札幌医科大学 医療人育成センター 教養教育研究部門 心理学 准教授 田中 豪一 JST新技術説明会 2012.11.2 科学技術振興機構JSTホール 1 研究背景 国の保健医療政策の重点は予防医療にシ フトした。循環器疾患、糖尿病、脳血管障害な ど生活習慣病の予防と早期診断や抗加齢医 学では、大血管の血管内皮機能検査や動脈 スティフネス検査が広く普及してきた。本研究 開発は大血管よりも一層早期に硬化がはじま る小動脈と細動脈に焦点をあて、従来技術の 欠点を克服すると同時に、一層総合的かつ簡 易な細小血管拡張機能検査を開発する。 2 従来の血管健康評価技術とその問題点 1. 大血管スティフネス評価法(薬事認可あり): Cardio-Ankle Vascular Index (CAVI)検査(フクダ電子VS-1500) ●細小動脈スティフネスは評価できない。 2. 大血管内皮機能検査法(薬事認可あり) : 内皮依存血流介在上腕動脈拡張検査 (超音診断FMD法,ユネクスイーエフ) ●細小動脈内皮機能は評価できない。 ●客観性・簡便性に劣る ●習熟を要する 3. 細小動脈コンプライアンス検査法(本邦は未認可) : 細動脈コンプライアンスC2検査(HDI社CR2000) ●ウインドケッセル型循環モデル依存性(間接的推定) 4. 細小動脈トノメトリー検査法(薬事認可あり) : 末梢動脈トノメトリ検査(Endo-PAT法,Itamar Medical社) ●脈圧・平均血圧依存性 ●スティフネス依存性 3 Endo-PAT法 杉山 他(2011)循環器内科 より 新技術の基となる研究成果・技術 1. 指細小動脈弾性(FEI)の開発 2. 指細小動脈スティフネス指数(FSI)の開発 3. FSIの妥当性検証 4. FSIの臨床的妥当性検証 5. FCR法の開発(基礎と臨床データの収集) 5 容積V 容積V 10 10 9.98 9.98 9.96 9.96 9.94 9.94 9.92 9.92 圧-容積関係 9.9 9.88 a = 10 b = 0.143 n = 0.01 9.86 V = a - b × exp(-nP) n = 0.012 定数 n の減少 ⇒平坦化を伴 う下方変位 9.9 n = 0.005 9.88 9.86 9.84 9.84 0 100 200 圧P 300 0 指動脈弾力指数 Finger arterial elasticity Index FEI = 定数300 n 100 200 圧P 6 FEIの測定装置の構成 finger photoplethysmography finger cuff / LED / photosensor 指圧迫法 空気層 LED センサー 空気層 空気チューブ ポンプと 圧制御装置へ LED・センサーケーブル 脈波計へ Occluding artery by finger cuff pressure control system PC / AD convertor / HDD Software for calculating FEI Medisens Co.Ltd. Tokyo http://www.medisens.co.jp/index.htm Tanaka et al. Eur J Appl Physiol (2002) フクダ電子CAVIと併用 総合的動脈硬化診断 眼底検査と併用 細動脈硬化診断 血管内皮機能 超音波検査の代替法 7 0.055 r=0.682, n=174 log(FEI)= -1.0481×log(MBP c )+0.4161 0.050 0.045 FSI = (-1)×standardized residual of log (FEI) × 10 + 50 <偏差値ss単位> FEI 0.040 0.035 0.030 0.025 A: FEI は同時測定した指血圧に依存 (双曲線関係) 0.020 men, n=104 women, n=70 0.015 0.010 40 60 80 MBPc (mmHg) 100 120 150 healthy young participants (104 men and 70 women) ophthalmic patients (3 men and 2 women ) 130 B: FSIの再現性 (CV%) は5.60% 臨床適応に耐える Participant p01 p02 p03 p04 p05 p06 mean SD age 22 21 21 23 28 33 25 4 FSI mean CV % 42.21 6.55 57.00 4.59 60.65 4.77 56.51 6.48 47.90 7.00 55.29 4.21 53.26 5.60 6.25 1.10 Tanaka et al. (2011) Physiol Meas FSI (ss) FEI mean CV % 0.0295 6.95 0.0253 7.00 0.0255 10.64 0.0258 9.06 0.0256 9.09 0.0246 6.47 0.0261 8.20 0.0016 1.50 110 t-test - 90 70 50 30 - p<0.05 10 1.7 1.8 1.9 MBPc (log mmHg) 2 2.1 C: 重症の動脈硬化を有する5名の高齢眼科患者では、 FSIの顕著な増加が認められた (96.8±12.4 ss) 8 FSI はアロスタティック負荷偏差値、CRP、HDL-コレステロールと 有意な相関関係を示す (n=37) 慢性ストレス:アロスタティック負荷偏差値 Allostatic load (ss) 90 Allostatic load 80 70 FSIは慢性ストレス指標 と相関関係を示す 60 50 40 r=.50** partial r=.46** 30 20 20 40 60 FSIは血管炎症指標 と相関関係を示す 80 Finfer arterial stiffness index (ss) log hs-CRP 3.0 血管炎症バイオマーカー:CRP C-reactive protein 2.5 2.0 1.5 r=.43* partial r=.40* 1.0 20 40 60 Finfer arterial stiffness index (ss) 炎症への防護的作用:HDLコレステロール 2.1 80 log HDL-Colesterol 3.5 HDL-Colestelol 2.0 1.9 1.8 1.7 r=-.40* partial r=-.36* 1.6 20 40 60 80 Finfer arterial stiffness index (ss) 年齢調整した有意な偏相関係数は青字で示す*p<.05,**p<.01 Tanaka et al. (2011) Jpn Psychol Res 9 臨床研究:対象患者の基礎資料 性 1) 年齢(歳)2) 2) 指平均血圧(mmHg) 眼科疾患 1) 基礎疾患 1) 統制群 (n = 15) 糖尿病群 (n = 21) 男 (6), 女 (9) 男 (11), 女 (10) 59.5 ± 16.7 60.5 ± 13.1 80.0 ± 7.0 84.19 ± 14.7 加齢性黄斑変性 (4), 網膜剥 離 (2), 網膜静脈分枝閉塞症 (3),網膜中心動脈閉塞症(1), 網膜中心静脈閉塞症(1), 黄 斑円孔(1), 血管炎(1), 他 (2) 糖尿病網膜症 (12), 加齢性黄 斑変性 (4), 黄斑浮腫(2), 眼内 炎 (1),他 (2) なし (12) 糖尿病(21):高血圧症の合併11 例を含む Note. 1) Number of patients, 2) Mean ± SD -2.5 -2.5 -2.5 A: 統制群 Patient IE 61 yrs, woman FSI=47.1 FSIH=38.4 MBP=86 mmHg -3.0 -3.5 -3.0 Patient MS 39 yrs, man FSI=65.7 FSIH=133.1 MBP=112 mmHg -3.5 -4.0 -3.0 -3.5 -4.0 ln NPV ln NPV ln NPV -4.0 -4.5 C: 糖尿病群 B: 糖尿病群 -4.5 -4.5 -5.0 -5.0 -5.0 -5.5 -5.5 -5.5 -6.0 -6.0 -6.0 0 20 40 60 80 100 Prel (mmHg) 0 20 40 60 80 100 Prel (mmHg) Patient SS 76 yrs, woman FSI=99.9 FSIH=70.8 MBP=72 mmHg 0 20 40 60 Prel (mmHg) 80 健常青年を基準集団とする 偏差値(ss) 100 FSI:細小動脈成分 90 FSIH:細動脈成分 80 70 60 50 統制群 糖尿病群 田中 他 (2012) 生心理精生理に例数追加 新技術の特徴・従来技術との比較 1.