風力発電の利用促進のための市民としての活動と研究(佐藤建吉、林 亮

風力発電の利用促進のための市民としての活動と研究*
Activities and Studies for Promoting Wind Power Use by General People
佐藤 建吉**
林 亮馬***
井口 明大****
Kenkichi SATO
Ryoma HAYASHI
Akihiro IGUCHI
1. はじめに
インタネット百科事典ウキペディアの日本語版では、
「風力発電」には、次の説明がなされている 1)。
「風力発電とは風の力(風力)を利用した発電方式
である。 風力エネルギーは再生可能エネルギーのひと
つとして、自然環境の保全、エネルギーセキュリティ
の確保可能なエネルギー源として認められ、多くの地
に風力発電所や風力発電装置が建設されている[#]。風
力発電は、太陽光発電と同様にどの国でも経済的には
自立できておらず、各国政府による巨大な補助金投入、
つまりは税金や電気料金の固定価格買取制度によって
運転されており、他のエネルギー源に比べてエネルギ
ー密度が非常に低く、将来もエネルギー密度を高めて
経済性を実現することができないため、割高のままで
あると予測されている[#]。…(以下、略)
」
([#]はウキペ
ディアの文献であるがその記述は省略。以下同様。
)
一方、英語版では、次のように説明されている 2)。
Wind power or wind energy is using wind turbines
to produce electrical power, windmills for
mechanical power, windpumps for water pumping or
drainage, or sails to propel ships.
Large wind farms consist of hundreds of
individual wind turbines which are connected to the
electric power transmission network. According to
the recent EU analysis for new constructions,
onshore wind is an inexpensive source of electricity,
competitive with or in many places cheaper than
coal, gas or fossil fuel plants.[#][#][#] Offshore wind
is steadier and stronger than on land, and offshore
farms have less visual impact, but construction and
maintenance costs are considerably higher. Small
onshore wind farms can feed some energy into the
grid or provide electricity to isolated off-grid
locations.[#]
*平成26年11月28日 第36 回風力エネルギー利用シンポジウムにて講演
** 会員 千葉大学大学院 〒263-8522 千葉市稲毛区弥生町 1-33
*** 学生員 千葉大学大学院 〒263-8522 千葉市稲毛区弥生町 1-33
**** 学生員 千葉大学工学部 〒263-8522 千葉市稲毛区弥生町 1-33
Wind power, as an alternative to fossil fuels, is
plentiful, renewable, widely distributed, clean,
produces no greenhouse gas emissions during
operation and uses little land. [#] The effects on the
environment are generally less problematic than
those from other power sources. As of 2013,
Denmark is generating more than a third of its
electricity from wind and 83 countries around the
world are using wind power to supply the electricity
grid. [#][#][#] Wind power capacity has expanded
rapidly to 336 GW in June 2014, and wind energy
production was around 4% of total worldwide
electricity usage, and growing rapidly. [#]
Wind power is very consistent from year to year
but has significant variation over shorter time scales.
As the proportion of wind power in a region
increases, a need to upgrade the grid, and a lowered
ability to supplant conventional production can
occur. [#][#] Power management techniques such as
having excess capacity storage, geographically
distributed turbines, dispatchable backing sources,
storage such as pumped-storage hydroelectricity,
exporting and importing power to neighboring areas
or reducing demand when wind production is low,
