関節疾患 強直性脊椎炎︵AS︶の 診断と治療 織 田 弘 美 は陰性である。詳細は不明であるが、発症には 特定の遺伝子の関与が示唆されており、欧米白 人におけるHLA B 陽性率は約 %である。 90 はじめに 強直性脊椎炎︵ Ankylosing SpondylitisAS︶ は仙腸関節や脊椎・四肢の腱付着部に原因不明 − の慢性炎症をきたす疾患で、脊椎関節炎 ︵ わが国における有病率は0・ ∼0・ %と推 spon︶の代表的疾患である ︵図①︶ 。 定され、欧米の1/ とされているが、これは dyloarthritis SpA 日本人一般人口におけるHLA B 陽性率が 主な症状は脊柱を中心とした身体のこわばり、 27 02 03 腰背部痛、項部痛、四肢の腱・靭帯付着部痛で 0・3∼0・4%と欧米白人の7∼9%︵北欧 27 では %︶に比べて極めて低いことを反映して − 20 あり、末梢関節炎を合併することもある。男女 比は3∼4 1と男性に多く、ほとんどが思春 いるためと考えられる。 14 強直に至る症例はまれであり、大部分の症例で 期から 歳までに発症し、 歳代以降に発症す ︵ 竹 様 脊 椎 ︶と AS と い え ば bamboo spine ることはまれである。炎症所見は陽性であるが、 いうイメージが強いが、このような特有の脊柱 リウマトイド因子︵ Rheumatoid FactorRF︶ 40 (171) CLINICIAN Ê15 NO. 636 31 30 ①脊椎関節炎の概念 (ASAS(Assessment of SpondyloArthritis international Society)より引用・改変) は症状は年余にわたって徐々に進行する。しか し、積極的な治療を行わないと生活の質︵QO L ︶が損なわれ、重篤な日常生活動作︵AD L︶障害をきたすこともある。近年、早期の治 療介入が予後を改善し、生物学的製剤が有効で あることが明らかになり、欧米ではASの早期 診断、早期治療の重要性が指摘されている。本 稿では、最近のASの診断と治療について概説 する。 ASの診断 これまでASの診断には、1984年に作成 された改訂ニューヨーク診断基準︵表②︶が広 く用いられてきた。本基準によれば、診断を確 定するためには、3カ月以上持続する腰背部の 疼痛・こわばり、腰椎の可動域制限、胸郭の拡 張制限のうちいずれか1つと、仙腸関節のX線 変化が必須である。しかし、仙腸関節にX線変 化が出現するためには発症から5∼ 年かかる 10 32 CLINICIAN Ê15 NO. 636 (172) 1) ②改訂ニューヨーク診断基準 (文献1より) ため、本基準を用いてASの早期診断を行うこ とはできない。 このため、国際脊椎関節炎評価学会︵ Assess- ment of Spondyloarthritis International Society ASAS︶は、体軸性脊椎関節炎︵ Axial SpA ︶ の早期診断を目的として、新しい分類基準︵図 ③︶を策定した。これによれば、画像所見によ る仙腸関節炎と1つ以上の臨床徴候の存在、あ るいはHLA B 陽性と2つ以上の臨床徴候 27 方、HLA B が陽性で臨床徴候が2つ以上 家族歴などが追加された点が大きく異なる。一 − 候、CRP上昇やHLA B などの検査所見、 、関節炎、腱付着部炎、指趾の painIBP ︶ 関節炎に加え、ぶどう膜炎、乾癬などの合併徴 と し て 炎 症 性 腰 背 部 痛︵ inflammatory back 像所見としてMRIが採用された点、臨床徴候 の存在で Axial SpA と診断される。改訂ニュー ヨーク診断基準と比較すると、仙腸関節炎の画 27 認められれば、仙腸関節炎の画像所見はなくて 27 (173) CLINICIAN Ê15 NO. 636 33 2) − − ③ ASAS による体軸性の脊椎関節炎の分類基準 䠏䜹᭶௨ୖᣢ⥆䛩䜛⭜⫼㒊③䛜䛒䜚䚸䛛䛴Ⓨᖺ㱋45ṓᮍ‶䛾ᝈ⪅ ⏬ീᡤぢ1䠅䛻䜘䜛⭠㛵⠇⅖ 䜎䛯䛿 䠇 䠍䛴௨ୖ䛾SpA⮫ᗋᚩೃ2䠅 HLA-B27㝧ᛶ 䠇 䠎䛴௨ୖ䛾SpA⮫ᗋᚩೃ2䠅 1䠅㻌⭠㛵⠇⅖䛾⏬ീᡤぢ 䞉MRIᡤぢ䛻䛶άືᛶ䠄ᛴᛶ䠅䛾SpA䛻క䛖⭠㛵⠇⅖䛜ᙉ䛟♧၀䛥䜜䜛䚹 䞉⭠㛵⠇䛾X⥺ᡤぢ䛻䛚䛔䛶ᨵゞ䝙䝳䞊䝶䞊䜽ᇶ‽䛾☜ᐇ䛻ྜ⮴䛩䜛䚹 2䠅㻌SpA䛾⮫ᗋᚩೃ 䞉㻌⅖ᛶ⭜⫼㒊③䠄IBP䠅 䞉㻌䜆䛹䛖⭷⅖ 䞉㻌䜽䝻䞊䞁/⭠⅖ 䞉㻌HLA-B27㝧ᛶ 䞉㻌㛵⠇⅖ 䞉㻌ᣦ㊑䛾㛵⠇⅖ 䞉㻌NSAIDs䛜ⴭຠ䛩䜛 䞉㻌CRP䛾ୖ᪼ 䞉㻌╔㒊⅖䠄㋖䠅 䞉㻌Ⓞ 䞉㻌ᐙ᪘Ṕ䛻SpA䛜Ꮡᅾ䛩䜛 ⫼㒊③䛾䛒䜛649䜢ᑐ㇟ ឤᗘ䠖82.9䠂䚸≉␗ᗘ䠖84.4䠂 ⏬ീᡤぢ䛰䛡䛾ሙྜ䠖66.2䠂䚸≉␗ᗘ䠖97.3䠂 (文献2より) も診断される点は注意を要する。 