チェンジ・マネジメントを リードする10の原則 昔ながらのツールとテクニックは、今も変わらず 企業の速やかな変革をもたらすのに役立つ。 著者:ディアン・アギール、ミカ・アルパーン 監訳:井上 貴之 企業買収や合併、顧客志向の強化、グローバル化に伴う組織変革など、様々な局面において、企業は主体的であるかを問わず大きな 「変革」を求められる。このような組織による「自己変革」は、その企業の未来を決める重要な取り組みであるにもかかわらず、個人の禁 煙やダイエットと同様、いとも簡単に失敗に終わってしまう。本稿では、失敗を回避し、変革を成功に導くための王道かつ普遍的なルール について改めて整理を行う。 (井上 貴之) 2000 年代半ば以降、巨大な新市場や労働力プー ルの開拓が こないだろう。 進 み 、かつて主 流となっていたビジネスモデルは革 新 的な技 術 組織のチェンジ・マネジメントに関する私たちの経験から、克服 により存亡の危機にさらされ、資本の流れや投資家の需要を予測 しなければならな いハードルが大きく3 つ 挙げられる。1 つ目は するのが困難になっている。環境の変化に立ち向かうために、企業 「変化による疲労」、すなわち、人があまりにも多くのことを一度 は 組 織 の チェンジ・マネジメントにお い て 文 化 が 果 たす 役 割に に 変 えな け れば ならな い プレッシャー を 感じたときに 生じる、 対して、これまでよりもはるかに敏感に反応し、より強く意識し、 疲弊感のことである。カッツェンバック・センターの調査回答者の 同時にうまく実績を残すことが求められている。 6 5 % が 、このような 状 況を問 題として 挙 げて いる。変 化による しかし、2013 年に Strategy&とカッツェンバック・センターが、 疲労は、深い考えなしに急に実施が決まり、準備も不十分な中で 世界中のシニアエグゼクティブを対象に文化とチェンジ・マネジ 始まったような取り組みにおいて増しやすい。特に「すべてを白紙 メントに関する調査を行ったところ、変革の取り組みが成功する に戻し、1 からやり直す」ような派手な取り組みをトップから強要 確 率 は、わずか 5 4 % で あることが 明らかになった 。この 数 字 は された場合に、疲労は急激に大きくなり、実行の妨げとなる。 あまりにも 低く、残り 4 6 % の 変 化 に 向 け た 努 力 が 実 を 結 ば な 2 つ目のハードルは、回答者の 48%によると「実現までの道のり かった場合の代償は大きい。金銭的なコストだけではなく、現場 の 長さ」だ。背 景には、企 業は、変 化を長く持 続できるスキ ルが が混 乱し、機 会 の 喪 失やリソースの 浪 費 、士 気 の 低 下を招 いて 欠けていると考えられる。このような問題を解決する優れた方法 しまう。激変の荒波に耐え、残業に長い時間を費やしてきた従業 とは、プロセス設計や研修といったオペレーションの改善に投資 員が、鳴り物入りで大々的に発表された取り組みのために、簡単に することであり、また、新しい実践的なアプローチを浸透させて、 立ち消えてしまう様を目の当たりにすると、皮肉な感情しか湧いて 従業員に彼らが必要とする知識や文化面でのサポートを提供する S t r a t e g y & F o r e s i g h t Vo l . 4 2 0 1 5 S u m m e r 11 ディアン・アギール ミカ・アルパーン 井上 貴之(いのうえ・たかゆき) 本稿は、Strategy&がグローバルで発行 deanne.aguirre@ strategyand.us.pwc.com micah.alpern@ strategyand.us.pwc.com takayuki.inoue@ strategyand.jp.pwc.com するビジネス誌『 strategy+business 』 ズ、ディアン・アギー ル、マシュー・カル 2 0 0 4 年 夏 号 掲 載 の ジョン・ジョー ン Strategy& サンフランシスコオフィス Strategy& シカゴオフィスのシニアア Strategy& 東京オフィスのパートナー。 のシニアパートナー。Strategy& カッ ソシエイト。カッツェンバック・センター 業務変革、 ITトランスフォーメーション、 ツェンバック・センターの共同リーダー のオペレーティング・チームのメンバー。 全社組織変革、 PMI、新規事業戦略支 を務め、文化、リーダーシップ、人材の 文化の変革および組織のチェンジ・マネ 援などを得意とする。