あもんノート http://amonphys.web.fc2.com/ ユークリッド幾何学、ニュートン力学から、相対論、宇宙論、量子力学、場の量子論、 素粒子論、そしてくりこみ理論まで、理論物理学を簡潔にかつ幅広く網羅したノート です。TOP へは上の URL をクリックして行けます。 目次 1 2 ユークリッド幾何学 1.1 ユークリッド空間とデカルト座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 1.2 クロネッカーデルタとレビ・チビタ . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 1.3 行列式と余因子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 1.4 合同変換と相似変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 1.5 スカラーとベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 1.6 テンソルと擬テンソル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 1.7 ベクトルの内積とノルム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 1.8 角度と三角関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 1.9 三角関数の性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 1.10 テンソル積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 1.11 外積とスカラー 3 重積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 1.12 無限小角度ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14 1.13 座標の接ベクトルと基底 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15 1.14 体積と面積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 1.15 3 次元極座標と球の計量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 1.16 ナブラ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19 1.17 外微分とストークスの定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 1.18 ガウスの定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 1 1 ユークリッド幾何学 物理に必要な数学であるユークリッド幾何学の基礎について、表記法の紹介も 兼ねてここにまとめておきます。ユークリッド幾何学はユークリッドの原論に始 まる非常に古い歴史を持つ数学です。このため何を公理とするか、また、どのよ うな表現法を用いるかによって数種の立場があります。ここでは計量空間の一種 として捉え、なおかつ座標に立脚した立場をとります。初等的な代数学および解 析学 (微積分学) は既知とします。 1.1 ユークリッド空間とデカルト座標 N 個の実数の順序付けられた組 (x1 , x2 , · · · , xN ) が作る集合を RN と書きます。 局所的に RN と同相な点の集合は N 次元の空間、あるいは多様体と呼ばれます。 空間のある点に対応する RN の元はその点の座標と呼ばれます。 いま、N 次元の空間上に任意の 2 点 P, Q を考え、それらの座標を、順に、 (x1 , x2 , · · · , xN ), (x1 + ∆x1 , x2 + ∆x2 , · · · , xN + ∆xN ) とします。PQ 間の距離 s が、 2 s = N X (∆xi )2 = (∆x1 )2 + (∆x2 )2 + · · · + (∆xN )2 , s≥0 i=1 で与えられるとき、この N 次元空間を N 次元ユークリッド空間といいます。ま た、このときの座標 xi をデカルト座標といいます。一般に、距離の定義された空 間は計量空間と呼ばれます。ユークリッド空間は計量空間の代表的な一例です。 1 つの項に同じ添字が現れたとき、その添字について和を取ることにします。こ れをアインシュタインの縮約規則といいます。そうすると上式は、 s2 = ∆xi ∆xi とも書けます。このとき右辺は添字 i について和を取るわけです。このような添 字はダミー (和の変数) であるため、計算上、別の使ってない添字に置換できます。 例えば上式は、s2 = ∆xj ∆xj と書いても同じことです。 2 図 1: 2 次元ユークリッド空間 1.2 クロネッカーデルタとレビ・チビタ クロネッカーデルタの記号を、 ( δij = 1 (i = j) 0 (i 6= j) で定義します。これは行列としては単位行列に相当し、 δij Aj = Ai という性質を持ちます。言うまでもないですが、左辺は j について和をとります。 また、N 次元レビ・チビタの記号を、 1 (N 個の添字 i, j, · · · k が 1, 2, · · · N の偶置換のとき) ²ij···k = −1 (奇置換のとき) 0 (その他、すなわち添字に同じ数字があるとき) で定義します。この定義から ²ij···k はどの 2 つの添字を入れ換えても符号が逆に なります。これは一般に完全反対称性と呼ばれる性質です。それゆえ ²ij···k は、 ²12···N = 1 でかつ N 個の添字について完全反対称であるとして定義することもで きます。 特に 3 次元の場合は、サイクリック対称性 : ²ijk = ²kij = ²jki があります。 1.3 行列式と余因子 少し寄り道になりますが、レビ・チビタの記号の応用として、ここで行列式の 理論について簡単に触れておきましょう。 3 N 次正方行列 A の行列式の定義は、 det A = 1 ²i i ···i ²j j ···j Ai j Ai j · · · AiN jN N! 1 2 N 1 2 N 1 1 2 2 です。簡単に、 det(cA) = cN det A, det AT = det A という性質がわかるでしょう。ここで c は実数 (または複素数)。また、AT は A の転置行列で、 (AT )ij = Aji で定義されます。 