授業のエキスパート養成事業(第2学年美術科)授業実践記録

授業のエキスパート養成事業(第2学年美術科)授業実践記録
学 校 名
職・氏名
八幡浜市立愛宕中学校
教諭・田丸 純一
1 日時・場所
平成22年12月8日(水)第5校時(13:25~14:15)・美術室
2 題材名
やわたはままるごとドリンク ~ペットボトルのパッケージデザイン~
3 目 標
○
生活の中で接するパッケージデザインに関心をもち、自らの生活を豊かにすることと自分らしい表
現をすることに主体的に取り組もうとする。
○
パッケージデザインの目的や機能を理解し、色彩や形などの効果を生かして分かりやすさや美しさ
などを総合的に考え、表現の構想を練り深める。
○
【発想や構想の能力】
自分の構想に沿って独創的な表現を工夫し、制作手順を総合的に考え、見通しをもって計画的に表
現する。
○
【関心・意欲・態度】
【創造的な技能】
パッケージデザインの目的や機能と調和のとれた表現の工夫を感じ取り、見方を深め、自分の価値
観をもって批評し合うなどして、美意識を高め幅広く味わう。
【鑑賞の能力】
4 題材設定の理由
(1) 生徒について
本学級の生徒(男子11名、女子21名)は、全体的にまとまりがあり、表現活動・鑑賞活動ともに意
欲的に取り組むことができる生徒が多い。反面、見通しをもって活動することが苦手なために、構想
を練ったり制作したりするのに時間がかかる。そのため、課題提出や作品完成が遅れがちになる生徒
もいるので、今後、改善のための手だてが必要である。
デザインについては、1年生で自然物の構成を基にしたカレンダーの制作、2年生でポスターの制
作を行っている。それらの学習を通して、学級内には、自分の表現意図を自信をもって説明したり、
独創的なデザインを認め合ったりする雰囲気が育ちつつあるので、発想や表現を練り合ったり高め合
ったりする活動が充実していくことが期待できる。
(2) 題材について
身の回りにあふれる様々なデザインの中でも、ペットボトルなどのパッケージデザインは、生徒た
ちにとって、特に身近なものである。パッケージのデザインは、じっくりと鑑賞される造形作品と異
なり、一瞬で人の心をつかむインパクトや、尐ない情報で商品の内容を伝える洗練されたデザイン性
とのバランスが大切である。この題材を通して、美的感覚を磨き、自分の美意識を働かせ、優れたデ
ザインを生活に取り入れる経験をすることで、生涯にわたって、心豊かな生活を営む感覚・能力や態
度を身に付けるきっかけになるであろう。
また、八幡浜市では、「やわたはままるごとアート展」という作品展が長年にわたって開催されて
いる。これは、地元の産業や特産品、伝統行事や地域出身の偉人を題材とした造形作品を、市内の幼
稚園・保育所・小・中・高等学校から出品し、商店街の中央に位置するドーム内に展示するものであ
る。本題材で制作したオリジナル飲料のパッケージを、このアート展へ出品することを目的とするこ
とで、相手意識がはっきりとし、デザインの方向性や条件を明確にすることができるとともに、郷土
を愛する心を育てることもできると考える。
(3) 指導に当たって
生徒の意欲を高めるために、導入の段階で様々なパッケージデザインを鑑賞させ、効果や働きなど
を具体的に理解させたい。そのため、事前に生徒自身にもラベルを収集させ、パッケージデザインに
対する意識をもたせておく。また、情報機器を活用させて、参考作品を効果的に提示したい。発想を
より広げるための工夫として、書籍やインターネットを活用して必要な情報を収集させる活動を行う。
その中で、印象的な項目や言葉をメモさせたり、グループ内でアイデアを相互に語り合わせたりした
い。鑑賞会は、作品を商品として発売することをイメージさせたプレゼンテーション形式で行う。そ
のため、効果的なプレゼンテーションと、そうでないものとを映像によって比較させることで、聞く
人の気持ちを考えることなどのポイントを明確にし、自身のプレゼンテーションの構想や準備に役立
たせたい。題材全体を通して、教師が学習計画を明確に示すとともに、毎時間、机間指導やワークシ
ート等で生徒一人一人の制作進度を確認し、必要に応じた支援をすることで、作品制作に見通しをも
って取り組ませたい。
5 学習計画(8時間)
次
主な学習活動
○
1
時数
主な評価規準
様々なパッケージデザインの参考
◎ パッケージデザインに関心をもち、オリジ
作品を鑑賞し、デザイン上の意図や
ナル作品の制作に対する意欲をもっている。
効果、働きなどを読み取る。
1
【関心・意欲・態度】
○ 今後の学習計画(鑑賞会の内容も含