保険プラクティス 有効性、組織のチェンジ・マネジメントを ジメントを専門とする。 専門とする。組織関連のトピックについ およびオペレーションプラクティスの共 同リーダー。 ドロン著 “ 10 Principles of Change の改定・更新版である。 Management” 本 稿にはまた、s+b の 寄 稿 編 集 者 、サ リー・ヘルゲセンも協力している。 て、世界中のシニアエグゼクティブに助 言をしている。 ことである。 順応性を持ち合わせていると想定しているからかもしれない。 3 つ目は、変革の取り組みは、一般的に、経営層によって決定、 一 方 、組 織 変 革 の ベ ストプ ラクティスを 熟 知 するチェンジ・ 計画、実行され、下のレベルで働く従業員たちの意見がほとんど マネージャーたちは、常に自社の既存の文化を最大限に活用して 反 映されてい ないことである。これでは取り組 みを策 定する上 いる。文 化 そ の も の を 変 えようと試 みるの では なく、文 化 から で役 立つ情 報が排 除され、一 方で、現 場に変 化 の 主 導 権を握ら エネ ルギーとなる前 向きな感 情を引き出 そうとするのである。 せる機会が制限される。回答者の 44% が、自分たちで起こすよう 人々の既存の考え方や行動様式、仕事の進め方、感じ方などをう 期 待 さ れた 変 化 がどの ような も の かを 理 解して い な かったと まく活 用することで、変 化 の 取り組 みに弾 みをつけようとする。 回答し、38% がそうした変化に同意していなかったと述べている。 このようなエネルギーを利用するために、リーダーたちは、変化 に 沿った 文 化 的 要 素 を 見 出し前 面 に 押し出 すことで 、変 化 の これらを踏まえた上で、過 去 の 経 験に照らし合わせると変 革 影響を受ける人の関心を集めなければならない。 の 取り組 み を 成 功 へと導くた めに必 要 なことは 、以 下 の 1 0 の 合 併に向 けて の 準 備 が 進 められて い た 医 療 関 連 の 2 つ の 企 原 則として整 理できる。 業 で 、合 併 合 意 後 の 統 合を先 導した の は 文 化 で あった 。チェン ジ・マネジメントチームは、合 併によって生まれる強 みと課 題を 1. 文化とともにリードする 浮 き 彫りにするた め 文 化 につ い て の 社 内 調 査 を 用 い て 、そ れ ぞれの会社の運営スタイルを明らかにしようとした。結果、一方 ルー・ガースナーは、IBM の最高経営責任者として史上最大の の 企 業には 、収 益 の 結 果に左 右 される文 化 が あり、他 方には 、 成功を収めたビジネス変革を率いた人物だが、当時学んだ最も プロセスに焦点を当てる傾向が、明らかになった。最適な方法を 重 要 な 教 訓は、 「 文 化がすべてだ」ということだったと語ってい 取るには、合併後の新しい企業が、プロセスを巧みに利用して明 る。今日の 経 営 者はこのことを理 解している。カッツェンバック・ 確な結果を出さなければならないだろう。最初に時間をかけて、 センターの調査では、84% が、チェンジ・マネジメントを成功させ それぞれの 企 業 の 根 底にある文 化を認 識し受け入れることで、 るには、組織の文化が極めて重要と述べており、64% が、戦略ま 合 併 後 の 会 社 のリーダーたちは、深く根 付 いた強 みを生かして たはオペレーティングモデルよりも、組織の文化が重要とみなし 変化を活発にし、また、無意識かつ無神経に再設計を進めていれ ている。それにもかかわらず、文化的な抵抗を克服する、または、 ば生じたであろう支離滅裂な状況を回避したのである。 文化的なサポートを最大限に活用するという観点から、チェンジ・ リーダーたちが文 化に対 処できないケースが多 い 。変 化を長く 2. トップから始める 持 続させられなかった企 業 の 回 答 者 では 、驚くことに 7 6 % が、 変 革 の 取り組 み 方 を 決 める際 にエグゼクティブた ち が 既 存 の 早 い 段 階 です べ て のレベ ル の 従 業 員 が 関 わりを持 つことが 文化を考慮しなかったと述べている。 重 要 で あ るが 、成 功した チェンジ・マ ネ ジメント の 取り組 み は 文 化 の 重 要 性が広く認 識されているならば、なぜこのような すべてトップから始まっており、 トップにはエグゼクティブで構成 ことが実際に起こるのか。