40 臨床徴候の中で大きな比重を占めるのがIB Pである。ASASのIBP診断基準によれば、 ①発症年齢 歳未満、②緩徐な発症、③運動で 改善、④安静での改善なし、⑤夜間疼痛の5項 目のうち4項目以上を満たす場合をIBPと定 4) 義している。海外からは、腰痛におけるIBP の割合は %という報告もあり、決してまれな 腰痛ではない。日常臨床においては、主訴とな るIBPを的確に把握し、その上で仙腸関節の 画像診断と合併症状の探索を行い、炎症所見の 確認を行うのが望ましいと考えられる。 ASの治療 病因が不明なため、現在のところASの根治 療法は存在しないが、疼痛を抑えながら積極的 に体を動かすことにより、疼痛の軽減、脊椎や ASASとヨーロッパリウマチ学会︵EUL 関節の拘縮・強直の抑制が期待できる。 (174) 15 3) CLINICIAN Ê15 NO. 636 34 ④ BASDAI スコアの算出法 以下の6項目について VAS(10cm スケール)で評価し、以下の計算式で算出した値(0∼ 10)とする。 BASDAI =0.2×〔A+B+C+D+0.5×(E+F)〕 A)疲労感の程度 B)頸部や背部∼腰部または臀部の疼痛の程度 C)上記以外の関節の疼痛・腫脹の程度 D)触れたり押したりした時に感じる疼痛の程度 E)朝のこわばりの程度 F)朝のこわばりの継続時間(0∼120分) (文献5より) AR︶は共同で、AS治療に関する勧告を発表 している。 ①最善の治療は、薬物療法のみならず、非薬物 療法を組み合わせることによって達成され る。 ②疾患の臨床評価は、病歴︵問診票など︶ 、BA SDAI︵ Bath Ankylosing Spondylitis Disease 鎮痛薬︵NSAIDs︶は、疼痛やこわばり ④COX 2阻害薬を含む非ステロイド性消炎 望ましい。 で屋外あるいは水中で行う理学療法がより であるが、個人で行うよりも指導者のもと ③非薬物療法の基本は患者教育と規則的な運動 て行う。 ︶スコア︵表④︶などの臨床パ Activity Index ラメータ、血液・尿検査、画像検査を含め 6) が あ る AS 患 者 へ の 第 一 選 択 薬 と し て 推 奨 される。 ⑤靭帯付着部炎や関節炎が持続する場合は、副 (175) CLINICIAN Ê15 NO. 636 35 5) − エビデンスはない。 S に対するステロイド全身投与の有用性の 腎皮質ステロイドの局所注射を考慮する。A て使用すべきであると考えられる。 行抑制が報告されているので、第一選択薬とし あるが、NSAIDsの継続投与は骨病変の進 デンスはないが、末梢関節炎に対しては、症 例によってサラゾスルファピリジンの使用 週後のASAS %改善率が ・2%であっ すエビデンスはない。 NF 阻害薬以外の生物学的製剤の効果を示 高い患者には、TNF阻害薬を使用する。T ⑦従来の治療を行っても持続的に疾患活動性が 以上継続して使用してもコントロール不良︵B ガイドラインは、 〝NSAID通常量を3カ月 いて、日本リウマチ学会のTNF阻害療法施行 たと報告されている。TNF阻害薬の適応につ を考慮する。 アダリムマブは、国内の臨床試験において投与 国内でASの適応症を有するTNF阻害薬は、 ⑥脊椎炎に対する抗リウマチ薬の有効性のエビ アダリムマブとインフリキシマブのみである。 7) 73 考慮する。 障害がある場合は、人工股関節全置換術を ⑧股関節の構造的破壊によって強い痛みや機能 いほど有効性が高いことが確認され、骨化抑制 る。TNF阻害薬の治療反応性は罹病期間が短 ASDAIスコアが4以上︶の患者〟としてい 9) る場合は、脊椎矯正骨切り術を考慮する。A ⑨高度の脊柱変形によってADL障害がみられ いう報告もある。 短いほどTNF阻害薬投与で骨化を抑制したと のエビデンスは確立していないが、罹病期間が 10) S 患者が急性脊椎損傷を生じた場合は、脊 椎外科医に相談する。 以上が、ASAS/EULAR勧告の要点で 11) 36 CLINICIAN Ê15 NO. 636 (176) 20 8) 12 おわりに primary care. Br J Rheumatol, 34, 1074-1077 (1995) Braun J, et al : 2010 update of the ASAS/EULAR TNF阻害薬の登場により、ASの診断・治 recommendations for the management of ankylosing 療は大きく変貌しつつある。