「一般力学 II」 2014 年度 第 2 部 担当:荒井 正純 目次 第 6 章 剛体の力学 6.1 6.2 6.3 75 剛体の静力学 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 75 6.1.1 剛体のつりあいの条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 75 6.1.2 剛体に作用する重力による力のモーメント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 76 6.1.3 棒状・平板状の剛体のつり合い . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 77 6.1.4 剛体の静力学の問題例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 77 固定軸のある剛体の運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 82 6.2.1 固定軸のある剛体の運動方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 82 6.2.2 剛体の運動エネルギー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 84 6.2.3 慣性モーメント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 84 6.2.4 固定軸のある剛体の運動の例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 89 剛体の平面運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 95 6.3.1 運動方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 95 6.3.2 剛体の平面運動の例 1 – 円板の運動 – . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 97 6.3.3 剛体の平面運動の例 2 – 棒の運動 – . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 99 vii 第 6 章 剛体の力学 本章では,前章まで対象としてきた質点とは異なり,大きさの無視できない物体の運動について考える.大 きさを持ち,かつ,その構成要素の相対的な距離が不変である(すなわち,変形しない)物体を剛体とい う.本章では,剛体の運動形態に応じて,以下のテーマを取り扱う. (i) 剛体の静力学 剛体のつりあいの問題を考える.力のつりあいと,力のモーメントのつりあいの 2 条件が必要となる. (ii) 固定軸のある剛体の運動 剛体に軸が固定されている場合について,その軸の回りの運動を考える.最初に,剛体を質点系とみな して,固定軸に関する質点系の角運動量の方程式から,固定軸の回りの剛体の回転運動の方程式を導出 する.次に,棒状又は平板上の剛体について,固定軸のある剛体の運動の例をいくつか取り上げる. (iii) 慣性モーメントの計算法 剛体の回転運動の方程式を導出する過程で,慣性モーメントと呼ばれる物理量が現れる.棒状又は平板 上の剛体について,この慣性モーメントの計算法を説明する.ここでは 2 重積分法が必要となる. (iv) 剛体の平面運動 棒状又は平板上の剛体について,その平面運動を考える.剛体の平面運動は,その重心に関する並進運 動と,重心のまわりの回転運動に分解して記述することができるが,最初にそのことを証明する.次に 平面運動の例として,円板が転がる運動と棒が倒れる運動を取り上げる. 6.1 剛体の静力学 本節では,剛体の静力学について考える.静力学では,剛体の つりあいの状態について考察する. (1) Fθ F (1) 6.1.1 剛体のつりあいの条件 m1 剛体のつりあいの条件は,剛体に作用する,全ての力のつりあ F (2) いと,全ての力のモーメントのつりあいの 2 つの条件からなる. (2) Fθ r (1) それについて説明する. 剛体は,互いの相対的な位置が変化しない n 個の質点の集ま m2 r (2) O り(質点系)から構成されると考える. (例えば,互いの質点が 伸び縮みしない棒で結ばれていると考える. )位置ベクトル r (k) の位置に置かれた質点に働く力のベクトルを F (k) とおく.ここ 図 6.1: 伸び縮みしない棒で結ばれた2 質点から構成される剛体の例. で,上付き添字 k は個々の質点に付けた番号を示す.剛体に働く 力 F は個々の構成要素に働く力の総和で,剛体に働く力のモー 75 メント N は個々の構成要素に働く力のモーメントの総和で表される. ∑ F = F (k) , k N= ∑ r (k) × F (k) . k ここで ∑ 記号は,全ての質点について総和を取ることを表す. 剛体がつりあいの状態にあるとは,剛体に働く力の総和が 0 で,かつ,力のモーメントの総和が 0 とな ることである. F = ∑ F (k) = 0, (6.1a) k N= ∑ r (k) × F (k) = 0. (6.1b) k 個々の質点に作用する力のモーメントの値は,座標系のとり方に依存するが,力のモーメントの総和が 0 となる条件は,座標系のとり方に依存しない.このことを証明する. 今,座標変換 r (k)′ = r 0 + r (k) (6.2) により,原点を定ベクトル r 0 だけ,平行移動させたとする.この場合の力のモーメントの総和を求める. まず,(6.2) の両辺に右から F (k) とのベクトル積をとる. r (k)′ × F (k) = r 0 × F (k) + r (k) × F (k) 次に,全ての質点についての総和を取る. ∑ r (k)′ × F (k) = r 0 × k ∑ F (k) + ∑ r (k) × F (k) k k ここでつり合いの条件 (6.1) を適用すると,右辺第 1 項,第 2 項とも 0 となり, ∑ r (k)′ × F (k) = 0 k に帰着する.これは,新しい座標系についても力のモーメントの総和が 0 であることを示す. この結論は,剛体のつり合いの問題を考える場合,原点の選び方に任意性があることを意味する.剛体 に複数の力が作用している場合,その中の 1 つの力の作用点を原点に選べば,問題を解くのが簡単になる. その力に関するモーメントは 0 となるからである.このことは,第 6.1.4 節の静力学の問題を解く際に応用 する. 6.1.2 剛体に作用する重力による力のモーメント 剛体が,位置ベクトル r (k) の位置におかれた質量 mk の n 個の質点の集まりからなるとする.鉛直上向 きの単位ベクトルを ez とおくと,番号 k の質点に作用する重力のベクトルは −mk gez であるから,その 力のモーメントは r (k) × (−mk gez ) である. 76 質点系としての剛体に作用する重力のモーメント N G は,全ての k について O 和をとることで, r (k) NG = ∑ r (k) × (−mk gez ) = −g ( ∑ k mk ) mk r (k) × ez k となる.ここで,剛体の質量 M を,全ての質点の質量の和で定義する. ez M= mk g ∑ mk (6.3) k 又,剛体の重心の位置ベクトルを, rG = 1 ∑ mk r (k) M (6.4) k で定義する.この場合,剛体に作用する重力のモーメントは, N G = −M gr G × ez (6.5) と表される.剛体に働く重力のモーメントは,重心の位置におかれた質量 M の質点に働く重力のモーメン トと等価である.従って,剛体の問題を解く際,重力の作用点は重心と考える. 6.1.3 棒状・平板状の剛体のつり合い 特に,剛体が棒状又は平板状であり,それに作用する力が棒・平板と同一平面上にある場合を考える.こ の平面を xy 平面に選び.剛体を構成する質点 k のデカルト座標を r (k) = (xk , yk , 0),その質点に働く力の (k) (k) デカルト座標系に関する成分を F (k) = (Fx , Fy , 0) とおく.この時,この質点に作用する力のモーメン トは, ( ) r (k) × F (k) = 0, 0, xk Fy(k) − yk Fx(k) となり,z 成分のみ値を持つ.