演習 I,II,III 問題&解答

第 54 回真空夏季大学
演習 I, I
I, I
I
I
問題&解答
重要な定数
記号 値
名称
ボルツマン定数
気体定数
アボガドロ数
k
R
NA
1.381 × 10−23 J K−1
8.314 J mol−1 K−1
6.022 × 1023 個 mol−1
2014年
日本真空学会
真空夏季大学演習
演習 I
1
I - 1. 気体の質量:基礎講座「気体分子運動論の基礎」問題 2
3
1 気圧 0 ℃の空気 1 m の質量はいくらか.空気の mol 質量を 29 g·mol
−1
とする.
【解】
1 気圧 0 ℃で 1 mol の気体の体積は 22.4 L なので,
1 m3
× 29 g·mol−1 = 1.3 kg
22.4 L·mol−1
または,pV = νRT より,
ν × 29 g·mol−1 =
1.013 × 105 Pa × 1 m3
pV
× 29 g·mol−1 =
× 29 g·mol−1 = 1.3 kg
RT
8.314 J·K−1 ·mol−1 × 273K
I - 2. 気体分子の速度:基礎講座「気体分子運動論の基礎」問題 4
300K における窒素気体分子および水素気体分子の平均速度を求めよ.
【解】
窒素の mol 質量を 28 g·mol−1 として,窒素分子の質量 mN2 は,
mN2 =
28 g·mol−1
= 4.65 × 10−26 kg
6.02 × 1023 mol−1
なので,
√
√
v¯N2 =
8kT
=
πmN2
8 × 1.38 × 10−23 J·K−1 × 300K
= 4.76 × 102 m·s−1
π × 4.65 × 10−26 kg
同様に,水素については
√
√
8RT
8 × 8.314 J·mol−1 ·K−1 × 300K
=
v¯H2 =
= 1.77 × 103 m·s−1
πMH2
π × 2.02 × 10−3 kg·mol−1
I - 3. 体積入射頻度:基礎講座「気体分子運動論の基礎」問題 5
‰
25 の窒素の体積入射頻度を求めよ.
【解】
窒素分子の質量 m は,
m=
28.0 g·mol−1
= 4.65 × 10−26 kg
6.02 × 1023 mol−1
であるから,
1
ΓV = v =
4
√
√
kT
=
2πm
1.38 × 10−23 J·K−1 × 298K
= 1.19 × 102 m3 ·s−1 ·m−2
2 × π × 4.65 × 10−26 kg
真空夏季大学演習
演習 I
2
あるいは,
1
ΓV = v¯ =
4
√
√
RT
=
2πM
8.314 J·mol−1 ·K−1 × 298K
2 × π × 28.0 × 10−3 kg·mol−1
I - 4. 平均自由行程:基礎講座「気体分子運動論の基礎」問題 6
25 ℃の空気の平均自由行程が次の寸法よりも小さくなる圧力をそれぞれ求めよ.
( a ) 研究用の真空容器の代表的な直径 30 cm
( b ) ガス導入に用いるステンレススチール配管の内径 3 mm
( c ) 真空フランジのシール部に発生する漏れ傷の幅の想定値 3 µm
( d ) ハードディスクのヘッドとディスク距離の典型値 30 nm
【解】
25 ℃の空気の圧力 p での平均自由行程 λ は,
λ=
6.6 mm·Pa
p
なので,平均自由行程がそれぞれの寸法 D より小さくなる圧力 p は,一般に,
λ=
6.6 mm·Pa
6.6 mm·Pa
<d ⇔
<p
p
d
と求められる.よって,それぞれの D に対して,
( a ) p > 2.2 × 10−2 Pa
( b ) p > 2.2 Pa
( c ) p > 2.2 × 103 Pa
( d ) p > 2.2 × 105 Pa
I - 5. 気体分子数:真空基礎講座「真空と表面」問題 1
内容積 V = 0.20 m の真空容器内の圧力が p = 1.0 × 10
間にいる気体分子の数 NV を求めよ.
3
−4
Pa,温度 T = 300K としよう.容器内の空
【解】
NV =
1 × 10−4 Pa × 0.2 m3
pV
=
= 4.8 × 1015 個
kT
1.38 × 10−23 J·K−1 · 個−1 × 300K
ボルツマン定数 k の単位は原子・分子 1 個当たりであることから厳密には,
「J· 個−1 ·K−1 」であるが,通
常「個」だけを省略して表記する.この問題では,
「個」という単位がどこから生ずるかを明らかにする
ため,元の詳しい単位表記をした.