わが国と欧米では spondylitis. Ann Rheum Dis, 70, 896-904 (2011) HLA B の頻度が大きく異なるため、この Garrett S, et al : A new approach to defining disease 部分を考慮した改訂基準を策定することが喫緊 status in ankylosing spondylitis : the Bath Ankylosing Spondylitis Disease Activity Index. J Rheumatol, 21, の課題であると考えられる。 2286-2291 (1994) ︵埼玉医科大学 整形外科 教授︶ Wanders A, et al : Nonsteroidal antiinflammatory drugs 文献 reduce radiographic progression in patients with ankylosing spondylitis : a randomized clinical trial. van der Linden S, et al : Evaluation of diagnostic Arthritis Rheum, 52, 1756-1765 (2005) criteria for ankylosing spondylitis. A proposal for Kobayashi S, et al : A multicenter, open-label, efficacy, modification of the New York criteria. Arthritis pharmacokinetic, and safety study of adalimumab in Rheum, 27, 361-368 (1984) Japanese patients with ankylosing spondylitis. Mod van der Heijde D, et al : 2010 Update of the interRheumatol, 22, 589-597 (2012) national ASAS recommendations for the use of anti日本リウマチ学会 強直性脊椎炎︵AS︶に対する TNF agents in patients with axial spondyloarthritis. TNF阻害療法施行ガイドライン︵2010年 月 Ann Rheum Dis, 70, 905-908 (2011) 改訂版︶ Sieper J, et al : New criteria for inflammatory back pain http://www.ryumachi-jp.com/info/guideline_ in patients with chronic back pain : a real patient AS_101124.html exercise by experts from the Assessment of Rudwaleit M, et al : Prediction of a major clinical SpondyloArthritis international Society (ASAS). Ann response (BASDAI 50) to tumour necrosis factor alpha Rheum Dis, 68, 784-788 (2009) blockers in ankylosing spondylitis. Ann Rheum Dis, Underwood MR, Dawes P : Inflammatory back pain in (177) CLINICIAN Ê15 NO. 636 37 5) 6) 7) 8) 9) 10) 1) 2) 3) 4) − 27 10 63, 665-670 (2004) Nigil H, et al : The Impact of TNF-inhibitors on radiographic progression in Ankylosing Spondylitis. Arthritis Rheum, 65, 2645-2654 (2013) 11) 38 CLINICIAN Ê15 NO. 636 (178)
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