R A 医の立場からの 乾癬性関節炎︵ PsA ︶治療

関節疾患
はじめに
RA医の立場からの
︶治療
乾癬性関節炎︵ PsA
岸 本 暢 将
げる関節外症状や仙腸関節を含めた体軸関節病
早期診断
乾 癬 性 関 節 炎︵
︶ は、 変を合併することが挙げられ、これら病変がさ
Psoriatic
Arthritis
PsA
らにQOLの低下を招くため、注意深い問診と
関節リウマチ︵
RA︶同
Rheumatoid
Arthritis
身体診察が重要となる。
様不可逆的な関節の変形を生じ、関節障害は日
常生活や就労に支障となり、生活の質︵Q O
L︶の著しい低下を引き起こすため、発症早期
節炎を呈した患者では、爪を含めた乾癬の好発
に診断して治療を行う必要がある。
部位の視診を必ず行う。例えば、ケブネル現象
では、関節炎の発症前に皮膚の乾癬病変
PsA
がみられるのが約 %と圧倒的に多いため、関
日常診療においては、遠位指節間︵DIP︶
関節病変が多いため変形性指関節症との、手指
皮症〟や〝湿疹〟と間違われるケースもあるた
により肘や膝の伸側が好発部位であるが、
〝乾
を含めた多関節炎ではRAとの鑑別疾患として
非常に重要である。RAと
の相違点とし
PsA
ては、罹患関節部位以外に、 PsA
では以下に挙
(179)
CLINICIAN Ê15 NO. 636
39
70
①乾癬性関節炎
CASPAR(Classification criteria for Psoriatic Arthritis)基準
関節炎(末梢関節炎、体軸関節炎、付着部炎のいずれか)を有する患者で、以下
1項目1点(現症の乾癬は2点)とし、3点以上を PsA と診断する。
1.乾癬の現症、既往または家族歴(2親等まで)
2.爪病変
3.血清リウマトイド因子陰性
4.指趾炎の現症または既往(医師による診断)
5.手足指単純 X 線で骨新生病変(関節近傍に骨棘とは異なる骨新生)
(文献1より引用・改変)
め、袖とズボンをまくり視診を行う。その他、
頭皮の乾癬では〝ふけ〟
、耳内では〝耳垢〟と
して間違われるため確認するようにしたい。鼠
径部や陰部、臍周囲などはなかなか患者が言い
出せない部位であり、忘れずに問診にて確認す
る。
頻度は少ないが関節炎発症時、皮膚に乾癬の
ない関節炎先行型も PsA
全体の ∼ % にみ
らの所見を統合した分類基準であるCASPA
う。その他家族歴︵2親等まで︶を含め、これ
また、手指のX線では、RAではみられない
骨新生像が認められるため、注意して読影を行
う所見となる。
障害が生じていることが多く、 PsA
の診断を疑
ーセージ指/痛風との鑑別が重要︶など様々な
アキレス腱炎︵付着部炎︶
、爪の変形、指炎︵ソ
られるため、皮膚に病変がなくても PsA
は除
外できない。このような患者では、足底腱膜炎、
15
40
CLINICIAN Ê15 NO. 636
(180)
10
R基準を表①に示す。日常診療に役立てていた
1)
② GRAPPA 治療推奨:乾癬性関節炎
PsAデ᩿
⓶⭵஝Ⓞ䞉
∎⑓ኚ
ᮎᲈᛶ㛵⠇⅖
἞⒪䠖
NSAIDs
IA steroids
DMARDs 䠄MTX,
CsA, SSA, LEF䠅
⏕≀Ꮫⓗ〇๣
䠄anƟͲTNFs䠅
య㍈㛵⠇⅖
἞⒪䠖
Topicals
PUVA/UVB
DMARDs
䠄MTX, CsA, etc.䠅
⏕≀Ꮫⓗ〇๣
䠄anƟͲTNFs, 䛭䛾௚䠅
἞⒪䠖
NSAID
⌮Ꮫ⒪ἲ
⏕≀Ꮫⓗ〇๣
䠄anƟͲTNFs䠅
ᣦ㊑⅖
௜╔㒊⅖
἞⒪䠖
NSAID
InjecƟon
⏕≀Ꮫⓗ〇๣
䠄anƟͲTNFs䠅
἞⒪䠖
NSAID
InjecƟon
⏕≀Ꮫⓗ〇๣
䠄anƟͲTNFs䠅
Reassess response to therapy
and toxicity
CsA:cyclosporin、DMARD:disease-modifying anti-rheumatic drug、GRAPPA:group for the
research and assessment of psoriasis and psoriatic arthritis、IA:intra-articular、LEF:leflunomide、
