植物の遺伝子機能解析と光による生育制御技術の開発

植物の遺伝子機能解析と光による生育制御技術の開発
Keywords: トランスポゾン、イネ、カンキツ類、アグリフォトニクス、シソ
所属 生物工学科
植物育種学研究室
講師
氏名 堀端 章
Horibata Akira
●研究概要
ゲノム内をジャンプする遺伝子-トランスポゾンを利用し
て、イネの有用突然変異遺伝子の探索やカンキツ類の系
統分化の解析を行っています。また、植物が特定の波長の
光に反応することを利用して、作物に新たな特性を付与す
る研究を行っています。
URL:http://www.waka.kindai.ac.jp/tea/biotech/
● 研究テーマ
・トランスポゾンの転移を利用した遺伝子解析
イネのトランスポゾンmPingは、自発的転移が確認された世界で最
初のMITE型トランスポゾンである(論文1)。イネでは、このmPingの転
移によってさまざまな突然変異が誘発される。我々は、生じた突然変
異遺伝子をmPingを標識にして検出・同定するシステム(mPing タギン
グシステム)を確立した(論文2)。このシステムをもちいると、異なるイ
ネ個体間におけるmPing挿入の多様性を容易に検出できる(図1)。現
在、収穫期、粒大、草丈などイネの経済性に関わる遺伝子を対象にし
て、有用突然変異遺伝子の探索と構造解析を進めている。この研究
DNA増幅産物の推定塩基数 (bp)
によって、イネの品種改良に必要な情報が得られる。
図1 異なるイネ個体におけるmPing 挿入多型の検出
トランスポゾンはまた、高頻度の自然突然変異に関与する場合があ
る。和歌山県特産の温州みかんでは、頻繁な「枝変わり」突然変異が
観察されており、これにもトランスポゾンが関与している可能性がある。
そこで、イネで開発された上記のタギングシステムを援用して、近畿大
学附属湯浅農場に保存されているカンキツ類遺伝資源(図2)の解析
に取り組んでいる。この研究では、スイートオレンジで発見されたトラ
ンスポゾンCIRE1の挿入多型と転移頻度を調査し、得られたデータに
基づいてカンキツ類ならびに温州みかんの系統分化の過程を解明し
ようとしている。
植物は、光合成のエネルギー源としてだけではなく、外界の環境を
知る手段としても光を利用している。このため、植物に特定の波長の
光を照射することで、季節を誤認させたり、任意の有用物質の生産を
促進させたりすることが可能である。このような技術をアグリフォトニク
スという。この研究では、将来的には太陽光利用型植物工場への展
開を想定して、自然光条件下の植物にLEDによる赤色光や青色光を
短期間照射して、その開花や成長、または、有用成分の生産に及ぼ
す効果を調査している。エンドウでは、夜間に2時間赤色光を照射す
るだけで、開花が顕著に早くなることが(論文3)、またシソでは、青色
光の照射によって、開花が抑制され、機能性香気成分であるペリルア
ルデヒド(PA)の含有量が増えることが明らかになった(論文4、図3)。
図2 近畿大学附属湯浅農場のカンキツ類遺伝資源
PA含有量(μl/g)
・単色光補光を利用した植物の生育制御技術の開発
無補光区 補光区 無補光区 補光区
アカチリメンシソ
薬用アカシソ
図3 シソへの青色光補光がPA含有量に及ぼす効果
● 論文.特許等
【論文】
1.Mobilization of a transposon in the rice genome, Nature, Vol. 421, p.170-172 (2003).
2.Transposon tagging of insertional mutant genes on agronomic traits induced by the endogenous active MITE,
mPing in rice (Oryza sativa L.), Proceedings of 5th Plant Genomics European Meetings, p.280 (2006)
3.作物生産における太陽エネルギーの分割利用:赤色LEDによる暗期中断が中性植物エンドウの花成に及ぼす影
響,太陽/風力エネルギー講演論文集2011, p. 333-336 (2011)
4.青色LEDによる補光が紀州在来薬用紫蘇の生育および機能性成分含有量に及ぼす作用, 近畿大学生物理工
学部紀要, Vol. 28, p.13-20 (2011).