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演習 I
3
I - 6. 吸着分子数:真空基礎講座「真空と表面」問題 2
2
内表面積 A = 1 m の真空容器の内表面に気体分子が一分子層の厚さで付いているとする.分子の大
きさを 0.32 nm として,分子は規則正しく密接して正方格子状に吸着しているとする.容器表面に存
在する分子の数 NS を求めよ.
【解】
気体分子 1 個当たりが表面上に占める面積は,一辺 a の正方格子状に並んでいる場合,図のように a2
であるから,
NS =
1 m2
= 9.8 × 1018 個
(0.32 nm)2 個−1
a
I - 7. 熱的適応係数:真空基礎講座「真空と表面」問題 3, 4
( a ) 温度 Ti = 500 K の気体が,温度 Ts = 300 K の固体表面に入射した.すると,散乱後のアルゴン
の温度 Tf は 330 K になった.次に,入射する気体をヘリウムに変えて,同様の実験を行ったと
ころ,散乱後のヘリウムの温度 Tf は 420 K になった.それぞれの熱的適応係数 α を求めよ.
( b ) α が前問で求めた値のとき,入射分子の温度がそのままで,表面の温度を 700 K に変化させた.
Tf を求めよ.
【解】
(a) α =
Tf − Ti
であから,
Ts − Ti
330K − 500K
= 0.85
300K − 500K
420K − 500K
ヘリウムの時は α =
= 0.40
300K − 500K
アルゴンの時は α =
( b ) 式を変形すると,Tf = α(Ts − Ti ) + Ti となるので,
アルゴンの時は Tf = 0.85(700K − 500K) + 500K = 670K ヘリウムの時は Tf = 0.40(700K − 500K) + 500K = 580K
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演習 II
4
I - 8. 実効排気速度:真空基礎講座「排気と真空ポンプ」問題 2
−1
真空容器に,コンダクタンス C = 0.05 m ·s の配管を介して,排気速度 S = 0.5 m ·s
プを取り付けたときの,真空容器に対する実効排気速度 Seff を求めよ.
3
3
−1
の真空ポン
【解】
Seff =
SC
0.5 m3 ·s−1 × 0.05 m3 ·s−1
=
= 0.045 m3 ·s−1
S+C
0.5 m3 ·s−1 + 0.05 m3 ·s−1
I - 9. コンダクタンスの合成:真空基礎講座「排気と真空ポンプ」問題 3
コンダクタンスが C1 = 0.2 m3 ·s−1 の配管と C2 = 0.01 m3 ·s−1 の配管を,直列に接続したときと,並
列に接続したときの合成コンダクタンスをそれぞれ求めよ.
【解】
直列接続のとき
C=
C1 C2
0.2 m3 ·s−1 × 0.01 m3 ·s−1
=
= 0.0095 m3 ·s−1
C1 + C2
0.2 m3 ·s−1 + 0.01 m3 ·s−1
並列接続のとき
C = C1 + C2 = 0.2 m3 ·s−1 + 0.01 m3 ·s−1 = 0.21 m3 ·s−1
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演習 II
5
II - 1. 隔膜真空計とピラニ真空計
真空容器に隔膜真空計とピラニー真空計を取付け,値を比較した.以下の問いに答えなさい.
( a ) 表の空欄にあてはまる圧力値を次の (1)∼(8) から選びなさい.
(1) 0 Pa (2) 8 Pa (3) 10 Pa (4) 50 Pa (5) 1 kPa (6) 10 kPa (7) 30 kPa (8) Over
range
気体種
隔膜真空計の指示値
窒素
10 Pa
ピラニー真空計の指示値
10 kPa
空気
10 Pa
10 kPa
アルゴン
10 Pa
10 kPa
ヘリウム
10 Pa
10 kPa
( b ) ピラニー真空計の特性が,気体の種類によって異なる理由を述べなさい.
( c ) ピラニー真空計の特性が,10 Pa と 10 kPa で異なる理由を述べなさい.
104
隔膜真空計の指示値 (Pa)
103
2
10
101
0
10
10-1 -1
10
Ar
N2
O2
He
0
10
1
10
2
10
3
10
4
10
ピラニ真空計の指示値 (Pa)
【解】
(a)
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演習 II
6
気体種
隔膜真空計の指示値
ピラニー真空計の指示値
窒素
10
10
10
10
10
10
10
10
(3)
(6)
(3)
(6)
(2)
(5)
(2)
(8)
空気
アルゴン
ヘリウム
Pa
kPa
Pa
kPa
Pa
kPa
Pa
kPa
( b ) ピラニ真空計は,通電加熱した金属細線の気体の熱伝導による温度変化を,電気抵抗の変化とし
て検知することにより圧力を測定する真空計であり,理想的には,分子流領域で使用される.分子
流領域における気体の熱伝導量 Q は,以下の式で表される.
