介護老人保健施設の音楽療法に対する研究 第 17 報

第 25 回全国介護老人保健施設大会岩手(H26.10.15)
介護老人保健施設の音楽療法に対する研究
第 17 報
-介護者の視点からの在宅療養支援としての有用性-
○砂永ゆう子
1)
、加藤綾子
2)
、美原淑子
3)
、美原恵里
4)
1) 脳 血 管 研 究 所
介護老人保健施設アルボース
介護福祉士
2) 脳 血 管 研 究 所
介護老人保健施設アルボース
看護師長
3) 脳 血 管 研 究 所
介護老人保健施設アルボース
音楽療法士
4) 脳 血 管 研 究 所
介護老人保健施設アルボース
施設長
【はじめに】
要介護高齢者に対して在宅療養が推進されている現在、老健の在宅療養支援という役割
はきわめて大きい。しかし、利用者のサービス利用拒否・介護拒否により、老健を十分に
活用できず、介護者の身体的・精神的負担が改善されないケースも少なくない。当施設で
は 音 楽 療 法 を 平 成 9 年 に 開 始 し 、以 後 18 年 間 継 続 し て い る 。音 楽 療 法 に よ っ て 介 護 者 自 身
の介護負担が軽減されたという言葉を度々耳にすることがあった。そこで今回、在宅療養
支援、介護者の視点から、音楽療法の有用性を検討する。
【音楽療法の概要】
当 施 設 の 施 設 入 所 者 ・ 通 所 リ ハ ビ リ 利 用 者 25~ 30 名 程 度 を 対 象 に 毎 週 1 回 1 時 間 を 1
セ ッ シ ョ ン と し 、 利 用 者 の QOL の 向 上 や 情 緒 の 安 定 を 目 的 に 実 施 し て い る 。 そ の 際 、 家 族
もセッションに参加することが可能な体制をとっている。
【調査方法】
当施設利用者の主介護者を対象として、
「 長 期 に わ た り 当 施 設 を 利 用 し 、在 宅 療 養 を 継 続
し て い る 利 用 者 の 介 護 者 」 を A 群 ( 14 名 )、「 当 施 設 を 利 用 し て 間 も な い ( 3 ヶ 月 未 満 ) 利
用 者 の 介 護 者 」 を B 群 ( 14 名 ) に 分 け 、 ア ン ケ ー ト 調 査 を 実 施 し た 。
アンケート内容は、
( 1)利 用 者 の 状 態 に つ い て 、1.「 規 則 正 し い 生 活 が で き な い 」2.「 楽
し く 日 々 を 過 ご し て い な い 」 3.「 介 護 を う け る こ と に 拒 否 的 で あ る 」 4.「 介 護 者 の 指 示 に
従 わ な い 」 5.「 家 族 や 知 人 と 仲 良 く 過 ご せ な い 」 6.「 う つ 的 で 元 気 が な い 」 7.「 す ぐ に 怒
っ た り 、 文 句 を 言 っ た り す る 」 8.「 不 安 が っ た り 、 落 ち 着 か な い こ と が 多 い 」 の 8 項 目 を
5 段階評価で回答を求めた。
次に、
( 2)介 護 者 自 身 に つ い て 、1.「 介 護 の た め 、身 体 が 疲 れ や す い 」2.「 介 護 の た め 、
他 の 仕 事 ( 家 事 な ど ) や 自 分 の 時 間 が 持 て な い 」 3.「 介 護 を す る の が 精 神 的 に き つ く て ス
ト レ ス に な っ て し ま う 」 4.「 介 護 を す る 意 欲 が な か な か 湧 か な い 」 の 4 項 目 に つ い て 同 様
に 回 答 を 求 め た 。 ま た 、 5.「 介 護 者 ご 自 身 の 状 態 に つ い て 、 気 付 く こ と が あ れ ば 記 載 し て
く だ さ い 」と 自 由 記 載 と し 、質 問 し た 。最 後 に 、
( 3)音 楽 療 法 に つ い て 、1.「 音 楽 療 法 が
利 用 者 の 生 活 の 質( 生 き が い 、楽 し み )の 向 上 に 役 立 っ て い る と 感 じ ら れ る 」2.「 音 楽 療
法 が あ な た 自 身 の 介 護 負 担 軽 減 に 役 立 っ て い る と 感 じ ら れ る 」 3.「 音 楽 療 法 に 参 加 し た こ
とにより、利用者とあなた(介護者)との会話の中で音楽療法が話題になる」の 3 項目を
5 段階評価で回答を求めた。
【結果】
( 1) -1「 規 則 正 し い 生 活 が で き な い 」 に つ い て 、 A 群 は 「 そ う 思 わ な い 」「 全 く そ う 思 わ
な い 」 が 8 件 ( 57% ) に 対 し 、 B 群 は 「 と て も そ う 思 う 」「 そ う 思 う 」 が 5 件 ( 36% ) と 高
第 25 回全国介護老人保健施設大会岩手(H26.10.15)
値 と な っ た 。( 1)-5「 家 族 や 知 人 と 仲 良 く 過 ご せ な い 」に つ い て 、 A 群 は「 そ う 思 わ な い 」
「 全 く そ う 思 わ な い 」 11 件 ( 79% ) と 約 8 割 で あ っ た の に 対 し 、 B 群 は 各 項 目 に 意 見 の バ
