強まる中国人の海外旅行志向

「強まる
まる中国人の海外旅行志
旅行志向」
日本は
取り込め
るか?
現在の中国は「世界の工場」から「世界の市場」
へと変わりつつあります。これは中国人の個人所
得が増加していることを意味し、日本に例えると、
政府による所得倍増計画が提唱され、東京オリン
ピックが開催された60年代に重なると言われて
います。しかし、中国の経済環境の変化は当時の日
本よりも更に急激なため、一概に同じとは言えま
せん。近年の貿易黒字拡大は著しく、国内に過剰
な資金流入が続いており、日本に例えると80年
代に似ています。貿易摩擦問題や為替問題とも相
まって、行き場を失くした資金は不動産や株式に投下されるような「金あまり」状況になっ
ています。
中国国内には改革開放で誕生した富裕層だけではなく、都市中間層も新たに生まれてい
ます。行き場を失ったお金の一部を海外旅行に使いたいという潜在的な「予備軍」は着実に
増加しています。
1.海外旅行者数の増加と各国の誘致状況
中国人の観光を目的とした海外旅行が可能になったのは、約10年前からです。海外旅行
者数は特にここ5年間で急増しており、2001年の1,213万人から、昨年は2.8倍増の
3,450万人に達し、日本の1,753万人を抜いてアジアで最も海外旅行をする国となりまし
た(図1参照)。海外旅行解禁当初は、短期間で名所巡りを行うツアーが大半でしたが、現
在では中国人個々の趣向に合わせたツアーも登場しています。
最も身近な外国は、香港とマカオになるでしょう。中国人にとって、香港・マカオは中
国返還後の現在も未だ「外国」です。入境にはパスポートや通行証、ビザが必要になります。
昨年香港・マカオを訪れた中国人は1,638万人で、中国人海外旅行者の約半数が訪れてい
ます。人気の理由は、渡航手続きが比較的容易なことや、強くなった人民元を背景とした
図1
'06年 人気上位10国・地域
(単位:万人)
(単位:万人)
4,000
① 香 港
1376.1
3,500
② マカオ
262.8
3,000
③ シンガポール
103.7
2,500
2,000
1,500
1,000
500
■出所:世界観光機関
●
1●
④ タ イ
91.4
⑤ 韓 国
89.7
⑥ 日 本
81.2
⑦ ベトナム
79.1
⑧ イタリア
75.8
⑨ ロシア
72.2
⑩ マレーシア
43.9
香港でのショッピング、マカオでのカジノの人気が挙げられます。マカオは昨年、ラスベガ
スを抜いてカジノ産業の収益世界一の都市になりました。
続いて中国人に人気の海外旅行先はシンガポールとタイです。中国からの観光目的の渡
航を容認したのが早かったため、90年代から人気を博しています。華僑の国であるシンガ
ポールはもちろんですが、タイのリゾート地でも中国語を話せる商店が多いことも人気に
つながっているようです。
その次に人気なのは韓国です。日本と同様に、中国でも韓国のドラマやファッションは
息の長い人気を誇っており、「韓流」が定着しています。昨年7月、韓国政府は国を代表す
るリゾート地である済州島を訪れる中国人団体客の観光ビザを免除しました。大自然のす
ばらしさと韓国人の得意分野である歌謡などのショー観賞を織り交ぜ、一躍人気スポット
になりました。道路標識なども漢字表記を増やし、中国人旅行者の取り込みに工夫を凝ら
しています。
2.日本の取り組み
日本の人気は韓国に続きます。日本政府は
図2
虹橋空港と浦東空港の位置関係
2002年に発表したグローバル観光戦略、いわゆ
る「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の一環と
して、最も個人所得が高い上海市で日本紹介番組
のスポンサーになっています。地元テレビ局の上
海東方電視台で週末に放映される「東京印象」とい
市街地
虹橋空港
う番組で、中国人女性が日本の観光地や生活を紹
介する設定です。
浦東空港
また、今年9月29日には日中国交正常化35周
年を記念して、羽田―上海虹橋線が就航しました。
虹橋空港は、5年前まで上海の国際空港として華
東地区の空の玄関でしたが、
就航数の増加に伴い、
その座を上海浦東の新国際空港に譲り、国内線専用空港となりました。日本の成田空港も
そうですが、浦東空港も上海の市街地から距離があるため、決して便利とは言えません(図
2参照)。しかし、今回の措置により、東京―上海間の移動時間は従来よりも2時間ほど
短縮され、ビジネス客はもちろん、旅行客の増加も大いに期待できます。
一方、最近日本国内では「銀聯カード」を利用で
きる店舗が増えています。
「銀聯カード」は日本で
はまだまだ認知度は低いですが、中国で最も普及
している即時決済型のカードです(クレジットカ
ードとは異なります)。中国国内60万以上の店舗
のほか、世界25の国・地域でショッピングに利用
できます。今やVISAやMasterCardと並び、五
大国際ブランドカードの一つになったとも言われ
ています。カードの取得は容易で、中国の銀行で
人民元口座を開設する際、キャッシュカード機能
の一つとして付いてきます。カードの「銀聯」マー
「銀聯」マーク付きの中国銀行発行キャッシュカード ●
2●