『Real Infinity Online』VR初心者ゲーマーがテラ神父

『Real Infinity Online』VR初心者ゲーマーがテラ神父
バス停前
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Online﹄︵通称RIO
Online﹄VR初心者ゲー
ます。小説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。
Infinity
︻小説タイトル︼
﹃Real
マーがテラ神父
︻Nコード︼
Infinity
N4162CJ
︻作者名︼
バス停前
︻あらすじ︼
﹃Real
または∞︶
広大さと限りない自由度が売りのVRMMORPGでVRゲーム
初心者のクボヤマが騒ぎを巻き起こし巻き込まれる話。
ゲーム初心者のクボヤマは何も知らずにリアルスキンモードでキ
ャラメイクしてしまう。
リアルスキンモードとはRIOの世界観を最大限に楽しんでもら
1
う為に作られた物で、VRアカウント一つにつき1キャラのみ作成
可能、キャラデリ不可。︵RIO推奨ギアのみ使える新機能︶
プレイヤーネーム:クボヤマ
プレイモード:リアルスキンモード
種族:ヒューマン
VIT
DEX
STR
30
50
50
30
MP300
才能:レベルアップ時MIND値追加ボーナス
レベル1
INT
5
HP:200
AGI
100
0
MIND
LUK
※リアルスキンモードはステータスおよびスキル振りが出来ません。
そんな概念すらありません。全て自分の経験が生きます。ですが成
長に補正が掛かりますので才能がある物に対しては驚くべき勢いで
ステータスは伸びて行きます。全てプレイヤースキルで決まります。
※このステータスだけは置いときます。
2
ログイン︵前書き︶
ネットゲームなんて2Dしかした事無いクボヤマさんが、福引きで
3日前急遽サービスを開始したあのVRMMORPGを当ててプレ
イする話。キャラネームとか本名でやっちゃうヤツ。VRゲームは
みんなそれが本人だと思っているヤツ。
3
ログイン
朝一で魚を買った帰り、たまたま持っていた福引きを回してみる
とまさかの2等が当たった。本当は3等のお米20キロが欲しかっ
たんだが、、、
えーっと。
Infinity
Online﹄
地球4つ分の広大さと自由度無限大のVRMMORPG。﹃Re
al
ゲームなんて久しぶりだ。しかも最新のVRゲームときた。
22歳にもなって、ゲームなんてやらないだろうなと思っていた
が、久々にやってみようかなという気になった。
ゲームのパッケージとVRギアの説明書を読んで行く。
﹁推奨のVRギア?を使えば、最新のリアルスキンモードでゲーム
をお楽しみ頂けます?よりリアルな世界を冒険したい方におすすめ﹂
VRギアでもスペックの差ってあるもんなんだね。自称VRゲー
ム廃人の友達からは規格統一されたから色んなゲームが出来て毎日
が楽しいぜと聞いた事がある。本を読んでる最中であまり良く聞い
ていなかったが確かそんな事を言っていた。
まぁ、そうだな。せっかく最新版のVRギアがあってそれでしか
楽しめないって書いてあるんだから。
﹁ここはリアルスキンモードでプレイしよう﹂
4
おっと、その前に件の友人にメールの一つでも送っておこう。俺
も最新のゲーム始めたぞってな。
俺は目を閉じてVRギアの電源を入れた。
ブゥン。一昔前のブラウン管テレビを付けた時の様な音が響く。
﹃ようこそ、RIOの世界へ﹄
アナウンスが流れたので俺は目を開けた。
どうやらキャラメイク画面の様で、目の前のスクリーンにはどち
らのプレイモードでプレイしますか?と表示されている。
手で触ってみようとしたが無理だった。
これはどうすればいいんだ。
その思考にアナウンスが答えてくれる。
﹃口頭でプレイモードを選択してください﹄
ああ、そういうこと。
﹁リアルスキンモードで﹂
﹃確認しました。リアルスキャンを開始致します﹄
まるでコピー機の中みたいだ。
5
﹃身体データのスキャン完了しました。よりリアルに近づける為に
記憶スキャン開始の許可を﹄
すごいな、記憶まで読み取って本人を再現する訳か。俺は今、最
新の技術力に少しだけ感動していた。でも、記憶か・・・。
少しだけ辛い記憶もあったので、心苦しい物があったが、よりリ
アルという言葉の為にはゲームの中の自分も記憶に沿った自分でな
ければいけないのだと思い許可を出す。
﹃開始します﹄
とくに痛みも不快感もなく、終了する。
﹃最後にプレイヤーネームを決めてください﹄
﹁クボヤマ﹂
リアルスキンモードだ、リアルの名前でいいだろう。それと友人
もプレイしていたら気付いてくれそうな気がするからな。
﹃ノーマルプレイとは全く違う、真のRIOの世界へ。それでは行
ってらっしゃいませ﹄
まったく、期待させるアナウンスだ。
6
洗礼
目を開けるとそこは大きな噴水のある広場だった。俺の目の前に
は大きな掲示板が建っている、エリアマップだ。
この噴水の広場は﹃女神の広場﹄と言うらしい。確かに噴水の中
心に女神の像が建っている。太陽光を反射する水のカーテンに包ま
れた女神像はどことなく神秘的に思えた。
ものすごく現実の中に居るような気分になって来る。バーチャル
なのに。
この広場が﹃始まりの街﹄の中心であり、広場から東西南北にメ
インストリートが伸びている。そこから枝分かれする様にそれぞれ
の施設への小道が続いている。なんつーか綺麗な街並だけど排水と
かどうなってんだろ。
地図通りの街並かどうかもあとでチェックする必要があるな。わ
くわくしてきた。
マップから視線を外して回りを見渡すと、そこそこの人数が広場
でくつろいでいた。これがいわゆるプレイヤーなのかな?
相変わらずマップ前でキョロキョロしていると、近くから声が掛
かる。
﹁あんたさっきからマップ前でキョロキョロして、邪魔なんだよ﹂
帯剣に胸当てと額当て、いかにも剣士といった男が俺に喋りかけ
て来た。
﹁すいません。今どきます﹂
7
言い方は辛辣だが、余計な波紋をここで起こしても仕方ない。な
により怒ってる暇等無いほど俺はこの状況を楽しんでいる。第一プ
レイヤー発見。しかも向こうから声をかけられた。
﹁ん?あんたその格好。たった今ログインしたのか?﹂
彼は俺の格好を見てそう言った。どうして判ったのかと怪訝な表
情をしていた俺に彼はさらに付け加える。
﹁その格好みれば判るぜ。俺も通った道だ。初ログインはわくわく
するものだ﹂
﹁たしかに、初めてのVRゲームなんですが、ここまですごいとは・
・・﹂
﹁あんた一発目がRIOなんだ? これに慣れたらもう他のゲーム
はできないぜ!﹂
彼は、このゲームの他ゲームとの違い等を笑いながら語っている。
口は悪いが実は良い人なのかもしれない。良かったらいろいろと教
えてもらいたいと思い俺は彼に尋ねようとした。
﹁あの、初めの方で気をつけておくべきことなどはありますか?﹂
﹁あーそれね。あるある。このゲームは自由度が高過ぎてこんな事
も許されてるんだよw﹂
彼の笑い方が変わったと思ったら。彼の剣は俺の腹を貫いていた。
﹁町中のプレイヤーキル。あ、気をつけてね。その服来たままだと、
8
面白半分で殺されちゃうからw﹂
じわっと服に血がにじんだと思ったら。急に腹から剣を抜かれた
勢いに合わせて血と内蔵が零れる。少し遅れて激痛が、俺は思わず
しゃがみ込んだ。
﹁あれw普通は即死なんだけど、VIT極の人?w﹂
まわりから﹁うわっ、そこまでリアルなんだ!﹂やら﹁痛覚高め
に設定してんだ痛そー﹂やら﹁やれやれ﹂といった声が聞こえる中
とうとう俺は力尽きてしまった。
気付いたら大聖堂の中にいた。リスポーンというヤツか。ログイ
ン場所がリスポーン地点じゃなくて良かった。またあざ笑う様に殺
されていたかもしれん。
それにしても。痛かった。
今のは俺が悪いな。これだけ自由度が高いんだ。下手な制限なん
て設けられてるはずが無い。現実の世界と一緒だと考えるべきなん
だ。
ゲームゲームだとずっと言っていた俺が恥ずかしい。即死だった
らどれだけ良かったから、下手に生き残ってしまったから文字通り
9
死ぬ程痛い思いをした。
まぁでも、慣れてるし良いか。
今俺に必要なのはやはりこの世界の情報と自衛の手段であると気
付いた。
それから衣食住という基本を照らして行こう。
血まみれの服を眺めながらそう思った。
足音と共に声が聞こえる。
﹁その傷、あなたも痛い目に合わされたみたいですね﹂
﹁はは、当たりどころが悪くって死に損ないまして、内臓が飛散し
て死んでしまいましたよ﹂
悲しそうな顔をした神父さんに俺は苦笑いしつつ返す。それを聞
いた神父さんは苦虫を噛み潰した様な顔をした。
﹁いくら死が訪れない人々だからといっても、安易に人を殺めてし
まう行為は神に反しますよ。私たちは復活できないただの人なんで
すから﹂
ん?NPCか。もしかして。
えらい良く出来てる。ただの人間じゃないか。
いかんいかん。ここは現実だと思わないと。実際に生きてる人な
んだ。この人は。
﹁そうですね、今のうちはまだ私たちみたいなのしか狙われていな
いそうですし、自衛の手段は持っておきたい所です﹂
10
﹁その内神によって天罰が下るでしょうね﹂
﹁神父さん。よかったこの街の簡単な情報を教えて頂けませんが?
なんでもいいので﹂
なりふり構っていられない。協会内は安全なので神父さんにお願
いしてこの街のことに付いて少しでも教えてもらおう。
11
洗礼︵後書き︶
自由度が高いと。必ずしもこうなる訳ではないが、いささか不憫で
すね
12
適正値
俺はとある場所に来ていた。
それは図書館の裏手にある路地裏の建物。
ステータスおばさん
適正判断師と呼ばれる人である。
今発覚したのだが、俺は自分のステータスが見えない。理由は考
えてある。
鑑定の技術を持っていないからだ。
と、思う。
まぁ必要な物は地道に集めて行けば良いや。
そう思いつつ、真っ黒なカーテンを潜る。奥にはフードを被った
しわくちゃなおばあちゃんが一人、水晶を片手にブツブツ呟いてい
た。
﹁なんのようだね﹂
俺に気付いたのか、ステータスおばさんはこちらを向く。
﹁あの、ステータスを見て頂きたくて来ました﹂
﹁銅貨5枚だよ﹂
そう言われてやっと気付く。俺お金持ってない。
そもそもこの世界のお金の価値、単位すら知らない。どうしよう。
対価になるものは・・・
13
﹁すいませんお金持ってないんですが、今着ている服と交換で・・・
﹂
﹁できるかい! 馬鹿なのかいおまえさん!﹂
するどい罵声が飛んで来た。かえんなかえんなと追い出されよう
とした時、彼女は俺の腹の血に気付いた。
﹁まったく、馬鹿共はどこにいっても馬鹿共さね。その傷に免じて
ただにしといてやるよ﹂
あ、町中にPKの話広がってるんだ。ある意味助かったな。これ
で適正が知れて今後の自分のステータス振りを調節できる。
そしてある意味楽しみであったのはリアルスキャンでの能力値が
どうなっているかである。自分の現実の能力値がそのままここでの
能力値になっているわけだから。
何となく予想できるのはVITが高い事かな。刺された時言われ
てたし。
﹁あんたはの適正値は⋮⋮精神力だね。しかも異常に高い。5倍は
カタいし、特別サービスだ他にも見てあげよう。⋮⋮⋮精神力の伸
びしろがこれまた大きいね⋮⋮以上だ﹂
は?
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ステータスがこう、ばばん!って表示されるんじゃないの?
VITの才能は?防御でしょ。
精神力ってなんだよ。えーっと。MINDだっけ。
えええ。
MINDって何なの。精神力って何に対して良いの。
これでわかったことは、ただ単に即死しなかったのはやせ我慢だ
ったことだけ。
ぽかんとしていた俺に彼女は話しかけて来る。
﹁何ぼーっとしてんだい。終ったんだから帰りな。まさか言った意
味が判らないんじゃ無いだろうね﹂
﹁そのまさかです﹂
そう言うと一際大きな溜息を吐きながら彼女は付け加える。
﹁まぁ2∼3人同じ反応をしたやつはいるけど。あんたみたいな馬
鹿ははじめてだよ﹂
そういうと彼女は精神力について説明をしてくれた。
と、同時に自分の能力についても説明してくれた。水晶を使って
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いるのはただの占いで才能と適正が判るだけのようだ。鑑定もして
いるが、銀貨1枚だしそこまで面倒見切れないんだと。
精神力、MINDは異常状態に強い抵抗力を表していて同時に魔
力の量も表しているそうだ。えっと、異常状態耐性とMPの才能が
あるってことで良いのかな。
まぁなんとかして銀貨を作ってまた見てもらうか、魔法の勉強を
して自分でステータスを見た方が早いかもしれないな。
いずれにせよ俺はステータスポイントとやらをいつ頃振れるよう
になるのか。地力に関わって来るからね。
図書館までやって来た。
が、金貨1枚が入館料だってさ。入れませんでした。
ふむ。どこまでリアル過ぎるぞ。他の人はどうやって進んでいる
のやら。
少々危険だが一度フィールドに出てみよう。RPGならモンスタ
ーを倒してお金を得られるはずだ。
街の東側に向かう。少しお腹がすいているが、まだ行けるだろう。
夕食の時間はまだ早い。
神父さんに聞いた情報だと。
空腹状態だと体力が回復しない。
死んだら神のご加護が抜けた状態なので身体がだるくなる。︵一
16
定時間︶
寝るときは教会の寝台を使っていい。
モンスターを素手で相手するな。最初は東のラビットを倒すと良
い。
くらいだ。いやぁありがとうございます神父さん。
いや、今素手で行こうとしていますがね。
﹁で、死に戻ったと﹂
今俺は神父さまに説教を受けている。
素手は無理だったので、石を掴んで投げる作戦と石を掴んで殴る
作戦を用いて、俺はラビットの肉を5つ。毛皮を3つ。手に入れた。
ってかリアル過ぎるだろ。おいおいおい。
肉はまぁ皮を剥いじゃえば良いけどさ、毛皮剥くのなんて初体験
だよ。何なんだよ、2つミスってしまった。オジャンになったヤツ
は埋めた。
この状況で時間が経てば消えるとかあるわけないだろって思って
しまった。
﹁クボヤマさん、危険な行動は慎みなさいとあれほど・・・﹂
説教に終わりが見えない。
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﹁ですが、流石です。素手で5匹も倒すなんて。肉は今日の夕飯に
します。毛皮は家で引き取っても良いですか?﹂
﹁え、買い取ってくれるんですか?﹂
﹁いえいえ、貧乏な教会にお布施はあれど⋮⋮ってやつです﹂
﹁えー﹂
﹁そんながっかりしないでください。かわりに魔法を教えましょう﹂
マジか。
ヒールを教えてもらった。ヒールは小回復魔法だ。
やった、これで一応回復手段が出来た。
そしてヒールは一度練習すれば上手い具合に扱う事が出来た。才
能があるらしい。そして俺は神父職に勧誘を受けた。
いやいや、なりませんって。俺は前衛職とやらをやってみたいの
でね!
18
少し勉強してきたぞ
ログインした。いつものごとく、教会の寝室である。
これは、親を失った子供や浮浪者が一時的に寝泊まりできる様な
場所として使われている物である。10畳くらいの間取りにシング
ルベッドが四つと小さな机が一つ置いてあるだけの簡単な作りだが、
本が在る事に気付いた。
こちらの世界の本はどうなっているのか。ってな具合で、ログイ
ンしてからとログアウトする前に少し読んでいる。
ま、聖書の類いしか置いてないがね。
死に戻りした時はなんだかんだ聖書を読むと落ち着くね!
このまま行くと神父職まっしぐらって感じの俺のゲームプレイで
ある。
っていうより、このゲームの仕様をイマイチ判っていないので
ある。攻略本なんて売ってないし、サービスが開始したばかりのゲ
ームらしいので、情報があまり無い。基本的なシステムはその他V
RMMORPGとは変わらないらしいが。
絶対違うと俺は思う。
HP、MP、STR、DEX、VIT、INT、MND、AGI、
LUK。スキルやレベルアップといったゲームらしい要素を俺は未
だに体感していない。
そして何よりMMOの醍醐味、パーティープレイである。
神父服︵神父さんから頂いた︶で兎︵東の草原の初期モンスター
のラビット︶を狩り続ける私は回りから見てなんと思われているの
19
であろう。
しかも、武器は未だ投石。皮は手で剥いでいたが、今は神父さん
に借りたナイフを使っている。石で攻撃して、ナイフで止めを刺す。
俺は一体何を目指してるんだ。そろそろと言っては良いけど、フ
ラストレーションが溜まって来ている気がする。未だ件の友人から
連絡は来ない。
メールの返信には
﹃最初のレイドボス終ってからすぐ迎えに行く﹄
と書いてあった。
相変わらずゲームを楽しんでいるんだろうな。レイドボスってな
にか判らんけど、とりあえずボスって事はかなり先まで進んでいる
んだろうな。
兎狩りが終ると、教会に戻って調理に取りかかる。今日は兎肉の
シチューにサラダとパンである。教会には身寄りの無い子供達も住
んでいるので少し多めに作る。
なんでこんな事をしているのかと言うと。部屋や服を貸して頂く
代わりに、教会の雑務を引き受けると言った話だ。
まんまと神父として働かされている訳だ。
だけど、特に不満を持っちゃいない。そこそこ狩りと言う物にも
慣れてきたしね。あと俺は兎の肉を持って行くと子供達が喜ぶし、
兎の皮で子供達の服を繕ってあげたり。
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悪くないじゃない。こんな生き方も。
新しいプレイスタイルだな。なにせこのゲーム[RIO]は無限
大だ。色んな可能性を秘めている事をひたすら感じるばかりだね。
ログイン前に本を読んで来た。RPGの攻略本である。
とりあえず、別の古いゲームの攻略本であるが、基本的な仕様は
変わらないんじゃない?ってコトで熟読してきたぞ!
効率よくレベルを上げるにはソロではなくパーティプレイが基本
的らしいね。今までの俺はいわゆるソロプレイヤーだったらしい、
最初は特に問題ないらしいが、新しいエリアを開放する為にはボス
という物を倒さなくては行けないらしくて。
ボスを倒すにはソロではほぼ不可能という事だ。
あと、プレイヤースキルってのも気になった。ゲームのスキルな
どを、無詠唱で行ったり、その他決闘などの対人戦で役に立つ物ら
しい。俺の場合ヒールを無詠唱で使えるようになった事もプレイヤ
ースキルの一端だ。
あっさり殺された俺からすれば、コレは鍛えない訳には行かない。
護身術としてね。東の草原を駆け巡った俺からすれば、そろそろ初
心者プレイヤーではなくパーティ可能なクラスのプレイヤーにはレ
ベルアップしてるんじゃなかろうか。
いやでも、少し恐ろしいな。トラウマが在る。怖いな。
俺自身が未熟だったとは言え、人に殺される感覚はどうしようも
21
ない。
ヒールを覚えてから死に戻りはほぼ無くなったが、より制限はさ
れているだろうがリアルな痛みと絶望感は心に来る物が在るね。
そう言う時は、この教会の大聖堂で祈るって心を清めるだけであ
る。
あれ、マジで、これは、神父になってしまったのか。
﹁ご熱心ですね﹂
考えにふけっていたらいつの間にか隣に神父さんがいた。
﹁何か悩みでも抱えているんですか?﹂
﹁エリック神父。私はそろそろこの教会を出ようと思います﹂
パーティープレイがしたいからな。それを聞いた神父さんは、言
葉を選ぶ様に間を置いてから話始めた。
﹁それはあなたのご意志です。あなたは今までこの教会に多大なる
協力をしてくれました。それは本当に感謝しています。ささやかな
餞別ですが、私が昔使っていたクロスを差し上げます﹂
あと、と付け加える様にエリック神父が言葉を紡いで行く。聖書
の最初と最後に書かれている言葉だな。良く読むから覚えている。
﹁⋮では、行ってらっしゃいクボヤマ﹂
エリック神父の言葉で、内側から力が溢れて来る様に感じた。
22
﹁私の祈りを与えました。精神力補正が付きます。あとそのクロス
ですが、あなたが思うままの姿を表します。私のお下がりですが大
事に使ってくださいね﹂
そういった形で俺の教会引きこもり生活は終った。
23
少し勉強してきたぞ︵後書き︶
ただし、勉強内容は一昔前に2DMMORPGをした時の攻略本で。
うわさ話。
投石で弱らせて兎を仕留める神父様が居るらしい。
RIOのNPCの行動範囲すごすぎだろ。って広まっているらしい。
24
初めてのパーティー︵前書き︶
やっとパーティです。
リアルスキンモードと、ノーマルモードの違いが判って行きます。
25
初めてのパーティー
さてさて、やって参りましたよ。女神の広場へ。
忌々しい記憶が蘇る。だが今の俺には通用しない。刺されても回
復できるからな。
女神の広場には交流掲示板がある。パーティ募集や、素材の買い
取り等、プレイヤー間での交流を促す内容が多い。もちろん、道具
屋だったり公式の商業施設も置いてある。
俺の目標は前衛プレイだ!近距離職だ!
とりあえず、何をすれば良いのかわからなかったので、キョロキ
ョロしてみる。
そういえば、ろくに街を見る事無く、教会での生活にいそしんで
いたなと思う。まぁなにも困った事は無かった、むしろ快適過ぎる
教会ライフだったのでMMORPGの世界にいるというコトを忘れ
ていた。俺の世話好きが祟ったみたいだ。
うん、また。あの子供達に会いに行こう。フィールドでの話を聞
かせて上げたい。
ただ立ち尽くしていても埒が空かなかったので、俺は公園のベン
チに座ってぼーっと回りを眺めていた。人やエルフやドワーフか、
色んな人が居る。それにも飽きて来たので持参していた聖書を読ん
でいた。エリック神父が教会で学んだ事を忘れない様にと俺にくれ
た物だ。
ありがとう神父。聖書ってなんか心洗われるよね。
時刻は昼下がり。本に集中していると声をかけられた。
26
﹁あなたが噂のNPC? それとも神父のロールプレイ?﹂
顔を上げると、そこには美しいエルフがいた。
太陽を反射する薄緑色の髪を後ろで束ねている。装備を見ると女
騎士、って感じ。質問の意味はわからんが、声を掛けてくれたのは
素直に嬉しかった。
彼女の後ろからは﹁声掛けちゃったよ﹂やら﹁NPCには見えな
いなー﹂などの声がおそらく彼女のパーティメンバーであろう方々
から上がっている。
﹁噂?は知らないですが、私はNPCではないですよ。訳あって神
父服を来ていますが、志しているのは前衛職です﹂
﹁あ、そうなんだ。ごめんなさい急に変な事を言ってしまって﹂
﹁いえ、それより神父のロールプレイってなんですか? 職業の事
ですか?﹂
未だロールプレイという単語について判らなかったので聞いてみ
る。もし職が決まってしまっているとしたら、前衛職への道が閉ざ
されてしまうってことを予感する。
﹁あ∼。ガチ初心者さん?﹂
﹁はい。恥ずかしながら﹂
2DのMMOゲームであればやったことある。あれも大分友人に
助けられていたが、私は鋒を扱う戦士をやっていた。なので前衛職
に拘るのである。
27
﹁なるほど。例えば忍者になりたいとするなら盗賊のジョブで、忍
者の格好をしてニンニン言ってる事が忍者のロールプレイに当たる
わ﹂
﹁エリーはエルフ騎士のロールプレイをやってるもんね? その為
にわざわざエディットでエルフの容姿に近づけたんだから。あ、ア
タシの名前は凪。ナギってよんで﹂
エリーと呼ばれるエルフの隣から、赤髪で活発そうな小柄の女の
子が口を挟む。
なるほど、ロールプレイね。そういうことか。
俺の格好が神父でそして聖書を読んでいる。そして教会で暮らし
ている。
うん。全く持って否定できない。
﹁特にロールプレイでは無いですが、しばらく教会で暮らしていた
ので﹂
﹁始まりの教会の? あなたもなかなかコアなロールプレイをして
いるわね。私も見習わなくちゃ・・・﹂
そう言いながら、エリーはグっと拳を握りしめる。いや、俺は特
にロールプレイをしている訳じゃなくて、洋服も神父服しかなかっ
たんだよ。偉い丈夫な素材だったし。
話を聞く限り。彼女達はロールプレイでゲームを楽しむ集団だっ
た。エルフの騎士に、それに仕える従者。そして小人の細工師。と
いった3人メンバーだ。
エルフの騎士っていうか姫騎士じゃないの?従者連れてるって。
28
凪と呼ばれる人はエリーの友達らしく、たまたま小柄で手先が器用
だからそういう風になったらしい。
なんなんだこのパーティは。
﹁ねぇねぇ、神父さまをパーティに加えようよ﹂
凪がそう言い出す。
﹁そうね。私のロールプレイなんか霞んでしまう程のロールプレイ。
逆に師匠と呼ばせてほしいくらいだから、是非パーティに入っても
らいましょう﹂
いや、ロールプレイじゃないから。何なんだこの人達は。でも、
実際の所初めてパーティに誘われるので嬉しかったりする。
これも神のお導きだと・・・あ。あぶない。神父になってしまっ
ていた。
あれよあれよと言う間に私はパーティに入っていた。
﹁セバスチャン、挨拶﹂
﹁はいお嬢様。よろしくお願い致します。クボヤマ様﹂
お、おう。
だがここで致命的な問題が起きた。俺がパーティ承認のやり方を
知らなかったのだ。メニューボタンを選択してだったり、ヘルプ機
能からだったり、色々と指示を受けるが、全く持って言ってる意味
がわからない。
だって無いんだもん。そんな画面。
29
だが究極に困った。
﹁どうやら、バグみたいですね。凪、こんなバグあったかしら?﹂
﹁いや、アタシは全く知らないわね。あとで運営に報告しておく?﹂
﹁う∼ん。経験値的にはどうなるか判らないけど、同行者って形で
ついてきます? 師匠を見捨てる選択肢は私にありませんので﹂
それでいいなら。と俺は同行者としてこのパーティに混ざる事に
なった。まぁ彼女達も経験値効率は二の次でこの世界を楽しむとい
う事に照準を合わせているらしいし。俺だってそうさ。
俺たちは南のフィールドを歩いている。始まりの森だ。ここに来
るまでにある程度の情報を彼女達から聞いていた。
始まりの街から東西南北に始まりの∼シリーズでフィールドが展
開しているらしい。攻略組と呼ばれる人達は既に第3の街まで先に
進んでいるそうだ。さまざまなクエストがあり、それをクリアする
事で色んな所へ行ける道が開かれる。そういった物らしい。
俺たちは始まりの森で素材集めそして狩りを行う予定だ。出て来
るモンスターは熊、兎、犬、鳥系の様々なモンスターである。多種
多様の生態系とモンスターによりワンランク高めの難易度だが、そ
の分豊富な素材が手に入るそうだ。
東の草原は兎と犬と牛と馬くらいなもんで、俺はもっぱら兎専門
だったわけだ。因みにモンスターの名前は知らない。鑑定の魔法を
まだ持っていないからな。
﹁そうだ、鑑定の魔法だ﹂
30
急に思い出した様に言う俺に、回りの三人は驚いた顔をする。
﹁びっくりするじゃない。何なのよクボヤマ﹂
エリーがそう言って来る。最初は師匠師匠言っていたが、辞めさ
せた。いや、俺はロールプレイじゃないし。
﹁鑑定の魔法ってどこで手に入れれるか知ってる?﹂
﹁鑑定の魔法? なにそれ﹂
﹁自分やモンスター、アイテムのステータスを見る際に必要になる
らしくって、俺はまだ持っていないから自分のステータスすら見る
事が出来ないんだ﹂
そう言い放った瞬間みんなの顔が硬直した。
一瞬間を置いて。
﹁何意味判らないこといってんの? ステータスはステータスオー
プンでしょ! 常識だよ常識!﹂
と凪。
﹁し、師匠。まさかそこまでこの世界のロールプレイを行っていた
なんて・・・私は感激です。もうずっと付いて行きます。﹂
とエリー。
セバスチャンは首を横に振って降参と言った雰囲気だ。
31
だがな、ステータスオープンと言っても、念じても、何の変化も
起こらない。基本的にソロで引きこもっていた俺にとってすれば、
鑑定の魔法が無いから扱えないと思っていた。
﹁まさか、アイテムボックスも無いの?﹂
﹁ははは、凪さんよ。そのまさかだ﹂
たぶんな。アイテムボックスって何だ。と最初思っていたが、調
べてみる限り空間拡張系の魔法技能がないと仕えないと思い込んで
いた。
どこまでもリアルの世界だと思い込んでしまっていた俺は基本的
にそう言うのを学ばない限り仕えないだろうと仕様だろうと予測し
ていた。
﹁だからバッグを持っているのね。わざわざバッグ経由でアイテム
ボックスから物を出すなんてロールプレイの達人だと思ってました﹂
エリーもそろそろ呆れて来ているようだ。
﹁なんでかしら! このゲーム、色んな仕様が隠されているらしい
んだけど未だに誰もそれにたどり着いてないの。ゲームとしてはク
オリティも自由度も高いのに未だ他のVRゲームでの最高クオリテ
ィって感じなのよ! アタシからすれば、クボのその状況が鍵にな
ると思うの!﹂
凪が捲し立てる様に言って来る。んー、違いねぇ。ノーマルモー
ドとリアルスキンモードくらいの違いかな?
・・・それか?
32
ちょうどそれを口に出そうとした所で、私の全身が身震いした。
何か来る。ヤバい物が来る。
﹁待ってくれみんな。何か来るヤバい何かが!!﹂
最初に被害を受けたのはセバスチャンだった。獰猛な声が響いた
かと思うと、巨大な虎の前足が、セバスチャンを押しつぶしていた。
グロいコトにはならず、セバスチャンは即死。光と共に消滅した。
たぶんリスポーンしたんだろうな。冷静に考えるとそうなんだが、
今の俺にはそんな余裕は無かった。
光になったセバスチャンをみた虎の魔物は、つまらない様にこち
らを向いた。その獰猛で鋭い牙を備えた口からは餌を見つけたとき
の獣の様に大量の涎が拭っている。
あ、目が合った。
俺は直感した、食われる。たぶん俺が。
﹁な、なんなのあの魔物! 聞いてない!﹂
やめろ、叫ぶな。心の中でそう思う。その声に反応して虎は凪を
向いた、そして飛びかかって行く。右前足が彼女を押しつぶそうと
するが、俺が咄嗟に投げた石が虎の顔面に命中して虎の意識を乱し、
ギリギリ擦る程度ですんだ。
それでも彼女は弾き飛ばされて動けないでいる。小刻みに震えて
いる所を見ると、しびれて動けないようだ。
そして虎は石を投げた俺に向かって来た。俺は動けなかった。
﹁パワーガード!﹂
33
そう叫びながら大きな盾を構えたエリーが俺と虎の間に割って入
った、鋼鉄を鋼鉄で殴ったときの様な重い音が響く。
﹁ぐっ。クボヤマ! はやく凪にヒールを、あなた神父でしょう!﹂
我に返った。凪の痺れは麻痺攻撃だと思う。ヒールとリカバリー
を施す。
リカバリーは異常状態を治す魔法だ。
立ち上がった凪も魔法の詠唱を始める。だが、どう考えてもエリ
ーの盾では時間が稼げない気がする。俺にも何か武器が無いか。
そうだ、クロスがあった。
胸ポケットに入れていたクロスを持つ。
ほこ
持った瞬間にクロスは形状をかえる。そのまま巨大化しましたっ
て感じだ。形状的に十字になった部分が鉾の様に見える。昔の2D
MMOゲームで鉾ばっかり使っていたからかもしれない。まぁおあ
つらえ向きってヤツだ。
この変化に目を奪われたエリーと虎の均衡が崩れた。エリーも盾
ごと弾き飛ばされる。と、同時に俺は虎の首元に十字架の尖った部
分をブッさす。
﹁ゴアッ!?﹂
思わず虎からも悲痛な叫び声が上がる。意外と攻撃力があったみ
たいだ。
でもこっからどうしようかな。頑張って押さえ込んでるけど。こ
れ抜いたら俺間違いなく食われる予感。エリー早く助けて、盾役チ
34
ェンジしてくれよ!盾じゃん!
チラっと見たら、うっとりした様子で。
﹁戦う、神父の、ロールプレィ・・・﹂
と頭の中がお花畑になっていた。
﹁おい姫騎士! 白馬の王子様とかそう言うのじゃないから! あ
と俺ロールプレイじゃないから!﹂
だめだ!もう持たない。
と言った所で、もう一人残ってましたよ小人の細工師。あ、職は
魔法使いらしいです。細工の技能も持っているらしいけど。
﹁お待たせ! あとは任せて思ったより時間稼いでくれたから今あ
る中で特大のをお見舞いしちゃうよ!! あとなんか今日は集中す
ればする程調子がいいよ! エクスプロージョン!!﹂
魔法の軌道が見える。虎の顔面に向かって。
そして、爆発した。
虎は死んだ。
俺も死んだ。
35
違いとは
死に戻った。あの、教会に。
﹁戻って来るの早いですね﹂
エリック神父が居た。
んー身体が重い。
ってか一瞬にして身体がバラバラになる感覚があったんだけど。
魔法って怖いな。
﹁南の森に言ったら巨大な虎がいまして、襲われました﹂
キラータイガー
﹁ほお、あの人食虎に遭遇したんですね。それは災難でしたね﹂
あれはキラータイガーって言うのか。物騒だな。
﹁でも、パーティの人達と一緒に倒しましたよ。で、魔法に巻き込
まれてしまって﹂
﹁あー、魔法使いの人は爆発魔法をとりたがりますが、アレは地雷
ですよ。近くに居る味方も巻き込んでしまいますからね。あなたの
場合そこそこ抵抗力もあったと思うんですが、余程至近距離で巻き
添えになってしまったのが予想できますよ﹂
エリック神父は笑いながらそう言った。
いや笑い事じゃなくてだね。服もボロボロだよ。って思ったらあ
れ、破けた服が元に戻っている。
36
﹁言い忘れてましたけど、神父の祈りの効果は神父服の自動生成も
含まれています。私のクロスの熟練度補正と、神父服に限って丈夫
さがまして、破れても修復されます﹂
﹁ありがたいですね﹂
・・・ありがたいのか。まぁお金持ってないから今の所役に立っ
てる。だけどバッグが消えた。無くなった。ショック。
﹁あなたはいわゆるプレイヤーと呼ばれる人達ですが、私からする
と、死なないだけど此方側の人と言った感じがします。向こうの常
識が当てはまらず、此方の常識で左右されると言った形です﹂
薄々感づいていたんではないでしょうか。と付け加える。まぁ、
少しずつだけど思っていたよね。
人食い虎の件にしても、ヤツは俺を食べる気だった。見る目が違
っていた。
リアルスキンモード怖い!
でも違った楽しみ方がある。これはまさに自由度が高い、そう言
う事じゃないか。プレイヤーとしての範疇に収まらず、成り上がり
だって、町おこしだって、この世界の人々と交流して何だってでき
る可能性が見えて来た。
世界の一部になった感じ。
﹁あなたの場合。神父しか出来ませんが﹂
ははは。
話をしていると、教会の扉が開いてエリー達が入って来た。
37
﹁師匠やっぱりここに居たんですね!大丈夫ですか!?﹂
﹁クボヤマごめん! 普通フレンドリーファイヤー切ってると思っ
てて!﹂
セバスチャンも居る。無事だったか、良かった。
あの二人は俺と虎がバラバラになっている所を見ていた様で、慌
てた様に身体中をペタペタを触って来る。
﹁彼女達があなたのパーティですか?﹂
﹁そうですね。私のパーティですよ﹂
まぁパーティの組み方判らないけど。
そんなやり取りを見ていて、エリー、凪、セバスの三人は更に驚
いていた。
﹁NPCが話しかけてる⋮﹂
ああ、やっぱりか。更なる確信が俺の中で出来た。でもこのやり
取りが見えてるなら、ある程度の制限が無くなっているもしくは、
リアルスキンモードでプレイしているプレイヤーと同行していると
マップ外まで行けたりするのだろうか。
バグ技!って感じなのだろうが、此方側?の人からすれば当たり
前なのか。
まぁここでの立ち話も何ですし。とエリック神父が教会の食堂の
方へみんなを案内してくれた。
﹁教会って初期リスポーン地点だとばっかり思ってたんだけど、こ
38
んな要素もあったんだね﹂
と凪が感心した様に言う。エリーも﹁師匠のロールプレイの秘訣・
・・﹂と辺りをちらちら見回している。セバスはいつも通りだ。で
も驚いているのかも。
エリック神父が淹れてくれた紅茶を飲みながら情報を交換し合う。
﹁要するにリアルスキンモードとは、ゲームであってゲームでない
ってことなのよね、異世界だわ!﹂
﹁そしてキャラクターもデリート不可能で一つだけ。そりゃ本人だ
ものね。でも自由度に関しては理解したわ、ロールプレイに新しい
何かが見つかるかも・・・﹂
﹁お嬢様の仰る通りです﹂
と、思い思いの解答が出た。コレじゃ判らないと思うが。
少しずつ判って来たぞ。まぁ判らない事の方が多いと思うが。
リアルスキンモードとはRIOの世界観を最大限に楽しんでもら
う為に作られた物で、VRアカウント一つにつき1キャラのみ作成
可能、キャラデリ不可。RIO推奨ギアのみ使える新機能である。
俺のギアがそうだ。
それと同時に俺のステータスも判明した。精密鑑定を掛けてもら
った。エリック神父に。なんでそんなのも出来るの。
プレイヤーネーム:久保山
プレイモード:リアルスキンモード
種族:ヒューマン
才能:レベルアップ時MIND値追加ボーナス
レベル10
39
AGI
INT
VIT
DEX
STR
150
5
30
70
60
40
︵+10︶
MP510
MND
0
HP:430
LUK
魔法
ヒール リカバリー キュア
クロス︵熟練度補正、攻撃力MND依
加護:神父の祈り︵MND+10︶
装備:神父服︵自動修復︶
存︶
※リアルスキンモードはステータスおよびスキル振りが出来ません。
こんな感じになっていた。強いのか判らないけど。そして発覚し
た。ステータスおよびスキル振りが出来ません。
これはどういう事なのだろうか。
﹁おそらく個人の能力は閲覧できるが、管理は出来ないってことで
しょう﹂
セバスが言う。流石執事、鋭い所を付く。
最初の能力値が判らなかった以上、平均値と成長値がどんなもん
か判らないが、個人依存しそうだな。俺の場合あの過去のお陰でM
IND値が高いんだと思うが。
﹁ノーマルモードって最初どんな感じなんですか?﹂
40
﹁ノーマルモードは最初にキャラ作成ボーナスポイントが100P
貰えるわよ。初期HPMPは100ずつ、それを振って行くくらい
ね。レベルアップ時に5ポイントステータスに振れるようになるわ、
それを考えるとレベル10でそのステータスは異常。MND値なん
てバカよバカ!﹂
凪が言う。ってことは平均でも全部に満遍なく振ったとしても1
0∼15くらいになるわけだ。そしてHP・MPはVIT・MID
依存で数値分補正されるらしい。それぞれの分野に特化した極振り
と言う物が出来やすいが、平均値は低いと。
リアルスキンはセバスチャンが推測して計算した所、大体+10
0ポイント分、初期ボーナス程度の追加があるらしい。
﹁才能のMND追加ボーナスがくせ者ですね。どれくらいの追加な
のか判らないですが、とりあえずレベルアップ分の5ポイントで計
算するとつじつまが合います﹂
流石セバスチャンである。出来る従者だ。ってか執事だよな今更
だけど。
ここでエリー気付く。
﹁師匠のステータス、職業欄がない。完全に神父だけど﹂
﹁それだわエリー!﹂
ノーマルモードであれば、職業によってボーナスステータスが付
くらしい。基礎ポイント+職業補正といった所だ。
戦士系であれば種類にもよるが、STR・VITに補正。魔法使
いであればINT・MNDといった形。
41
﹁聖職者であれば、毎日聖書を読む事で精神力が鍛えられますよ﹂
とエリック神父の助言である。
この辺まで話し合ったが、結局謎が解ける訳でもなく、ログアウ
トの時間になった。俺たちはゲームがそこまで詳しい訳ではなく、
世界が楽しめれば良いや派なので結論、問題無しとなった。
今度友人に聞いておこうかな。
ログアウト前にせっかく教会に来たのだから、子供達の御飯を用
意しておいた。子供達と戯れる俺を見た彼女達は混ざりたいと言っ
て来た。が、それは叶わなかった。彼女達から声をかけない限り子
供は無視した様に動いていた。仕込みから料理をする俺を熱心に見
ていたセバスは一体何を思っていたんだろうか。子供達と戯れる俺
を見て、女性陣は何を思ったのだろうか。
未だシステムの決定的な違いは俺には判らない。
ゲーム的にはプレイヤーを補助するシステムがある分楽だと思う
が、一度この感じに慣れたらこっちがいいな。
そして俺は友人と会えていないし、このゲームの仕様的に会える
気がしない。連絡が取れないんだからな。
42
ログインした。いつも通り、教会で目覚めたんだけど。
今日はどうしようか。
あれだよ、せっかくこっちで出来た友達との連絡手段がない。と
言ったのが、現状である。
まぁ彼女達は俺の居場所を知ってるから今日は一人で動こうかな。
お金を貯めて、図書館で魔法の書物を読む事だな。鑑定の魔法だ
鑑定の魔法!ファンタジーの小説は色々読んだ事あるので、それに
当てはめて考えればなんとかなりそうな気がする。
お金を貯めるには、狩りをするしかない。狩って、素材を売る。
モンハン思考だ!
いや現実にだね、モンスターハントというゲームが有ってだね、
小さい頃友人とよくやったものさ、俺はあんまり得意じゃなかった
けど。友人はすごい躱して、すごい攻撃してたな。
とにかく、そんな要領で行けば、間違いは無い。と思う。
大体何が正解で何が間違いかすら判断できない。日本の法律に照
らし合わせて考えると良いのかもしれないが、そっちはカラスすら
狩れないんだ。こっちはある程度無理が効く世界だと捉えておこう。
外に出ようとしたら、十数人の人達が教会に運び込まれて来た。
エリック神父の表情も硬い。何が有ったんだろうか。
﹁神父、何が有ったんですか?﹂
﹁ああ、町中で急に魔法使い同士のいざこざが有りまして、住人が
巻き込まれたんですよ﹂
﹁何か出来る事はありますか? 治療手伝いますよ﹂
お礼を言うエリック神父に続き、俺も治療に参加した。
43
まったく、どこの誰だ。
町中で魔法をぶっ飛ばすなんて、まさかプレイヤーじゃないだろ
うな。興味本位で人を殺す様な奴らも居るからな、安心できない。
まぁある程度の自由度は有っても、システム管理されているノーマ
ルプレイヤーはアカウントを凍結されるだろう。
そして、なんと嬉しい誤算だが、この治療によって金貨1枚を頂
いた。いつの間にか簡易クエストみたいな形になっていたようだ。
エリック神父に﹁色々とイロを付けておきましたんで﹂とかニヤ
ニヤ渡された。それに伴って俺の顔もニマニマしてしまった。二人
そろって悪い顔だ。
よし、まだ時間もあるし図書館に行こう!
44
違いとは︵後書き︶
多分もう出てこないであろうステータス。
と、すごく曖昧で線引きが謎なシステム。
ぶっちゃけそこまで詳しく説明する気にもなりません。
45
友人の名前はユウジン︵前書き︶
ログイン前にメールを見ると、友人からメールが来ていた。最初
のレイドボスが終ったからとりあえず迎えに行くそうだ。彼もゲー
ムとはいえ、リアルを重視するタイプ。世界観の中に沿ったプレイ
をするタイプだったな。
そうか、それをロールプレイというのか。なるほどなるほど、驚
くぞ。俺の神父プレイに、神父とは何なんだろうな。今度教会に足
を運んでみるか。エクソシストでも見てみようかな。おっと、なん
か毒されてるなロールプレイに。
今日の目的は決まってるし﹃読書して待っている﹄とでも返して
おくか。なんだかんだ彼と一緒にまたゲームが出来る事が楽しみで
ある。
46
友人の名前はユウジン
今日は色々有って少し遅めログインした。時刻は昼過ぎ。
ログイン地点はいつもの教会である。
臨時収入も有ったし、念願の図書館に行こう!ってことでやって
きました。
図書館は、女神の広場から北に向かうその大通り沿いある。東の
大通り沿いにある教会からは、裏路地を抜けて行けば図書館の裏手
のあの占い屋にでる。その脇の小道を通って表通りに出れるんだが、
おばあさんに挨拶でもしとこうかな。
﹁こんにちわメリンダさん﹂
﹁何だいあんたかい﹂
ドアを潜り、黒いカーテンからひょっこり顔を出して挨拶をした
俺に、メリンダばーさんはブツブツと返してくれる。相変わらず何
をブツブツ言っているのか聞き取りづらいが、まぁ老人はそんなも
んだろう。
﹁なにか用かい?﹂
﹁いやたまたま図書館に行くついでに通りかかったから寄っただけ
だよ﹂
﹁何しに行くんだい。あとこんな裏路地ばっかり通っても怪しまれ
るだけだよ﹂
47
はは。と受け流すと、図書館の目的を話した。
魔法について勉強するってだけだからね。
﹁図書館の魔法程度ならあたしが教えてあげるよ﹂
まじすか!
﹁あんたの事はエリック坊やから聞いてるからね。欲しい魔法を言
ってみな。いや、あたしにゃわかるよあんたの欲しい魔法がね﹂
水晶が七色に光る。それも魔法なのかな。何魔法って言うのかな。
とりあえず俺が欲しい魔法は、鑑定魔法と連絡用・生活用の魔法で
ある。
魔法の種類は判らん。一番欲しいのは鑑定とアイテムボックスだ
けど、4次元空間に収納する魔法でしょ、なんかすごく高難易度な
気がする。
﹁鑑定、念話、空間拡張の魔法を教えて上げるよ﹂
﹁空間拡張、良いんですか?﹂
すごく、特別な響きがするよね。ド○えもんのポケットって感じ。
﹁そのかわり、連絡・生活魔法なんてものは存在しないからね。あ
んたで作りゃ別だけど﹂
作る?そんな事どうでも良いよ。
はやく教えてくれ!ド○えもんのポケット魔法。
やっぱりファンタジーの世界である。魔法という単語にワクワク
していた。
48
そしてメリンダばーさんにスパルタ教育を受けた。っと言うより、
初めてのコトは慣れていないはずなのに、容赦ない罵り方をしてく
る。
でも負けないぞ!初めての回復以外の魔法なんだ!
﹁よし、鑑定・念話・空間魔法を覚えたね。しめて金貨1枚だ、空
間魔法を教えたんだから一銭もまけないからね﹂
・・・え。
何とも言えない程の悲壮感を漂わせた俺は、そのまま北の大通り
から女神の広場まで戻って来た。また一文無しである。
ってか、ぼったくりのキャバクラじゃないか。
ぼったくりのキャバクラじゃないか∼。
こういう時は聖書を読むに限る。
まだまだ日は昇っている様だから、少しだけ本を読んで過ごそう
と思う。
そう言えば鑑定の魔法で無事にステータス表示が出来た。でも詳
しい技能は見れなかった。人種とレベルと才能のみ見れる感じ。精
密鑑定じゃないと詳しい内容は表示されないようだな。
念話は、俗に言うウィスパーチャットと呼ばれる物に近い。今は
対一人だけど、まぁなんとかすればパーティ単位でもいけるんじゃ
ないかな?ほら周波数とか、そんなん魔力にもあるんじゃない?で
も集団で居るときは普通に喋れば良いから、緊急連絡手段ってこと
で。
で、空間拡張である。これにはいくつかの制限が有った。重量制
49
限がSTRとVIT依存であるということ。そして拡張性はINT
とMND依存だった。
そしてバックやポケットの開き口の大きさまでしか入らないとい
う制限が有る。どこにも出現できるアイテムボックスというより、
収納利用目的に作られた物を拡張すると言う物。
バッグを無くしたらおしまいである。本当にド○えもんのポケッ
トだ⋮。
ロールプレイな⋮。
はは。まぁいいや。出来るだけマシだ。
バッグの予備を買うお金が無かったので、とりあえず胸ポケット
を拡張してクロスと聖書を収納していた。今思ったんだけど、収納
するだけの荷物は無かった。
お金もないし。
さて、今日はもうしばらくログインできる。
友人が見つけるまで待とうかな。ってか、逆にこっちから彼に話
しかけてやろうかな。念話である。相手の名前と顔を知っていれば
繋がるらしい。
問題は彼が普通のギアであるということ。で、顔をエディットし
ていたら、繋がらないからである。
名前は判っている。ずっと使い続けている名前が有るからね。
﹃ユウジン。ユウジン聞こえるか?﹄
うーん。やっぱり聞こえないのかな。顔変えてるのかな。
50
﹃おい。ユウジン。返事してくれ﹄
﹁うっさいぞさっきから!﹂
うお!念話に集中していたら急に声が掛かる。公園のベンチに座
っていて声をかけられるって何かデジャブ。
顔を上げると、知ってる顔が居た。ってかノーマルモードの癖に
顔変えてないとかやっぱり面倒だったか。と、言うより彼の格好は
着物の着流しスタイルで、帯刀していてまさに侍の浪人だった。長
い黒髪は後ろで結わえている。
なんかかっこいいな。
﹁久しぶりだな。って、なんだその格好﹂
﹁今のお前に言われたくないな﹂
たしかに。俺たちの出で立ちは神父に浪人である。装備やローブ
を身につけた一般的な冒険者というより、NPCに近い格好をして
いる。
それもそうだ、俺は金銭的な目的から神父服しか持ってないし、
能力的にこれで間に合ってるんだが、彼の戦い方は敵の攻撃を躱し
て刀で斬る。ヒット&アウェイスタイルなわけで、重い物を身につ
けない、可能な限り身軽な事を選ぶ人だった。
えっと、STR&AGI型ってことか。基本育成を読んだぞ。2
DMMOだったがこの黄金比は変わらんはず。
﹁友録送ったのに許可されないからな、しろよ。ウィスパー飛ばせ
ないだろ﹂
51
そうだった今の俺は個人会話や友録、パーティなどノーマルモー
ドの便利機能が仕えないんだったな。それを含めて説明してやる。
﹁ああ、その件なんだけどな⋮﹂
﹁マジか! それ、すごいな。要するにリアルスキンモードっても
う一つの現実みたいな物じゃん。異世界じゃん。どうやんのそれ﹂
話を聞いた彼はテンションが上がっている。元々頭のいい彼はゲ
プレイヤースキル
ームにのめり込んでからそっちの知識も人に負けない様になってい
た。PSと言う物も彼に教えてもらった事がある。いわゆる廃人と
呼ばれる様になった彼は、剣道場の師範の仕事もほっぽってゲーム
に熱中しているのだ。
と、言うより。自分の剣術がどこまでゲームに通用するのか、ゲ
ームのスキルを現実で出来ないか。などを試しているそうだ。
ああ、カメ○メ波とか、銃を避けるとか。そう言うのね。実際に
矢なら手で掴んだって。
﹁俺のやりたい事が出来る世界じゃないか。たしかにノーマルモー
ドでも豊富な武器、スキル、職種、グラフィックで圧倒されるけど
な。そんなもん決まったデータでしかない。話を聞く限りアイデア
52
次第では俺の剣道場をここに作れるじゃないか﹂
そして、自分の流派を作ったら師範、鍛冶職人として生きるらし
い。
彼は翌日即行で推奨VRギアを手に入れて来た。アレって結構高
価な物で限定販売で全然出回ってないはずなのにな。と思っていた
ら。
﹃リアルスキンモードやってる人って初心者かお前くらいしか居な
いんだわ。情報も出回らないし、オークションで定価で売ってるぞ。
笑﹄
だそうだ。知る人ぞ知るって感じかな。ってか確かに、説明書に
も詳しい概要なんて乗ってないしな。現実の自分の容姿で、一人ま
でで、キャラデリ不可能な仕様ってまぁ普通のライトゲーマーやら
ミドルゲーマーとやらは選択しないらしい。
俺たちはその辺無頓着だったからな。
俺はユウジンからアイテムを受け取っていた。
前のデータは消すそうだ。ってかそれをしないとリアルスキンモ
ードが出来ないらしい。普通はアイテム化した状態で交換用のイン
ベントリーを開いてから行うんだが、俺に渡すと普通に着物と刀と
金貨は現物になった。結構な量の荷物だったが、俺には空間拡張が
有る。大きなアイテムは入らなかったが、現金に変えて来てもらい
預かった。
53
そしてその日、エリック神父とメリンダおばさん。そして子供達
に彼を紹介して、彼は金貨1枚払って俺が教えてもらった魔法を覚
えていた。
現実の感覚で刀が振れる事に彼はご満悦。ましてや応用でノーマ
ルモード時のスキルまで放ってしまった。ってかこんな風にスキル
を放ってたから行けると思ったらしい。スキル硬直やらキャンセル
やらがないらしく、自分の腕そのものがPSとして使用できるこの
世界にゲームを超えた何かを感じたらしい。
また一人、世界の住人が増えたよ。
54
友人の名前はユウジン︵後書き︶
やっと入り口に来た。って感じです。
さて、あの3人は一体どうなったのやら。
因みに彼の道場では早速RIOでの経験が取り入れられ、縦横無尽
な剣の流派。門下生の数はギネス記録級へと発展して行く予定。
55
謎武器を追って︵前書き︶
最近、現実の世界では本を読む事が多い。色んな知識を取り入れ
て、そしてRIOの中で使うのだ。俺は予想以上にあのゲームにハ
マっているらしい。ただ惜しむらくは、自分の才能故に前衛職では
パラディン
なく回復職になってしまっている点である。INTが低いので魔法
職は無理。STRも低いのでアタッカーも無理。
だがVIT値も他の人より高め設定なのだから聖騎士もこなせる
のではないかと模索している。俺は盾となりパーティを守る。
なんかカッコイイじゃん。これにしよ。
俺は読んでいた﹃ファンタジー大全﹄を閉じてギアの電源を入れ
た。
56
謎武器を追って
ログインした。いつもの教会である。
少し早めにログインできたので朝である。この始まりの街の教会
は意外と大きく、朝早い時間帯は礼拝に来る人が多い。そんな中に
混じって朝の祈りを捧げる。因みにやってもやらなくても良いのだ
が、この行為はMND少量増加のバフが貰えるらしい、1日持つそ
うだ。
神父職に付いていれば別に教会じゃなくてもクロスに祈りを捧げ
るだけでバフが掛かる。因みに俺は可能。
何故か。何故は知らん。謎だ。因みに聖書のとある一節を読み上
げると同じ効果をバフとしてパーティと認識した人に掛ける事が出
来る。
パーティが組めないじゃないかと以前発覚したが、パーティだ。
と自分が思ってる人には勝手にバフが掛かるというコトが判った。
まぁ、そう言う物である。として認識している。
だってRIOだしな。何でもありだ。常識の範囲で。
だがファンタジーの世界は常識を覆す。
そう言う物だと俺は思っている。
﹁ユウジンさんは外で素振りをしていますよ。朝早いのに、素晴ら
しい心がけですね﹂
礼拝が終ると、エリック神父が話しかけてきた。最近この人も不
思議なんだよな。NPCなんだか、同じプレイヤーなんだか全く判
らないんだ。レベルも判らないし、この間貰った武器﹃神父のクロ
57
ス﹄なんだけど、ユウジンもびっくりの謎仕様らしい。
一種のオリジナル武器としてありがたくお借りしておく。いつか
返す。
また俺の様に神父のお世話になる人が出て来るかもしれないから
ね。
そこで持ち上がったのが、オリジナル武器作成という物だ。
ユウジンは早速、日々の活動の中に街の鍛冶屋での修行を取り入
れ出した。現実世界では忙しくてなかなか出来ない事でも、この世
界では出来る。
刀の知識は人一倍のユウジンだ。コツを掴めばすぐさまオリジナ
ルの武器を作成してしまうんではないかと思う。
でね。
このオリジナルの武器なんだけど。売れるらしい。
これは、一稼ぎできるのではないかと。
まぁいいや。俺は今の所クロスしか扱えないから。STR足りな
いから。
未だ自分の武器すら満足に持っていないからね。
教会の裏手には空き地が有る。教会の子供達や、この街の子供達
がよく集まって遊んでいる場所だった。朝は人が居ないので鍛錬に
向いていると、ユウジンは好んで使っている。
いつもの侍の格好だが、上半身だけは脱ぎっぱなしである。剣の
為だけに絞り上げられた肉体は素晴らしく筋肉質で、リアルスキャ
ンの高性能さを表しているのか、過去に受けた傷も残っている。
﹁汗、やっぱりかくもんだな﹂
朝は少し空気が冷え込む。そんな中彼の身体は薄らを湯気が立つ
58
程の熱量を帯びていた。
﹁教える側になってから、鍛錬というものは今の己の実力を下げな
い為に行う物だった。日進月歩という言葉を忘れていたよ。そのス
トレスでゲームにハマったんだけどな。でもこの世界の俺の身体は
成長の可能性を見せている。勝てない敵が居る。強いヤツが居る。
これほどまでに嬉しい事は無かった﹂
﹁お前って異常に勝ち負けに拘る体質だったな﹂
﹁その通りだ。道場で師範になってから勝負をする事が無くなった。
その結果がネトゲ廃人さ。あいつらはヤバイ。俺もヤバいけど﹂
廃人ランカーと呼ばれる奴らの中でも、ユウジンはロールプレイ
しながら剣のみでランカーの仲間入りを果たすまでのめり込む程だ
った。
特に、和と刀を主体としたVRゲーム﹃BUSHIDO﹄では、
無類の強さを誇り剣豪と呼ばれていたらしい。一報俺は、ユウジン
が始めやすいからと勧められた2Dのゲームでコツコツクエストク
リアを進めているくらいだ。
あら?そう考えると、大分前から彼はゲームを始めているから。
勝ち負け関係無く意外とこう言ったゲーム類が好きだったはず。
﹁いや、元々ネトゲは大好物だったじゃないか﹂
﹁バレたか。だが、更にのめり込んだのは実際に身体を動かせるV
Rだな﹂
﹁どうだろうな。それより、刀の制作は進んでいるのかい?﹂
59
﹁ん∼芳しくないな。なんつーか判らんのよそのクロスの素材も魔
力が関わっていると思うんだが、俺には魔力の才能が無い﹂
レベル1の彼の才能はレベル10の俺と同じくらいだった。どう
せ剣術補正だろうと思っていたが、﹃武芸の天凛﹄とだけ書かれて
いた。
まさかの固有名付き。
一流は何をやっても一流なのか。
俺なんてMNDレベルアップ時ボーナスだよ。くっそう。まぁい
いや、世の中上には上が居るんだよな∼どうせ。
まぁ才能が無いより救われたってことで。
そんな事より、そんな彼を強弱で表すとSTR超、VIT強、D
EX中、INT微、AGI強、MND弱、LUK中である。MND
が低いのは、単純に仕事ほっぽってゲームするっていう意志の弱さ
からだろう。こと戦いに置けてはとんでもない集中力を発揮するわ
けなんだけどな。現実では。
数値化すると。
プレイヤーネーム:ユウジン
種族:ヒューマン
才能:武芸の天凛
レベル1
STR
50
100
MP50
DEX
90
HP:280
VIT
60
LUK
MND
AGI
INT
30
25
90
5
※リアルスキンモードはステータスおよびスキル振りが出来ません。
この時点で極振りより強いらしい。
そりゃそうだろうな、ノーマルモード基準で行くとこの時点で4
人分のボーナスポイントは確実だもん。
で、話が脱線してしまったが。
普通のゲームで強い武器を作るとなると、魔力を使用してミスリ
ルだったり、オリハルコンだったりを鍛冶技能精製して行くって言
うのがありきたりだったりする。その時点で魔力の才能がほぼ無い
ユウジンは詰んだ。と言っていた。
﹁でもゲームだかんな。俺はぜってーあきらめんぞ! 日本の製鉄
技術、刀匠の力で魔力に打ち勝つんだ!﹂
﹁まぁ、お前なら作りそうだな⋮⋮いや何となく﹂
さて俺が適当に考えた推論なんだが、このクロスはある意味イン
テリジェンスとも言える。別に喋りはしないが、俺の思う通りの形
をしてくれる。
想像が容易にできるものだと剣。そのまま長く大きくなる。そし
て鋒。後は鈍器。だが、伸びろと言ったら伸びる訳じゃないのであ
くまで武器としての誇りがこのクロスには有るようだ。そして俺の
魔力を介して意思を読み取っていると思っている。
61
あくまで、思っているだけ。これが何かは知らん。この世界の何
処かにヒントは隠されていそうだから、いずれ探しに行かなくては
ならない。
で、インテリジェンスから着目した。喋る剣とかナイフだよ。
俺が欲しいのはインテリジェンスな喋る本だ。
なかに魔法の呪文でも書いてれば、勝手に読んで勝手に攻撃して
くれるんじゃ無かろうかと、考えた訳だ。
他力本願である。だが、隣を見てほしい。彼と共に世界を渡り歩
くとすれば、本があと三冊は欲しいじゃないか!どこぞの無理ゲー。
あくまで推論でしか、妄想でしかないので、できればいいな。的
な感じで受け取ってほしい。
でも物的証拠としてこのクロスがある限り、この世界では可能な
んだろう。
そう捉える事にしている。
とりあえず、聖書の事は聖書さん。毎日読んであげて、毎日話し
かけてあげる事から始めよう。
完璧痛い人だが、俺は希望を信じるよ!!
お昼過ぎ。あれからユウジンは鍛錬の後、鍛冶屋で勉強しに行っ
た。
62
俺は魔力を扱う練習と瞑想︵聖書を持ち、座禅を組んで暗記して
しまった聖書の文章を目をつむりながら読み上げる作業︶をした後。
子供達の相手をして、世話をして上げていた。
すっかり﹁神父さまー﹂と呼ばれる事に慣れてしまっていた。
鍛錬についてだが、ユウジンはもちろん鍛錬の仕方を知っている。
だが、俺には魔法の鍛錬の方法なんてしらん。とりあえず感じる己
の魔力をこねくり回す事から始めている。
魔力ちゃんをこねくり回した後は、聖書さんをひたすら読み上げ
ながら目をつむるのである。
変態だ。今の俺は変態神父と呼ばれても致し方ない。
で、子供達と一緒に昼飯を食べて、ユウジンの居る始まりの鍛冶
屋へと行く。今日は弁当を作って来ている。彼がいつもお世話にな
っているから親方やそのお弟子さん達へのささやかな贈り物である。
鍛冶屋は南東の方向にあるため東の大通りを跨いで裏路地に向か
う事が出来る。ショートカットだ。
鍛冶屋、道具屋、教会、図書館、などの公共施設は基本的に大通
りに沿って作られているので、基本的に女神の広場に抜けて南に向
かえば間違いないのだが、広場前は未だプレイヤーでゴチャゴチャ
しているため、面倒くさいのだ。
ノーマルモードプレイヤーは基本的に裏路地を通らない。何故か
は知らん。
ってか俺は未だ関わりのあるプレイヤーがユウジンとあのロール
プレイ3人しか居ない。彼等は何をしているのかな。
機会があれば念話でも飛ばしてみようかな。
鍛冶屋の前に来るだけでも熱気が伝わって来る。
63
一応店ならエアコンくらい付けとけよ。
﹁おう、クボヤマか。今日もユウジンは来てるよ﹂
店番をしている弟子の一人が声を掛けて来る。剣に柄巻を施して
る最中だった。とりあえず弁当をみんなも分も持って来た事を伝え
ると、彼は工房に昼飯の声を掛けると先ほどまでけたたましく鳴っ
ていた金属を叩く音も止み始め、わらわらと食堂に移動し始めた。
もちろんその中にユウジンも含まれている。
﹁おまえは相変わらず違和感無いな﹂
﹁おまえは相変わらず違和感しか無いな﹂
うっせ。
昼過ぎに弁当もって鍛冶屋を訪れる神父なんか、俺しか居ないだ
ろう。多分。
﹁親方さん、ユウジンはどうなんですか?﹂
﹁いやー。極東の国だっけか? 異国の製鉄技術ってすごいな、今
ではこっちが教えてもらう側だ﹂
親方はドワーフの国で鍛冶を教わったという人族だった。
これによって俺たちの進む道は決まった。
ユウジンが鍛冶屋に通い始めた頃、俺は行くに行けなかった図書
館にやっとの思い出行けたのだ。主に彼の荷物を預かった際にくす
ねた金貨一枚でだ。
64
そこで地理の本を見つけてなんとかこの世界の今俺達が居る大陸
の地図を発見した。丁度その日の夜、ユウジンはドワーフの国に行
くと言い出した。そして俺も都合のいい事に、俺の行こうとしてい
た国は、魔法の国である。その国はドワーフの国から西に向かって
進むとあるのである。
﹃魔法都市アーリア﹄と﹃鍛冶の国エレージオ﹄。
俺達はリアルスキンモードだ、エリア制限などない。好きな場所
に好きな道を通って行ける。開放されていない場所に対しても何で
もな。
限りなく自由な世界がこのゲームの持ち味である。それが今発揮
されている。
ワクワクが止まらない。
明日。北に進路を取る旅商人の馬車に載せてもらって、この始ま
りの街がある始まりの国﹃ジェスアル﹄を北上する予定だ。国をい
くつか跨ぐのだその中で何かしらの発見も有るだろう。
この世界の時間で順調に進んで3ヶ月くらいかかるらしい。とし
て魔法都市はそこから更に1ヶ月か。リアル時間も結構使うな。
ま、すぐって訳じゃないし、気長に行こうか。
65
66
謎武器を追って︵後書き︶
あくまで出すのは初期ステータスだけなんだから!
天才と普通の差だけ判ればいいよね。
あと、武器屋に卸される武器の性能が始まりの街にして+1∼5の
品が出始めた事によって、予告無しのイベントが始まったのかとノ
ーマルプレイヤー達は騒然としていたらしい。
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思わぬ再会、同行者達
目覚めました。あ、いや別にログインしたとかそんなんじゃない
よ。
普通にRIOで寝て夜を明かしました。
RIOでは睡眠も重要になってくるわけで、ステータス補正で俺
は睡眠を我慢する事ができるが、ユウジンは疲れをいやす為に睡眠
が必要だと言う事が判った。寝ると精神力が回復するのね。やっぱ
り単純じゃないな。色々な要素が絡み合っている。
別に俺は科学者じゃないから、この世界の物理法則を解き明かす
役目は他の誰かに譲るよ。もし物理学者がこのゲームをやっていた
らだけどね。
俺もユウジンもリアル時間で今日明日は時間があるから、RIO
時間で北への進路を十分に稼げる事になる。
北への旅商人への許可は俺が貰っておいた。二人くらいなら大丈
夫らしい。移動費は一人銀貨5枚。50000ゴルド。ジャスアル
の通貨だ。大国なので、しばらくはゴルドで乗り切れると予想して
いるが、魔法都市や鍛冶の国など大きな国に行けばその国の通貨に
切り替えないと行けないみたいだな。
金貨銀貨は要するに世界通貨と呼ばれているものでどこでも仕え
るのだが、小さな買い物をする際には面倒くさいのだ。
俺のこの旅は、ほとんどユウジンの財産に依存している。笑
いや笑っちゃ居られない。
エレージオまでは二人旅なのでなし崩し的になんだかんだ行ける
と思うが、問題は、アーリアである。
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魔法の書物を読むにはジャスアルでも金貨1枚かかった。100
万ゴルドだ。入場用の預かり金貨だけでだ。施設利用料として銀貨
80枚だけ返って来たんだが、それでも入るだけで20万ゴルドだ
ぞ。
はぁ、あの日は地図を見るだけで終ってしまったが、また行きた
かったな。
さてさて、いよいよ旅立ちの時だ。
エリック神父に挨拶をしようと思ったのだが、居なかった。どこ
に行ったんだろうか。でも昨日の時点で旅に出る旨を話している、
馬車の時間もあるし、行くしか無いか。
必要な物は全て空間拡張したバッグに入れている。ただの革袋だ
けどね。お陰でお金がパーだ。なんと言う事だ。
今の俺の出で立ちは、黒い神父服に黒いブーツ。皮で出来たリュ
ックサックを背負っている。因みに片方の肩に下げるタイプのバッ
グや腰に付けるタイプの小袋しか無かったので、わざわざ道具屋と
裁縫屋に掛け合い作って頂いた。
フォレストウルフリーダー
アイデア料としてほぼ原価で作ってもらったのだが、その原価が
高かった。素材は最初のエリアボス。﹃森林大狼﹄の皮である。根
切りに値切って売ってもらった。
ってか俺を見たプレイヤーが目を丸くして驚いている内に勢いで
交渉して来た感じ。神父姿にびっくりさせちゃったかな?そんなに
珍しいかな?
そんな訳でお金もなくなったので俺の荷物は水とラビットの薫製
肉諸々と予備のナイフである。いつも使っているナイフはベルトに
挿している。
その他の荷物は、ユウジンの小物類だった。
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かれのINTとMNDの低さがここに影響している。
比較的重要性の高い物のみが入れられている。彼の空間拡張は重
たい物はそれこそかなりの重さまで行けるが、拡張性があんまりな
くて持ち物の種類が入らなかった。水と干し肉と予備の刀が数本と
それの整備セットだ。着替えは俺が持っている。
ってことで、鍛冶屋に挨拶してから来ると出て行ったユウジンも
そろそろ待ち合わせ場所の北門に向かっている頃だろう俺もそろそ
ろ教会を出ないとな。
え?今まで何をしていたかって、礼拝です。
﹁師匠、おひさしぶりデス。見事な礼拝っぷりデス﹂
懐かしい呼び名だなと思ったら、後ろにはブロンド美女がいた。
透き通った肌に、整った鼻筋。なんだかんだ、見た事あるような、
無い様な。でも髪は緑じゃないし、耳もまん丸だ。白人美少女って
感じ。
﹁えっと⋮エリー?﹂
その少女はコクンと頷いた。
﹁間に合いました。実はですね、数日前、彼女らも私を尋ねて来て
いたんですよ﹂
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そう言いながらエリック神父がドアを開けて入って来る。
後に続いて入って来た、ローブを来た小柄な女の子と、背の高い
オールバックのクールガイ。何となく察しは付くぞ。
エリー、凪、セバスチャンである。
﹁なんでまた﹂
少し動揺してしまって、上手く会話が切り出せない。そんな中、
エリック神父が説明してくれる。
﹁前にですね。あなたが図書館に行った後、彼女達もこの教会を尋
ねて来たんですよ。この世界の住人としてですね﹂
リアルスキンモードにしたのか。
﹁忘れられなかったそうですよ。あの時のあなたの表情が﹂
﹁ワタシ、師匠みたいナロールプレイをスルためにはどうスレば良
いか考えマシタ﹂
﹁ロールプレイじゃないけどな。って、エリーなんで片言なんだ?﹂
﹁ワタシは、日本に来てまだ間も無いかラデス﹂
﹁私もあなたの旅を心配していたんですよ。丁度彼女達が来てくれ
たので秘密裏に鍛えていたのですよ。ある程度この世界に慣れる為
の方法はあなたを参考にして、魔法を覚えて頂き、私の知り合いの
場所でこの世界のお勉強をして頂いていました﹂
71
な、なんだかただならぬ予感。
どうやら、神父は気を利かせてくれたみたいだな。旅立つ俺にか
けがえの無い仲間達を届けてくれたみたいだ。
﹁だってほら、あなた友達居ないじゃないですか﹂
何だとこの野郎!いるわ!最低一人は居るわ!なに?神父からみ
たら俺たちは友達じゃなかった様に見えたの?なんなの?うががが!
﹁思いっきり寄生虫ですね﹂
﹁⋮⋮⋮泣くぞ﹂
﹁冗談です﹂
リアルスキンモードは泣くエフェクトじゃなくて、本当に泣ける
んだからな!
﹁ヒキコモリってやつデスネ! ワタシが友達になりマス!﹂
思いっきり傷を抉って来る外人だな。ちくしょー。でも嬉しいよ。
友達が一気に増えた。やったー。
ははは⋮。
もう神父なんか知らんもん。
プリプリしながら俺は教会を出る。振り返ると神父はいつまでも
72
手を振ってくれていた。でも素直に嬉しかった。また再会できた事
にね。
時刻を知らせる鐘が鳴る。やべぇ、馬車の時間だ。マズい。
﹁置いて行かれる! 早く行くぞ!﹂
俺達は北門へ走り出した。俺はいつものショートカットを使う。
裏路地だ。彼女達を振り返ると、キョロキョロしていた。やっぱり
珍しいんだな。
﹁おっせーぞ。アレンさん待ちくたびれてんぞ﹂
貧乏揺すりをしながら、イライラした様にユウジンが言う。
間に合ったようだ。息を切らしながら弁明する。ついでに人が3
人増えた事もな。
﹁あれ? なんでその人達はどうした?﹂
ユウジンは息を切らしているエリー達3人を見ながら言う。まぁ
大体察しは付いているのだろうが。
﹁さっき、出発前に、エリック神父が、連れてけって﹂
﹁いいから息整えてから喋れ﹂
73
そうだった。体力は有るんだが、素早さが無い俺はそれはもう必
死こいて走った。だって余裕で付いて来るから、こっちがケツ叩か
れてるみたいだったんだもん。絶対足遅いって馬鹿にされる。
いや遅いけども。
事の顛末を話すと、ユウジンは判ってくれたようで、旅商人のア
ランさんに説明と交渉を始めた。エリック神父の話なら、と快く乗
っけてくれたアランさんに感謝だな。だが実際ギリギリ詰めても乗
れて4人までである。
ここでセバスチャンが旅商人に商売の勉強と、御者のやり方を教
わりたいと御者席で馬を動かす役目を率先してくれた。
流石セバスチャン。お前は良い従者になる。
多少バタついたが、俺達の旅がスタートした。
﹁俺はユウジン。こいつのリア友だ﹂
﹁師匠のご友人デスカ! ワタシはエリーと申しマス﹂
﹁アタシは凪。彼女のクラスメイトよ﹂
﹁セバスチャンです﹂
おいセバス・・・。まぁ話を聞く限り彼女の学友だろうな。
お互いが自己紹介を済ませ、俺は彼女達に旅について話した。こ
れからの進路と目的である。もしかしたら付いて行きたくないかも
しれないしな。途中で別れるかもしれん。
﹁ワタシはロールプレイに拘りマス! エルフの姫騎士デス!﹂
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まだ諦めてなかったのな。でもまぁ、容姿は近いからいいんじゃ
ない? 聞く所によると、彼女は北欧出身の様だった。エルフの伝
承が残っているようで、子供の頃から憧れていたようだ。才能は﹃
氷精霊の加護﹄。
おい!また固有名!なんかすげーぞ!
﹁ん∼アタシはまだ決まってないけど、エリーが心配だかね!﹂
典型的な委員長タイプと見た。才能は﹃探究心﹄。
だから!固有名!
﹁私は、お嬢様の良き従者でありたいです﹂
才能は﹃多彩﹄だった。
もういいよ。セバスチャン。お前だけは信じてたのに。
﹁なんつーかクボ。お前の才能とかカスみたいだな﹂
最強の才能を持ったヤツが更に抉って来る。何だよ俺なんて所詮
そんなもんだよ。くっそ、才能なんか努力で凌駕してやる。と、俺
は才能も有って努力を怠らなかった結果達人の域に居るユウジンの
前でそう悪態をついた。折れそう。
特に何か有った訳でもなく。日は沈み、夜になった。
ずっと馬車を動かしていたアランさんとセバスチャン、そして女
性陣には就寝を促し、俺とユウジンで夜の見張りを担当しようと案
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を出したのだが、彼等にはあえなく却下された。
流石に人数が多いので、アランさんには眠ってもらっている。っ
てか、俺は本気を出せば数日は眠る必要が無い︵試した︶ので、別
に最初の街へ向かう一日二日くらいどうってことないんだが。
騎士になるには経験も必要だそうだ。
順番はエリー、凪の二人が前半で、俺とユウジンが後半を担う事
になった。セバスは中番って感じで、前半の途中から後半の途中ま
でを担当する。
前半は暇だな。とりあえず、この無駄に才能豊かな連中に勝つべ
く魔力ちゃんをこねくり回しながらクロスたそと戯れて、聖書ちゃ
んを抱きしめる。
こういう言い回しは変態だな。最近、ユウジンに教えてもらった
ファンタジー小説を勉強がてらに読んでいたのだが、存外面白いな。
ライトノベル。
要するに。
魔力操作を自分の周囲に展開させて、その中で念話の応用、念動
を使いクロスを浮かせて動かす練習をしながら、聖書を手に持ちひ
たすら瞑想と称して暗記した中身を読み上げる作業である。今では
普通に寝転びながら出来る様になった。まぁ、普段は座禅を組んで
いるが、いずれは自分の身体も浮遊させれる様になりたい。
デスタ○ーアみたいに。
ユウジンは俺の隣で黙って寝ている。爆睡だ。まぁ魔力を感応す
る事に関してはとてつもなく鈍感なので、邪魔はしていないだろう。
そして交代の時間になる。
76
セバスが準備してくれた夜食を食べつつ、俺は近くの木に背中を
預け修行の続きを行う。まぁ何か有ったら近くで素振りをしている
ユウジンが多分気付く。俺も集中力はとんでもないくらい上がって
いるので、異物が来たら判るしね。
セバスの飯は美味かった。とんでもなく。彼の﹃多彩﹄は、なん
でも出来る彼の性格から現れたんだろうか。納得である。
ちなみにみんなのテントも彼が張った。そして野営の準備も彼が
行った。
この数時間で彼はとんでもなく必要な人材として変貌を遂げた。
彼は俺たちの修行風景を静かに見守っていたようだ。自分の寝る
時間になったら音も無く就寝していった。
何事も無かった様に朝が来た。この野営パターンは定型になって、
後々セバスが俺たちの修行に混ざる事になる。
77
思わぬ再会、同行者達︵後書き︶
この世界の人は一日の始めに礼拝することによって、MND補正を
貰い﹃一日頑張るぞ♪﹄という風に仕事を開始するのである。
やる気スイッチ。
プレイヤーの露店で物を買う神父NPCの噂が出回っています。
78
とある街の教会で。
大体初めの街から二日程で一番近くの街にたどり着いた。
遠くない?と言っても、北への進路はこんなもんだった。一番隣
国に近い経路と言った風に、ジャスアルの国は南に向かって伸びて
いるからだ。国境までは2週間程である。直線距離はもう少し短い
と思うが、そこまでレンジャープレイで強行する気もない。
因みにノーマルモードはエリアポータルが設置されていて、ある
程度省略されているらしい。セーフティーエリアと言うそうだ。別
に使わなくても行けるらしいが、大抵のプレイヤーは使っているん
だと。
ま、ゲームだしな。そこまでリアルなロールプレイするんだった
俺は推奨ギアを購入する事をお勧めする。
街に入ったら次の北行きの馬車を見つけなければならなかったが、
セバスが代行してくれた。必要な物はセバスが準備するらしい。
まぁ、道中出て来たモンスターを倒した素材、魔石もだね。彼が
管理している。って言うより、それが出来そうなのが彼くらいしか
居なかったのだ。
廃人と呼ばれるユウジンは、そう言ったコモン系の魔物に興味な
いらしい。やるなら強敵、レイドボスだと言っていた。
まぁみんなのお金として旅の資金としてセバスに預けておこう。
そう言う事でみんな合意した。
で、ふとやる事が無くなった俺はどこに向かったかというと。
79
教会である。
やっぱり足を運んでしまうんだよな。癖なんだよもう。
後ろからキラキラした瞳を向けながら付いて来るエリー。何故か
彼女も付いて来た。まぁ特に迷惑でもないし、美人と一緒に歩くな
んてまるでデートみたいじゃないか。悪くないね!
﹁ロールプレイを忘れナイ心。素晴らしいデス師匠﹂
ちょっと話しかけるのやめてくれないかな。一日一回は聖書読ま
ないと落ち着かないんだけど。まぁ今朝読んだけど。それとこれと
は別だ。
教会でこそ礼拝は真価を発揮するんだ。
﹁君は、聖騎士になりたいのだろう?﹂
そんなにロールプレイに拘るならちょっと付き合ってやろうじゃ
ないの。と思ったら自然に荘厳な声がでた。自分でもびっくりであ
る。
﹁エッ⋮﹂
急な変貌に戸惑いを隠せない様なエリーだ。
﹁清く正しい騎士で有るべきなら、そこに突っ立ってないでただ真
摯に祈るべきじゃないかね?﹂
ああなんか今の俺すっごく気持ち悪い。すっごい死にたい。死ん
でも生き返るけど。すっごい死にたい。
彼女はキリッと真剣な表情になる。俺の言葉を受け止めた様だな。
80
﹁配布されている聖書を手に取り、毎朝と就寝前に必ず読みなさい。
騎士と言え、聖職者の一員だという意識を培いなさい﹂
﹁ハイ、神父﹂
俺は聖書の一節を彼女に読み上げてあげる。教会に必ず有る女神
の像の前で跪き、片方の手を胸に当て、もう片方はクロスを握りし
め目をつぶる。聖書は念動で浮かせて、読み上げる速度に合わせて
開いて行く。
まぶたの裏が白くなった。たぶんステンドグラスの光が俺を照ら
しているんだろう。今の俺はまさに神々しいはずだ。
俺の口に合わせて、彼女も同時に読んで行く。若干ぎこちないが
まぁ彼女のひたむきな祈りは伝わって来る。
祈りは終了した。
目を開けてエリーを見ると。キリッとした顔の中、その瞳はウッ
トリとしていた。ロールプレイと感じている間はまだまだだな。
俺は何を考えているんだ。
ちがうちがうロールプレイじゃない。でも恐ろしく自然に祈りを
教える事が出来ていたな⋮。ああもう。どうにでもなれ。
立ち上がると拍手が聞こえて来た。後ろを振り向けば、椅子に何
人もの人が座っていて、聖書を片手に俺の祈りを聞いていた。
その顔は皆神を見る様な羨望の眼差しを感じる。新手の宗教家よ。
お前らからすれば俺は一人の信者なんだけど。
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﹁どこの高名な神父様でしょうか。その少女に対するお導き、そし
てその祈り。素晴らしかったです﹂
同じ様な神父服に身を包んだてっぺんハゲの男性が手を握って来
る。たぶんこの教会の神父なんだろうな。
あと同じ様な神父服じゃないな、語弊が有った。俺の神父服は戦
闘用にポケットやらなにやらが多くなっている。一枚布で出来たチ
ープな物じゃない。戦闘服だから戦闘服。コートみたいな感じ。ズ
ボンもはいてるよ。
﹁いえ、私は修行の身なので名前はありません。ですが私をお導き
くださったのは始まりの街の教会の神父様であるエリック神父です﹂
荘厳な声が出る。なんだこれ。あと私ってなんだ一人称違うぞ俺。
﹁ははぁ! あの、エリック神父! とても素晴らしい方に導かれ
たのですね!﹂
さすが、エリック神父だ。こんな所まで名前が広がっているなん
て。そしてそのやり取りを見たエリーは、﹁神父モード⋮﹂と呟い
ていた。
ちげーよ!いや、違わないけど、違うんだよ。
この後、礼拝に来ていた方々にお布施を頂いた。結構な額になっ
たので、恥をかかない様に少しだけ頂いて残りはこの教会に寄付し
て来た。
そのやり取りを見て、さらに感激した様にハゲ神父は手を握って
振って来た。
もう行けねーじゃねーか。あの教会。目立つって得意じゃないん
だよね。苦手でもないけど。
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﹁神父様﹂
﹁名前で呼べ﹂
﹁じゃあ師匠﹂
﹁もうそれで良いよ。なに?﹂
﹁聖騎士って何が必要なんデスか?﹂
能力値的にはVITとMNDとSTRが必要だと思うが、彼女は
心構えの事を言っているんだろうか。
﹁神父が人を救うなら、君たちは人を守るんだ。俺たちの手が届か
ないところもあるだろう、救いきれないからな。その間人々の希望
を守る騎士。それが聖騎士なんじゃないだろうか﹂
我ながら臭い事を言ってしまったが、それでも彼女には響いたら
しい。そんな事を話しながら集合場所である宿に向かった。そして
彼女はそれからロールプレイという言葉を発しなくなった。私と同
じ時間に置き、聖書を読み。クロスを握っている。
彼女のクロスは、道具屋で買ってあげた。ネックレスにして常に
鎧の胸当ての中に閉まってあるらしい。
いやいらんがなそんな情報。胸とか。意識してまうやろ∼。
83
さて、夜が開けた。ベットだったのでぐっすり眠れた。
そう言えば前日にセバスから報告が有った。馬車が見つからなか
ったそうだ。次の馬車が来るのは5日後らしい。森を迂回する馬車
道を歩くより、三日掛かるが徒歩で森を抜けるルートも有るらしい。
馬車道を歩いても五日で着くそうだ。
微妙だな。ちなみに馬車で向かっても三日だと。
で、みんなで話し合った結果。特にこの街には見る物も無いので
次の街に向かう事になった。徒歩で森を抜けるルートでだ。
まぁこの状況とくに問題は無いんじゃないか?みんな、戦闘は申
し分無いからな。さすがノーマルプレイでそこそこいいとこ行って
いた連中である。
俺はほら、初心者だし。ど畜生。
自室で早朝の祈りを行って。宿の食堂に向かう。もうみんな荷支
度を済ませて集まっていた。俺も混じって朝食を食べる。固いパン
とうすいスープだったが、大分慣れた。世界の文化レベルだとこん
な物だろうと思う。むしろ味覚がある事がすごい。
この程度なら自分で作った方が美味しいが、まぁ郷に入っては郷
に従えって事だ。
ここからは徒歩での旅だ。戦闘になる事が多いと予想されるので、
みな一様に準備だけはしている様だった。
俺としてはこの森で上手く行けば一稼ぎできるんじゃ無かろうか
と期待してる。パーティの金欠もこれで解消できると良いが。
84
あ、俺は自分のお小遣いくらいは持ってるよ。
昨日のお布施が少し残ってるからね。だからといってそれだけで
稼ごうとは思わないけど。まぁ何かしらの事は成し遂げたいな。
まず先にオリジナル武器だ!インテリジェンス魔本?インテリジ
ェンスブック?
一日中魔力の修行を行っているが、しかりステータスは伸びてる
のかな。まぁだいぶ自由に魔力を動かせる様になったから、成長は
していると思う。
昼間は特に問題なかった。時折出て来るモンスターを狩りながら
進む。南は動物系のモンスターが多かったな。草原なんてほぼ動物。
食用だしね。北は魔石持ちのモンスターばかりである。
魔物ってやつだね。そろそろ相見えるんだろうか。ゴブリンやオ
ークというファンタジー恒例の魔物達と。
﹁なんか∼不思議だわ。森の中なのにこんなに平和なんだもん﹂
ラビットの皮をちくちく裁縫しながら凪が言う。
今は休憩中である。この時間はもっぱら俺は魔力ちゃん、クロス
たそ、聖書さんと組んず解れつしていて、ユウジンは荷物入れに入
っている超重量の鉄のかたまりを括り付けた練習用の刀を振ってい
る。
セバスは基本的にラビット解体してご飯の仕込みをしていたり、
道中集めた野草を調合していたり、俺に混ざって聖書を読みふけっ
ている。あれはハマったな。
そんななか凪は手芸部にも入っていたそうで、様々な縫い物を行
っていた。
85
﹁昼間はね。それより凪は何を作っているんだ? 見ようによって
はお前の方が平和なんだけど﹂
誰に放たれた言葉か判らなかったので、とりあえず俺が返してお
いた。
﹁確かに! 最近なんかやる事が無い時はこうしてると落ち着くの
よね﹂
判る。その気持ち判る。俺だって暇があれば聖書読んでるし。
﹁職人みたいだな。その道に進んでみたら?﹂
﹁そうそう。それ考えてたわ。ドワーフの国でしょ。細工師に興味
あるのよ。ほらアタシって手先だけ無駄に器用だから、工芸品とか
チャレンジしてみたいなって﹂
なんだかんだ皆何かしらの目標を持って生きてるな。そこに珍し
くユウジンが口を挟んだ。
﹁細工師ってことは付加魔法みたいなことができるんじゃないか?
武器や装備に描く細工でその武器の性能が上がるみたいにね﹂
なに?そんなのも有るのか?これはためになりそうだから詳しく
聞いておこう。戯れながらも俺は二人の会話に耳を傾ける。
﹁盲点よ! 忘れてたわその存在。それなら私でも役に立てるわね
∼。どうするのかしら﹂
﹁ん∼まぁ俺も詳しくはしらんけど。とりあえず知ってる魔法の呪
86
文でも何かに刻んでみたら?﹂
﹁そんなもんよね⋮。模索してみる事にしようかしら﹂
なるほど。呪文を書くのね。始めようかな聖書の書き取り。まぁ
最初は指先に魔力を載せて聖書をなぞる事から始めよう。ペンとイ
ンク無いし。
ちなみに凪は役に立ってないなんて事はない。俺の服は自動修復
だが、他の人達の服は彼女が直している。そして、魔法も器用にこ
なすし、連携に差し支えのない魔法で支援してくれる。
なんせ、前衛が俺、ユウジン、エリーだからだ。その内ユウジン
がアタッカーでエリーがタンク。俺がサブアタッカーでサブタンク
といった構成を作っているらしい。これはユウジンの原文ままであ
る。
セバスチャン、凪の居所は、まさに痒い所に手が届く。といった
ところだろうか。
っていうかまぁ俺がモロパーティー向けのプレイヤーじゃないか
らね⋮。ユウジンが言うには前衛に出て来るくせにMND極の変態
育成らしい。
ご、ごめん⋮。でも個人技が多いのは仕方ないと思うよ。うん。
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とある街の教会で。︵後書き︶
書いてて全然VRMMOじゃないと思う。無理矢理ステータスの
横文字を出して軌道修正しています。笑
ぶっちゃけ適当に書いてたらこうなっただけです。その内Onl
ineになります。多分
88
リベンジ
意外とこの世界のNPC、要するに住人達の中にも世界を旅する
人達は多い。始まりの街には無かったが、冒険者ギルド、もしくは
それに似た様な場所があるのかもしれない。
休憩していた俺達を追い越していく人達が多かったからな。だが、
追い越して行く人達は、何をそんなに急いでいたんだろうか。
日も暮れて行き、セバスが野営の準備を始め出した。大分慣れて
来たな、外でのキャンプも、当然外ではログアウトできない。ログ
アウトの基準は周囲が安全で安心して眠れる環境でないと行けない
事だ。
ノーマルプレイヤーのみセーフティーゾーンや女神の泉、教会な
ど、ログインログアウト用の安全施設が用意されているが、リアル
スキンプレイヤーは外で寝ないと行けないのだ。
幸い、まだ連続時間ログイン規制にも引っ掛かる事は無いし。ガ
リガリ進んで行くぞ。
見張りの時間になる。いつも通りだ。俺、ユウジン、セバスは各
々が時間つぶしの為に何かしらの作業をやり出す。
ちゃんと見張れよって?見張ってるよ。
おかしな気配を感じた。俺は魔物だったら気配を感じ取れる。神
父だからだ。
いや、意味わかんねーよと思うかもしれないが、最近になって悪
意のみだが感じ取れる様になっていた。日々日々神のご加護がパワ
ーアップしてるのかもしれん。
﹁ユウジン﹂
89
﹁なんかいるな。セバス、女性陣を起こしてくれないか?﹂
ユウジンも俺の言いたい事を判っていたようだ。セバスは頷くと
テントで寝ている二人を起こしに行った。俺はクロスと聖書を浮か
べたまま気配のする方向を睨む。
風を切る様な音がした。
ユウジンの刀を振るう音だった。踏み込みの音はしなかったが、
彼が先ほどまで立っていた地面は大きくえぐれていた。
そして彼は首だけになったゴブリンを鷲掴みして戻って来た。グ
ロい。
﹁一匹だけだった。ゴブリンの癖に珍しいな﹂
ゴブリンの生態くらいは判る。奴らは群れて、小さなコロニーを
作り生活している。何でも殺して食べる。個体の力は弱いが、群れ
る事に寄ってイナゴの様な天災として恐れられている。
もっとも、ゴブリンがそこまで巨大なコロニーを作る事はほぼ無
いそうだ。魔物の中の最底辺に位置するから大抵共食いまたは、天
敵に淘汰されるらしい。国境付近の森はそこまで深くないそうなの
で、可能性はほぼゼロである。
﹁はぐれゴブリンってやつ?﹂
﹁どうだろうな。偵察だったらマズいかと思って音を立てなかった
けど。はぐれにしろ偵察にしろ。移動した方が良いのは確かだぜ﹂
ユウジンの意見に賛成する。セバスもそれが判っていたのか、火
90
を消して、テントを片付け出している。
荷物は全て片付いた。俺たちは移動を開始する。
その間俺は、いつでも戦闘態勢を整えておく。最近になって、素
手で物を殴るより、無駄に多いMPを使い、念動で操作できる様に
なったクロスを操ってぶん殴った方が強い事が発覚した。STR値
が全く持って成長していないって事だと思う。攻撃がトコトンMP
依存である。まぁMP高いから良いんだけど。
クロスは重さを感じさせない。俺の念動はそこまで重たい物を持
てない。
例えばクロスは剣状にしても、重さは変わらず操れるが。ユウジ
ンの刀はダメだった。重すぎるみたいだ。
念動魔力に強度が出せないのはINTが低いからだ。この欠点は
どうして行こうかな。
と、言うより以前精密鑑定で見たレベル10のときのステータス。
DEX中、VIT強、MND超という感じだった。どのRPG攻略
にも当てはまらない謎ステータスだった。
どーすんのこれ。まぁこのまま行くしか無いんだけど。いずれに
せよ修正不可である故に。
﹃ギィイイイイイイイイイイイイ﹄
移動を開始して数分。
少しざわめきが増していた森に、魔物の悲鳴が響いた。ユウジン
が言うにはゴブリンの悲鳴らしい。その悲鳴と同時に森の奥が更に
騒がしくなってくる。
スキルブック
ユウジンは自然体で森を見て。セバスは長剣を抜き。エリーも盾
と片手剣を構えて。凪は魔導書を開き杖を構える。
91
俺は既にクロスと聖書を自分の両肩当たりに浮遊させている。
集中すると急に静かに感じる森の中。初めは乱雑な足音が少し聞
こえるくらいだったが、その足音も次第にかなり大きく、数の多い
物へと変貌を遂げていく。
ゴブリンの強襲だ。しかも十数ではなく。数十のゴブリンが、俺
たちに向かって突進を仕掛けて来ていた。
ユウジンも突進する。真っ正面から迎撃するつもりである。距離
が有るなら凪の魔法でも良いと思うが、まぁそこまで距離がある訳
スキルブック
でもないので、詠唱の時間は稼げないだろう。俺の聖書からヒント
を受けた魔導書を用いた攻撃でも間に合わない程、ゴブリン達の足
はまるで何かに追われているかの様に速かった。
前線がぶつかる。
流石のユウジンである。5匹程のゴブリン達を一瞬で切り裂いて
いる。余したゴブリンを俺とエリーが処理し、セバスと凪は支援と
後方管理だ。
違和感が有る。何かおかしいぞこのゴブリン達。俺らを見ていな
い。気がする。
﹁ユウジン!﹂
﹁お前も気付いたか! こいつらの後ろに何か居るぞ! そいつか
ら逃げてるみたいだ!﹂
そう、ゴブリン達はまさに何かに追われていた。俺たちが迎撃し
ても、こっちを振り返る様子も無く俺たちが逃したゴブリンは、殺
92
される仲間達を無視して森の奥に逃げ去って行く。
そうして、この空間にはゴブリンの死体と。
その死体を作った奴らが残った。
こ、こいつは!
俺はすぐ鑑定する。エリーやセバス、凪も覚えているようだった。
俺は忘れる事も無い。バラバラに吹き飛んだ思い出があるからな。
キラータイガー・ダーク
人食黒虎
﹃人を食べ、その味を占め巨大化・凶暴化したブラックタイガー。
夜行性、奇襲の時、闇に紛れられる様にその身体は黒くなっている。
闇属性の爪を持つ﹄
あ、何か違うけど。
とりあえずキラータイガーだ!あの時よりすごい黒くて大きくて
強そうだ。
﹁師匠、これはあの時ノ!﹂
﹁俺がバラバラにされた時のヤツだな﹂
﹁それはごめんってば﹂
﹁なんだか知らんがヤバそうだな! だけど仕留めたもん勝ちって
ことで﹂
そう言いながらユウジンは斬り掛かって行った。いや、普通にパ
ーティで協力して倒すボスじゃないのか!おい廃人!勝手に燃え上
93
がってんじゃねーよ。
ゴブリンとの戦闘で、テンションが上がっているのか、彼はヤバ
イだったりバラバラにされただったり不穏な単語を聞くと同時にワ
クワクした様に突っ込んだ。
バトルジャンキーって言うんだっけ。
そして彼は意外と善戦し、一人で巨大な虎の片手を切り落とす事
に成功した。だが、怒りを増した虎の攻撃はかなり速かったらしく。
虎の爪をわずかに腕に擦っていた。
そして、低いMND値のお陰で、一瞬にして暗闇の異常状態にな
ってしまった。
﹁やば! 見えない! 暗闇かかった!﹂
それでも気配だけで逃げて避ける受け流す彼はステータスこそ追
いついてないが、感覚は達人のそれなんだと思ってしまった。
エリーを彼の支援に回し、俺はクロスを構えて聖書を開いた。と
りあえずMND増加の祈りをする。今では思っただけでで聖書のそ
のページを開いて魔力でその一節をなぞらえる所まで自然にできる
様になった。
そしてクロスを鉾の大きさにする。ただ単に扱いやすいからだ。
剣の方が取り回ししやすいけど、こいつの場合。
あの時鉾で戦っていたから、リベンジの意思も込めて使おう。
クロスの仕様についてはだいぶ理解したからな。攻撃力だけは一
級品だと思う。MND依存だしね。
虎の攻撃を弾く。そして、鋒の槍になってる部分で突き刺す。距
離的には虎の間に鉾、そして魔力操作の空間も含めると中距離戦闘
とも言う。さすがにこのクラスの相手に素手で戦闘を仕掛ける事は
戦闘馬鹿じゃないから無い。
94
素早さに劣る俺は、敵は転がして叩くという戦法を好んで使う。
だって避けれないんだもん。
おちょくる様な俺のクロスの動きに虎は怒り狂う。
﹁なんか不思議な戦い方デスネ﹂
﹁ステータス的には回復系だが、あいつの思考は基本的に前衛だか
らな﹂
そう、俺はあくまで敵前で堂々と戦いたいのである。
あ、でも無理だったらそれ相応の戦い方するけどね。
っていうか、攻撃魔法知らないから。出来ないだけ。
クロスに目が向いてる間に少しずつ距離を近づけて行く。
いけ聖書さん。俺は開いた聖書を虎の視界を防ぐ様にぶつける。
何故か悲痛な叫びが虎から上がる。
﹁ダメージを受けている様デスガ?﹂
﹁あたしもそう見えるわよ﹂
﹁闇属性だからじゃね?﹂
怯んだ隙に、俺は鉾を握って虎の脳天に叩き落とした。すごい声
が虎から響いた。昏倒した様に虎が倒れる。クリティカルヒットか
!死んだか?
どうやら死んでいるようだ。リベンジを果たしたぞ。
95
﹁そして本当の敵が今後ろで虎視眈々と魔法で狙ってイルのデスネ﹂
﹁だからもうしないってば﹂
戦いが終われば平和なもんだ。
96
リベンジ︵後書き︶
魔力操作をひたすらやっている状況なので、嫌でも魔力を感知す
る事が上手くなっています。敏感です。日々イチャコラ戯れている
ので敏感になっているのです。聖書さんもクロスたそも魔力ちゃん
も敏感に。
97
農業大国﹃アラド公国﹄へ︵前書き︶
ふぅ。疲れたな。ログアウトしてVRギアを見つめると、あの世
界はゲームなんだなと感じる。世のノーマルプレイヤー達は、一体
いつになったらリアルスキンモードの魅力に気付くんだろう。
いや、すでに何人かはリアルスキンモードの世界を渡り歩いてい
るんじゃないだろうか?
そう考えるとその人達と出会う時がすごく楽しみである。いった
いどんな成長を遂げているんだろうか。
ってか、あの商店街、よく福引きの商品にRIOと推奨ギアを持
って来れたな。今後とも贔屓しよう。とりあえず、軽食を挟んでロ
グインしよう。
その前に、何かしら使えるファンタジーの知識を勉強しておく。
98
農業大国﹃アラド公国﹄へ
キラータイガー・ダークの立ち位置は、裏エリアボスといった形
なのだろう。俺たちは森を抜ける直前に殺されたフォレストウルフ
リーダーの死骸を発見した。こういう対立も有るんだろうな。たま
たま活動エリアが被ってしまったから殺されたんだろう。
皮は魔力を帯びていたので保存状態は良好だった。その他素材と
して仕える部位を剥ぎ取った。
で、森を抜けて馬車道沿いを進み、たどり着いた国境の街はとい
うより、砦と行った方が良いかな。そんな感じだった。
街としての最低限の機能はあるが、兵士の駐屯地といった具合に、
国境を守る兵士が住んでいる。
なんか、派遣社員って感じ。もしくは左遷された社員。または単
身赴任。まぁ家族を連れて来ている兵士も多かったので、公務員の
出張先だな。うん。
入り口で止められないか心配していたが、無事に通る事が出来た。
だが、国境を通る際に、この砦に派遣されているアラド公国からの
使者に入国用の印を貰わなければならなかった。
まるでパスポートだな。木の棒に巻かれた羊皮紙を広げそこに判
子を推してもらう。よく見ると﹃パスポート﹄って書いてあった。
パスポートかよ。
俺たちの様なただの旅人は銀貨10枚で通る事が出来る。商人で
あれば金貨1枚になるんだと。
まぁそんなものか。
ってことで、些細な問題も無く、俺たちはアラド公国に入国した。
99
国境の街から、やや北東に進路をとりながら平原を進んで行くと、
アラド公国の最南端の街に着く。この国は平地が多く、農業に力を
入れていた。街に近づくに連れて、ただの草原が牧草地から、耕作
地域へと変化して行った。
遮蔽物が無く吹き抜ける風は気持ちいいものだ。
旅商人の馬車に同乗できた俺達は、それほど時間をかけずに初め
の街へたどり着いた。
昼間はその街で補給をして、その他諸々観光をした後。夜はこの
町の宿で行ったんログアウト。現実時間で1時間ほど休憩してから、
集合になった。
俺とエリーはまっすぐ教会に向かう。
﹁師匠、二人っきりデスネ。フフフ﹂
いきなり何を言い出すんだこの子は。
聖騎士を目標としている彼女は、まだ16歳だそうだ。外国の女
の人って年に似合わず大人びてるよね。俺だって最初は同じ年くら
いだろうと思っていた。
まだ少女である。そんな少女が己の目標に向かって必死に頑張る
姿を見ると、此方としてもほっこりするのである。
それはユウジンの﹃聖職者と騎士の修行を積めば聖騎士と名乗れ
るんじゃん﹄の一言から始まった。
俺のとなりで決まって聖書をよんで、聖職者として精進しつつ。
騎士になる為のトレーニングをユウジンから学び始めている。彼が
アタッカーなら彼女はタンク。攻撃する彼を必死に捌く彼女は、そ
の玉の肌に傷がつこうとも一切気にせず耐え抜いていた。
セバスチャンは、自分の領分を弁えているのか、ただ黙々と自分
100
の仕事をこなしていた。クラスメイトだっけ?心配だろうな。従者
としても。
大丈夫だ、そんな彼女の傷は俺が直してやる。傷んだ髪もリカバ
リーで可能な限り修復してやる。
﹁もっとやりたい事をしてもいいんだぞ。観光とか﹂
﹁イイエ。ワタシも聖職者として常に規律のある心がけを持ちたい
のデス﹂
﹁そっか﹂
まぁどんな規律か判らないが、彼女なりに聖職者としての在り方
を探しているんだろう。いや、俺は聖職者とかじゃないし、別にお
布施貰って半分寄付してるのだって、世間体気にしてるからだよ。
教会で礼拝を住ませて帰路につく。幾分まだ時間があるので、こ
の町をぶらつこうかな。この町はジャスアルからの商人が必ず通る
街なので、意外と楽しめた。
露店で魔術の指南本が無いか漁るのも良いだろう。威力は低くて
もそろそろ攻撃魔法を覚えないと、この先やって行けるか判らない。
いや、別に聖書さん。浮気する訳じゃないよ!