む)について知る。
○
資料やワークシートを基にしてテ
◎
ーマを決め、構想を練る。
○
2
○
し、美しさやおもしろさとのバランスを考え
構想を基にしてアイデアスケッチ
をする。
パッケージデザインの目的や機能を理解
て構想を練ることができる。 【発想・構想】
2
アイデアスケッチを基にして、自
◎ 友だちのアイデアに対して、自分の価値観
分のアイデアをグループ内で発表し
をもって意見や感想を発表することができ
合い、さらに構想を深める。
る。
【鑑賞】
○ 表現方法や制作手順を考える。
○
自分が選択した表現技法で、パッ
◎ 表現方法を工夫し、見通しをもって計画的
ケージ(ラベル)を制作する。
3
・ ポスターカラーや絵の具など
に制作することができる。
【技能】
2
・ ペンや色鉛筆、コラージュなど
○
制作途中に相互鑑賞を行い、表現
◎ 相互に表現の工夫を感じ取り、意見や感想
を練り合う。
を発表し合うことができる。
○ ワープロソフトで文字を入れる。
4
○ 印刷し、飲料の容器にはり付ける。
【鑑賞】
◎ 機器を適切に使用して、自分の構想に合っ
1
た独創的な文字を入れることができる。
【技能】
○
自分の作品をどのようにプレゼン
テーションするか構想を練る。
5
○
グループ内で相互に模擬プレゼン
テーションを行い、意見や感想を出
し合う。
◎ 聞く人の気持ちを考え、よく分かるプレゼ
1
(
本
時
)
ンテーションになるよう、工夫する。
【発想・構想】
◎ お互いのプレゼンテーションを自分の価値
観をもって批評し合うことができる。
【鑑賞】
○
学級全体に自分の作品をプレゼン
◎ プレゼンテーションの表現方法を工夫し、
テーションする。
6
○
発表することができる。
友だちのプレゼンテーションを鑑
賞し、意見や感想を発表し合う。
1
【技能】
◎ お互いのプレゼンテーションを自分の価値
観をもって鑑賞し、幅広く味わうことができ
る。
【鑑賞】
6 本時の指導
(1) 本時のねらい
○ 聞く人の気持ちを考え、よく分かるプレゼンテーションの方法を工夫する。
○ お互いのプレゼンテーションを、自分の価値観をもって批評し合う。
(2) 本時の指導に当たって
本時の授業は、効果的なプレゼンテーションとはどういうものなのかを理解した上で、自分の作品
を学級全体の場でよりよく紹介するための準備をするものである。効果的なプレゼンテーションとそ
うでないものを比較する映像を見せ、まず発表者に明確な表現意図が必要であること、次に聞く側の
気持ちを考えることが大切であること、などの基本的な条件を明確に示す。さらに、それらを実現す
るための具体的な方法をまとめ、理解の深まりにつなげたい。
個別の指導では、生徒一人一人とじっくりと話し合ったり、アイデアスケッチやワークシートに助
言を書き込ませたりすることで、かかわりを深くもちたい。グループ内で模擬プレゼンテーションを
鑑賞し合う活動では、内容や方法について、お互いにアドバイスをし合い、練り合わせることで、本
番で自信をもって自分の作品のアイデアをアピールできるようにさせたい。
(3) 言語活動充実の視点
○ 構想を練る場面において、聞く人の気持ちを考えた言語表現を工夫できたか。
○ グループ内で、自分の意見や感想を分かりやすく相手に伝えることができたか。
(4) 準 備
教師:掲示物、参考作品、ワークシート、テレビ、パソコン、画用紙、マジック等
生徒:教科書、標準美術、クロッキー帳(ワークシート)、作品
(5) 展 開
学習活動
形態 時間
1 本時の学習内容につい
一斉
3
て確認する。
○指導上の留意点 ◎評価
○ 本時の流れと学習目標を明確に伝え、見通しをもって
取り組めるようにする。
効果的なプレゼンテーションを考えよう。
2
参考例を鑑賞し、意見
や感想を発表する。
一斉
10
○ 効果的なプレゼンテーションとそうでないものとが比
較しやすい映像を作成し、提示する。
3
効果的なプレゼンテー 一斉
5
〔効果的なプレゼンテーションの条件〕
ションの条件や方法を理
・ 発表者の表現意図が明確
解する。
・ 聞く側の気持ちを考えた表現方法
〔実現のための具体的な方法〕
・ 大きな声で、ゆっくりと分かりやすく
・ ポイントを絞り、分かりやすい言葉で
・ 書き言葉ではなく、話し言葉で
・ 原稿を読まず、自分の言葉で
・ 可能ならば視覚的な工夫を
4
プレゼンテーションの 個別
12
構想を練る。
など
○ ワークシートに頼りすぎず、原稿はメモ程度のものに
させる。
○ プレゼンテーションの際に掲示物等を使用したい場合
は、材料を与え制作させる。
