された額 が請求金額となるのであり, 収入となる。 これは本稿が総則における原価 計算規定であると評価した部分である。 さらに, この収入金は原則として 現金であったので, 現金ノ簿記が必要とされた。 4) 第六章 現費整理ノ簿記 現費整理ノ簿記は 「簿記順序」 の最終章であり, 収支予算編成のための 記帳, 現費計算のための記帳, 各種報告書の作成が内容であり, 収支予算 ノ簿記, 各科室ノ簿記, 整理部科ノ簿記, 調度部ノ簿記, 審査部ノ簿記か ら構成されている。 収支予算ノ簿記は, 第一章 総則では第 38 条から第 43 条に規定されて いたが, この章においては帳簿記入を中心に, 次のとおりに規定されている55)。 ― 34 ― 収入および支出の予算 (収支予算) 編成は整理部科が行う。 この際, 注 文者の有無, 前年度比, 注文者への照会を通じて 1 年間の製造高を概算し, これに対する収入支出額を算定する (第二百六十三條)。 通常, 予算は簿 記主任が各科室長から調書を取り, 部長に稟議して編成する。 このとき作 成されるのが営業収支予算詳細録である (第二百六十四條)。 これは収入, 支出, 収支差引益金の各項から構成される。 収入の項は製品種類, 製造高, 定価, その他の収入, 支出の項は製造費, 割賦費が記載される。 収支の差 額を示す収支差引益金の項は興業資産費に属する費途, 建築物や機械の元 済の有無などが記載され, 納入金額が算定される。 さらに, 簿記主任はこ れに基づいて営業支出予算内訳帳を作成し, 調度部精算科を経て局長へ上 程する (第二百六十五條)。 予算確定後, 当該年度中製造の増減, その他の事情により収支の増減が 生じた場合には, その都度事由, 金額を上請し, 決裁を受けた後, 営業収 支予算差引帳に増減を記載し, これを営業収支予算詳細録の備考に記入す る (第二百六十六條)。 営業収支予算差引帳と営業収支予算詳細録の参照 によって, 注文高に増減による収入増減の発生や製造費, 割賦費の増減の 発生が認知された場合, 営業収支予算増減調帳に事由を記入する (第二百 六十七條)。 なお, 会計年度末に当該年度の予算結果は営業収支予算増減 調帳によって上申される。 調度部精算科では営業収支予算内訳帳から各部の収支を総括し, 本省へ 納入するべき益金高を算出するために, 作業収入額予算内訳帳を作成する (第二百六十八條)。 この帳簿には作業費収入予算簿の収入と作業諸費予算 簿の支出を差し引いた結果を記入する (第二百六十九條)。 さらに, 営業 支出予算内訳帳に基づいて各部の益金を合計し, 各部の興業資産費の予算 合計を差し引き, 本省納入分を計算する。 このとき, 資産費予算比較録が 作成され, 益金の予算と興業資産費の予算を比較する (第二百七十條)。 以上をまとめると, 図表 9 のとおりである。 ― 35 ― 図表 9 収支予算編成の帳簿機構 予算調定 作業収入額予算内訳帳 営業収支予算詳細録 作業収入予算簿 営業収支予算 差 引 帳 営業支出予算内訳帳 作業諸費予算簿 営業収支予算増減調帳 資産費予算比較録 上 調度部精算科 申 整 理 部 出典:大蔵省印刷局 印刷局諸規程 「第三 簿記順序」 明治 15 年, 121125 頁より作成。 次に, 各科室ノ簿記における現費の集計手続きをみていきたい。 定価は 見積原価であったが, ここで実際原価である現費の集計が規定されている。 その概要は以下のとおりである56)。 各科では従事した作業名, 時間, 製品数, 需用物品の数量などを記した 手牒をもとに, 製造費日締帳, 割賦費日締帳, 資産費日締帳が作成される (第二百七十一條)。 簿記主任がこれらを照査し, 現費加算帳へ転記する (第二百七十二條)。 現費加算帳には着手高, 送付高, 整備越高, 半製越高, 損製高および労力費, 蒸気費, 指揮整理者給, 物品代価が記載され, 毎日 加算され, 月末に 1 か月分が集計される。 割賦費および興業資産費償却相 当額の加算もこれに準じる。 また, 指揮整理者給は製造各種労力費の多寡 の比率, 蒸気費は製造高, 彫刻部電胎薬液は蒸気費に準じて, 割賦される。 現費加算帳では, 送付高, 整備越高, 半製越高に相当する各項の費額が集 計され, 送付高に集計された現費 (実際原価) と定価 (見積原価) が比較 され, 差異が算出される。 この場合, 「其著キ損益 (差異 筆者) ハ原 因ヲ探求シテ備考ニ摘録シ審査部ヲ経テ局長ヘ呈進スヘシ」 とされ, 差額 ― 36 ― の分析が規定されている (第二百七十四條)。 整理部科ノ簿記は, 次のとおりである57)。 現費の最終集計は整理部科の業務であり, 整理部科では各科室の報告か ら現費を通計した現費総計加算簿を作成する (第二百六十五條, 第二百七 十六條)。 月末にはこの帳簿の通計を整備半製明細帳へ記帳する (第二百 七十七條)。 この帳簿では各製造の科目毎に (繰) 越高, 着手高, 合計, マ マ 整備, 損減, 判製 (半製 筆者) の区分を設け, 整備, 損減, 半製に相 当する費額は, 科室の産出高を基礎として各区分に記入する。 また, 複数 の科室を経て完成するものは当該科目の費額へ前科目の費額を合わせて後 科目の費額を計算し, 各科目の総計が整備半整備 (完成ないしは未完成) となる。 この整備半製明細帳によって, 整備半製報告を作成する (第二百 七十七條)。 最終的に営業費請払報告が作成される。 営業費請払報告の支 出は現費総計加算簿, その受払差引は現金元簿, 諸物品元簿から転記し, 営業費明細表は各種日締帳により作成し, 営業費請払報告とともに調度部 を経て局長に呈進する (第二百七十九條)。 調度部ノ簿記は, 次のとおりである58)。 調度部精算科は営業費請払報告と営業費請払明細表の照査精算を行い, 各部を纂輯して営業費請払総計報告を作成し, 各部の報告を併せて審査部 を経由して局長の検閲を受ける (第二百八十二條)。 調度部では日々の取 引事象を本部各科より送付される収支に関する書類や通知券, 各部の諸報 告を日記簿に登記し, その後原簿にそれを転記する (第二百八十三條)。 原簿から各科目の貸借残高を記入し, 合計を対照して計算表 (試算表 筆者) が作成され, 総長部長の検印を受けて, 審査部に送付される (第二 百八十四條)。 調度部では 3 か月ごとに営業資本請払精算報告および営業 費明細表を作成し, 審査部を経て局長の決裁を仰ぎ, 本省へ送付する (第 二百八十五條)。 このとき, 営業資本請払精算報告と営業費明細表は下記 の簿冊をもとに作成する (第二百八十六條)。 ― 37 ― 経費仕訳簿 作場費明細簿 臨時試験費明細簿 俸給明細簿 材料費明細簿 教場費明細簿 雑給明細簿 機械費明細簿 外国留学生費明細簿 職工費明細簿 建築費明細簿 各帳票のまとめは月計表, 半季報告によって行われ (第二百八十條, 第 二百八十一條), 会計年度の終わりに損益計算書に相当する諸作業損益比 較報告が作成される (第二百八十七條)。 さらに, 審査部ノ簿記においては, 各部営業収支調, 各部収支加算調 (第二百八十七條), 興業資産費差引簿 (第二百八十九條), 製造費損益差 引簿, 製造品損益差引表 (第二百九十條) が作成され, 最終的なチェック が行われる59)。 Ⅳ 「簿記順序」 の評価 上述のように, 「簿記順序」 の内容を明らかにするために, 総則および 製造ノ簿記, 収入金ノ簿記, 現費整理ノ簿記を検討してきた。 ただし, 収 入金ノ簿記についてはおもに帳簿と記帳の概略のみを示した。 各簿記では 膨大な量の帳簿が提示されているが, その体系については必ずしも明確で はない。 こうした帳簿群は損益計算と工場管理に大きな役割を果たしたと みられる。 前掲の 「明治 14 年の原価計算規定」 でも 「原価計算について 簿記順序 の説明は必ずしも明瞭でない」 と指摘され, その理由として 「用語と術語は現代と異っており, 術語の定義がないので複数の意味に使 われている」 ことや 「原価計算の手続も, システム的でなく, 前後が逆で あったり, 重複も見られる」 からだとされている60)。 興業費 (「簿記順序」 では興業資産費), 営業費の規定について, 「(改正) 作業費出納條例」 と 「簿記順序」 を比較すると, 「簿記順序」 のほうがよ り詳細かつ明確である。 図表 10 は 「(改正) 作業費出納條例」 と 「簿記順 ― 38 ― 序」 における興業費と営業費の各規定の比較である。 「簿記順序」 では興業費は興業資産費へ発展し, 投下した大規模固定資 産に対して償却を前提とした処理を規定している。 また, 営業費は製造費 と割賦費に分割されている。 製造費は製造に直接的に生じた製造直接費で あり, 割賦費は製造に間接的に生じた製造間接費 (工場常費) や管理のた めに生じた一般管理費 (本局経費) である。 すなわち, 作業費に関する規 程 (「(改正) 作業費出納條例」) と原価計算規定を含む規程 (「簿記順序」) には, 次のような特徴がそれぞれ存在している。 1 「(改正) 作業費出納條例」:一定期間内の支出 (作業費) が支出性 格別分類に変更され, 興業費と営業費が集計された。 これにより, 固 定資本と営業資本の区別が明確化した。 2 「簿記順序」:一定期間内の支出 (作業費) は興業 (資産) 費と営業 費に分類され, これにより固定資産, 営業資本の区分が明確化した。 これにくわえて, 営業費は製造費と割賦費に分類されており, これに 図表 10 「(改正) 作業費出納條例」 と 「簿記順序」 における 興業費と営業費の各規定の比較 (改正) 作業費出納條例 興 業 費 営 業 費 該費ハ全ク開業前ニ係 ル費項即チ工場其他附 属舎ノ諸営築及ヒ器械 購入等ノ費途并ニ開業 後事業拡張ノ為メ諸建 物ヲ増築シ或ハ器械購 入ノ費用ヲ類集ス 該費ハ開業後ニ係ル営 業必需物品ノ購入官吏 俸給諸職工雇給及ヒ諸 器械の修繕并不足補充 毀損新調其他工場并附 属舎ノ営繕等本業ニ属 スル諸般ノ費途ヲ類集 ス 簿 記 順 序 興 業 資 産 費 地所購買家屋建設機械購入臨時試験費之ニ属ス 「興業資産費ナルモノハ試験ノ業ニ始マリ地 所ノ購買家屋ノ建築機械ノ購入設置ニ至ル都 テ作業ノ基礎ニ係ル諸費ニシテ其金額ハ既ニ 消費ニ属スト雖トモ其地所家屋機械尚ホ現存 スルヲ以テ之ヲ工場資産ノ額ト見做スヘシ」 営 製 造 費 製造品ノ毎種ニ対シ直接ニ決算スル費目ニ シテ工人給料, 指揮者整理者給, 需用物品 代価, 蒸気費, 地金溶解費等之ニ属ス 業 割 各種製品ニ賦課シテ支消スヘキ常費ニシテ 本局経費, 工場常費ニ分ツ 賦 本局経費ハ一般ノ施設上ニ係ル費額, 工場常費 ハ工場ニ附帯スル所ノ費額ニシテ部長以下主簿 ノ俸給, 給与, 工場費, 家屋修繕及ヒ外国人諸費 費 費 ― 39 ― より製造領域・管理領域への一定期間支出は直接費と間接費に区分し て集計がなされた。 このように, 最終的に作業費のうち, 営業費は製 造原価の意味合いに近接し, 直接費と間接費の区分の基礎が作り上げ られた。 本稿の課題である原価計算機構は, 定価と現費の計算, 収支予算の編成 が主軸であり, 総則で大枠が示され, 製造ノ簿記および現費整理ノ簿記で は原価計算機構を支える詳細な帳簿記入が規定されていた。 製造ノ簿記で 示されているのは定価と呼ばれる見積原価の算定, 現費整理ノ簿記で示さ れているのは現費と呼ばれる実際原価の算定である。 各科室では製品がいくらになるのかを示す見積原価 (定価) を算定する。 まず, 直接労務費 (労力費) は科室 1 人額を予定し, 注文の精粗によりそ の予定人数分を乗じて計算される。 次に, それに労力費の 10 分の 3 を加 算する。 さらに, 直接材料費 (需用物品の代価) が計算される。 また, 割 賦費と興業資産費償却相当分とが, あらかじめ決められている。 これらを 合算すると, 見積原価が計算される。 これが注文請負価格であり, 各科室 間の完了品の振替にも用いられる。 このとき, 各部門間を経て完成する製 品の振替については工程別に計算が行われ, 部門ごとに計算した数値を合 計される。 したがって, 見積原価は各科室の目標原価であり, 維持しなけ ればならない能率の尺度である。 定価は, 収支予算編成にも用いられる。 他方, 実際原価 (現費) は各科室の工人の手牒を出発点とし, 製造費日 締帳, 割賦費日締帳, 資産費日締帳などを通じて把握した製造費 (工人給 料, 指揮整理者給, 需用物品代価, 蒸気費, 地金熔解費など), 割賦費 (本局経費, 工場常費), 興業資産費額配賦分を完成品, 仕掛品, 仕損品別 に集計した金額のうち, 注文主に納付された完成品に付せられた実際支出 額である。 これが収入と対応され, 益金が算定される。 したがって, 算定 された実際原価は作業で生じた偶発的な原価であり, ともすると不能率を 含んでいる。 当然のことながら, 見積原価と実際原価は対照され, その差 ― 40 ― 異の発生については原因究明がなされる。 「簿記順序」 における原価計算機構は基本的には注文 (ないしは製造命 令) によって製造を開始する生産形態に用いられる個別原価計算を前提と している。 また, 製品の製造に当たっては予算としての金額を設定し, そ れと実際に生じた金額を比較している。 「明治 14 年の原価計算規定」 では, 次のように 「簿記順序」 の特徴を評 価している61)。 1. 多数帳簿制を採用したことである。 2. 価格決定, 管理および利益の正確な計算等を目的として, 原価計 算制度が実用化されたことである。 3. 原価計算も製品によって, 個別・組別・工程別に行われ, 個別原 価計算と単純または組別の総合原価計算が行われていたとみなされ る。 4. 事前計算と事後計算, この場合は見積原価計算と実際原価計算が 行なわれたことである。 5. 原価要素としての直接費と間接費の区別が確立していることであ る。 6. 原価要素としての認識は不十分であったが, 定額法 (残存価格は ゼロ) による減価償却費が, 回収されるべき費用とみなされていた ことである。 7. 建物と機械が 「興業資産費」, すなわち回収されるべき費用の前 払額として認識されていたことである。 上記の君塚先生が提示されている 「簿記順序」 の特徴は, 拙稿がこれま で論じてきたそれの評価とほぼ一致する。 1.の多数帳簿制は日本伝統の帳 簿組織であり, (必ずしも明確ではなかったが) 帳簿群は互いに連関を持 ち, 最終集計簿 (諸作業損益比較報告) で集約された。 2.についても原価 計算がもつ管理的役割を本稿でも大いに強調した。 さらに, 4.としては定 ― 41 ― 価と現費の計算, 5.としては製造費と割賦費, 6, 7.としては興業資産費 の概念と処理として, これまで論じたとおりである。 とくに 5.は本稿が 費目別計算思考の確立の根拠とした部分である。 しかしながら, 3.につい ては総合原価計算の存在を否定したい。 なぜならば, 規定は注文ごと, 製 品 (バッチ) ごとの個別原価の集計であり, 必ずしも総合原価の割り算と しての単位原価を計算する規定が存在しないからである。 「簿記順序」 では帳簿記帳を軸として現行原価計算基準に規定されてい る費目別計算, 製造間接費計算, 部門別計算, 製品別計算などの基本的な 要素について, 精粗はあるが, 何らかのかたちで規定されている。 このう ち, とくに費目別計算については 「製造原価要素が」, 「費目別に」, 「間接 費と直接費とに分けて集計される」 という費目別計算の要素が 「簿記順序」 において規定され, それまでの作業費に関する規程には存在しなかった費 目別計算思考の完成形がここに存在し, 費目別計算が確立したと言える。 したがって, 「簿記順序」 は単独の原価計算規程ではないが, 原価計算制 度のもっとも初期的な形態と評価でき, 「簿記順序」 によってわが国原価 計算制度の第一歩が標されたと考えられる。 Ⅴ おわりに 本稿で考察した 「簿記順序」 は, 原価計算制度である形式要件と内容要 件からすると, 形式要件としては必要条件である文章化および十分条件で ある条文化, 内容要件としては原価計算であるとみなすための必要条件で ある費目別計算思考の確立形態が存在している。 そこで, 「簿記順序」 は 原価計算制度の出発点であると見なすことができる。 ただし, 内容要件の 十分条件である製品別計算思考の存在については, 微妙である。 印刷局が 作業注文を起点とする個別受注生産なので, 注文品の製造に支出した製造 費用の合計である個別原価の思考は存在するが, 製品を継続的に大量見込 ― 42 ― 生産した場合のように, 総合原価を完成数量で除して算定する単位原価の 思考は存在していない。 そこで, 「簿記順序」 には製品別計算思考の完成 形態は存在していないと言える。 費目別計算と製品別計算は不可分の関係にある。 しかしながら, 当初は 予算報告書の作成や予算請求のために費目別に集計することだけが目的で あり, 何らかの目的で生じた支出を費目別に集計したり, 概算したりした。 これは費目別計算思考の萌芽として論じた62)。 このとき, 当然のことなが ら製品別計算思考は存在しない。 次の段階として, 計算対象は何らかの目 的で生じた支出ではなく, 作業場で生じた製造関係の支出に限定され, こ れが損益計算のために費目別に計算されるようになった。 これは費目別計 算思考の生成として論じた63)。 このとき, 費目別計算と製品別計算はリン クしていないが, 製品を製造した支出を費目別に計算しているので, この 時点で製品別計算思考が萌芽したと考えられる。 ゆえに, 製品別計算思考 の萌芽は製造関係支出項目の費目別集計を行うようになった時点, 費目別 計算思考の生成時点に求められる。 さらに次の段階として, 本稿の考察の ように, 製造関係の支出は費目別に直接費と間接費とに分けて計算される ようになり, これを費目別計算思考の確立形態とした。 費目別計算思考の 確立は原価要素の直接費と間接費の明確な区分の存在であり, 直接費と間 接費の区分は製品に対する集計方法の違いである。 これは製品別計算思考 の生成と考えられる。 製品別計算思考の生成は製造関係支出項目の費目別 集計を間接費と直接費とに分けて行うようになった時点, 費目別計算思考 の確立時点に求められる。 さらに, 製品別計算思考の確立は製品別の個別 原価の加算のみならず, 製品別の総合原価からの単位原価の計算の存在が そのメルクマールとなろう。 本稿で論じた 「簿記順序」 は, 本誌第 82 号および第 84 号で提示した一 連の諸規程と作業費に関する規程が形成した先行要件が原価計算たる要件 を形成し, それが原価計算制度誕生の基礎になったと考えられる。 この流 ― 43 ― れについては, 図表 11 のとおりである。 これまで, 「出納司規則書」 (明治 2 年), 「金穀出納順序」 (明治 6 年), 「各支庁経費渡方并勘定帳差出方規則」 (明治 7 年), 「経費概計表及内訳明 図表 11 原 価 計 算 制 度 誕 生 の 先 行 要 件 の 展 開 原 価 計 算 制 度 の 初 期 的 展 開 原価計算制度誕生の先行要件の形成と原価計算制度の誕生 管理思考の 嚆矢的形態 原価計算の 原初的形態 事前経費概計表 事後経費概計表 統制思考の形成 費目別集計 費目別計算思考の萌芽 形式要件 文 章 化 条 文 化 内容要件 費目別計算 部門別計算 製品別計算 ◎ ◎ △ × × 本誌第 82 号 原価計算の 原初的形態 作 業 費 費目別計算 思考の生成 本誌第 84 号 見積原価(定価)と 実際原価(現費)の 計算 製造費, 割賦費の 区分 予算統制 直接費と間接費の 区分 費目別計算思考の確立 (直接費と間接 費の分類) 製品別計算思考の生成 (個別原価の集 計) 製造間接費計算思考の萌芽 (間接費の 配賦計算) 部門費計算思考の萌芽 (部門別の計算) 形式要件 文 章 化 条 文 化 内容要件 費目別計算 部門別計算 製品別計算 形式要件 文 章 化 条 文 化 内容要件 費目別計算 部門別計算 製品別計算 製造間接費計算 本 ○ × △ ◎ ◎ ◎ △ ○ △ 凡 興業資産費, 営業費 (製造費, 割賦費) 稿 ― 44 ― 例 萌 芽 生 成 確 立 兆候がない ◎ ◎ △ ○ ◎ × 事後経費概計表は生 じた経費の認識, 記録, 集計, 報告からなる支 出記録であり, ここに は原価計算の原初的形 態が存在する。 また, 事前経費概計表は予め 支出額が概算された予 算表であり, ここには 管理思考の嚆矢的形態 を看取できる。 作業費に関する一連 の規定により, 最終的 に作業費は製造原価の 意味合いに近接し, さ らに固定資本と営業資 本に分化されたことで, 以後形成される直接費 と間接費区分の基礎が 作り上げられた。 作業費に関する規程 で形成された先行要件 は, 「簿記順序」 の基 礎的な思考となり, そ の規定の基礎となって いる。 とくに, 営業費 は製造費と割賦費に区 分された。 前者は直接 費で, 後者は間接費で ある。 「簿記順序」 に おける原価計算に関す る規定は, わが国原価 計算制度の出発点であ り, 原価計算制度の初 期的展開を画する。 細簿ヲ製スルノ順序」 (明治 8 年), 「大蔵省出納條例」 (明治 9 年), 「作業 費区分及受払例則」 (明治 9 年), 「作業費出納條例」 (明治 10 年), 「(改正) 作業費出納條例」 (明治 12 年) を通じて形成された原価計算制度誕生のた めの先行要件を考察してきた。 そして, 本稿では形成された先行要件が原 価計算規定を構成する 「簿記順序」 を原価計算制度の初期的形態と捉えた。 「簿記順序」 それ自体は単独の原価計算規程ではないが, 原価を計算する 規定を含んでいた。 これが次の段階としては, 独立の工場原価計算規程と して展開していくのであろう。 こうした工場規程は, 以後政府直営の作業 場 (鉄道局, 海軍工廠など) に看取できる64)。 「簿記順序」 のような規程の目的は作業場を効率的に運営し, 独立採算 を果たすことであった。 しかしながら, このためには収入と費用 (原価) がいくらであるかの損益計算が大きな問題となった。 そこで, 固定資本へ の投下資金や事業運営資金の処理に関する詳細な計算規程が必要とされた のであろう。 原価計算規程は損益計算のための内部の管理の要具として展 開してきている。 これが一連の論文において主張している原価計算制度の 国家会計を源流とする展開である。 これ以後, 明治 22 年には作業会計例 が設けられ, 特別会計制度が始まる65)。 さらに, 各作業場では注文品, 製 品の原価の計算を中心とする原価計算圧力が増すことになる。 そして, 次 の段階として, 工場における原価計算の単独の会計規程が登場することに なる。 この発端が 「簿記順序」 における原価計算規定であったと考えられ る。 (未完) 《注》 1) 拙稿 「原価計算制度における費目別計算思考の生成 的胎動 2 」 経営経理研究 原価計算制度の初期 第 84 号, 平成 20 年 12 月, 5593 頁。 上記拙稿は下記拙稿の続編であり, 国家会計の進展から原価計算制度の系譜 ― 45 ― 的考察を試みている。 拙稿 「原価計算制度における費目別計算思考の萌芽 的胎動 1 2) 」 経営経理研究 君塚芳郎 「明治 14 年の原価計算規定 いて 」 会計学研究 原価計算制度の初期 第 82 巻, 平成 20 年 3 月, 2961 頁。 大蔵省印刷局の 簿記順序 につ 第 4 号, 平成 2 年 12 月, 112 頁。 このうち原価計算 制度に関する論述は 79 頁。 上記論文においては大蔵省印刷局 印刷局諸規程 を明治 14 年と付してい るが, これは最初の 印刷局諸規程 が定められた年であり, 君塚先生や本稿 が用いた西川文庫の 印刷局諸規程 はその後更正されたそれである (一橋大 学附属図書館西川文庫の目録には 「印刷局諸規程:明治十五年二月更正」 とあ る)。 そこで, 本論文では明治 15 年を付した。 現時点では, 最初の 「簿記順序」 (明治 14 年) の所在は不明である。 なお, 印刷局では明治 10 年 7 月 2 日に工 場計算概則, 同年 9 月 5 日に製品代価収還規則が定められており, 本稿に関連 すると思われるが, これも参照できていない。 印刷局の沿革については, 大蔵省印刷局編 印刷局沿革録 大蔵省印刷局, 明治 36 年が詳しい。 3) 「上掲論文」, 1 頁。 4) 大蔵省印刷局 印刷局諸規程 「第三 簿記順序」 出版社 (者) 不明, 明治 15 年。 5) 得能は宇佐川秀次郎訳, Charles Hutton 著 日用簿記法:完 (出版 (者) 社不明, 1878. 1) の序, 巻之上と巻之下の合本の監修などを手掛け, 簿記会計 にはかなり精通していたと思われる。 得能に関する記述は, 下記の文献を考察 した。 渡辺盛衛編 (大蔵省印刷局刊) 得能良介君傳:全 年。 6) 大蔵省印刷局 前掲書 作業大意, 1 頁。 7) 上掲書 作業大意, 1 頁。 8) 上掲書 作業大意, 23 頁。 9) 上掲書 作業大意, 4 頁。 10) 上掲書 作業大意, 45 頁。 11) 上掲書 作業大意, 7 頁。 12) 上掲書 作業大意, 8 頁。 13) 上掲書 作業大意, 9 頁。 14) 上掲書 作業大意, 9 頁。 15) 上掲書 作業大意, 10 頁。 ― 46 ― 大蔵省印刷局, 大正 10 16) 日本―法令資料, 明治前期 (太政官時代) の法令 法規分類大全 大蔵省印 刷局達 「印刷局諸規程を更正ス」 明治 15 年 2 月 18 日, 757763 頁, 国立国会 図 書 館 , http://rnavi.ndl.go.jp/politics/entry/Japan-horei.php#Dajokan (平成 21 年 6 月 1 日取得)。 17) 上掲資料 763765 頁。 18) 上掲資料 766767 頁。 19) 上掲資料 765766 頁。 20) 大蔵省印刷局 前掲書 簿記順序緒言, 1 頁。 21) 上掲書 簿記順序緒言, 23 頁。 22) 上掲書 簿記順序緒言, 3 頁。 23) 上掲書 簿記順序緒言, 3 頁。 24) 上掲書 簿記順序緒言, 34 頁。 25) 上掲書 簿記順序緒言, 5 頁 26) 上掲書 簿記順序緒言, 5 頁。 27) 上掲書 簿記順序緒言, 5 頁。 28) 上掲書 簿記順序緒言, 5 頁。 29) 上掲書 簿記順序緒言, 56 頁。 30) 上掲書 第一章 総則, 第一條, 14 頁。 31) 上掲書 第一章 総則, 第二條―第七條, 45 頁。 32) 上掲書 簿記順序緒言, 12 頁。 33) 上掲書 第一章 総則, 第八條―第十一條, 67 頁。 34) 上掲書 第一章 総則, 第十二條―第十三條, 78 頁 35) 上掲書 第一章 総則, 第十四條―第十七條, 810 頁。 36) 上掲書 作業大意, 4 頁。 37) 上掲書 第一章 38) 上掲書 作業大意, 4 頁。 39) 上掲書 簿記順序緒言, 2 頁。 40) 上掲書 第一章 総則, 第廿八條―第三十條, 1214 頁。 41) 上掲書 第一章 総則, 第三十一條―第三十五條, 1416 頁。 42) 上掲書 第一章 総則, 第三十六條―第三十七條, 16 頁。 