血管内皮機能、細小動脈の器質的スティフネス、および血圧に影響される 機能的スティフネスという、3つの異なる器質的・機能的な要因を同時に査定 し、最早期の動脈硬化の徴候を別個に、かつ総合的に評価 ●総合性において、どの従来技術にもない優位性 2.Endo-PAT法の脈圧依存性および平均血圧依存性を克服 ●世界の臨床に広く普及してきたEndo-PAT法に替わる検査法 3.動脈拡張初期反応(FMD法)と遅延反応(Endo-PAT法)の両方を検査 ●大血管と細小血管の内皮機能を同時に査定できる臨床検査 4.指の細動脈と小動脈の寄与を別々に査定できる ●動脈硬化の進行を病態生理学的に診断する上での有用性 5.測定する生体反応は脈波だけであり、客観性に優れ、小型・軽量かつ安全・ 安価であり、操作法も容易である。ランニングコストも最小。 ●臨床検査としての優れた有用性 13 指カフ圧(FC) MBP 推定値 1/2MBP 0 NPV 脈動 容積 高経璧圧区間 細動脈の寄与 低経璧圧区間 小動脈の寄与 動脈圧閉区間 SBPとPPの推定 NPVmax 原法:CIo=NPV/PPの実測値 簡易法:CIs=NPV/PPs SBP推定値(SBP) = (b×(NPV/NPVmax)+ a)×FC ●PP推定値(PP) = CI高経璧圧成分 =ΣCI/n (SBP-MBP)×3/2 CI低経璧圧成分 =ΣCI/n PPs=ΣPP/n t 指圧迫試行25s 休止5s 図1 指圧迫1試行中の平均血圧,脈圧,コンプライアンス 指数の推定法 安静時:駆血前30s毎に6測定試行(3分間) 駆血側 手r 前腕部駆血5分間 収縮期圧+50mmHg 統制側 手c 非駆血 再灌流時:30s毎に6試行(3分間) 初期反応 遅延反応 再灌流後1分目まで 再灌流後90sから3分目まで FCR比 = ln(CIr/CIc) - K = ln(NPVr/NPVc) - ln(PPr/PPc) – K ここで K = 安静時における ln(CIr/CIc) 図2 指圧迫シーケンスとFCR比の定義 0.8 FCR簡易法 FCRs 0.6 0.4 0.2 高経璧圧成分 r=0.823, n=120 0.0 -0.2 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 FCR原法 FCRo 0.8 1.0 図4 FCR比高経璧圧成分における原法と簡易法の一致度 0.8 FCR簡易法 FCRs 0.6 0.4 0.2 0.0 低経璧圧成分 r=0.772, n=120 -0.2 -0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 FCR原法 FCRo 0.8 図5 FCR比低経璧圧成分における原法と簡易法の一致度 1.0 新技術の応用例と適用事例 ・基礎実験1(健常青年n=45) FMD法との同時測定 ・検査装置試作機FA-PRO2台の製作 ・基礎実験2(健常青年で実施中) FMD法・Endo-PAT法との同時測定 ・臨床研究(実施中) 動脈硬化患者(循環器内科・眼科・泌尿器科) 18 ●脈動容積:規準化脈波容積(NPV) ●脈圧(PP) FCR比 PPo: MUBで直接測定 ●両手同時の指圧迫法による左右比 PPs:脈波からの近似値 CIo-圧関数 からの残差(原法) ●コンプライアンス指数(CI) PPs左右比をカフ圧左右比で代替 (簡易法) CIo=NPV/PPo (原法) 高・低経璧圧成分として小・細動脈成分に分離 CIs=NPV/PPs (簡易法) 初期反応30-60s β=.45** 重回帰 R=.57*** 上腕動脈 内皮機能検査標準法 %FMD 遅延反応90-150s β=.29* 総合的スティフネス FEI 血圧 (機能的スティフ ネス要因) 器質的 スティフネス FSI 独立性⇒独自の 病態生理学的意義 駆血前 大血管スティフネス 上腕動脈直径 