老健施設における便秘改善の試み

第 25 回全国介護老人保健施設大会岩手(H26.10.16)
老健施設における便秘改善の試み
-慢 性 便 秘 に 対 す る 指 圧 の 効 果 中林幸子
1)
、相場健一
1)
、加藤綾子
2)
、美原恵里
1)
脳血管研究所
介護老人保健施設アルボース
看護師
2)
脳血管研究所
介護老人保健施設アルボース
看護師長
3)
脳血管研究所
介護老人保健施設アルボース
施設長
3)
【はじめに】
当施設では排便が 3 日間ない利用者に対して、下剤の使用や摘便により排便を促すこと
が 多 か っ た が 、 平 成 25 年 10 月 か ら 便 秘 対 策 と し て 指 圧 を 取 り 入 れ る こ と に し た 。 指 圧 と
は、押圧によってツボを刺激し、それに反応する感覚受容器と知覚神経から脊髄や脳を介
して身体に起きた異常を取り除く治療法である。本介入で 指圧するツボは、臍の中心から
左右に指幅 2 から 3 本分の位置にある天枢と呼ばれる点である。天枢は、胃腸の動きを調
整し、便秘の場合は止まっている腸を動かす効果がある ※1 と言われている。
今回便秘に対して指圧を取り入れたところ効果が認められた症例を経験した ので報告す
る。
【 症 例 1:認 知 症 に よ り 便 意 の 訴 え が 困 難 な 事 例 】
A 氏 、 90 歳 代 、 女 性 、 要 介 護 5、 障 害 高 齢 者 の 日 常 生 活 自 立 度 B2、 認 知 症 高 齢 者 の 日 常
生 活 自 立 度 Ⅲ a。
平 成 25 年 2 月 、左 大 腿 骨 頚 部 骨 折 の た め 保 存 的 に 治 療 し 、在 宅 復 帰 目 的 で 当 施 設 入 所 サ
ービスを利用開始した。在宅と施設を行き来しながら在宅生活を継続していた。意識は清
明 で あ り 、 MMSE 7/30 点 、 FIM 35/126 点 (運 動 :23 点 、 認 知 :12 点 )、 日 常 生 活 動 作 (ADL)は
大部分介助を要していた。
日常生活では、車椅子に乗車していることが多く、ラジオ体操やレクリエーションなど
を行っても、動作はあまりなく活動性は低かった。数日間排便がないと腹部に張りがみら
れていた。認知症のため便意を訴えることがなく、トイレ誘導を行ったが排便はみられな
かった。食事は自己摂取することが可能で、毎食ほぼ全量摂取していた。
指圧介入以前は、看護師により便秘 3 日目に摘便をされていたが、排便が無いため再度
翌日に摘便を実施されることが多かった。摘便施行時の本人の様子は、摘便に対する拒否
が強く興奮して叫び声を上げる状況であった。摘便による便の性状は、ブリストル便形状
ス ケ ー ル ※ 2 2 ま た は 3 と 硬 便 で あ り 、 摘 便 施 行 時 の 苦 痛 は 、 Face scale ※ 3 4 と 強 か っ た 。
指圧介入後は、指圧により便秘 4 日目には自然排便が得られるようになった。指圧施行
時の本人の様子は、穏やかで拒否はなかった。便の性状は、ブリストル便形状スケール 4
と柔らかくなり、摘便時のような苦痛は見られなかった。
考察:本症例は、認知症により便意を自ら訴えることが困難なため便秘を呈していたも
の と 考 え ら れ る 。坐 薬 の 使 用 や 摘 便 と 比 較 し て 、指 圧 は 苦 痛 や 羞 恥 心 が 少 な い と 思 わ れ た 。
指 圧 は 自 然 排 便 を 可 能 に し 、利 用 者 の 身 体 的 ・精 神 的 苦 痛 を 軽 減 し 、利 用 者 の QOL の 向 上 に
有用と考えられた。
【 症 例 2: 便 が 硬 い た め に 排 便 が 困 難 な 事 例 】
B 氏 、 70 歳 代 、 女 性 、 要 介 護 3、 障 害 高 齢 者 の 日 常 生 活 自 立 度 B2、 認 知 症 高 齢 者 の 日 常