おそらくチェンジ・マネジメントの策定者 された 献 身 的 で 統 制 のよく取 れたグ ル ープが 存 在し、C E O が たちは、自社の文化を過去の遺産ととらえ、そこから先へ進むこ 強 力にサポートしている。このような 一 致 協 力 体 制を当 然と考 とを望んでいるからだろう。もしくは文化が無形の「柔らかい」も えてはならな い 。むしろ、変 化を必 要とする状 況と変 化を実 行 のであることから、明確な注意を向けなくても、適応できるだけの するための 細かな 取り決 めに全 員が同 意できるよう、根 回しが 12 S t r a t e g y & F o r e s i g h t Vo l .4 2 0 1 5 S u m m e r 必要なのである。 活 用すれば、変 化を生 み 出すのが計り知れないほどスムーズに 臨 床 研 究を行うある会 社では、競 争 力を高 めるために、今 後 なる。どこでトラブ ルが発 生する可 能 性があるか、また、技 術や 10 年 間で会 社 の規模を 3 倍にするという目標を掲げ、全力で取 物 流に関してどのような 問 題に対 処すべきか、顧 客が変 化にど り組んでいた。同社では、25 年を経ても、まだ創業当時のような のような反応を示すかについて、現場で働く従業員は知 識 の 宝 運 営が行われていたことから、広 範 囲に組 織 の 再 設 計を進める 庫のような存在なのである。さらに、彼らが誠意を持って取り組 必 要 が あった 。設 計 段 階に至るまでに、財 務 担 当 のリーダ ー た んでくれれば、複 雑な変 化 の 取り組 みが成 功に至るまでの 道 筋 ちが社外ミーティングに集結し、協力しながら厳しい演習に臨ん をスムーズにできるが、逆に彼らの反発を招くようなことになれ だ。その演習では、 リーダーシップチームの有効性に関する調査 ば、実行は困難を極めてしまう。 等が行われ、リーダーは、自分たちのことをチームと呼んでいる さまざまなヒエラ ル キ ー のレベ ル の 人 たちが 早 い 段 階 から が 、実 際 には そ の ように 思って い な いことが 明らかにされた 。 関 与 することに抵 抗 が ある場 合 、 「プランニングに関 わる人 数 それどころか、彼らはほとんどの場合、一匹狼として、すなわち、 が少ないほどプロセスの効率が向上する」と考え、抵抗する理由 創業時のやり方で組織運営に従事していたのである。 になることが多い。しかし、初期段階では時間がかかるが、幅広い グループのメンバーである役員が一人ずつ、変化を必要とする 人 材による関 与を確 保 できれば 、後に起こり得る筆 舌に尽くし 状況について、心のこもったプレゼンテーションを披露した。急成 がたい苦労に直面せずに済むのである。こうした人たちがプラン 長を遂げるために会社が向かうべき全体的な方向性については、 の 策 定に参 加 することで、より多くの 情 報が表 面 化 するだけで ほぼ全員が賛同していた。 しかし、第一段階として具体的に何をす なく、彼らにも利益となる。チェンジ・マネジメントに共通する格言 べきかなど、どうやってその方向に舵を取るかについての説明に の 1 つが、 「急がば回れ」だ。 関しては、意見がばらばらであった。変化を必要とする状況に対し IBM が、このようなアプローチの必要性を認識したのは、文化 て一人一人がサポートできるとすれば、それはどのような状況で に関 する新しい イニシアティブが 生まれた 2 0 0 3 年 で あった 。 あるかを、互いに協力して考え出すという課題が与えられた。 リー ダ ー シップ チ ー ム は 、組 織 が 前 進 する 過 程 で 必 要とな る 経 営 層たちは、全 員 の 意 見を一 致させるために、互 い の 主 張 文 化 的 特 性 を 明 確 に 定 義 するた めに 、集 中 的 にミー ティング に注 意 深く耳を傾け、対 立する見 解を比 較 検 討しなければなら を実施し、 「 values jam 」の開催も宣言した。72 時間限定で 設 置 なかった。この演習は、要求レベルが高かったが、10 年後に会社が さ れたウェブ サ イトで 、社 員 で あ れば 誰 で もコメントや 反 応 、 どうなっているべきかについての 一 貫したビジョンをめぐって、 提 案 、問 題 点 を 投 稿 することが できた 。