can greatly mitigate these problems. [#] In addition,
weather forecasting permits the electricity network
to be readied for the predictable variations in
production that occur. [#][#] Wind power can be
considered a topic in applied eolics. [#]
これを日本語にすると以下のようになる。
「風力発電や風力エネルギーは発電するために風力
タービンが用いられ、機械的動力を得るには風車が、
揚水や灌漑には風力ポンプが、さらに船の推進には帆
が用いられている。巨大な風力発電所(ウインドファ
ーム)は、送電線に接続されている何百機もの風車で
構成されている。最近の EU の調査では、新規に建設
された陸上風車は安価な発電源であり、石炭・ガス・
あるいは化石燃料による発電所より安価で、競争力を
持っているという。洋上風力は陸上より安定で強力で
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あり、視覚障害はないが建設維持コストはかなり高い。
小型陸上風力発電所は、送電網に連系して送電し、あ
るいは連系しないで電気を自己消費される。
化石燃料の代替としての風力は、大量で、再生可能
で、広域に分布し、クリーンで、稼働時に温暖化ガス
を排出せず、少しの土地を使うだけである。2013 年に
おいて、デンマークでは風力で 3 分の 1 以上の電気を
賄い、世界では 83 か国が風力発電で電気が系統に連系
されている。風力発電の設備容量は 2014 年 6 月に
336GW まで急速に拡大し、世界の電気需要の 4%が風
力発電であり、なお急激に増加している。(以下省
略)
・・・」
。
このように日英語の記述では大いに異なっている。
これは、市民の意識の相違であるともいえる。著者ら
は、この「市民」を重視し、風力発電による持続可能
性を進めるために市民の意識変革に繋がる活動を行っ
ているので、本邦ではその一端についてまとめる。
2.展望室&FM 放送局付き風車
2011 年の地震・津波に被災地には、㋐防災、㋑地域
コミュニティ形成、㋒観光、㋓鎮魂、㋔風力発電の目
的で「展望室&FM 放送局付き風車」が必要であると
考え、国内の風力関係者に導入の可能性を聞くと、前
例がない、開発はしない、海外メーカーも日本のマー
ケットが小さいので特殊な風車は取り扱わないとのこ
とであった。現在、展望室付き風車は世界では 8 基あ
るがカナダのものだけがエレベータ付きであるという。
そこで 2013 年 9 月 16 日に、バンクーバーの郊外の山
岳リゾート施設である Grouse Mountain3)を訪ね、the
Eye of the Wind (EOW)と名付けられた展望室付き風
車を調査した。
高さ 60m の展望室にエレベータで登り、設置会社の
エンジニアと保守担当者、製造・納入会社のセールス
マンから説明を受けた。アクリル製の楕円球形の透明
展望室(ViewPODTM)は、定員が 36 名であるが、ロ
ータハブと風車翼を間近に見ることができ、風車への
関心は高まる。山頂プラス展望台の高さからのバンク
ーバー湾と街並みの眺望は、㋒の観光の魅力として素
晴らしい。日本での展望室付き風車に必要なものは、
これ以外に㋐防災と㋑地域コミュニティの形成と防災
があるが、その目的には TV 局よりは FM 放送局を展
望室に設置することがふさわしいと考えており、EOW
は、これにも合致する。風車の機械室・制御室などを
見学した後、リゾート施設のオーナーの McLaughlin
氏と施設の設計した Cameron 氏にも会うことができ、
日本への導入の際には協力するとの約束を取り付けた。
彼らが EOW を設置したのは、Quiet Revolution4)と表
現しているが、Renewable Revolution(再生エネルギ
ー革命)を掲げている。その完成は、バンクーバーオ
リンピックの開催に合わせた、2010 年 2 月であった。
https://www.grousemountain.com/eye-of-the
-wind/gallery#.VFTLIDSsWVM
図 1 展望台付き発電風車(the Eye of the Wind、Grouse Mountain, バンクーバー、カナダ)
その後、日本で風車設置事業を行っている社長に聞
くと、2014 年 4 月以来の法律改正で、外国製の風車の
輸入することが困難な状況にあることを聞かされた。
そこで 2014 年 7 月に、EOW のメーカーである
Leitwind 社 5)の本社(イタリア)と工場(オーストリ
ア)を訪ねた。同社は、ロープウェイの世界の大手会
社で、その設計技術を活かして大型風力発電機を開発
している会社で、その設計とエンジニアリングの技術
は秀逸であることが確認でき、日本への展望室付き風
車輸出事業にも最大の協力をすると約束してくれた。
現在のアプローチは、被災地での設置箇所の選定と
風況データの収集、国内関連官庁への相談、展望台&
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FM 放送局付き風車の必要性を醸成するための講演 6)
などを行っている。こうした活動の結果、被災復興地
以外の観光地からも展望室付き風車を設置したいとの
相談も生まれている。さらなる醸成を目的に 2015 年 3
月、仙台市で開催の第 3 回国連防災会議 7)では、EOW
の 30 分の 1 模型を制作し、展示することにしている。
3. 教材風車
風力発電の導入の拡大と普及には、風力発電の社会
受容性あるいは親和性が必要である。風力発電につい
てのこれまでの国民的な心情は、原子力発電の拡大を
前提とした国策としたエネルギー教育がなされてきた。
その結果、風車はオランダのテレビの中の存在で、日
本には合わない、風まかせの風車、こうして風車には
異物感という感触が定着した感じすらある。そこで、
学校教育の中で風車や風力発電を導入して持続可能な
社会の担い手を醸成する必要がある。