いま、fi1 i2 ···iN = ²j1 j2 ···jN Ai1 j1 Ai2 j2 · · · AiN jN とおくと、これは i1 , i2 , · · · , iN につ いて完全反対称であることがわかるので、fi1 i2 ···iN = ²i1 i2 ···iN f12···N . すなわち、 ²j1 j2 ···jN Ai1 j1 Ai2 j2 · · · AiN jN = ²i1 i2 ···iN ²j1 j2 ···jN A1j1 A2j2 · · · AN jN . この関係と、²i1 i2 ···iN ²i1 i2 ···iN = N ! に注意すると、 det A = ²j1 j2 ···jN A1j1 A2j2 · · · AN jN , ²i1 i2 ···iN det A = ²j1 j2 ···jN Ai1 j1 Ai2 j2 · · · AiN jN といった性質が得られます。そうすると、2 つの N 次正方行列 A, B について、 det(AB) = ²j1 j2 ···jN (AB)1j1 (AB)2j2 · · · (AB)N jN = ²j1 j2 ···jN (A1i1 Bi1 j1 )(A2i2 Bi2 j2 ) · · · (AN iN BiN jN ) = A1i1 A2i2 · · · AN iN ²i1 i2 ···iN det B = det A det B. すなわち、行列の積の行列式は、それぞれの行列の行列式の積と等しくなること がわかります。 一方、 1 ∂ det A = ²ii ···i ²jj ···j Ai j · · · AiN jN A˜ij = ∂Aij (N −1)! 2 N 2 N 2 2 = (A の i 行 j 列を取り除いた行列の行列式) × (−1)i+j で行列 A の余因子を定義します。このとき、 1 ²ii ···i ²jj ···j Akj Ai2 j2 · · · AiN jN (N −1)! 2 N 2 N 1 = ²ii ···i ²ki ···i det A (N −1)! 2 N 2 N Akj A˜ij = 4 ですが、²ii2 ···iN ²ki2 ···iN = (N −1)! δik に注意すると、 Akj A˜ij = δki det A ∴ AA˜T = det A δ ( δ は単位行列). またこれと同様にして、A˜ij Aik = δjk det A ∴ A˜T A = det A δ がわかるので、A の逆元 (AB = BA = δ を満たす行列 B) は、 A−1 = 1 ˜T A det A と一意的に定まり、これを A の逆行列といいます。A˜T は A の余因子行列と呼ば れます。det A = 0 のときは、A の逆行列は存在しません。 (余談) 行列式を扱った教科書は応用系の目的のものが多いため、このように簡潔かつ明瞭に説 明しているものは少ないと思われます。レビ・チビタの記号 (符号関数) を用いればこれだけの話 なのです。ちなみに、Akj A˜ij = δki det A において、特に k = i = 1 とおくと、 det A = A1j A˜1j ですが、これは行列式の余因子展開と呼ばれ、手計算で行列式を求めるときに重宝するものです。 例えば 3 次正方行列について、 µ ¶ µ ¶ µ ¶ a b c e f d f d e det d e f = a det + b det ×(−1) + c det h i g i g h g h i = a(ei − f h) − b(di − f g) + c(dh − eg) 同様に 4 次以上の正方行列の行列式も再帰的に計算できます。 1.4 合同変換と相似変換 ユークリッド幾何学の話に戻りましょう。 あるデカルト座標 xi から、 x0i = xi − ai ( ai は任意の定数) で新しい座標 x0i を定義します。これを並進変換といいます。このとき、∆x0i = ∆xi なので、 ∆x0i ∆x0i = ∆xi ∆xi = s2 がわかり、新しい座標もデカルト座標であることがわかります。 一方、今度は、 x0i = Λij xj , Λij Λik = δjk で新しい座標 x0i を定義します。これを直交変換といいます。このとき、∆x0i = Λij ∆xj なので、 ∆x0i ∆x0i = Λij Λik ∆xj ∆xk = δjk ∆xj ∆xk = ∆xj ∆xj = s2 5 がわかり、やはり新しい座標はデカルト座標です。ユークリッド空間において、デ カルト座標は無数に存在することがわかります。 直交変換の条件: Λij Λik = δjk は、行列表記で、 ΛT Λ = δ ( δ は単位行列) であり、これを満たす実正方行列 Λ は直交行列と呼ばれます。両辺において行列 式をとると、 (det Λ)2 = 1 ∴ det Λ = ±1 ですが、det Λ = +1 の場合の直交変換を回転変換といい、det Λ = −1 の場合の 直交変換を、反転 (パリティ) を含む直交変換といいます。並進変換と直交変換を 合わせて合同変換といいます。合同変換で一致する 2 つの図形 (点の集合) は互い に合同であると呼ばれます。 また、合同変換にスケール変換、 x0i = kxi ( k は 0 でない実数) を付加し拡張したものを相似変換といいます。相似変換で一致する 2 つの図形は 互いに相似であると呼ばれます。 特に 3 次元の場合、図 2 のように右手の親指、人差し指、中指を互いに直交させ たとき、これらの指の方向が順に x1 , x2 , x3 軸の正の方向となるように合わせら れるデカルト座標を右手系といいます。左手でこれが成り立つ系を左手系といい ます。反転を含む直交変換は右手系と左手系を入れ換えます。 図 2: 右手系 (余談) 中学校で習う初等幾何では、まず三角形に関する合同条件や相似条件を与え、そのとき の性質を公理と考え図形や空間に関する定理を導いていきます。これは簡単でよいのですが、ユー クリッド幾何学が何を仮定した数学であるかがわかりにくくなってしまいます。このためユーク リッド幾何学が唯一無二の幾何学であると勘違いしてしまいがちです。非常によくできた数学 (数 理世界) を現実世界と混同してしまう病を ピグマリオン症 と呼びますが、ユークリッド幾何学や ニュートン力学は現実の世界においてかなり高い精度で成り立っているため、ピグマリオン症の 温床になっています。ユークリッド幾何学もニュートン力学も、数理世界であり、けっして現実世 界ではない、ということを肝に銘じることが大事です。現実世界は原理的にいって我々には永遠に 悟ることができないものであり、理論物理の全ては、現実世界に極力類似した数理世界 (モデル) の創作と探求であるという当たり前の事実を、特に留意すべきなのです。 6 1.5 スカラーとベクトル 合同変換、 x0i = Λij xj − ai に対し不変な量をスカラーといいます。例えば、2 点間の距離 s = カラーです。