リー ダ ー た ち は 、受 け 一 体 感 が 生まれるようになった 。さらに最 も 重 要 な の は 、この 取ったフィード バックに 基 づ い て 、変 化 を 実 行し、受 け 取った 演 習で、密 接に協 力し合うという経 験をしたことで、役 員たちは 情 報 がどのように組 み 入 れられたかを明 確に伝えた 。 協 力 的 で 献 身 的 な チ ー ムとして 行 動 できるようになった の で ある。社外ミーティングが終わる頃には、全員が同じ表現で会社 4. 理性と感情を一体化させる が何をすべきかを説 明できるようになっていた。ある参 加 者に よれば、この経験は「自分自身を変えた」。すなわち、互いに力を リーダーは、 「新規市場に参入する」または「今後 3 年間、年率 合わせれば、ヒエラルキー の 他のレベ ルに属する他 のグループ 20% の成長を遂げる」など、戦略的ビジネス目標を立てるという にも、プランを伝授できるという自信が与えられたのである。 根拠だけで、大きな変化の必要性を訴えることがよくあるだろう。 目標だけを見れば素晴らしいが、その大義に純粋にコミットでき 3. すべての階層が関わる る形で、目標が人々の 感 情に届くことはめったにない 。人 間は、 知 性だけでなく心も動かし、自らを何か必 然 的なもの の 一 部で 戦 略を考える際 、中 間 層 および現 場 の 従 業 員たちが、変 化 の あるかのように感じさせてくれるような行 動 喚 起に反 応を示す 取り組みの成否にどの程度影響を与えるかについては軽視され のである。 がちである。こうした従 業 員たち の 仕 事に影 響を及 ぼすことが ヒューレット・パッカード社(以下「 HP 」)の CEO 、メグ・ホイット 予測される問題に情報提供してもらうため、早い段階から彼らを マンと同 氏 の シ ニ ア エグ ゼクティブ・チ ー ム は 、変 革 へ の 取り S t r a t e g y & F o r e s i g h t Vo l . 4 2 0 1 5 S u m m e r 13 組 み の 中 で 、この 原 則に従って いる。両 者とも 、会 社 の 文 化 的 執着し、承認を与えることと社内の駆け引きばかりに時間を費や な 歴 史や 伝 統を直 接 引き合 いに出 すことで 、H P と従 業 員との していたのである。チェンジ・チームは、劇的で本格的な方向転換 強 力 な 人 間 関 係 の 活 性 化 に 尽 力して き た 。例 え ば 、エグ ゼク を実行に移すのではなく、 リーダーたちに以下の 3 つの具体的な ティブ 専 用 の 駐 車 場を囲って い たフェンスを撤 去 する、 トップ・ 行動を採用するよう要求した。 エグゼクティブをパーティションで 区 切られた 狭 い スペ ー スで 働 か せるといった 、象 徴 的 な 行 動に出ることで 、本 質 的 な 仕 事 • 週単位や月単位ではなく、日単位で重要で明白な意思決定 を行う。 の 質 はヒエ ラ ル キ ー の 位 置と同 様 に 重 要 で あ るとする、独 自 • 現場のリーダー(監督) レベルにある人たちとともに過ごすこ の 理 念「 HP Way 」の 強 化を図ってきたのである(ホイットマン とで、彼らに情報提供を要求し、また、率直な意見交換の場に は 、2 0 1 3 年 4 月付 け の L i n k e d I n のブログ 記 事「 透 明 なコミュ ニケーションの 力 」の 中 で語っている)。この 戦 略 は「 会 社 の 核 となっているアイデンティティを捨 てる時 がきた」と宣 言した、 参加してもらう。 • 中・低ランクに属する人が、実際の顧客と直接接触できるよう にする。 ホイットマンの 前 任 者 の 戦 略とは対 照 的だ。いかなる組 織であ これらの行動の変化は、限定的であるとともに、わかりやすく詳 れ、困 難 な 環 境に直 面したときは 、上 記 のような 行 動 で 感 情 的 細が説明されていたことから、速やかに実行された。リーダーたち な関係を培うことで、大きな効 果を生むことができるようだ。 には、旧来の在り方から脱却する方法を考えるのではなく、 「まる で」組織がこのような方法で物事を進めてきたかのように振る舞う 5. 自分の行動を通して新しい考え方に移行する ことが要求された。