第 14 回通貨オプション講座(最終回) 為替相場研究会主宰 早いもので

第 14 回通貨オプション講座(最終回)
為替相場研究会主宰
早いもので、月 2 回程度をメドに書いてきた本講座も 14 回目を迎えました。
本講座は通貨オプション入門編として、バニラ・オプションを取上げたものです。まだま
だ書き足りない箇所やストラテジーも多いのですが、とりあえず今回を持ちまして最終回
とさせて頂きます。
章立てや項に関して必ずしも整理されておりませんが、外為証拠金会社が通貨オプション
を本格的に取上げる段階、あるいは松島さんが何かの折りに完成品にするときに、加筆修
正した上で整理したいと考えています。
今回は最終回に当たり、通貨オプションと為替相場について書いてみたいと思います。
「通貨オプションと為替相場」
時折、新聞などのメディアで通貨オプション絡みの取引によって相場が変動したとかとい
う記事を目にすることがあります。
銀行には守秘義務があるので、実際の取引内容は市場に伝わらないハズなのですが、人間
が働く世界のこと、知らず知らずのうちに市場に少しずつ広まっていくようです。
(1)バニラ・オプションと為替相場
バニラ・オプションでは、満期日(日時)における実勢の為替相場と行使価格との関係に
よって行使・非行使が決定されます。
こうしたオプションの売り手は、通常の場合オプションの価値(オプション・プレミアム)
を損なわない様に、キャッシュ・ポジション(為替の持ち高)を調整しています。
これをデルタ・ヘッジと言います(過去の講座を参照して下さい)
。
例えば、ドルコールの売り手にとってはドル高がリスクですから、売り手はドルが上昇す
るにつれてドル買いのポジションを膨らまし、逆にドル安になるにつれてドル買いポジシ
ョンを減らします。
仮に、ドルコールの売り手が満期日までにデルタ・ヘッジを全くしていない状態でオプシ
ョンが行使されたとすれば、アゲインストのドル・ショートポジションを抱えることにな
り、損失が発生してしまいます。
ここで、ドルコール・オプション金額が極めて大きい状態、例えば 1000 本(10 億ドル)
とかを想定してみて下さい。
このとき、売り手と考えられる銀行のオプション・ディーラーが取引成立と同時に 50%の
デルタ・ヘッジを行えば、500 本のドル買いを行うことになるのです。
このインパクトがドル円相場に与える影響は小さくありません。
単純に考えれば、オプション取引金額が大きくなればなるほど、売り手のデルタ・ヘッジ
金額は大きくなり、市場に与える影響は大きくなると言えます。
(2)エキゾティック・オプションと為替相場
今回の講座は入門編でしたので、エキゾティック・オプションについては触れませんでし
た。
バニラ・オプションが一般的な(バニラアイスクリームの様な)ものであるのに対して、
トッピングを施したオプションがエキゾティック・オプションです。
ここでは、満期日の実勢相場と行使価格との関係以外を行使・非行使の要素としたオプシ
ョン程度と考えて下さい。
一般的にエキゾティック・オプションは発生型と消滅型に分類されています。発生型はノ
ックイン・オプション、消滅型はノックアウト・オプションなどと呼ばれています。
これらのバリエーションも多岐に亘ります。
大雑把に言うと、ノックイン・オプションは相場がある水準(イン・ストライク)に到達
した場合、オプションの効力が発生するオプションです(イン・ストライクに到達しない
場合は、オプション効力が発生しません)
。
例えば、バニラ・オプションであれば、ドルコールは満期日のドル相場が行使価格以上の
ドル高であれば行使されることになりますが、ノックイン型では相場がイン・ストライク
に到達しないとドルコールというオプションそのものが発生しないのです。
一方、ノックアウト・オプションは相場がある水準(アウト・ストライク)に到達した場
合、そのオプションが消滅してしまうオプションです(アウト・ストライクに到達しなけ
れば、オプション効力は消滅しません)
。
少し難しいと思いますので、この話はここで止めます。
エキゾティック・オプションについて説明を加えたのは、為替相場の変動要因としてこれ
が関係することが多いからです。
