1 時空理論/重力場 渡辺 満 (静岡県) §0 はじめに 本書は、時空理論の、特に重力場に関する部分の説明である。 時空理論の本体(第 1 章~第 8 章)は、どちらかというと、純粋数学のようなものであるから、 物理学色の強いものは、本体から切り離して、このような別冊とすることにした。 §1 広義の等価原理 ニュートン力学では、重力と慣性力は、別の種類の力として、扱われていた。 しかし、時空理論では、重力と慣性力は、本質的に同じものである、と考える。 重力は元々、物体の重さの原因、すなわち、この地球上で、物体を下方に引っ張る力として、 導入された。 一方、慣性力は、例を上げれば「加速する車に乗った人の背を、後方に引く力」であり、 「物に紐を付けて、グルグル回したときに、発生する遠心力」である。 一般的に言えば、慣性力は、「物体が自由落下から外れた時に、顕現する力」である。 時空理論では、この「加速する車に乗った人の背を、後方に引く力」、すなわち、慣性力は、時 空間に潜在している宇宙の星々の重力が、目前に具体的に顕現したものである、と考える。 すなわち、慣性力は重力であり、重力は慣性力である。 我々が地球上で、物体を持ち上げた時に、重いと感じるのは、自由落下から外された物体が、 顕現した慣性力によって、引っ張られるからである。 地球の重力もまた、宇宙の慣性力の、一因となるだろう。 §2 物体の質量は一定不変か? 「加速する車に乗った人の背を、後方に引く力は、宇宙の星々の重力が、顕現したものであ る」 この考えに従うならば、物体に生ずる慣性力の原因は、宇宙に存在する物質ということになる。 これから、次のように言える。 2 「宇宙の物質が、濃密ならば、物体の慣性力は大きく、希薄ならば、物体の慣性力は小さい」 慣性力を慣性質量に、置き換えると、 「宇宙の物質が、濃密ならば、物体の慣性質量は大きく、希薄ならば、物体の慣性質量は小 さい」 物体は、遠くの天体よりも、近くの天体の重力の影響を、強く受けるだろう。 従って、こう言うことができる。 「物体の慣性質量は、その物体が置かれた周辺の、物質の存在密度に依存し、周辺物質の 存在密度が、大きい程大きい」。 これらは、定性的推論であるが、時空理論からも、同じ結果が示される。(次節§3) おもしろいことに、この考えを用いると、宇宙の加速膨張が、簡単に説明できてしまう。 宇宙の加速膨張とは、 「我々から遠い天体ほど、大きな速度で、遠くへ遠去かっている」、という天文学における観測 結果のことである。 この原因については、現在、「暗黒エネルギー」などが提唱されているが、 そんなものを持ち出さなくても、次のような考えで、容易に解決することができる。 僕は、天文学の専門家ではないが、察するに、 宇宙のかなたへ行けば行く程、天体の数は減少し、すなわち、質量密度は小さくなるだろう。 すると、上に述べたように、宇宙のかなたでは、天体の慣性質量は小さくなる。 もし、ここでも、運動量が保存されているならば、逆に、天体の速度は、大きくならなければな らない。 なぜなら、 mv=一定 なので、mが減少すると、vが大きくなる。 §3 自由落下の方程式 時空理論/第4章によれば、単相時空 ( x i , Gij = λBij , Ai ) における自由落下路 x i (τ ) の方程 式は、 Bli d dx i (αv i ) + ( Al − ∂ lη ) = 0 , v i = dτ dτ η = log λ , α = exp( 2ς + 2η ) , ς = − ∫ Ak dx k , dτ 2 = αB jk dx j dx k となる。ここで、 τ は固有時と解釈できる。(添え字はすべて 4 元) 3 これに基本質量 m0 を乗じて、 Bli d (m0αv i ) + m0 ( Al − ∂ lη ) = 0 dτ とする。 これは古典力学のそれに、うまく対応していて、 m0αv i が運動量、 ( Al − ∂ lη ) が重力場と言え るだろう。・・・・・(注意)左辺第 1 項は、 Bli によって負になっている。 これにゲージ変換を行うと、 ( Al − ∂ lη ) は変化しないが、 Al と ∂ lη の各々は、変化してしまう。 そこで、ゲージをどこに合わせればよいか? が問題になるが、これは、次節で明らかになる だろう。 さて、 m0αv i を見ると、ここに古典力学のそれにはなかったところの、 α = exp( 2ς + 2η ) が入っている。 これが前節で述べた、慣性質量の変化と考えることができる。 (ς + η ) は、広い意味の重力ポテンシャルである。 ここで、基本質量という言葉を用いたが、基本質量とは、例えば、「10 円玉の基本質量は、宇 宙のどこへ行っても、同じである」、そういう意味の質量である。 §4 場の方程式 ここでは、単相時空 ( x i , λBij , Ai ) を対象にして、場としての、 Ai と λ の満たすべき方程式を 考察する。 衆知の通り、電磁ポテンシャル Ai については、電磁気学によってすでに、その方程式や、そ の解法が確立されている。また、重力場については、ニュートン力学のそれがある。 従って、ここでは、それらの結果を尊重し、それらを引用しながら、考えてみよう。 4元化された Maxwell の方程式は、 ∂ j f ij = J i ....(1) 4 と書かれる。ここで、 f ij = ∂ i A j − ∂ j Ai , f ij = B ik B jl f kl J i は、電流密度である。 ・・・ 時空理論では、 B ij を次のように定義している。 B 11 = B 22 = B 33 = −1 , B 44 = 1 , 他は 0 式(1)の左辺を変形すると、 ∂ j f ij = ∂ j {B ik B jl (∂ k Al − ∂ l Ak )} = B ik B jl (∂ j ∂ k Al − ∂ j ∂ l Ak ) = B ik B jl ∂ j ∂ k Al − B ik B jl ∂ j ∂ l Ak = B ik ∂ k ( B jl ∂ j Al ) − B ik B jl ∂ j ∂ l Ak となる。 もし、ここに、ローレンツ・ゲージと呼ばれる条件、 B ij ∂ i A j = 0 を付加するならば、 ∂ j f ij = − B ik B jl ∂ j ∂ l Ak = − B jl ∂ j ∂ l ( B ik Ak ) となるから、方程式(1)は、 − B jl ∂ j ∂ l ( B ik Ak ) = J i ....(2) のようになる。 方程式(2)は、各 A i = B ik Ak についての波動方程式であり、その解は、簡単で理解しやすい 形に記述できることが、知られている。 これについては、例えば、砂川重信著:電磁気学(岩波書店)第7章、が詳しい。 ところで、電磁ポテンシャル Ai は、当初は、純粋に数学的概念として導入されたが、 近年になって、AB 効果(Aharonov-Bohm)が発見されて、物理的実在として確認されるに至 った。 すると、ここで、自然界が、どういうゲージになっているのか、問題になるが、 AB 効果の実験を見ると、どうも自然界は、ローレンツ・ゲージに設定されているように思え る。 方程式(2)も、ローレンツ・ゲージによって得られた。 5 ローレンツ・ゲージであると、色々都合がよいのである。 この理由から、単相時空 ( x i , λBij , Ai ) を考えるときは、まず、これをローレンツ・ゲージに変 換してから始めればよい、ということになる。 前節で、時空理論において、単相時空では、 ( Al − ∂ lη ) が、古典的な重力場に対応する、と 述べた。ここで、 η = log λ である。 このη は、古典力学の重力ポテンシャルに対応する。 古典力学では、重力場の方程式は、 ∂ 2η ∂ 2η ∂ 2η + + = ρm ∂x 2 ∂y 2 ∂z 2 (右辺は質量密度) と書ける。 しかし、これには時間変化の項がない、またローレンツ変換に対して共変でない。 その点を修正するならば、 − B ij ∂ i ∂ jη = ρ m が妥当なものになるだろう。詳しく書くと、 ∂ 1∂ 1η + ∂ 2 ∂ 2η + ∂ 3 ∂ 3η − ∂ 4 ∂ 4η = ρ m さて、重力場 ( Al − ∂ lη ) について、 B ij ∂ i ( A j − ∂ jη ) = ρ m となっている。 すなわち、ローレンツ・ゲージによって、重力場は、電磁気による重力場 Ai と、質量による重 力場 − ∂ lη の2つに、うまく分離されるのである。 ここにも、ローレンツ・ゲージの優位さが現れている。 §5 第 3 の重力 ここまで、2 種類の重力を示したが、さらに、もうひとつの重力が考えられる。 最初に、3つを列挙すると、 6 1)従来どおりの、質量によって生じる重力 2)電磁気による重力(電磁ポテンシャル Ai ) 3)電磁気によって物体内に生じる、新たな重力 第 1 と第 2 は、時空間に場として生じる重力であるが、これから述べる第 3 のものは、特に物 体内に、電磁気の作用によって、生じる重力である。 