JAMSTEC フリートトピックス 2015 ○海洋工学センター 運航管理部(海洋研究開発機構) 1.平成 26 年度に実施した各船機能向上に関わる工事 平成 26 年度は予算状況も厳しく、各船の機能向上に関わる工事は実施せず、 「みらい」のみ補正予 算による改造工事を実施した。 また、機能向上とは性質が異なるが、船舶・探査機の効率的な運用に資するため、 「しんかい 6500」 と「うらしま」を同時に搭載できるよう「よこすか」の関連設備の改造を実施した。 なつしま 特記工事なし かいよう 特記工事なし よこすか ・「しんかい 6500」「うらしま」同時搭載のための改造工事 かいれい 今年度ドック工事なし みらい ・音響測深装置(MBES)送受波器換装及び船上処理部バージョンアップ ・地層探査装置(SBP)換装 ・ドップラレーダー換装 ・小型 CTD 換装 ・音響航法装置船上部換装 ・減揺装置制御盤換装および電動機オーバーホール 2.JAMSTEC 所有の有人潜水調査船と無人探査機について 有人潜水調査船 「しんかい6500」は平成26年11月に運用開始から25年を迎えた。 今年度は北西太平洋におけるプレート構造の調査及び培養実験、マリアナ弧南西端における地球生 命科学調査、沖縄トラフにおける熱水鉱床域の調査を実施した。 中間検査工事においてLED投光器を搭載し、観測機能を向上させるとともに、14kHz帯の同期ピンガを 搭載し、測位精度の向上を図るなど老朽化対策及び機能向上のための改造を重ねている。今後は、ジ ャイロコンパスの更新、マニピュレータ・サンプルバスケットの装備位置の前方移設など調査観測機 能の強化と計器の更新を順次進め、平成28年度の定期検査工事に予定している耐圧殻内の大規模改造 の準備を行っている。 遠隔操作型無人探査機(ROV) 「かいこう」システムにおいては、年度当初に一次ケーブルを新ケーブルに換装したが、当該ケー ブルに不具合が発生したため使用を取りやめた。代替えとして昨年度まで使用していた旧ケーブルの 健全性を確認し、昨年度同様にケーブル繰出し長を最大5,700mと制限を設け、「かいこう」システム の運用を継続している。「かいこう7000Ⅱ」に代わる高機能型ビークル「かいこうMk-Ⅳ」は昨年度の 試験潜航実施後に改修作業が行われ、運航要員による整備作業等の慣熟訓練を実施するなど実運用に 向けて準備をしている。 「ハイパードルフィン」は、地震・津波観測システム(DONET)におけるDONET1の障害調査やDONET2 の構築、三陸沖の海洋生態系調査や上越沖のメタンハイドレート調査などを行った。アンビリカルケ ーブルについては、老朽化した№4ケーブルを廃棄し、№5ケーブルに巻き替え、昨年度購入した№6、 №7ケーブルとウインチ3基とし、運用体制を整えた。新規ケーブルの導入によりキンク等のトラブ ルが減少した。また、浮力材やデジタルカメラの更新、およびサブカメラ映像のハイビジョン化等を 実施し調査観測装置の機能向上を図った。 自律型無人探査機 (AUV) 「うらしま」は、年間過去最多となる40潜航を行い、今年度最終潜航において「通算200回潜航」を 達成した。東京大学地震研究所が開発を進める「移動体搭載型重力計システム」、同じく東京大学生 産技術研究所の「合成開口インターフェロメトリソーナーシステム」を搭載し、伊是名海穴や明神礁 カルデラの熱水鉱床探査を行った。特に、合成開口インターフェロメトリソーナーシステムは、初め て「うらしま」に搭載され、三次元の音響画像データを取得した。その他、ノサップ沖における深海 での地磁気計測、ベヨネーズ海丘における海底観測等を行った。各システム搭載に向け研究者用通信 ポートの充実を図った。 深海曳航調査システム(ディープ・トウ) 「ディープ・トウ」は、地震・津波観測監視システム(DONET)に接続される海底地震計を埋設するた めの、「ディープ・モゲラ」を用いたケーシング設置や、300mの電極ケーブルを曳航した電磁気探査 を実施した。「ディープ・トウ」を用いた電磁気探査の手法が構築出来た。 また、平成24年度の補正予算にて導入された6,000m級新型「ディープ・トウ」の試験航海を実施し た。この新型「ディープ・トウ」は、サイドスキャンソーナーによる広域音響マッピングの他、マル チビーム測深機による微細地形調査、ハイビジョンカメラによる観測を可能にし、様々なニーズに対 応できるように設計されている。平成27年度に再度試験航海を実施し、実用化を目指す。平成28年度 には老朽化・陳腐化に伴い、4KカメラDT、4KソーナーDTを廃止し、データ伝送能力の高い光通信を 用いた6KカメラDT、新型DTにて運用を実施する予定である。 *「しんかい6500」、「うらしま」の「よこすか」への同時搭載 調査の効率を向上させるため、支援母船「よこすか」の改造により母船として運用を行っている「し んかい6500」、「うらしま」の同時搭載が可能となった。 ただし、洋上における探査機の入れ替えは困難なため、岸壁等への着岸が必要。 機構への帰港及び換装が不要となるため、遠隔地における調査の効率が向上する。 3.海洋の科学的調査に対する国際的な規制強化の動き JAMSTEC が年間実施している所謂外航調査は年間平均約 15 件であり、沿岸国に対する海洋の科学的 調査の同意申請としては 30~40 件程度となっている。これに、外国の管轄水域に立ち入らない海洋調 査の件数を含めれば倍近くになるであろう。このように、JAMSTEC が実施している海洋の科学的調査は、 規模・範囲や頻度からしても世界をリードしている。そのような状況において、海洋の科学的調査を めぐる国際的な規制の動向は厳しくなる一途をたどっている。 第一に、外国沿岸国の管轄水域内である所謂 EEZ(排他的経済水域)以内での海洋調査に対する各種 申請手続き( 「外国国内法に基づく各種申請」 )の増加である。例えば、2014 年 10 月には「遺伝資源へ のアクセスと利益配分に関する名古屋議定書」が発効し、生物サンプリングに対する国際的な規制が 強化され、各沿岸国が比較的厳しい申請手続きを導入しつつある。また、米国においては「海洋哺乳 類保護法」や「絶滅危惧種保護法」などの法律による MCS 調査に対する厳しい申請手続きが課されて おり、また海洋保護区の拡大による特別調査許可申請が必要な海域も増えている。さらに、プランク トンネットを使用する際には、 「特別採補許可」申請が必要な沿岸国も増えている。この傾向は、先進 国・途上国を問わず拡大している。 第二に、従来は公海や深海底といった、いずれの国家の管轄権も及ばない海域に対する規制の動き であり、一部には既に規制対象になっている海域もある。例えば、従来は EEZ の下の海底部分と考え られていた大陸棚であるが、近年、国連による延長申請の承認を受け、日本を含めたいくつかの沿岸 国が大陸棚を延長している。つまり、深海底(公海)と思っていた海底が、実は沿岸国の管轄水域で あったということがあり得る。また、国連が管理している深海底の国際鉱区における掘削・採鉱活動 が本格化する傾向にあり、海洋の科学的調査との競合の可能性も出てきている。さらに、公海や深海 底における海洋生物多様性の保全のため、新たな規制を課す国際条約を作成する動きもあり、今後は、 ますます自由な海域というものが縮小する方向にある。
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