従って,この場合の剛体のつり合いの条件は,デカルト座標系に関する成 分で, ∑ Fx(k) = 0, k ∑ Fy(k) = 0, k ∑( ) xk Fy(k) − yk Fx(k) = 0 (6.6) k と表される.第 6.1.4 節の問題はすべてこの場合に相当する. 6.1.4 剛体の静力学の問題例 剛体の静力学の問題は,以下の手順で解く. 1. 原点と座標軸の向きを決める.座標系はデカルト座標系を用いる.作用している力の中から 1 つを選び, その作用点を原点に選ぶのがよい. 2. 作用している全ての力の作用点の位置ベクトルと,力の向き,大きさ(未知の場合は記号で与える)を 求め,力をベクトルの成分として表す. 3. 剛体のつり合いの条件を示す.ここで,つり合いの条件は,作用する力の総和が 0 となる条件と,力の モーメントの総和が 0 となる条件からなる.力のモーメントは,ベクトル積として計算する. 4. つり合いの条件を解き,未知の力の大きさを求める.更に,問題で指示されている事項を求める. 77 静力学の問題では,摩擦力を考慮する場合がある.摩擦力の大きさは,一般には未知である.しかし,剛 体が滑り始める直前の状態にある場合は,最大摩擦力が作用する.最大摩擦力は,静止摩擦係数と抗力の積 で与えられる.摩擦力の向きは,剛体が動こうとする向きと逆向きになる. 以下に示す問題では,鉛直下向きに重力が作用している.重力定数は g とおく.重力の作用点は,剛体 の重心と考える. 問題 6.1 θ 質量 M , 長さ l の棒の一端に糸が結ばれ,他端は,静止摩 擦係数 µ の,粗い水平な床に接している.棒と床のなす角が β ,糸の鉛直上方に対するなす角が θ の時,棒はつりあいの 状態にあるとする.棒が滑り出す直前にある時,棒が床から 受ける抗力,並びに,糸の張力となす角 θ を求めよ. β 【解答】 座標系 FT y 棒と床との接点を原点 O とし,水平右向きに x 軸を, 鉛直上向きに y 軸を,紙面に垂直で内から外へ向かう向 θ きに z 軸をとる.この場合,棒の重心 G の位置ベクトル FR Ff r G , 棒と糸の接点 B の位置ベクトル r B は, ( ) l l rG = cos β, sin β, 0 , 2 2 B G β r B = (l cos β, l sin β, 0), x O となる. FG 作用する力 接点 O において,棒に作用する抗力のベクトル F R は,その大きさを R とすると, F R = (0, R, 0) となる.又,床との間の摩擦力のベクトル F f は,その大きさを F とすると, F f = (−F, 0, 0) となる.ここで,負号が付くのは,糸の張力により,棒は右向き(+x 方向)へ動こうとするので,摩擦力 はそれとつり合うよう,左向き(−x 方向)に作用するからである.重力は重心 G において作用し,その ベクトル F G は, F G = (0, −M g, 0) である.糸との接点 B において作用する糸の張力のベクトル F T は,その大きさを T とすると,角度 θ の定義より, F T = (T sin θ, T cos θ, 0) となる. 78 つりあいの条件 棒がつりあいの状態にあることにより,棒に作用する力の総和は 0 となる.これをベクトルで表すと, FR + Ff + FG + FT = 0 である.これの x, y 成分は,それぞれ, −F + T sin θ = 0, R − M g + T cos θ = 0, である.若干の変形を行う. T cos θ = −R + M g, (6.7a) T sin θ = F. (6.7b) 更に,棒がつりあいの状態にあることにより,棒に作用する力のモーメントの総和は 0 となる.これを ベクトル積で表すと, 0 × (F R + F f ) + r G × F G + r B × F T = 0 となる.位置ベクトル,力のベクトルは xy 平面内にあるから,力のモーメントのベクトルは z 成分のみを 持ち,各項の値は, rG × F G ( ) l = 0, 0, − M g cos β , 2 r B × F T = (0, 0, lT cos β cos θ − lT sin β sin θ) , となる.よって,力のモーメントのつり合いは, l − M g cos β + lT cos β cos θ − lT sin β sin θ = 0 2 (6.8) である. 抗力・摩擦力の大きさ (6.7) を (6.8) へ代入すると, l − M g cos β + l(−R + M g) cos β − lF sin β = 0, 2 となる.これを整理すると, 1 M g − R = F tan β 2 である.ところで,棒が滑り出す直前には,最大摩擦力が作用するから, F = µR なる関係がある.これを (6.9) へ代入する. 1 M g − R = µR tan β 2 79 (6.9) これを R について解くと,抗力が, R= Mg 2(1 + µ tan β) (6.10) と求まる. つり合った状態での糸の配置 又,(6.10) を (6.7) に代入すると, T cos θ = 1 + 2µ tan β M g, 2(1 + µ tan β) T sin θ = µ M g, 2(1 + µ tan β) と求まる. 問題 6.2 長さ l,質量 M の,一様で太さの無視できる棒が,粗い 床と粗い壁に立てかけられている.床,壁の静止摩擦係数 はそれぞれ µ1 , µ2 とする.水平面に対する棒のなす角が α の時,棒は滑り始める直前の状態にある.この場合の tan α が満足する関係式を,µ1 , µ2 のみを用いて示せ. 【解答】 座標系 原点を棒と床との接点 A に選ぶ.水平右向きに x 軸,鉛 直上向きに y 軸,紙面に垂直で内から外へ向かう向きに z α 軸をとる.この場合,重心 G,接点 B の位置ベクトルはそ れぞれ, l l r G = ( cos α, sin α, 0), 2 2 r B = (l cos α, l sin α, 0), となる. 作用する力 床との接点 A において,鉛直上向きに大きさ R1 の抗 y F R2 F F2 力 F R1 が, 水平右向きに大きさ F1 の摩擦力 F F 1 が作 B 用する.ベクトルの成分として示すと, F R1 = (0, R1 , 0), F F 1 = (F1 , 0, 0), G である.ここで,摩擦力が右向きとなるのは,壁からの 抗力により,棒は左向き(−x 方向)に滑ろうとするの で,摩擦力はそれとつり合うよう,逆向き(+x 方向)に 作用するからである.接点 A で作用する力はこれらの合 F R1 FG 力として, α A x F R1 + F F 1 = (F1 , R1 , 0) F F1 80 となる. 壁との接点 B において, 壁に垂直な方向に大きさ R2 の抗力 F R2 が,壁に沿う方向に大きさ F2 の摩擦 力 F F 2 が働く.ベクトルの成分として示すと, F R2 = (−R2 , 0, 0), F F 2 = (0, F2 , 0), である.重力の作用により,棒は,点 B で下向き(−y 方向)に滑ろうとするので,摩擦力はそれとは逆 向きの上向き(+y 方向)に作用する.接点 B で作用する力はこれらの合力として, F R2 + F F 2 = (−R2 , F2 , 0) となる. 以上の他に,棒には,重心 G において鉛直下向きに,大きさ M g の重力 F G が作用する. F G = (0, −M g, 0) つりあいの条件 棒がつりあいの状態にあることにより,棒に作用する力のベクトルの総和は 0 となる.これをベクトル で表すと, (F R1 + F F1 ) + (F R2 + F F2 ) + F G = 0 である.これを成分で表すと,水平方向,鉛直方向の力のつりあいはそれぞれ, F1 − R2 = 0, (6.11a) R1 + F2 − M g = 0, (6.11b) となる. 同様に,棒がつりあいの状態にあることにより,棒に作用する力のモーメントの総和は 0 となる.これ をベクトル積で表すと, 0 × (F R1 + F F1 ) + r B × (F R2 + F F2 ) + r G × F G = 0 である.位置ベクトル,力のベクトルは xy 平面内にあるから,力のモーメントのベクトルは z 成分のみを 持ち,各項の値は, r B × (F R2 + F F2 ) = (0, 0, lR2 sin α + lF2 cos α), ( rG × F G = l 0, 0, − M g cos α 2 ) となる.よって,力のモーメントのつり合いは, l lR2 sin α + lF2 cos α − M g cos α = 0 2 となる. 