『色』とは? ~ピーマンとパプリカはなぜ見分けられるのか~ 所属:物理・数学ゼミ 1年 3 組 27 番 角田 優伍 第1章 はじめに 第1節 テーマ設定の理由 世界は色に満ちている。 「地球は青かった。」これはかの有名な宇宙飛行士ユーリィ・ガガーリンの言葉だが、 なぜ、ガガーリンには地球が「青く」見えたのだろうか。なぜ、私たち人類は地球を見 て「青い」と感じることができるのだろうか。そもそも、「青い」とは、「色」とは一体 なんなのか。私が「色」をテーマに選んだ理由は、このような小さな疑問が 、ずっと私 の胸の中にあったからである。 第2節 研究のねらい 色と光の関係について調べることで、 「見る」という行為を物理学的に深く理解する。 また、色と光の関係がどのような場面で活かされていて、今後どのような場面に活か していけるのかを考える。 第3節 第1項 研究内容と方法 研究の内容 ものが見えているしくみ。色と光の関係。色と光の特殊な性質やそれの応用。 第2項 研究の方法 書籍またはインターネットによる情報収集。 第2章 研究の展開 「なにかを見る」ということは「網膜が光子を受け取る」ことであるということは、中 学校でも習ういわば一般常識のようなものだ。しかし、なぜ「網膜が光子を受け取る」と このような色とりどりの世界が見えてくるのか、物の「色」について深く理解している人 は少ないだろう。 物を見るときにとても重要な情報である色。これを深く理解するた めには、光というも のの性質を知っておくことが必要不可欠である。まずは、光の性質について書いていこう。 1 第1節 第1項 光の性質 物には色なんてついてない?! もし、私たちに色彩感覚というものが存在しなかった場合、私たちはどうなるか。もち ろん物の種類を見分けることは困難となり、日常生活に支障をきたすことは間違いないだ ろう。仮に色の違いが認識できなくなったとして、私たちはいったいどのようにしてピー マンとパプリカを見分ければいいのだろうか。カレーとシチューの見分けすらつかないか もしれない。シチューだと思って食べたものが実は激辛カレーで大惨事となることも予想 される。 では、私たちの目と脳はいったいどのようにして物の色を判断しているのだろうか。 例えば、ここに、『青いネコ型ロボット』があるとする。 このロボットは青いが、なぜ私たちは青いロボットを「 青い」とわかるのか。 実は、このロボットが青く見えるのは、ロボットの表面が光のうち「黄橙」の部分を吸収 しているからなのである。 光はよく虹の七色で表現されるが、正確にはもっと多くの色彩を含む。そしてその様々 な色をすべて合体させると、その光は白い色に見える。 ところが、その様々な色のうちある部分だけを遮ると、白かった光は全く違う色へと姿 を変える。 たとえば、光のうち黄橙の色彩の部分だけを取り除くと、それ以外の光はまとまって青 く見える。赤紫の部分を隠せば緑の光に、青緑の部分を隠せば赤の光になるのだ。この光 の性質のおかげで私たちはピーマンとパプリカを見分けることができるのである。 上の図は光の色を 20 種類に分けて円上に配置したものだが、その中で一つの色を遮断 した場合、私たちの目に現れるのはその反対側の色になる。 2 つまり、ネコ型ロボットが青く見えているのは、ロボットという物体が光のうち黄橙の 部分を吸収し、黄橙以外の光がロボットの表面に反射して私たちの目に入った結果、その 光を私たちの脳が「青い」と判断しているわけなのである。 ようするに、ロボット自体に色がついているわけではないのだ。あのネコ型ロボットは 「青い物」なんかではなく、ただの「自分に当たった光のうち黄橙を吸収して残りを跳ね 返す物体」なのだ。 第2項 「黒」と「白」 ところで、どの部分の色も吸収されていない状態では、光は白く見える。つまり、 「白く 見える物体」というのは、どの部分の光も吸収せずに「すべての光を反射している物体」 ということになる。 一方、黒い物体は「全く光を反射しない」=「すべての光を吸収する」性質がある。そ う、「黒い」というのは、「暗い」ということなのだ。「黒い物」というのは、「見えないも の」なのだ。 「なにかを見る」という行為を「網膜が光子を受け取ること」とするならば、例えば白 紙に書かれた文章を読むとき、わたしたちは 文字を「見て」いるのではないのだ。私たち が「見て」いるのは、文字以外の白い紙の部分なのだ 。それを私たちの脳は「黒い文字が 見えている」と思い込んでいるだけなのだ。本当は文字なんて見えていない。 私たちは普段何気なく色彩の中で暮らしているが、厳密にいえばすべての物体には色な どついていないことがわかっていただけただろうか。物体にぶつかって跳ね返る「光」の 性質が「色」をつくりだしているのだ。 しかし、いくら光の性質によって色が生まれようとも、その光を、その光の違いを受け 取る器官が存在しなければ、私たちに色は見えてこない。