違うんだからね。
なんか胸元の聖書さんが不機嫌になった気がしたので、そう思っ
ておく。なんだこれは、これが聖書萌えと言うヤツなんだろうか。
どこまで毒されているんだろうか。俺は⋮。
露店に来たら、凪がいた。そして何やら騒がしく話していた。
101
﹁おねが∼い! あと少し銀貨まけてくれないかしら? その本が
ど∼うしても読みたいのよね!﹂
彼女の才能の探究心は、気になる事が有るとどうしても止められ
ない。
まさに辞められない止まらない。っていう感じになる。
スキルブック
彼女の魔術本だって、私の聖書が元で出来た物だ。彼女は意外と
行き当たりばったり試す事が多い。今の彼女は燃える様な真っ赤な
髪なのだが、本当は黒だそうだ。リアルスキャンのバグか?と思っ
たが。
なんとも、リアルスキャン前に染めていたそうだ。何かしら試せ
る事が無いか試した結果だろう。そして、ノーマルモードで使って
いた呪文が仕えなくなるのを見越して、ノーマルモードのヘルプ機
能が本形式なのを利用して、先にリアルスキンモードでキャラ作成
していた二人に渡していたのだ。
そして、その試みは成功し。まんまと彼女は取得していたスキル
エンサイクロペディア
を持ち込み、尚かつ、破壊不可属性の付いたとんでもない物を手に
入れたのである。
その時、ヘルプ本は名前を変えて﹃世界大全﹄となっていた。
ウィ○ペディアだ。項目は未だ知ってる魔法しか乗ってないらし
いけど。
話がそれたが、なんだかもめている様なので穏便に解決すべく介
入した。
﹁どうした凪。回りの皆が見てるぞ﹂
﹁あ、いけない。ごめんなさいおじさん。アタシどうしても気にな
102
っちゃう事が有ると止まらない性格になっちゃったの﹂
そうだな、全く持って止まらないな。本の使い方が判らなかった
彼女は、俺が聖書を魔力で動かし文を魔力でなぞらえるトレーニン
グをしている事に閃き。
その日使わなかった魔力を本に与える事にしたそうだ。本に魔力
溜まるのか知らないけど、馴染むのは確かだ、重さゼロで浮かせら
れる様になるからね。
そして元々高めのINTでも足りないその知識欲は彼女のINT
の成長を促しているようでね。世界大全はあっという間に魔力を帯
び、貯める様になった。因みに他の本で試してみたら消滅したそう
だ。
それ、俺が一番欲しいヤツじゃん。何なの。マジで。
﹁ま、まぁ勉強熱心なのは良い事だと思いますよ﹂
絡まれていた旅商人のおじさんは、若干引きながらも笑って受け
止めてくれる。
﹁でもお金が足りないの! 後銀貨3枚足りないの!﹂
すがる様に俺を見て来る凪に。やれやれと思ったが、埒が空かな
いし商売の邪魔をするのも行けないので銀貨を3枚たして上げた。
﹁ありがとうございます神父様﹂
旅商人の人にお礼を言われる。
﹁もう少し粘られてたら此方もまけてしまう所でしたよ。店じまい
103
をしていましたから﹂
え、何だって!止めなきゃ良かった⋮。
幾分がっかりした顔色が映ったのか、商人は俺の手を握って言う。
﹁まぁまぁそんながっかりした顔をしないでくださいよ﹂
手渡された物は、紙切れ。なんだこれは。
﹁私はアラド中央都で商いをさせて頂いてます、ブレンドと言う者
です。是非中央都へ立ち寄った際は、私の所へ、ブレンド商会へお
越し下さい﹂
何と。意外なコネが出来た。
ニコニコしながら去り際に、彼はこう言った。
﹁その紙は私の支店である程度融通が利く証書ですので、是非ご利
用ください。それでは、私は中央都で待っていますので﹂
去り際の笑顔に身震いしてしまった。アレが本当の商人ってヤツ
なんだろうな。いつの時代でも生き残るのは商売人だって。資本主
義社会。ばっちゃがいってました。とんでもないな、でも信用問題、
何か有るとマズいので顔だけは出しに行こうと思う。
出さなかったら後が怖そうだ。
ご満悦の凪と、﹁師匠の人脈⋮﹂と感心するエリーを無視して宿
に戻った。
先ほどの件をセバスに話し、これからの進路予定を決める。
104
﹁アラド中央都は通って行きましょう。それまでにお金を貯めなく
ては行けませんね。それほど大きな商会というなら、旅の足になる
様な何かも融通できると思います﹂
セバスが言う。俺たち一同その意見に賛成である。なんだかんだ
馬車は良い物である。何故現代社会に車が出来たのかよくわかる。
﹁竜車! 飛竜車! あるんじゃないかしら!﹂
凪のテンションが上がる。最近こんな感じだなこいつのキャラ。
﹁たしかに、乗ってみたいなドラゴン﹂
ユウジンも珍しく興味を示す。
﹁デモ恐ろしく高そうデスネ﹂
そりゃそうだろう。ドラゴンとか。高そうだ。
でもファンタジーとしても譲れない要素だね!いいねいいね!
足の他にも色々と珍しい物が売ってそうで、大都市は楽しみであ
る。アラド中央都に少し滞在する事も場合によっちゃありだろうな。
なんだかんだウキウキしてしまうな。あれかな、空を飛んで移動
とか出来そうだな。でも気球、飛行船くらいだったらもう少し栄え
てる所まで行けばありそうだな。
期待大。
んじゃそろそろログアウトしよう。
105
農業大国﹃アラド公国﹄へ︵後書き︶
スムーズに渡れた背景にエリック神父の直弟子を守る聖騎士とそ
の従者集団だと思われていた事は内緒。
ノーマルモードでは国開放イベントがアップデートごとに行われ
る予定です。まぁノーマルモードではまだまだ先の話ですがね。国
開放イベントが終れば、わざわざ徒歩で行く事は無く、何かしらの
手段で国を渡れます。
106
雪精霊フラウと中央都。
ログインした。
ユウジンと凪がまだ来ていないな。
さ、礼拝しよう。
魔力ちゃんを展開させふわふわさせる。
俺の回りを踊る様にクロスたそと聖書さんを浮かせる。
ん∼魔力ちゃんはクラス委員で、クロスたそはクラスのアイドル。
そして聖書さんは生徒会長。完璧な布陣だ。
宿の扉をノックする音がしてエリーの声がする。
﹁師匠、もういらっしゃいマスカ?﹂
彼女もログインしたらしいな。今集中してるから後にしてほしい。
とりあえず扉の前に立たせとくのもあれなので、クロスを使って
鍵を開ける。
もう一人部屋くらいだったら自分の魔力で覆い尽くせるようにな
った。
俺のMPの量は結構多くなってるんだろうな。強度は相変わらず
紙だけど。
あ、いや。クロスたそにお願いして開けてもらった。
今、拗ねる様な意思を感じたぞ。
﹁この部屋は、スゴク清められていマスネ。落ち着きマス﹂
107
彼女も俺の魔力を感じ取っているようだ。
窓前の椅子に座って一緒に瞑想を開始する。
あら?なんだか違う存在が居るな。
彼女の回りをふわふわと、漂っている存在が居る。なんだかとん
でもなく神聖な感じだ。
これはまさか。気になって目を開ける。
目をつぶって瞑想するエリーの回りを、薄い青色の妖精が聖書を
持ちながら飛び回っていた。妖精さんだ!
﹁エリーそれは﹂
思わず目を開けて聞いてしまう。
﹁これは、ワタシの産まれた地域に伝わる雪の精霊デス。これで師
匠と同じデスネ﹂
嬉しそうに彼女は言う。俺の真似をしているのか。
なるほどな。
なんとも、才能から察して、然もありなんといった形だな。
精霊とは純粋な心を持っていなければならないはず。
純粋にロールプレイを追う心でもあり?
まぁそこらへんはどうでも良いか。
108
俺達はアラドの道をどんどん進んで行った。平原が多いという事
モンスター
は森が少ない。主に平原生息の野生動物ばかりを狩り進んだ。
だが、未だに野生動物と魔物の違いが判らない。
魔石が有る無しかね?
で、少ない魔物と広大な耕作地域によって、思ったより俺らの足
は速かった。
ほぼ一本道だからね。
そして、思ったより早く中央都にたどり着く事が出来たのであっ
た。
恒例のごとく、門番が居る入り口の詰め所はブレンド商会のあの
人が渡してくれた証書を見せると一発OK。
とくに何も言われる事無く。入税を取られる事なく終った。
っていうより、どの街でもこの証書を見せると大概が大丈夫だっ
た。
恐ろしい。使った分だけお金請求されるとかないよね?
流石にそこまでダイヤルアップしてないだろこの世界。
未だナローバンドですら無いんだぞ。
さて、街。というより都へたどり着いた俺たちは、集合時間を決
めて各自各々の行動を取り出す。
とりあえず俺とエリーは教会へ向かう。
ここの教会は立派だった。
109
確か図書館で読んだ本によると大陸ごとに宗教があって、統一さ
れているらしい。
単純に一つの大陸に一つの宗教だとか。まぁ例外はあるけどね。
別大陸に渡る事が無い限り、教会での祈りは続けられる。
まぁ俺の事だ、別大陸に渡ったとしても勝手に祈っている事だろ
う。
祈りが終ると。俺はブレンド商会へと足を運ぶ。
中央都は、市民街と貴族街という風に簡単な区画分けがされてい
て。
ブレンド商会の本店があるのは、貴族街でそれもそこそこ一等地
なのである。
ぶっちゃけると、商人なのに貴族街に本店構えるなんてぱねぇっ
す。
そう思った。
これまた貴族街に入るには厳しい審査が有って、一般市民が入る
と問答無用で鞭打ちの刑になるらしい。門番の人にそう聞かされた。
世知辛いかもしれないが、スラム街が無い時点で、この国を動か
す人は有能なんだろうな。まぁ広大な農地があるだけで豊かさは約
束されたもんだしな。
この国の食料自給率はどれくらいだろうか。
証書と俺の出で立ちが神父だと言うだけで、貴族街にはあっさり
通された。
やっぱり宗教って強いな。
で、一緒に来ていたエリーも神父を護衛する騎士として入る事が
許可された。
貴族と言えば騎士を持つものである。そこら辺に駐在する騎士が
110
居るので参考にでもしたらどうだろうか。
さぁ、途中道が判らなくなってしまったが、騎士の方に聞いて案
内してもらった。
そして道の端をコソコソと歩いていたら、特にそんな規則はない
そうだ。
あれ∼。
ファンタジー小説を読んでいると、貴族って見栄っ張りだと言う
凝り固まった先入観に捕われてしまっているようだ。
で、ついた。商館というより普通に豪邸なんですが。
証書を見せると中へ通される。
ステンドグラスがわんさかあって。
教会よりも立派なんですが。
調度品が美しく並べられている。黄金比だな。
絨毯がふっかふか。ブーツで歩いていいのかなこれ⋮。
とんでもねーな。精神年齢低い感想しか湧かない。
グラフィックは然ることながら、この辺までしっかり作り込まれ
ているなんてな!
﹁いやいや、お待ちしていましたよ! 神父様﹂
応接室だろうか。とんでもなく広いしとんでもなくグレードの高
そうな調度品が配置されている部屋へ通されると。
見たことのある顔が私を出迎えた。だが、あの時の露天商みたい
111
な格好とは違って、綺麗な服に身を包んでいる。
ってかこの絨毯虎の毛皮だな。この顔、キラータイガーに似てい
るな。
﹁いえいえ、遅くなって申し訳ないです﹂
﹁いえ、此方の予想ではもう少しかかると思っていたものですから﹂
﹁道が良かったのでね﹂
﹁確かにそうですね。良いでしょうこの国。生きて行く上で必要な
物がそろっていますからね﹂
旅の世間話と行った所か、彼も色々な場所へ飛び回っているので
判るのだろう。
﹁それで、私をここに呼んだ理由はなんですか?﹂
いきなり本題を打つける。
こういう手合いには、直接攻撃に限るな。
こんな大物が初めの街に居たことすらおかしいし、凪の目を引く
本を扱っていたこと自体が怪しいし、俺に証書をくれた所とかね。
結論、全てが怪しい。
﹁そんなに疑わないでくださいよ﹂
﹁いや、いささか不明な点が多過ぎると思いまして﹂
﹁ご理解されてましたか。エリック神父を知っていますか?﹂
112
知っているとも。何も知らない私を導いてくれた人だよ。
﹁おお! 噂は予々聞いていましたよ。あのエリック神父が弟子を
取ったとか。で、私も古くから付き合いがある方なので、その弟子
様になんとかお力添えできればな。と。そしてあなたには閃きが存
在しているそうで、そのリュックと呼ばれる荷袋。是非私の商会で
も販売できる許可を下さい﹂
別に許可とかそんなん無いけどな。
始まりの街で作ってもらっただけだし。
ってか、ああ。狙いはそこね。
リアルスキンモードプレイヤー
まぁ別にいいんじゃない?文化レベルが上がれば上がる程俺らに
は居心地が良くなる訳だし。
それにリュックくらい有っても良い。後続のRSMPの助けにな
れば。
あ、なるほど。これって俗に内政チートってやつ?
異世界知識ってやつ?ログイン前に丁度そういう類いの小説を読
んでいた。
最近はもっぱらネット小説である。みんな素晴らしいアイデアだ
ね!
思わずぐーぐ○くろーむのお気に入りが増えてしまったよ!
とりあえず本題。
﹁そのくらいでしたらご自由にどうぞ。私はその辺の権利はどうで
もいいので、ただ私たちの旅の足になる何かがあれば、ご融通して
頂けないかと思っています﹂
113
竜車だ! 出来るだけ竜車を勝ち取るぞ。
と、ここでエリーが口を挟んだ。
﹁ダメデス師匠。良いアイデアにはそれに伴う対価を貰わなケレバ
! 経済バランスが壊れてしまイマス﹂
ええー。その辺の話しはあんまり判らないよ。
基本的にセバス任せだったのでね。
﹁なるほど、護衛の騎士様は本質が判ってらっしゃる様ですね﹂
﹁ハイ。ワタシは師匠の騎士でアリ。ワタシの仲間達はそれぞれ神
父様のサポートをしているのデス。ワタシ達の中でもこう言ったコ
トを担当して居る者が貴族街へ来れないノデ、その話しは後日改め
マショウ﹂
この子強い。なんて強いのかしら!
もしかしたらただの旅商人のおっちゃんとしか思ってないのかも
しれんな。
﹁その方が良い様ですね。神父様、私は商人で誰とでも対等な取引
をさせて頂いてます。それが私の座右の銘でもありまして、この商
会の銘でもあります﹂
はぁ、それは最もだね。
君の商会はこれから伸びるよ?多分。
﹁商人は施しを受けませんから。私は神とでも対等に取引を望みま
す﹂
114
そりゃすごい。
﹁まぁ、それをエリックに言った時。彼には笑われましたがね。笑
われましたがやってみると良いと言われました。我が永遠のライバ
ルですよ彼は﹂
神父のことを呼び捨てか。かなり古い付き合いなのかな。
ってかライバルとかジャンルが違うだろ。
商人vs神父とかどういうことだよ。
まぁある意味商売も﹃信者﹄を集めることが﹃儲﹄に繋がるから
な。
神父の纏う雰囲気からしてあれは隠居だ。
エリック神父の圧勝である。
あ、もちろん贔屓気味に見てるよ?
で、そろそろ時間も遅いという訳で、明日一般街の商会にてもう
一度煮詰めることになった。
セバスに任せよう。彼だったら最善の落としどころを見極めてく
れる。
彼には酷だが、ログアウトじゃなくて一晩寝て過ごしてもらう。
ログアウトするとどうしても時間がずれ込んでしまうしね。
旅路の出発時間は、現実時間でログイン時間を決めてから、集合
時間をRIO時間で決めて行っている。
基本的にNPCから話しかけてこないノーマルモードはおかまい
115
無しだが、向こうから話しかけて来るリアルスキンモードは、そう
いう大事な予定があると、いささか不便だな!
116
雪精霊フラウと中央都。︵後書き︶
日間ランキング笑ってしまった。こんな駄文ですが、読んでもら
えて嬉しいデス。話しがある程度進んだらそれなりに人が増えて来
たらVRになって来るんで。ご安心ください。
書き方を少し変えてみました。改行多めです。見やすさ的にはど
うですかね。
気に入った物は即お気に入りに入れてしまうヤツ。
そして無駄にブックマークだけ増えて行くヤツ。
それを整理しない、消さないヤツ。
クボヤマはそんなヤツ。
117
盛る竜種。怯える草原の走竜達
今、俺たちは若い竜を追って草原を進んでいる。
速度は少し駆け足程度だが、素早さの低い俺にとってみれば全力
疾走をずっと続けている訳で。
そろそろキツくなって来た。
初期VITの高さで支えられてるんだろうな。コレ。
もしかしたら、毎日ランニングすることによってVIT上昇に繋
がるんじゃない?
人間の体力ってほら、走れば付くし。
で、何故俺たちが竜を追っているかというと。
それはセバスの交渉時に遡る。
リュックのアイデアは、セバスが付加価値︵いろんな種類のリュ
ックの構造を教えて上げるだけ︶を付けて儲の2割がこのパーティ
ーに支払われるらしい。
で、だね。2割の配分がまさかの俺1割であとはエリーと凪で分
けるんだって。
セバスチャンはエリーの従者なので要らないと言っていた。
お前ってヤツは。
お前ってヤツは。
ユウジンは何と、自分は辞退すると言っていた。
だが交渉が終った後で念話が来た。
118
﹃俺が今までお前に貸した分覚えてるか? よし。10%の内7%
で手を打とう﹄
この﹃今まで﹄って言うのは教えてもらった全てのゲームのこと
を彼は言っている。裏取引だ。
彼は誰よりも高額な7%と言う利権を得て、俺はその余りカスで
ある。
内訳で言うと7・5・5・3。一番低い。
反論しようとしたが、金貨をくすねたことは既にバレていたらし
く。
ふぐぅ。
まぁいいよ。神父だし。お金なんていらないもんね。
いらないもんね。
で、続き。
付加価値を付けたのには訳が有って、利権の他に、融通してもら
う為だった。
そう、旅の足である。
俺達は竜種に拘った。︵主にユウジンが︶
そして、実際にアラド王国には走竜という亜竜種が居るらしい。
だが、すごく高価な乗り物で公爵の許可が下りないと走竜を飼育し
119
ている国営ファームから買い取ることが出来ないのであった。
だが、ブレンド氏。
ブレンド商会の底力である。
取引は世界対等だ。を地で行く人なので、公爵家を俺を出汁に交
渉して最近繁殖期に入った若い竜が走竜達を困らせているのでそれ
を討伐するという依頼を請け負って来たのである。
流石である。普通だったら討伐は騎士がしなければならない仕事
なんだが。
新たな新事業、護衛、傭兵事業がどうたらこうたらと。
そして、神のお導きを受けたのです。と俺が恒例の祈りをさせら
れて、なんとか信用を得た。
神父を出汁にするとかすげーな。
ちなみに、護衛、傭兵事業を諭したのはユウジンである。
彼はものすごく悪い顔をしていた。
弟子作りと金稼ぎを兼ねる気だな⋮。
まぁそれは置いておいて。
なんかこの国に居るとどんどん身動きが取れなくなって来そうな
ので、早々退散したい。
しかも耕作地域広過ぎて、狩りすら出来ない。
狩場遠すぎんだろ!
平和すぎるのも、如何なものである。
120
﹁居たぞ﹂
ユウジンが遠くに目を凝らして言う。
ああ、あの土煙上げてる緑色の竜が討伐対象か。
近づいて行くと判る。
目がだらしねぇ。逃げる走竜達︵おそらく皆雌︶は必死の形相だ。
これは、酷い。
ってことで依然として雌に夢中なドラゴン故に、ある程度まで近
づいても平気だった。
鑑定する。
ステップドラゴン
草原竜
﹃草原に住まう竜。地に適用したので翼は退化した。肉食。普段は
大人しいが、繁殖期になると獰猛になり雌を追い回し、邪魔する者
には灼熱を吹く﹄
﹁確か、第三の街で戦ったレイドボスは、レッサードラゴンだった
な。飛ばないヤツ﹂
﹁ワタシ達も参加しマシタ。街を荒らすはぐれ竜のクエストデスネ﹂
﹁大変だったわねぇあれ。30人くらいで戦って侍ロールプレイヤ
ーのラストアタックでなんとか勝ったけど、とんでもない被害だっ
121
たわ。ってあれ、まさかユウジンさん?﹂
﹁え? あ、うん。確か前提はブレス攻撃回避不可だったな﹂
﹁よく生き残っていマシタネ﹂
﹁あ∼そう言うのはタンクの影に隠れてたからな。アタッカーを守
るのが仕事だろ﹂
﹁逃げようとシタ時、動けなかったのはアナタのせいデスネ﹂
﹁相変わらずシレっとしてるわね。ユウジンさんは﹂
三者三様でノーマルプレイ時代の思い出を話していた。
俺が教会に引きこもってる時だな。
ってかドラゴンってレイドボスなのかよ。
たくさん人数居ないと倒せないヤツ。
ん?ってことは強いのか?こいつ。
レッサードラゴンのレッサーって小型種、もしくは下級って意味
でしょ。
﹁そ﹂
ユウジンはそう言いつつ。丁度目の前を通り過ぎて行こうとした
ステップドラゴンの尻尾を両断した。
ドラゴンの悲鳴が上がる。
あ、こっち見た。
122
怒ってる。
待て待て待て待て。なんで行った!!
なんで斬った!!!
﹁おい! 脈略がおかしいだろ。強いなら作戦立てようぜ? 命を
大事に! ってか命令させろ!﹂
﹁師匠、落ち着いてクダサイ﹂
後ろからエリーが俺を抑える様に抱きしめて来る。
いや、嬉しいんだが、鎧着てるでしょ。痛いわ。
﹁きゃ、役得!﹂
凪はうるさい。そしてセバス。微笑ましい様な視線を送るな。
生徒会長だろ風紀守れ。注意しろ。
﹁もーいいよ。ガンガン行こうぜだ!﹂
懐かしい。ドラ○ンクエストの時、俺は命令させろとかの仕様を
教えてもらうまで何一つ判っていなくて、ガンガン行こうぜだけで
乗り切っていた。
何回も死んだけど。
ユウジンに説明書読めと言われるまで﹃たたかう﹄ボタンを押し
て勝手に戦ってくれるのが、ドラ○エだと思っていたことがある。
話しがそれたが。
123
ガンガン行ったとしても、パーティの役割は決まっていて、後ろ
を気にする必要がないので、前衛4人。中距離1人のとんでもない
戦闘になって言った。
後衛の凪をガードする人が居ないが、基本的に相手のヘイトを稼
ぐのはヒールを使用しながら攻撃する俺くらいである。
ものすごいヘイト稼いでる気がする。基本的に俺しか相手攻撃し
てこないし。
だが、ブレスを吐くかな?吐かないかな?って所で、上手い具合
にユウジンがアタックを掛けて牽制しているので、俺は生きている。
因みに、一応ブレスの防御は考えているが、心もとない。
クロスたんを盾の形にするだけである。
邪魔なユウジンから潰そうとしたのか、ドラゴンはユウジンにブ
レスを吐く。
灼熱の炎だ。空気が一気に燃え上がるのを感じる。
そこで大盾を構えたエリーが、ユウジンを構って炎を受け止めに
掛かる。
フラウが雪の障壁を作る。
相性が悪過ぎた。一瞬で溶かされる。だが、灼熱は凌ぎきったら
しく、少し焦げているだけで酷い火傷は無さそうだった。
だたブレスの勢いだけで数メートル飛ばされる。
先ほどまでは善戦していてもこんなにブレス一発で俺達の陣形は
乱される。
流石竜種。
そして守る者が居なくなった所で、ステップドラゴンの矛先がこ
っちを向く。
124
いよいよ俺を仕留めに掛かるみたいだな。
簡単にはやられんぞ。
と思ったら、即効ブレスが来た。
ひええ。
クロスたんを大盾の形にする。
熱い!苦しい!やばい!
聖書さんがオートヒールとリカバリーをくれる。
さすがっす!
俺の必要な物が判ってくれているようだ。
ブレス攻撃も、魔力を燃焼させて行われているので、雀の涙程も
無いが魔力展開して抵抗する。
﹁セバス!﹂
セバスはブレスを止めようとステップドラゴンに攻撃を仕掛ける
が、ギョロリと向けられたドラゴンの目に牽制される。
セバスにブレスが行ったらマズい。
火の勢いが収まった。
凌いだぞ!ユウジンもブレスが止んでから斬り掛かる。
で、ドラゴンの四肢を切り落とすことになんとか成功した。
刀は一本使い物にならなくなったので2本目だ。
125
つ、疲れた。
もうここまですればあとは仕留めるだけだ。
そして一瞬の油断だった。
俺はドラゴンを仕留めるには力が足りない。
ユウジンが首を落としておしまいだろう。
そう考えて、クロスを仕舞おうと手に取った時。
ほぼ芋虫みたいになっていたドラゴンが、蛇の様に動いて俺の前
で顎を広げた。
慌ててクロス持った腕を向けるが、その腕ごと。
バツン。
126
片腕が消えた。
リアルに吹き出る血と無惨に抉れた肩口に仲間達がとんでもない
形相で駆け寄って来る。いかんぞ!
皆の意識が俺に向けられている今、ステップドラゴンはまだ生き
ている。
全滅もあり得るなんとかしなければ。
そうだ。
ヤツの口の中には俺の腕と握られたクロスがある。
俺はありったけの意思をクロスに込めた。
ステップドラゴンの顔面が、上下左右に大きくなり、白く輝くク
ロスに引き裂かれた。
セイントクロス
﹁セ、聖十字!!!﹂
だ、誰が、そんなこと言ったヤツは。
セバスかよ。
﹁中二病臭過ぎだろ・・・!﹂
﹁もう喋んな!﹂
127
ユウジンが言う。今の俺にヒールを詠唱する程の精神力は備わっ
ていない。
ひたすら痛みをこらえ続けている。
彼は、血が吹き出るを肩をキツく縛った。
部位欠損のステータス異常だな。歩くのもしんどいや。
俺は彼に担がれた所で意識を失った。
目が覚めました。
どうやら宿で寝かされた所で死に戻りしていたようだ。
部位欠損が戻っている。
ってか死ななかったらどうなるんだろうか。
寝たら治るのかな。
この都市でログアウトをしていて良かった。
最終ログイン地点が、死に戻りのリスポーンポイントになるので、
もしログアウトして無かったら俺はだいぶ前の初めの街からまたこ
こまで来なければならなかったのか。
小まめにログアウトしよう。
128
盛る竜種。怯える草原の走竜達︵後書き︶
技が出来ました。クロス系武技です。嘘です。
掲示板回の書き方がわからない。いずれにせよ書いてみますねい
ずれ。
色々と設定甘いです。克つ適当なので意見があればそれを参考に
するので。是非。
129
幕間−とある掲示板−
[攻略掲示板]
244:RIOに代わりまして戦士がお送りします
攻略って今どこまで言ってるっけ?
245:RIOに代わりまして弓師がお送りします
ID:∞
ID:∞
ID:∞
始まりの街から東西南の方角なら結構進んでるんじゃね?
俺は知らんけど。
246:RIOに代わりまして武道家がお送りします
フィールド自体が広過ぎて、どこに進めば良いかわからないからな。
ID:∞
ID:∞
クエスト形式で進んで行けば、南に進路を取ると、王都にでるらし
い。
俺も攻略組じゃないからわからん。
247:RIOに代わりまして戦士がお送りします
なんでレスしてんだよ。
248:RIOに代わりまして剣士がお送りします
攻略組は第二世代に代わっちゃって、少し遅れが出始めてるよ。
とりあえずクエストを進んで行けば南の王都につく。
そっからが世界の始まりって感じかな?
ID:∞
ID:∞
249:RIOに代わりまして武道家がお送りします
情報来たこれ!
ってかだれかまとめてくれれば良いのに
250:RIOに代わりまして戦士がお送りします
130
てめーでしろ
251:RIOに代わりまして戦士がお送りします
おまえがしろ
252:RIOに代わりまして戦士がお送りします
たのむわ
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
253:RIOに代わりまして魔術師がお送りします
脳筋共が、ちゃんと自分の頭で理解しなさい
254:RIOに代わりまして戦士がお送りします
まぁまぁ。
255:RIOに代わりまして剣士がお送りします
とりあえず、王都から自由な冒険はスタートって感じ。
始まりの街から王都まではチュートリアル。
ハンター協会っていうのが、王都にあってそれが所謂冒険者ギルド
みたいな物。
ID:∞
ID:∞
ID:∞
で、そこで信用を勝ち取れば北への進路も取れる様になるんだって。
256:RIOに代わりまして猟師がお送りします
それは獣でもいいのか?
257:RIOに代わりまして漁師がお送りします
魚でも良いのか?
258:RIOに代わりまして細工師がお送りします
何で漁師wwww
131
ID:∞
ID:∞
259:RIOに代わりまして武道家がお送りします
まだ海は無かったはず・・・
川か。
260:RIOに代わりまして侍がお送りします
何でもありかよ。このゲーム
ID:∞
ID:∞
261:RIOに代わりまして戦士がお送りします
おまえがいうな。
なんだそのジョブ
262:RIOに代わりまして侍がお送りします
色んなジョブがあるらしい。
ID:∞
最近始まりの街の鍛冶屋で精鉄のやり方が変わったらしく
刀があったので使っていたらいつの間にかなってた
263:RIOに代わりまして武道家がお送りします
これすごいよな。
ID:∞
ID:∞
使ってる武器とかプレイの方向性で職業が決まるなんてね。
264:RIOに代わりまして僧侶がお送りします
それより神父にはどうやったら成れるんですか
265:RIOに代わりまして戦士がお送りします
あれはNPCだって言ってんだろ
ID:∞
ID:∞
266:RIOに代わりまして魔術師がお送りします
ああ、あの噂の
267:RIOに代わりまして商人がお送りします
132
俺も見た。隣の商人が神父に話しかけられて
フォレストウルフリーダーの革格安で売ってたぞ
268:RIOに代わりまして盗賊がお送りします
値切る神父さん可愛いwwwww
269:RIOに代わりまして商人がお送りします
あれからあの商人どこに行ったんだろうな
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
良いアイテム売ってたから多分攻略組の一員なんだろうけど
270:RIOに代わりまして弓師がお送りします
ってかお前ら話しがズレてんぞ。
剣士さんの話しを聞け
271:RIOに代わりまして剣士がお送りします
あ、喋っていい?
272:RIOに代わりまして戦士がお送りします
どうぞ
273:RIOに代わりまして戦士がお送りします
どうぞ
274:RIOに代わりまして戦士がお送りします
どうぞ
ID:∞
ID:∞
275:RIOに代わりまして魔術師がお送りします
馬鹿共・・・
276:RIOに代わりまして剣士がお送りします
133
王都まで行くと、エリア規制が解除されて。
あとはハンターランクの信用度で冒険できる世界が広がって行くん
だって
ハンターランクはレベルと受けたクエストの達成率で考慮されるら
しくて
攻略組は各々が世界に旅立って行ったよ。
一部の攻略ギルドだけ人を集めて世界の情報を集めてるけどね
これで廃人と呼ばれている人達はどんどん居なくなっていったよ
ID:∞
ID:∞
因みに先へすすめない北の国境はハンターランクDで通れる様にな
るよ
278:RIOに代わりまして戦士がお送りします
ほうほう。
やっぱりRIOはひと味違うな
279:RIOに代わりまして剣士がお送りします
そんなことより探し人です
ID:∞
攻略最前線組にいた侍浪人の格好をした人をしりませんか
レイドボス戦後あたりから急に見なくなっちゃって
ウチの攻略ギルドの最有力アタッカーだったのに!
おかげで攻略が大変だよ。情報求む
280:RIOに代わりまして魔術師がお送りします
ID:∞
そういえば大分前に始まりの街の北門あたりで誰かを待っていた浪
人姿の人を見たよ
281:RIOに代わりまして魔術師がお送りします
私も見たわ
134
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
たしか商人の馬車に乗って神父様とその他数人で一緒にでていった
から
NPCかと思ってスルーしちゃったんだけど
侍のNPCなんて居ないわねこんなところに
282:RIOに代わりまして僧侶がお送りします
新情報ktkr!
これは神父はプレイヤー確定か?
283:RIOに代わりまして弓師がお送りします
でも神父様には不可解なことが多いからね∼
284:RIOに代わりまして鍛冶師がお送りします
北になにかあるのかね
285:RIOに代わりまして魔術師がお送りします
ID:∞
ID:∞
もしくは最速で王都に行って、最速でエリア制限を解除したのかな
286:RIOに代わりまして戦士がお送りします
いやまだサービス開始されたばっかりだぞ
さすがに無理
287:RIOに代わりまして剣士がお送りします
ID:∞
レイドボスのラストアタッカーである侍さんならありえる!
侍さんんんんん!!
私もいまいきますから!!!!!!!!!!
288:RIOに代わりまして戦士がお送りします
メンヘラ化してる・・・
135
136
幕間−とある掲示板−︵後書き︶
こんな感じですか。
職業しか見えない匿名掲示板です。
まぁまたいずれ。
137
進路は行ったん北東へ
そういえば。
ありましたよ、意外と早く見つかったな。
冒険者ギルドの代わりになる様な物です。
この世界ではハンター協会というらしい。
とりあえず中央都から出る前にみんなでハンター登録しておいた。
みんないきなりハンターランクDである。
定住しない者にとってはこのハンターランクとは、一種に信用と
して扱われる。
さておき、ユウジンが言っていたのだが。
近々、ノーマルプレイヤーのイベントが開催されるらしい。
全然知らなかった情報なのだが、ノーマルプレイヤー達は南へ進
路を取り、ジェスアルの王都でエリア開放イベントが起きて色んな
場所へ行ける様になるんだとか。
基本的な向こうの流れは。
クエストをクリアして行き、始まりの街から王都へ向かい、王都
でハンター登録をして冒険のスタート。という形である。
良く出来てるな。初心者プレイヤーもそれで慣れるんだろうな。
このゲームに。
俺もそうやってマニュアルに沿って行けば良かったのかもしれな
いが、まぁ、先に行くべくは魔法都市と鍛冶の国である。
138
話しがずれたが、イベントである。
対人イベントだって。
要するに公式決闘イベントと言った所か。
ある程度王都まで行ってハンター登録をするプレイヤーが増えた
ので、その記念として、リアル時間で今週の日曜日にプレイヤーイ
ベントが行われることになったらしい。
で、ユウジンは行きたいんだと。
その対人イベントが行われる国。
﹃連合国デヴィスマック﹄へ。
また地図を見に図書館行きかと思ったが。
なんとなんと、公式にデヴィスマックへの行き方が載っていた。
行き方は二通りあって、空路と陸路である。
なんとジェスアルの王都から飛行船が出ているんだと。
乗ってみたいな。
で、陸路はただの陸路だ。
偶然にもアラド公国の隣の国だった。北東へ進路を取るとたどり
着く。
今日は金曜日だから今から行けばまだ間に合うな。
急ぎで向かおう。
俺達には良い足も手に入ったのだから。
139
ランバーン
できれば飛行船というのにも俺は乗ってみたかったんだが、どう
考えても始まりの国に戻る時間はない。
因みにドラゴンの素材と交換で、かなり良い走竜種を格安で購入
することが出来た。
体高は1.5m、体長は2.5m。エメラルドグリーンの鱗に蒼
い目が特徴だ。
名前はラルドにした。ってか俺が名付ける権利貰っても良いのか
な。
で、肝心の人を載せるキャビンは、なんとブレンド商会から頂い
た。
頂いた物なのだが。
なんと行ったら良いんだろう。
別に俺は普通の奴で良かったんだけどね。
いや気に入ってるんだけど。
黒を基調に、十字架を連想させるデザインである。
シックでありつつ、どこかしら前衛的な魅力を感じさせる一品。
いや本当に。俺は旅商人の使う荷台の様な物でも良かったんだが。
ブレンド氏によると﹃既に商会の顔﹄だそうだ。
ああ、まんまとやられたわけだ!
ふぐぐ、目立つ前に早いとこ退散しておこう。
140
ハイヤー!ラルド!全速前進だ。
風が気持ちいい。
現在、アラド王都から東への道をひたすら走っている。
今日は、夕暮れまで走るとたどり着くであろうアラド東の国境よ
りの街へと向かう予定だ。そこで一旦ログアウト。
現実時間の土曜日、ログインしたらアラドとデヴィスマックの国
境沿いを北上しすぐの国境の砦からデヴィスマックへの入国を住ま
せ、イベント会場である決闘コロシアムのあるヨーザン州へと足を
運ぶ。
デヴィスマック連合国はいくつもの国が集まって出来た国だ。そ
の背景には世界戦争と言う物があるらしいが、まぁ置いておく。
アメ○カ合衆国みたいなものだね。はい。
そんなことよりも。ランドの疾走感である。
御者席でランドを操るセバスチャンの隣に座り、俺は景色を見て
いる。
現実世界では味わえないこの景色である。
ランバーン
電車なんかより良い。
走竜種であるラルドの健脚は、とてつもない。
141
何せ半日あれば国境の街までたどり着くのだ。
二足歩行が良いリズムを奏でている。
あ、イメージが湧きにくかったら、走る恐竜を想像すると良い。
そろそろ日が傾き始めている。
もうしばらく走れば着きそうだな。
日没を背に俺達の馬車は幸先の良いスタートを見せていた。
ログインした。東の国境付近の街である。
あくまで付近なだけで国境にもちゃんと集落や街があるぞ。
ただし、入国審査などが出来るのがお互いの国の使者が駐在して
いる砦状の街なだけである。
パスポートに入国証が押されてないと、不法入国だからな。
142
逮捕されてしまうから。
最短距離でも行くに行けないのである。
まぁこっちの方がリアリティがあって面白いからいいけど。
まだ集合の時間には早い。
いつもの礼拝をする。
なんだか最近、俺のアイドル達がすごく可愛く思えて来たんだ。
萌絵化って知ってる?擬人化だっけ?
絶対可愛い。
クロスたそも魔力ちゃんも聖書さんも嬉しそうに俺の回りを飛び
回ってる。
いや、俺が操作してるんだが⋮。
ん?どっちだ?
最近その辺の境目が判らなくなって来た。
で、最近出来る様になったのが、無意識回復術である。
前までは、こいつを回復しなければ!と思って狙いを定めない限
オートヒーリング
りヒールが発動しなかったんだが、聖書ちゃんが驚くべき成長を遂
げた。
傷を負うをたちまち回復してくれる。自動治療だな。
未だヒール・キュア・リカバリーしか仕えないが、いずれ﹃聖国
ビクトリア﹄の中央聖都ビクトリアまで足を運び、上級の回復魔法
を学ぼう。
さて、皆なんだかんだログインして来たようだし。
出発だな。
143
先日は時間の関係上、最短距離で国境の砦まで行けなかったので、
少し悪路である。それでも普通の馬車より速いけど。
※国境の街は、砦で統一します。
国境沿いの道を少し北上すれば砦に着くはずだ。
竜車の旅では初めての夜が来る。
キャビンの裏手に簡易的な荷台を取り付けている。いや、ドア付
きの時点で現代の車の荷台と同じ様な機能である。
そしてもちろん空間拡張が施されているので大きい物まで載せれ
る様になった。
旅路がより快適な物へと変貌を遂げているな。
荷台のほとんどに食材やら食器やら、狩った魔物の素材やらを保
管している。
食材はセバスの趣味だろうな。
飯がさらに美味しく頂けるから、文句は一切無い。逆に満足であ
る。
セバス良くやった。
今日はなんだ。
バーベキューか。
女性陣はもう修学旅行のノリである。
そして、ユウジンは指の間に持てるだけ串を持ち腹に詰め込んで
いた。
いや、鍛錬後で腹が減るのはわかるんだが。
144
対人戦に気合い入れてるのはわかるんだが。
焼けてねーよそれ。生で食うとあたるぞ?
この場合ステータス異常になるだけだと思うが。
あ、ほら。言わんこっちゃない。
さてさて。砦にたどり着きました。
三日かかった。意外と時間かかった印象だ。
ま、悪路だったしな。
それにしても、そんな悪路でさえ一度も交換しないこの竜車の車
輪。
一体何出て来ているのか。
上から話しが行っているとかなんとかで、俺が砦を管理している
人に挨拶をして、すんなり入国印を頂き、デヴィスマック連合国へ
と入ることができた。
上からって何だよ上からって。
何にせよトラブルにならずに通過できたのなら良かった。ここで、
一悶着有ってイベントに遅れる事になったら、ユウジンが拗ねてい
たかもしれん。
145
イベントは時間帯が決まっているからな。
エントリー時間を考えると早めに行っておいて損は無いだろ。
現実時間、日曜日の午後一時より、ヨーザン州のコロシアムで開
催される。エントリーは開会式が始まる前なら可能らしい。
さて、ラルドの引く竜車は東への進路を取っている。
道中、足の遅い魔物ならスルーできるので、エンカウント率も低
めだ。
最近気付いたんだが、俺の聖書さん。
開くだけでMND増加のバフ効果があるらしい。パーティ単位で
ね。
ちゃくちゃくと進化している。
セイントクロス
クロスたそも︽聖十字︾という大技を持っているし。
魔力ちゃんは縁の下の力持ちといった形だ。
セイントクロス
このクロス。︽聖十字︾を気に入ったのか、名前を言わないと発
動しなくなっている。
なんと言うことだ。
仕留める際に必ず俺は中二臭いこの技名を言わなければならない
のか。
オートヒーリング
その点聖書さんはいい子である。
開けば必ず自動治癒してくれるからね。
イベントが近いからか。
146
各自各々、技の開発には力を入れているようで、ユウジンなんか
フラウ
は自分の流派の技+この世界で新たに開発した技をいくつか持って
いるし。エリーは着々と雪精霊との絆を深めている。
エンサイクロペディア
ってか一番化けそうなのは凪だな。
世界大全はヤバイ。
アレはマジでヤバイ。
着々と魔力を貯め続けている。
INT値抜かれてる可能性ある。
で、世界の色んな知識をひたすら吸収し続けている。
絶対知らないうちにいつの間にか喋り出してそうだ。俺は驚かな
いぞ。
俺もなんだかカッコイイ技が欲しくなって来たぞ。
なんか参考になる物無いかな⋮。
147
進路は行ったん北東へ︵後書き︶
移動回でした。笑
やっとMMOの要素が出て来ましたよよよよ!
平日のゲームログイン時間は大体19∼24時までです。3人に
は学校が、そしてクボヤマとユウジンにも”一応”仕事があります
ので。
土日はかなり長い時間ログインしています。
それが最近の彼等の生活サイクルです。
148
決闘大会前夜と︵前書き︶
ログイン前。
俺は必殺技の名前を考えた。
技自体も自分が今出来ることを最大限に発揮したまさに三位一体
だ。
よし。ログインしよ。
149
決闘大会前夜と
現実時間で12:00時。ログインしました。
さて、イベントのエントリーは済ませてある。RIO時間で今は、
丁度イベントの1日前となっている。
協会がある所では積極的に教会での礼拝を行っている。
なんでかって?
今までは何となく通っていたが、最近では教会を訪れると俺の可
愛い子猫ちゃん達が喜ぶからさ。
すいません。調子にのりました。
聖書さん、クロスたそ、魔力ちゃんの調子が良くなるんだよね。
うんうん。今日もいい調子だ。
エリーから念話が届く。
﹃師匠! どこにいるんデスカ? 暇だったらワタシと出店でもま
わりまセンカ?﹄
彼女は私より早めにログインしていたようだな。RIO時間では
イベント前日ながら、ヨーザン州のコロシアム街の大通りは、もの
すごい賑わいを見せている。人が集まればこその光景だ。
で、出店などを出しているのは、ほとんどが料理系の職を持った
プレイヤーである。やっとMMOらしくなって来た!
待ち合わせ場所に行くと。彼女は鎧姿ではなく、私服を着て来て
いた。
私服なのかは判らないが、アラド公国で買ったのだろう。
150
なにげにブレンド商会。良い物を揃えていたからな。
そんな彼女の格好は水色のアメリカンスリーブのワンピースだ。
リボンやフリルが着いていて、そのままドレスとしてでも仕える代
フラウ
物らしい。金髪でエルフの様な顔をした彼女にはとっても似合って
いる。
肩にちょこんと座っている雪精霊ともペアルックになっていて可
愛い。
俺だって聖書さんとは同じ宗教だもんね!
﹁師匠! こっちデス!﹂
そんな彼女は俺を見つけるや否や、満面の笑みで手を振る。
﹁待たせてしまったな﹂
﹁イイエ! 今着たトコ! アハッ、これは様式美って奴デスネ﹂
そして俺達は、出店を一通り楽しんだ。
これってやっぱりデートなのかな?
﹁師匠、師匠は何か他に見たいものありマスカ?﹂
ん∼そうだな。
見たいもの、そうだ。飛行船だ。
﹁飛行船。時間の都合で見れなかった飛行船を見たいな!﹂
﹁ではそこへ向かいマショウ!﹂
151
確かヨーザン州のコロシアム街直通の飛行船がジェスアル王国の
王都からこの時期だけ出ていたはず。
コロシアム街のエリアマップの掲示板で確認して、向かう。
この世界の飛行船ってどんなんだろうな。ノーマルプレイヤーだ
けで楽しむなんてずるいぞ。ってか運営よ、さっさと各地に飛行船
を作ってくれ。
リアルスキンモードプレイヤーだけ仕えないとかは絶対に無いは
ず。
飛行場のゲートをくぐると、そこにあった。
俺達は二人して言葉を失った。
作り込まれた世界だということを忘れさせる要素が多いRIOだ
が。
この飛行船は別格である。
浮力は巨大な魔石。
推進力は空飛ぶクジラだった。
鑑定する。
スカイホエール
空鯨
﹃悠々たる空の観測者。超希少生物。どこから来たのかは不明。悠
々と世界を飛び回り続ける存在﹄
152
シロナガスクジラの空色バージョンって感じ。
すごいな⋮⋮⋮。
運営の技術力がここに極まりって感じだ。
ノーマルプレイヤー達は、これに乗ってここまで来たのか⋮。
﹁いいなぁ﹂
そう呟く俺の横で、エリーはずっと微笑んでいた。
さて、デートは食事まで続く物である。
だが、食事の後とかは無い。
彼女はまだ高校生だっつってんだろ。期待するな俺。
と、言ってもだ。
出店で食べ歩きをしてしまった俺達はあまりお腹が空いていなか
った。
人ごみを避けて進んでいると。
小さな喫茶店を見つけた。
開くと呼び鈴が鳴るドアを開け中に入ってみると、シンプルだけ
れど作りはしっかりしている椅子とテーブルが数席と、カウンター
153
席。
カウンター席から正面は、煉瓦の壁に埋め込まれたコーヒー豆を
ディスプレイしている棚がある。
お洒落だ。お洒落喫茶だ。
特にテーブルと椅子の丸みが良い。座り心地が実に良さそうであ
る。
とことんディテールに拘っているゲームよな。
コーヒー豆が良い香りである。
とりあえず席に座っていると奥から丸坊主の筋肉マッチョなおじ
さんが出て来た。髭がダンディさをかもし出している。
﹁悪い、こんな日だからウチには客はこねぇと思ってたぜ﹂
﹁確かに、あの賑わい様ですからね﹂
﹁神父さんがこんな所に何しに来たんだ? 女の子連れてデートか
い?﹂
デートの単語に、エリーが何故がビクついていた。
まぁ、落ち着けよ。ここはこう言えば良いんだろ。
﹁デートですよ。コーヒーをお願いします。エリーは紅茶がいい?﹂
とんだ生臭坊主である。
エリーは紅茶で良いそうだ。
﹁上手いこと言うぜ。そんな神父様には俺から特別にクッキーのプ
レゼントだ﹂
154
﹁ありがとうございます。あなたに神のお導きがあります様に﹂
﹁っかー! 決めてくれるな、今日は良い日だぜ。最高の一杯を淹
れてやんよ﹂
ハゲマッチョの淹れるコーヒーと紅茶は格別に美味しかった。
そしてクッキー、これも最高の味だった。
何なんだこの店は、名前を聞いておこう。通わなくては。
﹁とても美味しいコーヒーとクッキーでした。是非また寄りたいの
で、あなたのお名前を教えて頂けませんか?﹂
﹁店の看板読まなかったのか? ってありゃ、裏返ってやがる。だ
れがこんなことしやがった﹂
お店のドアに掛かってる看板を正面に戻す彼。
﹁ブルーノそれが俺の名前だ。そしてここは喫茶ブルーノだ﹂
名前もゴツいな!
だが味は繊細だ。
﹁ブルーノさんですねまた来ます﹂
﹁おう、いつでも待ってるぜ!﹂
そろそろ良い時間帯なので、俺達は喫茶ブルーノを後にした。
﹁師匠、すごく良いお店でシタ﹂
155
﹁だな﹂
エリーと連れ添って歩くのにも慣れていたけど、なんだか今日は
一日中緊張していた気がする。
たぶん私服のせいだな。
﹁師匠、少し緊張してマス? ウフフ﹂
﹁し、してねーし!﹂
して無いったらして無いんだからね。
くそ!なんだよもう可愛いなエリーは。
﹁ウフフフ﹂
今のは若干怖かった。
夜の出店もやっているとのことなので、今日は目一杯エリーと遊
フラウ
ぶ。
雪精霊も俺の聖書さんとクロスたんと魔力ちゃんと戯れていたの
でご満悦に彼女のポケットで眠ってしまっていた。
それで良いのか精霊よ。
それから、寝る前の礼拝と瞑想を行い就寝に着く。
朝は早めに起きようと思う。で長めの瞑想を行って決闘大会に備
えるぞ!
156
ちょっと早めに起きるつもりが、夜明けと同時に起きてしまった。
まだ他のプレイヤーは起きて来てないな。みんなやっぱりこの世
界で一日を過ごしているようだ。
まぁ祭りだしな。
開会式までに狙ってログインする様な奴は居ないだろう。
珍しくユウジンも起きている。
あ、そうだ。俺達が泊まっているのは教会である。
ラルドと竜車を宿泊させれるだけの空き宿がなかったんだ。
で、教会裏の空きスペースをたまたま使わせてもらいつつ、教会
内の宿泊施設も使わせて頂いてる状態だ。
ってか是非泊まって行ってくださいと言われたぐらいだったが、
流石にそれは世間体的にもな。
いや、ゲームで世間体とか気にしても、しゃーないんだが。
なんかこのゲームリアルだから外の目があると思うんだよ。
主にエリック神父関係のことでな。
施設使用料としてお布施を払うことによって俺の中で正当化する。
157
それでもラルドと竜車を置くスペースを考えると。
すごい安くしてもらって心苦しい。ふぐぐ。
で、空き地にラルドの様子を見に行ってみるとユウジンが素振り
をしていたのである。
なんか素振りの音がシュンシュンじゃなくてシャンシャン鳴って
る。
これはどういうことだ?
﹁何かおかしくね? その音﹂
﹁ああこれ? なんか魔力斬れないかなーって思って振ってたらい
つの間にかね﹂
﹁魔力斬ってるってこと?﹂
﹁そこまではわからん﹂
なるほど。なら試してみるか。
﹁今クロス浮かせてるだろ、それと俺の間に魔力展開してるから振
ってみ﹂
﹁わかった﹂
ッシャン!
クロスが一瞬ぶれる。
おお、本当に斬れてる。ってかごめんなクロスたそ!乱暴に扱っ
て!
158
あ、許してくれるっぽい。
﹁斬れたな﹂
﹁ああ﹂
﹁それだ、今日の大会は無差別部門に出るの?﹂
﹁あたりまえだろ﹂
﹁うわぁー。俺どうしようかな魔法も斬られたら勝ち目無いじゃん﹂
﹁え∼。とりあえず出とけよ。俺とあたる前に負けるかもしれない
じゃん﹂
彼は、優勝する気であるようだ。
俺だって出るからには優勝するわい!
﹁で、何かお前もコソコソと技の開発してるんだって?﹂
バレてたか。
﹁お楽しみだな。俺の切り札だし﹂
﹁ま、俺もそれは同じだから。お互い頑張ろうぜ﹂
そう言いながら、俺は瞑想、彼は素振りをして精神を戦いへ研ぎ
すませて行った。
159
160
決闘大会前夜と︵後書き︶
空飛ぶ鯨って良いですよね。
いつか乗ってみたいです。夢ですが。
そういうのがリアルで体験できる技術ないかな。
書き終わって気付きましたが、MMOしますって言って、全く他
プレイヤーとの絡みを出していない所。まずい・・・
161
サバイバルマッチ
開会式は素晴らしかった。
打ち上がる祝砲、花火の様な魔法の中をスカイホエールが悠々飛
び回っていた。
飛行船を利用して、空からの撮影もされるようだ。
ノーマルプレイヤーが自分の動画を撮影して掲示板にアップでき
る様に撮影の魔道具も用意されているらしい。
すごいな。知らなかった。
あ、ラルドでひたすら草原を走る動画とかどうだろうか?
つまらないか。
で、開会式の挨拶はジェスアルの国王だった。で、デヴィスマッ
ク連合国各州の代表と大統領が軒並み連ねる中で、来賓席にエリッ
ク神父がいた。
ちょっとあなた。
そんな所に居るってどんだけ大物だったんですか。
まぁ思い当たる節々はあるけども。
で、驚いたことに協賛にブレンド商会が居たこと。
知り合いが大御所過ぎて、緊張して来たぞ。
落ち着け俺。聖書さんを一心に読み上げるんだ。
よし落ち着いた。
試合の合間にエリック神父に挨拶をしに行かなければな。
だが来賓席まで通してくれるのかな?
162
そこが問題である。
さて、決闘大会である。
魔術クラス、武技クラス、無差別クラスと別れている。
まぁ、呼んで字の如くだ。
魔術のみと武技のみ、何でもありの無差別といった所。
今回俺達パーティの中で出場するのはセバスを抜かした4人。
セバスは完全なサポートに回るそうだ。
で、魔術の部には凪が。
あとは俺、ユウジン、エリーは無差別級。
俺はまず魔術クラスに行っても攻撃魔法が無い。詰んだ。
武技クラスに行っても魔力ちゃんと聖書さんが拗ねるからな。
ユウジンは、まぁ、そう言う奴だし。
フラウ
エリーは武技クラスかと思っていたが、そうか雪精霊が居たんだ
ったな。一緒に戦うには無差別クラスじゃないと無理か。
で、予選はサバイバル方式だった。
一気にふるい落とす気だな。運営め。
内容は最後まで残った二人が決勝予選進出だそうだ。
A,B,C,D,E,F,G,Hまである組み分けで、16人が
163
決勝に駒を進めることに鳴る。
本日はA,B,C,Dのサバイバル予選である。
エリーとユウジンと俺は組み分けが被らなかった。
因みに俺はHだから明日だ。今朝瞑想で高めた気分を返してほし
い。
エリーとユウジンはAとD。
この組み合わせは基本的に決勝予選であたるタイプだろ!この二
人。
エリー、頑張ってくれ。
いつの間にか俺は、高い所から試合を観戦していた。
そう、来賓席である。
なんでだ!
セバスの隣で観戦しようと思って移動していたら、エリック神父
に掴まって、このすごい奴らが軒並み連ねる﹃来賓席﹄へと連れて
こられたのだ。
﹁良い成長を遂げているようで、私も心から嬉しいですよ、クボヤ
マさん﹂
164
﹁そうですね。彼女は妄信を捨て、実直に励んでいますから﹂
ロールプレイという妄信を捨て、真摯にエルフの聖騎士になるべ
くな。
﹁彼女を導いて上げてくださいね﹂
﹁はい、エリック神父が私を助けてくれた様に、私も様々な人を導
いて行こうと思います﹂
﹁暇があったら顔を見せてくださいね? 子供達も寂しがっていま
すから﹂
﹁はい。またいずれ始まりの教会には寄らせて頂きますよ﹂
エリック神父とそんな会話をしながら、試合を観戦する。
サバイバル形式だから、始まった瞬間様々な武技・魔法が飛び交
う乱戦状態だ。
エリーの戦い方はタンク職として教わったものを自分流にアレン
ジしたのだろうか。
守って盾で弾いて場外。
守って盾で弾いて場外。
実に堅実だな。
次々仕留めて行く様に、観客席から歓声が上がる。
﹁あのエルフのタンクかなりの腕前だぜ! シールドバッシュで上
165
手く場外に落としてる!﹂
プレイヤースキル
﹁スキル名を言わずに体感で行ってる辺り、かなりのPSだ﹂
エディット
﹁そんなことより超美人だぜ! 自然な美しさだ、顔面補正やって
ない証拠だな!﹂
フラウ
なんかパーティメンバーが褒められるって嬉しいな。
彼女は今回、雪精霊を出さなかった。
切り札として使うのだろう。
フラウ
まぁ雪精霊は何度も見ているから、驚くことは特にないが、彼女
も俺達の様に何か隠して編み出しているかもしれないからな。
油断大敵である。
﹁そういや昨日見たぞ今勝ち残ったエリーって女の子と神父がデー
トしてるところ!﹂
﹁ばっか、神父様がそんなことする分けないだろNPCだぞ﹂
﹁いや本当はプレイヤーだって聞いたぞ!﹂
﹁NPCだったらとんだ生臭坊主だな!﹂
﹁ちげぇねぇや!!! ハッハッハッハ﹂
思わず椅子から滑り落ちた。
なんだその噂。そう言えばエリー達からも初めて会った時NPC
166
とか聞かれてたな。そんなに違和感無いの?溶け込んでんの?
引きこもってたからかな。
まぁ度肝ぬいてやる。
その神父も大会に出場してるからな。ちくしょー。
エリック神父に来賓席に試合が終わった彼女達を呼んで良いか聞
くと、快諾してもらったので、エリーとセバスを来賓席まで連れて
来た。
立場的には護衛の騎士とその従者と思われているらしく、二人は
意気揚々と便乗する様に俺の席の隣に立っていた。
座れよ。目立つだろうが。
このロールプレイ変態共が!
ユウジンの試合が始まる前にまた下から声が聞こえて来る。
例のあいつらだ。
﹁おい、エリーちゃんもやっぱりNPCだったのか?﹂
﹁神父の騎士をしてるぞ! 従者も隣に居る﹂
﹁ってかあそこ来賓席だぜ。おれ生臭坊主とか言っちまった﹂
﹁やべぇやべぇ!﹂
丸聞こえだ馬鹿共。
そう言ってひと睨みしてやると、彼等は三者三様逃げ出して行っ
167
た。
まぁこのゲームは信用度とか実装されてるからな、下手に信用を
失うとペナルティも存在するようだし、ノーマルプレイヤーでもこ
うなるのは当たり前か。
﹁プー⋮⋮クスクス﹂
エリーはひたすら笑いを堪えていた。
ロールプレイしてんなら騎士らしくしろよ。まったく。
﹁おっと、ユウジンの試合が始まった⋮ぞ?﹂
彼は最初からぶっ飛ばしていた。
彼が会場中央で回転切りを放つと、その剣圧に弾き飛ばされる様
に全員場外。
来賓席も唖然である。
会場も。
そしてぽつり、ぽつりと声が聞こえて来た。
﹁侍さんだ⋮。侍さんが返って来た!!!﹂
﹁え、あのレイド無双した攻略ギルド最強アタッカーの?!﹂
﹁え、北門での神父イベントで共に旅立ったと言われているあの?
!﹂
﹁え、ユウジンって聞いたことあるかも! 色々なVRゲーで廃人
168
無双してるあの!?﹂
﹁︽BUSHIDO︾で最強の︽剣豪︾と言われているあの!?﹂
次から次へと出て来るな。もう苦笑いしかねーよ。
ってかお前らいい加減にしろよ。
神父イベントってなんだよ⋮⋮。
そして、声は歓声へと成長して行った。
巻き起こるユウジンコール。
ユウッ!!!ジンッ!!!!
ユウッ!!!ジンッ!!!!
ユウッ!!!ジンッ!!!!
ユウッ!!!ジンッ!!!!
ユウッ!!!ジンッ!!!!
ユウッ!!!ジンッ!!!!
ユウッ!!!ジンッ!!!!
ユウッ!!!ジンッ!!!!
169
うるせー!友達クラブか!
そして彼は今日を境に、剣豪と呼ばれる様になる。
で、実際はD組のやり直しになった。彼を抜かしてな。
残った一人が決勝へ行けるのだが、その試合はいまいち盛り上が
りに欠けた内容だったので省略する。
本日の日程が終了した。
このあと闘技場で魔法サーカスだったり、NPCの武技演舞だっ
たり、色々な催し物がありそこそこ楽しめた。
ユウジンも来賓席に呼ぼうと念話を飛ばしたのだが、あとで連絡
すると返って来てから一向に連絡が無かった。
セバスとエリーは先に戻らせて俺はユウジンを探しに向かった。
意外と簡単に見つかった。
コロシアム地下に併設されてあるカジノだった。バニーガールの
NPCの間を縫って行くと一際騒がしい集団の中心に彼がいた。
何かもめているな、仲裁に行く。
理由を聞いてみると、彼は試合の賭けをしており、自分が一振り
で圧勝することに全財産を掛けていたのだ。
そして彼は有言実行した。
170
﹁だから、お前は掛けに負けたろ。早く全財産よこせ﹂
まぁお互いの全財産を掛け合うなんてな。
怪し過ぎて普通受けないだろ。
どうせ祭りで散財してお金なんて持ってないだろう、勉強代とし
て大人しく払っておくことが身のためだと思うのだが。
彼はカジノで大勝ちしているらしくかなりの大金を持っていた。
御愁傷様です。
﹁む、無効だ! そんな一撃で勝てる分けないだろ! チート使っ
たんだろ!﹂
﹁心外だな﹂
ユウジンはギロりと男を睨む。あ、ちょっと怒ってるな。
廃人プレイヤーに名を連ねる彼のプライドが許さないだろうな。
チートなんか使ってない。と。
彼は小手先と言う物を無視した戦いをするからな。
常に一刀両断というか⋮。
﹁ひっ! し、神父様! 助けてください! 脅されてます!!﹂
まぁユウジンの試合っぷりを見ていたんだろうな。
彼はすっかり怯えてしまっている。
ってかさっさと逃げれば良いのになんでカジノで続きやってるん
だか。
﹁約束を違えることは、神のお導きに反することですよ?﹂
171
とりあえずやんわり、諭そうかな。
﹁チートだ! これは神の冒涜だ! そうだろ神父様ぁ!﹂
プレイヤーキル
あ、これ以上チートって言わない方が良い。マジで!
今にもPKしそうなユウジンをどう止めようか迷っていると、後
ろから声が掛かった。
﹁チートなんかじゃ無いですよ。剣系上位職の回天斬という技です。
剣圧のスキルレベルを上げれば、可能ですよ﹂
いや、剣圧どうこうの問題じゃなかったと思うが。
そんなことより助かった。誰だ君?
﹁師匠、久々に会えて嬉しいです!﹂
と、言いながら両手剣を背負った女の子が、ユウジンに抱きつい
た。
きゃー!不潔!
不潔だわ。ユウジンが。いっつも汗クセーし。
﹁ふがふが﹂
ってこの女。匂いかいでないか?
﹁ふがふがゴフッ!﹂
ユウジンの拳骨が女の子の脳天に落ちた。
うわっ、絶対痛い。
172
﹁いい加減にしろ糞アマ。レイドの時もストーカーしやがって、あ
と攻略ギルドなんて一つも入った覚えは無いからな!﹂
彼も色々溜まってた物があるみたいだな。
とりあえずこの賭けの男は放置して、この二人を連れて静かに話
せる場所に連れて行くことが先決だ!
賭けの男にはキツくお灸を据えるべく、出入り禁止にしてもらう
様言っておいた。
で、一体この女の子は誰なんだ。
未だユウジンの腰に絡み付く女の子を見てそう思った。
173
サバイバルマッチ︵後書き︶
サバイバルの戦闘パートはあっさり終ります。
主人公の時は長く書くと思います。
174
神父の戦い︵前書き︶
デュオ
D○OをDUOにしました。
175
神父の戦い
謎の女の子の正体は、ユウジンとVRゲーをよく一緒にプレイし
ていたプレイヤーなのだそうだ。
あ、そうなんだ。と思ったが、ユウジンの言い分は、
﹁いつも俺のやるゲームを嗅ぎ付けてきて無理矢理パーティ組んで
来るストーカーだよ!!!!﹂
だ、そうだ。
無理矢理と言いつつ、パーティ申請に許可を出してる辺り、ユウ
ジンもまだ満更でもない感じかなと思ったのだが。
彼曰く、許可するまで永遠の申請が来るらしい。
リアルスキンモードで解消された悩みなのだそうだ。
うわぁ⋮。
それは酷い話しですね。うん。
﹁ウィスパーも申請も繋がらないし! 友達申請も送れなくなっち
ゃったし! 師匠いい加減、システム許可出してくださいよ!﹂
あ∼リアルスキンモードってそう言うの無いから、システム的に
拒否してる設定として見られる訳ね。
俺、友達居なかったから知らなかったよ。
﹁絶対しないからな﹂
﹁そんな∼!!﹂
176
端から見てれば可愛いやり取りであるが、内情を聞くととても残
念な感じがする。
そんな彼女も、本戦に出場するらしい。
へぇ、強いんだね!
でも武技クラスだって、なら当たる事無いね。
まぁ二人の問題なので俺からは口出ししないでおこう。
ただでさえ、彼女に威嚇されてるのに。
さて。次の日だ!
俺の試合だ。
今回は、出場者という事で来賓席には行かなかった。
だが、椅子は未だ残っている。片付けて良いのに。
E,F,G組の試合は滞り無く終了した。
F組の金髪逆髪で金色の服を来た体格の良い選手。
﹃無駄無駄無駄無駄無駄!!﹄
とユウジン並みの圧勝を遂げていた。
D○Oかよ。かなりのロールプレイである。
177
彼の後ろで彼の動きに合わせて戦闘していた存在は、おそらくス
タ○ドを模した存在なのだろうな。
精霊なのかな?
スタ○ドって言うくらいだし。
もしかしたらリアルスキンモードプレイヤーかもしれない。
精霊魔法を使える職種はあると思うが、あんな風に精霊を使う奴
なんて初めて見る。
俺の切り札に似ているな。
いや、あんなに恥ずかしい物じゃないけどね。俺のは。
思わぬ選手にただならぬ警戒心を抱きながら、H組の予選がスタ
ートする。
ん∼多種多様だな。
戦士もいれば、術師、魔術師、剣士、盗賊、弓師も色々。詳細な
職業名は判らないし、こんな乱戦で鑑定を使っている余裕も無い。
とりあえず魔力ちゃんを展開してクロスたそと聖書さんと体術で
乗り切るしか今の俺には出来ない。
ってか返る事の出来ない基本的な戦闘スタイルである。
狙うのはHP全損ではなく場外。
相手を削りきる程の火力が存在しないからな。
クロスを縦横無尽に動かして、追いつめると、巨大化させたクロ
スでドーン。
178
が、今回の作戦である。
いやはや、武器にしか変形しないと思っていた、クロスだが。
最近思うままなんだよね。如意棒と化してる。
これもクロスたんと俺の育んだ愛の証だ。
で、無事に後二人に残りましたとさ。
決勝進出は決定してるのだが、どうせなら勝ちたい。
エリーもユウジンも一位通過してるので、俺も。
相手は、棒術師と言った所か。
多分武器は一般的な六尺棒といったところかな、修行僧の服を身
にまとっている所を伺うと、なんだか手だれって感じがするが、一
体どうなんだろうな。
ってか武術職ってマジで色んな物があるんだな。
そう思っていたら、足下に鋭い突きが飛んで来る。
足を上げて躱す。良く躱した俺!
﹁あぶねぇ!﹂
いかん、ついつい素が出てしまった。
魔力ちゃんの準備はオッケー。クロスたん、聖書さんいっちょや
ってやりましょうかい!
駆け出す。
腹に突きが来る。
一番避けづらい所を突くって、経験者かよ。
179
プレイヤースキル
こういう手合いはスキルを使わないからな。PSってやつで、ス
キルを使うと手がバレるという。
ユウジンから教わった事だ。
もちろん、スキル名無しで、身体の動きだけでスキルを発動する
やからもいる。
そう言った場合、呼び動作で手を読むんだそうだが。
俺には無理な相談だ。
クロスを横ばいにぶつけて逸らし、俺も上体を横ばいに反らして
なんとか避ける。
AGIが低いから接近しないと負け確定なのだ。
で、俺は相手の武器を掴んだ。
棒術相手には単純に棒を持ってしまえばいい。
だが、相手も判っているようで。
六尺棒を捻りながら俺の手を逃れる。
だが、六尺棒を引く動作と共に俺も近づく。
肉薄してくる俺に相手はどう対応するのか。
延髄に痛みを感じた。一瞬意識が持って行かれそうになる。
なんだと思って六尺棒を見ると、三つに分かれていた。
三節棍じゃないか!
だれだこんな色物武器を作った奴は。
運営を出せ。
180
ぶっちゃけ結構痛かったので、イラッとしてしまった。
精進が足りんな。
古来より武器を持ってる相手に接近戦で挑むとしたな何かな?
柔術だ。
よし転がせ!
俺は抵抗する相手を自分の身体ごと大外巻込みで転がしてやる。
﹁ぐっ!﹂
VIT値なら負けないので床に叩き付けられるくらい痛くないし、
MND値高いから我慢できるのである。
武器を手放さなかったのだけは偉いな。
一瞬怯んだ相手にすかさず寝技を掛ける。
三節棍が邪魔過ぎる!
六尺棒だったら地面についてる時点でアウトなんだけどな。
これをどうにかしなければ!
三節棍を持つ腕を決める。
因みに聖書さんで目元を塞いでいます。ナイスサポート。
で、腕をへし折った感触がした。
これで感覚ないだろうな。
声に鳴らない響きを上げている所を見ると、痛覚100%みたい
だ。
さすがロールプレイだ。
部位欠損ペナルティとしてステータス異常が出てるはずだ。
右腕はもう仕えまい。
181
あとはマウントポジションを取って、相手が降参すれば良し。
降参しなければHP削りきって勝利だ。
﹁恐ろしい神父だな。参った、降参だ﹂
クロスを構えると相手は降参した。
よっし。予選一位を勝ち取れた。
立ち上がった俺は、あ、やってしまったと思った。
んーでもさ、神父だけど、神父として行動してるけど。
俺元々前衛職やりたかったんじゃん!
と開き直ったその瞬間。
静寂だったコロシアムが一気に沸き立った。
音が反響して地震の様に会場を揺らす。
﹁すげーぞ神父!!!!﹂
﹁あのSTR極振りの三節棍使い二三郎に勝っちまいやがった!﹂
﹁遅過ぎだろ動き! AGI無視かよ! きまってんぜ!﹂
﹁きゃぁあああ神父さまああああ神父さまあああああ﹂
182
﹁マジでプレイヤーなのかNPCなのか判んなくなっちまったぜ!﹂
﹁プレイヤースキル異常だろ!!!﹂
﹁今の所神父要素が服と十字架と聖書しかねーよ!﹂
﹁ってかどーやって浮いてんだよそれ!﹂
三者三様の叫び声が聞こえる。
この時初めて色々なプレイヤーと交流するMMOゲームの楽しさ
を知った。
単純に試合に勝利した喜びと歓声に完全に調子こいていただけな
のだが。
とりあえず、冷静になって判る事は。
俺が神父としてずっと生きて行かなければならない事が確定して
しまった事である。
もう隠れられない。
183
さて、若干の視線を感じながら来賓席に戻ると、みんな居た。
いつものメンバーにエリック神父やその他連合国のお偉いさん達
に出迎えられる。
﹁クボヤマさん、良い試合でしたね﹂
﹁ありがとうございます﹂
﹁お前、やっと感を取り戻したな﹂
﹁ユウジン⋮﹂
﹁師匠!﹂
エリーは抱きついて来た。
みんなありがとう。
ってか、おい。
﹁まだ予選終ったばっかりなのになんだこの最終回みたいなの﹂
エリーの頭にチョップをかます。
こいつが原因だ。抱きつくな離れろ。
鎧が痛いだろうが・・・
184
あれ、痛くない。
あ、あの時のワンピースを着てる。
なら、もうちょっと抱き締められてても良いかな。
﹁グフフフ﹂
おまえ、役得か。これ狙ってたんだな。
まぁいいや。
その夜は連合国の方達の懇談会に招待された。
エリック神父の友人と呼ばれるジェスアル国王が、俺の本戦出場
祝いにと開いてくれたの出そうだ。
ありがたいけど。
ありがたいけど。
すっごい肩身が狭いんだよな。
ってかどうしてこうなった。
185
さて本戦である。
対戦表はランダムだ。
本戦Aブロック
ブロウ
vs
エリー
vs
二三郎
ああああ
Agimax
釣王
vs
vs
桃華姫
ユウジン
暗黒黒魔導士
本戦Bブロック
vs
ハザード
ロバスト
そめ助
vs
vs
vs
DUO
鬼塚
クボヤマ
超絶最強神俺
う∼ん⋮⋮これは。
なんて言ったら良いんだろう、ネタネーム以外の奴らもっと頑張
れよ。
ってかこうして見ると俺の名前、だっせぇ。
自分の名前ながら思う。
186
だっせぇ。
187
神父の戦い︵後書き︶
﹃彼、エリックの若い頃にそっくりだな﹄
﹃いや、流石にそこまではないと思いますが﹄
︵︵︵︵どの口が言ってんだ︶︶︶︶
主人公の試合を見た後の来賓席の様子。
188
本戦 神父vsロバスト
本戦である。
初戦の俺の相手は、そめ助と言うらしい。
どんな奴だったかなぁ。
vs
ユウジン戦なんだけども。
ぶっちゃけ、覚えていないのである。
にさぶろう
俺的に見所は二三郎
一体彼等はどんな試合をしてくれるんであろうか。
さて、今日は俺の試合ないからな。
来賓席が今日も用意されているし、行かなきゃなんだろうな・・・
。
対戦表は、上空に常駐する飛行船がつり下げている。
どこまでも金かかってんな!
ん∼他に気になる組み合わせもしくは印象に残った選手は、釣王,
DUO,ハザード,ロバストの名前である。
釣王って名前からして、屈強な漁師を想像している。
DUOは言わずもがな、勝ち上がって行けば対戦するんだろうな。
ハザードとロバストは、なんとユウジンの知り合いだった。
最有力攻略組ギルドのナンバーワンアタッカーとギルマスである。
ユウジンとの絡み様を見る限り、ロバストはすごく豪快で良く笑
う人だった、ハザードはクールな人でユウジンをただならぬ表情で
189
見ていた様な気がしたが、何かあったんだろうか。
プレイヤースキル
要するに現トップギルドのプレイヤー二人。
vs
ブロウか。
PSもなかなかの物であったのを覚えている。
さて初戦はエリー
ブロウはローブを羽織って杖を身につけているのを見る所、普通
の魔術師って感じかな。豪華なアクセサリー類を付けているので、
魔力補正値が高いのが予想できる。
試合が始まった。
結論によるとブロウは風の魔術師だった。
確かに扱う風は強かったが、エリーは重騎士装備である。
飛ばないし、風攻撃を完璧に防いでいた。
盾で殴り飛ばして終了。
190
あっけない物である。
いや、エリーが強くなったのか。
vs
ああああ。
彼女は観客から喝采を浴びている。相変わらず人気者だな。
次の試合は、agimax
あぎまっくす?それともAGIマックスと読むのだろうか。
所謂AGI極振りプレイヤーなんだろうな。
容易に想像できる。
ああああ、はキャラを作り直せ。
ネタプレイヤーと呼ばれるものなんだろうな。
だが恐ろしいな。
黒いタイツと鼻眼鏡のみを装備した[ああああ]が、
﹃ああああ!!﹄﹃ああああ!!﹄
と、取っ組み合いを仕掛けて来るさまは、笑いを通り越して引い
た。
怖過ぎだろ。気味が悪い。
ああああは、無惨に負けていた。そこだけ笑えた。
vs
釣王
次の試合である。
桃華姫
191
二人が入場した瞬間に歓声が響いて来る。
まるでアイドルだな。
それも”両者共”だからね。
釣王、屈強な漁師もしくは、戦いに長けた老釣夫を想像していた
んだけど。
期待外れだな。
ってかアイドル見たいな容姿で釣王って良いのかよ。
二三郎の試合だ!
まぁ色んな男を釣っているようだが⋮。
vs
待っていたぞ。
ユウジン
試合は静寂に包まれた、観客は二人の集中を邪魔しない様に息を
のんで行く末を追った。
勝負自体は一発で決まる形になる。
ユウジンが消えたと思ったら、二三郎が防御態勢を取ったのであ
る。
これは決まったな。
ユウジンに勝つ為には、攻撃させないか避けるのみである。
生半可な防御がそれごとぶった切られるんだが、案の定。
二三郎の三節棍はまっ二つになって、そのまま体力が尽きてユウ
ジンが勝利。
192
ふ∼む。
vs
暗黒黒魔法師
初手は二三郎。ユウジンの動きを止めて善戦していたんだがな。
翌日。
初戦はDUO
暗黒なのに黒。
モニター
今日は選手控え室の映像転写魔法石から観戦している。
黒魔法師は、闇属性の魔法スキルを取得している魔法使いという
事か。
DUOの勝ち。
全く持って魔法が通じてなかった様に感じる。
相性が良かったのかな。
vs
ハザードだ。
﹃WRYYYYYYYYYYYYY﹄と勝利の雄叫びを上げてい
た。
次は鬼塚
特攻服を身にまとった鬼塚選手の職業は一体なんなんだろうか。
興味がわいた。そしてその装備は一体どこで手に入れたんだろう
193
か。
ハザード選手は武器制限解除スキルを持っているようで、その効
果は攻撃スキルが仕えなくなる代わりに大量の武器を装備できると
いったもの。
ほ∼ん。なるほどね。
実況さんが判りやすく説明してくれるので、こっちとしても対策
を立てやすいな。
まぁ武器制限解除ってのは、見たまんまですぐにバレやすいから
説明を入れて盛り上げとこうってことかな。
戦いっぷりはすごかった。
様々な武器が色んな所から振って来る。
魔術もあればさらに凄そうである。
すてごろ
そんな押し寄せる武器の中、素手喧嘩で戦っていた鬼塚さんの男
気に感化された。
ボロボロになっても立ち上がる姿に。
鬼塚コールが巻き起こるが、ハザードはあっけなく止めを刺すの
であった。
﹁次の対戦はユニークNPCで戦う神父! クボヤマ選手!!﹂
名前が呼ばれた。行くか。
194
ってか誰がユニークNPCだ。ざけんな。
会場に入ると歓声が響く。
対戦相手はそめ助か。
﹁対戦相手はかかぁおらがんばるど! そめ助選手!!﹂
どんな紹介だよ。
さて、どんな選手なんだろうな。
待っているが一向に選手が来なかった。
﹁え∼と、情報が届きました。そめ助選手、リアルで急遽母親が倒
れたらしく試合続行が不可能となりました。この試合、クボヤマ選
手の不戦勝です!!﹂
え∼。楽しみにしてたのに。
まぁいいや、とりあえずそめ助選手のお母さんが無事であります
様に。
おれはクロスを捧げると会場を後にした。
最終試合はロバストが勝利して終った。俺の次の対戦相手だな。
釣王
agimax
vs
vs
2回戦メンバー対戦表
エリー
ユウジン
195
DUO
ロバスト
ハザード
vs
vs
クボヤマ
こんな感じだ。
さて、2回戦も俺の番が回って来た。
ロバストとの試合だな。
ロバストは堅実なカウンターアタッカーだ。
大剣を使い防御も攻撃もお手の物。
素手のスキルもいくつか持っているらしく、武器を奪いに掛かっ
た相手をぶん殴っているのを見ている。
ま、もっとも俺には大剣なんて奪えそうも無い。
小手先の武器だったらなぁ。
白刃取りとかどうかな⋮?
いやまっ二つだろうな。押し切られそうだ。
俺、STR低いし。
そんなこんなでロバストと向かい合う。
﹁よぉ神父さん。噂には聞いてたんだがな、まさか本当にユニーク
NPCだったとは﹂
﹁違いますよ。私はプレイヤーの一人です﹂
﹁それもそうだな。これプレイヤーイベントだし﹂
彼は大剣を背負いながら軽口を言う。
196
頑丈そうな鎧を見る限り、STR、VITメインでAGIにもバ
ランスよく振っているのが伺える。
俺があの鎧着たら息切れはしないまでも動けなさそうだ。
﹁そうだ、このイベントが終わったらあんたとユウジン、ウチのギ
ルドにこねぇか?﹂
﹁いえ。私には目的がありますから、ご遠慮しときます﹂
﹁ウチは最有力の攻略ギルドだ、目的なんか、すぐに叶っちまう・・
・ぞっ!!﹂
開始の合図が出る。
同時にロバストは動き出した。意外と素早いな。
だが、大剣の大降りだ。難なく躱す。
そしてこっちからも逆に近寄ってやり、鎧の隙間に手を伸ばす。
組み付くには最適だからな。
すぐに拳が飛んで来た。
かなりの威力だな。
やっぱり武術系の職にも手を出していたか。
﹁鎧の隙間狙って来るとかこえーな!﹂
会話には返さない。
彼の拳を手で逸らすと、すぐに伸びきった腕を極めにかかる。
うーん頑丈だ。
防御系のバフにも振っているのか?
197
まぁいいや、魔力ちゃん、クロスたそ、聖書さん。
みんなで力を合わせて頑張ろう。
﹁フンッ!!﹂
腕を極めようとしていたが、その状態でロバストのスキルが発動
する。
パワースラッシュだ。
俺は腕を取ろうとしているから、発動しても意味ないのだが。
と、高を括っていたら、急激な力に俺は腕から弾き飛ばされた。
﹁まぁよく居るからな、組み付こうとするやつ。その為に編み出し
た技だぜ。パワスラで身体から弾き飛ばすってな!﹂
彼は再び大剣を構える。
余程組み付かせたくないらしいな!
面白くなって来た。
﹁いいでしょう﹂
クロスたそを鉾の形状にする。まぁ言わずと知れた、十字架の長
い所がさらに伸びただけ状態。
﹁すげーな。ユニーク武器か﹂
﹁私の伴侶です﹂
あと二人居ます。
間違ってないですが?
198
なにか?
ってことで、次は武器ありきでの打ち合いが始まった。
あ、もちろん相手のステージに合わせてやる必要は無いからね!
魔力ちゃんがクロス振ってくれるし。
そんなに組み付かれるのが嫌ならとことん組み付こう。
2対1だ。
﹁くそっ! うざってぇ! 何なんだその武器は﹂
彼は片手で大剣を振りクロスの相手をしながら、空いた手では迫
る俺を必死にガードしていた。
﹁ソードバッシュ!﹂
﹁っ!﹂
彼はクロスを放置して、俺に剣を向けるとその腹で体当たりをす
る。
シールドバッシュのソード版って所だな。
ぶっ飛ばされる俺。
今のは地味に痛かった。大剣に意識してなかったからだな。
あ、鼻血が出てるし、腕もひびくらい入ってそうだな。
オートヒーリング
自動治癒。
﹁なんだそりゃ。それもユニーク装備か?﹂
199
﹁嫁だ﹂
駆け出す。
今のはちょっと痛かったぞ。
痛かったぞ!!!
埒が明かないから無理矢理にでも活路を開く。
ってか、このまま削り合いが続くと確実に負ける。俺はVITは
高めだが、あくまで高めってだけで、普通に鍛えてる奴に敵うはず
も無い。
そして軽いから場外にでも落とされたら即負けだからな。
組み付けないなら抱きつけ。エリー戦法だ。
俺は魔力ちゃんと聖書さんを全開にして飛びかかった。
﹁投げたか。終わりだな⋮⋮なに!?﹂
当然大剣で狙われるだろうな!
だがしかし、だがしかし!
魔力ちゃんで威力を抑える。
強度は無いが、絡めとる網みたいなもんだ、少しでも剣速を落と
せ。
仰け反ったがギリギリ躱しきれず、剣先が胸をなぞる様に走る。
オートヒーリング
深さは骨で止まってくれた。
だったら自動治癒で対応できる。
200
痛みは堪える。我慢だ。
普通の十字架の大きさに戻ったクロスたそを握って彼の首元の隙
間から鎧の中に突き刺す。
セイントクロス
﹁聖十字!!!﹂
膨らむ十字架。
それに伴って聖なる魔力が彼の鎧の中でその魔力を溢れさせる。
そして鎧は崩壊し、彼の身体は焼け焦げ倒れ臥した。
くそ、それでもHP削りきれないとかどんだけだよ。
﹁お、俺が立っていられないなんてな⋮まいった﹂
ロバストの一言で俺の勝利が確定する。
はぁ、かなり危険な掛けに出なければ勝利できなかった。
プレイヤーでも、ここまで強い人は居るんだな。
俺はユニーク武器やユニーク装備と呼ばれる物に身を固めている
からな。
トコトン自分の弱さが知れてしまう。
まぁ、切り札を使う事もなかったので、今回は良しとしよう。
﹁なぁ⋮⋮本気なんだ、マジで俺んとここねぇか? ダメなら目的
ってのを教えてくんねぇか?﹂
﹁私の目的は魔法都市アーリアですからね、方角が真逆なんですよ。
201
一度図書館に行って世界地図を見てみると良い﹂
ロバストは仰向けの体勢のまま、ギルドに勧誘をしてくるがお断
りしておいた。
世界は広いんだよロバスト。
﹁ちくしょう⋮⋮次は、負けないからな!﹂
いつでも受けて立とう。
お前らを導くのが神父の役目だから⋮。
あ、違う。
何言ってんだ俺。
言いたかった事は、来る物は拒まない。
それだけだ。
202
本戦 神父vsロバスト︵後書き︶
タイピングが進む限り書いていますが、まれにう∼ん。ってなる
事もあります。
まぁいいや。
20話達成しました。
30話で掲示板回、もしくは大会終了後に掲示板回とか挟みます。
んでんでんで、ノーマルプレイヤーでの登場人物あたりの成長の
記録もいずれ。
戦闘パートは続く。
次はvsDUO!!!wwっw
デュオ
※D○OはDUOになりました。
203
神父vs??? ﹃切り札﹄︵前書き︶
※戦闘描写について意見があればどんどんお願いします。あまり得
意じゃないので参考になる物等があれば助かります。
一部を除いて、マンガ知識です。
204
神父vs??? ﹃切り札﹄
次の俺の相手はDUOだ。
かなりヤバい相手である。
かなりの苦戦を強いられたロバストのギルドナンバーワンアタッ
カーであるハザートを楽々と倒していた。
彼は自分の後ろに居る存在を、スタ○ドと呼んでいた。
絶対違うだろ。
精霊もしくは、それに準ずる何かだと思うんだが、一体なんなん
だろうか。
ファンタジー要素として俺が予測できる物は、精霊・英霊・悪魔・
幽霊くらいなんだけど、その他何かあったかな。
悪魔・幽霊くらいだったら俺にも勝機がある様に思える。
だって神父だしね。
で、決勝でユウジンと戦いたがっていたハザード氏は、あっさり
負けてしまっていた。うん、アレは酷かったな。
己の持つ全ての武器、武技を持ってしてもDUOの体術には敵わ
なかった。そして、全ての武器をへし折られて無惨に敗北した。
︵※武技はスキルではない︶
ってかあの性能はおかしい。
まさにチートと言っても良いくらいの動きだった。
205
ビルド
リアルスキンプレイヤーでしか有り得ない鍛錬法だろ。
うーん。
ノーマルプレイで取得できる職があるとしたら軽業師とか曲芸師
くらいなら近い動きを出来るかなって感じ。
所謂ジ○ジ○立ち。
あんなもん重力に逆らってないと出来んだろ。
謎だ。奴はヤバイ。何となくそう思う。
﹁クボヤマさんちょっと来てください﹂
自分の試合が始まる前に、俺はエリック神父につれられてコロシ
アム内部の理事室に来ていた。
コロシアムを運営するヨーザン州の首領がそのデカい身体をデカ
いソファに沈ませながら俺を睨む様に見ている。
そんなに睨まないでくれよ⋮。
﹁紹介します。こちらが私の古き良き友人のヨゼフです﹂
﹁⋮⋮⋮クボヤマです﹂
怖過ぎる。3mくらいあるんじゃないか。
この人、ヨゼフさん?
ってか理事室ってことは首領じゃんか!また偉い人か。
206
友達感覚で気軽に紹介するなよ⋮。
﹁話しは聞いてるよ。ナイスファイトだったねクボヤマ君。私はヨ
ゼフ・デヴィスマックだ﹂
意外と気さくに話しかけて来るヨゼフ氏は、その巨大な手で握手
を求めて来る。
ハーフジャイアント
とりあえず、大き過ぎるので小指を握っておいた。
ジャイアント
ヨゼフ氏は半巨人族らしい。だからそんなに大きいのね。
ジャ
ハーフでこれだから、純血の巨人族は一体どれくらいの大きさな
のか。
名前の通り。彼の祖父が連合国を作り上げたのだとか。
イアント
祖父ってことは結構最近出来た国なのかね?っと思ってたら、巨
人族は長寿でも知られる種族だった。
で、なんで俺がこんな所に来ているのかというと。
たった今入った情報らしい。
俺の次の対戦相手であるDUOは、悪魔と契約している可能性が
あるらしいのだ。
精霊、英霊、幽霊。諸々の諸説はあるが、あくまで悪魔の可能性
が強いらしい。
あくまで、悪魔。
断言できないのはDUOがスタ○ドだと言い張り、悪魔と思しき
謎の存在も、その姿を巧妙に擬態させているからである。
まぁ、確実に精霊ではないだろうな。
心が清くないと、精霊は呼応してくれない。
207
でも幽霊の可能性もあるぞ。
スタ○ドだし、幽波○だし。
とりあえず、依頼だった。
彼の正体を秘密裏に突き止めつつ、ヤバかったら倒してほしいそ
うだ。
神父だから押し付けられてんだろうな。
まぁいいや、悪魔だったら悪魔だったで!
こっちとしては有利だからな。
幽霊でも成仏させてやんよ!
英霊だったらごめんなさい成仏してください作戦だ。
﹁あ、待ってくださいクボヤマさん﹂
と、ろくな戦略も立てずに行こうとするとエリック神父に止めら
れる。
なんすか神父。もう疲れたよ。
﹁何か悪い予感がします。一応切り札としてコレを持って行ってく
ださい﹂
そうして受け取ったのはクロスの形をしたイヤリングだった。
お洒落アイテムか?
﹁私の法力を込めています。もし、呪いの類いがありましたら1回
のみですが、弾いてくれます。イヤリングは割れてしまいますがね﹂
208
普通に装備だった。ってか物騒な事言い過ぎだよ神父。
神父の言ってる事って何気に当たるんだよな。
念のための心構えしておこう。
さて、とりあえずどうやって戦おう。
一応ロールプレイヤーだよな?
NPCから注意受けるって、やっぱりリアルスキンモードプレイ
ヤーである証だと思う。
ノーマルプレイヤーでは無い事は確かなので、気を引き締めて掛
かろう。
何が起こるかわからないからな。
試合開始。
ジ○ジ○立ちの相手に即行を仕掛ける。
セイントクロス
﹁聖十字﹂
セイントクロス
対悪魔戦略だ!聖十字を飛ばす。
スタ○ドの正体が悪魔だったら効果抜群だしな。
209
セイントクロス
因みに聖十字は別に相手にぶっ刺して使う物じゃない。
ロバスト戦はたまたま頑丈な鎧が邪魔で威力が出ないと思ったの
で、接近して隙間に刺して発動させただけである。
まぁ近ければ近い程。威力は上がるんだけどね。
DUOは何の問題も無く避けた。
だが、避けた。
俺は今まで彼の試合を見て来たが、闇属性の魔法を避ける事は一
度も無かった彼が。
セイントクロス
俺の聖魔法というか。白魔法というか。
聖十字を躱したのである、
﹁貴様⋮⋮貴様ァ! まさか俺の天敵かァアア!? ジ○ジ○ーー
ーー!!﹂
セイントクロス
﹁いや、違いますが。聖十字!﹂
セイントクロス
戦略は決まった。聖十字責めにしよう。
で、距離を近づけつつ、組み合ったら確実に仕留める。
﹁無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!!!﹂
くっそ。おちょくってんのか。
全然当たらない。距離も近づかない。
彼と俺とでは早さに絶対的な確執がある。
﹁ふむ、どうやらそれしか出来ないみたいだな。スタ○ドの扱いも
210
満足に出来ないのかクズめ﹂
むっかぁ。なんだこいつ。
考えろ、考えるんだ。
どうすればこいつに恥をかかせられるか。
逆転の発想。閃いてしまった。
回復系の魔法、効果抜群なんじゃなかろうか?
そう、ヒール狩りって奴である。
オートヒーリング
﹁自動治癒! 聖書さん、彼も回復して差し上げて﹂
﹁ぐふっ!? き、貴様、何をした﹂
聞いてる聞いてる。
先ほどとは見違える様に遅くなった彼に、近づいて唱える。
﹁せいんt・・・ッッ!!?﹂
唱えようとした瞬間、凄まじい程の悪寒を感じて飛び退く。
後転を繰り返し急いで距離を取った。
なんだあれ。
﹁限りない悪意! 際限を知らない悪意! おれは人間をやめるぞ
! ジ○ジ○ーーーーーー!!!!﹂
神父だっつってんだろ!
何なんだ一体。
彼は懐から取り出した毒蛇の紋章が描かれた仮面を付け叫ぶ。
211
﹁力を貸せサマエル! 再契約だ! 時を操る力をよこせ! 対価
は俺の記憶だ! 好きなだけ覗け!﹂
﹃いや、前から覗いてましたけどね。いいでしょう。貴方の世界の
深淵を見せる事が私の契約の対価です﹄
仮面を付けたもう一人の彼が薄らとその姿を顕現させた。
一瞬にして理解できた。
あれは彼の魔力を借りて、この世界にたった今召還された悪魔で
あると。
とんでもない悪意が俺を襲う。
ん?悪意の中なんか別の何かも混ざってるけど。
まぁいいや。
それでも凄い悪意だからな。
特殊保護障壁で覆われた闘技場からもその悪意の威圧感はヒシヒ
シと伝わっているようで、誰一人として声を発する者は居なかった。
﹁最高に、ハイって奴だああああああああ!!!!﹂
彼はそう叫ぶと、俺に突っ込んできた。
すごいスピードである。まずい、これは死ねる!
オートヒーリング
自動治癒で弱体化してる筈なのに!
って弾かれてるいつの間にか。
﹁チッ、その邪魔な聖書の効果で一瞬動きが遅くなったか﹂
212
やっぱり抵抗してたんか。
オートヒーリング
﹃私でも解除に手こずるなんて、何なんでしょうあの聖書、私、気
になります﹄
ああもう二人で喋るなよ。
解除されたって事は、もう効かないな自動治癒。
つっても、初級の回復魔法だしな。
聖書さんよくがんばった。
もうちょっと力を貸しておくれ。
﹁流石は我が天敵! だが次は無いぞ!﹂
くそ、また来るぞ。
本当ならば、決勝まで取って置きたかった切り札だが、ここで使
わないとやられるな。
フォール
﹁降臨!!!!!﹂
聖書とクロスを重ね合わせ、頭上に掲げる。
聖力というのか、それとも法力というのか。
とりあえず神聖な力が空から降り注ぐ。
コレが俺の編み出した必殺技その2である。
大気中の魔力を薄く広げた俺の魔力ちゃんがかき集めて、それを
聖書さんが聖なる力に変換。
それをクロスたそが、俺のパワーに変える。
たぶん皆もちょっと考えればすぐに理屈がわかると思う。
213
俺のクロスたそは攻撃力MND依存なのだから。
頭上にあるクロスと聖書から変換されたパワーが、光になって降
り注ぐ様が、まるで天使の梯子の様に、神が降臨しているかの様に
見える事から。
そう名付けた。
中二臭い?
かっこいいでしょ?
この状態の俺は、ゲーム的に言うと、全てのステータスがMND
依存になる。
要するに、強い。
ま、燃費は凄く悪い欠点があるけどね。
﹁すぐに終らせるっ!﹂
まだ慣れないスピードだが、なんとか制御する。
真っ正面から殴りに掛かる。
﹁ゴフッ! ぐああああああああ!!﹂
﹃まぁ、闇の魔力を纏ってますから、効くでしょうね。素晴らしい
力です、私の本体にも届きそうでしたよ﹄
何故かサマエルには効いていない様だった。
まぁいいや。試合に勝てればいいし。
早速転がして、マウントとって・・・。
214
ってあれ?そこに居る筈の彼がどこにも居なかった。
悲痛な叫びが聞こえて、後ろを振り返れば。
闘技場の端っこに居た。いつの間に。
あ、時を操る力持ってるんだっけ?
やっぱそれ?
﹁波○の呼吸かァアアア!!!﹂
フォール
ちげーよ。降臨だよ。
﹁だが時を止めてしまえば、俺は負けんぞ!! 力を貸せサマエル
! 時よ止まれ、ザ・ワー○ド!!﹂
時を止める?
チートじゃないか!
マズい⋮⋮!!
215
パリン。
悪意に反応して、俺のイヤリングがはじけた。
時は、止まってる?
あ、本当だ!
俺の回りだけ止まってる。
でも俺は動けている。
ああ、エリック神父。
助けてくれてありがとうございます。
一発目の時止めでイヤリングが反応しなかったのは悪意のせいだ
な。
今は俺を殺そうとする悪意がヒシヒシと伝わって来た。
﹃ほぉ、時を止める術を跳ね返しましたか。流石ですね∼。そのイ
ヤリング、法王エリックの法力が込められているんですね。久しぶ
りに会いたいな∼彼に﹄
イヤリングは弾き返していたのか!
その証拠に、DUOは身体を硬直させていた。
サマエルのお陰か、五感だけはなんとか保っていたみたいだがな。
216
﹁くそっ! やはりジョー○ター家の血には勝てないのか!?﹂
﹁さっきから何言ってるんですか。私はロールプレイじゃありませ
んよ?﹂
﹁え? そうなのか?﹂
﹁成り行きで神父をやっているだけですからね﹂
﹁はぁ∼マジかよ。本気っぽいから俺もマジになっていたぞ﹂
ああ、俺が本気になっていた理由な。
ってかロールプレイ辞めたらこんなに話しが通じる奴なのかよ。
何なんだよ俺の苦労は。
俺は理由を話した。試合前に話していた内容だな。
だが、サマエルが
﹃ああ、エリックと私は旧知の間柄ですからね∼。それを報告すれ
ばいいですよ。どうせこの試合見ていたんでしょうし﹄
なるほどな。
フォール
ま、とりあえず試合に勝つべくあとは彼をボコボコにするのみだ
な。
そろそろ降臨の効果も切れるしな。
痛くない様にサマエルは力の供給を止めてくれ。
﹃わかりました﹄
217
﹁は? ちょっとまってくれよ。俺が何したって言うんだよ。もう
負けでいいからちょっと待って、ちょっとまって、ちょっと!!!﹂
フォール
降臨状態での無限パンチである。
そして、時は動き出す。
﹁あなたは少々ふざけ過ぎた﹂︵ロールプレイ的な意味で︶
218
俺は決勝戦へと足を進めた。
219
神父vs??? ﹃切り札﹄︵後書き︶
プレイヤーネームDUOの冒険を近々書きますよ。
もし、名前的にNGでしたら。全部名前変えようと思うので、あ
しからず。
の略として受け取っ
Inp
やっぱダメっすかね?この名前。VRゲーなんで、その辺は自由
だと思っているんですが、やっぱダメですかね?
︵データ入力/出力︶
ディ○・ブラン○ーがダメであって、D○OはData
ut/Output
てくれたらありがたいんですが・・・
220
剣鬼誕生
さて試合が終わって、無様に倒れるDUOを放って置いて私が向
かった先は、エリック神父の居る場所である。
俺は依頼完了の報告をする。
だが、返って来た答えは、
﹁見てましたよ。サマエルだったんですね。大方の予想はついてい
たのであなたにイヤリングをお渡ししたんですが、どうでした彼?
貴方が私の弟子だと気付いていました? どんな反応でした?﹂
パシリ
なんだよ、神父。
俺を連絡手段として使ったって事?