抗力・摩擦力の大きさ 81 (6.12) 棒が滑り出す直前には,最大摩擦力が作用するから, F1 = µR1 , F2 = µR2 , なる関係がある.これを (6.11a), (6.11b), (6.12) へ代入する. µ1 R1 − R2 = 0, (6.11a)′ R1 + µ2 R2 − M g = 0, (6.11b)′ l lR2 sin α + lµ2 R2 cos α − M g cos α = 0 2 (6.12)′ (6.11a)′ , (6.11b)′ を連立させて解くと,抗力が, R1 = Mg , 1 + µ1 µ2 (6.13a) R2 = µ1 M g , 1 + µ1 µ2 (6.13b) と求まる. 滑り始める直前にある条件 (6.13b) を (6.12)′ に代入する. lµ1 M g lµ1 µ2 M g l sin α + cos α − M g cos α = 0 1 + µ1 µ2 1 + µ1 µ2 2 これを整理すると, tan α = 1 − µ1 µ2 2µ1 が得られる. 6.2 固定軸のある剛体の運動 本節では,剛体に軸が固定されている場合について,その軸の回りの運動を考える.これは最も簡単な剛 体の運動の形態である. 6.2.1 固定軸のある剛体の運動方程式 最初に,剛体を質点系とみなして,固定軸に関する質点系の角運動量の方程式から,固定軸の回りの剛体 の回転運動の方程式を導出する. 剛体は,同一平面(これを xy 平面にとる)上にある,互いに固定された質量 mk (k = 1, 2, · · · , n) の n 個の質点から構成されているとする.座標系の原点 O を通り,平面に垂直に固定軸が通っており,この軸 (z 軸と一致)の回りに剛体は自由に回転することができる.点 O と各質点が,伸び縮みせず,質量の無視 できる棒で結ばれているようなものをイメージすればよい(図 6.2 参照). まず始めに,構成要素である各質点の運動を考える.次にこれらの質点の運動の総和を考えて,剛体の運 動を考察する. 82 (k) (k) 質量 mk の質点の位置ベクトルを r (k) = (xk , yk , 0),その質点に働く力のベクトルを F (k) = (Fx , Fy , 0) とおくと,そのベクトル表記の運動方程式は, mk r¨(k) = F (k) (6.14) である.両辺に左から r (k) とのベクトル積をとることにより,角運動量に関する方程式に書き換える. d (k) (r × r˙ (k) ) = r (k) × F (k) dt (6.15) d (xk y˙ k − yk x˙ k ) = xk Fy(k) − yk Fx(k) dt (6.16) mk この式は z 成分のみ値を持ち, mk y m2 となる.これを, F (1) m3 xk = rk cos θk , (6.17) (1) Fθ r1 θ1 で定義される極座標 (rk , θk ) を用いて表すと, m1 mk x O d 2˙ (k) (r θk ) = rk Fθ dt k (6.18) となる.ここで,rk は原点から質点 k までの距離,θk は質点の m4 位置ベクトルが x 軸の正の向きに対してなす角である.又, m5 図 6.2. yk = rk sin θk , m6 (k) Fθ = −Fx(k) sin θk + Fy(k) cos θk は力 F (k) の角成分である. (導出は,第 5.3.4 節の問題 5.7 を参照) 伸び縮みせず,質量の無視で きる棒で結ばれた,同一平面上にあ 質点系が剛体であるということは,各質点の原点からの距離が る6質点系から構成される剛体の例. 不変であるということと,すべての質点が同じ角速度,角加速度 回転軸は z 軸(紙面に垂直)とする. で回転しているということである.例えば,図 6.2 で,質点 1 が 質点 2 を追い越すようなことはない.この場合, r˙k = r¨k = 0, θ˙ = θ˙k , θ¨ = θ¨k , (k = 1, · · · , n) (6.19) である.これに留意すると (6.18) は,すべての質点に共通の回転角 θ を用いて, (k) mk rk2 θ¨ = rk Fθ (6.20) と書き換えられる.ここで rk は時間的に一定であることから,微分記号の外に出した. 剛体の運動は,構成要素の運動の総和である.(6.20) をすべての構成要素について和をとると,固定軸に 関する剛体の角運動量方程式となる. ( ∑ ) mk rk2 θ¨ = k ∑ (k) rk Fθ (6.21) k ここで, I= ∑ mk rk2 k 83 (6.22) は慣性モーメントと呼ばれる,剛体に固有の物理量である.質点系に働く力のモーメントを, ∑ (k) N= r k Fθ (6.23) k とおく.そうすると,固定軸に関する剛体の回転運動の方程式は以下のようにまとめられる. I θ¨ = N. (6.24) ここで,I θ˙ は剛体の角運動量を表す.角運動量の変化は,作用した力のモーメントの総和に等しい. 6.2.2 剛体の運動エネルギー (6.24) の両辺に θ˙ を掛けると, d dt ( 1 ˙2 Iθ 2 ) = N θ˙ (6.25) 1 I θ˙2 は剛体の回転運動のエネルギーを表す.右辺は,力のモーメントにより単位時間あたりにな となる. 2 される仕事を表す.なお,力が保存力の場合,この項はポテンシャルエネルギーの時間微分の形に変形され る(例えば,後出の問題 6.9, 6.10(ii) を参照) 問題 6.3 n 個の質点系の運動エネルギー K= 1∑ mk (x˙ 2k + y˙ k2 ) 2 k は,(6.17) 式と,剛体としての条件 (6.19) を考慮すると, K= 1 ˙2 Iθ 2 と表される.これを示せ. 6.2.3 a. 慣性モーメント 平板状の剛体の場合 慣性モーメント (6.22) は,デカルト座標系では, ∑ I= mk (x2k + yk2 ) (6.26) y k 面要素 と表される.剛体が,面密度(単位面積あたりの質量)ρ で連続的な物質分布をする場合には,(6.26) の質量∫ mk ∑ は,面要素 dxdy の質量 ρdxdy で,和 は積分 で dy r dx O k x 置き換えられて,慣性モーメントは, ∫ I = (x2 + y 2 )ρdxdy (6.27) で与えられる.特に,密度が一様な場合には,ρ は積分 の外に出すことができる. 84 棒状の剛体の場合 b. 太さの無視できる棒状の剛体について考える.棒に沿って x 軸をとった時, 固定軸 X1 棒は X1 ≤ x ≤ X2 の範囲に分布するとする.x = 0 の位置に,棒に垂直に固 定軸が通る場合,その慣性モーメントは, x 0 ∫ X2 X2 x2 dx I=ρ (6.28) X1 で定義される.ただし,X1 < 0, 0 < X2 とする.ここで,ρ は線密度,即ち,単位長さあたりの棒の質量 である.簡単のため,棒は一様と仮定し,ρ は定数とした.そのため,ρ を積分の外に出した. 問題 6.4(i) 棒の重心を通り,棒に垂直に固定軸があ 問題 6.4(ii) 棒の一端を通り,棒に垂直に固定軸があ る場合. る場合. 問題 6.4 長さ l, 質量 M で,太さの無視できる一様な棒がある.この棒について, (i) 固定軸は棒に垂直で,棒の重心を通る場合, (ii) 固定軸は棒に垂直で,棒の一端を通る場合, それぞれの場合の慣性モーメントを求めよ. 【解答】 − 2l 0 x x 0 l 2 (i) 棒の重心を通り,棒に垂直に固定軸がある場合. l (ii) 棒の一端を通り,棒に垂直に固定軸がある場. (i) 積分区間は,棒の一端 x = − 2l から他端 x = 2l までとなるから,慣性モーメント I は, ∫ 2l x2 dx I=ρ (6.29) − 2l で与えられる.ここで,ρ = M は線密度である.(6.29) は以下のように計算される.ここで,積分区間が l 対称であるので,被積分関数が偶関数であることを利用する. ∫ I = 2ρ 0 l 2 [ 1 x dx = 2ρ x3 3 2 ] 2l = 0 1 3 ρl 12 最後に線密度を代入すると, I= 1 M l2 12 となる. 85 (6.30) (ii) 積分区間が,棒の一端 x = 0 から他端 x = l に変わることを除き,問 [1] と同様である.ただし,積分 区間は対称ではない. ∫ I I = ρ = [ 1 x dx = ρ x3 3 ]l 2 0 ∴ l = 0 1 3 ρl 3 1 M l2 3 (6.31) a a 固定軸 b 固定軸 問題 6.5(i) 長方形の板の重心を通り,板に垂直に固 b 問題 6.5(ii) 長方形の板の長さ b の辺の中心を通り, 定軸がある場合. 