介護職の 夜勤の心得 「夜間のトラブル」対応マニュアル

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不安解消!
「夜間のトラブル」対応マニュアル
介護職の
夜勤の心得
介護施設は24時間365日稼働してい
社会福祉法人あいの土山福祉会 エーデル土山
廣岡隆之
副施設長/事務局長 介護福祉士,社会福祉士,介護支援専門員。
「介護現場の人材育成」
「キャリアアップシステムの構築」「社会福祉施設における安全衛生
対策の必要性」
「福祉職場の中間管理職・リーダー層の悩み,トラブ
ル解決法」「エーデル土山の人材育成システム」「エーデル土山の執
行室制度」
「エーデル土山のオリジナル教本」など,研修講師,発表多数。また,他法人
への出張講師も多数務め,施設ごとの諸問題に対して多くの個別相談にのっている。
ます。夜間は少人数の介護スタッフが長時間対応
その分,スタッフ一人当たりの負担は当然大きく
しています。人材不足もあり,ベテランの介護職
なります。特に上司や看護師などの医療スタッフ
だけで夜勤対応することができず,経験の浅いス
がいないことによる心的プレッシャーは非常に大
タッフが長時間の夜間帯を見ていかねばならない
きく,夜勤スタッフは「何かあった時にうまく対
施設もたくさんあると思います。どんなに経験を
応できるだろうか?」
「一人で対応しなくてはな
十分に踏んだ介護職であっても,長時間の夜勤は
らず,とても不安だ」という心理状態に陥りやす
心身ともに非常に消耗します。ましてや,新人が
いため,必要以上に責任を背負い込んでしまうと
夜勤をすることは,ベテランスタッフ以上に体力
いうケースが見受けられます。
的にも精神的にも消耗することになります。夜勤
この夜間帯の特徴について,施設として可能な
業務があまりに過酷であったり,施設としてしっ
限りの「事前対策」を立てておくことで,夜勤ス
かりとしたルールが形成されていなかったりすれ
タッフの負担はかなり軽減します。決められるこ
ば,夜間の安全を守ることができないことはもち
とは事前に決めておくことが非常に重要です。
ろんのこと,職員の定着にもつながりません。し
当施設の夜勤体制
かし,夜間帯で想定されるリスクをあらかじめ抽
当法人の特別養護老人ホーム(以下,当施設)で
出しておき,一定のルールが確立されていれば,
は,次のような夜勤体制をとっています(表2)
。
介護職員の負担の軽減と安心したサービス提供が
〈夜勤体制〉
可能となります。
・勤務時間:16 〜9時
本稿では,新人スタッフが夜勤をする際に,ど
・夜勤介護職4人+宿直員1人の出勤体制。
のようなことに注意し,どういう心構えで夜勤に
・夜間帯に何も起こらなければ,宿直員は戸締り
従事したらよいのかという視点を中心に述べたい
確認やボイラー点検だけで介護業務は一切行わ
と思います。
ない。
夜勤とは何なのか?
・心肺停止などの重篤な症状で救急車を要請する
夜勤は日勤帯と異なり,表1に示すような特徴
場合は,介護職が対応する。それ以外の連絡に
があります。新人スタッフは表1に挙げた点を押
ついては,看護師か相談員が行う。
さえた上で夜勤に入ることが肝要です。
夜勤帯はスタッフが少ないことが前提であり,
・看取りの際の死後処置は待機看護師,相談員が
行い,介護職は通常の業務を行う。
真・介護キャリア
◆
Vo l . 11 No . 6
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〈オンコール体制〉
・真剣に聞き,真剣に答える。
・待機看護師,相談員ともに1人ずつ,緊急出勤
に備えて夜間待機する(輪番制)
。
認知症だからといって軽い態度で受け流すと,
まったく相手に伝わらない。
・併設の短期入所の緊急体制にも備える。
・利用者の話を否定せず,優しいトーンとゆっく
・待機(オンコール)手当(1夜2千円)を支給
する。
り相槌を打つ。
・甘い物や温かい物(ココアなど)を提供しなが
・家族や病院への連絡は相談員が対応する。
ら傾聴すると利用者の気分が落ち着き効果的。
介護業務編
・居室から出てきた時は必ず理由を聞く。
夜間の巡視では何を確認する?
・徘徊が激しい場合は,歩くのをやめてもらうの
巡視時には,呼吸状態,臥床姿勢,車いす,ポー
ではなく,歩いてもらえる環境を整備する。
タブルトイレの位置などを確認します。資料1に
ある程度時間が経過すれば,落ち着いて再入眠
することが多い。
巡視のポイントと対応についてまとめました。
夜間の居室環境は?
室温調整や光,換気などを行い,利用者が快適
表1 日勤帯と夜勤帯の違い
項目
な空間でゆったりと眠ってもらえるように環境を
整えることが大切です(資料2)。
夜勤帯
日勤帯
活動的
大多数は睡眠しているが,
一部の利用者については不
眠,興奮,帰宅願望などが
顕著に現れることがある
利用者
夜間トイレ誘導時の注意点は?
ポイントを資料3にまとめました。
業務内容
不眠者にはどう対応する?
夜間になると不安,不眠,焦燥感などが出現する
利用者がいます。業務が遅れ「まだ排泄介助が終わ
助に お いて日勤帯より一人のス
タッフにかかる負担は大きい。
スタッフ数
は,スタッフの心の余裕がなくなり苛立ってしまう
わると不穏を引き起こし,予想外の事故にも発展す
少ない
多い
体力面/精神面 皆でカバーできる きつい
らない」
「頻繁にナースコールが鳴る」などの場合
こともあります。しかし,その苛立ちが利用者に伝
3大介助を基本 巡回,おむつ交換,寝返り
とし,業務範囲 介助
※人数が少ないため,すべての 介
が広い
その他
上 司,看 護 師
(医 師)が い る
ため,指示を仰
ぐことが で き
る。
る恐れがあります。利用者に落ち着いてもらうために
は,本人の話をしっかり聞くことが一番の近道です。
夜勤スタッフのみで対応
することとなる
高度な判断力が必要
時間に追われるため,心
理的余裕が一段となくな
る
他のスタッフがいない分,
スタッフによっては,業
務放棄や虐待などにつな
がる恐れもある
表2 夜勤体制
業務内容
夜勤介護職
宿直員
待機看護師
待機相談員
介護業務全般
〇
―
―
―
急変時の対応
看取り時の対応
記録
緊急出勤・病院付添
(先に看護師が救急車で付
き添っている場合,公用車
で迎え)
初期対応・救急車要請
玄関開錠・事務所待機
緊急出勤・病院付添
待機職員へ連絡
玄関開錠・事務所待機
緊急出勤・死後処置
緊急出勤・死後処置
―
処置内容,診断内容
連絡関連内容
介護内容
あらかじめ,各職種による役割分担を明確にしておくことで,何かあった際に,
「これは誰がやるのか」と困惑することが格段に減少します。
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真・介護キャリア
◆
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