また、合同変換に対し、 √ ∆xi ∆xi はス A0i = Λij Aj のように変換される量 Ai をベクトルといいます。例えば、デカルト座標の差 ∆xi は、∆x0i = Λij ∆xj と変換されるのでベクトルです。これを変位ベクトルといい ます。 一方、デカルト座標 xi 自体は、厳密にはベクトルではありませんが、直交変換 に限っていえばベクトルとして振舞います。この意味でベクトルとして考えるこ とがあり、これを位置ベクトルといいます。 ベクトル Ai を順序付けられた組 (A1 , A2 , · · · , AN ) で表すとき、あるいは行列 記法で表すときは、A と太字で書くことがあります。成分を抜き出すときは (A)i と書きます。すなわち、 A = (A1 , A2 , · · · , AN ), (A)i = Ai ということです。ベクトル方程式 A = B は、Ai = Bi (∀i) を意味します。3 次元 ユークリッド空間の位置ベクトル xi に関しては r という記号を用いることが慣 習としてあります。すなわち、 (r)i = xi ということです。 (余談) 座標に立脚しない立場ではベクトルやテンソルをもっと抽象的なものとして考えます。 例えば微分幾何学ではベクトルは曲線上の微分演算子として定義します。しかしここではそれは 採用しません。ここではあくまで座標ありきであり、よってベクトルは成分表示が第一義的なもの と考えます。最初に述べたように、色々な流儀があるので混乱しないようにしてください。座標あ りきの方法は、物理においては便利であり、それゆえ物理の世界では今もって標準的です。 1.6 テンソルと擬テンソル テンソルはスカラーやベクトルを一般化した概念です。M 個の添字を持つ量 Tij···k があって、合同変換 x0i = Λij xj − ai に対し、 0 Tij···k = Λil Λjm · · · Λkn Tlm···n のように変換されるとき、Tij···k を M 階のテンソルといいます。ベクトルは 1 階 のテンソルであり、スカラーは 0 階のテンソルということになります。 7 Λij は直交行列だったので、 δij = Λil Λjm δlm がわかりますが、これはクロネッカーデルタ δij が 2 階のテンソルであることを意 味しています。特に定数のテンソルです。 テンソル同士の積は再びテンソルになります。これを積の定理といいます。例え ば、任意の 2 つのベクトル Ai , Bi に対し、 (Ai Bj )0 = A0i Bj0 = Λil Λjm Al Bm なので、Ai Bj は 2 階のテンソルであり、 (Ai Bi )0 = A0i Bi0 = Λil Λim Al Bm = δlm Al Bm = Al Bl なので、Ai Bi はスカラーになります。 一方、 0 Tij···k = det Λ Λil Λjm · · · Λkn Tlm···n のように変換される量 Tij···k は M 階の擬テンソルと呼ばれます。特に 1 階の擬テ ンソルは軸性ベクトル、0 階の擬テンソルは擬スカラーと呼ばれます。 (det Λ)2 = 1 と行列式の定義に注意すると、 ²ij···k = det Λ Λil Λjm · · · Λkn ²lm···n がわかるので、N 次元レビ・チビタは N 階の擬テンソルということになります。 特に定数の擬テンソルです。疑テンソルとテンソルの積は擬テンソルになり、擬 テンソルと擬テンソルの積はテンソルになることは容易にわかるでしょう。 しかし合同変換に反転が含まれない、つまり det Λ = +1 の場合は、テンソルと 擬テンソルは同義になるため、特に区別する必要がない場合、擬テンソルもテン ソルと呼び、一緒くたに扱います。位置ベクトルがベクトルかという問題と同様 に、この辺は少し融通をきかせるわけです。 1.7 ベクトルの内積とノルム 2 つのベクトル A, B に対し、 A·B = Ai Bi で 2 つのベクトルの内積を定義します。積の定理からこれはスカラーです。明ら かに B ·A = A·B. すなわち内積は可換です。 8 また、 |A| = √ A·A をベクトル A の大きさ (ノルム) といいます。これもスカラーで、特に A が変位 ベクトルの場合、2 点間の距離を意味することになります。明らかに |A| ≥ 0 で すが、等号成立は A の成分が全て 0 のときに限られます。このようなベクトルを 零ベクトルといい、太字で 0 と書きます。 A が零ベクトルでないとき、 ¯ = A A |A| は大きさ 1 のベクトルになりますが、これを A の方向ベクトルといいます。零ベ クトルの方向ベクトルは定義されません。 大きさ 1 のベクトルは一般に単位ベクトルと呼ばれます。 1.8 角度と三角関数 2 次元以上のユークリッド空間に零ベクトルでない 2 つのベクトル A, B がある とき、適当な回転変換によって、これらの方向ベクトルを、 ¯ = (1, 0, 0, · · · , 0), A ¯ = (a, b, 0, · · · , 0), B a 2 + b2 = 1 と表すことができます (図 3)。 図 3: 角度 このとき 2 つの方向ベクトルが作る弧の長さ θ を、2 つのベクトルが成す角度と いいます。弧は、 p C = { (x1 , x2 ) | x1 = 1 − t2 , x2 = t, 0 < t < b } 9 という点の集合で与えられるので、弧の長さ、すなわち角度 θ は、a ≥ 0, b ≥ 0 の場合、 sµ ¶2 µ ¶2 Z b Z Z b dx1 dx2 dt √ θ= ds = dt + = dt dt 1 − t2 C 0 0 のように、解析的に (定積分として) 与えられます。 a = 1 のとき、2 つのベクトルは平行であるといいます。a = −1 のとき、2 つの ベクトルは反平行であるといいます。a = 0 のとき、2 つのベクトルは直交してい るといいます。また、このときの角度を直角といいます。直角を π/2 とおくこと で円周率 π を定義します。すなわち、 Z 1 dt √ π=2 ∼ 3.14159. 2 1 − t 0 これにより半径 R の円周の長さは 2πR であることがわかります。 一方、 a = cos θ, b = sin θ, tan θ = で三角関数を定義します。明らかに、 cos2 θ + sin2 θ = 1. 三角関数のグラフを図 4 に示します。 図 4: 三角関数 ¯ B ¯ = 1a + 0b = a = cos θ から、 A· A·B = |A||B| cos θ. 10 sin θ cos θ よって、 |A − B|2 = (A − B)·(A − B) = A·A + B ·B − 2A·B = |A|2 + |B|2 − 2|A||B| cos θ です。これは 2 つのベクトルが変位ベクトルであるとすると、三角形の 3 辺の長さ の関係になっていて、余弦定理と呼ばれます (図 5)。