(
) √
1 γ+1
k
Q=
α
p (T1 − T2 )
2 γ−1
2πmT ∗
ここで,γ は気体の比熱比,α は熱的適応係数,k はボルツマン定数( J·K−1 ),m は気体分子の
質量(kg),T ∗ は気体の平均温度 (K),P は圧力(Pa),T1 と T2 はそれぞれ高温面,低温面の
温度(K)である.
従って,気体の種類によって,比熱比 γ ,熱的適応係数 α,気体分子の質量 m が異なるため,気
体の種類によって,特性が異なる.
【参考】比熱比 γ はテキスト A-29 ページ表 2-4,熱的適応係数αはテキスト B-6 ページ表 1 にデー
タが掲載されている.
( c ) ピラニ真空計は,理想的には,分子流領域で使用されるが,圧力が 10 kPa くらいまで高くなると,
粘性流の影響が出てくるため,分子流条件が成り立つ 10 Pa とは特性が異なる.粘性流領域におけ
る気体の熱伝導量 Q は,以下の式で表される.
Q = −κ
dT
dz
ここで,κ は熱伝導率,dT /dz は平板間方向の温度変化である.
【参考】気体の熱伝導率は,A-21 ページ表 2-3 にデータがある.
真空夏季大学演習
演習 II
7
II - 2. リークの発生とリーク量
超高真空装置に発生したリークに関する次の問いに答えなさい.ただし,リークを通じて流入する気
‰
体は 20 の空気とし,(i) リーク路は全て分子流領域であると仮定した場合と (ii) リーク路は全て粘性
流領域であると仮定した場合について,それぞれ計算しなさい.
( a ) 超高真空フランジに直径 10 µm,長さ 3 mm の円筒状のリーク源ができ,リークした.このとき
のリーク量を見積りなさい.
( b ) リーク源の直径が 5 µm,20 µm のとき,同様の値を求め,リーク源の直径とリーク量の関係を
示しなさい.
10-3
3 -1
リーク量 [Pa m s ]
10-4
10-5
10-6
10-7
1
10
100
直径 [µm]
( c ) この装置は実効排気速度 100 L · s−1 のポンプで排気されており,リーク源が発生する前,到達
圧力は 1 × 10−7 Pa だった.直径 10 µm,長さ 3 mm のリーク源ができた後の到達圧力を求めな
さい.
【解】
‰
( a ) 20 の空気に対する,
(i) 円筒管の分子流コンダクタンスの式を用いて,
D3
(10 × 10−6 m)3
= 121 m·s−1
= 4.03 × 10−11 m3 ·s−1
L
3 × 10−3 m
Qm (10) = Cm (10)∆p = 4.03 × 10−11 m3 ·s−1 · 1.01 × 105 Pa = 4.07 × 10−6 Pa·m3 ·s−1
Cm (10) = 121 m·s−1
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演習 II
8
(ii) 粘性流コンダクタンスの式を用いて,
D4
(10 × 10−6 m)4 1.01 × 105
p¯ = 1360 Pa−1 ·s−1
·
Pa
L
3 × 10−3 m
2
= 2.29 × 10−10 m3 ·s−1
Cv (10) = 1360 Pa−1 ·s−1
Qv (10) = Cv (10)∆p = 2.29 × 10−10 m3 ·s−1 · 1.01 × 105 Pa = 2.31 × 10−5 Pa·m3 ·s−1
( b ) (a) と同様に,
)
1
5 3
Cm (10)∆p = Qm (10) = 5.09 × 10−7 Pa·m3 ·s−1
Qm (5) = Cm (5)∆p =
10
8
( )3
20
Cm (10)∆p = 8Qm (10) = 3.26 × 10−5 Pa·m3 ·s−1
Qm (20) = Cm (20)∆p =
10
( )4
1
5
Cv (10)∆p = Qv (10) = 1.45 × 10−6 Pa·m3 ·s−1
Qv (5) = Cv (5)∆p =
10
16
( )4
20
Qv (20) = Cv (20)∆p =
Cv (10)∆p = 16Qv (10) = 3.70 × 10−4 Pa·m3 ·s−1
10
(
10-3
リーク量 [Pa m3 s-1]
10-4
10-5
10-6
10-7
1
10
100
直径 [µm]
( c ) リーク前の装置からの気体放出量を Q0 とおくと,
Q0 = Sp = 0.1 m3 ·s−1 · 1.0 × 10−7 Pa = 1.0 × 10−8 Pa·m3 ·s−1
リーク発生後は,気体放出量が Q0 + Qx (10) となるので,圧力は
Q0 + Qm (10)
1.0 × 10−8 Pa·m3 ·s−1 + 4.07 × 10−6 Pa·m3 ·s−1
= 4.08 × 10−5 Pa
=
S
0.1 m3 ·s−1
Q0 + Qv (10)
1.0 × 10−8 Pa·m3 ·s−1 + 2.31 × 10−5 Pa·m3 ·s−1
pv =
= 2.31 × 10−4 Pa
=
S
0.1 m3 ·s−1
pm =
Q0 , S が一定であるので,Qx (10) による圧力上昇 ∆pm = 4.07×10−6 /0.1 = 4.07×10−5 Pa, ∆pv =
2.31 × 10−5 /0.1 = 2.31 × 10−4 Pa があるとしてもよい.