◎ 聞く人の気持ちを考えたプレゼンテーションになるよ
う、工夫できたか。
5
相互に模擬プレゼンテ グループ
15
ーションを行い、批評し
○ スムーズに進行できるように、班長と事前打合せを行
っておく。
合う。
◎
自分の価値観をもって批評し合うことができている
か。
6
本時の学習活動を振り 個別
返り、次時の学習内容と 一斉
(観察・自己評価表)
5
(観察・自己評価表)
○ ワークシートを用いて自己評価をさせる。
○ 本時の自己評価をもとに、次時の目当てをもたせる。
課題を確認する。
7 授業評価の視点
(1) 生徒理解力
生徒一人一人の表現意図を把握し、プレゼンテーションで強く推したい部分が聞く人によく分かる
よう、適切に助言できていたか。
(2) 教材解釈力
パッケージデザインの役割や機能、生徒の実態を把握して題材設定を行い、表現方法や鑑賞方法、
学習計画を工夫していたか。
(3) 授業構成力
生徒相互の練り合いや高め合いを生かして主体的な取組ができるように、資料や機器の活用、授業
形態などを工夫していたか。
(4) 授業実践力
プレゼンテーションのポイントを適切に指導することができていたか。構想を練る場面や、模擬プ
レゼンテーションの場面では、適切な言葉がけによって効果的な支援を行っていたか。
8
授業の実際
時刻
13:25
教師の主な発問・支援
○
プレゼンテーションとはどういうもの
児童生徒の主な反応・活動
・
ワークシートで確認。
・
聞く人の目を見て発表する。
・
はっきりとしゃべる。
・
ラベルのどの部分を説明しているかが分
なのかを確認してください。
(導入・一斉)
13:28
○
DVDを鑑賞し、プレゼンテーション
に必要な条件を見つけましょう。
適切なプレゼンテーションとそうで
ないものを比較することができるDV
Dを制作し、視聴させた。
13:31
○
どんなプレゼンテーションが効果的だ
と思いましたか。
13:33
DVDを再度視聴させ、気付きのた
めのきっかけとした。
かりやすい。
・
味をイメージしやすい。
・
最後に商品名を繰り返したのでインパク
トがあった。
・
声のトーンが高いと聞き取りやすい。
・
声は大きい方がよい。
・
強調したいところを指で指していた。
・
原稿を見ながらより、前を向いていた方
がよい。
13:41
○
自分の作品をプレゼンテーションする
・
身振り手振りを交えて発表していた。
・
ゆっくりしゃべると聞き取りやすい。
・
ワークシートにメモをまとめる。
ためのメモを作りましょう。
机間巡視の途中で、プレゼンテーションの内容がドリンクのCM的なものに偏りかけ
ていることに気付いたので、ラベルのデザインについて視点を戻して発表するよう、全
体に指示を出した。
時刻
13:54
教師の主な発問・支援
○
グループでプレゼンテーションを行い
児童生徒の主な反応・活動
・
ましょう。
グループ内で順番にプレゼンテーション
を発表し、相互に批評し合う。
特別な支援が必要な生徒への配慮か
ら、学級の生活班をグループ単位とし
た。事前に班長を集め、進行について
説明をしておいた。
細かなルールなどは設定していなか
ったが、生徒たちが自発的に発表者へ
の拍手などを行い、雰囲気が高まっ
た。
14:06
○
本時の自己評価と次時の目当てを書き
ましょう。
・
他からの助言をワークシートに記録す
る。
・
自己評価と目当てをワークシートに記録
する。
授業終了後にワークシートの内容を確認し、特にラベルのデザインについての発表内
容が深まるよう、必要に応じて次時の授業までに個別指導を行った。その結果、学級全
体でのプレゼンテーションでは、ドリンクのイメージとラベルデザインとのつながりに
ついて、どの生徒も堂々と発表することができた。
9
研究協議の記録
項
目
協
1 授業改善の視点と ・
議
内
容
・
意
見
自己評価
事前にワークシート等で生徒の表現意図を把握していたが、授業の中で
は机間指導が十分にはできなかった。
・
プレゼンテーション形式の鑑賞会を計画したが、他の鑑賞会の方法と比
較してどれだけ有効なのか、教師にまだ迷いがある。
・
当初は導入時の鑑賞に機器の活用を考えていたが、実物を鑑賞すること
がより適切だと考え、実物の鑑賞を実践した。
・
支援が必要な生徒は、周囲の生徒の声掛けでスムーズに取り組むことが
できていた。
・
本校は元気でがんばる生徒が多いが、けじめをつけながら授業に取り組
めた。挙手、発表がやや尐なく、意見が引き出し切れなかった。次時の発
表会でフォローしていきたい。また、発表の様子はビデオで記録し、評価
にも役立てたい。