特に A, B が直交する場合 は cos θ = 0 なので、余弦定理は、 |A − B|2 = |A|2 + |B|2 となり、これは三平方の定理 (ピタゴラスの定理) と呼ばれます。 図 5: 余弦定理 1.9 三角関数の性質 三角関数の性質については高校の数学で嫌になるほど習うものですが、ここで 簡単に導出し、まとめておきましょう。 2 次元ユークリッド空間において、図 6 のような 3 つの単位ベクトルを考えると、 p = (cos α, sin α), q = (− sin α, cos α), r = cos β p + sin β q = (cos α cos β − sin α sin β, sin α cos β + cos α sin β) であり、一方で、r = (cos(α + β), sin(α + β)) ですから、これらを比較して、 cos(α + β) = cos α cos β − sin α sin β, sin(α + β) = sin α cos β + cos α sin β を得ます。これを三角関数の加法定理といいます。 加法定理から、例えば、 ³π ´ sin − θ = cos θ, 2 cos 11 ³π 2 ´ − θ = sin θ. 図 6: 加法定理 また、 cos(2α) = cos2 α − sin2 α, sin(2α) = 2 sin α cos α, 1 + cos(2α) 1 − cos(2α) cos2 α = sin2 α = 2, 2 がわかり、これらは、倍角公式、半角公式と呼ばれます。 Z sin θ dt √ 一方、角度と三角関数の定義から θ = ですが、両辺 θ で微分し、 2 1 − t 0 Z sin θ dt d sin θ 1 d sin θ d d sin θ √ p = 1= ∴ = cos θ dθ d sin θ 0 dθ dθ 1 − t2 1 − sin2 θ ³π ´ ³π ´ d cos θ d さらに = sin − θ = − cos − θ = − sin θ dθ dθ 2 2 といった微分公式を得ることができます。 (余談) 高校の数学では、極限公式 : lim θ→0 sin θ =1 θ の証明が曖昧で、このため三角関数の微分公式の証明がちゃんとなされていません。これは幾何学 や三角関数の単元が教育的理由から微分積分 (解析学) より前にあって、それゆえ角度の定義を定 積分として表示することをしないためと考えられます。純粋に論理的に考えれば、「集合論 → 自 然数論 → 解析学 → 幾何学 (及び三角関数) → 複素関数論」の順に展開されるのが自然なのです が、基礎的な分野の方が難易度が高いこともあって、このようには教わらないわけです。ちなみに ここでの立場では、ロピタルの定理 : f (x) f 0 (x) = lim 0 x→0 g(x) x→0 g (x) f (0) = g(0) = 0 ⇒ lim sin θ = lim cos θ = 1 です。ロピタルの定理の証明は簡単でしょう。 θ→0 θ→0 θ から、lim 12 1.10 テンソル積 2 つのベクトル A, B に対して、 (A B)ij = Ai Bj をテンソル積といいます。これは積の定理から 2 階のテンソルになります。また、 2 階のテンソル Tij とベクトル Ai の内積は、 (T ·A)i = Tij Aj , (A·T )i = Aj Tji のように定義され、これはベクトルになります。よって例えば、 B ·T ·A = Bi Tij Aj です。これは行列記法における B T T A を意味します。 (余談) テンソル積は多くの教科書で ⊗ のような記号で表されます。すなわち、(A⊗B)ij = Ai Bj . しかしながら、テンソル積と内積が結合則を持つことに注意すると、ここでの記法の方が便利で す。例えば、多くの教科書で (A ⊗ B)(C) = (B·C)A のように書かれる公式は、ここでの記法で は (A B)·C = A(B·C) = A B·C という結合則になり、ことさら覚えておく必要はないわけです。 1.11 外積とスカラー 3 重積 一方、3 次元ユークリッド空間を考えると、2 つのベクトル A, B に対し、 (A×B)i = ²ijk Aj Bk = (A2 B3 − A3 B2 , A3 B1 − A1 B3 , A1 B2 − A2 B1 )i は (軸性) ベクトルになります。これを 2 つのベクトルの外積といいます。外積は 反可換な積になります : B ×A = −A×B. 適当な回転変換により、A = (|A|, 0, 0), B = (|B| cos θ, |B| sin θ, 0) とでき、 ここで θ は 2 つのベクトルの成す角度です。このとき A×B = (0, 0, |A||B| sin θ) がわかるので、一般に、 A×B は A と B の両方に直交し、大きさが |A||B|| sin θ| のベクトル ということになります。特にその方向は、0 < θ < π で、かつ、3 次元デカルト座 標が右手系の場合、A から B の方向に回したときに右ねじが進む方向になりま す。これを右ねじの規則と呼びます (図 7)。 3 つのベクトル A, B, C に対して、 A1 A2 A3 [A, B, C] = A·(B ×C) = ²ijk Ai Bj Ck = det B1 B2 B3 C1 C2 C3 13 図 7: 外積の向き は (擬) スカラーになります。これをスカラー 3 重積といいます。これはサイクリッ ク対称性 : [A, B, C] = [C, A, B] = [B, C, A] を持つことがわかります。 外積の計算においては、しばしば、 ²ijk ²ilm = δjl δkm −δjm δkl という公式が有用になります。例えばこれを用いると、 A×(B ×C) = A·C B − A·B C がわかるでしょう。前者の公式だけ覚えておけば、後者のような式を覚えておく 必要はまったくありません。 1.12 無限小角度ベクトル 3 次元ユークリッド空間において、任意の図形をある軸において無限小角度 dθ だ け回転し、この回転で右ねじが進む方向の単位ベクトルを n とします。このとき、 dθ = dθ n で無限小角度ベクトルを定義します。 無限小角度ベクトルが dθ = dθ n で与えられる無限小回転によって、ベクトル A が A0 に変化したとすると、その変分 dA = A0 − A は、大きさが |A| sin φ dθ で、方向が n×A と同じなので (図 8)、 dA = |A| sin φ dθ n×A n×A = |A| sin φ dθ |n×A| |A| sin φ = dθ×A 14 図 8: 無限小回転 と表せます。 このような無限小回転の表現は、特に物理において、角速度ベクトルと関連し て重要になります。 