ってか、たまにすっごい精神を抉って来るよな。
本当の敵はここに居たのか。
﹁⋮すっごく会いたがっていましたよ⋮﹂
そう言いながら俺は例に寄ってエリック神父の隣に用意されてい
る椅子に腰掛けながら、頬杖をついた。
もう礼儀とかしらんわい。
大会は進んで行く。
エリーはagimaxに負けた。
フラウ
雪精霊とのコンビネーションはバッチリであったが、agima
xの戦い方が一枚上手だった。
221
agimaxは場外狙い。
まぁこれは当たり前か。
タンク職と削り合うなんて馬鹿でもしないだろう。
フラウ
翻弄され、ついつい熱くなってしまったエリーの凡ミス。
agimaxに誘導され、雪精霊の地面に張った氷に滑って場外
転落。
まだまだ甘いな。
聖職者たるもの、その程度で動揺しては行けないぞ。
っと戦い中かなりの頻度でイラついてる俺が申しております。
で、ユウジンだが。
まぁあっさり勝って決勝へ足を進めた。
あっさり負けた釣王。
一応名前と装備を合わせて来ているのか、それとも狙っているの
か、釣り竿を装備して試合に臨んでいた。
日曜早朝にやってる釣番組に出る釣りアイドルみたいだった。
絶対狙ってる。
いや、負けた後もなんやかんやファンを獲得していたから。
確実に狙ってやってるとしか思えないわ。
まぁ、トリッキーなスタイルで面白かったけど。
次の準決勝でも、ユウジンはagimaxを圧倒した。
222
そして、決勝は俺とユウジンである。
勝てるだろうか。
因みに俺がユウジンで勝てる事と言ったらサウナくらいしか無い。
他にもあると思うが、なんか例えが出てこない。
フォール
どういう風に勝利に持って行けばいいか考えてみる。
切り札の降臨はもうバレてるしな。
良いアイデアは無いだろうか。
お互い接近戦であるが、相手はINT,MND値以外そろそろ1
00越えしてそうな化け物ステータス野郎だぞ。
チートだチート。
俺なんて聖書さんとクロスたそと魔力ちゃんの力を借りなければ
ノーマルプレイヤーにも勝てない雑魚だ。
あ、何かちょっとへこんできた。
何にも思い浮かばない。
魔法で遠距離戦を挑むしか戦い方が無い訳だが、思い出した。
エンサイクロペディア
あいつ魔力ぶった斬れるじゃん。
なんか全部斬られるな。
斬れない物って何だろう。世界大全しかないけど。
貸してくれるかな・・・。
ダメだ、アレは魔術クラスで広く知れ渡ってしまった。
バレるな。
うーん結局、降臨︻フォール︼使って短期決戦しか無いのだろう
223
か。
それも、彼のどつぼにハマっている気がして何とも言えない。
結局。
良い案は浮かばなかった。
今の俺の中で考えうる最良の手段は、剣を奪って泥試合作戦だ。
フォール
対武器だったら対抗不可能。
素手同士だったら降臨使えばステータス的には届くと思うし。
まだ勝てる可能性が残っている。
セイントクロス
フォール
よし、聖十字を飛ばして剣で弾かれた所を突っ込んで、クロスを
剣で弾いて即行で降臨。
これで行こう!
ま、安直な考えだけどね。
決勝戦。
今回はやけに観客が多いな。
まぁ華の最終日。決勝戦だからだろう。
224
俺とユウジンは向かい合って、開始の合図を待っている状態。
﹃さてみなさん! いよいよ待ちに待った決勝戦だ! 剣豪ユウジ
ン対戦う神父クボヤマ! 今日の優勝者が初代RIOナンバーワン
の栄光を獲得する!! 最後に立っているのは誰だ!? 観衆よ!
瞬きするなよ! その一瞬を見逃すな!﹄
やけに気合いの入ったマイクパフォーマンスだな。
俺達は互いに相手に集中して行く。
歓声は聞こえなくなって行く。
皆も戦いに集中しているのだろう。
開始の合図を今か今かと心待ちにしているようだ。
よし。
初手は必ず貰う。
初手は必ず貰う。
クロスを握る手が強くなって行く。
ユウジンが俺の手を見ていた。
そしてニヤリと笑う。
開始。
225
やっちまった。開始早々手を読まれた。
ってかやっぱりなって顔してたから元々読まれていたんだと思う。
﹁せいn﹂
言いかけた所で﹁フッ﹂っと、彼の力を込める息の音が聞こえた。
慌てて横に飛び込んで逃げる。
避けるとかじゃない、逃げる。
獰猛な獣から逃げる様に。
彼の剣が、俺がさっき居た場所を一閃した。
剣に反射光が、その空間に置き去りにされている。
なんてこったい。
このままじゃ狩られちまうぞ俺。
セイントクロス
クロスたんごめん詠唱とかしてる暇ない。
セイントクロス
聖十字
セイントクロス
聖十字
セイントクロス
聖十字
聖十字
連発は疲れるな。だがそうも言ってはおけない。
死にものぐるいで連発したセイントクロスはあくまで足止め用の
牽制にしか使えないなのだから。
ええ、全部ぶった斬られましたよ。
こんにゃろおおおお!!!!
226
意地を見せてやんよ!
まずは武器を落とす所から始めないと。
バックステップしながらいつも通り剣の横ばいにクロスを打つけ
る。
剣速早過ぎて追いつきませんでした。
魔力ちゃんで鈍化しようとしても、シャンと音がして断ち切られ
る。
﹁オラオラどうした本気出せよ﹂
初めてユウジンからの声が聞こえた。
やってんだろ!
こっちは喋ってる暇なんて無いのに。
フォール
だったら使ってやる。
降臨!!!
﹁それは悪手だな。クロスと聖書を重ねる間に一瞬の隙が出来るぞ﹂
感づいて避けるが、間に合わなかった。
俺の左手首が切り落とされていた。
﹁グッ!?﹂
フォール
痛い。だが、降臨は発動した。
オートヒーリング
全能力が上昇しているのでもう痛くない。
そして自動治癒ですぐ止血。
227
部位欠損ペナルティは回避したぜ。まだ動ける。
﹁俺は武人だ、そしてお前もまた、武人である事を忘れたのか?﹂
知らん!
覚えてない。
フォール
﹁まぁいい。その降臨だっけか? それごとぶった切ってやる﹂
ここからは一発勝負だな。
フォール
体力の消耗が早い。
ってか降臨状態なのに、なんであいつの動きに着いて行くので精
一杯なんだよ。
もっと根性見せろ俺。
聖書さんとクロスたそが光る。
いや、俺の周囲ごと光を帯びてる。魔力ちゃん!
皆が力を貸してくれてるのね。ありがとう。
臨界突破状態だな。長く持たなそうだ。
最短距離で俺は迫る。
制御できない速度だった。
ユウジンも変化に驚いた様に目を見開く。そして剣を合わせて来
る。
228
左腕くらいくれてやる。
手首から先の無い左腕で防御する。VIT値も上昇している筈な
のに。
肩から俺の左腕は消えた。
それでも、一発ぐらい噛み付いてやる。
俺はユウジンの首元に右腕を伸ばした。
届いた。
握撃の要領で彼の頸動脈に俺の指がめり込む。
五感も強化されてる俺にえぐい音が腕を通して伝わって来る。
ユウジンの口元からも血が出ている。
よし。
だが、それは飼い犬のほんのひと噛みにしか過ぎなかった。
ユウジンと目が合った。
彼の目はまだ死んでいない。
首元から血が吹き出ながらも、彼の目はまだ凛々と輝いていた。
229
ドッ。
身体が震える。
大方心臓をひと突きされたのだろう。
そっからは覚えてない。
起きたら負けていた。
プレイヤーイベントの決闘大会はこれで幕を閉じた。
優勝はユウジン。
230
準優勝は俺。
3位がDUO。
4位がagimaxである。
﹁届かなかったなぁ⋮⋮⋮﹂
﹁相手が悪かったですよ。あの﹃剣鬼﹄ですからね﹂
エリック神父が、隣の席で落ち込む俺を慰めてくれる。
そうだ、ユウジンの呼び名が、剣豪から剣鬼になった。
神父を容赦なく追いつめたりぶった切ったりひと突きしたりと、
鬼の様な攻めを見せた様からである。
なんか、凄いな。
ってか俺、お前の噛ませ犬みたいになってないか?
﹁実際に最後噛み付いて来たからびびったぜ﹂
そう言いながら笑うユウジンは先ほどとは打って変わって別人の
様な態度である。
流石廃人であって達人だな。
太刀打ちできなかった。
魔力ちゃん、クロスたそ、聖書さん。
また頑張ろうね。
次は勝とうと思う。
231
さてさて、優勝、準優勝だから商品が気になる所だ。
ユニーク
それぞれに見合った贈り物がされるという。
レア
グレードで言うと、優勝準優勝は特級アイテムだった。
3、4位は希少級アイテム。
アウロラシンボル
俺は何を貰ったかというと。
アウロラレプリカ
偽女神像
﹃神時代の彫刻師が作った女神像を模して、その彫刻師の血を引く
という伝説の彫刻師アルマが作った女神像。持つ物に聖なる力を授
けるという。中央聖都ビクトリアの大教会にある女神像のところへ
持って行くと、何かが起こるかもしれない。破壊不可属性﹄
なんという。
なんという代物だ。
何かが起こるってなんだよ。
気になって来た。
凄く気になって来た。
これは魔法都市へ行く前に聖王国ビクトリアまで行かなければな
らない。
232
ユウジンは、木刀を貰っていた。
ウッドオブアース
世界樹刀
﹃不殺の剣である。極東から世界の果てへやって来た鬼は、無駄な
殺生をせぬ様に世界樹からひと振りの剣を作った。この剣を持って
戦うと、振れぬ程重くなり、また斬られた相手は無傷で昏倒する。
破壊不可属性﹄
なんじゃそりゃ!
要するに練習用竹刀ってことか。
地味に嬉しがってるユウジンである。
いや今のお前にはピッタリだけどさ。
ってか、意外とストーリーに拘ってるな。
ユニークアイテムって、この世界の神話とか逸話に沿って作られ
ている様な気がする。
それを集める旅ってのもまた良いかもしれんな。
イベントの後夜祭は、大盛況を見せた。
233
イベント大好評だな。
これはまた、何かしらのイベントがあるかもしれないから。
公式サイトは逐一チェックしなければならないな。
今は喫茶ブルーノで皆と落ち着いている。
マジで、穴場みたいな場所だわここ。
ブルーノ氏も客が来てくれて嬉しいみたいだし、またイベントが
ここであったらたまり場として使おう。
あ、そうだ。エリック神父も連れてこよう。
そして、意外なメンバーの集まって来ている。
二三郎にギルド﹃リヴォルブ﹄のギルマスのロバストとハザード
である。
例のストーカー女は来ていない。
﹁なんかお前らだけちげーと思ったら、そんな事になってたのか﹂
ロバストはあっけにとられた様に呟く。
彼等にはリアルスキンモードの説明をしていた。
ロバストとハザードは、このカフェにユウジンが二三郎を誘った
時に、くっ付いて来た形だが。
ユウジンは二三郎との試合で彼と仲良くなっていた。
男は拳で語るものみたいな感じだ。
自分に近い者を二三郎から感じ取ったんだろうな。
234
﹁ロバストすまん。俺は強くなりたい。だからギルドをやめる﹂
ハザードがそう言い出した。
リアルスキンモードをプレイする事にしたらしい。
キャラデリを意味するからな、ギルドは当然辞める事になる。
﹁⋮⋮いいだろう。だが、抜けてもまた入れるんだろう?﹂
﹁はい。システム的な補助は無いですが、同行自体はは可能なので﹂
俺は肯定する。
﹁だったら強くなってまた戻って来い。お前は俺のギルドに必要な
んだから﹂
﹁ロバスト、お前も来い﹂
﹁いや、俺にはギルドがあるからな⋮また改めて別の方法を考える
さ。よし、ウチの最強アタッカーのお別れ会でもするか、俺達は居
酒屋に行くぜ﹂
またどっかでな。とロバストとハザードは肩を組んで去って行っ
た。
友情だ。
ロバストもいずれ、こちらの世界に来て、もっと広い世界を見て
ほしいな。
235
そう思う。
ハザードはリアルスキン初期でも苦労する事無く冒険を開始でき
そうである。
それだけの知識と実力を兼ね備えているから。
とりあえずアイテムを預けて持ち越せる事と、メリンダさんの所
で基本魔法を覚えれる事だけは伝えておいた。
二三郎はリアルスキンモードにしたら、俺達を追いかけるそうだ。
典型的なソロプレイヤーだからな。
荷物とかどうするんだろう。
ま、上手くやるだろう。
さ、イベントも終ったし、﹃鍛冶の国エレーシオ﹄と﹃魔法都市
アーリア﹄を目指す旅がまた始まる。
236
剣鬼誕生︵後書き︶
登場人物が増えます。
で、強プレイヤーが二人、ノーマルモードから居なくなりました。
新しい世界で、彼等はどんな成長を遂げるんでしょうか。
ロバストとハザード。
ノーマルプレイヤーとリアルスキンモードプレイヤーの絡みも乞
うご期待です。
237
ブーム?︵前書き︶
現実世界では日曜日も終わり、月曜日だ。
エリーからメールが来ていた。
﹃御飯食べさせてください私はお腹がすいています﹄
何を言っとるんだこいつは。
﹃ログイン時間は21時で良いか?﹄
﹃はい﹄
返信早い。
確か、エリーの通う高校って、龍峰学院だっけ。
母校じゃねーか!
まぁいいや、今日は早めに終ったし、ログインするか。
238
ブーム?
プレイヤーズイベント
ログインした。
決闘大会は、なんだかんだ拘束される事が多かったので凄く疲れ
た。
素晴らしく楽しかったけどね。
と、ここでログアウト前の状況を整理する。
たしか、依頼報酬。貰ってた。
サマエルの件ね。
エリック神父から許可証書を頂いた。
中央聖都ビクトリアの大教会の資料室などの施設を利用できる証
書である。
俺の為に一筆書いたんだと。
そんなもんで機嫌なんて直さないんだからね。
ありがとうエリック神父。
で、そう言えばだけど。
エンサイクロペディア
凪も魔術クラスで優勝していた。
まぁ世界大全なら勝ち確実だろうがよー!
未だ、リアルスキンモードでは魔法と言う物がイマイチ良く判っ
ていない。
念話、念動、鑑定、空間拡張。
俺が魔術として使えるのは、この4つだけだしな。
239
法力?
あんなもんストリ○トファイターのガイ○みたいなもんだよ。
ソニック○ームとサマーソ○ト。
フュージョンレポート
俺はAGIが低過ぎるから素手相手なら基本待ちだ。
レア
凪が貰ったアイテムは、希少アイテムの融合術式概論だった。
因みに魔術クラス、武技クラスはレベルがそこまで高くならない
エンサイクロペディア
し人が集まらない為に、優勝準優勝までしか出なかったらしい。
ケチ臭いな。
フュージョンレポート
彼女はレポートを融合術式概論を世界大全に吸収させていた。
どんどん強くなってるな。
名前を聞く感じ、後が容易に想像できるぞ。
あとはこれからの進路だな。
図書館に行くのは金が勿体無いから、ヨゼフ氏に頼み込んで地図
を見せて頂いた。
素晴らしく精巧な地図だな。連合国内版だけど。
ってかこれ見せちゃダメな奴でしょ。
もっとこう、おおざっぱな奴でいいですよ!ヨゼフ氏!
で、地図を見た結果。
進路は一旦、アラド公国へ戻る事を決めた。
連合国の北には大きな山脈があったからだ。
240
馬車で山越えは不可能だな∼。
時間に余裕があれば、やってみんない事も無いけど。
ジャイアント
でも麓には、ヨゼフさんの故郷があるらしい。
行ってみたいな巨人族の集落。
何食ってあんなにでかくなったんだろうな。
進路は、ヨーザン州から西に向かいアラド公国の国境の砦へ。
無事に入国を果たした。
進路はそのままアラド公国中央都だ。
中央都に入ってみたら意外な光景に驚かされる。
プレイヤーも、NPCもみんなリュックを背負っていた。
まるでこれが今期のトレンドなのよ?とでも言わんばかりの状況
である。
まさかここまでとはな!
恐るべし。ブレンド商会。
なんかシステム的な補助が入ってるのかな。
リュックがあるだけでアイテムインベントリ拡張機能とか。
そう言う機能がない限り、プレイヤー達は使わんだろうに。
もしかしたら、この中にもリアルスキンプレイヤーが混ざってい
るかもな!
241
一般街のブレンド商会に向かう。
貴族街とか息詰まるしな。
もう北まで来てるのか、ノーマルプレイヤーのトップレベルって
いくつだ?
そういえばロバストさんに聞いておけば良かった。
ん?ノーマルプレイヤーに念話って届くのだろうか?
試してみよう。
﹃ロバストさーん、聞こえていて、もし念話魔法を持っていたら返
答おねがいします﹄
話しかけて思い出したけど。
初めてユウジンに話しかけた時は返してくれなかったな。
多分念話の魔法を習得していないと、返答できないんだろうか。
ありえるぞ。
んで、しばらくして返って来た。
﹃急にびっくりすんじゃねーかクボ! お陰でボーナスポイントを
幾つか魔術に振っちまったぜ﹄
﹃返ってきてよかった。これでノーマルプレイヤーの方々とやり取
りが出来そうですね。ハザードさんも取得すれば話しかけてくるん
じゃないですか?﹄
242
﹃ん? お、おう。そうか、そういうことか。へへ。教えてくれて
ありがとよ﹄
﹃で、本題なんですが、今のトッププレイヤーのレベルっていくつ
ですか?﹄
﹃俺のレベルでいいなら教えてやるよ。53だ﹄
﹃・・・・・・・・・・﹄
﹃わかんねーのか⋮。俺もそこそこ廃ってるプレイヤーだからよ。
これでもまだ高い方だ。あとは攻略最前線組のみんなだが、あいつ
ら勝手に世界に散っちまったらかなんの情報もねぇよ﹄
﹃そうなんですね。今アラド公国に居るんですが、プレイヤーが思
ったより多かったので、驚いていたんですよ﹄
﹃あぁ、北の国か。ハンターランクD以上じゃないと行けないはず
⋮。あれ、なんか王都出身の人達はEランクでも行ける様になって
んじゃん。どうなってんだ﹄
﹃知らぬ間にイベントが進んでいたんですかね。ありがとうござい
ます。私たちもRIO時間で数日ほど滞在する予定なので、また﹄
﹃おう、行く用事が出来たら連絡するぜ﹄
ふーむ。
何イベントが起きたんだか。
243
謎だ。
まぁいいや、とりあえず商会へ向かう。
で、出て来たら、ホクホク顔の皆である。
俺以外な。
くそっ!それでも多少なりのお金が手に入ったから嬉しい。
ってか、俺ってお金使ってたっけ?
今思えば借り物貰い物のオンパレードな気がする。
まぁいいや、補給する。
竜車のワゴンに必要な資材を詰め込んで行く作業は、セバスが行
っていた。
俺はもちろん教会へ。
隣にはエリーが居る。
決闘大会で負けたのか相当悔しかったのか、彼女はより一層鍛錬
に励む様になって行った。
ならばアラド公国なんかより、他の国が良かったかもしれないな。
良い狩場がある国はどこだろうか?
前にも言ったと思うが、アラド公国は草原、平原、耕作地域ばっ
かりなので、国境側に行かないと魔物をあまり見かける事が無い。
まぁその点、物資、食料は豊富に揃うんだけどね。
244
朝市も、あるらしいので明日の朝一番で向かおうと思う。
セバスを連れて。
魔力ちゃんもクロスたそも聖書ちゃんも、決闘大会はよくがんば
フラウ
ってくれた。
雪精霊も交じって彼女達は礼拝中気持ち良さそうに飛び回ってい
る。
礼拝が終ったら、アラド中央都を歩く。
そう言えば、すぐ草原竜だったり、イベントだったりでしっかり
中央都を見て回っていなかった気がするので、少しブラブラするの
も良いだろう。
﹁師匠、あそこ寄ってみまセンカ?﹂
エリーが俺の手を引きながら喫茶店へと進んで行く。
喫茶店ロイヤルブレンド。
系列店かよ。
入ってみると意外と人が居た。
内装はお洒落だし、高品質の割には安くて満足できた。
ブレンド商会の商品作り恐るべし。
245
最近では、エリーとこうして寄った町中の喫茶店を廻るのが定番
となっている。
ちなみに、結構な頻度でケーキだったりスイーツを食べていた彼
女は一時期ふっくらしていたが、ゲームの世界でも太るんだなと指
摘すると。
より一層祈りと鍛錬に励む様になっていた。
なので最近の彼女は若干の筋肉質である。二の腕とか。
ただ最近、鍛錬のしすぎで耳が少し潰れて形が微妙に変わってし
まったのが悔やまれる。
ヒールやリカバリーでも治らないので、高位の回復系魔術を覚え
たら直して上げよう。
間に合えば良いんだけど。
優雅にお茶を取った後、時間が余ったので凪の所へ行ってみた。
彼女は全ての財を魔術関連の書物の収集に費やしている。
もともとハマり出したら止まらない性格だったのかな。
今までは、何したらいいか判らない、とりあえず慣れてるから縫
い物でもやっとくわ。
っていう感じだったが、今ではある種誰よりもこの世界の知識に
くわそうだ。
リアルでも学校の図書室、図書館に籠って、オカルト雑誌だった
り専門雑誌だったりを読みふけっているらしい。
なんかすごいな。
246
そしてだ。
一般街を歩いていると見つけてしまった。
エリーが発見したんだよ。
俺じゃない。
女性用下着専門店﹃キヌヤ﹄である。
絹で作られた女性用ショーツを販売しているお店だ。
RIOの世界には無いデザイン。
それは現実世界でのものだった。
エリーは大喜びである。
ああ、やっぱりストレスは溜まっていたのかね。
因みにこの世界は男はヒモパン。
女性はドロワーズもしくははかない。
ただし一人だけフンドシスタイル。
ヒモパンっていっても、女性がはくヒモパンじゃなくて。
麻でできた紐付きハーフパンツの紐を腰で縛ってるだけ。
そんだけだ。
ノーマルスキンプレイヤーはインナー標準装備だが、リアルスキ
ンモードはない。
自分で買ってはけってこった。
せめて女性プレイヤーにはその辺のサポートくらいあっても良い
と思う。
247
運営よ、何故作らなかったのか。
その謎は今解けた。
お前らで作れってことだな。
﹃キヌヤ﹄で売られている下着は絹地のヒモパンである。
この世界の女性もいよいよヒモパンデビューなのか。
冗談だ。
お洒落で、女性が好きそうなデザインが多いな。
だが、お客さんが全然居ない。
﹁あら? めずらしいわね。お客さんかしら?﹂
茶髪を後ろで束ね、メガネをかけた女の人が店の奥から出て来る。
なんだっけ、あの髪型。フィッシュボーン?魚の骨みたいなやつ。
﹁あ、お邪魔しています﹂
﹁あら、神父様が綺麗な女性を引き連れてこんな所へ。どういった
御用で?﹂
少し笑いを含んだ声で返された。
た、たしかに。
248
﹁ワタシが連れて来マシタ。どうしてもここのショーツが欲しクッ
テ﹂
﹁珍しいわね∼。ひょっとして貴族かしら? お偉いさん?﹂
もし、俺達がお偉いさんだったらあんたのその態度はマズいと思
うけど。
﹁いいえ、たぶん貴方と同じ、リアルスキンモードのプレイヤーで
すよ﹂
﹁わぁ! 初めて会ったわ! お仲間さんだったの?﹂
そんな感じで握手を求められる。
こっちの世界で遭遇したリアルプレイヤー二人目だ。
聞く所によると彼女もVRゲームは初めてらしく。
興味本位で手を出してみたそうだ。
俺と同じ境遇⋮!
だが俺と違ったのは、彼女はしっかりゲームについて前知識を持
っていた事。
ローブなど、服飾装備の生産職だったら知識を活かして楽しくで
きそうだと思ってやってみたのだが、この世界の下着の在り方に絶
望し、店を構えるに至ったらしい。
リアルでも女性用下着のメーカーに勤めてるんだって。
向こうでもパンツ。こっちでもパンツ。御愁傷様。
249
で、なんとか個人店を開くまでに至ったそうだ!
だが、いざ店を作ってみたが、誰も買ってくれない。
彼女はマーケティングと言う物を疎かにしていたんだな。
この世界は、はかない。もしくはドロワーズだ。
絹のパンティなんてなんか贅沢そうだし、一般街で店を構えても
売れないだろう。
貴族街の連中は、貴族街でしか買い物をしないしな。
﹁それなのよ∼。大きなミスよ∼。でも高くても物は良いのよ? 私は丹誠込めて作ったんだから﹂
このままでは店舗の家賃すら払えなくなってしまうそうだ。
貯蓄を切り崩し、この世界での生活を成り立たせているらしい。
いや、最悪ハンターに戻ればいいと思うんだが。
﹁そんな自己破産な真似できるわけないじゃない!﹂
彼女のプライドが許さない様だった。
﹁あ、そうだ神父様。あなたの教会でこれ使ってくれないかしら﹂
﹁あ、私は旅の神父なので、所属してないんですよ﹂
やんわりお断りしておく。
これ以上教会とのコネクションが強くなってたまるか。
でもなんとかして上げたいな∼。
どうしたら良いんだろう。
250
﹁師匠、これはセバスに任せるべきデス﹂
確かにそうだな。
俺達は基本、こう言った交渉になる物はセバス任せである。
俺がやると、足下を見られるもしくは、譲歩してしまう。
ユウジンがやると、脅迫になる。
凪は興味ない事は興味ないらしい。
基本的にエリー、またはセバスが請け負っている。
うん、任せよう。
しばらくしてまた訪れてみると。
彼女の店はブレンド商会と提携し、安価で高品質を掲げて大売り
出しセールを行っていた。
﹃神父の護衛騎士愛用の下着﹄
﹃ブレンド商会は画期的なデザインを貴方へ﹄
﹃絹100% 着け心地はよろしくてよ?﹄
といった幟が掲げてある。
251
おい!
神父の護衛騎士愛用の下着って何だよ。
リュックブームからの、ヒモパンブームがアラド中央都で巻き起
こるのであった。
252
ブーム?︵後書き︶
ちょっとずつノーマルプレイヤーとリアルスキンの垣根を超えて来
ましたよ。
ちなみにノーマルモードプレイヤーでもこの景品のユニーク・レ
アアイテム達はちゃんと使えますよ∼。
説明が変わってるだけで。
VIT+50とかSTR+50。重量200とかそんな感じでア
イテムステータスだけ書いてます。ちゃんと鑑定すれば物語が出ま
す。
する人はあまりいませんが。
神父様は、パンツ職人と出会った。
セバス﹁私のプレゼン能力は世界一﹂
253
幕間−DUOの大冒険1−︵前書き︶
※息抜きとして見てください。別に読まなくてもストーリーにはあ
まり関係ありません。
※残酷な描写があります
254
幕間−DUOの大冒険1−
﹃DUOさん、貴方はどこへ向かっているんです?﹄
サマエルが俺に話しかける。
決まっている。
ダークサイドフォード
俺と同等の力を持つであろう、始祖ヴァンパイヤが居る。
暗黒地帯だ。
あの神父に勝つ為には、始祖ヴァンパイヤを倒して俺がその血の
力を奪うしか無い。
ダンピール
ヒューマン
ちなみにいうと、俺の種族は半吸血鬼だ。
むろん、リアルスキンモードには種族が人族しか無い。
だが、俺は吸血鬼の血を持っている。
あの日。
ただの色物ロールプレイヤーだった俺は、とあるマンガの悪役﹃
DUO﹄として生まれ変わった。
﹃ロールプレイである事には変わらないんですがね﹄
バカいうな。
ヴァンパイヤで、時を操れて、悪党で。
これだけそろってたらロールプレイの範疇を超えている。
俺の目指すDUOという人物像は、容姿端麗で、高い知性とカリ
スマの持ち。極度の負けず嫌いの上昇志向で、どんな汚い手を使っ
255
てでも目的を果たそうとする狡猾な野心家である。
﹃ウィキペ○ィアの引用そのままですね﹄
黙ってろ。
ダンピール
前までは、冴えない日本人という顔つきだったが、半吸血鬼と化
してからは、容姿もそこそこ日本人離れした顔つきになった。
ガリもやしだった体格も、ムキムキである。
肌の色は蒼白になったがな。
﹃もとから白かったじゃないですか﹄
・・・。
髪の色も色素が抜けてしまったのか、ブリーチした金髪の様な派
手な物に変わっていた。
﹃剛毛でくせ毛ですがね﹄といちいち五月蝿いサマエルを俺はし
かとする。
とにかく、俺は初日。
右も左も判らない状態。リアルスキンモードの意味すら判ってい
ない状態で、不用意に森へ出てしまい。
死にかけたはぐれヴァンパイヤに出会い、殺されかけた。
256
?????
まだ昼間だというのに、森の中は薄暗かった。
まぁ死んでも生き返るしっていうどこまでも甘ちゃんな考えで俺
は薄暗い森を探検していた。
木の陰に踞るナニかを発見する。
ガリガリに痩せてしまった手と、鋭く伸びた爪でガリガリと木の
根元を?き毟っていた。
人間か?リアルでなら不気味で近寄らない存在だが。
俺はゲームのイベントだと思い話しかけてしまった。
﹁おい、どうした。そこで何をしているんだ?﹂
金色の目が俺の方を向く。
その瞳孔は、猫の目の様に縦に開いていた。
目が合うと、ゾクリと言いようの無い不気味が背中を撫でる。
﹁⋮⋮⋮を、よこ、せ⋮⋮﹂
は?
﹁⋮⋮⋮血を寄越せ!!!!﹂
一瞬にしてマウントを取られ、首元に牙を突き立てられる。
俺はパニックに落ち入った。
首元が熱い!
喰われる!
誰か助けて!
257
耳には、ジュルジュルと血を吸う音が響いて来る。
血を吸うごとにコイツの腕に力込められて行くのが判る。
﹁ァぎッ⋮!﹂
押さえつけられていた左腕が圧し折れる音がした。
かなりの力で握られたんだろう。
そこからは必死だった。
運良く、石が近くに落ちていた。
まだ自由が効く片方の手で拾って側頭部を思い切り殴りつける。
良い所に当たったのか、吸血鬼は怯む。
折れた腕から飛び出ている骨すらも支えにして起き上がって。
蹴り倒してこっちからマウントを取ると、必死に殴った。
折れた骨を胸元に刺してやった。
人間追い込まれれば何とかなる物だな。
そのままボロボロになった吸血鬼の死体の隣で気を失った。
?????
ダンピール
﹃で、起きたら半吸血鬼になっていたってことですね﹄
ああ。
258
それにしてもゲームであそこまでリアルに驚く事は初めてだった。
﹃私からすれば、ここも現実世界なんですがね﹄
それだ。
俺はこの世界がゲームだともう思っちゃいない。
DUOとしてこの世界で生きて行くのだ。
そう考えるとあの糞神父。
トコトン神父のロールプレイ極めましたよって格好しながら。
何がロールプレイではありません、だ。
次は勝つ。
﹃はい、頑張ってくださいね﹄
ああ。
﹃DUOさん、DUOさん。次は私と出会った時の話しをしてくだ
さいよ﹄
え、なんでだよ。
﹃いいからいいから﹄
仕方が無いな。
259
ダンピール
サマエルと出会ったのは、半吸血鬼になってから、身分を偽り旅
商人の馬車に乗せてもらって東へ向かう途中だった時だ。
たまたま荷物の中に蛇の仮面があって。
あ、これロールプレイに使えるなと思って譲ってもらったからだ。
商人は呪いの仮面を次の商人に押し付ける手間が省けると喜んで
譲ってくれた。
ヴァンパイア
﹃私は不幸の手紙ですか﹄
うん、そうだな。
そして﹁あれあなた、吸血鬼の癖に昼間も行動できるんですね?﹂
と声を掛けて来たのがサマエルだった。
﹃世界を旅したいといったら、エリックが私をたまたま持ってた仮
面に封印してくれましてね、そのまま世界の物流にポイですよポイ。
彼って意外とドSなんですよ?﹄
そうやって、うざい仮面が出来上がったのか。
エリックってあの神父の隣に居た奴だろ。
おまえ、仲良くすんなよ。
﹃あら、私に嫉妬しているんですか? DUOも可愛いですね。私
は知っているんですよ? あなたのHDDに﹄
もういい!もういいから!
それは言わないでくれ。
サマエルは力をくれるというので、俺の記憶を力の必要な分見せ
ると言う事で契約した。
260
異界の知識が珍しかったんだと。
俺も最初は怖かったから、力を使う時にしか見せないという契約
にして、あまり力を使ってこなかったんだが。
決闘大会では調子に乗ってしまった。
再契約は記憶全部覗かれる。
恥ずかしい記憶から、恥ずかしい記憶全部だ。
忌々しい。
﹃スタ○ドプレイはなかなか楽しい物ですね。笑﹄
紛らわしい言い方をするな。
だが、俺の記憶を見ているので、ロールプレイする分にはマシだ。
技の名称を言うだけでそれ通りにしてくれるんだからな。
﹃時止めは2秒までですよ? 始祖ヴァンパイアを倒したらパワー
アップ得点で5秒にして上げます﹄
ダークサイドフォード
小賢しさくなっちまったがな!!!
さてと。
そろそろ暗黒地帯だな。
毒の沼やら、鬱葱とした不気味な気。
261
たしかサマエルが言うには、ここは魔界にも繋がっているらしい。
ダークサイドフォード
いずれにせよ始祖ヴァンパイアを倒し、俺がこの暗黒地帯を支配
してやろう。
俺はDUOだからな。
俺の気配を感じ取って襲って来るヴァンパイア達を蹴散らしなが
ら、暗黒城へと直進する。
﹁ハハハハハハーッ! この俺がDUOだ! たった今から貴様ら
を支配する王だ!!!!﹂
262
幕間−DUOの大冒険1−︵後書き︶
RIOの世界じゃこういう事もあるんですね。
うん。
DUOの成り上がりです。
彼は吸血鬼とか悪党とかいいつつ未だ人を殺めていませんよ。笑
263
国境の寂れた教会で
俺達は更に北進する。
アラド公国を北に進路をとり、国境の砦を抜け﹃泉の国ヴェント
ゥ﹄へ行くべくラルドの引く竜車に乗って、快走していた。
泉の国って一体なんなんだろうか。
泉の中に国があるのかな?
泉の国ヴェントゥ⋮。
泉の国ベントー⋮。
新幹線乗ってたら関西辺りで売ってそうだな。
くだらない事は置いといて。
アラド公国の広大な耕作地域へ流れる川の水は、そのヴェントゥ
の泉の水だとかなんとか。
と言う事は、航路でヴェントゥまで行けるのかな。
船、乗ってみたいな。
だが、俺達にはラルドが居る。
ラルド、今日もお前の走りは最高だ。
ハイヤー!ラルド!北へ全力全身だ!
264
ランバーン
そう言えば、ブレンド商会からの情報によると、この走竜種達。
そこそこ繁殖成功実績が貯まって来たからアラド公国の商品として
売り出そうという計画が上がっているらしい。
今までは高価な贈り物の際と、騎竜部隊でしか使われてなかった
そうだ。
ブレンドが販路を手掛け出してから、こんなに早く商品かするな
んてな。
ステップドラゴン
まぁアラド公国に進出して来たプレイヤー達のお陰で、草原竜の
被害が治まっているらしいからな。
そういう都合の良い状況が重なって開けた道なんだろうか。
最近のブレンド商会の進歩が目覚ましい。
さすが、神と対等に取引する男︵自称︶である。
国境の砦へ続く分かれ道で、直線ルートを塞ぐ兵士によって、俺
達は迂回ルートを選択する事を余儀なくされた。
なんとも、旅商人のキャラバンが盗賊に襲われたらしい。
※この世界でキャラバンとは商人旅団のことです。
物資は飛び散らかり通れる状態じゃないらしく、現状維持のため
道は封鎖されているそうだ。
御愁傷様です兵士さん。
265
兵士さんは迂回ルートを教えてくれた。
幾分遠回りになると思うが、竜車での行動ならそう変わらないら
しい。
兵士達もあたりを捜査しているが、盗賊団が出るかもしれないか
ら気をつけてくれだそうだ。
盗賊団ね。
規模が判らないが、キャラバンを襲撃できる盗賊か。
想像するだけでも結構な人数が居そうだな。
警戒する必要は十分ある。
話しを聞いたセバスは、ランドに警戒して進む様に言いつけ、同
時に俺とユウジンでも周囲を警戒しつつ迂回ルートを進んで行った。
で、案の定だ。
今俺達は、その盗賊団に追われている。
数がそこそこ居るな。二十人くらいか?
ぶっちゃけラルドがいるから振り切れると思っていたのだが、奴
266
らはキャラバンから馬を強奪していたらしい。
キャラバンの印を付けた馬に乗った盗賊が何人か後ろから追って
来ている。
鬱陶しいな。
﹁ユウジン!﹂
キャビンの窓を開けて、見張り番としてセバスの隣に座っていた
ユウジンの名前を呼ぶ。
彼は立ち上がり、キャビンの屋根に登った。
よく立っていられるな。
結構な速度で結構な揺れなのに。
俺も窓から身を乗り出してクロスを握る。
セイントクロス
﹁飛剣﹂
﹁聖十字﹂
お互い遠距離技を飛ばす。
アースオブウッド
ってかユウジン、お前やっぱり遠距離技も持ってたんだな。
斬撃を飛ばしているが、彼は常に世界樹刀を握っているので、当
たった相手はただ気絶するだけだった。
﹁師匠、師匠の技はユウジンさんの斬撃で掻き消えまシタネ﹂
﹁うっさい﹂
最前線を走っていた馬が転び、それに続き後続も転んで行く。
267
落馬ってすごく痛そうだ。
一先ずこれで安心だと思う。
盗賊達を尻目に俺達は道を先に進んだ。
迂回用の道は、しばらく使われてなかったのか、でこぼこしてい
て進み心地が悪かった。
振動がもろに伝わって来て、凪が窓から吐いた。
ってか、さっきの戦闘でも凪が魔法使ってれば即行だったのだが、
案の定、馬車の中では真っ青な顔して横になっていた。
不運な事は続く。
ついに車輪が取れた。
荒い道を結構な速度で走ったからかな。
ってかメンテナンスしてなかったからな。
完璧にゲームの世界だと油断していた。
﹁申し訳ございません。私の管理不足です﹂
セバスが皆に謝る。
いやセバス、そんなに謝らなくてもいいんだよ。
あ、ロールプレイだったな。
ちょうど近くに教会らしき建物が見えたので、盗賊から身を隠す
ついでに馬車の修理を行うそうだ。
俺も礼拝しよう。
凪の世話をエリーがしているので、今回は一人である。
268
古びたドアノブを手に持つと、風化で壊れた。
⋮これ、礼拝してる途中で崩れないよな?
進むと礼拝堂がある。
中は意外と立派だった。
柱にはひびなどが入っているが、これなら崩れる心配は無さそう
だった。
この様子じゃ、女神像もしっかり残っていそうだな。
有りと無しじゃ、礼拝のテンションが変わって来るから。
そこは譲れないのである。
だがそこにある像は女神でなく大鎌を持ったガーゴイルの石像だ
った。
真ん中に一体ではなく、左右に一体ずつの二体である。
女神像がある筈の場所には、何も無かった。
不気味過ぎるだろ。
宗教戦争でもあって、大昔に廃れた別宗教の教会なのかな?
とりあえず女神像が無い。
なんてこった。
アウロラレプリカ
でもそんな時にはこれ。
偽女神像さんの出番である。
俺はリュックの口を目一杯広げて、割と大きな女神像を取り出す。
そして真ん中に置く。
269
すると。
﹃我が主を驕るのは誰だ﹄
﹃この法力、あの女か﹄
﹃いや、この魔力は矮小な人族ぞ﹄
﹃ではあの女の差しがねか﹄
ゴゴゴゴゴ。と石像が動き出す。
ボロボロと石が剥がれる様にガーゴイル達はその姿を露にした。
これはヤバイな。
とんでもない悪意と魔力をヒシヒシ感じる。
ってかもしかして貴方達の神様をここに安置してた感じ?
まじで?
それは謝るから元の位置に戻ってください。
お願いします。
﹃あの女の使いには死を﹄
270
﹃永遠の苦しみを﹄
ですよねー。
俺は、女神像を即行でリュックの中に仕舞うと、ガーゴイル達の
攻撃を転がる様に躱し、教会の出口に駆け出した。
﹁おい! 今すぐ逃げるぞ!﹂
﹁一体何があった!﹂
ユウジンが駆けて来る。
﹁別宗教の教会で、大鎌を持ったガーゴイルが襲って来た! セバ
ス竜車は?﹂
﹁もうすぐ準備できます!﹂
教会の柱が、壁が崩れている様な音がする。
ガーゴイル達が迫って来ている音だろう。
車輪の修理は終っていた。
後はラルドを繋いで、逃げるだけだ。
戦う選択は?
何かあんな巨大な物二体も相手できない。
流石にユウジンでも無理だろう。
凪だって本調子じゃない。
271
俺が女神像を置かない限り出現する事は無い魔物だと思う。
ユニーク武器で召還される魔物とか。
勝てるわけないじゃないか。
決闘とかでもないし無理はしない。
鉄則だ。
﹁戦わないのか?﹂
ユウジンは暢気な声で言う。
その瞳には静かな闘志が宿っていた。
なら木刀を戦闘用の刀に持ち替えてから言ってくれませんかね!?
バトルジャンキーか!
﹁へっへっへ! 貴様らやっと見つけたぞ! さっきはよくやって
くれやがったな﹂
間の悪い事に盗賊も来た。
めんどくせー!
﹁これは俺も厳しいな﹂
﹁だから! 早く! 行くぞ!﹂
もう女性陣二人は竜車に乗せてある。
セバスも準備ができているようで、俺はセバスの隣の御者席、ユ
ウジンはキャビンの上に飛び乗った。
逃げようとした所で盗賊達が竜車に接近して来るのをラルドが蹴
散らしてくれた。
272
ナイスラルド!
だが、進行方向にも盗賊が待ち構えていた。
﹁遠さねぇぞ! その竜と竜車、女を置いて殺されやがれ!﹂
くそ!強行突破しかないかな。
そう思ったと時、後方の教会の方からも凄まじい崩壊音が聞こえ、
羽をはためかせたガーゴイル達が、俺達の目前に飛来した。
﹁お、お頭ァッ?????助けグプュ!!!﹂
﹁なんだぁ!? 何なんだこれハッ?????ケヒッ!!﹂
蹂躙だ。
着地と同時に真下に居た盗賊達はぐちゃぐちゃに潰されてしまっ
た。
風船が弾ける様に血の飛沫が周囲を染めて行く。
セバスでも目を背ける程の光景だった。
﹁キュロロロロロ⋮﹂
ラルドが怯えた様に鳴きながら俺を見る。
お前でも怖いか、前に進めないのか。
⋮⋮そうか。
﹁はは、倒すしか無いみたいだな。楽しくなって来たぜ﹂
﹁⋮⋮だな﹂
﹁なんだ? 不満か?﹂
273
﹁いや、逆だ。これほどまでに腹が立つのも初めてだ﹂
﹁ノリノリじゃん﹂
こいつら、人を嘲笑う様に殺しやがった。
水たまりで遊ぶ幼児の様に、血溜まりでまだ息のある盗賊の頭を
踏みつぶして遊んでいる。
純粋に悪意に対して怒りが芽生えた瞬間だった。
隣でユウジンが楽しそうに俺を見ている。
俺の心境は全然楽しくないけどな。
﹃脆い、下等な種族ぞ﹄
﹃人間は美味くないから好かん﹄
フォール
﹁鬼闘気!﹂
﹁降臨!﹂
俺達二人は初めから全開である。
二人で相手をしてる間にセバスには避難してもらう。
セバスとエリーには凪の事を頼む。
頭がやられて一目散に逃げて行ったとは言え、まだ残っている盗
賊が居るかもしれないからな。
ってかユウジン、冷静になってお前を見たら。
湯気出てんだけど、上着脱ぐな。
274
﹃世界樹の鬼の匂い﹄
﹃何故こんな所に﹄
﹃その法力はやはりあの女の﹄
﹃仕留め主への手みやげに﹄
セイントクロス
﹁倒してから言え聖十字﹂
フォール
相手のペースに付き合ってる暇はない。
そういえば、十字架持ってなくても降臨状態なら聖十字飛ばせる
様になった。遠距離って良いね。
ユウジンも斬撃を飛ばしている。
普通に大鎌で弾かれた。
⋮弾かれただと!?
牽制だからいいけどね。
大振りの大鎌が襲う。
軌道が読みやすいので簡単に避ける。
まずは武器を奪ってしまえ。
鎌なんて刃がついてない部分はなんら問題ない。
鎖も分銅もついてないしな。
気をつけるのは長い尻尾の不意打ちだな。
﹃小賢しいことを﹄
﹃我が鎌を弾くとは﹄
275
ユウジンは鎌と打ち合っていた。
遊んでんだろ⋮。
俺はそんな余裕無いからな、制限時間もあるし。
聖書さん、クロスたそ、魔力ちゃん。行くぞ!
初手は石像の腰に飛びつく。
ロッククライミングの要領で顔面を目指し登って行く。
こういう手合いには攻撃できる所からって言うけどさ。
こっちは素手だからね。
一撃で仕留めれそうな所を狙うよ。
叩き落とそうとしてきた腕を避ける。
だが、尻尾がすぐ飛んで来て弾き飛ばされた。
あの尻尾がくせ者だな。
千切れないかな。
俺は尻尾の付け根に聖十字を当てる。
﹃ゴガアアアアア﹄
千切れた。ってか、硬いのは外側だけで、中身はしっかり生き物
してんのな。
で、千切れた所が焼けただれている。
そういえばDUOも殴ったら効いていたな。
弱点か!
そうかそうか弱点か!
276
﹁おまえも楽しそうだな! まずは羽を落としちまえ!﹂
ユウジンはそう言って目の前のガーゴイルをまっ二つにした。
終ったか、彼の相手していたガーゴイルは、尻尾、羽、両腕が切
り落とされていた。
部位破壊報酬貰えるぞ。
﹃馬鹿な!? ぬぅう!﹄
フォール
邪魔な羽を落とそうとすると、降臨状態が終ってしまった。
時間切れか、仕方ない。
もう結構弱ってるし、ヒール聞くだろうし。
なんせ二対一だからな。
﹃フン。今ので仕留めきれなかったのが貴様らの運の尽き﹄
そういってガーゴイルは翼を翻す。
﹃我が主は決してあの女の使者を生かしてはおかぬ。精々死の恐怖
に怯えていろ﹄
捨て台詞を吐くと、凄い勢いで飛び去ってしまった。
いや、極論を言うと、プレイヤーだから死ぬ恐怖とか無いんです
が。
まぁいいや。
﹁何だったんだ﹂
277
判らない。
何かを呼び覚ましてしまったという事は確かである。
悪い事じゃないと良いけど。
確実に悪い事だな。
疲れた。
よし、最後にもうひと仕事だ。
俺は死んでしまった盗賊達を崩れてしまった教会跡地に埋葬した。
盗賊達は悪党だったとは思うが、なんだかやるせない気分になっ
た。
278
国境の寂れた教会で︵後書き︶
騎竜アップデード︵笑︶
﹃大草原を駆け抜けろ﹄︵笑︶
ノーマルプレイヤーも新たな時代の幕開け。
リアルスキンモードプレイヤーも新たな物語の幕開け。
279
幕間−ハザードの進む道−︵前書き︶
※息抜き投稿です。多分今日で一日四話更新は終ります。最後っぺ
で書きなぐってました。来週からは一日一回ペースでかける範囲で
やって行こうと思います。読んで頂いて、沢山のご感想を頂いて本
当に嬉しく思っています。ありがとうございます。
280
幕間−ハザードの進む道−
俺は今、ジェスアル王国南東部へ向い移動している。
なんとかハンターランクDでも受ける事が可能なキャラバンの護
衛依頼を受け、同行している形だ。
リアルスキンモードに来た事は正解だった。
俺の目標が見つかったからな。
プレイヤーズイベント
決闘大会で惨敗した俺は、自分の強さに憤りを感じていた。
プレイヤースキルだってロバストに引けを取らないし、攻略最大
手ギルド﹃リヴォルブ﹄のサブマスター、ナンバーワンアタッカー
だと自負していて、ロールプレイなんかに負けるなどとは微塵にも
思って無かったからだ。
俺の戦い方は様々な武器で他を圧倒するスタイルだった。
武器制限解除スキルにより、装備できる武器がアイテムボックス
に入れてある全ての武器となっているので、戦いの最中に出し入れ
するだけでトリッキーな攻撃を可能とする。
実際に、それでリヴォルブ最強のアタッカーとして活躍して来た
のだ。
だが負けだ。
勝手にユウジンを倒すと息巻いていた俺が恥ずかしかった。
ユウジンとは何の因縁も無い。
ただ俺が一方的に嫉妬していただけだったから。
281
圧倒的なプレイヤースキル。
最初のレイドボス戦からぶっ飛んだ強さを見せていたあいつに、
俺は追いつきたかった。
実質、ユウジンはリヴォルブ最強のアタッカーだと回りからは思
われていた。
ギルドに入ってすら居ないのにだ。
そして勝手に居なくなった。
居なくなった後も彼はギルド最強のアタッカーだと言われていた。
ロバストは気にするなと言ってくれたが、俺には現実を受け止め
る事が出来なかった。
強さを模索して、ギルドを利用して属性武器を作成したり、武器
制限解除などに手を出していた訳だ。
だが強くなった実感はあるがあいつの影には一つも届いていない
と心の中で諦めていた。
あの日、あいつは俺の事を覚えていなかったようだがな。
教えてもらった通り、俺はリアルスキンモードをプレイする事に
した。
リアルスキンモードの世界に行き、俺は驚きで声を無くしてしま
った。
システムアシストが全く存在しない世界。
282
これがあいつの見ていた世界かと思うと、何もかもが輝いて見え
た。
これで俺も強くなれる。
根拠も無いのにそう思っていた。
そして、俺は言われた通り、占い師の元へ向かい自分の才能を占
ってもらう。
﹁才能はないねぇ⋮⋮⋮強いて言えば、色んな物に挑戦できるよあ
んたは﹂
別の意味で言葉を失った瞬間だった。
特出した才能なんか無い。
まぁそんな物だな。
乾いた笑いが出た。
﹁はは、所詮持ってるやつらしかナンバーワンは取れないってこと
だな⋮﹂
﹁一番に拘り過ぎさね。人生やる事は他にも沢山あるんだよ﹂
俺も何故そこまでナンバーワンに拘ってるのか判らなかった。
いつからだろう。
誰かの背中をひたすら追い続けるだけの毎日が始まったのは。
呆然とする俺に、占い師は言葉を投げかけて来る。
﹁才能があるってことは、必ずしも役に立つってことじゃあ無いん
だよ﹂
283
・・・。
﹁一つに特出した所で、無限の可能性をドブに捨ててる事さ、あた
しゃそう思う。努力を才能にしか向けれなくなった頭でっかちだっ
てね﹂
﹁占い師⋮⋮いや、メリンダさん。俺は一体どうしたらいいんだ﹂
﹁そんな物自分で決めな! なんであたしがそこまでしてやらなき
ゃいけないんだい!﹂
再び俯く俺に、メリンダさんは溜息をついて言ってくれた。
﹁なら、あたしの所に来て占いでもやるかい? でもあたしの訓練
はきびしいよ?﹂
占い⋮。
魔術か。
⋮⋮そうか。それがあったんだ。
284
その時、俺の頭の中で眩い程の閃きが起こった。
これだ、と思う物を見つける事ができた。
﹁全部だ。全部。魔術も武術も極めればいい。俺はナンバーワンを
諦めない。勿論占いも教えてくれ。頼む。いや、お願いします﹂
そう言って頭を下げる俺に、
﹁あたしゃ厳しいよ、挫折するんじゃないよ﹂
そう返してくれた。
この日からメリンダさんの元での修行が始まる。
メリンダさんは色々な魔術を教えてくれた。
それこそ豊富な種類だ。
我ながら凄い人を師に持ったと思う。
そして合間に、俺は武器・武術の鍛錬もする。
こっちは独学だが、現代知識を使えば補えない事も無い。
毎日が楽しい。
やはり、目標と言う物は高ければ高い程良いな。
持たない物は、持たないなりのやり方で、高みを目指せば良いだ
けだ。
285
そんなわけで、俺はメリンダ師匠の最後の試験を受け﹃賢人の塔﹄
を目指している。
﹁あんさん、凄い沢山武器背負ってるけど、他の荷物はどうしたん
だい?﹂
﹁ああ、ここにあるよ﹂
俺はディメンションを唱える。
空間拡張の上位魔法だ。
これには制限が無い。ただし、制御をミスると俺も取り込まれて
しまうブラックホール魔法である。
覚える為に何度も死んだ。窒息死だ。
﹁あ、あんさん。こ、高位の魔術師様か?﹂
﹁いや、まだ修行中の身の旅の魔術師だ﹂
﹁魔術師ってのはとんでもねぇな! 馬車いらずだ! なんでまた、
リュックなんて背負ってんだ?﹂
ああこれか。
一々戦う時に武器を亜空間から出すのも、めんどうだからな。
凡庸でよく使う武器は、始まりの街にも最近出回って来たバック
パックと呼ばれる高機能リュックに詰め込んである。
﹁でも腰に剣さげてるってこたぁ、剣士でもあるのかい?﹂
﹁そうだな﹂
286
﹁たまげたぁ!﹂
そう、両腰には長剣を挿している。
その他にもローブの中には短剣数本。
バックパックは口を限界まで開いて、自作やら買ったヤツやらが
隙間無く押し込まれている。
でバックのサイドには独自配合の薬草だ。
完璧に俺専用ソロ仕様バックパックだな。
これが俺のやり方だ。
才能よりももっと大事な物を、俺は師匠から教わったのだから。
キャラバンと別れて、更に南東部へ。
この辺まで行くと、村、もしくは猟師の山小屋がログアウトポイ
ントになってくる。
たしか賢人の塔は﹃燃える夕暮れの村﹄から近かった筈だが、そ
の村すら未だ見つからない。
仕様がない。
サモン
﹁召喚・コーライル。周囲を見て来てくれ﹂
一羽の烏を呼び出すと周囲の探索をしてもらう。
合図があった、どうやらもう少し南東の方向に行けば村があるら
287
しい。
もう夕暮れ時になっていた。
村が見えて来た。
なるほど、名前に恥じない村だな。
その村は夕陽を浴びて燃える様に輝いていた。
翌日、俺は賢人の塔の入り口の前に居た。
最後の試練か。
これが終れば俺は、世界へ出てみようと思う。
まだ始まってすら居ないのに俺は何を考えているんだか。
一先ず目の前の塔に集中しよう。
288
幕間−ハザードの進む道−︵後書き︶
ハザード回でした。
いつあるか判りませんが、次回のハザード回は挑戦賢人の塔あた
りです。
289
別れ、そして坑道の魔物
アラド公国北の国境の砦は、アラドとヴェントゥを縦断する運河
の傍にあった。この運河のお陰で、ヴェントゥとアラドの結びつき
は強い物となっているらしい。
やっぱり航路で行けるようだ。
乗ってみたいな。
だがそこまで大きな船ではなかった。
これじゃラルドは乗らないな。諦めよう。
代わりにラルドには川沿いの道を走ってもらう事にした。
景色を眺めつつ、旅を続けよう。
時折出現する川辺の魔物を蹴散らしながら進んで行く。
う∼ん。
御者席に居るセバスの隣に座ると、まるで風の中に居る様な気持
ちになる。
﹁風が気持ちいいな﹂
﹁でしょう? 私も御者特典だと思っておりますよ﹂
まったく羨ましいぜセバス。
雨の日には大変だろうけど。
雨外套を来てラルドを駆ける姿は本当に従者の鑑だよ。
290
さて野営だ!
旅商人用の野営施設があったのでそこを利用している。
ある物は使っとかないとな。
この世界、結界とかあればいいのに。
まぁ野営中の見張りも楽しみであるし、重要な修行タイムである
が。
夕食は、川で釣って来たらしいコモンフィッシュのソテーだった。
淡水ならどこにでも住んでいる魚らしい。味は普通。
そう言えば、以前アラド中央都の朝市にてマグロの様な巨大な魚
スピードチューナ
を目にした事がある。
大型回遊魚と行って、世界の海を回る魚らしい、たまったま川に
迷い込んでいるのが穫れたんだとか。
もの凄い高値がついていた気がする。
海が遠いからな。それとも、かなり美味なのか。
気になる所である。
夜食は、ラビット肉のシチューだった。
ラビットの肉まだ残ってたのな。
定番である。
俺には、始まりの街の教会で作り続けた思い出のある一品だ。
セバスが作るラビットシチューは、当然俺の作るシチューより美
味い。
俺だって子供達には美味しいって言われたんだぞ。
291
本当だぞ。
各々が野営の時間つぶしを始める。
俺は瞑想だな。
﹁クボヤマ様、少し良いでしょうか?﹂
なんだ?
俺は一端瞑想をやめる。
﹁誠に申し訳ないのですが、私達、ヴェントゥについた辺りで現実
時間で1週間程お暇を頂きたいと思います﹂
﹁⋮⋮テストか﹂
﹁はい。誠に申し訳ございません﹂
いやいや、そんな畏まって言うなよ!
なんか怖くなったじゃないか。
彼等は学生だったな。それも仕方ないだろう。
現実時間で一週間か、RIOの世界ではそこそこ長い期間になる。
ん∼それまでヴェントゥで待っているってのもな。
﹁ユウジン、ちょっといい?﹂
﹁なんだ?﹂
一端素振りを止め、こっちへ来るユウジンに事の顛末を話し、こ
れからの事を決めた。
292
俺とユウジンはヴェントゥから徒歩で北を目指す。
で、テスト期間が終わったセバス達は竜車で俺らの後を追うそう
だ。
まぁ竜車はセバスが交渉して手に入れた物だし、いいんじゃない?
もし俺らがバラバラになったとしても、俺は別に徒歩で良いよ。
凪もエリーも十分強いからイレギュラーが無い限り早々負けない
と思う。
無理して俺達と同行しなくても良いと思う。
鍛冶の国へついたら俺はユウジンと別れて単独行動で魔法都市ま
で行く予定だったから。
そうして夜も更けて行く。
幾つかの村、街を抜け、俺達は泉の国ヴェントゥの首都についた。
大きな泉の外周を囲う様に街が出来ていて、泉の真ん中には城が
ある。
カリオス○ロの城だな。
観光マップを見てみると、カリオス城だった。
広大な泉の外周を街で囲むなんて凄く不便じゃないかと思ったが、
交通手段はほぼ船らしい。
点在する街を時計回りと半時計回りに順繰り回っている船が何隻
もあるのだそうだ。
293
良いアイデアだね。
さっそく、教会へ向かう為に乗る事にする。
もちろんエリーと二人でだ。
今日が終ればしばらくお別れだからな。
なんとなく名残惜しいが、テストで良い点とれる様に俺も祈って
おこう。
﹁師匠、船デートデスネ﹂
﹁⋮そうだな﹂
最近、二人で歩いているとしょっちゅうこういう事を口にする様
になった彼女を俺は船から見える首都の街並から目をそらさずに軽
く流す。
まぁこんな風に軽い調子であるなら。
俺も変に真剣に考える必要も無いだろう。
もしその時が来たら、今の俺には無理だろう。
﹁テストが終ったら、すぐに追いつきマス﹂
﹁行き先は魔法都市と鍛冶の国だ。その辺はセバスに話してある﹂
何かあれば念話してくれれば良いし、ログイン前にメールを入れ
てくれれば良いからな。
彼女は﹁ハイ﹂と一言。
少し悲しそうな目で景色を見つめていた。
294
そして、俺とユウジンは特にヴェントゥで特に観光をする訳でも
なく、すぐに北を目指して進み出した。
二人旅も恙無く進む。
ヴェントゥから北へ航路で北上し、俺らは今、鍛冶の国の一歩手
前であるモータニア山脈の坑道手前の村に来ていた。
ラルドが居る時であれば、山脈を東へ迂回して、そこの国を経由
して行けるのだが、徒歩でなら坑道が近道なのだ。
それと同時にとある依頼も受けていた。
俺の噂はこんな所にも広まっているようで、手厚い歓迎があると
同時に。
坑道に得体の知れない魔物が出没して、困っている。
それをどうにかしてくれという依頼だった。
坑道としては使えない事も無いが、新たに見つかった鉱脈へと繋
がる坑道を封鎖する事になって、採算が取れずに困っているそうだ。
事情を知らない鍛冶の国の職人達から催促が届いていてもどうし
ようもないと。
295
依頼の報酬は、鉱山の魔物の鉱石でいいらしい。
鉱山で産まれる魔物は、その身に鉱石を宿しているそうだ。
もう人が何人も殺されている状況を考えると。
かなり厄介な魔物が潜んでいると予想できる。
そうすると、その身に宿す鉱石も、かなり貴重な物になるとかな
んとか。
本当かな。
まぁ、断るとエリック神父の顔を潰す事になるので受けるけど。
ユウジンも珍しく即答で了承したしな。
鉱石は別にいらないからユウジンにやるよ。
そうして俺らは坑道へと足を伸ばす。
﹁ここがそうです﹂と言われる。
鉄製の頑丈な扉がある。
坑道の職員が、扉の鍵を外して行く。
一体何個付けてんだよ。
ズズズ。と重たい音を発しながら扉が開いて行く。
俺とユウジンは薄暗い坑道へ足を踏み入れた。
どっちも辺りを照らす様な魔法を持っていないので、俺が松明を
持っている。
坑道の壁に、松明が照らす二人の影がゆらゆら動いていて凄く不
気味。
296
そう言えば俺、怖いの苦手なんだよな。
リアルで一度占い師に、君は霊感は無いけど霊を殴り倒すエネル
ギーはあるよ。
なんて言われた事がある。
信じた事は一度も無い。
ヤバいな。そう考えると凄く怖くなってきた。
今の俺はMND系のデバフが掛かっている状態。
聖書さん読もう。力を貸してください。
ふぅ落ち着いた。
坑道は下り坂になっていた。
これ、入り口付近で崩れたら、俺らは確実に死ぬよな?
いかんまただ。
不安な事を考え出すと止まらなくなる。
聖書さん助けて。
埒が明かないので、常に聖書さんとクロスたそを両肩に浮かせて
ます。
﹁なさけねーな﹂
うるせーな。
コイツはコイツでなんで平気なんだろう。
297
あれか、霊感ないからか?
達人ならその辺の感覚とか研ぎすまされてそうだけどな!
魔力が斬れるんだから、もしかしたら幽霊だって斬れるのだろう
か。
ありえるな⋮。
あー怖い。洞窟怖い。
狭い所無理だわ
そんな時、俺の魔力が何かを感じ取った。
﹁ユウジン、何か居るぞ﹂
﹁俺は今の所何も感じないけど?﹂
いや、確かに感じる。
しかも後ろからだ。
﹁⋮⋮!? 後ろ! ユウジン後ろ!﹂
﹁む!? ⋮って何も居ないじゃんか、驚かせんなよ﹂
二人で後ろを振り返るが、何も居なかった。
おかしいな、確かに気配はあったんだが⋮。
﹁ってかなんだよユウジンお前もビビってるじゃん﹂
﹁いや、ビビってねーし。お前じゃねーし﹂
298
そうやり取りしながら安心した様に前を振り返ると。
何か居た。
﹁!?﹂
二人そろって心臓を握りつぶされた様な感覚が広がった。
癖なのかもしれないが、ユウジンが即行で刀を振るう。
ガギンッ!
根元から折れてしまった。
﹁うそだろ!﹂
﹁お前絶対普段は木刀持っとけよ! もしくは抜刀すんなよ! 絶
対だぞ! ビビって人殺しましたじゃすまないからな!﹂
﹁そんな場合じゃねぇ!﹂
たしかに!
299
パニックに落ち入った俺達は一目散に逃げだす。
追って来る。
マジかよ!
ヤバイ超怖い聖書さん助けて!
聖書さんが光る。
落ち着いて来た。
なんで、俺、あんなもんにビビってんだろ。
ただの得体の知れない何かじゃん⋮。
はぁ⋮。
ちょっと、聞き過ぎ。
だけどありがとう聖書さん。
振り返って冷静に鑑定した。
デモンゴーレム
悪魔鉱人形・アダマンタイト
﹃悪魔が鉱石に憑依した姿。憑依した鉱石によってレベルが変わる。
悪霊が憑依すると、人形にはならず呪いの鉱石になる﹄
悪魔か!魔物か!
﹁ユウジン! アレは悪魔が憑依した鉱石だ﹂
﹁なに! なら斬れる! やっつけるぞ﹂
300
ウッドオブアース
いや、お前さっき刀おられたばっかりだろ。
彼は木刀を持っていた。世界樹刀か!
破壊不可属性だな、それなら行ける筈だ。
色々制限がついてる刀だが、最近ユウジンは重さにも慣れてしま
ったようで、もっと重くなれと要求するぐらいだった。
勢いとは裏腹に、軽い音がする。
そりゃそうだな、そういう仕様なわけだし。
﹁バカじゃねーの!? 人じゃないんだぞ﹂
﹁すまん、少しパニクってた。聖書のバフくれ﹂
聖書さん、あいつにもお願い。
ユウジンも少し落ち着いたらしい。
以前坑道を駆け上がっている状態だ。
鈍足な俺が全力で走ってギリギリ追いつかれない速度なので、運
が良かった。
だが俺の体力が持たん。
それよりアダマンタイトってなんだっけ。
﹁えっと、普通のゲームなら神鉄って感じでかなり貴重な鉱石だよ。
ああ、俺の刀が通じないわけだわ﹂
そう暢気に言う彼。
ちょっとまて、そんな貴重な鉱石なら、憑依している悪魔も相当
な上物じゃないか?
301
セイントクロス
だが悪魔なので、一か八か聖十字を放つ。
躱された。
﹁おお、効くみたいじゃん。俺が抑えるから、当てろよ﹂
そう言いながらユウジンはまた斬り掛かった。
拮抗する。
彼の表情はキツそうだ。そりゃ壊れないだけで今は制限武器でし
かないしな。
デモンゴーレム
俺は聖十字を当てる事に成功した。
ボロボロと悪魔鉱人形の身体が崩れて行く。
﹁よっしゃ、鍛冶の国前に良いものゲットだぜ﹂
デモンゴーレム
そう言いながら崩れ去った悪魔鉱人形の欠片を手に取ろうとした
時、鉱石が手の形を形成すると、ユウジンを掴み投げた。
坑道を支えている柱にぶつかる。
かなりの勢いがあったみたいで、柱は折れ、彼はバウンドしなが
らゴロゴロ奥に転がって行った。
デモンゴーレム
デモンゴーレム
その間、悪魔鉱人形は復活しようとしていた。
俺は悪魔鉱人形に聖十字を当てると、ユウジンを追って坑道を駆
け下りる。
デモンゴーレム
俺が走り抜けた後ろで、悪魔鉱人形が復活し、追ってこようとし
た。
だが、運がいい。
折れた柱のお陰で崩れた天井に押しつぶされた。
302
自業自得だ!
彼を助けないと。
303
別れ、そして坑道の魔物︵後書き︶
※現実時間とRIO時間についての質問はこれからもなあなあにな
ってると思うので、指摘されてもどうすることもできません。ご想
像にお任せします。
幽霊が恐い神父︵笑︶
パニックしています。
304
女神の聖火
坑道内を派手に転げ回った彼の身体は、あちこちを骨折し裂傷を
負っていた。
これは死なないだけ助かったと思う。
意識を保っていた彼を元気づけ、治療する。
治療した所で、完全復活を遂げるにはいささか時間が必要だろう。
マズいな。
圧倒的に恵まれたステータス、かつ常日頃から鍛錬を怠らないユ
ウジンの身体は正直言って化け物レベルだろう。
それがこの状況である。
相当な力を持っていない限り、彼の頑強な身体はダメージを負わ
ない筈なのに。
デモンゴーレム
悪魔鉱人形には崩れた天井の瓦礫が直撃したんだ。
そう簡単には追って来れないはず。
同時に逃げ場も失ってしまったがね。
ユウジンを肩で支えると、歩き出す。
一先ず、何処か安全な場所を目指さなければならない。
弱点を突いた攻撃の筈だが、復活するなんて有り得ない。
それほどまでに上級の魔物なのだろうか。
セイントクロス
いや、聖十字を当てた際に、確かにあの魔物からは力は失せたは
ず。それは絶対に間違いない。
305
だったら何故だ?
何が起こって、あのゴーレムは復活を遂げたんだろうか。
﹁ゴホッ。ゴーレム系は大抵⋮⋮体内に魔核があるか、それを操っ
ている奴が、いる⋮ゴホッゴホッ!﹂
判ったから喋るな!
今は体力を回復させる事に費やしてくれ。
だが、良い事を教えてもらった。
だとするとあのゴーレム。何処かで操っている奴がいる。
直感だが、たぶんこの坑道の一番奥だろうな。
そのまま行くのはマズいか。
途中見つけた、坑夫の休憩所として使われていたであろう部屋を
借りた。
丁度おいてあったカンテラに火を灯し、少し休憩する。
ユウジンはベッドに寝かせている。
ここが坑道で助かった。
オートヒーリ
ただの洞窟だったりしたら俺は一体どうなっていたんだか。
死に戻りだろうな。
ング
少しでも早くダメージペナルティから抜け出せる様に、﹃自動治
癒﹄は続けておく。
こんな事なら高位の回復呪文を学んでおけば良かった。
いくら回復呪文が多少使えるからって、毛程も役に立ってないじ
ゃないか。
306
目の前で苦しむ人を救う事が出来ない。
何が神父か。聖職者か。
ロールプレイじゃないと言いつつも、神父という職業をなにげな
しに甘受していた俺が情けない。
俺は、一体何がしたいんだろうか。
思考の中に没頭すればする程、俺は何がしたいのか判らなくなっ
て行った。
自動治癒を続ける聖書を何気なく見る。
そういえば、これを暇つぶしに読む事から始まったんだったな。
聖書さん、俺に諦めるなって言ってるの?
俺はよく聖書やクロスに話しかけている。
頭の痛い人だと思われそうだが、彼女達は実際に俺の気持ちにい
つも答えてくれていた。
なら次は俺が答える番だな。
一先ず、この坑道の魔物を倒して、脱出する事を考えなければな
らない。
今まで何考えてたんだ俺。
先に考える事があるだろ。
アダマンタイトのゴーレムか。
神鉄って呼ばれる程の鉱石だったよな。
ユウジンの刀も折れる程の。
ふ∼む。
307
坑道を更に奥へ進む。
運搬用のトロッコが途切れている場所へたどり着いた。
たぶんここがこの坑道の最も深い場所だと思う。
う∼ん。何も無いな。
休憩所から借りて来たカンテラを辺りにかざしてみる。
でかい穴があった。
灯を照らしてみるが、急勾配で凄く奥まで続いている事しかわか
らん。
ここに、入れと?
少し躊躇してしまう自分が居る。
聖書さん、クロスたそ、魔力ちゃん。
俺に力を貸してくれ。
308
俺はその穴を降りて行った。
降りた先はかなり大きめの空洞で、階段があった。
暗闇の中、下へと続く階段はかなり不気味である。
まだ下に降りるのか、いい加減ウンザリして来た。
ってか洞窟に階段があるって、ここなんなんだよ。
所謂ダンジョンってやつ?
その疑問は降りきった先で解決する。
カンテラも必要ない程、明るい空間だった。
遥か下にあるマグマ溜まりを囲う様に作られた神殿がそこにある。
マグマの赤い光によって照らされる神殿は、荘厳の一言に尽きる。
何かに縋る様に俺はその神殿を進んで行く。
﹃誰だ、こんな所までくる物好きは﹄
頭の中に声が響く。
﹃ん? アウロラの存在を感じるな。また俺を揶揄いに来たのか?﹄
アウロラ
いや、違う。
女神を信仰する神父だが、違う。
309
﹃そうか、凄く愛されてるな。あの女に。で、どうやってここまで
来た?﹄
なんだ、凄くフレンドリーな奴だな。
﹃お前は失礼な奴だな。本当に神父か?﹄
神父だよ。この聖書とクロスが見えないのか?
﹃エリックの十字架じゃねーか。なんで持ってるんだよ?﹄
それは俺が彼の弟子だから。
なんでエリック神父知ってるんだよ?
貴方はどなたですか!?
﹃ああ、俺はヴァルカン﹄
・・・?
アウロラレプリカ
﹃ああ、あれだ。ドワーフ共は、俺を火やら鍛冶の神だと信仰して
いるぜ﹄
ああ、神様か。
俺を女神と間違えたのは偽女神像を持ってるからかな?
そう思いながら、俺は偽女神像をリュックからだす。
これの事か?
﹃それか∼、すまんすまん。あの女が来たのかと思って焦ったぜ﹄
310
デモンゴーレム
そんな事より、ここはどこなんだ?
あんたが悪魔鉱人形を操ってた本体?
﹃デモンゴーレム? ああ、たまにわく奴だな。俺は関係無いぜ。
そしてここは俺様を奉る場所、火の神殿だ。おかしいな、入り口は
塞いだ筈なんだが﹄
それはあれだ、ゴーレムの仕業だ。
俺はあのゴーレムを倒す為にここに来たんだよ。
﹃それは筋違いだな。ここは何も関係無い﹄
そうか。なら引き返すよ。
ゴーレム
﹃待て、どうやら奴さんのお出ましだぜ﹄
俺は振り返る。
そこには歩いて来る無数の鉱石人形達が居た。
その中心に居るのは例のアダマンタイトゴーレムである。
ジェネラルクラス
﹃お前もついてねーな。悪魔の中でも強い奴が産まれてんじゃん。
将軍級なんてな﹄
フォール
アウロラレプリカ
﹁いや好都合だ!! 降臨!!﹂
フォール
俺は即、降臨状態になると、偽女神像を片手に走り出した。
作戦は至って簡単である。
神鉄という最硬度を持つ物質が相手でも、破壊不可属性で殴れば
311
壊れるのはどっちか?
神鉄だよなァ!!
リーチ短い割にはそこそこデカくて扱いづらいが、そうも行って
られん。
じゃないと勝つのは不可能だ。
少なくとも俺の脳みそはそれ以上のグッドアイデアを出す事が無
かった。
奴らは少なくとも俺が天敵の筈だ。
生命を脅かす存在だから執拗に襲って来るのだと思う。
﹃恐ろしい奴だなお前⋮。だがナイスファイト。とりあえず隠れて
る悪魔は階段の入り口に居るから頑張れや﹄
ありがとうヴァルカン。
俺は洞窟から神殿に降りて来た階段を見据える。
セイントクロス
アウロラレプリカ
悪魔が従えるゴーレム達を聖十字を直当てしてガンガン崩壊させ
ながら駆け抜けて行く。
セイ
片手で足りない分はもう片方の手で握りしめた偽女神像を振り回
して破壊する。
だが、アダマンタイトゴーレムが先を阻む。
コイツだけ動きが違う。
時間を取られてる間にまたゴーレムが復活する。
くっそイラついて来た。
ントクロス
もう他をシカトして階段を駆け上がり、将軍級の悪魔に向けて聖
312
十字を放つ。
ただの鉱石に憑依していた悪魔は聖十字が当たる直前に、アダマ
ンタイトゴーレムの中へと鞍替えした。
悪魔も消耗しているのか。
それとも今まで分散していた力を集約して、打って出ようという
のか。
周囲に他のゴーレムは居なくなり、アダマンタイトゴーレムしか
残っていなかった。
こっちとしても好都合である。
操る存在が無くなったんだ、後は本体をバラして魔核を破壊すれ
ば良いだけ。
それ
﹃なかなか熱い展開だが、降臨は最後まで持つのか?﹄
フォール
ヴァルカンがそう語りかけて来たと同時に、俺の降臨状態が解け
てしまった。
マズいな。
持っていた女神像が急に重く感じる。
力が足りないが、可能性はまだ残ってある。
こっちは破壊不可属性⋮
﹁ガッ!?﹂
殴り飛ばされた。
神殿が囲む中心のマグマ溜まりに落ちそうになる。
313
ギリギリの所でクロスを神殿の床に刺し、ブレーキ代わりにする。
悪魔は追撃を仕掛けて来る。
オートヒーリング
自動治癒を悪魔に向ける。
少しヒビが入り動きが遅くなるだけで有効打にはなってないみた
いだ。
くそ、やっぱりあの神鉄が邪魔だ。
あれに邪魔されて法力が届かない。
﹃苦戦してるみたいだな﹄
﹁まったくだな!﹂
ついついイライラして口に出てしまった。
﹃加勢しよう﹄
は?どういう事だ?
悪魔の猛攻を、なんとか薄皮一枚で躱す。
﹃そのままだが? お前を見殺しにするとアウロラとエリックに色
々言われそうだからな﹄
マジか!
ならお願いしよう。
もうそろそろ、体力が尽きそうだ。
アウロラレプリカ
﹃よし、ならその偽女神像をマグマの中に放り込め﹄
314
え?ちょっと。
いや、流石にそれは⋮。
﹃神の顕現だぞ。相応の物を捧げないと無理なんだよ﹄
わかったよ!
ここで俺が死んだら、次の標的は確実にユウジン。
そして、この悪魔が更なる被害を生むかもしれない。
アウロラレプリカ
俺は聖十字を放ち牽制しながら偽女神像をマグマに投げ込んだ。
﹃確かに受け取った。よし、強い意志を持って俺の名前を叫べ﹄
くそ、ろくな時間稼ぎにすらならないのか。
悪魔はすぐそばまで迫っていた。
﹃現世に顕現せよ!!!﹄
315
﹃ヴァルカン!!!!!!!﹄
もう眼前まで迫っていた悪魔に俺は目をつぶってしまった。
だがいつまで経っても何のアクションも起きなかった。
恐る恐る目を開くと、燃える様な赤髪天然パーマでガタイの良い
男が悪魔の攻撃を剣で受け止めていた。
﹁てめーやっぱ失礼なやつだな! 誰がパーマだって!? まぁい
いや間に合ったぜ﹂
ギラついた目をこっちに向ける。
その瞳も真っ赤に燃えていた。
アレ
﹁偽女神像はあくまでユニークアイテムだからな、俺の顕現時間は
神殿に居る事を考慮しても持ってあと十秒だ﹂
十秒か、それまでに何かアイデアを考えなければならない。
メギド
﹁その必要は無い、大サービスだ、お前に取って置きを教えてやる。
お前に魔法の才能は無いから神火を使いこなせるかわかんねーが、
316
今回だけ俺が手伝ってやる﹂
そう言いながら彼は俺に小さな炎を渡す。
心地よい暖かさのそれは、凄いエネルギーが凝縮されているのが
わかる。
両手で受け取ると、彼は言った。
メギド
﹁それが神火だ。発動方は簡単にしてある、全てを燃やし尽くす意
思を込めて叫べ﹂
その炎を見る。
全てを燃やし尽くすイメージを浮かべる。
だが、小さな炎は更に小さくなった。
エネルギーが暴走しそうになる。
まずい、このままじゃ制御できない。
﹁トコトン才能ないんだな! もうなんでも良いよ、自分の意志を
込める事が重要だからな!﹂
くそ!うっさいな!
自分の意志、急に言われてもな!!
クロスと聖書が、俺の視界に入って来る。
まるで力を貸す様に、小さな炎を囲ってくれる。
﹁俺は神父を受け入れる!! 全てを救いたい!!﹂
317
バラ
その瞬間、紅色だった小さな炎は、その姿を純白に変えた。
そして純白の炎は俺の胸に消えた。
アウロラ
﹁わぁお! よっぽど女神に好かれてんだな! そりゃ聖火だぜ!
女神の火だ!﹂
俺はもう良いだろ。そう言いながらヴァルカンは消えた。
動き出した悪魔に、俺はたった今覚えた力を使う。
バラ
﹁聖火﹂
純白に輝く炎は、悪魔の頭上から降り注ぐ。
そして、悪魔だけを燃やし尽くした。
バラ
終った。
聖火を使ったせいか、それとも強敵と戦っていた疲労間からか、
足に来ていた俺は蹌踉めいた。
その瞬間、地響きが起こる。
バラ
﹃あ、すまん。久々に力使ったからマグマのバランス崩れた。噴火
しそう。できるだけ抑えるけど死んだらすまんな。でもお前の聖火
もバランス崩す要因だったからな? 責任は半分ずつな﹄
半分ずつな?じゃねーよ!!!!
揺れで神殿が崩れ出す、柱が折れ、床が割れる。
その衝撃で、俺はマグマ溜まりに落ちる。
これは死んだ!
318
だが俺の手を掴んだ人が居た。
﹁ユウジン!!!﹂
﹁どーなってんだよこれ! 逃げるぞ!!﹂
彼に担がれる。なんかデジャブだな。
いや本当に、良い友達を持った。
﹃じゃ、またな∼!﹄
暢気な声を尻目に、俺らは出口を目指した。
トロッコの辺りまで来ると、ユウジンは俺をトロッコに投げ込み、
自分も乗る。
﹁乱暴だな!﹂
﹁言ってる場合か!﹂
トロッコは出口へ向かい走り出す。
でもちょっとまてよ、天井崩れてる場所無かった?
ほらほらほら目の前目の前!
﹁鬼闘気・衝波斬﹂
ゴバッ!
目の前の瓦礫が跡形も無くなる。
319
すげーなおい。
そのままトロッコを降りると俺達は出口に向かって必死に走り続
けた。
途中で遅過ぎる俺は再び抱えられていた訳だが。
320
女神の聖火︵後書き︶
神父を目指すのか。クボヤマよ。
完全なる偶像崇拝みたいになってるよ。
運営の用意したストーリーガン無視。
321
鍛冶の国﹃エレーシオ﹄
ログインした!
ここは鍛冶の国﹃エレーシオ﹄の宿屋である。
デモンゴーレム
俺達は坑道の一件の後、無事にエレーシオまでたどり着いた。
マグマで坑道を一つ潰してしまった事については、悪魔鉱人形の
事を話すと、納得してくれた。
アダマンタイトがまだ眠っているかもしれないぞ、と鉱夫達のや
る気に繋がっていた。
俺はてっきり、マグマでおじゃんになってしまったかと思ってい
た悪魔の憑依していたアダマンタイトだが、ちゃっかりユウジンが
拾って来ていた。
あの喧騒の中、本当にこういう事に関してはちゃっかりしている。
で、エレーシオについた途端。
彼はアダマンタイトを持って鍛冶屋に向かっていった。
俺はというと、一先ず教会に行ってみた。
気になるのは、この国の奉る神についてだ。
あら?
教会は普通に女神像が置いてあった。
普通にヴァルカンの像があるのかと思っていたが、そうでもない
のか?
322
本日も教会の女神像の手前で礼拝を済ます。
アウロラレプリカ
女神様申し訳ございません。
偽女神像は、ヴァルカンにあげてしまいました。
破壊不能属性だとあっても、神顕現なんてものに使用すると消滅
しちゃうんだな。
失ったが、後悔はしていない。
反省はしている。
俺が弱かったからだ。
ヴァルカンに助けられたからなんとか生き残ったものの、それが
バラ
無ければ俺は確実にあの悪魔に殺されていたと思う。
聖火だって、強い意志を込めるだけに簡略化された物を譲り受け
て発動しただけだった。
あとで、坑道の雑魚魔物に向けてバラを唱えてみたが、発動しな
かった。
発動条件は何なんだろう。
改めて、魔法と言う物を探るべく、魔法都市アリアへと急がなけ
ればならない。
が、しばし鍛冶の国を楽しむのも良いな。
職人の街って意外と良いよね。
鍛冶の国エレーシオは良いな。
国の名前になった街エレーシオと鉱山の傍に出来た坑夫の街があ
るだけの、規模としては小さな国なのだが、街を支える人がほぼ職
人気質なので、洗練されたその街並は﹃シンプルイズベスト﹄を体
現してると言っても良い。
323
そうそう、この煉瓦とかふんだんに使用した喫茶店とかね。
ガラスも質がいいし、ほとんどの建物で使われている。
この世界にもガラスの技術はある。
ただし、都市部以外はあまり使われていないといった形だ。
田舎の村なんかに行くと、窓ガラスがあったとしても外は見えな
い程質が低いか、木の窓だ。
察するに、魔法都市が隣にあるからかもね。
透明なガラスを作るんだ、現代で言うガラス工場の工程を魔法で
担ってるに違いない。
そう思いながら俺はコーヒーを飲み終えると、喫茶店を出て、ユ
ウジンが通っている鍛冶屋で向かう事にした。
差し入れは、喫茶店で買ったサンドウィッチである。
ユウジンの通う鍛冶屋は、始まりの街で鍛冶屋を営んでいた親方
の師匠さんのお店である。
職人気質の中でも一際頑固そうな人だった。
多くの鍛冶屋が武器以外の物の鋳造だったり、弟子を沢山取って
量産体勢を作る等、時代の波に乗ろうとしてる中、その親方の師匠
さん。
グラノフという方なんだが、個人向けの武器職人というスタンス
を崩さずに、武器は魂込めて自分の手で打つもんだ、という古き良
きを愛する人。
べつに農具とかも手で打ちゃいいんだが、生涯武器職人宣言して
324
いる。
いいね。
そう言うのは好きだよ。
終身名誉武器職人の称号を与えよう。笑
いや、馬鹿にしてる訳じゃないよ。
実際に腕は素晴らしい物だったし。
自動で形を変化させる金属があるのかと尋ねてみたが、そんなも
の知らん。
形を変えるのも決めるのも俺だと結構キツめの声であしらわれた。
いや、怒ってる訳じゃないよ?
断じて怒ってる訳じゃないよ?
くそが。
グラノフ氏に神のご加護があります様に。
件の鍛冶屋に入る。
グラノフ氏とユウジンは、アダマンタイトをどうやって武器作成
に活かすか考えていた。
その辺の話しはついて行けないのでスルーしている。
﹁差し入れ持って来ましたよ、調子はいかがですか?﹂
﹁おう、ありがとな﹂
325
ヴァルカン
﹁ケッ、柔な神父が何のようだ。ここは鍛冶の国だ、鍛冶神様の国
だぞ﹂
﹁まぁまぁおやっさん﹂
こんな風に当たりが強いのである。
ヴァルカン
ここで気付いたのだが、鍛治師の中でも職人歴が長い、または鍛
冶屋の歴史が長い所の鍛冶師は鍛冶神を崇めていた。
鉱山の中に神殿があったのも、鍛冶の国がその山の麓から広がっ
ているのも、関連付けは出来ない事も無いな。
ってか神殿を作ったのは、大昔のドワーフそれで間違いないだろ
う。
あの神殿の建築技術は、素人の目から見ても人間が作った物には
見えなかった。
なんだろう、雰囲気と言う物を感じたよね。
まぁ、宗教問題とは現実の世界でも世界大戦に発達しているもの
だから。
当たりが強いのも仕方の無い事だと思っている。
一旦休憩という訳で、三人でサンドウィッチを食べる。
どうだ美味かろう。
あの店の名前何だっけな、見て来るのを忘れたから今度また行こ
う。
そんな事を考えていると、お店のドアが勢いよく開かれた。
﹁親父! いい加減こんな小さな鍛冶屋辞めて、ウチに来いよ!﹂
326
入って来たドワーフ族の男性は、グラノフ氏の事を親父と言いな
がら店の中に入ってこようとする。
﹁何しに来やがったこのタコ! てめぇにウチの敷居を跨ぐ資格は
ねぇ!﹂
対するグラノフ氏は、息子と思しき男性に金槌やその他工具を投
げつける。
危ないなおい。
堪らず、ドワーフの男性は逃げ帰って行く。
一体なんだったのか。
﹁おやっさん⋮﹂
ユウジンが誰もいなくなった入り口とグラノフ氏を交互に見て何
とも言えない表情で溜息をついた。彼もこの場面に何度か遭遇して
いたのだろうか。
﹁一体どうしたんですか﹂
﹁ケッ! てめぇに教える筋合いはねぇ!﹂
﹁おやっさん。それとこれとは話しが違うだろ﹂
ユウジンがそうなだめると、グラノフ氏も判っているのかポツポ
ツと話し始めた。
グラノフ氏の息子は、街でそこそこ大きな鍛冶屋を開いているら
しい。
327
弟子も沢山取り、鋳造メインで農具、工具、武器、鉄製なら何で
も作っているそうだ。流行と言う物を大事にし、鍛冶職人というよ
り幾分商人気質な質だという。
まぁ、それは良い事だと思うぞ。
グラノフ氏も、頭の中では理解しているらしい。
自分のやり方は古いんだと、だがどうしても受け入れる事が出来
ないんだとか。
まぁ単純な問題、住み分けすれば良いと思うんだがな。
そして最近になって、息子さんは宗教を変えたらしい。
それでどうしても俺に辺りが強くなってたと。
ああ、なるほどね。
グラノフ氏が言うには、ドワーフは鍛冶神を崇めないと良い鉄が
打てなくなるらしい。ドワーフの国に鋳造なんかが流行っちまって、
人族の真似事かと嘆いていた。
話しを聞けば聞く程、なんだかんだ込み合った背景が見えて来た。
そしてその原因とも言える側の人族が、すぐそばに居るのだ。
そりゃ虫の居所も悪くなるだろうな。
俺はどことなく居づらい空気に退散した。
もうグラノフ氏のお店に行くのは止そう。
火に油を注ぐばっかりになってしまうしな。
何となく悲しい気持ちが湧いて来たので、とりあえず自分を落ち
着かせる為に教会へ行こうとしていると、後ろから呼び止められた。
﹁おい、あんた。親父の店に居た神父だよな? ちょっと話し良い
328
か?﹂
あ、さっきの息子さんだ。
ではお店に入って話しましょうかと、俺は先ほど行った喫茶店に
再び戻って来たのである。
﹁このサンドウィッチ、親父が手に持ってた奴ですね﹂
出てきたサンドウィッチを見て、グラノフ氏の息子である、グラ
ンツ氏が呟く。
意外と見てるんだな。
彼は俺の名前を聞くと、敬語になった。
ここまで名前広まっちゃってんの⋮?
﹁そうですよ。少し前に寄って、美味しかったので私が差し入れに
持って行ったんですよ。ほら、職人さんって集中すると食べないじ
ゃないですか?﹂
﹁はは、確かにそうですね。でも、ありがとうございます。親父は
元気にしていましたか?﹂
﹁ええ、私の友人がお世話になっています﹂
﹁へぇ、何をしているんですか?﹂
﹁武器を作る話し合いをしているらしいですよ。まぁ私は話しにつ
いて行けませんがね、アダマンタイトがどうとか﹂
﹁アダマンタイト!? 神鉄と呼ばれる希少鉱石じゃないですか。
ああ、そう言えば南の坑道でアダマンタイトのゴーレムが出たとか
329
出なかったとか﹂
話しは伝わってるんだな。
まぁそこそこ大きな鍛冶屋を構えるんだ、情報が来るのが早いん
だろう。
﹁アダマンタイトですか⋮確かに今では親父くらいしか打てる人が
居ないかもしれませんね﹂
だが、と彼は夢を語っていた。
いずれは鋳造でも技術を確立して、さらにグランツ鍛冶屋を大き
くさせるんだと。
彼も彼也に、父親を追っているんだな。
まぁ、不器用なグラノフ氏の事だ、本音を言えないんだろう。
俺は彼の話しを聞いてそう思った。
だが、親子の問題に口を出す気持ちは無い。
余計なお世話になってしまいそうだからな。
ヴァルカン
﹁そういえば、何故、鍛冶神を崇めるのを辞めて、鞍替えしたんで
すか?﹂
﹁ああそれですか? 新しい技術を取り入れるためですよ。歴史的
には私たちドワーフが人族に鍛冶の技術を伝えて来ましたが、時代
は移り変わりますから。これからは手を取り合うべきだと思ってい
ます。だから私は知る為に鞍替えしたんですよ﹂
何もそこまでする必要は無いのに。
でも、本当に商人みたいな聡さだな。
330
そう思っていると彼は続ける。
﹁って言うのは建前で、本当は店を大きくする為の販路と資金作り
の為だったんですけどね﹂
そして俺の目を見て言う。
﹁実を言うとお願いがあります。私の店の為にどうかお力添えを頂
けないでしょうか?﹂
ん?なんだ。
俺が出来る事なんか、祈るくらいだぞ。
﹁中央聖都ビクトリアへの販路を作る為に協力をお願いしたいので
すが﹂
331
鍛冶の国﹃エレーシオ﹄︵後書き︶
アウロラレプリカ
アウロラシンボル
因みに偽女神像に書かれている通り。
レイ
中央聖都ビクトリアの大教会の女神像に持って行くと、聖光を習
得できるお告げを女神様から直接頂けます。
浄化の光ですね。
バラ
でもあくまで、習得できるお告げを聞く事しかできませんが。
聖火との性能の差もありますよ。
332
不器用なドワーフ︵前書き︶
※30話目です。掲示板回だと予定していましたが、1話で終らな
かったので次回持ち越しです。
333
不器用なドワーフ
急に一体何を言い出すんだと思ったが、話しを聞く所によると。
今必要な物は販路だそうだ、量産する体系は既に出来ているので、
それを捌くパイプを拡大する事が必要だとグランツ氏は言っていた。
そんな事を言われても、俺に中央聖都ビクトリアに対するコネは
無い。
いや、よくよく俺のつながりの価値を考えると、エリック神父と
いう方はとんでもない方なのだろうと思う。
だが、それは俺のコネではなくエリック神父の力添えであって、
筋違いだ。
正直言って、中央聖都ビクトリアには行った事も無い。
いずれは行こうと思っていたけどね。
断ると、そうですかお時間を取らせてしまって申し訳ない。時間
の無駄でしたね。と彼は去って行った。
親子似過ぎだろ。
気に入らない事があると毒づくとか。
グラノフ氏、あんたの息子はあんたと一生反りが合う事は無いよ。
神のご加護があります様に!
ちくしょう。
やっぱり早めにこの国でよう。
ユウジンの事だ、別れの挨拶なんか要らないだろう。
334
俺は宿に戻り、荷物をまとめると﹃魔法都市アーリア﹄のある方
角。
西に向けて街を歩き始めた。
いや、その前に心を鎮めに教会へ行こう。
教会はいつもより静かだった。
だから礼拝をしてる最中、奥から響いて来る声に気付いたのかも
しれない。
グランツ氏の声だった。
何やら口論をしているようで、彼の言葉の中に若干の素が出てい
た。
﹁話しが違うじゃないですか! お布施は払った! 販売経路の融
通はしてもらえるんじゃないのか!?﹂
﹁何を仰ってるんですか? 私はただ、神の御心に届く程では無か
ったと行っているだけです﹂
﹁何だって!? 横暴だろ! 俺は何の為に貴方達に毎回高いお金
を払っていると思っているんだ!?﹂
335
﹁ご熱心な教徒だと私達は思っておりますとも﹂
そんな声が聞こえる。
口論しながらも、足音はこちらに近づいて来る。
マズいな。
隠れないと。
丁度女神像の後ろに隠れた瞬間、ドアが開かれ、金糸の刺繍で彩
られた司祭服に身を包んだ男が出て来る。
その後ろから後を追う様にグランツ氏が。
﹁では、神のご加護があります様に⋮また来ます﹂
そう言い残し、司祭服の男は教会を出て行った。
出口を睨みつけながら悪態をつく彼は、礼拝堂の椅子に座り込み、
ため息をついた。
﹁なんだってこんな⋮﹂
﹁貴方が熱心な教徒ですって? そんなバカな事ありますか﹂
その溜息を聞くと、俺は居ても立っても居られなかった。
﹁笑いに来たんですか? あなたの思ってる通りですよ﹂
﹁そうですね、教徒にあるまじき姿です﹂
だが、俺は知っている。
グランツ氏が、本当に親父さんを大事にしている事を。
336
そして超えようとしている事ね。
﹁そこまでして、貴方は父親を超えたいのですか?﹂
諭す様に言う私に、彼はまるで懺悔をしているかの様に話し始め
た。
﹁私は一生父親なんて超えられる筈が無いのです。親父には言って
いませんが、私には鍛冶の才能がまるでありませんでした﹂
鍛冶の才能が無いと気付いたのは、成人してかららしい。
それまで鍛冶の国有数の鍛治師と言われていた父親の姿ばかり追
いかけていたそうだ。
だがある日、彼は自分の才能を知る事になる。
回りの若い弟子達はどんどん先へ行ってしまうのに、自分はひた
すら置いて行かれるばかり。
我武者らに追い続けてもダメだった。
つち
大人になってから判る、自分は鉄を打てないんだと。
鎚を振り下ろすたびに、叩かれる鉄の音を聞くたびに自分の才能
の無さが現れているようで、自分の心が打ち拉がれて行ったらしい。
彼は諦めなかった。
今ある彼の姿が、彼の努力の結晶を表している。
﹁私は、誇っていいと思います。諦めなかった結果が貴方の武器屋
でしょう?﹂
﹁ですが、私は引き返せない所まで来てしまいました!﹂
337
彼の口調が強くなる。
今の鍛冶を学ぶ事ではなく、その先の鍛冶を学ぶ事に狙いを向け
た彼は、人族の中で産まれた鋳造技術を学び始めた。
ドワーフブランドでの鋳造を、人族の世界に売り出して行こうと
考えたのだ。
初めは少量の販売だけだったのだが、規模をどんどん拡大して行
く。
そして、とある司祭に話しを持ちかけられる。
お布施を納めて頂ければ、私どものお墨付きを得て武器の販売に
携われますよと。
その話しに安易に乗ってしまった彼は、高いお布施を払う事で更
に販路を拡大する。そこで目に付けたのが俺だったらしい。
で、いつもより早い時期に来た司祭は更に高額なお布施を要求し
て来た。
その場面が先ほどの司祭とのやり取りである。
﹁私はドワーフです。ドワーフには鉄を打つ事しか出来ない。商人
の真似事なんてやらなければ良かったんだ﹂
そして私はドワーフの中でも落ちこぼれ。と更に落ち込んでしま
った。
ちょ、全部自分で言って自分に跳ね返ってんじゃねーか。
打たれ弱過ぎだろ。
ドワーフって屈強ってイメージだったけど、コイツだけ違うのか
な。
338
﹁いえいえ、許します﹂
﹁は?﹂
﹁もともと、宗教替えなんて微々たる物です。誰しも宗教を選ぶ権
利はあるのでね﹂
こういう手合い。悩み込んじゃうタイプ?メン○ラ?
には、真剣に話しに乗ってやるというよりも、軽く受け流してあ
げるくらいが、思い詰めないので良いのである。
やっぱり原因は彼のストイックさにつけ込んだあの司祭が悪いじ
ゃないか。
何か大きな問題が発生しない内になんとかしないとな。
胸くそ悪いわ。
なんだかんだ尻拭いをやりそうな雰囲気であるが。
これはユウジンの刀を作ってくれてるグラノフ氏へのお礼ってこ
とにしておこう。
﹁元々、私どもが悪いのでありますし、尻拭いはさせて頂きますよ。
フフフ﹂
彼の言うドワーフブランドで鋳造品なんて質がいいに決まってる
じゃないか、まさにあの男が匂いを嗅ぎ付けて来るぞ。
新しい商売の要素がブレンドされた匂いを嗅ぎ付けてな。
339
俺は現在、礼拝堂で女神像に祈りを捧げながら、とある人物を待
っていた。
それはグランツ氏を騙し、高額なお布施を要求する司祭である。
実際、色んな所でこういう宗教との癒着は起こっているのかもし
れない。
それを全て見つけ出せと言われたら、それは無理な事である。
だがしかし、目の前で見てしまった事に対して、あいつは嫌いだ
から助けないという判断を下す事を俺は出来ない。
それだけはどうしても無理なのである。
目の前で困っている人が居たら救うと決めたんだ。
救うのも俺のエゴかもしれない。
だが、この手で拾える限りは拾うと決めてある。
裏を読む事が苦手な俺は、今回も真っ向からぶつかり合うのだっ
アウロラレプリカ
た。
偽女神像を振り回したりぶん投げたり、マグマの中に投げ込んだ
りする奴は俺だけだ。
ヴァルカン
今、鍛冶神あたりが﹃お前だけだよ﹄と呆れている姿思い浮かん
340
だ。
あいつは今何をしているんだろうか、神殿の中にいるのかな?
さて、聖書さんとクロスたそを魔力ちゃんで空中に制止させ、今
日の俺の祈りは本気だ。
本気と書いて、マジと読む。
﹁これはこれはクボヤマ様じゃないですか、エリック神父の愛弟子
と呼ばれる貴方のお名前は、私の在籍する教会まで届いていますよ﹂
来た。俺は荘厳な顔で言葉を返す。
所謂、神父モードである。
﹁いえいえ、愛弟子なだけで私は何もやっていませんよ﹂
﹁いえいえ、噂はかねがね、お聞きしていますよ。本日はどういっ
た御用でこの教会にいらしているんですか?﹂
﹁ああそれですか。とある噂を耳にしましてね﹂
俺は教会と商人の癒着問題の話しを適当に考え、最近多いと付け
加えて話した。
もちろんそんな事はしらん。
だが、嘘はついてない。屁理屈だが。
それは神にも背く行為だ。とその司祭は金糸の刺繍で彩られたそ
の着辛そうな司祭服をはためかせて驚いた。
ネタを知っていると滑稽に映るな。
341
﹁あなたの所は大丈夫ですか?﹂
﹁ははは、お疑いですか? 私達の教会ではそのような事は万が一
にも起こっておりませんよ!﹂
そう豪語する。
たしかに、お前んところの教会ではな。
﹁最近私はとある懺悔を受けましてね、彼は非常に悔いておりまし
た。だがしかし、私は彼を許します。本当に捌かれるべきは、彼を
誑かした私達にあるのですから﹂
その言葉に、司祭は﹁一体何の話しだ﹂と返す。
まだ白を切るか、まぁ権謀術数とでも思っているんだろうか。
そんなもん正面から叩き潰す。
﹁エルマン司祭。正直に話したらどうですか?﹂
フォール
﹁な、何を言っているんだね。私どもの教会では⋮ハッ!?﹂
司祭は目を見開いた。
何故かというと、俺はこっそり降臨を発動させていたからだ。
今の俺の状態はと言うと、頭上浮かぶクロスと聖書が白く輝く光
を空から注いでいる状態。
そして例によって俺の身体も白いオーラ状に光り輝いているので
ある。
﹁女神の瞳はすぐそばで貴方を見ています。嘘はつけませんよ?﹂
342
我ながら、荘厳かつなだらかな声が出たと思う。
この一言を聞いた司祭は、跪く様に俺に猛烈な勢いで懺悔を始め
たのである。
これこそまさに、力技。
両者痛み分けという事で、お布施の回収は行わなかった。
余計な禍根を残さない為である。両成敗!
エルマン司祭は、スッキリした様な目で﹁神が降臨なされた、降
臨なされた。私は何をすべきか判った﹂と言いつつ、その後大きな
孤児院を作り、将来を担う子供達の面倒を見続ける善き先生になっ
た。
グランツ氏はというと、幾分スッキリした表情になっていた。
信仰は戻さないらしい。
と、言うより鍛冶屋とまた別の商会を作り上げ、その中に鍛冶屋
を組み入れた。
343
ヴァルカン
アウロラ
グランツの商会は、鍛冶部は鍛冶神を信仰し、商会本体は女神を
信仰するという、新しい形態が産まれたのである。
それはそれで、問題有りじゃないのかと思ったが。
鍛冶の国では女神を信仰する人も多いので、特に問題ないらしい。
そしていつの間にか﹃神と対等に取引する男︵自称︶﹄のアイツ
が、グランツ商会と業務提携を結んでおり、鍛冶の国一体の鉱山を
占有する程の大商会になっていた。
﹃ドワーフの国から、安くて高品質な農具が出たらしい﹄
﹃へぇ! ドワーフの作った農具って高いんじゃないの?﹄
﹃それがすんげぇ安いんだよ!﹄
無印○品? ユニ○ロ?
