csDMARD の併用療法

激変するRA治療
安 倍 千 之
作成している。その中で、SASP、ブシラミ
の併用療法
csDMARD
日本における3剤併用療法
ン︵ ︶
、MTXをレベルAに分類している。
関節リウマチ︵RA︶の治療で、従来型合成
抗リウマチ剤︵
︶が汎用されている。 したがって、HCQ の代わりに を採用して3
csDMARD
剤併用療法とすることは理に適っている。
そのうち、サラゾスルファピリジン︵S AS
3剤併用療法の改善効果
P︶
、ヒドロキシクロロキン︵HCQ ︶および
メトトレキサート︵MTX︶の3剤併用療法に
日本においては、クロロキン剤でクロロキン
網膜症およびクロロキン角膜症という副作用を
①︶
。雄性MRL/lマウスを8週齢から実験
変改善効果を示すことを、すでに報告した︵表
Bc
認めたために、RA症例での使用が禁止されて
されている。
3剤併用療法︵SASP+ +MTX︶が、
疾患モデルで、臨床的にも病理学的にも関節病
1.
疾患モデルマウスにおける解析
Bc
関しては、米国および欧州から多くの報告がな
Bc
に供した。各薬剤の至適有効量はSASP10
3)
5)
24
CLINICIAN Ê15 NO. 636
(164)
1)
2)
いる。厚生労働省はRAの治療ガイドラインを
4)
①単剤(有効量)・3剤(低用量)の効果比較
絨毛形成
−
※※
−
−
軟骨変性
−
※
−
−
骨軟骨の結合織による置換
−
−
−
※※
線維素の析出
※
−
−
※※
線維芽細胞増殖
※
−
−
※※
リンパ球
−
−
−
−
形質細胞
※
−
−
−
病理学的所見
好中球
※
−
−
−
パンヌス形成
−
−
−
※※
−
骨周囲炎
−
−
−
骨新生
−
−
−
−
血管炎
−
−
−
−
(文献5より)
0㎎ /㎏ 、
㎎ /㎏ 、MTX0・3㎎ /㎏ で
あった。SASP、 は有効量の1/ 量を、
MTXは1/3量を低用量とした。 週齢まで、
週3回経口投与した。有効性の作用機序を解明
するには至らなかった。
を有意差をもって抑制した。IL 1β 、IL
る。
2.
3剤併用療法が標的とするもの
C BL/6マウスの骨髄細胞を培養し、そ
の培養液中に薬剤を入れた報告がある。SAS
有意差 ※ p<0.05 ※※ p<0.01
Wilcoxon’s U–test(多重比較)
χ2乗テスト
さらに、サイトカインレベルの解析を行った。
疾患モデルでのサイトカインに対する効果をも
解析した。低用量の3剤併用療法が4つのサイ
トカインを有意差をもって抑制した。IL 6、
−
、IFN γ 、M
−
※※
※※
10
15
−
6、TNF α 、IL
13
IP 1β であった。図②にその一部を提示す
−
−
※
Bc
、IFN γ 、MIP 1β である。
−
IL
13
至適用量の3剤併用療法が6つのサイトカイン
−
6)
10
Bc
10
−
※※
※※
滑膜細胞重層
−
−
PとMTXの組み合わせがRANKL︵ receptor
57
6
匹数(MRL/l mice, male)
(165)
CLINICIAN Ê15 NO. 636
25
−
※
※※
滑膜下組織浮腫
0.1
1
4
5
0.3
10
MTX
10
SASP + Bc + MTX
Bc
100
用量 mg/kg
SASP
薬剤
②3剤併用が関節炎モデルのサイトカインを抑制
㻵㻸㻙㻢㻌䠄㼜㼓㻛㼙㻸䠅
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CLINICIAN Ê15 NO. 636
κ
︵ nuclear factor of activated
NFATc1
︶発現を抑制し、骨芽
activator of NF- B ligand
細胞の分化を促進する。さらに3剤がRANK
7)
L系を介した
T cells ︶
c1発現を抑制し、破骨細胞分化を抑制
する。3剤併用療法が、サイトカイン系および
Bc
RANKL系を標的として作用することから、
多 標 的 療 法︵ multi-target therapy
︶と 呼 ぶ こ と
ができよう。さらに、SASP、 、MTXの
組 み 合 わ せ を、 多 標 的 抗 リ ウ マ チ 剤︵ multis
target anti-rheumatic drugsMTARD ︶と呼
ぶことができよう。
12
(文献6より)
3.
