地図アプリを用いた小大連携授業 笹谷康之・立命館大学 連絡先([email protected]) 1.はじめに 今日、空間情報工学分野では、SoLoMo(Social、Local、 Mobile)の技術とサービスが進歩を遂げ、これに対応する タルポートフォリオ(作品集)が制作できることを到達 目標とする。そして、これらのアプリケーションソフト のマニュアルを読んで独習できる水準を目指す」である。 教育ツールと授業の組立が必要とされている。そこで、 学生が所有しているスマートフォンやフィーチャーフォ ンから、位置情報が登録できて、それを示す地図を PC 2.教育改善の内容と方法 キャンパス最寄りの草津市立玉川小学生 3 年生 110 名 等で共有利用できる地図アプリが必要である。また、こ と、大学生とが一緒にまち歩きをして、公共施設、商店 れを活用する授業では、小学生でもわかるデジタル地図 などを取材して、地域の魅力と課題を発見する授業を、 の利用が望まれる。 2012 年 5 月 31 日に行った。学生 3~5 名が加わる 15 班 そこで、従来の GIS を用いた地図の編集や、Illustrator に分かれて、講義と演習の午前中の授業時間をすべて使 を用いた地図の作成などの授業内容に留まらず、275(つ い、前半は取材、後半は学生が予め GIS を編集して出力 なご)マップという Web 地図アプリを開発して、授業で した A0 判白地図(周辺の白地を除く地図のみは A1 判) の利用を試みた。275 マップは、震災支援などで非営利 の上に、小学生が付箋やサムネイル出力した写真を貼っ 団体に使われているオープンソースの Ushahidi を、カ てとりまとめ、これを学生が支援した。 スタイマイズして開発した。iOS や Android のスマート 受講学生は、1回生時に Illustrator を用いて地図を作 フォンやタブレットと、一部のフィーチャーフォンから、 成する演習を受講済みである。授業全体の流れを、表1 つぶやきと写真を地図上に投稿して、同時に Twitter に に示す。講義では、275 マップから転送される Twitter も転送できる地図アプリとした。 や、班内のワークを進めるための Facebook グループの 授業は、立命館大学理工学部環境システム工学科の 2 利用等を教えた。小大連携授業の前週に 275 マップの操 回生配当専門科目の、 「空間情報工学」2 単位(講義) 、 「空 作方法を教え、事前調査結果を登録させた。表 1 の他に 間情報工学演習」2 単位(演習)である。講義と演習は、 小大連携授業前の演習では、写真の撮影・補正、Google 前期の木曜日の午前中に、連続して開講している。1 学 マップによるマイプレイスの編集を教えている。 年約 80 名の在籍学生の内、例年、講義は 8 割、演習は 6 割が受講登録している。 小大連携授業当日の獲得目標は、児童の安全・時間管 理、児童の取材支援、大学生の観点からの取材の 3 点で JABEE の技術者教育プログラムの認定を受けている ある。当日には、大学生の観点からの取材に基づいて、 環境システム工学科の教育目標は、6 つある。このうち 4 班員の 1 名に、取材場所の 2 カ所で 275 マップに登録さ つは理工学部共通であり、1つは文理融合型であり、残 せた。土曜日の振り替え授業となった 6 月 2 日に、取材 る 1 つが学科固有の「環境問題を解析し、環境の改善・ 結果を基に Illustrator を用いる地域資源地図の作成法を、 管理を行い、新しい環境を創造する能力」である。当該 学生に指示した。 科目は、この学科固有の教育目標のもとに、講義の到達 表1.空間情報工学(講義)の内容 目標を、下記の 3 点としている。 回 日 講義における小大連携関連の流れ (1) 写真・地図・設計図・マルチメディア・Web の基礎 1 4 月 11 日 ガイダンス 的な原理を理解する。 2 4 月 18 日 Twitter、Facebook のアカウント取得 (2) Google Apps を用いたクラウドコンピューティング 3 4 月 24 日 地域資源の捉え方 の利用スキルを習得する。 4 5 月 10 日 写真撮影 (3) 出身地やキャンパス周辺を事例に空間情報を収集・ 5 5 月 17 日 フィールドワーク手法と GIS 操作 説明して、適切な地域コンテンツを制作する。 