折り鶴の数理

− 折り鶴の数理 −
コンピュータで折り紙をデザインしよう
第 122 回セミナーテキスト
2006 年 2 月 8 日(水)
氏名:
17:00∼18:00
<<目次>>
1.はじめに ..................................................................... 2
2.折り鶴の数理 ................................................................. 2
3.GRAPES による「折り鶴」の作図 ................................................. 3
4.折り紙と科学 ................................................................. 6
5.折り紙デザイン ............................................................... 6
6.おわりに .................................................................... 21
講師:奈良女子大学附属中等教育学校 教諭
大西俊弘
(テキスト作成協力:奈良女子大学附属中等教育学校 教諭 佐藤大典)
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1.はじめに
折り紙は日本の伝承文化であり、日本人であればほとんど誰もが鶴などを折った経験が
あり、馴染み深いものである。子どもから大人まで折り紙のファンは多く、優雅な遊びと
しても人気がある。その一方で、折り紙は、多くの科学者の興味を引き、その数学的な構
造が解明されてきている。
例えば、図1のような「折り鶴」は、子供の頃に折り紙で作った経験から、折り鶴は正
方形の紙でしか折れないと思いこんでいる人が多い。しかし、「折り鶴」の折り線を数学的
に分析すると、正方形以外の形の紙でも折ることができることが分かる。本稿では、その
原理を解説するとともに、折り紙の工学面での応用や、コンピュータを利用した折り紙設
計についても紹介したい。
【図1】折り鶴(1)
2.折り鶴の数理
折り鶴を広げて、その「折り線」を数学的に解析した研究には、伏見康治(2)や堀井洋子
(3)
のものがある。また、近年では林(4)や川崎(5)が分かりやすい解説を発表している。それ
らによると、紙を4つの三角形に分割し、その4つの三角形の内心を結んだ折り線をつけ
ることができれば、どのような形の紙であっても折り鶴を折ることが可能である。
例えば、図2は、通常の正方形の折り紙の場合の折り線の図である。折り鶴の折り方か
ら考えると、辺 AF、BF は、それぞれ∠EAB、∠ABE の二等分線であるので、点 F は△ABE の
内心となる。同様に点 G,H,I も、それぞれ△BCE、△CDE、△DAE の内心である。図2のよう
な折り線を付けることができさえすれば、伝統的な折り方以外の折り方をしても、折り鶴
を作ることができる。
作図ツールを用いると、図2の頂点 A,B,C,D を任意の位置に動かして、変形することが
できる。そのとき、点 F,G,H,I が各三角形の内心となるように設定しておけば、任意の四
角形に対する折り鶴の折り線を簡単に得ることができる。
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3.GRAPES による「折り鶴」の作図
GRAPES(6)は、大阪教育大学附属高等学校池田校舎の友田勝久氏が開発されたグラフ作成
ツールであり、ダウンロードして誰でも使用できるフリーソフトである。GRAPES は、多機
能でかつとても使いやすく、教師のプレゼンテーションの道具としても、生徒の数学的な
探求の道具としても有効なソフトウェアである。
GRAPES の最近のバージョンでは、単なる関数のグラフ作成にとどまらず、ベクトルが扱
えるようになった。具体的には、ベクトルに関する関数(「分点」,
「交点」,
「垂線の足」、
「外
心」,「内心」
,「垂心」
,「重心」 等)の追加が行われ、幾何学図形を簡単に扱えるようにな
った。そこで、今回は折り鶴の折り線を GRAPES を用いて描いてみることにした。
GRAPES を用いて描いたのが、図2である。最初の4点 A,B,C,D を設定する際には、座標
を入力する必要があるので、作図ツールを用いる場合よりもやや面倒である。しかし、内
心に関しては作図ツールで設定する場合と手間は変わらず、また画面右のデータパネルを
見ればどういう点を設定しているのか一目瞭然となる利点がある。一旦図が描けてしまえ
ば、あとは各頂点をドラッグして変形できるのは、作図ツールと同様である。
【図2】GRAPES を用いて描いた折り鶴の折り線(正方形の場合)
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GRAPES で図3のような折り線を描く。但し、辺 BD の向きが、鶴の頭や尾となる方向であ
る。これを変形させると、図4のような菱形が得られる。変形の仕方によって、2通りの
折り線が得られ、図4の左の折り線では「羽が長く首・尾が短い鶴」が得られ、右の折り
線では、「羽が短く首・尾が長い鶴」が得られる。
【図3】折り鶴の折り線の基本形(正方形)
【図4】菱形に変形する(変形の仕方によって2通りの鶴ができる)
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菱形以外にも、長方形や平行四辺形をはじめ、一般の四角形などに変形が可能である。
実際に紙を折ってみると、いずれの形でも鶴を折ることはできるが、対角線に関して線対
称の四角形(正方形、菱形、凧型)の場合に、バランスのとれた形になることがわかる。