1.13 座標の接ベクトルと基底 N 次元ユークリッド空間における適当な座標 (一般座標) を ξi としたとき、 ti = ∂r ∂ξi ei = ti |ti | をこの座標の接ベクトル、 をこの座標の基底といいます。明らかに、|ei | = 1. すなわち基底はすべて単位ベ クトルです。 例えば、2 次元ユークリッド空間において、 r = (r cos θ, r sin θ) で極座標 ξ1 = r, ξ2 = θ を定義したとき、その接ベクトルは、 t1 = ∂r = (cos θ, sin θ), ∂r t2 = ∂r = (−r sin θ, r cos θ) ∂θ となり、|t1 | = 1, |t2 | = r に注意して、基底は、 e1 = (cos θ, sin θ), e2 = (− sin θ, cos θ) となります。極座標とその基底においては、位置ベクトルは r = re1 と書けるこ とになります。r は動径座標と呼ばれます。 15 極座標のように、基底 ei が空間の点に依存する座標は、特に曲線座標と呼ばれ ます。依存しない場合は直線座標と呼ばれます。また極座標においては、e1 ·e2 = 0 がわかりますが、一般に ei ·ej = δij となる座標は直交座標と呼ばれます。極座標 は曲線座標でかつ直交座標だというわけです。デカルト座標は直線座標でかつ直 交座標です。 いま、基準となるデカルト座標を xi , 任意のデカルト座標を x0i = Λij xj − ai と すると、 Λij xj = x0i + ai ∴ Λik Λij xj = Λik (x0i + ai ) ∴ xk = Λik (x0i + ai ) に注意して、ダッシュ系の接ベクトルは、 µ ¶ ∂r ∂xj 0 (ti )j = = = Λij . ∂x0i j ∂x0i このとき、t0i · t0j = δij がわかり、特に |t0i | = 1 なので、ダッシュ系の基底は、 (e0i )j = Λij で与えられます。よって、 (A0i e0i )j = Λik Ak Λij = Aj = (A)j ∴ A = A0i e0i . これは任意のデカルト座標とその基底において、ベクトル A を、 A = A i ei と展開できることを意味しています。この基底を用いた表示により、ベクトルを 特定のデカルト座標から離脱させ、大きさと方向を持つ量という抽象的な概念と して捉えられることに注意してください。 同様に、2 階のテンソル T に対し、任意のデカルト座標とその基底において、 T = Tij ei ej がいえます。 1.14 体積と面積 3 次元ユークリッド空間における体積要素は、デカルト座標を xi として、 d3 r = dx1 ∧ dx2 ∧ dx3 で定義されます。∧ はくさび積 (ウェッジ積) と呼ばれる積演算で、双線形性、お よび反可換性 : dx ∧ dy = −dy ∧ dx 16 を持つものとします。このため例えば、dx ∧ dx = 0 です。微分量をくさび積によ り n 個かけわせたものは n 形式と呼ばれます。体積要素 d3 r は 3 形式です。 一般座標を ξi とすると、 ∂x1 ∂x2 ∂x3 ∂x1 ∂x2 ∂x3 dξi ∧ dξj ∧ dξk = ²ijk dξ1 ∧ dξ2 ∧ dξ3 ∂ξi ∂ξj ∂ξk ∂ξi ∂ξj ∂ξk ∂x dξ1 ∧ dξ2 ∧ dξ3 . = det ∂ξ d3 r = ここで det(∂x/∂ξ) は ∂xi /∂ξj を成分とする行列の行列式で、ヤコビアンと呼ば れます。ヤコビアンはスカラー 3 重積を用いて、 · ¸ ∂x ∂xi ∂xj ∂xk ∂r ∂r ∂r det = ²ijk = ∂ξ ∂ξ1 ∂ξ2 ∂ξ3 ∂ξ1 , ∂ξ2 , ∂ξ3 と表すこともできます。例えば、3 つのベクトル a, b, c で張られる平行六面体 V は、 r = ξ1 a + ξ2 b + ξ3 c (0 ≤ ξi ≤ 1) と表されるので、その体積は、 Z Z 1 Z Z 1 dξ2 d3 r = dξ1 V 0 0 · 1 dξ3 0 ¸ ∂r ∂r ∂r = [a, b, c ] ∂ξ1 , ∂ξ2 , ∂ξ3 ということになります。 一方、3 次元ユークリッド空間における面積要素 (2 次元的体積要素) は、 (d2 r)i = 1 ²ijk dxj ∧ dxk 2 という 2 形式で定義されます。面上の一般座標 ξi (i = 1, 2) においては、 µ ¶ 1 ∂xj ∂xk ∂r ∂r 2 (d r)i = ²ijk dξl ∧ dξm = × dξ1 ∧ dξ2 2 ∂ξl ∂ξm ∂ξ1 ∂ξ2 i と書けます。例えば、2 つのベクトル a, b で張られる平行四辺形 S は、 r = ξ1 a + ξ2 b (0 ≤ ξi ≤ 1) と表されるので、その面積 (ベクトル) は、 Z Z 1 Z 1 ∂r ∂r 2 × = a×b dr= dξ1 dξ2 ∂ξ ∂ξ 1 2 S 0 0 となります。 17 一般に N 次元ユークリッド空間においては、デカルト座標を xi として、N 次 元体積要素は、 1 ²i i ···i dxi1 ∧ dxi2 ∧ · · · ∧ dxiN N! 1 2 N = dx1 ∧ dx2 ∧ · · · ∧ dxN dN r = で定義され、これは合同変換に対し擬スカラーとみなせます。一方、(N −1) 次元 体積要素は、 1 (dN−1 r)i = ²ii ···i dxi2 ∧ · · · ∧ dxiN (N −1)! 2 N で与えられ、これは軸性ベクトルとみなせます。同様にして、(N −2) 次元体積要 素は 2 階の反対称擬テンソル、(N −3) 次元体積要素は 3 階の完全反対称疑テンソ ルとみなせます。一般に完全反対称テンソルにレビ・チビタを乗じ作ったテンソ ルを元のテンソルの双対などと呼びますが、体積要素はデカルト座標の微分形式 の双対として定義されるわけです。 (余談) dx ∧ dy を単に dxdy と略記することが多いです。その場合でも、dx と dy の積は本当は くさび積であり、反可換の積であるということを忘れてはいけません。すなわち dxdy = −dydx. 大学で最初にくさび積について学ぶと、何か抽象的で得体の知れない感覚に陥りますが、このよ うなことは、実は “義務教育で習ったか習っていないか” に依るところが大きいといえます。義務 教育で習えば、例えば (−1) × (−1) = 1 もすんなり認めてしまい、当たり前だと思ってしまうわ けです。整数や四則演算の定義は、数学基礎論や算術の教科書を見ればわかるように、実はあまり 簡単でないにもかかわらずです。 1.15 3 次元極座標と球の計量 3 次元ユークリッド空間において、 r = (r sin θ cos φ, r sin θ sin φ, r cos θ), 0 ≤ r < ∞, 0 ≤ θ ≤ π, 0 ≤ φ ≤ 2π で 3 次元極座標 r, θ, φ を定義します (図 9)。