楽暮プロジェクト活動報告書 Vol.1 (2008年3月) おもちゃと手作りスイッチを連動させた指導の試み ~ 肢体不自由を併せ有する知的障害児 A さんの手なめを軽減し、 両手を使えるようにするための指導実践から ~ 白澤利広 (宮城県立光明養護学校) 1. 背景 (1) 対象生徒について ・A さん〔男〕 高等部3年 訪問指導対象(エコー療育園生) ・重度精神運動発達遅滞、肢体不自由、てんかん ・食事や身辺処理は全介助。姿勢は短い時間あぐら座位がとれるが、側わんが強く不安定。何かを 持たせられれば、気に入ったものは利き手の左手にずっと握っていることはあるが、自らおもち ゃ等を手にして遊ぶことは少ない。右手はほとんど手なめの状態で、物を扱うのには使われない。 (2) 指導のねらい ・A さんが、自分から物に手を伸ばしたりつかんだりする活動を増やすよう、興味関心を考慮しな がら、教材教具を工夫する。その中で特に指なめの多い右手の使用を誘導し、できるだけ両手を 自ら使えるようにさせる。 (3) スイッチと連動させたおもちゃの使用について ・ねらいに沿った取り組みの中で、より詳しい実態として以下のことを確認。 *音が出て動きのあるおもちゃ、光や回転するものはよく見たり手を出したりする。 *音や振動のあるもの、気に入った感触のものを手に持って、自分の顔どにあてていることがあ る。 *手を握る時は、親指は中に入らず、外に向いたまま4本指だけでつかむ形。置いてある物をと る時は、4本の指でかきよせるような形。 ⇒ 以上のことも考慮して、本人の好む光や回転や振動のあるおもちゃと、そのスイッチを両手 にそれぞれ持たせることを考えた。 2. 方法と内容 (1) 使用したおもちゃとスイッチ ・ちょうど手に握れるマイクの形で、上部が光っ て回転するおもちゃ。振動もある。 ・スイッチa⇒フロッピーケースに小さなボタン スイッチを入れ、はさむように握ると入るよ うにしたもの。 ・スイッチ b ⇒大きめの押しボタンスイッチを箱 に埋め込んだもの。下に置いて上から圧をか けると入るようにしたもの。 図 1:スイッチ a と連動させたおも 19 図 2:スイッチ a 図 3:スイッチ b (2) 場面設定 ・A さんの施設の OT さんや PT さんとも連携をとり、上半身の姿勢保持に配慮した。両手の活 動には、上半身の姿勢保持が大切な要素ということ。もちろん姿勢保持椅子等で、姿勢を安定 させて取り組ませるのが(両手の活動のみのねらいなら)よいだろうが、あぐら座位や腰掛け 座位での姿勢保持を持続させることも、合わせてねらって、以下のように設定した。 ① ベッドに腰掛させ、骨盤や脚が安定するように して(※)上半身の姿勢保持をさせながら、好 きなおもちゃを左手に、スイッチaを右手に持 たせる。 (※ 両脚には補装具をつけ、また腰掛 けたとき両足が下にしっかりつくように台を 置く。左側わんを考慮して、骨盤がやや持ち上 がるように左側のお尻の下に三角マットを入 れる。後ろにはビーズクッションを置き、後ろ に倒れにくくする。)【図 4 参照】 図 4:まだスイッチは持っていない ② ①と同じく三角マットとクッションの補助をした うえで、補装具をはずしてあぐら座位をとらせる。そ の状態で、左手におもちゃ、右手に①と同じスイッチ aを持たせるか、前にスイッチbを置いて、右手でた たかせたり押させたりする。【図 5 参照】 なお、この実践では、スイッチとおもちゃとの因果 関係をつかませることまではねらっていない。 図 5:この姿勢でスイッチ b は前に 置く 20 楽暮プロジェクト活動報告書 Vol.1 (2008年3月) (3) 経過と結果 (注;本実践は平成17年度のもの) ・(2)の設定での指導期間は8月末~12月、週3回自立活動の時間30~40分 ・腰掛けた状態での様子 *前述のおもちゃとスイッチaで、飽きずに取り組むことができた。 *左手のおもちゃは、途中姿勢がくずれて中断しなければ、ずっと離さず持っていてかざすよう にして光や回転を見たり、顔にあてて振動を味わっていたりした。時々「ちょうだい」と取り 上げると(または落としたりすると)自分からもう一度つかもうとした。 *右手のスイッチは、初めの頃は一緒に手を添えて補助しないと、すぐ離したり落としたりして いた。その度「あっ止まっちゃった。はい、またつかんでてね。」と語りかけながら持たせる ことを繰り返した。始めてから3週間くらいから、補助なしで自分で右手でスイッチをつかん でいる時間が増えていった。 *11月頃には、時々(20分に4~5回)右手のスイッチをとり落とすことがあっても、結果 的に20分程両手を使って活動し、その間手なめをすることはなかった。 *姿勢保持については、11月頃には、長い時で20分以上(初めの頃は8~10分)続くよう になった。 *12月に入って、右手と左手と持つものを交換してみたが、右手に持ったおもちゃ を、 自分で利き手の左手に持ち替えようとして、すぐとり落としてしまい持続しなかった。(左手 にはスイッチがあり、それを自分でなかなか離せないため。) *12月頃は、おもちゃやスイッチをわざと手を離して落として、こちらの反応を喜んだりする 遊びも出るようになった。 ・あぐら座位での様子 *初めは、腰掛けでの場面と同じおもちゃとスイッチの組み合わせで行った。しかしあぐら座位 では、両手に物を持った状態で、のけぞるように脚を投げ出しすぐに倒れてしまう。 *スイッチを手で上から押すスイッチbに替えた。やや姿勢の保持は安定したものの、あぐら座 位そのものが、5~10分とあまり続かず、指導を重ねて持続時間が長くなる様子もなかった。 (その時の体調にむしろ左右される。) *スイッチをつかんでいるわけではないので、スイッチに置いた手がすぐ離れてしまい、結局口 にもっていって手なめになってしまうことが多かった。 *腰掛け座位での指導にかける時間が多くなったこともあり、この設定での取り組みは、10月 以降打ち切った。(時間がある時、補助的に試みる程度) 3. 指導の評価・まとめ ・腰掛けた状態での、おもちゃとスイッチは、両手を使ってかなり集中して遊んでいる時間が多く なった。 ・光って回るおもちゃと、はさむようにつかむスイッチの組み合わせは、単純な設定であったが、 飽きずに楽しく取り組むことができた。こちらが、大げさに言葉掛けや反応をすることで、その 度に笑い声をあげたり、おもちゃからこちらに視線を向けて笑顔を見せることもあった。 ・ただし、「持たせられた」物をずっとつかんでいた、ということで、特にスイッチの方は自分か ら意欲的に持とうとしていたかどうかは疑問。 ・右手については、自分から使おうとすることは難しく、利き手の左手にスイッチを持たされた状 21 態で、気に入ったおもちゃを右手でつかませる時は、誘導が必要だった。 この実践を振り返ってのまとめは、次の通りである。 ○ 受動的にではあるが、両手を使う活動の持続時間が増えたこと、結果的にその間手なめが軽減 されたことは、成果といえる。 ○ 右手に関しては、ここでの設定場面について言えば、 「自分から」とか「意欲的に」という観点 での成果は見られなかった。 ○ 「両手を使う」ということを主目的とすれば、付随的なことだが、腰掛けでの上半身の姿勢保 持時間が増えたことも評価できる。単に訓練の中で姿勢保持のみに集中させるより、両手のおも ちゃに集中させることで、意識せずに自然に姿勢の方を今回は安定させることができたのかもし れない。 ○ 今回の実践は、スイッチと連動したおもちゃだから有効だったといえるものではないが、両手 を使わせる手立ての例として、今後応用させることが可能と考える。 付記:写真の掲載については、保護者の了承を得ております。記して感謝いたします。 22
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