MTX:methotrexate、NSAID:non steroidal anti-inflammatory drug、PUVA:psoralen-ultraviolet
A、SSA:sulfasalazine、TNF:tumor necrosis factor、UVB:ultraviolet B
だきたい。
治療
︶治療推奨が
of Psoriasis and Psoriatic Arthritis
参考になる︵図②/2015年改訂予定︶
。こ
こでは末梢関節炎はRAの治療とほぼ同様の治
療戦略となるが、体軸関節炎や指趾炎、付着部
炎においては経口DMARDsの効果が乏しい
CLINICIAN Ê15 NO. 636
場合が多く、NSAIDsを数種類︵通常2∼
3種類、最低2週間は1剤を継続し判定︶使用
®
し効果が得られない場合、TNF阻害薬︵本邦
ではアダリムマブ[ヒュミラ]
、インフリキシ
41
ムマブ[レミケード]が使用可能︶が推奨され
ている。TNF阻害薬は PsA
患者のほうがR
A患者より反応率が良いという報告︵図③︶も
あり、QOLを改善している。
3)
®
の治療は、
欧米の専門家が集まり作成した
PsA
GRAPPA︵ Group for Research and Assessment
(文献2より引用・改変)
2)
(181)
③ TNF 阻害剤による寛解達成率(RA 患者 vs PsA 患者)
PsA
その他の薬剤
作用の懸念から1∼2年以上の使用は推奨され
害、若年女性における多毛や歯肉増生などの副
り効果がなく、また薬剤相互作用が多く、腎障
本邦で頻用されているシクロスポリンは、皮
膚病変改善効果は期待できるが関節炎にはあま
(文献3より)
生物学的製剤では、関節炎改善効果はTNF
阻害薬に劣るがウステキヌマブ︵ステラーラ
ていない。
2)
モノクローナル抗体である secukinumab
IL17A
は、米国FDAが2014年 月乾癬治療に対
モノクローナル抗体製剤︶が使用
IL-12/23 p40
可能である。また新規生物学的製剤として、
®
して承認し、今後日本での臨床研究の結果が待
たれる。また、RAの治療薬として本邦で使用
可能なトファシチニブ︵ゼルヤンツ︶も、乾癬
領域でも世界的に治験が行われている。
®
42
CLINICIAN Ê15 NO. 636
(182)
10
生物学的製剤使用
RA 患者321人と
PsA 患者152人の検討
RA
12カ月後の寛解率
PsA 58% vs RA 44%
最後に
TNF 阻害薬の登場とともに、RA同様に
治療のパラダイムシフトが起きた。最大で
PsA
%に合併するといわれているブドウ膜炎患者
2T︶を組み入れた研究が発表され、RA同様、
も激減している。目標︵
Minimal
Disease
Activity
MDA︶を持って治療を行う Treat to Target
︵T
治療戦略が確立されつつある。 PsA
患者におい
ては、皮膚の病変による cosmetic
なQOLの障
害ばかりでなく、RA同様、関節障害でのQO
L低下が問題となるため、早期診断、早期治療
を実践していただきたい。
︵聖路加国際病院
Immuno-Rheumatology Center
医長、
および ASAS member
︶
GRAPPA
文献
Taylor WL, et al : Classification criteria for psoriatic
arthritis : development of new criteria from a large
international study. Arthritis Rheum, 54, 2665-2673
(2006)
Ritchlin CT, et al : Treatment recommendations for
psoriatic arthritis. Ann Rheum Dis, 68, 1387-1394
(2009)
TP Saber, et al : Remission in psoriatic arthritis : is it
possible and how can it be predicted? Arthritis Res
Ther, 12, R94 (2010)
2)
3)
(183)
CLINICIAN Ê15 NO. 636
43
30
1)