これは 3 次元ユークリッド空間の全 てを覆う座標になっています。 このとき、|r| = r. また、 r ∂r = (sin θ cos φ, sin θ sin φ, cos θ) = ∂r r, ∂r = (r cos θ cos φ, r cos θ sin φ, −r sin θ), ∂θ ∂r = (−r sin θ sin φ, r sin θ cos φ, 0) ∂φ 18 図 9: 3 次元極座標 ですから、 ∂r ∂r × = (r2 sin2 θ cos φ, r2 sin2 θ sin φ, r2 sin θ cos θ) = r sin θ r, ∂θ ∂φ ¸ · r ∂r ∂r ∂r = ·(r sin θ r) = r2 sin θ ∂r, ∂θ, ∂φ r がわかります。 そうすると、例えば、半径 R の球の体積は、 · ¸ Z Z R Z π Z 2π ∂r ∂r ∂r 3 dr= dr dθ dφ ∂r, ∂θ, ∂φ 球内部 0 0 0 Z R Z π Z 2π 4 = dr dθ dφ r2 sin θ = πR3 3 0 0 0 一方、表面積は、 Z Z |d2 r| = Z π dθ 0 球表面 2π Z = Z π 0 2π dθ 0 ¯ ¯ ¯ ∂r ∂r ¯ ¯ dφ ¯¯ × ∂θ ∂φ ¯r=R dφ R2 sin θ = 4πR2 0 となることがわかります。 1.16 ナブラ デカルト座標 xi による偏微分演算子 ∂i = ∂/∂xi は、合同変換に対して、 ∂xj ∂ ∂ = Λij ∂j ∂i0 = 0 = ∂xi ∂x0i ∂xj 19 と変換されるのでベクトルです。この偏微分演算子をベクトルの記法で ∇ と書い てナブラと呼びます。すなわち、 (∇)i = ∂i . スカラー場 φ(r) に関して、ベクトル場 ∇φ(r) をその勾配といいます。また、 ベクトル場 A(r) に関して、スカラー場 ∇·A(r) をその発散といいます。また、 3 次元ユークリッド空間においては、軸性ベクトル場 ∇×A(r) を A(r) の回転と いいます。 ¶2 µ ¶2 µ ¶2 µ ∂ ∂ ∂ + + ··· + 4 = ∇·∇ = ∂i ∂i = ∂x1 ∂x2 ∂xN はラプラシアンと呼ばれます。これは合同変換に対して不変な微分演算子になり ます。 特に 3 次元ユークリッド幾何学においては、 gradφ = ∇φ, divA = ∇·A, rotA = curlA = ∇×A という表記もよく用いられます。 1.17 外微分とストークスの定理 一般に N 次元空間 (計量空間でなくてもよい) において、任意の n 次元領域を V , その境界の (n−1) 次元閉領域を ∂V , 任意の (n−1) 形式を α としたとき、 Z Z α= dα ∂V V という、極めてシンプルな定理が成り立ちます。これをストークスの定理といい ます。 ここで d は外微分 (演算子) で、これは微分を表す記号 d を拡張したものです。 外微分は、線形性、及び次の性質を持つものとします : ∂φ dφ = dξi , d2 = 0, d(α ∧ β) = dα ∧ β + (−1)s α ∧ dβ. ∂ξi ( ここで φ は 0 形式、α は s 形式、s ≥ 0 ) ストークスの定理の証明は以下の通りです。少し難しいのでじっくり読む必要 があります。 [証明] まず、任意の向き付けられた曲線を C とし、その始点を A, 終点を B と R すると、空間上の任意の関数 (0 形式) φ に対し、 C dφ = φ(B) − φ(A) ですから、 Z φ = φ(B) − φ(A) ∂C 20 と定義することで、n = 1 の場合のストークスの定理が成立します。これは初等 的にはあまり見かけない表記法なので注意してください。 次に n ≥ 2 の場合ですが、n 次元の可縮領域 V とその境界 ∂V が、 V = { (ξ1 , · · · , ξN ) | 0 ≤ ξ1 ≤ 1, −π ≤ ξp ≤ π, ξq = 0 } ∂V = { (ξ1 , · · · , ξN ) | ξ1 = 1, −π ≤ ξp ≤ π, ξq = 0 } ( ただし p = 2, · · · , n, q = n + 1, · · · , N ) となるように一般座標 ξi を選びます。ただし、各々の ξ1 の値に対し、いずれか の p について ξp = π または ξp = −π となる点は全て同一とします。このような 座標を領域 V の葉層座標といいます (∗) 。このとき (n−1) 形式、 α = ξ1k f (ξ2 , · · · ξN ) dξ2 ∧ · · · ∧ dξn (k = 0, 1, 2, · · · ) に対し、 dα = kξ1k−1 f (ξ2 , · · · ξN ) dξ1 ∧ dξ2 ∧ · · · ∧ dξn + ( dξq を含む項 ) R R R ですから、 ∂V α および V dα は、共に f (ξ2 , · · · , ξn ) dξ2 ∧ · · · ∧ dξn となり、定 理が成立します。ただし k = 0 のときは k = ² → +0 という極限として理解しま R R す。一方、α に dξ1 や dξq が含まれる場合は、 ∂V α および V dα は共に 0 とな R R るので、やはり定理が成り立ちます。以上の事柄と、 ∂V α および V dα が線形 性を持つことから、任意の (多項式的な) (n−1) 形式 α と可縮領域 V に対して定 理が成立します。V が可縮でない場合は、複数の可縮領域の連結を考えることで、 やはり定理が成り立ちます。[証明終] (*注) 正方形の 4 辺を全て 1 点に縮めると、正方形の内部は球面のようになるでしょう。風呂敷 で物を包む様子をイメージしてください。一般に、n 次元超立方体の境界を 1 点に縮めたものは n 次元超球面 (S n ) と大域的に同相です。よって ∂V は S n−1 と同相です。例えば、2 次元ユークリッ ド空間の極座標 r, θ に対し、ξ1 = r/R, ξ2 = θ で定義される座標は、原点を中心とする半径 R の 円に対する葉層座標になります。また、3 次元ユークリッド空間の極座標 r, θ, φ に対し、ξ1 = r/R, ξ2 = 2 arctan(tan(θ/2) cos φ), ξ3 = 2 arctan(tan(θ/2) sin φ) で定義される座標は、原点を中心とす る半径 R の球に対する葉層座標になります。ここで arctan は tan の逆関数です。 