第 25 回全国介護老人保健施設大会岩手(H26.10.16)
生 活 自 立 度 Ⅲ a。
平 成 24 年 11 月 、 急 性 硬 膜 下 血 腫 の た め 併 設 病 院 で 治 療 、 そ の 後 、 自 宅 退 院 し た 。 在 宅
生活を継続するために当施設入所サービスの利用を開始。重度の左片麻痺があり、傾眠、
抑 う つ 状 態 を 呈 し て い た 。MMSE 11/30 点 、FIM 41/126 点 (運 動 :21 点 、認 知 :20 点 )で あ り 、
日常生活の大部分に介助を要していた。
車 椅 子 乗 車 時 に は 臀 部 ・膝 の 痛 み が 強 く 、 離 床 に 対 す る 拒 否 が あ っ た 。 食 事 ・お や つ 以 外
の時間はベッド上で過ごすことが多く、活動性は低かった。数日間排便がないときは、腹
部に張りがみられていた。便意を訴えることはできたが、トイレでは排便はみられなかっ
た。食事は、職員の介助により全量摂取していた。
指圧介入以前は、看護師により便秘 4 日目に摘便をされていた。摘便施行時の本人の様
子は、摘便に対する拒否が強く、摘便した後は精神的に落ち込み、食事を食べられないこ
と が あ っ た 。摘 便 に よ る 便 の 性 状 は 、ブ リ ス ト ル 便 形 状 ス ケ ー ル 1 と 硬 便 で あ り 、摘 便 施
行 時 の 苦 痛 は 、 Face scale 4 と 強 か っ た 。
指圧介入後は、指圧により 4 日目には自然排便が得られるようになり、指圧施行時の本
人の様子は、違和感を訴える程度で指圧に対する拒否はなかった。便の性状はブリストル
便形状スケール 3 または 4 と軟らかくなり、摘便時のような苦痛は見られなかった。
【考察】
本症例は、便が硬いために排泄困難となった事例と思われる。指圧は、便が硬い症例に
対して行われることにより、便を軟らかくすることができ、便秘改善に繋がる 可能性が示
唆された。
【まとめ】
指 圧 に よ り 便 秘 が 改 善 さ れ た 症 例 を 報 告 し た 。坐 薬 の 使 用 や 摘 便 施 行 の 場 合 と 比 較 し て 、
指 圧 は 便 秘 利 用 者 の 身 体 的 ・精 神 的 苦 痛 の 軽 減 、QOL の 向 上 に 有 効 と 思 わ れ た 。ま た 、硬 い
便が柔らかくなり、便秘改善に繋がる可能性が示唆された。慢性便秘を呈する利用者に、
指圧を試みる価値があると思われた。
【参考文献】
※ 1:伊 藤 剛 (2013):東 西 医 学 の 専 門 医 が や さ し く 教 え る 即 効 100 ツ ボ ,高 橋 書 店 ,東 京
※ 2:西 村 か お る (2013):新 排 泄 ケ ア ワ ー ク ブ ッ ク ,中 央 法 規 ,東 京 ,188
※ 3:Wong DI,Baker CM(1988):Pain in children comparison of assessment scale.
Pediatric Nursing,14,9-17
※ 4:穴 澤 貞 夫 他 (2009):排 泄 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 理 論 と 臨 床 ,中 山 書 店 ,東 京
【 100 字 コ メ ン ト 】
指圧により便秘が改善された症例を報告した。坐薬の使用や摘便と比較し、指圧は便秘利
用 者 の 身 体 的 ・精 神 的 苦 痛 の 軽 減 し QOL の 向 上 に 繋 が り 、ま た 、硬 い 便 が 柔 ら か く な り 便 秘
改善に繋がることが示唆された。
【演題カテゴリー】
第 1 群 : 101
入所
第 2 群 : 204
工夫・新たな取り組み
第 3 群 : H3333
排便
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