低強度及び高強度走行運動がラットヒラメ筋の代謝及びミトコンドリア数に

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 31 日
(土)13 : 55∼14 : 45 ポスター会場(展示ホール A・B)【ポスター 基礎!人体構造・機能情報学 5】
1023
低強度及び高強度走行運動がラットヒラメ筋の代謝及びミトコンドリア数に与
える影響
富島奈々子1),田中
雅侑2),金指
美帆2),前沢
寿亨1),藤野
英己2)
1)
神戸大学医学部保健学科,2)神戸大学大学院保健学研究科
key words 運動・代謝・ミトコンドリア数
【はじめに,目的】肥満は生活習慣病の重要な要因であり,社会問題になっている。肥満には低強度走行運動等の有酸素運動が
代謝や体重軽減に有効で推奨されている。代謝向上にはミトコンドリア数増加やコハク酸脱水素酵素(SDH)活性の上昇,毛細
血管新生等の適応があり,有酸素運動は代謝向上に好影響がある。近年,無酸素性エネルギー代謝が起こる高強度インターバル
トレーニング(HIIT)でもミトコンドリア数の増加が報告されている(Hoshino,2013)
。一方,継続的な運動後の血中乳酸値濃
度が乳酸性作業閾値(LT)以下の低強度運動と LT 以上の高強度運動が代謝に与える影響を比較した研究は皆無である。HIIT
は有酸素運動よりも代謝が向上するという先行研究(Laursen,2002)から,ミトコンドリア機能亢進には有酸素運動よりも LT
以上の高強度運動の方が好影響ではないかと仮説を立て,低強度及び高強度走行運動がラットヒラメ筋の代謝及びミトコンド
リア数に与える影響の検証した。
【方法】5 週齢の Wistar 系雄性ラットを対照群(CON 群,n=8)
,低強度運動群(LI 群,n=7)
,高強度運動群(HI 群,n=7)
の 3 群に分けた。運動介入としてトレッドミルを用いた走行運動を 1 日 1 回,週に 5 回の頻度で実施し,LI 群では速度 15m!
分,
継続時間 60 分間,傾斜 0̊,HI 群では速度 20m!
分,継続時間 30 分間,昇り傾斜 20̊ の運動を負荷した。運動後の血中乳酸値濃度
は運動前に比べて,HI 群でのみ有意な上昇を認めた。3 週間の実験期間終了後,サンプルとして精巣上体周囲脂肪及びヒラメ筋
を摘出し,湿重量を測定した。ヒラメ筋は急速凍結し,"
80℃ で凍結保存した。ミトコンドリア数の指標として Taqman プロー
ブによるリアルタイム PCR 法を用いてヒラメ筋の mtDNA コピー数を相対的に測定した。また,薄切したヒラメ筋横断切片を
用いて SDH 染色によりヒラメ筋の SDH 活性を測定した。ATPase 染色(PH4.3)で筋線維を Type I と Type IIA に分け,筋線
維タイプ比とタイプ別筋線維横断面積(CSA)を測定した。アルカリフォスファターゼ(AP)染色により筋線維数に対する毛
細血管数(C!
F 比)を測定した。全ての測定値の統計処理には一元配置分散分析と Tukey の多重比較検定を行い,有意水準は
5% 未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】全ての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の承認を得た上で実
施した。
【結果】体重は LI 群及び HI 群共に CON 群に対し有意に低値を示したが,脂肪量!
体重比は HI 群が CON 群及び LI 群に対し有
意に低値を示した。ヒラメ筋!
体重比は LI 群及び HI 群と共に CON 群に対し有意に高値を示した。筋線維タイプ比と CSA は LI
群及び HI 群共に CON 群との有意な差を認めなかった。また,mtDNA は LI 群が CON 群に対し,HI 群が CON 群及び LI 群に
対し有意に高値を示した。C!
F 比も同様に LI 群が CON 群に対し,HI 群が CON 群及び LI 群に対し有意に高値を示した。また,
SDH 活性は,Type I では LI 群が CON 群に対し,HI 群が CON 群及び LI 群に対し有意に高値を示し,Type IIA では HI 群が
CON 群及び LI 群に対し有意に高値を示した。
【考察】HI 群では mtDNA 増加と SDH 活性上昇,C!
F 比増加が LI 群より有意であった。運動によるミトコンドリア数増加や
SDH 活性上昇が知られており,異なる強度の走行運動では強度が高いほどミトコンドリア新生及び酵素活性の上昇が示された。
運動強度が高いほど酸素需要が増大するという先行研究(Sasaki,1965)から,酸素需要増大に適応するためミトコンドリア機能
向上が促されたと考えられる。また,運動によるミトコンドリア新生や酸化的リン酸化酵素活性上昇に伴う酸素需要増大が毛細
血管新生を促すことが報告(Suzuki,2001)されている。C!F 比も LI 群より HI 群で有意に高値を示したため,毛細血管新生に
与える影響の違いは,HI 群がミトコンドリア新生や酵素活性に与える影響の大きさが反映していると考えられる。また,CSA
とタイプ比に有意な差が見られないことや HI 群のみ脂肪が減少したことから,HI 群では筋力増強効果はないがミトコンドリ
ア内での脂肪酸分解が活性化され,LI 群より脂質代謝が活性化したと考えられる。これらの結果から本研究では LI 群より HI
群でミトコンドリア機能が向上し,代謝亢進に効果的であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
骨格筋の代謝活性の増加には低強度,高強度走行運動ともに有力な手段となるが,LT 以上がよ
り効果的であり,肥満の改善や予防に有効な手段となり得ることを示した点で意義があると考える。