2 グループ別協議
(1) 一人一人の表現 ・
意図や強調ポイン
安心して表現できる場づくりができている。発問が工夫され、生徒が伸
び伸びと活動していた。生徒理解が十分にできている。
い
トなどの把握につ ・
生徒が意欲的であり、語彙が豊富である。作品もよくできていた。
いて
生活班でグループ分けをしていたが、デザインのテーマ別でもよかった
(生徒理解力)
・
のではないか。
(2) 表現方法や鑑賞 ・
方法、学習計画の
地域を意識した題材設定がなされており、生徒の意欲が引き出せてい
た。
工夫について
・
指導案に題材や授業の意図がよく表れていた。
(教材解釈力)
・
プレゼンテーションを総合的な発表の場としてとらえられていたが、商
品を売ることへの意識が強く、商品のプレゼンテーションか、パッケージ
あいまい
デザインのプレゼンテーションかが曖昧だった。
・
デザイン力はあっても、話すことが苦手な生徒の評価が難しい。
・
表現力の弱い生徒に対しては、キーワードなどを示すなどして支援する
こともできるのではないか。
・「キャラクターを入れる」などの条件を設定することも考えられる。
・
ペットボトルや飲み物に限定せず、実際の商品に結びつくようなパッケ
ージを考えさせてはどうか。
・
美術科における言語活動の在り方について、国語科との違いや、どのよ
うなことを言葉にして発表すればよいかが疑問だ。
(3) 資料や機器の活 ・
VTRの活用が効果的であった。聞き手を意識するというポイントが明
用、授業形態の工
確だった。よい雰囲気づくりのきっかけにもなった。ただ、インパクトが
夫について
強すぎて、内容よりも方法に意識が傾いた。
(授業構成力)
・
グループでの話合いもよい雰囲気で行われていた。互いを認め合う心が
育っている。
・
批評し合うという点では、プレゼンテーションを改善するための意見が
もう尐しあるとよかった。
・
小集団活動は全体に共有できないので、活動の目標が達成されたかを確
認する場面が必要である。
項
目
協
(4) プレゼンテーシ ・
議
内
容
・
意
見
指導要領の「習得と活用」が、生徒の学習する姿で示されており、全体
ョンの指導や一人
のレベルが高い。「聞く側の気持ち」という答えが出てきたのは、ベース
一人への言葉掛け
になる考え方を習得しているからである。
について
(授業実践力)
・
途中で、デザインに意識を戻すよう修正する言葉掛けがなされた。その
結果、形や色に関する発表や意見が出てきた。小集団活動の中で、イメー
ジについて語っている生徒もいた。
・
小集団活動で発表の順番を決めておけば、机間指導がより効果的にでき
る。
3 全体での話合い
(1) プレゼンテーシ ・
ョンの評価に関し ・
評価における「自分の価値観」とはどのような価値観か。
ての質問と回答
デザイン面に関する価値観を想
定していた。一人一人がデザイン
に込めた思いを表現させたかった
が、今日のプレゼンテーションの
授業ではその価値観が尐なかっ
た。
(2) 鑑賞、練り合い ・ アイデアスケッチや作品が完成
の場について
した段階で、小集団の形態で互い
の意見交換をしているので、次時
の発表会では、デザインに込めた思いをしっかりと話させたい。
・
授業のはじめに作品を並べて紹介したり、途中や終末でいくつかの作品
を称揚したりしている。制作中は話さないことを徹底している。
・
自己評価の高い生徒から順番に感想を発表させ、互いの作品を見る目を
養っている。
授業改善のポイント
○
表現と鑑賞は別々のものでなく、それぞれの活動の中に「造形思考」の場面がある。造形
思考の根本は言語によって行われるので、言語活動を充実させることが,表現や鑑賞の充実
につながる。
○
言語活動に関して、図工では感じたことや思ったこと、表し方の変化、表現の意図や特徴
などをとらえることが大切である。美術では、作品などに対する自分の思いや考えを言葉に
よって考え、整理することで、漠然とした美的要素を明確にしたり、意見の交流によって新
たな価値を獲得したりすることが重要である。言語活動そのものではなく、新しい見方や考
え方が表現されたかどうかを評価する。
○
鑑賞の時間は大変貴重である。例えば、総合的な学習の時間での取組を生かす事なども考
えられる。逆に、美術科でないといけないものは、共通事項に示された「形・色・イメー
ジ」であり、そこに話が行き着くことが大切である。
○
評価については、指導案と実際の評価に整合性をもたせるなど、いつ、どこで、どのよう
な評価をするのかを明確にするよう具体的な授業改善を行い、信頼性を高めていくことが重
要である。