43) 上掲書 第一章 総則, 第三十八條―第四十三條, 1618 頁。 44) 上掲書 第一章 総則, 第四十四條―第五十三條, 1823 頁。 45) 上掲書 第一章 総則, 第五十四條―第六十六條, 2328 頁。 46) 上掲書 第一章 総則, 第六十七條―第八十一條, 2832 頁。 47) 上掲書 第一章 総則, 第八十八條―第九十五條, 3436 頁。 総則, 第十八條―第十九條, 10 頁。 ― 47 ― 48) 上掲書 第二章 製造ノ簿記, 第百十六條―第百二十四條, 4247 頁。 49) 上掲書 第二章 製造ノ簿記, 第百二十五條―第百四十二條, 4855 頁。 50) 上掲書 第二章 製造ノ簿記, 第百四十三條―第百四十四條, 5556 頁。 51) 上掲書 第二章 製造ノ簿記, 第百四十五條―第百五十四條, 5661 頁。 52) 上掲書 第二章 製造ノ簿記, 第百五十五條―第百五十九條, 6164 頁。 53) 上掲書 第二章 製造ノ簿記, 第百六十條, 64 頁。 54) 上掲書 第四章 収入金ノ簿記, 第二百四條―第二百二十九條, 92105 頁。 55) 上掲書 第六章 現費整理ノ簿記, 第二百六十三條―第二百七十條, 121 上掲書 第六章 現費整理ノ簿記, 第二百七十一條―第二百七十四條, 126 126 頁。 56) 129 頁。 57) 上掲書 第六章 現費整理ノ簿記, 第二百七十五條―第二百八十一條, 129 133 頁。 58) 上掲書 第六章 現費整理ノ簿記, 第二百八十二條―第二百八十七條, 133 137 頁。 59) 上掲書 第六章 現費整理ノ簿記, 第二百八十八條―第二百九十二條, 137 139 頁。 60) 君塚 「前掲論文」, 7 頁。 61) 「上掲論文」, 911 頁。 62) 拙稿 「原価計算制度における費目別計算思考の萌芽 的胎動 1 63) 拙稿 「原価計算制度における費目別計算思考の生成 的胎動 2 64) 原価計算制度の初期 」, 2961 頁。 原価計算制度の初期 」, 5593 頁。 拙稿 「海軍工廠の原価計算」 経理知識 第 68 号, 平成元年 6 月, 7388 頁。 拙稿 「大正 12 年 「鉄道局工場経理規定」 について」 経理知識 第 78 号, 平成 11 年 9 月, 4763 頁。 65) 金戸 武 「明治初期官営鉄道における複会計制度」 阪南論集 社会科学編 第 28 巻第 3 号, 平成 5 年 1 月, 7587 頁。 参考文献 (注に提示したものは除く) 白神主計少佐述 「海軍燃料廠作業会計ノ梗概 (孔版印刷)」 海軍燃料廠本廠, 昭 和 4 年 7 月。 世界書院, 昭和 58 年。 小林正彬 近代日本経済史:西欧化の系譜 小林正彬 経営史:企業と環境 小林正彬 政商の誕生:もうひとつの明治維新 世界書院, 平成 3 年。 ― 48 ― 東洋経済新報社, 昭和 62 年。 小林正彬 白桃書房, 平成 7 年。 政府と企業:経営史的接近 小林正彬 [ほか] 編 明治経営史 (有斐閣選書 日本経営史を学ぶ 1) 有斐閣, 昭和 51 年。 小林正彬 [ほか] 編 日本経営史を学ぶ 2) 大正・昭和経営史 (有斐閣選書 有斐閣, 昭和 51 年。 小林正彬 日本の工業化と官業払下げ:政府と企業 東洋経済新報社, 昭和 52 年。 未来社, 昭和 49 年。 高寺貞男 明治減価償却史の研究 建部宏明 日本原価計算理論形成史研究 西川孝冶郎 日本簿記史談 由井常彦責任編集 同文舘, 平成 15 年。 同文舘, 昭和 46 年。 工業化と企業者活動 (日本経営史講座 第 2 巻) 日本経済 新聞社, 昭和 51 年。 岩谷十郎 「日本法令索引 明治前期編 解説 明治太政官期法令の世界」 国立国会 図書館, 平成 19 年 1 月, http://dajokan.ndl.go.jp/SearchSys/documents/ kaisetsu/kaisetsu.pdf (平成 21 年 6 月 1 日取得)。 (原稿受付 ― 49 ― 2009 年 7 月 10 日) 経営経理研究 第 86 号 2009 年 10 月 pp. 5163 論 文〉 カーボン付加価値率に関する 会計的考察 三代川 要 正 秀 約 付加価値生産性は国民経済的観点から見ると, それが一国国民経済の再 生産につながる概念であるところから, 企業が排出した二酸化炭素量と付 加価値額を比較することは, 当該企業が産み出したプラスの生産価値とそ れを産み出すために環境犠牲を強いたマイナス価値 (二酸化炭素) との対 比による環境効率指標となる。 「環境, 社会, イノベーションのような定性でしか評価できない因子を 将来的に企業会計に包摂する方策の一つが企業価値評価システムの確立で あり」 1), 今次の 「金融市場における 環境力 評価手法研究会」 の立ち 上げでもあって, 「環境格付け指数」 の発見が求められており, 本稿はそ のための試案である。 なお, 本稿の先行研究は 「光発電による環境会計報 告書構想から」 (本誌第 81 号) に開示した。 そこでは, 複式簿記技法に温 暖化ガス排出量を併記する形で環境付加価値計算書を作成し, もって環境 マイナス貢献度と企業付加価値との対応を可能にする提案をした。 本稿に おいてはその対応関係の意義について論述するものである。 キーワード:環境会計, 付加価値, 環境付加価値計算書, 企業価値, 環境 効率 (環境格付け指数), 二酸化炭素生産性 (カーボン付加 価値率) ― 51 ― Ⅰ はじめに 1997 年に, 先進国の温室効果ガス排出量について国際的な拘束力をも つ数値目標を定めた京都議定書が採択されて以来, 地球規模での脱石油・ 脱石炭化の推進が求められている。 特に, 2008 年に洞爺湖で開催された 先進国サミットでは, 各国における推進のための工夫が紹介された。 この 一環として同年 5 月 31 日には, 東京証券取引所と経済産業省は環境保全 への貢献度が高い企業の新たな株価指数を創設する検討に入り, 翌月には 「金融市場における 環境力 評価手法研究会」 (委員長・石谷 久慶応大 学大学院教授) が発足している。 そこでの検討は法令順守などの社会的環 境に関するものもあるが, もっぱら自然環境への対応が課題とされている。 すなわち, 投資家は 「環境情報を公開している企業を対象に環境格付け をし, 社会的責任投資を選好する傾向にある。 これは株価にも影響するた めに資金調達にも関連する。 しかしながら, 個別的活動であるため公開し たものを比較することが困難であり, 広報活動についても報告書, パンフ レット, ホームページと多種多様で, 公正な判断に欠ける場合もある。 環 境投資を活発化していくためにも, わかりやすい適正な規格が不可欠であ る」 2) という。 言い尽くされてきた 「企業の社会的責任 (Corporate Social Responsibility)」 に関して, 最近, Triple Bottom Line のバランスを採ることで 企業の持続可能性 (sustainability) を探ろうとする考え方 3) が広まり始 めている。 すなわち, 企業の経済的収支だけでなく, 社会的収支と環境的 収支もプラスになるような経営が将来を勝ち抜くとされている。 そこで会 計的立場から, この環境的収支, なかんずく 「環境格付け指数」 について 考察することになるが, 従来は 「環境会計」 といいながら, そのほとんど が非貨幣的数値による抽象的企業 (価値) 評価でしかなかったといわざる ― 52 ― を得ない 4)。 本稿に先行する研究 「光発電による環境会計報告書構想から」 (本誌第 81 号) において 「環境付加価値計算書」 を提案して, これを会計学から の持続可能な社会への回答のひとつとした。 本稿はこの付加価値計算書か ら読み取れる企業の努力 (CO2 削減努力) と成果 (企業付加価値高) の分 析に基づく 「環境格付け指数」 を模索することである。 Ⅱ 環境会計の現状 現状の環境会計は, そのほとんどが環境コストとの関連で論じられてき た。 日本会計研究学会のスタディ・グループ 「環境財務会計の国際的動向 と基礎概念に関する研究」 (2008. 9. 「最終報告」) においても, 「環境財務 会計」 という言葉が環境コストと環境負債の会計処理と, その開示, さら にはこれらに対応する会計基準の紹介でしかなく, 環境測定を会計的思考 に基づいて整理し, 財務諸表形式で開示する内容のものではない。 この 「最終報告」 に携わった研究員の一人である小川哲彦は東京・大阪・名古 屋証券取引所第一部上場企業 (1,790 社) の 2007 年度有価証券報告書総覧 に掲載された環境会計情報の調査結果を公表 5) している。 この報告から要 約した環境に係る勘定科目は次のとおりであった。 財務諸表における環境会計情報一覧 (括弧の数値は開示事例数) *貸借対照表項目 固 定 資 産:使用済燃料再処理等積立金( 9 ) 流 動 負 債:貸付容器保証金( 1 ) 金( 2 ) 容器預り金( 2 ) 環境対策引当金( 7 ) 当金( 1 ) フェロシルト回収損失引 土壌改良損失引当金( 2 ) 引当金( 1 ) 環境整備引当 土壌汚染処理損失 アスベスト対策工事引当金( 2 ) ― 53 ― 固 定 負 債:PCB 処理引当金( 5 ) アスベスト対策工事引当金( 1 ) 汚染負荷量引当金( 1 ) 浄化対策引当金( 3 ) 土壌改良損失引当金( 1 ) 環境整備引当金( 2 ) 環境対策引 金属鉱業等鉱害防止引当金( 4 ) 原子力発電 当金(55) 設備解体引当金( 9 ) 金( 9 ) 使用済燃料再処理等準備引当 使用済燃料処理等引当金( 9 ) 当金( 1 ) 金( 3 ) 土壌 特定災害防止引 二輪車リサイクル引当金( 1 ) 廃鉱費用引当 パソコンリサイクル引当金( 2 ) フェロシルト 回収損失引当金( 1 ) リサイクル引当金( 3 ) 緑化対策 引当金( 1 ) 利益剰余金:地域環境対策積立金( 1 ) 社会貢献積立金( 1 ) 公害防 止積立金( 1 ) *損益計算書項目 売 上 高:作業屑売却高( 1 ) 当金繰入額( 1 ) 額( 1 ) 販売費及び一般管理費:環境対策引 パソコン回収・再資源化引当金繰入 環境管理費( 1 ) 営業外収益:環境改善設備奨励金( 1 ) 作業屑等売却益(29) 低公害 車補助金( 1 ) 営業外費用:PCB 廃棄物処分費用( 1 ) 石綿特別拠出金( 1 ) 整備費( 2 ) 環境対策費( 5 ) 土壌浄化費用( 3 ) 調査費( 1 ) 廃棄物処理費( 4 ) 環境 土壌 廃鉱費用引当金繰入 額( 2 ) 特 別 利 益:環境対策引当金戻入額( 1 ) PCB 処理費用見直し額( 1 ) 費補助金受入額( 1 ) 特 別 損 失:PCB 処理費用(15) 設備解体撤去屑売却益( 1 ) 地球温暖化防止支援事業 環境対策費用戻入額( 1 ) PCB 対策引当金繰入額( 1 ) ベスト対策工事引当金繰入額( 2 ) ― 54 ― アス アスベスト対策費 用( 8 ) 石綿疾病補償金( 4 ) 土壌汚染処理損失( 1 ) 土壌汚染処理損失引当金繰入額( 2 ) 化学物質処理損失( 2 ) 土壌調査費用(13) 過年度容器包装リサイクル費 用( 1 ) 環境安全対策引当金繰入額( 1 ) 用( 3 ) 環境事業操業停止損失( 1 ) 環境整備費( 3 ) 環境浄化損失( 1 ) 環境整備引当金繰入額( 2 ) 費(39) 環境対策引当金繰入額(24) 失( 1 ) 休止鉱山鉱害費用( 1 ) プラーナ PCB 対策費用( 1 ) 職業病解決金( 1 ) 費( 2 ) 環境対策 環境保全対策損 構造改善費用( 1 ) コ 相模原原状回復費用( 1 ) 訴 訟 関 連 損失( 1 ) 廃鉱費用引当金繰入額( 1 ) 損失( 1 ) 環境改善費 廃棄物処理 フェロシルト回収 フェロシルト回収損失引当金繰入額( 1 ) 未処分利益計算:社会貢献積立金取崩益( 1 ) *電気事業営業費用明細表 使用済燃料再処理等準備費( 5 ) 費( 9 ) 原子力発電施設解体 使用済燃料再処理等準備費( 9 ) 使用済燃料再 処理等費( 9 ) 特定放射線廃棄物処分費( 9 ) 理費(10) 廃棄物処 融通使用済再処理等準備費( 4 ) ( 最終報告 pp. 282283 参照) これらの項目名 (219 社, 延べ項目数 404 件) は, 有価証券報告書に記 載された損益計算書, 貸借対照表, 重要な会計方針, 注記, 重要な後発事 象などから蒐集したもので, 開示に当っては 「重要性」 のフィルターにか けられた項目に限られていることから, 開示に至らない項目もある。 また, 一部の会計処理は損益計算書に繰入額, 戻入額, そして貸借対照表上の負 債性引当金計上と重複することもある。 さらには, 電力・アスベスト・土 壌汚染にかかわる企業では複数の環境会計上の処理がなされていることか ら, この一覧表の項目の多さが単純に環境会計情報の開示が進んでいると ― 55 ― は判断できない。 なお, 本稿と類似する研究に, 企業の収益力と当該企業の環境汚染度な どを対比 (環境効率) した中野 薫の 「企業の社会的業績と経済的業績の 関係」 と題する海外の 41 論文を調査したものがある 6)。 これは ROE (自 己資本利益率), ROA (総資産利益率), ROS (売上高利益率), CF (キャッ シュフロー), PER (株価/利益倍率), ROI (投下資本利益率), EPS (1 株当たり利益) などの比率と社会的・環境保全的業績との関係を展開した ものであったが, 明確な相関関係を導けずに終わっている。 Ⅲ 付加価値 付加価値 (added value) とは 「企業が社会経済の生産及び分配に寄与 した額」 であって, 企業の社会的貢献指標ともされる。 総生産額からその 生産のために他の企業から購入し費消した前給付費用を差し引いた企業成 果であって, M. R. Lehmann はこれを 「創造価値」 と名づけ, また A. W. Ruker は 「生産価値」 としてきた。 この付加価値を構成するものは, ①人件費, ②租税公課, ③不動産賃借 料, ④金融費用, ⑤経常利益, ⑥減価償却費 (これを含めると 「粗付加価 値」 となる) であるが, ⑥を除く 「純付加価値」 をもって, 本稿では 「付 加価値」 とする。 付加価値を環境会計の測定に用いた研究は少ないが, その研究の一つ, 佐藤俊夫氏は 「付加価値計算書は経営活動によって創出された成果を生産 面と分配面の双方から測定・表示することにあるが, 通説による, 付加価 値計算書に若干の工夫を付すことによって, 環境情報を開示しうるととも に, 企業の社会貢献の度合を表示することができる」 7) という。 さらに 「付加価値計算書においては, 主体的要因に対する分配の状況を 開示するだけではなく, 付加価値計算書の一部を改編することによって, ― 56 ― 環境的要因に対する利害調整の度合および積極的な社会貢献の度合を開示 することができる」 8) と述べているが, 具体的な事例は示されていない。 そこで拙稿は, 環境に対する企業の努力と成果は, 自然環境へ排出した 二酸化炭素 (カーボン) 量と社会貢献量としての付加価値額の対応にある と仮定した。 物量 (排出 ton CO2 ) 表示される二酸化炭素は自然環境へ のマイナスのインパクトと考え, そして金額表示の付加価値額は企業が稼 得した社会環境へのプラスのインパクトであるから, これらを対比分析す ることで, 企業活動が環境に如何に反映しているかが判断 (環境効率) で きる。 そこで, 次の算式による生産性分析 productivity analysis (そう呼ぶ かどうかは別として) を行いたい。 この構造式が付加価値率とカーボン回 転率に分解できることから, 各比率の分析から有効な解釈ができよう。 (付加価値率) (カーボン回転率) 二酸化炭素生産性 = Ⅲ 純付加価値 二酸化炭素量 純付加価値 売 上 高 × 売 上 高 二酸化炭素量 分析結果 図表 1 企 = 業 名 自動車産業 売 上 高 税引前利益 付加価値額 二 酸 化 炭 素 量 (百万円) (百万円) (百万円) (t) カーボン 付 加 二酸化炭素 回 転 率 生 産 性 価値率 (円) (円) トヨタ自動車 12,079,246 1,580,626 2,431,552 1,360,000 8,881,812 20% 1,787,906 本田技研工業 4,088,029 353,385 679,140 464,000 8,810,407 17% 1,463,664 日産自動車 3,923,280 304,253 633,230 3,920,000 1,000,837 16% 161,538 マ ツ ダ 2,464,229 80,893 221,860 1,474,000 1,671,792 9% 150,516 ス ズ キ 2,031,639 62,726 153,809 302,000 6,727,287 8% 509,301 三菱自動車 1,903,527 20,746 127,109 334,000 5,699,183 7% 380,566 日野自動車 1,034,155 12,039 115,144 209,000 4,948,110 11% 550,928 いすゞ自動車 1,027,349 46,856 126,901 184,129 5,578,507 12% 689,196 富士重工業 1,018,820 4,065 97,991 226,549 4,497,129 10% 432,538 ― 57 ― 図表 2 企 業 名 売上高の順 売 上 高 税引前利益 付加価値額 二 酸 化 炭 素 量 (百万円) (百万円) (百万円) (t) カーボン 付 加 二酸化炭素 回 転 率 生 産 性 価値率 (円) (円) ー 4,513,121 534,482 738,682 1,824,000 2,474,298 16% 404,979 デ ン ソ ー 2,478,029 183,543 594,487 1,410,000 1,757,467 24% 421,622 日 本 電 気 2,352,622 2,049 255,378 1,290,000 1,823,738 11% 197,967 トヨタ車体 1,502,240 18,624 141,470 179,900 8,350,417 9% 786,381 豊田自動織機 1,217,526 82,720 199,300 283,433 4,295,640 16% 703,164 リ ー 1,013,228 79,585 145,576 317,120 3,267,621 14% 459,057 アイシン精機 878,996 46,306 176,717 1,120,000 784,818 20% 157,783 富士ゼロックス 846,850 58,992 157,153 171,200 4,946,554 19% 917,950 京 539,320 88,847 194,424 421,768 1,278,712 36% 460,974 ソ ニ コ セ ラ 図表 3 企 業 名 二酸化炭素生産性の順 売 上 高 税引前利益 付加価値額 二 酸 化 炭 素 量 (百万円) (百万円) (百万円) (t) カーボン 付 加 二酸化炭素 回 転 率 生 産 性 価値率 (円) (円) 積水ハウス 1,195,245 88,516 197,438 213,511 5,598,048 17% 924,721 大和ハウス工業 1,157,660 11,662 145,644 328,300 3,526,226 13% 443,631 アサヒビール 1,030,736 69,779 111,660 272,000 3,789,471 11% 410,514 サントリー 837,007 28,730 74,893 230,000 3,639,161 9% 325,621 ブリヂストン 1,052,218 132,634 229,071 862,000 1,220,670 22% 265,743 清 水 建 設 1,459,528 26,925 50,808 247,000 5,909,020 3% 205,700 凸 版 印 刷 1,022,970 36,174 151,829 1,032,044 991,208 15% 147,115 ヤマハ発 動 機 799,209 29,178 84,373 577,563 1,383,761 11% 146,084 住友電気工業 1,011,577 45,902 92,453 860,000 1,176,252 9% 107,503 住 友 化 学 933,291 29,241 85,569 4,781,000 195,208 9% 17,897 神戸製鋼所 1,283,638 89,125 191,494 16,700,000 76,865 15% 11,467 王 子 製 紙 592,577 6,319 60,619 5,764,000 102,807 10% 10,517 三菱マテリアル 922,546 41,657 88,230 9,153,000 100,791 10% 9,693 新日本製鉄 2,782,944 382,319 575,974 67,000,000 41,536 21% 8,597 ― 58 ― 図表4 企 業 名 電力業界 売 上 高 税引前利益 付加価値額 二 酸 化 炭 素 量 (百万円) (百万円) (百万円) (t) カーボン 付 加 二酸化炭素 回 転 率 生 産 性 価値率 (円) (円) 東 京 電 力 5,224,389 △265,598 251,278 97,600,000 53,528 5% 2,574 関 西 電 力 2,422,722 95,401 358,698 49,810,000 48,639 15% 7,201 中 部 電 力 2,222,182 99,650 317,926 63,780,000 34,841 14% 4,985 東 北 電 力 1,586,331 14,593 186,488 35,700,000 44,435 12% 5,224 九 州 電 力 1,392,059 60,161 219,851 31,600,000 44,053 16% 6,957 中 国 電 力 1,038,437 33,104 159,419 42,535,000 24,414 15% 3,748 この 38 社の付加価値データは EDINET に掲載される有価証券報告書 総覧から概算したもので, おおよそ 2007 年版を使用した。 付加価値計算 上の人件費は製造原価報告書が別にあるものについては, その労務費を, また, 損益計算書上に役員給与・慰労金・退職給与引当金繰入額が掲載さ れているものは各々加算した。 CO2 量は経済産業省のウエブサイト 「環境 報告書プラザ http://www.ecosearch.jp/index.html」 に掲載された地球 温暖化物質の排出量データ 2007 年度版 (地球温暖化対策推進法に基づく 排出量公表制度) を使用したが, 試案構築に重点を置いたため年度集計や 排出量と財務係数の対応は厳密なものでないことをお断りしておく。 また 上記のデータの作成には筆者のゼミナール生が参画した。 付加価値率 これは企業の産み出した創造価値額の総取引高 (総収入ないし総売上高) 比率である。 この比率が高ければ, それだけ効率のよい収益を上げ, 産み 出した付加価値による社会配分ないしは社会貢献度が高いことを示してい る。 図表 1 の自動車製造業ではトヨタの 20%, 図表 2 のグループでは京 セラ 36%, デンソー 24%などであるが, 概観からは売上の高と比例して いない。 なお, 電力業界や鉄鋼・製紙などの基幹産業では付加価値率の一 ― 59 ― 定化が顕著に見られる。 カーボン回転率 排出二酸化炭素のトン当たり (tonCO2) の総取引高 (売上高) を貨幣 表示したもので, 全体的は排出量の効率性, ないしは二酸化炭素の生産性 を示している。 この比率を環境効率として表示する社会責任報告書が多い。 自動車産業では売上金額の高い 2 社のカーボン当たりの生産性が高いが, 図 2 のランダムに抽出した製造企業では売上高に必ずしも比例していない。 カーボン回転率を企業ごとに時系列化すると二酸化炭素排出に係わる企業 努力がカーボン当たりの生産性に反映することから, 有効な指数となる。 二酸化炭素生産性 二酸化炭素トン当たりの生産量 (カーボン回転率) に付加価値率を乗じ た係数である。 これはトン当たりの付加価値額で表示される。 このことか ら二酸化炭素生産性の金額数値が高い企業は収益性も高く, かつ環境にや さしいということとなる。 多くの企業がカーボン回転率を環境効率とする なかで, 日本特殊陶業の CSR リポートがこの比率を採用している。 前出 38 社で見ると自動車産業の上位二社のほかダントツに生産性の高 いのが富士ゼロックスであった。 逆に生産性の極度に低いのは電力業界で あった。 特に, 東京電力の数値は, 中越地震にともなう刈羽原子力発電所 や福島第一・第二など計 7 基の発電機運転中止が, また中部電力にあって は静岡県御前崎の浜岡原発 2 基の長期運転停止 (平成 20 年 12 月廃炉決定) に伴う火力代替が原因と考えられる。 電力・鉄鋼・セメント・紙パルプといった基幹産業において,この生産 性と自動車産業のそれとを比較するとおおよそ 300 倍の相違 (トヨタ比) が生じている。 また, 電力業界の生産性 (6 社平均 tonCO2 当り 5,114.5 円) と家庭用 3 KW 太陽光 (年間総発電量 3,000 KW, 売電価格 60,000 円) ― 60 ― の年間 CO2 節約量 500 トンとを比較すると, 家庭用 CO2 節減 500 トン換 算 (@5,114.5×500 トン) では 2,557,250 円の付加価値となり, これを売 電価格で除すと 42.6 倍 となる。 なお, 年間一人当たりの CO2 排出量が 9.3 トンということから換算すると, 太陽光発電が節約する CO2 量は 50 人分 ともなる。 電力会社がグリーンエネルギーを買い取る利点はこの辺にある ようである。 Ⅳ まとめ 企業等を対象とする環境会計は, 環境保全コスト (貨幣単位), 環境保 全効果 (物量単位), 及び環境保全対策に伴う経済効果 (貨幣単位) を構 成要素とし, それぞれ数値及びそれを説明する記述情報で表現されるが, 「会計」 と限定する限り, 積極的に簿記機構の中で構築すべきである。 最 近の 「財務会計」 が, 特定なステークホルダーに対する有用な情報のみを 重視するあまり, 簿記機構を離れて 「ファイナンス」 化して, 管理会計と 見間違う論議に終始する傾向にある。 本稿は付加価値計算書から導いた二酸化炭素排出量とその付加価値額と の対比から環境効率 (環境格付け指標) を考察することで, 簿記機構を前 提とする 「環境会計」 の構築でもある。 なお, 二酸化炭素排出量計算には, 顧客向け電力を発電する際に発生した温暖化ガスを電力会社が排出したと みなす (直接排出) 方式と, 電力会社から電力などを購入したエネルギー の最終需要家が温暖化ガスを排出したとみなす (間接排出) 方式とがあり, また, この計算が 「使用電力量に一定の係数を掛け合わせてはじき出すた め購入先の電力会社の電源構成によって変化する」 (日経 2008. 