ここで、ノックアウト(消滅)型のドルコール(円プット)
・オプションが既に存在してい
ると仮定してその点を説明してみます。
ドルコール本来の行使価格を K(95 円)
、アウト・ストライク(消滅ポイント、トリガー:
引き鉄)を K1(97 円)とします。また現状水準が 96 円 50 銭で、満期時限まであと6時
間としておきます。
この場合、このオプションの買い手はあと 6 時間の間、ドルが K1 に到達せず、かつ 95 円
以下に下落しないでほしいと望んでいるハズです。
なぜならば、ドルコールが ITM(イン・ザ・マネー:オプションが価値を有している状態)
の状態にあるからです。ただ、このオプションは K1 に到達してしまうと、効力が消滅して
いまいます。
そこで、オプションの買い手と売り手の攻防が発生するのです。
もし、このオプションが 500 本にも上る金額であれば、双方ともに必死です。
*****以下は、一つの例です。デルタ・ヘッジの状況などで、まったく状況が変わる
ため、多くのバリエーションが考えられます。
単なる、参考例であって、必ずしも以下のようになるわけではありません。
この点、誤解のない様にして下さい。*****
その後、時間が経過し実勢水準が 96 円 90 銭程度にあるとすれば、オプションの売り手は
ドルを買い、満期時点までに何とか K1(97 円)までドルを押し上げる努力します。
つまり、このオプションを消滅させてしまえば、売り手はオプションが行使されずにプレ
ミアムを収益とすることができるからです。
一方、買い手はドルコールを消滅させまいと、97 円手前ではドルを売ることになるでしょ
う。
この場合、満期時点までにドルが K1 以上に上昇した場合はどうなるでしょうか。買い手は、
防戦のために直前でドルを大量に売却している状態、つまり、ドルショートを大量に抱え
ている状態ですから、97.00 円 が taken されればストップ・ロスのドル買いを行うことに
なるでしょう。
逆に、買い手が攻防に勝った場合はどうでしょうか。つまり、満期時までに 97 円を付けな
かった場合(95 円<S<97 円)です。
買い手は、97 円近辺で大量にドルを売っていますから、ドルコールを行使して、収益を得
ることができます。
その一方で、売り手は 97 円を付けようと、97 円直前でドルを購入してきました。これがデ
ルタ・ヘッジ目的であれば良いのですが、オプションを消滅させようと、余分なドル買い
をしていた場合、ドルをどこかで売らなければなりません。
つまり、余分なドルロング分が、市場でドルの下落要因として働くことになるのです。
もっとも、これらはオプションのプロ同士のことなので、97 円手前の攻防でそれなりにポ
ジション調整を行っているハズですが、そうでない場合に大きな相場の変動要因になり得
ると言えます。
(実際に時折、こうした状況を皆さんは見ているハズです)
ところで、トリガーが一旦引かれると、同方向に相場が動くことがあります。それは、オ
プションの買い手が 50 銭キザミとか 1 円キザミとかで、トリガー・ポイント有するオプシ
ョンをシリーズで持っていることがあるからです。
*****繰り返しになりますが、上記の状況は一例に過ぎません。*****
以上
おわりに:本講座が通貨オプションを理解する上で多少なりとも皆様のお役に立ち、また
講座を通じて皆様が通貨オプションに興味を持って頂けたとすれば、筆者にとって望外の
喜びです。
多分、最終回が一番面白かったのではないでしょうか・・・・・。
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注:本稿は(第1回~最終回まで)は筆者の知識や知見を提供することを目的として執筆
したものであり、FX オプション取引並びに関連の取引をお勧め(あるいはお薦め)するも
のではありません。
また、説明の複雑さを避けるために、ボラティリティーの変動など市場のセンシティビテ
ィー分析には触れておりません。
本稿は筆者の知識と知見に基づき執筆されていますが、その正確性、確実性を保証するも
のではありません。
FX オプション取引並びに関連の取引の最終決定は、読者ご自身の判断でお願い致します。