板に垂直に固定軸がある場合. 問題 6.5 辺の長さが a, b の,一様で厚さの無視できる質量 M の長方形の板について, (i) 板に垂直で重心をとおる固定軸に関する慣性モーメント, (ii) 板に垂直で長さ b の辺の中心をとおる固定軸に関する慣性モーメント, を求めよ. 【解答】 (i) この長方形の面積は ab であるから,面密度は, y b 2 ρ= M ab y dy O 固定軸 − a2 a 2 となる. 固定軸が通る長方形の中心を原点として,長さ a の辺に平行に x x 軸を,長さ b の辺に平行に y 軸をとる.この場合,長方形の範 a b b 囲は,− a 2 ≤ x ≤ 2 , − 2 ≤ y ≤ 2 となる.その慣性モーメント I は,2重積分, ∫ − 2b ∫ b 2 I=ρ a 2 dy − 2b (x2 + y 2 )dx −a 2 で与えられる. 2重積分の計算法は,次のようになる.最初に y を定数とみなして,x について積分する.この時,与 a えられた y について,x の積分区間は,図に示した網がけの範囲 − a 2 ≤ x ≤ 2 である.ここで,積分区間 が対称であるので,被積分関数が偶関数であることを利用する. ] a2 ] ∫ a2 ∫ 2b [ ( )3 ∫ 2b ∫ 2b [ 1 3 1 a a dy I = 2ρ (x2 + y 2 )dx = 2ρ x + y 2 x dy = 2ρ dy + y2 2 − 2b 0 − 2b 3 − 2b 3 2 0 ∫ ∴ I = b 2 2ρ − 2b ( ) a3 a + y 2 dy 24 2 86 次に,y について積分する.y についての積分区間は − 2b ≤ y ≤ 2b である.ここで,積分区間が対称であ るので,被積分関数が偶関数であることを利用する. [ ( )3 ] ) [ 3 ]b ∫ 2b ( 3 a a 2 a a 3 2 a3 b a b I = 4ρ + y dy = 4ρ y+ y = 4ρ + 24 2 24 6 48 6 2 0 0 ∴ I = 1 ρab(a2 + b2 ) 12 最後に面密度を代入すると, I= 1 M (a2 + b2 ) 12 (6.32) となる. 45◦ 45◦ a a 45◦ 45◦ 固定軸 固定軸 a 問題 6.6(i) 直角二等辺三角形の直角の角を通り,板 a 問題 6.6(ii) 直角二等辺三角形の角度 45◦ の角を通 に垂直に固定軸がある場合. り,板に垂直に固定軸がある場合. 問題 6.6 等辺の長さが a で質量が M の,一様で厚さの無視できる直角二等辺三角形の板がある. (i) 直角の角を通り,板に垂直に固定軸がある場合, (ii) 角度 45◦ の角を通り,板に垂直に固定軸がある場合, それぞれについて,慣性モーメントを求めよ. 【解答】 2 三角形の直角をなす等辺の長さは a であるから,面積は a2 とな る.よって,面密度 ρ は, y a ρ= 45◦ 2M a2 である. (i) 直角の角を原点として,直角をなす一辺に沿って x 軸を,直角を y なす他辺に沿って y 軸をとる.慣性モーメントを与える2重積分は, 最初に y を固定して考え, x について積分した後,y について積分 45◦ O -y+a a x することにする.この時,与えられた y について,x の積分区間は, 左図に示した網がけの範囲である.その始点は x = 0 で,終点は 斜 辺 y = −x + a である.よって,x の積分区間は,0 ≤ x ≤ −y + a となる.y についての積分区間は 0 ≤ y ≤ a である.従って,慣性モーメント I は,以下の2重積分で与 87 えられる. ∫ ∫ a I=ρ −y+a dy 0 (x2 + y 2 )dx 0 この積分は,以下のように順次計算される. ∫ I a [ = ρ 0 ]−y+a ] ∫ a[ 1 3 1 x + y2 x dy = ρ − (y − a)3 − y 3 + ay 2 dy 3 3 0 0 ここで,(y − a)3 の項は展開せずに,この形のまま積分するのがよい. I [ ]a 1 1 a = ρ − (y − a)4 − y 4 + y 3 12 4 3 0 = ρ [( ) ( )] 1 1 1 1 − a4 + a4 − − a4 = ρa4 4 3 12 6 積分区間の終点 y = a だけでなく,始点 y = 0 の値も存在することに留意する. 最後に面密度を代入すると, I= 1 M a2 3 となる. y (ii) 角度 45◦ の角を原点として,直角をなす一辺に沿って x 軸を, a 直角をなす他辺に平行に y 軸をとる. 慣性モーメントを与える2重積分は,最初に y を固定して考え, 45◦ x について積分した後,y について積分することにする.この時,与 えられた y について,x の積分区間は,左図に示した網がけの範囲 y である.x についての積分区間の始点は斜辺 y = x で,終点は x = a である.よって,x の積分区間は,y ≤ x ≤ a となる.y について 45 ◦ y O a x の積分区間は 0 ≤ y ≤ a である.従って,慣性モーメント I は,以 下の2重積分で与えられる. ∫ a ∫ a I=ρ dy (x2 + y 2 )dx 0 y この積分は,以下のように順次計算される. ]a ) ) ∫ a[ ∫ a( 3 ∫ a( 1 3 a 4 1 a3 I = ρ − y 3 + ay 2 + x + y2 x = ρ + ay 2 − y 3 − y 3 dy = ρ dy 3 3 3 3 3 0 0 0 y [ ]a ( 4 ) 1 4 a 3 a3 a a4 a4 1 = ρ − y + y + y =ρ − + + = ρa4 3 3 3 0 3 3 3 3 最後に,面密度の値を代入すると, I= 2 M a2 3 となる. 88 問題 6.7 半径 a, 質量 M の,一様で厚さの無視できる円板の慣性モーメントを求めよ.固定軸は円板に垂 直で円板の中心を通るとする. 【解答】 結果のみを示す. I= 1 M a2 2 (6.33) 固定軸のある剛体の運動の例 6.2.4 固定軸 固定軸 重力 θ 固定軸 Mg 問題 6.8. 一端を固定さ 動摩擦力 初速度 v0 問題 6.9 の初期条件. 問題 6.10. 粗い床に接して回 れた棒. 問題 6.11. 定滑車. 転する円板. 問題 6.8 長さ l, 質量 M で,太さの無視できる棒の一端を固定し,鉛直下方からわずかな角度だけ傾けてから離 したとする.この時,この棒は単振動をするが,その角振動数を求めよ. 6.9 長さ l, 質量 M で,太さの無視できる棒の一端を固定して吊す.棒の下端にどれだけの速度を与えれ ば,棒をちょうど水平の位置まで昇らせることができるか. 6.10 半径 a, 質量 M の,厚さの無視できる円板がある.これを,動摩擦係数 µ′ の粗い水平面の上で,そ の円周が面に接するようにして,その中心を通る軸の回りに回転させる.時刻 t = 0 で円板の角速度が ω0 であったとして,円板が止まるまでに要する時間と回転角を,以下の2通りの方法により求めよ. (i) 回転運動の方程式を直接解く方法. (ii) 全エネルギーの保存則を用いる方法. 6.11 半径 a, 質量 M の,厚さの無視できる円板の中心に,円板に垂直に軸を通し,鉛直面内におく.この 円板に糸を巻き付け,糸の端に質量 m のおもりをつける.時刻 t = 0 において,糸が巻かれる向きに 円板に角速度 ω0 を与えた時,円板が止まるまでにおもりはどれだけ上昇するかを,以下の2通りの方 法により求めよ. (i) 回転運動の方程式を直接解く方法. (ii) 全エネルギーの保存則を用いる方法. 【解答】 89 問題 6.8 O 固定軸のある点を原点 O とし,鉛直下向きに x 軸,水平右向きに y 軸をと y る(z 軸は紙面に垂直で,内から外へ向かう向き).更に,鉛直下方から反時 θ 計回りにはかった棒のなす角を θ とおく.この場合,重心の位置ベクトルは, ( ) r G = 2l cos θ, 2l sin θ, 0 , 重力のベクトルは,F G = (M g, 0, 0) で,重力によ ) ( る力のモーメントは,r G × F G = 0, 0, − 2l M g sin θ となる.よって,回転 G 運動の方程式は以下のようになる. 1 l M l2 θ¨ = − M g sin θ 3 2 Mg (6.34) ここで,一端を固定された棒の慣性モーメントが 31 M l2 であることを用いた. x 力のモーメントの項に負号が付くのは,重力による力のモーメントが時計回りに(角度 θ を減少させる向 きに)作用するからである. 