1.18 ガウスの定理 3 次元ユークリッド空間においては、空間上の任意の関数 (0 形式) を φ = φ(r) として、 dφ = dxi ∂i φ, d(dxi φ) = −dxi ∧ dφ = −dxi ∧ dxj ∂j φ = −²ijk d2 xk ∂j φ = ²ikj d2 xk ∂j φ, 1 d(d2 xi φ) = d2 xi ∧ dφ = ²ijk dxj ∧ dxk ∧ dxl ∂l φ 2 1 = ²ijk ²jkl dx1 ∧ dx2 ∧ dx3 ∂l φ = δil d3 x ∂l φ = d3 x ∂i φ. 2 21 ここで、d3 x = d3 r, d2 xi = (d2 r)i です。また、面積要素の定義からすぐにわかる 関係式、dxi ∧ dxj = ²ijk d2 xk を用いました。 よってストークスの定理は、1 次元領域 C, 2 次元領域 S, 3 次元領域 V に対 して、 Z Z Z Z Z Z 2 2 = dr·∇, dr = d r×∇, dr= d3 r ∇ ∂C C ∂S S ∂V V を与えます。2 番目の式はやはりストークスの定理と呼ばれ、最後の式はガウスの 定理と呼ばれます。 ここで境界 ∂S の向きですが、図 10 左のように葉層座標を取ると、面 S の面積 ∂r ∂r 要素 × dξ1 ∧ dξ2 は図の上向きとなり、S と ∂S の関係は右ねじの規則に ∂ξ1 ∂ξ2 より与えられることがわかります。一方、∂V の向きは、図 10 右のように葉層座 標を取ることで、V の体積要素は (右手系の場合) 正となり、このとき、∂V の面 ∂r ∂r × dξ2 ∧ dξ3 は領域 V から外向きということになります。 積要素 ∂ξ2 ∂ξ3 図 10: 境界の向き これら 3 次元空間における積分の定理は、物理においては特に電磁気学において 多用され、重要です。 (余談) 3 次元におけるガウスの定理やストークスの定理に限っていえば、もう少し直接的に導 出することもできますが、ここでは一般的なストークスの定理から演繹しました。初学者には少 し難しいかもしれませんが、3 次元のみ知っていて、一般次元においてどうなるのかわからないと いうのも気持ち悪いことだと思うので、頑張ってフォローしてください。 22 索引 相似 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 相似変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 双対 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 あ 位置ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 ウェッジ積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .16 円周率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 た 体積要素 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 多様体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 単位ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 直線座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 直角 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 直交 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 直交行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 直交座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 直交変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 デカルト座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 テンソル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 テンソル積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 転置行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 動径座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15 か 外積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 回転 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 回転変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 外微分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 ガウスの定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22 角度 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 加法定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 完全反対称性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 擬スカラー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 基底 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15 擬テンソル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 逆行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 行列式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 極座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15, 18 曲線座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 距離 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 空間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 くさび積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 クロネッカーデルタ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 形式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 計量空間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 合同 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 合同変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 勾配 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 な 内積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 ナブラ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 ノルム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 は 倍角公式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12 発散 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 パリティ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 半角公式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12 反転 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 反平行 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 ピグマリオン症 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 ピタゴラスの定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 左手系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 平行 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 並進変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 変位ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 方向ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 さ サイクリック対称性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 三角関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 三平方の定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 軸性ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 縮約規則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 スカラー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 スカラー 3 重積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14 スケール変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 ストークスの定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20, 22 積の定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 接ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15 零ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 ま 右手系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 右ねじの規則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 無限小角度ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14 面積要素 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 23 や ヤコビアン . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 ユークリッド幾何学 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 ユークリッド空間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 余因子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 余因子行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 余因子展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 葉層座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 余弦定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 ら ラプラシアン . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 零ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 レビ・チビタ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 ロピタルの定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .12 24
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