フードエコロジー講座 (中級) - アンチエイジングフードマイスター。

食を取り巻く環境の変化や問題を知り、 社会的な視点を養う
フー ド エコロジ ー 講 座 (中 級 )
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フードエコロジー講座 (中級)
食べものを取り巻く様々な問題にどう対応するか
世の中に存在する食べものから有用なものを選ぶ力。 それが健康を維持し予防医療
の重要なスキルであることは間違いありません。しかし、アンチエイジングフードマイスター
の役割や社会的意義を考えると、 それだけでは不十分です。
近年、 食を取り巻く環境が大きく変化しています。 誰もが豊かな食の恵みを享受でき
るようになった反面、 飽食や偏食、 添加物や加工食品の大量摂取による肥満や栄養不
足などで、 生活習慣病やアレルギーなど現代病とも呼ばれる健康障害が多く引き起こさ
れています。 また、 食品の生産の場でも、 農薬や化学肥料による周辺環境への影響や
遺伝子組み換え食品など、 食の安全と健康効果を考える上で、 様々な問題に直面して
います。
フードエコロジー講座では、 そうした 「食と環境」 の変化に関する知識や情報を得て、
より良い食の環境づくりに向けた行動と提言をしていけるよう、 社会的な視点を養うことを
目指しています。 この講座を起点に、 食を取り巻く様々な問題について考え、 行動す
ることを意識してほしいと思います。
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5-1.
Food that Needs Special Attention and Society
注意すべき食材とその社会的背景
大きく様変わりする「食べものを取り巻く世界」
人間の 「食」 の変化は、 大きく 2 回に分けて考えられます。 まず第一の変化は 「食べも
のを自分たちで作るようになったこと」 でした。 人間の歴史は約 500 万年前に始まり、長い間、
食べものの調達は主に狩猟と採取によるものでした。 それが約 1 万年前に、人々は植物 (特
に穀物) を栽培し、 動物を家畜化するようになります。 この農耕革命により、 人は効率よく
間の食べものは、 人間の対応が追いつかないようなスピードで大きな変化を遂げてしまった
のです。
そして第二の変化が、 化学物質の急増です。 経済優先の時代となり、 食べものの効率的
な生産性、 大量の流通性が求められてきました。 生産の現場では農薬や化学肥料、 抗生
物質が多用され、 加工時には添加物や化学調味料を多量に使い、 洗浄や漂白にも薬品を
使用するなど、 多くの化学物質が食べものに使われるようになりました。 そうした化学物質は
人間の解毒能力を超え、 大きな健康被害をもたらしている可能性があります。 今日、 普通に
流通している食品の中にも、 人間の体に害となるものが多数存在していることを意識する必
要があります。
狩猟と採取
農耕と牧畜
化学物質の急増
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フー ド エコロジ ー 講 座 (中 級 )
食べものを調達するようになり、 その内容も大きく変わっていきました。 そして、 ここ 100 年
5-1-1.
注意すべき食材① 砂糖と白米(1)
Sugar and White Rice
砂糖・白米のエンプティカロリーと中毒性
アンチエイジングのためには、 「糖質の摂り過ぎを避けること」 が重要であると伝えてきまし
た。 糖質の摂り過ぎには、 栄養過多による肥満や糖化による細胞老化など、 様々な弊害が
ありますが、 恐ろしいことに、 よくないことと分かっていても食べずにいられない 「糖質中毒」
を引き起こす可能性があります。
です。 精米してビタミンやミネラルをそぎ落とされた白米は、 まさに 「炭水化物の塊=糖質
の塊」 です。 白米を一気に食べることになり、 1 食分の中で糖質の割合が高いカレーや丼
物は、 糖質中毒まっしぐらといえるでしょう。 また、 小麦粉を主原料に大量の砂糖を使用し
た菓子パンも糖質が高く、 一気に食べるほど中毒になる危険性が高まります。
その中毒のカギを握っているのが 「ドーパミン」 や 「エンドルフィン」 などの脳内物質です。
ドーパミンは快楽報酬、 エンドルフィンは脳内麻薬といわれ、 適度に刺激される程度であれ
ば、 むしろアンチエイジングに不可欠な存在です。 しかし、 白米や砂糖など糖質の摂り過ぎ
が続くと、 脳からどんどん出続け、 次第に分泌量をコントロールできなくなります。 そしてそ
のうち少しでも血糖値が低くなると脳が強く要求するようになり、 糖度の高い食べものをもっと
食べたくなります。 そして、 満たされないとイライラしたり、 気分が沈んだりするようになります。
それは、 まさに糖質中毒の禁断症状といえるでしょう。
糖質中毒のメカニズム
甘味
強く要求する
ようになる
糖質
人口甘味
味覚神経
摂取量の増加
禁断症状
肥満
イライラする
病気
気分が沈む
ドーパミン
(脳内報酬)
エンドルフィン(脳内麻薬)
快感・多幸感
摂取過多になると分泌量をコントロールできなくなる
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日本人の2人に1人、もしくはそれ以上が糖質中毒である可能性があり、その 1 つが 「ご飯」
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注意すべき食材① 砂糖と白米(2)
Sugar and White Rice
糖質中毒から抜け出して、体の老化をストップするには
糖質中毒の怖いところは、 体がどんどん 「糖質だけ」 を欲して、 より糖度の高いものを選
ぶようになることです。 白米や白砂糖などは 「エンプティカロリー」 といい、糖質がエネルギー
となるために必要なミネラルやビタミンをほとんど含みません。 多く摂取した結果、 肥満や高
血糖の原因となり、 最終的には糖尿病や高脂血症などの成人病を引き起こす可能性が高ま
そうした中毒症から抜け出すためには、 情けをかけずに一気に糖質を減らすことが重要で
す。 こうした糖質コントロールを行うと、 体内では糖質に変わるエネルギー源として脂肪を分
解して活用しようという働きが高まります。 その際に生成されるのが 「ケトン体」 です。 ケトン
体は長寿遺伝子がスイッチオンになることにより合成され、 身体のアンチエイジング効果や脳
の認知機能を向上させる働きがあります。 その結果、 細胞全体の代謝が若返る回路が動き
ます。 糖質制限後、 約5時間でケトン体の合成が始まりますが、 その前に大量に糖質を摂っ
たり、 空腹時に糖質を摂ったりすれば、 あっというまにケトン体合成は消えてしまいます。 糖
質制限は生活習慣として取り入れることが望ましいでしょう。
ケトン体は簡単な血液検査で調べることができます。 どうしてもスイーツを摂りたい場合は、
一度血液検査で許容される糖質量を調べることも可能です。
なお、 経口血糖降下剤内服やインスリン注射をしている人は、 糖質制限は低血糖発作を
起こす可能性があり危険です。 また肝機能や腎機能が低下している人は主治医の診断を仰
いでください。
ケトン体の合成
ブドウ糖
たんぱく質
脂質
ケトン体
体内の変換工場である肝臓で脂肪を
分解して作られるエネルギー源
人間の身体を支えるエネルギー源は3つ、 「ブドウ糖」 「たんぱく質」 「脂質」 です。 主なエネルギー源ブ
ドウ糖は1日でなくなります。 以降、 ブドウ糖が供給されなければ、 筋肉のたんぱく質を変換するか、 または
身体にある脂質を使ってブドウ糖の代わりを作ります。 それがケトン体と呼ばれるエネルギー源です。 主に
脳に栄養を供給するのがこのケトン体です。 体内の変換工場である肝臓で脂肪を分解して作られます。
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