これは、時間積分される性質があるので、時として、第 1 と第 2 のそれとは比較にならない程 大きくなるだろう。 ● 電磁ポテンシャル Ai の場に置かれた物体には、その内部に、 Ai による時空ポテンシャル ς が、生じるだろう。 時空ポテンシャル ς は、広い意味の重力ポテンシャルであるから、古典力学に照らして考え れば、その勾配 ∂ i ς が、重力であってもおかしくない。 たぶん、それが重力になるだろう、と予想できる。 しかし、すでに電磁ポテンシャル Ai が、上記2)の重力として存在し、それが物体内でも、生き ているだろう。 その辺りは、どうなるのか? それを数学的に解析してみよう。 ● 最初に、この対象物体の各点の世界線が、 x 4 軸に一致するような座標 ( x i ) を取って、 その上で考えることにしよう。(物体に張り付いた座標) 点 P 、点 P は、この物体内の隣接する点。 点 R 、点 Q は、点 P の過去の点とする。 さて、この対象物体上に実関数 ς ( P ) を、遠い過去を線積分の始点にして、 7 P ς ( P) = − ∫ A4 dx 4 −∞ と定義する。線積分は x 4 軸方向で行う。これが、時空ポテンシャルである。 da i = P i − P i とおき、点 R 、点 Q を、 R i = R i + da i , Q i = Q i + da i と定義する。すると、 P ς ( P ) = ς (Q ) − ∫ A4 ( R )dx 4 Q P ς ( P ) = ς (Q) − ∫ A4 ( R)dx 4 Q と書ける。これから、 P P Q Q ς ( P ) − ς ( P) = ς (Q ) − ς (Q) − ∫ A4 ( R )dx 4 + ∫ A4 ( R)dx 4 となるが、ここで、 ς ( P ) − ς ( P) = ∂ς ∂x i ∂ς ς (Q ) − ς (Q) = i ∂x da i P da i Q また、 A4 ( R ) = A4 ( R ) + ∂A4 da i ∂x i R から、 ∫ P Q P ∂A A4 ( R )dx 4 = ∫ A4 ( R ) + 4i da i dx 4 Q ∂x R となるから、 ∂ς ∂x i da i = P ∂ς ∂x i P ∂A da i − ∫ 4i da i dx 4 Q ∂x Q である。この右辺第 2 項を変形すると、 P ∂A ∂Ai ∂Ai i 4 ∂A4 i 4 4 = da dx ∫Q ∂x i ∫Q ∂x i − ∂x 4 + ∂x 4 da dx P ∂A P ∂A ∂A = ∫ 4i − 4i da i dx 4 + ∫ 4i da i dx 4 Q Q ∂x ∂x ∂x P 8 P = ∫ ( f i 4 da i )dx 4 + Ai ( P )da i − Ai (Q )da i Q これによって、 ∂ς ∂x i da i = P ∂ς ∂x i P Q da i − ∫ ( f i 4 da i )dx 4 − Ai ( P )da i + Ai (Q )da i Q である。これらより、 ∂ς ∂x i ∂ς da i = i ∂x P Q P − ∫ f i 4 dx 4 − Ai ( P ) + Ai (Q )da i Q これが、任意の方向の da i に対して成り立つから、その結果、 ∂ς ∂x i P P = − Ai ( P ) − ∫ f i 4 dx 4 + Q ∂ς ∂x i Q ∂ς ∂x i Q + Ai (Q ) が得られる。変形すると、 ∂ς ∂x i P P + Ai ( P ) = − ∫ f i 4 dx 4 + Q + Ai (Q ) である。 最後の式によって、最初に提起した疑問は、解決するだろう。 ここに、今までにない新しい項が登場した。それは、 P Fi = ∫ f i 4 dx 4 Q である。これを第 3 の重力と呼ぶことにしよう。これが、物体内の各点に発生する。 さて、ここで、 ∂ς ∂x i + Ai (P) P の式の意味は、元から ∂ς ∂x i の中に入っている − Ai (P ) を、排除しているのだと考えられ P る。 ────────────────────── 2013 年 3 月 Ver1.1 発行 著者:渡辺 満 , 発行者:渡辺 満 Copyright 渡辺 満 2013 年
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