3. 29 夕刊) ところから, 比較可能性には限界がある。 また自動車業界一つをとっても, グループ経営のあり方によって排出量に大きな相違が生じているといわざ るを得ない。 ― 61 ― 株価 (企業価値) と 1 株当たりの純資産額の乖離が叫ばれ, これを是正 すべく, 昨今貸借対照表の評価基準を取得原価から時価評価へと大転換を 余儀なくしてきた。 中村竜哉によると, 「株価から 1 株当たりの純資産を 差し引いた金額が知の評価額である。 この評価額のことを 1 株当たりのブ ランド価値, あるいはのれん価値という」 9) と述べ, そのブランドを構成 する 「知」 のことは, 当該企業が同業他社との競争に勝って生き残ってい くために, あるいは当該企業が成長していくための知 (knowledge) で ある10) とも述べる。 株価形成要因の一つとしてブランド価値を考えるとき, 本稿は環境に優 しい目安となる二酸化炭素排出量を尺度にした付加価生産性がその企業価 値を形成するものと仮定したのであるが, これを検証するまでにいたって いない。 さらに, 昨今の時価主義会計の破綻から株価が 1 株当り純資産額 を下回る現況では, ブランドとは何か, そのものが揺らいでくる。 本稿は このブランド価値と生産性の対比も検討していない。 会計不正, 不祥事, 偽装などの企業価値を毀損する事件が増え, ステー クホルダーの関心事が, 会社の業績を利益のごとく財務情報からではなく, 企業活動が及ぼす社会的影響などの非財務情報へシフトしてきた 11) のは 事実である。 だからといって, 現行の環境報告書や CSR リポートは 「貨 幣額で測定可能なものと貨幣額で測定不可能なもの区別も意識されていな く, 結果的にかなり抽象的な意味の企業価値の解釈になっているといわざ るを得ない」 12) のが現状である。 近い将来, 環境付加価値計算書とこのカー ボン付加価値率が企業評価の目安となることを願って筆を擱くものである。 《注》 1) 広瀬義州稿 「企業会計における非財務情報の役割」 雑誌 会計 No. 6, p. 9. 2) 桜井武典稿・秋山義継他著 環境経営論 ― 62 ― 創成社 (2008), p. 7. Vol. 173, 3) GRI 日本フォーラム ン GRI サスビナビリティ・リポーティングガイドライ GRI 日本フォーラム (2002) [Global Reporting Initiative, Sustaina- bility Reporting Guidelines, 2002] 4) 広瀬義州稿 「前掲論文」, p. 8. 5) 会計研究学会スタディ・グループ 「環境財務会計の国際的動向と基礎概念に 関する研究」 (最終報告) 2008 年 9 月 6) 中野 7) 佐藤俊夫稿 「付加価値計算書と環境情報の表示」 薫著 企業会計情報の評価 中央経済社 (2008) 企業と環境 税務経理協 会 (1999), p. 4. 8) 佐藤俊夫稿 「上掲論文」, p. 6. 9) 中村竜哉著 コーポレート・ファイナンス 理論と現実 白桃書房 (2008), p. 50. 10) 中村竜哉著 上掲書 p. 3. 参照。 11) 広瀬義州稿 「前掲論文」, p. 2. 12) 広瀬義州稿 「前掲論文」, p. 8. (原稿受付 ― 63 ― 2009 年 4 月 24 日) 経営経理研究 第 86 号 2009 年 10 月 pp. 6594 論 文〉 非営利組織における品質管理活動 (Ⅱ) デミング賞および日本経営品質賞の 評価基準, および地方自治体の 品質管理活動を中心にして 要 西 尾 篤 人 五 藤 寿 樹 約 戦後, ダメージを受けた日本の製造業を立て直すために品質管理が導入 された。 その目的は不良率の低減であった。 統計手法を利用して品質をコ ントロールするという統計的品質管理は, 工場を中心に展開され, 品質管 理はその有効性が認められた。 そして, 品質管理は工場の現場だけでなく 企業全体の問題 と し て と ら え ら れ る よ う に な っ た 。 全 社 的 品 質 管 理 (TQC: Total Quality Control, 総合的品質管理) である。 さらに, 品質 管理活動は財の生産過程をサービスの提供過程にも適用できることが証明 され, 製造業からサービス業に拡大していった。 この時点で品質管理は TQC から TQM (Total Quality Management) と呼ばれるようになり, 管理の問題として認識されるようになった。 近年では, 品質管理は単に 「製品やサービスの質」 の問題ではなく, そ れらを生み出す組織自体の問題としてとらえられるようになり, 企業・経 営の質, すなわち経営品質 (Quality of Management) としてとらえら れるようになった。 このような環境のもとで, 品質管理活動は非営利組織にも浸透していっ た。 アメリカにおいては, 特に教育, 行政, 医療・健康機関における活動 事例が多く紹介されている。 日本においては, 地方自治体を中心に, 革新 的な首長が品質管理を積極的に導入するようになった。 本稿は, 日本の品質管理活動の変遷を表彰制度の評価項目の変遷からと らえるとともに, 地方自治体の品質管理活動について検討したものである。 キーワード:デミング賞, マルコム・ボルドリッジ国家品質賞, 日本経営 品質賞, 行政品質賞, 評価基準 ― 65 ― 非営利組織における品質管理活動 (Ⅰ) の目次 はじめに 1. マルコム・ボルドリッジ国家品質賞 2. 米国各州の品質賞 3. 自治体の品質管理活動 ま と め はじめに 戦前の技術者運動団体であった社団法人工政会, 社団法人日本技術協会, 社団法人全日本科学技術統同会が昭和 19 年に大日本技術会となり, また この大日本技術会の事業, 資産等を継承して 1946 年には日本科学技術連 盟 (日科技連:JUSE) が設立した。 この日科技連が 1949 年に 「海外技 術調査」 の調査を委託され, そのなかの一つに前述の全日本科学技術統同 会の技術者を中心にとするファクトリマネジメント委員会が設置され, こ れが契機となり, 統計的品質管理 (SQC: Statistical Quality Control) セミナーが開催されることになった。 また。 1950 年には雑誌 「品質管理」 が創刊されている。 当初, 品質管理は製造業の現場に導入された。 その目 的は不良品の減少, すなわち不良率の低減であった。 この活動は ZD 運動 (Zero Defect 運動) へとつながった。 この段階の品質管理活動は統計的 品質管理と呼ばれ, QC 七つ道具 (QC 7) の利用など日本的品質管理はそ の特徴を大いに発揮し, 品質管理の有効性を企業に認めさせるに至った。 この時期は品質管理導入の時代であり, 生産者志向の品質管理として, 統 計的な考え方や分析等が企業における品質の維持・向上のための手法とし て活用された。 また, 1950 年に, 連合軍総司令部経済科学局 (GHQ/ ESS) により国勢調査のために来日したデミング (W. Edwards Deming) が, 日科技連の要請により品質管理セミナーを開催し, その講義録の印税 ― 66 ― を日科技連に寄付したもの等を基金として 1951 年にデミング賞が制定さ れ, 第 1 回実施賞は昭和電工株式会社, 田辺製薬株式会社, 富士製鉄株式 会社, 八幡製鉄株式会社が受賞し, 日本の品質管理における重要なエポッ クとなった。 1962 年に日科技連から 「現場と QC」 という職場向けの品質管理雑誌が 創刊された。 その創刊号で各職場における QC サークル (QCC) の設置 を呼びかけるとともに, 日科技連に QC サークル本部が設置され, 1963 年には第 1 回 QC サークル大会が開催された。 品質管理のプロセスにおけ る重要性が求められ, 現場における監督者・作業員の品質意識の自己啓発, 相互啓発を図る QC サークル活動がここに誕生したことになる。 この QC サークルは, 職場で働く者が継続的に製品・サービス・仕事等の管理・改 善を行う活動であるが, 日本における品質管理活動の国際的評価を高めた ことに貢献したとされる。 1961 年には, ファイゲンバウム (Armand V. Feigenbaum) が Total Quality Control を出版し TQC (総合的品質管理, 全社的品質管理) 概 念を創設した。 日本の品質管理活動は, 製造現場から企業の他の部門に展 開していった。 そして, 1969 年に東京で開催された品質管理国際会議の 剰余金等に拠り, 1970 年に日本品質管理賞が創設された。 この賞は, デ ミング賞実施賞等を受賞し, その後 5 年以上にわたり継続的に TQC を実 践している企業等が応募でき, TQC の特色が生かされ, その水準が維持・ 発展していると認められると評価される企業等に授与され, 第 1 回はトヨ タ自動車工業株式会社が受賞した。 企業の各部門が 「品質」 を通して, 企 業の生産性・経済性の向上に貢献していこうとする活動である。 この段階 で, 日本の品質管理は世界のトップレベルに達した。 海外からは多くの研 修ツアーが企業見学に訪れ, 日本の品質管理が世界に広がっていった。 1979 年にボーゲル (Ezra F. Vogel) の Japan As Number One: Lessons for America が出版される。 日本では, 1970 年代の不況期を克服し, 企 ― 67 ― 業の体質改善, 安定経済成長をもたらす日本的経営を支える TQC や QC サークル活動が世界で認識されるようになり, TQC 充実の時代となった。 品質管理活動の対象も業種に関しては製造業のみならず, 建築業, 流通・ 金融等サービス部門に広がりを見せている。 品質管理は, 活動対象を製造 業からサービス業にまで広げていった。 財の生産とサービスの提供の違い こそあれ, 品質管理の活動には, 業種を超えて多くの共通点が存在し, ま たその有効性も認められた。 いわゆる TQM (Total Quality Management) である。 ちなみに, 1980 年にレーガン (Ronald Wilson Reagan) が大統領選挙に勝利し, 第 40 代アメリカ合衆国大統領に就任すると, 商 務長官にボルドリッジ (Howard Malcolm Baldrige) を任命し, マルコ ム・ボルドリッジ賞設立につながった。 このように, 日本における TQC 活動が欧米等をはじめ普及し, TQM (総合的品質管理:Total Quality Management) 活動としてとらえられ ていること等から, 国際化進展の時代となり, また TQC に対するパラダ イムシフトを迎えたことになった。 この中, 後述する日本経営品質賞が 1995 年に設置された。 また, 日科技連が 1996 年に TQC を TQM に変更 し, 「従来の TQC が経営資源の活用に固執してきたのに対し, TQM では 経営の再構築, 革新にまで対象を拡大し, 経営中枢と QC 部門の合体の下 に経営施策を QC で支える役割を果たすのが TQM で, TQC が経営の一 手法であったのに対し TQM は経営そのもの」 と位置づけている。 このよ うにして, 近年では品質管理は単に 「製品やサービスの質」 の問題ではな く, それらを生み出す組織自体の問題としてとらえられるようになり, 企 業・経営の質, すなわち経営品質 (Quality of Management) としてと らえられるようになった。 このような品質管理活動の広がりは, 当然のことながら表彰制度の審査 基準にも影響を与えるようになった。 本稿は, 日本における代表的な品質賞であるデミング賞および日本経営 ― 68 ― 品質賞を中心に, 企業環境の変化に起因する審査基準の変遷を示すととも に, 地方自治体の品質管理活動について, その特徴を示したものである。 (西尾篤人・五藤寿樹) 4. デミング賞 本節では, 品質賞の先駆けとなったデミング賞の受賞企業の特徴審査項 目の変遷を通して, 日本の品質管理活動の変化を検討する。 デミング賞は, 「安かろう, 悪かろう」 で代表される戦後ダメージを受 けた日本の製造業の復活を目指して 1951 年に制定された。 デミング賞は, TQM またはそれに利用される統計的手法等に関し優れ た業績のあった者または TQM の普及に関し優れた業績のあった者に授与 される 「本賞」, TQM を実施してその年度において顕著な業績の向上が 認められる企業または企業の事業所を表彰する 「実施賞」, TQM を指向 し, それに基づいて品質管理を実施してその年度において顕著な業績の向 上が認められる企業の事業所を表彰する 「事業所表彰」 から成っている。 デミング賞は, 世界における品質賞のモデルとしての位置付けを維持し ながら, 長い間その評価項目を変えずに運営されてきた。 しかし, 品質管 理の適用領域の拡大, すなわち SQC から TQC (TQM) への移行や ISO 9000 の導入によって, 評価項目に大幅な検討が加えられた。 1993 年改訂版の評価項目は以下の通りである。 この評価項目はデミン グ賞が制定されて以来, 基本的な形が維持されてきたものである。 1. 方 針 2. 組織とその運営 3. 教育・普及 4. 情報の収集・伝達とその活用 ― 69 ― 5. 解 析 6. 標準化 7. 管 理 8. 品質保証 9. 効 果 10. 将来計画 評価項目は, 1999 年改訂版では以下のように変更された1), 2)。 1. 品質マネジメントに関する経営方針とその展開 (20 ポイント) 2. 新商品の開発及び/又は業務の改善 (20 ポイント) 3. 商品品質及び業務の質の管理と改善 (20 ポイント) 4. 品質・量・納期・原価・安全・環境などの管理システムの整備 (10 ポイント) 5. 品質情報の収集・分析と IT (情報技術) の活用 (15 ポイント) 6. 人材の能力開発 (15 ポイント) これらの基本項目の関連は図 41 の通りである。 これらの項目は, 目的を達成するために有効であること (有効性), 組 織的に一貫して矛盾がないこと (一貫性), 中長期的観点から継続性があ ること (継続性), そして関係部門で徹底して実施されていること (徹底 性) という 4 つの評価軸で総合的に評価される。 さらに, 審査の視点としては以下の 10 項目があげられている。 1. 経営トップのリーダーシップ, ビジョン・戦略 2. TQM における管理システム 3. 品質保証システム ― 70 ― 1. 経営方針と その展開 20 点 2. 商品開発・ 業務の改革 3. 商品品質及び 業務の質の 管理と改善 20 点 20 点 5. 品質情報の 収集・分析 と IT の活用 15 点 6. 人材の能力 開発 15 点 4. 管理システムの整備 10 点 品質中核システム 50 点 出典:「デミング賞のしおり」 日本科学技術連盟, 2008 年, p. 13. 図 41 デミング賞実施賞審査の基本事項の関連と配点 4. 経営要素別管理システム 5. 人材の育成 6. 情報の活用 7. TQM の考え方・価値観 8. 科学的手法 9. 組織力 (コア技術・スピード・活力) 10. 企業目的の達成への貢献 1∼8 は TQM のフレームワークを構築するものであり 9・10 は TQM の目的を示している。 資料 1 は, 2008 年までのデミング賞受賞者および受賞企業である。 延 ― 71 ― べ 197 社が受賞している。 その内, 実施賞は国内企業 122 社, 海外企業 32 社, 中小企業賞 38 社である。 なお, 1995 年より実施賞中小企業賞および 実施賞事業部賞は実施賞に一本化されている。 受賞企業を見ると, 製造業が対象であることが分かる。 また, 近年の受 賞企業は海外企業が圧倒的に多くなっている。 このことは, 日本の製造企 業の品質管理レベルは, 既にデミング賞の評価項目を超えた段階であるこ とを示している。 したがって, デミング賞では近年の品質管理活動内容を包括することが 出来ず, 新たな品質賞の要求が出てきた。 ここに登場したのが日本経営品 質賞である。 (西尾篤人) 5. 日本経営品質賞 日本経営品質賞は, 1987 年に創設された米国のマルコム・ボルドリッ ジ賞を基本として創設された表彰制度である。 経営品質とは, 企業経営が 社会的責任を果たすと共に, 顧客の視点から運営され, 適正利益を確保し つつ, 新たな価値 (社会価値と顧客価値) を創出し続ける仕組みの達成度 である。 また, 日本経営品質賞の考え方を用いて, 経営品質向上プログラ ムが作られている。 これは, 経営革新を実現するための施策であり, セル フアセスメント (自己評価) の考え方による経営革新プログラムである。 本章では, この日本経営品質賞について記述する。 51 日本経営品質賞 前述の通り, マルコム・ボルドリッジ賞は日本における品質管理を学習 し, かつそれを乗り越えることに拠り, 1990 年代に米国経済の復活を遂 げることに貢献した。 しかし日本では 「失われた 10 年」 と呼ばれる時代 ― 72 ― に入ることになる。 このような中, マルコム・ボルドリッジ賞に範を得た 日本経営品質賞が設立されることになる。 日本経営品質賞は, 岡本 (2003)3), 社会経済生産性本部 (2007)4) によ ると, 1993 年に顧客満足で経営成果がどのように高まるかということを 問題とする, 私的な研究会から始まったとされている。 そこでは, 顧客価 値を中心にして経営を評価するというマルコム・ボルドリッジ賞について 研究することから始まった。 さらに, この研究会が発展し, 1994 年に 「CS フォーラム 21」 が社会経済生産性本部に事務局を置き本格的に研 究を開始したとされている。 そのなかで, 評価制度研究と評価基準研究と いう二つの部会が設置され, その成果が 「顧客価値経営賞」 として公表さ れた。 また, 1995 年には, 表彰制度と審査委員制度について検討され, 同年 12 月に 「日本経営品質賞」 が始まることになる。 さらに, 1996 年 6 月に経営品質協議会が設立され, 経営品質の考え方を普及・推進活動をし ている。 この日本経営品質賞の最初の表彰にあたる 1996 年度日本経営品質賞に 対して, 1996 年 4 月に 6 社の申請があり, 日本電気株式会社半導体事業 グループが最初の受賞組織となり, 1997 年 2 月に表彰が行われた。 この 1996 年度日本経営品質賞のフレームワークは図 52 の通りで, こ の年のマルコム・ボルドリッジ賞が図 51 である。 岡本 (2003) が述べる ようにマルコム・ボルドリッジ賞の翻訳から始まった日本経営品質賞であ ることから当然の結果である。 しかし, カテゴリーの項目がマルコム・ボ ルドリッジ賞の 7 項目に対して日本経営品質賞は 8 項目である。 つまり, ドライバーとしてのリーダーシップ, ゴールとしての顧客満足と事業の成 果はほぼ同じであるが, システムとして顧客関係マネジメントが 1 項目増 えている。 この点について, 1996 年度マルコム・ボルドリッジ賞審査項目を表 51 に, 1996 年度日本経営品質賞審査項目を表 52 に示すが, 顧客関係マネ ― 73 ― プロセス マネジメント 5.0 140 人材開発 マネジメント 4.0 140 リーダー シップ 1.0 90 戦略計画 3.0 55 情報と分析 2.0 75 顧客重視と 顧客満足 7.0 250 ビジネス成果 6.0 250 出典:高梨智弘 「経営品質革命」 東洋経済新報社, 1996. 図 51 マルコム・ボルドリッジ賞フレームワーク 顧客関係 マネジメント 6.0 100 プロセス マネジメント 5.0 130 学習 マネジメント 4.0 130 リーダー シップ 1.0 100 戦略立案 マネジメント 3.0 60 機能共有化と 活用 2.0 80 顧客価値の 創造 8.0 200 事業活動の 成果 7.0 出典:経営品質協議会 http://www.jqac.com/ 図 52 1996 年度日本経営品質賞フレームワーク ― 74 ― 200 表 51 1.0 2.0 上級経営幹部のリーダーシップ リーダーシップ・システムと組織 企業の社会的責任と企業の市民性 3.0 情報とデータの管理 競争比較とベンチマーキング 企業レベルでのデータの分析と活用 4.0 35 20 戦略の策定 戦略の実行 140 人的資源の開発と管理 4.1 4.2 4.3 4.4 5.0 人的資源計画と評価 好業績がもたらす業務システム 社員の教育・訓練及び育成 社員の福利厚生と満足度 6.0 製品・サービスの設計と導入 プロセス管理:製品・サービスの生産と提供 プロセス管理:支援サービス 取引業者の実績管理 製品・サービスの品質結果 企業の業績と財務実績 取引企業の実績 75 130 45 250 顧客志向と満足度 顧客と市場についての知識 顧客関係管理 顧客満足の判断 顧客満足度の成果 顧客満足度の市場での比較 合 40 40 30 30 250 ビジネスの成果 6.1 6.2 6.3 20 45 50 25 140 プロセス・マネジメント 5.1 5.2 5.3 5.4 20 15 40 55 戦略計画 3.1 3.2 45 25 20 75 情報収集と分析 2.1 2.2 2.3 7.1 7.2 7.3 7.4 7.5 90 リーダーシップ 1.1 1.2 1.3 7.0 マルコム・ボルドリッジ賞審査項目 (1996 年) 計 点 数 出典:高梨智弘 「経営品質革命」 東洋経済新報社, 1996. ― 75 ― 30 30 30 100 60 1,000 表 52 1.0 2.0 社会的責任 リーダーシップ発揮のしくみ リーダーシップの実践 3.0 情報・データの選択・管理 競争比較とベンチマーキング 共有情報・データの分析と活用 4.0 4.1 4.2 4.3 4.4 5.0 戦略策定 戦略の展開 30 30 学習マネジメント 130 人材計画の立案と評価 学習促進の社員参画と評価の環境づくり 社員の教育・訓練・自己啓発 社員の福利厚生と満足度 6.0 6.1 6.2 6.3 7.0 製品・サービスの企画と設計 製品・サービスの生産・販売プロセス 支援サービスのプロセス 供給会社の能力向上 35 35 35 25 顧客関係マネジメント 100 顧客と市場の知識 顧客との対応 顧客満足の把握 40 30 30 200 企業活動の成果 7.1 7.2 7.3 7.4 40 30 30 30 130 プロセス・マネジメント 5.1 5.2 5.3 5.4 20 40 20 60 戦略立案マネジメント 3.1 3.2 40 30 30 80 情報共有と活用 2.1 2.2 2.3 8.1 8.2 100 リーダーシップ 1.1 1.2 1.3 8.0 1996 年度日本経営品質賞審査項目 40 40 80 40 社会的責任の成果 学習マネジメントの成果 クオリティの成果 事業の成果 200 顧客志向と満足度 顧客満足度の成果 顧客満足度の市場での比較 合 計 点 数 出典:経営品質協議会 http://www.jqac.com/ ― 76 ― 100 100 1,000 ジメントの項目では, 顧客と市場の知識, 顧客との対応, 顧客満足の把握 の審査項目がある。 岡本 (2003) は, 日本経営品質賞設置の過程で, 前述 の私的研究会は 「1993 年の春, 顧客満足の表層的なブームが終息の兆し を見せている頃, より本質的な顧客満足志向へと経営革新ができないもの かという問題意識を持った少数の集まりから始まった」 と記述している。 田中 (1999)5) は, 顧客満足ブームの終焉について 「顧客満足運動の典型 として表向きの従業員の接客態度の改善を図ったり, お仕着せとも思われ る企業側の都合を考えた顧客アンケートを実施する等, 形式に走り結果的 には成果が上がらず, 業績向上に結びつかず終わってしまったものが多い」 と記述しているが, 形式的な顧客満足から本質的な転換への過渡期にあっ たと考えられる。 日本経営品質賞は, 2008 年 11 月現在までの 13 年間に 162 組織が申請 し, 24 組織が受賞している。 その受賞対象・審査方法は, まず申請企業・ 組織が受賞申請を行うことから始まるが, 申請対象は, 大規模部門 (社員・ 職員数 300 人超), 中小規模部門, 地方自治体部門 (2002 年度より開始) の 3 つに区分されている。 また, 審査基準は, 基本理念の 4 要素 (①顧客 本位:顧客価値の創造, 顧客の価値評価がすべてに優先する, ②独自能力: 他組織とは異なる見方, 考え方, 方法による価値実現, ③社員重視:1 人 ひとりの尊厳を守り, 独創性と知識創造による組織経営, ④社会との調和: 社会に貢献し, 社会価値と調和する) と, 7 つの重視する考え方 (①顧客 から見たクオリティ, ②リーダーシップ, ③プロセス志向, ④対話による 「知」 の創造, ⑤スピード, ⑥パートナーシップ, ⑦フェアネス) に基づ き, 以下の図 54 に示すフレームワークの 8 つの領域 (①経営幹部のリー ダーシップ, ②経営における社会的責任, ③顧客・市場の理解と対応, ④ 戦略策定と展開, ⑤個人と組織の能力向上, ⑥顧客価値創造のプロセス, ⑦情報マネジメント, ⑧活動結果), 20 の審査項目 (表 54 参照) から構 成されている。 ― 77 ― Organizational Profile: Environment, Relationships, and Challenges 2 Strategic Planning 5 Workforce Focus 1 Leadership 7 Results 3 Customer and Market Focus 6 Process Management 4 Measurement, Analysis, and Knowledge Management 出典:National Institute of Standards and Technology 「Baldrige National Quality Program 説明資料」 www.quality.nist.gov/ 図 53 2008 年度マルコム・ボルドリッジ賞フレームワーク 組織プロフィール 3. 顧客・市場の理解と対応 (100) 方向性と推進力 1. 経営幹部のリーダー シップ (120) 業務システム 4. 戦略の策定と展開 (60) 5. 個人と組織の能力 向上 (100) 2. 経営における 社会的責任 (50) 結果 8. 活動結果 (400) 6. 顧客価値創造の プロセス (120) 7. 