6 5 月 24 日 275 マップの操作と地図利用 演習の到達目標は、 「フォトレタッチ、映像編集、3D-CAD、 7 5 月 31 日 小大連携のフィールドワークと A1 紙 GIS の基礎的なスキルが習得できて、出身地を Web サイ トで適切に紹介できて、結果的に就職にも活かせるデジ 公益社団法人 私立大学情報教育協会 平成24年度 ICT利用による教育改善研究発表会 地図への小学生のとりまとめ支援 8 6月2日 A3 紙地図へのとりまとめ 学生への負荷を尐なくしつつ効果的に反応をみるため 学生は、小学生が作成した A0 紙地図、275 マップに投 に、5 月 24 日の 275 マップの操作後や、授業の最初の小 稿したレポート、その他の取材メモを取りまとめて、 テストで、Google ドキュメントのフォームを使った授業 Illustrator を使って A3 判の地域資源地図を作成した。 アンケートを取って、学生の意見を収集した。 受講放棄者を除く講義の受講者 59 名中、2 名を除いて、 期限内に地域資源地図を提出した。また 45 名が、事前に 3.教育実践による改善効果とその確認 275 マップは、PC 版は、8 割以上の学生が容易に使い 指示した水準を超えて、小学生に使ってもらえるわかり やすい地域資源地図を作成した。残る 14 名は、何回か指 こなせていた。5 週前に取得した Twitter アカウントを忘 導を繰り返す中で、合格水準以上の成果品に改善できた。 れて、Twitter 連携がうまくいかない学生が 1 割ほどいた。 これらの 59 点の地図は小学校の授業で使ってもらった。 モバイル版は、5 月 24 日の時点では Android で写真投稿 に不具合があり、フィーチャーフォンでは、3 割程度の 4.結果と考察 比較的新しい機種は対応していたが、古い機種は投稿が 学生は、275 マップの使い勝手に改善点が多いとはい できなかった。 なお、 5名もの学生が、 275マップとGoogle え、モバイルで投稿できることを評価していた。従来の、 ストリートビューとを連動させて表示するという、高度 既存のスタンドアロン GIS を用いて編集・出力した紙地 な機能連携の改善を提案した。地図がシームレスにつな 図、Illustrator で編集した地域資源地図に加えて、モバ がって当然という認識を学生が抱いた点は、高く評価で イルからの 275 マップを使うことができたことは、今日 きる。 的に開発段階にある技術に触れるという意味で、時宜に 写真が事後投稿になった例はあるが、すべての班で、 小大連携授業での 2 地点からの投稿ができた。投稿例を、 かなった教育効果があったと判断している。 ただし、開発業者のミスで、6 月 14 日に、すべての登 図1の地図やレポートに示す。学生の Facebook グルー 録レポートが消去されてしまったので、投稿内容を含め プでのふりかえりでは、小学生との交流の記述が大半を た分析や、275 マップへの追加レポートの作成ができな 占め、地図アプリについては皆無、他の地図や写真とい くなった点が、残念である。 ったツールについてはほとんど記述がなかった。 従来に加え、275 マップだけでなく、Facebook グルー プを使った班作業、レポートの文言を具体的に表現する 指導を徹底したことが加わったために、地域資源地図等 の成果品の質が高くなったと考えている。ただし、小大 連携授業は、小学生の方が詳しい地域をともに歩き、小 学生から率直な意見を受けることから、新たな ICT 活用 の面以上に、小学生が大学生の意識改善に直接的に影響 している部分が大きい。 携帯からの登録レポートを小学生に見せた班は、ほと んどなかった。タブレットぐらいの大きさがないと、現 場で地図を共有しづらいのであろう。 従来の GIS 編集、2 次元 CG の Illustrator による地図 作成、Google マップ等の地図サービス利用と、モバイル 対応の Web 地図アプリの、4 者の連携利用は、ようやく 緒に就いた段階であり、まだまだ課題が多い。何より、 275 マップを安定・改善させたい。 5.謝辞 平成 23 年度滋賀県新しい公共公募提案型活動基盤整 備事業の委託で、NPO 等の新しい公共のサービスに資す るために開発した 275 マップを、実証実験を兼ねて大学 の授業で使った。この実験に関わっていただいた、ドッ トラボの藤澤栄一さん、はたらく企画の徳永操さんに、 感謝いたします。 図1 275 マップ 公益社団法人 私立大学情報教育協会 平成24年度 ICT利用による教育改善研究発表会
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