ピーマンとパプリカを見分ける ことは永遠に不可能である。 では、次は光を受け取るしくみについて書いていこう。 第2節 第1項 「目」という器官 ニュートンとヤングと時々ヘルムホルツ 「リンゴの人」として世界的な有名人である アイザック・ニュートンだが、彼は重力以 外にも人類史的にみて大発見と言われるものをいくつも発見している。 その一つが、1668 年に発見した「太陽の光は紫色から赤色までの様々な色からできてい る」というものだ。 彼は実家の窓の扉に小さな穴をあけて、太陽の光を暗い部屋に入れ、プリズムに光を当 てるという実験を行いこれを発見した。 3 これによって彼は、第1節でもでてきたように「太陽の光のような白色光は、すべての 光の混ざったもの」ということを確かめたのである 。 しかし、なぜいろんな色があり、どのようなしくみで違った色に見えるのかはニュート ンの時代にはまだわかっていなかった。 100 年以上たった 1801 年になってやっと、イギリスの医師で科学者のトーマス・ヤン グが、「色は赤・緑・青の三色によって知覚される」ということを提唱する。そしてこれ についてヘルムホルツが理論としてまとめたのが、ヤング=ヘルムホルツの三色説なので ある。今まで、多くのスペクトルから構成される光を処理するのは、 「人間の目にある無数 の光受容器である」とされてきたのに対し、光を処理しているのは「たった三種類の受容 器だけだ」と主張したのだ。ちなみにこのヤングさん、医者、科学者でありながら考古学 者でもあり、エジプトの象形文字について研究し、ロゼッタストーンの解読で名を残して いる。 第2項 視覚の正体に迫る! 人間の目は色覚をもっていて、様々な色を見分けることができる。 見ることができる色は、赤色から紫色までの色で、波長にすると、 770 ナノメートルか ら 380 ナノメートルほどの範囲の色だ。これを可視光、その範囲を可視域とよぶ。ちなみ に、シャコなどはこの「可視域」が異常に広く、紫外線・赤外線・果ては電波まで見えて いるという説があるほどだ。更に、第一項でふれたように人間には三色分しかない色覚が、 シャコには 12 色。もし人がシャコの目を手に入れてしまったら、どう説明していいかわ からないほどよく「見えて」しまうこと間違いなしである。 ところで虹の 7 色は、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の 7 つと言われているが、これは目 によく見える色を言っており、実はこれらの色の間に無限といっていい色がある。 しかし、人類が識別できる色の数は、165 色くらいまで。 ところが、普通 PC のディスプレイは赤・緑・青の光の三原色で約 16,770,000 色もの色 を表現する。これは人類の目の能力をはるかに超えた性能だ。つまり、いくらせっせと細 かく色を変えようとも人類の目はそれを識別できず変化に気が付けない ということだ。な んとももったいない話である。 さて、では網膜は実際にどのような構造になっているのだろうか。 人間の網膜には錐細胞とよばれる細胞が存在する。そしてその錐細胞には 赤・緑・青の それぞれの光に感じる 3 種類の細胞がある。この 3 種の錐細胞に光が当たると、赤・緑・ 青の光の強さに応じて興奮し、信号を脳に伝えて色を識別しているのだ。 4 例えば、星を意識したゆるキャラみたいな黄色の物体をみた場合、赤細胞と緑細胞は強 く反応しているが、青細胞はほとんど反応しない。 それらの情報が脳に送られ、私たちは「黄色い」と感じるのである。 さて、ここまでくればそろそろピーマンとパプリカの識別の謎も解けてきたのではない だろうか。 まずピーマンとパプリカに当たった白色光が、それぞれ緑・赤の光となり、その光を赤・ 緑・青の光を感知する錐細胞がキャッチ。そして、それぞれの反応の情報が脳へと送られ、 そうして初めて私たちは「こっちは緑のピーマン。こっちは赤のパプリカ」と識別するこ とが可能となる。 これが色を識別するという行為の全貌である。 第3節 第1項 Application 3 色説の応用 ヤング=ヘルムホルツの 3 色説をまさにそのまま応用しているのが、デジカメやビデオ カメラの中で画像をとらえている CCD や CMOS などの画像センサーである。 一個の画素は RGB(赤・緑・青)の3つの小さな画素からできていて、RGB それぞれの明 るさの差から色を作り出しているのである。 光や色は、今まで述べてきた性質のほかにも多くの特殊な性質を持つ。そのような光・色 の性質に目をつけ、なんとか別のものに応用できないものかと実験に生涯を捧げた科学者 たちも少なくない。 そのような性質の中でも特に、天文学的な分野でも応用されている「ウィーンの変位法 則」と、史上最高の天才画家も目をつけた「補色」とよばれる性質について書いていきた いと思う。 