これらの行動で事態の進行が加速し、会社は、 予定よりも早く倒産の危機から抜け出すことができたのである。 変化の取り組みの多くが、指示や動機付けといったフォーマル なコミュニケーションを行えば、人は行動を変化すると想定して 6. 意図的に巻き込みを図る いる。機 能 横 断 型 のチームでともに働く従 業 員が協 力し合うよ うになるのは、計画案の文言に示されているからである。マネー リーダーは、取り組 みを開 始した時に変 化 の 必 要 性を訴える ジャーたちは明 瞭 な 意 思 伝 達 者になると考えられるが、そ れは 強力なメッセージを伝えれば、人は何をすべきかを理解してくれ 新しい戦略のメッセージを伝える権限を付託されているからだ。 るだろうと想像してしまうが、それはまったくの見当違いである。 しかし、計画案の文言にも力強い趣意書にも、限られた影響力 強い影響力を持ち、かつ、持続する変化を起こすには、着手した しかない。いかなる変化の取り組みであれ、成功のためにはるか ばかりの 初 期 段 階だけでなく、プランの 主 な 要 素が整った後も に重要とされているのが、人々の日常的な行動が変化の絶対的 含めて、絶えずコミュニケーションを図っておかなければならな 必要性を反映することである。そのためには、取り組みの成功に い。採用されるコミュニケーションの種類が多ければ多いほど、 とって不可欠な、極めて重要な行動をいくつか定義することから 効果は高まるのである。前出の HP の例でフェンスの撤去が非常 始めるとよい。次に、そうした行動を軸にして日常の業務を行う。 に重 要 な 意 味を持った理 由 はここにある。象 徴 的 な 出 来 事 は 、 シニアリーダーには最初から、これらの新しい行動そのものを目 言葉の影響力を強めるのだ。 に見えるよう具 現 化することが求められる。というのも、企 業 の ある世 界 的 な 出 版 社 が 、重 要 な 変 革に着 手しデジタ ル 化 を トップで変化が起こっていることを自分の目で確かめない限り、 進 め 、大 規 模 な 構 造 改 革 に 乗り出 そうとして い た 。 トップリー 従業員は、真の変化が起こっていると確信できないからだ。 ダーらは、会 社 全 体 のさまざまなレベ ルの 人を関 与させること ある世界的な大手メーカーのリーダーたちは倒産を回避する を決 定した。最 初に、タウンホー ルミーティングを招 集して 、大 ための努力を重ねていたが、会社が顧客との接点を失った原因 規 模 のグ ル ー プにニュー スを 伝 達し、全 社 を 挙 げ て 方 向 転 換 は、企業文化の慢性的な問題にあると考えていた。マネージャー を行うことによる影 響について質 問 の 場を設けた。続 いて職 能 たちは十分な説明責任を果たすことなく、何層もの複雑な構造 別 のミーティングを開 催し、参 加 者 は 、例 えば 財 務 や 人 事に与 を有するシステムの中で仕事に従事していた。思うように身動き えることが予想される影響を学ぶことができた。同社ではまた、 が取れない状況の中で、 リスク回避に余念がなく、偏狭な考えに 14 「 PIE 談 話 」 ( PIE=performance innovation execution の S t r a t e g y & F o r e s i g h t Vo l .4 2 0 1 5 S u m m e r 略 語 )と呼ばれる炉 辺 会 談 のような 機 会も設けた。最 終 的に社 ネットワーク分析が必要となる。関係性を綿密に分析し、人々が 内で発 表 会が計 画され、さまざまなチームによる同 社 のデジタ 誰に対して 話をして いるか 確 認 することで 、フォー マ ル な 組 織 ル化を進めるための 取り組 みが紹 介された。このように多 面 的 図を補 足 でき、従 来 の 枠を超えてリードすることが 可 能になる なコミュニケーションを継続して図るという取り組みで、常に生 だろう。 きたメッセージを届 けることが 可 能になり、す べ て の 従 業 員に 変 化 、とまた 、そ の 成 果 から生じる利 害 関 係につ い て 理 解 する 8. 正式な仕組みを整備する 機会を与えられたのである。 行動を改めるよう人を説得するだけでは、変革の実現に十分で 7. 従来の枠を超えてリードする はない。組織構造、報奨制度、運営方針、研修、開発といった正式 な制度、仕組みを再設計することで、彼らをサポートすることが 権威と影響力を有するすべての人が関われば、確実に変化を 必要である。