特に,θ が微小な場合には,sin θ ∼ θ と近似できる.この場合,(6.34) は, 1 l M l2 θ¨ = − M gθ, 3 2 従って, 3g θ¨ = − θ 2l (6.35) と近似される.この方程式は,単振動を表す方程式 (3.1) と同じ形をしている.従って,θ が微小な場合の 運動は単振動となる.この方程式の解法については, 「一般力学 I」の「0.2.3 2階常微分方程式」を参照の こと.ここでは結果のみを示しておく.振動の角振動数 ω0 は, √ 3g ω0 = 2l である. 問題 6.9 問題 6.8 と異なり,回転角は最大で π 2 となり,微小ではないので,sin θ ∼ θ と近似することはできない. この場合には,運動方程式 (6.34) を直接解くのはむずかしい.ここでは, 「一般力学 I」の「2.2 エネルギー」 でやったことと同様の手順で,全エネルギーの方程式を導出し,全エネルギーが保存することを示した上 で,全エネルギーの保存則を適用して問題を解くことにする. 固定軸に関する回転運動の方程式 (6.34) の場合,両辺に角速度 θ˙ を掛けると,以下のように全エネルギー の方程式を導出することができる. 1 l M l2 θ˙θ¨ = − M g θ˙ sin θ, 3 2 d dt ( 1 M l2 θ˙2 6 ) l d = − Mg 2 dθ (∫ ) dθ sin θdθ · , dt l d dθ = − M g (− cos θ + U0 ) · , 2 dθ dt l d = − M g (− cos θ + U0 ), 2 dt ∴ [ ] d 1 1 2 ˙2 M l θ + M gl(− cos θ + U0 ) = 0. dt 6 2 90 ここで U0 は積分定数である.左辺 [· · · ] 内の 1 2 M gl(− cos θ + U0 ) の項が,重力によるポテンシャルエネ ルギーを表す.θ = 0 でポテンシャルエネルギーが 0 となるように基準を決めると,U0 = 1 と定まる.従っ て,上式は, [ ] d 1 1 2 ˙2 M l θ + M gl(1 − cos θ) = 0 dt 6 2 (6.36) 1 M l2 θ˙2 と,重力によるポテンシャルエネルギー と表される.この式は,棒の回転運動のエネルギー 6 1 M gl(1 − cos θ) の和で定義される全エネルギー, 2 E= 1 1 M l2 θ˙2 + M gl(1 − cos θ) 6 2 (6.37) が保存することを意味する. ˙ 棒が最下点にある状態 θ = 0, θ˙ = ω0 (ω0 は初期の角速度)と,水平に達した状態 θ = π 2 , θ ≥ 0 の間で 全エネルギー (6.37) が変化しないことより,等式, 1 1 1 M l2 ω02 = M l2 θ˙2 + M gl 6 6 2 2 ˙2 が成り立つ.これを 1 6 M l θ について解く. 1 1 1 M l2 θ˙2 = M l2 ω02 − M gl 6 6 2 1 2 ˙2 棒が水平な状態 θ = π 2 に達するためには,この状態での運動エネルギーが正値 6 M l θ ≥ 0, 即ち, 1 1 M l2 ω02 − M gl ≥ 0 6 2 でなければならない.これより,初期の角速度に必要な条件は, √ 3g ω0 ≥ l となる.これを棒の端における速度に換算すると, √ lω0 ≥ 3gl である. 問題 6.10(i) 固定軸の通る重心を原点 O とし,水平右向きに x 軸,鉛直上向きに y 軸 y をとる(z 軸は紙面に垂直で,内から外へ向かう向き).更に,水平右向き から反時計回りにはかった回転角を θ とおく.初期の回転の向きは反時計 固定軸 O Mg Q µ′M g 回りと仮定する. θ x この場合,円板と水平面との接点 Q の位置ベクトルは,r Q = (0, −a, 0), 動摩擦力のベクトルは,F f = (−µ′ M g, 0, 0) である.ここで,動摩擦力の 大きさは,抗力 M g に比例し,µ′ M g である(比例係数が動摩擦係数 µ′ ). 円板の回転による速度は,接点では正(右向き)であるから,動摩擦力は それと逆向きに作用し負(左向き)となることに注意する. 動摩擦力による力のモーメントは,r Q × F f = (0, 0, −aµ′ M g) となる. (固定軸は重心を通っているので, 重力による力のモーメントは考えない. )よって,回転運動の方程式は以下のようになる. 1 M a2 θ¨ = −aµ′ M g 2 91 (6.38) ここで,重心に関する円板の慣性モーメントが 1 2 2Ma であることを用いた.動摩擦力は回転を妨げる向き に作用するので,力のモーメントの項には負号が付く. (6.38) を整理した形で表す. ′ 2µ g θ¨ = − a (6.39) これを時間について積分し,t = 0 で θ˙ = ω0 なる初期条件を適用すると, 2µ′ g θ˙ = ω0 − t a (6.40) となる.(6.40) を時間について更に積分し,t = 0 で θ = 0 なる初期条件を適用すると, θ = ω0 t − µ′ g 2 t a (6.41) となる. 円板が停止する時,θ˙ = 0 であるから,停止する時刻 ts は,(6.40) より, ts = ω0 a 2µ′ g (6.42) となる.停止時の回転角 θs は,(6.42) を (6.41) に代入して, θs = ω02 a 4µ′ g (6.43) となる. 問題 6.10(ii) 上で示したように,この問題では回転運動の方程式を直接解くことができるが,全エネルギーの保存則を 利用することもできる.ただし,ここでのポテンシャルエネルギーは重力のポテンシャルエネルギーでは ない. (6.38) の両辺に θ˙ を掛けると,動摩擦力によるモーメント µ′ M ga が一定であることにより,以下の方程 式が得られる. d dt ( 1 M a2 θ˙2 + µ′ M gaθ 4 ) = 0. 1 M a2 θ˙2 と,ポテンシャルエネルギー µ′ M gaθ の和で定義される全エネ これは,回転運動のエネルギー 4 ルギー, E= 1 M a2 θ˙2 + µ′ M gaθ 4 (6.44) が保存することを示す.初期の状態 θ = 0 で θ˙ = ω0 であることより,全エネルギの値が, E= 1 M a2 ω02 4 と定まる.初期の状態と任意の状態(回転角 θ, 角速度 θ˙)との間で,全エネルギーが等しいことより,等式, 1 1 M a2 θ˙2 + µ′ M gaθ = M a2 ω02 4 4 が成り立つ. 92 (6.45) 停止した状態 θ˙ = 0 における回転角 θs は,(6.45) より, 1 M a2 ω02 = µ′ M gaθs 4 (6.46) を満たす.これより θs は,(6.43) のように求めることができる. 停止する時刻は (6.45) を用いて,別に求める必要がある.この手順は, 「2.2 エネルギー」の「2.2.2 もう ( )2 1つのエネルギー方程式」で説明した解法と同様である.まず,(6.45) を θ˙2 = dθ について解く. dt ( )2 ( ) dθ 4µ′ g ω02 a = − θ dt a 4µ′ g ここで,角速度は常に正で, dθ > 0 であるから, dt √ √ 4µ′ g ω02 a dθ = · −θ dt a 4µ′ g となる.これを,左辺を変数 t のみ, 右辺を変数 θ のみが含む,変数分離形に変形する. √ dθ a dt = ·√ 2 ω0 a 4µ′ g 4µ′ g − θ 左辺を t について,右辺を θ について積分する. √ ∫ dt t = ∫ a · 4µ′ g √ dθ ω02 a 4µ′ g −θ √ √ a ω02 a = −2 · −θ+C 4µ′ g 4µ′ g ここで C は任意定数である.t = 0 で θ = 0 なる初期条件を適用すると, C= ω0 a 2µ′ g と定まる.従って,与えられた初期条件を満足する解は, √ √ a ω02 a ω0 a t = −2 · −θ+ ′ ′ 4µ g 4µ′ g 2µ g (6.47) となる. (6.47) の θ に (6.43) で与えられる停止時の角度を代入すると,停止時の時刻 (6.42) が得られる. 問題 6.11 固定軸の通る重心を原点 O とし,水平右向きに x 軸,鉛直上向きに y 軸をとる.更に,水平右向きから 反時計回りにはかった円板の回転角を θ とおく.