情報マネジメント (50) 出典:経営品質協議会 「経営品質向上プログラム https://www.jqac.com/ 図 54 アセスメント基準 2008 年度日本経営品質賞フレームワーク ― 78 ― 導入説明資料」 表 53 1.0 2.0 3.0 3.1 3.2 3.3 4.0 経営幹部の役割とリーダーシップ 意思決定による合意の仕組み 50 社会要請への対応 社会貢献 30 20 顧客・市場の理解と対応 110 顧客・市場の理解 顧客との信頼関係 顧客満足の明確化 50 30 30 60 戦略の策定と展開 4.1 4.2 戦略の策定と形成 戦略の展開 30 30 個人と組織の能力向上 100 組織的能力 社員の能力開発 社員満足 40 30 30 価値創造のプロセス 100 5.0 5.1 5.2 5.3 6.0 6.1 6.2 6.3 7.0 基幹プロセス 支援プロセスと新事業プロセス ビジネスパートナーとの協力関係 40 30 30 60 情報マネジメント 7.1 7.2 7.3 100 20 経営における社会的責任 2.1 2.2 8.1 8.2 8.3 8.4 8.5 120 リーダーシップと意思決定 1.1 1.2 8.0 2008 年度日本経営品質賞審査項目 経営情報の把握と分析 競合比較とベンチマーキング 情報システムのマネジメント 20 20 20 400 活動結果 リーダーシップと社会的責任の結果 個人と組織の能力向上の結果 プロセスの結果 財務の結果 顧客満足の結果 合 計 点 数 出典:経営品質協議会資料 https://www.jqac.com/ ― 79 ― 60 60 80 100 100 1,000 申請企業・組織は, この基準に基づく 「申請書」 を作成し, 日本経営品 質賞委員会に提出する。 審査は, 日本経営品質賞委員会から任命された審 査チーム (5 名程度) が担当し, 3 段階 (個別書類審査, 合議審査, 現地 審査) にわたって審査する。 この後, 日本経営品質賞委員会において 「経 営革新を進めるモデルとしてふさわしい」 と判断された組織に日本経営品 質賞の受賞が決定されるわけである。 なお, 岡本 (2003) が 「アメリカ企業と日本企業の違い, 日米の環境や 文化の違いなどを考慮して, 日本独自の発展を遂げてきた」 と述べるよう に, 以下の図 53 の 2008 年度マルコム・ボルドリッジ賞フレームワーク と, 図 54 の 2008 年度日本経営品質賞フレームワークはかなり違うもの になってきている。 52 地方自治体の経営品質支援活動 前述の日本経営品質賞に対して, 受賞を目的とするのではなく, 「経営 品質向上プログラム」 のセルフアセスメントという形で, 自らの組織の経 営品質を見直すことが, 多くの企業や自治体で取組まれている。 また, 日 本における地方での経営品質支援活動としては, 経営品質向上により地域 の活性化を行うために, 地方自治体を中心に地域別の経営品質協議会が設 立されている。 この地域経営品質協議会では, 表 54 に示すように地域経 営品質賞を設置して地域企業等の活性化につとめている。 また, 自治体自体が経営品質に取り組んでいる組織も増加している。 社 会経済生産性本部を活用した取組としては, 都道府県としては, 岩手県, 茨城県, 福井県, 岐阜県, 三重県, 高知県が, また市町村としては, 滝沢 村, 三鷹市, 横浜市, 鯖江市, 松阪市, 神戸市がある。 なお, 滝沢村は 2006 年度の日本経営品質賞を受賞しているのは前述の通りである。 (五藤寿樹) ― 80 ― 表 54 地域における経営品質支援活動 (2008 年 11 月現在) 地域経営品質賞 設置年 地域経営品質向上活動組織 設置年 岩手県経営品質賞 2000 岩手県経営品質協議会 1999 会津若松経営品質賞 2001 会津若松経営品質協議会 2001 栃木県経営品質賞 2000 栃木県経営品質協議会 1999 茨城県経営品質賞 2001 茨城県経営品質協議会 2000 埼玉県経営品質賞 2004 埼玉県経営品質協議会 2003 千葉県経営品質賞 2000 千葉県経営品質協議会 1999 板橋区経営品質賞 1997 板橋区産業経済部産業振興課 新潟県経営品質賞 1999 新潟県経営品質協議会 1998 福井県経営品質賞 1999 福井県経営品質協議会 1998 三重県経営品質賞 2001 三重県経営品質協議会 2001 ひょうご経営革新賞 2001 兵庫県産業労働部経営支援課 中国経営品質賞 2004 中国経営品質協議会 2000 徳島県経営品質賞 2004 徳島県経営品質協議会 2003 長崎県経営品質賞 2002 長崎県経営品質協議会 2001 鹿児島県経営品質賞 2005 鹿児島県経営品質協議会 2003 − − 出典:社会経済生産性本部 http://activity.jpc-sed.or.jp/ 6. 日本の地方自治体における経営品質活動 本章では, 日本における経営品質活動について記述する。 前章の 52 で 述べたように, 日本の自治体において経営品質に取り組み, また地域での 活性化のために経営品質について地域経営品質協議会等を設置する例が多 くある。 これらの運動は, 基本的に日本の自治体における行政評価の一環 として行われてきていると考えられる。 本章ではこの行政評価制度におけ る経営品質について解明するものである。 61 地方自治体における行政評価について 河音 (2002)6) が指摘するように, 「行政評価は, 1980 年代以降推進さ れてきた地方行政改革の反省と発展という見地から自治省による提起から ― 81 ― 45.0 800 40.0 700 35.0 600 300 30.0 導 25.0 入 率 20.0 % 15.0 200 10.0 100 5.0 500 400 ( ) 導 入 団 体 数 900 0 H 14 H 15 H 16 H 17 H 18 0.0 H 19 (年度) 出典:総務省 (2008), 「平成 19 年度の地方公共団体における行政評価の取組状況」 図 61 行政評価導入率 (都道府県・市町村) の推移 (平成 19 年 10 月) 始まった」。 つまり, 「地方公共団体における行政改革の推進のための指針」 (自治省 (1994)) では, 行政改革のあり方を 「簡素で効率的な行政改革を 進める上で重要な要素である」 としつつも, 「社会経済情勢の変化に対応 するとともに, 来るべき地方分権の時代にふさわしい行政運営をはかって いくこと, 地方公共団体の役割が増大して行く中で, 住民の期待と信頼に 応えながら活力に満ちた魅力ある地域社会を作り上げて行くこと等の要請 に地方公共団体が応えて行くための言わば “前向き” の行革あるいは時代 に即応した行政システムの “再構築”」 としており, 行政改革を新たな課 題から位置づけることを提起した。 このような中, 1995 年に三重県にお いて事務事業評価を中心とした取り組み, 1997 年には北海道における 「時のアセスメント」, 静岡県の 「業務棚卸表」 の作成等が行われた。 図 61 に示すように, 平成 19 年現在, 746 団体 (40.9%) が行政評価を 導入している。 この内, 都道府県では, 98%の団体が, 政令指定都市では 全団体が, 中核市では 91%の団体が, 特例市では 95%の団体が, 市区で は 59%の団体が, 町村では 20%の団体が取り組んでいる。 行政評価を総務省では, 「政策, 施策, 事務事業について, 事前, 事中, ― 82 ― 事後を問わず, 一定の基準, 指標をもって, 妥当性, 達成度や成果を判定 するものをいう」 としている。 このような行政評価における手法としては, 1980 年代以降, イギリスやニュージーランド等で実践されてきた, NPM (New Public Management) 理論によるものである。 河音 (2002) は, 行政評価の特徴を, ① 「住民第一主義」 の理念, ②行 政活動へのマネジメントサイクルの導入, ③行政活動の結果・成果の定期 的計測, ④成果 (アウトカム) 志向の行政評価, ⑤実用的評価の五つであ ると指摘している。 この特徴は, 明らかに経営品質の行政への適用であり, 行政経営品質といえる。 つまり, ①住民第一主義とは顧客志向ということ であり, ②マネジメントサイクルは品質における伝統的な手法であり, ③ 行政活動の結果・成果の定期的計測, ④成果 (アウトカム) 志向の行政評 価, ⑤実用的評価も行政経営品質で当然行われる内容である。 最後に, 行政経営品質賞のフレームワークを図 62 に示すことにする。 2. 市民の要望・期待の理解と対応 (150) 3. 経営戦略の策定 と展開 (80) 1. 経営ビジョンと リーダーシップ (170) 4. 人材開発と 学習環境 (110) 5. 業務プロセスの 管理 (110) 7. 取り組みの 成果 (200) 8. 市民満足・ 不満足 (100) 6. 情報の共有化と活用 (80) 出典:経営品質協議会 https://www.jqac.com/ 図 62 日本経営品質賞行政経営品質賞フレームワーク ― 83 ― 62 地方自治体における行政経営品質について 世界的な行政改革の流れのなか, 日本の地方自治体においても経営品質 活動が行われるようになっている。 また, 前節で記述した行政評価の一環 としても行政経営品質の手法が用いられている。 この行政経営品質は, 住 民満足の視点から行政システムの仕組みを見直し, 継続的な改善活動を通 じて行政全体の品質を高め, 住民本位の行政への質的転換を促進する行政 改革の方法とされ, また行政評価の一環としても行政経営品質が活用され ている。 先進的な事例としては, 三重県, 高知県, 三鷹市, 滝沢村等があり, 本 節では, 各自治体の行政評価, 経営品質活動について概説する。 三重県では, 1995 年に北川正恭知事が就任することにより改革が始ま ることになる。 北川知事就任直後に, オズボーン (David Osborne) の 「行政革命」 をテキストに幹部職員と研究会を行ったとされている。 そし て, 1996 年に前述の事務事業評価システムに取り組んでいる。 1997 年に は新しい総合計画を発表し, 三重のくにづくり宣言を行っている。 1998 年には行政システム改革を行い, 住民満足度向上, 職員自身の 「自発的・ 創造的な改革」, 行政品質診断基準による総点検が行われた。 1999 年には 日本経営品質賞診断基準による点検が行われている。 2001 年には政策推 進システム, 三重評価システムを導入した。 2002 年には米国経営品質事 情調査が行われ, 米国フロリダ州ジャクソンビル等先進自治体の経営品質 事情を調査している。 2003 年には野呂昭彦知事が就任する。 ちなみに前 述の米国経営品質事情調査団の団長は松阪市長であった野呂昭彦氏であり, 松阪市が行政経営品質の手法を取り入れたときの市長である。 そして, 野 呂知事のもと, 三重県行政経営体系を確立したことになる。 高知県では, 1995 年に橋本大二郎知事が就任することにより改革が始 ― 84 ― まることになる。 1998 年には行政システム改革室を設置して, 日本経営 品質賞を運営する社会経済生産性本部と経営品質について共同研究を行っ ている。 そして, それにより高知県の行政システム改革が行われることに なる。 2000 年には行政経営品質を本格導入して, 庁内アセッサーを設置 している。 三鷹市では, 1981 年に就任した安田養次郎市長が, 1999 年に三鷹市行 政経営品質評価基準を設定し, 2000 年よりアセスメント結果報告書を発 行している。 また, それにより 2002 年から事務事業評価を行っている。 滝沢村では, 1994 年に就任した柳村純一村長が, 2000 年に ISO14001, 9001 を同時取得した機会に経営品質に取り組み, 2004 年に岩手県経営品 質賞を受賞し, 2006 年には日本経営品質賞を受賞している。 このように, 先進的自治体において行政経営品質を用いて行政改革が行 われ, またその手法を用いて行政評価が行われていると言える。 しかし, これらの自治体で特徴的なのは改革首長 (知事や市長) の存在である。 富 士ゼロックス株式会社の元代表取締役専務であった土屋 (2006)7) は, 「米 国経営者のような現状を打破して新たな経営創出を目指し組織変革に果敢 に立ち向かう経営者が, 品質管理プログラムからあまり生まれない」 と述 べ, 「日本では, 組織変革に対する考え方や方法を積極的に模索し自ら変 革を実現しようとする経営者より, 経営品質プログラムの形式的な利用や 経営品質プログラムの活用を部下に任せた活動と認識する経営者を作って しまったのが, 現実ではないかと危惧している」 と述べるとともに, 経営 品質プログラムの改革を提言している。 確かに, 日本においては経営品質による経営改革を行った経営者の顔が 見えてこない傾向がある。 それに対して, 前述の自治体の経営品質活動に おいては, その首長の役割が大きく, 日本における行政経営品質の特徴と いえる。 これは, 日本における地方自治体は自治体とは名ばかりであり, ― 85 ― 自治体の施策が国の施策をただ追随することだけ行ってきた歴史が長く, それで足りているとの認識が自治体職員に定着している。 今後行政経営品 質の考えが浸透することでこのような思考が払拭されることが期待できる。 63 地方自治体における行政経営品質の問題点 本節では, 日本における地方自治体の経営品質についての問題点を顧客 志向について述べることにする。 経営品質の第一義は顧客志向である。 これは NPM 理論においても同様 である。 しかし, 日本の自治体は前節で述べたように, 国の施策とおり実 施するのみであり, 住民の意思が反映されにくい体質となっていた。 また, 大谷 (2000)8) が述べるように, 企業においては商品やサービスの販売は その付加価値を含めて顧客が支払う代金と対価の関係にあるが, 行政にお いては行政サービスの提供が住民の支払う税金と対価関係がない。 よって 顧客関係が企業とは明らかに異なることを主張し, 米国における GPRA (Government Performance and Results Act:政府の業績及び成果に関 する法律) に注目している。 石原 (2003)9) は, 「顧客がすべての住民を意味するのではないという点 が重要である。 これからの自治体が行政サービスを提供する対象として意 識すべき顧客は, 自らが主体的にその自治体で生活を営んで行こうとする 生活者でなければならない」 と主張している。 これは, 元三重県知事であっ た北川 (2000)10) の主張と同様である。 ここで, 日本における地方自治体の顧客としての住民について検討して みたい。 自治体としての顧客としての住民は, 筆者の勤務する大学におけ る顧客と学生の関係と類似的である。 大学での顧客は学生であろうか, も しくは学費を支払う保護者であろうか。 もちろん学生自身が学費を稼ぎ支 払う場合もある。 仮に学生が顧客としても, 学生には不本意入学者もおり, また学習意欲の低い者もいる (もちろんこれらの学生は自ら学費を稼ぎ大 ― 86 ― 学に支払っていることはないと考えられる)。 これらの不本意入学者や学 習意欲の低い者は顧客とはいい難いのではないだろうか。 そもそも, 守屋 (2004)21) が指摘するように, 「顧客は確かに買い手であるが, ひいき (ひ いき客) という意味合いを内包するので, 単なる買い手とは異なる意味内 容を有する」 わけである。 石原 (2003) や北川 (2000) の主張はこの点に あり, 「自らが主体的にその自治体で生活を営んで行こうとする生活者」, 「自らが主体的にその大学で勉学に励んで行こうとする学生」 ということ になる。 しかし, 現代の大学では, これらの不本意入学者や学習意欲の低 い者に対しては, 指導・支援を行い正規学生 (正規の顧客) の域に高める 努力をしている。 大学と類似で, 住民にも不本意住民や住民意識の低い者 もいるわけである。 日本においてはティボー (Charles M. Tiebout) の 「足による投票」 (住民が行政サービスを比較して望ましい行政地区に移住 すること) がおきにくい, このことから日本の自治体においても大学のよ うに, 支援を行い正規住民 (正規の顧客) の域に高める努力を行うことが 必要であると考える。 日本の自治体における行政経営品質の活動は始まったところである。 今 後においてその活動を遂行することに対しては課題が山積することと思わ れる。 行政担当者の果敢なチャレンジに期待したい。 (五藤寿樹) ま と め 品質管理活動は, 企業を取り巻く経済・社会環境によって影響を受けて きた。 それは, 品質賞の評価基準の変遷, あるいは新たに制定された品質 賞を見ることによって理解できる。 非営利組織, 特に自治体における品質管理活動は始まったばかりである。 自治体の品質管理には 2 つの局面がある。 1 つは自治体自身の品質管理, ― 87 ― すなわち自治体の業務改善などである。 これには, 応答時間の短縮, 業務 の正確性などに見られる内部活動と, 公園管理, 自治体の運営する図書館 管理, 警察, 消防などの外郭組織における品質管理活動がある。 更に, 自 治体の品質管理支援活動がある。 これは, 民間企業が品質管理活動を導入 する際の支援が含まれる。 これらの支援には, コンサルタントの紹介, ISO9000 認証取得のための人的支援および財政的支援など, が考えられる。 後者に関しては, 日米において十分な実態調査は行われていない。 今後の 研究課題としては, アメリカのマルコム・ボルドリッジ国家品質賞と各州 の品質システムの関係, 自治体における品質管理活動の実態調査を中心に 行う所存である。 (西尾篤人) 参考文献 1) 西尾篤人 (2000), “A New Quality Award System in Japan: A Comparative Study on Japanese Quality Award System,” Pan-Pacific Conference Procceding, pp. 211213. 2) 西尾篤人 (1995), “Quality Control Circle Activities: A Comparative Study of the Deming Prize and the Baldrige Award,” Pan-Pacific Conference Procceding, pp. 427429. 3) 岡本正耿 (2003), 「経営品質の歴史と理論体系」, 経営品質の理論 , 生産 性出版 4) 社会経済生産性本部 (2007), 5) 田中宏 (1999), 「メガ・コンペティションを生き抜く経営システムの革新 日本経営品質賞とは何か , 生産性出版 TQM 時代の 「経営品質」 の在り方と実践」, 四国大学経営情報研究所年 報 , Vol. 6, pp. 3143. 6) 河音琢郎 (2002), 「和歌山県下市町村の行政評価システムの導入実態と今後 の方向性に関する調査研究」, 地域研究シリーズ (和歌山大学), Vol. 23, pp. 122. 7) 土屋元彦 (2006), 「実務家からの経営品質活動への期待」, 日本経営品質学 会誌 , Vol. 1, No. 1, pp. 1925. 8) 大谷美咲 (2000), 「行政評価の意義と今後の方向性について」, ― 88 ― 九州共立大 学経済学部紀要 , Vol. 36, pp. 113. 大谷美咲 (2001), 「行政評価の意義と今後の方向性について 2」, 九州共立 大学経済学部紀要 , Vol. 38, pp. 113. 9) 石原俊彦 (2003), 「地方自治体における行政評価の基礎」, 研論集 10) 関西学院大学産 30 号, pp. 1328. 北川正恭 (2000), 「デジタルコミュニティズの実現に向けて」, 日本社会情 報学会学会誌, Vol. 12, No.1, pp. 514. 11) 上山信一, 伊関友伸 (2003), 自治体再生戦略 行政評価と経営改革 ,日 本評論社 12) 佐々木晴夫 (2002), 「政策・行政評価の方法と意義」, 総合政策論集, 第 2 巻第 1 号, pp. 6774. 13) 佐藤隆 (2005), 「マネジメント理論とアカンタビリティに基づく地方公共団 体の行政改革について」, 14) 神奈川法学 第 38 巻第 1 号, pp. 4976. 佐藤隆 (2006), 「マネジメント理論とアカンタビリティに基づく地方公共団 体の行政改革について( 3 )」, 15) 神奈川法学 第 39 巻第 2・3 号, pp. 123173. 佐藤隆 (2006), 「マネジメント理論とアカンタビリティに基づく地方公共団 体の行政改革について( 2 )」, 16) 第 39 巻第 1 号, pp. 67103. 神奈川法学 田中啓 (2006), 「自治体における行政評価の実践とその結果」, 静岡文化芸 術大学研究紀要 , Vol. 7, pp. 3752. 17) 日科技連五十年史編集委員会 (1997), 財団法人日本科学技術連盟創立五十 年史 , 日本科学技術連盟 18) 平岡直人, 若山浩司 (1999), 「行政評価の潮流と課題」, 四国大学経営情報 研究所年報 , Vol. 6, pp. 8996. 19) 松田典久 (2003), 「行政評価の自治体改革における役割と今後」, 鹿児島大 学法学論集 , Vol. 37, No. 1/2, pp. 123156. 20) 森利枝 (2003), 「三重県における行政評価による行政の品質保証の取組」, 大学評価 , 第 3 号, pp. 231236. 21) 守屋晴雄 (2004), 「‘顧客満足と経営品質’ についての一覚書」, 龍谷大学経 営学論集 , Vol. 44, No. 3, pp. 122135. 22) 日本科学技術連盟 「デミング賞のしおり」 2008 年, pp. 1213. (原稿受付 ― 89 ― 2009 年 8 月 1 日) 資料 1 デミング賞本賞・実施賞授賞企業 年 本 賞 実 施 賞 1951 増山元三郎 昭和電工㈱ 1952 朝香 石川 木暮 後藤 東 三浦 水野 渡辺 鐵一 馨 正夫 正夫 秀彦 新 滋 英造 旭化成工業㈱ 塩野義製薬㈱ 日本電気㈱ 古河電気工業㈱ 武田製薬工業㈱ 九州クロス㈱× 東洋紡績㈱ 1953 北川 敏夫 川崎製鐵㈱ 気㈱ 住友金属工業㈱ 東京芝浦電 1954 西堀榮三郎 東洋ベアリング製造㈱ 1955 森口 繁一 旭硝子㈱ 1956 石田 保士 ㈱東北工業所 真工業㈱ 1957 山内 二郎 実施賞該当なし 1958 茅野 健 1959 小柳 賢一 旭特殊硝子㈱ 1960 田口 玄一 ㈱東和製作所△ 1961 加藤 威夫 帝人㈱ 1962 草場 郁郎 住友電気工業㈱ 1963 山口 襄 1964 清水 定吉 ㈱小松製作所 1965 今泉 益正 トヨタ自動車工業㈱ 1966 朝尾 門川 関 藤田 正 清美 和文 菫 関東自動車工業㈱ 1967 近藤 次郎 神鋼鋼線鋼索㈱ 田辺製薬㈱ 富士製鐵㈱ 信越化学工業㈱ 東洋レーヨン㈱ ㈱日立製作所 日本曹達㈱ 本州製紙㈱ 三菱電機㈱ 富士写真フィルム㈱ 鐘淵化学工業㈱ 呉羽化学工業㈱ 業㈱ ㈱中与通信機製作所㈱△ 倉毛紡績㈱ 日本電装㈱ 八幡製鐵㈱ 日本鋼管㈱ 小西六写 松下電子工 日産自動車㈱ 日本ラヂエーター㈱△ 日本化薬㈱ 松下電器産業㈱部品事業本部▲ 小島プレス工業㈱△ ― 90 ― 1968 外島 忍 1969 奥野 忠一 シンポ工業㈱△ 1970 杉本 辰夫 トヨタ車体㈱ 1971 安藤 近藤 清水 貞一 良夫 祥一 日野自動車工業㈱ 1972 伊藤鈿太郎 アイシン精機㈱ 1973 大場 興一 三輪精機㈱△ 埼玉機器㈱△ ㈱◆ 日本電気㈱◎ 1974 小林 宏治 ㈱堀切バネ製作所△ 1975 山元 大前 太郎 義次 ㈱リコー 武部鉄工所㈱△ 東海化成工業㈱△ 理研鋳造 ㈱△ 積水化学工業㈱東京工場◆ 新日本製鐵㈱◎ 1976 石原 勝吉 ㈱三協精機製作所 ぺんてる㈱ 小松造機㈱△ 石川島播磨 重工業㈱航空宇宙事業本部▲ 久保田鉄工㈱内燃機器事業本 部内燃機器研究本部◆ 久保田鉄工㈱内燃機器事業本部内燃 機器製造本部堺製造所◆ 1977 布留川 1978 ブリヂストンタイヤ㈱ ヤンマーディーゼル㈱ 中国化薬㈱△ トヨタ自動車工業㈱◎ 埼玉鋳造工業㈱△ 三菱重工業㈱◆ 神戸造船所 ㈱協同測量社△ 靖 アイシン・ワーナー㈱ ン精機㈱◎ 日本飛行機㈱厚木製作所◆ 赤尾 洋二 ㈱東海理化電機製作所 中越合金鋳工㈱△ 1979 眞壁 肇 ㈱竹中工務店 積水化学工業㈱ 九州日本電気㈱ 東北リコー ㈱ 浜名湖電装㈱△ 日本製鋼所㈱広島製作所◆ 1980 豊田章一郎 萱場工業㈱ 小松フォークリフト㈱ 高丘工業㈱ 富士ゼロッ クス㈱ ㈱共和工業所△ 小林コーセー㈱生産本部◆ トヨ タ車体㈱◎ 1981 唐津 一 アイホン㈱△ 京三電機㈱△ 東京重機工業㈱工業用ミシン 本部▲ 松下電工㈱彦根工場◆ ㈱小松製作所◎ 1982 塩見 弘 鹿島建設㈱ 山形日本電気㈱ 横河・ヒューレット・パッカー ド㈱ リズム時計工業㈱ アイシン化工㈱△ 親和工業㈱△ アイシン・ワーナー㈱◎ 1983 豊田 稔 清水建設㈱ ㈱日本製鋼所 製造㈱松本工場◆ アイシン軽金属㈱△ 1984 池澤 辰夫 関西電力㈱ 小松ゼノア㈱ △ 北陸工業㈱△ ㈱安川電機製作所 ― 91 ― アイシ 富士電機 安城電機㈱ 1985 納谷 嘉信 豊田工機㈱ 豊田合成㈱ 日本カーボン㈱ 日本ゼオン㈱ 内野工務店㈱△ コマニー㈱△ 豊谷精機㈱△ 日本テキサ ス・インスツルメンツ㈱バイポーラ事業部▲ 高丘工業㈱◎ 1986 河合 良一 ㈱豊田自動織機製作所 建設㈱△ 1987 小林 龍一 アイシン化工㈱ 愛知製鋼㈱ イコンシステム㈱ 1988 竹中 錬一 アイシン軽金属㈱ アスモ㈱ ㈱富士鉄工所 常磐興産㈱常 磐ハワイアンセンター▲ サントリー㈱武蔵野ブレワリー◆ 1989 久米 均 アイシン親和㈱ ㈱伊藤喜工作所 東陶機器㈱ 東北日本電 気㈱ 前田建設工業㈱ フロリダ電力㈱● ㈱アーレスティー △ 豊興工業㈱△ 神戸製鋼所㈱長府北工場◆ 前田製管㈱ 本社工場◆ 1990 小林症一郎 アイシン豊容㈱ ㈱アマダワシノ 静岡日本電気㈱ リー㈱山梨ワイナリー◆ アイシン精機㈱◎ 1991 鐡 健司 関西日本電気㈱ ㈱不二越 北辰工業㈱ ㈱● 辰栄工業㈱△ 新潟凸版印刷㈱△ ダブリュ㈱◎ 1992 根本 正夫 愛三工業㈱ ジャトコ㈱ 凸版印刷㈱エレクトロニクス事業 本部第二事業部熊本工場◆ 日産自動車㈱追浜工場◆ アイ シン化工㈱◎ ㈱竹中工務店◎ 1993 鷲尾 泰俊 NTT データ通信㈱ 1994 米山 高範 AT & T パワーシステムズ● ㈱前田製作所 エイ・ダブリュ 工業㈱△ エヌティーテクノ㈱△ 興立産業社△ ダイヤ モンド電機㈱△ アイシン軽金属㈱◎ 1995 菅野 紀昭 石川島播磨重工業㈱原子力事業部 エムテックスマツムラ㈱ 菊池プレス工業㈱ 東陽精機㈱ 日産自動車㈱村山工場▲ 前田建設工業㈱◎ 1996 笹岡 健三 アイシン辰栄㈱ 安藤電気㈱ コニカ㈱日野生産事業部 日 本電気無線電子㈱ 富士写真光機㈱ 日産自動車㈱栃木工場 ▲ 1997 狩野 紀昭 アイシン機工㈱ 小島プレス工業㈱ 東洋ガラス㈱ 台湾フィ リップス㈱◎ ― 92 ― ㈱間組 ㈱山陽電機製作所△ ㈱ダイヘン 日東 日本アイシーマ サント 台湾フィリップス アイシン・エイ・ 1998 細谷 1999 小林陽太郎 ㈱ミヤマ工業 2000 前田又兵衛 金秀アルミ工業㈱ サンデン物流㈱ サンワテック㈱ ㈱ジー シー 2001 藤田 史郎 サンデン・システムエンジニアリング㈱ スンダラム・ブレー キライニング㈱● タイ・アクリリックファイバー㈱● タ イ・カーボンブラック㈱● 2002 司馬 正次 サイアム・セメント (トウングソング)● ● ハイテクカーボン GMPD●◆ 2003 吉澤 正 ㈱ジーシーデンタルプロダクツ ブレークス・インディア㈱ 鍛造事業部● マヒンドラアンドマヒンドラ㈱農業機械事業 部● ラネ・ブレーキ・ライニングス㈱● サイアム・リフ ラクトリー・インダストリー㈱● ソナコーヨー・ステアリ ング・システム㈱● タイペーパー㈱● グラシム・インダ ストリーズ㈱◆ ビルラ・セルローシック事業所●◆ 2004 高橋 朗 CCC ポリオレフィン㈱ (タイ)● インドガルフ・ファーティ ライザーズ㈱ (インド)● ルーカス TVS㈱ (インド)● サイアムミツイ PTA㈱ (タイ)● SRF㈱合成工業製品事 業部 (インド)● タイセラミック㈱ (タイ)● ㈱ジーシー ◎ 2005 佐々木 元 豊生ブレーキ工業㈱ クリシュナマルチ㈱シート事業部 (イ ンド)● ラネ・エンジンバルブズ㈱ (インド)● タイ・ア クリリック・ファイバー㈱●◎ ラネ・TRW ステアリング システムズ㈱ステアリングギア事業部 (インド)● 2006 飯塚 悦功 ㈱西澤電機計器製作所 サンデン・インターナショナル・シ ンガポール㈱ (シンガポール)● サンデン・インターナショ ナル・U. S. A. ㈱ (アメリカ)● ㈱ジーシーデンタルプロ ダクツ◎ 2007 牛久保雅美 旭インディア硝子㈱自動車硝子事業部 (インド)● (マドラス)㈱ (インド)● 2008 坂根 タタ・スチール㈱● 克也 正弘 アイシン・エイ・ダブリュ精密㈱ 安東電気技術サービス㈱ 伊藤喜オールスチール㈱ 沖縄石油精製㈱ サンデン㈱ Sundaram-Clayton Limited, Brakes Division フジミ工 研㈱ 金秀アルミ工業㈱ TV モーター㈱ ラネ 注:実施賞 (△中小企業賞 ▲事業部賞 ●海外企業 ×別途表彰 ◆事業所表彰 ◎日 本品質管理賞) 出典:日科技連のHPから編集 http://www.juse.or.jp/prize/pdf/winnrers_list_individuals_2009.pdf http://www.juse.or.jp/prize/pdf/winnrers_list_application_prize_2009.pdf ― 93 ― 資料 2 日本経営品質賞 (1996 年制定) 年 製 造 部 門 中小/自治体部門 1996 NEC 半導体事業グループ 1997 アサヒビール 千葉夷隅ゴルフクラブ 1998 日本総合研究所 吉田オリジナル 1999 リコー 富士ゼロックス第一中央 販売本部 2000 日本 IBM ゼネラル・ビジネス事 業部 武蔵野 2001 セイコーエプソン情報画像事業本 部 第一生命保険 2002 パイオニア㈱モーバイルエンタテ インメントカンパニー 2003 NEC フィールディング㈱ 2004 千葉ゼロックス㈱ オ新神奈川 2005 松下電器産業㈱ トヨタ輸送㈱ ㈱J・アート・レ ストランシステムズ 2006 福井キヤノン事務機㈱ 滝沢村役場 トヨタ ㈱ホンダクリ 2007 2008 カルソニックハリソン㈱ ビスタ高知㈱ 福井県民生活協同組合 該当なし 出典:日本生産性本部:日本経営品質賞 「過去の受賞企業」 を編集 http://www.jqaward.org/kako.html ― 94 ― 経営経理研究 第 86 号 2009 年 10 月 pp. 95111 論 文〉 東アジア市場における貿易構造と 企業行動分析 武 要 上 幸之助 約 現在, 東アジア市場は, EU, NAFTA に並ぶ世界規模の製品需給市場 であり, 日本貿易にとり, 構造的に深い関係を有している。 