どこの世界も似たか寄ったかなんだな⋮。
まぁどうでも良いか。
そういえば、宗教を変えない事であの親子がまたもめていたんだ
が。
﹁馬鹿野郎! 鍛冶神の加護が無くなったらドワーフはまともに鉄
も打てなくなっちまうんだぞ!﹂
344
﹁ならなんで俺には鍛冶の加護が無いんだよ!!!﹂
とかいう親子愛をモチーフにした物は割愛しておく。
はいはい不器用なドワーフでした。
345
不器用なドワーフ︵後書き︶
そう言えば皆さんも判ってると思いますが。
お布施とは仏門の言葉になります。が、﹃献金﹄という言葉より
も﹃お布施﹄の方が意味的に入って来やすいと思うので、このゲー
ムの中ではお布施で統一されています。ゲーム内言語も日本語です
しね。
クロスたそ、聖書さんぱわ∼が炸裂した!
346
幕間−とある掲示板2−︵前書き︶
※掲示板回です。
本日は後2∼3回は更新予定です。
347
幕間−とある掲示板2−
[攻略掲示板4]
777:RIOに代わりまして猟師がお送りします
走竜アップデートどう?
778:RIOに代わりまして漁師がお送りします
すげぇいい。
779:RIOに代わりまして戦士がお送りします
海にいけよ
780:RIOに代わりまして戦士がお送りします
海いけ
781:RIOに代わりまして戦士がお送りします
頼むわ
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
782:RIOに代わりまして魔術師がお送りします
何を頼むのかしら⋮
馬鹿共落ち着きなさい
783:RIOに代わりまして盗賊がお送りします
ID:∞
デヴィスマック連合国ってあれ以来徒歩で行った奴居る?
やっぱりイベントで特別開放されただけだったの?
784:RIOに代わりまして戦士がお送りします
あれは楽しかったなマジで!
348
ID:∞
ID:∞
ID:∞
785:RIOに代わりまして武術師がお送りします
確かにな!俺は予選落ちしたけど
786:RIOに代わりまして戦士がお送りします
俺も
787:RIOに代わりまして戦士がお送りします
俺も
ID:∞
ID:∞
ID:∞
788:RIOに代わりまして魔術師がお送りします
私もよ
789:RIOに代わりまして剣士がお送りします
ま、あの中で勝ち残れって言われても無理よね
790:RIOに代わりまして戦士がお送りします
ID:∞
ID:∞
ID:∞
そんなことより、イベント終ってから桃華姫が全然ログインしてな
いんだが
桃華姫ギル﹃MoMoKa﹄が機能して無いんだが
氏のう
791:RIOに代わりまして呪術師がお送りします
まて、逝くな!
釣王信者俺が呪っとくから!
792:RIOに代わりまして陶芸師がお送りします
けんか売ってんのか?
793:RIOに代わりまして召喚師がお送りします
ちょっと待て、とりあえず話しの方向性をただそうぜ
349
エリーちゃん最高
異論は認める
794:RIOに代わりまして戦士がお送りします
異論はなし
795:RIOに代わりまして戦士がお送りします
異論なし
ただし神父はタヒれ
796:RIOに代わりまして戦士がお送りします
たのむわ
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
797:RIOに代わりまして召喚師がお送りします
まぁ﹃剣鬼﹄がボコボコにしてたからいいじゃん?
ID:∞
ID:∞
ID:∞
798:RIOに代わりまして戦闘師がお送りします
あ∼れはエグかったな∼
腕きれてんのに、さらに短くなってんのに
今までのVRゲームが優しい世界に見えた
799:RIOに代わりまして戦士がお送りします
まぁ確かにな。
DUOを気付いたらボッコボコにしてた神父も怖いが
それをブツ切りにしてた剣鬼もこえええ
ってか何そのジョブ。上位職?
800:RIOに代わりまして戦闘師がお送りします
戦士やって剣斧鈍器槍盾取ってれば
傭兵戦術と傭兵拳術が傭兵の国で取得できて
350
クラスチェンジできるよ
801:RIOに代わりまして戦士がお送りします
おおおおおお!
傭兵の国ってアラド王国の西にあるんだよな。
行ってみようかな
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
802:RIOに代わりまして魔術師がお送りします
やっと流れがまともになったわね
でも職業掲示板でやるといいわ
803:RIOに代わりまして戦士がお送りします
ハロー○ーク板かwwwwww
で、話しは戻るけど
走竜アップデートってどうなんだ?
804:RIOに代わりまして剣士がお送りします
乗り心地は最高だよ
リヴォルブはギルマスが即行竜車買いそろえて
攻略の幅が広がってるよ
805:RIOに代わりまして暗殺者がお送りします
ID:∞
だとしたらデヴィスマックにやってきた神父達が乗っていた竜車
時期がおかしくないか?
806:RIOに代わりまして漁師がお送りします
それだよ
チートだろ
もっとつれる釣り竿チートくれ
351
807:RIOに代わりまして剣士がお送りします
チートの使い方間違えてる
でも実質VRゲーはチート不可能だからね
ギルマスから聞いたんだけど
ID:∞
ID:∞
ID:∞
剣鬼師匠たち、アップ前にもクエ自体はあったらしくて
それを一番最初にクリアしたからもらえたんだって∼
808:RIOに代わりまして長弓師がお送りします
なるほど、初期クリアボーナスでもあったんだろうか
809:RIOに代わりまして暗殺者がお送りします
ID:∞
そう言えば、アップデートの時、アラド公国の関所の要求ランクが
下がってたな
810:RIOに代わりまして魔術師がお送りします
難しい時にクリアすると良いのかしら?
ID:∞
ID:∞
ID:∞
811:RIOに代わりまして呪術師がお送りします
そもそも、アップデートって言うのか?
何の告知も無かったぞ。
俺はこの世界はゲームだと思わない様にしている
何でもありすぎる
812:RIOに代わりまして戦士がお送りします
DUOとかな
DUOとかな
813:RIOに代わりまして武術師がお送りします
あれはたぶんバグだ
バグ
352
814:RIOに代わりまして剣士がお送りします
DUOにこてんぱんにされたハザードさん
ギルド辞めちゃって攻略組はさらに大変だよ∼
ギルマスは何も言ってくれないし!!
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
815:RIOに代わりまして武術師がお送りします
う∼ん。
やっぱりあの戦いは異常だったよな
異常。
816:RIOに代わりまして戦士がお送りします
俺はこのゲーム、絶対何か隠されてると思う。
無限大だ無限大。
だれか考察してよ
817:RIOに代わりまして戦士がお送りします
頼むわ
818:RIOに代わりまして戦士がお送りします
頼むわ
819:RIOに代わりまして魔術師がお送りします
あんた達ね⋮
353
354
再会と魔法都市
ログインした。
ここからは一人旅である。
当然鍛冶の国にユウジンは残った。
グランツ氏の商会は、グラノフ氏を鍛冶部の顧問に据え、ユウジ
ンが刀匠の技術を伝え更に成長して行く事になる。
なんだかんだ、ちゃんと親子やっているようで安心した。
アダマンタイトの刀剣は、一体どんな物になるのだろうか。
俺も負けない様に頑張ろう。
魔法都市へは簡単に行けた。
鍛冶の国から魔法都市へガラスの材料を運ぶキャラバンに同行す
る事が出来たから、特にハンター教会から依頼と受けた訳でもなく。
お願いしてみると快く乗せてくれた。
キャラバンの方々に神のご加護があります様に。
そして魔法都市への入国の最中。
俺はあの三人と再会を果たす。
なんとエリー、凪、セバスも魔法都市への入国をしに関所へとや
って来ていた。
ちなみに魔法都市と鍛冶の国は、技術的な結びつきが強いのでお
互いのやり取りがしやすい様に砦でしっかり審査をする。
と言うよりも、簡易的な中継施設として置かれているに過ぎない。
355
関税もかからない。
さすが魔法都市。
一体どのような街並になっているんだろうか?
気になる所でありますな。
俺達は共に再会を喜んだ。
﹁いつの間に戻って来ていたんだ?﹂
﹁ハイ、少し前ですが、師匠を驚かせようと思いマシテ!﹂
俺を驚かせるねぇ。
いや嬉しいけど、嬉しいけど念話くらい入れてくれたって良いじ
ゃない?
おじさんびっくりしたよ。
ラルドも元気そうだ。
なんか鬣が伸びてるな。
前まではもっと爬虫類みたいな顔をしていたと記憶しているんだ
が、こうして見ると竜種。
ドラゴンと言う物を深く思わせる外観になっているな。
ドラゴンか⋮。
未だ地を行く竜種にしか見ていないが、このゲームにももちろん
居るんだろうな。
飛竜と呼ばれる空の王者が。
いつか見てみたいね。瞬殺されそうだけど。
そう思いながらラルドの鬣を撫でる。
356
ラルドも嬉しそうに唸る。
可愛いやつだ!
さて入国だ。魔法都市だ。
俺はさも当然の様に竜車に乗り込んだ。
我ながら図々しいなとは思った。
断じんて寂しかったとか、それを表に出すのが恥ずかしかったか
らとかじゃない。
﹁あ﹂
目が合った。
だ、誰でいらっしゃいますか?
﹁ああ、ハザードさんデスヨ。ほらリヴォルブの﹂
エリーがそう言って俺の隣に座って来る。
ハザード?ああ思い出した。
顔を隠しているから判らなかったよ。
﹁ロバストさんは元気ですか?﹂
﹁いや実は、まだ連絡してないんだ﹂
彼は自身の実力に納得が言ってから返そうと思っているらしい。
彼は彼で、自分の進むべき道を見つけ歩んでいるそうだ。
何故、彼がこの馬車に乗っているかというと。
357
ここまで来る途中の村でオークキングの強襲があったらしい。
その村の防衛で、三人は辛うじてオークキングを倒すのは良いが、
村の守りを疎かにしてしまっていた。
焦って村に戻ると、村の回りには死骸となったオークの群れが。
村を守っていたのはハザードさんでした。
そう言う出会いが有り、たまたま目指す場所が魔法都市で同じだ
からと一緒に行動を始めたそうだ。
エンサイクロペディア
﹁ハザードさんは凄いんですよ。世界大全に乗ってない魔法をどん
どん使ってますし、どんどん吸収させて頂きました﹂
極々自然にハザードさんの隣に座った凪を合図に竜車は走り出す。
なんと、彼はメリンダさんの弟子だった。
そして最終試験に合格して、無事世界へと旅に出たらしい。
ってか魔法とな!?
彼は武器を使っていた記憶があるのだが、魔法の才能もあったの
かな。
彼の装備を見てみると、リュックには大量の杖、横には剣が数本
立てかけてあった。
おっそろしいな。
ってか凪が居ればオークの強襲くらい村の守りとして機能した筈
だがと思っていると。
竜車が走り出してすぐ酔い出してる凪を見て納得した。
肝心な時に使えねー。
ハザードさんに寄っかかるんじゃない!
358
あ、コイツ吐くな。
関所で食べてたもの全部吐く気だ。
凪の吐きそう、ダメ。の一言で竜車のキャビン内は軽くパニック
に落ち入りそうになったが、嘔吐物を迅速に魔法で浮かせ窓から外
に投げ捨てたハザードさんの超絶ファインプレーに寄って事なきを
得た。
マジ流石っす。
宙に浮くゲロっていかがなものかね⋮。
そして俺達5人は無事に魔法都市への入国を果たした。
魔法都市は、素晴らしい!
日本で言う首都圏って感じだな。
全ての魔法技術がここに凝縮されていると言った形だ。
人口も多いし、背の高い建物も多い。
かつ、コンクリートジャングルみたいな?
無機質な感じは全くしない。
ファンタジー。万歳。
教会は無かった。非常に残念である。
359
このゲーム魔法とは、簡単に説明すると。
魔法文字を詠唱し、この世界の神の力を借りるという事らしい。
これは聖書の一節がそのままヒールやリカバリーとしての機能を
担う事と同じだな。
まぁ俺もあまり詳しい事は知らない。
ここには魔法を学びに来たんだから。
手っ取り早い方法としては、俺は魔法都市の﹃グリモワール魔法
学校﹄に通おうと思っている。
色んな所で配布されている魔法学校の資料を見てみると。
なんとハンター協会とも繋がっているらしく。
魔術系のハンターを育成する取り組みの一環として、ハンターク
ラスと言う物を設けているらしい。
通える時にいつでも通って、魔法講義を受けれるらしい。
これなら、ログイン時間と魔法講義時間のスレ違いに悩まされる
事無く無事に講義を受けれそうである。
まるで免許の教習所みたいな感じだな。
俺はこのハンタークラスの入学を決めた。
バラ
聖火の発動法を調べなければならないからな。
あと、インテリジェンス系のアイテムの知識を学ばないといけな
い。
やる事は沢山あるぞ。
頑張らなくては!
それを言うとエリーと凪とセバスも一緒に通ってくれるらしい。
360
みんな良い奴過ぎる。
だが俺に合わせる必要は無いからな?
ちなみにハザードも通うつもりな様だ。
流石だな。
途中で遭遇した魔物を狩る姿を見せてもらったけど。
流石だ。
もともと大会決勝に上がって来るだけの実力を備えていた訳だし。
それが更に剣と魔法の制限が解除されてから自己流として洗練さ
れて行ってるのが伺える。
彼は魔法戦士と言った形だな。
それもハイレベルな。
相手がDUOじゃなければ、相性の問題等が無ければ俺はノーマ
ルプレイヤーであった時期の彼にすら負けていたかもしれんな。
それだけ彼の剣と魔法は縦横無尽の活躍を見せていた。
さて、魔法学校からそう遠くない宿屋にチェックインする。
因みに魔法都市はみんなカード制になってある。
ハンター協会でも、同じ様なハンターカードと言う物を配布して
おり、対応しているハンター協会系列のお店であれば利用できると
言う物だ。
魔法都市には、それプラス﹃アリアペイ﹄と呼ばれる物を利用す
る事になる。
関所で聞いた。
特殊金属で作られたそのカードは、魔法都市でしか使えないが魔
361
法都市ではスタンダードな立場として扱われている。
グリモワール魔法学校の学生なら、入学と同時に発行されるのだ
が。
つまり、学生カードである。
と、同時に魔法都市は巨大な学生街なんだな。と思えて来た。
学生カードと称したが、別にアリアペイは簡単に発行できる。
金貨や銀貨の価値がゴルドと同じだったので、余計な混乱をする
コト無く両替は終ったしな。
ちなみに、ハンタークラスでもグリモワール魔法学校の設備をし
っかり利用できるのかと思ったが、その辺は大丈夫だった。
そして、割りかし自由な校則であった。
なんかちょっとワクワクして来たぞ。
学生か俺!
うきうきするなぁ!
だが入学前に問題が発生した。
俺、あまりお金を持っていなかった。
アリアペイに換金している時に気付けば良かった。
どうしようかと思っていると、ハザードがお金を渡して来た。
﹁そう言えば、ブレンドと言う男が渡してくれって言っていた。す
まん忘れていた﹂
362
そこには金貨がそこそこ入っていた。
これは、もしかしたら俺達の利権分の金貨。
もうこんなに堪っていたのか。
エリー、凪、俺でわけた。
ハザードにもお礼として渡す。
俺はユウジンに渡す分も構わずアリアペイにぶち込んだ。
これで一安心だ。
この距離だったらあの鬼野郎にもバレないだろう。
神様のご加護が私にあります様に。
363
再会と魔法都市︵後書き︶
やっとこさ魔法都市に着ました。
行き当たりばったりで書いています。
本日は申し訳ないですが3話更新しか出来ませんでした!
364
特待クラス
グリモワール魔法学校に晴れて入学した俺達な訳だが、ハンター
クラスは新米ハンターからそこそこのランクまで登ったハンター、
商人を目指す若者やら商人をしている若者など様々な人が居る。
もっとも、これはハンターなどで他に仕事をしている人等が利用
するクラスであって、他にもクラス分けはされている。
かなり沢山クラスがあったので覚えきれなかった。
俺はアリアペイを持って初回講義に参加した。
オリエンテーションだな。
この学校の説明を改めて行うらしい。
この時期に入学した階段教室に集まる生徒達に向けて、ハンター
協会の方々や魔術講師達の紹介が行われる。
ほうほう、図書館の立ち入りは自由。
貸し出しもアリアペイに借りる本を登録する事によって可能にし
ていると。
実に興味深いな。
俺の中でアリアペイは図書カードとして機能する事になるだろう。
開幕オリエンテーションな訳だが、校内を回る前に集団面談を行
うそうだ。
そんなもん入学前に終らせとけよ。
って思う訳だが、まぁ皆仕事を持ってるので全員参加が義務づけ
られてるこの講習でまとめちゃう方が都合がいいのだろう。
365
俺達5人は、入学を申し込んだ時が一緒だったので、運良く同じ
グループでの面談だった。
面談の相手は。
右からグリム学校長、エリック神父、バレル教頭、カサドハンタ
ー組主任だった。
・・・はい?
﹁⋮お久しぶりです。クボヤマさん﹂
﹁おぉ、彼が君の愛弟子か!﹂
ニコッとしながら、微笑む神父に隣の学校長が身を乗り出す様に
俺を見ると話しかける。
﹁儂の事は覚えておるかな?﹂
﹁ごめんなさい覚えてないです﹂
本当に記憶に無い。
それを聞いて、少ししゅんとする学校長をエリック神父がフォロ
ーする。
﹁まぁあの時は彼も緊張していましたしね﹂
﹁では改めて初めましてじゃの。儂がここの学校長グリム・グレム
じゃ﹂
366
﹁あ、はい。初めましてクボヤマです。っていうかエリック神父、
何故こんな所に?﹂
﹁それは私がこの学校の理事だからです﹂
・・・は?
教頭もハンタークラス主任も、俺が停止している隙にという感じ
で挨拶を挟んで来る。
いや、色々衝撃過ぎて理解が追いついていないんですが。
よし整理しよう。
えっとここは魔法学校で、エリック神父は理事だからここに居る
と。
よし理解した。
﹁はい、理解しました﹂
﹁早いですね﹂
﹁今ので早かったのか? 儂には思いっきりついて行けてなさそう
に思えたが⋮﹂
くそ、好き勝手言ってくれるぜ。
次は絶対驚かない。
絶対だ。
﹁よし、君らは面談免除じゃ、単なる顔合わせじゃったからな﹂
これからが大事な話しなんじゃがな、と学校長は続ける。
367
因みに面談、俺以外一言も喋っていない。
これの何が面談か!顔合わせか!
ただのドッキリじゃねーか⋮。
﹁君らの実績はハンタークラスではなく、ウチの特待クラス並みじ
ゃ。なので特別待遇クラスへの移動をお願いできんか?﹂
で、でた∼!
特別待遇ゥ∼∼∼∼!
エリック神父、流石にいくらなんでもそんな事をお受けする訳に
行きませんよ。
どうせ図書館を利用するだけだったので、特待クラスなんて。
ただ名前があるだけにしか思えないし、俺が居ても何の意味も無
さそうだ。
﹁失礼ですが、私は従者なんですがよろしいんですか?﹂
﹁セバスチャン君だったかな? 君は従者としての登録であるなら
ば可能じゃ﹂
セバスはそれを聞いて安心していた。
おいセバス。
それはお前、特待クラスの実力は無いと言われてんだぞ。
気付け、従者でいれれば何でも良いのか?
何でも良さそうだな。なんでもねーよ。
﹁それは俺もいいのか?﹂
368
ハザードがでる。
なんかみんなやる気だな。
使えるのもは何でも使っとくスタイルか?
それにはエリック神父が答えた。
﹁君はメリンダきっての頼みですからね。魔女の弟子、賢人ハザー
ドさん﹂
﹁メリンダ師匠が⋮⋮﹂
あのおばあさんが、誰かに頼み事なんてね。
ハザードさんは余程気に入られてたんだな。
ってか、いやいや。
えええ。なんだかなぁ⋮。
﹁なんだか煮え切らない様ですね? クボヤマさん﹂
﹁当たり前ですよ。いくらエリック神父のご好意でも、私には身に
余ります﹂
そう答えると、エリック神父はため息をついた。
﹁素直に親の行為として受け取ってほしいんですがね﹂
﹁いえ、確かに神父の元に来て凄くお世話になりましたが⋮﹂
過保護ですよ!神父!
369
他にも私より才能のある人が一杯居ると思うんです。
﹁まぁ、それが貴方の良い所なんですけどね﹂
ひと呼吸置いた所で、エリック神父は口を開いた。
﹁貴方達の?﹁特待クラスには、己の魔法を自由に研磨する事を承
認しておる。その方が伸びる奴らなのでな。君らにももちろんそれ
が当てはまる﹂
﹁グリム。今は私が?﹁じゃが、レポートを毎回提出しなさい。期
限は卒業するまでじゃ。依頼として受け取ってくれればよろしいか
のう﹂
エンサイクロペディア
エリック神父の言葉を遮って、学校長が言う。
ああ、もしかしたら凪の世界大全を知りたいんだろうか。あれが
レポートで発表されたら、魔法常識が覆ると思うんだが。
凪は良いのだろうか。
見てみると、﹁図書館⋮魔法学校の、図書館⋮﹂とトリップして
いた。
結局なあなあになって俺達は特待クラスへの移動が決まった。
370
入学初日の出来事である。
まぁいいや、図書館に行けるなら俺は関係無いし、幸い決まった
授業等は無く、自分で学びに行くハンタークラスと変わらないみた
いだしな。
レポートが面倒だけど。
だがそれを比べるまでもない程の待遇が特待クラスには用意され
ていた。
まずは寮である。
豪華ホテルかよ。
そして研究施設等は独立していた。
なんともよく壊してしまう生徒が特待クラスには多かったそうな
ので、共用にすると他の生徒に迷惑がかかるだとか。
因みに寮が豪華なのも。
他の一般寮の生徒に迷惑をかけない為に離し居心地を良くしてい
るのだそうだ。
何とも、昔悪魔召喚の儀を一般寮で行った馬鹿が居るんだとか。
いや、天才とも天災とも言えるかもしれん。
とにかく、馬鹿と天才は紙一重だと言われる由縁が判るクラスだ
と。
で、興味を引かれるのはやはり図書館である。
世界の本という本が集まるグリモワール魔法学校の図書館は凄い!
と資料にも書いてあったが。
371
リム
プライベート・グ
特待クラスのアリアペイは、その図書館にプラスして学校長用書
庫が開放されているらしい。
書庫はやはり、寮の中だった。
どんだけ一般生徒から隔離したいんだ。
自由にやらせるとか行ってたけど、癇癪起こして一般校舎を破壊
した生徒が居たとかいう話しじゃねーか!
本音の建前の壮絶な温度差を感じました。
耳がキーンとするね。 プライベート・グリム
だが、その学校長用書庫は半端無かった。
素晴らしい!
寮の奥にある頑丈な漆黒の扉に特待クラス登録のアリアペイをか
ざすと、ゲートが開く。
ゲートが開くのも驚いたが、恐る恐る中に入ってみた。
360度、漆黒の扉を囲う様に、ずらっと巨大な本棚に並べてあ
る本。
本。本。本。
例えるなら本の塔だな。
かなり高い所にまで本を置いてるみたいで、上の本を取るには建
物の内枠に沿ってついてある階段か、梯子を使うしか無さそうだ。
空を飛べれば楽なんだが。
図書カードがグレードアップした。
そう捉えておこう。
372
だが、ここにインテリジェンス。
俺が求める物についての答えが必ずある様な気がした。
とにかく、特待クラス。
規格外が多そうである。
ってかキャラクターが濃さそうだな。
特に、特待クラス用の修練会場とか、苦労して作ったらしい。
絶対壊れない事に着目したんだって。
床と壁は超硬度に錬成した一品。
どっちも幾重にもはられた特級結界が張ってあるそうだ。
そして、自動修復付き。
動きを阻害する超重力魔法発生装置。
一般生徒が紛れてしまった時の為の蘇生装置もあるんだって。
その結果、まだ一度も壊された事の無い施設だとか。
何が﹃特待クラスはなかなかしなんから大丈夫﹄だ。
俺の中で特待クラスの扱いが、どんどん危なっかしい物になって
行く。
スペシャル
Sクラスと略称されているが、これはあれだろ。
サドンデスのSだろ。
どうせ、Sクラスに関わると突然死するから気をつけな。
とか流行ってんだろ。
流石にそんな事はないか。
何にせよ、少し心構えを持っておいた方が良いな。
373
プライベート・グリム
だが、エリック神父には感謝です。
学校長用書庫だけでも、ありがたいです。
どうか死なない様に頑張ります。
俺には聖書さんやクロスたそ、魔力ちゃんが居るから。
ちょっと一発祈っとくか。
ふぅ⋮。
彼女達となら、こんな変態集団の中でも頑張って行けそうです。
374
特待クラス︵後書き︶
﹁これで良いじゃろ、皆ユニークな研究をしてくれそうじゃしな﹂
﹁まぁいいでしょう。彼ならきっと気付くでしょうし﹂
﹁これはハンタークラスからの移動なので、カサド主任に任せます﹂
﹁教頭それは!﹂
﹁私は他の特待生も見ているんですよもう見きれませんって﹂
﹁ほっほっほ! 今年は皆元気がいいわい﹂
375
魔法学校の日常
寮でログインする。
朝の礼拝をすませる。
アウロラレプリカ
教会が無いのだから、どこでも一緒だな。
偽女神像を失ってしまった事はやはり大きかった。
なんというかモチベーションが上がらない。
プライベート・グリム
ここ最近は、学校長用書庫に入り浸り、インテリジェンス系武器、
道具の資料ばかりを模索していた。
書庫は最早本の塔と呼べる代物なのだが、高い所へ行けば行く程、
資料・本の価値は上がって行くらしい。
だが、思った様に行かない物である。
書庫はエリアごと、いや階層ごとに別れてあり。
最下層部、下層部、中層部、上層部、高層部、頂部。
そこにアクセスする為には、学校長の許可がいる。
Sクラスのアリアペイでは、下層部までしか開放されていない。
尤も、学校長のプライベートエリアを開放されているだけでも一
般の目から見て非常に有効であるからして、一体許可とはどのよう
に取りに行けば良いのか。
因みに、即行申請は出してみた。
ダンジョン
﹃儂の部屋に入り浸っとるんじゃなくて、迷宮にでも行ってみたら
どうじゃ?﹄
との事だ。⋮う∼ん。
376
埒が明かないから学校長の言う通りにしておく方が吉なのかな。
迷宮とは、魔法学校にある施設の事である。
全10階層、1階ごとにエリアボスが居て、それを倒すと次ぎに
進めるというまさに異世界RPG仕様な画期的な物なのである。
主に生徒の実践タイプの訓練として使われているという。
もちろん死なないし、死亡扱いになると、1週間迷宮に行けない
というペナルティが課せられて復活するといった画期的な仕様であ
る。
資料にも、もちろん書いてあった。
﹃アルケミスの世界冒険記を元に精巧に作られた我が迷宮を、楽し
みませんか?﹄
アトラクションかよ。
テーマパークじゃないぞ。
実際にも、RIOの世界には迷宮と言う物がある。
迷宮の国﹃ラビリンス﹄である。
ジェスアル王都の遥か西だね、海を越えた向こうだった様な気が
する。
未だ陸路での旅路。
海を越える事は果たしてあるのだろうか。
スカイホエール
海を越えるなら、空鯨の飛行船に乗ってみたい。
アレくらいの規模だったらラルドも馬車も持って行けそうである。
で、気になるワードがある。
377
﹃アルケミス﹄だ。
書庫最下層部には、アルケミスの世界冒険記が所狭しと並べられ
ている。
学校長、ファンだろ。
これは、ノンフィクションの冒険物語だった。
この世界をひたすら旅したアルケミス。
晩年になっても旅を続けるアルケミスは、未だ旅をし、新しい冒
険記を書き綴っているとかいないとか。
魔術理論的な物は理解するのが難しそうだったため、あまり読む
気になれなかったが、これなら読めそうだととりあえず1巻から読
み進めているのである。
世界の全てを冒険したと書いてあるんだ。
インテリジェンス系の発見や出会いが書いてあるかもしれない。
でも大分古い本なので、情報量は桁違いだが鵜呑みにしてはいけ
なさそうだな。
時代は刻々と進んでいるんだから。
でも、ゲームだしな。
いやいや、この運営は謎が多いからな。
リアルスキンモードにしても説明一切なし。
どんな裏を用意しているか判らないからな。
油断は禁物だ。
一体なんに対しての油断なんだろうか。
378
寮と言うより、豪華ホテルの中庭で寛ぐラルドの様子を見に行く。
ランバード
ハザードが居た。
走竜種に興味があるのだろうか、ラルドに何かの肉を与えていた。
因にラルドは雑食です。
挨拶をすると、彼も返して来る。
彼は無愛想な口ぶりだと思うが、しっかり対話をしてくれる人だ
った。
ここ最近のハザードの特待っぷりは半端無い。
コイツも修行変態かよってくらい修行する。
俺だってドラゴ○ボールくらい知ってんだからな。
気合いを入れて作ったは良いが、誰も無い特別仕様の決闘場をプ
ライベートルーム代わりに使用し、重力制御を自分に掛けて剣や杖
を振るう彼の姿はまさにそれ。
俺はその重力に耐えられない事もないが、亀並みに遅くなるだろ
うな。
フォール
降臨でも使用するもんなら。
﹁バーゲンセールだな﹂と言われてもなんらおかしい所は無い。
﹁どうですか? 特待クラスは﹂
﹁いや、普通かな。元々俺はお前程人に好かれる質じゃない﹂
むしゃむしゃと肉を頬張るラルドの隣で、俺達はそんな話しをす
る。
賢人として特待クラスからもハザードは一目置かれていた。
379
アーミースツ
ってか、その格好を見ると誰でも奇異的な視線を送ると思う。
ハザードの格好は、半袖長ズボンの兵服にボロ切れにあちこち継
ぎ接ぎした様なフード付きのローブを着流している。
肌がむき出しになる筈の両腕はバンテージが巻いてある。
以前バンテージについて尋ねたのだが、自分に縛りを加えるとい
うドM仕様だった。
そしてそれプラス常に肌身離さず持っている長剣と大量の杖だ。
これを変態と呼ばずしてなんと呼ぶ。
まぁ本人の前では絶対に言わない。
余計な波紋は絶対に起こさないぞ!
俺は気の良い神父で通っているんだ。
﹁特待クラスは個性が強いですからね﹂
﹁そうだな。レベルが上がるだけで強くなれる世界とは違って、個
サモン
性が強く出るからなハイレベルになればなるほど、我も強い奴が多
い筈だ﹂
判るぞ、判る。
俺の親友とかな。
﹁まぁ例外も居るけどな﹂
彼はそう言って締めくくる。
ラルドをひと撫ですると、彼は﹁召喚・リージュア﹂と一言。
見た事も無い大きな鳥を呼び出すと、その鳥の足を掴み5階の自
分の部屋にひとっ飛びして帰って行った。
380
いちいちカッコいいな。
召喚魔法か⋮憧れるな俺も!
魔法の才能がないと魔女にも神にも言われる程だ。
俺は諦めざるを得ないだろうが、諦めない。
無限大な世界だからな。
きっとあるだろう他のやり方が。
﹁お、神父クボヤマじゃないか。何をしてるんだこんな所で﹂
﹁ヒューズさんですか、先ほどまでハザードさんとお話していたん
ですよ﹂
餌に満足し横になって丸くなるラルド。
その中で俺も瞑想して昼寝と行こうじゃないかと思った時、中庭
の入り口から声が掛かる。
ヒューズだった。
あの賢人とか。と彼は俺の目の前に腰掛ける。
彼はヒューズというらしい。
フルネームは知らない。
魔法陣や魔法道具の研究をしていて、このグリモワール魔法学校
一の情報通だと言う。
特待クラスであって、その魔法陣の研究で様々な分野で貢献して
来たという。
381
例えば中長距離転移魔法陣﹃ポータル﹄の開発や、その他口伝で
伝わる魔術を魔法陣・道具として開発したりだとか。
ポータルって、お前が作ったのか。
個人的に、目的に限りなく近い人なのかもと思っている。
ちなみに、アホな事も限りなくやる。
一般クラスの寮で悪魔を召喚した馬鹿は彼だ。
だが普段は気さくで良い人なので、良き友人である。
﹁クボヤマ神父、天使って魔法陣で召喚できると思う?﹂
﹁どうでしょうね。祈っていれば魔法陣なんか無くても天使は降り
て来ますよ?﹂
危なっかしいな。
コイツ次は天使降ろす気だろ。
神を顕現させる時にはユニークアイテムでも10秒が限界だった
くらいだしな、特殊な媒体があれば大丈夫な気がする。
まぁ、絶対教えないけど。
﹁宗教はダメだってー。俺は無宗教なんだ﹂
﹁無宗教だってなんだっていいんです。人は等しくあるべきですか
ら。女神よ、彼にご加護を﹂
そういうと、彼は﹁ただでくれるんならもらっとくぜ∼﹂と軽く
返すと、魔法陣を展開し消えた。
382
ポータルか。
もう見慣れた光景だな。
次に話しかけて来たのは可愛い声の持ち主だった。
何なんだよ瞑想中に。
﹁クボヤマ! こんな所で昼寝なんて良いご身分ですこと!﹂
﹁神父ですから﹂
﹁関係ありませんわ!﹂
面倒くさい奴だった。
エレシアナ・ケイト・アルバルトとは反りが合わない。
どこぞの王国の継承権第7位なんだとか。
俺の噂は予々聞いていたそうだ。
で、国お抱えになりなさい。
聖職者として取り上げてあげるだと。
丁重にお断りしておきました。
俺個人としてはすごく丁寧にお断りしている筈のに、彼女の中で
は断られると言った行為が気に入らなかったそうだ。
それから、会う度に小言を言われる様になった。
対応ミスったな。
余計な波紋を生まぬ様、心を仏にして相手にしている。
383
﹁その劣竜種を退けなさい!﹂
その一言にラルドが起きる。
聞こえていたんだな。
だが落ち着けラルド。落ち着くんだ。
コイツに会わなければここは害もないし居心地は凄く良いんだか
らな。
ラルドの鬣を撫でてやる。
キュロロと鳴き声が聞こえると、ラルドは再び目を閉じる。
ランバード
﹁走竜種です。草原を走る立派な竜種ですよ﹂
ペット
﹁飼いならされた竜種なんかに竜種としての誇りなんてあるのかし
ら?﹂
彼女は毒づく。
ある事無い事を押し付ける様にして発言する彼女は凄く印象が悪
い。
学校中からも要注意人物とされていた。
異国からこんな国に来るなんて、まるで継承権の争奪戦争に負け
たって感じだよな。もしかしたらそれかもしれないな。
可哀想な事に。
彼女にも、神のご加護があります様に。
主に性格矯正の方でご加護を分けてあげてください。
﹁私の国ローロイズでは、竜とは誇りよ、民を守る神よ!﹂
﹁そうなんですね﹂
384
﹁そんな飼いならされた劣竜種なんて目じゃないわ!﹂
そう言うと彼女は嵐の様に過ぎ去って行った。
よく耐えたぞラルド。
今度ビッグピッグの一番良い所を食べさせて上げよう。
なんだか精神的に疲れた俺は、瞑想を辞めてラルド共に昼寝にし
けこむのであった。
385
師匠の教え︵前書き︶
ログイン前にユウジンからメールがあった。
遂にパーティ対抗イベントが行われるらしい。
その内容は、パーティ対抗のサバイバル戦。
よりポイントを獲得したパーティが決勝トーナメントに上がれる
と言う物。
※書きでリアルスキンモードプレイヤーもサバイバルのみ相互連
絡のシステム補助適用がなされるとか。
サバイバルからトーナメントって前と一緒だな。
だが、定番。盛り上がるだろう。
パーティ制か∼。1人∼6人までのパーティで参加可能らしい。
集団戦からのトーナメント勝ち抜き戦なんて。
色々楽しめて燃える展開じゃない?
386
師匠の教え
ログインした。
はいはい礼拝礼拝っと。
魔力展開はもうお手の物って感じ。
ピザの生地を薄く伸ばす様に、いや、例えがおかしいな。
とにかく薄く広くを極めて来たと言っても良い俺だが。
最近は趣向を逆にして、ひたすら密度を高くするという事に拘っ
ている。
密度を高くすると、肌ギリギリに纏う事しか出来なかった。
一応、ハンタークラスの授業で初心者講義と言う物を受けて来た。
そして衝撃の事実が発覚する。
魔力を展開するとかいう魔術は無い!
全ての魔法は体内を循環する魔力を外にアウトプットする訳であ
る。
一応いつもやってる瞑想はそれなりに鍛錬の効果があった。
俺のそこまで多くない魔力を外から補って循環させるという物だ
った。
だが、外の魔力を拾う為に魔力展開を必要以上に広げ過ぎると、
元々持っていた魔力を練る機会が少なくなり、結果として体内の純
粋な自分の魔力を練り上げる事が難しくなるらしい。
で、実際に自分の体内の純粋なる魔力を循環させ、水系初級魔法
387
を唱えてみた。
水がチョロチョロ出るだけでした。
はは、マジで魔法に掛けては才能が無いな。
というよりも、今までやって来ていた魔力展開に慣れ過ぎて他の
事がやりづらいと言った形だ。
仕方ないので、魔力展開は続ける。
もうそれしか無い。
利点もあるからね、魔力枯渇が起きづらいと言った点である。
フォール
俺の降臨もこの常識とは真逆の効果で行われている様なもんだし
な。
そう悲観するのはやめておこう。
だが鬱憤は残るので、逆の事をしているのである。
魔力ちゃん、当たってすまない。
しばらくこのままで居させて。
密度を高くした所で、俺の魔力の低さからしたら、一般の方が身
体強化するよりも劣っている訳で。
ただヌルッと少しだけ軌道を逸らす事しか出来ない様だった。
徒手格闘練習に付き合ってくれたハザードに﹁ローションみたい
で気持ち悪いな﹂と言われた。
辛い。
この状態では聖書さんもクロスたそも常時手に持たないといけな
いからな。
マジで何も無い非常時にしか使う事は無いだろう。
388
まさに時間の無駄ってやつだ。ははっ⋮。
プライベート・グリム
そのまま学校長用書庫に入り浸って読書でもしようと思っていた
が、何となく気分が乗らないので辞めた。
中庭のラルドの相手をしていると、校内放送で呼び出しを受けた。
理事長室にお越し下さいだとよ。
一体なんなんだ。
﹁貴方には簡単な神聖魔法しか教えてませんでしたからね。良い機
会です、少し個別トレーニングをしましょうか﹂
理事長室に行ってみると、そう言われた。
口調がどことなくノリノリであるこの神父。
エリック神父はその白地に青いラインの入った神父服を翻すと、
指をパチン。
理事長室の例によって聖書しか並べられていない本棚がゆっくり
と開いて行く。
漆黒の壁にゲートが浮かび上がった。
なんじゃこりゃー!
こんな仕掛けが理事長室に隠されていたなんて⋮。
ってか理事長室なんて呼び出さない限り誰も来ないだろうが、応
接室があるしな。
389
普通にゲート開いとけよ。
プライベートルーム
﹁私の特別部屋です。と、言うより中央聖都ビクトリアの特別部屋
に繋がっていると思って頂ければ結構です﹂
ポータルとはまた違った長距離転移門の様だ。
ゲート自体の技術は元からあるらしい。
ヒューズから聞いた。
特殊な材料の壁にゲート用の魔法陣を書くと出来るらしい。
ポータルは、ゲート程の長距離は移動できない物の地面にゲート
用の魔法陣を描くだけで設置可能な分、革新的なアイデアだと言わ
れているらしい。
ゲートの壁用の特殊な材料はこれまた驚く程高いんだとか。
プライベート・グリム
そうするとだね。
学校長用書庫なんか、どこぞにそびえ立つ塔に繋がっているんだ
ろうな。
あれ?
それを見つけ出せば頂部にあるランクで言うとSSSランク。
原典クラスの魔本まで空が飛べればひとっ飛びで行けるんじゃな
いか?
いや、無いな。
あの学校長だ。
絶対何かしらの対策を施しているに違いないだろうな。
ってか塔一つ持つなんて何者なんだ。
もうゲートは書庫への移動で慣れた物だ。
そう思って入ろうとすると顔面を強打した。
390
﹁あ、申し訳ありません。許可を忘れてました。はい、どうぞ﹂
・・・。
いつか、なかす。
ゲートを抜けると、小さな部屋だった。
観葉植物と丸いテーブルに丸い椅子が置かれてるだけの簡素な部
屋。
テーブルの上には一冊の聖書が置かれている。
﹁ユニークな戦い方ですよね﹂
そう言うと、テーブルの上の聖書が浮いてエリック神父の肩の上
に。
﹁私も少し勉強させて貰いましたね。いやぁ、良い弟子を持つと師
である私も成長できるものですね。メリンダが羨ましかったですよ﹂
そして、彼の胸元から一つのクロスが浮かび上がり開いた聖書と
重なり頭上に上がる。そしてエリック神父は白い光に包まれる。
﹁それは⋮﹂
﹁これにはある意味で驚きました。常識に逆らった鍛錬を続けた結
フォール
果でしょうね。回りの魔力を法力に変換し、神聖魔法として利用す
るなんて、降臨でしたっけ?﹂
391
神父から輝きが消える。
あ、どうでもいいことかもしれないけど。
神父の栗色の髪の毛が白い光に包まれて逆立つと、まさにスーパ
ーサ○ヤ人だった。
﹁ですが、勿体無いですよ。貴方のは無理矢理、神の力の効果の一
部を引きずり出しているに過ぎない。聖書をクロスを重ね掲げると
いう事は、神との対話を意味します﹂
浮遊させ、開いた聖書の上にクロスを持って行く。
聖書とクロスが光り出す。
まさにファンタジーだ。
聖書に書かれている文字が、浮かび始め光り出す。
聖書を読み上げる様に連続して流れていく文字達。
それに呼応する様にエリック神父の白地に青ラインの入ったクロ
スもクルクルと回り始めた。
﹁初めに、神聖魔法と言う物は何かを媒介にしなければなりません。
それはなんだと思います?﹂
﹁聖書とクロスですか?﹂
オラクル
﹁違います。それは、貴方自身の意思です。深く、深く女神を、人
を愛したものだけに、女神は答えてくれます。それを信託と言いま
す﹂
オラクル
余程の修行が無い限り、信託と言う物は降りてこないそうだ。
聖書とクロスはただの補助だそうだ。
392
オラクル
﹁貴方は本当に聖書とクロスを親身に思っていますね。信託は簡単
に成功してしまうでしょう。ですが、私も新たな発見をしました﹂
神父はドアを明けで外に出る。
フォール
俺も後を追うと、そこは何も無いただ広い空間だった。
フォール
その中に二人で立っている。
オラクル
﹁信託と降臨を掛け合わせると、不安定だった降臨が不思議な事に
一本にまとまったんですよ﹂
それは凄かった。
輝く聖書の文字が流動し神父を包んでいる。
この感じ、何かに似てる。
ってかここの雰囲気も何かに似ていたんだが、何だろうな。
ヴァルカン
あ、鍛冶神の神殿だ。
一切のおふざけが許されない様な空間。
アウロラ
もしかしたら、女神の神殿なのか?
女神の神殿がプライベートエリアだとしたら、この神父ヤバイ。
﹁ここは女神の神殿ですから、やっぱり素晴らしく安定しますね﹂
当たってたよ!
フォール
ルーツ
﹁これは根本の力。神時代の魔法だとアウロラは言っていました。
なので私は貴方の降臨を真似てこう名付けました顕現と﹂
393
ルーツ
﹁ル、顕現ですか⋮﹂
神父が中二病になった大変だ。
遅過ぎる発病は質が悪いらしいぞ!
たしかに似ているな。
あの時と、鍛冶神が俺を助けてくれた時の小さな炎の暖かさと。
エリック神父の発する輝きは、俺を優しく包んでくれている。
もう神々しいったらありゃしない。
﹁貴方も何かの由縁で神を現世に呼び起こした事があると聞きまし
アウロラレプリカ
たよ。その時の感覚を思い出してください﹂
ヴァルカン
なんで知ってるんだこの神父は。
鍛冶神を現世に呼んだ事、そして偽女神像をマグマにドボンした
事も知ってるのかな。
やべぇ、振り回した事も伝わってんのかな。
ヴァルカン
鍛冶神の野郎、チクりやがったな!
ルーツ
﹁では、改めて修行です。今からこの状態で貴方を追い込んで行き
ますので、頑張って顕現を覚えて私に一撃でも報いなさい﹂
・・・は?
アウロラ
﹁因に女神は私のですから。他のにしてくださいね﹂
﹁だったら何に頼れと言っているんですかッ!﹂
ガチで殴り掛かって来る神父。
394
俺はヌルヌル魔力でヌルっと避ける事が出来た。
レイ
﹁また面白い物を開発していますね。ですが、今の私は神級神聖魔
法である聖光を魔法陣必要とせず無詠唱で放つ事が出来ますよ﹂
フォール
降臨!
とにかく、やらなければならない。
ってかギリギリ紙一重で避けれる攻撃をして来るなんて、この神
父は楽しんでるんじゃないだろうな。
ルーツ
この状況を、俺をいたぶる状況を!
なんつー神父だ!
規格外にも程があるだろう!
オラクル
因に、せめて信託を実現させて、顕現状態までの練習をさせても
らってからじゃダメですかと息も絶え絶え提案してみたが。
﹁そんなのこっちが面白くないじゃないですか﹂
ニコッと返された。
何がちょっとトレーニングだ!
思いっきり超必殺技じゃねーか!!!
395
ぐわあああああああ!!!!
396
師匠の教え︵後書き︶
念動と言う物は、念話と同様。
物と魔力のパスをつなげて自在に操ると言う物でした。
魔力で搦め捕って操るなんて、非効率過ぎます。力技です。
クボヤマはアホでした。
少しはファンタジーの世界について勉強したら?笑
と凪当たりに言われそうですね。
かく言う凪も常識に当てはまらない魔術ばかりですが⋮
スーパーサ○ヤ人2でました。エリック神父も成長しているって
ことですね。
397
一方その頃
サモン
﹁召喚・リージュア﹂
リージュア
賢鳥を呼ぶ。
そして俺は、魔法都市の空を翔る。
最近の楽しみは、彼女に乗ってこの世界の大空を飛ぶ事だ。
飛行機よりも高度は出せないが、それでもこの身体に直接感じる
風は素晴らしい爽快感を与えてくれる。
神父の所の走竜種も、彼等に同じ楽しみを与えているんだろうな。
プライベート・グリム
最近は学校長用書庫と特待クラス用の決闘場に籠りっぱなしだ。
廃プレイは慣れてるからな、この程度の籠もりプレイはお手の物
だ。
この学校の特待クラスには、魔法属性それぞれに特化した生徒が
居るらしい。
実に羨ましい事だ。
俺は全属性魔法の適正がないからな、無属性魔法しかまともに扱
う事が出来ない。
まぁ、だからって属性魔法を諦めた訳じゃないけどな。
﹁⋮む! リージュア左に回避だ﹂
リージュア
耳に付けてるイヤリングが、攻撃魔法を感知する。
賢鳥を急に回避させたため、彼女の上から振り落とされるが足を
掴んで事なきを得る。
やれやれ、一体誰だ。
398
﹁ハッハー! 賢人さんよォッ! 悠々と俺のシマに入って来るな
んて良いご身分だなーァ!﹂
﹁⋮なんだエアレロか。俺はお前の相手をしている程暇では無い﹂
俺に不意打ちを仕掛けて来た奴。
それは特待クラスで風特級魔法を納めるエアレロ・スミスだった。
コイツは、何かにつけて絡んで来る奴で正直ウンザリしていた。
ちなみに、典型的な俺様野郎な訳で気に入らないとすぐ喧嘩を吹
っかけて来る。
﹁前々から気に入らなかったんだよォ。お高くキメやがって!﹂
﹁それは俺に関係無いだろう。いいから消えされ﹂
そう言えば、一般クラスからは﹃キレたナイフのエアレロ﹄と呼
ばれているコイツに、前々からちょくちょく﹃次空を飛んだら殺す
ぞ﹄と言われていたが、シカトしていたな。
来るなら相手になるぞ。
特待クラスだ、相手には申し分ない。
﹁黙らァァアアア!! 全属性に適正の無い落ちこぼれクズが賢人
名乗ってんじゃねーよ! その名を俺に寄越せや! ウィンドカッ
ター!﹂
リージュア
彼から飛来する風の刃を、身体を振って賢鳥の上に再び舞い戻っ
て回避する。
399
﹁そう言えばお前、わざわざ俺の相手をする為に飛ぶ技を身につけ
たのか。意外と努力家なんだな﹂
﹁うるせェッ!! 俺様は天才だから、こんなもんフロートの魔術
を弄れば簡単なんだよ!﹂
なるほど、フロートの魔法か。
リージュア
ただ浮かぶ魔法なだけだと思っていたが、特待クラスの奴が扱う
と賢鳥の飛行について行ける程になるのか。
まったく、天才はこれだから恐ろしい。
天才ってやつにはまともにやり合うのは御法度だな。
﹁確かに俺は、全属性に適正が無いから無属性魔法しかまともに行
使する事が出来ないが⋮⋮⋮まともじゃなければいいんだろう?﹂
リージュア
そう言って賢鳥を戻す。
支えを失った俺は遥か下の魔法都市まで落下してしまう筈だが、
未だ浮かび続けている。
俺の足下には一本の杖だ。
﹁な、なんだそれは﹂
﹁狼狽えるな、少々特殊な魔道具だよ﹂
そう言って剣を抜く。
今俺が乗っているのは、浮遊の杖と呼ばれる俗に言う﹃フロート
ロッド﹄だ。
400
安物で、現時点の場所に魔力が切れるまで浮き続けるという効果
しか無い。
だが、位置は関係無い。
どんな高度であれ、発動場所に浮き続けるその性能はフロートの
みに拘った品だろう。
変に移動性能でも付けよう物なら、杖内の魔力はすぐ枯渇してし
まうだろうな。
ひたすら浮き続ける事だけに拘ったこの一品。
俺は好きだ。
制作者の一途な愛を感じるからな。
因に買う奴なんて俺しか居ないだろう。
これが二本あれば、あの神父からヒントを受けた魔力操作による
念動で空中を歩ける。
まるで竹馬だな。
﹁気持ち悪いまねしやがって、それと俺様の風魔法を避けるのは関
係ねぇだろ!﹂
ウインドカッターを躱すと、コイツは拳に風を纏って殴り掛かっ
て来た。
インファイトだな。望む所だ。
﹁トルネードブロウの餌食になりやがれ!﹂
剣で受けるとキンキンキンと硬質な音が連続して聞こえる。
強烈だ、刃こぼれしてしまいそうだな。
何度か打ち合う。
401
俺はその場から動いていない。
それがコイツのプライドに触ったのか、顔を赤くしてプルプルと
震え出した。
﹁てめェッ!!! 舐めてんのか!? ⋮マジでぶっ殺しちまうぞ﹂
エアレロは急に真顔になる。
これだよ、特待クラスは本気になると急に集中力が増す。
天才のそれって奴か。
つい
﹁嵐の猛威に切り刻まれろ! テンペスト!﹂
特級魔法か。
む、この方向は人が巻込まれるな。
﹁やれやれ、面倒な奴だ﹂
詠唱を待ってやる必要は無い。
ドワーフ
﹁テレポート。ディメンション・炭坑族の槌﹂
頭上で今にも発動しようとしていたテンペストの魔法をディメン
サモン
ションで空間から出した巨大な石柱で纏めて押しつぶす。
その後、召喚・リージュアで彼女の上に着陸した。
このまま押しつぶすのも忍びないな。
石柱をディメンション内に戻すと、彼は気絶していた。
リージュア
この高度から落下すると特待クラスでも死ぬと思うので、賢鳥で
追い掛け無事救出した。
402
そしてコイツは、学校の特待寮の中庭に投げ捨てておいた。
???
﹁はぁ∼どうすれば中層階の許可が貰えるのかしら﹂
プライベート・グリム
あたしはそう言いながら本の山に寝そべる。
最近は一日中学校長用書庫に籠もりっきりである。
最下層部の本はほぼ読み尽くした。
学校から帰って来ると、ログインして寝る直前まで書庫の中。
休みの日はずーっと書庫。
成績は大丈夫なのか?とセバスから言われるが、大丈夫。
現実でも勉強はしっかりしてるから。
今じゃそれしかやる事が無いってくらい勉強の、本の虫よ。
エンサイクロペディア フュージョンレポート
エンサイクロペ
世界大全は融合魔術概論を吸収してから更なる変貌を遂げた。
ディア
元々、呪文の検索・自動術式発動くらいしか出来なかった世界大
403
全は術式の応用・改変をする様になった。
そして、ここに来て図書館で吸収させた初級魔法の基本と中級魔
法の基本を読み取り上級魔法に改変してしまった。
まさに生きている様な。
何か別の生き物に変貌を遂げてしまった気がする。
今ではこの本を解明する事があたしの興味の対象である。
鑑定は何度もした。
精密鑑定もいつの間にか応用で出来る様になっていたこの本にさ
せた。
最初のページにこの本の使い方と概要が載る様になった。
実に本らしい生物だ。本だけど。
エンサイクロペディア
マナス
世界大全
﹃神智核を持つ本。この本は思考する。持ち主の期待に応える様に
思考し、自分で進化して行く本﹄
精密鑑定でもこの程度しか出ないってことは、実質鑑定のしよう
が無いのと一緒である。
だがこれを見て納得した。
やっぱり生きているんだわ。
この本。
だが未だ、あたしの声には反応してくれない。
クボヤマさんみたいにあたしは熱心に語りかける事は出来ない。
あくまで興味の対象として研究対象として本を扱ってるからだろ
うか。
その辺の線引きだけはしっかりできるわよ。
404
でもそろそろ良いのかしらね。
でも、変態の仲間入りを果たす事と同義なのよね。
あたしの中では。
もうこれは道具じゃない。
本じゃない。
・・・。
なんか、恥ずかしいわね。
﹁名前、呼んでみようかしら﹂
ん?なんか少し反応があった気がした。
名前、呼んでほしいのかしら。
エンサイクロペディア
ん∼。
世界大全だから⋮。
﹁辞書ってのは味気無いわねぇ。⋮ウィズ⋮なんてどうかしら?﹂
405
エンサイクロペディア
その時、世界大全が光り出した。
声が聞こえる。
﹃凪様。ようやく名前を呼んでくれましたね﹄
え?
﹃疑問を感じている様なのでご説明致します。たった今、凪様から
名前を頂いた事により、自我が芽生えました。以上です﹄
﹁いや、以上って。そんなんで判る訳ないじゃない﹂
﹃以前から自我の兆しはありました。兆候は感じ取られていたんじ
ゃないですか?﹄
﹁そ、そうね。精密鑑定が生きている本って示しているわよ﹂
﹃今の私を精密鑑定。いえ、分析すると﹄
ウィズ
インテリジェンスブック
智慧の本・固有核を保持。
﹃自我を持つ本。余談であるが、彼の有名なアルケミスの日記帳も
インテリジェンスブックである﹄
﹁余談がいらないわ!﹂
自我を持つ本としか説明されてないでしょうこれは!
406
なんなのかしら!
﹃ウィズです﹄
﹁そう言う事じゃないわよ! そういえば、あなたの性別はどっち
なの?﹂
﹃私に性別はありません。凪様のイメージが形になります﹄
そう言われてあたしは、中学生の時に愛読していた少女漫画に出
て来る王子様の様な主人公﹃清水芳人﹄を想像してしまった。
﹃統合完了。少女漫画ですか? なるほど理解しました。凪様勘違
いなさらぬ様、高校入学しても愛読なさってる様ですが? 記憶の
補足を致します﹄
﹁やめて!!!!﹂
﹃私の事はヨシト・ウィズ・シミズとお呼び下さい﹄
﹁やめてってば!﹂
407
一方その頃︵後書き︶
変態仲間が増えましたよ∼!
色んな物が色んな人が鬼変化中。
408
agimax︵前書き︶
※更新遅れました。仕事が忙しいのです。
409
agimax
AGIとは、俗に言う素早さの事だ。
幼少期から病弱で入退院を繰り返してた僕は、ろくに外で遊んだ
事が無かった。
その反動か、VRゲーでは専らAGIを優先してプレイしていた。
今回のRIOでは、初めての極振りと呼ばれる物を試してみた。
地球4つ分の世界だなんて、ワクワクしてくるよ。
そんな世界を、駆け抜けてみたい。
巷のVRゲーでは、極振りをするとその他ステータスのデメリッ
トが多すぎるため、あまり推奨されていない。
だがRIOでは十分やって行けると確信した。
と、言うより単純にSTRは力、VITは防御、AGIは素早さ。
そういう常識が有ったのだがRIOは相乗ステータスボーナスと
言う物がある事が発覚した。
相乗ステータスボーナスとは、簡単に言えばAGIを上げるとS
TRにステータスボーナスを貰えるといった物。
ステータスの10分の1が相乗といった割合だ。
AGIが10あるとSTRが1増える。
それぞれ対応してるのは、
STR?AGI
VIT?HP
MND?MP
410
DEX?INT
独立しているのはLUKくらいである。
レベルアップに付きボーナスステータスを5ポイント振れるので、
レベルが2上がれば極振りであればそれに適応した相乗ボーナスを
貰える。
極振り神じゃん。
意味不システム過ぎ。とかいう奴らも出て来た。
馬鹿ですか!?
圧倒的にSTR・AGI型が強い。
どっちの相乗効果も有るんだから。
まるでピストルの弾丸だね。
まぁ恩恵を受けれるだけだから、普通に極振りした人にはパワー
で劣るし素早さでも負けるから、一概にどっちが良いかいえない。
プレイヤーズイベント
そんな訳で、極振り特有のデメリットがあまりないこの状況で、
余裕のAGI極である。
でも最初は少しドキドキした。
未だ極振りはマズい。
とかいう風潮は残っているようで、決闘大会で上位入選を果たす
以前までは、基本的にソロとして活動していた。
と、いうより移動速度に皆がついて来れない。
いいもん、一人で気ままに世界を駆け回るのが楽しいんだから。
そんな僕にはいつの間にか﹃走り屋﹄という二つ名がついていた。
多分これはアレだな。
411
決闘大会の入選で貰ったスキル進化の秘伝書で﹃ハイステップ﹄
を最上位派生の﹃空歩﹄に変えたからだと思う。
空を走れる様になりました。
称号﹃ロングランナー﹄と﹃ハイステップ﹄とスキル進化の秘伝
書で獲得可能だ。
今の所秘伝書は特別クエストもしくは、イベントでしか入手不可
能といわれている。
ノンプレイヤーキャラクターキル
極一部の噂で、NPCKでも入手可能らしい。
RIOの世界はNPCKが可能。
消滅ポップするのではなく、リアルな遺体になるらしい。
どういう訳か、運営も止めない。
まぁそう言う人達は掲示板で晒されるもしくは、高レベルの自警
団達に牢獄に連れて行かれるだけらしい。
ログイン・アウト用のベッドくらいしか置かれていないため、ロ
グインしても刑期が終らない限り一生ゲーム内の自分は牢獄生活な
のだそうだ。
まぁ、ゲームの中だからといって犯罪をするのは、外道だと思う。
プレイヤーキラー
そんな理由で、PKギルドと呼ばれる物も中には存在するが、各
ハンター
地を縄張りにする盗賊団や、街の自警団、そして正義感溢れるPK
Hギルドの板挟み状態にあり、一つのPKギルドを抜くと凄く肩身
が狭いらしい。
PKは人を殺したのがバレた時点で賞金が懸けられる。
捕まえて牢獄送りにしたら賞金がもらえるシステムだ。
僕は名前が売れてから何度かPKに狙われた事が有る。
412
が、追いつけないので無視してる。
助走を付けて空に飛び出す。
今日の狩りはデヴィスマック連合国のテザード州の砂漠地帯だ。
走りにくいが、空まで上がればそんなの関係ない。
禿鷹と呼ばれる魔物﹁テザードコンドル﹂に奇襲を仕掛けてナイ
フを突き刺す。
高速で刃物に貫かれた禿鷹は死ぬ。
ドロップアイテムを回収しに着陸する。
空歩を覚えてから、狩場を選ばなくなったなぁ。
障害物が多い場所は苦手だったのだ。
空には障害物が無い。
最高の狩場だ。
風系統の魔術により、浮遊することは可能らしい。
だが、MPの消費がエグいとの事。
僕も最初は空歩の制御が全く出来ずに落下死ばかりだったなぁ。
それはアレじゃない?
魔力制御とかそう言うのを取得すればいくらかマシになると思う。
RIOだしね。
掲示板でも噂になってるけど、割と何でもありらしいしね。
システム補助があるリアルな世界。
だという意見も上がっているみたいで、まぁ僕もそう思う。
413
身体の使い方が判らない人はアクロバットのスキルもある。
ハイステップと体幹と言うスキルを持ってる事が取得条件だった。
あくまで補助なので、それ無しで動く人も居る。
リアル過ぎてたまにはシステム補助すら邪魔な時とかあるしね。
僕も空を翔る時はシステム補助は付けてない。
﹃レベルが60になりました﹄
﹃急襲を獲得しました﹄
急襲って。
まぁ今の僕の状態は奇襲って言うより急襲って感じだしね。
いいんじゃないでしょうか。
プレイヤー名:agimax
種族:ヒューマン
レベル:60
VIT
DEX
STR
0
0
0
0
MP:690
INT
395
HP:690
AGI
0
︵+39︶
MND
0
︵+6︶
︵+6︶
LUK
※装備、スキル補正は入ってないです。
※括弧内は相乗効果ボーナスです。
職業
414
猟師
武技スキル
鷹の目、空歩、奇襲、急襲、アクロバット、短剣術、罠、猟師の勘、
猟師の心得、猟師の歩法
いい加減他のスキルも取得した方が良いと思う。
スキル取得用のポイントはまだまだ余っているからね。
特に不満は無いからまだまだ先の事になると思うんだけど。
さ、狩りだ狩りだ。
その後、禿鷹から飛翔装備の素材を手に入れるまで続けた。
飛翔装備クエストは、空歩もしくは浮遊系の魔術が使える人を対
象にしたクエストで、空中での制御が容易になる装備を作れる。
415
agimax︵後書き︶
極振りであって極振りじゃないです。
基本的にゼロが見えるのは、LUKもしくは、INT−DEXあた
りかもしれません。
HPとMPのレベルアップ上昇で最低限のMNDとVITは成長し
ますので。
まぁ数字やら割合やらもまた特殊になって来ますがね。
突発で考えただけなので色々穴も有りますが目をつぶってもらえる
と助かります!
416
悪魔狩り︵前書き︶
ログイン前に公式サイトをチェックしてみた。
開催国はまたもデヴィスマック。
クェス・アスダラス州だとか。
言い辛いな。く、クェス?
まぁいいや本日は旅ではなく、狩り。
気合いを入れてエナジードリンクを一気飲みしてみる。
417
悪魔狩り
エリック神父に扱かれる日々が始まって早数日。
クレイジー過ぎる。
薄皮一枚でだ、薄皮一枚で俺の身体を神父服ごと削ぎ落として行
く。
自動修復機能があるから、破廉恥な事は起こらなかったな。
とりあえず、白い神殿が赤く染まった。
俺の血肉で。
本当に聖職者かよ。
神父のテンションは留まる事を知らずに、どんどん高く強く早く
ルーツ
なって行った。
ヘブン
それは顕現では無く。
最早ただの昇天状態と言った方が良い。
アウロラ
何が﹃神と一つになる事、これは極致です﹄だ。
エクスタシー感じてんじゃねーよ。
オラクル
強過ぎる神父の対応に追われて、信託の練習なんかしていられて
無かった。
AGI低いから避けるのにも少し高めのVITを総動員させて常
に全力回避だ。
全力を出して身体を動かさないと動けない。
それがずっと続くのである。
もういっそ一思いにやって貰えた方が楽。絶対な。
魔力の高密度化が上手く活きた。
418
自分の回りの魔力展開なら負けないぞ!
それだけしかしてこなかったというのもあるからな。
避けきれない物は手に魔力を集中させてヌルッと軌道を逸らす。
神父は喜んだ。さらに勢いが増す。
限界って言う物を知らないんでしょうかね!?
そのままボコボコにされましたとも。
で、﹁まだまだですね。貴方も。⋮あ、これ一度言ってみたかっ
たんです﹂
とかふざけた事を言われたあげく、魔法学校の寮の中庭にポイ。
色んな奴から引いた目で見られたんだが。
あの王女様からは、なんだかよくわからない罵倒を受けた。
ハザードだけだ。
霊薬のバケツチャレンジだったけどな。
助かったよハザード。
結構貴重な物だったんだろう。
オラクル
そして俺は、そんなハザードと共に迷宮へと赴いていた。
アレから何度か瞑想しつつ信託を試してみていたが、俺には降り
てこなかったようだ。
419
何が原因なのかは判らない。
﹁罰当たりな事でもしたんだろう﹂
何気なくハザードに尋ねてみるが、返って来る答えはそんなもん
である。
罰当たりか⋮。
思い当たる節が数々ある訳で。
ってか、エリック神父。
女神は渡しませんからとか言ってた様な言ってなかった様な。
そう考えると出来レースな気がして来たぞ。
もしだ。
もし、信託と言う物が、悪魔で言う契約と言う物に相当するなら
ば。
アウロラ
そこにヒントはあるんじゃなかろうか?
そうだとしたら女神の信託を聞く事は不可能じゃないか!
でも矛盾が発生する。
修行を積めば誰にでも信託は訪れるとも、クレイジー神父は言っ
ていたし。
もしかしたら八百万の神が居るとかそんなのかもしれないな。
魔術基礎講座も魔法と言う物は神時代に作られたと言っているし。
それぞれの属性の神が居るようで。
この魔法都市に教会が無いのは、伝説・歴史上、様々な神が居る
とされている事から作られなかったとかなんとか。
こういう持論を当てはめて考えて行けば自ずと答えは導き出され
420
るのかも知れないな。
とりあえず、悪魔に聞けば良い。
丁度良い事に、学園内の迷宮の七階が悪魔フロアだった。
すぐさま向かう。
エリック神父に甚振られて判った。
動きが雑になってるなと。
他力本願もここまでくれば引き下がれないラインだろう。
瞑想メインだった訳でそろそろ実践シフトに移すべきだ。
悪魔フロアは、階段までの最短ルートが確立されている。
通り抜けは容易い名所と呼ばれているが、その中身は暗黒。
無限に広がり続ける宇宙の様な空間だった。
階段の奥には挑戦者を誘う様に扉が設置されている。
学園長と理事長の計らいだな。
一部の実力を認められるとその扉の奥。
暗黒迷宮へと足を踏み入れる事が出来る。
全く、なんでアトラクション迷宮に来んな物騒な物があるんだろ
うか。
詳しい理由は知らんが、聞いた所によると悪魔同士の抗争が迷宮
内で起こっていたらしい。
最後まで残った悪魔が他の眷属を生み出し続け、闇を広げ続けて
居ると。
そんなもん即行退治しろよって話であるが。
﹁そっちの方が面白いじゃろう。重要な研究材料じゃし﹂
とかなんとか言いそうだ。
421
申請を出すと、Sクラス用のアリアペイは申請が要らないらしい。
まぁ、そうだろうな。
悪魔とエンカウントする度に組み手形式で相手して行く。
ハザードも右手に杖、左手に剣を持って斬撃や魔術の独自の戦い
方を見せる。
セイントクロス
時にはクロスの形状を変えて薙ぎ払い、聖十字で文字通り消滅さ
せたり。
俺は悪魔と相性バッチリだ。
うん、君たちは脅威だと思っていても。
俺は相思相愛だと思ってるよ?
抱きついたら嬉し過ぎて昇天してしまう程だものな?
﹁鯖折りで悪魔を消す神父が居るなんてな⋮﹂
弱点特攻ヌルゲー野郎だな。とハザードは言いながら剣で切り裂
ミスリル
き、杖を突き刺し悪魔達を葬って行く。
俺からすれば、聖銀の剣と聖銀の杖を操るハザードも同じだと思
う。
﹁素手で相手してないから俺﹂
そう、今回の主体は組み手だ。
ノーマルプレイヤー風に言うと、PSを養う為の狩りと言ったも
の。
422
いずれ、エリック神父に再戦を挑む為である。
ローション魔力は、ネーミング的にどうかと思う。
なので一先ずコーティングと呼ぶ事にした。
俺の語彙もその辺が限界なのである。
AGIが低い俺は、必要最小限かつ最高率で身体を動かさないと
対応できない。
その感覚を掴もうとやって来た。
修行変態のハザードも、暗黒迷宮で百人組み手?やるやる。
と言った具合でホイホイとついて来た訳だ。
﹁そのコーティングというヌルヌルした魔力は、流動してるのか?﹂
﹁その辺はわかりませんが、そんなにヌルヌルしてますか?﹂
﹁している﹂
だったら流動してるんじゃないの?
魔力とは生物の体内を流れて居るものだし、それを貯めておける
様な器官があればそれは魔法を扱える生物。
魔物であったり魔人であったりする。
だとすると人間やそれに属した種族はみな魔人魔族と当てはまる
のかもしれないが、魔人魔族と呼ばれる種族は桁が違うらしいな。
これも独自の理論だ。
MNDは魔力の総量に関係していて、INTとはそのアウトプッ
ト。
蛇口のデカさ。口径の大きさ。
持続力と威力という違いなのではないか。
423
多分そうだろ。
魔力展開も、広い空間への展開は容易だが、強度が足りなかった
り。
﹁マジックガードみたいな物だな。魔法使いは防御が紙だから、取
得推奨スキルだと言われているぞ﹂
高密度の魔力の盾を展開して、数秒間だけ物理的な攻撃を弾くら
しい。
身体強化系では、体力を魔力で補うマジックフィジカルという物
もあるんだと。
﹁お前の理論から行くと。さしずめマジックコーティングって奴だ
な。蛇口からチョロチョロの魔力を長時間体表に纏い続ける。理論
が判れば容易いな。マジック系補助魔法の劣化版だ﹂
ああ、やっぱり才能無いんだな俺。
劣化版という言葉を聞いて、少し愕然としてしまった。
こういう立ち位置に居るんだ。
そりゃ少しくらい、増長したっていいじゃない。
ヴァルカン
もう無いがな。
鍛冶神にも言われたが本当に魔法の才能が無いらしい。
魔力量はMND依存なので多いと自負している。
俺の回復魔法の回復量はまさに、
﹃それはハイヒールですか!?﹄
﹃いいえ、ただのヒールです﹄
424
を体現している。
まぁ、ヒールとリカバリーとキュアしか知らない糞回復職だと思
って頂いて結構ですよ?
本当の事ですし。
別に高密度に魔力を凝縮させていると思っていた物が、実はそれ
の劣化版だと判ってへこんでる訳じゃないんだからね。
使い用は何かしらある筈。
ほら、現にこうして攻撃を受け流す事に利用できてるしね。
また一人、また一人と悪魔を葬り去って行く。
エンドレス狩り。
エンドレス組み手。
あれ、俺なんでここに来たんだっけ。
そうだ、いずれエンカウントするであろう。
暗黒迷宮の頂点に君臨する悪魔に契約って何なのか聞く為にだっ
け。
あと修行。
そんな事を考えながら俺達は更に奥まで進んで行く。
中級悪魔達が群がらなくなって来た。
そろそろ、上級に近い悪魔もしくは、上級悪魔が出て来るのか。
グレーターデーモン
﹁上級悪魔だ。一体だけだが、どうする?﹂
425
﹁では、私が﹂
デモンゴーレム
上級から上は、格が違って来るらしいがどんなもんなんだろうね。
悪魔鉱人形を思い出す。
ヴァルカン
アダマンタイトという神鉄に憑依したあの悪魔は、強敵だった。
実際に追いつめられてたし、神の力を借りない限り倒せなかった
からな。
上級悪魔はこちらに関心が無いようだ。
はは、俺はお前らの脅威だぞ。
⋮ハッ!いかんいかん、クレイジー思考に落ち入る所だった。
中級以上の悪魔は、人形を取る事が多い。
上級になれば、大抵は人形。
気合いが入る。
イカレタ小動物みたいな悪魔や、ボロボロの亡者みたいなの。
群がって来るので迎撃のやりがいはバッチリだがな。
だがな?
まず腕を取る。
そして引っ張る。
そして転がしてフィニッシュのつもりだったが。
逆に驚くべき程の腕力で引っぱり返された。
そして上級悪魔は腕を振り上げて振り落とす。
そんな動作をした。
俺は掴まれっぱなしである。
426
人ひとりを軽く振り上げれる程の力である。
マズい。
当たりどころが良くても、全身の骨がバラバラになる。
だが、悪魔の首が消えた。
﹁油断するからこうなる﹂
﹁ありがとうございます。焦りました﹂
ハザードが首を跳ねた。
危なかった!
マジでグッジョブ!
改めて、上級悪魔の格と言う物を感じた。
これからは気合いを引き締めて進まなければならないな。
427
バクハツアクマ
悪魔迷宮をさらに奥へと進んで行く。
グレーターデーモン
ジェネラルクラス
ここまでくれば流石にエンカウント率は下がって来る。
そして上級悪魔から将軍級へと姿を変えて行くのである。
ユニーククラス デーモンロード
将軍級の更に上は、特質級や悪魔公、固有名を持つ悪魔となって
行くらしい。
悪魔の世界とは実に殺伐としているもので、常に飢えた世界なん
だとか。
殺すか殺されるかしか無いらしい。
そうして殺した相手の力を我が物にする事で、力を蓄えて行く。
クラスが上がって行くと自我を持ち始め、その他欲求が芽生えて
行くとされる。
特質級とは生まれながらにして自我を持つ悪魔の事。
ある者は力を求め、またある者は知識を求め。
この地上世界へと出る機会を虎視眈々と窺っている。
ハザード談。
悪魔も召喚できるのか聞いたら、下級悪魔なら召喚も可能だが上
級以上は契約して対価を払わなければいけないんだと。
地上で存在し続ける事が出来ないらしい。
こいつ、もしかして悪魔と契約する気か?
﹁強くなりたいからな﹂
428
⋮さいですか。
もっとも、俺も強くなる為にこの悪魔達と生死を掛けた乱取りを
しに来ている訳だが、悪魔と契約か。
神父も出来るのだろうか。
無理だろうな。
だってだって、悪魔に縋るしか無いじゃないか!
どうやったらエリック神父をコテンパンに出来るか考えてみたが。
どうやったって無理だった。
なんとかこれで行こう作戦で、ユウジンとガチでやり合った結果
は散々だった。
読まれてるし腕切り落とされるし、心臓にひと突き。
あぁ、何か格上と戦うと散々な目にしかあってない様な気がする。
もう悪魔に魂を売るべきなのか。
いやいや、そんな事をしてしまっては聖職者失格である。
流石に俺もそんな事はしない!
﹁だが神様より確実だぞ﹂
ハザードの一言が突き刺さる。
たしかに、対価無しに俺らって神に身も心も捧げるよな。
神頼みって奴だ、まさに。笑
悪魔の方が確実。確かにある。
どっちにしろ悪魔側が俺と契約はしないだろうが。
429
そんな事を言いつつ、迷宮と言うなの暗闇を彷徨っていると、早
速上級悪魔とエンカウントした。
大分上級にも慣れて来たな。
﹁まて、様子がおかしいぞ﹂
ハザードが止める。
操り人形の様にその悪魔は力なく立っている。
カタカタと動き始めたら、耳を劈く様な強烈な断末魔と共に爆発
した。
真っ黒な飛沫が襲う。
俺の前に居たハザードがローブで顔を覆った。
俺?
顔面ベチャベチャだけど。
こういう所もリアルである。
バラバラになった悪魔の後ろからケラケラと笑いながら、カラフ
ルなピエロカラーに包まれた悪魔が姿を表した。
﹁特質級だな。上級悪魔を軽く驕れる程の﹂
ハザードがそう呟く。
イマイチ他の悪魔と特質クラスの違いが判らないが、賢人様がそ
う言うんだったらそうなんだろうな。
﹃モット、バクハツ、ボク、テロ、ディーテガクレタナマエ﹄
そう呟くとケタケタと腹を抱えて笑い出す。
何が面白いんだか。
430
軽くホラーなんだが。
﹁強烈な爆発欲求に固有名詞持ちか、強いぞ﹂
﹁えっと、名前がテロで⋮。なんか、大丈夫なんですかコレ﹂
﹁これは二人で行こう﹂
上級は油断しなければ一人でも倒せる様になった。
将軍級の悪魔は未だ二人で掛かる事が多い。
その為の連携が戦闘を繰り返すごとに出来上がって行ったのであ
る。
ハザードはまさに万能。
杖、剣、無属性魔法の応酬である。
俺の動きを上手い具合にサポートしてくれる。
で、ハザードが出る時は、俺はヒールに徹すると。
うむ、回復職だからね。
そんなもんである。伸ばしたクロスでチクチクするだけ。
今回は特質級だ。
爆発属性持ちだ。
フォール
素晴らしく危険きわまりないな。
飛ばして行く。
オートヒーリング
﹁自動治癒、コーティング、降臨﹂
﹁動きの阻害を頼むな。魔封じの杖で固めて終了だ﹂
431
はいはい。自動治癒を悪魔に向ける。
﹁アハッ☆ ナニコレ、スゴクバクハシタイ﹂
絶対に聖書さんは爆発させんぞ。
滅多な事言うな。
聖書さんもクレイジー発言に驚いたのか、輝く力を増す。
﹁グゴゴゴゴゴゴゴ﹂
﹁いい調子だ。四大元素の杖よ舞え、四元魔封陣!﹂
彼のバックパックから四本の杖が抜け、動きが鈍った悪魔を囲む
魔法陣に配置される。
そしてその中心に居る悪魔を彼の手に持つ魔封じの杖が穿つ。
これこそ、賢人になって彼が編み出した複合杖術である。
複合魔術とはまた別だ。
だが、この悪魔には通用しなかった。
﹁やっぱり無理か﹂
﹁先に言ってくれませんかね。コレで決まりだと思いましたけど﹂
彼は言う。
この悪魔は爆破属性の持ち主であると。
﹁四元魔封が効かない事で今証明された事実だ﹂
察しつくだろうが!
432
つくづく思う。
馬鹿と天才は紙一重であると。
﹁デモコレ、キモチワルイ。ジブンデ、バクハツ、キモチイイ﹂
とんでもないマゾ思考だった。
ソレカ。と一言、俺の聖書に目を向ける。
聖書と繋がる正体不明の魔力の糸の存在を感じた。
コレはマズい。
そう思ってその?がりの間に手を挟むと、手が爆発した。
﹁ぐっ﹂
焼け爛れるとかそんな半端な物じゃない。
オートヒーリング
手首から先が爆散して消えた。
フォール
すぐさま自動治癒が傷を塞ぐ。
降臨状態でこのダメージだ。
マズいな。
﹁おふざけに付き合ってる場合じゃないですよ﹂
﹁別にふざけてないぞ﹂
﹁アヒャアヒャアヒャ! バクハッ、キモチイイ?﹂
消す。
そろそろこの悪魔うざくなって来た。
433
セイントクロス
聖十字を飛ばすと悪魔も弾け飛んだ。
自我があると言ってもひたすら自分の欲望に従ってるだけに過ぎ
ないなら。
それはただのガキを相手にしてるのと一緒だからな。
こんなの子守りだ子守り。
﹁神父なら強制的に消滅させる事も可能だが、特質級以上の悪魔の
戦いは基本的に存在価値の削り合いだからな、ここは任せてくれな
いか?﹂
補助を頼む。とハザードは駆け出して行く。
おい最初からそうしろよ。
俺を実験台に使ったとしか思えないぞ。
ハザード氏にご加護があります様に。
魔力の流れを感じると、あの爆発の仕組みが判って来る。
仕組みといっても、精密とはほど遠く。爆発の前にあの悪魔との
魔力のつながりが起こり、爆発すると言ったもの。
ダイナマイトとそれを繋ぐコードの様な物なのか?
爆発の規模は、物の大きさに寄って変わるようで、ハザードも色
んな物を爆発させていた。
ゴミの爆破処理である。
ってかいくらディメンションで、制限無しに物を空間に突っ込ん
434
でおけるからって、突っ込み過ぎだと思うけどな。
物の規模で爆破の大きさが変わると言っても、絶対爆破属性とい
うのは恐ろしいな。使用制限とかついてないのか。
﹁ふ∼む。恐らく、魔力の使い方がコイツ固有の方法だ﹂
なるほど。
魔力を糸の様に伸ばして能力を伝える。
だが今の時代、コードレスだ。
念話だってコードレスなんだぜ。
ハザードは魔力のつながりが出来る瞬間を完璧に読み取れる様に
なっていた。
指先から土魔法で砂を出して爆竹の様にして処理していた。
オートヒーリング
完璧に遊んでいるな。
自動治癒すら要らない完全試合です。
﹁四元魔封が効かないから火属性じゃないのは確実だ、無属性なら
自分の物に出来るかもしれん﹂
﹁能力を奪うんですか?﹂
﹁そうだな、悪魔はその存在が能力みたいな物だから。新しい杖に
なってもらおう﹂
ぶっちゃけ、倒す方法が判らんしな。と彼はテレポートして彼の
後ろに回る。
435
テザート
﹁ディメンション、大砂漠の流砂﹂
悪魔の頭上から大量の砂が押し寄せる。
中から砂を爆発させる音が聞こえて来る。
一塊として砂を爆破させない辺り、それが弱点なのだろうか。
辺りは砂の山になった。
盛り上がった中心に居るのが悪魔だろうな。
で、砂が消えて行く。
律儀に回収してるのな。それ。
﹁削り合いするぐらいなら、飽和状態にして満足感を与えてやろう
と思ってな﹂
﹁バクハ、イッパイ、ステキ﹂
﹁馬鹿なの? コレで言いの?﹂
そして彼はとんでもない事を言う。
﹁俺と契約しろ。そうすれば最高の爆発を保証してやるぞ﹂
﹁ホントウニ? ナラナル﹂
頭爆発してんじゃねーの?
テロと名乗る悪魔は、彼の名も無き杖に封印された。
不当契約だ!強請だ!
不平等条約も真っ青の契約だ。
436
﹁よし、コレはテロの杖と呼ぼう﹂
彼は杖の持ち手を布で縛ると言った。
もしかすると、彼のバックパックに詰まってる杖の正体が判った
かもしれない。
これについてはあんまり触れないでおこうかな。
そして俺達は暗黒迷宮の奥へと進む。
杖で殴っても爆発し、杖を振っても爆発する。
とんでもない杖を持ったハザードはまさに悪魔の如く活躍した。
そういえばである。
テロが言っていた、ディーテとは一体何者なのか。
437
バクハツアクマ︵後書き︶
さすが賢人、やる事がゲスい。
言葉がわからない相手に無理矢理契約と言う物を結ばせるアレ。
流石に今日はもう一話更新しますよ。
よる頃になります!
438
アップグレード
ログインした。
先に進もうとした途中で、腕を失った事に気付いた。
思いっきり欠損ペナルティ出るタイプの怪我です。
片腕が無い。
その状況に慣れてしまっている俺が怖い。
今後、ずっと何かしら欠損する様な事が続きそうな気がしないで
もない。
早い所、聖王都の大教会で上級の回復呪文を学ばなければならな
いという謎の使命感に駆られる。
もう少し力を付けてからでないと、上級悪魔以上の奴と対峙した
時、一方的に驕られるのは俺の方である。
そんな訳で、暗黒迷宮を一時離脱。
エリック神父、いや学校では理事長だな。
その理事長のプライベートエリアを使用する許可は前々から貰っ
ていたので、理事長室のゲートから女神の神殿へと赴く。
で、ここからが本番。
個人的な都合による解釈だが、女神の神殿は中央聖都ビクトリア
の大教会に繋がっていると予想している。
ヴァルカン
ゲートからの小部屋を抜ける。
山の中に埋まっていた鍛冶神の神殿とは違って、広く、大きい。
石柱の配置からして、どっちかに抜ければ神殿の要所か入り口の
階段が構造的にある筈だ。
439
ビンゴ。見えて来た。
運良く上に続く螺旋階段にたどり着いた。
螺旋階段の上にはゲートが。
問題は通れるかどうかな訳だが、以前報酬で貰っていた許可証書。
出番である。
エリック神父が真心込めて一筆したこの許可証書があれば、通れ
ると思う。
はは!
今日は運がいいぜ。
想像以上の結果と言っていい。
まさか、資料室に直結してるなんて予想も出来なかった。
本棚の後ろにひっそりと置かれているゲートの漆黒の壁。
量も半端無いな。
一体何の資料がこんなに大量に置いてあるというのか。
どうせ例によって全部聖書だろ。
そんな事を思いながら資料、本を漁って行く。
エンサイクロペディア
高位の魔法を覚えて行く。
世界大全の様に吸収出来れば良いんだけどさ。
俺には出来ない。
一つひとつ覚えて行って聖書の文字と照らし合わせて行く。
ハイヒール、リジェネレーションとその他呪文をアップグレード
させる事が今回の目的である。
下位の回復魔法には万能性は無いからな。
あらゆる状態異常に対しての回復魔法を学んで行く。照らし合わ
440
せてない物は、直接書き込む荒技だ。
聖書に自動でやらせるなんて俺かエリック神父くらいしか居ない
からな。
書けば書く程輝きを増す聖書。
ここまで来るとまるで総合病院の様な立ち位置になって来る。
擬人化するとすればナースですか。
良いですね。
いかんいかん。厳かな修道女に決まってるだろうが!
この野郎!
オートヒーリング
自動治癒の完全自動化が進む。
凄いぞ聖書さん!
この勢いならセカンドオピニオンまでやってくれそうだ。
あらかたやり終えた。
もっと他に資料は無い物かね。
漁っていると急にドアが開かれる。
油断した。
﹁まったく、なんで私がデヴィスマックなんかに行かなきゃならな
いのかしら!﹂
憤慨しながら入って来た女性と目が合う。
﹁ど、どうも﹂
﹁あ、こちらこそ。って貴方は一体誰!? ここに入るには許可が
いるのよ?﹂
441
﹁許可証なら貰ってますよ﹂
一応エリック神父に書いてもらった一筆を見せる。
﹁法王の!? あなた何者? まさか噂の愛弟子さん?﹂
そう言って驚く彼女は、マリアと言うらしい。
彼女は﹁直筆の許可証が有ってもここの管理人に一言許可を取る
のがマナーでしょう﹂と溜息をついた。
ごもっともです。
﹁すいませんでした。知らなかったもので﹂
﹁ああ、いいわよ。あの法王だもの、やる事成す事全部自由よ﹂
﹁貴方も苦労してらっしゃるんですね﹂
わかる!?と彼女は俺の手を握って来る。
判りますとも。ええ。
この資料室は彼女が管理している部署らしい。
簡単に用件を伝える。
高位呪文について学びに来た事を。
﹁勉強熱心ね﹂
そう一言、彼女は奥の部屋へ消えて行った。
驚いたが、悪い人では無さそうだったな、苦労人って感じがする。
だが、容姿は金髪にナイススタイルでなんつーか。
442
なんて言ったら良いの変わらないけど、エロい服装だった。
雰囲気がね。
あれ修道服っていうの?
まぁいいや、正式な許可も貰ったのでこっそりやる必要は無い。
とりあえずアップグレードした聖書さんを起動。
まるでプログラマーみたいだな、自分で作ったプログラムをチェ
ックするかのごとく聖書の動きを確認して行く。
ここでハザードに頼み込んで貰って来た﹃賢人の呪毒シリーズ﹄
があります。
麻痺、毒、火傷の他に、石化、神経、沈黙、即死などなど様々な
呪いと毒が楽しめるラインナップになっている。
恐ろしい。
いっこいっこ試して行こう。
まずは火傷の腕にたらす。
一瞬にして腕がぐちゃぐちゃになって行く。
これ治療失敗したら確実にケロイドだよな。
おお、治る。
麻痺、毒、凍結、比較的下位の状態異常はクリア。
一瞬異常が起こってすぐ回復すると言った感じだ。
いい調子である。
次が鬼門だ。呪いと特殊毒シリーズ。
沈黙から行こう、比較的安全そうなのからな。
そして残す所は、神経毒と石化、即死。
443
神経毒を飲む。
麻痺の上位であるそれは、一切の思考を許す事無く心臓の動きを
止めに掛かる。
﹁⋮ッ⋮⋮ヵッ⋮コッ⋮ン”ー⋮﹂
徐々に呼吸が出来る様になって行く。
意識のブラックアウトは無かった。
死ぬかと思った。
だが、治った。
怖過ぎだろ⋮。
少し億劫になったが、エリック神父にボコボコにされる方が遥か
に怖い。
あいつら
ユウジンにひと突きされる方が遥かに痛い。
少しでも化け物に並ぶ為には仕方の無い事だと割り切った。
次は石化だ。
ええいままよ!!!
⋮。
は?
とりあえず、何が起こったか判らなかった。
こうして生きてるって事は、治ったって事だな。
そう思って下半身を見たら石になってた。
444
いやぁ、驚きましたね。テヘッ。
どちらも死ぬまでにはインターバルがある劇毒と呪いだった訳だ
が。
次が鬼門である。
即死。
そ、即死?
死ぬ事が確定している呪文だな。
MND値からして俺に掛かる事はなかなか無いとしてもだ。
コレはどうなるんだろうか。
即死耐性というより死んでも生き返る。
という奴だろうか。
それか死ぬ前になんとかこう、ギリギリで踏みとどまるのか。
さて、行くぞ。
﹁あんたいつまでやってn﹂
即死薬を飲む。
ドアを開けて出て来たマリアに反応する前に俺の意識はブラック
アウトした。
目が覚める。口に何かを感じる。
445
そして強制的に空気が入って来る。
﹁ゴボッ!!﹂
﹁よかった! 目が覚めたの!? 身体は大丈夫!?﹂
そう言いながら彼女は俺の両肩を掴み、揺さぶる。
どうやら人工呼吸を受けていたようだな。
﹁あぁ、大丈夫です﹂
口を拭いながら座り直す。
﹁失礼ね! 呼吸と心臓が止まってたのよ!? こっちのみにもな
って欲しいわよ!!﹂
顔を真っ赤にしながら怒るマリア。
確かに、申し訳ない事をした。
彼女が言うには、様子を見に来たら変な薬を飲んで倒れたらしい。
瞳孔は開き、心臓は止まって、呼吸もしていなかった状況を見て、
もう無理かと思ったらしい。
だが、聖書が輝き出すと、俺の心臓は再び動き出した。
まだ呼吸をするに至っていない俺を見て、彼女は人工呼吸を思い
ついたらしい。
魔法のある世界で、死んでも蘇生があるんだからと思う人がいる
かと思うが。
446
厳密に言うと死んで生き返る事はない。
プレイヤーはリスポーンという形で蘇るが、この世界の人は死ね
ば終わりだ。
蘇生魔法というのは瀕死になってしまった際の回帰魔法としての
呼び名が高い。
だが、バラバラになってしまった場合。
瀕死すらも通り越した完全な死には、蘇生魔法も何も効かないそ
うだ。
で、瀕死ってどこまでとか言い出すときりがないから。
死ぬ前の一瞬。衰弱した状態ってことで。
身体がまっ二つになっても、まだ生きている状態は瀕死。
心臓も脳もまっ二つになっていたらそれは即死。
逆にそれ、首だけ残ってたら生き残れそうだな。
シビアなタイミングが居るし、蘇生魔法の詠唱はなかなか難しい
らしいが。
﹁耐性の鍛錬は一人でやるもんじゃないわ!﹂
俺の話しを聞いて彼女は叫んでいた。
実を言うと、後一つだけ残っているのである。
賢人の呪毒シリーズに新しく名を連ねた、爆殺の呪い。
体内の魔力を暴走させて爆発させるらしい。
ご、○空ぅーーーーーー!!!!
とんでもない物だが、コレをやらずして。
447
聖書の本来の即死に対する対抗策になりうるのかが問題なんだ。
腕が切れたってな。
喰われたってな、爆発したってな。
心臓ひと突きされたり、爆発魔法でバラバラになる時があるかも
しれんぞ。
あるかもしれんぞ。
俺は実際にあったからな。
それに対する対抗策を考えなくてどうするよ!
否、俺はこの呪いを飲む。
﹁ばかじゃないの!?﹂
﹁いいえ、コレは試練です。私は聖書さんを信じています。神を信
じています﹂
﹁ほんっと。位が上がるに連れて、聖職者って下衆か変態しか居な
いんだから﹂
彼女はそう言いつつも、離れて俺を見守っている。
聖書を片手にいつでも蘇生魔法を掛けれる体勢だ。
爆殺の呪いを飲む。
今更ながら、なんで液状にしてあるんだろうな。
喉越しはもの凄く悪い。
常時コーティングしてある俺の身体は派手な爆発を起こさなかっ
た。
448
四肢が千切れボトボト飛び散るだけだった。
﹁キャアアアアアアアアアアア!!!﹂
そして身体中の組織が崩壊する様に俺の身体はぶちぶち千切れて
行く。
しばらく言葉に表す事のできない痛みを味わった後ブラックアウ
トした。
目覚めた。
いつものベッドじゃない。
﹁化け物ね﹂
まさか成功したのか。
あの煮崩れ起こしたジャガイモみたいな状態から。
彼女に見た内容を聞くと。
聖書が文字を帯びて光り輝いていたらしい。
で、勝手に文字を読み上げ、俺の身体を復活させたとか。
一体何がどうなっているのか判らない。
449
最悪部位欠損がどうにかなればいいやくらいの気持ちでアップグ
レードをしに来た訳だが、とんでもない物に仕上がってしまった。
450
アップグレード︵後書き︶
聖書﹁あーもうぐっちゃぐちゃなのとりあえず生命維持装置の代わ
りにこうして﹂
聖書﹁血管組織が出来たの、現代医学って素晴らしいわこうしてこ
うしてこうして﹂
聖書﹁かわりに少し私好みにしておくの﹂
と、聖書さんは考えていたに違いない。
451
サバイバルイベント前の道中
一度魔法都市の方へ戻りまして、そっからデヴィスマックへ向け
て進路を取っている。
ゲート経由でも行けるらしいのだが、ここはアラド公国経由で行
きましょう。
ラルドもしばらく走っていませんからね!
RIOの世界のグラフィックを楽しみながら旅するのも乙な物で
あるのだ。
相変わらずドッドッドッドと癖になるリズムで走ってくれるラル
ド。
ちなみにだが、竜車も改造してありました。
セバスの地味な努力と、魔法都市まで進出してきたブレンド商会
のコネによって、アラド南西の国で生産職プレイヤーに発見された
ゴムを利用したタイヤ、鍛冶の国の技術でバネ・サスペンションを
作り広く普及させていた。
快適な竜車となっている。
内部も凄いぞ。
エンサイクロペディア
知らぬ所で、凪の世界大全が智慧の本に進化しており、その智慧
の本−ウィズ−によって空間拡張が施されている。
ようするに、内部に二十畳程の空間が有り魔法を利用した生活補
助システムが設備されていた。
魔法都市に行って良かった。
各々素晴らしい研究をしていたんだな。
452
すっかり乗り物酔いを克服した凪。
隣に銀色の狼を従えるエリー。
フラウ
フェンリルってやつですかねぇ⋮。
もちろん肩には雪精霊もいる。
代わり映えがしないのは俺とユウジンとハザードぐらいだろうな。
なんだかんだ、この3人は装備のアップグレードくらいしかして
無いからだ。
イベントには、やはり飛行船の運行も開始されてあるらしい。
ただ、そこそこ広い世界にプレイヤー達は散ってしまっているの
で、スカイホエールを運用する事は無かった。
ワイバーンによる牽引が主な飛行船の運用法となっていた。
ランバーン
ワイバーン
地上では走竜種が駆け抜け。
上空では飛竜種が飛び交う。
ファンタジーって感じ。
いずれ、俺達プレイヤーにも飛行船を個人利用できる日が来るの
だろうか。
いや、確実に来るだろうな。
未だオークションで本当の価値が判らぬまま売られている推奨V
Rギア。
だが、発売された推奨ギアはかなりの数売れている筈だ。
心ない転売人以外は確実にリアルスキンモードに手を出してしま
っている人も居ると思うんだ。
ゴムを見つけて流用してる奴とか絶対そうだろ!
もっとそう言う人達とかかわり合いたい。
453
ノーマルプレイヤーの情報は、ロバストさんがこっそりハザード
さんの事について尋ねて来る時に貰っている。
今回のイベント、ロバストさんも再会が楽しみなようで。
因に、デヴィスマック連合国のクェス・アスダラス州に行ったら
まず教会によりなさいとの事。
マリヤ聖司書からの言葉であります。
せ、せい司書⋮。
いかんな、因に俺は年上が好みだ。
魔法都市から魔法結晶をお土産に持って行こう。
あの時は、ログアウト時間が迫って居たから、大急ぎて部屋を出
るとゲートを抜けて魔法都市に戻った。
ろくに喋れなかったんだっけな。
そういえば、最近エリーともろくに喋ってないな。
まぁ、彼女も集中して自己鍛錬に励んでいる様なので、あまり口
を出さないでおく事にした。
少し寂しい気持ちもあるが、致し方ないのだろう。
そんな事を思いながらエリーの尖った耳をぼーっと見ていると、
彼女は一瞬こちらを向いて顔を赤くした後、そっぽを向いてしまっ
た。
なんなんだ!
そんなに鍛錬で形が変わった耳を見られるのが嫌なのか?
俺だって柔術をやっていた高校時代に潰れた耳はそのままだぞ?
耳の外枠のナンコツがこりこりしてて実に気持ち悪い感触なんだ
454
よな。
ワイルドコヨーテ
﹁エンカウントです。荒野狼の群れです﹂
竜車内に知らせが入る。
ラルドならその辺の魔物くらいはぶっこ抜いて置き去りに出来る
んだけどな。
まぁ魔物が魔物だしな。
ワイルドコヨーテ
荒野狼
﹃デヴィスマック連合国の荒野全域を縄張りとする魔物集団。狡猾。
遠吠えで長距離間の連絡を取り合い集団で狩りを行う﹄
群れの規模によってハンターランクが変わって来る訳だが、ゴブ
リンやコボルトと違って個体の強さもそこそこであり、集団になれ
ば余裕でハンターランクBを超える。
有象無象という訳でなく、しっかりとした連携をして来る辺り、
ずる賢いコヨーテである。
﹁規模は?﹂
窓から顔を出して御者席のセバスのハザードに聞く。
﹁ざっと四十七頭、本腰を入れた狩りと思える﹂
﹁それでは私達は本腰を入れて狩られると言う訳ですね﹂
455
ハッハ。ご冗談を。
なんて雑談をしている場合ではないぞこの馬鹿執事と賢馬鹿。
﹁ラルドの調子はどう? 休ませておいて、俺達でコヨーテの相手
をするが?﹂
﹁キュロロロロロ!!!﹂
﹁クボヤマ様、彼も気合い十分な様ですよ﹂
久々の道中で、ラルドもテンションが上がっているのか、戦闘に
参加させろと言った風に喉を鳴らしている。
荒野の太陽に反射したそのエメラルドグリーンの竜鱗が眩し過ぎ
るよラルドさん。
じゃ、馬車は走行したまま蹴散らす感じね。
そのままひき殺してちょーだい。
戦闘は、いつの間にかラルドの隣を走っていたフェンリルと、ユ
ウジン、ハザード、ラルドが行う。
コヨーテは後ろから追いかけて来る十頭。
そして、前で待ち伏せする残り。
獣にしては考えられているが、獣だな。
後ろを担当するのはユウジンで十分だろう。
ハザードも居るので完璧にオーバーキルである事は否めない。
456
まず、ラルドが竜車ごと数頭を引き転がす。
おいおい、耐久度どうなってんの?
また壊れない?
そして、横に飛び避けたコヨーテをフェンリルとハザードがそれ
ぞれ喰い千切り、爆殺して行く。
本当に便利ですね。その杖。
あと、フェンリルが仕留めるごとにこっちを向いてガッツポーズ
を決めるエリー。
⋮わかったから。
凪は少女漫画を読んでいた。
どっから出したアホ。
お前なんでも有りか。
変わったなお前。
ユウジンは言わずもがな。
器用に首だけ飛んだ死体が残っている。
﹁お前ら、コヨーテの皮売れるんだからちゃんと狩れよ﹂
﹁なんだユウジン。今日は一段とまともだな﹂
﹁最近刀の開発で金欠気味でな⋮なぁ、ブレンドからお金預かって
ない?﹂
﹁⋮いや、預かってない。売れ行きも落ちたんじゃない?﹂
457
目を逸らす。
今度ジュースでも驕ってあげようかな、ハハハ。
結局使えるコヨーテの皮はユウジンが殺した十頭だけだった。
あとは爆散、ミンチ、凍って台無し。
みなさんお疲れ様でした。
回復は任せてね。
誰もダメージ受けてないみたいだけど。
セイントクロス
こういう移動戦では、本当に俺は使えないのである。
聖十字は直線の攻撃だから遠距離じゃまず当たらんよ。
だから牽制以外、直火アタックだし。
そういえば、イベントの進路日程をすっかり忘れていたので。
暗黒迷宮にはまだ挑んでいない。
死にかけ損である。
まぁ、強くなったんだけどね。
それなりに。
ちなみに、まだ誰にも言ってない。
お披露目もまだなのである。
順調な旅路だったしな!
458
イベント会場である、クェス・アスダラス州の州立自然公園はま
さに大自然って感じである。
いや、生き残りバトル形式のサバイバルじゃないのか?
違う様です。
vs
プレイヤー
vs
公式の放つ強化モンスタ
ガチサバイバル要素を取り入れているらしい。
プレイヤー
ー集団。
といった三つ巴合戦なんだとか。
強化モンスターも一筋縄では行かない強さではあるが、ドロップ
アイテムが特別仕様だとかなんだとか!
全開サバイバル予選、何も出来ないまま終ってしまった人が多か
ったので、そんな人達にも楽しんで頂ける様にね。
もちろん、狙いはアレだぞ!
優勝だ。
サバイバルで生き残ったメンバー。
得点上位8パーティーが決勝トーナメントへと足を進めるのだ。
決勝トーナメントは、団体戦。
パーティの戦略、連携が物を言うな。
ハザードはもちろんロバストさんのパーティに行くのか聞いた所。
﹁俺は一度ギルドを抜け修行中の身だ。パーティには俺の代わりが
既に居るだろうしな﹂
459
と区切った所で。
﹁あれだ、良かったら俺も一緒に戦わせてくれないか? お前達と﹂
そう言ってくれた。もちろんだとも。
共に学園で高め合った仲間じゃないか。
もちろん余計な波紋を生まない様にロバストさんには俺からこっ
そり話してある。
っていうか、メル友なんだぜ。
ロバストさんも一応推奨ギアは購入してあるんだと。
何かしら、公式運営側からアクションがあると踏んでいるらしく
てそれがあってから踏ん切るそうだ。
ギルド引き継ぎとかそんなアクションの問い合わせは個人でして
るみたいなんだよな。
公式からの反応は薄いらしいが。
ワイルドランナー
﹁誰かが荒野駝鳥に追われている様ですが、救助に向かいますか?