初期の回転の向きは反時計回りとする. この場合,円板と糸の接点の位置ベクトルは,r Q = (a, 0, 0), 糸の張力のベクトルは,張力の大きさを T とお くと,下向きに作用するから,F T = (0, −T, 0) である.張力による力のモーメントは,r Q ×F T = (0, 0, −aT ) となる. (固定軸は重心を通っているので,重力による力のモーメントは考えない. ) 一方,おもりには,重力の他,作用・反作用の法則により,大きさ T で,反対の上向きに糸の張力が作 用する.初期のおもりの位置を原点 Om として,鉛直上向きを正としたおもりの座標を Y とおく. 93 y 以上のことを考慮すると,円板の回転運動の方程式,おもりの運動方程式は 以下のようになる. θ O Q x 1 M a2 θ¨ = −aT, 2 (6.48a) mY¨ = T − mg. (6.48b) 更に,糸が伸び縮みしない(おもりが上昇しただけ糸が円板に巻きとられる) T ことにより,関係式 Y = aθ (6.49) が成立する.この関係式は次のように解釈することもできる.円板の円周上の 任意の点の座標 (x, y) と角度 θ の間には, T x = a cos θ, y = a sin θ, なる関係がある.これを時間微分すると, Y x˙ = −aθ˙ sin θ, y˙ = aθ˙ cos θ, mg Om であるから,円板と糸の接点 Q (θ = 0) における円板の速度は, ˙ y˙ = aθ, x˙ = 0, となる.円板と糸の間に滑りがないためには,接点での円板の速度の y 成分 aθ˙ と,おもりの上昇に伴う糸 の速度 Y˙ は等しくなければならない.即ち, Y˙ = aθ˙ (6.50) が成り立つ.これを積分すると,(6.49) になる. 問 (i) (6.49) を (6.48a) に代入して,T について解くと, 1 T = − M Y¨ 2 (6.51) が得られる.これを (6.48b) に代入すると, Y¨ = − 2m g M + 2m (6.52) が得られる.これを,t = 0 で Y˙ = aω0 なる初期条件のもとで積分すると, Y˙ = aω0 − 2m gt M + 2m (6.53) が得られる.これを,t = 0 で Y = 0 なる初期条件のもとで更に積分すると, Y = aω0 t − m gt2 M + 2m が得られる. 94 (6.54) 円板が停止する時刻 ts は,(6.53) 式で Y˙ = 0 となる時刻を求めればよく, ts = M + 2m aω0 · 2m g (6.55) となる.この時のおもりの座標 Ys は ts を (6.54) に代入して, Ys = (M + 2m)a2 ω02 4mg (6.56) と求まる. 剛体の平面運動 6.3 次に,更に複雑な運動の例として,剛体は平板状又は棒状であるが固定軸は存在せず,従って,その重心 も運動できるような場合について考える.円板が転がる運動や棒が倒れる運動が,このような運動の例で ある. 6.3.1 運動方程式 y 最初に,剛体の平面運動を支配する方程式を導出する. y’ この過程で,剛体の平面運動は,その重心の並進運動と, 重心のまわりの回転運動に分解して記述されることが示さ れる. 平板状の剛体は xy 平面上にあり,x 軸を含む水平面上 θ Y x’ O’ 剛体系 O 静止系 を回転しながら運動している (y 軸は水平面に垂直).この 座標系 Oxy 系は,運動する剛体に対して静止しているこ x X とから,静止系と呼ぶ.静止系から見た剛体の重心 O′ の 座標を (X, Y ) と置く.更に,この重心を原点とする別の 座標系 O′ x′ y ′ 系をとる.O′ x′ y ′ 系は運動する剛体に固定 図 6.3: 剛体の平面運動を記述する 2 種類の座 した座標系であることから,剛体系と呼ぶ.静止系の x 軸, 標系. y 軸と剛体系の x′ 軸, y ′ 軸はそれぞれ平行で,向きも同じ になるように選ぶ. 第 6.2.1 節と同様,剛体は,互いに固定された質量 mk (k = 1, · · · , n) の n 個の質点から構成されている とする.剛体の一構成要素である質点 k の静止系に関する座標を (xk , yk ), 剛体系に関する座標を (x′k , yk′ ) とおくと, xk = X + x′k , yk = Y + yk′ . (6.57) である.静止系に関する重心の定義(ベクトル表記では (6.4) 式)より, X= 1 ∑ mk xk , M Y = k である.ここで,M = ∑ 1 ∑ mk yk , M (6.58) k mk は剛体の質量である.又,剛体系の原点は重心に一致するので,剛体系に関 k する重心は, ∑ k mk x′k = ∑ mk yk′ = 0 k 95 (6.59) である. (k) (k) 質点 k に働く力の成分を (Fx , Fy ) とおくと,静止系に関する質点 k の運動方程式は, mk x ¨k = Fx(k) , (6.60a) mk y¨k = Fy(k) , (6.60b) となる.(6.60) をすべての構成要素について和を取リ,重心の定義 (6.58) を適用することにより,剛体の運 動方程式が得られる. ¨= MX ∑ Fx(k) , (6.61a) Fy(k) . (6.61b) k M Y¨ = ∑ k これは,剛体の重心の並進運動を記述する. 質点 k の運動方程式 (6.60) に座標変換 (6.57) を適用すると,剛体系に関する運動方程式に書き換えら れる. ¨ mk x ¨′k = Fx(k) − mk X, (6.62a) mk y¨k′ = Fy(k) − mk Y¨ . (6.62b) ¨ Y¨ ) で加速度運動をしていることによる生じる,慣性の ここで,右辺第 2 項は,剛体系の原点が加速度 (X, 力を表す.即ち,静止系は慣性系であるが,剛体系は慣性系ではない. x′k ×(6.62b)− yk′ ×(6.62a) より,剛体系に関する質点 k の角運動量方程式が得られる. d ¨ [mk (x′k y˙k ′ − yk′ x˙k ′ )] = (x′k Fy(k) − yk′ Fx(k) ) − mk (x′k Y¨ − yk′ X) dt (6.63) この式を,すべての構成要素について総和をとると,剛体系に関する剛体の角運動量方程式が得られる. ∑ d ∑ mk (x′k y˙k ′ − yk′ x˙k ′ ) = (x′k Fy(k) − yk′ Fx(k) ), dt k (6.64) k なお,慣性の力のモーメントは,総和をとると,(6.59) より 0 となるので,式には現れない. ここで,剛体系において極座標 x′k = rk cos θk , yk′ = rk sin θk を導入すれば,第 6.2.1 節と同様の議論か ら,(6.64) は (6.21),従って,(6.24) と同じ形の式, I θ¨ = N (6.65) に帰着する.ここで,θ は,剛体系の x′ 軸の正の向きから反時計回りにはかった剛体の回転角を表す.又, I= ∑ ′2 mk (x′2 k + yk ), k N= ∑ (x′k Fy(k) − yk′ Fx(k) ), k はそれぞれ,重心に関する慣性モーメント,重心に関する力のモーメントの総和である. 平面上を運動する剛体の運動方程式は,このように,重心の並進運動の方程式 (6.61) と,重心に関する 角運動量の方程式 (6.65) に分離することができる.すなわち,剛体の平面運動は,重心の並進運動と,重 96 心の回りの回転運動とに分けて考えることができる.式の形が同じことからわかるように,重心の回りの 回転運動は,重心に固定軸のある剛体の回転運動と同様の取り扱いをすることができる. 問題 6.12 静止系に対する剛体の運動エネルギー K= 1∑ mk (x˙ 2k + y˙ k2 ) 2 k は,剛体系の原点を剛体の重心に選ぶと, K= 1 1 M (X˙ 2 + Y˙ 2 ) + I θ˙2 2 2 のように,重心の並進運動のエネルギー(右辺第1項)と,重心の回りの回転運動のエネルギー(右 辺第2項)の和として表すことができる.これを示せ. 6.3.2 剛体の平面運動の例 1 – 円板の運動 – 本節では,最も簡単な剛体の平面運動の例として,粗い y 平面の上を転がる円板の運動について考える.この問題は, y’ 固定軸の回りの円板の運動(例えば,問題 6.10)と比較し て,かなり複雑である.円板が平面の上を,滑りながら運 P 動する場合と滑らずに運動する場合とがあるからである. θ Y x’ O’ Q O 座標系 X x 円板は,半径が a, 質量が M で,一様と仮定する.こ 2 の場合,慣性モーメントは,I = 1 2 M a である.最初に, 粗い水平面上の運動を考える.