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演習 II
9
II - 3. 熱伝導
問1
図 I に示すように,2 枚の平板 A,B が 20 mm 離れて配置されている.平板 A と B の温度がそれぞれ
‰
‰
0 ,100 のとき,次の条件での気体分子による平板間の単位面積当たりの熱伝導量 Q [ W·m−2 ] を
求めよ.ただし,平板間に存在する気体は空気であるとする.また, 空気の熱伝導率は温度に依らず一
定であるとし,粘性流領域における熱伝導率 κ は 25 × 10−3 W·m−1 ·K−1 , 分子流領域における自由分
子熱伝導率 Λ は 1.25 W·m−2 ·K−1 Pa−1 とする.
( a ) 平板間の圧力が 0.1 気圧のとき
( b ) 平板間の圧力が 1 × 10−3 Pa のとき
問2
図 II に示すように,平板 A と B の中間に薄い平板 C を置いた場合,次の条件での各平板間の熱伝導
量を求めよ.
( a ) 平板間の圧力が 0.1 気圧のとき
( b ) 平板間の圧力が 1 × 10−3 Pa のとき
平板B
o
平板B
TB = 100 C
圧力 p
熱伝導量
2
Q [W/m ]
20 mm
平板C
圧力 p
10 mm
o
o
TA = 0 C
平板A
図I
圧力 p
10 mm
TA = 0 C
平板A
o
TB = 100 C
図 II
【解】
問1
‰
( a ) p = 0.1 × 105 Pa,25 における空気の平均自由行程 λ [ mm ] は,
λ=
6.6
6.6
= 6.6 × 10−4 mm
=
p
0.1 × 105
d ≫ λ なので,平板 AB 間の熱伝導 Q は,粘性流領域における熱伝導量の式より,
Q=κ
T2 − T1
373 − 273
= 125 W·m−2
= 25 × 10−3 ·
d
20 × 10−3
となる.
‰
( b ) p = 1 × 10−3 Pa,25 における空気の平均自由行程 λ [ mm ] は,
λ=
6.6
6.6
= 6.6 × 103 mm
=
p
1 × 10−3
真空夏季大学演習
演習 II
10
d ≪ λ なので,平板 AB 間の熱伝導 Q は,分子流領域における熱伝導量の式より,
Q = Λp∆T = 1.25 × 1 × 10−3 × (373 − 273) = 1.25 × 10−1 W·m−2
‰
問 2 分子流領域では平板 C が平板 A と平板 B から等距離になくても 50 になる.ただし,テキスト A28
頁 (2-42) 式からは Tc = 48 と計算される.この問題では Λ を一定としているので,Q∗ = Λp(T1 − Tc ) =
Λp(Tc − T2 ) から Tc = (T1 + T2 )/2 を使えば 50 となる.
‰
‰
( a ) 問 1(a) と同様に d ≫ λ なので,平板 AC 間の熱伝導量 Q は粘性流領域における熱伝導量の式より,
Q=κ
323 − 273
T2 − T1
= 25 × 10−3 ·
= 125 W·m−2
d
10 × 10−3
となる.同様に CB 間も 125 W·m−2 . これは問 1(a) と同じ値であり,平板 C を設置することに
よる熱遮蔽効果はない.
( b ) 問 1(b) と同様に d ≪ λ なので,平板 AC 間の熱伝導量 Q は分子流領域における熱伝導量の式より,
Q = Λp∆T = 1.25 × 1 × 10−3 × (323 − 273) = 6.25 × 10−2 W·m−2
となる.同様に CB 間も 6.25 × 10−2 W·m−2 .これは問 1(b) の半分の値であり,平板 C を設置す
ることによる熱遮蔽効果がある.
真空夏季大学演習
演習 II
11
II - 4. 気体分子運動論
問1
気体の圧力は,
「壁面に入射して跳ね返る気体分子が,単位時間に壁面の単位面積あたりに与える力積」
として考えることができる.今,一辺の長さ 1 m の立方体の真空容器内で,n 個の気体分子が運動し
ているとする.気体分子の質量が m [ kg ],速さが v [ m·s−1 ] であるとき,真空容器内の圧力を n,m,v
を用いて表せ.ただし,気体分子は全分子の 1/6 ずつが各々の壁面に垂直に衝突するものとする.