この点で、多くの企業が十分な取り組みを行ってい 組織全体に行き渡らせることができる。権力を有する公式な地位 ない。 に就く人たち、つまり会社がリーダーと認めた人たちだけでなく、 ある法律事務所が、クライアントからは内向きで排他的である そうした人たちに比べて権力は非公式なものであるが、専門知識 とみなされていたアマチュアクラブ的な文 化を、プロフェッショ や ネットワークの 広 さ、信 頼 を 生 む 個 人 の 資 質といったことに ナルなものにしようとしていた。リードパートナーのグループは、 関わりを持つ人たちがいる。 従業員にはもっとフォーマルな指導や人材育成が必要であると 私たちは、このような影 のリーダー のことを「 特 殊 部 隊 」と呼 認識していた。既存のシステム下では、プラクティスグループを んでいる。どのような組 織にも、あちらこちらにこうした人たち 率いたパートナーが、すべての研修を実施してきたのだが、この が存 在しているはずで ある。尊 敬に値 する現 場 監 督 、革 新 的 な システムでは、一 様 の 結 果を出すことができなかった。そこで、 プロジェクト・マネージャー 、勤 続 25 年 の 受付 係なども影のリー 変 革 担 当チームが、開 発 委 員 会を創 設し、新 規 雇 用 者と一 緒に ダーに該当すると言ってよいだろう。大きな変化の実行に成功し 仕 事 をする意 志 の ある経 験 豊 富 な スタッフに参 加 を 呼 びかけ た企業では、早い段階でこうした影のリーダーを特定し、参加者 た。貢献度の高いメンバーで構成された強力なグループから参 や指導者として関わらせる方法を模索する。そのようなリーダー 加の申し出があり、チームとしては満足であった。そして、時間を には、以下のとおり主に 3 つのタイプがある。 かけて強固な人材開発プログラムを作り上げ、同僚たちの参加 • 他者のモチベーションを上げて、自分の仕事に誇りを持たせる を促した。 ことに秀でたプライド・ビルダー。プライド・ビルダーの影響を しかし、好スタートを切ったものの、 この取り組みは行き詰まって 受けた人たちは、気持ちよく組織のために働くことができ、期 しまった。熱心だった人たちが離脱したのである。参加者からの報 待以上の成果を上げたいという願望を抱く。 告を受けることで、 リーダーたちは問題を特定した。つまり、こうし • 頼りになる、信頼される結び目的存在。組織文化の生き字引と た取り組みへの参加をサポートするための、あるいは、参加に報い も言える。例えば、変化のイニシアティブを進める人たちが、 るための正式な仕組みが機能していなかったのである。賞与の計 本当に最後までやり遂げられるかどうかを見極めようとしたと 算では、人材開発に関わったことは考慮されず、シニアパートナー きに、実際に組織内でどんなことが起こっているのかを知りた は開発委員会がしていることに対して、 「素晴らしい仕事」である ければ、彼らに接触を図ればよい。 と口先だけの評価はしていたが、実際には、 メンバーを社内ボラン • 組織が推し進める変化について、どうすれば日々実践してい ティアとみなしていたようであった。このような問題が認識される くことができるかを、まるで直 感 的に理 解しているような 、 と、この 法 律 事 務 所 のリーダーたちは、大 幅 な 方 針 変 更を決 定 変化または文化の大使的存在。模範と意思伝達者の両方の した。最初に行ったのは、報酬委員会が他者の研修に携わった人 役 割を果たし、変 化が重 要とされている理 由につ いて広く たちの貢献度を考慮に入れるように、メカニズムを整えることで 伝える。 あった。 リー ダ ー を 見 極 めるた めに は 、規 模 の 大 き な 組 織 の 場 合 、 S t r a t e g y & F o r e s i g h t Vo l . 4 2 0 1 5 S u m m e r 15 9. 日常の活動へ働きかける クル全 体を通してサポートするための 必 要な情 報を得られなく なっている。 変化に必要とされる正式な仕組みが揃っていても、人々が意識 ある世 界 的 な 消 費 財 を 扱う企 業 は 、広 範 なコミットメントを することなく長年維持してきた行動様式に立ち返るようなことが 掲 げてコスト削 減に取り組 ん で い た 。