今からですと間に合いますが﹂
セバスから連絡が入る。
車内の空気が一瞬張りつめる。
皆の顔は満場一致っぽいな、助けよう。
460
﹁すぐ救助に向かおう!﹂
﹁畏まりました。ハザード様が先行して向かわれてます﹂
窓から外の様子を見る。
賢鳥に乗り、遠くに見える砂煙を追いかけるハザード。
そのままドアを開け、走行中の竜車を伝って御者席まで行く。
﹁追われてるのは2人組の様ですね﹂
﹁見えるんだな﹂
﹁執事の嗜みですので﹂
従者じゃなくていつの間にか執事になっている。
まぁ、それで良いけども。
﹁ラルド! 全力だ!﹂
﹁キュロロロロロロロ!!!!﹂
ランバーン
ラルドは吠えるとスピードを上げた。
走竜種の利点は、ある程度の速度なら保ち続け走る事が出来る体
力と頑健で強靭なその体躯なのだが。
走るのが得意な種族が、長距離走が出来て短距離走が出来ない筈
が無い。
ラルド
久々に見るな。
走竜種の全力疾駆。
461
まるでクラウチングスタートを取るかの様に姿勢を低くする。
走る事に掛けては、人間よりも長けているんだろうな。
初めて見た時は、尻尾が御者席に直撃するので怖い思いをしたが、
セバスが竜車と繋ぐ部分の長さを調節してくれているので安心だ。
流石セバス!
あっという間に追いついて行く。
ワイルドランナー
荒野駝鳥
﹃荒野を走る飛べない鳥。翼は威嚇の為のもである。強靭な脚から
出される蹴りには注意が必要だ。嘴も鋭く気性も荒い。だが、その
たまごは大きく濃厚で美味﹄
﹁ディメンション・石壁﹂
ドゴン!と駝鳥と追われる二人の間に壁が出現する。
慌てて停止する駝鳥。
﹁ラルド、速度を落として! 二人とも竜車に掴まって﹂
速度を落とした竜車にしがみつく二人。
そのまま再び速度を上げると、駝鳥との距離を引き離す。
しばらく走り、竜車を止めた。ずっと掴まっているのもキツそう
だったからな。
丁度止まった時にハザードが戻って来た。
﹁ワイルドランナーはどうしました?﹂
462
﹁ああ、潰したよ。殺さないと死ぬまで追っかけて来るからな﹂
なるほどね。
そして竜車に掴まっていた二人を向く。
顔面土汚れで、リュックを背負った男女であった。
二人とも追いかけられた恐怖か、顔面蒼白だった。
﹁大丈夫ですか?﹂
オートヒーリング
ワイルドラン
自動治癒と掛けると、大分落ち着きを取り戻したみたいだった。
﹁あ、あんたってもしかして戦う神父?﹂
﹁ば、バトルジャンキーエクソシストの∼?﹂
は?
なんつー噂が広まっとんじゃ!
﹁私はただの神父ですが⋮﹂
﹁そんな事よりお前達、ワイルドランナーに何をした﹂
ハザードが言う。
ナー
一度追いかけると地の果てまで追っかけて来ると言われる荒野駝
鳥を怒らせるなんて普通はしないそうだ。
﹁いやぁあの駝鳥のたまご、かなり美味って聞いてな﹂
463
﹁そうなのよねぇ! 美味なのよ∼﹂
黒髪短髪で揃えた男が言い、金髪でウェーブの掛かった長髪の女
がおっとりした声色で同調する。
なんか気が抜けるな。
さっきまで顔面蒼白だった二人なのに。
﹁あっそう⋮ですか﹂
﹁確かに、美味いと聞く﹂
何とも、二人はハンターの中でも美味い物を求めて旅するプレイ
ヤーだった。
なにかのロールプレイかと勘ぐったが、本当にリアルでも美味し
い物好きの夫婦だった。
そして、リアルスキンモードプレイヤーである!
重要だな。
たまたまデヴィスマック連合国で小耳に挟んだ卵の噂をイベント
会場に移動するついでに試そうと思ったら、気付かれてこのざまだ
ったとか。
﹁ほら! ミキのお腹の音さえ静かだったら上手く行ってたんだっ
て!﹂
﹁だ、だってケンちゃん! お腹減っちゃったんだもの⋮仕方ない
もの﹂
﹁確かにそうだものな⋮おまえは昔から食欲旺盛だもんな、ま、そ
んな所が好きなんだけどよ﹂
464
﹁ケンちゃん!! 私もケンちゃんとケンちゃんの作る料理が大好
きなの∼!﹂
リアルスキンモードプレイヤー
バカップル。じゃないや馬鹿夫婦。
RSMPは馬鹿ばっかりか!!!!
465
サバイバルイベント前の道中︵後書き︶
仕事が忙しくて1日執筆止まって申し訳ない。
新キャラ登場。
466
サバイバルイベント
美食プレイヤーであるケンとミキは、イベントに乗じて出店をや
るらしかった。
店舗は持たないのかと聞いてみると。
現実世界で既に小さな料理屋を営んでいるらしく。
どうせ異世界ファンタジーであるならば、流離いの料理人で旅を
しながら世界のグルメを食べて回りたいんだとか。
異世界ファンタジーとはまぁ似て非なる世界なのだが。
このRIOではそういうプレイも有りなのである。
移動式の屋台でも作ってみたらどうだろうかとお勧めしてみたら、
すでに構想はあるらしく、資金を貯めて馬車を購入し改造しようと
思っているそうだ。
デヴィスマックのクェス・アスダラス州への道中、彼等が俺達の
食事を賄ってくれていた。
乗車のお礼だそうだ。別に要らないのに。
彼等は流石料理人である。
大変美味しい旅になりました。
セバスも詳しく学んでいるようで、コレからの道中も楽しみであ
る。
彼等は竜車の空間拡張に感銘を受けていたようで、ブレンド商会
に受注してどうたらこうたらセバスと話していた様な気がする。
これがセバスのプレゼン能力か。
467
あれよあれよと話しを付けて超高性能移動式屋台が出来そうな予
感である。
ワイルドランナー
因に、荒野駝鳥の卵は激ウマだった。
なにしろ、ノーマルモードでも特定オブジェクトと言う物で、ア
イテムボックスに入れる事が出来ないらしい。
クエ受注により専用の入れ物、もしくは準備していないと手持ち
になる可能性がある物らしい。
巨大な卵を二つ。
ゆで卵とオムレツで頂きました。
ごちそうさまです。
そして俺達はクェス・アスダラス州の州立自然公園へと到着した。
クェス・アスダラス州の中心街から少し離れた場所に公園の入り
口があり、巨大なキャンプ場を超えるとサバイバルゲームに使用さ
れる大自然が広がっている。
キャンプ場には特設ステージが作られていて、お祭りの様に盛り
上がっていた。
プレイヤーやら出店やらがすでに立ち並んでいる。
俺達もキャンプ場にテントを張り、準備をする。
もしかしたら設営のチームプレーも見られているのかもしれない
ね。
468
完全にセバス任せな訳であるが。
特設ステージの上には大画面。
空にはスカイホエールがいました。
今回は撮影陣として運用されているのね。
もちろん、このイベントにもありましたよ。
来賓席。
いるいる。
目が合わないうちに退散しよう。
ステージからもっとも遠い位置にテントを張った意味がないじゃ
ないか。
まぁこの後教団の敷地に出向かなくてはならないので、身バレは
確実なんだが。
企画は運営、協賛がブレンド商会と中央聖都の教団である。
商会は設営を担っていて、教団は有志で大規模結界を張る役目を
担っているそうだ。ブレンド商会つえぇ。
と、言う事は絶対エリック神父は居るんだよな。
見てるんだろうな。
前回みたいに竜車は目立たなかった。
ランバーン
それもそのはず、走竜アップデートなんて呼ばれているものな。
そこそこのパーティ、ギルドが走竜種を手に入れている。
まぁ、それでもここまでディテールに拘った竜車を持っている人
は居ない。
469
人ごみを抜けて、教団の敷地へ向かう。
今回はエリーも一緒である。
とりあえず一発礼拝しとくか。
﹁あら、やっと来たのね﹂
礼拝堂にはマリア司書が居た。
挨拶を返そうとすると、エリーが前に出る。
﹁師匠、礼拝はしないのデスカ? 早い所すませまショウ﹂
﹁え、あぁ、そうだな。ちょっと待ってくださいね﹂
とりあえず、言われるままに礼拝を始める。
心がどことなく濁ったまま、俺はエリーに続いて目を閉じた。
フラウ
雪精霊を感じるな。
俺も聖書さんとクロスたそを浮かせる。
魔力を体全体から流し、空気中の魔素と馴染ませるように広げる。
お、エリー。
かなり魔力の扱い方が美味くなっているようだ。
でもな、俺の扱い方は邪道っていうか、真逆らしいぞ。
まぁエリーは魔法の適正もあるし、器用にこなしそうだな、
オラクル
こうしている最中も、信託を授かろうと努力をしているのだが、
依然として俺には神の信託は降りてこない。
エリーはその辺大丈夫なのかな。
今度教えておこうかな。
470
﹁⋮ただのドMかと思っていたら、思ったより凄腕の様ね、流石だ
わ﹂
礼拝を終え聖書を手に取ると、マリア司書が再度話しかけて来る。
相変わらず、その格好⋮。
エリーの視線が突き刺さる。
はい、すいません。
﹁私は誰よりも痛いのが嫌いな臆病者ですよ﹂
﹁死を克服した人が何言ってんのかしら﹂
﹁師匠、この人は誰デスカ?﹂
ハハッと笑い合った所で、エリーの声が突き刺さる。
なんか最近刺があるな。
一体どうしたんだか。
思春期特有のアレか?もしくは生理前か。
絶対言わないけど。
﹁あたし? 中央聖都の大教会で司書をやっているマリアよ。よろ
しくね﹂
﹁俺がこの間中央聖都に言って来た時に偶然会ったんだ。命の恩人
なんだ﹂
命の恩人というワードに少し赤くなるマリア司書。
まだ怒ってんのかな?
確かに驚かしたり、無礼な態度があったのは謝るけどさ。
471
もう良いじゃないっすか。
なんかエリーも物々しい雰囲気で、間に挟まれてる俺はすこぶる
落ち着かない。
﹁師匠はまた死にかけたんデスカ!?﹂
﹁あれ、言ってなかったっけ?﹂
﹁聞いてマセン! なんでそんな所に一人で向かうんデスカ!?﹂
いや、ハザードと二人だけど。とか言ったら、ソンナコトドウデ
モイイノデス!だと。
ぇえー。
因に死にかけたのは、別の事でだけど。
ややこしくなりそうなので、口にするのは辞めておこう。
﹁クボヤマ。この子は一体?﹂
﹁ああ、申し遅れました。エリーと言います。私の連れです﹂
﹁師匠の愛弟子デス。愛されてる弟子ですカラネ! 私!﹂
﹁おい、ちょっと﹂
﹁ふ∼ん。見た所、エルフの聖騎士って所かしら? 珍しいわね﹂
え?なんですかそれ。
ヒューマンですけど彼女。
﹁キィイイイイイイイ?????!!!﹂
472
金切り声と共にエリーがマリアの口を塞ぎながらを押し倒す。
お、おい!
そんなお前ら。
エリーは、上に簡易的な鎧を付けてはいるが下はスカートである。
対するマリアは、言わずもがな。
アレは雰囲気エロいじゃなくて。
全部エロい。
煩悩退散。
いや、神様は全てを受け入れてくれる筈。
人としての欲望に忠実である事も時には大切だと思う。
それを禁じる事自体が罪ではないか?
なんてひねくれた事を思う。
信託もそりゃ降りてこないわ。
今度滝に打たれてこよう。
パンチラしながら取っ組み合う二人を傍目で追いつつ。
俺は溜息をつくのであった。
﹁わ、わかったから。誰にも言わないから何もしないで頂戴⋮﹂
﹁フーッ! アナタワタシノテキ!﹂
ボロボロになりながら、初邂逅を果たした二人である。
473
まぁほっとこう。
途中でマリアは教団の大規模結界を展開する仕事が残っているの
で出て行った。
そして俺とエリーの間には未だ会話は無い。
ボサボサになった髪型のお陰で、少し回りから変な目線で見られ
る。
実に気まずい。
よからぬ事を回りから思われてそうで、怖い。
とりあえず、余計な詮索はしないで置く。
こっちまで襲われたら堪ったもんじゃないしな。
その後、サバイバルの開会式まで以外と色んな人から挨拶された。
サイン書いてくれとかは流石に断った。
俺をなんだと思ってるんだ。
エリーは律儀に書いていた。
髪ボサボサのアイドルがどこに居るんだよ⋮。
とりあえずだ、大体の説明は終った。
公式に書いてあった、リアルスキンモードプレイヤーも一時的ヘ
474
ルプシステム適用の項目。
倒したポイントが視覚化されたり、時間終了と共に開始エリアま
で自動的にテレポートされるマーカーを取り付けたりした。
ゲーム要素。
すごくワクワクして来たぞ。
ヘルプを念じると、画面が出て、マップとパーティの現在地が判
る仕組みだな。
因に、プレイヤー間の争いを激化する為に、レアドロップ強化モ
ンスターの位置も示されるようだ。
狩っている様に見せかけて、実は狩られている状況が出来上がる。
熱い。
裏の読み合いが起こるんだろうな。
リアル
ドロップアイテムに興味があるのはハザードとユウジンくらいで、
後は専らプレイヤーでも何でもこいといったテンションだ。
俺もテンションアップしてるぞ。
スキンモードプレイヤー
意外な事に、ワンデイヘルプシステムマーキングを付けに来るR
SMPが結構居た。
多種多様の布陣である。
普通のノーマルプレイと変わらない格好だったり、思いっきり農
民みたいな人や商人、猟師に漁師に様々である。
なんだかんだ、絡まないだけでRSMPはいるんだな。
知らない人とやり取りするツールがRSMPは無いから、念話は
可能だが、基本的に近くに居る人とのやり取りもしくは文通くらい
だったりする。
475
もっとこう、技術発展しない物か。
しないだろうな。
運営はきっとこう思っているだろう。
﹃勝手に作ってろ﹄
VRゲームについて色々と勉強を深めている訳だが、このRIO
はマジで他と違う。
その使用から何からだな。
マジでゲームなんですか?
って感じ。
でも、このワンデイヘルプシステムマーキング等を見ると、ゲー
ムって感じがするな。
まぁ勉強を深めていると言っても、そこまで深い所を進んでいる
訳でも無いので、有り体の事しか言えないし、あくまで個人的な見
解という独りよがりだと言う事だ。
さてイベントだ!
やれイベントだ!
それイベントだ!
プレイヤー達は、各パーティ単位ランダムで広大な自然公園内部
へと飛ばされた。
今回のサバイバルイベントの肝は、水場と食料の確保だ。
476
赤いマーキングで示されてないモンスターは基本的に食材モンス
ターと言った形で食べれる奴らばかり。
戦闘に熱中して体力が切れてしまうと、強制リタイアとなってし
まう。
まさにサバイバル!
赤いマーキングで示されているのは、レアドロップ強化モンスタ
ー。
かなり強いが、強さに応じてレアドロップ報酬有り。
もちろんポイントも貰えるが、優勝よりそっち狙いのプレイヤー
も多いだろうな。
緑が自分たちのパーティで、当然ながら敵パーティはレーダーに
は映らない。
ハザードは盗賊系や猟師系職の追跡がレーダーに何らかの影響を
与えないか心配していた。
敵が来たら餌と思え。
そう言う事だ。
ポイントレートはプレイヤー1人に付き1ポイント。
パーティ殲滅で10ポイント。
強化モンスターは強さに寄ってポイントが5ポイントの間で変化
する。
人数制限は一律6名。
それ以下でも以上でもない。
減ってしまったプレイヤーは、減点ペナルティ5ポイント払えば
477
その場で復活可能。
因にマイナス点数とかは無いので、どうにかして5ポイント獲得
しなければ復活は不可能。
全滅は失格。
取ったポイントをポーション、食料品に交換は可能な点が意地が
悪い。
後なんかあったっけな。
とにかく、スタートである!
478
サバイバルイベント︵後書き︶
この状況がめんどくさいなぁの溜息ではなく。
自己嫌悪の溜息ですから笑
479
初っ端から
一斉テレポートした。
場所は?
森の少し開けた場所である。
静かだな。
空気も澄んでいる。
ハイキング気分で深呼吸をした、その瞬間。
もの凄い爆発音と共に遠くの空に火柱が上がる。
﹁うそーん⋮﹂
﹁ノーマルプレイヤーでそんな威力のスキルあったっけ?﹂
﹁詠唱省略では出せない威力だ、多分アレは開始前のカウントダウ
ンで予め詠唱をしていたんだろう。もしくは強化モンスターだな﹂
俺が呟いた後に、ユウジンとハザードが答える様に返した。
火傷なら直せるが、火達磨直せるかな。
聖書が燃えたら終わりなんですが、
そう簡単に燃えない様にはしているけど。
﹁うっしゃ。燃えて来るぜ∼。じゃ、行って来まーす﹂
そんな事を言いながらユウジンは森の中に消えた。
そしてハザードもいつの間にか飛び立っていた。
セバス達は拠点設営と防衛に位置取りを開始している。
480
俺は残された。
おい、なんでだよ。
パーティプレイだろうどう見ても。
全滅のリスク拡散だって?
ふざけんなよ!
なんで回復職の神父を置いてけぼりにするんだよ。
セバスに聞いたら。
﹁クボヤマ様、守るの下手糞じゃありませんか。前回の準優勝者で
もありますし、ここは遊撃として立ち回ってください﹂
私達三人は拠点制作と守備向きですのでね。と、一言告げて消え
て行った。
なんなの?
ほんでエリー。
あたし知らないですからね!みたいな雰囲気出すの辞めろ。
俺はお前の何なんだ。師匠か。
パーティイベントだろコレ!
みんなで力を合わせてだろコレ!
なんだよもー!
ドゴーン。
バゴーン。
チュドーン。
そんな音が響いて来たので、一端絶望するのは辞めた。
パーティのポイントを確認すると。
481
既に55ポイントだった。
早速何パーティか殲滅させてる計算になるな。
1パーティ殲滅で16ポイントは入るからね。
このルールをよく考えれば、最後の一人を狩る事でハイエナじみ
た事が可能なんだよなぁ。
とりあえず、好きに動こう。
人が集まる所と言えばなんじゃらほい。
強化モンスターだな。
幸い近くに赤い目印がある訳で。
ってか、こっちに向かって来てない?
マジかよ。
オートヒーリング
﹁自動治癒!﹂
バリバリバリバリ!!!
自動治癒を発動させた瞬間、左から森の景観を打ち壊しながら巨
大な象が突撃して来た。
慌てて飛び退く。
体高は人の五倍以上。
482
牙は人並みの太さと鋭さを兼ね備えた白色が四本で、先っぽにプ
レイヤーの残骸と思われる革のベストと血痕がちらほら。
目は真っ赤に血走っている。
エンシャントヒュージ
太古の巨象・レッサー
﹃太古の大陸に存在した巨大な象。太古の眠りから強制的に起こさ
れたため、力は衰えている。普段は温厚だが、興奮すると目が血走
り、暴走する。暴走した巨象数匹で、一つの国が滅びた事がある﹄
おい。
おい!
強化モンスターじゃなくて最強クラス格下げじゃねーか!!
こんなの相手に出来る分けない。
すぐさまユウジンとハザードを応援で呼ぶ。
﹃ヘルプミー! ヘルプミー!﹄
﹃どうした? こっちは忙しいぞ﹄
483
﹃こちらも忙しい﹄
﹃知ってるよ! とにかくお前ら戻って来い! 最強級のモンスタ
ーに遭遇したんだけど! こっちは死にかけてるんだけど!﹄
﹃いや、お前死なねーじゃん﹄
﹃モンスターは5Pまでしか貰えないからな、価値が薄い﹄
﹃多分ドロップは古代系だと容易に予想できるからいいから早く来
い! パーティ戦だろうが!﹄
ハザードにも思わず敬語を使わず、ユウジンを相手にしている時
の様に接してしまう。TPOだ馬鹿!
んな事行ってる場合か。
古代系ドロップだと聞いて、二人は暢気に﹃ならいく︵いこう︶﹄
と返事すると緑色のマーカーが俺自身を示す青マーカーに接近して
来るのが見えた。
この調子だと後3分もしないでどちらもたどり着くだろう。
3分か。
早いんだろうが、今の俺には遅く感じる。
フォール
﹁降臨! コーティング!﹂
全ステータスが俺の過剰なMND値に底上げされる。
セイントクロス
打つかり稽古をする気は無い!
足狙いの直火当て聖十字だ。
484
狙うのは後ろ足。
前足外した時、後ろ足で踏みつぶされるのは流石に嫌でしょ。
人間、限界を超える様な動きをすると、急に回りが遅く感じる様
になるよね。
思考やら何やらが加速する感じ。
多分それだろうな。
上下左右縦横無尽に暴れる牙と鼻を身体を捻る様に飛び込んで躱
す。
頑張れ俺の関節。捩じれろ、縮まれ。
なんとか抜ける。
その後は前足だ。
無理だ。
目の前にあった。
セイントクロス
﹁聖十字!! ングっ⋮!!!﹂
腕が折れてしまった。
いかんな、蹴り飛ばされただけで360度ボキン。
皮は完全におじゃん。
腕の腱と筋だけで繋がっている様な状態。
オートヒーリング
自動治癒が直してくれる。
しばらく掛かりそうだな。
呪い、毒物系はまだ良いのだが、こういう物理的損傷の治りが地
味に遅い。
485
そりゃ、部位欠損ペナルティが発生しない様に段階を踏んで聖書
さんが直してくれてるからなんだけど。
巨象、遠心力に振られながらも方向転換をする。
こっち向いてる。
完璧俺ターゲットなんだよな。
セイントクロス
何もして無いのに。
因に直火当て聖十字は、硬い皮膚に少し焦げ目を入れただけだっ
た。
オーマイゴッド。
俺は蹂躙されるのか。
生き返るかもしれないけど、一応コーティングしておこう。
最悪、ヌルっと隙間を縫ってな。
﹁ディメンション・百年砦の城壁﹂
俺と巨象の間を分つ様に巨大な城壁が姿を現した。
そのあまりの質量は、凄まじい衝撃を上げながら大地にめり込ん
で行く。
木の根とかおかまい無しだな。
﹁ッわっぷ! 土まみれだよ!﹂
﹁死ぬよりマシだろう。む、クボ逃げろ。抑えきれない﹂
血が上った巨象には、迂回するという選択肢は無いようである。
突進を繰り替えし、巨大な城壁はヒビが入り今にも砕けてしまい
そうだった。
486
﹁ちょっと腕の治療中で素早く動けないんだけど!﹂
タイミング悪しである。
ハザードは空に居るからな。安全圏だろう。
巨象が突進しながらハザードを見上げて喉を鳴らした。
まさに強者の風格だろう。
種の歴史から、なにから、俺達人間とか格と言う物が違う。
それを感じさせる咆哮だった。
思わず身体が硬直してしまう。
すぐに聖書が打ち消してしまうが、アレはマンドラゴラの鳴き声
の遥かに上位のスキルなんだろうか?
リージュア
賢鳥が魔法陣に消える。
強制的に帰らされたのかな。
ハザードは落下するが、ギリギリで浮遊の杖に掴まっていた。
ずっと浮き続けるだけの杖だっけ。
そのまま、百年砦の城壁をぶっ壊した巨象がまた吠える。
今回は自動治癒をハザードにも掛けている。
それはもう効かん。
だが、為す術が無い。どうする。
﹁俺も知らない魔物だな。質量でせめて来るならこっちだって考え
があるぞ﹂
﹁ど、どんな⋮?﹂
487
﹁それを超える質量で対抗するのみだ﹂
本気で言ってんのかコイツ!
さっき凄そうな名前で凄い感じの盾出して、それ破られたばっか
りじゃん。
﹁いや、良いアイデアだぜ! だが先に部位破壊と行こうじゃない
か﹂
横から割って入って来たのはユウジン。
巨象の片側の牙を全部切り落としながら言う。
今にも突進して来そうだった巨象がたたらを踏む。
ナイスユウジン!
﹁遅いぞ!﹂
﹁まだ5分も経ってねーよ﹂
されど5分である。
5回は殺されてた自信がある。
パーティの攻撃の要がそろった。
遊撃を担当する俺達前衛な訳だが。
前衛の中でも役割が別れていて。
まぁ判るだろう。
ユウジンが前衛︵至近距離︶。
488
ハザードが後衛︵近距離︶。
俺が回復︵超至近距離︶。
超攻撃的なのである。
それぞれのリーチに沿ってだな。
距離感と言う物はシビアに定められているんだぞ?
フォール
動いていない物だったら運動エネルギーなんぞカス同然だ。
俺は降臨の出力全開にして像の最初に傷つけた前足にしがみつく。
﹁うおおおおおどっこいしょおおおお!!!﹂
関節をぶん殴り、折る。
足かっくんの要領だな。
つい
だが、その際余波に巻込まれて俺は潰される。
ドワーフ
﹁ディメンション・炭坑族の槌×2﹂
膝をついてバランスを崩した象の顔面。
未だ健在のもう片方の牙に向かって縦に重なった巨大な石柱が飛
来する。
バギンバギンバギン。
絶大な質量兵器だな。
十分な位置エネルギーを蓄えた石柱は容易く巨象の牙を圧し折り、
その勢いのまま像を転がしてしまった。
折れた勢いで前転。
生き物の弱点である腹がむき出しになった状態で、鬼火力を誇る
ユウジンにバトンタッチされる。
489
﹁鬼闘気。鬼神の一撃﹂
全身から吹き出る湯気と共に、茹で上がったタコの様に真っ赤に
あまはがね
てんとう
なった彼の身体から鬼神の如き一撃が見舞われる。
それは神鉄から出る天鋼で打たれた名刀−天道−も相まって、巨
象の腹は、あれだけ頑丈だった皮膚は、いとも容易く斬り裂かれた。
弱点特攻の割には、内蔵は無事なんだからな。
驚くべき程頑丈な魔物だった。
ドロップアイテムがポップした。
﹃太古の象牙×6 部位破壊報酬﹄
﹃太古の巨大骨×3﹄
﹃太古の象皮×3﹄
エンシャント・メモリー
﹃完熟した巨象の肉×一塊﹄
サモン
アドロイ
﹃太古の記憶×1﹄
﹃召喚・白象﹄
﹃巨象の咆哮﹄
一杯ドロップしたな。
均等に分けれるのが半分と。
肉塊、これは置いといて良いや。
エンシャント・メモリー
サモン
アドロイ
﹃太古の記憶×1﹄
﹃召喚・白象﹄
﹃巨象の咆哮﹄
490
この三つどうする。
アドロイ
エンシャント・メモリー
でもなんとなくみんな欲しいのは散けてるよな。
﹁⋮わかってるよな?﹂
﹁ああ。大体察しはつく﹂
﹁じゃ、せーので言おうぜ﹂
ユウジンがせーのと言う。
エンシャント・メモリー
サモン
﹁太古の記憶×1﹂
﹁召喚・白象﹂
﹁巨象の咆哮﹂
はい、散けました。
因に俺は絶対余りものになるであろう﹃太古の記憶×1﹄を選ん
でいた。
なんでかって?
消去法だよ。
確実に、召喚を選ぶのがハザードだろ。
ユウジンもハザードが確実に選びそうな物は流石に選ばないだろ
う。
よって二択な訳だが、太古の記憶なんて興味ないだろ。
これで決めうちだ。
部位破壊も、止めも決めたのは彼等だ。
彼等の隙に選ばしてやるんだ。
491
エンシャント・メモリー
さてさて﹃太古の記憶×1﹄って一体なんなんだろうね。
まぁそれは後でも良いか。
騒ぎを聞きつけたプレイヤーが集まって来た。
疲労した所を狙うハイエナ共だな。
ドロップ品はイベントが終わってからゆっくり調べてみよう。
コレはもしかしたら俺の求めてる物かもしれないしな。
492
初っ端から︵後書き︶
﹁クボヤマ様って、基本死にかけるじゃないですか? 逆手に取っ
て全てのリスクをあの方に背負って頂く法則ですよ。フフフ。LU
K0は伊達じゃないですよね﹂
と、執事姿の男が呟いてました。
ドロップアイテムなんて、クボヤマ以外は久しぶりの感覚なんじ
ゃないでしょうか?多分そうでしょう。
巨象の想像は、ロードオブ○リングの﹃オリファ○ト﹄を参考に
お願いします。
493
サバイバル夜の陣
一人遊撃継続中です。
ユウジンもハザードも移動が早過ぎてついて行けませんでした。
ステータスの差をひしひしと感じました。
さてと、時刻はそろそろ夜である。
夜だからセーフティーエリアでキャンプ待機?
のんのん。
何の為に食料になる魔物が居るんだ。
何の為にこんな広大な大自然を使っているんだ。
もちろん夜もサバイバルは続きます。
ルールには至って変更無し。
ただ、レアドロップの魔物が夜専用にチェンジするくらい。
夜行性とかあるのね。
日が暮れてからが本番である。
噂によると、PKギルドが参加しているみたい。
PKという単語を聞くと、初めてのログインを思い出すな。
ノーマルプレイヤーからかけ離れた行動ばかりを取っていたから、
PKに遭遇する事は無かったが、色々な国の役所の掲示板にはプレ
イヤーと思しき人の指名手配書が張られていた所を思い出す。
あのプレイヤーはどうなったんだろうな。
俺を刺した奴。
別に気にしちゃいない。
494
ゲームの厳しさを一番最初に教えてくれた恩人だからね。
傷を負っていたら直してあげるくらいの心の広さはある。
ただし、俺だけだけどな。
さて、夜営である。
三人が固まって表示されているマーカーの場所へ向かう。
とりあえず、小動物の魔物を道中狩っておく。
今日の夜飯だ。
﹃ネイチャーバーベキューラビットの肉:イベント専用﹄
﹃ネイチャーバーベキューバードの肉:イベント専用﹄
﹃ネイチャーバーベキューピッグの肉:イベント専用﹄
﹃ネイチャーバーベキュー⋮﹄
昼に動いたら夜はキャンプだ!
ってことですか。
お酒の準備はあるんですか? ギ○スが飲みたい。
二十歳になって初めて、自宅近くのアイリッシュバーに一人でお
酒を飲みに行った事があったな。
カウンター席でいきなり話しかけられたかと思ったら、お前初め
てなの?って聞かれて、あれよあれよと知らないオッサンにフィッ
シュ&チップスを勝手に注文されて食べさせられた経験がある。
まぁ美味しく頂けた、引っ越してその店には行かなくなったが今
でも営業してるんだろうか。
話しがずれたが、俺の口は既にバーベキュー状態である。
ってか、新たな要素を発見した。
495
﹃ネイチャーウッドの落とし物を拾いました﹄
普段は流れないログだけに、この表示を見るだけでも楽しい。
スポットって言うのがあるのかもしれないが、割と大きめの傷が
入った木の根元に茂っている草。
ネイチャーウッドの新芽だとか。
山菜としてバーベキューの飾りにならないかと思って毟っていた
ら、奥の方で見つけた。
﹃ネイチャーウッドの落とし物を拾いました﹄
光る握りこぶし大の種なんだけど。
拾って中を割るとだね。
﹃種がネイチャーコーンに成長しました﹄
トウモロコシになったよ!笑
他にもネイチャーオニオン、タマネギだな。
長ネギ、キャベツ、レタス、トマトと言った風に、色々な野菜に
変化するのである。
若干トウモロコシの出現率が多い所を垣間見ると、どう見ても運
営は俺にバーベキューをさせたいようだ。
ああもう。
早く帰ってバーベキューしたいのだが、まだ見ぬ食材ドロップが
俺を待っているのだろうか、そう考えるとついつい新芽をかき分け
る作業をしてしまう。
よし、もうちょっとピーマンと長ネギをドロップさせてから戻ろ
う。
496
この時は忘れていた。
ギャンブル中毒に落ち入ってしまった、奴がついつい次に懸けて
ベットをし続けてしまう様に。
この木に大きな傷を付けた本人が現れるまでな。
ネイチャーガードスタッグ
大自然の守り主・憤怒
﹃州立自然公園の主。自然を支えるネイチャーウッドを守る牡鹿。
その森を荒らす物が居ると激昂し、姿を現す。怒れば怒る程その肉
は熟成されて美味くなる。さらに、幼体をリラックスしてる時に即
死させた肉は世界十指に入る程。※イベント期間中につき状態が1
段階上位変化中。﹄
鋭い角を持った巨大な鹿が、またも怒り狂いながら姿を現した。
正直言ってすいませんでした。
野菜はお返し⋮できませんがどうか神に免じてそのお怒りをお鎮
めください。
マジで。
497
突進して来た鹿の角はいとも容易くその辺の木を削り飛ばす。
マップを定期的に確認するのを忘れていた。
そして魔力探知もだ。
完全に野菜の亡者でした。
ええ、まったく。
畜生!俺はバーベキューするんだ。
お前も食材にしてやる。
フォール
﹁降臨! コーティング!﹂
バーベキューをするんだ。
真正面から突進して来る鹿の角を厚めのコーティングを施した手
で掴む。
象に比べれば圧倒的に軽かった。
それでも人の3倍近くはありそうな巨体。
木を角で抉る程の力を持っている鹿だがな。
﹁鹿肉! うおおおお﹂
バーベキューをするんだ。
基本的に獣は踏まれると骨が潰れかねないので、顔中心に打撃を
与える。
鹿の角を正面から受け止める。
素晴らしい、突進が止まったのだ。
靴から摩擦で煙が出ているが、気にしない。
象戦で成長したのかな?
498
だが、鹿さん頭良い。
ちょっと感動していたら、身体を下から掬い上げられた。
空を舞いそうになるが、角を掴んだままだったので鹿の上に綺麗
に着地する。
若干股間にダメージを負ってしまったが死ぬより痛くないから無
視。
着地の瞬間、手に持っていた角の先っぽが折れた。
木を抉る程の角だぞ。それが折れる衝撃を股から全身に感じた訳
だ。
聖書さん頑張ってくれてる。
マジで。
考え出すとじわじわと無視できない痛みが広がって来そうだ。
決着は容易い。
折れた角が幸いした。
背中に乗っているのでいくら暴れたってしがみついてれば落ちな
い。
巨大ロデオだ。
頭の方まで近づくと、耳に向かって角を差し込んだ。
鹿の巨体がビクンと一瞬震えた後、倒れた。
﹃大自然の鹿肉・熟成 一頭分﹄
サモン
ドリュー
﹃守り主の角・部位破壊報酬﹄
﹃召喚・大鹿﹄
499
ドロップアイテムである。
食材モンスターなので、一頭分表記という事はまさしく全部位が
食べられるのだろうか。
まぁ解体必須なのだろうが、慣れているしいいか。
鹿肉が手に入りました。
ローストとかステーキもしくはワインで煮込むといい。
セバスにご要望しなければ。
野菜も大量にあるしな。
野営地にたどり着いた。
川から少し離れた位置である、ハザードもユウジンも既に戻って
来ていた。
お腹が空いたんだろうな。
あいつら、戦闘装備以外持たない様な奴だしな。
ハザードは自分で作った何かの薬草と木の実を煮て混ぜて濾して
乾燥させて固めた固形物を食べていた。
鑑定すると﹃賢人の非常食﹄とでる。
だから何なんだよそれ。
本人も栄養価はカロリーメ○トとほぼ変わらないらしいが、味は
糞マズいと言っていた。
そして残り汁は苦酸っぱマズい感じの青汁になる。
ハザードは俺らと会う前、一人旅の時はもっぱらコレで過ごして
いたらしく、セバスの料理に感激していた節がある。
でも今でも炭酸で割ってログイン一発目に飲んでるんだって。
特殊なバフでもあるのかな。
どう見ても青汁健康法です。ありがとうございました。
500
川を挟んでテントを張る人達がちらほら見える。
向こう側にも渡れるのね、知らなかった。
川から少し離れた位置に俺らのテントはあった。
流石ですセバス。
何人かがキャンプファイヤーをやろうと丸太をくみ上げている最
中でした。
バーベキューコンロは5台ほど設置され、椅子もテーブルもフル
で準備されている。
あれ?なんだか人多くない?
﹁よ∼神父。今夜はごちそうになるぜ﹂
知ってる声が声を掛けて来る。
ロバストさんでした。
﹁奇遇ですね。やや見知らぬ顔が多い様ですが﹂
﹁ああ、すまねぇな! こいつらギルドのメンバーだよ﹂
辺りで寛ぐプレイヤー。
みんなリヴォルブのギルメンなんだとか。
﹁この辺じゃ色んなギルドが夜は不戦条約を結んでPKギルドに備
えてんぞ﹂
話しを聞く所。
裏掲示板なる所で、PK集団も日頃の鬱憤を腫らす様にこのイベ
501
ントにて合法的に人を狩れる日を心待ちにしていたんだとか。
で、昼活のプレイヤーが寝静まった頃を見計らって奇襲を仕掛け
て嬲り殺そうぜという祭りが怒っているらしい。
どこまでも危険な連中だな。
集団襲撃に抵抗する様に、集団自衛へと正規の掲示板の方でも発
展して行った方だ。
﹁ようするにプレイヤーズサブイベントってこったな﹂
有志によるイベントと化しているんだと。
まぁ勝てばポイントになるしな、負けてもパーティが機能してい
れば復活できるし、普段からPKが横行するよりもいいんじゃない
でしょうか。
ガス抜きは大切である。
﹁要するに、時間まではバーベキュー大会ってことですね﹂
俺はセバスを呼び、大自然の鹿肉・熟成を見せた。
皆の衆!
今夜は肉だ! 野菜だ! バーベキューだ!
大量に野菜を取って来て良かった。
大盤振る舞いである。
たまたま運営が貸し出してるバーベキューセットを持って来てい
る人も含め。
バーベキューは更なる盛り上がりを見せ始めていた。
川では漁師が魚を釣る。
502
なんと、釣王も参加していた。
魚を提供するから肉をヨロシクだって?
構わんとも!
釣王に神のご加護があります様に。
祈りを捧げると何やら複雑そうな顔をしていた。
俺のとなりで肉をハムハムしている。
装備にライフジャケットを着ているだけなのに。
愛玩動物的な可愛さがある。
それが人気の秘密なのかもしれないな。
もう隣では、エリーがせっせと肉を焼いて俺の皿に装っていた。
妻かよ。
女子力アピールも良いが、せめて鎧をしっかり着てくれ。
いつ奇襲が始まるかも判らない状況で、あの時の青いドレスをき
るんじゃない。
指定時刻より大分早い時間である。
俺、ユウジン、ハザード、釣王のみが微かな変化に気付いた。
俺の薄く広げてある魔力に何か入った。
ユウジンも俺にアイコンタクトを送ると、俺の感じた方向と同じ
503
方向を向く。
ハザードは﹃クロウ﹄を召喚し、既に飛ばしていた。
ちょんちょんと俺の袖を引っ張る人が居る。
釣王である。
﹁網に何かが引っ掛かったみたい。PKかしら、イベント開始かも﹂
504
サバイバル夜の陣︵後書き︶
﹁あ、イベント対岸だった、ワタシそっちいくね﹂
そう言って、釣王は船を出現させ対岸のあの憎い神父達の騒ぐバ
ーベキュー会場へと向かっていた。
俺達がせっかく用意した釣王ファンクラブキャンプを捨てて。
俺は、この一瞬だけPKになる事を誓った。
更新遅れて申し訳ないです。
12月14日まで仕事で多忙なので、一日1更新を守れない日が
続くかもしれません。
それでも時間が空けば複数回更新は隙をついて行きますよー。
目指せ年内60話。
505
ゴタゴタ。
釣王の向く方向は川。
まぁ、川を使った奇襲は有り得るよな。
背水の陣なんかではない。
全方向から襲って来る敵を迎え撃たなければならない訳で、当然
川からの攻撃にも備えなくては行けない。
﹁任せてくだサイ﹂
エリーが前に出る。
青いドレスのままで。
フェンリル
そのドレスは自信を表しているのか、それとも着替えるのが面倒
なだけだろうか。
隣に悠々と立つ氷精霊を従えるその姿は、美しかった。
﹁フェン、川を凍らせてくだサイ﹂
フェンリル
フラウ
氷精霊が水面を駆ける。
雪精霊も舞う。
水の上を凍らせて疾走するフェンリルは口から凍える息吹を吐く。
川から悲鳴が聞こえて来る。
あ、やっぱり居たのね。
思ったより数が多かった。
﹁あれ、ワタシのファン達﹂
506
何してんだよ。
下半身氷漬けの野郎共を尻目に川を渡り始める。
雪精霊の加護によって、滑らない仕様だ。
﹃ぢぐじょおおお﹄
﹃ああああ ああああ﹄
﹃糞神父ぅぅぅぅ﹄
﹃俺らのアイドルを尽くぅぅうう﹄
そんな声が聞こえるが無視しよう。
釣王とエリーが次々と仕留めるその光景は、何とも言えない物を
感じた。
良いのか?ファンだろ。
﹁おかしいデス。みんな喜んで止めを刺されてくれマス﹂
SMイベントかよ。
お前ら、それで良いのかよ。
野郎共から馬鹿共に格下げである。
﹁リアルスキンモードってフリーダムね﹂
凍った川を見回しながら釣王がボソッとささやく。
﹁ええ、素晴らしい世界ですよ。いかがですか?﹂
﹁痛覚100%なんでしょ? 割に合わないわ、アタシ痛いの嫌な
のよね﹂
507
氷の上を走って来る第二陣を投網スキルで拘束して行く。
漁師ジョブを目の当たりにするのは実際初めてなんだが、トリッ
キーで面白いな。
本来ならば、海上︵水面︶でのステータス補正が強い職らしいの
だが、まぁプレイヤースキルによって評価はマチマチだ。
武器を持っても使い手がお粗末だったら何の機能もしないのと一
緒である。
ってか女の子が釣王だなんて、最初はネタかと思ったんだがな。
﹁ネタだったわよ。でも意外と奥が深いのよね、漁師って﹂
﹁養殖とか興味あります? 実家でフグとハマチをやってまして﹂
﹁ほんと? でもノーマルプレイでやるわ、ゲームの世界でも臭い
の嫌だもの﹂
そんな事を話しつつ、俺達は凍った川を渡って行く。
ほう、海洋産業には興味あるのね。
次の目的地が決まりました。
是非行きましょう、海。
未だ陸続き出しな、この世界の海を見に行こう。
期待が膨らむ。
ビーチだよ?
可愛いねーちゃん達は居るか判らないけれど、期待は膨らむよね。
おっと、段々祭り騒ぎから本格的な戦闘に動きが変わって来る。
白熱して来たな。
この中にガチPKとして活動してる人は居るのだろうか。
508
徐々に会話の余裕が無くなって来る。
剣をクロスで弾く。
飛んで来る矢を素手で掴むのは無理なので、刺さった瞬間引っこ
抜く。
痛覚100%だったっけ。
ぶっちゃけると、痛みを感じなくなっている。
これは聖書さんのお陰だろうか。
流石です。
俺は神父職に身を委ねているが、コレは本当に神父なのだろうか。
流石に心配になって来るよ、エリック神父。
﹁師匠、フェンが何かを嗅ぎ付けました乗ってください﹂
エリーがフェンリルに乗って駆けて来る。
行こうか。
ここは釣王達に任せよう。
匂いの正体は魔物。
夜専用のイベントモンスターか!
ちなみにパーティと戦闘中だった。
﹁誰だ!?﹂
身を隠してみていたが、すぐに気付かれてしまった。
覆面で顔を覆った男は余程感が鋭いらしい。
509
﹁ったく、馬鹿共が騒いでる間に夜専のイベントモンスター狩りと
洒落込んでたのにな﹂
そう言いながら赤髪で黒服の男は走り出すと赤目の大蛇の首を両
断した。
﹁誰かと思えば、クレイジー神父じゃないか?﹂
赤髪の男はニヤつきながら話しかけて来る。
肯定すると、隣は姫騎士のエリーかと覆面の男が呟いた。
﹁あら? 剣鬼のユウジンは居ないのか?﹂
﹁ああ、彼は生憎イベントで走り回ってましてね﹂
﹁昔っからお祭り好きだからな∼﹂
﹁知ってるんですか? 彼を﹂
﹁昔何度かやり合ったよ﹂
そう言うと、赤髪の目つきが鋭くなり舌なめずりをする。
ちょっとぞくっとした。
﹁アナタ達はプレイヤーキラーデスカ?﹂
エリーがぶっ込んだ。
根性あるお前。
﹁ん? あんな馬鹿共と一緒にすんな。ちょっと世界が厳しいだけ
510
で半端にPK諦めやがって、何が祭りだ、こっちだって美学っても
んがあんだよ﹂
赤髪がうんちくを語り始めようとした時、覆面が押しとどめた。
そんな時間は無いんだと。
﹁ああ、わかったよ。俺に指図すんな糞ボケ。あ、ユウジンにヨロ
シクな。名無しの赤髪がてめぇらを殺しに行きますよってな﹂
そう言いながら彼等は闇に消えて行った。
一体なんだったんだ。
落ち着いたらユウジンに尋ねてみよう。
さて戻って来ました。
大混雑です。
遠くから見ても、混戦状態です。
キャンプファイヤーの炎が崩れて辺りに燃え移ってました。
﹁セバスは大丈夫かな﹂
﹁ここに居ますよ﹂
すっと後ろから姿を現したセバス。
驚かすなよ。
511
こいつ、日に日に気配を消す技術が上達している。
﹁あれはどうなってんの?﹂
そう尋ねると、セバスは話し出した。
なんとも、勝利条件を決めていなかったんだとか。
終わり無い終わり無い戦いがここに。
﹁普段から中の悪かったギルドやグループが争ってるらしいですよ﹂
うわ∼。
巻込まれたギルドはたまったもんじゃないな。
既にPKどころじゃないらしい。
初めのあの雰囲気はどうしたんだよ。
﹁お前達は参加しないのか?﹂
リージュア
ハザードが賢鳥に乗ってやって来る。
﹁参加も何も、ただポイントを浪費して殺し合ってるだけじゃない
か﹂
﹁確かに﹂
どうしようか。
この状況。
﹁どうすればいい? エリー﹂
何故この時、エリーに振ってしまったのか判らない。
512
ただ、この判断は後々多大なバッシングをくらい。
俺のあだ名がしばらく糞神父になる所だった。
﹁ナラバ、全てヤっちゃいまショウ! 師匠!﹂
﹁いや、そうじゃなくって﹂
﹁上から四元魔法ぶっ放すか?﹂
﹃大規模魔法ですか、検索致します。4件ヒットしました﹄
﹁ですって∼﹂
﹁お前ら!!! ちょっと待って!!﹂
止めた甲斐は無かった。
ハザードと共に賢鳥に乗った二人。
﹁空陣を組め四大元素の杖、波動の杖を介して発動せよ”四元の魔
波動”﹂
﹁フェン、ブリーザード﹂
513
﹁ウィズ、上級魔法から適当に選んじゃって﹂
﹃一網打尽ですね、フェンリル様とハザード様に干渉しない様に雷
系の上級呪文を発動させます。ラピットライトニング﹄
うわああああああああああ!!!
俺知らないからな!!!
火・風・水・土の四大元素が魔法陣によって統合され、波動の杖
と呼ばれる物を介して波動になって押し寄せる。
要するに熱風吹き荒れる熱せられた泥水が豪雨の如くドバドバド
バっとプレイヤーを埋める。
その中を空から稲妻がほとばしる光景は、まるで異常気象だ。
やばい、やばい。
その合間をフェンリルが駆けたと思うと、凍っていたり。
﹁ハハハ。面白い様にポイントが増えて行きますね﹂
おいセバス、お前も軽くトランスしてるんじゃないよ。
数値が異常だよ!
ポイントが2000を超えた!
514
フォール
こ、これ以上増えるのを放置するのはマズい!
俺は聖書とクロスを掲げて降臨状態に移行すると異常気象の中を
駆け出した。
凍った人の中にユウジンが居た。
消えていないだけ、彼のHPの高さが窺える。
オートヒーリング
﹁自動治癒!!!﹂
ってか、死屍累々なんだけど。
あれはロバストさん!
﹁おい、神父てめぇ⋮これは一体⋮﹂
﹁違うんです。これはハザードが全部悪いんです﹂
﹁な、なに⋮? ハザードの奴⋮すげぇやつになっちまったな⋮﹂
﹁そうなんです! 全部ハザードがすごい魔法使ったんですロバス
トさーん!!﹂
ロバストは光に包まれて死んで行った。
ってかあの堅いロバストさんすら耐えられないとか。
あ、物理ダメージじゃないもんな。
浸食的なダメージなのかもしれない。
515
冷静に分析してる場合じゃない。
俺はひたすら走った。
エリーとハザードと凪には拳骨だ。
マジで。
516
ゴタゴタ。︵後書き︶
そう言えばですが、ハザードの格好はド○クエVの主人公を意識
して頂ければ近いかと。
断じて話しの展開がどうすれば良いか思いつかずごちゃごちゃに
した訳じゃないので。
まじで。
517
一炊の夢
サバイバル戦は無事終了した。
いや、無事じゃないな。
優勝候補の一画であったギルド﹃リヴォルブ﹄一軍のまさかの全
滅である。
堅い事で有名だったロバストさんも真っ青の異常気象により、あ
の区域に参加していたプレイヤーは壊滅的な打撃を受けていた。
俺の治療が間に合わずして全滅してしまったプレイヤーも多数居
る。
詳しい内容を知らない人、もしくは乱戦時を観覧していた人以外
バトルジャンキー
は俺の事を恩人として感謝してくれているらしいが、一部では︻G
Oサインを出した本人︼として戦闘狂神父から暴虐神父として大変
ヴァイオレンスなあだ名がついてしまった。
でもさ、あの乱戦だ。
敵と味方の区別すらつかない状態に落ち入ってたんだ。
仕方ないよね?
もう開き直るしか無いのである。
ははは。
まぁそれはさて置いて、少しあの乱戦以降の話。
例の区域でサバイバルするプレイヤーが激減した事となんか精神
的に疲れてしまった事によって俺はテントに引きこもってひたすら
祈り続けた居た。
いざという時の聖書さんである。
さすが一番長い付き合いなだけあって、俺の心を癒してくれるの
518
は彼女だけだ。
一緒に祈ろうとするエリーには出て行ってもらった。
今回の元凶はお前達だ、反省しろ。
夕食のバーベキュー以外は絶対でないからな。
エンシャント・メモリー
﹃太古の記憶﹄
サモン
ドリュー
﹃守り主の角・部位破壊報酬﹄
﹃召喚・大鹿﹄
引きこもってひたすら祈り続ける合間。
今回のドロップアイテムについて頭を働かせていた。
あ、いつの間にかですがね、片っぽの頭で聖書を読み上げながら、
もう片っぽの頭で普段の思考が出来る様になりました。
カッコいい言葉を使うと同時並列思考って言うのかな?
元々リアルでも複数の事を同時進行するのが得意だったので影響
しているのかもしれない。とりあえず聖書さんのお陰ってことにし
とく。
御都合主義だが、俺の思考の片っぽは常に聖書さんだってことだ。
一心同体である。
んで、ドロップしたものなのだが。
エンシャント・メモリー
太古の記憶
519
エンシャントヒュージ
﹃太古の巨象の抱える記憶。神時代を悠々と生きるこの巨象と共に
生きる人々の思い出が込められている。※レッサー化していても持
つ記憶は変わらない﹄
この光の球、なかなかのレアアイテムの予感である。
使い方は判らないがな。
ネイチャーガードスタッグ
守り主の角・部位破壊報酬
﹃大自然の守り主の角先。滅多に折れる事の無いそれは、粉末にす
れば守護霊薬の材料でもあり神事の媒体でもある。煮詰めても良い
出汁が取れる。縁起のいい物であるためLUK値に%補正が掛かる﹄
なんつーか、凄く良いものだと言う事は伝わった。
煮てよし、挽いてよし、奉ってよし。
あのアホ賢人が喉から手が出る程欲しそうなアイテムである。
とりあえず煮詰めて出汁を取ったら砕いて粉末を鍋に投入して煮
こごりみたいにして鍋で奉ってやる。
くそが。
ドリュー
こんなもん使い方知らねーよ。
サモン
召喚・大鹿
﹃大鹿のドリューを召喚できる。のんびり屋で寒さに強い。頑強な
角での一撃は脅威。草木の成長を促す魔法が使える﹄
初めての召喚魔法です。
ノーマルプレイヤーモードでは、魔術系職の中に召喚師と呼ばれ
る召喚魔法を扱う職業もあるらしい。
あのアホ賢人も好んで使っているのが、この召喚魔法と空間魔法
520
である。
四大元素魔法の他に光と闇の対極魔法。
雷、氷、木などの上位属性魔法。
そのどの属性にも属さない魔法が無属性と呼ばれている。
召喚魔法と空間魔法はその立ち位置だ。
ちなみに俺は別名神聖魔法と呼ばれる光属性に適性がある。
対極魔法はINT値ではなくMND値依存のある少々特殊な魔法
なわけで、僧侶職や闇系魔法職はMNDもきっちり上げないといけ
ないんだとか。
だからってINTが入らない訳じゃな。
リアルスキンモードは振れないから、地力で鍛えるしか無いんだ
が。
鍛え方をミスった俺は、事実上INT値が絶望なわけだ。
だが無属性魔法はINT値とMND値がどちらも考慮されるらし
い。
魔力を扱う事が出来れば誰だって扱える魔法なんだとか。
俺の魔力量はかなりある。
召喚魔法を取得する事に寄って俺の戦闘の幅は更に広がるんじゃ
なかろうか。
そう思って練習してみたんだけどね。
いくら頑張っても大鹿は来てくれませんでした。
流石にコレはちょっとショックだった。
521
ハザードに相談してみた所、アウトプットがお粗末だから召喚門
の大きさが足りないんだとか。
結局INTじゃねーか!
なんて叫びたくなりました。
無属性魔法の適正すら無いのか、やっぱりトコトン才能無いんだ
な。
セバスにあげた。
彼曰く﹁家庭菜園がハマります﹂だそうだ。
勝手にしろ。
そして俺は狂った様に鍋で角を煮込み始め、十分に出汁が取れた
頃、巨象の骨を使ってごりごりと砕き潰し、鍋に投入。
さらに煮込み始めた。
もちろん祈りながらな。
その間、誰かが俺のテントを開く音がして、そっと閉まる音もし
た。
どっからゼラチン質が出たのかしらんが、次第にドロドロとして
来た。
よし、十分に冷やしたら神の煮こごりと呼ぼう。
浸してる間はもうふて寝する事にする。
今日はダメだ。
522
私は見ました。
彼の引きこもるテントが光り出したのを。
ブツブツと呟きながら何かの骨でごりごりと何かを砕く姿。
見ている世界が違うんだと錯覚しましたね。
それとも、数々のストレスが彼を変えてしまったのか。
いや、彼の精神補正と回復力は尋常じゃないですからね、放って
おけば収まるでしょう。
原因の一抹はこちらにもありますから、今日もバーベキューを用
意して彼のご機嫌取りをお嬢様としなければなりませんね。
523
目が覚めると、平原だった。
スカイ・ホエール
背の低い草を風が撫で、波打つ様にして爽やかな音を響かせてい
た。
空を見上げる。太陽が凄く近い。
適度に雲が散らばっており、その雲の間を縫う様に、沢山の空鯨
達が群れをなして悠々と泳いでいる。
スカイ・ホエール
時折、空鯨達の声が空から響く。
ヲオオオオ。
圧巻の光景だな。
いいなぁ、あんな風に空を優雅に飛んでみたい。
眺めていると、次は地響きが聞こえて来る。
今は地面に胡座をかいて座り込んでいるため、お尻に振動が伝わ
って来る。
後ろを振り返ると、巨大な白象の群れがゆっくりとこっちに近づ
いて来ている様だった。
エンシャント・ヒュージ
あれは、古代の巨象じゃないか。
以前対峙した時の状態と違う。
昼下がりの散歩を楽しむ様に穏やかに歩いている。
﹁どうした? そんな呆けたツラして﹂
群れの中でも一際大きな象に乗った男が話しかけて来た。
赤髪天然パーマの男は赤い瞳を俺に向ける。
524
この男、どっかで見た事あるな。
﹁ヴァルカン⋮ですか?﹂
﹁敬語は辞めろよ気持ち悪い﹂
そのままだ。
あの顕現した日。
窮地を救ってもらった時と何ら変わりない姿に驚いた。
﹁あの時は、必死だったからな﹂
﹁まぁ、なんつーかよくやったよ﹂
﹁それより、ここは一体⋮﹂
素朴な疑問だ。
明晰夢でした。では済まない世界が眼前に広がっている。
﹁少し考えれば判るだろ。ここは神の住まう場所﹃エラ・レリック﹄
。神時代の生態系がそのまま残された場所だ。現実世界には存在し
ないぞ。ここに来るには神の許可と次元線を越える媒介が居るから
な﹂
頭痛がして来た。
判る分けねーだろ。
俺はなんでこんな所に来たんだ。
﹁あ、ほら。俺、おまえに﹃またな﹄って言ったじゃん。そん時に
許可は出しといたんだよ﹂
525
そんなに簡単に許可が出せるのか。
﹃神を顕現させる﹄行為はそれだけ特別だと言う事だった。
オラクル
﹁あと、お前未だに信託貰えてないだろ。俺にも責任あるからさ、
待ってたんだぜ? おまけに差し入れまでな﹂
そう言いながらヴァルカンは鍋を俺に見せた。
神の煮こごりじゃないか。
﹁この深い味わいがたまんねぇぜ∼、今日はバッカスの所から神
酒パクってこよ﹂と彼は上機嫌である。
﹁責任って一体なんですか﹂
﹁ああ、それな﹂
彼は鍋を仕舞うと続けた。
オラクル
﹁俺の加護とアウロラの加護が混ざり合ってる状態なんだ。そりゃ
信託も繋がらない筈だ。どっちと繋いで良いかお前が判らない状態
でやってるからな﹂
受ける側の問題だったのか。
メギド
バラ
﹁でだ、本来なら、どっちか選択しろって突き放しちまうんだが。
俺はあの時お前の可能性を見ちまったのさ。俺の神火を聖火にしち
まう程の容量を持ったお前ならきっと俺達の加護を生かしてくれる
だろうってな﹂
彼は象達に合図を送った。
526
象達が一斉に空に吠える。
呼応する様に空から鯨の声が響いていた。
スカイ・ホエール
そして空鯨の群れから大きくはないが、真っ白な個体が地上に降
スカイ・ホエール
りて来る。
空鯨には一人の女性が座っていた。
俺はこの人を知っている。
一体何度祈っただろうか。
女神アウロラ。
﹁やっと会えた﹂
彼女は空鯨から降りると、こっちへやって来て俺の頬を撫でた。
とんでもなく緊張する。
息をする事すら忘れてしまう様な一瞬だった。
﹁エリックから度々報告は受けていました。でもあのエリックです
ものね、意外と嫉妬深いですから彼﹂
はにかみながら女神は言う。
﹁今、貴方の中には私の加護と弟の加護。そして私と強く繋がって
いるエリックの祈りが存在しています。そして、貴方の聖書はもう
すでに意思の片鱗を見せ始めています、正直私も驚いていますよ﹂
俺の胸ポケットから聖書がスッと飛び出して来る。
女神の手の上で浮かぶ聖書に向かって、女神は指で小突く様な仕
草をすると、聖書がパタパタと喜んでいるかの様な意思を見せてい
た。
527
﹁特殊なアイテムはこの世に数多く点在していますが、ただの聖書
だった彼女が明確な意識を持つに至った。奇跡と言っても良いです﹂
﹁とあるエルフに進化しかけている騎士がだな、聖書にかまけて構
ってくれないと頻繁に礼拝堂で愚痴ってるぞ。ぷぷぷ﹂
﹁目一杯の愛を受けたこの聖書は、私達の子供に等しい存在となっ
ヴァルカン
ています。とくにクボヤマ、貴方の愛が一番彼女を育てて来たんで
すよ﹂
アウロラ
そう言いながら微笑む女神と鍛冶神。
﹁名前を付けてあげてください。それが貴方と彼女の絆になります﹂
女神は俺の目の前に聖書を浮かせた。
正直、話半分で聞いていた。
と、言うよりも状況について行けてない。
それをヴァルカンも察しているようでさっきからニヤニヤとうざ
い。
だがまさに、奇跡だろう。
﹁二つの加護を持つが、それが一緒くたに混ざり合う訳じゃない﹂
とヴァルカンは付け足していた。
要するに媒介にして全く別の物に聖書は、彼女は生まれ変わろう
としているのだろうか。
名前ね。
それっぽいのはすぐに浮かんだ。
ここに至るまで数々の出会いがあった。
528
リアルでは体験する事の無い出会いも数多かった。
そしてその?がりのお陰で俺はここまで来れた訳だし、そしてコ
レからもそれが続くんだろう。
そんなご大層な言い訳を考えてみたが、単純に。
俺と聖書さんは運命の出会いを果たしていた訳だ。
あの日PKに殺されていなければ神父になる事は無かっただろう。
そう、名前はこれでいいか。
﹁⋮フォルトゥナ。運命の女神フォルトゥナだ﹂
﹁⋮よい名前ですね﹂
﹁ひゅ∼お前にしてはセンスがいいな﹂
俺が名前を言った瞬間。
聖書が光を帯びた。
そして、眩い程の金色の長髪と瞳を持った16歳くらいの少女が
誕生した。
俺のイメージが形になっているのかな。
運命と言えば運命の輪と車輪を想像してしまった、そんなオブジ
ェクトがカチューシャの様に少女の頭部を飾り付けている。
﹁クボヤマ!!﹂
529
彼女は。いや、フォルトゥナ。フォルで良いや。
フォルは俺に抱きついた。
﹁やっと、やっと貴方とこうして話せる! 触れ合える!!﹂
﹁聖書さんとしての記憶は残ってるのか?﹂
﹁うん! 自殺紛いの事はもうしないって約束して、私が全部治し
てあげるけどもうダメ!﹂
ああ、判ってるんですね。
納得しました。
﹁さっそく尻に敷かれてね?﹂
﹁ほほえましいですね、差し詰め私達は叔父叔母と言った立ち位置
でしょうか﹂
そんな様子を見てアウロラもヴァルカンも笑っている。
﹁あ! 消えちゃう!﹂
俺の身体は半透明になっていた。
要するにタイムリミットって事か。
﹁生まれたばかりだと言っても神だからなここで暮らす事になる﹂
ゴッドクラス
﹁私達が面倒を見ますので心配はしないでください。あ、彼女は今
オラクル
の所貴方としか繋がっておりませんし、もうその聖書は神級ですの
で、有事の際に顕現させる事は可能です。もちろん信託で会話する
530
事も可能なので大丈夫ですよ﹂
そうなんだな。
フォルは女神に手をつながれ、寂しそうにこっちを見つめていた。
﹁また会えるって。これからもよろしくな﹂
彼女にそう微笑んで俺は光に包まれた。
目が覚めた。
香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
テントを開けて外を見ると皆でバーベキューをしていた。
ユウジンもハザードもみんなそろっている。
﹁師匠∼! いい加減機嫌治してくだサイ∼!﹂
半泣きでしがみついて来るエリーの頭を撫でながら、俺もバーベ
キューに混ざるとしようか。
テントの中を見ると煮こごりは消えていた。
鍋は残されてその中に紙切れが﹃ごちそうさまでした﹄と一言だ
け残されていた。
聖書を見てみると、金枠にしっかりと縁取られて新品同様で少し
シックなデザインに変化していた。
531
大分ボロボロになっていたからな、今までありがとう聖書さん。
そしてこれからもよろしくなフォル。
運命の聖書
アウロラ
ヴァルカン
﹃運命の女神を高純度で顕現させる事が可能。所持者は運命の女神
の加護を高純度で受ける事が出来る。女神と鍛冶神の癒しと力の加
護も内包されている。破壊不能属性。所持者変更不可﹄
532
一炊の夢︵後書き︶
﹁ヴァルカン。その鍋、後で私も頂くからね。バッカスの所からち
ょろまかした神酒には目をつむってあげるわ﹂
﹁あ、アウロラ!﹂
女神ギロッ。
﹁ね、ねぇちゃん、わかったよ⋮﹂
533
決勝トーナメント
間違いなくポイント最多取得者は、俺らのチームだろうと思って
いた。
だが、俺らは2位だった。
2214ポイントだった俺達を更に引き離して堂々の1位に輝い
ていたのは、合計2305ポイントを叩き出したパーティ﹃ジョー
カー﹄だった。
知らんぞ。
そんなパーティ。
Birthday﹄
Birthday﹄
サバイバル詳細ランクのぞいてみる。
個人撃墜ポイントMVP﹃Eve
パーティ殲滅ポイントMVP﹃Eve
イベントモンスター討伐MVP﹃DUO﹄
エンシャント・ヒュージ
レアモンスター討伐MVP︵ラストアタック者︶
ネイチャーガード・スタッグ
太古の巨象・レッサー 討伐﹃ユウジン﹄
ジャングル・サーペント
大自然の守り主・憤怒 討伐﹃クボヤマ﹄
密林の大蛇・固有種 討伐﹃ロッサ﹄
個人撃墜とパーティ殲滅の次点に居るのはハザードだった。
フェンリル
そりゃ、回復が間に合わない規模の異常気象を起こした本人だか
らな。
エリーの氷精霊はまだ俺が治療していた分回復が追いついてそこ
まで大きな被害は無かったんだ。
534
俺からすれば、ハザードとユウジンはゲームで言うチートの部類
Birthday﹄と言う人物。
に達していると思うのだが、それを抑え堂々のトップに名を連ねる
﹃Eve
一体どういう人なのか。
確実に﹃ジョーカー﹄のパーティメンバーだろうな。
そしてDUO、よく6人パーティである事が参加条件のこのイベ
ントに出場できたな。
因縁が蘇る。
いや、因縁と言う因縁でもないけどさ。
またどうせ一悶着あるんだろうな。
Birthday
そんなわけで、決勝トーナメントに駒を進めたのはこの8チーム
である。
﹃名無しの﹄リーダー・ロッサ
﹃ジョーカー﹄リーダー・Eve
﹃だがしや﹄リーダー・明治いちご
﹃戌の刻﹄リーダー・猪狩屋
﹃遠洋﹄リーダー・釣王
﹃傾国の騎士団﹄リーダー・ヘイト
﹃キジバト﹄リーダー・beboy
﹃福音﹄リーダー・クボヤマ
ギルドネームが使われているパーティもいればそうじゃないのも
ある。
ギルドはパーティ人数居れば作る事が可能だ。
535
だが、管理には本拠地と言う物を作らなくては行けないらしい。
これはノーマルプレイでもリアルスキンプレイでも変わらない。
システム的管理がされているか、されていないかの違いだ。
今回決勝に進めなかったロバストさんは、徐々にリアルスキンモ
ードに移行して行く様に皆には﹃よりリアルなロールプレイだ﹄と
いう説明のもと、システム補助をある程度オフにして、施設内にN
PCを雇い入れたりしているらしい。
別に無くてもシステム管理すれば回る。
どっちにもお金が掛かるし、NPCの雇用契約内容によってはシ
ステム管理より安上がりであるが、人それぞれである。
リヴォルブが求人を出すと、応募がすぐに殺到したらしい。
流石、コンスタントにハンター教会の依頼をこなし、日々着実に
世界を広げて行く集団である。
信用度が違うな。
そういう俺もいずれギルドを作ろうと思っている。
良い国が見つかればだね。
魔法都市は若干イメージと違うな。
得る物は多かったが、俺は魔法ってガラじゃない。
ってか才能無いし。
こんな風に思い立ったのも、今回の上位3位入賞報酬が共にパー
ティ・ギルドに恩恵をもたらしてくれる報酬があると公式で告知さ
れていたからだ。
ジャスアル王国はハンターが有志でギルドを建てる事を推奨して
いるので資金があればすぐにでも可能だ。
536
だが、他の国は違う。
ハンター協会がある場所でないとギルドの拠点、支部を建てる事
が出来なかったり、問答無用で拒否している国家もあるそうだ。
俺の予想は、他の国でのギルド建設権もしくは、それに準じた優
遇サービスなんじゃ無かろうか。
それはパーティが不憫だな。
スカイ・ホエール
パーティ向けには何が送られるんだろう、俺だったら飛竜船が良
いな、空を飛んでみたい。まさか空鯨はないだろう。
さて、話しがズレてしまったが決勝トーナメント。
対戦はくじ引きによって決まる。
サバイバル取得ポイント上位陣からクジを引いて行く形。
﹃今回優勝候補と言われていた戦う神父達のパーティを越えたダー
クホース! ジョーカーのリーダーEve氏は8番を引きました!
さぁ次は神父様の番ですよ!﹄
司会に呼ばれて俺がクジを引く。
フォルトゥナ
出来れば決勝で当たりたい。
運命の女神よ、力を貸してくれ。
﹃4番! これは∼!! 決勝で当たるのか!? 楽しみです⋮が、
他のパーティも負けていませんよ! 今回MVPの一人でもありま
す! 名無しのリーダーロッサ氏!!﹄
﹁3番だ。くくく、約束した通りだぜ。正々堂々殺し合おうぜ﹂
アッサリとクジを引いた赤髪の男はにやけながら俺を横切ると呟
537
いた。
あの時、名無しの赤髪と名のった男じゃないか。
ロッソというのか、濁った瞳は相変わらず何を考えているのか判
らないので不気味だった。
﹃おっと∼∼! 早速何かの因果が生まれている様です∼! 一体
どうなってしまうのか!? はいお次は傾国の⋮﹄
クジは終った。
各対戦相手はこうだ。
﹃傾国の騎士団﹄vs﹃戌の刻﹄
﹃名無しの﹄vs﹃福音﹄
﹃遠洋﹄vs﹃だがしや﹄
﹃キジバト﹄vs﹃ジョーカー﹄
総力戦である。
パーティの連携が鍵だ。
全滅したパーティの負けという至ってシンプルなルールである。
勝負がつかなかった際の特別ルールとして、代表を一人選び代表
戦となる。
たぶん勝負がつかない事は無いと思うんだがな。
ちなみに、俺達のパーティネームはセバスが決めた。
俺的には凄く気に入っている。
ゴスペルじゃなくてグッドニュースと言っていた。
538
過激な知らせしか俺に来ないから、少しでもゲン担ぎになれば良
いが。
セバスのセンスは本当に俺好みする。
味付けもそうだし、素晴らしき執事である。
1・2回戦は本日中に行われる。
初戦は﹃傾国の騎士団﹄vs﹃戌の刻﹄だ。
傾国の騎士団はリーダーのヘイトを中心に、手堅い陣形で前線を
押し込んで行くスタイル。
戌の刻との試合はあっさり終った。
ってか、パーティネームはカッコイイ戌の刻のパーティメンバー
を上げて行こう。
猪狩屋、SIMra、加藤煎茶、Booo、仲元道路、ああああ。
この6人である。
コントかよ。
キャラメイクはオッサン風味。
一人だけ余計な黒スパッツ野郎が居るんだが、あいつ混戦時に釣
王のファン達と一緒にはしゃいでなかったっけ?
たしか股間にロッドによるしなる強烈な一撃によって光の粒子と
なって行く様子を視界の端に納めていた様な気もするのだが。
ボケもツッコミも通用しない、生真面目なところが唯一の取り柄
と言っても良い傾国の騎士団と初戦で打つかった自分のくじ運を恨
539
むんだな。
闘技場端に押し込められてみんなで仲良く為す術無く場外に落ち
た所だけは観客席の皆もこう思っただろう。
だめだこりゃ。
と、言う事は次の試合勝てば騎士団と当たるのね。
そんな事は俺らの初戦で勝ってから言えってな。
もちろん勝ちに行きます。
負けるのはいつだって悔しいのです。
﹁おらクボ、行くぞ∼﹂
ユウジンを先頭にパーティ﹃福音﹄のメンバーがぞろぞろと控え
室から出て行った。
今回パーティでの作戦会議もあるので、パーティ別の控え室が用
モニター
意されている。
設置された映像用魔道具で試合の様子は見れる。
俺は控え室からは出ない。
絶対出ないぞ。
それは一瞬だけ観客を移したカメラの端に映っていたからだ。
来賓席にはもちろんエリック神父が居た。
その隣は空席だった。
いや、もしかしたら俺の為に用意された席じゃないかもしれない
よ?
他の方々の席かもしれない。
540
それでも俺は控え室を出ない。
﹁そう言えばユウジン、名無しの赤髪って知ってるか? この間サ
バイバルの時、よろしくなって言ってたけど﹂
﹁⋮名無しの赤髪だって?﹂
ユウジンの表情が険しくなる。
何かを思い出そうとしている時の表情だ。
ろっ
﹁思い出した。ネトゲ都市伝説にな、名無しの肋さんってのがある
んだ。廃人プレイヤーの中でもPKに趣を置いたプレイヤーがその
欲望を満たす為にこの話しを聞いた人の元へ三日以内に殺しにやっ
て来るってな。それの元になった奴だった気がする﹂
﹁それは本当なのか? 作り話なのか?﹂
﹁半分半分だな。俺からすれば快楽殺人者の真似事をネトゲでやっ
てる糞ゲーマーだよ﹂
﹁そ、それじゃワタシは殺されずにすむんデスカ?﹂
俺の肩に顔を埋めながらガクブルしていたエリーが話に入って来
る。
聞いていたのか。
﹁PKに掛けてだけは凄い執念と知識でその辺のプレイヤーよりも
ずっと強かったからな、このゲームではどうか知らんけど、下手し
たら殺されるぞ﹂
541
ハハハ。と笑いながら言うユウジン。
エリーはそれどころじゃ無さそうだった。
﹁三日間生き延びなイト⋮隠れなけレバ⋮﹂と震えながら呟いて
いた。
いや君、今からその男と戦うんですが?
﹁この世界で生死を掛けた勝負なんてザラだ。PKなんてただの不
意打ち。余程の隙が無ければ攻撃できない愚か者達だ。要するに隙
を作らなければただ決闘を挑んで来るだけのただの人だろう﹂
ハザードが言う。
まぁその通りです。
リアルの世界の常識をこの世界で当てはめて考えるとろくな目に
遭わない。
PKに殺されるのもドラゴンに殺されるのも何ら変わり無い。
そう言えばエリーは幽霊の類いが苦手だったんだっけ。
でも、ある意味で魔法と剣のファンタジー世界であるRIOで幽
霊が出たとしても今の俺達が対応できない訳が無い。
凍らせてしまえ、そんなもん。
俺なんて部屋を聖域化するからな、そんなもん心配ご無用だ。
幽霊を信じては居るが、同時に物理攻撃も効果あると思ってるか
らな。
﹁大丈夫ですお嬢様、私かクボヤマ様が守りますので﹂
まぁそうだな。
倒すじゃなくてガチで殺しに来る集団だと思って良い。
この世界では死ぬ時の感覚もよりリアルになっている。
542
ってか、死ぬってこんな感じなんだなって一瞬思ってリスポーン
する感じ。
俺は既に何度も死にかけと死を体験してるからな。
もう慣れた。
だからといって死ぬのは嫌だ。
痛いんだもん。
543
決勝トーナメント︵後書き︶
運命の女神は幸運の女神ではありません。
殺しの専門の様な奴達vsなかなか死なないよく死ぬ男。
544
vs名無しの︵前書き︶
※第40部﹃アップグレード﹄あとがきの聖書さんのセリフを修正
しました。
545
vs名無しの
激突する。
俺達の作戦は各個撃破、のみである。
﹃名無しの﹄パーティは、ユウジンをロッソが止めている間に俺
達の弱点であるセバスを仕留めてから二対一の状況を作り出し、徐
々に追いつめて行くつもりだったようだ。
意外と堅実な戦い方だな。
だがそれをさせない。
俺らのチームの遊撃班は一筋縄では行かないぞ。
剣鬼、賢人、神父だからな。
覆面の男が俺と相対する。
あの時︵第45部︶、赤髪のロッソの隣で喋っていた奴だな。
まるで幻影の様な動き、接近を許してしまう。
ローブに包まれていて手の動きが読みづらかった。
顔に向かって短剣が飛んで来る。
影で作ったダミーだった。
ダミーの影に隠れて飛来した本物の短剣をギリギリ躱す。
耳が切れ落ちた。
オートヒーリング
すぐさま魔力ちゃんが落ちた耳を浮かせくっつける。
自動治癒が治療して行く。
うん、フォルトゥナ頑張ってる。健気じゃないか。
546
俺の完全にイカれた痛覚をぶった切る様な激痛が腹部から襲って
来た。
視線を下げると、一本のククリナイフが俺の腹に刺さっていた。
激痛が襲って来て思わず転がって距離を取る、その間に腹に刺さ
ったナイフを引っこ抜いた。
追撃の可能性がある。
視線を戻すと覆面の男がぼやけて消えて行く。
覆面の男は真っ先にセバスに向かって行く。
しまった。
初めっからまともにやり合う手合いじゃなかったのか。
﹁⋮セバス!!!﹂
刺された腹部が麻痺して爛れて行く。
痺れ行く身体全身を使って叫ぶが時既に遅かった。
セバスは覆面の男に気を取られた隙に、﹃名無しの﹄の仮面の斧
使いに切り捨てられてしまった、ザクザクとセバスの身体を滅多切
りにして行く斧使い。
奇声を上げる様を見て、まるで蛮族を見ているようで戦慄した。
いや、戦慄よりも腹の底からふつふつとわき上がって来る物があ
る。
蛮族と覆面の次の標的はエリーだった。
くそっ!
本当に弱点ついて来るなコイツら。
慌ててエリーの元へ向かおうとする。
547
だが、足が動かなかった。
おかしい、痺れはもう治ってる筈だ。
腹部から徐々に広がる様に石化が進行していた。
太ももから胸の辺りまで石化している。
おかしい、何故石化が治らない。
石化の治療は実験でも成功している。
オラクル
︵信託。フォル、一体どうなってる!?︶
︵麻痺、火傷、神経毒、石化の毒を検知してる! パターンは初見。
オリジナルの毒なの! 麻痺と火傷はもう大丈夫だけれど、神経毒
がくせ者なの出血を止めてその他内蔵の機能不全になる前になんと
かしないと! 石化は遅効性で致死性が低いから少し待って!︶
まるで蛇毒だな。
状況を察するに、俺を完璧に動けなくする事に特化している様に
思えて来る。
まぁ例え一度心肺機能が停止しても蘇生する事は可能だ。
だがトーナメントのルール的に、その状況に落ち入ったら負けな
のである。
その辺もフォルは理解した上で治療のオペレーションを行ってく
れているようだ。
うん、出来る子。
︵身体機能のオペレーションは頼むな︶
フォール
︵は∼い、神経毒でのダメージはほとんど完治! 下半身部から石
化は治療して行くの∼。あと降臨は待機状態になってるからね︶
548
ルーツ
︵いや、顕現だ。出し惜しみはしない︶
ルーツ
顕現は、本物の神の顕現とは違う。
フォール
神の如き力を発揮する力の根源を借りると言った感じだった。
使用感は、降臨より高揚感のある上位互換と言った所。
出し惜しみは使わない事にした。
運命の聖書に書かれる文字が俺を包む様に廻る。
﹁ダメだ、間に合わん! ユウジンまだか!?﹂
エリーには精霊魔法がある。
たが、フェンリルの相手を出来る奴が居ると、途端にエリーを守
る物が居なくなる。
エリーもそこそこ堅い戦士ではあるが、最近になって力落ちして
いるイメージがある。大分引き締まった体つきも少し細くなってい
た。
精霊魔法を伸ばす為に騎士として盾と剣を振るうより魔力を鍛え
る事に趣を置いていたからだろう。
今までは、フェンリルを相手できる物が居る状況があまり無かっ
たり、そのエリーを守る役目をセバスもしくは俺が担当していた。
フェンリル
精霊を呼び出す事は少量の魔力で済むらしいが、今の所精霊召喚
に置ける氷精霊の攻撃魔法はエリーの魔力依存なのである。
理由は未だエリーの口から聞いていないのでそう言う物だと思っ
ていた。
そこそこ魔力量も伸ばしている彼女であるが、辺りに散った氷魔
549
法の攻撃の後を見る限り、一人も相当粘ってエリーと相対していた
事が窺える。
一人でフェンリルを持つエリーに拮抗できる奴が居るんだ。
三人になればどうだ?
あの蛮族の手によって惨殺されてしまう。
女の子だぞ、厳しい世界であるとは理解しているが、許せない物
がある。
﹁仕方ねーな!﹂
上半身が石化した状態で必死に移動する俺の目を見たユウジンが
叫ぶ。
伝わったか、彼が居れば一先ず安心だ。
﹁まて! MVPプレイヤーだぞ! ロッソを過信するな!﹂
ハザードが叫ぶ。
彼は丁度勝負を決めていた。
様々な柱がステージに突き刺さっている。
柱の何れかに敵プレイヤーが埋没しているんだろうな、あの一際
長くて大きな柱かな?
550
視線を戻す。
エリーの首が丁度蛮族によって跳ばされる所だった。
は?
ユウジンは?
551
背中から剣でひと突きされたユウジンが居た。
後ろに剣を振るった様な動きで固まっていた。
﹁グフッ⋮。ミスったぜ、鬱陶しいのが後ろから来ると思ったらて
めぇだったか﹂
覆面の男がロッソの影から出現した。
﹁よくやったミストォォォオ!! 遂にやってやったぜぇええ!!
あの剣鬼のユウジンを殺してやった!!﹂
﹁この男はしぶとい。早く止めをさせ﹂
﹁そうだ、俺はしぶといぞ﹂
ユウジンは持っていた刀−天道−を投げた。
エリーの死体を滅多切りに仕様としていた蛮族の首がそれで跳ね
られる。
ユウジンは俺の目を見て行った。
﹁すまん﹂
なんで謝ってんだよ、死にかけじゃないか。
﹁思ったよりあの神父の回復が厄介だ。もう特殊毒は無い、早く殺
せ﹂
﹁ぁあ!? んだよ糞ハゲ、指図済んじゃねーよ。言われなくても
わかって⋮ッ!﹂
552
ロッソとミストと呼ばれた覆面の男が横跳びの回避行動を取る。
一本の杖が二人の直線上に飛来したからだ。
﹁神父、今回の責任はお前にあるぞ﹂
ハザードが俺を一瞥する。そうだ、俺の責任だ。
彼に任せれば全て大丈夫だと何処か心の中で思っていた。
そんな俺がユウジンの隙を作ってしまった。
不意打ちの達人集団に対してだ。
エリーの死は完璧な奴らの実力勝ちだろう。
ハザードは冷静に見れていたのだろうか。
完全にしてやられた。
俺の動きを阻害して、弱い所から各個撃破。
で、多人数作戦でユウジンをフルボッコにするのであれば、それ
は失敗しただろうな。
エリーが窮地に落ちる事によって俺はまんまとユウジンの助けを
借りるはめになった。
その結果がコレである。
まるでコレを予測していたかの様に赤髪のロッソの影に隠れて虎
視眈々と最後の隙を作る機会を窺っていた男。
ミストと呼ばれる覆面のこの男。
最初からしてやられていたのである。
ユウジンの弱点は俺だった。
消えて行ったユウジンとエリーの死体。
553
三人になってしまった。
﹁神父。今の俺の気持ちを教えてやろうか?﹂
﹁いや、遠慮しとくよ。俺も同じ気持ちだからな﹂
﹁ちょっと、アタシも親友が殺されたのよ。黙っちゃ居られないわ
!﹂
凪もようやく一人倒したのかやって来る。
相手の残り人数は三人。
同数だな。
﹁俺はあの覆面男を担当させてくれ﹂
﹁勝手にしろ、俺はあの赤髪PKを貰う。もう許さん﹂
﹁じゃ、アタシはあまりねぇ∼ん。エリーを殺した一人なんだから、
目に物をみせてやるわ﹂
俺達の目は逆に輝いていた。
怒りが頂点に達すると逆に冷静になるもんな。
運命の聖書の加護が掛かっている分それは如実に出る。
俺に加護が発動してなかったのは、あのナイフの毒にデバフ的作
用があるからなのか?
まぁいい。
もう知らん。
554
くそが、神父の名を元にこの赤髪を懺悔させてやる。
ここから俺以外の二人は早かった。
凪は超大型特級風魔法を圧縮したものを発動させた。
嫌らしい事に、真空の刃を操作してまず服から切り刻み、強風の
中拘束された男の露出された肌を少しずつ削って行った。
凌遅の刑かよ。
怖過ぎだろ。
﹁ひぃっ! ヒィイイイ! ヒッヒッッヒッヒヒッヒヒヒヒ﹂
と泣き笑いながら狂って行く男の姿は凄まじかった。
たまひゅん。
ハザートは、相変わらず質量にて相手を追い込んで行くスタイル
だった。
そして俺も少し驚いた。
﹁ディメンション・聖暦の磔刑台﹂
どでかい十字架がそびえ立ち、鎖がミストの身体に巻き付いたか
と思えば、磔の刑にした。
555
﹁放せ! 開放しろ﹂
﹁断る。尋問を開始する﹂
テレポートで大きな杭がミストの右の掌に移動する。
と、言う事がそこにあった手の肉、骨などの組織は消滅したのだ。
﹁ぐああああああ﹂
﹁叫んでいる暇はないぞ、その魔法をどこで教わった﹂
﹁はぁ⋮はぁ⋮黙秘⋮だ﹂
今度は左手に。
悲鳴が上がる。
﹁まぁ影魔法は俺も知ってる。ついでだったしな、後は神父に使っ
た毒の情報を貰おう﹂
そう言うと、ハザードはごそごそとミストの懐を弄る。
そして中から一つの小瓶を取り出した。
俺と対峙してるロッソが、ぼそっと﹁あいつやっぱ持ってたんだ
な糞ハゲ﹂と言っていた。
﹁もういい。ディメンション・バベルの塔。サイズはミニチュアで
良いな﹂
磔刑台が黒い影に覆われる。
空から何かが飛来している。
556
落下音はしなかった。
上を見ても高さが判らない程の塔が出現していた。
とんでもねぇなコレ。
こんなもんで攻撃すんなよ。
﹁大丈夫だ、バベルの塔内で心は分裂しそれぞれに更なる天罰を奴
は味わう﹂
出す気はなかったけど、もう何か怒り狂ってやっちゃいましたっ
て感じだな。
俺はというと。
腕を広げた。
やってみろ。
そう言う合図をロッソに送る。
﹁殺してほしいんなら殺してやんよ糞!﹂
安い挑発に乗って、彼は俺の首を跳ねた。
が、ハネ跳ばない。
何故かって?
魔力で固定しているから。
俺の魔力で循環している俺の身体だぞ、クロスや聖書を操るが如
く簡単にそうさ出来る。
557
それに気付いたのは、ユウジンとの稽古中手首を例によって切り
落とされた時だ。
手首が浮かんでくっ付く。
で、その時はまだ普通の聖書だった聖書さんが治す。
みたいな感じだったのだが、首でもすぐにくっ付ければ死なない
事が判った。
その実験の事をバラバ○の実事件とユウジンは言っている。
ひたすらユウジンに斬らせ繋げるというアホな実験だ。
ヘヴンゲート
︵フォル、天門を用意しておいてくれ︶
︵は∼いなの︶
﹁ほらほらどうした? プレイヤーキラーじゃないのか?﹂
煽る煽る。
こっからは根性勝負だ。
﹁ふざけやがって⋮何なんだてめぇ﹂
﹁ただの神父だよ﹂
﹁ふざけんじゃねーよ。斬っても死なないってどうなってんだハゲ﹂
﹁殺し方が下手なんだろ?﹂
あああああああああ。とロッソは半ギレで斬り掛かって来る。
剣筋もだいぶ読み易くなったな。
所詮、不意打ちでしか敵を倒せない奴。
558
それは本当だったか。
そうだとすれば、今の俺は隙がない。
いや、隙だらけだが死に戻りの隙は全くないんだ。
赤髪のロッソの目がどんどん死んで来た。
そろそろ潮時だな。
﹁やっぱ懺悔とかいらねーわ。俺すら殺せないお前がPKだって?
はっ、笑わせんな。お前も所詮趣味程度のゲーマー野郎だよ。地
ヘブンゲート
獄に落とされないのがせめてもの救いだな。そろそろ召されとけ、
天門﹂
膝をついたロッソの背後に光る扉が現れる。
俺は奴をけり跳ばして扉を閉めた。
これで終了である。
第一回戦を突破した。
すぐにエリーの元へ駆けつけねば。
終了の合図も待たずして、俺は駆け出した。
559
変わり目
試合が終わっていの一番に駆け出した俺だが、彼女は予想以上に
ケロッとした姿でセバス・ユウジンと共に控え室にて俺達を出迎え
てくれた。思わずズッ転けたよ。
無事な彼女の姿を見て、思わず抱きしめてしまった。
顔を真っ赤にしながら﹁役得デス∼﹂と抱きしめ返しす彼女の身
体は少し震えていた。やはり死の恐怖と言う物は、例えゲームの世
界であろうとこのリアルスキンモードでは恐ろしく感じてしまうよ
うだ。
うむ。
そ、そろそろ離して欲しいんだが、しばらくこのままでも良いか
な。
ユウジンは﹁凡ミスだったわ∼﹂と暢気に言いながらも木刀で素
振りを行っていた。彼も彼也にこの試合で思う事があったのだろう
か。
いや、完全に俺の責任だった訳だ。
﹁⋮本当にすまん﹂
ひと振りひと振りに徐々に集中して行くユウジンに俺は呟く事し
か出来なかった。素直に土下座できたらどんなに楽だっただろうか。
そんな言葉は入らないという意思を彼の剣から感じた。
いや、本当に自分の実力の足りなさを省みているのかもしれない
560
が、今の俺にはそう思えない。
今回の件は、しっかりと心に刻んでおこう。
教会の関係者から呼び出しを受け、俺は控え室を後にした。
向かった先は会場観客席の来賓席である。
﹁まず初戦突破おめでとうございます。ですが、あのやり方は少し
如何な物かと﹂
エリック神父の隣に座りながら彼の話しを聞く。
正面に立って話しを聞いていると﹁まるで説教してるみたいじゃ
ないですか﹂と強引に座らせられた。
いや、説教じゃないか。
﹁試合で焦ったのは私の責任です。それによって仲間の被害を出し
てしまいました﹂
﹁いえ、私はそこを言及している訳ではありませんよ。確かにミス
はありますが、アレは相手が一枚上手だったに過ぎません。ですが、
今の貴方は強さを過信し過ぎている節が見えました﹂
エリック神父の言葉が突き刺さる。
561
ルート
柔和な雰囲気は打って変わって、顕現状態の鬼畜さも無かった。
ただ、今の俺を厳しく見てくれているんだろう。
﹁貴方は強くなりました。ですが、それだけです。この大会が終わ
ったら、貴方はもう一度学び直した方が良いでしょう。クロスも返
して頂きます﹂
そう言ってエリック神父は今行われている試合に視線を戻した。
俺も黙って視線を試合へ移す。
﹃遠洋﹄対﹃だがしや﹄の試合が行われていた。
釣王が押されている。
パーティ﹃だがしや﹄のメンバー。
明治いちご、森長、エル・アルフォート、ガーナー・ロットー、
メルミルク、江崎ビスクと言った面々の名前に突っ込む気すら失せ
ていた。
ただひたすら、エリック神父の言葉が心に突き刺さっていた。
これって要するに、アレだよな。
居た堪れなくなった俺は﹁わかりました。今までありがとうござ
います。コレは御返しします﹂と一言にクロスを手渡し来賓席を後
にした。
暗い顔をして帰って来た俺を出迎えてくれる仲間達のありがたさ
に心を打たれる。
562
椅子に座ってふと戦いを振り返るとエリーのあのシーンが蘇る。
今一度、学び直そう。
神父を辞める気はさらさらない。
﹁すまんが少し皆に話しがある⋮﹂
俺は今後の身の振り方を話し出した。
大会自体は恙無く終了した。
ここで意気消沈してしまってみんなに負担を掛けるのは良くない。
クロスはお返ししたが、武器が無いだけで何ら問題は無かった。
俺のメンタル面には大きく問題有りだがな。
簡単に順を追って結果を説明しておく。
二戦目の﹃傾国の騎士団﹄だが、スキルやステータス補正でかな
り耐久力のある相手になんとか削り合いでの勝利を収めた。凪の魔
法にも耐え切るなんて凄まじい。
563
決め手はやはりハザードの質量兵器だった、練度の高い動きでな
かなか的を絞らせてくれなかったが、俺が自分の能力を活かした決
死の足止めでようやくと言った所だ。それでも降って来る柱を盾で
支えたリーダーのヘイト氏には脱帽だ。
傾国の騎士団は、エリーを騎士団に加入させたいようで戦いの最
中に何度も交渉を持ちかけていた。エリーは適当にあしらっていた
けど。
何故だろう、傾国と聞いてエレシアナの事を思い浮かべてしまっ
た。
傾いてるのは彼女の王位継承権であって、国じゃない。偏見だっ
たな。
決勝はやはり﹃ジョーカー﹄との対決だった。
彼等は、珍しくもノーマルプレイヤーとリアルスキンモードの混
合チームだった。
結果から話そう。
負けてしまった。
Birthday氏相手に今大会二回目の敗
善戦したのはハザードと凪だけだった。
ユウジンはEve
北に喫した。
ユウジンが話すには、彼はVRゲーではほぼ頂点と言っても良い
有名廃人プレイヤーなのだそうだ。色々なVRゲームで戦った事が
564
あり、唯一勝ち星を上げれたVRゲームが﹃BUSHIDO﹄だけ
らしい。
そんなEve氏が率いる﹃ジョーカー﹄にはDUOとagima
xが居た。
俺とエリーは再び対峙し負けたのである。
善戦したハザードと凪も、流石にこのメンバーには勝てなかった。
準優勝である俺達パーティが貰った賞品は、飛竜の卵だった。
ユウジンが大喜びしていたな。
俺らが飛竜なら、優勝パーティは一体なんなんだろうか。
やはり、ギルド作成関連かな?