水平面の動摩擦係数を µ′ とする. 静止系 Oxyz 系として,水平面上に原点 O をおき,水平方向(図の右向き)に x 軸を,鉛直方向(図の 上向き)に y 軸を,紙面に垂直で,内から外へ向かう向きに z 軸をとる.これとは別に,剛体系 O′ x′ y ′ z ′ 系として, 剛体の重心に原点 O′ をおき,x 軸,y 軸,z 軸と平行にそれぞれ x′ 軸,y ′ 軸,z ′ 軸をとる.円 板上の任意の点の,静止系から見た座標 (x, y, 0) と,剛体系から見た座標 (x′ , y ′ , 0) との間には, x = X + x′ , y = Y + y′ (6.66) なる関係がある.ここで (X, Y, 0) は静止系から見た重心 O′ の座標である. 回転角の定義 剛体系に対して極座標系をとる.円周上の任意の点 P(x′ , y ′ ) の,x′ 軸の正方向に対するなす角を θ とす ると, x′ = a cos θ, y ′ = a sin θ (6.67) と表される.θ は,反時計回りの回転を正とするように定義されることに注意する. 接点の速度 点 P の静止系から見た座標は,(6.66) に (6.67) を代入すると, x = X + a cos θ, y = Y + a sin θ 97 (6.68) と表される.この点の静止系から見た速度を求める.水平面上の運動では,重心は x 方向にのみ運動する ので,Y˙ = 0 である.よって, x˙ = X˙ − aθ˙ sin θ, y˙ = aθ˙ cos θ (6.69) となる.円板と水平面との接点 Q (θ = −π/2) における速度は従って, ˙ x˙ = X˙ + aθ, (6.70) y˙ = 0, となる.円板は接点 Q から離れることはないので,y˙ = 0 は自明である.一方,関係式 (6.70) は重要な意 味を持つ. 滑りの有り無しの定義 円板と水平面との接点 Q の速度 (6.70) が 0 でない,即ち,X˙ + aθ˙ ̸= 0 の場合,滑りがある.滑りが ある場合,接点において動摩擦力が作用する. 逆に,X˙ + aθ˙ = 0 の場合,滑りがない.滑りがない場合,接点において未知の大きさの摩擦力が作用す る.この摩擦力は最大摩擦力より小さい. a. 滑りがある場合 円板と平面の間に抗力 R に比例した動摩擦力 µ′ R が働く.ここで, 面が水平の場合には抗力は重力と等しく,R = M g である.動摩擦力 θ˙ Mg X˙ の向きは円板が進む向きと逆向きである.重心の並進運動の方程式は, ¨ = −µ′ M g MX (6.71) となる.ここで,円板は x 軸の正の向きに進むと仮定した. µ′M g 接点の速度 X˙ + aθ˙ 6= 0 接点 Q の剛体系に関する位置ベクトルは,r ′Q = (0, −a, 0), 動摩擦力 のベクトルは,F f = (−µ′ M g, 0, 0) であるから,動摩擦力による力の モーメントは,r ′Q × F f = (0, 0, −aµ′ M g) となる.よって,重心の回 図.滑りがある場合の円板の運動. りの回転運動の方程式は, 重心は右向きに運動すると仮 1 M a2 θ¨ = −aµ′ M g (6.72) 定.回転の向きは,実際の回 2 転の向きではなく,角速度の となる.未知の変数は X, θ の 2 つで,運動方程式は (6.71), (6.72) の 2 定義で正の向きを示す. 式なので,初期条件を与えれば,問題を解くことができる. b. 滑りがない場合 上で述べたように,滑りがない場合, X˙ + aθ˙ = 0 (6.73) である.円板と平面の接点は瞬間的に静止しているので,円板と平面の間には,動摩擦力ではなく,未知の 大きさの摩擦力が働く.この摩擦力の大きさを F とおく.円板は x 軸の正の向きに進むと仮定すると,摩 擦力は円板が進む向きと逆向きの負の向きに作用する.この場合,重心の並進運動の方程式は, ¨ = −F MX となる. 98 (6.74) 摩擦力のベクトルは,F f = (−F, 0, 0) であるから,摩擦 ˙ θ˙ = − Xa X˙ = −aθ˙ Mg 力による力のモーメントは,r ′Q × F f = (0, 0, −aF ) となる. よって,重心の回りの回転運動の方程式は, 1 M a2 θ¨ = −aF 2 (6.75) となる. F 接点の速度 X˙ + aθ˙ = 0 未知の変数が X, θ の他に F と,滑りがある場合と比べて 図.滑りがない場合の円板の運動.重心は右 向きに運動すると仮定.回転の向きは, この場合の実際の回転の向きを示す. 未知の変数が 1 つ多い.しかし,運動方程式 (6.74), (6.75) の 2 式に加えて,滑りなしの条件式 (6.73) がつくので,F の値 を求めることができ,初期条件を与えれば,問題を完全に解 くことができる. なお,実際の運動において,滑りが生じるか生じないかは, 与えられた初期条件によって決まる(問題 6.13 参照). 問題 6.13 半径 a, 質量 M の一様な円板を,動摩擦係数 µ′ の粗い水 平面で運動させる. [1] 重心の並進運動の初速度を u0 ,重心の回りの回転の初角速度 を ω0 とした時,u0 > 0(右向きに進行),ω0 > 0(反時計 回りに回転)と仮定すると,最初は水平面の上を滑りながら 転がる.この場合,円板と水平面の間に滑りが無くなるまで α に要する時間を求めよ.更に,滑りが無くなった時の重心の 図 6.4. 問題 6.14 斜面上の円板の運動. 並進運動の速度を求めよ. [2] 円板と水平面の間に滑りが無くなった以降の円板の運動につ いて,摩擦力の大きさと,重心の並進運動の速度を求めよ. 6.14 半径 a, 質量 M の一様な円板を,水平面に対して α の角度をなす粗い斜面の上に静かにおく(図 6.4 参照).斜面の静止摩擦係数を µ, 動摩擦係数は µ′ として,以下の問に答えよ. [1] 円板が斜面上を滑ることなく転がるために必要な,角度 α に対する条件を求めよ.更に,この場合の円 板の運動を述べよ. [2] 円板が斜面上を滑りながら転がる場合について,円板の運動を述べよ. [3] 問 [1], [2] それぞれの場合について,全エネルギーの保存が成立するか否かを調べよ. 6.3.3 剛体の平面運動の例 2 – 棒の運動 – 問題 6.15 滑らかな水平な床の上に,質量 M , 長さ l の一様な棒が,床 と α の角度をなして支えられている(図 6.5 参照).支えを 取り去ると棒は床に叩き付けられるが,床に達する時の棒の 先端の速度を求めよ.なお,棒の先端が床に達するまで,棒 の他端は床から離れないものと仮定する. 6.16 上と同じ問題で,だだし,床が粗い場合はどうなるか.な α お,棒の先端が床に達するまで,棒の他端と床の接点は動か ないものと仮定する. 図 6.5. 問題 6.15, 6.16, 6.17 棒の運動. 99 6.17 上問と同じ設定で,α = 90◦ とする.この場合について,棒の床に対するなす角が θ となった時の, 抗力と摩擦力を求めよ(M, g, θ のみを用いて表すこと).更に,床の静止摩擦係数を µ とした時,棒 が滑り始める直前において,角度 θ が満足する関係式を示せ. 【解答】 問題 6.15 y 図に示すように,水平な床の上に原点 O をおき,水平方向(図 y’ の右向き)に x 軸を,鉛直方向(図の上向き)に y 軸をとる.更 に,棒の重心 O′ を原点として,x 軸,y 軸に平行で同じ向きに, 剛体系の x′ 軸,y ′ 軸をとる. (z 軸,z ′ 軸は紙面に垂直で,内か ら外へ向かう向き) O’ Y R x’ 棒の重心の座標を (X, Y, 0),x 軸の正の向きに対する棒の傾 き角を θ(反時計回りの回転を正と定義)とおく.棒が床から受 ける抗力を R とおくと,摩擦力は作用していないから,重心の Mg 並進運動の方程式は, θ O Q X x ¨ = 0, MX (6.76a) M Y¨ = R − M g, (6.76b) となる.(6.76a) の意味は次のようになる,摩擦がないため,x 方向には力が作用しない.従って,初速度 が 0 の場合,重心の x 座標,X は運動の過程で変化しない. 剛体系から見た棒と床の接点 Q の位置ベクトルは,r ′Q = ( F R = (0, R, 0) であるから,抗力による力のモーメントは r ′Q に関する棒の慣性モーメントは 1 2 12 M l ) − 2l cos θ, − 2l sin θ, 0 , 抗力のベクトルは ( ) × F R = 0, 0, − 2l R cos θ となる.