問2
温度 T [ K ] で熱平衡にある気体分子の中で (v, v + dv) の範囲に速さを持つ分子の割合は,以下の分布
関数
(
)
4 ( m ) 23 2
mv 2
f (v) = √
v exp −
2kT
π 2kT
を用いて f (v)dv で与えられる.ここで,m [ kg :
] 気体分子の質量,k:ボルツマン定数(1.38×10−23 J·K−1 )
である.今,簡略化のために速さ範囲 v1 ∼ v2 にある分子の割合を f ((v1 + v2 )/2) × (v2 − v1 ) とし,
この範囲にある分子の速さは全て (v1 + v2 )/2 であると仮定する(下図).このとき,次の (a),(b) に
おける各速さ範囲内にある分子数,及びその分子が単位時間に各壁面に与える力積を計算し,表の空
‰
欄を埋めよ.ただし,気体の分子密度 n は 1 × 1013 個 ·m−3 ,気体の温度 T を 25 とする.
( a ) 気体が水素(分子量:2.0158)の場合
v1
v2
∼ 0∼
500
500 ∼ 1000 ∼ 1500 ∼ 2000 ∼ 2500 ∼ 3000 ∼ 3500 ∼ 4000 ∼ 4500 ∼
1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000
分子数
単位時間に
各壁面に
与える力積
( b ) 気体が窒素(分子量:28.0134)の場合
v1
v2
∼ 0∼
150
150 ∼ 300 ∼ 450 ∼ 600 ∼ 750 ∼ 900 ∼ 1050 ∼ 1200 ∼ 1350 ∼
300
450
600
750
900
1050 1200 1350 1500
分子数
単位時間に
各壁面に
与える力積
問3
各速さ範囲における力積の和から上の (a),(b) における真空容器内の圧力を求めよ.またその値を,
気体の状態方程式から求めた圧力と比較せよ.
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演習 III
12
【解】
問1
1
1 秒間に各壁面 (1 m2 ) に衝突する気体分子の数: nv
6
1 個の分子が 1 回の衝突で壁に与える力積:2mv.
1
1
従って,真空容器内の圧力(気体分子が単位時間に単位面積に与える力積)は nv × 2mv = nmv 2
6
3
問2
与えられた仮定のもとでは,各速さ範囲(v1 ∼ v2 )にある分子の数 N とその分子が壁に与える力積 I
v1 + v2
とおいて,それぞれ,
は v¯ =
2
(
)
4 ( m ) 32 2
m¯
v2
√
N =n×
v¯ exp −
× (v2 − v1 )
(1)
2kT
π 2kT
1
I = N m¯
v2
(2)
3
で得られる.
( a ) 水素分子の質量 mH2 = 2.0158 × 10−3 /6.022 × 1023 ∼ 3.35 × 10−27 kg,分子密度 n = 1 × 1013 m−3
,温度 T = 298 K を (1) 式と (2) 式に代入すると,以下の表が得られる.
v1 ∼ v2
分子数
単位時間に
各壁面に
与える力積
0∼
500
1.79×
1011
1.24×
10−11
500 ∼
1000
1.31×
1012
8.22×
10−10
1000 ∼
1500
2.42×
1012
4.23×
10−9
1500 ∼
2000
2.58×
1012
8.82×
10−9
2000 ∼
2500
1.89×
1012
1.07×
10−8
2500 ∼
3000
1.02×
1012
8.61×
10−9
3000 ∼
3500
4.20×
1011
4.95×
10−9
3500 ∼
4000
1.35×
1011
2.11×
10−9
4000 ∼
4500
3.40×
1010
6.85×
10−10
4500 ∼
5000
6.80×
109
1.71×
10−10
( b ) 窒素分子の質量 mN2 = 28.0134 × 10−3 /6.022 × 1023 ∼ 4.65 × 10−26 kg,分子密度 n = 1 × 1013 m−3
,温度 T = 298 K を (1) 式と (2) 式に代入すると,以下の表が得られる.