図3を変形すると、図5のような三角形を作ることも可能である。驚くことにこのよう
な場合でも、鶴を折ることができる。(但し、極端に尾の短い鶴になる。)
また、紙の形を変えるのではなく、正方形のままで図6のように点 T を動かす変形を施
しても、鶴を折ることができる。
【図5】正三角形に変形する
【図6】点 T を移動させる(正方形の場合)
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この題材を扱った作図ツールを用いた数学の授業実践には、林(4)の「Cabri
geometre Ⅱ」を用いたもの、堀尾(7)らの「Geometer's SketchPad(GSP)」を用
いたものがある。他にも、岡山大学附属中学校(8)、武田(9)、ぼくら数学実験隊(10)、
などがあり、これらの WEB サイトには、実際の折り方や出来た鶴の写真が多数
掲載されているので、ぜひ参照されたい。
4.折り紙と科学
折り紙の科学的研究は近年急速に進展してきている。例えば、「川崎ローズ」というバラ
の折り紙で有名な川崎敏和氏(11)は、折り紙研究で博士号を授与された。また、国際的な学
会も4回にわたって開催され、その成果は本(12)にまとめられている。
また、工学面の応用としては、東京大学名誉教授の三浦公亮氏が考案した「三浦折り」(13)
が有名である。これは、人工衛星を打ち上げる際に太陽電池パネルを小さく折りたたんで
おき、宇宙に出てから簡単な操作で太陽電池パネル大きく開くために考案されたものであ
る。この折り方は、片手で折りたためる地図(14)として広く利用されている。
【図7】三浦公亮氏(14)と三浦折り(13)
5.折り紙デザイン
近年、コンピュータを使って折り紙の折り線を設計することが盛んになってきている。特に、
三谷純氏によって最近開発された折紙展開図エディタ「ORIPA」は、図8に示すように、折り紙
の展開図を描くと完成形を予想して3次元グラフィックスで表示することができ、非常に使いや
すいものとなっている。図9のような複雑な折り線であっても、見事に鶴が描かれるのは、見事
である。
(但し、
「ORIPA」の完成形の予想機能は、まだ一部に不完全なところがあるようである。
)
「ORIPA」の操作には若干慣れが必要であるが、これを利用すれば、中学生でも新しい折り紙
を設計することができる。
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【図8】コンピュータソフト(ORIPA)で折り鶴をデザインする
【図9】折り鶴の完成形(三谷氏作)
6.おわりに
折り紙は数学と密接に関連し、奥の深い世界であるが、紙面の関係で深くは述べること
が出来なかった。最後に、中学生でも読める本で現在入手可能なものを推薦図書として挙
げておくので、ぜひ読んで頂きたい。
参考文献・URL
(1)弥生のフリー素材集
http://www.a841.jp/sozai/chiyo/cut/cut_turu1.html
(2)伏見康治・伏見満枝
(3)堀井洋子
「折り紙の幾何学」
「折り紙と数学Ⅰ・Ⅱ」
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日本評論社
明治図書
(4)林恵津雄
「鶴が折れるという図形の性質の探求」
じっきょう数学資料 NO.39
実教出版
(5)川崎敏和、実教数学資料 49 号、「折り紙の数理」
http://www.jikkyo.co.jp/contents_data/su49_11.pdf
(6)友田勝久、関数グラフソフト GRAPES 6.47
http://okumedia.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/ tomodak/grapes/
(7)堀尾直史
「いろんな折り鶴を折ろう!」
http://www21.ocn.ne.jp/ holynet/oridzuru/oriduru1.html
(8)岡山大学教育学部附属中学校
数学科
「折り鶴の秘密を探ろう」
http://www.fuzoku.okayama-u.ac.jp/ml/kyouka/math/orituru.html
(9)熊本市立桜木中学校 武田裕二
『図形学習の意欲を高めるコンピュータの利用』
=Geometric Constructor による図形学習を通して=
http://take-me.hp.infoseek.co.jp/math/kyu98/kyu98_2.htm#kyu98-3-3
(10)ぼくら数学実験隊、「三角形で鶴を折ろう! 」
http://www.e-t.ed.jp/edotori41/%EF%BD%8A%EF%BD%89%EF%BD%8B%EF%B
D%8B%EF%BD%85%EF%BD%8E%EF%BC%92.htm
(11)川崎敏和、「バラと折り紙と数学と」、森北出版
(12)ト−マス・C.ハル/川崎敏和、「折り紙の数理と科学」、 森北出版
(13)私的数学塾、「三浦折り」
http://www004.upp.so-net.ne.jp/s_honma/figure/miura.htm
(14)株式会社オルパ、ミウラ折りオルパ製品の特徴
http://www.orupa.co.jp/product_frame.html
(15)三谷純、折紙展開図エディタ ORIPA - PukiWiki-ORIPA
http://mitani.cs.tsukuba.ac.jp/pukiwiki-oripa/
【推薦図書】<中学生でも読めて、現在入手可能な本>
(16)堀井洋子/折り紙サ−クル、「折り紙で数学」、明治図書
(17)堀井洋子、「折り紙で広がる数学の世界」、北斗書房
(18)堀井洋子、「折り紙と数学のひろば」、日本評論社
(19)川村みゆき、「はじめての多面体おりがみ」、日本ヴォーグ社
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