重心 であるから,重心の回りの回転運動の方程式は, 1 l M l2 θ¨ = − R cos θ 12 2 (6.77) となる. (抗力によるモーメントは θ を減少させる向きに作用するので,負号が付く. ) 棒の先端が床に到達するまで,棒の他端は床から離れないと仮定すると,関係式 Y = l sin θ 2 (6.78) が成り立つ.これを時間微分すると, l Y˙ = θ˙ cos θ 2 (6.79) である. (6.76b) の両辺に Y˙ を掛けると,重心の並進運動のエネルギーと重心の位置エネルギーの和で表される エネルギーに関する方程式が得られる. ( ) d 1 ˙2 M Y + M gY = RY˙ dt 2 (6.80) 抗力 R は時間の関数なので,左辺の時間微分の中へ入れることはできないことに注意する.先に述べたよ うに,初速度が 0 の場合,X は定数となるから,運動のエネルギーの表式に入ってこない. 100 一方,(6.77) の両辺に θ˙ を掛けると重心の回りの回転運動のエネルギーに関する方程式が得られる. ( ) l d 1 M l2 θ˙2 = − Rθ˙ cos θ (6.81) dt 24 2 (6.80)+(6.81) より, d dt ( 1 ˙2 1 M Y + M gY + M l2 θ˙2 2 24 ) ( ) l = R Y˙ − θ˙ cos θ 2 となる.右辺は,抗力が単位時間当たりになす仕事を表す.(6.79) を右辺へ適用すると, ) ( 1 d 1 ˙2 2 ˙2 M Y + M gY + M l θ = 0 dt 2 24 (6.82) に帰着する.この式は,重心の並進運動のエネルギーと重心の位置エネルギーと重心の回りの回転運動の エネルギーの和で定義される全エネルギー, E= 1 ˙2 1 M Y + M gY + M l2 θ˙2 2 24 (6.83) が保存することを示す.棒は床から離れないため,棒と床の接点は y 方向に運動しない.このため,抗力 がなす仕事は 0 となり,全エネルギーが保存する.(6.78), (6.79) を用いて, Y, Y˙ を θ, θ˙ で書き換えると, 全エネルギー (6.83) は, E= 1 l 1 M l2 θ˙2 cos2 θ + M l2 θ˙2 + M g sin θ 8 24 2 (6.84) と書き換えられる. 始状態 θ = α, θ˙ = 0 と終状態 θ = 0, θ˙ = θ˙ の間で全エネルギー (6.84) が等しいことより,等式, 1 1 l M l2 θ˙2 + M l2 θ˙2 = M g sin α 8 24 2 が成り立つ.これより終状態の角速度が以下のように求まる. (棒は実際には倒れながら時計回りに回転す るので,− 符号の方を採用した. ) √ ˙θ = − 3g sin α l これに棒の長さ l を掛けたものが先端の速度で, √ − 3lg sin α である. 問題 6.16 図に示すように,棒と床の接点を原点 O とし,水平方向(図の右向き)に x 軸を,鉛直方向(図の上向 き)に y 軸をとる.更に,問題 6.15 と同様に剛体系を定義する. 全問と同様,棒の重心の座標を (X, Y, 0),x 軸の正の向きに対する棒の傾き角を θ とおく.棒が床から 受ける抗力を R ,摩擦力を F とおくと,重心の並進運動の方程式は, ¨ =F MX (6.85a) M Y¨ = R − M g (6.85b) となる.棒は倒れる時,左向き(−x 方向)に動こうとするので,摩擦力は右向き(+x 方向)に働くこと に注意する. 101 y ( y’ 剛体系から見た棒と床の接点 O の位置ベクトルは,r ′O = ) − 2l cos θ, − 2l sin θ, 0 , 抗力のベクトルは F R = (0, R, 0),摩擦 力のベクトルは F f = (F, 0, 0) であるから,抗力による力のモー ( ) メントは r ′O × F R = 0, 0, − 2l R cos θ , 摩擦力による力のモーメ ( ) ントは r ′O × F f = 0, 0, 2l F sin θ となる.従って,重心の回り の回転運動の方程式は, θ O’ Y R x’ Mg 1 l l M l2 θ¨ = − R cos θ + F sin θ 12 2 2 (6.86) となる.床に到達するまで,棒は接点 O から動かないと仮定す ると,関係式 O F x X X= l cos θ, 2 Y = l sin θ 2 (6.87) が成り立つ.これを時間微分すると, l X˙ = − θ˙ sin θ, 2 l Y˙ = θ˙ cos θ 2 (6.88) である. ˙ (6.85b)×Y˙ より,重心の並進運動のエネルギーと重心の位置エネルギーの和で表されるエ (6.85a)×X+ ネルギーに関する方程式が得られる. [ ] d 1 M (X˙ 2 + Y˙ 2 ) + M gY = RY˙ + F X˙ dt 2 (6.89) 抗力 R や摩擦力 F は時間の関数なので,左辺の時間微分の中へ入れることはできないことに注意する. 一方,(6.86) の両辺に θ˙ を掛けると重心の回りの回転運動のエネルギーに関する方程式が得られる. d dt ( 1 M l2 θ˙2 24 ) l l = − Rθ˙ cos θ + F θ˙ sin θ 2 2 (6.90) (6.89)+(6.90) より, [ ] ( ) ( ) l ˙ l ˙ 1 d 1 2 2 2 ˙2 ˙ ˙ ˙ ˙ M (X + Y ) + M gY + M l θ = R Y − θ cos θ + F X + θ sin θ dt 2 24 2 2 となる.右辺第 1 項は抗力,右辺第 2 項は摩擦力が単位時間当たりになす仕事を表す.ここで (6.88) を右 辺へ適用すると, [ ] d 1 1 2 2 2 ˙2 ˙ ˙ M (X + Y ) + M gY + M l θ = 0 dt 2 24 (6.91) に帰着する.この式は,重心の並進運動のエネルギーと重心の位置エネルギーと重心の回りの回転運動の エネルギーの和で定義される全エネルギー, E= 1 1 M (X˙ 2 + Y˙ 2 ) + M gY + M l2 θ˙2 2 24 (6.92) が保存することを示す.棒は接点 O から動かないため,抗力,摩擦力いずれも仕事をしない.その結果,全 ˙ Y˙ を θ, θ˙ で書き換えると,全エネルギー (6.92) は, エネルギーは保存する.(6.87), (6.88) を用いて, Y, X, E= 1 l M l2 θ˙2 + M g sin θ 6 2 と書き換えられる. 102 (6.93) 始状態 θ = α, θ˙ = 0 と終状態 θ = 0, θ˙ = θ˙ の間で全エネルギー (6.93) が等しいことより,等式, 1 l M l2 θ˙2 = M g sin α 6 2 が成り立つ.これより終状態の角速度が以下のように求まる. √ 3g θ˙ = − sin α l (符号の選択は問題 6.15 と同様)これに棒の長さ l を掛けたものが先端の速度で, √ − 3lg sin α である. 問題 6.17 α = 90◦ の場合,始状態 θ = π 2, θ˙ = 0 と任意の角度 θ,任意の角速度 θ˙ を持つ状態との間で,全エネル ギー (6.93) が保存することを使うと, 1 l l M l2 θ˙2 + M g sin θ = M g 6 2 2 が成り立つ.これより, 3g θ˙2 = (1 − sin θ) l (6.94) 3g θ¨ = − cos θ 2l (6.95) となる.この両辺を時間微分すると, が得られる. ところで,(6.88) を更に時間微分すると, ¨ = − l θ¨ sin θ − l θ˙2 cos θ, X 2 2 l l Y¨ = θ¨ cos θ − θ˙2 sin θ, 2 2 であるが,これに (6.94), (6.95) を代入すると, ¨ = 3 g cos θ(3 sin θ − 2), X 4 1 Y¨ = g(9 sin2 θ − 6 sin θ − 3) 4 が得られる.これを (6.85a), (6.85b) に代入すると,抗力,摩擦力が以下のように求まる. F = 3 M g cos θ(3 sin θ − 2), 4 R= 1 M g(3 sin θ − 1)2 4 (6.96) さて,棒が滑り始める直前には最大摩擦力が作用するから,F = µR である.この式に (6.96) を代入す ると, 3 cos θ(3 sin θ − 2) = µ(3 sin θ − 1)2 が得られる.これが求める関係式である. 103
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