グローバル化 によって, 主に中間財の需給市場として急速に整備され, 垂直型産業内貿 易構造から水平的産業内貿易構造へと付加価値生産の水準を向上させてお り, 日本貿易にとり, その動向が重要視される。 東アジア市場に進出する企業の進出要因, 市場成果要因を事例分析する と, 貿易政策の先行指数理論モデルに実証性が高いことが示される。 その 結果, 同市場が中間財の共同市場として付加価値生産水準において重層的 キャッチアップを達成しつつあり各国間と水平型産業貿易構造を構築し, 競合化が生じていることを明らかにする。 キーワード:UN Comtrade Data Base, グルーベル=ロイド IIT (産業 内貿易) 指数, 国際産業連関表, 市場行動/市場成果, 貿易 政策 序 近年, 東アジアの貿易市場 (概算人口 20 億 1,676 万人, 名目 GDP 7 兆 7,511 億ドル, 1 人当り GDP 2,356 ドル, OECD 統計 2007) では, アジア 通貨危機, 石油エネルギー資源高騰という構造変化を受け, また金融危機 ― 95 ― による米国需要の収縮から, 需要停滞にあるが, その中で中国貿易は回復 の基調明らかに, 同市場にて強く影響を持ち伸長著しく, 継続的に直接投 資が進められている。 経済協力開発機構 (OECD) Report [The World Trade of 2020] では 1995 年2020 年期, 経済年平均成長率は, 中国 8%, インドネシア 7%, 台湾, シンガポール, タイ, フィリピン, マレーシア 各 6.9%と予測し, これは EU, NAFTA 2.8%, ラテンアメリカ 5.3%より 高く, また中国の発展率が 2008 年に 10%を大きく下回ったものの東アジ ア経済共同体が出現すれば EU・NAFTA とほぼ同等の経済共同体になる と指摘している。 この域内貿易が及ぼす波及効果は, 主に産業構造の貿易結合度から生じ る効果であり, 国際産業に関連する指標を構成国相互に分析すると, 貿易 結合度, 交易指数の高い産業間に構造的特徴のあることが仮説として示さ れる。 貿易は本来, 当事各国間の市場構造 (需給構成, 規模, 成熟レベル 等) という相互の需給格差を均衡させる方向性を持ち, さらに政策的手段 により相互の利益 (市場成果) が最適化するレベルにまで財貨の交換がお こなわれる。 本稿では貿易で一般的な不完全市場において, この需給構造 が, 企業の市場行動, 競争によりどのような影響を受けるかに焦点を当て て論じる。 日中韓及び ASEAN 4 を中心とする東アジア地域市場 (本論では, 日中, ASEAN 4, NIEs に大別する) では, 各国の生産技術的重層キャッチアッ プが進み, 特に貿易結合度の示す傾向が高くなり, 垂直型から水平型産業 内分業が急速に高まっている。 さらに産業内貿易から企業工程間貿易への 移行が, 一部の資本, 技術集約製品に顕著にみられる。 特に貿易の一つの 方向性は高付加価値化であるが, この付加価値指数 (貿易特化指数) につ いて事例により実証し, 貿易政策の方向性について示唆を得て, 東アジア 市場における企業の進出要因と市場成果 (収益要因) について事例をモデ ル検証する。 ― 96 ― 各国産業が貿易により, どのような結合構造を採りうるかの交易依存指 標として, 産業内貿易指数 (IIT), その市場成果としての付加価値指標 (貿易特化指数) がある。 また貿易による産業間に及ぼす影響度は国際産 業関連表にて分析できる。 本稿では, 東アジア市場における貿易について IIT 指数, 国際連関表を用い構造を分析し, どの位の付加価値が貿易によ り産出されているか付加価値指数を用いて明らかにする (1 節)。 次いで 東アジアに進出する企業事例から市場行動をモデル化し, この貿易構造を 検証してみる (2 節)。 然るべく, 東アジア市場の交易事例を検討し日本 の貿易政策に関する考察をおこない, 東アジアの貿易構造から見られる特 徴と政策課題を導きたい (結語)。 1. 東アジア市場の産業内貿易結合度 11 産業内貿易指数 (IIT:Index of Intra-industry Trade) からの 貿易構造分析 従来, 東アジア貿易市場で, 特に途上国は付加価値の比較的少ない組立・ 加工工程に特化し, 基幹部品生産とされる高付加価値工程は, 日中韓の東 アジア先進国が主におこなってきた。 今回の金融危機に端を発する米国需 要の急減により, 東アジア間貿易は急速に縮小し, 米国の中間財輸入は 2009 年 912 月期に年率 19.6%減少し, 東アジアの途上国は, 米国への輸 出が減ると同時に日・韓・台からの輸入も大幅に減らした。 また, 日・韓・ 台では, 米国向けだけではなく, アジア途上国向けの基幹部品輸出も大幅 に減ったために減少幅が大きくなったと考えられる1)。 世界需要構造のシフトの視点から見ると, 日本の輸出はその大部分が輸 送機器, 電子機器, 工作機械など, 資本財や耐久消費財及び, その基幹部 品である。 今回, 世界経済の減速の下で新規の設備投資が特に落ち込んだ 可能性が高い。 「2008 年 1012 月期の対前期比実質 GDP 成長率は, 日本 ― 97 ― が−12.1%と米国の−6.3%を大幅に下回っている」2)。 各需要項目のマイナス成長への寄与をみると日本では外需 (純輸出) の 減少の寄与が−11.8% (うち輸出の減少の寄与が−10.0%, 輸入の増加の 寄与が−1.8%) と, マイナス成長の殆ど全てを説明するのに対し, 米国 では外需 (純輸出) 減少の寄与は−0.15% (うち輸出の減少の寄与が −3.44%, 輸入の減少の寄与が+3.29%) と, マイナス成長要因は主に米 国内需の減少による。 このように東アジア市場では外需要因による産業間 取引, 産業内取引の比率が高く相互関連の影響度が高い水平貿易が進んで いることがわかる。 ここでこれまでの同地域での産業内取引比率をグルー ベル・ロイド (G=L) 指数を用いて貿易構造を分析する。 このG=L指数 は産業内貿易指数を表し, IIT=0 において完全産業内貿易を表し, IIT=1 のとき完全産業間貿易を表す3)。 表 11 中 東アジア域内 10 カ国・地域間の財別 IIT 指数 国別 間 財 資 本 財 消 費 財 1990年 1995年 2000年 1990年 1995年 2000年 1990年 1995年 2000年 中 国 0.480 0.511 0.623 0.394 0.509 0.524 0.131 0.212 0.193 韓 国 0.587 0.700 0.793 0.446 0.551 0.555 0.189 0.429 0.470 台 湾 0.712 0.710 0.819 0.688 0.760 0.525 0.320 0.597 0.532 シンガポール 0.573 0.619 0.812 0.434 0.392 0.550 0.519 0.552 0.480 マレーシア 0.435 0.593 0.744 0.258 0.524 0.474 0.528 0.627 0.505 タ イ 0.453 0.574 0.747 0.378 0.395 0.604 0.252 0.311 0.361 フィリピン 0.469 0.492 0.739 0.307 0.307 0.490 0.330 0.361 0.296 インドネシア 0.154 0.265 0.338 0.054 0.248 0.746 0.408 0.428 0.357 日 本 0.406 0.447 0.484 0.357 0.438 0.584 0.254 0.401 0.442 米 国 0.436 0.506 0.562 0.560 0.610 0.631 0.191 0.341 0.243 1. 消費財は民間+政府消費支出への投入, 資本財は総固定資本形成への投入。 2. 網掛けは 3 期間の最大値を示す。 (資料) 財団法人産業研究所 (2006a) 「東アジアの産業連関及び貿易構造と我が国の経済構 造変化に関する調査研究」 から作成。 尚, 2001 年時点で各財総計で, 中国 0.345, 韓国 0.421, 台湾 0.446, シンガポール 0.406, マレーシア 0.330, タイ 0.365, フィリピン 0.412, インドネシア 0.131, 日本 NA, 米国 0.401。 (SITC 3 桁分類) Statistics CANDADA World Trade Database 2008. (備考) ― 98 ― これより中間財 (部品), 資本財について水平双方向貿易が活発化し, 主に電気機器, 機械機器を中心に産業内貿易が進んでいることがわかる。 また消費財については, 指数は全般に減少傾向が定着し各国が消費財を主 に米国へ向けて輸出 (米国との垂直貿易傾向) していること, また日本, 中国に向けては逆に指数が高くなっており, 消費財が水平双方向取引化さ れていることが分かる。 特に電気機器貿易においては, 指数が非常に高く, 同地域において主要 産業として産業内取引が活発化しているが, 構造的に日本と NIEs の産業 内貿易が減少化しているのに対し, 中国, ASEAN 4 とでは中間財取引が 増加しており, 特に ASEAN 4 の中間財生産の資本, 技術基盤が整備され, ここを共通の供給地域として, 中間財を調達する共同市場となっているこ とが示される。 12 国際産業連関表からの貿易構造分析 東アジア地域での産業内貿易傾向は, 国際産業関連表から導かれる IIT では, 1990 年から 2000 年にかけて中間財, 資本財では, 上昇の傾向があ ることから, 東アジアにおいて同財の双方向貿易が増加, その主要因は電 気機械における IIT 指数の高いことがあげられる41, 42)。 一方, 消費財については 1995 年をピークに低下傾向が顕著であり, 東 アジアでは消費財の輸出志向が高まり, 特に米国への輸出が増加している ことが伺われる。 特に指摘されることは 「東アジア域内において中間財, 資本財を中心に産業内貿易が活発化しているが, これは, 一般的な最終消 費財に関する嗜好の差異に基づいて, 消費財を中心に産業内貿易がおこな われるとする製品差別化」 カテゴリーには合致しない5)。 特にこの問題についての指摘に対し, 電気機械類と輸送機械の産業内貿 易をみると, 日本と東アジアとの交易では, 輸出入品の価格差が 1.25 倍 までの商品を水平的分業とし, それ以上の価格差のある場合を垂直的分業 ― 99 ― 表 121 日本と東アジア間の電気機器貿易財 3 分類の傾向 中 年 ASEAN 4 国 (単位:%) NIEs 1990 1995 2000 2005 1990 1995 2000 2005 1990 1995 2000 2005 品 12.9 35.2 51.9 57.9 32.2 38.5 55.4 61.7 27.7 46.8 47.4 49.0 資本財 3.5 15.5 13.2 12.3 6.7 5.6 4.4 4.2 6.7 3.9 3.0 3.5 最終消費財 6.8 18.4 2.4 7.6 3.6 4.2 1.6 3.5 7.9 6.1 4.9 3.8 部 (備考) 産業内貿易とは, HS 6 桁分類の各品目において, 輸出額と輸入額の差が 10 倍以内 の場合とした。 (資料) 財務省 「貿易統計」 から作成。 表 122 日本との一貫生産と工程間分業比率 東アジア平均 対日本工程間貿易 工程間貿易(除日本間) 一貫生産 中 国 NIEs ASEAN 4 20.5 20.5 15.0 22.3 5.6 4.7 10.4 5.0 73.7 74.8 74.6 72.6 *中小製造業 (日本国内本社資本金 3 億円以下, 常時従業員 300 人以下の現地法人) を対象 に集計。 (出典) 経済産業省 「第 34 回海外事業活動基本調査 2004」 及び 「中小企業白書 2008」 p. 224. とする場合, 電気機械類については垂直的産業内貿易の割合が多く, また 輸送機械においては中国との間で同品質財を取引する水平的産業内貿易が 増加している, さらに製品の付加価値指標でみる各国の輸出商品の付加価 値分布から, 重層的技術キャッチアップが進み, 技術レベルでは同質レベ ルでの水平分業化が主要因となっていることが理解される6)。 また東アジアにおいて, 特に中小企業分野においては, 更に傾向高く, 日本との工程間分業は 20%程度, 現地で一貫生産をおこなう割合は 70% を超えている。 2. 東アジア市場の貿易構造変化 21 東アジア市場での企業行動 東アジア市場における付加価値生産額, 貿易特化指数の推移を追いなが ― 100 ― ら近年の貿易概況を見てみると, NIEs においては, 韓国が半導体, 輸送 機の付加価値生産に優れ, また貿易特化指数からも輸出製品として競争力 を有している。 台湾は, 貿易特化指数からもコンピュータ他半導体, 一般 機械の輸出競争力が高い一方, 電機機器では完成品の輸出のための電機部 品の輸入が大きくなっている。 重工業加工生産が盛んになる一方で, 部品, 半材料製品など中間財は輸入依存している。 香港, シンガポールは共に中 国, ASEAN 4 との貿易中継地としての位置付けが強くなり輸出入額が拮 抗している。 また ASEAN 4 では, 産業全体の規模は NIEs より小さいも のの確実な成長を遂げている。 タイは産業全体でも高度化が見られ付加価 値額の増加が著しい。 マレーシアは電気機器の輸出基点として産業整備が 進み, 電機機械の付加価値生産が増大している。 インドネシアは同じく電 気製品の輸出基点整備が図られ電機機械の輸出が伸張している。 フィリピ ンでは産業全体の規模は小さく, 殆どの分野で輸入超過となっているが中 間財の輸入が多い。 中国は事業所数と付加価値生産額は著しいが, 繊維産 業では日本, NIEs の生産拠点となり, さらに電機機械においても付加価 値生産額が大きく伸び東アジアの生産基地として基盤を構築している。 東アジアでの日系製造業の海外直接投資は, 80 年代より日本国内から の代表的製造業の生産機能の移管が進み, 電子機械は中国, マレーシア, 台湾への移管, 輸送機器ではタイでの組立加工が進み, さらにこの移管に 追随して日系中小製造業が, 中国では鋳造, タイでは金属プレス, 金型の 素形財, 中間財を供給している。 東アジア市場全体では, 産業基盤の整備 が進むにつれ, 日中企業を始めとする外国企業が現地で中間財を調達し, 中国, 日本等からの中間財調達が減少している。 中小企業庁 展開実態調査 製造業海外 2008 では日本企業の多くに現地調達の傾向が高くなり, 日本本国からよりも同市場での調達現地化が進んでいること, さらに大規 模企業が関連中小企業を引連れて, 企業グループ全体での移管が進められ ていることを指摘している。 さらに生産設備も東アジア市場内からの調達 ― 101 ― 表 21 東アジアの付加価値生産比率・部品調達比率 東アジア地域別 特殊, 高度精密製品 (%) 規格・汎用 モジュール製品 現地内生化 東アジア平均値 30.1 52.2 17.6 中国 29.6 51.8 18.6 NIEs 27.6 65.5 6.9 ASEAN 4 31.5 51.4 17.1 (出典) 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング 「最近の製造業を巡る取引環境変化の実態 にかかるアンケート調査」 (2005. 11) より作成。 が盛んになり, 日本, 中国からの調達が減少している。 従来は東アジアで の現地調達は安価な部品, 中間財が中心であったが, 中間財品質の水準が 向上し, 生産拠点としてインフラ基盤が整備され技術水準も高度化し, 徐々 に一貫生産体制を築きつつあることが伺える。 さらに東アジア市場への日 系企業の進出動向を概観すると, 中国 4,864 件, タイ 1,432 件, 香港 1,113 件, シンガポール 1,071 件となり中国への製造業の進出が著しく, 付加価 値生産比率の高まりがみられる (表 21)。 業種別では, 東アジア全体で製造業が 59.0% (内電気機器 1,980 件) で あり, 電気機器産業が同地域での海外直接投資を主導していることが分か る。 化学 1,503 件, 輸送用機器 1,007 件と続く。 非製造業では卸売業が 20.4% (3,209 件), サービス業 5.8% (913 件), 運輸倉庫業 4.7% (733 件) となるが, 日系企業の進出要因を業種別にクラスタ分類する (表 22)。 尚, 業種別東アジア生産比率と部品調達比率の関係では, 電子部品・デ バイス, 情報通信機器, 電気機械機器の分野で規格化された部品, モジュー ルの現地調達が進む一方, 精密機械では日本からの部品調達が多い。 企業進出要因のクラスタから, 産業高度化による付加価値要因, 即ち, A クラスタから B, C, D, E クラスタへの付加価値の高度化により貿易方 向性が考察できる。 ここでは製品価格差における貿易方向性を示す。 傾向 として一方向貿易から垂直的産業内貿易, そして水平的産業内貿易の方向 ― 102 ― 表 22 日本企業の進出地域, 業種要因別クラスタ (2003. 42004. 3) 進出先東アジア国 総計 15,747 件 主な進出業種 SITC 26 業種 進出分析 (主要要因) 進出要因クラスタ分類 (特殊要因) 韓国 583 件 化学・電気機器・卸売, 非 鉄金属 技術集約要因, C (技術・流通) 流通拠点要因 (企業グループ内取引要因) マレーシア 837 件 化学・電気機器・卸売 非鉄金属 技術集約要因, C (技術・流通) 流通拠点要因 (企業グループ内取引要因) フィリピン 446 件 電気機器・卸売 労働集約要因 A (労働) (人件費コストダウン要因) ベトナム 203 件 繊維製品・水産農林業 労働集約要因 A (労働) (人件費コストダウン要因) 中国 (西部地域) 176 件 繊維製品, 鉄鋼 労働集約要因 A (労働) (人件費コストダウン要因) 中国 (中部地域) 107 件 繊維製品 労働集約要因 A (労働) (人件費コストダウン要因) 中国 (東北地域) 471 件 繊維製品 労働集約要因 A (労働) (人件費コストダウン要因) インドネシア 696 件 化学 (石油精製・鉱業) 技術集約要因 B (石油精製技術) 中国 (華南地域) 688 件 化学 (建材製造), 輸送機 器 技術集約要因 B (建材技術) (委託加工貿易要因) 中国 (華北地域) 971 件 電気機器, 鉄鋼, 金属, 輸 送機器 労働集約要因 B (電気機械技術) (人件費コストダウン要因) 台湾 888 件 化学・電気機器・卸売, 小 売, サービス, 保険, 証券 技術集約要因, C (電気技術・流通) 流通拠点要因 (企業グループ内取引要因) タイ 1432 件 化学・電気機器・卸売, ゴ ム, 鉄鋼 技術集約要因 C(合繊技術) (企業グループ内取引要因) 香港 1113 件 金融・保険・サービス業 精密機器, 運輸倉庫 証券 不動産 金融機能ハブ 要因 D (金融) シンガポール 1071 件 金融・保険・サービス業 運輸倉庫 証券 金融機能ハブ 要因 D (金融) 中国 (華東上海地域) 2451 件 化学・電気機器・卸売他 金融・流通, 建設業, パル プ製紙, ゴム, 小売, 不動 産, サービス業 産業基盤整備 技術集約要因, 流通拠点要因 E (資本) 及び 金融機能ハブ (現地消費市場開拓要因) 要因 資本集約要因 (出典) 東洋経済 「海外進出企業総覧 2004」 蒼蒼社 より作成。 ― 103 ― 中国進出企業一覧 20032004 年度版 図 21 東アジアでの付加価値高度化の貿易方向性 (電機機器, 輸送機器の付加価値別貿易) 1. HS 6 桁分類のうち単価がわかる品目について, 日本と東アジア各地域との貿易 を以下の 3 通りに分類した。 ① 一方向貿易:輸出額と輸入額の差が 10 倍以上。 ② 垂直的産業内貿易:輸出額と輸入額の差が 10 倍以内で, 輸出単価と輸入単価 の差が図中に標記の境界以上。 ③ 水平的産業内貿易:輸出額と輸入額の差が 10 倍以内で, 輸出単価と輸入単価 の差が図中に標記の境界以内。 2. 図中の各点は矢印の順に 1990 年, 1995 年, 2000 年, 2005 年を表す。 3. 電気機械は HS コード 85, 輸送機械は HS コード 8689 の品目。 (資料) 財務省 「貿易統計」, 及び通商白書 2006 から作成。 (備考) ― 104 ― 性が示される (図 21)。 22 市場成果と貿易の政策課題 貿易政策の目的は, 貿易利益, 即ち, 交易条件改善による経済厚生の増 加である。 ゆえに貿易収支の黒字基調は, 貿易政策の果たす本来の目的で ある。 比較優位格差の大きい段階で, 海外直接投資がなされると, これに よって生じる赤字基調は, やがて投資受入国からのサービス貿易のリター ンによる黒字となり還元されると考えられてきた。 しかし技術格差のキャッ チアップがなされると, 交易条件が悪化する。 貿易政策の一つの課題は比 較優位格差の存在時期の確認である。 従来, 東アジアの貿易構造は, 先進国と途上国との間の垂直型産業間貿 易構造, または原材料一次産品と工業製品, 労働集約財と資本集約財の交 易と捉えられていた。 しかし近年のグローバル化が契機になって, さらに は海外投資の規制緩和と共に, 技術格差の平準化も進み, 要素賦与差の少 ない, また生産・消費構造が類似する国相互間の水平型産業内貿易に変化 している。 また先進国からの海外投資による集中的な産業集積は, 外部経済性の源 泉になり, さらに, この貿易構造の近似性は輸送コスト, 取引コストを縮 小させる傾向を持つと考えられる。 東アジア市場に FTA 事例の多い, 経 済貿易特区 (保税制度による海外投資フリーゾーン) への投資では, 受入 国が政策的に同一産業を誘致し, 例えばシンガポールにおける石油精製企 業に見られるように, 生産レベル層の厚い産業集積が形成され, 本国でよ りも生産性の高く外部経済上有利な立地を獲得できる。 ここで付加価値指標により, 産業内貿易の水平・垂直度を考察してみる。 輸出入製品のドル価格差が 1.25 倍を, 同等付加価値基準として産業内貿 易が水平化していると見做す。 