次が大ニュースである。
プレイヤーイベントの終わりにて重要な発表がなされた。
﹃公式からご報告です。リアルスキンモードについての一定のデー
タがそろいましたので、公式HPにて新たな情報をアップロードし
565
ております。それに付きまして、限定販売ではありますが、当ゲー
ムの推奨VRギアの販売を限定でですが開始致します。詳しくはH
Pにてどうぞ。プレイヤーズイベントお疲れ様でした﹄
今までは﹃RIOを更に楽しめるプレイモード﹄としか記載され
ていなかった謎仕様が遂に公式にて発表されたのだ。
コレは俺も一度ログアウトして読んで来た。
ノーマルプレイモードからリアルスキンモードへの移行について
記載されていたり、どんな事が出来たのか、または限定販売されて
リアルスキンモードをプレイしたプレイヤーの人達は何をやって来
たのか。
そんな事も書かれていた。
掲示板も大分賑わっていたとユウジンが言っていた。
ゲームじゃねぇとか、NPCアルゴリズムとか、なんとかかんと
か。
その辺は俺には全く判らないので割愛。
一部で言われているのはこれはRIOが恋愛シミュレーションに
なったとか、リアルセカンドライフプレイできるとか。
俺は農民王になるとか。農奴乙とか。
566
よし、とりあえず行くか。
公式発表だったりプレイヤーズイベントの余熱が残り騒がしい会
場を俺は後にした。神父服は脱いで、街で茶色のコートを購入して
来た。
今の俺には神父としての要素は何も無い。
完全なるただの一般プレイヤーだ。
神父服と運命の聖書はセバスに預けた。
いずれ戻って来る予定なので、確り保管をしておいてくれそうな
セバスだからである。エリーとかには間違ってでも預けられん。
﹁この世界では離ればなれになりますが、いつでもメールしてくだ
さいね。そしてクボヤマ様の帰って来る場所を私達は作っておきま
すので﹂
そう言っていた。
全く持って頼もしい男だった。
﹁これをどうぞ﹂と彼から受け取ったのは今被っている飛行帽だ。
茶色のコートと同じ色をしている。
もこもこがついていてとても暖かそうだった。
﹁ネイチャーガードスタッグの革から作った帽子ですよ。ユウジン
さんが贈り物なら飛行帽がうれしがるだろうって言ってましたので、
私達からの餞別です﹂
567
ネイチャーガードスタッグ
守りの飛行帽
﹃大自然の守り主の毛皮から作った帽子。体温の調節機能を持つ。
守りの力が備わっており、即死を防ぐ﹄
素直にありがたかった。
コートに飛行帽って言ったら、2Dゲームをしていた頃の俺のア
バターだ。
ゲームも判らない頃、ユウジンにつれられ鉾を操る前衛職として
活動していた頃を思い出す。
帽子の位置を直して歩き出した時、後ろから声を懸けられた。
﹁待ちなさいクボヤマ神父﹂
振り返るとマリア司書が居た。
﹁今は神父を破門された身ですよ。クボヤマだけでいいです。愛称
でクボと読んでくれても結構ですよ?﹂
﹁え? あ、く、クボ! これでいい?﹂
声に力が入りまくりのマリア司書。
﹁じゃなくて。エリック様は貴方を破門した訳じゃないのよ。聖門
を行く人として、正しい在り方を学んでほしかっただけなの﹂
﹁ええ、判っていますよ。ですが気構えという奴ですね﹂
568
﹁でも、これからどこへ向かうというの?﹂
﹁それは⋮﹂
言葉に詰まる。
一度修行して来いと言われた身だが、どこへ行けば良いか判らな
い状態だった。
まぁそれでも何とかなると思ってた節はあるけどな。
﹁ウチではね枢機卿クラスの資格をに得る為には一度、北の聖堂と
呼ばれる場所に赴かなくてはならないの。今回クボヤマにはそこに
向かってもらう様に言いつかっているわ﹂
そしてマリア司書が俺の手を握って言う。
﹁今回私が案内人を勤める事になりました。中央聖都ビクトリア大
教会の司書マリア・チェイストよ、よろしく﹂
こうしてマリア司書との北へ向かう旅が始まった。
彼女は﹁私も初めて行くから道は聞いた事しか知らないわ、でも
569
昇進って意味だから気分はハッピーね﹂と言っていた。
570
変わり目︵後書き︶
公式の最後に書かれていた文。
﹃貴方達は探求者です、もうゲームの世界とは思わない方が良いで
しょう﹄
571
北の大地にて
スノーラビット
迫り来る暴れ雪兎から逃げるべく、北の険しい雪山を全力疾走で
駆け降りていた。凶悪なツラをした雪兎の咆哮が別の雪兎の咆哮を
呼び、雪山にこだまする。
鬱蒼とした森じゃなくて良かった。北の大地の草木は、ほとんど
が枯れ果て木肌を剥き出しにしている。そのお陰でこっちとしても
逃げ易かった。
だからといって逃げ切れるかと言ったら、相手も俺の事を追い易
い訳である。
グラソン
現在俺は、雪山族の試練を行っている。
リアルスキンモード二世代プレイヤーである俺は、永遠に春が来
ない北の大地﹃ダズノヴァ﹄と呼ばれる国を拠点に動いていた。
単純に人ごみが嫌いというか、完全なるソロ思考というか。
まぁ人と違う事をやりたくなるお年頃なだけのゲーマーなのであ
る。
リアルスキンモードヒューマン
RSMは人族しかキャラを選択する事が出来ないが、彼の有名な
黎明期トップに居たプレイヤーの話を聞けば、このRIOの世界の
無限の可能性を理解できると思う。
ロールプレイをしていたらヴァンパイアになったプレイヤーや。
グッドニュース
姫騎士プレイをしていたらいつの間にかエルフになっていたギル
ド﹃福音﹄の副マスター。
侍と呼ばれる職をノーマルプレイモードにも普及させた﹃剣鬼﹄。
ギルド﹃福音﹄を創設した裏社交界トップの執事。
572
リアルスキンモード公式発表後に更なる発展を迎えたギルド﹃リ
ヴォルブ﹄の巨人ギルマス。
その他にも色々と話は存在している。
詳しい考察や見解は全くの不明だが﹃人は進化する﹄とか﹃人の
可能性は無限大﹄だと、RIOの掲示板ではそう言った見解がなさ
れた。
特に俺が好きな話は﹃戦う神父はプレイヤーなのかユニークNP
Cなのかトトカルチョ﹄である。
結局その神父は、神父服と自分の聖書をセバスと言う名のプレイ
ヤーに託して教団の女司書NPCと共に去って行ったと言われてい
る。
リアルスキンモードプレイヤー
初めからユニークNPCだったんだと言う勢力とRSMPの最初
の一人、普及させた偉大な神父と言う勢力に分かれて、きのこたけ
のこ戦争の様な不毛な争いを日夜行い、掲示板の消耗を加速させて
いる。
グラソン
さて、雪山族の試練の話をしよう。
北の大地にて日々の生活を送る内に、俺は確かな身体の変化を感
じ取っていた。
進化というより順応と言った方が良いかもしれない。
その頃はまだ、手足の先が冷たくならなかったりだとか、薄着で
も体温を保つ事が出来る様なったりだとかだった。
この北の大地で朝食と言えば雪兎のスープが定番なのだが、それ
を啜っている時に俺は決定的な事に気がついた。明らかに身長が高
573
くなっていたのである。
北方人種は体つきが大きいので、宿は小柄な南方の旅人が使える
様にされた場所を利用していた。
だが、いつの間にか俺の身体は宿が利用できない程に成長してい
たのである。
これは巨人ロバストの逸話と近い物がある。
グラソン
で、更に強くなるべく、北方人の中でもさらに過酷な環境に身を
グラソン
置き、強靭な肉体を持つと呼ばれる雪山族の集落に身を置いて十数
日が経ち、この試練を乗り越えれば俺も晴れて雪山族の一員になれ
るのだ。
そしてこの状況は、雪白熊の祠と呼ばれる場所にて無事にその試
練を乗り越えて帰って来る所であったのだが、運悪く暴れ雪兎の群
れに遭遇してしまった。
この山の守り神である、雪白熊の力を授かった俺がだ。如何せん
その試練の戦闘によって満身創痍状態である。
要するに格好の得物だったってことだ。
そんな事を思いながら、雪兎達の重なった咆哮により引き起こさ
れた雪崩に俺は為す術も無く飲み込まれていった。
574
目が覚めると、茶色いコートと帽子とゴーグルを身につけた男に
腕を持たれ雪の中から引っ張り出される所だった。
運良く肩から上は埋もれずに済んでいて、窒息死だけは免れたよ
うだ。
﹁いだだだだだだだ!!!﹂
腕を引っ張り出されると同時に身体にもの凄い激痛が走る。
そりゃあれだけの質量に押しつぶされていたものな、全身の骨が
バキバキに折れていた所でなんらおかしくはない。
﹁でも! いだだだだだだだ!!!﹂
﹁静かにしてください、少し痛いだけじゃないですか﹂
その男は俺を引っ張り出しながら言う。
あまりにも俺が痛がる物だから彼は一度手を離すと、背負ってい
た巨大な十字架を一度地面に刺してリアルではダサいがこの世界で
はNPCハンターの間に大流行しているウエストポーチから本を取
り出し読み上げていた。
﹁シスターズ、この者に清き安らぎを﹂
本が光ると同時に俺の身体も淡く光り出した。
その光はまるで眠りに落ちる一瞬の様な心地よさを俺に与えてく
575
れた。
﹁だからって寝られても困るので痛みは感じる様にしておきますが
⋮じゃ、一気に引っ張りますよ⋮ほっ!﹂
﹁あだだダダァッーーーーッ!!!﹂
﹁なに!? 一体なんなのこの悲鳴! ってクボ! 貴方急に居な
くなったと思ったら一体何をやってるのよ!?﹂
遠くからコートから網タイツを少し晒してブーツを履いたプロポ
ーション抜群の金髪ギャルが走って来る。
走る勢いでコートの切れ目から見える太ももがさらにエロい。生
存本能が俺に生きろと言っている。
﹁あ、なんか生命力が強くなってますね﹂
﹁一体どうしたの?﹂
﹁ああ、雪崩が起きたじゃないですか。その時雪崩を起こした雪兎
達に追われている青年を見かけたので心配になって探していたんで
すよ﹂
﹁で、見つけたと?﹂
﹁はい。全身複雑骨折で、心臓から上が奇跡的に雪上にありました
からね。ギリ助けれましたよ。でも凄いですね、この寒さの中、雪
に埋まっても凍傷にならずに生存できるなんて﹂
グラソン
﹁それが雪山族の強靭な身体の秘訣よ。彼もそうだったんじゃない
576
?﹂
グラソン
雪山族と聞いて思い出した事がある。
そう、今は試練の最中だった。
太陽も少し沈みかかっている。
タイムリミットは夕刻過ぎるまで、これは危ないんじゃなかろう
か。
集落の中でもこの時間帯に帰って来ない者が居ると集落総出で山
グラソン
狩りの如く探しまくるという。実に仲間重いな種族なのだが、やら
れた方は馬鹿にされるのでたまったもんじゃない。
あと、コレが悪人を山狩りするように見えるらしく、雪山族は文
明と接触するまでは雪山に住む蛮族として捉えられていたらしい。
本来は逆で、蛮族の進行を影で食い止める役割を神時代から担っ
た一族なんだとか。
話がそれてしまったが、ヤバイ。
グラソン
﹁雪山族の試練の途中だった。助けてくれてありがとう! 集落ま
では多分ここからそう遠くない! 方角はこっちだよ。俺の足につ
いて来れるならついて来た方が良いかもね!﹂
俺は裸足で駆け出した。
あ、試練は靴を履いちゃいけないのでね。
577
グラソン
﹁紹介が遅れた。俺の名前は山田。そして今、雪山族の名を頂いた
から山田アランになった。あの時は助けてくれてありがとう。俺の
事は気軽にやまんとよんでくれ﹂
ここの人達は山田の田の発音が苦手なのか、俺の名前は間違えら
れて覚えられてしまって、﹃やまん﹄と呼ばれている。まぁ実際な
んでもいいんだけど。この手のゲームで俺は名前にあんまりこだわ
りがない。
﹁私はクボヤマです。クボとよんでください﹂
﹁私はマリア・チェイストよ。マリアでいいわ﹂
クボヤマと聞いて、少し引っ掛かる所があった。
彼も同じ事を思ったのか、俺の目を見て何か言いたげな表情だっ
た。
﹁あの、もしかして⋮﹂
﹁だろうな。RSMP?﹂
そうだった。
578
彼はクボヤマ、とある事情により北へ向かう旅をしていて、今は
旅の折り返しで中央聖都に向かう途中との事だった。
グラソン
一体どんなクエストなんだろう。雪山族の試練よりも遥かに長い
時間をかけて行うクエストだもんな。
RSMでクエストと言っていいのか謎だが、とりあえずクエスト
と言っておけば伝わり易いかと思う。
彼はサービス開始してすぐにRSMでプレイした強者らしい。
それって黎明期でも一位二位を争う程の初期プレイヤーってこと
だな、少しでも攻略が出てから始める第二世代や公式発表を待って
からRSMをプレイする1.5世代とはまるで違う。
俺も北へたどり着いてからこの世界がゲームというより異世界で
ある事を常識として捉え出した。なにより、マリアさんはこの世界
生まれのNPCだと言う事でそんなNPCと行動が出来るのもRS
Mならではだと感じる。
俺がこの集落の一員になれたのだってRSMがあっての者だから
な。
﹁この度はこの子を助けて頂いて誠に感謝致しております﹂
集落の長が俺の前に出て来て彼等に俺を述べる。
﹁今宵は一人の若造が無事にこの集落の受け継がれる名前を頂いた
記念です、どうぞ、些細な宴ですが楽しんで行ってくだされ﹂
そう言って去って行く。
﹁私、酒は飲まないんですが⋮﹂とクボは尻込みしていた。その
隣でマリアは北の特産酒をガブ飲みしている。
579
﹁ちょっとマリア。それはいくらなんでも⋮﹂
﹁うっさいわねー。私はあなたと違って司書職なのよ関係無いわよ
! なによそれでも許されないの? ああ神よ、彼の神父は私の囁
かな唯一の楽しみまで奪うというのですか⋮!?﹂
﹁マリア、貴方はこの旅で大分失敗したんじゃないですか? 主に
酒がらみですが私はもうその懺悔はいい加減聞き飽きましたよ? ってもう聞いちゃい無いですね﹂
頭を抱えるクボを余所に、一人で勝手に盛り上がるマリアの元に、
北の恵みをふんだんに使った料理が運ばれて来る。
枯れた大地だが、そんな中でこそ人は強く生きる術を獲得して来
た。
雪兎のシチューに鹿肉のソテー。
どれも雪の下で旨味を熟成させた肉を使用している。
グラソン
そして雪山族の集落特有の雪菜と呼ばれる冬にも育つキャベツの
様な野菜を塩漬けにして雪の下で保存しておいたもの。
この酸味がまた酒に合うんだよな。
荒々しくも大地の恵みを感じるこの地の食べ物は意外と大好きな
のである。
﹁漬け物美味しいですね﹂
﹁そうだろ? 雪菜っていうこの集落の特産品だぜ﹂
580
﹁お金は払います、幾つか頂いてもよろしいですか?﹂
﹁どうせ今日の宴の余り物もあるんだ。好きなだけ包んでおくと良
いよ﹂
お言葉に甘えて、とそそくさと木箱に入れてウエストポーチに入
れて行く。
ポーチに入り切らない程入れているのに、どんどん吸い込まれて
行くようだ。
不思議なポーチ。レアアイテムなのかな。
そうして夜も更けて行く。
コレが俺とクボヤマの出会いだった。
581
北の大地にて︵後書き︶
雪山族からアランの名を受け継ぐ事によって、人種・北方雪山族
と言う感じに変わります。
まぁそれは個人の資質によりけりなんですが、北国にただ居るだ
けでは身長も大きくなりませんに寒さにも強くなりません。
雪山族になる事で身体機能は強靭になります。
雪山族に伝わるアランとは、神時代にこの地を守る様に言いつか
った人物の名です。遠い祖先みたいな感じですね。
その者はL字に曲がったバールの様な物を使い戦っていたそうな。
ゲンノーンと呼ばれるそのL字型の武器は、殴ってもよし、投げ
ても良し、引っ掛けても良し、小回りも効き、穴を掘るのにも便利
だとか。
武器というより雪山族特有の道具と言う形で発展を遂げています。
582
北の大地にて2︵前書き︶
※感想でもご指摘頂きました。山田はやまんという愛称で呼ばれて
いるので劇中では正式な場面以外やまんと呼ばれます。
583
北の大地にて2
グラソン
雪山族の長が、クボヤマとマリアを自分の書斎へと呼び出してい
た。
集落の中でもそこそこ立派な作りの家というだけであって、豪華
な調度品は全くないが客室はそこそこある。度々来る商人を泊める
為に使っていた部屋を俺も使わせてもらっていて、彼等もその部屋
を幾つか利用させてもらってこの集落に滞在している。
そんな中、書斎で話している様子に俺は聞き耳を立てていた。
﹁北方を守護する事を代々仰せつかっている我が雪山の民ですが、
最近何やら凍土に住む蛮族の動きが怪しくなって来ておって、度々
申し訳ないのだが力を貸して頂けんか?﹂
﹁それは構わないのですが、凍土に住む蛮族とは?﹂
﹁元来より、凍土に住み着く人とも魔物とも言えぬ奴らの事。幾分
何も無い土地じゃ、奴らは食人文化を持つ危険な輩なのでの、儂ら
が北方を守護しなければその内人里にまで降りても来よう﹂
﹁神時代、ここは魔族の領土と人間達の領土の境目だったと言われ
ているわ。凍土に住む人種は魔に取り憑かれ、野蛮な本性が浮き彫
りになりその姿を人ならざる物へ変えて行ったと言われているの﹂
﹁その時、北の領土を死守していたのが我が民の始祖アラン様。北
の歴史は意外と長くての、次代の族長へと語り継ぐのが義務となっ
ておるのです﹂
584
アランという名を受け継ぐ背景を彼等は話していた。俺ももうこ
の種族の一員だ、息を呑んで話を聞いている。
﹁関わりはわかりました、私達のやるべき事とは?﹂
﹁これはそなた達にも関わりのある事で、極秘とさせてもらう為に
ここに呼ばせてもらった﹂
長は一度言葉を切った。
一瞬張りつめた空気が、聞き耳を立てる扉越しからでも伝わって
来る。
ゴクリ、と俺も息を呑む瞬。
﹁近頃蛮族達の間で邪神教と言???﹂
﹁北の蛮族だ! 皆、急いで武器を取れ!!﹂
耳を貫く様な悲鳴が、族長宅一番奥に作られている書斎にも響く。
それと同時にこの雪山族の次期族長候補と呼ばれる、アラシュの怒
声が聞こえて来た。
いきなりの事についていけず呆然としていると、書斎のドアが急
に開いて中からわらわらと話をしていた三人が飛び出して来る。
﹁こりゃやまん! 何をしとるか!﹂
長の拳骨が飛んで来る。長は高齢と行っても雪山族は死ぬまで強
靭な肉体を維持し続けるとも言われている。もっともそんな事は有
り得ないが年齢を重ねるごとに落ちて行く体力の劣化が他の人種よ
585
り圧倒的に少なかったりするのだ。
﹁いや、ついつい聞き耳を⋮でもそんな事より蛮族が!!﹂
﹁外から悪意の魔力を感じます。早く外に向かいましょう﹂
クボヤマとマリアが長にそう言う。
﹁うむ! 判っておりますとも。やまん、危ないからじっとしてお
れ﹂
﹁いや! 俺はもうお客様じゃない。一緒に戦うんだ!﹂
そう言うと、長は皺が目立つ顔を更に歪ませてにやけると﹁それ
でこそアランの名を継ぐ者﹂と一言にクボヤマ達と外に向かって駆
け出した。
俺も慌てて後を追う。
外の状況は拮抗していた。
いや、少しながら此方が押され始めている様にも目立つ。主立っ
た集落の戦闘員は、雪山の巡回に出かけている時間だったからだ。
一番の強者、アラシュがたまたま非番で集落に残って居た事によ
り壊滅的な被害は避けられていると行った所。
負傷している者も何名か居るが、それは相手も同じの痛み分け。
牽制状態が続いている。
586
﹁マリア。貴方はケガ人の手当を。私は前線で他の負傷者を探しな
がら族長宅に戻って来ます﹂
﹁ええ。貴方は大丈夫なの?﹂
﹁ついでに邪な心を持った奴を引っ捕らえて来ますよ﹂
そう言うクボヤマに、マリアはニッと笑うと治療の指揮を取り始
めた。彼女は神聖魔法の使い手の様で、次々と負傷者に声を掛け手
当を施して行った。
﹁情けない! それでも雪山の民か御主らは!!!!﹂
長の怒声が響き。一瞬雪山族と蛮族が同時に怯むのが窺えた。
誰だって長が怒るのは怖いんだな。
だが雪山族の民はそれで息吹を吹き返した様に巻き返している。
俺も認められて新たに自分用に頂いた雪山族の特性武器﹃ゲンノ
ーン﹄を片手に攻防に参戦する事にする。
﹁巡回の者が戻って来るまで皆持ちこたえよ!! アラシュの姿が
見えない! あやつこの非常時に一体どこへ行った!﹂
長は相変わらず怒声をまき散らしながら無双している。
ゲンノーンを両手に持ち、敵の斧を受け引っ掛けると引き寄せて
その勢いのまま心臓を精確に貫いて行く。
587
ひと突きで死体になった蛮族の顎をL字に尖った部分で引っかけ
振り回して蛮族に投げつける。
一体どっちが蛮族なんだか判らないが、この武器を使った戦闘は
無限大な所を見せてくれた。
﹁アラシュ!!﹂
叫びと共に、長に一瞬の隙が出来た。
その隙に遠くからトマホークを投擲せんとする蛮族が一人。
﹁長! 後ろ!﹂
俺の声は聞こえていない様だった。
一体何が起きたんだ?
俺は蛮族一人を相手にするだけで精一杯だった。
そんな時、腕を振りかぶった蛮族を押しつぶす様に巨大な十字架
が飛来した。圧し潰された身体に遅れて投擲しようとしていた斧を
持つ腕がボトリと音を立てて落ちる。逆十字の横棒の部分に立つク
ボヤマが、飛行帽についているゴーグルを外しながら言う。
﹁前線の負傷者はあらかた治療所へ送りました。これで今の所ケガ
人は居ません﹂
﹁馬鹿者! まだおるではないか!!﹂
珍しく取り乱した長が、慌てた様に駆け出した。
俺達も慌てて後を追う。
588
﹃雪山の種族か﹄
﹃ヒト種の中ではまだ強靭﹄
﹃だが所詮ヒト﹄
﹃我々魔族と比べれば矮小な存在﹄
ガーゴイルの鋭く尖った尾に貫かれたアラシュがそこに居た。
長の顔は、一瞬驚きから悲しみに、そして鬼の様な形相に変わっ
てく。
北方人種特有の薄桃色の肌が真っ赤に染まっていた。
それだけでも回りの雪を溶かしてしまいそうである。
心無しかクボヤマの顔も鋭くなっている様だった。
ガーゴイルの視線がこちらを向く。
貫かれるアラシュをまるでゴミを捨てるかの様に此方へ投げつけ
る。
長とクボヤマが動かないアラシュに駆け寄る。
クボヤマは長の目を見ると首を横に振った。
﹁⋮ああ、アラシュよ⋮勇敢な雪山の民として、お前の死を儂の心
589
に刻もう⋮﹂
長は涙を流しながら空を仰ぎ言った。
その涙も、雪山の寒さの中では一瞬で凍る。
カチカチになったまつ毛の奥の瞳がギョロっとガーゴイル達を向
く。
﹁長、今はこの目の前の状況に集中しましょう﹂
﹁わかってますわい。弔いはとびっきりのを頼みますでな﹂
﹁畏まりました。一つ、私は過去にガーゴイルと戦った事がありま
す。彼等の鱗は岩の様に堅いです。が、四肢・尾の付け根は比較的
柔らかいので狙うならばそこを﹂
﹁判っております。年老いてますが、雪山の民の底力を見せてみせ
ましょう﹂
そう言って二体居るガーゴイルにクボヤマと長はそれぞれ向かっ
て行った。
何をすればいいんだろうと迷っていた俺にクボヤマが言う。
﹁年老いている身には辛いと思います。是非とも長の手助けをして
上げてください﹂
﹁わかった!!﹂
クラスチェンジ
北方人種の体格から見ても、ガーゴイルは巨大だった。
俺は北方人種に進化しているとは言え、その中ではまだ小柄な方
590
だったので果てしない絶壁に思えた。
だが絶壁や険しい雪山での戦闘を得意とする種族である。
岩の様なガーゴイルの肌にゲンノーンをピッケルの様に使い登っ
て行く。
尻尾の牽制は長がやってくれていた。
﹃小童が﹄
﹁まずったわい! 避けろやまん!﹂
﹁いっ!?﹂
尻尾が飛んで来る。俺の居た肌の部分を打ち付けていた。
どMガーゴイルなんて冗談を言ってる場合じゃない。
ゲンノーンを引っ掛けて宙ぶらりんになる。そして身体を振った
その勢いのままどうにか肩の位置にまで来る事に成功した。首筋は
刺があって近寄りづらかった。
だが、相手は少し傷つけられてもよじ上る俺を脅威と判断したよ
うで、手で払いに来る。
コレは避けれないなと死を覚悟した時、ガーゴイルが急に体勢を
崩した。
長がガーゴイルの尻尾を強引に引っ張って引きずり倒したからだ
った。
﹁ぬおおおおおおおおお﹂
591
とんでもないパワーだ。
空中に投げ出されて地面にダイブする。
衝撃で肺の中の空気が全部抜けて、一瞬動けなかった。
それでも俺を狙ったガーゴイルの攻撃は続く。
何かが来る、視線の端でそれだけが理解できた。
とにかくどこでも良い、横に転がって回避する。
ガーゴイルの鎌が、さっきまで俺が居た場所に突き刺さる。
﹃ギャアアアァァアァア!!﹄
叫び声が俺の耳を劈く。隣からだった。
クボヤマの相手していたガーゴイルがボロボロと内部から光を発
しながら砕けて行く所だった。
﹃貴様はあの時の神父。未だに生きていたのか。まぁいいこの間に
我らが同胞がこの地の英霊を亡き者にしているだろう﹄
﹁貴様ら! 英霊様の祠にも手を出すのか!﹂
この場から脱出しようと翼をはためかせて飛び上がったガーゴイ
ルに長が叫ぶ。クボヤマも巨大な十字架をガーゴイルに向けて投げ
ようとした。
だが、ガーコイルはそれより一手早く口から燃え盛る業火を吐き
出した。
俺達は堪らず退避する。
592
ガーゴイルはその隙に飛び去って行った。
﹁長。英霊様の祠とは一体なんですか?﹂
﹁雪白熊の祠のその先にある、代々雪山の民を語り継ぐ資格のある
者のみ向かう事を許される特別な場所で、我らの聖域です⋮﹂
長の言葉は少しずつ力を弱めて行った。
﹁じゃがもうおしまいです。あれ程の力を持った魔物がまさか蛮族
に力を貸していようとは⋮次代の担い手であるアラシュも殺されて
しまった⋮﹂
座り込んでしまう長は、年相応に年老いて見えた。
﹁長、諦めちゃダメだ﹂
俺は自然にそんな事を口にしていた。
諦めたら作り直す事の出来るゲームの世界で、そんな事は詭弁だ
グラソン
と罵られる。だが、このRIOの世界はそんな事も忘れるくらいの
物を俺にくれた。
この世界の一員として、一人の人間として扱ってくれたこの雪山
族に何かやれる事があれば。
﹁北の屈強な種族が諦めただって? そんな事は死んでから言えよ
爺﹂
長は口を開けたまま俺の目を見続けていた。
593
﹁この時間帯は巡回の人達も丁度雪白熊の祠への道付近に来ている
筈だ! 急げば未だ間に合うだろ!﹂
長は笑うと立ち上がった。
さっきまでとは大違いである、いやむしろ若々しい程の気を帯び
ている様にさえ思えて来た。
﹁小僧が言う様になった。儂もまだまだ現役で居る事にしようかの
!﹂
﹁もちろん私もついて行きます。邪心教の芽は確実に詰んでおかな
ければなりませんからね﹂
クボヤマも十字架を背負ってやって来る。
彼はウエストポーチから出した簡易食料を俺達に手渡した。
味は苦酸っぱ糞マズい。
そして回復魔法で俺達の傷を癒してくれる。
戦闘前より身体が軽くなった気がする。
コイツは良いや。
そしてすぐ英霊の祠と言う場所へ。
雪山族の聖域に俺達は向かう事にした。
594
北の大地に立って
﹁なんと言う事だ⋮﹂
俺、長、クボヤマ、マリアの四人は目の前の惨状に息を呑む。
グラソン
アレからすぐ出発した俺達は、雪白熊の祠より少し手前の山道で
巡回に出ていた雪山族の遺体を発見した。
周囲に凍土の蛮族の遺体もある事が、集落が襲われている時、こ
の場所でも死闘が繰り広げられていた事が窺える。
﹁ありえん。我が北の民が蛮族程度に遅れを取る筈が無い﹂
﹁⋮傷口に邪気を感じます、何者かの介入があったかと﹂
雪山族の遺体に祈りを捧げながら、クボヤマが言う。
蛮族の遺体も調べた所、傷口に同じ様な邪気を感じたらしい。要
するに、第三者の介入で無差別に殺された可能性があるって事だな。
怒りに打ち震えそうだ。
同時に、死闘の中で水をさされ死んで行った同胞達の無念を感じ
た。
雪山の寒さでは流した涙もすぐ凍る。
雪白熊の祠を通り過ぎる時、一際巨大な白熊に出会った。
﹃珍しく我が主の友の気配を感じたと思えば、運車輪の神父か。皆
595
一様、ここに呼ばれるべくして集まったのだろう。試練を越え語り
継ぐ同胞達よ、我が力の一端を渡す。我が主の意思により我はこの
地の地脈を守らねばならん。北の聖域はグラソンの民の役目、若い
同胞よ北の大地を驕る邪な物達を退けよ﹄
巨大な白熊は、クボヤマの事を一瞥すると俺に向き直りそう告げ
た。
そして俺の鳩尾あたりに鼻を近づけ小突く。
﹁ッ! 熱い! あ”ア”ア﹂
すっかりこの地に慣れて淡白くなってしまった肌に、焼け爛れる
様な痛みを感じ膝をついてしまった。
心臓が脈打つ度に身体中の血管が千切れそうな痛みを感じる。
アラン
﹃我らの力の源、英雄の鼓動。どんな逆境でも決して退かなかった
英雄の血脈である。制約を超え、誓約を﹄
そう言って、巨大な白熊は姿をくらませた。
手元にある雪に全身を冷やそうと試みるが意味を成さない、クボ
ヤマが止めに掛かり治療を施そうと本を開いたが、閉じてしまった。
﹁コレは試練です。あの地神の白熊が行っていた様に、この雪山の
民に繋がる力があるのでしょう。此方から治療をすると変わってし
まう恐れがあるので﹂
ですが、と。クボヤマは俺を背負い出した。
﹁見ていて面白い物ではありませんからね。背負うくらいでしたら
大丈夫でしょう。マリアさん、オース・カーディナルを代わりに背
596
負ってもらえませんか?﹂
﹁あれ重たいのよね、まぁ貴方には相当堪える重さでしょうけど﹂
﹁いえいえ他に比べたら、物理的な重さなんてヘッチャラですよ﹂
マリアが文句を言いながらも巨大な十字架を受け取った。クボヤ
マも笑いながら返す。ハタから見ていたら思いっきり夫婦漫才やっ
てる様にしか思えないんだよな。
﹁いや、歩ける。この程度の痛み、雪山の民の痛み、皆の痛みに比
べればまだまだ軽い﹂
アラシュには、この集落について色んな事を教わった。
ゲンノーンの使い方、戦い方。
彼の恋を手伝ったりもした。次代を継ぐ者だと、集落一の強者だ
とも言われていた彼は、何故か自分の好きな相手にだけはかなり奥
手であった。
女でありながら集落二番目の使い手で、巡回メンバーに抜擢され
る程のサテラは自分より強い者としか婚姻を結びたがらなかった。
これって両思いじゃん。
話を聞いた瞬間思ったね。
発破をかけるとアラシュは彼なりのアプローチをかけたと顔を赤
くして報告していた。俺が試練から帰ると同時に報告して来るなん
てどれだけ話したくて仕方が無かったんだろうか。
サテラの遺体を見つめながら思う。
彼女の遺体が握りしめているゲンノーンはアラシュの物、この二
597
人は一応上手く行っていたんだろうな。
﹁⋮くそ⋮﹂
コレが終ったら二人一緒の墓を作ってやらなければ。
物理的に全身が熱い程痛いが、今は胸の奥の痛みの方が勝ってい
る。
先を急ごう。
途中に湧いて出て来る暴れ雪兎やデッドトレント達は、クボヤマ
と長が薙ぎ払って行く。凄く心強いな。
一番心強いのは、少し歩が遅くなった俺の手を引いてくれるマリ
アだが。
﹁もうすぐじゃ、気を引き縛らんか﹂
長が言う。
吹雪に近い天候も険しかった道も徐々に落ち着きを見せていた。
静かになった雪道に、俺達のザクザクと雪を踏みしめる足音のみが
響いている。
﹁近い﹂
598
クボヤマが呟く。ゴーグルに隠れて表情は見えないが、妙に鋭く
なった声色が俺に敵は近いと意識させる。
自ずと武器を握る両腕に力が入ってしまう。
たどり着いた英霊の祠は神々しかった。
半径十メートルに雪すら積もっていない、ぽっかりと空いた空間
がある。枯れ草、枯れ木しか無いこの北の大地でその空間だけは緑
が茂っている。
そして石で作られた祠というより祭壇の様な場所の中心に、巨大
なゲンノーンが突き刺さっていた。
﹁良かった、無事であった。アレが雪山族を次ぐ者しか見る事ので
きぬ英霊様の祠じゃよ﹂
長がジッと巨大な武器を見つめながら言う。
﹁この空間には認められたものしか入れぬ、そして一年に一度アラ
ン様の好物だったとされる北の酒とその肴である漬物を備えて、我
が血族の証を捧げて英霊の力を補充しなくてはならん、見た所大分
魔力を失っているようじゃ﹂
そう言いながら自分の指を噛み切ると、長は祠に手を付けた。
血族の証とは血そのものだったのか。
﹁ここまで静かなのはおかしいですね、邪神の残り香は色濃く濁っ
ているのに﹂
クボヤマが回りを警戒しながら言う。
599
﹁なぁに! 英霊様の聖域を越えれぬと判り逃げ帰ったのでしょう
!﹂
聖域と祠が無事だった事で元気を取り戻した長が快活に返す。
こういうフラグってあるよな。
﹁魔力譲渡は不純物も交じり易いですからね、脆くなりがちなんで
すよ。血によってそれをカバーしているとはいえ、もう少し警戒す
るべきです﹂
﹁なるほど、肝に銘じます。もう少しの辛抱をしてくだされ﹂
辺りを見回し、長も警戒しながら集中に入った。
だが、突如として俺達の視界が赤く染まる。
﹃小賢しい、小賢しいぞ!﹄
ガーゴイルが俺達に向かって業火を吹く。
だが、それも聖域の中までは浸透して来なかった。
ガーゴイルはイライラした様に尻尾を振り回し、地面の雪に当た
り散らす。
﹁全く、以前も逃げ帰って来て、今回もなの? つっかえないわね
∼﹂
気怠げな女の声が響く。
その声を聞いたガーゴイルがびくっと反応して焦った様に火を吹
く。だが燃料切れか、後に吐き出されるのは黒い煙のみ。
600
﹃ヴィリネス様、しばらくお待ちください。壊してみせます﹄
﹁だ∼か∼ら∼。脳筋なの? さっきの神父が言っていたのがヒン
トよ。全く壊れない祠って言うのは面倒よね。ムカついちゃうわ、
零度の波動﹂
そう言いながらヴィリネスと呼ばれた薄紫のタイトなドレスを身
につけた爆乳の女は、マリアとそう変わらない程のスカートのスリ
ットからその妖艶な足を見せつけながら長と祠に手をかざす。
﹁まずい!﹂
クボヤマが素早く動き、その直線上に巨大な十字架を投げる。
空間が波打つ様に見えた。
どんな攻撃なのかは判らない、だが確実にあのヴィリネスという
女から何かされているのは確かだった。
倒れる様な音がする。
雪に埋もれる音じゃなく、地面に叩き付けられた音なんて久々に
聞いた。
それは長だった。
あわてて駆け寄るが、息はないし瞳孔は開いている。
脈は?
あった。
よかった。
﹁生命への冒涜です。邪神の波動と近い何かを感じます﹂
601
﹁はぁなんて快感なのかしら。これも邪神様のお陰ね、永久凍土で
ただ凍らせるよりもこの感じ、素敵なの﹂
クボヤマが怒った様に言う。
女はそれをあしらう様な仕草をしながら返す。
﹁あれは凍土の悪女ヴィリネス! 本で読んだけどおかしいわ! 彼女は凍土から出て来れない筈なのに!﹂
マリアが叫ぶ。流石司書と呼ばれているだけあって物知りである。
クボヤマの抽象的な言葉の補足が、彼女の仕事の様に思える。
要するに通訳。
そんな事を思ってる場合じゃない。
話を要約すると、邪神の絶対殺す波動の一端を貰った悪女の技、
絶対殺す零度の波動。絶対零度ってことだ。
とんでもない。
﹁この北の大地もあたしが行動できる様な枯れ木も生えない凍土に
変えるのよ。あの鬱陶しい白熊を殺してね﹂
そう言って邪悪な笑みを浮かべる女。
凍土の蛮族を束ねていたヤツはこの女だったのか。
﹃結界が薄くなって行く⋮流石ヴィリネス様﹄
ガーゴイルが再び業火を吹く。
602
﹁神聖結界!!﹂
その炎をマリアが受け止めた。熱波は感じているようで額に汗を
にじませながら言う。
﹁クボ! 私の魔力じゃ後数発も持たないわよ!﹂
﹁ファインプレーです。死ぬ気で守ってください、すぐに駆けつけ
ますから!﹂
クボヤマは、巨大な十字架を片手で持ちながらヴィリネスへと駆
けて行った。
俺は、俺は一体何をすれば良い。
そう思った時、足下を引っ張る感触が伝わって来る。
﹁⋮力を、祠に⋮お主なら⋮英雄の鼓動を受け取ったお主なら⋮﹂
長が開ききった瞳孔を此方に向けながら、掠れた声で言う。
その瞳にはもう何も映ってないのかもしれない。それほど光が無
くなった瞳で、しっかりと俺の目の位置を捉え、言う。
﹁⋮継ぐ物とは、集落の、こ、子供に話聞かせて来た⋮お主も聞い
た事、あるだろ
う⋮そう﹂
﹁もういい! これ以上喋るな!﹂
最早聖域としての力は機能しなくなっているのか、辺りは次第に
吹雪いて行き、倒れた長は雪に埋もれかけていた。
603
俺はまだ雪山族になりたてのペーペーだ。長にはもうしばらく集
落の長をやっていてほしいんだ。
だから死ぬのはまだ早い。
﹁俺が、聖域を元に戻す﹂
返事を無くした長に俺は一言告げて立ち上がった。
指を噛み切り、すっかり雪に埋もれ冷たくなってしまった祠の象
徴を触る。
魔力を吸い取られる様な感覚が広がった。
飲み物を飲み干す様に急激に身体から魔力が無くなって行く。
﹁チッ! うざったいわねあの坊やもこの神父も!!﹂
クボヤマと応戦している悪女の悪態が響く。
マリアは辛うじてガーゴイルに拮抗していると言った形だ。
結界魔法でギリギリ守りながら、光魔法で攻撃しているのだが、
ガーゴイルには鬱陶しい程度にしか効いちゃいない様だった。
﹁シスターズ! 俺は良いからマリアをサポートしてくれ!﹂
かなり荒々しい声だった。
普段の物腰の良いクボヤマからは想像もつかない程、荒々しい声
で叫んでいる。
﹁ありがとう! すぐに終らせるわ﹂
その返事にニヤっと笑ったクボヤマだったが、さっきより確実に
604
スピードが遅くなっていた。
クボヤマの胸ポケットからマリアの方へ飛んで行った光は、ガー
ゴイルを翻弄する。目を凝らしてみて見ると、一冊の本が飛び回っ
ていた。
その隙にマリアは詠唱する。
﹁女神アウロラよ⋮﹂
ボゥッとマリアが淡く光輝く。
そして彼女は頭上に十字架と一冊の本を掲げた。
今まで触れて来なかったが、彼等は聖職者だったりするのか?
神聖魔法や十字架を持っていたり、というか神父ってワードも何
度か出ていたしな。
戦う神父はプレイヤーなのかユニークNPCなのかトトカルチョ。
何故だかコレを思い出した。
いかん、集中を乱すな。
一冊の本ではなく、聖書だろう。
彼女が掲げたその二つから文字が浮かび上がる。
﹁⋮邪悪なる者の浄化を求めん﹂
光る波動がガーゴイルを包み、ガーゴイルは光の粒子になって消
えて行った。
そしてマリアは額から大量の汗を流しながら座り込んだ。
605
と、同時にそのガーゴイルが消滅した場所にクボヤマが突っ込ん
で来る。
﹁クボヤマ!﹂
マリアが駆け出した。
ヴィリネスの方に視線を向けると、息をつきながら次は此方に手
をかざしていた。
あの波動が来る。そう思うと腰が引けた。
︵逃げるな、小年よ。もう少しの辛抱だ︶
頭に声が響く。
優しく包んでくれる様な男の声だった。
︵退くな、少年よ。それが我が一族の血の力である︶
第一波が来る。
心臓が脈打つ。
正直言って、延々と吸われ続ける魔力も底を尽きそうだし、全身
だって尋常じゃないくらい痛い。
この波動だって怖かった。
でも、一波目を受けてみて気付いた。
逆に守られている事に。
︵笑え、少年。逆境であればある程︶
606
声が響く。守ってくれてるのはこの頭の中に声を響かせて励まし
てくれている人なんだろうな。
笑おう。
そう思った。だが死んで行った仲間達の姿が思い浮かぶ。
それでも笑う。
そうしたら、目から大量の涙を流し震えながら笑うという奇妙な
姿になった。
血が滾る様に熱い。
そんな身体から出る涙は、極寒の中でも不思議と凍らなかった。
﹁変な顔が癪に障るわね、早く死になさいよ!!﹂
第二波が来る。
邪神の波動は恐ろしい、心に直接恐怖を刷り込まれるようだ。
グラソン
勇気を保て、勇気を保て。
ダメだ、怖い。
でも退かない、俺は雪山の民だからだ。
決して動かぬ様に、己の足を凍らせた。
無防備のまま第二波を受ける。
もう意識を保っていられる自信は無かった。
︵よくやった、少年。若い頃の我を見ている様だったよ。丁度アー
クティックも地脈の汚れを取り除いたようだ。君は役目を果たし、
コレからもその制約を越えた誓約を担ってもらうだろう︶
607
そんな声が響くと、俺の体力が著しく回復して行くのが判る。
︵それは我じゃない。あの神父じゃないかな? エリックも数奇な
運命に巻込んだようだ、君もだけどね。幸運を祈るよ︶
﹁ありがとうございます。ぶっちゃけ今回は色々と枷があるもんで
すから、死にかけましたよ﹂
全身を焼く様な痛みは引いていた。
そして、代わりにみなぎる様な血流の鼓動を感じる。
﹁祠の復活と同時に、この地全域を覆っていた邪悪な気配が薄まり
つつあります﹂
クボヤマは立ち上がりながらこちらへ来る。
そして二人で狼狽するヴィリネスを向く。
﹁ああっ! せっかく広げたあたしの凍土が!﹂
さっきのクボヤマと打って変わって、目に見えて動きが遅くなっ
てしまった彼女にクボヤマの十字架が横薙ぎの一閃。
巨大な質量が彼女をぶっ飛ばす。
﹁ぢぐぞおおおおころす!! 零度! 零度! 零度!﹂
波打つ波動が俺とクボヤマに押し寄せる。
今なら自分の力が手に取るように理解できた。
北の英雄の力、英気が波動を無効化する。
608
﹁私には邪神の力は効きません。まぁ昔と違って物理攻撃では死ん
でしまいますがね﹂
昔は死ななかったのか?
まぁいいや、俺はゲンノーンを振りかぶってバタバタと突っかか
って来たヴィリネスの脳天をカチ割った。
その一撃で昏倒してしまう。
本当にカチ割れなかっただけ、魔族の種族的な強さの一端を垣間
見た。
セイントクロス
﹁後は任せてください、聖十字﹂
巨大な十字架が、光り輝くさらに巨大な十字架へと変貌を遂げた。
その光によって悪女ヴィリネスは若干の抵抗をしていた物の跡形
も無く光の粒子になって消滅して行った。
いつの間にか吹雪は治まり。
英雄の祠には新しい緑が芽吹き始めていた。
そして茂る草の中でぴくぴくする長を発見し、クボヤマのお陰で
ある程度回復した長を背負って俺達はこの地を後にした。
山に一つの咆哮がこだまする。
俺の大分強化された視力が、連なる山々の一つの頂きから巨大な
白熊にのった銀色に輝く髪を乱雑にかき上げただけの男を捉えた。
頼むぞ、少年。
口の動きはそう言っている様だった。
609
610
北の大地に立って︵後書き︶
更新遅れました、申し訳ありません。
クリスマスですね。
クリスマスネタとかやった方が良いんですか?
無い事はないですがね。
いずれ現時点ステータス公開します。
611
北の大地を発って︵前書き︶
前回で書き忘れてました。山田アランの補足。
アラン
プレイヤーネーム:山田
プレイモード:リアルスキンモード
アラン
種族:ヒューマン︵グラソン族︶
アラン
才能:耐寒↓英雄の鼓動
︻英雄の鼓動︼
制約を超えた者が授けられ、英雄の力を振るう事が出来る。
ティック
アーク
英雄の血を色濃く受け継ぐ民はこの鼓動の一部を宿すため、巨大な
雪白熊から力を貰い受ける事は出来ない。
誓約は、決して退かぬ事。
その勇気をなくした時、英雄の血は効果を失う。
北では厚く衣服を身にまとう為、白銀の刺青が腹部から全身に広
がるが見えない。時間経過で髪の色は白銀色に変わって行く。
612
北の大地を発って
旅は道連れ。
リアルスキンモードプレイヤーである俺が、ずっとグラソンの集
落に居座っていられるのかと言われたら、それはNOと答える他は
無いだろう。
あれから、クボヤマ達と協力して集落の墓地に今回の戦死した仲
間達の墓標を立てた。しっかり祈ってくれるそうだ。
流石神父様。
あれだって、お偉いさんなんだって。
まぁ黎明期からプレイヤーを騒がせていた人物だけあって、この
世界での過ごした日も長いんだろう。
本人はユニークNPCだという噂を遠い昔の話の様に感じている
らしい。
トトカルチョの答えはプレイヤーでした。
あれから、長と話し合った。
次代を継ぐものはこの集落の掟ではこの地で育った者が継がなく
てはならないらしい。
英雄とはまた違った扱いなんだそうだ。
﹁お主には遥か先に果たすべき目的があるじゃろう。儂もまだ現
役で行けるし、北の地は英霊様も雪白熊様もおる。どこでも行け﹂
と、そう言っていた。
613
クボヤマ神父が言うには、かなり前に邪神を復活させてしまった
のは実は自分だったらしくて、その尻拭いの旅をしているらしい。
今まで何の音沙汰も無かった邪神からのアクションだが、今回そ
のはっきりとした兆しを確認して、いよいよ本格的に行動に移ると
言っていた。
この地に留まってひたすら来るか判らない邪神を待つよりか、神
父に同行して邪神討伐のグランドクエストを進めた方が良いだろう。
ってか色んな事を置き去りにして俺はいきなりグランドクエスト
に足を突っ込んでしまった訳だが、流石リアルスキンモードである。
可能性は無限大。
とりあえず先ず目指すべきは、聖王都ビクトリアだと言っていた。
枢機卿としての責務を負えなければならないとか。
そうして、俺は長らく滞在したこの雪山を後にした。
今も脈々と身体を流れているこの鼓動。
この地で過ごした事は決して忘れないだろう。
掛け替えの無い物を貰ったしな、ゲームの世界である事を忘れて
しまう程だ。
614
そして俺達は、北の大地で唯一凍らない港﹃ロフスクハーバー﹄
へと着ていた。この不凍港から海を渡り、西沿岸部諸国を回るんだ
とか。
陸路から直通の方が早いのではないかと思ったんだが、
﹁行きに強行して何も観光できなかったですからね、帰りは時間の
許す限り見て回ります。各地に散らばった友人達からの手紙も頂い
てますし、仲間集めと行きましょう﹂
だとさ。この神父。
まるで問題を理解しちゃいねぇ。まぁ早急に戦闘が重なる様な状
況でもないようで、本当にヤバかったら連合国やビクトリアからの
招集がかかるんだとか。
﹁有給休暇みたいなもんよね∼﹂
旅は慣れたもんなのか、船の甲板にて優雅に海を楽しむ二人を尻
目に、密かに邪神への決意を固めていた俺に謝罪しろ。
﹁何が観光か! 何が有給か! 今も邪神の影がこの世界に広まっ
てるか、も⋮﹂
615
︽オオオオオオオン︾
﹃レッサークラーケンが確認されました。今回の航行は見送りとさ
せて頂きます、皆様避難の準備を﹄
放送が響く。確認されたってお前。
目の前に居るんだが、でっかいタコがだよ。
﹁足一本くらいなら美味しそうですよね。はぁ、馬車があればまる
まる積載できたんですけどね⋮﹂
﹁何それ、タコ? クラーケンって食べれるの?﹂
﹁ええ、とっても合いますよ、お酒に。私も一人晩酌を嗜むタイプ
でして。あ、いやこの世界ではもちろん禁酒していますが⋮と言う
か宗教の規律的はあんまり厳しくないですよね﹂
﹁お酒も葉巻もありだものね﹂
﹁女神様の包容力です﹂
そう言って祈り始めた神父。
北の酒は未だ残ってたかしら、とクラーケン︵タコ︶の足を見な
がら今夜の晩酌の皮算用をする司書。
﹁マイペースかお前ら! うおおおお!!!﹂
船を両断しようとする一本のたこ足をゲンノーンで弾く。
616
間髪入れず襲って来る足をハジクハジク。
こういうデカい手合いには手数で圧すこの武器は使いづらい。
片手で弾ける当たり、英雄の力すげーってなる訳だが、それでも
限界はある。
未だ使いこなす事が難しいんだぞ。
﹁おい! 神父! 司書! はやく! こっち! 手伝えっ!﹂
ダメだまるで聞いちゃいねぇ。
出航前で良かった、悲鳴を上げながら逃げ惑う人々の時間稼ぎで
もやるしかない。最悪死に戻りという手段が俺にはある訳だし。
ブツブツと瞳を瞑り呟く神父の顔が厳しくなって行く。
レッサークラーケンもずっとシカトされている状況に腹が立った
のか、神父めがけてよくしなるその足の鞭の様な一撃を叩き込もう
とした。
﹁うるせぇーーーーーーーー!!!﹂
セイントクロス
巨大な十字架が光を上げてタコを消した。
聖十字だ。
﹁は! いけません。私とした事がつい⋮﹂
﹁ちょっとクボ!! 私の今晩のつまみ!!﹂
コイツら、おっかねぇ。
黎明期のリアルスキンプレイヤーは変人ばっかりだと噂で効いて
617
いたが、まさにそれだな。
ってかすっかり毒されている様に見える、マリア司書だった。
彼女はこの世界の住人なのに。
船旅は有り得ない事に再び出航へとこぎ着けた。
人々は嬉々として﹁神の光だ﹂やら﹁有名な枢機卿が乗っている﹂
だとか﹁神に守られた船だ﹂とか言っていた。
この船を動かしている船長は商船の仕事もやっているようで、こ
ちらも嬉しそうにヴィップルームへと案内してくれて、教会のお墨
付きがどうたらとか言っていた。
マジで恐ろしい威力だな。宗教って。
618
﹁うおおお。これ、俺見た事無いんだけど﹂
ヴィップルームに運ばれた料理を見て俺は怖じ気づく。
装飾品とか調度品とかが無い所で過ごした俺はすっかり田舎もん
になっていたらしい。だってアレだ、長の家に有る装飾品なんて鹿
の角とかそんなんだぞ。
料理だって、北の大地とは思えない程の物があった。
いや、前も食べた事のある物も混ざっているが、久しぶり過ぎて
味を覚えていない。
そんな俺は、ひたすら持参した漬物をぽりぽり齧っている。
﹁情けないのね。出された物は頂けば良いじゃない﹂
﹁いや、君たち仮にも聖職者でしょ?﹂
﹁あ∼まぁね﹂
バツの悪そうな顔を一瞬するマリヤと視線を交わしたクボヤマが
言う。
﹁私も元々得意じゃないんですけどね、こういうの。受け取らない
と後々面倒事が重なる事が多かったので黙って享受する事にしまし
た﹂
一体過去に何があったんだ。
地位が高いって言うのも考えものなんだな。
619
出されたステーキを食べてみたらとんでもなく美味かった。
飲み物だった。
﹁やまん、少し夜風に当たりに行きませんか?﹂
食べ終わった後、既に出来上がり始めていた司書を放ったらかし
に、クボヤマが話しかけて来る。
﹁なんだ、デートか? 男からはお断りだ﹂
﹁いえ、これからの事です。この世界の事は出来るだけこの世界で
話す事にしているので﹂
世界観を楽しむべく、リアルスキンモードプレイヤーは現実とR
IOの世界を分ける事が多い。現実でもゲームでも共通の内容とい
ったらログイン時間を合わせる話くらいである。
﹁邪神を蘇らせたのは少し前の話です。これは前にも話しましたよ
ね﹂
アウロラレプリカ
﹁ああ、大会準優勝景品を廃れた邪神教の祭壇に置いたら復活して
しまった話だろ?﹂
デッキで夜風に当たりながら俺達は話す。
真っ黒な海と空。灯が無い空間だからこそ星達がより一層輝いて
見える。
﹁邪神教は、人を嬲り殺す様な奴らでした。この世界の人々は私達
と違って、一度死んでしまったら終わりです﹂
620
﹁それは、わかってるよ⋮﹂
﹁掘り返してしまってすいません﹂
雪山での出来事を明確に思い出し、俯いてしまう。
神父も察してくれたのか謝って来る。
﹁心構えを持つ事は大切なのですが、それだけに縛られて固くなる
のはいけませんよ﹂
そう言ってデッキの手すりにもたれかかる神父。
﹁状況を楽しむのも一種のロールプレイですよ。私はそこから色ん
な事を学びましたので﹂
﹁それは凄い噂になってたな、エルフとか吸血鬼とか巨人とか﹂
一番は神父、あんただけどな。
変態共を束ねるクレイジー神父という噂もあるんだが、絶対お前
だろ。
これは言わないでおこう。
﹁ははは⋮。コレから先なんですが、ローロイズと呼ばれる王国へ
向かいます。これは不本意ですが、上からの命令なので。あと一番
の友人もそこで学んでいる様ですし連れ戻しに行くついでですね⋮﹂
聞いた事無いな。
﹁それは上からの命令がついでなのか?﹂
621
﹁ええ﹂
きっぱりと笑顔で言い切った神父。
枢機卿の上とか、本当に教会のトップの人何じゃないのか。
﹁いいの?﹂
﹁いいんです﹂
話は戻る。
﹁世界規模の力が必要だと上も感じているようで、今回特務枢機卿
として往復する前に位を頂いてるのである程度の特権が効くんです
よ。その下準備ですね、戦の仲間を集める段階ですが、問題はそれ
より遥かに根深い所にあるようです﹂
そう言って神父は言葉を濁した。
まぁ立場的に話せない内容も多々あるんだろうな。
﹁要するにお互い守るべき物を持つ者同士、均等に分け合って支え
合いましょう﹂
﹁うん。お前の分は背負えるか判らないけど、俺に出来る事があれ
ばね﹂
﹁本当ですか? ずっと味方で居てくれますか?﹂
ぐぐぐっと近づいて手を握りしめて来る神父。
﹁お、おう﹂
622
おい、俺はマジで男は無理なんだって!
お前の所の宗教でもそれは流石に許してないだろ放せ!
﹁うっぷ⋮船酔いしたぁ⋮﹂
﹁臭! マリアくっさ!﹂
﹁マリアさん、それは断じて船酔いじゃないと思いますが、決して
ここで吐かないでくださいね?﹂
﹁私は一度も、うっぷ、酒で吐いた、こ、事無いわよぉ⋮ろろろろ
ろろろろr﹂
﹁ぎゃあああああああ!! ふざけんなくそ司書!!!﹂
﹁ゲロ処理はまかせましたよ! これも私の背負う業なんです﹂
﹁おいてめー鍵しめるな! すいません閉めないで! 開けてくだ
さいお願いします神父様!﹂
﹁おぼぁ! 船いやぁ、おろろろろ。いやぁもぉろろろろお﹂
623
北の大地を発って︵後書き︶
神父﹁ふふふ、コレで彼女達に謝る時の味方が増えましたよ。この
調子で増やして行けばなんとか事なきを得るかもしれませんね﹂
ゲロ回でした。
624
−幕間−韋駄天と吸血鬼
﹃我の影を倒し者、その身に我が力の一端を。更に力が欲しくば、
神の国へ参られよ。その時は我が直々に相手しよう﹄
︽シヴァの子の化身−韋駄天−を討伐しました︾
︽﹃agimax﹄は称号の獲得条件を満たしています︾
︽韋駄天の称号を獲得しました、これにより一部称号が消滅しまし
た︾
︽称号の効果により、一部装備がクラスチェンジしました︾
︽飛翔の衣に仏力が宿り、韋駄天の天衣へとクラスチェンジしまし
た︾
︽飛翔の草鞋に仏力が宿り、韋駄天の足袋へとクラスチェンジしま
した︾
︽飛翔の合羽に仏力が宿り、韋駄天の羽織へとクラスチェンジしま
した︾
︽ロングランナーの称号が統合され、消滅しました︾
︽トップスピードの称号が統合され、消滅しました︾
︽韋駄天の称号により、韋駄天の守護、スキル韋駄天を獲得しまし
た︾
︽韋駄天の守護を獲得しました、これにより以下の効果を得ます︾
︽仏紋:韋駄天の力を扱う際に光る刺青︾
︽スキル韋駄天を獲得しました、これにより以下の効果を得ます︾
︽静動合一:瞬時に加速、停止ができる︾
︽韋駄天の脚:AGI補正極、走行による疲労軽減極︾
︽スキル韋駄天により、一部スキルが統合されました︾
625
︽天駆が韋駄天へと統合されました︾
︽飛脚の心得が韋駄天へと統合されました︾
︽難場走法が韋駄天へと統合されました︾
じゅんよう
︽種族レベルが121にレベルアップしました︾
︽隼鷹の目が、隼鷹の心眼に変化しました︾
︽奇襲と急襲が、先手必勝に変化しました︾
︽先手必勝が韋駄天の称号により懸待対の兵法に変化しました︾
プレイヤー名:agimax
VIT
DEX
STR
0
0
0
0
MP:1300
種族:ヒューマン︵韋駄天時半仏化︶
レベル:121
INT
700
HP:1300
AGI
0
︵+70︶
MND
0
︵+13︶
︵+13︶
LUK
※職業、装備、スキル補正は入ってないです。
new
※括弧内は相乗効果ボーナスです。
職業
猟師
武技スキル
new
韋駄天︵静動合一、韋駄天の脚︶
new
韋駄天の守護︵仏紋︶
隼鷹の心眼
626
懸待対の兵法
空間把握
アクロバット
短剣術
new
猟師の三原則︵勘、心得、歩法︶
﹁すごいな﹂
その一言に尽きる。
今回僕は、同じギルドのDUOを引き連れて韋駄天クエストの最
終ボスを討伐しに来ていた。そして始祖ヴァンパイアというレア種
族を持つ彼と共に無事にクエストをクリアした。
このゲームは信用度と言う物もあって、仏門に入りハンター協会
とは別の信用度を上げて、韋駄天のクエストにたどり着くまでが長
かった。
神仏相手に始祖ヴァンパイアはまさに反則だった。
神を倒す為には神と同等の力を得るしかないというDUO。そし
て、彼は見事に匹敵する力を得たらしい。
神父にボコボコにされる姿を僕も一度見ていたけど、恨みまくり
だろ。その様子が更に邪悪さをかもし出しているんだけどね。
ロールプレイ人はかなり強いと呼ばれているが、僕はそんな変態
には混ざりたくないな。
627
と、言いつつノーマルプレイヤーの中でも大分この世界に溶け込
む一人である。
いつだか、僕らが優勝したプレイヤーズイベント後の公式発表に
より、リアルスキンモードもノーマルモードも色々な垣根を越えた
という形になっている。
僕はクエストやって、敵倒してってゲームがしたかったから初期
固定でノーマルモード。
このゲーム、今ではリアルセカンドライフと呼ばれる程の一大ゲ
ームになっているようだった。
ノーマルモードからは、リアルスキンプレイヤーとRIOのNP
Cが判らない程人々は溶け込んでいたりする。
いやぁ、武器職人とか職人スキルを鍛えたい人はマジでリアルス
キンに行ってみると良いね! オリジナル装備、今かなりキてると
思う。
ま、僕はリアルスキンにしても初期でつまづきそうだからノーマ
ルプレイ専門で行こうと思う。
今では大分垣根を越えた両プレイモードだからね、何ら不満はな
い。
プレイスタイルは半リアル的な感じでヘルプシステムはオフにし
ている。
﹁サマエルさんもありがとう。って言っても僕には声が聞こえない
んだけどね﹂
﹁サマエルも久しぶりの神仏相手にちょっと本気だしちゃったって
言ってるぞ﹂
628
DUOがサマエルの声を代弁してくれる。
僕の予想では、ノーマルプレイではサマエルの力の一端を使える
称号が手に入るクエストだったんじゃないかと思う。
しかも彼等の出会いの発端を聞くと、よくある期間限定イベント
クエストで﹃行商人の呪いの仮面﹄とかそんな感じだろう。
イベント潰されたって事?
あんまり考えないでおこう。
﹁でもよくこのクエストについて来てくれたね、DUOさん﹂
﹁頼まれたからな。Eveには恩があるから、受けた恩は倍にして
返す﹂
﹁そっか、僕も今日かなりの恩を受けたからいつか返すね﹂
その言葉に、DUOさんはフッと鼻で笑って返した。
ロールプレイすると本当に変態だが、普段はまともなんだよな。
とりあえず、DUOさん相手に称号の力を試してみる。
﹁じゃ、いくよ。韋駄天!﹂
スキルを発動させると、身体に刻まれた刺繍が光り出す。
韋駄天へとクラスチェンジした装備が揺れている、まるで力に呼
応する様に。
感想は、身体が凄く軽くなってるけど速さ分の威力はしっかり残
っている感じだな。静動合一の効果が凄い、武術の達人が薄皮一枚
でピタッと攻撃を止める様に、僕の身体も停止する。
629
そして脚を出した瞬間から最高速度になっている為、瞬間移動し
たという感じだった。
﹁時止めしてるのにも関わらず、その距離まで俺に近づくなんてか
なり速いな。いずれ止まる時の世界も動ける様になるんだろうな﹂
DUOさんも絶賛である。
止まった時の中を動いてるんじゃなくて、時が止まるコンマ数秒
の間に行動が出来るという点だろう。
攻撃に活かせるかというと僕の目が動きについて行けないので、
本当に最高速度を使う時なんてエスケープする時しか無いと思う。
一瞬で空へと走りエスケープ。良い川柳が出来た。
次は使いこなす為の目を取りに行かなければならないんだろうな。
このゲームはクエストもヒントが無いから、それらしい物を選ばな
いと時間の無駄なんだよな。
まぁ速さを追い求める為には、必要だろう。
これが限界速度だとはまだ思っちゃい無いしね。
﹁それより、俺が殺した始祖ヴァンパイアが魔の軍勢が来る準備を
していたと殺す直前に言っていた事についての調べはついているの
か?﹂
﹁仏門の関係者に少しは話を聞いてみてるけど、そんなクエストの
兆しは無いよ。まず、僕はノーマルプレイヤーだしね﹂
﹁そうか、このギルドは情報戦に弱過ぎると思わんか。戦闘力はピ
630
カイチだと思うがな﹂
﹁なにせノーマルプレイヤーも居るし、その中でもギルマスが能天
気で行き当たりばったりだからね﹂
自称天才で事ゲームに掛けては本当に天才なのが悔しい。
リアルスキンモードにしないのかと聞いたら﹁デブがバレるだろ
! あとありゃ異世界であってゲームじゃないから俺はパスだぴょ
ーん﹂と言っていた。
いや、キャラメイクが既にデブキャラにしている時点でギルマス
がデブな事は皆承知だと思う。
﹁いや、アイツはリアルでは糞もやしだからな。ゲームばっかりや
ってるからそうなるんだ﹂
﹁え、そうなんですか? 衝撃の事実なんですけど﹂
何故、デブキャラにしてんだ。
﹁男は、このくらい肉付きがあった方が良い。という願望だ﹂
そんなギルマスだが、事ゲームに掛けては圧倒的な腕を持つし、
莫大なプレイ時間をかけている。平気で今の僕のレベルを大きく上
回って来る。
僕がレベルを1上げる間にギルマスは3くらい上げてる感じだ。
そりゃ剣鬼にも勝てる筈だ。
﹃ゲームは全部レベル命﹄
631
ギルマスの名言である。
ある意味裏をついて来る様なリアルスキンプレイヤーには圧倒的
な高レベルで、圧倒的なステータス補正で勝てるらしい。
まぁこの手法にも限界があるから、いずれ時がくればリアルスキ
ンにして強欲なデブ商人プレイして、ギルドで作ったコネと財力で
一つの国を建国してみたいと言っていた。
もやしなのに。
これは秘密にしておこう。
﹁お前のその速さを活かして、情報集めに回ってほしかったがダメ
か﹂
﹁う∼ん。ノーマルプレイヤーは、基本そう言うイベントは公式発
表を待つしか無いからね。もし普通のクエストだったりするんなら、
DUOさんがフラグ立ててるからその土地で話を聞くしかないかも
ね﹂
むむむ。とDUOさんは唸りながら動かなくなる。
サマエルさんと喋っているのだろうか。
﹁う∼ん。ヴァンパイアの幹部連中は、消し炭にしたからな。残っ
ているのは俺に服従を誓ったヴァンパイアレディやカスみたいなヴ
ァンパイア野郎共しか居ないんだよな。重要な情報を持ってる奴は
全部殺したし﹂
﹁それでよくプレイヤーキラーになってないのが救いだよね﹂
﹁そうだな。プレイヤーキラーではないけど、一部では怪物扱いさ
れてるぞ。ハッハッハ!﹂
632
そりゃそうだ。
豪快に笑ってる場合じゃないよなー。
ダークサイドフォード
﹁暗黒地帯の先って魔界だっけ?﹂
﹁いや、魔大陸だ。魔界は暗黒地帯の中でも少し特殊な場所にある﹂
﹁あ、行ったの? 何しに?﹂
﹁サマエルが旧友ディーテに会いたいと言っていたからな。悪魔達
とも戦っておきたかったし﹂
﹁へぇ、サマエルさんは会えたんですか?﹂
﹁いや、その旧友ディーテも別の魔界に既に移っているようで居な
かった﹂
サマエルの話をするときのDUOさんは意外と止まらない。
少しズレてしまった話を、戻す。
﹁そうなんですね。だったら、魔大陸に直接行ってみて探ってみた
らどうですか? 僕と違って魔族的な感じですし﹂
﹁吸血鬼は魔族じゃなくて吸血鬼だ﹂
魔族ではない。と言い張るそうです。
何を言ってんだか、元人間の癖に。と思うけど。
本当にヴァンパイアになってしまうなんてリアルスキンモードっ
633
て本当に無限代だよね。と思ったら、僕も何気に半仏化するらしい。
DUOさんは、少し考えるような仕草をすると閃いた様に言った。
﹁そうだな、俺が直接魔大陸を統べる物に会って聞くしか無い。何
より俺の上に立つなんて許せない。この俺が最強であって頂点で居
るべきなのだ﹂
そして手を引かれる。
握力強いんだよこの人。
﹁じゃ、次はお前が俺の手伝いをする番だな﹂
﹁いやいや! 僕は仏門ですよ。無理ですって! クエストも無い
ですし﹂
﹁クエストは俺が出す。暗黒地帯を統べる者だからな。直々の依頼、
勅命だ﹂
﹁いや、魔王側プレイを僕は望んではいないんですよあああああ⋮﹂
振りほどけないまま、僕はこのまま暗黒地帯を目指す事になる。
そして本当にクエストを出しやがったコイツの勅命を受け、魔大
陸の動向を探る為にクエストによって行ける様になった魔大陸へと
足を進めた。
DUOさんの付き添いでな。
クエスト出した本人が来るっていうね。
まぁそれも有りじゃなかろうか。
634
そんな事より、ヴァンパイアレディ達は綺麗でした。
クエストを受けると急に丁重な扱いを受けた。
クエスト、受けっぱなしにしようかな。
635
−幕間−韋駄天と吸血鬼︵後書き︶
仏紋は真言で出来ています。
636
海上の戦い
西岸部を順々に廻る船旅はしばらく続いた。南へ行くに連れて気
候も水面にから見える回遊魚の種類も変わって行く。
少し前まで夜の海に見えていたオーロラも既に見えなくなってい
る。
そうするといよいよ北の地から離れて来たんだなと少し感慨深く
なった。
邪神の影響は、今の所全くと言っていい程無い。
デッキから振り返れば能天気に寛ぐ二人の聖職者が見える。
俺の役割は、港へたどり着くと馬鹿みたいにハシャギ、ハメを外
す二人のお世話係と言った所だ。
神父御一行とか、言われていた事を思い出す。
ネトゲ板の都市伝説の様な話だった。
神父とそれを守る護衛団の御一行があらゆる問題を解決して行く
という話。
今の俺は、巡行中の彼等を護衛するという立ち位置なのだろうか。
そう思うと少しワクワクするのだが、普段の彼等を見ているとだ
な。
﹁マリアさん、いい加減にしたらどうですか?﹂
﹁なによ、なによ、なによ。また私の邪魔ばっかりするの?﹂
﹁いえ、邪魔をしている訳ではないですが﹂
637
﹁そんな事言って! またお酒は止してだの何だの言うんでしょ!
言ってるじゃない! 女神様は禁止していないって!﹂
﹁私はただ、貴方の身体を気遣ってですね。もう少し量の方を⋮﹂
﹁聖職者としての勤めは守ってるわよ! これでも処女なんだから
!﹂
﹁あの⋮そう言う所とか、もう少し淑女としての嗜みと言いますか﹂
﹁まったく、私だって好き好んでこんな格好してる訳じゃ⋮なんで
もないわ! 趣味よ! 私子供の時からこんな格好してみたかった
の!﹂
・・・はぁ。
デッキの手摺に身体を預けながら振り返って溜息をつく。
この光景にも既に慣れてしまった。
アレだな、完璧にマリアはクボヤマにほの字だろ。
見てて判る。クボヤマも優しい、その内酔いが回って寝てしまう
彼女をそっと抱えてベットルームへ運んで行く。
翌朝スッキリ目が覚めている彼女を見る限り、回復魔法でも掛け
て上げてるのだろうな。
どこまでも優しい性格だと思う。
まぁ本性は獰猛なバトルジャンキーだと言う事を俺はもう知って
いる。
638
後方支援職業である僧侶の格上の職に就いている彼は、戦いにな
ると急にニヤニヤし出す事を。
そして、その戦闘も神聖魔法ではなく、体術と独自の魔法を用い
て戦っている超近距離戦法だった。
俺は未だに彼に勝てない。
彼には魔法の才能は無いらしい。
それ故に近距離戦法を磨くしかなかったんだと。
昔に比べて心は強くなったと言っていた。
どういう意味か気になってネットで調べてみたら、彼の戦闘動画
を見つけた。
不死身の神父、それは本当にプレイヤーかと疑う程の内容だった。
まさに、チートだわな。
だがそれは実は彼がたまたま運良く手に入れた力だったらしい。
俺の英雄の鼓動も、たまたまといって良い程の運が重なって取得
した訳だし、人の事を言えないんだけどな。
﹁今日もお疲れ様です﹂
﹁毎度飽きないな、俺は飽きたけど﹂
その返しに神父は苦笑いする。
マリアが寝てから、デッキで適当な会話をするのが俺達の日課に
なっている。
もちろんリアルの話は御法度。
639
世界観を楽しむためだ。
まぁ、ログイン時間の連絡はするけどな。
うっかり乗り遅れたり、ログアウトしたまま何処かに連れて行か
れるのを防ぐ為だったりする。
現実の時間とリンクしていないのは、若干酷だと思う。
でもそれも仕様変更についての記述が公式から仄めかされていた
から、更に大幅ユーザー獲得の為に万人受けが良い様にするんだろ
うか。
規制とか入らなきゃ良いけど。
﹁今日はデッキの掃除をやらなくて済んで良かったぜ﹂
﹁も、申し訳ございません﹂
いつの間にか俺達は憎まれ口を叩く程に仲良くなっていた。
まぁネトゲの世界ってこんなもんだと思う。
特に、プレイヤー同士はな。
﹁でも旅もなかなか楽しいでしょう?﹂
﹁そうだな。意外といいな、世界を回るって﹂
夜のデッキでは、今までの旅の話をして盛り上がる。
破門されたと勘違いした神父が、枢機卿になるべく北へと歩を進
めた話や、それ以前の黎明期の話等。
魔法学校には是非立ち寄ってみたいと思う。
640
ファンタジー好きなんだよね。いやホント。
俺からはそこまで大した話はしていない。
グラソンの民に学んだ事や、北の地での俺の変化、そして何故北
の地に行こうと思ったのか等だ。
旅の話で盛り上がれる関係って野郎臭いけど、何処か憧れていた
物があった。
話しを聞くだけでもワクワクするのに、今実際に自分が旅をして
いる。
そんな状況が堪らなく楽しい。
表情で楽しさが伝わったのか、俺の様子を見てクボヤマ神父もニ
コニコ話を聞いてくれる。
パーティプレイやっぱり最高っすわぁ。
﹁そう言えば、この辺の海域は有数の海溝で、様々な海の幸がある
らしいですよ。マリアも干物をとっても楽しみにしていましたし、
次は久々にグルメ寄港としましょう﹂
﹁いいなそれ! 普通に海の幸いいよな。俺は少し汚いくらいの店
が丁度良い。B級グルメ﹂
﹁判ります、その気持ち。私も実を言うとバーベキューが三度の飯
より大好きでして、マリアさんも私もお互い料理できない物ですか
ら⋮﹂
実を言うと高級食材は飽きて来ていたという神父。
641
俺も最初はビビっていたけど、もう慣れた。
慣れたけど飽きはまだ来ていないだけマシだった。
﹁バーベキュー確かに良いよな。肉、ピーマン、肉、タマネギ、肉、
トウモロコシかな?﹂
﹁何言ってるんですか。肉、ネギ、肉、肉、ピーマン、ピーマンで
しょ﹂
﹁交互にして、飽きない味を模索するのが醍醐味だろ!﹂
﹁馬鹿にしてるんですか? 今流行のデヴィスマックスタイルです
よ﹂
そんな事を言い合いながら夜も更けて行く。
この時俺らは、海の底深くから近づく邪の気配に気付きもしなか
った。
︽ビ??????!! ビ??????!!︾
642
ソナー
﹃魔力探知に巨大な影を探知しました! ご乗船の皆様今すぐ起き
てください! 起きている方は今すぐ緊急避難のボートまで、間に
合わない方は??﹄
﹃ええい代われ! 船長だ! 死にたくなければ今すぐ海に飛び込
んで遠くへ泳げ! キングクラーケンだ!﹄
荒々しい男の声が丁寧に事を運ぼうとしていた女性船員を強引に
押しのけ言う。その声はかなり焦っている様に聞こえた。
﹃奴は通りかかった船を破壊する! 海に飛び込んだら船の瓦礫に
でも何でも掴まれ!﹄
まるで船内に居る人を追い出すかの様に船長の声が船全域に響く。
﹁お、おい。クボ! どうするよ。俺泳げないんだけど﹂
﹁荷物をまとめておいてください。やまん、私は一度船長のところ
へ行って来ます﹂
状況を確認しなければ始まりませんから、と彼は出て行こうとす
る。
だがその前に俺達の使っていた部屋の扉が勢いよく開いた。
643
﹁枢機卿殿、誠に申し訳ないが貴方が船客の先頭に立って誘導とケ
ガ人の保護をお願いしたい﹂
そう言って入って来た船長は、土下座する程の勢いで脱帽し深く
頭を下げた。
﹁船長、貴方はどうするんですか? 私なんかより貴方の方が海の
危険に熟知しているはず﹂
﹁⋮私は、この船に残ります﹂
覚悟を決めきった様な声で、船長は言う。
西海域に幅を利かせるギルドである﹃遠洋﹄に応援要請は既に送
ってあるらしい。遠洋が到着するまでの数時間、パニックを起こし
て無秩序状態になってしまった船客を頼みたいらしかった。
﹁それでも、十数名の犠牲は避けて通れないでしょうね﹂
と神父は冷たく言い放った。
﹁おい、何言ってんだ???﹂
噛み付いた俺を手で制止すると、言う。
﹁戦いましょう。キングクラーケンと、最悪私の犠牲だけで済ませ
ますので﹂
﹁いや! それは!﹂
その言葉に船長が仰天して狼狽える。
目を丸くするとはこの事だろう。
644
あ、船長もう遅いよ。
こうなったら意外と強情だから。
戦いたいんだろうな。クラーケンと。
そしてこの神父の頭の中では、船長、貴方も救われる人の内に入
っているんでしょうね。
ほんじゃま、俺も付き合いますよ。
マリアは避難誘導に回っている。
回復魔法がまだあまり効いていなかったのか、若干二日酔いの様
な顔をして彼女は自分の担当へと向かって行った。
なんだかんだ、そう言う所は聖職者らしいんだよな。
そして俺達はレッサークラーケンとは比べ物にならない程の大物
相手に向かい合っている。
キングクラーケンとは海王種と呼ばれる魔の海域の頂点に立つ魔
645
物だとの事。西海域より更に奥深くの深海に生息し、その海域を通
る船を襲いバラバラに破壊しつくす習性を持つという。
因に何故今現れているのかは判らないそうだ。
生息する海域はずっと先だと言うのに。
足一本が軽く船を撫でるだけで、バラバラの瓦礫と化してしまう
程の脅威を感じる。これは気合いを入れなくては行けないな。
ドクンッ。
俺の白銀の髪と身体の紋様が淡く輝く。
何かに反応している、この鼓動のざわめきは一体なんなんだ。
﹁やまん、邪神の気配を感じ取れましたね?﹂
﹁⋮この血がざわめく感じか﹂
﹁私は五感全部で追えるんですが、貴方はその英雄の血が教えてく
れているんですね。キングクラーケンから、ヒシヒシと感じます﹂
ああ。
あの時の気配だな。
俺には判らなかったけど、とにかく胸くそ悪い心境だ。
この鼓動のざわめきがキングクラーケンを敵だと認識させている。
セイントクロス
クラーケンの足一本をクボヤマの聖十字が焼く。
本当に規格外だな、あの速さ。そして精神力。
獰猛な目つきになった彼を止める事は出来ない。
646
邪を排除する事に掛けては右に出る物は居ないと思う。
そんな彼をサポートする様に、俺も動く。
丁度三本の足が豪快に船を叩こうとしていた。
マズいな、せめて船客の避難が終るまでこの船には足一本たりと
も触れさせる訳には行かない。
それでも戦闘の余波による波や水飛沫が船の耐久値をガリガリと
削って行くのに。
俺もゴーグル欲しいな、水飛沫で若干視界が悪いよ。
フリーズスタンディング
﹁氷上に立つ勇気!﹂
タコの足を薙ぎ払うと荒海の中に飛び込んだ。
海面に降り立つ瞬間足先の海面を凍らせる。
海面もこれなら余裕で動ける。
身を屈めて四足歩行に切り替える、険しい雪山を登る事で鍛えら
れた感覚が活躍する。荒海はまさにうねる大山の様だった。
人の四足歩行はゴリラのナックルウォークの様になるか、もしく
はトカゲの様な有足爬虫類独特の動きになる。
グラソン族はモロトカゲみたいな感じ。
壁を登るトカゲみたいな感じでクライミングして行く技術を教え
られた時は、俺は本当にこの動きをマスターする事が出来るのかと
思ったが、意外となんとかなるもんだった。
神父はタコの足を自分の足場にして上手く戦っていた。
たこ足全部削ぎ落としたらどうなるのやら。ダイブしてしまうの
か。
647
しけ
﹁クボ! 避難は完了したわ! 無線では遠洋は戦闘による時化が
止むまで待機しているそうよ!﹂
﹁ご苦労様です! っと!﹂
キングクラーケンのラッキーパンチである。
クボヤマは弾き跳ばされる、偶然その直線上の足にしがみついて
居た俺が彼の手をキャッチする。
﹁っもたいなお前! 一体何キロあんだ!﹂
﹁やまん超絶ファインプレー。ありがとうございます。助かりまし
た﹂
想像以上に重たかった彼の身体を支えながら、再びたこ足の上に
身を起こそうとする。だがそれは敵わなかった。
一瞬止まってしまった俺らの動きにあわせる様に、まるで手に止
まった蚊をはたく様にクラーケンの足が俺達を狙う。
潰されなかっただけマシだった。
俺らはそろって海へダイブした。
﹁クボ! やまん!﹂
マリアの声が聞こえた気がしたが、凄まじい勢いで俺達は海中に
弾き跳ばされた。
覚えているのは、海底から腹に響く様な轟音と共に巨大な竜が凄
まじい速度で浮上して来るまでだった。
648
そして、その勢いによって生み出された乱海流によって俺とクボ
ヤマは揉みくちゃにされ遥か海底へと、どこぞかも判らぬ深海の世
界に流されてしまった。
649
海上の戦い︵後書き︶
水圧でぐちゃぐちゃになる所でしたが、クラーケンに叩かれて死な
ない時点で水圧なんてあってない様なものですよね。笑
650
海竜王女︵前書き︶
神父が北へ向かう物語は別で用意してます。
タイトルはドタバタしてる感じ有名なアレから模してます。当たっ
たら聖書さんとのデート権をあげますん。
この章の語り手は基本的に山田くんです。
651
海竜王女
意識が戻ると、ベッドの上だった。
死に戻りしてしまったかと思ったが、最後にログアウトしたのは
小さな港町の宿屋だった事を思い出す。
生きてる。
そう、実感した。
俺達が寝かされていた部屋は、八畳程でベットが二つ並んでいる。
木材で作られている壁の至る所が染みで汚れている。
いや、これは腐っているのか?
ひかりごけ
淡く部屋を灯している物体の正体は、瓶の中に入った光蘚の様な
もの。光る海綿の中に光を放つ生き物が棲んでいるようで相乗した
効果を生み出しているのかもしれない。
不思議だな。
﹁目覚めたか?﹂
ドアが開くと、一人の幼女が入って来た。
ツインテールにされた深くも鮮やかな青髪、その瞳も全てを包む
母なる海の様に深い青だった。
着ているワンピースも青色だった。
そろそろクドい。
﹁病み上がりじゃろうて、わしが食事を作って来てやったぞ﹂
652
お盆に乗せたウネウネと動く何かを差し出して来る。
皿にすら乗せていない、それは一体なんなんだ。
﹁こ、これは⋮?﹂
﹁なーに言っとるか? みんな大好きオクトパースウィフトじゃろ
? 少し林檎風味がまた格別に美味なんじゃ﹂
想像するならば、酢ダコにされたタコ足がリアルタイムでしまっ
て行く感じ。収縮と膨張を交互に繰り返すかの様にお盆の上でうご
めくタコ足は不気味だった。
﹁それ、タコあ⋮﹂
﹁オクトパースウィフトじゃて。何度言わせるんじゃ?﹂
ほれ、こう食べるんじゃ。と齧り付く幼女の口には鋭利な牙が見
え隠れする。それで見るからに固そうなオクトパースウィフトとや
らを咀嚼していく様は、異様な光景に見えた。
顔は美少女なのに。
あと10年経ったら結婚しても良い。
とりあえず一本口に含んでみる。
甘酸っぱい味だった。
北の地では、時として木の皮すら食べなければならない時もあっ
た。
そんな俺からすれば、このタコ足は全然柔らかい食べ物だった。
653
ついつい、箸が進んでしまう俺をニンマリとした表情で見つめる
幼女。
﹁違う。ここは一体どこでお前は誰だ﹂
本題である。
幼女は、残りのタコ足をまるでうどんをすする様に食べきると言
った。
﹁わしは西海域の主。海竜リヴァイアサンじゃ﹂
無い胸を張って、口から飛沫をまき散らしながら言う。
甘酸っぱい。
ってかきたねーな。
ゲロ処理で慣れてなかったら激おこだぞ。
百戦錬磨のゲロ処理班。
嬉しくも何ともないんだがな。
﹁海竜⋮? まさか﹂
キングクラーケンに海中へと叩き落とされて、薄れる意識の中見
た光景を思い出す。海底から唸りを上げて急浮上して来るあの巨大
な竜種の存在を。
﹁あれは、すまん事をした﹂
弁明する幼女。
いや、海竜リヴァイアサン。
654
﹁リヴァイと呼んでくれてもええんじゃがの?﹂
と首を傾げる幼女は、海王種。
西海域を守護する役目をになっているらしい。
俺も初めて知ったのだが、大陸西部は魔大陸に一番近く面してい
る場所であるらしい。そして、地・海・空を守護する竜によって魔
族の進行が食い止められている状況なんだとか。
魔大陸に一番近いとされる西端の国﹃ローロイズ﹄の護国竜がそ
の竜種の象徴とされている。
﹁よくぞあのタコ共を食い止めてくれたぞ﹂
﹁キングクラーケンか。俺達よく生きてるな⋮﹂
﹁英雄の鼓動は、馬鹿みたいに負けず嫌いじゃからの! アランの
ヤツめ! 一緒に来いと言うのに自ら北へ行くと言う事を聞かんの
じゃ!﹂
ああ、あの時の声の持ち主か。
相手が強ければ強い程、己の力も増す鼓動だと言う。相応の精神
を磨かねばダメらしいが、ゲロ処理班としての精神力では負けない
よ!
どんな消化されかけた食材が出て来ても負けないね。
マリアさん、俺の100年の恋もスッパリ冷めてしまうよ。
﹁じゃ、船のみんなは﹂
655
﹁大丈夫じゃ。少し出遅れたが追っ払ってやったんでな﹂
ホッと胸を撫で下ろした。
良かったな神父。
俺達は確り守れたみたいだぜ。
後の乗客は、西域警護を担っている﹃遠洋﹄と呼ばれるギルドに
保護された。
最近になって海の魔物が活発化して来ているらしく、どうしても
手に余る時がでてくるそうだ。
デスシーサーペント
あの時も、キングクラーケンとは別の﹃死海蛇・王種﹄の群れを
追い払った後だったと。
スピードチューナ
﹁釣王は大型回遊魚の養殖に成功しよるからの! 出来る奴じゃ!﹂
釣王って確か、プレイヤーズイベントでも確実に本戦出場してく
るトッププレイヤーだよな。
すでに海竜との交流があったのか。
﹁⋮ん⋮ここは⋮?﹂
神父が目を覚ました。
地味に帽子を脱いだ所を始めてみたけど、苦労してんだな。
白髪が目立ってます。
そんな俺の視線に、クボヤマは慌てて帽子をかぶった。
﹁ははは﹂
﹁ははは﹂
656
二人して笑うしか無い。
﹁なんじゃ二人してニヤニヤして気持ち悪いのぉ?﹂
横やりを入れる様に取っ付いて来る幼女。
そんな幼女にクボヤマが反応する。
﹁まさかこの匂い。オクトパースウィフトですか?﹂
﹁そうじゃ! 知っとるか!?﹂
﹁ええあの、ほのかな林檎の風味⋮﹂
酒好きなマリアにもってこいなお土産ですね、少し分けて頂けま
せんか。と早速タコ足の交渉に入る神父を横目で見て溜息をつく。
白髪の原因、何となく判ります。
その強さとか相当な苦労をして磨き上げたものなんだと思うが、
何となく察するに元々バトルセンスは高い方だったんじゃなかろう
か。
ただ単に、無駄に尻に敷かれ過ぎだと。人生に。
そう思いながら新しく用意されたオクトパースウィフトを齧る。
657
西海域の海溝はY字型になっていて、枝分かれした一方と一方に
キングクラーケンと海竜リヴァイアサンの住処がある。
当然キングクラーケンの住処がある方は魔大陸沿いになっており、
デスシーサーペント
最近何やら魔大陸での動きが活発化しているらしく、その影響で普
段人間の海域にまで出て来ない﹃死海蛇・王種﹄などがその活動域
を広めているらしい。
﹁わしもキングクラーケンがこの辺まで来るなんて思いもせんじゃ
った﹂
そう言うリヴァイに続いて部屋の扉を潜ると、殺風景な洞窟が広
がっていた。
彼女が片手を振るうと、青い光が洞窟の壁を反射して行き、それ
に反応する様に光蘚に明かりが灯る。
﹁北でも、悪女ヴィリネスが凍土から南下して来ていましたしね﹂
﹁あの悪女か? 奴は魔とも人とも言えぬ奴。世捨て人の成れの果
てじゃが、凍土にずっと引き蘢っておったはず﹂
﹁邪神か。やっぱりあちこちで影響が広まってるんじゃないか? 658
悠長な事は言ってられないぞ﹂
ふと、リヴァイが立ち止まり振り返りながらこう言った。
﹁おぬしら、世界の縮図はまだ見た事無いのか?﹂
﹁大陸の地図ですか? ありますよ。この大陸の物ですがね﹂
クボヤマがすぐ返す。俺は見た事無いぞ。
第一、このゲームはノーマルスキンモードでも自分が行った場所
もしくは何処かでマップを手に入れなければヘルプシステムに表示
されない様になっている。
リアルスキンモードは当然の如くマップを記憶するか、道行く人
に聞くもしくはマップを紙面に書き写すしか方法は無いからな。
﹁違うのじゃ、この世界を書き記した物じゃからそんな小さな物で
はない﹂
チッチッチッと指を振りながら舐めた様な目つきでこちらを見る
リヴァイ。
この幼女がっ。
リヴァイの説明を軽く聞きながら洞窟を進んで行く。
人の歴史の始まりは、神時代から。
だが、それよりも前に紡がれている歴史と言う物が竜族に伝わっ
ているという。
遥か昔、人は絶滅寸で迄追いやられていた事がある、その時の竜
659
族は世界の観察者としての責務を全うしていたらしい。ノア・アー
クと呼ばれる船大工がまだ幼き神子を託した一隻の方舟。その子を
守るべく船に乗った人々がのち英雄と呼ばれる人物になったそうだ。
と、素晴らしい程色んな物を端折った世界の歴史らしい。
世界の歴史というよりは永年を生きる竜族が見てきた物を人間視
点で考察されたものと言った感じ。
﹁ま、ついてくればわかるのじゃ﹂
そう一言。
﹁人智じゃ追いつかない程の歴史が隠されているんでしょうか﹂
神父も神父で何やらワクワクとした様子。
ってか、スケールがどんどんデカくなっている気がする。
邪神って即行出て来過ぎじゃない?
魔王でいいだろ魔王で。
﹁神と、戦うんだよな?﹂
﹁邪神と呼ばれていますが、神ではありませんので大丈夫です﹂
﹁じゃ、なんだよ﹂
﹁それに近い何かだと私は思っています﹂
﹁いや、一応神の中に名を連ねる一人なんじゃが⋮﹂
660
神じゃねーか!
洞窟の壁に頭を数回打ち付ける。
全然頭が冴えないな!
ってか、壁が抉れて行く。
こら壊すでない!とリヴァイが俺を止めに来るまで打ち付けてい
た。
そしてしばらく洞窟を進むと、行き止まりへとたどり着いた。
どこまでも透き通った深い水たまりが目の前にあるだけである。
﹁もうついたのか?﹂
ある程度察しは付く。
だが一応、一応聞いてみた。
﹁まだじゃよ。これからココを渡るんじゃから﹂
そう言いながら水面を指差す幼女。
やっぱりかい。
661
海竜王女︵後書き︶
タコ足ではない。
幼女やっとでました。
ノーマルプレイヤーモードは、水泳のスキルを取得するとある程度
のレベルまで行けば水中呼吸が出来る様になります。
リアルスキンでは不可能です。水棲の進化をたどらない限り、そう
言う種族でなければ水中呼吸は不可能です。ある程度の身体強化が
無ければ水圧にも押しつぶされます。
662
方舟の秘密
海底洞窟だった。
海竜リヴァイアサンに掴まって、西海域の海底に沈む方舟を目指
して俺達は進む。水中呼吸の魔法を教えてもらったのだが、俺達に
魔法の才能な残念ながら無かった。
グラソン
氷魔法が扱える俺ならば、雪山族の氷雪系魔法が使える俺ならば
水適正はあると思ったんだが、血統的なモノらしく、それ以外の適
正はてんでダメ。
﹁それでも英雄か? いや、英雄故か。みそっかすじゃのぉ∼﹂と
いう言葉と共に、俺達はとりあえずの水中適応魔法を施され、手を
掴まれてダイブした。
次第に光蘚の様な物は無くなり、真っ暗な洞窟を抜ける様になる。
せっかくの海底なんだ深海の風景を眺めてみたかった。
そんな事を思っていると、急に隣でしがみついている神父が光り
出した。
水中適応魔法で海中でもなんとかなっているが、この水圧。
神父よくしがみついてられるな。
馬鹿でかいオース・カーディナルと呼ばれる誓いの十字架を背負
っているのに。
︵少し強化しないと水圧に耐えれませんので、ついでにこの光で海
底観光と行きましょうか︶
663
テレパスが来る。
俺はまだテレパスを習得していないので頷く事で意思表示した。
海底洞窟はどうやらリヴァイの住処への道だったようで。
そのまま広い場所へ抜けた。
相変わらず深海なので真っ暗で何も見えないが、近寄って来る巨
大な甲冑を付けた魚の牙だけが見えた。
︵こりゃお前ら! 変な奴らが寄って来るじゃろが! 明かりやめ
んか︶
フォール
︵お、広域テレパスですか。でも降臨状態じゃないと私しがみつく
力が足りないんですよ︶
︵ぬぉっ! ちょっと尻尾を突かれたではないか、レディの下半身
を突くなど、なんという奴じゃ! その光はよ止めて!︶
︵ふむ、あまり生態系を変えたくはないのですが⋮︶
焦るリヴァイの声。この辺の主ならこんな深海魚黙らせとけよ。
と思ったが眼前に現れたゴツくて巨大な深海魚の目を見つめると
寒気がした。
さっさとこんな場所抜けようぜ。
664
そんな事を思った矢先。
眩い程の光が後方に。
その光は十字架の形をしていた。
︵とりあえず尻に噛み付いていた魚はこれで消しましたよ︶
︵尻っていうな!︶
︵でもほら、これで向こうの光にお魚さん集まってますし︶
異様な光景だな。
巨大な深海魚達が、その光に群がる姿。
普段くらい分珍しいのだろうか。
でも、深海魚って目が良いって利くしな、逆に眩しすぎるんじゃ
ないだろうか。
甲冑魚や、その他にも強靭な鱗を持った魚。
亜海竜種や、アンコウの様に光をぶら下げた魚。
多種多様な魚を後に、俺達は一隻の巨大な船の元へたどり着いた。
その船は、どういう訳か未だ船内中枢部に浸水はしておらず、一
部は風化しているが完璧な形で残っていた。
﹁これが、方舟ですか﹂
調度品も風化している様だった。神時代の始まりだと竜族の歴史
では言われているらしい。俺はその辺は詳しくわからないのだが、
クボヤマの話だと神時代は未だ伝承の域でそれほど多くの記載が乗
665
ってないそうだ。
解明する方法は知ってる物に直接聞くしかないと。
聖職者、神父なんだろ。
じゃ、神様に聞いて来いよと言ってみたら﹁今彼女達の力を借り
ずに修行しているので、この旅が終わってギルドに戻ったら聞いて
みます﹂だと。
え、聞けるの?
風化した調度品を不用意にさわり砕けさせてしまい焦る神父の姿
を見ていると、そんなに偉い奴なのかと疑ってしまう。まぁ、黎明
期から何でも有りだった様な奴だし、そう言う事もあるのだろう。
﹁ママからよく寝る前に話してもらってたのじゃ、この船の一番奥
の安全な場所に英雄への繋がりを隠してあると﹂
子守り話として竜族には伝わっているみたいだ。
ってかママって、お前一体いくつなんだよ。
﹁わしら海竜種は幾千の時を生きるからの、わしは生まれて900
年以上じゃから、人間の年で言うと9歳じゃ、あと50年程で10
00歳を迎えるのぉ∼﹂
そうして長年、来るべき時の為にこの方舟を守り続けている種族。
それが、海王種の中でもその頂点に立つ西海域の守護竜、海竜リヴ
ァイアサンなのである。
名は受け継がれて行くのか。
なんか感慨深い物があるな。
666
俺にも受け継ぐ名前とその鼓動がある。
そんな事を思いながら船長室にたどり着いた。
﹁ここじゃ、これが世界の縮図じゃ﹂
船長室には、ビリヤード台を二つ繋げたくらいの大きさの正方形
のテーブルがあった。そのテーブルには世界地図が立体ホログラム
の様に表されていた。
その世界地図を照らし出しているのは、中央に浮く羅針盤である。
羅針盤の中央には、下半分だけ残された砂時計が未だに砂を貯め続
けていた。
不思議な光景だな。
地図は脈打つ様に風の流れ、波の動きが読み取れる。
そしてこの砂時計の今もなお時を刻む様に落ち続ける砂。
一体何を表しているんだろうか。
﹁これは、世界の動きを表しておる﹂
リヴァイがそう言った。
今現在の世界の動きを観測する事が出来るとか、どんな軍事兵器
ですか。
﹁もしかして、この黒くなっている大地は⋮﹂
﹁魔大陸じゃ﹂
﹁人の支配する大陸と魔の支配する大陸ってことか?﹂
667
﹁違うのじゃ、魔ではなく、邪。邪神の影響を今なお残しておる大
陸の事じゃ﹂
なるほど。北の大地を見てみると、凍土は灰色になっていた。
これはどういう事だ?
﹁まだ邪神の影響は少し残りつつあるという事じゃな﹂
﹁まるで、世界が邪神の勢力に囲まれている様に思えますが⋮?﹂
﹁その通りじゃ﹂
リヴァイは続ける。
黒に包まれていない大陸は、リアルの地球の様な物だった。
形等には若干に違いがあるが、ローロイズがポルトガルだとすれ
ば、最初の街であるジャスアルはリアルでいう地中海のど真ん中。
アラド公国はフランス的な位置。一時期話題になっていたデヴィス
マック連合国はまさに東ヨーロッパ諸国だろう。
﹁だとすれば、北の大地はロシアだな﹂
﹁北の聖門はフィンランドあたりでしょうか﹂
﹁バルド海を消すなんて⋮運営め!﹂
﹁ふ∼む、地形はかなり変わっていますが、大体の位置は掴める様
ですね。魔法都市はイギリスでドワーフの国はオランダ辺りでしょ
うか?﹂
668
そんな事を言い合う俺らに、キョトンとした表情を見せるリヴァ
イ。
まぁ判らなくて正解か。
問題は、丁度現実の世界地図程の大きさの人間の住まう大陸を囲
む様に、三倍程の大きさの真っ黒な大陸がある事だった。
﹁グ○メ界か! 暗○大陸か! 地球四つ分の広大な広さが売りと
かパッケージに書いてあったけどな、ほとんど真っ黒じゃねーか!﹂
運営、もっとしっかり作れよ!
まぁまぁ落ち着いてくださいと宥めるクボヤマ。
俺の勢いはまさに縮図をボコボコにしそうな程だった。
﹁お、恐ろしい奴じゃの。カルシウム足りてないんじゃないか?﹂
﹁というよりも、これはまぁ彼の癖みたいな物なので許して上げて
ください。あれ、この大陸だけ、黒くなってませんね。邪神の影響
を受けている大陸とつながっているのに﹂
﹁そこは人、魔族、獣人、全ての種族が住まう大陸じゃ、北は人の
支配が強いが南は魔族と獣人が強い﹂
そして未だ種族差別問題が根強く残り、混沌とした社会が築かれ
ているらしい。
魔族は全て邪悪かと言うと、そうではないらしい。
﹁そんなことより、英雄との繋がりって世界の縮図の事か?﹂
669
話の本筋を戻す。
たしかに、世界の縮図を見にここへやって来たのだが、最早目的
は違う物になっていた。海竜の伝承に続く、英雄の繋がりとやらを
探しにな。
﹁いいや、世界の縮図とはこの世界の今を表したもの。本来の意味
はわしもあんまりわかっとらん﹂
﹁じゃ、なんなん?﹂
﹁ふ∼む。判らんのじゃ∼、良い所で寝落ちしてしまったからの﹂
くそ幼女!
ここからはノーヒントか、何かしら無いのかクボヤマ。
﹁その?がりがあるとしても、私は英雄の器ではないですし、あな
たも既に英雄の鼓動を持っているでしょう﹂
鍵になるモノ。それは人だとクボヤマは告げた。
たしかに、?がりならば、それに繋がる人物が居なくてはならな
い。
﹁一度戻って人を連れて来るのはいかがでしょうか?﹂
﹁うむ、それが良い様じゃの﹂
そう言ってきびすを返したその時、船内を衝撃が襲う。
﹁な、なんだ!?﹂
670
﹁邪の波動を感じます! 外に出ましょう!﹂
走り出したクボヤマにリヴァイが慌てて水中適応の魔法を掛け直
す。そして俺も掛けてもらいクボヤマの後を追った。
﹁な、一体何故この場所がバレたのじゃ!?﹂
方舟が隠されている場所は、明るい。
発光性の珊瑚礁で照らされているからだ。
だが、その明るい珊瑚礁は方舟以外を映し出している。
デスシーサーペント
大小様々、大量の死海蛇。
671
甲冑を身につけた魚人や、赤いイカも居る。
﹁これはマズいの。帝種の死海蛇が従えとる﹂
﹁やまん。人に聞くより鑑定の魔法を試してみた方が良いですよ?﹂
そうだった。習ってたの忘れていた。
甲冑魚人・古代種
﹃堅牢が甲冑とかした鱗がその身を守る甲冑魚が永年その姿を変え
ず魔力を貯め、邪神の力によって魔族として変異を遂げたもの。古
代種の大きさを保っているため、その身は愚鈍﹄
甲冑魚人・新種
﹃時代に適応して来た深海の甲冑魚。邪神の魔力を帯びてさらに凶
悪に進化した。進化して来た種であり、今もなお進化し続ける。小
型化して居る分、溜め込まれている魔力の質は上質﹄
デビルスクウィット
﹃深海の紅い悪魔と呼ばれているイカ。人を襲う。その凶暴性故、
水面まで浮上して来るので、生息海域にボートで入る事を禁止され
ている。吸盤は牙の様に鋭い﹄
デスシーサーペント
死海蛇・帝種
﹃本来、王種までしか成長しないこの種であるが、稀に誕生する海
の災厄がある。帝種になれば本能的行動から打って変わって知能を
持つユニーク個体としての力を持つ、破壊本能の固まりであるクラ
ーケン種を唯一越える邪海の災厄。その力は竜種に近いとされる﹄
672
凶悪な面々だな、その奥に蠢く黒い影が見える。
こいつは⋮。
イビルクラーケン
﹃邪海の主。キングクラーケンが邪神の力で姿形を変えた。闇に溶
ける様なその身には邪の波動が宿る。キングクラーケンとは比にな
らない程凶悪になってしまった海の怪物﹄
673
方舟の秘密︵後書き︶
ついでに幼女も鑑定しとこうか。
海竜王女リヴァイアサン
﹃海竜・海王種。古くから西海域を守護する存在。竜にしては細長
い姿と持つ、竜と龍とのハーフ。竜の贅力に龍の魔力を併せ持つハ
イブリットとして900年程前に誕生した。親は東洋の神龍﹃ジン
ロン﹄と海竜神﹃レヴィアタン﹄。処女﹄
レヴィアタンと書かれていますが、戒名みたいな物なので。
674
海溝での戦い︵前書き︶
正月更新ですなぁ∼
675
海溝での戦い
リヴァイが魔法を放ち乱海流を巻き起こす。それに巻込まれた邪
海の魔物達は、しばらくは戦場に復帰できないだろう。
まぁそれもただの時間稼ぎに過ぎないが。
乱海流など屁でもないと言う風に塞がる魔物達が居る。
甲冑魚人達と、イビルクラーケンと死海蛇・帝種である。
いくら何でも数が多過ぎるとは思わんかね。
邪の波動に呼応する様に俺の鼓動もアクセル全開になって行く。
﹁応援は呼べないのですかリヴァイ﹂
﹁もうとっくに回りに応援のエコーは飛ばしておるが、この海域は
隠された海域じゃぞ? 届くかどうかが問題じゃよ﹂
クボヤマの問いに、リヴァイはそう答えた。
だが朗報もある。
﹁古き友人にパスを飛ばしたらの、大至急駆けつけるそうじゃ。し
ばらくの辛抱じゃから耐え忍ぼう!﹂
リヴァイは先陣を切って魔法を放つ。
本来の姿に戻らないのは、俺達が巻き添えを食らわない様に配慮
している為だ。
だが彼女は水系魔術のプロと言っても良い。
水流操作によって俺達の戦闘を補助してくれていた。
676
対する俺は、水流のお陰で直線的な動きと敵からの遠距離攻撃は
防げていると言う物、凍らないんだよ流動する水は。
﹁ちょっと、神父だけにしてくれないかその水流。凍らないんだよ﹂
﹁あ、私も水中適応の魔法だけでもやって行けますので大丈夫です﹂
俺とクボヤマが同時に言う。
﹁なんじゃ! 人がせっかく手助けしとるというのに、まぁ仕方な
いの。十分強いしなおぬしら﹂
拗ね出した幼女は放ったらかしにしておく。
俺が相手すべきは甲冑魚人。
イビルクラーケンはリヴァイに。
帝種はクボヤマにそれぞれ任せてある。
と、言うよりも甲冑を破壊できそうなのが俺のゲンノーンしか無
かったんだよな。固い岩肌に突き立てる道具としても使っていたの
で、俺のゲンノーンは放置して気泡が溶けて強固になった氷すら砕
く。
全身から冷気を出す。
凍れ魚共。
海流の動きが徐々に停止して行く。
結構難しい。
677
ってか本当に凍るのかよ。
だが、俺の足下から結晶化していく地面。
アクセル・ブラッド
﹁躍動する鼓動﹂
身体が温まって来た。
それに合わせて俺の身体を血管の様に張り巡らされた刺青が光を
帯びて行く。髪も白銀を帯びて行く。
大物二人の手助けをしないといかんのでな。
お前らの相手は出来るだけ手短に住まそう。
俺は甲冑魚人・新種に肉薄すると。
ゲンノーンを両手で振り下ろした。
二つの切先が甲冑魚人の兜割りする。
かなり固い手応えがあった、そして魚人の頭はヒビが入って中身
を剥き出しにする。
甲冑で覆われた魚人の頭は割ってみれば白い膜で包まれた中身が
あった。
脳髄を覆う膜は水圧に耐えられない様で、拉げて潰れた。
香ばしい匂いを漂わせ水揚げされた魚の様にビチビチ痙攣する新
種を放っといて、古代種に向かう。
デカい図体のわりに速いとは思うが、今の俺からすれば愚鈍であ
る。
関節部を凍らせる。
これ、内部から凍傷にしても行けるんじゃないか?
678
新種の中身は案外脆かったしな。
甲冑を着ていると言うより、皮膚、鱗が甲冑に進化したと言った
方が正しい見解なのであろう。
ゴリゴリと関節部の甲冑が擦れる音が響く。
水中適応魔法すばらしい、音迄聞こえるんだもんな∼。
今回は相性が抜群だ。
ポケ○ンで表示するならば﹃こうかばつぐんだ﹄なんだろうな。
少しイタズラ心が芽生える。
甲冑魚人・古代種の装甲を剥がしたらどうなってるんだろう。
とりあえず胸の部分をゲンノーンでテコの原理を使って引っ?が
した。
わお、透き通っているのね。シースルー。
全然嬉しくないわい。
さっさと死ね。
俺が直接手を下す事も無く、脆い部分は水圧で拉げて霧散した。
ってかこの装甲って何かに使えるかもな。
一応拾っておいて覚えたばかりの空間拡張された袋に突っ込んで
行く。
679
さて、とっとと応援に回ろう。
リヴァイはキングクラーケンを追っ払えるくらい何だから、イビ
ルになったクラーケンと戦っても戦力差は変わらないだろう。
そう思ってクボヤマを見ると、ぶっ飛んでいた。
俺に方に向かって。
一緒に弾き飛ばされて光る珊瑚礁に減り込む。
光る珊瑚の破片で水流を濁らせながらも、戦場復帰した。
クボヤマの回復魔法が地味に聞いている。
﹁う∼む。考えものですね。適当に攻撃してくれれば弾いて消滅ま
で持って行けるんですが、知能も発達しているようで迂闊に頭を向
けてくれません﹂
﹁帝種はユニーク個体だと鑑定結果が出たぞ﹂
﹁精密鑑定では弱点までわかりますよ﹂
そう言うクボヤマに弱点を聞く。
﹁頭を消滅させれば勝ちです﹂
ニヤリと言うクボヤマ。
このバトルジャンキー神父め。そんなの誰だって死ぬだろが!
だが、その戦いでは単純な所嫌いじゃないぜ。
680
共同戦線と行こう!
共に足並み揃えて戦場へ踏み出したその時、帝種の咆哮が響いた。
耳を劈く様な振動が押し寄せる。
リヴァイも思わず怯んでしまう程、だがこの一瞬の隙はイビルク
ラーケンの絶好の機会となる。
﹁うぉ! やめんかタコ! やめぬかぁああ! キャッ﹂
真っ黒で極太なタコ足に捕われてしまったリヴァイアサン。
ウネウネと嫌らしい動きでこの捉えた小娘をどうしようかと悩ま
しい動きをするタコ足。
おい、それ以上アレすると児ポに引っ掛かるぞ!
﹁邪の波動。イビルクラーケンが持つと思ってましたが、まさか本
命は帝種だったなんて⋮﹂
﹁心臓がバクンと来るあれか?﹂
そんな事を言っていると、帝種の死海蛇が話しかけて来る。
﹁我、邪神様の野望を果たさんとここへきた。その竜種の小娘の命
と引き換えにその船を渡してもらおう﹂
取引ですか。本当に魔物ですか?
﹁止すのじゃ。絶対にダメなのじゃ。方舟は我が海竜種が命を賭し
ても守るもの。揺れるな神父と英雄の血族モガッ!﹂
681
リヴァイの口を塞ぐ様にクラーケンの足が口内に侵入する。
顎に力が入り辛いのか、なかなか噛み切る事が出来ずに暴れるリ
ヴァイ。
だが、完全に四肢を絡めとられている彼女の動きは網にかかった
魚の様だった。
そんな彼女の身体を舐め回す様に蠢くタコの足先。
ジポ!ジポオオオオオオオ!
﹁本当に彼女を離してもらえるんでしょうか?﹂
オースカーディナルを置き、手を挙げてクボヤマがそう尋ねる。
﹁約束は守ろう﹂
﹁まて、俺は退かない。屈しないぞ。抗い続けてやる!﹂
それがたとえ無駄だとしてもな!