v1 ∼ v2
分子数
単位時間に
各壁面に
与える力積
0∼
150
2.48×
1011
2.16×
10−11
150 ∼
300
1.73×
1012
1.36×
10−9
300 ∼
450
2.89×
1012
6.30×
10−9
450 ∼
600
2.64×
1012
1.13×
10−8
600 ∼
750
1.58×
1012
1.11×
10−8
750 ∼
900
6.60×
1011
6.96×
10−9
問3
(a) の力積から求めた圧力:4.11 × 10−8 Pa
(b) の力積から求めた圧力:4.11 × 10−8 Pa
気体の状態方程式 p = nkT から求めた圧力:4.11 × 10−8 Pa
900 ∼
1050
2.00×
1011
2.95×
10−9
1050 ∼
1200
4.49×
1010
8.80×
10−10
1200 ∼
1350
7.52×
109
1.90×
10−10
1350 ∼
1500
9.51×
108
2.99×
10−11
真空夏季大学演習
演習 III
13
III - 1. 吸着ガスと排気
‰
内表面積 1.5 m2 の真空容器が実効排気速度 100 L · s−1 で排気されており,25 における到達圧力は
1 × 10−5 Pa であった.容器内の気体分子はすべて H2 O とし,容器内表面では吸着確率 1 で吸着平衡
が成立しているとする.
( a ) 単位時間あたりにポンプに排気される気体分子数は壁から脱離する気体分子数の何%に当たるか?
‰
( b ) その後,容器全体を 200 に昇温したところ,圧力が 1 × 10−3 Pa になった.このとき,以下の
‰
4 つの量は 25 のときに比べて何倍になったか? ただし,実効排気速度は温度によらず一定と
する.
( i ) 平均分子速度
( ii ) 単位時間あたりに容器内壁を叩く気体分子数
(iii) 単位時間あたりに排気される気体分子数
(iv) 平均滞在時間
(
τ = τ0 exp
Edes
RT
)
において,τ0 = 1 × 10−13 s,Edes = 100 kJ·mol−1 とする.
【解】
( a ) 単位時間あたりに排気される気体分子数は,
Qpump
pS
1 × 10−5 Pa × 0.1 m3 ·s−1
N˙ pump =
=
=
= 2.43 × 1014 個 ·s−1
kT
kT
1.381 × 10−23 J· 個−1 ·K × 298K
単位時間あたり脱離する気体分子数は,吸着平衡が成立している場合,吸着確率を c とすると,
Γdes = cΓimp であるから,
cpA
N˙ des = Γdes A = cΓimp A = √
2πmkT
1 × 1 × 10−5 Pa × 1.5 m2
=√
= 5.40 × 1017 個 ·s−1
18×10−3
−1
−23
−1
−1
2π · 6.022×1023 kg· 個 × 1.381 × 10 J· 個 ·K × 298K
従って,
N˙ pump
2.43 × 1014
=
= 0.045 %
5.40 × 1017
N˙ des
¸N˙
pump
≪ N˙ des = N˙ ads なので,ほぼ吸着平衡が成立しているいってよい.
【別解】この問題では c=1 なので,理想排気速度が 100 L · s−1 となる仮想ポンプ開口 a が容器全
1
体の内表面積 A = 1.5 m2 に占める割合から求めてもよい. v¯a = S と v¯ = 592 m · s−1 から,
4
a = 6.76 × 10−4 m2 なので
N˙ pump
N˙ pump
a
6.76 × 10−4
=
=
=
= 0.045 %
A
1.5
N˙ des
N˙ imp
真空夏季大学演習
演習 III
14
( b ) ( i ) 平均分子速度は,
√
√
8kT
473 K
v¯ =
から T の 0.5 乗に比例,すなわち
= 1.26 倍
πm
298 K
( ii ) 単位時間あたりに容器内壁を叩く気体分子数は,
pA
から p に比例し,T の − 0.5 乗に比例,
2πmkT
√
1 × 10−3 298
すなわち
= 79.4 倍
1 × 10−5 473
Γimp A = √
¸(i) と (ii) の効果より,確かに圧力が 100 倍になっている.
(iii) 単位時間あたりに排気される気体分子数は,
Qpump
pS
1 × 10−3 298
=
から p に比例し,T の − 1 乗に比例,すなわち
·
= 63.0 倍
kT
kT
1 × 10−5 473
(iv) 平均滞在時間は,
)
(
Edes
において,
τ0 = 1 × 10−13 s,Edes = 100 kJ·mol−1 として,
τ = τ0 exp
RT
(
)
100 × 1000
−13
1 × 10
· exp
τ (473 K)
1.11 × 10−2
8.314 · 473
(
)=
=
= 3.28 × 10−7 倍
4
100
×
1000
τ (298 K)
3.38
×
10
1 × 10−13 · exp
8.314 · 298
真空夏季大学演習
演習 III
15
III - 2. ポンプの排気速度測定:コンダクタンス変調法
下の図のようなオリフィス付きのゲート弁が備え付けられた真空装置がある.ゲート弁を閉じた状態
(右図)では,直径 10 mm のオリフィスを介して真空排気され,ゲート弁を開けた状態(左図)では,
ターボ分子ポンプでそのまま真空排気できる.この装置を用いて,ターボ分子ポンプの排気速度を以
下の手順で測定した.設問に答えなさい.但し,真空装置の到達圧力は,試験圧力に比べ,無視でき
‰
るくらい低いものとし,気体の温度は 23 とする.