CAVI 図6 既存指標と 先行研究 オリジナル指標と 過年度の成果 指動脈内皮機能検査 Endo-PAT法 PAT比 駆血前 指動脈直径 A-STEP 新たな課題 研究成果 (基礎研究) (基礎研究) 原理的欠点 ×脈圧依存性 ×平均血圧依存性 既存の基準検査 影響要因 PCへ USB接続 LED 光センサー 巻きつけ カフ 図7 試作機FA-PROの外観 ●本体 ●指カフ部 駆血側指用 統制側指用 ●信号出力:USBでPCへ ●電源:USBを介してPCから供給 図8 FA-PRO計測ソフト ウエアの表示画面 測定試行中の波形モニター 黄色:カフ圧の漸増 赤色:脈波ac波形 青色:脈波dc波形 縦線:一拍毎の同定 (拡張期と収縮期) 安静時の左右指同時測定例 心臓位置に対するA側手の 位置がB側より高いのでA側 の血圧は逆に低い 15 10 0.6 1.2 測定例 健常者 血圧 高経璧圧 成分 0.5 0.4 5 0.2 0.6 0.1 -5 健常 男性20歳 0.8 0.3 0 低経璧圧 成分 1.0 0.4 0 -10 脈圧 平均血圧 -15 BS P1 P2 P3 P4 P5 P6 15 10 0.2 ln CI ln NPV -0.1 -0.2 0.0 BS P1 P2 P3 P4 P5 P6 0.5 血圧 BS P1 P2 P3 P4 P5 P6 0.7 高経璧圧 成分 0.4 5 ln CI ln NPV 低経璧圧 成分 0.6 0.5 0.3 高血圧症患者 (前立腺がん) 0.4 0 0.2 0.3 0.1 -5 -10 0.2 0 脈圧 平均血圧 -0.1 -15 BS P1 P2 P3 P4 P5 P6 0.1 ln CI ln NPV BS P1 P2 0.0 P3 P4 P5 P6 ln CI ln NPV BS P1 P2 P3 P4 P5 P6 再灌流後30sブロック毎の FCR比の比較(ln CI対ln NPV) 想定される用途 • 医療用動脈硬化診断装置(循環器内科、 眼科,泌尿器科など臨床各科) • 慢性ストレス査定の学術研究(医学・心理学) • 職業人の健康管理、運動・食事(栄養食 品)・ストレスマネジメント介入の効果判定 • 学校用健康教育・保健指導教材 • 家庭用健康器具(動脈硬化、栄養・運動習 慣改善の評価、慢性蓄積ストレスチェック) 22 想定される事業等 • 利用シーン 医療業(病院、一般診療所等) 保健衛生業(保健所、企業健康相談施設等) 福祉・介護事業(介護施設、訪問介護等) 学校(保健室)・スポーツ施設 家庭(健康維持管理、遠隔医療等) • 製造・販売 医療用機械器具・医療用品製造業 理化学機械器具製造業・電子応用装置製造業 23 実用化に向けた課題 臨床検査としての有用性の検証 現在の試作機の改良:特に、指の均等 な圧迫を可能にする精度の高い指カフ 部に改良 臨床検査用機種としての開発 非臨床用の健康器具としての開発 24 企業への期待 • 指カフ部の改良は、過去にオムロン製家庭用 指血圧計で採用されていたカフ部と同様な性 能で十分克服できると考えている。 • 光生体計測の技術やソフトウエア開発に実績 のある企業との共同研究を希望。 • 医療機器メーカーはもちろん、教育分野や福 祉関係への展開を考えている企業には、本技 術の導入が有効と思われる。 25 本技術に関する知的財産権 1.指動脈弾力指数(FEI) • 発明の名称 :指動脈弾力性測定プログラム、指動脈弾力性 測定装置および指動脈弾力性測定方法 • 登録番号 :特許第5039123号 (欧・米でも登録) • 特許権者 :札幌医科大学 • 発明者 :田中豪一、澤田幸展 2.FCR法 • 発明の名称 :指細小動脈拡張能検査方法、指細小動脈拡張能検査 装置および指細小動脈拡張能検査プログラム • 出願日 :2012.10.4 • 出願人 :札幌医科大学 • 発明者 :田中豪一 26 お問い合わせ先 札幌医科大学附属産学・地域連携センター 産学官連携コーディネーター 佐藤 準 TEL 011-611-2111(内線2108) FAX 011-611-2185 e-mail chizai@sapmed.ac.jp 27
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