筆者らが導入しようと取り組んでいるのは Ecowing
と名付けられている垂直軸風車 8)である。これは、❶
起動性を改善するために歯車式のピッチ制御と、➋強
風対策のために永久磁石の吸着力を利用した強風対策
を導入している。機構が簡単であり、❶と➋の効果が
あり、さらに科学・工学的学習と設計・技術的適用力
を学ぶことができるので、中学や高校の学習に適当で
あると考えている。
❶は、図 2 のように風速と風車の回転方向に応じて
ピッチ制御を行う機構を導入している。この制御の導
入により、図 3 のように回転特性が大幅に改善される
ことが実験で得られている。
図 2 可変ピッチ制御式風車の概要図
また、➋の強風対策は、図 4 のように強風速時には
布製の翼が開き、再び低風速時には磁力により閉じる
という仕掛けである。
❶と➋の構造と仕組みは、簡単であるが、その機構
の動作には科学的背景があり、その実現には工学的・
技術的な重要性がある。構造の簡単さは、途上国での
風力利用にも貢献できると考えている。
図 3 風速と回転速度の関係
(a)通常の状態
(b)磁石が離れた状態
図 4 永久磁石を使用した羽根
4. 市民によるエネルギー講座
風力発電の導入・普及で、最も大事であるのは、市
民の意識改革である。それは、冒頭に述べたウキペデ
ィアでの記述にも表現されるものである。市民は、国
民とは異なり、社会の政治的な主権者であり、次のよ
うな意味合いをもつ。①自主性、②公共性、③能動性
である 9)。これらは、風力発電の選択と導入の判断を
決める主体者であるからである。
こうした意味合いで、
「市民の、市民による、市民の
ためのエネルギー講座」10)と名付けて、2014 年 5 月
10 日から9月20日まで、
10回の連続講座を開催した。
第 1 回目は、キックオフ講座として、北澤宏一氏に「未
来のエネルギーのために!!」をお願いした(5 月 10 日
に講演して頂いたが、北澤氏は同年 9 月 26 日に逝去し
た)
。第 10 回目は、ゴール講座として、飯田哲也氏に
「いま、市民にできること!!」を講演して頂いた。なお、
風力については、6 月 28 日に第 4 回目として、牛山泉
氏に「自然エネルギーの実力は?!」として講演頂いた。
この講座では、のべ 460 人の参加人数であった。全
講座出席者が 9 名、1 回欠席で 9 講座出席者も 8 名い
た。熱心に参加して頂いた。この講座は、DVD や本と
して出版する計画で作業を進めている。また、千葉大
学の教育も市民とともに企画し行っている。
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5.ピラミッド風車
風力発電の主役は風車である。風車には色々の種類
や構造、そして用途がある。風力発電は逐次変革をし
ながらイノベーションをとげる必要がある。ドイツに
は、ピラミッド風車と呼ばれる国民的支持をする風車
があり、クリスマスの時に公園や家庭で、そのお祝い
の行事を飾る伝統となっている。
ピッチ角 10 度
ろうそく 6 本
図 7 羽根枚数と回転速度
ピッチ角 10 度
羽根枚数 12 枚
図 5 ピラミッド風車(ドイツの KatheWohlfahrt)
その風車の例を図 5 に示す。垂直軸風車であり、ろ
うそくの炎による上昇気流で羽根車が回転する。
このタイプの風車を屋外に設置し、街のアート(パブ
リックアート)としても利用するための基礎的な研究
を筆者の研究室で進めている。供試風車は、6 本のろ
うそくを持ち、
全高 60cm、
羽根車の直径 47cm である。
羽根車の羽根枚数は 12 枚である。以上の仕様について
回転特性を調査した。
図 6 は、羽根車のピッチ角の影響である。ピッチ角
0 度は、羽根が水平となっており、上昇気流とは垂直
であり、回転しない。ピッチ角 10 度が最も回転するこ
とが明らかになった。図 7 は羽根枚数の回転速度との
関係で、羽根枚数が 6 枚以上でないと回転しない。図
8 は、ろうそく本数と回転速度の関係で、ろうそくは 3
本以上で、回転する。
以上は、炎の上昇気流による回転特性であるが、屋
外での水平風による回転特性も検討している。
羽根枚数 12 枚
ろうそく 6 本
図 6 回転速度への羽根車のピッチ角の影響
図 8 ろうそくの本数と回転速度
6.おわりに
本報では、
「市民の、市民による、市民のための」
(of, by, and for the common people)の視点から、市民
としての風力発電の利用促進、導入普及に関わる著者
らの活動の一端を報告した。協力と支援頂いた皆様に
御礼申し上げ、一層のご鞭撻をお願いする。
参考文献
1) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A2%A8%E5
%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB
2) http://en.wikipedia.org/wiki/Wind_power
3) https://www.grousemountain.com/
4) Quiet Revolution(EOW 記念式出版物)
5) http://www.leitwind.com/
6) http://www.grand-re2014.org/pdf/top_oral.pdf,
O-Wd-7-2, Promoting the renewable revolution by
installing wind turbines having an observation
platform (July 29, 2014)
7) http://www.bosai-sendai.jp/
8) 林・高村・佐藤・小野寺、可変ピッチ式帆布羽根垂
直軸風車、第 35 回風力利用シンポジウム(2013).
9) 市民、http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B8%82
%E6%B0%91
10) 「市民の、市民による、市民のためのエネルギー
講座」HP、http://echoice.jimdo.com/
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