( a ) ゲート弁を開けた状態で,可変リークバルブを用いて,流量 Q の気体を導入した.真空容器内
の圧力を po ,ターボ分子ポンプの排気速度を S とすると,どのような関係式が成り立つか.
( b ) 可変リークバルブの弁開度をそのままにして,ゲート弁を閉じた.すると,真空容器内の圧力は
上昇し,pc で平衡した.オリフィスを介して排気される実効排気速度を Sc とすると,流量 Q,
圧力 pc ,実効排気速度 Sc の間には,どのような関係式が成り立つか.
( c ) ターボ分子ポンプの排気速度 S ,オリフィスを介して排気される実効排気速度 Sc ,形状から計
算されるオリフィスのコンダクタンス C の間には,どのような関係式が成り立つか.
( d ) (a)∼(c) で得られた関係式を用いて,ターボ分子ポンプの排気速度 S を,po と pc を使って求め
る式を導出せよ.
( e ) 窒素ガスを導入した時,ゲート弁を開けた時の圧力 po が 2.0 × 10−5 Pa,閉めた時の圧力 pc が
1.1 × 10−3 Pa であった.ターボ分子ポンプの排気速度はいくらか.
( f ) この手法は,コンダクタンス変調法と呼ばれる測定方法である.本手法の長所と限界を述べよ.
流量 Q
流量 Q
指示値 po
真空容器
電離
真空計
排気速度 S
ターボ分子
ポンプ
粗引き
ポンプ
指示値 pc
真空容器
電離
真空計
オリフィス(φ 10mm)を
介して排気される
ターボ分子 実効排気速度 S
c
ポンプ
粗引き
ポンプ
【解】
( a ) 圧力 p,排気速度 S ,流量 Q の関係より,Q = Spo
( b ) (a) と同様に,Q = Sc pc
( c ) コンダクタンス C を介した排気速度 S のポンプの実効排気速度 Sc は,C, S の調和平均の 2 倍で
与えられるので,
1
1
1
=
+
Sc
C
S
真空夏季大学演習
演習 III
16
( d ) (a)∼(c) の関係式を連立させ,Sc と Q を消去して,
(
)
pc
S=C
−1
po
‰
( e ) 23 の窒素に対する,直径 10 mm のオリフィスのコンダクタンス C は,
√
√
RT
8.314 · 296.2
v¯A
2
C=
=
π(d/2) =
π(0.01/2)2 = 9.29 × 10−3 m3 ·s−1
4
2πM
2π · 0.02801
であるから,(d) の結果より
(
S=C
pc
−1
po
)
= 9.29 × 10
−3
(
1.1 × 10−3
−1
2.0 × 10−5
)
= 0.5 m3 ·s−1
(f)
長所: (d) の式からバルブ開閉時での圧力比を測定すればよいことになるので,真空計の絶対校正が
不要となり,また比感度係数もキャンセルされるため気体の種類によらず排気速度を測定で
きる.
限界: オリフィスのコンダクタンスが圧力によらない条件, すなわち分子流条件を満足する圧力領
域でないと測定できない. 真空容器内の圧力分布を考慮していないので, カタログ値と異なる
値を示す場合がある.
真空夏季大学演習
演習 III
17
III - 3. 気体放出速度
放出ガスが 1 × 10
−8
Pa·m ·s
3
−1
程度と予想される試料がある.この試料の放出ガス速度を測定する
装置を検討する.装置は図に示した円筒チェンバー 1,2 がオリフィスで接続されている構造とする.
チェンバー材料として,放出ガス速度(単位 Pa·m·s−1 )がどの程度のものを用いなければならない
か考えよう.
( a ) チェンバー材料の放出ガス速度を仮に q = 5×10−7 Pa·m·s−1 とするとき,チェンバー 1 の圧力 p1 ,
チェンバー 2 の圧力 p2 を求め,装置のバックグラウンドとなる放出ガス QBG(単位 Pa·m3 ·s−1 )
‰
を求めよ.さらに今回の測定に適する装置か述べよ.温度は 20 で均一とし,気体の分子量は
29 とする.また,ポンプの排気速度 300 L·s
−1
もその気体に対してのものとする.