ラ つ き が み ら れ た 。( 1)-6「 う つ 的 で 元 気 が な い 」で は 、 A 群 は 「 そ う 思 わ な い 」「 全 く そ
う 思 わ な い 」 が 10 件 ( 71% ) に 対 し て 、 B 群 は 「 ど ち ら で も な い 」 7 件 ( 50% ) が 高 く な
った。
( 2)-1「 介 護 の た め 、身 体 が 疲 れ や す い 」に つ い て 、両 群 が「 ど ち ら で も な い 」が 6 件( 43% )
と 同 数 で あ っ た が 、 少 数 意 見 の 中 に は 、 A 群 は 「 そ う 思 わ な い 」「 全 く そ う 思 わ な い 」 4 件
( 29% )で あ っ た の に 対 し 、B 群 は 「 と て も そ う 思 う 」「 そ う 思 う 」が 5 件 ( 36% ) と 反 比
例 を 示 し た 。( 2) -4「 介 護 を す る 意 欲 が な か な か 湧 か な い 」 で は 、 A 群 は 「 ど ち ら で も な
い 」 7 件 ( 50% )「 全 く そ う 思 わ な い 」 5 件 ( 36% ) が 高 く 示 し た の に 対 し 、 B 群 は 各 項 目
に意見のバラつきがみられた。
( 3)-1「 音 楽 療 法 が 利 用 者 の 生 活 の 質( 生 き が い 、楽 し み )の 向 上 に 役 立 っ て い る と 感 じ
ら れ る 」で は 、A 群 は「 と て も そ う 思 う 」6 件( 43% )
「 そ う 思 う 」7 件( 50% )、B 群 は「 そ
う 思 う 」 6 件 ( 43% )「 ど ち ら で も な い 」 3 件 ( 21% ) と な り 、 A 群 の 方 が や や 高 い 評 価 を
得 ら れ た 。( 3) -2「 音 楽 療 法 が あ な た 自 身 の 介 護 負 担 軽 減 に 役 立 っ て い る と 感 じ ら れ る 」
に つ い て 、 A 群 は 「 と て も そ う 思 う 」 6 件 ( 43% )「 そ う 思 う 」 5 件 ( 36% ) と な っ た の に
対 し 、 B 群 は 「 そ う 思 う 」 6 件 ( 43% )「 ど ち ら で も な い 」 5 件 ( 36% ) と い う 結 果 と な っ
た 。( 3) -3「 音 楽 療 法 に 参 加 し た こ と に よ り 、 利 用 者 と あ な た ( 介 護 者 ) と の 会 話 の 中 で
音 楽 療 法 が 話 題 に な る 」で は 、 A 群 は「 と て も そ う 思 う 」「 そ う 思 う 」 8 件 ( 57% )、B 群 で
は 5 件 ( 36% ) と 僅 か で は あ る が 違 い が あ っ た 。
【考察】
今回の調査では、介護者の視点で評価が行えるように配慮しながらアンケートを実施し
た。
「 自 分( 利 用 者 )で き ち ん と 行 動 し た が る よ う に な っ た 」な ど 、介 護 者 の 視 点 か ら も 利
用者に良い変化がみられた。生活に対する積極性、介護者や他者(家族、知人等)との関
係性の向上、情緒の安定が図れることが分かり、音楽療法に長期に渡り継続参加すること
は 利 用 者 の 心 身 状 態 を 改 善 し 、 QOL の 向 上 に 有 用 と 思 わ れ た 。 一 方 、 介 護 者 自 身 は 、 在 宅
介 護 に 対 し て 「 と て も 疲 れ て い る 」「 私 ( 介 護 者 )、 本 人 ( 利 用 者 ) も ス ト レ ス が 溜 ま る 」
など身体的・精神的ストレスを抱えている。しかし、音楽療法を継続することにより、利
用者・介護者共に情緒の安定が図れ、介護負担の軽減の効果が期待できる。そして、利用
者・介護者間の関係性の構築にも繋がると考えられる。また、介護者は音楽療法の期待さ
れる効果が十分得られていると、回数を重ねる毎に 実感は強くなることが示唆された。
【まとめ】
在宅療養を継続している利用者の介護者を施設利用期間により 2 分し、介護者の視点か
ら 検 討 し た 。介 護 者 は 、在 宅 療 養 が 長 期 に な る に つ れ 身 体 的・精 神 的 負 担 は 増 加 し て い き 、
在宅療養を継続することが困難になる恐れがある。 円滑にサービス利用が行えることによ
り、介護負担軽減が図れると期待できる。音楽療法は、利用者の状態の改善のみならず介
護者自身にとってもストレスの軽減に有用であると思われた。
【 100 字 コ メ ン ト 】
施設利用期間により介護者を 2 分し、介護者の視点で比較検討した。音楽療法は、長期継
第 25 回全国介護老人保健施設大会岩手(H26.10.15)
続 し 実 施 し て い く こ と で 、利 用 者 の 状 態 の 改 善 、介 護 者 自 身 の ス ト レ ス 軽 減 に 有 用 で あ り 、
在宅療養支援に効果が期待できる
【演題カテゴリー】
第 1 群 : 101
入所
第 2 群 : 205
データのある比較・検討
第 3 群 : L3355
グループ、集団のリハビリ