臨床症例における解析
(166)
臨床症例は、診断後3年以内の早期症例を解
析対象とした。生物学的製剤︵ bDMARD
︶を
用いた症例は除外した。治療 カ月まで解析対
−
6)
象とした。
−
まず、初診時のサイトカイン陽性、陰性の症
例の分布を表③に示した。3つのサイトカイン
︵IL 1β 、IL 6、TNF α ︶陽性の
−
㼏㼛㼚㼠㼞㼛㼘㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻝㻜㻗㻝㻗㻜㻚㻝㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻝㻜㻜㻗㻝㻜㻗㻜㻚㻟
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㼚㻌㻩㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻟㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻡㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻡
26
③診断後3年以内の RA 症例―3剤併用療法開始時のサイトカイン活性
IL-6
TNF- α
症例数
A
↑
↑
↑
10
B
−
↑
↑
10
C
−
−
↑
2
D
−
↑
−
3
E
−
−
−
4
症例数
10
23
22
29
症例は 例中 例︵A群︶
、2つのサイトカイ
ン︵IL 6、TNF α ︶陽性の症例は 例
29
6陽性症例は 例中 例︵ %︶
、TNF
4例︵E群︶であった。見方を変えると、IL
例は3例︵D群︶
、サイトカイン陰性の症例は
−
性の症例は2例︵C群︶
、IL 6単独陽性症
−
︵B群︶
、1つのサイトカイン︵TNF α ︶陽
10
29
AS ESRの疾患活動性は、どの群において
た。ACR/EULAR分類基準のスコア、D
α 陽性症例は 例︵ %︶であることが判明し
−
臨床例のサイトカインの経時的変化の一部を、
図④に示した。測定限界値がかなり低いため、
とどまっていることが判明した。
な相関関係は見られず、互いに独立した関係に
もほぼ同等に分布した。つまり、3者間に特別
28
イトカインは、IL 6、TNF α 、IL
のが難しくなっている。抑制傾向が見られたサ
標準誤差が大きくなる。そして有意差を認める
6)
1β 、IL 2、IL
、IFN γ であっ
−
IL-1β
10
22
23
13
(167)
CLINICIAN Ê15 NO. 636
−
79
−
−
27
−
76
−
−
(文献6より)
↑:陽性、−:陰性
−
−
群
④3剤併用療法(低用量)症例におけるサイトカインの経時的変化
㻝㻜㻜
㻞㻡㻜
㼚㻌㻩
㻞㻜
㻟㻜
㻝㻡
㻞㻜
㻡
㻝㻜
㻝㻜
た。上昇を見たのは、IL
、MIP 1β
として進められている。3剤併用療法群
study
症例とMTX併用のTNF α 阻害剤群 症
3剤併用療法の多施設臨床研究は、 JaSTAR
4.
