1 <テーマ> 行政行為(行政法からの視点)

<テーマ> 行政行為(行政法からの視点)
<関連条文> 行政事件訴訟法3条 14条 30条 など
皆さんは、行政法というカテゴリーの法律をご存知でしょうか?
社会保険労務士は、行政に提出する手続き書類を事業主に代わって作成することで報酬
を得ていますが、行政行為(行政庁の処分)という概念は社会保険労務士の試験科目に行
政法が無いためか、殆ど勉強する機会が無いように思います。
例えば、労災の認定などは行政行為ですが、認定が降りない場合どうやって争いますか?
また、認定は降りたものの、同じ障害の他者より軽い認定を受けた場合はどうでしょう。
行政法も体系だって学ぶには、かなり大変な勉強が必要ですが、今回は、行政行為の概
念と、瑕疵ある行政行為の争い方に絞って、社会保険労務士が知っておくべき内容を中心
に、条文を参照しながら解説していきたいと思います。
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知って得する知識と知恵シリーズ09.1月号
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行政行為
行政行為(
行為(行政処分)
行政処分)
行政行為とは、行政が国民に対して働きかける行為のうちでも、合意に基づくことなく
一方的に、国民の権利義務に直接的・観念的影響を与える行為です。
行政行為の概念は行政主体による他の行為形式である、①行政指導(強制でない)
、②行
政契約(行政と個人の双務契約)
、③行政立法(政令・省令の策定)、④行政計画(計画だ
け、まだ実施に至らない)と対比することによって説明されることが多いようです。
その際の定義はいろいろな見解がありますが、上記のように、①「一方的(合意に基づ
かない)
」②「個別具体的」③「直接的」④「観念的(法的なものであって実力による強制
ではないという意味)
」という 4 つの要素を含むとされています。
「行政庁の
行政庁の処分とは
処分とは行政庁
とは行政庁の
行政庁の法令に
法令に基づく行為
づく行為のすべてを
行為のすべてを意味
のすべてを意味するものではなく
意味するものではなく、
するものではなく、公権
力の主体たる
主体たる国
たる国または公共団体
または公共団体が
公共団体が行う行為のうち
行為のうち、
のうち、その行為
その行為によつて
行為によつて、
によつて、直接国民の
直接国民の権利義
務を形成しまたはその
(最高裁判
形成しまたはその範囲
しまたはその範囲を
範囲を確定することが
確定することが法律上認
することが法律上認められているものをいう
法律上認められているものをいう」
められているものをいう」
(最高裁判
決昭和 39 年 10 月 29 日民集 18 巻 8 号 1809 頁)
。
社会保険労務士の業務で言えば、労災の認定や、健康保険への加入決定、年金受給権者
支給停止決定など、多岐に渡ります。
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覊束(
覊束(きそく)
きそく)行為と
行為と裁量行為
1 覊束行為(
覊束行為(きそくこうい)
きそくこうい)
行為法規によって行政行為の要件及び内容が厳格に拘束され、行政庁
行政庁に
行政庁に裁量の
裁量の自由がな
自由がな
い行政行為を覊束行為といいます。
(例えば、A・B・C の要件が揃えば必ず自動車の免許が付与されるといったものです)
行政行為は、法規に基づき、法規に従って行われますが、法規が行政行為を規律する仕
方は様々です。いかなる場合にいかなる内容の行政行為をするかしないかが一義的に定ま
っていて、行政庁に裁量の余地がなく機械的に、執行が行われるような行政行為を、学問
上、覊束行為と呼んでいます。
2 裁量行為
覊束(きそく)行為に対して、法規によって行政行為の要件及び内容が厳格には拘束
されず、行政庁
行政庁に
裁量の自由がある
自由がある行政行為
行政庁に裁量の
がある行政行為を言います。
行政行為
裁判所がどの程度まで行政庁の判断を審査できるかという見地から、裁量の自由の範囲
が狭いか広いかによって、
「法規裁量行為」と「自由裁量行為」に区分されます。
(1)法規裁量
具体的な行政行為をする場合に、適法であるかどうかについての客観的基準により行わ
れる行政庁の裁量。覊束(きそく)裁量ともいいます。
(自由裁量に対する)
法規裁量は、一見行政庁の裁量を許容するようにみえますが、その裁量の当否は法律問
題として裁判所の審理の対象となります。この点に自由裁量と区分する意義があります。
具体的には、労災の等級認定で、ぴったり該当する基準に当てはまらない時に行政庁が
裁量により等級を決定することなどです。
自由裁量と違うのは、法律のガイドラインはあくまで存在し、裁量があるといっても行
政庁が好きなように等級が付けられる訳ではないということにあります。
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(2)自由裁量
(2)自由裁量
行政庁が行政行為(処分)をするかどうか、いつどういう行政行為をするか等について
の裁量を行政庁の自由な判断にまかせているものを言います。
その裁量を誤っても、原則として不当の問題が生ずるにすぎず、訴訟の対象とならない
とされています。
(法規裁量は、何が法であるかの裁量で、裁量を誤る行為は違法行為となり、訴訟の対象
となるとされます。
)
この違いは、究極的には最高裁判所が行うことになりますが、判例の立場を挙げますと、
自由裁量
公立大学の学生に対する大学の懲戒処分
外国人の在留期間の更新
教科書検定の合否の判断
汚物取扱業の許可
限定された裁量
農地賃借権の設定移転についての農地委員会の承認
公安委員会による運転免許取消
行政庁の自由裁量に属するとされ、広い裁量権が認められる行政行為については裁判所
の判断になじまず、原則として行政庁の判断が尊重されます。
ただし、
『裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を
取り消すことができる。
』
(行政事件訴訟法30条)と、司法審査の可能性を残しています。
具体的には、①事実誤認がある場合
②法の目的に反する場合・不正な動機に基づく場
合③比例原則・平等原則に反する場合 などが挙げられます。
(裁量処分の取消し)
第三十条
行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所
は、その処分を取り消すことができる。
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抗告訴訟