また 2.0 倍以上を垂直的産業内貿易と考え ると, 以下のようになり, 垂直的産業内貿易が一般化する中でも水平的産 ― 105 ― 表 23 付加価値指標から見る日本と東アジアとの輸出品目の重層化比率 付加価値指標 10,000 ドル以上 20,000 ドル以上 30,000 ドル以上 全 体 1994 (%) 国 別 (クラスタ) 中 国 (A, B, E) シンガポール (D) 韓 国 (C) 香 港 (D) タ イ (C) マレーシア (C) フィリピン (A) インドネシア (B) 中 国 (A, B, E) シンガポール (D) 韓 国 (C) 香 港 (D) タ イ (C) マレーシア (C) フィリピン (A) インドネシア (B) 中 国 (A, B, E) シンガポール (D) 韓 国 (C) 香 港 (D) タ イ (C) マレーシア (C) フィリピン (A) インドネシア (B) 中 国 (A, B, E) シンガポール (D) 韓 国 (C) 香 港 (D) タ イ (C) マレーシア (C) フィリピン (A) インドネシア (B) 8.6 16.3 15.7 16.6 4.8 12.4 NA 1.7 5.8 14.3 13.0 14.0 3.6 5.1 NA 0.8 0.9 3.2 2.4 3.6 0.4 1.1 NA 0.1 9.3 16.8 16.3 16.9 5.4 7.3 NA 1.8 1999 (%) 15.8 17.4 23.9 18.7 7.2 4.7 5.3 2.7 13.5 16.5 22.0 17.2 5.9 10.9 2.6 1.8 2.9 4.2 7.7 7.3 0.6 1.0 0.1 0.2 16.7 17.9 23.6 18.8 8.2 12.8 3.7 3.2 2004 (%) 32.3 17.2 32.5 24.2 NA 4.2 10.4 4.2 29.7 16.5 30.9 23.6 NA 11.5 2.2 2.5 15.3 5.0 8.1 11.2 NA 1.5 0.2 0.4 31.8 31.5 44.9 46.9 NA 22.4 7.0 11.4 *中国クラスタについては各地域総計による。 (出典) 財団法人産業研究所 2006 「東アジアの産業関連及び貿易構造と我が国の経済構造変 化に関する調査研究」 及び 通産白書 2007 経済産業省から作成。 ― 106 ― 業内貿易の比率が増加していることがわかるが, 特に中間財生産には重層 的キャッチアップが進行していることが伺われる。 結 語 近年, 日中間取引が減少傾向となり, 一方, 東アジア地域と日中それぞ れが貿易結合度を深めていることから, 日中両国間の相互結合度が低下し, 東アジア市場が日中両国の共通の貿易市場としてクローズアップし, 競合 状態にあることが各指標から理解できる。 本稿では主な貿易論の指標と産業連関表から東アジア地域の貿易結合度 と構造を分析してきた。 今後, 日中間相互の貿易の減少傾向が続き, グロー バル市場を迎えた東アジア地域が, 共通市場として日中のそれぞれと貿易 結合度を高めていることが分かる。 また近代貿易論では, 外部経済の拡大 は, 規模の経済性から質的拡大, 多様化した需要へと発展するとしており, 市場の発展レベルが成熟化に向かうにつれ, 垂直型貿易から水平分業化し, 産業間貿易から産業内貿易, ひいては企業内工程間貿易, 即ち企業内分業 へ向かう傾向があり, その結果として, 特に FTA, また多国籍化した企 業の戦略が今後の貿易の方向性に重要な決定要因となる傾向をここで指摘 したい6,7,8)。 《注》 1) 貿易統計の中で, 商品分類と各国の貿易総額と世界合計を示す一般的な基礎 データに, UN Comtrade Data Base (商品の 4 桁レベル分類コード, 各個別 国データ 1962 年開始) がある。 これを元にアジア経済研究所/IDE-JETRO が 「世界貿易統計データシステム」:AID-XT (Ajiken Indicators of Developing economies: eXtended for Trade statistics) を作成, 管理する。 また商 品分類 (SITC) については, 木下・山田方式による産業分類の 20 部門分類 (KY 20) が採用される。 2) アジア国際産業関連表を用いた IIT の定義では, 商品の財分類 (部品などの ― 107 ― 中間財, 資本財, 消費財) に扱いの差異があるため実勢調整が必要である。 3) H. G. Grubel & P. J. Lloyd 産業内貿易指数 (IIT: Index of Intra-industry Trade) は J 産業の輸出 , 輸入 とすると, J 産業の IIT は ………………………………………① この場合, ①は のとき, ……………………………………………② , または のとき ……………………………………③ ②では, 完全産業内貿易を表し, ③では, 完全産業間貿易を表す。 さらに, c 産業の相手国 p における産業内貿易指数 は, ………………………………………④ とされる。 また産業 c と相手国 p における IIT は, その貿易総額に対する その産業内貿易の比率と定義される。 ……………………………………………⑤ 貿易特化指数 (IIT) は で示され G=L 指数 より導入される。 41) 産業連関表 (Wassily Leontief) 「ある産業がどの産業からどれくらいの 財やサービスを買って製品を生産し (列), 生産された製品がどの産業で, も しくは最終需要として使用されているか (行) という産業間の財・サービスの 流れが具体的な金額とともに記載。 途上国開発経済学において均整成長論 (ヌ ルクセ) に対し, ハーシュマンは先導的産業部門から発展させるべきだという 不均衡成長論を主張。 この議論について, 産業連関分析では主導産業の選定で 貢献。 輸入代替工業化や輸出指向型工業化の論争では, 貿易と経済成長の関係 の中で, アメリカは必ずしも資本集約型産業に比較優位をもたないというレオ ンチェフ逆説 (1965) が産業連関分析から明らかとなる (資本に富む国である 米国が高い資本集約度と共に財貨を輸出することから推論されるヘクシャー= オリーンの定理と矛盾)。 貿易が経済成長にどのような影響を与えるかという ところから要因分解分析が行われた」 (宮沢健一 「日本産業教室」 有斐閣, pp. 2031, 1989 年。 42) 国際産業連関表からの貿易収支の導入 国際産業連関表では, 産出ベクトル X および輸入ベクトル M と, 貿易収支 への寄与をみる。 産業連関表での投入係数や単位あたり付加価値は, 表前半部 の各列をその産出で割ることから得られる。 この逆 (レオンチェフ逆行列) の 計算を, 列毎の記号で表わすと, 中間需要 (圏内産出):Ad1X1 Ad2X2 AdKXK ― 108 ― 中間需要 (圏外輸入):Am1X1 Am2X2 AmKXK 付加価値:v1X1 v2X2 vKXK Ad = (Ad1, Ad2, , AdK) 圏内投入係数 Am = (Am1, Am2, , AmK) 圏外投入係数 v = ( v1, v2, , vK) 単位あたり付加価値額 XT = ( X1, X2, , XK) 産出 (転置形) 産出 に代えて産出変化 を用いれば, 各変化分についての関係にな る。 5) 産業連関効果 (産業誘発の効果指数) 前方連関効果 (川上産業, すなわち供給側の生産の増加が川下産業, すなわ ち需要側の生産を誘発する効果), 及び後方連関効果 (川下産業の生産の増加 が川上産業の生産を誘発する効果) を総称して産業連関効果と呼ぶ。 尚, アジ ア国際産業連関表による分析では以下の指摘がある。 アジア国際産業連関表は, 日中韓, NIEs, ASEAN 5 の 10 カ国について, 貿易による産業間連関を示し 同じ産業の生産物でも生産国が違えば別の財として扱われている (非競争輸入 型)。 米国の最終需要の減少が, 中国やベトナムの生産を低下させ, これによっ て日本の中間財輸出が減る。 米国の最終需要が米国を含む 10 カ国の全ての産 業産品について 1%減少した場合に 10 カ国間の貿易と生産がどのように変化 するかを試算, 米国以外の 9 カ国の最終需要は不変とする。 米国の最終需要の 1%減少は, それ自体がアジア諸国の米国最終需要向け輸出を減少させる。 同 時に, 米国の最終需要の減少は米国の中間財投入を減らすため, アジア諸国の 米国中間投入用輸出も減少する。 また, アジア諸国の生産が減少するため, 米 国を含む 10 カ国間の中間財貿易がさらに減少する。 中間財貿易については, 日本の方が中国より多額の対米輸出をしているため, 中国よりも日本の方が純 輸出の減少は大きい。 しかし, 最終財については, 中国の対米輸出の方が日本 より大きいため, 日本よりも中国の方がずっと大きな純輸出の減少に直面する。 深尾京司・袁堂軍 「三角貿易は中国を潤しているか:アジア産業連関表による 分析」 及び野田容助・黒子正人編 貿易関連指数と貿易構造 アジア経済研究 所統計資料シリーズ第 91 集, アジア経済研究所, 2007 年。 6) 重層的キャッチアップの東アジア的特長として, 主に耐久消費財について以 下, 考えられる。 ① 製品技術サイクルの技術格差幅が小さく, 短期で収束する。 ② 付加価値付けが製造段階よりも商標政策などの流通段階に多く依存する。 ③ 製品流通の川上から川下までの広範な範囲の中で狭隘な産業範囲の技術 革新に留まる。 ― 109 ― ④ リバースエンジニアリング等模倣性が強く, 技術導入段階で多く先行技 術と競合し, また製品革新より工程革新, 改良技術的要素が高い。 ⑤ 従って, 市場成熟段階に達した製品レベルでの技術導入が多く, 短期的 で小格差, 付加価値水準も低位で小規模需要創出となる。 但し, 技術革新, 市場経済万能視点からはブレークスルー技術優位を指摘す るが, ハーバード学派アバナシー=アッタバックは商業マーケティング政策か ら改良技術の市場優位性を指摘している。 7) 水平型貿易の経済性の実現は, 企業レベルでは内部経済性の実現 (企業内取 引, 市場の内部化), 産業レベルでは外部経済性の実現 (消費多様化と消費拡 大) である。 例えば, 産業レベルでの外部経済性, マーシャル外部経済 (External Econo- mies of Scale/Marshallian External Economies) は以下の特長を説明する。 ① 個別産業全体の総生産量が拡大するにつれ, 個別企業の平均費用が下方 へシフトし, その結果, 個別産業の供給曲線は右下がりになる。 ② 産業の 「集中, 集積」 は外部経済の典型的な事例となる。 生産, 資本, 労働の集積, 供給市場の安定など外部規模 8) 80 年代後半より通産行政側の産業構造審議会における資源多消費型産業の 海外立地推進論 (貿易赤字を前提に国内重化学工業の海外移転投資を進める立 場) と経団連の工業基地責任論 (東アジア市場への供給基地を国内に置き輸出 供給を推進する立場) の貿易政策上の対立があったが, 後者は貿易黒字基調に 支えられ 90 年代まで勢力を保ってきた。 引用・参考文献 1. 野田容助・黒子正人 東アジア諸国・地域と米国の貿易関連指数 開発研究 センター, 2005II04, アジア経済研究所, 2006 年 2. トラン・ヴァン・トウ 東アジアにおける分業と FTA の新展開 日本経済 研究センター研究報告書, 2005 年 2 月 3. 馬田啓一・浦田秀次郎・木村福成 4. 日本新通商戦略:WTO と FTA への対 文眞堂, pp. 156179, 2005 年 応 木下宋七・山田光男 「国別・商品別デフレータの推計と若干の吟味 貿易統計による 」 名古屋大学経済構造研究センター 調査と資料 国連 第 97 号, 1993 年 岩波書店, pp. 121130, 1985 年 5. 伊藤元重・大山道広 6. 日銀リポート&リサーチ 「近年のわが国の輸出入動向と企業行動」 日本銀行 国際貿易 調査統計局, 2007 年 8 月 ― 110 ― 7. 高川泉, 岡田敏裕 「国際産業関連表からみたアジア太平洋経済の相互依存関 係 投入係数の予測に基づく分析 」 日本銀行ワーキングペーパー 2004 年3月 8. 深尾京司 個票データのパネル化と内・外挿による海外事業活動基本調査・ 動向調査の母集団集計 9. 国際貿易投資研究所, 1998 年 E. ヘルプマン/P. R. クルーグマン著, 大山道広訳 際不完全競争の理論 10. 現代の貿易政策 国 東洋経済新報社, 1992 年 6 月 Institute of Developing Economies, Asian International Input-Output Table, 1985, 1990, 1995 11. W. W. Leontief, Environmental Repercussions and the Economic Structure―an Input-Output Approach―, Review of Economic Statistics, No. 52, Aug. 1970 12. 13. Paul R. Krugman, Trade Policy and market structure, The MIT Press, 1989 Myron Brilliant, A Free Trade Area of the Asia-Pacific: An Idea with Merit, but Is It Feasible? The Brookings Institution Northeast Asia Commentary Number 11, 2007 (原稿受付 ― 111 ― 2009 年 6 月 24 日) 経営経理研究 第 86 号 2009 年 10 月 pp. 113134 研究ノート〉 イノベーションによる技術の育成 技術による情報伝達の変化と関係 金 要 山 茂 雄 約 産業における個人の経済活動や経済の決定における行動は, その心理的 側面からの分析を行うことで企業経営に新たな一面を見ることができ, ま た重要な側面でもある。 個人の嗜好や性格・性向といった主観的・心理的な要因から個人の所得, 購買力, 投資への意欲と行動の関係は理論的経済心理学といわれる分野で ある。 この分野は経営学における 「産業心理学」 や 「経営産業論」 に繋が り, 深く関係している。 また, 産業での人間の行動を心理学的視点から理 論的分析を行うことは, 「IT 化による社会の変化」, 「技術革新による産業 の再編成」, 「企業組織の機能と役割」, そして, ここで扱う 「IT 化という 技術革新による産業の弱体と創出, 労働意識と雇用変化」 に深く関係する ものでもある。 本稿でははじめに, 企業の創造的経営に見られる技術革新を概観し, IT による社会形成が, その技術革新により意識の変化と情報伝達の論理体系 への影響に関し若干述べるとする。 キーワード:意識, オントロジー, ナレッジマネジメント はじめに 社会は景気の急激な変化で工場閉鎖などリストラに追いやられたり, 不 ― 113 ― 動産の価格下落による評価損が膨らんだりしたことが企業行動に多大な影 響を与えている。 企業行動の影響は, 社会経済に大きな変化をもたらして いる。 ジュボンズの心理的ヘドニズムの 「享楽逓減の法則」, メンガーなどオー ストラリア学派の 「限界効用価値説」 は, 個人の主観的な欲望と欲求など に経済行動の動機づけを追求した。 いわゆる限界の価値学説の重要な理論 である。 また, 個人の主観的な欲望と欲求などが個人の心理的行動に影響 を与え, それが経営者の場合には企業経営自体に深く関わりが生じる。 企 業経営者は, 企業の取り巻く環境と市場の経済現象を把握し, その経済行 動を主体としての人間の様々な心理的要因を知ることもまた, 重要である。 個人の嗜好や性格・性向といった主観的・心理的な要因から個人の所得, 購買力, 投資への意欲と行動の関係は理論的経済心理学といわれる分野で ある。 この分野は経営学における 「産業心理学」 や 「経営産業論」 に繋が り, 深く関係している。 また, 産業での人間の行動を心理学的視点から理 論的分析を行うことは, 「IT 化による社会の変化」, 「技術革新による産業 の再編成」, 「企業組織の機能と役割」, そして, ここで扱う 「IT 化という 技術革新による産業の弱体と創出, 労働意識と雇用変化」 に深く関係する ものでもある。 情報社会は, 21 世紀に入り目覚ましい発展を遂げた。 特に, 日常生活 は情報化の影響を大きく受けた。 具体的には携帯電話やインターネットの 普及によって, コミュニケーションや商取引の方法が大きく変化したので ある。 また, 一般の人々がオークションに参加し, 株の売買に直接関わる ことは想像する者が多くなかったはずである。 そして, 産業, 政治・経済, 教育, 芸術・文化など広範囲に活動展開し質的・量的に変化したのである。 質的な変化は, 情報社会の核である情報や情報技術の知的な営みおよび活 動の正しい理解が必要である。 また, 新たな産業創出のため, 広範囲に扱 う領域も必要である。 つまり, 文理融合した領域への試みが必要で, さら ― 114 ― に情報技術の発展, 産業の情報化, 生産の情報化, 情報と経済・経営, 情 報と組織, メディアと情報, メディアとテクノロジー, 教育と情報化, 人 と情報, 知識と情報などの視点から探求することが重要である。 そして, 基本的なモデルとして 「オントロジー思考」 も見逃せない。 そこで近年の知識ベースシステム研究は, 人間の設計者と共存してその 活動を支援することに専念すること, そして, 保守が容易で多くの人が共 有できる知識ベースの構築へと変化している。 前者に関する一つの動きが ナレッジマネジメントであり, 後者がオントロジーに基づく知識ベース開 発である。 これらの思考も含め考えることも重要である。 本稿でははじめに, 企業の創造的経営に見られる技術革新を概観し, IT による社会形成が, その技術革新により意識の変化と情報伝達の論理体系 への影響に関し若干の考察を行った。 1. 創造的基本経営 戦後の高度経済成長を経て今日, 人々に与えてくれたものは 「豊かな社 会」 という物質的側面の満足感である。 地球全体から観ても貧しい社会と はいえない。 企業にとってこのような社会状態は大いに意味深いものがある。 物質的 に生活が豊かになったということは, 日常生活の中で多種多様の物が存在 することを意味し, その裏には並みの商品やサービスの提供では, 消費者 が感心を持たないことであり, たとえ商品を購入したとしても消費者自身 が満足しない結果となるのである。 そのような状況から企業は危機感を抱 くと同時に存在すら危なくなることを意味するのである。 現実にこのよう な現象が産業界や日常の生活の中で観ることができる。 消費者の欲求や要 求は従来よりも多く, また, 企業が消費者の求める物をなかなか捉えるこ とができないのである。 その一方で, 企業は他社に勝利する目的があり, ― 115 ― ここに創造的経営の問題が現れるのである。 企業の経営は少しでも視野を広げ社会の動向を観察し, 消費者の思考を 迅速かつ的確に捉え, 対処しなければならない。 そして, 企業は他社との 競争を念頭に入れながら, 環境の変化への適応に取り残されないように対 応し進まなければならない。 もちろん, 新規事業の開拓, 商品開発などリ スクが付きものであるが戦略的に回避させ展開しなければならない。 つま り, リスクマネジメントも必要である。 このように企業の経営活動には必 ず創造的経営が必要であり, 創造的経営により他社との優位性を保つこと ができ, より一層重要性が増すと考えられる。 ここで, 創造的経営や戦略という言葉が多く観られるが, 別の表現では 戦略的経営, 或は戦略的意志決定などといった言葉もある。 多様に使われ ていることから, その意味が必ずしも明確ではない。 個人の理解したイメー ジがすべて同じではないことは多様化した現代社会ではあたりまえであろ う。 創造的経営の基本的な思考は, 従来の戦略に由来する。 しかし, 情報技 術の発達で創造的経営の基本的な思考は, 社会環境が従来と比べて大きく 変化していることからもその意味合いが変わる。 従来の戦略は元々戦争か ら由来し, それはどうやったら相手に勝てるか, 総合的・全体的にあらゆ る角度から策を示している。 したがって, 企業経営の場合, 総合的・全体 的展望に立ち, 他社との競争の中で, 企業自体の優位性の維持と勝利する 方法を示していると捉えることができる。 そこで著名な研究者の見解を考 慮にいれながら, 次のように捉えることができる。 Ⅰ. 創造的経営は一組織が達成するだろう主要なサービス このようなサービスを創り出し, 配分する場合における主要な特異性の 基礎であり, その組織が必要とする諸資源の継続的流れを獲得することを 可能にさせる。 さらに, その特質として, 一つは当該企業を何年にもわたっ ― 116 ― て, 導いていくものであり, 動因を築き上げるための時間が必要である。 ただし, ひと度築き上げられると, なかなか変更が難しい。 二つ目は, そ れが強調する点において全て選択的でかつ, 重要である主要な特徴に焦点 を当て, 特異性の基礎であり続けることである。 また, 企業行動にとって の優先的指針で, 最重要な実施活動の目標を用意して, 理想的な思考の使 命の意味を伴って組織全体に浸透しているのである。 さらに, 企業の対外 的環境および内的活動双方に対して, 企業に対する様々な関係を導くこと である。 先に述べたように組織はいったん構築されるとその後, 変更が困 難である一面がある。 したがって, 組織は環境の変化に対応できないこと であると同時に先駆的なものにしなければならないのである。 Ⅱ. 創造的経営は企業の目的達成の力とその効果および活動の流れ 創造的経営は企業目的の達成に力となる一つの効果的な手段であり, 新 しい開発に導く活動の流れでもある。 この過程は, 企業経営の策定者が諸 目的を決定し行う手法である。 この決定は最終の目的を達成するための手 段であり, 創造的経営に係わる事業, 製品, 市場および実行されるべき機 能, 目的達成のための組織にとって必要とされる主要方針に係わる規約を 含んでいる。 方針は事業計画を適切に実施し, 実施のための達成される可 能性のある組織にいかに業務を配分できるか, を示している。 組織の中で 業務配分された業務活動集団はその枠の中で, 事業計画・実施・遂行の決 定権限が与えられるのである。 創造的経営は各自独自の要件を備わってい る。 しかし, 必ずしも上記の項目内容でなければならないというわけでも なく, 区別はない。 すなわち, 組み合わせが可能である。 ただし, 100% ではなく, 組み合わせた結果, 組み合わせが適合するものと適合しないも のが生じ, それが特有の限界であり, リスクとして現れることになる。 ― 117 ― Ⅲ. 環境は社会, 技術等の変化の割合と天然資源の希少性 社会環境の変化とは環境, 社会, 技術等の変化の割合, 経営社会環境の 変化とは環境, 社会, 技術等の変化の割合, 経営組織の増加と国際化, 天 然資源の希少性, コストの増大が組織環境を一層複雑なものとしている。 最近では組織の統廃合化と縮小化, 人員の削減の傾向にある。 そこで, 経営組織は複雑かつ変化しやすい環境下で企業の将来に向けてどのように 意志決定を行うのか, その過程が創造的経営である。 その中で企業経営の 戦略は組織の未知なる方向への意志決定と決定の遂行に深く関係を持って いるのである。 また, 創造的経営は, 例えば公的な機関, 地方自治体のよ うな限定領域にも十分適用でき, さらに中央組織 (企業の本社の領域) や 地方・地域 (支社, 支店, 地方営業所) に十分適用できるのである。 Ⅳ. 包括的な目的と達成への活動 創造的経営は, 包括的な目的を達成するための活動の全般的手順と諸資 源の開発である。 そして, 組織の目的とそれらの変革の手順, 目的達成の ために用いられる諸資源と獲得, 利用, 配備を支配する方針でもある。 ま た, 企業の基本的な長期目的の決定と諸目標への到達に必要な活動である。 したがって, 企業がどのような事業に参入したら経営の効果が現れるの かを決定しなければならない。 創造的経営の目的は直接的に市場に対して の主要方針・方向の機構・機能, すなわちシステムによって企業の選別を 映像化し決定, 伝達することにあると言える。 企業がどのように目的を達 成するかは, 他社の目的と達成に至るまでは推測可能であっても決定まで は至らない。 それは, 思考と行動の指標に対する枠の設定に過ぎないので ある。 また, 創造的経営は 「組織目的に対する手段であるのが戦略であり, 組織目的を達成する方法である」 と捉えている。 もちろん, 到達地を幾つ かにわけることにより選択性が生じてくる。 選択性の現れが決定を生むの である。 また, 経路に従って活動することは決定の履行であり, 実行であ ― 118 ― る。 一つの到達目的があるならば決定と履行の双方とも必要になる。 いろ いろな問題が発生し, 戦略と目的はその問題と機会が認識され, 解決し, 新たな創造が出現して展開する。 進展することがよりよいものへの発展と つながるのである。 例えば, 造船会社の飲料水事業へ, 鉄鉱会社の情報産 業へ, 情報産業会社のカメラ事業への参入など挙げられる。 企業の経営管理において戦略と目的は組織階層に存在し, 相互関係を持っ ている。 このことは, 両者の組織に対する効果的な管理体制を生きたもの とすることができる。 効果的な組織は, 目的と手段の連鎖によって目的へ と結ばれ, 企業の目的を達成するための組織の上部管理者の戦略は, それ 自体が組織の下部管理者に対して目的を準備することができるのである。 以上のことを踏まえて, つぎのように考える。 創造的経営はある設定された目的に対して, 最終到達点への手段であり, そこには, 組織の哲学, 使命の規定が設定され, その目的の中に存在し, 一つの組織文化を形成している。 その中には, 環境変化への対応, 競争上 の詳細分析と内部的組織分析が必要になり, さらに, 創造的経営には長期 的, あるいは短期的, 選択的, 継続的な分析手法があり, 出発地点から目 的地に至る経路まで展開し, 活動している。 もちろん, 企業レベルで総力 をもって市場へ参入するのである。 また, 経営環境, 社会, 技術革新など 構造的な変化が進行し, 異なる種類の事業機会が発生するなど, 複雑, 多 様化により, 自らの変革がキーになっている。 その状況下で事業, 製品, 市場への重要な遂行されるべき諸機能として研究開発, 製造が挙げられる。 この活動は別称で技術革新戦略と呼ぶ。 狭義の戦略では開発が技術・研究開発戦略, 製造が収益性改善計画戦略 である。 つまり, 企業の長期的期間に展開, 活動すべき事業領域の展望な のである。 しかし, 戦略の技術革新への適応性に関し, 技術中心の戦略で は, 異なった思考が存在する。 ― 119 ― 2. 科学技術の変容 2.1 科学技術の発展と企業 科学技術の発展は, 産業革命に見られるように急速な工業化と合理主義 がもたらした新たな社会問題や経済問題が現在も同様に肥大化し複雑なも のとなっている。 19 世紀には, 自然科学や経験的・科学的アプローチで も解決する必要性が生じ, 計画と管理による新しい合理主義が生まれた。 20 世紀にはますますその傾向が強くなり, 自然科学の飛躍的発展と生産 手法としての科学技術の進展が急速に進んだ。 現在の技術は従来からの目 覚ましい発展によって成し遂げられた結果である。 その科学技術の概念に は, 生産手法としての技術そのものの定義づけや経済・産業構造との関係, 社会・文化的側面などさまざまな側面から議論が行われた。 例えば, コンドラチェフが 18 世紀後半以降の資本主義経済の景気変動 の波動とその要因を分析した結果からの概念定義やシュムペーターの技術 革新論, また, 人類学・文明論的な視点から分析したトフラーの概念定義 などがある。 