1 <テーマ> 雇用契約(民法からの視点) <関連条文> 雇用(民法 623

<テーマ>
テーマ> 雇用契約(民法からの視点)
<関連条文>
関連条文> 雇用(民法 623 条~631 条)
社会保険労務士が一番知っておくべき契約は、やはり雇用契約だと思います。しかしな
がら、労働基準法や労働契約法の知識はあっても、意外に知られていないのが、民法の雇
用契約の章ではないでしょうか。
労働基準法や労働契約法は民法の特別法であります。
今回は、復習の意味もこめて、民法の雇用契約の章に付き、条文を追いながら解説して
いきたいと思います。
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知って得する知識と知恵シリーズ08.9月号
1
雇用契約
(雇用)
第六百二十三条
雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対
してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
(報酬の支払時期)
第六百二十四条
2
労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。
期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。
雇用契約は、当事者の一方(労働者)が相手方(使用者)に対して労務に服することを
約束し、使用者がこれに報酬の支払いを約束することで成立します。
(民法 623 条)
雇用は、使用者
使用者の
使用者の指揮命令に
指揮命令に従った一定期間
った一定期間の
一定期間の労働力の
労働力の提供に
提供に報酬の
報酬の支払いを
支払いを約束
いを約束する
約束
点で、労働の成果である「仕事の完成」に対して報酬を約束する請負(民法 632 条)と相
違し、また、受任者の自由な判断に委ねて事務処理を行わせる委任(民法 643 条)とも相
違しています。
労働者の報酬は、その約した労働を終えた後でしか請求できず(民法 624 条 1 項)、期間
によって報酬を定めた場合には、その期間を経過した後に請求することが出来ます。
(民法
624 条 2 項)
請負契約で、物の引渡しを要しない場合に民法 624 条 1 項が準用され(民法 633 条)請
負作業を終えた後に報酬請求が出来ることになります。
また、期間を定めて報酬を受け取ることを定めた委任契約には民法 624 条 2 項の規程が
準用され(民法 648 条 2 項)、期間の経過後に報酬を請求することができるようになります。
(未成年者の労働契約)
第五十八条
2
親権者又は後見人は、未成年者に代つて労働契約を締結してはならない。
親権者若しくは後見人又は行政官庁は、労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては、
将来に向つてこれを解除することができる。
民法の規定では、親権者(未成年後見人)は未成年者に代わり雇用契約を締結すること
が可能ですが(民法 824 条・859 条 条文省略)
、労働基準法では、親権者は未成年者に代
わって労働契約を締結してはならず、違反の契約は無効であり、処罰の対象となると規定
していることにも注意が必要です。
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2
(期間の
期間の定めのない雇用
めのない雇用の
雇用の解約の
解約の申入れ
申入れ)
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをする
ことができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了す
る。
2
期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、
その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
(以下省略)
民法の規定では、当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解
約の申入れをすることができ、この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間
を経過することによって終了することになっています。
(民法 627 条 1 項)
週給・月給などの形で報酬を定めた場合には、当期の前半に次期に対して解約申し入れ
をすることが出来ます。
(民法 627 条 2 項)
(解雇の予告)
労働基準法
第二十条
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその
予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなけれ
ばならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働
者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2
前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することが
できる。
労働基準法は、上記民法の原則に修正を加え、使用者側から労働者側を解雇する場合に
は、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を支払わなければならな
いと定めています。
(労働基準法 20 条 1 項)
ここで注意する必要があるのは、労働者側には労働基準法20条1項の適用は無いので、
民法627条 1 項・2項が適用されることです。
つまり、就業規則等で「社員が退職する場合には、1ヶ月以上前に会社に通知しなけれ
ばならない」などという条文を定めても、給与支払期の前半に退職願が出された場合には
民法627条2項が適用され、14日の経過により退職の意思表示が効力を持つことにな
ります。
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(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事
者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によっ
て生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
期間の定めの有無にかかわらず、
「やむを得ない事由がある」場合には、各当事者は直ち
に契約を将来に向かって解除することが出来ます。その事由が当事者の一方の過失により
生じた場合には、その当事者は損害賠償をしなければなりません(民法 628 条)
大地震などの天災で工場が破壊されたような場合には、民法628条に基づき使用者は
即時に労働者を解雇できますが、この場合労働基準法が適用され、労働基準法20条3項
の「
「行政官庁の
行政官庁の認定」
認定」が必要となることに注意が必要です。
逆に、親の看病などでどうしても帰郷しなければならない場合などは「やむを得ない事
由がある」場合に該当し、労働者は直ちに退職できると考えられます。
(雇用の更新の推定等)
第六百二十九条
雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者が
これを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。こ
の場合において、各当事者は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。
雇用期間満了後も、労働者が引き続きその労働に従事する場合に、使用者がこれを知り
ながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定され
ます。
(民法 629 条)
「推定する」の意味は、争いになった場合、雇用契約の存在は基本的に労働者が証明す
べき事項ですが、証明責任の転換により、使用者側が雇用契約の終了を証明しなければ雇
用契約が継続しているものと判断されるということです。
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(雇用の解除の効力)
第六百三十条
第六百二十条の
第六百二十条の規定は、雇用について準用する。
規定
(賃貸借の解除の効力)
第六百二十条
賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。この
場合において、当事者の一方に過失があったときは、その者に対する損害賠償の請求を妨げない。
雇用契約の解除(無効・取消)は、遡及的になされるものではなく、あくまでも将来に
向かって契約を失効させる効果を生じるに過ぎません(民法 630 条)
これは、無効・取消の主張前に提供された労務関係を不当利得(民法 703 条)の対象に
せず、法律関係の簡潔な清算を可能にするためといわれています。賃貸借においても同様
の考え方であり、賃貸借の条文(民法 620 条)を準用しています。
(使用者についての破産手続の開始による解約の申入れ)
第六百三十一条
使用者が破産手続開始の決定を受けた場合には、雇用に期間の定めがあるときであって
も、労働者又は破産管財人は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。この場合
において、各当事者は、相手方に対し、解約によって生じた損害の賠償を請求することができない。
使用者が破産手続開始の決定を受けた場合には、労働者・破産管財人(使用者の代わり)
のどちらからでも民法627条の解約の申し入れをすることが出来ます。
(民法 631 条前段)
破産の場合には、使用者側は雇用を継続できない・労働者側は給与が支払われるかどう
か分からない使用者に労働を提供するわけにも行かない、ということで、お互い解約をす
ることが出来、この場合には解約によって生じた損害賠償の請求を出来ないことになって
います。
(民法 631 条後段)
以上、民法における雇用契約の概要ついて、基本的な部分を簡単にご説明いたしました。
皆様の、今後の業務推進上のお役に立てれば幸いです。
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早いもので、今回で連載を始めて1年(12回目)を迎えます。
この、「社会保険労務士が知っておきたい契約法」も1年で一区切りということで、今回
でいったん終了とさせて頂きます。
皆様のご愛読に感謝致します。
来月からは、「社会保険労務士が知っておきたい関連法規(仮称)」ということで、また
連載を続ける予定であります。
今後ともどうぞ宜しくお願い致します。
タキモト・
タキモト・コンサルティング・
コンサルティング・オフィス
代表 社会保険労務士・
社会保険労務士・CFP 瀧本 透
瀧本透先生【タキモト・コンサルティング・オフィス】
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なおこちらの情報は2008年9月時点での情報です
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