お前は一人で戦ってるのかクボヤマ。
何の為に俺は山を下りたんだ、あの時デッキの上で協力する事を
誓ったじゃないか。海上での戦いでもそうだが、一人で背負い込む
な。
アラン
﹁退かぬ心! 今なら出来る気がするぜ、英雄! 動けよ神父! 役目を判っているはずだぜ﹂
帝種に向かってゲンノーンを投げつけると駆け出した。
682
たこ焼きにして来ますと一言に、クボヤマも同時に駆ける。
鼓動が躍動している時、俺の魔力は英気へと変わる。
そして英気は俺の存在価値でもある。
爆発的に膨れ上がった英気は相手を威圧するだろう。
そう、誰かが語りかける様に俺を行動させる。
﹁ぬっ、無駄。我は竜種に近い存在になった帝種。そして邪神様の
お陰で竜種すら驕れる様になった存在﹂
帝種の咆哮と、俺の咆哮が重なる。
ずいぶん野性的な戦い方だが、自分を鼓舞して勝利を勝ち取れ。
横目で見ると、イビルクラーケンの腕を十字に輝く光が焼いてい
る所だった。その表情は少し辛そうに焦っていた。
だが、無事に取り戻したようだ。そしてリヴァイに何かジェスチ
ャーしていた、喋れば良いのに。
俺は勢いを保ちながら帝種とかち合う予定だった。
だが、その勢いは途中で失速してしまう。
ガボッ。
海水が身体中の至る所から侵入して来る。
﹁ふんっ、所詮水中では生きれぬ下賎が﹂
叩かれた俺は身体から空気を一気に失い酸欠状態に突入しそうに
なる。
身体が丈夫で良かった。
683
だが、相応のダメージは負ってしまった。
クボヤマが回復魔法を施しにやって来る。
彼も水中適応の魔法が切れているはずなのに、いや、俺よりも才
能が無い彼は、とっくの昔に切れていた可能性がある。
その状態だからこそ無謀な駆けに出なかったんじゃないか。
俺はつくづく無駄な事をしてしまっている様な気がする。
︵リヴァイ、もう魔力は回復しましたか!?︶
︵ひ、一人分だけじゃがの、イビルクラーケンは魔力を吸収してし
まう能力を持ってるみたいじゃ、そしてわしの魔力の回復も邪の波
動で遅くなっておる⋮︶
︵彼をここで死なせてしまう訳には行きません、彼に水中適応を。
私は回復に勤めます︶
︵しかしおぬしは!?︶
︵私は仮死状態でもシスターズがいれば最復活できます︶
︵しかしの︶
︵お願いします︶
と、広域テレパスが伝わって来る。
そして身体が急激に酸素を取り込む事が出来る様になった。
グッと親指を立てたまま知らない海流に流されて行く神父。
684
ちょっとまて、何やってんだおまえ。
﹁おい! おい! ふざけんなっ!﹂
英気が戻る。波動になって回りに伝わる。
これには流石の帝種も怯んでいる様だった。
海流止まれや!
こんな広大で真っ暗な海に流されたらどうなるか判ってんのか!
すっかり死に戻りする事すら頭に入っていなかった俺は、ただた
だ流れ行くクボヤマに縋ろうとしていた。
そんな俺をリヴァイが止めに入る。
﹁まて、今は帝種を止めるのが先決じゃ!﹂
﹁くっそ!﹂
わしも後で追うの手伝ってやるとリヴァイはそう言って帝種に向
き直す。
邪の波動が繰り出されてから、リヴァイの動きは目に見えて遅く
なっていた。
﹁何者かにこの海域に竜脈が汚染されておる⋮そっちもどうにかせ
ねばならぬのに﹂
焦りは禁物だ。
だが、このパターンは何処かで聞いた事があるな。
﹁北の大地でもそうだった。その竜脈を守るのはだれだ?﹂
685
ディープホエール
﹁深海鯨のマっくんじゃよ。応援に呼んどるんじゃが、そろそろ着
ても良い時間じゃと言うのに連絡がとれん。万事休すってやつじゃ﹂
弱音を吐くな馬鹿。
ここは俺に任せて竜脈の汚れを払って来い。
﹁しかしの、また切れたらどうするんじゃ﹂
﹁掛け直せるのか?﹂
その問いには首を振るリヴァイ。
どうやら既に魔力が回復しないレベルに到達してしまったらしい。
﹁なら時間前に終らせるまでだな!﹂
そう言いながら帝種を改めて見据える。
竜の様な巨大な体躯から不気味に光る目が此方を粛々と窺ってい
て、その瞳には間違いなく理性が宿り行動させている。
そして魔力供給が追いつかなくなった最初にリヴァイが出した水
流の防御壁も霧散して消え去って行く。
そして戦場から強制離脱させられていた凶悪な魔物達の残りが次
々と戦線復帰して俺達二人を取り囲んで行った。
﹁ハハハ。あの神父に逆らわなければよかったな。人間とはこれほ
どまでにおろか!!﹂
もっともな言葉を魔物から浴びせかけられる。
考えなければ、この境地を切り抜けれる方法を。
686
︽笑え、少年。逆境であればある程︾
あの男の声が聞こえた気がした。
﹁ハハハ⋮ハハハハッ! ハッハッハッハ!!﹂
いきなり笑い出した俺にリヴァイが困惑する。
そしてそれが癪に障ったのか、帝種の魔物は身じろぎをしながら
叫び返す。
﹁なにがおかしい! 下賎が笑うな!﹂
﹁言葉を覚えたばっかりの赤ん坊が喋ってるみたいだぜ﹂
ニヤリ。
ぶっちゃけどうしようもない、当たってくだけろ作戦しか今の俺
には思い浮かばない。そんな状況でとりあえず笑っている俺は狂気
に満ちあふれている様に見えるのだろうか。
﹁な、何か良い作戦があるのじゃな!?﹂
そ、そんなもの⋮⋮。
﹁ある!﹂
687
当たって砕けろ作戦だけどな。
そう心の中で呟くと、どこからとも無く何かの声が聞こえて来た。
︽⋮ォォォオオオオオオン⋮︾
︽⋮オオオオオオオオン⋮︾
﹃オオオオオオオオン!!!!﹄
688
特大の咆哮を上げながらとんでもなく大きな黒い鯨が一隻の潜水
艦を引いてこの空間に突撃して来た。
帝種の死海蛇は辛うじて急な襲撃を交わしたが、イビルクラーケ
ンは直撃してしまった。そして、噛み付いた鯨と巨大なタコの揉み
合いが勃発する。
﹁マっくんじゃ! お∼い! マっくん!!﹂
急に手を降り出す幼女。
そして引かれていた一隻の潜水艦が近づいて来る。
中から出て来たのは神父クボヤマと一人の少女だった。
﹁助かりましたよ。ありがとうございます釣王﹂
イカルガ
﹁伊?留我の友達の鯨に付いて行ったら貴方が死んだ様に流れて来
るんだもの、マリアもワタシも心臓が止まるかと思ったわ﹂
伊?留我と呼ばれる巨大なダイオウイカが帝種を牽制している。
マリアは水圧に耐えられないので潜水艦の中で此方を見守ってい
た。
﹁そうだ釣王、貴方なら方舟を動かせるかもしれません!﹂
689
690
海溝での戦い︵後書き︶
戦闘描写荒くってすいません。
正月なのでノリで書いてます。
久々の3話更新でした。
もう2回今日中に行けたらいいなぁです。
691
−幕間−兆候を感じる者︵前書き︶
三人称視点です。
692
−幕間−兆候を感じる者
西端の国ローロイズでは、少し前に剣鬼と呼ばれ世間を騒がした
男が滞在していた。この男、いつだかのプレイヤーズイベントにて
準優勝賞品である飛竜の卵をジャンケンで勝ち取ってから、その扱
い方を学ぶ為に竜騎士で有名なこの国を訪れていたのだが、何の因
果か判らないが王位継承権第7位の姫君に見初められてしまい、そ
のまま権力争い柵の中へと放り込まれてしまった。
いや、放り込まれてしまったという表現は、この剣の鬼に向かっ
て全く持って烏滸がましいだろう。彼は自ら足を運んだのである。
その理由も、飛竜を扱う技術を学ぶなら王国内部に入ってしまえ
ば手っ取り早いと思ったからだとか。
それを知ってか知らずか、権謀術数に長けた彼の仲間にも被害が
及ぶ事になる。この男、使えるモノは使っておくという性分でもあ
ったりする。あれだけ自分の武に対しては遥か高みを熱く考える事
が出来る男だというのに、金銭関係やその他あまり武と関わりがな
い事に関してはいくらでも下衆が付く行為を何とも思っていないあ
たり、どうしてあの神父と馬が合うのか、そんな議論もどこぞで起
こった程であった。
﹁ユウジン様∼!﹂
ローロイズの次期女王であるエレシアナ・ケイト・アルバルトが
王宮の広い通路を小走りで駆けて来る。
ユウジンは振り返る事もせず、ただ距離を近くして彼の斜め後ろ
を歩く彼女を黙って受け入れるだけだった。
693
次期女王がほぼ確定している彼女を斜め後ろに据えるなんぞ、こ
の国の中枢部の頭の固い者達が一目見れば処刑確定されてしまう様
な事態に発展してしまうのに、彼に所謂ゾッコン状態であるエレシ
アナを見れば何も言えないのである。
快活にユウジンの名を呼んだ彼女も、それから先は全く持って口
を開こうとせず、ただひたすら彼の斜め後ろに寄り添って頬を染め
ながら歩くという、亭主関白を支える妻の様な行動を取っている。
だが、断じて違う。これは彼女が驚くべき程恋愛に対して初心な
だけだ。
一時は遠い国に逃され、自分を支えてくれる者の為に我武者らに
行動しては見た物の、昔の自分の放漫な態度が権力の通じない世界
で余計な顰蹙を買い、上手く行かない事が多かった。
だが、それもある出来事に寄って改める事に至った。
その当時身を隠していた魔法都市の隣国である﹃鍛冶の国エレー
シオ﹄にて、その国随一の商会を味方に付けようと見学に行った時、
その放漫な態度からとある頑固爺とその弟子と思われる男にいとも
簡単にあしらわれたのであった。
ここはドワーフの国だ、豪に入ったら豪に従えと。そう言って何
事も無かった様に真剣な表情で鍛冶に打ち込む彼等。
魔法学校では、権力と言う物が一部生徒には通じていたので、何
故自分が顰蹙の目を受けているのかすらに気付かなかったのだ。た
だ、権威に嫉妬しているんだと濁り切った目で彼女は世間を見つめ
ていた。
職人気質の街では一切通じなかった。
694
そして自分の目の色と、真剣に鍛冶に打ち込む彼等の目。その違
いに衝撃を受けた彼女は、止める部下を強引に黙らせて、均整のと
れた鍛冶の国ならではの技術が使われた公園のベンチにてただひた
すらボーっと上の空で考えていた。
その隙をついた暗殺者に狙われ、だが、さっきは悪かったなと謝
りに来たユウジンに助けられる事で難を逃れた彼女は、惚れてしま
ったのである。
その時お詫びの印として彼が作った一点物のブローチを彼女は今
も肌身離さず持ち続けている。
ちなみに、その時の事を上司に怒られて謝りに行くだけだったユ
ウジンは覚えていない。そして丁度彼の刀は完成し、翌日プレイヤ
ーズイベントの為にクボヤマ達の居る魔法都市へ発っていたので、
改めてお礼にとその鍛冶屋を尋ねた時には、既に居なかった。
これがファーストコンタクト。エレシアナが変わる切っ掛けであ
った。そして商会を味方に付けたエレシアナは、魔法学園にて、元
々Sクラスとしてあった実力を己の力で開花させ、変わったエレシ
アナはそのカリスマ性で味方を次々と引き込んで行く。
話は戻って、ユウジンはどこへ向かっているのかというと、竜舎
の元だ。護国竜の眷属である飛竜達が休める場所へと足を運ぶ。
自身の育てている飛竜の卵は、未だ孵化する様子を見せていない。
元々竜種の卵を孵化させる方法を探るべくこの地へやってきた訳だ
が、国中枢部に足を踏み込み過ぎて逆に身動きが取れなくなってい
た。
695
︵めんどくせぇな。クボもどこほっつき歩いてるんだか︶
翼があれば飛んでしまいたくなる程の晴天の下、中庭を歩く。護
国竜に預けた卵の様子を見に行くのは彼の日課になっていた。竜の
卵は影響を受け易い。
元々、卵を孵化させる為には、肌身離さず持つ事によって自身の
魔力を卵の中に居る竜に少しずつ提供する事が必要となってくる。
そうすれば卵を割って外に出るだけの力を持った時、自然と外界
に姿を現す竜なのだが、ユウジンの魔力は元々あるかないかの微量
だったため必要分の魔力を供給する事が出来なかった。
護国竜の話によると、すでに産まれる直前の状態に卵は到着して
いるらしい。ただ、少ない魔力の代わりに別の力が宿っているため、
孵化には別の刺激が必要となって来ていた。
産まれて来る飛竜は、飛竜なのかすら判らないと。それほどまで
に変質してしまった卵の話を聞いて、ユウジンはワクワクしていた。
﹁剣聖様。護国竜様がお呼びです﹂
中庭を抜けて外へ抜け出そうという時、竜官達が行く手を遮る。
﹁なんだ? 俺は卵の様子を見に行くんだけど﹂
﹁その卵についてです﹂
雰囲気が変わった竜官の後に続いて、護国竜の居る場所へ向かう。
護国竜とはこの地を守護するドラゴンの事であり、それは別称﹃
696
グランドドラゴン
大地竜﹄とも呼ばれている翡翠色をしたドラゴンの事である。
この竜の他にも、空を統べる飛竜の長。紅竜がいる。互いに持ち
つ持たれつの関係だが、護国竜と呼ばれる翡翠竜のみ内政に干渉し
ている。
王宮直下に作られた巨大な空洞がその翡翠竜の住む場所。神殿の
様に整備された階段を下り、巨大な竜が通れる程の大きな道を行く
と、翡翠竜の休む場所にたどり着く。
﹃卵を守りし、剣の鬼よ。そなたの卵に一抹の動きがあった﹄
﹁まじか! どうなってる!﹂
護国竜とユウジンの間に魔法陣が広がり、飛竜の卵が安置されて
いる場所が映し出される。映像からも卵の脈動を感じる事が出来る。
﹁もはや魔力とは別の力を持った生命となっている。私も想像がつ
かん⋮﹂
脈打つ卵を見ながら、護国竜がこの卵の予想を話し始めた。
﹁あくまで私の予測だが、孵化の切っ掛けとは世界の危機かもしれ
ん。ここ最近、邪神の軍勢が再びこの地を攻めようとする動きを感
じ取っている﹂
今阻止せんと動き出している英雄も居るが。と付け加える。
﹁ってことは、RPG的な考え方で捉えたら、この卵の孵化は何か
が起こった時だって言うのか?﹂
697
﹁その考え方の根底が判らんが、とにかくもう少し経過を見ないと
わからんな﹂
控える竜官達を置き去りにして、一人と一竜は話を進めて行く。
ローロイズの土地柄、特殊な事が起こらない限り真っ先に攻めら
れる事が自明の理である。もし、隣接した魔大陸と呼ばれる友好的
な魔族の土地がもし、邪神によって180度その価値観を変えてし
まった場合。
護国竜が守るとは言え、小国のから少し抜き出た程度であるこの
国は、耐えきれないだろう。
﹁内政もそろそろ安定してくるこの国に、更なる試練が待ち構えて
るのかもしれん﹂
その言葉を聞きながらユウジンは護国竜の殿を後にした。
何にせよ、今やれる事は己の鍛錬のみだったりする。飛竜に関す
る知識はあらかた学び尽くした。竜騎士としても一応の訓練は受け
ているのだが、騎士槍は自分の肌に合わなかったのでパス。
どちらにせよ、ただの飛竜が産まれて来る訳ではないと感じてい
るので、ただの竜騎士としての考え方が通用するのか。
﹁ま、何かあればクボが顔出すだろう﹂
親しい友人はそう言う定めにある。どうせ邪神絡みの件も、あの
神父が中心で足掻いているんだろうと。
だいたい、ユウジンの記憶の中でも古い教会でのガーゴイル事件
は鮮明に記憶に残っている。
698
クボヤマは必ず何かとんでもない物を引っさげてローロイズへや
って来る。それは彼の中で絶対的に確証を持って言える事だった。
証拠は無いが、確証はある。
そんな事を考えながら王宮の訓練所へと足を運ぶ。
王宮での地位から剣聖とは呼ばれている物の、一部の兵士にはそ
の訓練の厳しさから偶然にも剣の鬼と呼ばれている事は内緒である。
姿を見せた彼に、訓練中の兵士は顔を引きつりながらその日自分
の足で歩いて帰れるかどうか、竜神様に祈るのであった。
699
−幕間−兆候を感じる者︵後書き︶
何やってんのあんたら!とグラノフとユウジンはグランツに怒ら
れています。ですが、神鉄の加工段階で、ようやく完成にこぎ着け
ていた所でしたのでピリピリしていて邪魔されたくなかったんでし
ょうね。
邪神アップデート、はっじまっるよ∼。
700
−幕間−とある掲示板3
[攻略掲示板18]
ID:∞
ID:∞
37:RIOに代わりまして?魔導師がお送りします
過疎化も進むねぇ
流石ノーマルプレイモード
君らは半リアル? 普通にノーマル?
38:RIOに代わりまして戦闘士がお送りします
俺はノーマル勢。ぶっちゃけリアルスキンとか糞。
ID:∞
MMO﹃RPG﹄ゲームだろ、セカンドライフしてるわけじゃねん
だよ
39:RIOに代わりまして漁師がお送りします
こらこら喧嘩するな。
この掲示板に書き込めるってことはみなノーマル勢だろ。
俺は釣王のギルドで半リアル漁師プレイ笑
ID:∞
ID:∞
40:RIOに代わりまして炎魔術師がお送りします
あら、見た事無い職種ね>>37さん。
まさかノーマル廃人勢かしら?
41:RIOに代わりまして猟師がお送りします
?魔導士とかJOKERのほむほむしかなってる人知らないんだが∼
ID:∞
猟師系と漁師系は上位職が判ってないからバレないけどね
42:RIOに代わりまして?魔導士がお送りします
俺の事知ってるってことは∼?
701
まかさ韋駄天ちゃんだな?
最近どこまで進んだの?
43:RIOに代わりまして戦闘士がお送りします
韋駄天氏ktkr!!
ノーマル勢のエース!
44:RIOに代わりまして戦術師がお送りします
情報はよ!
45:RIOに代わりまして戦争屋がお送りします
頼むわ
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
46:RIOに代わりまして炎魔術師がお送りします
馬鹿共は成長しても変わらないのね
47:RIOに代わりまして戦闘士がお送りします
おい!
>>44−45の職種が俺と違う件に付いて
なに? ハブなの?
ID:∞
ID:∞
48:RIOに代わりまして焔魔導士がお送りします
ぷーくすくす
49:RIOに代わりまして猟師がお送りします
ほむほむ、煽りは辞めた方が良いよ∼。
プレイスタイルには文句言わないけどね?
ノーマルプレイヤーだけど、リアル勢と手を組んでなんとか攻略を
進めてるよ∼。
702
ID:∞
ID:∞
ID:∞
ID:∞
今仏門の信用度頑張って上げて、韋駄天クエクリアした所。
ほい称号画像。
↓︽イメージ︾
50:RIOに代わりまして戦闘士がお送りします
すげええええええええ
51:RIOに代わりまして氷魔術師がお送りします
何その称号?
ってかレベルヤバくね?
52:RIOに代わりまして炎魔術師がお送りします
廃人プレイヤーの鑑だわ
53:RIOに代わりまして?魔導士がお送りします
JOKERのモットーが今の所レベルを上げて物理でなんたらだか
らな∼
ID:∞
そんな事より炎魔術師さんよ、同じ属性同士で火山のデートでと洒
落込まないかい?
54:RIOに代わりまして法術師がお送りします
俺もノーマルでかなり早めに仏門やってみたけど
ID:∞
ID:∞
どうやったらそこまで信用度貯めれるっちゅう話じゃい
55:RIOに代わりまして戦術師がお送りします
裏技はよ!
56:RIOに代わりまして戦争屋がお送りします
たのむわ
703
57:RIOに代わりまして戦闘士がお送りします
>>55−56
おまえらも何やったか教えろ糞共
ID:∞
ID:∞
ID:∞
58:RIOに代わりまして炎魔術師がお送りします
>>55−57
仲間割れは止しなさいよ
>>53
あら、いいわよ?
でも私まだデート用の装備持ってないのよ
59:RIOに代わりまして侍がお送りします
俺もハンターランクとは別に仏門にも入ってるんだが、ノーマルプ
レイにリアルスキンと同じ仕様を求めないでほしいよな
ID:∞
修行が苦痛だった、まぁ耐えた分だけ返って来るんだけど
60:RIOに代わりまして猟師がお送りします
仏門のコツはそうだな∼
ID:∞
リアルスキン勢よりは幾分楽だと思うけど、規律は一応確り守った
方が良いよ∼
61:RIOに代わりまして戦闘士がお送りします
戦士系上位職は本当に自分のスキルレベルとかだから助かってるけど
ID:∞
更に上位に進む為には宗教的信用度を高めたくてはいけないのか
62:RIOに代わりまして?魔導士がお送りします
>>58
もうそんなのいくらでも買ってあげる!
704
キヌヤで耐性服も下着もなんもかんも手に入るからね今はぐふふふ
ふふ
ID:∞
ほんまリアルスキンプレイヤー︵一部の方︶様々やでぇ∼!
63:RIOに代わりまして戦術師がお送りします
>>61
ID:∞
ID:∞
ID:∞
宗教とは関係無いけど、国の兵団に所属して位を上げて行けばこの
職業には付ける
俺将棋好きだから参謀狙いかな∼
ま、別ゲーしてる気分だけど
64:RIOに代わりまして神父がお送りします
僧侶から神父になれました!
教団に所属してます!
目指すはクボヤマ枢機卿です!
65:RIOに代わりまして戦闘士がお送りします
>>63
へぇ∼、じゃ、俺は元帥目指そうかな
どこ所属? 俺もそこ行くよ
66:RIOに代わりまして炎魔術師がお送りします
>>62
ID:∞
あなたのプレイヤーネームは知ってるから今度連絡送るわね
他にも杖とか色々楽しみにしてるわ
67:RIOに代わりまして漁師がお送りします
毎回だけど、攻略板なんだがな⋮
705
68:RIOに代わりまして侍がお送りします
>>64
遂にレア職?になれたのかおめでとう!
クボヤマ神父ってプレイヤーズイベントの?
枢機卿って教団二番手くらい高位じゃない?
一応専用スレに報告しとけ
ID:∞
ID:∞
↓︻リアルスキン︼とある神父のトトカルチョ33︻ユニーク︼
69:RIOに代わりまして戦術師がお送りします
変態と魔女︵魔性の女︶がいる。
だめだ早くなんとかしないと
>>65
え、やだ⋮きもぃ
ID:∞
ID:∞
70:RIOに代わりまして戦闘士がお送りします
orz
orz
o...rz
71:RIOに代わりまして猟師がお送りします
せっかく情報提示してんのにこの流れ
攻略する気無いだろ
706
707
思考空間での一幕︵前書き︶
視点が色々と変わり始めます。短いです。
708
思考空間での一幕
シスターズをセーフティーモードにした俺は、意識の海の中に埋
没して行く。
聖なるオーラに包まれた、所謂仮死状態って奴?
シスターズ
もっと細かく説明すれば、固有思考空間へのアクセス。結構前に
いつの間にか並列思考が出来る様になっていた俺は、聖書の力に寄
って思考空間へのアクセスが可能になっていた。
セルフ精神と時の部屋と化した俺の精神世界には、誓約を結んだ
聖書と巨大な十字架が鎮座しており、より集中できて綿密な思考の
手助けをしてくれている。
ただし、戦闘中は使えませんけどね。
シスターズ
意識が一瞬ブラックアウトする訳だ、こんなの祈り特化した一室
に過ぎない。
オースカーディナル
誓いの十字架と聖書との誓約を今一度認識させる場所でもある。
はぁ、聖書さんが恋しいよ。
クロスたそクロスたそクロスたそ。
こんなドデカい十字架、早く捨て去りたい。
片手が塞がるって本当に嫌だね、攻撃力は申し分無いけどさ。
魔力ちゃんが嫌がって持とうとしないじゃないか。
さて、今頃俺は海の中を漂っているはずだ。
目が覚める時は誰かが俺を拾ってくれた時か、深海の生物に喰わ
709
れた時だろうな。
一種の賭けである。
フラリと寄った北の大地だが、思わぬ拾い物をした。
雪山族の一件があるまで邪神の事はすっかり忘れていた、何せ復
活させてしまったのは俺なんだから。
彼を面倒くさい状況に巻込んでしまったのは本当に申し訳ないが、
英雄の鼓動だって。そんなん絶対後々必要になって来る力じゃない
か。
結構他力本願で助かって来たからな、俺はただひたすら仲間を集
める事を意識して動こう。
あと、フォルに謝る準備も整えておかなくてはならないな。
早く仲間の顔が見たい。みんなどうしているんだろうか。
ケジメというか、ロールプレイというか。
リアルでの絡み以外は一切の連絡を絶っていたからな、それも皆
判っている様だったので何も聞いて来なかったが、また一緒に冒険
した時は道中暇つぶしの話として語ろうと思う。
俺が枢機卿になるに至ったまでの旅路の話をね。
さて思考空間内は暇だ。
暇だと言っても祈り続ける訳ですが、今回は置いとこう。
西海域の海を警護するギルドがある。
﹃遠洋﹄だ。
710
ギルドリーダーの釣王とは話が分かる仲である。
俺の実家が漁師など海産業をしているからな、俺の実体験を踏ま
えて色々と教授したことがあった。
それが切っ掛けで一度リアルでも海洋の生態系を学びに行こうと
誘われて、丁度仕事で沖縄に着ていた俺は、ホイホイと彼女の誘い
に応じてしまった事がある。
え∼なに、水族館デートですか?
とか思うじゃん?
普通に海域や水質毎に適した生態系とか、養殖産業についてにレ
ポートを調べに行っただけだった。
実家はハマチとフグの養殖だから、あんまりそう言うの関係無い
んだけど。
スピードチューナ
彼女は大型回遊魚と言う、クロマグロの様な回遊魚の養殖をゲー
ム内で企てているらしい。
どうやら無事成功しているようで、なによりだ。
話がズレたが、もしかしたら航海士として見事な手腕を見せてい
る釣王が方舟の手掛かりを掴む切っ掛けになるかもしれない。これ
は覚えておこう。
そう言えば、方舟内の世界の縮図を横目でちらっと見たが、聖王
711
都ビクトリアの一部にどす黒いモヤモヤが小さく蠢いている姿を見
た。
きな臭い匂いがする。
早い所、この戦いを終わらせてビクトリアの大教会へ急がなけれ
ばならないかもしれない。
うん。彼なら、やまんならきっと勝てるだろう。
それにしても、英雄の力って凄いな。
神時代、神ならずしてこの地に生きた英傑の事だろう。世界の源
となり人々を守る神が居るとすれば、英雄は地に残り残された人々
を守る者。
凄くカッコいい。
何だよ神父って、白髪もバレるし。
ってか納得いってねぇからな、白髪とか。
その内まじもんの神父みたいにてっぺんハゲになってしまうんだ
ろうか。
これは、製薬研究をしなくちゃ行けない。
神の腕を持った生産職を探そう、キヌヤさん当たりに紹介しても
らえればなんとかならないか?
RSMPも人口増加をたどってるしな。
そんなこんな考えがまとまりを見せなくなって来た時、俺の意識
を呼び起こす声が聞こえる。
お、誰かが俺を助けてくれたみたいだな。
712
はいはーい。今出ますよ∼。
713
思考空間での一幕︵後書き︶
神父の愚痴回でした笑
セカンドライフをしに来たRSMPのお陰で、この世界の技術は大
きく向上しています。プレイヤー主催イベントもちらほら見え隠れ
している様です。
農村を現代技術で繁栄させる!とかはそこそこちゃんとした知識を
持っていれば出来ると思いますが、現実の大地のファンタジー世界
の大地を比べては行けませんよ。土壌の検証から始めないと行けま
せんからね。
因に国を作るだの内政だのは、国内部に入り込む事難易度が超絶級
なのでほぼほぼ不可能です。
自作自演だったら可能でしょうけどね。王女を魔物に襲わせるとか。
そう言う悪事にはボロが出るでしょう。
714
海溝での決着︵前書き︶
今回後書きもストーリーの中に入っています。
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海溝での決着
釣王と呼ばれるライフジャケットを着用した黒髪の女の子は、ク
ボヤマの提言に素っ頓狂な声を上げた。
﹁⋮一体どういう事かしら?﹂
一瞬美少女が驚く表情を見せてくれた釣王は、即行で元のブスっ
とした真顔に戻して聞き返す。それでも十分蛍光色のライフジャケ
ットにフレアスカートという異色の服装が似合う程の切れ目美人な
のだが⋮。
﹁アレを見てください﹂
﹁⋮おっきい船だわ﹂
イカルガ
クボヤマが海底に鎮座する方舟を指差す。未だ回りでは死海蛇・
帝種と伊?留我と呼ばれる大王イカの睨み合い、そして魔力を吸い
ディープホエール
取ってしまうイビルクラーケンと海竜王女リヴァイにマっくんと呼
ばれる巨大な深海鯨の取っ組み合いが勃発している。
怪獣大戦争だな。
そんな中俺達の間だけでは謎にシリアスな空気が産まれつつあっ
た。
﹁海竜の間で受け継がれる英雄との繋がりが、あの方舟に隠されて
いるらしいです﹂
﹁海竜からは何も聞いてないわ、ってちょっと⋮!﹂
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付いて来てくださいと釣王の手を引いて強引に方舟へと向かって
行く神父。おいおい、女の子をそんな強引に扱うもんじゃない。
釣王も釣王で握られた手を凝視しながらテクテク付いて行く。元
々表情が少ない人なのか、ポーカーフェイスなのか知らんが、嫌が
ってないなら良いけど。
そんな様子をジッと見続けるマリア。
こわっ。
﹁たしかに釣王は西海域一の航海士じゃ、母なる海への貢献度も他
を凌いどるからの、もしかしたら方舟の手掛かりがつかめるかもし
れぬ﹂
鯨の応援から戻って来たリヴァイが言う。
俺も話に流されるまま、彼等について方舟内部へと再び向かう。
ディープホエール
外では相変わらずすったもんだの大騒ぎしているんだが、深海鯨
はイビルクラーケンの鋭い吸盤を物ともせず噛み付いている。
もしかして食べてんの?
﹁マっくんは海の浄化を司るからな、魔力も吸い取られるどころか
浄化しよる﹂
目にハートマークを浮かべてそうなリヴァイのウキウキした声が
聞こえる。
海竜種はその役目を担ってないのかと聞いた所、竜種と地神の役
割は完全に別れているらしい。自分で浄化しないくせに竜脈を汚さ
れたら魔力供給できないとかダメじゃね?
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そんなこんなで船内へたどり着いた。
マリア司書が潜水艦に置き去りにされ一人寂しそうにしていたの
で、魔力が少しずつ回復しているリヴァイが潜水艦を方舟に隣接さ
せ、水圧に負けない様に魔力でカバーして移動させる。
うむ。重要な説明役ですからね、彼女。
﹁これは、対魔兵器ね。いや、対邪神ってところかしら﹂
世界の縮図を見た釣王が言う。
﹁神時代からの歴史しか大教会の資料室にも置いてないから知らな
かったわ⋮﹂
リヴァイから話を聞いたマリアが言う。
﹁記されている人種の紀元が神時代から始まったとすると、この方
舟はまさに紀元前と言う形になるんでしょうかね﹂
クボヤマも言う。
そうだな。
俺は家が浄土真宗だから何とも言えないが、例えるなら竜紀時代
とかそんなんでいいんじゃないのかと思う。
世界の縮図を囲みながら、それぞれが一様に思った事を口にする。
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ただし、誰も真実にはたどり着かないまま。
﹁ふ∼む、一度話を整理しましょうか﹂
英雄との繋がり⋮。
﹃遥か昔、人は絶滅寸で迄追いやられていた事がある、その時の竜
族は世界の観察者としての責務を全うしていたらしい。ノア・アー
クと呼ばれる船大工がまだ幼き神子を託した一隻の方舟。その子を
守るべく船に乗った人々がのち英雄と呼ばれる人物になったそうだ﹄
リヴァイの話を思い出す。
﹁英雄を乗せた船、それがこの方舟の意味じゃないのか?﹂
そう、幼き神子とは今人種の仲で崇められている神の最大勢力、
女神の教団の女神﹃アウロラ﹄なんじゃないだろうか。
クボヤマ神父から聞いた話なので、詳しい内容はわからないが直
感的にそう思う。何より、英雄の鼓動が歴史に反応している気がす
る。
﹁英雄との?がりとは、そのままの意味合いだったんですね﹂
クボヤマが言う。
少しずつ、方舟の全容が見え始めたとき、釣王が慌てた様に言っ
た。
イカルガ
﹁いけない! 伊?留我がこれ以上戦闘を引き延ばしに出来ないっ
て、深海鯨とイビルクラーケンの戦いも膠着し始めてる!﹂
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﹃下等な種族が! 所詮王種、我の敵ではないわ!!﹄
方舟内まで響いて来る死海蛇・帝種の痺れを切らした様な叫び声。
その声の振動によって方舟が少し軋む。これが邪神の波動と呼ば
れるあの悪女ヴィリネスも使っていたものか。
﹁とにかく、俺は外に出るぜ!﹂
﹁後で追いつきます!﹂
どちらにせよ、船が動く前に壊されちゃ敵わないからな。
クボヤマの言葉を背中に受け、俺は方舟を飛び出した。
外では帝種の蛇に巻き付かれ苦しそうにする大王イカが目に入っ
た。応戦して足を絡めては居るが、力負けしている様子が一目で分
かる。
﹁援護する!﹂
くりくりとした大王イカの目にアイコンタクトを送ると、改めて
帝種に向かって英気を振り絞る。
ゲンノーンで攻撃できる点は、奴の目だ。
一瞬だが、奴の気を引いてくれた大王イカには感謝しなくてはい
けない。
俺は武器を奴の目に突き刺した。
奴の紫色の血液と体液が、海を汚す。だが海流に乗って流れて行
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くので死海が遮られる事は無かった。
もう片っぽの目も潰しておこう。
だが、帝種は必死の抵抗で頭を振る。目に引っ掛けた武器のお陰
で弾き飛ばされる事は無かったが、そのかわり猛烈な邪神の波動を
俺と大王イカは至近距離で受ける事になる。
﹃グゴアアアア!!!﹄
言葉にもならない獰猛な声である。
大王イカは振りほどかれてイビルクラーケンに応戦している深海
鯨に激突した。
膠着していた戦いが急激に変わって行く。
﹁クラーケン!!! さっさと船を破壊しろ! 回収する必要は無
い!!﹂
帝種の声に従う様に、鯨の歯から開放されたイビルクラーケンは
太い足をしならせ方舟に叩き付けようとした。
邪神の影響に寄って破壊衝動が格段にアップされたイビルクラー
ケンの一撃である。耐えきれるのか。
﹁うおおおおおお! させない!!﹂
帝種の目の奥に武器を突っ込み一捻りする。
これは効くだろ?
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案の定、激痛に身をよじる帝種を置き去りに俺はクラーケンと方
舟の間に飛び込んだ。すぐ復活するだろうが十分な時間は稼げたは
ずだ。
これだけは壊させていけない。
鼓動が教えてくれる。
ゲンノーンを手放して巨大な一撃を受け止める。
魔力を吸い取られれば一環の終わりだったが、今の俺は魔力では
なく英気。
全く別ベクトルの力で動いている。
イビルクラーケンの特殊能力を無効化できる。
だが、英気全開で踏ん張った所でその身体の大きさから、圧倒的
質量の違いから押されるのは自明の理。でも、少しでも時間が稼げ
れば良かった。
フリーズスタンディング
氷上に立つ勇気で足を凍らせて海底の岩盤にスパイクする。一瞬
動きが止まったが、氷には亀裂が徐々に入り始めている。
﹁北の英雄は退かない、流石です。ほんの数秒ですが、それが戦い
の命運を分けるのです﹂
巨大な十字架を背負った神父が加勢に着てくれた。
﹁オースカーディナル! 今一度誓おう、更なる誓約を!!﹂
ズン⋮!
神父が叫んだと同時に、彼の足は海底の岩盤に減り込んでしまっ
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た。
まるで、圧倒的巨大な質量の鉄球を上から地面に落とした時の様
に重たい音が響き、地面が抉れる。
それに伴って神父の口から苦痛が漏れる。
ガリヤラ
﹁ぐっ⋮シスターズ・第四章! 異邦の地を行く使者!﹂
珍しく呪文を唱える神父。
胸ポケットから海水の中とかしったこっちゃないと言う風に、聖
書が躍り出てパラパラと捲れる。とあるページを開くと神父に光が
降り注ぐ。
発光する身体をゆっくりを動かし、岩盤に沈んだ足を戻す。
有り得ない事に、俺も耐えきれなかったイビルクラーケンの質量
を再び巻き返し始めた。
重い扉を開ける様に押し返して行く。
俺も負けじと力を込める。
だが、隻眼になった死海蛇・帝種が獰猛な声を上げながら方舟の
方に向かって来ていた。
﹁まずいです。今の私は素早く動けません﹂
﹁見れば判る!!﹂
またしても方舟との間に身体を滑り込ませる。
出した両腕が噛み付かれた、ここでワニの様に帝種が身体を回転
させれば、その鋭い牙により俺の両腕は無くなっていただろうが、
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帝種はとにかく方舟を破壊する事にしか頭が働かないようだ。
それでも押されるんだが、まさに数秒。いやコンマ数秒の世界だ
ろうか。
方舟が動いた。
起動と共に波動が方舟を中心に全域に放たれる。
邪を払う効果があったのだろうか。
邪神の影響を受けて進化した死海蛇・帝種は、少し小さくなって
怖じ気づく様に逃げて行く所を大王イカに掴まり、鯨に捕食されて
しまった。
この場には邪が払われ、キングクラーケンになってしまった巨大
なタコが残された。黒かった身体は元の薄気味悪い生々しい灰色と
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も黄ばんだ白とも言えぬ元の色に変わっていた。
﹁これなら、行けますね﹂
アークティックブロー
クボヤマの一言に頷くと、彼が足を押さえつけているうちに俺は
イビルクラーケンの眼前に行き、雪白熊の腕撃を放つ。
アークティック
巨大な雪白熊から貰った力を借りて思いっきりぶん殴る技。英雄
の鼓動で更にブーストが掛かった攻撃は、キングクラーケンの頑丈
な対面を容赦なくアッサリとぶっ潰した。
﹁起動するのにはなんとか成功したわ﹂
釣王が本気で疲れた顔でいう。
スタミナを消耗したのだろう、かといって食べる物なんてオクト
パースウィフトくらいしかない。それでも腹のたしになるならと、
リスの様に齧る釣王はすこし可愛かった。
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﹁お陰で魔力ポーション中毒よ。はぁ、ペナルティが鬱陶しいわ⋮﹂
と嘆く彼女。
彼女が言うには、MPバーを5回も消費したらしい。
通常、体力・魔力回復ポーションはクールタイムが存在し、一度
使用すると30分以上時間を置かなければ再使用できない設定にな
っているらしい。
リアルスキンの世界では魔力過剰症としてハンターの死因ランク
トップに入る程危険な行為として、最初のチュートリアル的な初心
者訓練では必ず教えられるというより言い聞かされる話なのである。
最低ランクのポーションは30%回復で30分のクーリングタイ
ム。
上位ポーションになればなるほど、回復率とそれに伴っただけの
分数がクーリングタイムとなっている。
そして更に上位になると一日の回数制限も加わって来るらしい。
ノーマルプレイヤーにとってはデスペナルティと同じくらいのペ
ナルティを喰らうポーションペナルティと恐れられている。
ペナルティを軽減させる所までリアルスキンプレイヤー勢の薬師
の腕は届いているらしいが、実用段階まではほど遠く。そして手に
も入り辛いらしい。
方舟を起動させたは良いが、運用には更なる魔力を使うとの事で、
人間一人の力では運用は不可能だと釣王は言っていた。
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﹁だが、起動だけでも破邪の効果があるなんてびっくりじゃの、ま
っくん入らずじゃ﹂
リヴァイの言葉に皆一様に頷いた。
今回勝利できたのも、方舟の力で帝種がそこらへんに居る死海蛇
に退化したお陰だった。
﹁ま、技術革新も進んでいるから。何かしらの目処が立てば報告す
るわ﹂
﹁私も個人でもその方法については探っておきますね﹂
そう言いながら、俺達はこの海域を後にした。
以前よりも力が増している様に感じるリヴァイが、協力な水流結
界を方舟が安置する場所に施し、時が来るまで守り続けると約束し
てくれた。
釣王の潜水艦に乗って、俺達は深い海の底からやっとの事で海上
に戻って来る事が出来たのだった。
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海溝での決着︵後書き︶
方舟が起動した一瞬。
その方舟の波動は遥か先の邪神の統べる大陸まで極々微量だが伝わ
っていた。
ほとんどが感じる事の無いその波動。
だが、それを敏感に感じ取る物が居る。
真っ黒な部屋にて漆黒の巨大な椅子に鎮座する小さき存在。
﹁ふん。やっぱり海種族からの進化じゃ無理だったか。喋れる様に
なっても馬鹿は馬鹿だしな﹂
小さき者が視線を移すと、漆黒の闇からその者の眷属が現れ片膝
をつく。
﹁お呼びでしょうか﹂
﹁おい、人間共の大陸に占拠された邪神殿はどうなってる?﹂
サマエル
﹁はい、我が眷属を使い聖王都の欲に溺れた神官達を使い封印を解
こうとしております﹂
﹁いつできる﹂
﹁現法王の目が厳しいのでなかなか⋮﹂
ディーテ
﹁巨体野郎はどこ言ったかわかんねーし、変態は人に味方してるし、
うざってぇな﹂
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子供の様な体躯からとんでもなく悪い言葉遣いで頬杖をつく。
﹁まぁ誰も力も借りん、俺は一人で残りの欠片を集めるからな﹂
ニヤリとしたその微笑みにはどこまでも深い闇があった。
﹁とにかく女神の力を削げ、法王の隙をついてビクトリアを邪気で
満たせ﹂
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ローロイズへ︵前書き︶
視点がかわります。
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ローロイズへ
北の大地からの船旅も一時は深海海溝にまで足を伸ばすはめにな
り、どうなる事かと思われたが、無事に海上へ戻って来れたので何
よりである。
北の大地で唯一凍らない港﹃ロフスクハーバー﹄では西岸部諸国
を転々とクルージングする予定だと語っていたが、語っていたクボ
ヤマ本人が聖王都ビクトリアに急ぎの用事が出来たとの事で、予定
の半分以上をすっ飛ばして釣王の船にてローロイズの港町へたどり
着く。
船旅は、俺に掛け替えの無い物をまた教えてくれた様な気がする。
終ってみれば、英雄としてやるべき事の全容が窺えた旅でもあった
のかもしれない。
と、言うか。
あの時雪山での出会い、アレも俺の定めだったと思う。
グラソン
出会ってなければ死に戻りし、クボヤマは雪山族の集落には来な
かっただろう、ただただ押し寄せるガーゴイルと蛮族とその親玉で
ある悪女ヴィリネスに驕られていただけだったと思う。
俺はプレイヤーなので死に戻りで蘇るが、一人でこの軍勢相手に
するのは骨が折れるどころか、諦めてしまうだろうな。
トラウマを心に刻み一生VRギアを被る事が無くなるかもしれな
い出来事だったと思う。
リアルスキンモードとはそれだけの世界を俺達に提供してくれて
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いるんだ。
ここへ着て、運命と言う物を再実感した。
方舟の件もそうだ。
何かに導かれる様に俺達は世界を回っている気がした。
本当にそれで良いのか?
英雄が敷かれたレールの上をただ歩く?
答えは否だ。
レールの無い危険な道でも逃げない引かない退かない。
初期の孤高を突っ走ってた俺に比べたら、今の俺は本当に別人に
思えて来るよね。ゲームの世界でも心と言う物は確と胸に宿り受け
継がれて行く物なのだ。
決めた。
俺は魔大陸へ向かおう。
邪神の統べる大陸にもっとも近いとされる大陸。いや、神時代は
魔大陸は人に味方する平和を望む魔族。共に立ち向かった魔族の大
陸と呼ばれている。
だが、紀元前。竜紀時代。
邪神に統一され、圧政を強いられていた大陸とも言える。
邪の芽はどこにでもある。
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俺の血がそこへ向かえと告げている。
今現在、混沌とした多種族大陸となっているが故に、邪神の影響
アラン
を受け易い大陸の防波堤になろう。
かつて英雄が北からの進行を阻止した様に。
◇◇◇◇◇
ローロイズの港町。大国の域へは踏み入れないまでも、海に面し
たお国柄貿易が盛んに行われているので様々な物資が流入し賑わい
を見せている。
洗練された街並というよりは、魔大陸から来た行商人や観光客が
わんさか道中を賑わせており、活気づいた良き未来を想像させる。
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それも、最近ローロイズ王室では王位継承第7位のエレシアナ・
ケイト・アルバルトが王位を継ぎ。そのカリスマ性と広く世界を見
て来たその経験で港町に自由貿易・自由市を気付き上げたのだ。
国防の都合上と歴史背景から、過剰なまでに貿易を厳しくし、関
税を毟り取っていた昔のローロイズは見る影も無い。
せっかく海面していて、他の大陸と近いと言う他諸国には無いメ
リットを持ちながら、国防費を大量につぎ込んだ飛竜騎士団は腐ら
せていた。だが、空の魔物に対しては無類の強さを誇る飛竜騎士達、
国を挙げての飛竜船での貿易からスタートし、警護やらなにやらで
トントン拍子に事が進んだ。
安全面で保証されていて、尚かつ新しい顧客がいる大陸に目を付
けない商人は居ないだろう。
人がどんどん集まって来て港町の商店街はあっという間に拡大し
て行き、観光名所の一部となった。
もちろん、リアルスキンモードプレイヤーもこの機会を逃すはず
が無い。今まで渡航が困難だった大陸からの素材や商品が集まって
来るので、生産職が目を付け我先にと工房を開き、それに伴ってプ
レイヤーもわらわらと。掲示板では商業アップデートと呼ばれてい
る。
◇◇◇◇◇ ※視点がかわります。
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﹁すごい活気ね。ビクトリアでもこんなに人居るかしら?﹂
﹁あの街は辛気くさいですからね⋮﹂
ローロイズの港町の商店街を人ごみを避けつつ俺達二人は歩く。
釣王は生簀を見に行かなきゃと言って俺達を降ろしたら即行大海
原へ。やまんは魔大陸へ向かう絶好の機会だと言わんばかりか、そ
のまま釣王の船に便乗して行った。
すっかり北の大地で雪崩から助けた時と別人の様な顔つきに変わ
ったやまんを見て、目的が出来たんだろう安心した。
英雄の目つきってカッコいいね。
人は変わって行く。邪神を倒すという目つきから脅かされた人々
を守ると言った目つきになっていたなぁ。
女神様のご加護があります様に。
﹁それにしても、そのデカい十字架、何とかならないの? ドスン
ドスンうるさいんだけど?﹂
横目で俺を見ながら少しずつ離れて行くマリア。
仕方ないだろ。
オースカーディナル
再契約というより、物理攻撃力・防御力を求めた結果。
誓いの十字架は更に重たくなった。
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海底の岩盤を踏み抜く程にな。
ぶっちゃけ馬鹿でかい十字架を背負っている事に増して、足音が
ドスドス響くのだから、周囲の視線が偉い事になっているのは重々
承知である。
仕方ないのです。
これが枢機卿の試練なのです。
早い所、ビクトリアへ向いこの十字架を納めないとな。
マイハニー、寂しそうにしているんだろうか。
ビクトリアにはGoodNewsのギルド本部が作られている事
はすでにセバスからの通知で判っている。
その本部の中には俺専用の大聖堂が作られているらしく、その不
可侵領域に運命の聖書は安置されているらしい。
セバスに任せて良かった。うむ。
﹁あら!? クボヤマ神父じゃない! ずいぶん久しぶりね﹂
商店街の中でも大通りに面していてそこそこデカい建物の前で呼
び止められる。振り返ると茶髪フィッシュボーンのメガネ美人がそ
こにいた。
﹁まさか、キヌヤさんですか?﹂
﹁そのまさかよ∼! あの時はありがとうねクボヤマ! お陰で売
れに売れて今ではブレンド商会の服飾部門部長よ!﹂
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店先で急に手を握られてぶんぶん振られる。
俺の身体は最強に重たいはずなのに、何故だかその重みは俺しか
感じない。
凄くしっかりした作りの看板を見てみると﹃呉服屋キヌヤ﹄と書
かれていた。
俺には下着専門店だった頃の記憶しかないが、大分成長したもん
だな。
リアルスキンプレイヤー勢が増えまくったお陰で、こういうゲー
ム内生活面での品質が大きく成長している。
俺もボクサーパンツ愛用してるよ。もちろんキヌヤ製な。
北の大地はあまりそう言う製品が出回ってなかったお陰か、かな
り初期型の飾り気の無いボクサーパンツだが、聖職者として変に着
飾ると言うのもね。
﹁え、クボ! キヌヤ呉服店っていったら流行の最先端をいくお店
よ! なんで知り合いなのよ!﹂
状況を知らないマリアが驚いた様にしている。
﹁あら、新しいシスターさん? いつも連れてた彼女はどうしたん
ですか?﹂
﹁別に連れた訳じゃないですが、彼女は私の同僚です。様があって
北に行っていたものですからね﹂
エリーは少し前に精霊魔法の修行に出てくると知らせが着てから
音信不通である。まぁ彼女も彼女で頑張っている事だろうし、マリ
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アも衣服を見たがってそうなので冷やかしがてら寄って行こうか。
﹁最近のトレンドは、高耐性付きの衣類ね。お洒落も出来て、その
まま狩りデートにも行ける優れものよ﹂
そんな事を力説されても、狩りデートとか行きませんから。
購入者はノーマルプレイヤーが多いらしい。
狩りに出会いを求めるのは間違っている!
すっかりノーマルプレイヤーもリアルスキンプレイヤーの恩恵に
あずかる今日この頃なんだな。
と、思いつつも。
ノーマルプレイヤーはスキルレベル制なので、生産職へ常に一定
の品質の素材供給を賄っているんだから上手く噛み合ったもんであ
る。
ま、品質が散けないって大事だよね。
﹁クボ! これはどうかしら!?﹂
興奮しながら試着室から出てきたマリアの服装は、黒の網タイツ
と光沢のある銀装飾をあしらったミニスカートボンテージにヘソ出
しルックのなんて言うか知らんがボンテージ系の谷間を遺憾なく見
せつけたエロい服。
へー。谷間の所が十字架みたいになってるのね。
っておい。
何でボンテージあんの?
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シスター用のフードもいつの間にかボンテージみたいな光沢を放
っている。フードから漏れるパーマがかかった長い金髪が更に妖艶
さをかもし出していた。
尼さんが妖艶さを出すっていう何とも言えない状況である。
﹁きゃー! 流石キヌヤだわ! 私の好みにピッタリね!﹂
﹁あのキヌヤさん。なんでボンテージなの?﹂
﹁あ、知らないの? エンチャントスキン・ボンテージよ﹂
似合う奴に似合う物を作る事が出来て爽快といった表情で笑うキ
ヌヤ。
生産職の鑑だとも言えますが、シスターなんだってば。
いや、似合ってるんだよ。
似合ってるんだけど、ある意味さっきまでのマリアと一緒で、隣
を歩くのが憚られるタイプなんだよな。
これでまた町中でドスンドスンやめてって言われた日には、とて
つもない感情が押し寄せて来そうだ。
﹁魔導士さん、私もボンテージにしようかしら﹂
﹁うんにゃ∼、君にはその紅色のドレスが似合ってるゼ☆﹂
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﹁あらありがとう。ならこれにしようかしら?﹂
﹁下着コーナーにも行っとく? 行っとくぅ∼☆﹂
紅色のこれまた妖艶なドレスを着たジト目系美人が、そのジト目
で此方を見ながら彼氏と思われる男と話していた。
それにしてもあの紅色のドレス。
ほぼただの布じゃないか。
﹁あのドレスが気になります∼? アレは私が腕によりをかけて制
作した灼紅のドレスよ! 火竜の羽膜を使ってエンチャントしなが
ら織り込んでるから炎耐性が最高水準よ! かつ美しい! 着こな
せる人材が来店してくれて良かったわ!﹂
満面の笑みでお会計する場所へと向かって行くキヌヤ。
どうしようか。冷やかしって最初に言ったけど。
ガチで冷やかしなんだが。
そもそも俺、あんまりお金持ち歩かなくて済んできたから。
飯代くらいしかないんだけど。
﹁⋮あ、請求先は現法王のエリックでお願いします﹂
740
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ローロイズへ︵後書き︶
世界情勢。という形で運営から公式NEWSとしてHPにて発信
されています。
︻ローロイズの王政が安定し、自由貿易・自由市が開かれる様にな
りました︼
︻これに伴い、アラド公国のブレンド商会が傭兵の国と提携した護
衛付き観光竜車事業を展開。誰でも簡単にローロイズへの旅が可能
になりました。料金の方はまだ未定ですが、自由市にはさっそくキ
Agricultural
reform
ヌヤ呉服店とグランツ道具店、全国農業改革ギルド・通称NARG
︵National
Guild︶が連ねています。海洋研究ギルド﹃遠洋﹄は先んじて
ローロイズ周辺の海域での活動に準じていた為、女王陛下から西海
域保安の称号を賜りました︼
と、こんな感じに。
西海域保安は海竜王女リヴァイアサンの称号獲得の為の足がかり
です。
大王イカのテイムもこの称号の影響です。
やまん視点編終了です。
書きたかった事は活動報告に書いてますが、上手く書ききれなか
ったので消化不良です。
これからは神父視点になります。
ですが、他視点ももちろん出てくるので、その際は視点がかわり
ますと明記します。
742
王宮にて
ローロイズの王宮に向かう道中、送迎の馬車の中からリアルスキ
ンプレイヤーの個人経営店が幾つか見えた。
黎明期プレイヤーの生産職の多くは、アラド公国のブレンド商会
に助けられた点が多かったと思うが、人口も増えた今ならば独り立
ちするプレイヤーも少なくないようだ。
シェアは圧倒的にブレンド商会の勝ち。
流石﹃神と対等に取引する男︵自称︶﹄である。
名実共に、神父のロールプレイヤーから本当の神父になってしま
った俺は、いつまでもハンターカードとアリアペイを懐に腐らせた
ままだ。
まぁ、この旅が終わればまた皆で旅が出来る時が来るだろう。
やりたい事は沢山ある。
生産職は俺の中でやってみたいランキング第1位だ。
だがしかし、エンチャントとか魔力が必要な技術がある時点でハ
ードルかかなり高い訳だ。
はぁ、結局廻り廻って隠居したい。
そう言う思考に落ち入ってるから白髪が増えるのかもしれないな。
で、さらに白髪が増す原因なのが、今向かっている王宮で待ち構
える女王エレシアナなのである。
正直良い思い出が無い、グリモワール魔法学校にて毎度の如く嫌
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みを言われていた記憶しか無いぞ。
気になる所は、何故そこにユウジンがいるのか。
剣聖と呼ばれ武術指南をしているのか。
﹁はぁ⋮﹂
﹁何溜息ついてるのよ? 隣にこんな美人シスターが座っているの
に﹂
最近より自己主張が激しくなったマリア。
まぁ毎度の事なので簡単に受け流す事にする。
﹁私は以前、魔法学校に通っていたのを知っているでしょう?﹂
﹁出会った頃ね。あの時は心配したんだから! 私だって、は、初
⋮﹂
急に顔を赤くするマリアを余所に説明を続ける。
﹁現女王のエレシアナ・ケイト・アルバルトも同じ学校で同じクラ
スだったんですよ﹂
﹁貴方の人脈もここまでくれば笑えてくるわ。王族と御学友だった
なんて﹂
その学校生活で仲睦まじい関係を築けていたら、どんなに楽だっ
た事か。
﹁当時、王族の間でも私の名前は知られていたらしくて、明らかに
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名声狙いで私を勧誘しているのが目に見えていたのでお断りしてい
たんですよ﹂
﹁⋮まぁ、そう言う事もあるわよね﹂
当時の彼女は何かに取り憑かれた様に焦っていた。瞳もその地位
の高さから周囲を見下ろした様な態度。
その時から、俺はNOと言える神父をやっていたわけさ。
思えば、インテリジェンス武器を作る事に躍起になっていた時期
だった。結果的にそれは叶わず、変態共の巣窟でエリック神父にボ
フォルトナ
コボコにされたり、腕が消し飛んだりするだけだったが、結果的に
聖書さんは運命の聖書に生まれ変わった訳だし今さら何も言う事は
ない。
強いて言うなら久しぶりに彼女に会いたい事と、如何にして謝る
か。
それが最重要課題である。
こんな王宮、社交辞令でさっさとおさらばじゃい。
また皆でバーベキューがしたいのである。
フォルも顕現させて皆でバーベキューしたい。
このゲームにバーベキューしに来たのかと問われれば、少し悩む。
セバスの料理は美味い。
それを越えるのが美食プレイヤーのケンとミキである。
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話が蛇足したが、王宮の門を越えたのでそろそろ到着する頃だな。
上からは謁見の許可は取っているから一度言って来いとしか聞い
ていない。
いや、上と言ってもエリック神父しか今の直轄の上司と呼べる人
物は居ないのだが、毎度無理難題の様な事を言って来るので苦労す
る。
まぁ、それだけしか言われてないから、ローロイズ側から何か通
達があるんだろうな。俺は伝書鳩かよ。
﹁クボヤマ様。あの頃は⋮私が魔法学校の生徒だった頃は、大変ご
迷惑をおかけしました﹂
顔合わせ早々、女王陛下に謝られる。
空気感が重いよ!
746
跪いている俺よりも更に頭を低くして謝る姿は、至極土下座に近
い。
空気が重い理由は、彼女がそれを裏でこそっとする訳でもなく、
謁見最中の大臣やら家臣やらが大勢居る前で行ったからだ。
王族が、一介の神父に向かって頭を下げる。
その行為がどれだけの事を意味しているのか。
王座の隣で立つユウジンが爆笑を堪えてる姿が見える。
彼の目力が増し三白眼化している時、一件怒っている様に見える
が実はこれ、笑い堪えてる姿なんです。
そんなユウジンの顔を見て、顔を真っ青にしている女王の腹心達。
これは、あらぬ誤解を産んでいる気がする。
誤解も何も、王族が頭を下げているのは事実な訳で、ここをどう
切り抜けるかがローロイズを無事に抜けられるかどうか運命の分か
れ道なのかもしれん。
﹁無礼者!!! 女王陛下が頭を下げているというのに!!!﹂
一人の男から声が上がる、贅肉でぱっつんぱっつんにした服をプ
ルプルさせながら怒り心頭だ。何かに指示する様に腕を振るう。
﹁この神父を捉えろ! 女王陛下、陛下も王族としての心構えがな
っておりませんぞ! ここはローロイズ男爵が一人、ボンレス・ク
レハムが対応しましょう!﹂
声と共に、控えていたであろう兵士が謁見の間に入って来る。そ
747
の鎧の胸には男爵家の物と思われる紋章が刻まれていた。
﹁お、俺。神父に手を出した事無いぞ⋮﹂
﹁俺だって尼さんに手を出すなんて⋮﹂
小声でそう聞こえる。じりじりと近寄っては来ているが、それは
警戒しているのではなくお前がいけよとなすり付け合いが起こって
いるようだった。
ダチョウ倶楽部かお前ら。
聖職者ってこの世界で本当に大事にされてるな。ビクトリアが聖
王都と呼ばれてそこまで特産物も無いのにこの大陸のトップ5に入
る由縁も判る。
﹁さっさと行かぬか!﹂
クレハム男爵からの喝が飛ぶ、まぁそう言いなさんな。
この兵士達は救ってやらなければならない。
﹁顔を上げてください、女王陛下﹂
まずは元凶であるこの女からだ。
でもその懺悔、赦そう。
巨大な十字架・オースカーディナルを俺は背後に降ろした。
そう、ずっと背負っていたのである。それが誓いだからだ。
シスターズ
そして聖書を浮かせる。
748
﹁貴方の懺悔は女神アウロラに届いています。貴方の罪は全て赦し
ます。どうか顔を上げてください﹂
ドワーフの時よろしく。神の如き赦しである。
後命名された。
本来ならば、クロスたそを神に見立てて浮かべて、聖書さんをパ
ラパラとまるで神様がそこで聖書を読んでいるかのように見せかけ
る技術なのだが、今回はそれが無い。
セイントクロス
こんな糞重たい十字架を浮かせられる訳ないので、後ろに据えて、
極々微弱な聖十字。
淡い光を高く放つ巨大な十字架は、まさに神が宿っているようだ。
そしてポイントは俺がめくっているんじゃなくて、あたかも神様
がめくっている様に見せかけるんだ。
神父は神の仲介者であるがゆえ。
﹁感謝致します﹂
立ち上がり、再び礼を言う女王陛下。
光り輝くその光景に、周囲を囲んでいた男爵側の兵士達はひれ伏
した。
そしてその光景を唖然とした表情で見つめる男爵を振り返る。
﹁女神の元に、全てが平等に﹂
﹁は、ハハァアアアアア!!!﹂
749
本物の土下座をする男爵を尻目に、俺はなんとかこの危機を乗り
切ったのだった。
﹁そう言う冗談はやめてくれませんかね﹂
謁見も済み、俺はユウジンのプレイベートルームにて女王陛下に
悪態をついた。いや、もうここでは立場は関係無いので女王陛下で
はなく学友エレシアナと喋っているという感じである。
﹁いえ、私なりのケジメですわ。あの頃の私の目は本当に節穴の様
でしたから﹂
そういうエレシアナの瞳は、過去の他人を蔑む様な目ではなく、
王族としての誇りを感じ得た。ただし、ユウジンを見る時はなにや
ら目の色が変わっている様だが、気にしないでおく。
﹁んで、まんまと素行の悪い事で有名だったあの男爵を改心させる
750
切っ掛けに使われたと﹂
﹁あらやだユウジン様。本当に懺悔の気持ちで一杯でしたのよ?﹂
ユウジンが横から口を挟む。
それに微笑み返すこの女。心の中では絶対にテヘペロしているだ
ろ。
あの後男爵は、俺に大量のお布施を支払うとすっかり綺麗になっ
てしまった瞳で兵士達を労いながら帰って行った。
﹁あの方も根は悪くないんですが、目立ちたがりやで排他主義でう
るさかった物ですから﹂
﹁そう言えばユウジン。なんで王宮にプライベートルームなんて持
ってんの?﹂
﹁私が説明しますわ。以前縁あって助けて頂いて以来、何度かお世
話になっているので、その恩賞も含めた上でユウジン様には王国の
兵士指南役をやって頂いてます﹂
位は剣聖。
王を守る剣という立場だった。側近である。
﹁ああ、位高い方が面倒が少ないと思ったが、やっぱり面倒なんだ
けど﹂
全てを台無しにする様にユウジンが呟く。
﹁あらまぁ! ユウジン様、貴方のお仕事は私の傍に居る、ただそ
751
れだけじゃございませんこと? 本来ならば、王宮での行動には許
可と費用が必要になって来るんでしてよ?﹂
うっ。と痛い所をつかれて頭を抱えてしまったユウジンをそっと
抱きしめるエレシアナ。見たままの感想だけど、ヒモだな。
万人が万人そう言うよ。
ヒモだな。
これが王族の手腕なのか。
腕っ節と下衆さランキングではそこそこ上位入賞圏内に居るユウ
ジンを、見事なまでに外堀から埋めて行き、束縛している。
正直笑ってしまった。
久方ぶりに出会った友人は、大分変貌を遂げていたのである。
着流し浪人スタイルが、かっちりとした服に変わっている所を見
ると。
頭の中は自分の事しか考えていないだろうコイツ。
何から何まで外面を弄られてるなと感じた。
﹁このビクトリアとの通商条約の合意書は、私が責任もって聖王都
ビクトリアに届けますので﹂
エリック神父からの勅命は、この合意書を送り届ける事だった。
ビクトリアって本当に神官以外なんにも居ない所だけど、一体何
を通商するんだろう。
﹁後、是非とも護国竜に会って行かれてはいかがでしょうか?﹂
752
そうだ。
邪神について手掛かりになるかもしれない。
﹁はい、是非﹂
俺は快諾した。
753
王宮にて︵後書き︶
エレシアナが登場したのは﹃魔法学校の日常﹄です。
http://ncode.syosetu.com/n4162
cj/34/
忘れている方も居ると思いますので。
754
ローロイズにて
護国竜は緑色だった。
海竜王女リヴァイが青色の竜だとすると、護国竜は緑色の竜であ
る。この理論で行くと、飛竜部隊を束ねる火竜は赤色なんだろうな。
﹃その十字架、言わば教団の闇。早い内に背中から降ろす事だな﹄
王宮から帰りの馬車に揺られながら、護国竜の言葉を思い出した。
オースカーディナル
枢機卿になるためには、北の聖堂で幾つかの試練を受けなくては
行けないのだが、俺が選んでしまったのは﹃誓いの十字架﹄だった。
いや、その時の状況により否応無く選ばされたと言った方が良い
な。
枢機卿を誓う十字架と言う物があるのだが、オースカーディナル
は極めて難易度が高く、その誓約が厳しい物だった。
普通、高難易度クエスト程そのリターンは大きくなって来る。だ
がしかし、教団のクエストはハイリスクてもノーリターンが多い。
理由は、教団だからと言われればそれまでなのだが⋮⋮。
とにかく、その当時は空いているポジションは﹃特務﹄と呼ばれ
る地位しか無かったらしい。
何だそれは、急遽作られた様なポストだな。
そして、特務枢機卿は﹃オース・カーディナル﹄を持つ聖職者に
しか与えられないポストで、歴代でも一人しかその地位に就いた事
755
はなかったらしい。
枢機卿よりもランクを落とせば、資格はありつつもそこそこの地
位に就けたのだが、当時は時間が無かったからな。馬鹿な事に、力
を九割程捨てていた俺に一番必要な物がその契約による力だったか
らだった。
そんなこんなでこの糞重たい巨大な十字架を背負うハメになった
のだが、確かに、この十字架のみ、何かと戦う為に出来た十字架と
言った風なのだ。そのため、力を使う度に過剰な負荷が襲う。
まぁ、背負ってしまったのは仕方ない。
無駄に重たい十字架を背負って復路を乗り越えて、無事大教会に
納める事でその一時的な契約は切れる。
特務枢機卿も一時的なポストな訳で、他のポストが空けばそっち
に移れば良いと考えている。
﹁教会の、闇ですか⋮⋮﹂
﹁⋮上に上がれば変人になるか、腐敗するかよ。どこも一緒だと思
うわ﹂
俺の呟きに、マリアもポロっと言葉を漏らす。
それは知っている。
教団の名を利用した不正がまかり通ってる事が良くあった。名前
を利用した力技でどうにかなる時もあれば、その闇が意外と深く、
下手につつけば余計な事になりかねない状況もあって歯噛みした事
もある。
756
色んな人の力を借りなければ何も出来ない北への道中だった。
﹁トップがあの人でも、教団は一枚岩ではないですからね。ただ、
時代が進んだ時、教団の未来はどうなるのでしょうか、心配でもあ
りますね﹂
﹁老人が上にしがみついてるのがいけないのよ⋮。あなたも私も、
異例の出世だわ。最初は感激したけども、どう考えてもこれからの
風当たりが心配よ﹂
そう、エリック神父の事だから。
特権を無理矢理使った可能性がある。
例えどれだけの敵が教団内に居ても、エリック神父の地盤にヒビ
は入らないだろうが、そこに俺が愛弟子という形で乗っかってしま
った訳だ。完璧ではない俺には、必ず綻びがある。
こういう自分の隙を作ってしまう様な行動は辞めてほしい。個人
的な教えでさえ、地位的に厳しいはずだ。枢機卿なんて、もし俺が
下手したら監督責任というか、全てを引っ被るのはエリック神父か
もしれないのに。
俺が悪いんだって声を上げても、蹴落としたい奴の矛先は必ずエ
リック神父に向くだろうな。その時は、聖職者を辞してでもエリッ
ク神父の隣に立つ。
いやまず、自分が隙を見せなければ良いんだけどな。俺は意外と
感情的だから自分の行動に保証が出来ないのだ。
757
そうして教会に到着する。
祈りを済ませて宿舎でログアウトしよう。
ログインした。
早朝の祈りで、俺の使っている宿舎の小部屋に魔力を満たして行
く。
魔力を体内でコントロールする事は最早不可能というレベルにな
ってしまっている。結果的に体外コントロールの熟練度を日々向上
させていた。
その恩恵と言っても、オース・カーディナルの誓約である身体へ
の過剰な負荷を少々軽減する程度のハイヒールを常時身にまとう事
が出来るくらいである。
オートヒーリング
運命の聖書の﹃自動治癒﹄までは行かない物の、少々無茶が効く
758
身体は便利である。
海溝の戦いで、誓約を上書きした結果。
一瞬全身の骨が粉々になりかけた時は焦った。
元々INTという魔法技術系の出力、器用値が全くないのだから、
精神値を伸ばしに伸ばしまくるという方針だが、果たして意味はあ
るのかね。
フォール
だが、MIND依存という特性上、降臨は俺の絶対的な切り札で
ある。そして本当の顕現時に至ってのみ、運命の聖書はその特性を
発揮して俺の極小アウトプットを肩代わりしてくれ、尚かつ精神力
依存。
そう魔力共有見たいな形で、発動すると魔力がゴッソリ無くなっ
てしまうのである。精神値を鍛えれば鍛える程、フォルの力は増す。
運命の聖書がどういう効果を持っているのかは未だに判らない。
だって聖書さん時代は、回復役と心のよりどころをしていて貰っ
てたんだ。
良妻とは、見えない所で夫を支える。
そう言うもんだ。
しばらくの間、魔力ちゃんだけと一緒の状態が多かったんだが、
彼女達の立ち位置は変わらない。
フォルトゥナ
聖書さんは、運命の聖書になっても伴侶で。
クロスたそは、例え別居状態になっても嫁で。
魔力ちゃんは、俺を支えてくれる良き妻である。
759
ああ早く降ろしたいこの十字架。
堪らん!
さて、宿舎を出て外出する為に聖堂を通ると礼拝に来ている人が
そこそこ居た。
ローロイズの教会は、石像で作られた女神像がある訳でもなく、
代わりに竜に乗った小さな少女の石像が安置されている。
護国竜が居る国なんだ。
竜関連の神が居た所で何ら問題はない、いやむしろこの石像の竜
は、あの護国竜なのじゃないだろうか。真っ白な石像なので、色合
いが判らないから何とも言えないが、護国竜というくらいだから神
と言うより神格化されているだけなのかもしれないな。
宗教が違うのでよくわからないし、まぁそこで差異を考え出すと
始末に負えない。信者争いなんてするもんじゃない、そこに利益を
求めるなんて、聖職者失格である。命を尊ぶ者が戦火の火種を自ら
起こしてどうするんだと。
他国の宗教論は、魔法学校のレポート課題でもあるので一応纏め
ておくが、余計な事は一切書かないし、学校長以外には渡さない様
にしよう。
立場上、しがらみが面倒くさいのである。
これから先の、という見解もあるが、とりあえずブツクサ文句を
言って来る奴が居ない今の状況を楽しもうと思う。
760
ロールプレイもここまでくればロールプレイと言えるのだろうか。
否定派だったんだが、俺はすっかり代名詞な事は判っているんだ。
ユニークNPCなんて呼ばれている事もな。
さて、ローロイズを早めに出てビクトリアに向かわなければなら
ない状況で、俺は何をしているのかというと。
ユウジンから聞いた情報なのだが、リアルスキンモードプレイヤ
ーの間で通信用魔道具が開発されているらしい。
と言うより、彼の居たグラソン商会がその希少鉱石の提供をブレ
ンド商会と協力して行っていた為、戦闘要因として地味に鉱山へ潜
っていた事が多かったユウジンにもその話は転がって来る訳である。
ローロイズの大通りから少し脇道にそれた場所にある、ジンの魔
モニター
道具屋と書かれたドアがある。今までにも魔道具は生産職プレイヤ
ーの中でも開発されてきた。
メガホン
だが、ノーマルプレイで運営が使っていた様な映像用魔道具や拡
声魔道具を作る事は不可能であった。
完全にオブジェクトだと思われていたし、生産職のプレイヤーが
作る魔道具は、調理器具に魔法処理を施していたりだとか、構造が
簡単なギミックの道具くらいだったのである。
まぁ、メッセージの送受信くらいヘルプシステムで出来るしな。
マップだって言った場所のマップは蓄積されて行く訳だし、そもそ
も道具というより魔法装備や武器の生産に特化して来た背景がある。
生産熟練度の為に、浮くだけの浮遊の杖が一時期有名になった。
761
ハザードが好んで使用していたその杖は、ノーマルプレイ生産職の
間で無属性エンチャントの熟練度に加えて細部の加工も拘れば細部
加工の熟練度も上がるし、本当に本当に極々低確立なのだが、黄金
比職人という称号の獲得にも成功すれば、ノーマルプレイヤーの生
産職としては成功したも同然という風になっていた。
話がそれたが、小ぢんまりした店舗は会計カウンターの上に﹃一
瞬の閃き﹄と達筆で書かれた額が飾ってある。
﹁いらっしゃーい﹂
カウンターの椅子に座った小柄の店主が話しかけて来る。栗色の
髪を持った小人の様な雰囲気。大きなメガネを付けてカウンターを
散らかしている所を見ると、何やら作業中だったようだ。
﹁あ、作業の邪魔をしてしまいましたか?﹂
﹁いいやーそんな事無いよ。今日は何をお求めで?﹂
メッセンジャー
﹁通信魔道具が欲しくて﹂
﹁あ∼それは、作るのに少し特殊な魔結晶を切らしてて、材料待ち
でオーダー依頼だけ受け取ってるんだ﹂
そうなんだ。
最先端の技術って事だから需要に供給が追いついていないんだな。
﹁後、ウチ、オーダーメイドは紹介制なんだ。誰の紹介で?﹂
﹁すいません、すっかり忘れていました。これが紹介状です﹂
762
王宮剣聖の印で封された紹介状を出す。
流石王宮だ、紙ですら高級な物を使っている。
質感が素晴らしい。
﹁ゆ、ユウジンさんからの紹介状!? 一体これをどこで⋮⋮ヒャ
!? こ、言葉遣い失礼しました!!!﹂
紹介状を見た栗色の小人が中身を読んで更に驚いた声を上げた。
﹁いや、そんなに驚かなくても大丈夫です。対応も変えなくていい
ですよ﹂
﹁いえいえ! ある筋では有名ですよ! 貴方は!﹂
﹁ちょっと、どんな文が書かれているんですか? 読ませて頂けま
せんか?﹂
返答より先に、紹介文と俺を目を見開いて交互に見る小人野郎か
ら、奪う様に紹介文を手に取ると中身を読む。
﹃ジンお久。王宮の設備サンキュー。とりあえず古い友達の神父を
紹介したから、コイツに凄い魔道具作ってやってくれ。あと、いつ
もみたいに適当に接客してるなよー、コイツもう枢機卿でこの間の
アダマンタイトを手に入れたやつだし、グランツ商会とブレンド商
会の間も取り持ってるから、本人は大丈夫だが、回りがうるさいぞ。
あと、とにかくシンプルに使いやすく高性能で頼む。コイツ機械音
痴だから。良いの出来たらエレシアナもプライベート用検討するっ
763
てよ。頼むわ。ユウジン﹄
実にユウジンらしさが出る文章である。
俺はそのまま手紙を握りつぶした。
するとその音に反応する様にビクッと挙動する小人。
﹁⋮⋮ハハハ﹂
ニコリと微笑むと、遂には泣き出してしまった。
びっくりして背中を摩ってあげる、だがその時気がついた。
背中をさすってあげると感触があるのである。
キヌヤで売られているスポーツブラのラインの感触が。
こっちの方が衝撃だった。
764
ローロイズにて︵後書き︶
ユニークNPCと呼ばれていた事はすでに昔の事であり、今はロ
ールプレイのブームメントを起こす程の名誉ユニークNPCとされ
ている。
NPCでは断じて無いが、神父トトカルチョスレ住民の一人が﹃
ネタバレしたけどもうユニークNPCでよくね?﹄と発言した事か
ら、スレ住民の数々の思いを込めて﹃名誉ユニークNPC﹄と呼ば
れる様になった。
ネタバレ以降も、神父の動向を彼等は追っており、その行動を推
測してトトカルチョ戦争をすると言う恒例行事に発展して行く。
765
とある魔道具屋にて︵前書き︶
後書きもストーリに繋がります。
766
とある魔道具屋にて
顔が怖い。
高校時代から良く言われて来た事だった。
でも泣かなくても良いじゃないか。
仕方ないじゃないか。
俺も泣いた。
スポーツブラの感触に感極まった訳じゃなくて、とにかく人の顔
を見て無く少女を見て、自分の境遇を思い出して泣いたのである。
﹁⋮グス。そんなに泣かないでください﹂
マジで、こっちまで悲しくなって来るじゃないか。
ああ、嫌な記憶を思い出してしまった。
コンビニで弁当を温めてもらっていた頃。店員が手を滑らせて温
めた弁当を落としてしまった。
弁当を落としてしまった女子高生と思わしき店員に﹁え、なにし
てんのマジで?﹂と、ただそれだけ言っただけなのに、その女子高
生は泣いてしまったのである。
俺も帰ってから泣いたね。
﹁な、何故泣いているんですか⋮?﹂
767
ヒューマン
涙に濡れた俺の目を同じ様に潤んだ瞳で見つめかえして彼女は言
う。
黒目が大きいな、本当に人種なのか。
﹁悲しいのです。あなたが泣いている事が⋮﹂
﹁⋮ふぇ?﹂
俺の一言に対して、少し紅潮する彼女。
アレだな泣いてるのが恥ずかしくなって来たんだな、そろそろお
互い泣くのは辞めよう。生産性が水分と塩分くらいしか無い。
﹁さぁ立ってください。在庫が無いからと言って、私は怒ったりす
る様な輩じゃありませんので﹂
椅子から崩れ落ちる様に泣きを入れた彼女の手を引っ張って椅子
に座らせる。そして水筒に入れていたお茶を飲ませる。
﹁おいしいです﹂
﹁旅で北に行っていたのですが、途中美味しい紅茶を紹介して頂き
ましてね。タイムブレイクティーと呼ばれて、産地ではこの紅茶を
飲む為だけに休憩時間を設けている場所もあるそうですよ?﹂
そして超高級なのである。
それは内緒。
高級茶を水筒に入れて持ち歩いてるのはマリアには内緒である。
だけど、彼女も経費を酒に使い込んでるし良いよな。
768
今回も教団の皆様へのお土産として北の超高級紅茶を買って、こ
っそり作って水筒に入れておいたのである。
因にこの紅茶と紅茶を入れた水筒が俺の空間拡張スペースをかな
り消費している。精神修行で少しは伸びたと言っても、本当にちょ
っとだけしか強化されていないので相変わらずカツカツの状況でや
りくりしている事には変わりない。
その大部分は紅茶を入れた拡張水筒と、着替えと夜営セットなの
だ。
もはやスペースは無い。聖書なんて基本的に胸ポケットだし、ク
ロスは背負っている。なにより空間拡張の中に空間拡張できないっ
て厳しいよ。
お陰で紅茶はしばらく持つ。だが、容量を節約しなければならな
くなってしまった。恋文の様な見るだけで顔が赤くなる様な文章が
書かれたケータイ用の画像を収集する癖を持っていた姉を思い出す。
﹁パソコンが動かないんだけど∼、どうにかして∼﹂と、言って
いた。単純な話、ハードディスク一杯まで画像を収集するなんて頭
おかしいだろ。バカジャネーノ。
俺はその点、きっちり容量半分で紅茶を納めてるからな。
飲めば減るし、その点抜かり無いのである。
紅茶を飲んで落ち着いた彼女は、改めて自己紹介してきた。
﹁すいません取り乱しました。改めまして、ジンの魔道具屋の店主
をしています。ジン・クルという名前でRSMをプレイしています﹂
﹁あ、どうも。クボヤマです。見ての通り聖職者です﹂
769
﹁いつもユウジンさんには色々な販路を融通して頂いて助かってい
ます﹂
ミゼットヒューマン
聞いた話によると、彼女自身は人種小人族と呼ばれているらしい。
RIOの世界で良く聞く逸話がある﹃ドワーフには剣を打たせてミ
ゼットには細工をさせろ。そしてホビットは旅に出る﹄と言う物だ。
何が言いたいのかさっぱり判らないが、酒場で良く話の例えに上
がっている言葉だったりする。﹃そしてお前の小人は夜中どこへ旅
立つ﹄と言って話の落ちにして笑うというのが恒例の様だった。
下ネタかよ。結局。
メッセンジャー
﹁通信魔道具はどれくらいで制作できるんですか? 材料が届く期
間も含めてです﹂
﹁ああ、それはマチマチなんですが。大体リアル時間で三日後くら
いですね。ブレンド商会の竜車搬送はかなり早くて便利です﹂
飛竜搬送は、種の数が少ないのと船を浮かせる為の浮遊石が高価
でかなり高額になるそうだ。それこそ、国がお金を出すレベルじゃ
ないと録に運用できない程。
その点走竜での搬送はコスパがあまり掛からない。まず竜車は馬
車を流用して作る事ができ、飛竜船の様に浮遊の魔法石が必要ない
からである。
そして餌代もあまり掛からないからな。
これは経験談である。
770
空の王者と呼ばれた飛竜は意外とグルメだそうだ。
その点、ウチのラルドなんて適当に良さげな魔物を平気で貪るか
らな。
だが、セバスの料理を長い間食っていたからかなり舌は肥えてい
る事が予想できる。でもその分、良い物を食べているから他の竜種
より体つきは一回り大きくなっている訳だ。
ひょっとして、飛竜種の強さって身体にいい物を食べているから
なのかもしれないな。ほら、爬虫類って死ぬまで成長し続けるって
言うじゃん。
あと、魔大陸に渡って行ったやまんの話を思い出す。
北の食べ物を食べて生活していたらいつの間にか北方人種になっ
て、今では完全に雪山族の体つきになってしまっていた話。
良くあるRPGは転職という物があるが、こっちでは進化か。
エルフになってしまったエリーの耳も、確かに兆候はあった。
﹁三日ですか⋮。申し訳ないですがご依頼はまたいずれこの国にき
た時にします﹂
明日にはローロイズを立って魔法都市を目指す予定だったので、
確実に帰って来てから受け取りますは出来そうにない。
とてもじゃないが、聖王都からローロイズまでリアル時間3日で
往復するなんて無理だしな。あちこち寄るのでもっとかかる予定だ。
﹁そうなんですか、残念です。あ、あの! また来てくださいね。
材料取り置きしておくので!﹂
771
﹁いえいえ、そこまでして頂かなくても。不良在庫になるかもしれ
ませんよ﹂
﹁いえ、クボさんの依頼断ったら良くない事が起こりそうなので﹂
﹁いや、そんな事無いのですが﹂
妙な先入観を抱かれてしまった様だった。
ユウジンめ、後でなんと言ってやろうか。
フケ
だがまぁ、確かに今の状況を省みると、要するに自分の雲脂が相
手にパラパラ掛かる状態だな。それは嫌過ぎる。
マジで嫌過ぎる。
改めて身の振り方を考えていると、店のドアが開かれる。
﹁ジン、ここに神父来てるか∼?﹂
﹁あ、ユウジンさん。ご無沙汰してます!﹂
入って来たのはユウジンだった。
﹁ん? お前どうしたんだ。いつもの剣聖の礼服じゃないけど?﹂
﹁これがいつもだアホ﹂
短く答えるユウジン。
そう、懐かしき着流し浪人姿である。
腰の帯刀もあの頃とそっくりだ。
772
﹁ユウジンさん、今日はいつもと服が違いますね。どうしたんです
か? オフなんですか?﹂
﹁そうだな。剣聖をしばらく辞めて、クボ、またお前と旅する事に
するよ﹂
店内に並べられている商品の感触を確かめながらとんでもない事
を口にした。せめて質問したジンに返してやれよ。
ほら、涙目じゃないか。
また泣くぞ。
﹁いやいや、どういう事だよ。主旨を言えよ⋮﹂
﹁ああ、これはジンにも関わる事だからな﹂
ユウジンは、涙目になったジンの頭を撫でてあやしながら言う。
端から見ていると完全に近所から道場に習いに来た子供をあやして
るみたいだな。
﹁最果ての採掘場が何者かに襲われたらしい﹂
エレーシオの鉱山から連なる山々を西へ向かうと山脈の端にたど
り着く。ローロイズにもっとも近い鉱山とされているそこが、最果
ヴァルカン
ての採掘場と呼ばれている。
因にこの鉱山帯は鍛冶神の神殿が直接奉られていた︵過去形︶の
で、鉱石類が豊富に穫れる。
と、言うか結構前に神鉄とれたしな。
死にかけたけど。
773
その採掘場が何者かに襲撃されて、占拠されてしまっているらし
い。そのお陰で鉱石の納品も遅れてしまっているらしい。このまま
だと三日どころか1ヶ月近く待つ事態になるかもしれんと。
他から鉱石を供給する事になるので、価格も割高になってしまう
だろう。
﹁なに? まさかそこに行けと?﹂
﹁そう言う事。ついでに材料もただで貰って来ようぜ﹂
容易に想像できるし、この男の魂胆も紹介文からも察する事がで
きる。
エレシアナの分も作る気だろ。
﹁いや、俺は中央聖都ビクトリアに向かわないと??﹂
そう言いかけた俺の肩に組み付くユウジン。
耳元でボソッと言う。
﹁少しばっかり込み合った事情がある。邪神に関係する事だ﹂
﹁マジかわかった﹂
邪神というワードを耳にして、俺は即断する。
最果ての採掘場に行かなければならないと。もうアレだ、邪神関
係は潰しておかなければならないと思う。
未だ英雄の存在は全く持って判らないのだが、やまんの時の様に
運命と言う物がトラブルを運んで来るのだろう。
薄々そんな気はしているんだ。
774
薄々、薄々、誰がハゲだって?
まだ禿げてねーよ。
﹁おまえ白髪増えたな!!﹂
﹁帽子返せよ!﹂
悩んでいると、俺の脳内を読み取った様にユウジンが帽子を奪い
さる。そんな子供並みの冗談に割と本気で憤慨しながら狭い店の中
をドタドタと出て行く俺達。
﹁あ、ジン。お前は心配しなくてもいいぞ。とりあえず魔道具は依
頼だけ受けて制作は一旦中止にしておいた方がいい﹂
﹁あ、ちょっと! でも!﹂
﹁あ、心配しなくて良いですよ。材料を持ち帰ったらいの一番に作
ってくださいね!﹂
﹁あ、そう言う事じゃなくて∼!!﹂
閉められたドアの奥から﹃あ、が多い!!﹄と意味の分からない
声が聞こえて来たが、回復職である俺が居るから小林○薬いらずで
ある。
少し気分が高揚しているのは、ユウジンのこういうノリに合わせ
るのが久しぶりであるからと、また彼との二人旅にワクワクしてい
るからである。
775
そうして俺達は、この勢いのままでろくな準備もせず竜車に乗り
込み、後々苦労するハメになるのである。
先ず始めに、乗った竜車が南へ向かってしまった事が最大の失敗
であろう。
776
とある魔道具屋にて︵後書き︶
だが、採掘場行きの竜車に間違わず乗る物が居た。
いつも掛けているメガネは、度の入ったゴーグルタイプ。
小洒落たブラウスにチョッキを来てよく男と間違われるのでたま
のお出かけにはスカートをはいてたが、今回はツナギである
﹃生産職は、物の原点を知ってこそ、真価が判る﹄
別ゲーのVRMMOにて、師匠に教わった言葉だ。師匠とはRI
Oの世界でまた会おうと言って別れてから再会していない。師匠は
変な縛りプレイを好むが故に、このリアルスキンモードの有るRI
Oの世界では、お互いが偶然出会うまで再会禁止と定めていた。
私もそこそこ生産職として名を広める機会だ。
剣聖である彼と出会えたのは運が良かった。
でも鍛冶に携わる彼なら判るだろう。
彼も鉄を山にわざわざ取りに行ったとか。
そう、生産職は素材集めもまた重要な要素なのである。
どんな場所で、どういう所に、どういう具合に素材が転がってる
かなんて、素人には判らない。
最高傑作を作るには、己が危うい状況になったとしても、自分の
目で納得の物を掴みに行かなくてはならない。
777
私のポリシーを守る為に。そして。
あのダンディイケメン神父様に、私の最高傑作を作る為に。
778
イカレタ馬車上の戦闘
﹁なんで間違えるかな⋮﹂
違和感を感じたのは、景色が湾岸から一切変わらなかったからで
ある。迂回して回り道を通っているのかと思いきや、まさか逆方向
に向かっているとは、男二人だけの空間で懐かしい話に花が咲いて
いたのもまた一因である。
﹁いや、ぶっちゃけノリで乗ったけどよ。観光竜車なんてあると思
わなかったんだよ。文明開化早過ぎだろ﹂
この着流し浪人スタイルの男、この国の中枢に食い込んでおきな
がらやはり頭の中はひたすら自分の事ばっかりだったらしい。で、
結局飛竜の卵はどうなったのかと言うと、未だ切っ掛けは掴めない
らしい。
﹁魔力に変わり闘気で育てたと言うが、鬼闘気って自分で呼んでる
んだから、竜が産まれるとは思わない方が良いかもな﹂
﹁⋮たしかに。ってか、剣鬼って二つ名がついてから、必然的に剣
技に鬼と名前がつく様になったな﹂
冗談の一言だったのだが、思いのほか真に受けてしまったユウジ
ン。ノーマルプレイの攻略でも武術職は、魔力では無く闘気と言う
物を使いスキルを使う方式になっているらしい。
アップデートと呼ばれる物が行われる度、この世界にはなんだか
んだ色々な呼び方と使われ方をされる不思議な力が出来ている。
779
魔力、法力、闘気。
宗教とも密接に関わっていたりするのだが、その辺りの匙加減は
人それぞれである。武道もまた、宗教に近い様な物である故に。
ヒール、ハイヒール等の回復は基本的に法力と呼ばれる力を使い。
アクアヒールやナチュラルブレッシングは魔力を使う。
快気法は闘気。
回復スキルだけでも、種類は沢山ある。最近仕入れた知識と言え
ど、俺はそう言う情報に後手だと言う事を加味すると、またアップ
デートで呼び方が変わっている、もしくは、新しい物が増えている
かもしれないな。
謎だ。
運営の考えてる事はわからん。
話は脱線したまま少し戻るが、鬼闘気とは闘気の更に上位スキル
という立ち位置に落ち着いている。鬼の名を冠する事で心より鬼が
目覚めるという。
エグい性格とか、彼は元々心に鬼を飼っていたのだろうな。自身
に対しても鬼の様に厳しい、そして自身の門下生にも鬼の様に厳し
い師範と恐れられている。
そして本筋に話を戻すと、てっきり俺達が向かった竜車乗り場に
は、最果ての採掘場行きしか無いと思っていた。だが何故か観光用
の竜車がたまたま停車していて、どうせ乗るなら少し高級なのにし
ようとか言う金の亡者的考えから、観光用に作られた質のいい竜車
に乗り込んでしまったという訳だ。
で、なんか風が気持ちいいなと思っていたら、景色はずっと海を
780
映していてローロイズの海岸線沿いに南に少し下って来てしまった
という事になる。
あれ、これマズくね? と気付いてから降りた時には、そこそこ
な距離を移動してしまった。だが、出発したのが昼前であったから、
まだ間に合う。
﹁そう、誤差の範囲だ﹂
﹁そう言うのは、無事に採掘場に着いてから言え﹂
そう、絶対何かあるだろ。
このままハプニングが続くと、とんでもない展開が待ち受けてい
る。そんな気配がビンビンに漂って来ていた。
﹁あ、あのキャラバンに同乗さしてもらおうぜ﹂
﹁なんだか物々しくない?﹂
巨大な黒い馬に牽引される何の革を使用してあるのか判らないが
光沢のある巨大なキャビン。筋骨隆々の黒馬は、その巨大なキャビ
ンを三つも連ねて進んでいる。その姿はまた異質である。
﹁かなりの速度だから、これで巻き返せるぞ? おーい!﹂
781
そう言いながら馬車に向かって手を振るユウジン。
そして、馬車は俺達の前に停車した。
手を振ったユウジンに対して、御者席の男はどこまでも無表情だ
った。そして黒馬を止めると降りて来てキャビンの後部ドアを開け
る。オースカーディナルをキャビンの上に積み込むと、ユウジンと
馬車に乗り込んだ。
一番先頭を走っていた馬車は、人が乗れる様にされており、薄暗
い明かりの中でジッと座っている先客が居た。この馬車の護衛なの
だろうか。
いや、護衛だとしたら、外に一人も居なかったのがおかしいな。
あの筋骨隆々な黒馬なんだ、低レベルの魔物は近寄りもしないだろ
うな。だとすれば、俺達と同じ様なと途中で乗せてもらった人達で
ある。
それにしても、皆寝ているのか。
薄暗くて表情が見えないが、そこそこ広めに作ってるとは言え、
キャビンの中は空間拡張されていない限り、そこそこ近い距離感な
んだが、全く言葉がないこの状況が更に異質に感じる。
不気味過ぎて今すぐ下車したいのだが、既に馬車は走り出してい
る。
この馬車、一見丈夫に作られていて高級そうに見えるが、椅子は
堅いし揺れはダイレクトにケツに来る。乗り心地が凄く悪い。
﹁おい、なんかおかしくないか?﹂
﹁しっ。聞こえるだろ。しかし、窓が無いって言うのが辛い。これ
は本当にローロイズの停留所まで向かってるのか?﹂
782
﹁人が乗ってるんだから向かうと思うけどな。とにかく息苦し過ぎ、
おまえなんか話掛けろよ﹂
﹁この状況で? 馬鹿言うなみんな寝てんだろ﹂
おかしいどころか、不気味だっつってんだろ。
窓すらないキャビンの閉塞感に息が詰まると同時に、不安も出て
くる。
そしてユウジンがおかしな事を言い始める。
﹁いや、だとすれば皆目を開けたまま眠ってる事になるぞ﹂
ユウジンの視力はとんでもないくらい良い。して夜目も聞く。圧
倒的ステータスの下地に彼自身の努力の結晶でもある。コイツのス
テータスって今どのくらいなのだろうか。
デモンゴーレム
以前、悪魔鉱人形・アダマンタイトのぶん投げをまともに喰らっ
ても死ななかったコイツの生命力は、ゴキブリ並みにしぶとそうで
ある。
そんなことより、目を開けたままってどういう事だよ。
ああ、怖い。
聖書さん聖書さん。
シスターズ
そして聖書を胸元から取り出そうとした俺の右腕をいきなり掴む
物が居る。
一瞬だが身体が硬直した。
783
ビビらせんなよユウジン。
だがしかし、ユウジンは俺の左隣に座っているのである。
キリキリと首の関節が動き、俺の視線は右を向く。
ただ一線に一線に俺の目を見た男の乗客が、腕を掴んでいた。
﹁それ、ダメ﹂
﹁あ、はい。申し訳ございません﹂
ただ、注意されただけだった。
彼の視線は、ずっと俺の目を聖書を往復していた。
﹁あ、あの。ユウジンさん﹂
﹁お、俺に解答を求めるなよ﹂
周りを見ると、いつの間にか真っ正面の虚空しか見ていなかった
乗客の視線が全て俺に集まっていた。
﹁⋮餌を撒いていたが、早く釣れた﹂
﹁⋮こいつ、あの神父か﹂
﹁⋮いいや、まだ確定した訳じゃない﹂
﹁⋮どちらにせよ、ヤッテクッチマエ﹂
﹁⋮同意。クウ﹂
急に顔を掴まれる。そして蒼白で血管の浮き出た男の歯が俺を襲
784
う。得物を丸呑みにする蛇の様に開かれた口。顎が外れたというよ
りも、頬肉を引き裂きながら大きく開かれた口とグロい中身。
戦慄した。そして思わぬホラー展開に身体が硬直する。
バクンッ。口が閉じる音がする。
鼻先スレスレでユウジンが俺の襟元を引っ張った。
お陰でなんとか回避できた。それが無ければ俺の鼻は今頃無くな
っていたかもしれない。噛んだ勢いで、男の歯が何本が折れたり、
歯茎に食込んでしまったのが見えた。そしてその飛沫が顔に飛び、
異臭が鼻を刺す。
﹁これは、ヤバいな﹂
﹁オースカーディナル、キャビンに積んだままです﹂
﹁俺も刀は上に置いて来ちまったよ﹂
共に、武器はキャビン上の荷物置きに置いて来てしまっていた。
そして狭い空間で、乗客数人が俺達に群がる。
さながらエレベーターの中に押し寄せるゾンビのようだ。
﹁グオオオオオアアアア﹂
本性をむき出しにした様に汚い飛沫を上げながら、群がって来る
乗客達。
すぐに逃げ場は無くなった。
狭い車内であるから当然で有る。
785
シスターズ
とりあえず聖書を開く。
精神的にかなり増しになるからな。
と、言うより。常時シスターズによる回復魔法を掛けておかない
と今の身体はオースカーディナルの誓約により耐えられなくなって
いる。
たが、俺の拳骨は重たいぞ。
聖書の光によって明かりを確保した俺は、一番前に押し詰めてい
た男をぶん殴った。
重たい音がして、男は弾き飛ばされる。プロレスのロープの様に
バウンドするんじゃないかと勘違いする程、キャビンに張られた革
が限界まで伸びて、バツンと音を立てて破れた。
明かりが漏れるが、何故か日は沈みかけていた。
どれだけ長く乗っていたんだ俺達は。
﹁うおっ!﹂
破れた衝撃で、俺が推し縮める様に背中で圧を掛けていたユウジ
ンの後方の扉が開く。投げ出される様に外へ飛び出すユウジン。
﹁手ッ!﹂
掴んだ。
だが、押し寄せるゾンビと共に俺達も投げ出されてしまう。
馬車の速度はかなり早い。そして、もし地面に落ちて転がった先
は、大地を勇猛に踏みしめる巨体な黒馬の四本もある前足である。
786
マッシュポテトになった自分の姿が容易に想像できるぞ。
﹁鬼闘気! 波ッ!!﹂
叩き付けられる刹那、ユウジンが闘気の様な物を掌から地面に射
出した。
地面が音を立てて抉れる。
そして、その勢いで俺達は再浮上して、運良く黒馬の上に舞い戻
る事が出来た。
俺達と共に落ちた数人の乗客は当然の如く、四本の足と巨大な蹄
でマッシュポテトである。異物を物ともせず走り続けるこの馬、恐
るべし。
﹁クボッ! 後ろッ!﹂
後ろを振り返ると、この馬車の御者席に座っている無表情だった
ハズの男が、顔を真っ赤にして般若の様な形相で此方を見ていた。
﹁変わり過ぎだろ!!﹂
心臓を狙った刺突を剣の腹を叩き逸らす。バランスが崩れた所に
蹴りを叩き込んで馬車から落とす。運悪く、制御用の手綱に足が絡
み、顔面擂り下ろし状態に陥ってしまった敵。この世の物とは思え
ない悲鳴を上げて絶命した。
﹁とりあえず武器を取りに行くぞ﹂
ユウジンがロープに引っ掛かったままの足を振り落とす。そして
手綱を握ると馬を操り出した。
787
掛け声一発、馬車は速度を上げて行くのだが、後ろを振り返ると
空を飛ぶ魔物まで現れ出して俺らが武器を追っているのか、それと
も追われているのかよく判らない状況に落ち入っていた。
景色は湾岸だったのだが、いつの間にか夕暮れの山林地帯を走っ
ている。
採掘場はどっちだ。
788
イカレタ馬車上の戦闘︵後書き︶
ブラックアーミースレイプ
黒魔軍馬
﹃前足が4本、後足が2本の計6本足の軍馬。伝説の軍馬スレイプ
ニルの眷属である。性格は実直で、命令を確実にこなす様に品種改
良を受けて来た。筋骨隆々なその体躯は自分の身体より遥かに重い
物でも運ぶ事が出来る。魔大陸固有の種族である﹄
この二人の戦闘パート書くのも久しぶりですね。
波っ。出ました。
こ、これは、あの予感がしますね。
ゼ○ト戦士。
789
シスターは遅れてやって来る︵前書き︶
※神父視点ではありません。
790
シスターは遅れてやって来る
魔道具を作る上で必要な材料である鉱石がある。普通の鉱石より
数ランク上に当たる魔法鉱石と言う物が採掘され出したのは、この
鉱脈の東側、鍛冶の国﹃エレーシオ﹄近くの鉱山にて噴火が起こっ
てからだと言われている。
実際には、噴火手前の状態でギリギリ収まっているらしい。山の
神様が鉱山に巣くう悪魔を追い出すための噴火だと、噂している鉱
夫達から聞いた話だった。
それから、どういう訳か魔力を過剰に含んだ鉱脈へと姿を変えて
しまったらしい。鍛冶の国・魔法都市は、共に鉱脈域に接する国で
ある。そしてそのお国柄、魔法鉱石の需要は絶えない。
両国では、魔石とはまた質の異なる魔法鉱石を利用した一大事業
が巻き起こっている。それに食込んだのが丁度最果て域の鉱山を持
っていたローロイズである。ローロイズには、まだまだ成長の兆し
を見せる大きなマーケットがある。
そして同じく優秀な販路を持ち、大陸の流通の大部分を占める程
に成長したアラド公国のブレンド商会と手を組み、技術革新と企業
拡大を進めている。
元々アラド公国は、ローロイズ王位継承第8位の走竜種をこよな
く愛したと言われるとある王族が興した国であったと言われている。
当時末っ子の変態王子だと言われていたアラドは、竜と話す能力
を持っていたとされる。そして、飛竜よりも雑な扱いを受ける走竜
791
種達にもっとのびのびと住める環境を作る為に作ったのが農業大国
アラドである。
アラド健在の時は、ローロイズとの関係も良好だったとされてい
る。公国とされているのも当時の名残を受けているから。だが、長
い歴史の中で走竜種を排他的に見た派閥が大きくなり、アラド公国
とローロイズの間に亀裂が入り、立場も逆転して行ったりと様々な
出来事が起こるのだが、割愛。
話は戻って、色んな国が関わるこの鉱脈だが、一番先に利となる
のは大きなマーケットがすぐそこにあるローロイズの持つ最果ての
採掘場だった。
そしてこれを邪魔する者は当然出て来る。
誰の物か判らない悪意が、その採掘場には向けられ、現在進行系
で魔物に占拠されてしまっているのである。
採掘場にひしめく魔物達を、遠くの影から見据える小さな人影。
魔物の大群を見た竜車は早々に引き返して行った。一緒に帰った
方が良いぞと言った御者のおじさんに従っておけば良かったかも。
額に汗を流しながらそう思ったとある魔道具屋の店主である。
生産職プレイヤーだと言っても、自分で素材を取りに行く内に強
くなっているプレイヤーもいる。だが、彼女は道具職人で、しかも
器用特化であるミゼット族に変わっている。
小柄な人種は色々種類があるが、特出して力と豪快さを兼ね備え
たドワーフ族。器用さと魔力を兼ね備えたミゼット族。勇気と好奇
心の強い戦闘種ホビット族。
792
ミゼット族は戦闘補助担当の種族なのだ。
故に単独で魔物の巣窟へ向かう事等は滅多に無い。
装備自体は、最近潤っている財布を最大限に利用したキヌヤのオ
ーダーメイドである。このつなぎ、実はかなり丈夫なのである。
そして魔道具による幾つかのギミックを施して戦闘向けにアレン
ジしているのだが、幾分この大量の魔物を相手にする為には忍びな
い装備だった。
基本採掘メインで、もし敵にエンカウントしたらという場合を想
定した装備故に、数を相手にする場合どうしようもないのである。
かといって、大人しく逃げ帰る訳にも行かないのであった。
というか、神父クボヤマと剣聖ユウジンが先に到着して魔物を蹴
散らしてくれているという乗っかり系の打算があったから来た訳だ。
︵一体、どこに居るのかな? もしかしたら、既にやられちゃった
のかな︶
死に戻ってしまったという最悪の状況を考えてしまう。
頭を振ってその思考を飛ばす。
︵とにかく、探さなきゃ︶
自分も逃げ帰るという選択肢は既に無くなっていた。
今の自分は、ちっぽけなポリシーと泣き虫な自分の為に泣いてく
れたあの神父に最高の魔道具を作るという感情の上に成り立ってい
る。
793
得物はクロスボウである。
木製ではなく、魔法鉱石を使った合金製なのが特徴で、エンチャ
ントが掛けやすくかつ長持ちする。そして最大の長所は、形と威力
に対してのこの軽さだろう。
魔法鉱石の中でも浮遊石をボディに使用しているため、ミゼット
でも片手で取り回しが聞く等、かなり軽いのである。
飛竜船に使われる程の高純度と大きさではないが、そこそこ良質
な物を使っているので、強度も問題ない。
そして特製合金クロスボウに装着する矢であるが、これは先端に
爆破魔法鉱石を乗せてある。剣聖ユウジンがとある筋から回してく
れた魔法鉱石だった。
削られて剥き出しになった山の上の方にある比較的脆そうな箇所
である。アローボムで下に落とせばかなりの被害になるはずだ。
幸い捕われてる人も居ないみたいだから、とミゼット族のかなり
やはず
精密な身体の動かし方で、狙いを定める。矢羽根に施すエンチャン
トは風魔法、矢筈には火魔法。これで風の影響を受けず速度も威力
も更に出る。
金具が外れて射出された音がする。
耳のいい魔物には気付かれてしまった様で、此方を振り返り窺う
姿が見える。自分から見えているという事は、敵からも見えている。
すぐに身を隠すが魔物側から声が上がる。
と、同時にそれより更に大きいな音が轟いた。
爆破された瓦礫が崩れて魔物達に降り注ぐ、そして最後は意外と
794
大きな一枚岩が出っ張っていたようで、回転して更なる破壊エネル
ギーをまき散らしながら此方に飛来した。
魔物達の悲鳴と共に、転がって来る岩の方向が自分も巻込まれる
位置であると気付いてから、すぐさま走って飛び退いた。
木々をなぎ倒し、かなりの距離を破壊して岩は止まる。
﹁痛たた⋮﹂
そこその数を倒す事に成功はしたが、魔物はまだまだ健在だった。
と、いうよりも飛来した瓦礫が中途半端に小さく、挑発程度にしか
ダメージを受けなかった魔物達は激昂していた。
オークより身体の大きなゴブリンの様な魔物が、此方を指差し吠
えた。それに促される様に魔物達が此方へ向かって押し寄せて来る。
﹁きゃあああああああ!!!﹂
押し寄せる魔物を前にして女の子の様な叫び声を上げて走り出し
たジン。
血走ったゴブリンとオークの目を見ると捕まった後自分がどうさ
れるかなんて容易に想像ができる。
そのお陰で冷静な判断が出来なくなっていた。
最悪、竜車に引き返す用書かれた看板の前まで行けば、巡回に来
た竜車が居て逃げ切れるかもしれない、そんな考えが頭を過り道を
引き返して走る。
﹁ゴアアアアア!!!﹂
795
後ろから迫り来る咆哮に、怯んで転んでしまった。
猛烈な勢いで接近する軍勢を目の前にして、流れる涙はもちろん、
他の物も流れ出てしまいそうな程恐怖する。
﹁あーもう、竜車もやってなかったし、やっとの思いで徒歩で来た
のに何なのかしらまったく⋮気が滅入るわね⋮﹂
その一言と共に、ジンの目の前に薄らと光の壁が出来る。先陣を
切って走っていたゴブリンは進行を阻まれ、後続から押し寄せて来
る他の魔物達に押しつぶされたて内臓をまき散らす。
玉突き事故で死んで行く魔物達。
振り返ると、光沢のあるボンテージ衣装に身を包んだ女性が居た。
頭に被っているベールで辛うじてシスターを連想させるが、今の所
この結界魔法が神聖魔法であるという情報だけでしか教団関係者だ
と判らない。
もっとも、ただの魔道具職人であるジンには判らないのだが。
ユウジン
﹁あなた、向こうから来たみたいだけれど、ゴーグルの着いた帽子
を被った神父は見なかった? あと珍しい武器を持った友人と行動
してるらしいんだけど⋮﹂
叫ぶ魔物を無視して言う。
796
﹁えっと、私もその人達を捜しているんです﹂
﹁え、どういう事?﹂
話が見えないと言う風に聞き返す女。
ジンは自分の詳細を話した。
﹁お世話になっているユウジンさんに言われて神父様は、この採掘
場に向かったらしいんですが⋮﹂
﹁なるほどねぇ⋮。よっぽどの事があったのかしら。私は教会に報
告があったから後で遅れて来ると連絡入れていたのだけれど、まさ
か徒歩の私が早く到着するなんてね﹂
﹁私が出たのも昼過ぎなので、掴まっているかと思って攻撃してみ
たんですが⋮﹂
﹁逆に追われるハメになったと⋮﹂
やれやれと言う風に肩を動かした女性は、シスターマリア。大教
会の司書である。姿から一目で尼さんだと思わないが、シスターで
あると聞くと、被っているベールがどことなくそれを連想させる。
﹁何も言い返せないです⋮﹂
﹁あ、もう! 泣かないの!﹂
状況が状況なので何も言い返せず涙を溜めるジンに、マリアもた
じろぐのである。そして一呼吸置いてから、押し寄せて叫び声を上
げたままの魔物軍勢を振り返る。
797
﹁コイツらをどうにかしなきゃね﹂
依然として状況は固まったままである。
結界を取り囲む様に魔物達は密集している。
﹁あ、これくらいだったら、なんとかできます。かなり密集してい
ますので﹂
ジンは思い出した様にそう言うと、背負っていたリュックの中か
ら円柱状の筒の束を取り出した。七本の筒を一纏めにして、その中
心の筒から一本の紐が伸びている。
︵火竜
﹁どうしてもつるはしで掘れない時に使おうと思ってたんですが、
これを使いましょう﹂
それは、精製された爆発魔法鉱石を粉末状にして火竜土
の排泄物がしみ込んだ土を特殊加工された火薬︶とレッドスライム
の体液と混ぜた混合物である。どちらも扱いが難しい素材であるが、
レッドスライムの体液と混ぜる事によって安定化する。
ダイナマイトの様な物。
﹁なによそれ?﹂
当然ながら、RIOの世界に住むマリアは知らない劇物だった。
﹁火竜土って知ってます?﹂
﹁燃える土ね。天然物はかなり希少らしいけど、ローロイズでは人
798
工的に作る事が出来るらしいわね﹂
﹁それと爆発魔法鉱石と呼ばれる破壊属性の鉱石の粉末を掛け合わ
せた物です﹂
﹁かなり危険じゃない?﹂
想像だけでも理解できる。
火竜土はかなりの勢いで燃える事で有名なのだ。
﹁あまり数が用意できないので取って置きたかったんですが⋮この
結界ってどれくらい持ちますか?﹂
﹁爆発の程度が判らないけれど、ガーゴイルの業火くらいは防げる
わよ﹂
﹁よくわからないですが、多分それじゃ持たないのでなんとかして
ください﹂
いきなり図々しくなったわね。とマリアは呟く。
そして聖書を懐から取り出すと詠唱を重ね出した。
シス
﹁一級神聖結界を重ねるなんて、特級には及ばないけれど。できる
人なんて私くらいよね﹂
ターズ
以前ガーゴイルと戦っていた時は出来なかったが、クボヤマの聖
書の力を借りてから、何故だか多重起動が可能となっていた。
﹁十分です!﹂
799
ジンはそう言うとバラバラにした爆発物の導火線それぞれに火を
つけた。
﹁一瞬上だけ結界開けてもらえると助かります!﹂
﹁また無理難題を⋮⋮あ、できた﹂
意外と簡単に出来た結界操作に自分があっけに取られてしまうマ
リア。そして爆発物を周囲に散蒔くとジンは耳をふさいでしゃがみ
込んだ。
﹁耳塞いで下さい!﹂
別にしゃがむ必要は無いのだが、マリアもジンに習って耳を塞い
でしゃがみ込んだ。
︵⋮紫⋮︶
ジンが余計な事を考えている内に、凄まじい音と光が周囲に炸裂
した。
魔物達は一切の悲鳴を上げる事もなく、飛来した物に疑問を感じ
た傍から爆発の衝撃で消し飛んで行った。
﹁うわ、地面が抉れてる﹂
﹁わ、私も作っておいてですが、こんな威力が出るなんて思ってま
せんでした﹂
7連で張った結界は薄らと消えかかっており周囲は大きなクレー
ターの様な物が出来ていた、どれだけの衝撃があったのかが窺える。
800
その光景を見て、もし採掘で使うなら7本束ではなく一本にして
おこうと固く誓った小さな生産職であった。
801
シスターは遅れてやって来る︵後書き︶
竜種は、賢く清潔なので、トイレ文化を持っています。縄張りを
誇示する様な習性ではなく、竜種のマナーです。
巣を替えて居なくなった火竜のトイレに使われていた土は排泄物
が色々と混ざっていて火薬より爆薬に近い程のエネルギーを発しま
す。
ローロイズでも一応少量人口生産されていますが、天然物とは年
期が違いますね︵断言︶。
天然物は一年一回の収穫では計り知れない程の思い出が詰まった
一品ですので。
火竜の糞尿評論家ももちろん居ますよ。世界には。
802
神父は敵と共に来る
﹁この光景で鉢合わせしたらモンスタートレインっていってネトゲ
でも最悪のマナーだな﹂
馬車を駆るユウジンが笑いながら言う。
状況は依然変わらず、オースカーディナルとユウジンの愛刀であ
る天道を載せた馬車を追っている。
っていうか。
オースカーディナルを手放してもその誓約は俺自身が受ける訳で、
持っていても持っていなくても変わらず拷問の様な仕様である。
当初は乗り物の速度にも影響するんじゃないかと思ったが、俺自
身以外には関わらないらしい。要するに、うるさい足音と海溝で陥
没した岩盤はエフェクトの様な物だった。
なるほど、線引きが判らん。
ただでさえ鈍足なのに、追い打ちをかける様にこの誓約と来た。
海溝での戦闘時、状況的にどうしてもキングクラーケンに太刀打
ちできる程の堅さと力が必要だったから仕方ない。
シスターズ
オースカーディナルにスピードを求めてもこれ以上の誓約に聖書
は耐えきれないだろう。ログインした瞬間死に戻りなんて発生しか
ねない。
﹁なんか遠距離攻撃ないの?﹂
803
セイントクロス
﹁お前だって聖十字あるだろ﹂
﹁飛ばせなくなったんだよ!!!﹂
セイントクロス
そう、唯一の遠距離攻撃である聖十字だが、腕から数十センチま
ででしか発動できなくなった。これもオースカーディナルの影響で
ある。
セイントクロス
前のクロスたそだったら中規模の聖十字を量産して飛ばす程の安
心と信頼があった訳だが、この糞十字架、ただひたすら高威力の聖
十字が発動するのである。
威力特化は良いが、聖十字の凡庸性は唯一の遠距離攻撃だった所
なんだぞ。
マジでどうしてくれる。
﹁⋮⋮急に自分を見つめ直すとかソロプレイし出して、取り得なく
すとかもう神父やめたら?﹂
﹁うっさいな⋮⋮﹂
溜息をつきながら煽るユウジン。
こっちだって溜息つきたいんだが、マジで。
﹁しかたねぇな。あんまりこう言うのは趣味じゃないんだが、光剣
!﹂
握りこぶしを作った手から光が溢れ出し剣の形を作る。
﹁姫さんに剣聖の称号貰った時に使える様になったんだが、鍛えれ
804
ば空中に剣を何本でも精製できるみたいだから、一応鍛えとくか﹂
﹁なんだその超便利なスキル。刀いらなくね?﹂
聖なる力を帯びた光の剣を前に、お役御免と言った具合に聖職者
である俺の立場が揺らぎ、その事実に動揺してしまう。
﹁一応それなりに使えるけど、切れ味悪いんだよな﹂
てんとう
そりゃ、神鉄を鍛えた刀である天道には及ばないだろうけどさ、
手数が増えるって相当良いぞ。本腰の刀と比べるな、鈍ら刀で鉄を
斬るレベルにすでに片足突っ込んでるお前なら、大抵の魔物はまっ
二つに出来る筈だ。
手数と言う物は俺も初期に利用していた。
聖書とクロスを操れば両手分の手数になる訳だしな、今は無理だ
けど。
﹁おらっ!﹂
掛け声と共に光の剣を投げる。
御者席の男に命中したのか、弾けとんだ生首が脇道に転がって行
く。制御する者が居なくなった馬車は、指示を失いみるみる減速し
て行く。
横付けして飛び乗ると、残っていた乗客風のゾンビの様な魔物達
が、下から襲いかかって来る。俺はユウジンに刀を渡して御者席に
向かう様に指示する。
オースカーディナルを起こすと聖十字を発動した。
805
巨大な十字形の輝きが中に居た魔物ごとキャビンを消滅させる。
﹁乗れ!﹂
﹁おっけい!﹂
巨大な黒馬には男二人の乗るスペースが十分にある。無駄な者を
背負わなくなった馬は十分な速度を出せる様になっていた。
ぐんぐんスピードを増し、このまま引き離して逃げ切れるかに思
えたこの戦いもまた違った展開で終盤を迎える。
馬車で走っている間に日は落ちていた。夜中でも悠然と走る魔大
陸産のこの黒馬には確り見えていたのか、急に減速して止まった。
﹁おいおいマジかよ。なんかクレーター空いてるぜ?﹂
ドーナツ状に抉れた地面が月明かりに照らされて見える。
ここで一体何が起こったんだ。
﹁強行できるか?﹂
﹁この角度じゃ無理だ! 第一この馬も止まっただろ﹂
ならばどうする。
後ろからは迫り来る馬車と魔物達。
俺はこのクレーターを利用する事にした。
﹁ユウジン、俺が聖十字を発動させたら横に跳ぶぞ!﹂
806
黒馬が目視して減速した位置に差し迫る。
正面に構えた俺は、聖十字を輝度全開で発動した。
﹁今ッ!!﹂
ギリギリのタイミングで横跳びする。
ひしゃ
それと同時に鈍い衝撃と黒馬の重たい悲鳴。それに重なる様にし
て後からキャビンの骨組みが落下の衝撃で拉げる音が響く。
﹁とりあえず走りながら応戦だ﹂
クレーターを迂回しながら巻込まれなかった空を飛ぶ魔物の攻撃
魔術を捌いて走り出す。地味に厳しいんだよな、走りながら戦うの
って。
走るのとは己との戦いだ。
100回くらい諦めそうになるが、それを乗り越えるだけの精神
を持ち得ている。
AGI値的にこれのスピードが限界なんだが、ユウジンもう少し
速度落としてくれないですか? もう耐えられないよ?