リーダ ー た ち は 、変 化 の あれば、定着した文化によってそうした要素が弱体化してしまう ためのしっかりとしたひな型を作 成し、広範囲にわたって実 行し 可 能性がある。 た 。測 定 基 準 は 成 功して いることを示して い たが 、会 社 は 従 業 あるトップクラスの 技 術 系 企 業 では 、コスト削 減に邁 進して 員 がこの 進 行 中 のコミットメントの 性 質を理 解していると確 信 い た 1 0 年 間 を 経 て 、これまでよりもさらに顧 客 中 心 の 考 え方 できなければならな いと考えた。そこで、一 連 の 意 識 調 査に着 を植え付けようとしていた。調査診断の結果、同社製品の品質に 手し、変化を必要とする状況、および、一人一人に要求される新 対して顧 客に著しく不 満があることがわかった。つまり、重 大な たな行動について 説明した。 欠 陥を持ったまま製 品が頻 繁に市 場に出 回っていたのである。 1 回 目 の 調 査 で は 、メッセ ー ジ を 理 解して い る の は 回 答 者 製 品 開 発 、プロセス品 質 管 理 、現 場での 横 断 的なチーム編 成に のわずか60% であるという結果が出た。続いて同社はリーダーに おいて、何が欠落しているかを特定するための測定基準とともに、 『 変革の伝達 』というさらに大きな役割を果たすよう呼びかけた。 一連の新しい手順が導入された。 スタッフの圧倒的多数が、心構えができていると示せられるまで、 ところが、最も強力なソリューションの 1 つとなったのは、純粋 これらの調査およびフォーカスグループインタビューを実施して に文 化 的で非 公 式なもの 、すなわち、現 場 の 意 思 決 定を支 配し 結果の測定を続けた。 て い た 非 公 式 な モットー を 変 更 することで あった 。コスト削 減 時 代 の「 何 が 何 でも 出 荷しよう」というスローガンを、 「駄目な 以上、指針となる10 の原則は、持続的な変革による変化の遂行 ら出 荷 するな 」という新しい 格 言に変 更した の で ある。プ ライ に全力で取り組むリーダーたちに、強力なひな型を提供するもの ド・ビ ルダ ー が 参 加して 、欠 陥 の ある製 品 が 外 に 出 な い ように である。与えられた任務は、困難で厳しいものだろう。 しかし、重要 するために、す べ て の 従 業 員にそ のメッセージを浸 透 させ た 。 な変化のイニシアティブに対する必要性は、緊急性を増すばかり たとえ、製 品を分 解して調 べなければならない 、または、生 産 の である。うまくやり遂げることは、私たち全員に課せられた義務な スピードを落とさなければならな いといった事 態につながると のである。 しても 伝 えなくては ならな かった 。す べ て のレベ ル で 、従 業 員 に品 質に責 任を持 つよう促し、改 善 が 実 現 すれば 、称 賛しそ の 努 力に報 い た 結 果 で 、チェンジ・リーダ ー た ち は 製 品 を自 分 の “10 Principles of Leading Change Management”, by Deanne Aguirre and Micah Alpern, strategy+business, Issue 75 Summer 2014 ものとして扱うという倫 理 観を構 築し、 「 言われたことをやって いるだけ」という古い 倫 理 観を捨てられたのである。 10. 評価し順応する S t r a t e g y & とカッツェンバック・センター の 調 査によって、変 革 の 取り組 みに従 事 する組 織 の 多くが 、次に進 む 前に、どの 程 度 成 功したか 測 定して い な いことが 明らかになった 。リーダ ー たちは、勝 利を宣 言したいという気 持 ちが あまりにも強 いため に、何が上 手く機 能し、何がしてい な いかを見 極め、そ れに応じ て 取るべ き 次 の ステップ の 調 整 を図るため の 時 間 を 設 けて い なかった の で ある。徹 底した 取り組 みを行 わな い ため 、結 果 は 一 貫 性を欠き、また組 織 は変 化 のプロセスを、そ のライフサイ 16 S t r a t e g y & F o r e s i g h t Vo l .4 2 0 1 5 S u m m e r
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