それぞれ異なった科学技術の概念定義が示されているが, こ れらの科学技術の発展の特徴には, 経済変動, 景気変動, また, 発明と発 見などによる社会変化によって定められていることである。 以上, 科学技術の発展は様々な視点でみることでより明確化する。 した がって, 技術的視点に的を絞り, 産業革命以後の科学技術の発展のようす について, それぞれの特徴をおさえながら三つに分け述べる。 第一期は, 19 世紀中期までを示す。 この頃は, 労働の手段としての道 具を作り, 生産活動を行っている。 産業革命によって始まった生産方式は 人間の労働 (肉体労働) に対する代替物としての機械の存在がある。 また, 紡績機械の発明によって生産技術の変革が行われ, 機械制工業が始まり, 機械化への関心が広まったときである。 そして, 機械化が進展する過程で ― 120 ― 製品の大量生産へと進んだ。 その大量生産された製品の輸送手段の開発と 発展で波及する効果, さらに関連する産業の影響がさらなる効果を生むこ とになる。 それが工作機械の登場である。 第二期は, 19 世紀後半から 20 世紀初めである。 この頃には, 大量生産 方式が確立されている。 この大量生産方式の確立には, 現代の大量生産方 式と異なり, 製品の品質は保証されていない。 つまり, 製品の寸法がすべ て同じではなく, 誤差がある。 しかし, 許容範囲内として扱い今日のよう な精密さはなかった。 この時代の大量生産方式には, 熟練工や未熟練工な どの区別がなく, 製品を作る特徴がある。 また, 手工業から完全な機械制 工業へと生産の効率化が行われた。 さらに, 自動車製造の企業では, 移動 組み立て方式による部品の運搬の自動化と部品の標準化など, 近代的な生 産システムが登場し, 労働生産性の向上とオートメーションへの期待およ び新しい技術が開発された。 第三期は, 20 世紀はじめからの急激な進歩の時である。 また, 20 世紀 中期には, 第二次世界大戦が急速な社会変化をもたらした。 例えば, 農薬, 抗生物質などの生化学, ナイロン, 特殊合金などの新しい素材, さらにレー ザー, トランジスタ, 原子力など, 新しい科学技術の成果が示された。 そ れらは将来の新しい技術への創造でもあり, 特に光コンピュータ, 量子コ ンピュータなどが考えられていた。 そして, 自動制御機能があるフィード バッグ・オートメーションの発達へと進むことになる。 コンピュータの高 度化がさらに新しい技術革新へと導くことになる。 この第三期の戦後の科 学技術の発展では, 既存の技術と新しい技術との融合や結合が行われ, さ らに体系化されていることである。 このような体系化された科学技術の発 展を 「システム型技術革新」 といえる。 日本企業の科学技術の発展を例にとると, 日本企業の特徴は, 第二期か ら第三期の科学技術の発展が速いことである。 これらは, 日本企業の基本 的考え方の中に, 欧米に追いつけ, 追い越せの目標があったからである。 ― 121 ― また, 目標を達成するためには, 企業の組織内における独自性が重要であ る。 他にも日本の生産現場の大きな特徴は, 働いている人々の職種があま り細分化されておらず, 単能工でなく多能工が多いということである。 あ るいは仕事の幅は広く, 隣の職務の人々と助け合うということもよく見ら れる。 また, 多くの日本の工場には, QC サークルという品質管理のため の職場の従業員を中心とした小集団活動が見られるなどの特徴がある。 こ こで見られる光景は, 実は科学技術の発展とともに生産現場では, 組織と してのそれぞれの役割と情報の伝達が形成され, 実行されていることであ る。 2.2 技術のオフィスへの応用と経営 日本の生産現場と開発現場の特徴の多くは, それ以外の職場にも当ては まるものである。 特に, 人事と教育のあり方については, ほぼ同じことが 工場以外でも, ホワイトカラーの多い職場でもいえるであろう。 その典型 が内部昇進と人事のローテイションである。 日本の企業では, 外部からヘッ ドハンティングなどに見られるスカウト人事は極めて少なく, トップ経営 者も含めて内部昇進である。 そして昇進の際に, 単に地位が上がるだけで なく, 異なった職場や異なった職能を経験するようにキャリアバスがつく られることが多い。 そのために人事のローテイションがかなり頻繁に起こ る。 そのローテイションは OJT の現場でもあり, 幅広い人的なネットワー クをつくる手段でもあり, また他の職場の事情を理解する現場でもある。 そうした様々な役割を担って人々は 3 年から 5 年を単位に職場を変わって いく。 人事のローテイションが行われるもう一つの理由は, 人事評価に関 連している。 ローテイションの間に, 人々は様々な仕事をし, 同時に様々 な上司のもとで業務を遂行していく。 いずれもその人の評価の源泉に多様 にしている働きがある。 どんな仕事で能力を発揮するのか, あるいは多く の人に高い評価を受けるか, といった意味での多様性の源泉である。 この ― 122 ― ような人事評価が長期間に渡って行われる。 そこから先では実績によって かなり差が開いてくる。 つまり, 組織の中で決定的な選抜が行われるまで に, かなり時間をかけるのである。 この選抜と評価の方法は, いくつかの 効果をもっている。 最も大きな効果は, 人々に自分の能力蓄積を時間かけ て行うインセンティブをもたらすことである。 そして, 人事評価が客観的 に行われるという点である。 このような長期的な評価と選抜の結果, 組織 の人々の間には長期的内部競争が生まれる。 この競争には企業全体の能力 の蓄積という大きな貢献をもたらす。 そして, 長期間の努力への報酬とし て, 年功という努力の年限に応じた賃金の支払いにも合意性が生まれるの である。 このことは企業社会の組織の秩序と調和を保つというのがその根 底にあり, また目的でもある。 どのような仕事場であっても, どのような 職能現場であっても, あるいは人事に関しても, それぞれの職場の活動の 基礎にあるのは人々の意思決定であり, その実行 (行動) である。 そして, その背後にある人々のコミュニケーションと, 共にそれらのあり方が組織 の活動効率の向上として基本的に決め, 意思決定とコミュニケーションの あり方に特徴がある。 日本の企業経営はボトムアップ経営と呼ばれ, それ ぞれの権限が実質的に分散されている。 また日本の企業が多く採用してい る製販分離の事業部制は, 企業内部に市場的要素を生み出している。 以上, 述べたことは日本の組織のマネジメントの様々な特徴である。 組 織の情報の相互作用の現場となる視点で, 日本の企業経営の特徴は情報の 相互作用を活発にするための多様的な手段として整理できるという視点で ある。 その視点からすれば, 日本企業は情報の相互作用に大きな努力を払 い, それゆえに情報効率の高い組織を作ることに成功し, それが企業とし て, そして国際的に見ても高い成果を挙げたことにつながっている。 企業 の組織の中で人々は情報を受け取り, 処理し, その結果として意思決定を している。 あるいは, 情報処理のプロセスの中から情報の意味を発見し, 新しい情報の創造を行う。 さらに, そうして処理され, 創造される情報を ― 123 ― 人々の記憶やその他の様々な記録媒体を通して蓄積しているのである。 さ らに, 企業組織の人々は, 企業の外部の人々ともさまざまな形で情報交換 を行っている。 異業種交流会は情報の交換には最適である。 組織の至る所 で情報交換し合い, 相互に影響を与えながら, 集団として活動している。 この情報のプロセスの総体を情報的相互作用 (より正確には情報の処理, 創造, 交換, 蓄積のための人々の間の相互作用) と呼ばれている。 企業は, 現場に密着した情報をより多く発生させ, それを現場で利用す るしくみを, 企業は多面的に開発してきているのである。 また長期的な関 係が基礎となっている日本企業は, 企業の内部ではコミュニケーションが 多くなりさまざまな経験と言語を共有する。 そのためコミュニケーション の効率性と信頼性が高まる。 そのため情報の伝達がスムーズになる。 日本の研究開発の一つの特徴として 「ラクビー方式」 というのがある。 それは, 「情報の拡散と融合」 に適しているということである。 拡散が迅 速に行われるには, それぞれの情報の拡散の早さと融合の容易さが鍵とな る。 拡散が迅速に行われるためにこの方式が寄与しているのは, それぞれ の情報をもった人間が連携プレーで, 共通の場をもちながら仕事をしてい くからである。 仕事場の共有が, 意図する情報と意図しない情報が混じり, 相互作用が起きる場を提供している。 そして, その結果, 新たな情報が生 まれる可能性がある。 企業の情報の流れの起動点と情報のキャリアについての考え方は, 上記 で述べたような仕事のしくみである。 その考え方が受け入れられやすかっ たからこそ, このユニークな方式が日本企業の間に広がったのであろう。 このしくみの情報的な特徴は, 生産工程間の複雑な調整をする情報の流れ をしくむ際に, 「市場を情報の流れの起動に」 していることである。 需要 量の情報が, 作業工程において共有化した情報として活かされ, 工程間の 実際のモノの動きに完全に連動している。 したがって, 「情報をモノの流 れに付属して流れていく」 という特徴をもっている。 情報だけが一人歩き ― 124 ― することがない。 モノが情報のキャリアになっているだけに情報が実態を 表さないということが起きない。 この方式はより抽象化していうと情報の 流れの起動点とキャリア一般について一つの原理になっている。 それは, 市場を起動点にモノと付属して流れる情報, 情報のキャリアとしてのモノ という原理である。 実は, この考えにもとづく生産のしくみは既に存在す る。 それは, 末端の小売りから工場の生産管理までの流通を大きな情報シ ステムで網羅して, 生産計画を末端の市場情報に連動させ, さらにはモノ の流れに合わせて情報を流すしくみをとる企業がある。 それがここでいう 流通の情報化である。 それは単に物流の合理化にとどまらず, 製品開発に 至まで影響を与える情報伝達のしくみになっている。 企業が情報の伝達の 結節体だといっても, そのままだと情報は流れない。 情報の伝達の起動点 とキャリアの工夫がいる。 それを市場にし, モノにするのは, 市場志向, モノ志向の日本企業の考え方を象徴しているのである。 3. 情報伝達のための認知情報とオントロジー 近年の技術革新で目覚ましく発展を遂げた分野として自動化と電機機械 (メカトロニクス) が挙げられる。 また, 半導体産業である。 特に, 電機 機械とその関連機器は多くの生産現場などで稼働している。 これらの技術 は IC, LSI など微細加工技術を利用してできたもので, それをマイクロ エレクトロニクス (ME: Micro Electronics) とよばれている。 この ME はオフィスオートメーション (オフィスの自動化) や多品種少量生産を可 能した技術である。 生産手段としての技術の発展は急速な発展を遂げ今日 至っている。 もちろん, 産業革命は目覚ましい技術革新であった。 労働の 手段としての道具を作り出し, 生産活動を行ってきた。 はじめの生産方式 は人間の肉体的労働の機械への代替にその特徴が見える。 また, 輸送手段 としてのものが開発された。 これらの機械化によって人間の労働の変化と ― 125 ― 生産性向上へと変わっていく。 その後は, 大量生産方式と大量生産のため の設備・整理, そのための部品の開発など技術が拡大した。 産業革命で見るように, 機械が部品を作り, そしてたくさんの部品の集 まりから新たな機械を作りだす過程がより高度化することでどのような状 態になるか, 想像がつくだろう。 つまり, オートメーションとメカトロニ クスに繋がるのである。 そこには, 人の作業しているようすが見なくなっ ていくのである。 仮に IT 化の象徴であるインターネットがすべての人々 に利用されるようになったら, 生産現場や工場から人の姿がなくなる可能 性がある (20 世紀末に完成した世界的な機械メーカの無人化工場がある)。 つまり, 雇用問題が発生する可能性が生じることになる。 この社会的現象 は労働者の意識, 生産現場の作業組織, そして雇用に多大な影響を与える ことになる。 また, 企業の定着率の低下, 人間関係にも及ぶことになる。 このように科学技術の発展によって, 仕事に対する意識が変わる。 つま り, コンピュータのハードウェアやソフトウェアの利用には差がない。 ま た, 国際競争や企業間競争が生産性向上の絶対条件であると人々は認識す るだろう。 科学技術の発展は自動化と電機機械を生んだ。 しかし, 事務, 管理, 営 業などの部門の合理化, 効率化, 省力化など大幅に雇用体系に暗い影があ たることにつながる。 つまり, リストラである。 そこにいて仕事をする者 として不安な状況を引き起こす結果となる。 そのため, 労働の意識が低下 し, 転職する者や退社する者もいる。 情報社会は, 情報化によってもたらされた社会である。 情報化は情報技 術により進展し, さらにその中で情報技術産業は世界中で大規模かつ最も 急成長している産業である。 特に, コンピュータやその関連する事業が推 進力となっている。 情報社会は人間の知的な活動領域を広げ, お互いの競 争を通じて個人の能力を伸ばし, その結果多くの産業の創出につながって いくと考えられている。 ― 126 ― 一方, 経済面では世界経済が市場経済体制に移行され, 21 世紀に向け 歩んでいる。 また, 国内では未だに景気が停滞し金融証券市場が混沌とし た状況である。 そして, 雇用に不安の影を落とし, その後, 企業や個人に 対し自己改革能力の必要性と創造性および独創性などが問われることとなっ た。 特に個人に対し, 自ら改革しなければならない社会環境になって来て いる。 つまり, 自発性・創造性など能力の向上を必要としていることに気 がつき認識しなければならない。 例えば, 企業では社内教育の一貫として, 社内外のセミナーの参加や資格取得などを奨励している。 しかし, まだま だ社員の意識が高いとは言えない。 よって, 企業は社員の自発的行動と横 並び意識および体質改善への意識改革を社内教育で行わなければならない。 そして, 個人が自律的に発想し, 信条を持って行動することである。 また, 企業は個人に対し既成の秩序にとらわれない動きや試みを大切にし, 柔軟 な発想の元に新しい思想や技術を次々に創出させるように環境整備を実施 し, さらに発信させることである。 発想がないために新しい試みも生まれ ないし, 新しい技術や産業も生まれないのである。 そのために, 自己の現 状分析を行い変革への意識を高めなければならない。 したがって, それらの不足している能力等を効果的かつ効率的に得るこ とができる方法があれば最適である。 例えば, スポーツ関係では 「イメー ジトレーニング」 「コーチング」 で選手の持っている力を最大限に引き出 す。 しかし, 企業人等には, 特に能力を上げる効果的な方法はない。 最近で は, 別の分野で開発されたものが利用されているケースもある。 それが先 行研究である 「オントロジー工学」 である。 この分野がどこまで先進性が あり, その成果が試されているのであろうか。 オントロジー工学はここ数 年のセマンティックウエブの進展に刺激されて注目を集めている。 また, オントロジー工学の研究として基礎研究を含めてその有用性の実証研究も 含め研究されている。 その中で, 機械設計を主に対象として人工物の 「機 ― 127 ― 能」 という概念に着目して機能オントロジーの設計を中心にして, 生産現 場における技術知識の体系化のための 「枠組み」 を設計, 開発してきた事 例がある。 近年, オントロジー工学の成果といえるものである。 オントロジー工学は, 設計は知識集約的行為の典型であり, 実際, 設計 者が設計過程において必要とする知識は多種多様, そして大量であること から, コンピュータを用いた知的な支援に関する研究はこれまで盛んに行 われてきた。 意思決定支援システム, そしてエキスパートシステムが注目 を集めていた 1990 年前後にある種の自動設計システムが多く構築された 経緯がある。 しかし, 残念ながらその多くは成功には至らなかった。 その 原因には, 自動設計システムの構築という目的が個人の思惑に片寄りすぎ たこと。 そして設計の知識ベース構築技術の知識不足と未熟さがあったか らである。 この問題は設計支援に限らず他の知識ベースシステムにも共通 する問題点であるといえる。 つまり, 知識と知識に見合う技術の両方があっ てこそ完成されるものであるといえる。 そこで近年の知識ベースシステム研究は, 人間の設計者と共存してその 活動を支援することに専念すること, そして, 保守が容易で多くの人が共 有できる知識ベースの構築へと変化している。 前者に関する一つの動きが ナレッジマネジメントであり, 後者がオントロジーに基づく知識ベースの 開発である。 特に, 後者では, 大阪大学 (産業科学研究所) の溝口教授が 長年の研究とその成果に基づいた機能的な知識の体系化研究の成果を, 生 産現場の技術者が持つ生産設備の機能に関する知識を抽出, 管理, 活用す るシステム構築に適用した事例について報告している。 機能概念のオント ロジーを概説すると, 生産現場におけるシステムの構築には, 生産現場の 知識が多様である今日, その設備の機能的な構造に関する知識が重要であ ること。 特に, 重要な位置を占めている各技術者個人の頭の中にのみ存在 する知識が多く残されていて, 知識が暗黙的かつ主観的である。 さらに, 記述対象の設備の依存性が高く, 他の設備には適用できないことである。 ― 128 ― つまり, 技術者の間で共有し利用されているが, その他の活用ができない。 それは, 概念や用語が統一されていないためである。 生産技術に関する知 識の共有と活用およびコンピュータの支援が可能になれば, 生産設備の維 持や保守, さらに生産効率, そして製品の品質の向上に大きく影響する。 次に, 機能的な知識の現状についてであるが, 上述の問題の根本には 「機 能」 に関する科学的な理解が不足しているという大きな問題がある。 システムとして機能的なモデルに関する研究は多く行われてきているが, 基本的には機能は単なる語彙として扱われる色彩の強いもの。 振る舞いの一種であるとされる。 とのどちらかに別れる。 しかしながら, 機能的な概念は, そのいず れだけでもない機能は概念であり, それを概念としてコンピュータ処理す る方法等を考え, 提案する必要がある。 この点はこれまでの研究に欠けて いた重要な点である。 機能を概念としてコンピュータ処理に扱うという点 から見た場合, この現状の問題点は, 次の 4 つの依存性にまとめられる。 タスク依存性 機能的な知識は実務においては特定のタスク (製品要求分析, 故障 診断, など) に依存した表現の仕方に沿って記述される。 そのために, 各表現間での相互運用性が保てない。 対象依存性 多くの機能的な知識は具体的な対象物に依存した用語, 最善の場合 でも対象物が属する領域に依存した用語を用いて記述されるため, 異 分野間での知識の共有は困難であるばかりでなく, 同じ領域において さえ, 異なった対象に適用可能かどうかの判断は困難となる。 組織化の際の依存性 概念の理解において関連概念を分類することは本質的であるが, 一 定した視点で, しかも概念の本質を捉えた点で組織化することは容易 ではない。 実際にある学会が編集しているテキストにおいても見方が ― 129 ― 混在した概念分類がなされている例がある。 対象を見る視点への依存性 そもそも機能は人工物を構成する全部品にアサインされるべきもの であるが, 人工物を一定した点で部品 (機能単位) に分解する方法は 定式化されていない。 したがって, 対象物の機能分解を一定にし, そ れに基づいて一貫性を持つ機能構造を抽出することは容易ではない。 以上の 4 つに加えて機能の概念の全体的な概要問題も重要であると述べ ている。 また, 機能をコンピュータ処理で扱うためには, 抽象の概念であ る機能を振る舞いという具体的な概念に図式化して, 具体的な設計との関 連を保持することが不可欠である。 機能のモデル化において, 計算可能性 を重視すると振る舞いと同じレベルのモデルになり, 抽象性を重視すると 単なる語彙レベルのモデルになっているのが分かる。 機能に関わる知識を 適切にモデル化して機能の概念を中心とした人工物に関わる知識を体系的 に記述するためには, 機能に関する更に深い理解が必要とされる。 しかしながら, 機能の概念の 「各表現間での相互運用性が保てない」, 「多くの機能的な知識は具体的な対象物に依存した用語, 最善の場合でも 対象物が属する領域に依存した用語を用いて記述されるため, 異分野間で の知識の共有は困難であるばかりでなく, 同じ領域においてさえ, 異なっ た対象に適用可能かどうかの判断は困難となる」 ことは, 語と語の間の関 係の形式によって, その処理が推理できる。 機能概念の理解がなければ知 識の適切なモデル化とその応用として生産現場における情報システムとし て構築が難しいとする問題が解決される。 それは, 推理を理論化し, その 推理の過程を理解する。 もちろん構造の形式を明らかにすること。 推理の 過程に適用すべきアルゴリズムを決定することである。 そこで, 最適と考 えられるのが 「アナロジーによる推理」 である。 アナロジーにおけるすべ ての要素は, m 次元の類似性空間の中に位置づけられ, 項目どうしが似 ているか否かは, それらの間のユークリッド距離の長短によると考える。 ― 130 ― その空間内の二つの項目どうしの関係は, それらの間の方向と距離とで表 される。 そこに含まれる仮説をさらに正式に記述すると, その意味はさら に明白になる。 つまり, アナロジーによる推理では, 各々の語は m 次元 の類似性空間内にそれぞれ一個の点として表現できると考える。 また, 多 次元ベクトルであると考えることができる。 推理の考え方と機能の概念に用いるならば 「機能的推理」 が可能であろ う。 この機能的推理の場合, ある事実を取り出して, その事実がなぜ正し いのか, そのもっともらしい理由を決定 (事実の機能的決定因) し, その 理由を一つの法則に一般化し, さらにその法則を新たな場面にあてはめて みるということが含まれる。 これらは, 情報処理モデルやマネジメントへ の活用する際, 重要なものになる。 たとえば, 生産管理における知識管理 は, 従来から OA, FA, CIM など工場や生産現場の効率的な運用と管理 を目的に導入されている。 また, 運用と管理の中でさまざまな業務データ が蓄積され, 企業活動へ利用されている。 特に, 時代の変化を読み取るこ とや素早い対応がポイントになっている。 運用と管理は, さまざまな情報 の伝達の速さと正確さが実行されている。 以上のことは, 科学技術の発展の中で情報の伝達の体系が確立されてい ること。 また, 諸問題点の整理, 問題の解決方法などがナレッジマネジメ ントやオントロジーの中でシステムとして構築され, 迅速かつ円滑な対応 が可能であること。 特に, 生産現場から上がってくる問題点は企業組織の 開発部門にフィードバックしてくる。 その場合, オントロジーの概略図や ナレッジマネジメントが示す方法が最適であるといえる。 おわりに 近年, 科学技術の発展がインターネット, 携帯電話, E メールなど利用 を実現し, その利用者も増え続けている。 自分たちの身のまわりの環境が ― 131 ― 変わっていく中で集団から個人へ, つまりパーソナル化の傾向が目立つ。 従来から研究対象である 「IT 活用型社会の形成に関する研究」 のなかで も, この社会形成に多大な影響を与えている。 さらに, オントロジーやナ レッジに共通することは, 「効率化」 と 「自動化」 によるさまざまなケー スに対応した活用が, これから来る 「ユビキタス社会とユビキタス・ネッ トワーク」 を実現できると考える。 社会環境の変化が科学技術の発展の結果に現れてくることは明らかであ る。 また, 社会的価値, 意味が媒介となることも当然である。 これらのこ とを踏まえながら, もし新しい技術が生活に浸透し社会・生活の文化とし て特定の社会的性格, 価値, 意味が形成されるのであれば生活は社会にとっ て必要不可欠なものと位置づけられる。 また, 社会的価値, 意味が媒介と なることも当然である。 そして, 情報の伝達は, 情報処理や自然言語処理 関係においても 「情緒」 が連想に大きな影響を与えている。 この研究では, ワードネットワーク形成による処理方法と 「構文」 のネットワークによる 処理方法がある。 どちらにしても完成度の度合いはあるが十分といえない。 それは広範囲な問題項目に対する処理が不足しているからである。 そこで 「アナロジーによる推理」 による方法が従来の処理不足を解決するもので あるといえる。 アナロジーにおけるすべての要素は, m 次元の類似性空 間の中に位置づけられ, 項目どうしが似ているか否かは, それらの間のユー クリッド距離の長短による。 その空間内の二つの項目どうしの関係は, そ れらの間の方向と距離とで表される。 そこに含まれる仮説をさらに正式に 記述すると, その意味はさらに明白になる。 つまり, アナロジーによる推 理では, 各々の語は m 次元の類似性空間内にそれぞれ一個の点として表 現できると考える。 また, 多次元ベクトルであると考えることができる。 これによって, 情報伝達による連携機構の新たな理論や仮説が考えられ, さらに, 「機能的推理」 が可能であろう。 この機能的推理の場合, ある事 実を取り出して, その事実がなぜ正しいのか, そのもっともらしい理由を ― 132 ― 決定 (事実の機能的決定因) し, その理由を一つの法則に一般化し, そし て, その法則を新たな場面にあてはめてみるということが含まれる。 つま り, 経営学の意思決定論やエキスパートシステムへの期待も含む。 謝 辞 最後に, 研究活動に対し拓殖大学経営経理研究所に大変感謝するものである。 こ こに記して同研究所に謝意を表したい。 《引用・参考文献等》 (1) 溝口, 布瀬他 「オントロジー工学の成功事例」 スシスシステム研究会特別講演 (2) 人工知能学会, 2002, p. 4. 溝口, 布瀬他 「オントロジー工学の成功事例」 人工知能学会・知識ベー 人工知能学会, 2002, pp. 67. スシスシステム研究会特別講演 (3) 人工知能学会・知識ベー 金山茂雄 「情報通信と情報技術の史的展開」 経営経理研究 拓殖大学経 営経理研究所, 第 79 号, 2006 年。 (4) 松岡公二, 金山茂雄 「技術と IT ビジネスの戦略的利用」 経営経理研究 拓殖大学経営経理研究所, 第 80 号, 2007 年。 (5) 金山茂雄 「情報化テクノロジーと研究開発ネット形成」 経営経理研拓殖 大学経営経理研究所, 第 81 号, 2007 年。 (6) 湧田宏昭, 人見勝人 (7) 江村 (8) 労働省統計情報部編 技術革新と労働の実態 ME 編 労働法令協会, 1984 超 FA と OA メカトロニクス入門 日刊工業新聞社, 1983 年。 日刊工業新聞社, 1983 年。 年。 (9) 労働省政策調査部編 技術革新と労働の実態 OA 編 労働法令協会, 1984 年。 (10) 野見山眞之 ME 化と雇用問題 (11) 日本労働協会訳 日本労働協会, 1985 年。 マイクロエレトロニクス 生産性・雇用への影響 労 働協会, 1982 年。 (12) Rosch, E. (1975). Cognitive representation of semantic categories, Journal of Experimental Psychology : General, 104, 3, pp. 192233. (13) Taylor, J. (1989). Linguistic Categorization : Prototypes in Linguistic Theory, Oxford University Press. (14) Aitchison, J. (1994). Words in the mind : Anintroduction to the Mental ― 133 ― Lexicon, 2nd edn. blackwell. (15) Meara, P. (1980). Vocabulary acquisition : a neglected aspect of language learning. Language Teaching and Linguistics : Abstracts, 13, pp. 221246. (16) Meara, P. (1984). The study of lexis in Interlanguage, In Davis, A. et al. eds.), Interlanguage, Edinburgh University Press. pp. 225235. Meara, P., ibid., pp. 225235. (17) (18) Aitchison, J., ibid. (19) Sokmen, A. (1993). Word Association Results : a Window to the Lexicon of ESL students, JALT Journal, 15, 2, pp. 135150. Sokmen, A., ibid., pp. 135150. (20) (21) 窪田健一, 吉田敬一, 山下浩一 「要約文生成のための単語抽出方法」 自然 言語処理研究会, 12020, 1998, pp. 143147. 同上, pp. 144145. (22) 石川幹人, 新田克己 「法的推論システム HELICⅡの判例ベース検索の拡 (23) 張に向けて」 情報処理学会情報学基礎研究会, 4314, 1996, pp. 97102. (24) 西田豊明 「エージェント技術概説」 映像情報メディア学会年次大大会論文 集, 1997, pp. 465468. (25) 金山茂雄 「情報伝達に関するイメージ連携機構」 語学研究 拓殖大学言 語文化研究所, 2000, 第 94 号, pp. 93103. (26) 金山茂雄 「情報伝達に関するイメージ連携機構 (2)」 語学研究 拓殖大 学言語文化研究所, 2002, 第 100 号, pp. 105119. (原稿受付 ― 134 ― 2009 年 7 月 1 日) 2008 年度 (平成 20 年度) 経営経理研究所 月例研究会報告 5 月例会① (5 月 9 日・金) テーマ 「セレクトショップのリニューアルに関する一考察」 報告者 今村 要 哲 (商学部教授) 旨〉 わが国の小売業は, 廃業率が開業率を上回る状態が続いており, 商業構造の変容 による影響で, 商売の継続はますます厳しい時代を迎えていると言える。 セレクト ショップとしては, 市場環境や消費者志向の変化, ファッショントレンドへの対応, あるいは入店客数の減少による売上対策などが課題として取り上げられる。 このよ うな状況において, セレクトショップが生き残り, 繁栄していくための方策として, 店舗のリニューアルは, 重要な戦略の一つだと考えられる。 本報告では, 商品にライフサイクルがあるように, 店舗についてもライフサイク ルにあてはめて, 上昇期, 最盛期, 衰退期の 3 つ分けて各期の特徴を述べ, リニュー アルを必要とする要因を明らかにしてみた。 さらにリニューアルをするにあたり, 企業の論理を優先するのではなく, 顧客の論理を疎かにしないリニューアルを強く 認識する必要があると指摘した。 5 月例会② (5 月 9 日・金) テーマ 「ネット社会について 報告者 金山 要 高度情報化社会はどんな社会なのか? 」 茂雄 (商学部教授) 旨〉 高度情報化社会の目標には, 総務省が 2010 年に実現をめざしているビジョンに 「ユビキタスネット社会 (u-Japan)」 がある。 この 「いつでも, どこでも, 何で も, 誰でも」 ネットワークにつなげ情報の自由自在なやりとりを行うことができる 社会 ( 平成 17 年度版情報通信白書 ) が実現した場合, 自分たちはいったいどの ような生活を過ごすことになるのだろうか。 今日の社会がどのような社会なのか, 史的展開しながら明確化させ, その社会変化を概観する。 また, 過渡期でもある現 在, 重要と思われるのが, 「選択」 というキーワードである。 全てがネットワーク につながっている場合も選択し, 自己決定する。 ケータイ等の普及は自分たちの人 ― 135 ― 間関係にも同様の影響を与え 「選択」 から観ると, ケータイやインターネットで 「誰かに連絡を取る」 また逆に 「誰かから連絡がくる」 というのは, 選び選ばれた 人間関係であり, また自分のケータイに登録されている中から, あるいは知ってい る電子メールアドレスの中から, 自分で選びコミュニケートする。 つまり, 「選択」 するのである。 高度情報化社会がもたらす自分たちの人間関係の変化を, 「選択」 というキーワー ドで観た。 新しいメディアがその傾向を引き出し, さらに従来から社会にはそのよ うな傾向があり, その現れがケータイやインターネットなどであろう。 コンビニの ような 24 時間営業, いつでも, どこでも情報サービスが整備され利用でき, さら にこの傾向が増えるだろう。 6 月例会 (6 月 20 日・金) テーマ 「時価総額経営再考」 報告者 中村 要 竜哉 (商学部教授) 旨〉 会社法の制定を契機にして, 日本企業が他企業を買収するあるいは他企業により 買収される M & A の可能性が高くなったと言われている。 外資からの M & A を 回避するために, 日本企業は時価総額を大きくすることを 1 つの方策として考えて いる。 世界の M & A の状況を見ると, 米国や欧州における件数が多く, 買収金額も大 きくなっている。 特に, シナジー効果が出やすい通信, 薬品, エネルギー関連にお ける M & A が多くなっている。 トヨタ自動車などのごく少数の企業を別とすれば, 日本企業の時価総額は業界における世界トップ企業に比べると小さい。 この点から も時価総額を大きくすることは M & A を回避するために有効ではある。 しかし, 時価総額が大きいだけでは株主価値が創造されているとは言えない。 EVA (や MVA) がマイナスになっている可能性があるからである。 EVA は投下 資本額と投下資本利益率という規模と効率性がかみあっていないと増加しないとい う特徴がある。 7 月例会 (7 月 18 日・金) テーマ 「グローバリゼーションの深化による利益と競争力の変容と経営者 の意思決定」 報告者 下畑 浩二 (経営経理研究所客員研究員) ― 136 ― 要 旨〉 金融市場のグローバリゼーションの深化は, 先進資本主義各国の金融市場におい て自由市場経済の特徴を示す一方, 各国の市場経済の制度的特徴を強調して各国の 資本主義モデルの多様化をより一層推進している。 そのため銀行の経営者は企業内 のステークホルダー (従業者や株主等) が追求する 「グローバリゼーションから得 られる利益」 と 「資本主義モデルの制度的特徴」 から得られる, 2 つの異なった方 向性を持つ利益を同時に追求する経営行動を取る必要がある。 本研究では, 経営者 は単純に外部環境の変化によって企業内ステークホルダーと合意形成を図り, 意思 決定をするのではなく, グローバリゼーションの影響とは他に市場経済構造の制度 的特徴 (監督省庁による規制, 商慣習, 社会的規範) によって経営活動に対する意 思決定の幅が制約されていることを明らかにすることによってコーポレート・ガバ ナンス及び企業社会の類型の多様化を維持・発展させていることを分析・考察した。 10 月例会① (10 月 31 日・金) テーマ 「アメリカ証券法・証券取引所法制定期における監査人への期待」 報告者 岡嶋 要 慶 (商学部准教授) 旨〉 本報告は, 1933 年証券法及び 1934 年証券取引所法の制定によって, 監査人に対 する責任についていかなる変化が起こったのかを考察するものである。 1933 年証 券法は, 証券発行会社の提出する登録届出書に含まれる財務諸表に対し独立の公共 会計士による監査証明を受けることを義務づけており, その届出書に不実表示が含 まれていた場合に, 監査証明した会計士も含めた届出書の作成関与者に対して民事 責任を課す規定を置いている。 この民事責任規定によって, 職業専門家である会計 士は投資者に対して一定の法的責任を負うこととなった。 しかしながら, 当時の会 計プロフェッションを代表するジョージ・O・メイなどは, それまで会計士が職業 専門家として従事してきた監査業務の本質を正しく理解せずに導入した不当な規定 であると主張し, 強くこの民事責任規定に反発した。 しかし, このように反発はあっ たものの, その後は基本的にこの枠組みの中で監査実務が規制されることになった。 監査実務を担う会計士は, 証券法を管轄する SEC との間で, 規制する者と規制さ れる者という関係に置かれることで, 監査人としての責任を果たすことが要求され ることになった。 ― 137 ― 10 月例会② (10 月 31 日・金) テーマ 「登録免許税法及び自動車重量税法における過誤納金の還付手続き の研究」 報告者 要 小林 幹雄 (商学部教授) 旨〉 登録免許税の過誤納金の還付を請求しようとする者は一定期間に限り登記機関か ら税務署長へ過誤納金がある旨の通知をするよう同機関に請求することができると する登録免許税法 31 条 2 項の規定に関し, 最高裁平成 17 年 4 月 14 日判決 (最高 裁民事判例集 59 巻 3 号 491 頁) は, この請求に対する登記機関の拒否通知に行政 処分性を認めつつも, 当該拒否通知処分に排他性はなく請求期限を途過し当該通知 処分の取消しを受けなくても過誤納金の還付を受けることができる旨の判断を示し たところである。 この判断は, いわゆる自動確定の国税の過誤納金の額は公定力を有する行政処分 によって確定されたものではないことから, 過誤納金の還付請求権者は国税債権債 務関係においても民法上の不当利得の法理によって当該過誤納金の返還請求を求め ることができるとする判例・通説を前提としたものであり, その限りで妥当性を有 するものであるが, 登録免許税及び自動車重量税については, 税務署の当該職員に 質問検査権が与えられていないこと及び国税通則法の定める還付加算金に関する諸 規定が最高裁判決を前提としたケースを想定したものとは解されないといった手続 法上の特殊性を有しており, この最高裁の判決を前提とした場合には現行登録免許 税法及び自動車重量税法の適用において実務上の困難性と租税負担の公平上の問題 を惹起するものと思われる。 税務署長が職権により迅速かつ円滑に還付できるよう 還付手続きの一層の簡便化が求められる。 11 月例会 (11 月 14 日・金) テーマ 「欧州リレーションシップバンキングとサブプライム問題 ンス, オランダ, ドイツの地域金融機関の考察から 報告者 要 山村 フラ 」 延郎 (商学部准教授) 旨〉 リレーションシップバンキングの概念は, 関係管理から発展するものと, 与信管 理から発展するものとに区分できる。 欧州諸国の地域金融機関は, その両方を用い て, 広義のコミュニティ・リレーションシップバンキングを行っている。 二つのサブプライム・ショックは, 2007 年は多発性脳梗塞型, 2008 年は心筋梗 塞型と位置付けられる。 かつての日本の金融危機とこれらを比べると, 通常預金者 ― 138 ― の保護か銀行間市場の保護か, 不良債権問題 (貸借対照表) か流動性問題 (キャッ シュフロー) か, リテール金融機関が痛手を受けたか受けなかったか, という点が 異なる。 リレーションシップバンキングの利用による地域金融機関・リテール金融機関の 強化が, サブプライム・ショックに耐える金融制度構築に資するのだと整理できる。 12 月例会 (12 月 12 日・金) テーマ 「自治体における品質管理活動 質賞と日本品質賞を中心に 報告者 要 西尾 マルコム・ボルドリッジ国家品 」 篤人 (商学部教授) 旨〉 製造現場における不良率の低減に端を発した品質管理活動は, その適用領域を拡 大し企業全体の品質管理, サービス業などその他の産業に展開していった。 また, 活動内容も単に商品やサービスの品質の向上から, 品質管理を通した企業・組織の 改善へと拡大してきた。 このような品質管理活動環境の変化は, 高度な品質管理活動を展開している企業・ 組織に対する表彰制度の評価基準にも影響を与えてきた。 米国のマルコム・ボルドリッジ国家品質賞および日本の日本経営品質賞を中心に, 評価基準の変遷を調べると共に, マルコム・ボルドリッジ国家品質賞と各州におけ る品質賞との関係, 自治体の品質管理活動に関してその特徴を見出し, 今後の方向 性を検討した。 3 月例会① (3 月 13 日・金) テーマ 「学校法人会計基準の課題 報告者 嶋 要 基本金制度の問題点 」 和重 (商学部教授) 旨〉 「学校法人会計基準」 (「基準」) は 1971 年に制定されて以来, 基準の内容の解り にくさ, 特に資金収支計算書が難解である点や, 帰属収入から基本金組入額を先に 控除して消費収支計算を行う点をはじめとする基本金制度についての問題点等が指 摘されていた。 それを受けて 05 年 4 月に 「基準」 の改正が行われたが, それらの 問題点はほとんど解消されていない。 そこで, 本報告では, 改めて基本金制度の問 題点を指摘し, 改善の方向に関して具体的に提起した。 帰属収入から基本金組入額を先に控除する点に関して, 学校法人が継続的に保持 すべきものとして一定の資産 (主に固定資産) を定め, これらの資産の額に相当す ― 139 ― る金額については維持すべき金額として基本金に組み入れて留保すべきであってこ れを消費支出に充てるべきではないから, と説明されている。 この点と併せて, こ の固定資産についての減価償却費を消費支出として再び帰属収入から控除するとい う計算の仕組みから, 「利益処分」 制度がない学校法人会計にあっては, 基本金組 入額は本質的に過度な 「内部留保」 となっている。 したがって, 現行基本金組入額 (特に第 1 号, 第 2 号, 第 4 号基本金) の内容を再吟味し, 減価償却との関連を明 確にした上で, その組入金額を限定すべきである。 3 月例会② (3 月 13 日・金) テーマ 「交渉結果からゲーム構造を推測できるか」 報告者 海老名一郎 (商学部准教授) 要 旨〉 本報告では, 関税交渉を例に, 交渉結果から前提となるゲーム構造を推測するモ デルを提示し, その可能性と限界について議論した。 各プレーヤーの選好と戦略セットが既知であれば, ナッシュ交渉解によって交渉 結果を予測することができる。 しかし, 我々が過去の交渉から知りうるのは交渉結 果であって, 各プレーヤーの選好などゲーム構造ではない。 そのため通常は, 未知 のゲーム状況について仮定し, 理論に基づいて交渉結果を予測し, 現実と予測が整 合的であれば仮定を肯定的に評価するという回りくどい手法をとる。 そこで, ①ナッシュ交渉解の逆対応について計算し, ②交渉結果から各プレーヤー の選好パラメータを求め, ③交渉の前提となっていたゲーム構造を解析する, とい う方法で, 交渉の前提となったゲーム状況を直接的に推測した。 いくつかの興味深い結果を示せたと思うが, 同時に手法自体の限界も明らかになっ た。 この手法では, 連立方程式の解から元の方程式系を推測することになるので, プレーヤーそれぞれの選好を 1 つのパラメータで表せるような関数に限るなど, 限 定が大きい。 このことは, 「ゲーム構造」 を推測するという研究目的からは強すぎ る限定であり, 改善が必要である。 ― 140 ― 拓殖大学 経営経理研究 投稿規則 1. 発行目的 拓殖大学 経営経理研究 (以下, 「本紀要」 という) は, 研究成果の発表を含 む多様な学術情報の場を提供し, 研究活動の促進に供することを発行の目的とす る。 2. 発行回数 本紀要は, 原則として年 3 回発行する。 各回の発行について, 以下の原稿提出 締切日を設ける。 第1回 6 月末日締切 ―10月発行 第2回 9 月末日締切 ―12月発行 第3回 12月末日締切 ― 3 月発行 紀要冊子としての発行のほか, 拓殖大学経営経理研究所 (以下, 「当研究所」 という) のホームページにもその内容を掲載する。 3. 投稿資格 投稿者 (共著の場合, 執筆者のうち少なくとも 1 名) は, 原則として研究所の 研究員でなければならない。 ただし, 経営経理研究所編集委員会 (以下, 「編集 委員会」 という) が認める場合には, 研究員以外も投稿することができる。 4. 著作権 掲載された記事の著作権は, 当研究所に帰属する。 当研究所が必要と認める場合には, 執筆者の許可なく, 掲載記事の転載や引用 を許可する。 5. 投稿様式 投稿区分の指定 投稿原稿は, ①論文, ②研究ノート, ③資料, ④調査報告, ⑤書評, ⑥文献 紹介, ⑦学会展望, ⑧抄録, ⑨その他, のいずれかに区分される。 投稿原稿の区分については, 別に定める 拓殖大学 経営経理研究 執筆要 領付記にしたがって, 投稿者が指定する。 ただし記事掲載にあたっては, 編集 委員会が投稿者と協議の上, 区分の変更を行うことができる。 研究所助成研究の原稿に関わる投稿区分 当研究所から研究助成を受けた研究に係わる原稿は, 原則として論文とする。 字数の制限 投稿原稿は, A 4 縦版, 横書きで作成し, 原則として下記の字数を上限とす る。 図表についても挿入部分に対応した文字数で換算し, 制限に含める。 日本 ― 141 ― 語以外の言語による原稿についても, これに準ずる。 Ⅰ ①論文 ②研究ノート 24,000 字 Ⅱ ③資料 ④調査報告 20,000 字 Ⅲ その他の区分 6,000 字 ただし編集委員会が許可した場合に限り, 同一タイトルの原稿を複数回に分 割して投稿することができる。 その場合, 最初の稿で投稿記事の全体像と分割 回数を明示しなければならない。 執筆要領 執筆に際しては, 執筆要領にしたがうものとする。 投稿原稿の取扱 投稿原稿の受理日は, 完成原稿が編集委員会に到着した日とする。 投稿原稿原本は編集委員会に提出された原稿とし, その写しを投稿者が保管 する。 6. 掲載の可否, 区分の変更, 再提出 投稿原稿の採否は, 編集委員会が指名する査読者の査読結果に基づいて決定 する。 投稿した原稿を, 編集委員会の許可なしに変更してはならない。 編集委員会は, 投稿者に訂正や部分的な書き直しを求めることができる。 編集委員会において本紀要に掲載しないことを決定した場合には, 拓殖大学 経営経理研究所長名の文書でその旨を執筆者に通達する。 他の刊行物に既に発表された, もしくは投稿中である記事は, 本紀要に投稿 することができない。 7. 校 正 掲載が認められた投稿原稿の校正については, 投稿者が初校および再校を行い, 編集委員会と所長が三校を行う。 校正は, 最小限の字句に限り, 版組後の書き換え, 追補は認めない。 校正は, 所長の指示に従い迅速に行う。 投稿者による校正が決められた期日までに行われない場合, 紀要掲載の許可を 取り消すことがある。 8. 原稿料, 別刷 投稿者には, 一切の原稿料を支払わない。 投稿者には, 掲載記事の別刷を 50 部まで無料で贈呈する。 50 部を超えて希望 する場合は, 超過分について有料とする。 ― 142 ― 9. 発行後の正誤訂正 印刷上の誤りについては, 著者の申し出があった場合, これを掲載する。 印刷 の誤り以外の訂正や追加は, 原則として取り扱わない。 ただし著者の申し出があり, 編集委員会がそれを適当と認めた場合には, この 限りでない。 10. その他 本投稿規則に規定されていない事柄については, そのつど編集委員会で決定す ることとする。 11. 改 廃 この規則の改廃は, 経営経理研究所編集委員会の議に基づき, 所長が決定する。 附 則 本規程は, 平成 21 年 7 月 31 日から施行する。 ― 143 ― 拓殖大学 経営経理研究 執筆要領 1. 使用言語 使用言語は, 原則として日本語又は英語とする。 これら以外の言語で執筆を希望する場合には, 事前に経営経理研究所編集委員 会 (以下, 「編集委員会」 という) に申し出て, その承諾を得るものとする。 2. 様 式 投稿原稿は, 原則としてワープロ・ソフトで作成したものに限定する。 原稿作成にあたっては, A 4 用紙を使用し, 日本語原稿は横書きで 1 行 33 文字× 27 行, 英文原稿はスペースを含め 1 行に半角 66 文字, ダブルスペース で作成すること。 数字はアラビア数字を用いること。 上記以外の様式で投稿する場合には, 編集委員会と協議する。 3. 表 紙 投稿原稿の提出に際しては, 「 拓殖大学 経営経理研究 投稿原稿表紙」 に必 要事項を記入し, ホームページでの公表を認める捺印を行った上で提出すること。 4. 要旨・キーワード 投稿論文には, 前項の様式で 1 ページ程度の要旨を作成し, 添付すること。 日 本語以外の言語による投稿論文には, 使用言語による要旨とは別に, 要旨の日本 語訳が必要である。 記事内容を表す 10 項目以内の日本語のキーワードを作成し, 添付すること。 5. 図・表・数式の表示 図・表の使用は必要最小限にとどめ, それぞれに通し番号と図・表名を付け, 本文中の挿入位置を指定する。 図表についても挿入部分に対応した文字数で換 算し, 制限に含める。 図・表は, そのまま印刷できる形式で作成すること。 数式は, 専用ソフトを用いて正確に表現すること。 6. 注・引用・参考文献 注は, 必要箇所に通し番号をつけることで, 記載があることを示すこと。 通 し番号は, 肩アラビア数字, 片パーレンの形式による。 注記内容は, 文末に一 括して記載するものとする。 また, 参考文献の表記についても同様とする。 英文の場合は, The Chicago Manual of Style を準用する。 7. 電子媒体の提出 投稿者は, 編集委員会による審査後, 編集委員会により指示された修正・加筆な ― 144 ― どが済み次第, 論文等を保存した電子媒体 (FD 等) と, それをプリントした出 力原稿 1 部を提出すること。 その際, ワープロ専用機の場合は使用機種, コンピュー ターの場合は使用機種と使用ソフト名, バージョンを明記すること。 なお, 手元には, 必ずオリジナルの投稿論文等データを保管しておくこと。 8. 改 廃 この要領の改廃は, 経営経理研究所編集委員会の議に基づき, 経営経理研究所 長が決定する。 附 則 本要領は, 平成 21 年 7 月 31 日から施行する。 ― 145 ― 執筆者紹介 (目次順) 部 宏 明 商学部教授 (原価計算論) 三代川 正 秀 商学部教授 (会計学) 西 尾 篤 人 商学部准教授 (経営管理工学) 後 藤 寿 樹 日本橋学館大学人文経営学部教授 (経営情報, 行政情報) 武 上 幸之助 商学部教授 (国際取引論) 金 山 茂 商学部教授 (経営産業論, 産業心理学) 建 編集委員 雄 芦田 誠 秋山義継 小林幹雄 拓殖大学 経営経理研究 2009 (平成21) 年 10 月 19 日 2009 (平成21) 年 10 月 26 日 編 集 発行者 発行所 印刷所 鈴木昭一 武上幸之助 第 86 号 松岡公二 ISSN 13490281 印刷 発行 拓殖大学経営経理研究所編集委員会 拓殖大学経営経理研究所長 芦田 誠 拓殖大学経営経理研究所 〒 1128585 東京都文京区小日向 3 丁目 4 番 14 号 Tel. 0339477595 Fax. 0339472397 (研究支援課) 株式会社 外為印刷 TAKUSHOKU UNIVERSITY THE RESEARCHES IN MANAGEMENT AND ACCOUNTING No. 86 October 2009 CONTENTS Articles The Establishment of Costs Accumulation Thought in Japanese Cost Accounting System ……………TATEBE Hiroaki ( 1 ) A Study on the Ration of Carbon Dioxide to Added Value ……………………………MIYOKAWA Masahide ( 51 ) A Study on the Quality Activities in the Non-profit Organizations (Ⅱ): A Transition of Criteria of Deming Prize, Japan Quality Award and QC Activities in the Local Governments NISHIO Atsuto ……………………………………… ( 65 ) GOTO Toshiki Analysis on Foreign Trade Structure and Corporate Behavior in the East Asian Market ……………………TAKEGAMI Kounosuke ( 95 ) Study Note A Development of Technology by Innovation and Technology Business ( 2 ): The Change and the Relation on Communication of Information by Technology …………………KANAYAMA Shigeo (113) Edited and Published by THE BUSINESS RESEARCH INSTITUTE TAKUSHOKU UNIVERSITY Kohinata, Bunkyo-ku, Tokyo, Japan
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