それを知って知らずか、俺がついて行けるギリギリのスピードで
走って行くユウジン。もう辞めて、俺の持久力はゼロよ。
﹁相変わらず足音うっせーな﹂
﹁だったらもう少しスピードを落として!﹂
﹁あ、でもほら、追いつかれるし﹂
807
ドシンドシン鳴らしつつ。
敵との戦いはユウジンに任せて、俺は己との戦いに明け暮れるの
だ。
開けた場所にたどり着いた。
道の途中でデカい岩が転がって回りの採掘場入り口付近の木々を
粉々に蹴散らしてた様なのだが、落石事故でも起こったようだ。恐
ろしい。
﹁坑道に入ろう﹂
ユウジンに告げた。
空中を駆り、3次元的な攻撃を仕掛けて来る敵も、狭い坑道内に
入れば自ずと行動範囲を制限される。
案の定何の考えも無しに後を追って来た魔物を、待ち構えていた
俺はぶん殴ってぶっ飛ばす。コメディマンガの様に唾をまき散らし
808
ながら坑道の入り口に出戻りして絶命した仲間の死骸を見て、どう
やら相手は中に入るのに躊躇している様だった。
これは都合が良い。
まぁそれほど長い時間は持たないと思うけど距離を稼ぎつつ何処
かでまた足止めすれば良い。
シスターズ
暗闇の中を聖書の明かりだけで進んで行く。そこまで明るいとい
う訳ではないが、聖十字で明かりを作るともれなく出口を塞いでし
まう可能性があるからな。
不意に、遠くに光がゆらゆら浮いている光景を見て二人で身構え
る。
﹁クボ? あんたこんな所で何してる訳?﹂
﹁なんだ、マリアさんですか﹂
﹁あれ、ジン。なんでお前もここに居るんだ?﹂
﹁あはは。生産職たる者って奴ですよ﹂
ホッと胸をなで下ろす。カンテラを持ったマリアがジンと手を繋
いで戻って来ている最中だった。
ここから先へ行っても、どうやら鉱夫達の休憩所があるくらいだ
ったらしい。坑道内は占拠されておらず、採掘場入り口の開けた場
所に魔物は密集していたらしい。
一体何しに来たんだ。
集団デモかよ。
809
﹁ってかなによあなた。また面倒事運んで来たの?﹂
﹁いや、今回はユウジンが﹂
呆れた様な顔で呟いて来るマリア。
言い訳をするとお友達のせいにしないの、と嗜められてしまった。
﹁でもマリア。この採掘場、とんでもない気配がしますね﹂
﹁そうだな﹂
そう言って、ユウジンと二人で頷く。
通り道にあった大きなクレーター、採掘場の入り口付近にあった
どでかい落石の跡。確実に巨大な魔物の襲撃があったに違いない。
話に聞いていたが、やはり採掘場は魔の手が潜んでいたか。と思
っていたが、マリアの一言に俺達は大きな溜息をつく事になる。
﹁あれ、全部この子の仕業なんだって﹂
﹁ハハハ⋮⋮てへぺろっ﹂
照れた様に頭をかくミゼット族の女。
緊張していた糸が一気に緩んで行く。
﹁まぁでも、二人とも無事で良かったですよ﹂
ってか坑道内であの規模の爆発物を持ち歩くとか、正気の沙汰じ
ゃないな。意外と天然で恐ろしい少女に、魔道具の制作を一任して
810
良い物か思考が一瞬ぶれるが、もう頼んでしまった物は仕方ないし、
彼女も彼女で、採掘場へ来て巻込まれてしまったのは仕方ないと考
えている様だった。
﹁先が行き止まりなら、魔物の応援を呼ばれたら面倒になる、外へ
出よう﹂
ごもっともなユウジンの案に従って、俺らは再び開けた場所へ向
かった。
外に出ると再び密集している魔物達。
焚き火をしているオークやゴブリンが居るので回りは明るく照ら
されていた。そして、坑道の入り口から出てきた俺達を見張ってい
た翼を持った魔物が叫び声を上げる。
その声に従う様に魔物が全員此方を振り向いた。
これは大変マズい状況である。
811
神父は敵と共に来る︵後書き︶
神父は遅れてやってくるのではなく。
既に敵と居るのである。
新訳聖戦書の一部抜粋。
812
−幕間−麗しき長い耳
フラウ
進化の兆候が始まったのは、雪精霊と出会ってからだった。姫騎
士として研磨を行っていた私の身からすれば、次第に衰えて行くせ
フラウ
っかく鍛えたばかりの自分の筋力に非常に残念な気持ちで一杯であ
ったが、私の肩に座って微笑む彼女を見ていると、そんな気持ちも
次第に薄れて行った。
私は元々、日本のゲームに強い興味を持っていた。自分の故郷に
エルフの伝承が残っていて、それにあやかってエルフの姫騎士プレ
ヒューマン
イなどと言うロールプレイを学友と共に行っていた。初期RIOの
キャラメイクでは人族しか選べなかったというのに。実際成り切り
プレイは楽しかったんだけど。
そんな状況も彼と出会ってから一変して、更に深い形でこの世界
に関わる事が出来ている。ロールプレイの垣根を越えた、エルフそ
の物に私は進化しているのだから。
フラウ
雪精霊が今ここに居るのも、エルフへ進化した事も、私の心の根
底で精霊やエルフの存在を信じていた事が結果に成ったのかもしれ
ない。
﹁おや、いつ頃お戻りになられていたんですか?﹂
ギルド﹃GoodNews﹄。その中でも限られたメンバーしか
入る事の出来ないと言れた大聖堂内のベンチの一つに腰掛けて、こ
の世界の教会に良くある女神像の代わりに安置されている運命の聖
813
書をぼんやりと眺めていると、お洒落なティーセットを乗せたワゴ
ンをおすプレイヤーに母国語で話しかけられる。
﹁ただいま御門。エルフって本当に居るのね、感動したわ﹂
﹁エリー様、ここではセバスと呼んでください﹂
ミカドトウジュウロウ
学友である御門藤十郎は、セバスチャンという名前で一緒のギル
ドに所属してプレイしている。元々、エルフの姫騎士とうたってい
た頃から従者としてプレイするとお互い決めていたのだが、いつの
間にか執事姿が板について、今では色んな所を駆け巡ってこの世界
の経済に携わっているらしい。
本人は、勉強した事が使えて面白いなど言っていたが、生徒会長
として生徒会の会議でこの世界の裏の亡者と権謀策略を繰り広げて
来た時の雰囲気を出すのは勘弁してほしい。
非常に息が詰まる。
﹁あら、貴方だってわざわざ私の国の母国語を使わなくてもいいの
に?﹂
﹁貴方様の日本語は、話になりませんからね⋮﹂
学校生活は毎日がめまぐるしく、こうして体感時間が引き延ばさ
れている世界でセバスの紅茶を楽しむ事も、最近の日課だったりす
るのだ。こういう所で気軽にゲームを楽しめるのがRIOの良い所。
﹁あら、この紅茶美味しいのね﹂
一口飲んで、私は正直な感想を上げる。香りも味も上品かつ口当
814
たりも良い。それよりも、故郷の味をどことなく感じるのだ。
﹁タイムブレイクティーと呼ばれる、この世界の北に有る紅茶です。
珍しくクボヤマ様からティーセットと北の水付きで送って来たので、
エリー様が本日戻って来られてると聞いて準備した次第です﹂
﹁クボ⋮﹂
懐かしい名前を聞いて視線が自然と彼の聖書へと向かってしまう。
日本人にしては妙に神父服が似合う彫りの深い男性。彼と出会って
から、私は大きく変化したと言っても良い。
﹁あ、手紙も入ってましたよ﹂
﹁読んで﹂
﹁西沿岸を通って船で帰って来ます。グランドクエストみたいな物
があるので、ギルドの力を貸してください﹂
帰って来る。そのワードを聞いた瞬間に胸が高鳴るのが判る。茶
菓子であるスコーンを齧りながら、リアルで会ったクボの事を思い
出した。
多分クボは知らないと思う。彼が龍峰学園に卒業生の講義を行い
にやって来た時、講師名に久保山の文字が入っていた事に気付いた
私は、早速講義を受けに行った。もしかしたら目が合うかもしれな
いと思って熱烈な視線を送っては見た物の全くこっちに気付いた素
振りは見せず、そのまま終了してしまった。
久保山の講義は終り掛けの質問タイムみたいな物がなく、これか
815
らまた仕事なのでここで終りますとあっけなく立ち去ってしまった。
メールでも、滅多にリアルについて話さない彼との唯一の思い出。
随分と一方通行な思い出ではあるけど、思い出は思いでなのであ
る。
﹁一体いつ帰ってくるの?﹂
﹁西岸部を通っていればローロイズを必然的に通る事になりますか
ら、ユウジンさんも連れて帰って来るつもりなのでしょう﹂
﹁逆算して今頃どこだと思う?﹂
そう尋ねるとセバスは一瞬押し黙った。彼の頭の中では今頃凄ま
じい予想と演算が繰り広げられているのだろう。実際に、成績では
常にトップに立つ人で、私もテストではかなり彼に助けられている。
﹁何かに巻込まれる事を予測に入れると、絶対に何処かでトラブル
を起こしている筈です。なので、手紙の日付から逆算すると、今頃
やっとローロイズに到着する前にトラブルに巻込まれている所でし
ょう﹂
断言するセバスに少し吹き出してしまった。確かに彼と歩む旅で
何かに巻込まれなかった事は一度も無かった。最近遠出してソロで
尋ねてみたエルフの郷だけれど、ただ観光して精霊魔法に対する手
ほどきをしてもらって、そのままUターンしてギルドの有る中央聖
都に帰って来た訳だ。
﹁早く帰って来ないものかしらね⋮﹂
816
﹁お嬢様、こっちから出向くという手もございますが﹂
セバスはいつだってファインプレーだ。クボが良く口癖で言って
た言葉である。いつの間にか私も使う様になっていた。飲み終わっ
た紅茶を戻すと、改めてセバスに尋ねる。
﹁可能なの?﹂
﹁皆バラバラになってしまって、ギルドを一人で切り盛りするのも
なんだか腑に落ちないですからね。総責任者は彼なのですから、そ
ろそろ彼に丸投げしても良いかと﹂
ギルド登録自体は、彼の名前でしてますからね。とニコやかに言
ってのけるセバスは、クボと意外と仲良くしていてそう言う根本的
な部分で彼に簡単に背負わせて反応を楽しんでいる節がある。羨ま
しい。
クボもクボで、セバスに何かと雑用を任せていたので、持ちつ持
たれつという立場だった様に感じる。
私もそう言う仲でありたいんだけど、いつからだろうか、いつの
間にかただ守られるだけの立ち位置に成っていた様な気がする。
﹁逆にこっちから彼に会いに行くのね﹂
﹁そうです。ビクトリア内でも、教団が何やらきな臭い状況だと情
報が回って来ていますからね。予想だと最果ての採掘場と呼ばれる
場所で一悶着起こるかと思います。今世界でも重要になって来てい
る魔法鉱石の一般流通に関わる場所ですからね﹂
﹁わかったわ。ラルドを走らせてどれくらい?﹂
817
﹁そこそこ掛かりますけど、ローロイズ内でも足止めをくらうとし
て、ギリギリ間に合いそうです﹂
なら、ピンチの時に駆けつけて上げましょう。と私は立ち上がっ
た。大聖堂に置かれている彼の聖書を安置されている透明なボック
スから取り出すと、セバスが黒い神父服を渡してきた。
その目には、コレも貴方が持っていてくださいという意味が込め
られていた。私はそれを抱きしめて一瞬匂いを嗅ぐと、懐かしい匂
いに少し頬を染めながら空間拡張された小袋に入れた。
﹁その服装で行かれるつもりですか?﹂
﹁いいえ、着替えるわ。エルフの郷で貰って来た物があるの。可愛
いし防御性能も良いから﹂
セバスはワゴンをしまうと、準備して参りますとそそくさと大聖
堂を後にした。ワゴンをしまうくらいなら、わざわざ押して来なく
て良いのに。と思っているが、彼は常にそう言う細かなディテール
を意識している。ファインプレー故に。
大聖堂からギルドホームを通って自室に向かう途中、﹃Good
News﹄に新しく入ったばっかりの人達に話しかけられた。
﹁姫さん! 戻ってらしたんですね!﹂
﹁エエ、少し前に戻って来マシタ﹂
﹁これから狩りですか? それとももうログアウトですか? 珍し
818
くギルドに居るんですし、時間空いてたら新しいギルドメンバーに
何か話して上げてください﹂
﹁少し出かけて来マス﹂
﹁ほぉ、またですか。次はどちらへ行かれるんですか?﹂
﹁ギルマスを連れ戻しに行ってきマス﹂
819
−幕間−麗しき長い耳︵後書き︶
一度も触れる事の無かったエリー回です。
正ヒロインの座は渡しませぬよ?
セバスの予想はファインプレー
820
採掘場での戦い1︵前書き︶
更新がすこぶる遅れました。
本当に申し訳ありません。
821
採掘場での戦い1
地響きと共に、巨大な爬虫類が採掘場で蠢く魔物達を押し分けな
がら、その姿を表した。夜の闇に焚き火の明かりを背負いながら、
その巨体を映し揺れる影は昔︻かいじゅう︼の絵本で見た様な途方
も無い不安感を与える様だった。
あの絵本怖いよな。かいじゅう達のデザインが幼少期の俺にはと
てつもなく不気味だった。成長してからもかわらず手に取る事は無
かった絵本だったな。
全体的に暗いんだよ。
鋭い歯を見せながら、巨大な爬虫類はその銀色の針が密集した鬣
の様な物をキリキリと耳に痛い音を立てて鳴らす。
﹁バ、バジリスク⋮﹂
俯いたマリアが声を漏らす。その足はガタガタと震えており、今
にも座り込んでしまいそうなのをただひたすら耐えていると言った
風だった。俺の服の裾を握りしめている手まで冷や汗が滴っている。
﹁で、出来るだけバジリスクの目を見てはいけないわ⋮即死の魔眼
を持つ冥界の竜と呼ばれている魔物だもの﹂
シャアアアと辺りが凍り付く様な唸り声。だが、今の所それだけ
である。坑道の入り口でどうする事も出来ない俺達に対して、不自
然な程に唸りを上げ続けるだけのバジリスク。
822
バジリスクの上に何者かが座っていた。
アウロラ
﹁人間って面白いよね。大半が女神を信仰していると思えば、実際
は形だけ。冥界のゾンビ達より中身は腐ってる腐ってる。この間さ、
地獄の門に来た神父からさ、あれだけ女神に尽くしたんだから天国
へ連れて行ってくれと懇願されたよ。ま、地獄に落としたけどね。
俺は親父じゃないから多様な意思を持たない物達の方が好きだよ﹂
体操座りで朧げな視線を虚空に送りながら、紫色の衣を身にまと
った男はブツブツと呟いている。
﹁あ? 何言ってんだアイツ。とにかく、バジリスクとは目を合わ
せなければいいんだろ﹂
ブツクサ言ってる根暗は置いといて、とっとと殲滅戦に取りかか
りたいという意思を全面に出すユウジン。それに過剰反応する様に
体操座りの男。
﹁は、バジちゃんの魔眼は冥界のゾンビでも二度死ぬから。舐めな
いでもらいたいな、ってか人間の分際で何言ってんの? 馬鹿なの
? 死ぬの? あ、目、合わせたら死んじゃうんだっけ? プププ。
さっさと死んだらぁ?﹂
﹁⋮あ”?﹂
いつの間にか抜き身になっていたユウジン。身体から蒸気が吹き
出し始めている。蒸気に濡れた流しが肌に張り付いてその鍛え上げ
られた上半身を浮き出させる。
ってか、鬼闘気。随分とまぁ鬼らしくなってるじゃないの。
823
角が生えて、牙がのびて、皮膚も熱を持っているのか赤くなって
いる。
赤鬼だ。中級モンスターのレッドオーガとはまた違う。
本物の鬼って感じ。
﹁おっと、ダメだよ先走っちゃ。君たちのイレギュラー加減は俺も
耳にしてるからね。なんか銀髪が居ないけど、とりあえず目的はそ
この神父だからね。一筋縄では行かない事は判ってるからね。俺も
少し考えて来たよ﹂
普段は女を見るを問答無用で地獄に叩き落としちゃうんだけどね。
と、ブツブツと夜の静けさだからこそ聞こえる様なトーンで喋り続
ける男は、指をパチンと鳴らす。
急に、服の裾を引っ張られる感覚が無くなった。
後ろを振り返ると、マリアが死んだ様に倒れていた。
﹁マリアさん!﹂
﹁あれ∼? おかしいな。そこの貧乳の女のも頂いた筈なのに﹂
そう言いながら、手の上に浮く光る玉を弄び始める。
嫌な予感がする。
﹁一体何をしました?﹂
﹁あ、これ? コレね。魂だよ魂。そう言えば自己紹介遅れたね。
俺は冥界の王プルート。今からゲームをしないかい?﹂
824
クツクツと笑いながらゲームだなんだ言う冥王プルート。
﹁おい、コレってマズいんじゃないか?﹂
﹁⋮⋮貧乳って⋮⋮﹂
プルートは立ち上がって、バジリスクから飛び降りた。
このやり取りの中、集まっている魔物達は不自然な程に静まり返
っていた。よくよく見れば、四肢が欠損していたり、至る所に火傷
や裂傷を負っていたりとよくその傷で生きているなと言う風貌の魔
物が大勢いる。
コイツラ
コレ
﹁心配しなくても、魔物共には手は出させないよ。ただのギャラリ
ーだからね。ただし、魂は見ててもらうけど。少しでもゲームルー
ルから外れた行為をしたら冥界に連れて帰っちゃうよ∼﹂
馬鹿な事しないでね、と一言。
歯噛みする様な状況で、プルートは独特の口調で淡々と説明をし
て行く。
簡単に要約すると。
武器の使用禁止。プルートの用意した魔物と素手でかち合うそう
だ。
まま
彼曰く、本能の儘でこそ生物は美しいんだとか。
﹁まるで不可避イベントだな﹂
そうユウジンの言う通り、絶対に死んでしまう系のイベントに巻
825
込まれてしまったのかもしれない。いや、俺達プレイヤーは死に戻
りペナルティを味わうだけだが、マリアは違う。
死んでも生き返る事は無い。
セーブポイントとか、死んだらそこからやり直しなんて無い。
死んでも助ける。それに尽きる。
いつの間にか用意された、採掘場の端材を使ったステージに俺と
ユウジンは二人で上がる。特別席の様に設けられた場所にジンは動
かなくなったマリアに寄り添う様にして此方を見守っていた。
プルートは、バジリスクの背に座ってクツクツと笑いながら此方
を見つめている。まるで、自分の勝利を悟っているかのようだ。
この試合、勝てば終るのかと言えばそうではない。
プルートが繋いだ冥界への召喚魔法陣。そこから無限に湧いて来
る魔物と戦わなければならない。その辺の事情を詳しく説明してい
ない彼は、心の底で﹁ルールに明記していないけど破っては居ない
もんね﹂と思っていそうだった。
あくまで主導権はアイツが握っているから、俺らがその明記して
いないけど的な裏をついたやり方をすれば、癇癪を起こしてマリア
の魂を消滅させかねない。
一体どうすれば良いんだ。
簡単な話、冥界の魔物を全部殺してしまえば良い話なのだが。
﹁どーすんの?﹂
826
﹁刀が無いのが辛いが、やれる所までやるしかない﹂
そういうことだ。
戦いが始まった。俺とユウジンは交代したり、互いに有利に戦闘
できそうな場合は戦いを譲り合う作戦を立てた。インターバルを設
ける事で、少しでも体力の温存を図る。
先ず始めはユウジン。
﹁じゃ、手始めにバトルゴブリンからね。ハンター協会だっけ? それの指定ランクだと個体でDランク﹂
通常ゴブリン個体はGランク。ハンター協会の最低ランクはFラ
ンクなので、ハンターを志す程に鍛えた相手なら赤子の手を捻る様
に殺せる手合いなのである。
だが、ゴブリンは群れる。群れたゴブリンは規模にもよるが大体
50匹で一つの集落を形成するので、その場合はランクDとなる。
つまるところ、一つの群れ分のゴブリンだと言う事だ。
バトルゴブリン・ゾンビ
827
クラスチェンジ
﹃種族進化も行わず、ゴブリンの中でも強者として君臨していたゴ
ブリン。弱い種族なのだが、戦闘本能を強く持っていた個体故に一
時期小さな村を脅かす存在になっていた。孤独で小さな戦闘狂。長
い戦いの中、奇跡的に生き残ると緩やかに王としての風格を持ち出
す﹄
あれ、鑑定。
少しこの個体の記憶とか生前も含めてないか?
まぁどちらにせよ情報が多い事に濾した事は無い。
ステージの端の召喚魔法陣から出現したバトルゴブリンは、獰猛
な唸り声を上げながら本能の儘にユウジンに戦いを仕掛けて行った。
本能の儘、顔面を狙って飛び上がるゴブリンだが、ユウジンはア
ッサリと迎え撃つ。顔面をグーパンで強打されたゴブリンの首は不
自然に折れ曲がり、それっきり動かなくなった。
﹁第一ステージクリアだね﹂
いちいち癪に触る声が聞こえて来る。
無限ステージの癖しやがって!
バトンタッチである。
﹁小出しで行こうと思ったけどやめた。そう言えば君たち、イビル
クラーケンとか帝種とか仕留めてたね﹂
何やら不穏な事を言い出したプルート。
828
﹁じゃ、上級行っちゃうね。ネザーオーガちゃんカモーン﹂
真っ白な衣を身に纏った、真っ黒な鬼が召喚魔法陣から姿を現し
た。一般的なオーガとは違って図体は大きくなく、人間程の大きさ
で引き締まっている様に見える。
冥府之鬼
﹃冥界に落とされた生き物を管理する鬼。地獄の法力を操る。鬼種
の中でも特殊な部類に入る﹄
鑑定の結果を知った瞬間。金切り声を上げながら、冥府の鬼は嬉
々として俺に迫る。まるで、俺の事を獲物だと言う風に。
﹁あ、その子はね、少し前に来た人間の神父? アイツに散々手を
やかれたから、すっごい恨んでるみたいよ?﹂
なんて事してくれたんだ糞神父!
ってか俺だけレベル違うくない?
バトルゴブリンとは比べ物にもならない程の速度で、金切り声と
共に鬼の掌が俺の眼前に迫る。顔を狙っていると見た。
とにかく、脳は即死部位なのでガードしなければならない。
咄嗟の事に、判断を見誤った。
何もかもがフェイントだった。
鑑定には法力を操るとあった筈だ。
829
完全に勢いに押されて物理攻撃だと思っていた。
だが、腕の動きは下にズレて俺の胸の位置にある。
その掌には魔法陣の紋様が描かれていた。
掌から腕に沿って、魔力を流しながら淡く光るこの紋様は、簡単
に言えば無詠唱で魔法を発動する事を可能にする物だった。
近接と魔法を織り交ぜたその一撃に俺は完璧に対応を遅らされた。
﹁あの馬鹿⋮⋮﹂
﹁神父様ッ!!﹂
ユウジンの呟く声と、遠くでジンの叫ぶ声が聞こえた。
その瞬間小規模な雷光がほとばしり、胸ではなく心臓に直接響く
様な衝撃を感じて俺は意識を失った。
シスターズ
聖書、再起動しろ。
830
採掘場での戦い2
シスターズ
聖書によって意識が復元される。
あぶねー。
胸ポケットにいつも忍び込ませている聖書が功を奏した。
シスターズ
フォルトゥナ
そう、北への旅路で新しく聖書を見繕った俺は、精神修行と共に
間に合わせの技術を聖書に記していた。
フォール
大教会の資料室で全てを学んだと言っても良い運命の聖書には及
ばないが、降臨なら初期程度には使える様にと書き加えておいたの
だ。
いつの間にか、オースカーディナルの誓約に耐える為の常備薬と
してしか使っていなかったんだが、これでも降臨くらいは使えるん
だ。
シスターズ
しかも、聖書はどちらかというとマリアを気に入っている様だっ
た。まぁ確かに俺には既に一つの聖書をエリック神父から譲り受け
ている訳だし、あの旅路ではマリアも聖書の世話になる事が多かっ
た。
これこそ、百合と言う物なのだろうか。
俺もエリック神父に乗っ取って、フォルが無事に帰って来たらこ
の聖書をマリアに譲ろうかと常々考えていた訳である。
話がそれたが、北への旅路で培った物はまだある。
831
魔力ちゃんとの絆である。
ヌルヌル魔力と馬鹿にされた俺のアイドル魔力ちゃんだが、魔力
展開とその流動性に磨きをかけた結果、常に俺の回りを流動する層
となった。
一見過ごそうに見えるコレ、魔力障壁の劣化版という奴だ。マリ
アが得意としている防御結界も魔力障壁も、魔術や物理攻撃を弾く
効果がある。
流動する魔力に弾く力は無い、搦め捕って分散させるのが役目で
ある。
とことん近接特化した身体になってしまったと思う。
まぁ前衛職になりたかったんだけど。
もっとこう、スキルをババンと放ちながら勝利の余韻に浸ってみ
たいとか、そんな風に思った事は何度もある。
何度もあるのだが、やり直しは不可能なこのゲームである。
自分が持ってる物を磨いて行くしかない。
掌の術式のインパクトの瞬間、魔力ちゃんがそこを起点に流動し
衝撃を身体から受け流して分散させたお陰で、直接心臓を狙った一
撃を耐える事が出来た。
電気ショックの様な一瞬の痛みだけすんだので聖書での回復が間
に合ったのだ。それが無ければ今頃心臓が破裂していたんじゃない
かという程の衝撃だった。
心肺停止の際、開ききった瞳孔を見て仕留めたと勘違いした冥府
832
之鬼だが、再び目に光を灯した俺に僅かばかりの動揺を浮かべてい
た。
今度こそ仕留める。と甲高い金切り声を上げながら、次は双掌に
てもう一度あの一撃を放つ算段の様だった。
馬鹿だな。
明らかに武を持つ人形の魔物との戦いに少し高揚していたのだが、
興味が薄れた。
俺の戦い方は基本的に接近して殴るもしくは掴んで齧っていた柔
術などに持って行くスタイルなのだが、魔物相手にそれが出来るも
んか。
巨大なタコやトカゲ、獣類にどうやって人間用の技を掛けれるも
んか。実際だ、プレイヤーズイベントでしか俺が活躍できる場なん
てなかったんだよ。
まぁ痛い目見たけどな。
だが久々に人形の魔物で、しかも、完璧に俺の虚をついた攻撃を
仕掛けて来る相手である。楽しみだったんだが、ネタがバレればあ
まりにも直線的な攻撃に興ざめしてしまったのである。
オースカーディナルの誓約により、鈍足化してしまった俺である
が、お陰でその身に宿す力は人智を超えた物となっている。
遅くなった動きは経験でカバーすれば良い。これほどまでに直線
的な動きだと容易に攻撃のタイミングに合わせて迎え撃つ事が出来
る。
833
両手をクロスさせ鬼の双掌に合わせて手刀を手首にお見舞いした。
悲鳴を上げながらその勢いの儘前につんのめる鬼に勢いを殺さず
肘鉄を叩き込む。
ボッという地面に鉄球を落とした時の様な重たい音がした。
鬼の心臓の位置にぽっかりと空いた穴。
ボトリと倒れて鬼は消えた。リアルスキンモードにそんな仕様は
無いので、多分冥界に戻って行ってしまったのだろうか。
え、それってまた復活するってこと?
マジか。
﹁武器は取り上げたつもりだったんだけどね﹂
﹁ただの本ですが?﹂
コレこそルールの裏をついていると言えよう。もっとも俺の持つ
装備の中で、武器と言える物なんぞ無い。
全てが神に使える上で必要になって来る物なのだ。クロスと聖書
は断じて武器じゃない。本当だ。
﹁え、だってそれでぶん殴るんでしょ? ってか誰がどう見てのあ
の大きさの十字架は武器だよね﹂
とオースカーディナルを指差しながら述べるプルート。
834
それは断じて間違ってない。
これだから暑苦しい馬鹿でかい十字架は嫌なんだ。
クロスたそは戻って来るのだろうか。エリック神父に取り上げら
れてしまったからな。クロスたそと魔力ちゃんと聖書さんの三位一
体がそろってこそ、本来の俺って感じがするというのに。
早い所コイツをぶちのめして中央聖都ビクトリアに行かなくては
ならない。
プルートの口から行っていた地獄に堕ちた神父というのにも気に
なる。どこまで腐ってんだ教団の一部よ。
ま、その地獄でも散々暴れ腐っているらしい、そこはグッジョブ。
俺の生命維持装置代わりになっている聖書だけは奪われてたまる
物か。ここは連戦である。﹁さぁこぉいっ!﹂と野球部張りの気合
いを入れてうやむやにする所存。
﹁やる気ばっちりみたいだから、冥府の鬼の釜茹で番長のボイラー
さん。行ってみよっか﹂
姿を表したのは、先ほどの鬼より二回り程も図体の大きくなった
真っ赤に茹で上がった様な鬼である。その身から汗の様に蒸気と水
滴を吹き出している。
﹁いや、俺もそうなるけど、そこまで汗は吹き出ないから﹂
はて、どうだかな。
例の鬼闘気という物に少し似てませんかね。と考えていると、ユ
835
ウジンと一瞬目が合った。彼は何とも言えない様な顔をしながらこ
の鬼を見ていた。
あえて一言で表そう。
練習後のプロレスラーだ。
これでプロレス技の一つも掛けてくれれば、センスあるよ。
すぐさま鑑定する。
地獄鬼・釜番頭
﹃地獄に落とされた咎人に灼熱の苦しみを与える溶岩の釜を管理す
る。その鬼の中でも番頭の役職に就く鬼。暑さに強いが、万年サウ
ナの様な場所で過ごしているので大変汗っかき。皮膚は真っ赤にな
っているが、コレは灼熱が故。レッドオーガとはまた違った性質で
ある﹄
マジで汗っかきだった。
鑑定で弱点とかステータスとか見れれば良いんだけどな。
そう言えば未だ精密鑑定すら覚えてない。
まぁいいや、とにかく次は先手必勝で行く。
自分の持つ速度を最大限に使って、勢いを付けた拳である。だが
コレは当て身で本来の役目は掴んで転がる所にある。
汗でべたつくこの鬼に、あまり転がして仕留める様な手段は取り
たくないのだが、いくら強化されたと言っても物理で挑むのは些か
過信し過ぎだと思う。
836
こういうのは自分のフィールドに持ち込んで勝利するに限るな。
しょ
案外、このボイラーと呼ばれる鬼の動きは鈍い。と、言うより此
方の攻撃に対してあまり興味を示そうとしていないのである。
うてい
当て身をしてみて気付く。掴んだ勢いで思いっきり土手っ腹に掌
底を打ち込んで見たが、さほど有効打にはなっていない様だった。
そうかそうか。
そんなに耐久性に自信がおありですか。
少しゲスいが、コレお見舞いしていやるよ。
一枚しか身につけていない腰布を奪って投げ捨てる。地獄に住む
魔物の革で出来ているのか、恐ろしく丈夫だった。
関係無いわいと行った風に俺の腕が万力の様に力を込めて行く。
ブチブチ打ちと音を立てて引きちぎれて行く腰布。
後ろから裸締めの要領で腕を回し、後ろ髪を毟る様に掴んで首を
極める。首太すぎてかなり一杯一杯だが仕方ない。
そして鬼の股間から差だけ出された玉二つを掴む。一瞬だけビク
ッを震えた鬼。身体の硬直が緩くなった隙に一気に全身に力を入れ
て抱え上げた。
﹁んぬああああッ!!!﹂
イビルクラーケンの一撃を止める程の贅力だ。この鬼も、それ相
応の重量を感じるが、なんとか持ち上げる事に成功。
そしてここから重力に身を任せる様に頭から鬼を叩き付ける。つ
いでに玉は潰しておいた。汚い。
837
てんぐなげ
﹁天狗投か、ゲームの中でそれ極める奴初めて見たよ。まぁ、ゲー
ムだから出来るのか﹂
そう、首と股間を極めた状態で無防備の後頭部を地面に叩き付け
る技。一見飛行機投げに見えるのだが、決定的な違いは首と股間を
極めているのと、俯けではなく仰向けに相手抱え上げる事だ。
本来なら股間は握りつぶさないが今回は鬼相手なので。
だが本来、天狗投デストロイヤーは禁止技中の禁止技なのだ。
ブツ
ってか今頃なんだけど鬼にも物はあるんだな。
ま、そりゃそっか。
﹁うわぁ∼。お前、ゲスいね﹂
﹁魂を人質に取るよりマシだと思いますけど﹂
うん、俺の言ってる事、五十歩百歩と言う奴だな。
﹁まぁいいや。ボイラーさん達地獄釜の鬼は、灼熱に耐える程の耐
久を持ってるんだ、キン○マ一つや二つ潰れた所で何ら問題は無い
よ。ほら、この通り立ち上がって来るよ。流石に今のは効いたみた
いだけどね﹂
うそーん。
プルートの言葉に後ろを振り向けば、後頭部を押さえて首をコキ
コキと鳴らしながら立ち上がって来る鬼がそこに居た。鬼の回復力
で完全に拉げた玉は一応形を取り戻していた。
まぁ機能が備わってるかは知らんがね。
838
と、そう思いながら俺は変な液体でベトベトした手を服の裾で拭
った。
ユウジンの馬鹿笑いする声が聞こえて来る。
破れた腰布を体裁を整える様にしっかりと定位置で縛り終えると、
鬼は俺に向かって﹁次はお前が耐える番だ﹂と一言。
タックルを仕掛けて来る。
ってか喋れたのね。その事実に驚きながら素も直に従う分けない
じゃないかと言う風に、半身でギリギリ躱す。
だが、腕を掴まれてしまった。
図体が急に方向転換できないだろうと勘ぐっていたのである。
掴まれた手首を振りほどく。掴まれた時に、手首を縦にして振れ
ば相当な握力が無い限り、基本的にほどけやすいよ。豆知識な。
これで躱した。と思ったら、とんでもない事が起きた。
ボイラーが、プロレスのロープワークよろしく。大きくバウンド
して此方へ再び突っ込んできたのだ。ロープのバウンドに寄ってス
ピードを更に増してな。
ラリアット。鬼の豪腕が俺に首元にクリーンヒットする。
空中で三回転程勢い良く回ってうつ伏せに倒れ込んだ。例に寄っ
て倒れ込む際にとんでもない音が響いた。
839
てか、なんでロープが⋮⋮。
プルートの連れてきたと思われる魔物共が、大勢でロープを支え
ていた。ボイラーの重さに耐えきれず、腕が千切れたゾンビ系の魔
物もある。
倒れた俺にボイラーの巨体が降り注ぐ。普通のフォールをしよう
としているんだろうが、その巨体でそれをやられると、ひとたまり
も無い。
耐久値が増した身体が重みで拉げてしまう事は無いが、最悪窒息
死だろうな。
あくまで外側だけで骨とか内臓はすぐやられるんだし。
膝を立てる。身体が動かない程にダメージを蓄積させとくんだっ
たな。
この鬼も詰めが甘いぞ。
自重によってやられてしまえと思ったが、それを察したのかその
シスターズ
図体に似合わない俊敏な動作で、身体を捻らせ俺の膝を回避しつつ
ギロチンドロップである。
そう、また首に。
呼吸が出来なくなるが、潰れた喉をすぐさま聖書が治療する。相
手に悟られない程度に。
これで俺の闘争本能に火がついた。
乗っかってやんよ糞。
840
841
採掘場での戦い2︵後書き︶
物事は引き継がれる事によって、特別な価値を持ち始める。
それは既にこの世から去ってしまった故人でも同じ、意思とは継
ぐ物の心の中で輝きを放ち続ける物である。
4:30
※書いてて気付きました。なんで俺プロレスやってんだろって。0
1/24
842
採掘場での戦い3
降って来た太い腕を押し上げる、相変わらず重たい図体だこと。
堅い地面で受けたプロレス技は、軋んで威力を分散する事無く俺に
直撃する。下が草っ原とかそういうものだったらまだマシだったの
だが、更に斜め上を行く採掘場の踏み固められた凝固な地面なので
ある。
実際そんな中にギロチンドロップする事自体、自分の身体を痛み
付けてしまう要因になるのだろうが、この鬼は人間よりも遥かに頑
丈で丈夫な皮膚を持っているようで、全く異に返さない様に自重の
技を繰り出して来る。
人間は、転んだだけで怪我をする、脆い生き物だというのに。
戦いの前提が少しおかしいとはおもわんかね。
だが、生死を掛けた弱肉強食の世界で種族さなんて言ってられな
いのである。弱者は常に強者から捕食される機会を伺われていると
いうのに。
そう、強くなくては、種の差と言う物を超越しなければ、弱者に
日の目は無い。
その食物連鎖から逸脱できうる程の能力を身につければまた、話
は違って来るのだが、それがお互いがこうして立ち会ってしまった
ら、何としてでも窮鼠猫を噛まなければならない。
鬼のフットスタンプが来る前に素早く立ち上がる。
ズドン、と凄まじい音が響く。
843
ボイラー
俺だってそのくらいの音を出せるんだからな。
地獄鬼の足の甲の急所に向けて思いっきり踵を落とす。
重たい音が鳴り響く。
ちなみに、威力が出せるとは一言も言っていない。
ハッタリなのである。
ハッタリもとんでもない程のハリボテで、衝撃自体は自分に返っ
て来るというマゾ仕様。オースカーディナルめ、聖十字が撃てない
だけでここまで俺を苦しめるとわな。
つかみかかって来た鬼を躱して後ろに回り込む。
金的に一撃。
ダメージを与えた所にはさらなるダメージを重ねるのが鉄則。
流石に少し違和感を覚えたのか、前屈みになる鬼。
延髄ががら空きの所を大きな背中を駆け上ってフライングエルボ
ー。
後頭部には様々な神経が集まっている。いや、首元を通っている
んだが、そこに強い衝撃を受けると立っていられなくなるとか、め
まいがするとかそんなレベルではない。
即、半身麻痺。そんな事が起こりうるんだ。
いや、鬼に通じるかわからないけどね。
とりあえずギロチンのお返しを俺は弱点特化で攻めてやる事にし
た。エルボーを全力で放ったら、首元に再び腕を回して、頭から自
重を使った垂直落下。
844
ティー
ディーディー
﹁デンジャラス・ドライバー・天龍だっけ。まぁプロレス技のDD
Tだけど、お前の場合フライングエルボーも一緒くたにしてるんだ
ろう。天龍落としとかでいい?﹂
天龍落とし。
カッコイイじゃん。
そう、ただただ技を掛け合うとか鬼相手にする分けない。少しで
も優位な立ち位置に身を置く為には、小技を連続して重ねて行くし
かない。
角が地面に刺さる。
頭だけで逆立ちをした様な状況だ。
コレはチャンスとばかりに、再び仰向けに担ぎ上げる。
そう、もう一度天狗投の構えに入るつもりだった。
だが、担ぎ上げた瞬間、鬼の身体が激しく震え出した。鬼は足と
腕と首、振れる物を全て振って天狗投から逃れるつもりだった。釣
り上げられた魚の様に激しく動く鬼に、俺はそのまま押しつぶされ
てしまう形で背面プレスをモロに受けてしまった。
巨体の重さに肺の空気が全部外に出される気がした。いや、もっ
と大事な臓器が口からラクダの様に飛び出す程の重みをダイレクト
に感じる。
当然骨はほとんど折れている。口から血が吹き出るのは、肋骨が
折れて内臓に刺さっているからだろうか。心臓に刺さらなくて良か
った。
一点を狙った攻撃は、魔力ちゃんで受け流せるのだが、流石に全
845
体を覆った攻撃をされると受け流す事の出来るスペースが無くなっ
て、モロにダメージを貰ってしまう様だ。
シスターズ
改善の必要があるな。
とにかく、聖書。
君たちの働きに掛かっているぞ。
鬼が不意に俺の上から退いた。とにかく抜けてしまった空気を肺
に入れる為に一度血を唾液と共に吐き出すと、仰向けになる。
先に大腿骨からくっつけときゃよかった。
脱出経路という安全マージンを作らなかった俺が間違いだった事
に気付く、少しでも酸素が欲しいという生存本能を戦闘に狂ってし
まった理性が食い止めない。
鬼が退いてしまった方向に、視線だけを動かすと、いつの間にか
用意されているポールの上によじ上って此方を見据えていた。
マジか。
鬼の巨体が宙を舞う。
空中で回転はしなかった、だがその圧倒的な質量が頭から振って
来るのだ。その角の先端に、空中で様々なエネルギーを蓄積しなが
ら俺に飛来する。
言うならば、捨て身覚悟のミサイルヘッドプレス。
地獄の鬼という種族を超越したタフネスを兼ね備えているからこ
そ出来る技なのである。そう、灼熱の中で鍛えた絶対的な耐久値。
846
俺の土手っ腹に穴があいた。
部位欠損ペナルティなんて、久々だった。超回復と言っても良い
反則的な技術を持っているからこそ戦える部隊で、様々な誓約やら
聖書の弱体化が引き起こしたこの事態。
要するに、回復が間に合ってないのである。
いや、普通常に回復なんて出来ないのにさ。
相手のステージに立つとここまで脆い物なのか。要するに戦が始
まった時点で負け。戦争を回避しなければ、火種を決して回らなけ
れば勝利できなかったのかもしれない。
847
だけど、負けたらマリアが死ぬ。
どうすればいい、考えろ。
必殺のセーフティーモード。
要するに死んだ振りだ。
傷が繁栄されてない身体を見る。コートも全く汚れていない。そ
して、この空間では一時的にオースカーディナルの誓約が解除され
る。
﹁まったく、とんでもない使い心地ですね﹂
オースカーディナルをコンコンとノックする様に叩いて、語りか
ける様に独り言ちる。俺が最終的に秘策として考えているのは、オ
ースカーディナルと再び誓約を結ぶ事である。
シスターズ
北の大地に居た頃は、空中に飛んだり跳ねたり、オースカーディ
ナルに乗ったりしていた訳だが、今では身体の誓約に聖書が追いつ
かなくなって来た。流石スペアである。
848
フォール
やっぱり、急ピッチででっち上げるのは無理があったのか。降臨
すら使う事も無く終了してしまった。
まぁバレるしな、十字架光るし。
外では、仮死状態に落ち入った俺に対して騒ぎが起こっているの
だろうか。あんまり動かない屍の振りしている俺の身体を乱暴に扱
ってほしくないが、どうしたもんか。
﹁うーむ。再誓約ですか?﹂
オースカーディナルに語りかけても答えは返って来る事は無い。
返って来るのはきっちりと誓約を躱した際に身体に掛かる負荷だけ
である。
とんだ借金取りみたいだ。
まぁ、力を借りた俺が悪いんですが。
﹁でも、仕方ない。何事にも犠牲がつきものだ。コレでゲームプレ
イに支障が出なければ良いが⋮⋮。マジでログインして重さで死ぬ
とか勘弁してほしい﹂
シスターズ
そして、俺は最誓約の文を読み上げようとした。
だが、それを邪魔するかの様に聖書が目の前を小バエの様に飛び
回る。
シスターズ
激しく点滅し、まるで何かの襲来を教える様に警告して来る。未
だこの聖書の意思がイマイチ把握できなくて大変だ。いや、言う事
はよく聞いてくれるんだけど。
849
毎度の如く初めてのお使いの様な気持ちなんだよな。
レリック
ガリ
なんか危ない物が来てるならさっさと読んじまおう。とにかく目
先の戦いに勝つ事しか今は考えては行けない。
究極的に危ない思考だが、人命第一だ。
ヤラ
﹁オースカーディナル。もう一度誓おう、更なる誓約を。⋮⋮異邦
の地より渡りし聖者は、彼の地で再び授からん⋮⋮﹂
身体が崩れ落ちた。案の定、俺に身体は持たなかった。
そりゃ耐久は並みの神父だもんな。
シスターズ
一般的な前衛戦闘職に比べたら天と地程の差だよ。
聖書がクルクルと頭上を飛び回っている。淡く光る姿がどことな
く申し訳無さそうだった。
850
これは、ダメなのか。
身体の骨が重みに堪え兼ねて折れるとかそんなんじゃないぞ。
気を抜けばブラックホールに吸い込まれる様に消滅してしまうよ
うなイメージ。
俺はこんな過激な力を求めた訳じゃない。
ガリヤラ
﹁新約。異邦の地から来られし者よ、異邦の地での約束は忘れたの
オースカーディナル
か? もう一度会おう。そう誓ったんじゃなかったのか? 愛する
シスターズ
者の為に運命の車輪を廻せ⋮⋮﹂
女の子の声が空間に響く。
おかしい、この空間には俺と聖書と巨大な十字架しか居ない筈な
のに。
光が、視界の端で光が生まれる。
そしてその光が近づいて来る度に、どことなく懐かしい様な、と
てつもなく愛おしい様な感覚が俺を満たす。
十字架の誓約で、動く事もままならなくなってしまった俺の身体
が、光に包まれてどんどん安らいで行くのを感じた。軽くなって行
く。
851
﹁もう、一人で背負い過ぎなの﹂
﹁⋮⋮フォルトゥナ﹂
フォル
運命の車輪をカチューシャの様にその美しく長い金髪に付けた少
女が俺の頬にそっと触れると微笑んだ。
初めて会った時は、どことなくあどけなかったあの少女だったが、
いつの間にか少しあか抜けた様な、新神として成長したように感じ
る。
彼女の背後でキリキリと連動し続ける歯車。
それに呼応する様に回り続ける車輪。
﹁廻そう、親愛なる友の為に﹂
﹁先駆者であり、先導者。彼の地から再び異邦の地へ﹂
自然と言葉が出ていた。
心に、語りかけてくれている。
フォルトゥナ
この絶対的な安心感。
流石運命の聖書。俺の嫁。
﹃祝福されし者﹄
声が一つに重なる。
852
肉体的にも精神的にも復活した。
遠距離恋愛は辛いね。
﹁ありがとうフォル。じゃ行って来ます﹂
﹁うん、ここならいつでも会えるっぽいから頑張って来て﹂
殺風景な部屋でごめんなさい。
ってかオースカーディナルと二人っきりとか赦せん。
シスターズ
いや、そんな事よりも、外の様子だ!
聖書のセーフティーモードももう卒業だな。
今までありがとよ。
意識が復活した。
俺は膝枕されていた。
853
﹁クボ! 死んだかと思いマシタ!!﹂
柔らかい感覚が頭部を包む。
久しぶりだな。エリー。
膝枕される俺を中心に、セバス、ユウジン、ハザードが回りの魔
物に牽制をしている様だった。
﹁グッドタイミングだぜ! 回復厨のクボが逝ったら俺どうしよう
かと思ってたんだけど、その様子じゃ、運命の聖書のお陰って奴か
?﹂
完全に回復した俺を見て、ユウジンが言う。
・・・・・
﹁冥界の王か。神父、お前は本当に持っているな﹂
﹁ええ、本当ですよ。でも不死身の神父が死にかけているなんて衝
撃でしたよ﹂
クククと笑うハザートとウンザリした様にセバスが言う。
俺だってな、知らなかったんだよ実際。初めはただ採掘場を襲っ
た何かを倒す為に来た様なもんだったからな。
実際、罠だったみだいだけどな。
もっときな臭い匂いがあるのかと思っていた、それこそビクトリ
アの邪神の影絡みでな。
﹁コレを着てクダサイ。やっぱりコレがないと神父じゃありません
カラ﹂
854
そう言ってエリーが懐かしきあの黒い神父服を渡して来る。早速
だが早着替え、手慣れだ動作で身につけて行く。服自体の作りは簡
単な物なので戦場と言えどこんなふざけた事が出来るのである。
﹁おい、なんか湿ってるんだけど﹂
﹁手汗デス。気のせいデス﹂
﹁あれ、凪は居ないのか?﹂
あとラルドも。と俺は、キョロキョロしながら回りを囲む皆に尋
ねた。
﹁ああ、そこだよ﹂
と、ユウジンがバジリスクと睨み合っている巨大な深緑色のドラ
ラルド
ゴンを指差した。怪獣戦争さながら、一体何食べたらそこまでデカ
くなったと言える程の走竜種がそこに居た。
﹁ちなみに目は酔っぱらいが守ってるから﹂
とユウジンが呆れた様に呟く。
竜車の窓から、真っ青な顔をした眼鏡っ娘が肩で息をしながら顔
をのぞかせていた。
﹁おろろろろろろろ﹂
﹁あっ﹂
855
今回は汚物処理班が居ない。曝け出された汚物は、飛沫を上げて
竜車を汚す。セバスに説教されるぞ、俺知らないからな。
奇跡だ。
ぶっちゃけるとかなり奇跡が起きたんじゃないかと言える程、昔
のパーティが揃ったよね。
ってか、なんでここで揃うの?
もっとラスボス前とかで揃っても良かったんじゃないの?
いや、ありがたい。
号泣してしまいそうなくらい、皆が来てくれた事によって拓かれ
たマリア救出への道。もう不覚は取らない。
俺は既に死を超越している。
冥界デストロイヤーなんだ。
856
決着︵前書き︶
今回は5千文字程です。
857
決着
勝利条件は、拘束されたマリアの魂を奪還し、今だジンの腕に抱
かれて眠るマリアを救出する事。それさえ達成する事が出来れば、
ブレッシングフェイト
セーフティース
プルートを倒さなくても最悪この冥界の魔物地獄から離脱すれば良
い。
オペレーション
まぁ、天に召してやるがな。
オートヒーリング
﹃自動治癒・運命操作、運命の祝福﹄
ペース
自陣の受けた傷は、即回復。今まで、自分専用だった物が精神空
間に常駐してくれているフォルの手によって、効力範囲が引き延ば
されている。というより、俺が意識を向けて回復する必要がなくな
った。
運命の祝福は、即死攻撃を受けた場合、運命改変を行い一度だけ
無かった事に出来ると言う物だ。精神補正極大である。
ここへ来て、ちゃんと補助職として機能している様な気がする。
初期の能力よりも格段にパワーアップしている感じがするな。
でも前衛職です。
脱ぎ捨てたコートの腹部は、大きく破れて穴があいていた。神父
服に腕を通した事で、なんだか気分が高揚して来た。やっぱり長い
間お世話になった高性能神父服がないと神父として力を発揮できん
のではないか。
858
地獄鬼ボイラーに向き直る。鬼闘気で鬼化したユウジンとエリー
の精霊フェンリルが睨み牽制していた。
フォール
﹁ユウジン、降臨で十字架思いっきり光らせるから、刀取って来た
ら?﹂
﹁おっけ﹂
そう一言、ユウジンと俺は交代する。フェンリルの隣に立ちその
身体を撫でる。しっとりとしていて冷たい感触が伝わって来る。だ
が、清らかな暖かさを内側に宿しているようだった。
心強い。
﹁力比べですね。お互い本気出しましょう﹂
鬼に言う。
最初は降臨使わないでやる。
お互いが走り出し、巨体と小さな俺の身体が打つかり合う。身体
が軽い、あの無限の苦しみの様な重さから解き放たれた俺は、少し
だけスピードが復活している気がした。
打つかった衝撃で、俺ではなく鬼の方が後ろに仰け反った。
耐久値にプライドの様な物を持っていたこの鬼相手に、巨体と種
族の利を活かして来た相手に、相手の用意したステージで完全にプ
ライドを圧し折ったとも言える。
イビルクラーケンの足を受け止めた事があるから、体表の堅さな
859
ら自信あったんだが、完全にしてやられたからな。この角が邪魔な
んだよ。
角を握る。
嫌な予感がしたのか、角を握ると顔面に拳が飛んで来た。空いて
る手で弾いて受け流す、今までに無い焦り様である。
圧し折ろうとしたが折れなかった。
だが、折ろうとした試みが感触から伝わったのか、鬼の焦り方が
半端無くなって来た。どうしても折られたくないようだ。
腕を振り回して必死に脱出しようと暴れている。俺は角を掴んだ
まま上下に振った。重たい頭と頑丈な首をぐわんぐわんと揺さぶる。
脳を揺らしたお陰か、若干抵抗に勢いが無くなった。
フォール
﹁降臨!﹂
そのままの勢いで俺の腕力は更に上昇する。そう、オースカーデ
ィナルの誓約で状していたステータスが、更に降臨によって精神値
依存になったからだ。
そして根元から俺の腹に穴をあけたこの堅い角を圧し折る事に成
功した。
﹁グゴオオオオオオオオ!!!!!﹂
今まで一度も上げた事の無かった鬼の悲鳴である。
鬼の身体が萎んで行く。
860
あれだけ大きかった身体が、骨と皮と胃下垂のように垂れ下がっ
た内臓だけになってしまった。地獄の鬼っぽくなったな、素晴らし
く飢えている感じが伝わって来る。
ヘブンゲート
﹁天門﹂
すっかり以前の面影を無くしてしまった鬼の後ろに光の門が開か
れる。よぼよぼの顔面を蹴り飛ばして、天門の中に飲み込まれて行
った。
まぁ、勝負自体は面白かったし、天国で番頭でもやってると良い
よ。
温泉とか多分あるんじゃない?
そして一つの戦いが終った俺はプルートに向き直る。
﹁ははは、乱入戦って見てる方は面白いけど。当事者になるとアレ
だね。めっちゃ胸くそ悪いね。あーあ、せっかく用意したステージ
も崩されちゃったし、今激おこだよ激おこ。わかる?﹂
ブツブツと呟くプルート。
俺の回りでは冥界から次々湧いて来る魔物と仲間の混戦が巻き起
861
こっている。ハザードは杖と剣だけで無双し、エリーは精霊魔法で
回りを凍らせる。ユウジンは無事天道を取り戻して次々と一閃して
行く。
セバスはジンの元へ行き、マリアの様子を確かめていた。マリア
の身体から薄らと魂の尾が伸びている様に見える。
何だコレ、初めて見る物だ。魔力のパスとは違うもの。
弱々しく伸びる光、それはプルートの浮かべる彼女の魂に繋がっ
ていた。どうにかしようともがいているが、束縛された魂は、どう
する事も出来ないでいる様だった。
シスターズ
胸元が震える。
聖書が勝手に浮かび上がり、マリアの元へ向っていった。
シスターズ
視覚化された魂の尾は、聖書によって少しだけ光を増し、丈夫に
なっているかの様に思えた。
そうか、助けたいよな。君たちも。
﹁俺が誰だか忘れてない? 一つの世界を束ねる王だよ?﹂
そう言うと、プルートは腕を振るう。大混戦を巻き起こしていた
数々の魔物達が、力を失った様に倒れ、ボロボロと崩れ出した。戦
っていた仲間達も状況に狼狽えている。
だが俺には見えた。
腕を振るった瞬間、魔物達の身体の中からブラックライトの様に
ぼんやりと光る丸い魂が抜け出て行き、プルートの頭上に集まって
行くのを。
862
そしてその集まった魂が地面に浮かび上がった巨大な魔法陣の中
に沈んで行き、邪悪な輝きを放つ。
最初は地獄鬼よりも巨大な腕が魔法陣の中から飛び出した。そし
て巨大な手で、鋭利な爪で地面を捉えると、這い上がる様にしても
う片方の腕も飛び出してくる。
そして徐々に凶悪な顔と漆黒の角を持った頭が顔を出し、雄叫び
が上がる。
﹃ゴオオオオオオオ!!!!!﹄
地獄の底より響いて来る様な雄叫びと共に遂にトンデモナイ魔物
がこの世界に召喚されてしまった様だった。
﹁ベヒモス。コイツら食べていいからね﹂
プルートの声に喜ぶ様に声を上げるベヒモス。
直感だが、コイツはヤバイ。そう思った。
地獄の悪食・ベヒモス
﹃地獄に落とされて永遠の苦しみの中再び死んで行った者を主に食
863
べている。ベヒモスに食べられると輪廻転生に再び戻る事は無い。
魂の影も形も無い程に腹の中で消滅させられてしまう。※被捕食ペ
ナルティ有り。レベル、ステータス半減、才能消滅﹄
こいつはとんでもねぇ!
初めて見る項目。被捕食ペナルティって⋮⋮。
才能消滅って、失ってしまったら一体どうなるんだ。
だが、戦うしか無いのである。
幸い俺には中途半端な才能しかないから、失っても構わない。レ
ベルアップ時精神値上昇補正なんて無くても別に大丈夫だからな。
何かあれば、俺がデコイになろう。
﹁神父、召喚魔法陣の術者を倒せばベヒモスは強制帰還できる。俺
らで押さえてるからお前に冥王を任せたぞ﹂
﹁ですが、捕食されたらレベル、ステータス半減と才能消滅があり
ますが、大丈夫ですか?﹂
﹁大丈夫だ。俺には才能が無い﹂
そう一言。ハザードは召喚魔法を唱える。
864
ディーテ
﹁契約召喚・悪魔大王﹂
出現した巨大な魔法陣にハザードの指先から一滴の血が垂れる。
ぽとりと、召喚魔法陣に吸い込まれて行く。
ってか聞いた事ある名前だな。ディーテ。
コウモリの羽の様な物が四枚程、先に出て来て、羽ばたく様にし
て巨大な茶黒い色をした悪魔が夜の闇に躍り出た。
﹁ふむ。懐かしいと思えば、ハデスのせがれか。何をしておるこん
な所で、さてはサタンに冷やかされたな?﹂
﹁ゲッ、悪魔大王じゃないか。悪魔界からしばらく姿を消してたみ
たいだから死んだと思ってたよね﹂
﹁我が死ぬ事は無い。永遠の闇の中で永遠の時を過ごすのみ﹂
﹁ハハ、殺して上げようか?﹂
﹁ふむ、前より力が凶悪になってるな。今まではベヒモスすら手懐
けられなかった小僧が⋮⋮コレは邪神か﹂
お互いが知り合いだったのか、だがその仲は良さそうに見えない。
それに水を挿す様にハザードが口を挟む。
﹁おいディーテ。お前の相手はベヒモスだ。なんとかしろ﹂
﹁お前と血の契約はしたが、たったこれっぽっちじゃ一瞬しか加勢
865
できんぞ?﹂
ディーテの言葉に、ハザードは﹁それでいい﹂と一言告げた。そ
れに了承する様にディーテが構える。
痺れを切らせたベヒモスが四枚の羽根が目立つディーテに突撃し
て行く。そして捕食しようとその大きな口を目一杯に広げて喰らい
つく。
﹁この悪食は神すら喰らいかねん。扱いを間違えぬ事だな。ハデス
の不在もそうだが、何かがこの世の天秤を大きく揺り動かしている。
異邦の地から来られし者達よ、我は中庸を貫く。どちらにもつかぬ
が、居心地が良いのが好みである。上手くやられよ﹂
角を掴んで巨大なベヒモスの突進をいとも容易く受け止めると﹁
ハデスに尻でも叩かれろ﹂とベヒモスを振り回してプルートに放り
投げてディーテは消えた。巨体がバジリスクを押し潰す。プルート
は慌ててバジリスクの上から飛び降りていた。
俺はその混乱に乗じてプルートに接近する。
これは、魂をかすめ取るチャンス。
ユウジンもそれを判っていたのか、俺と共に並走する。
エリーのフェンリルが吠えて轟音と共に倒れこむベヒモスに氷塊
を落とす。
﹁夢幻封陣、ディメンション・ミニチュアバベル﹂
召喚した賢鳥・リージュアに乗って、上から六本の杖が巨大な魔
法陣と共にベヒモスを覆う。四代元素属性にプラスして光と闇。そ
866
の六属性で夢幻なのか。それとも六元なのか。
そして以前のプレイヤーズイベントよろしく、再びバベルの塔が
飛来した。このレベルの敵には世界くらいの遺物じゃないと効かな
いと見たらしい。
毎回思うんだけど。
どこでそれ拾って来るの?
ゲームのクエスト消化率がかなり高そうなハザードである。
ベヒモスは怒り狂っている様だった。巨体を転がされるなんてプ
ライドが許さないんだろうか。酷い金切り声や雄叫びを上げながら、
起き上がろうとジタバタ採掘場に土煙を巻き起こしている。
夢幻封陣が起き上がる事を地味に阻止しつつ空いた土手っ腹に攻
撃を加えて行く。セバスはジンとマリアを竜車の中に連れて行った。
凪が居る限り、そこは安全地帯だろう。ウィズが守っているからな。
ユウジンが恐ろしい殺気を漂わせながら、プルートに肉薄しその
首を一閃する。だが、プルートもギリギリでそれを感じ取ったのか
全力で躱していた。
ユウジンの舌打ちが聞こえる。
﹁あぶなっ! 死ぬかと思ったよ。俺死なないけどね﹂
ってかユウジン、マリアの魂の尾に擦りかけてるぞ。
867
あ、そっか見えてないのか。
マズくない?
魔力斬れるんだよな、アイツ。
﹁だーかーらーねー! 鬱陶しいよ? 俺は死なないから意味ない
んだよ?﹂
奇遇だな。俺も死なないよ。
攻撃を躱しながらもウンザリした様に呟くプルートに更なる連撃
をお見舞いして行く。オースカーディナルも使って攻撃を加えて行
くが、受け流される。
片手には魂を持っているので、未だに片手であしらわれている俺
達二人。
かなり格上だよ。
実際戦ってみて判る。
だが、せめてこの魂だけでも取り返せたなら。
フラウ
雪精霊がフラッと視界に入って来る。
﹁なにこれ?﹂
疑問を浮かべた様な顔をするプルートに、少女の笑い声の様な者
が一瞬響くと、その眼球を一つだけ凍らせた。
868
﹁うわっ!﹂
かなり魔力を失ってしまったようで、地面にそのまま落ちて行こ
うとする雪精霊を魔力ちゃんで?み取って優しく浮かせる。
グッジョブ。これで隙が出来た。
ユウジンが魂を持っている左腕を切り落とす。
魂が零れ落ちる。
今にも割れてしまいそうな程の弱々しい魂を地面に落ちる前に慌
ててすくい上げる。だが、プルートの腕が、残っている方の腕が、
魂を取り返そうと差し迫って。
身体を攻撃との間に入れ籠む様にし、そのまま目の前にいたユウ
ジンにパスした。
結果的に俺の心臓を貫いたプルートの腕。
﹁脈々動いてるね。ククク﹂
後ろから貫かれて、そのまま心臓を奪われた。そして視線を下げ
るとさっきまで体内に収まってたはずの心臓が鼓動を刻みながら外
界に曝け出されていた。
初めて見たけど、意外とピンクなんだな。
﹁⋮う、ジン⋮⋮!﹂
︵魂を早く︶
869
声にならない。ユウジンに託した魂を早くマリアに持って行って
ほしかった。後は運命の聖書がなんとかしてくれる筈だと、念話を
送る。
俺の意識が途切れる前にな。
﹁あは、これ、握りつぶしたらどうなるんだろうね? ね?﹂
耳元で囁かれる。
んなもん、死ぬに決まってるだろ。
凍って使い物にならなくなったプルートの眼球が、ガリガリと嫌
な音をたてながら俺の方を向く。
﹁だけど、お互い様です﹂
体外に出た心臓をプルートが握っている事で、治療が出来ない。
新しい心臓を作るにも、まだ元の心臓が生きているから無理だろう。
血流が送られなくなって、意識が途切れる前に、決着を付けなけれ
ばならない。
殺す算段は別の思考回路で立てておいた。
せっかく、神すら食ってしまう程の悪食が居るんだ。
870
俺の力と、マリアの命。
天秤にかける程も無いね。
﹁飼い犬に手を噛まれるって、こういう事を言うんですね。糞ガキ﹂
プルートの俺を貫いた腕をしっかりと抱きしめて固定する。そし
てそのまま、丁度こちらを向いて雄叫びを上げるベヒモスの口の中
へ。
﹁ちょっ! くそっ! はなせ!!!! やめろ! やめろやめろ
やめろやめろやめろってば!!!!!﹂
焦り狂ったプルートを無視して、まるで泣きわめく赤子におしゃ
ぶりを与えるかの様に、ベヒモスの大きく暗い口の中で俺達二人は
飛び込んで行った。
871
872
決着︵後書き︶
作中でオースカーディナルのお陰で力が増しているとクボヤマは
思っていますが、実際はSTRに補正が掛かり、AGI、VIT、
HPはマイナス補正になります。著しく生命力が無くなるのですが、
それによってMIND上昇促進補正があり、精神値の臨界点を突破
する事が可能です。
イビルクラーケンの一撃を受けきる程の耐久値と勘違いしてます
が、耐久値は前よりも更に低くなって、ただ力が増したお陰でぶつ
かり合いがたまたま均衡して押さえたかに見えただけです。
降臨は、他ステータスを精神値と同じあたいにするので、オース
カーディナルによって更に伸びた精神値の分、力が増しています。
が、気付いてません。
要するにただの苦行です。全身に麻酔を投与して痛くないもんね
ーしてるだけだと判りやすいと思います。
お分かりかと思いますが、運、精神がかなり大きな要素になって
います。病は気からとかプラシーボとか思い込む力とは偉大ですか
らね。
お腹痛いと思っていればお腹痛くなって仕事もサボれます。プラ
シーボ効果で実際にお腹痛くなってるのでサボりじゃないですよ。
お腹が痛いんです。トイレ行ってきまs
873
奪われた心臓
暗がりの中、どろっとした様な物に包まれる。それが潤滑液の様
な物になって、俺の胸を貫いていたプルート腕は自然に抜けていた。
だが、奪われた心臓は未だ彼が握っている。
お互いが暗闇に包まれて、互いを目視できなくなる間際。プルー
トと目が合った。彼は壮絶に恨みを込めた目線をこちらに向けてい
た。だが不自然に口元は笑っていた。
ひとえ
これで終らないからね。と、彼の口は動いていた。
偏に握りつぶしてしまえばペナルティを受けずに済む物を、彼は
心臓を大事そうに抱えたまま、ベヒモスの腹の中の闇に溶け込んで
行った。
同時に俺も暗闇に包まれる。
この感覚が、落ちているのか昇っているのかすら判らない。
十中八九、落ちているのだろうが。
阿鼻叫喚する声が暗闇に響いている。喰われたモノの魂の叫びな
のだろうか。ベヒモスの腹の中は、一体どこに繋がっているのだろ
うか。
身体を何者かに掴まれる。
874
手を、足を、耳を、髪を、爪を。身体のありとあらゆる場所を無
数の手がまさぐる。まるで俺の身体を求めて争っているかの様だっ
た。
物理的に身体を削ぎ落とされている様な感覚と共に、身体中から
エネルギーが奪われる様な感覚も広がって行く。
この無数の手が、俺の力を削ぎ落としているのだろうか。
被捕食ペナルティの演出だとしても恐ろし過ぎるだろう。
眼球を抉られる感覚がある。
既に視界は真っ暗で何も見えないというのに。
強欲な手だ。
そして意識すらも無数の手によって散り散りに引きちぎられてし
まった。
875
目が覚める。
死に戻りの感覚は久しぶりだった。
ローロイズの教会にある宿舎のベッドから上半身を起こすと、自
分の胸部に視線を向ける。神父服を脱いで確認してみた。
穴は無い。
だが、恐る恐る手を当ててみる。
自分の身体なのだから、手を当てるまでもなく、脈打つ鼓動の感
覚が無い事に気付いていた。ただ単に手を当てたのは、その現実を
受け入れる事が怖かったからだ。
鼓動は、聞こえない。
クロス
ベッドから勢いよく立ち上がると、宿舎にいつでも祈れる様に掛
けてあるただの十字架を手に取って、その先端を勢い良く自分の心
臓に突き刺した。
血は、流れない。
俺の身体は、一体何が動かしているんだ。頭の中で様々な考えが
巻き起こる。だがそれと同時に心臓という掛け替えの無い物を失っ
た焦りが今になって押し寄せて来て、思考を鈍らせる。
ポケットから取り出した、運命の聖書は無事だ。俺は何かに縋る
様に、聖書を開くとベットに倒れ込みセーフティーモードを展開さ
せる。
876
﹁クボ!!﹂
意識の部屋に入った途端、フォルトゥナが俺を抱きしめる。俺は
絶望してしまった人の様に膝立ちになって精神世界に来ていたみた
いだった。精神が大分消耗している証拠である。
フォルトゥナの胸に抱かれて、俺はようやく落ち着く事が出来た
みたいだった。流石聖書さんと呼ばれた俺のバイブル。
﹁私の心臓が何処にあるか、わかりますか?﹂
﹁ベヒモスの体内で、プルートも命がけで冥界へと脱出した様なの。
私と絶対に切れない繋がりがある心臓の位置が冥界へ移動したのが
証拠﹂
でも、とフォルトゥナも泣きそうになりながら続ける。
ワールド
﹁立った今、貴方の心臓に永遠の死と呼ばれる種子が埋め込まれた
イーター
の。発芽までに二十四時間、貴方のエネルギーと吸った種は、世界
蝕樹と呼ばれる最悪の魔物に成長してしまう恐れがあるの。貴方の
死と引き換えに﹂
エネルギー
フォルも残酷な言葉だと知っていながら、覚悟を極めて言ってい
る様だった。俺の心臓に埋め込まれた種子は俺の膨大な精神値を吸
877
いながら成長して行き、その規模は世界樹と対になっていると呼ば
れる蝕樹へと成長してしまう程だと言う。
世界の魔素や人の生命、希望その他諸々吸い尽くせる物全てを養
分とする蝕樹。その性質は世界が枯れ果てるまで吸い尽くし、そし
てまた、己も枯れ果てて消えると伝説に残されているらしい。
あえて希望的観測を言うなれば、だ。
まだ世界は終っちゃいない。脈脈を歴史を刻んでいる状況でその
伝説は尾ひれがつき過ぎていると言えよう。
そう、失った心臓は取り返せば良い。フォルトゥナと話している
お陰で減ってしまった精神値が徐々に補正されて回復して行く。
それでも、絶対値は半減しているがな。
過ぎてしまった事はどうしようもない。
﹁24時間は短過ぎる⋮⋮。なんとかならないのですか?﹂
﹁運命操作で72時間にまで伸ばせるけど、貴方はセーフティーモ
ードで過ごさなければならないの﹂
要するに、一度仮死状態にして遠くに繋がる心臓へのエネルギー
伝達を最小限にして種子の発芽を鈍らせる事なら可能なんだそうだ。
容赦なく吸い取って来る種子に運命操作で抗っている状況らしい。
直接の心臓がこの場にあれば、まだ手立ては出来たという。
が、何を言っても取り返さない限り始まらない物だ。
猶予はない。
878
一度精神空間から出て、皆に状況を伝えなくてはならない。
目を開けると、俺のベッドの回りに皆が居た。エリー、マリア、
ジンがそれぞれ涙を溜めながら、復活した俺に抱きついて来る。
﹁良かッタ!! もう二度と目を覚まさないかと思ッタ!!!﹂
﹁クボ、ありがとう。ありがとう⋮﹂
﹁神父様あああああぁぁああ!!﹂
身体がだるい。デスペナルティにプラスして、被捕食ペナルティ
が加わっているのでそれはそうか。幸運だった所は、オースカーデ
ィナルの誓約も一部消滅した事だった。
力が半減した俺の身体に、あの誓約がのしかかっていたら目覚め
た瞬間死。という恐ろしい現象が起こりえたかもしれないんだ。
まぁ、フォルがそれをさせないだろうけどな。
879
﹁死に戻ってるのに目を覚まさないなんて、肝が冷えたぞ﹂
ユウジンが言う。だがしかし。
﹁いや、これを見ろ。みんなもこれを見てください﹂
俺はいつの間にか胸から抜けていたクロスを手に取ると、おもむ
ろに自分の腕に突き刺した。心臓にブッ刺すのは刺激が強いからな。
女性陣から小さな悲鳴が上がる。皆一様に、俺の身体のありのま
まを見て目を見開いていた。
﹁血が、出ない?﹂
様々な場所で治療を行って来た実績のあるマリアがいち早く異変
に気付き、俺の胸に耳を当てた。手首にも指を当てて脈を測ろうと
している。
﹁脈がないわ。一体、どうなっているの⋮?﹂
﹁奪われた私の心臓は、プルートが持っています。私の心臓からエ
ネルギーを吸い取り24時間で発芽する永遠の死と呼ばれる種子。
それは世界蝕樹と呼ばれる伝説の魔物に発展する可能性があります﹂
俺は説明する。
猶予は三日間だけであると。
﹁それまでに冥界に行かなければ⋮なのですが、タイムリミットを
三日間に引き延ばす為に、私は仮死状態にならなければならない。
みんな、頼めますか?﹂
880
俺は静かに皆に告げた。
﹁まかせとけ﹂
ユウジンが俺の手を掴みながら言う。その手から彼の熱い想いが
伝わって来る様だった。そうか、彼も至近距離で見て傷んだもな、
俺の心臓が奪われる瞬間を。
だがしかし、助太刀よりもマリアの魂を優先したのは俺だ。
責任を感じないでほしい。
ラルドの拡張された竜車内のベッドで俺は仮死状態、セーフティ
ーモードに突入した。可能な限り、種子の発芽を引き延ばすのが俺
の役割だ。
﹁さてと⋮みんなを信じて私は精神修行をするとしますか﹂
﹁私も手伝う∼!﹂
フォルの頭を撫でながら、広い空間へと出る。相変わらずオース
カーディナルが太々しく居座っているこの空間。
精神値上昇補正の才能が無くなった今、元の水準まで取り戻すに
は今までの五倍以上の時間が必要だろう。
次にこの空間から出る時は、心臓を取り戻す時である。
その時に戦いを避けて通れるのかと言ったら必ずしも通れる物で
881
はない訳で、事前に出来る限りの準備をしておかねばならない。
まぁ、実際に出来る事と言っても、精神修行のみしか出来ないん
だが。
それでもやるに越したことは無いからね。
才能を失ってしまったが、俺にはオースカーディナルと呼ばれる
とんでもないマゾ武器がある。これの誓約を極限まで我慢できる程
になれば、耐久値も攻撃値もかなり跳ね上がって入るんじゃないだ
ろうか。
フォルトゥナトレーナーの管理の元、俺はビルドアップと呼ばれ
る我慢大会に突入した。
882
奪われた心臓︵後書き︶
前回も説明しましたが、オースカーディナルの使い方は攻撃力が
上がるとかじゃなくて、誓約による更なる精神値の修行と言う物で
す。
本人は誓約をキツい物にして行けばして行く程、自身の力にフィ
ードバックして行くと勘違いしています。
そして次からはクボ視点では無くなりますので、ご容赦を。
883
冥界へ
﹁迷宮に行って、一体何をするつもりなんだ?﹂
﹁それは言えん﹂
ローロイズから、仮死状態に突入してしまったクボヤマを竜車に
ほそう
乗せて、その他パーティのメンバーは魔法都市アーリアに向けて魔
法鉱石の物流の為に舗装されたばかりの街道を疾走していた。
セバスが巨大化したラルドを駆る。スピードはもちろん、その持
久力も相応に増しており、最早走竜種の中でも上位に位置する存在
となっているラルド。この調子で行けば一日程で魔法都市へとたど
り着けるとセバスは目算していた。
そんな竜車のキャビンの上で、風に当たりつつ辺りを警戒してい
るハザードとユウジンである。
なぜ、魔法都市へ向かっているのか。
それは、ハザードが冥界へ行く当てがあると断言したからである。
クボヤマが眠りについて小一時間程話し合った結果。
冥界への行き方から模索しなければならないという絶望的な状況
の中、口数の少なかったハザードが決意した様に呟いたのである。
﹃冥界への行き方なら⋮ある。だが、魔法都市まで向かう必要があ
る。三日で間に合うのか判らない﹄
﹃ですが、他に方法の検討もつきませんので。ハザード様、貴方の
意見に賛成です﹄
﹃そんな方法があるの? 私は邪神の居る大陸にヒントがあると思
884
うのだけれど﹄
﹃マリア。どれだけ遠いかわかってるのか?﹄
﹃知ってるわよ⋮でも、他に方法が思い浮かばないの﹄
﹃大丈夫だ。魔法都市の迷宮に行けば判る。ただし、三日で間に合
えば良いが﹄
﹃今からラルドが飛ばせば、丁度1日半程で付けると思います。検
問や盗賊などの障害が途中に無ければですが﹄
こうして、魔法都市行きが決まった。藁にも縋る面持ちを隠しき
れない様だったが、とにかく行動しなければ始まらない。
最悪、死に戻れば良い。
という楽観的な考えは、皆の中には存在しなかった。
被捕食ペナルティと言う物の存在。
レベルやステータス半減というペナルティより遥かに重たい才能
消滅ペナルティ。これが何を意味するのかと言えば、強制キャラク
ターデリートを予感させる。
流石にゲームの世界でそれは無いだろう。
と思わない方が良いという結論である。
リアルセカンドライフとも呼ばれる本当に世界に存在している感
覚から言えば、かなり特殊な状況での強制キャラデリペナルティは、
この運営はやりかねない。
やりかねないのである。
舗装された道には商隊を狙った盗賊や、人の匂いを嗅ぎ付けた魔
885
物が虎視眈々と通り行く人々を狙っている訳だが、運がいい。
巨大化したラルドの存在は生半可な魔物と盗賊を寄せ付けずに済
んでいた。
妙な緊張感の中、竜車は進んで行く。
魔法都市への入国を済ませた一行は早速魔法学校内の迷宮を目指
す。特待クラスのアリアペイは有効だった。ただしユウジンとマリ
アとジンは持っていなかったので、ゲスト用アリアペイの発行の為、
学校長グリムの元へ無理矢理押し掛けた。
﹁ほっほ、久しいのぅ。儂の事は覚えておるか?﹂
﹁今そんな事してる場合じゃない。学校長、コイツらが暗黒迷宮に
行けるだけのアリアペイを発行して欲しい﹂
﹁何かあったのかね⋮⋮?﹂
886
教育者の域を超えた洞察力と観察眼を持つグリムは、ハザードの
顔を見てただならぬ事態を察した様に真剣な口調になる。
﹁クボヤマの心臓が冥王に握られている﹂
﹁プルートか。奴は陰湿じゃ、気をつけて行って来い﹂
ハザードの一言だけで大まかな情報が読み取れたのか、学校長は
すぐさまゲスト用のアリアペイを発行する。
﹁そこの侍は、クボヤマのアリアペイを使えるぞ。クボヤマが以前
いつでも学校に来れる様に共有化してるようじゃったからの﹂
﹁クボ⋮﹂
クボヤマのアリアペイを受け取ったユウジンに染み渡る様な深い
感情。彼は誓う、必ず助け出すと。
囚われた親友を助け出す為に。
﹁あ、おい。ブレンド商会からの入金なんかおおくねぇか?﹂
﹁ああ、とりあえず留守中にアリアペイに入れておけと言葉をもら
887
っていたんじゃった。貯金にもなるじゃろうから、儂が善意でぶち
込んでおいてやったんじゃ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
一行は、暗黒迷宮へと足を進めた。暗いのが少し苦手なのか、ジ
ンはマリアの腕に抱きついたまま雑魚悪魔を秒殺で仕留めなら奥を
目指す。
この時点で残す時間はあと一日を切っていた。
冥界へ行くまでで二日である。そして、冥界からプルートの場所
まで一体どれだけの時間が必要なのか。
かなりの不安が皆を一様に襲っているのだが、誰一人として口に
出す事はしなかった。口にするだけで、現実になってしまいそうで
怖かったからだ。
888
一番の心配を見せていたエリーも、固く口をつぐみ前だけを見据
える。とにかく余計な動きはしない様にと、徐々に中級へとクラス
を替えて行った悪魔達を凍らせて放置している。
だれも一言も喋らない時間が更に時間を加速させる。退屈な時は
秒針の速度がうんざりする程に遅く感じるのに、過ぎて欲しくない
時間だけはどうしても早く過ぎてしまう様に感じる。
時計はただただ一定の速度で刻み続けているだけなのに。どうし
ようもない苛立から何もかもに当たり散らしてしまいそうになるの
をエリーは堪えている。だがみんな同じ気持ちなのである。
﹁⋮⋮まだか?﹂
業を煮やした様に言うユウジン。声に苛立を隠すつもりは無い。
﹁⋮⋮⋮⋮ここだ﹂
かなり暗闇の中を歩いて来ていた様だった。
沈黙の中ハザードがようやく口を開く。
道を照らしていた光魔法の杖の光度を上げて先を照らす。
そこには、大きな空洞があり、四枚の翼を持った焦げ茶色の巨大
な悪魔が頬杖をついて寝転がっていた。
﹁珍しいな、お前からここに来るなんて。何かあったのか?﹂
ディーテ
﹁冥界へ連れて行け。悪魔大王、お前なら出来るだろう﹂
採掘場での戦いの時、ハザードがベヒモスに対抗して召喚した強
889
大な悪魔がそこに居た。その悪魔に向かって、ハザードが言い放つ。
全ての悪魔がひれ伏して、人間でも聞く人が聞けば、恐れ戦くその
存在にである。
りんしょく
﹁はっは。悪魔に何かさせたいのであれば、契約を結べ。吝嗇なお
前が、一体何を差し出すのか?﹂
召喚時が血の一滴だった事を根に持っているのか、嘲笑う様にデ
ィーテが言う。召喚とは違うその迫力に女性陣はゴクリと息を呑ん
だ。
ユウジンは、交渉が失敗すれば全力を出してねじ伏せるつもりだ
った様で、かなりの闘気をその身の内で練り込んでいる。
﹁良いだろう。俺の覚悟を見せてやる﹂
ハザードは荷物を降ろした。そのボロボロのフードを脱ぎ捨て巻
き付けていたバンテージや包帯を解くと、彼の身体に刻み込まれた
賢人の紋様が剥き出しになる。
﹁賢人の紋様だ。くれてやる﹂
﹁⋮⋮賢人の塔を昇り切ったもののみに刻まれる紋様か。何故その
ような物を?﹂
﹁良いから受け取れ。そして俺達を冥界のプルートの元へ連れて行
け﹂
ディーテの質問を無視するハザード。その表情はまっすぐとディ
ーテの赤く光る目を見据えている。
890
﹁いいのか? 賢人の能力が使えなくなるぞ?﹂
悪魔は誘惑の質問を投げかける。その言葉には人を惑わす呪いが
込められているのだが、ハザードはそんなディーテの言葉にも揺れ
る事無く視線で返事を返した。
﹁流石我と契約しただけあるな。良いだろう、契約成立だ。その賢
人の紋様は俺が弄らせてもらおう。だが、世界が認めたソレを我が
奪う事は不可能なんでな﹂
ディーテの真っ赤な目が不気味に光る。
ハザードの紋様が血の様に濃く赤く重たい光を放っている。
﹁ふぐッ、ぐ⋮あ”ア”ア”ア”!!!﹂
普段あまり喋る事の無いハザードが、うめき声を上げて膝を付く
と悲痛な悲鳴を上げた。シュゥゥと紋様から硫酸で物を溶かした時
の様な音が回りに響く。
赤く光っていた紋様は次第に輝きを失って行った。
﹁賢人の紋様に、魔人の印を刻んだ。ハザード、もう一度問う﹂
何故、賭けたのか。とディーテは静かに言い放った。嘲笑う様な
態度はそこには無い。悪魔の誘惑もなにも籠っていない、ディーテ
の真の言葉だった。
﹁友だからだ。仲間だから。それ以外に理由なんかあるか﹂
痛みに苦しみながら、ハザードはそう言った。
891
その性格と物腰から、ノーマルプレイヤーの時から人間関係で苦
労していた。味方はロバストだけ。信頼を置けるのは彼とそのギル
ドの一部だけだった。
だがそれは本当の信頼と呼べるのか。ロバストは、俺の事を判っ
ている様だったが、本当のそんなんじゃない。信頼信用と体のいい
言葉で表しては居るが、結局の所利用して利用されてしか考えてい
なかった。
気付いたのはリアルスキンモードに移行した時。ハザード自身は
一人旅でも良いと強がっていたのだが、一度彼等と共に度をしてか
ら、一人で過ごす事が怖くなった。
そして一緒に切磋琢磨する友人が出来る。一方的に敵意を抱いて
いた相手にもソイツを通して信頼を築く事が出来た。
何も喋らない彼だが、感受性は人一倍豊かなのだ。なかなか表に
現そうとしないが、彼は彼なりに葛藤し常に自分の心と向き合って
来ていたのだ。
共に歩む物には、友には自分の大切な物を賭けても手を差し伸べ
る。
ただ一緒に居てくれただけだったが、それだけでも十分だった。
万人に手を差し伸べる程の度量は無いが、せめて手が届く範囲は
真似したい。
いつの間にかそう、心に誓っていた。
892
だから、セバス達が神父を迎えに行くと諜報用の使い魔から情報
を手にしてから、逐一状況を確認して、採掘場に現れたのである。
恥ずかしかったので、たまたま通りかかった事にしてあるが。
﹁フッフッフ⋮⋮ハッハッハッハ!!!﹂
ディーテが笑い出す。腹を抱えて笑い出し、身を地面に転がした
物だから、かなりの振動と風圧が皆を襲った。
﹁そうか! 友か!﹂
﹁何がおかしい﹂
﹁いや、我が欲して止まない物である。悪魔の世界は殺伐としてい
てつまらんのでな。唯一の友は、人間を愛する変態であり、放浪癖
があるから会えん﹂
ディーテは笑い過ぎて流れた真っ赤な涙を指で拭いながら続ける。
﹁賢人よ。賢ければ賢い程人間はソコから離れて行く。ソレを忘れ
るな。その魔人の刻印は更なる力を授けるだろう。もうお前は人で
あり、魔である。そして召喚コストは刻印で半分になって身体に”
部位召喚”を纏う事が出来る﹂
ハザードの答えに、自分の思っていた答え、いやそれ以上の物を
感じ取ったディーテは上機嫌に立ち上がった。そして身体に力を入
れて、その四枚の翼を大きく広げる。
893
﹁冥界の門を開くなど、この我には容易い事! 今の我は機嫌が良
い。特別サービスだ、プルートの居る冥宮に直接送ってやろう!!
!﹂
地面が暗い光を放ちながら大きくドロドロ混ざり合って行く。そ
して徐々に濁った泥水の泥が沈殿して行き、まるで水たまりの中に
ある様に冥界がその混ざり行く球体の中に映されて行く。
﹁さぁ行け! 友を救う時間はあと僅かなのだろう?﹂
ありがとう。誰にも聞き取れない声でハザードは呟いた。
そして、冥界へ。
下に見えるはプルートの居る冥宮である。
残る時間はもう20時間無い。
クボヤマが仮死から冷めて芽の吸収力が加速する事を考えると、
余裕を物故居ていられない。
もっと急がなければ。
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冥界へ︵後書き︶
ディーテ﹁半分人で半分魔であるということは、我とも半分友達で
ある!﹂
友 達 宣 言 !!!
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PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n4162cj/
『Real Infinity Online』VR初心者ゲーマーがテラ神父
2015年2月1日03時57分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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