ニューラルネットワークを用いた SAGD 法の最適化 エネルギー資源工学研究室 1. はじめに 4年 白井 寛人 ーラルネットワークにおける入力層を 4 個(生産井と カナダのオイルサンドに埋蔵されるビチューメン 圧入井の位置、蒸気圧入温度、蒸気圧入量、生産井 は、可採埋蔵量 1700 億 bbl と世界第二位の埋蔵量を の坑底圧)、出力層を 1 個(NPV)とするニューラルネ 誇っており、今後開発が盛んになると考えられる。 ットワークシステムを構築し学習を行った。さらに、 そこで本研究では、オイルサンドの開発方法とし 学習結果から多数のパラメータの組合せについて て有望とされている SAGD 法において、生産挙動に NPV を予測し、NPV が高くなるような組合せにつ 影響を及ぼす 4 つのパラメータ(生産井と圧入井の位 いて油層シミュレーション計算を行った。最適化の 置・蒸気圧入温度・蒸気圧入量・生産井の坑底圧)を 結果、ケース1では生産井と圧入井の間隔・蒸気圧 最適化する。また、ニューラルネットワークを用い 入温度・蒸気圧入量・生産井の坑底圧がそれぞれ て、SAGD 法の数値シミュレーションを再現し、最 6m,290℃,600m3/day,1075kPa の時に最も高い NPV 適化に要する数値計算時間の短縮を目指す。 を示し、ケース2では、生産井と圧入井が頁岩から 遠い位置にあり、かつ蒸気圧入量・生産井の坑底圧 2.SAGD 法の数値シミュレーション が 575m3/day,1150kPa の時に最も高い NPV を示し 油層シミュレータ STARS を使用してアサバスカ た。これらはニューラルネットワークを用いる前に 地域を模した油層シミュレーションモデルを作成し、 おける予測計算の NPV 最大値よりも、ケース1にお オイルサンド層からの重質油生産挙動予測計算を行 いて約 7.5%、ケース2において約 5.0%の増加が得 う。モデルサイズは 900m×104m×30m で、グリッ られた。図.1 はケース1で最も高い NPV を示した ド最下部の中央に数 m 間隔で圧入井と生産井を設置 組合せにおける油層内温度分布を表す。また計算時 する。このようなモデルにおいて 4 つの生産方法に 間を比較すると、ニューラルネットワークを用いる 関するパラメータを変え、予測計算を行う。この際、 ことによって、最適化に要する数値計算時間が 99% 最適化するための相互比較の指標として、NPV(正味 以上短縮できた。 現在価値)を用い、NPV の値が最も高くなるパラメ ータの組合せを求める。最適化計算は、均質な油層 パラメータを用いるケース1、油層中央部に低浸透 率を示す頁岩層が存在するケース2について行った。 計算の結果、蒸気圧入温度は生産挙動に大きな影 4.研究結果 本研究では、次のような結果を得た。 ・SAGD 法の重質油生産挙動予測計算において、最 適な生産パラメータを見つけることができた。 響を与えなかったが、生産井と圧入井の位置、蒸気 ・ニューラルネットワークを用いることによって、 圧入量、生産井の坑底圧の値は、それぞれ顕著な影 最適化に要する数値計算時間を大幅に短縮すること 響を与えた。生産井と圧入井の位置においては、二 ができた。 つの間隔が近すぎると蒸気が油層内に広がらず生産 (℃ ) され、遠すぎるとブレイクスルーまでの時間が長く なった。蒸気圧入量においては圧入量が多くなるに つれて、油層内に投入するエネルギーも大きくなる ので、生産量が増加していく傾向が見られた。 3.ニューラルネットワークを用いた最適化 各パラメータの値と NPV の計算結果を元に、ニュ 図.1 最適なケースにおける油層内温度分布
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