5 第二項 燃える色から温度がわかる ドイツの物理学者ウィルヘルム・ウィーンという人が発見した 、ウィーンの変位法則と いう面白い法則がある。 これは「黒体放射の放射エネルギー強度の最大値の波長は、温度に反比例する」という ものだ。つまりどういうことかと言うと、 「 黒い物体が燃焼しているときの、温度と波長(色) には一定の関係があり、波長(色)によって温度がわかる」ということなのだ。 そしてこれは黒体以外の物体にもある程度あてはまる。例えば、ろうそくが燃えている とする。ろうそくの炎をよく見ると、内側の部分は 赤っぽく、外側は黄色に見え、外側の 一部には青い炎も見える。赤い炎の部分は温度がやや低く、黄色い部分はやや高く、青い 部分はいちばん高温である。つまり、「私は、恋の炎が真っ赤に燃えているんだ。」という 人は、それほど熱くなっていないということだろう。 さて、この法則がいったいどのようなところに応用されてきたか。 まず、この法則が発見されたのは 19 世紀の終わりである。その頃は工業化の進展とと もに製鉄業が栄えた時代であった。品質の良い鉄をつくるには温度管理がものをいう。当 時の技術者たちは、炉の中をのぞき込んでは、色を見て温度を判断したのだ。 さらに、この法則はある天文学的な分野で役に立っている。星の温度の計測だ。 恒星の表面温度も、ウィーンの変位法則に基づいて恒星が発する光の波長、つまり色か ら知ることができる。 このように、ウィーンの変位法則は古くからさまざまな場所で利用されてきたのであっ た。 第3項 ダヴィンチが目をつけた性質とは ある色をずっと見ていると、目にはその色の反対の色として、補色(ほしょく)という ものが作られてくる。 この左にある赤を三十秒くらいじっと見つめてから白紙に視線 を移し、その紙をじっとみつめてもらいたい。色が出てくるは ずだ。何色が出てきただろうか。青緑が見えたはずである。 そ の青緑こそが赤の補色である。 外科医の執刀着が薄い緑から青になっているのは 、ドラマな どでも目にするためご存じのことだろう。これは、患者の血の 色の補色が目にちらつかないようにするためなのである。 第1章にでてきた光の色を 20 種類にわけて円上に配置した図。あの図の反対側に位置 している二色が補色の関係にある。例えば 緑の補色は赤紫、青の補色は黄橙である。 そして、この補色は色相差が最も大きいので、お互いの色を目立たせる効果がある。こ の性質にいち早く気づき、目をつけていたのが、かの有名な「モナリザの微笑」を描いた レオナルド・ダヴィンチである。ダヴィンチは当時、「補色同士はよく調和する」と語っ 6 ていた。 今でも補色配色の看板はかなりたくさんあり、例えばセブンイレブンの看板は、赤―緑 の配色となっている。 第3章 感想・まとめ 長い間疑問であったピーマンとパプリカを識別するプロセスを、ついに 、知り得ること ができた。その過程を調べている間、私は興味深い光・色にまつわる性質に何回も出くわ した。そして、その性質や特性は、様々な場面に応用されているということも知った。 私は思う。それならば、光や色のもつ性質一つ一つが新たな技術革新につながるヒント やポテンシャルを秘めているのではないか、と。 例えば、本文には記述していないが、私が今回の調査のなかで見つけた興味深い性質の なかに「光の色の違いが、人間の『睡眠』という活動に作用する 」というものがある。詳 しく説明すると、人間は、青白い日光のような光が当たると目が覚めやすくなり、逆に温 かい色の光をあびたとき、眠くなるという性質だ。これを応用して、人間の睡眠をある程 度コントロールすることができるのはと私は思う。例えば、日光に限りなく近い光をつく ることができれば、たとえ早朝でなくともすっきりと目覚めることができる はずである。 夜間に仕事をする人にはもってこいではいだろうか。逆に、人間が最も眠くなる色の光を 見つけだすことができれば、不眠症で困っている人への一つの医療法となる はずである。 このように光や色の性質は様々な可能性を秘めている。もちろん、それを応用し実用化 までもっていくには膨大な実験とそれについやす時間が必要だ。しかし、色・光のもつ性 質は、きっと人類の未来を LED ライトのように明るく照らしてくれるはずである。 第一章の最初でも述べたように、世界は色に満ちている。だが世界に満ちているのは色 だけではない。 世界は可能性に満ちている。これこそが、私が今回の研究で最も感じたことである 。 第4章 参考文献 参考にしたサイト ウィキペディア 「ヤング=ヘルムホルツの三色説」「ウィーンの変位法則」 「補色」「光」 知っておきたい、色の話 色って何だろう 色と色彩のページ 参考にした書籍 『感じる科学』『定理と法則 101』 7
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