進行中の多施設臨床研究
ろである。
であった。上昇の機序は将来の解析を待つとこ
−
17
61
施設、6カ月間の臨床成績で、両群間で同等
会、
欧州リウマチ学会︵EULAR︶で報告した。
8)
の効果を認めている。その後、 カ月時点でも
12
チ剤ではタクロリムスの1/ 、ミゾリビンの
この3剤併用療法は既存の薬剤の組み合わせ
であることから、極めて安価である。抗リウマ
同等の効果を認めている。
9)
1/ となろう。 bDMARD
ではゴリムマブの
1/100となろう。年間2・3万∼4・2万
20
初診時のRA症例をA∼E群に分類した。サ
円ですむ。
10
㻝㻞㻹
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㻥㻹
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㻝㻝
−
−
例の解析結果を、2013年の日本リウマチ学
77
7)
32
28
CLINICIAN Ê15 NO. 636
(168)
㻠㻜
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㻝㻜㻜
㻡㻜
㻖
(文献6より)
⑤3剤併用療法の実際
ୖ஌䛫᪉ᘧ
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㻹㼀㼄䚷㻠㻌䡚㻌㻢㻌㼙㼓
ྠ᫬ᢞ୚᪉ᘧ
イトカインの関与の明白なA群においても、そ
れが明白でないE群においても3剤併用は同等
の効果を示した。3剤の作用機序に、サイトカ
イン以外の何かが関与していることが推測され
る。
3剤併用療法治療の実際
治療の実際は副作用発現を確認できるように、
上乗せ方式が推奨されよう。症例によっては、
同時服用開始方式も採用できる︵図⑤︶
。3剤
ともに低用量で開始することで、副作用発現率
は低くなる。3剤併用療法は高齢の症例でも採
用可能である。
ることなく、経過を追うことが可能である。
(169)
CLINICIAN Ê15 NO. 636
29
の治療を終了したいとき、この低
bDMARD
用量
3 剤併用療法を導入し、その
csDMARD
後にいわゆる bio free
にすると、再燃現象を見
やSASPにアレルギーのある症例には、
イグラチモドを使用することが考慮できる。新
Bc
㻡㻜㻌㼙㼓
㻞㻡㻜㻌㼙㼓
㻠㻌䡚㻌㻢㻌㼙㼓
㻮㼏
㻿㻭㻿㻼
㻹㼀㼄
(筆者作成)
たな3剤併用療法研究の可能性が残されている。
︵安倍内科医院
院長、
聖マリアンナ医科大学
リウマチ内科
客員教授︶
文献
Moreland LW, et al : A randomized comparative
effectiveness study of oral triple therapy versus
etanercept plus methotrexate in early, aggressive
rheumatoid arthritis : the treatment of Early Aggressive
Rheumatoid Arthritis Trial. Arthritis Rheum, 64, 28242835 (2012)
31∼2335︵1967︶
Abe C, et al : Combination therapy on murine arthritis
Salazosulfapyridine, bucillamine, and methotrexate.
Int J Immunotherapy, 11, 129-132 (1995)
安倍千之ら DMARDs3剤併用療法のサイトカ
インに対する効果︱関節炎モデルおよび関節リウマ
チ症例における解析、臨床リウマチ、 、 ∼10
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松野博明ら 実地医による発症早期関節リウマチ患
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︶併用療法とTNF
salazosulfapyridine, bucillamine
阻害薬との多施設共同比較試験︵ JaSTAR study
︶︱
治療6ヶ月目の中間報告、日本リウマチ学会︵20
13︶
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(prospective, open-label clinical trial). Annual European
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松野博明 私とリウマチ∼対症療法から寛解治療へ
変遷する歴史の中で∼、臨床リウマチ、 、 ∼
︵2014︶
78
O’Dell JR, et al : Therapies for active rheumatoid
arthritis after methotrexate failure. N Engl J Med, 369,
307-318 (2013)
5)
−
6)
7)
Okada M, et al : Patient-oriented decision of early
treatment of rheumatoid arthritis with combination of
triple conventional disease modifying anti-rheumatic
96
75
van Vollenhoven RF, et al : Conventional combination
treatment versus biological treatment in methotrexaterefractory early rheumatoid arthritis : 2 year follow-up
26
26
30
CLINICIAN Ê15 NO. 636
(170)
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trial. Lancet, 379, 1712-1720 (2012)
杉山 尚ら リウマチ性疾患における
Chloroquine
療 法 の 基 礎 的 並 び に 臨 床 的 研 究︵ 第 2 報 ︶
、
眼障害について、最新医学、 、23
Chloroquine
22
8)
9)
1)
2)
3)
4)