( b ) 装置そのものからの放出ガスによる影響を試料の放出ガスの 10 分の 1 以下にしたい.チェンバー
材料の単位面積当たりの放出ガス速度を何 Pa·m·s−1 以下にしなければならないか求めよ.チェ
ンバー材料から放出される気体が試料に吸着し,試料からの放出ガス速度に影響することはな
いとする.
チェンバー2
チェンバー1
p2
p1
オリフィス
円筒チェンバー1,2: φ100mm, L200mm
オリフィス: φ10mm
-1
ポンプ: 300Ls
試料はチェンバー1に入れる
ポンプ
【解】
( a ) オリフィスの面積 a およびチェンバー 1,2 の表面積 A はそれぞれ,
a = π(10 × 0.001/2)2 = 7.854 × 10−5 m2 A = π × 0.1 × 0.2 + 2 · π(0.05)2 − a = 7.846 × 10−2 m2
チェンバー 1,2 からのガス放出量 Q1 ,Q2 は表面積が等しいので等しく,
Q1 = Q2 = qA = 5 × 10−7 · 7.846 × 10−2 = 3.923 × 10−8 Pa·m3 ·s−1 = Q
明らかに,オリフィスを通過する流量 QBG は Q である.この値は,測定したい試料のガス放出量
よりも大きいので,不適当と考えられる.
他の諸量も計算しておく.まずオリフィスの分子流コンダクタンス C は,
√
√
1
a
7.854 × 10−5
T
293.15
C = v¯a = · 4.602
=
· 4.602
= 9.085 × 10−3 m3 ·s−1
4
4
M
4
0.029
チェンバー 2 については,Q1 + Q2 = 2Q の流量があるから,
2Q = Sp2
∴ p2 =
2 · 3.923 × 10−8
2Q
=
= 2.615 × 10−7 Pa
S
0.3
チェンバー 1 については,
Q = C(p1 − p2 )
∴ p1 =
Q
3.923 × 10−8
+ 2.495 × 10−7 = 4.568 × 10−6 Pa
+ p2 =
C
9.085 × 10−3
真空夏季大学演習
演習 III
18
( b ) 試料からのガス放出量の 1/10 の 1 × 10−9 Pa·m3 ·s−1 となる放出ガス速度 q の条件は,
1.0 × 10−9 ≥ qA
∴ q≤
1.0 × 10−9
= 1.274 × 10−8 Pa·m3 ·s−1 ·m−2
7.846 × 10−2
III - 4. 電離真空計に関する問題
−1
窒素に対する感度係数 S = 0.15Pa の電離真空計に対して,以下の問に答えよ.容器内には窒素ガ
スのみが存在し,温度は 300 K とする.また生成されたイオンのコレクタへの補集効率 β は 100 %
とする.
( a ) 電子電流 Ie ,イオン電流 Ii ,圧力 p,感度係数 S の間の関係を示せ.
( b ) 圧力が 0.1 Pa のとき,電子 1 個あたり何個の窒素ガスがイオン化されるか.1 × 10−3 Pa では
何個か.
( c ) この真空計で,陰極から出た電子がグリッドに捕まるまでに走る距離 L を 4 cm とする.電子
の窒素に対する電離断面積 σi は何 cm2 か.
発展 電子−窒素の衝突断面積 σe は,窒素−窒素の衝突断面積 σ と σe = σ/4 の関係にある.窒素の
1 Pa 300 K における平均自由行程を 6.0 mm として σ を求め,次いで σe を得て,窒素分子に
衝突した電子がその分子を電離させる確率を導け.
【解】
( a ) 「真空計測」の 3.3.1 より
Ii = SpIe
( b ) 求める値は
β −1 Ii
だから,0.1 Pa では 1.5 × 10−2 個.1 × 10−3 Pa では 1.5 × 10−4 個.
Ie
( c ) まず電子 1 個あたりに生成されるイオン数を,衝突過程から考える.考え方は気体の平均自由行
程と同じ.σi × L の体積の中にある気体分子数を数えれば良い.なお電子の速度は気体分子の速
度より充分速いので,対象分子が静止している場合の式を用いる.気体の密度を n として,
β −1 Ii
p
= nσi L =
σi L
Ie
kT
であるから,
σi =
β −1 Ii 1 kT
kT
=S
Ie p L
βL
となる.数値を代入すると,σi = 1.55 × 10−20 m2 = 1.55 × 10−16 cm2 を得る.
なお,電離によって発生した電子の影響は,(b) より小さいと考えてよい.
( d ) ガスの平均自由行程 λ は
kT
λ= √
2σp
真空夏季大学演習
演習 III
19
なので,
kT
σ=√
2λp
である.数値を代入すると σ = 4.88×10−19 m2 = 4.88×10−15 cm2 .よって σe = 1.22×10−15 cm2 .
よって電離確率は σi /σe = 0.127.