(抗告訴訟)
第三条
2
この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次
項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
3
この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求、異議申立てその他の不服申立て(以下
単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取
消しを求める訴訟をいう。
4
この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認
を求める訴訟をいう。
5
この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期
間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求
める訴訟をいう。
6
この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決
をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
一
行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。
)
。
二
行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合にお
いて、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
7
この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわら
ずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずること
を求める訴訟をいう。
(出訴期間)
第十四条
取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起する
ことができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
2
取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正
当な理由があるときは、この限りでない。
行政処分に不服があるときには、抗告訴訟(行政処分に関する不服申し立ての訴訟)を
起こすことが出来ます。
(行政事件訴訟法3条1項)
抗告訴訟には、処分の取消訴訟(3条2項)裁決の取消訴訟(3条3項)無効等確認訴
訟(3条4項)不作為の違法確認訴訟(3条5項)の4つを規定しています。
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①処分の
処分の取消訴訟
行政行為の取消しを求めるための訴訟で、またその唯一の訴訟形式です。
処分があったことを知った日から6ヶ月以内に提訴しなければなりません。(14条1
項)
大多数の行政訴訟はこの形式です。
②裁決の
裁決の取消訴訟
「審査請求・異議申立」など、行政庁の処分に対する異議を上級庁(あるいは処分をし
た行政庁)に申し立てたが却下された場合などに、その裁決を取消す訴訟形式です。
(ここでは深入りはしません)
③無効等確認訴訟
違法な行政処分についてその効力を争う場合には、行政庁への不服申し立てか、①の取
消訴訟に限られます。これらの手続きは、出訴期間が厳格に定められており、これを徒過
すると当該行政処分の効力を争うことが出来なくなります。
(行政不服審査法14条、行政
事件訴訟法14条)
違法が甚だしい場合など、時期に遅れていても取消すことが必要な場合には、無効等確
認訴訟として、いつでも訴訟を起こすことが出来る。
しかし、出訴期間の制限が無い代わりに、甚だしい違法(明白かつ重大な違法)を証明
することは容易ではなく、勝訴の確率が低いことは頭に入れておく必要があります。
④不作為の
不作為の違法確認訴訟
行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであ
るにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいいます。
年金の裁定をしているのに、いつまでたっても裁定が得られない場合などに訴訟を提起
します。
しかし、不作為の違法を確認したとしても(仮に勝訴しても)
、裁定が下りるわけではあ
りません。原告の目的は年金の裁定を得ることですから、それを満足するために、不作為
の違法確認訴訟とセットで、⑤
⑤義務付けの
義務付けの訴
けの訴えを提起することで、最終的な満足を得るこ
とになります。
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⑤義務付けの
義務付けの訴
けの訴え
「義務付けの訴え」とは、次に掲げる2つの場合に、行政庁がその処分又は裁決をすべき
旨を命ずることを求める訴訟をいいます。
(3条6項)
一
行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
二
行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がさ
れた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがさ
れないとき。
④不作為の違法確認訴訟とセットで利用することで、行政庁の意地悪な処分留保(例え
ば行政指導に従わないことを理由とした、建築確認の長期間の留保)を争いつつ、自分に
有利な行政処分を得る手段として活用することが出来ます。
以上、行政処分の概念と、そのしくみ、行政処分に不服があり争う場合にいかなる方策
をとるべきか、基本的な部分を簡単にご説明いたしました。
皆様の、今後の業務推進上のお役に立てれば幸いです。
タキモト・
タキモト・コンサルティング・
コンサルティング・オフィス
代表 社会保険労務士・
社会保険労務士・CFP 瀧本 透
瀧本透先生【タキモト・コンサルティング・オフィス】
東京都西東京市泉町 1-5-8
電話番号 042-469-3172
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なおこちらの情報は2009年1月時点での情報です
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