鉄道における情報共有基盤の構築 - GISA 地理情報システム学会

鉄道における情報共有基盤の構築
吉川 悟,岩橋 寛臣,大塚 雅紀,中山 忠雅
Development of a GIS infrastructure for railway information sharing.
Satoru YOSHIKAWA,Hiroomi IWAHASHI,Masatoshi Ootsuka and Tadamasa NAKAYAMA
Abstract: We developed “a GIS infrastructure for railway information sharing
system" for West Japan Railway Co. in 2007. It was designed for many sections to
share much information including wide-ranging map and facilities. This paper
introduces the knowledge of data construction, the system configuration, and utility
of this system for railway management.
Keywords:
情報共有基盤(information sharing infrastructure),
ソフトウェア連携(collaboration software),鉄道(railway),
位置座標(coodinate position)
1.はじめに
電子化したデータを活用し平成 19 年度に「キロポス
JR 西日本では,平成 17 年~18 年にかけて西日本管
ト」という鉄道特有の位置情報をキーとした電子線路平面
内の新幹線・在来線約 5,000km 全域の線路平面図・航
図システム(以下,本システム)を開発することにより各部
空写真および現地ビデオ映像といった基礎データを従
門が共有できる情報基盤の構築が出来た.
来よりも高精度な電子データとして整備した.
2.データ概要
2.1.データの概要
データ整備は,航空写真および線路平面図の更新業
務にあわせて実施した.線路平面図は在来線 1/2,500
および新幹線 1/1,000 で整備することが義務付けられて
いるため,情報共有基盤として利用するためのキロポスト
図-1 構築した基礎データ
(鉄道の位置情報の基準)が航空写真で判読できる
1/5,000 で撮影を行うと共に,レベル 500 精度の図化を
吉川:〒532-0011 大阪市淀川区西中島 5-4-20
ジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社
TEL: 06-6303-1454,FAX: 06-6303-6991
e-mail: [email protected]
実施した.
レベル 500 の図化データ整備は,特に鉄道位置情報
の骨格となる線路中心線とキロ程を正確にデータ化する
必要があるため,3 次元図化で取得した線路中心線に対
しキロポストの位置を付与,さらに距離更正を加味して各
キロ程の位置を特定しデータ化した.
2.2.線形データの精度検証
整備した敷地内データの内,全ての基準となる線路中
心線データとキロポストについて検証を行った.検証は
約 18kmの区間をサンプル線区として抽出した.検証方
法は現地にて VRS 測量した線形データと図化で取得し
た線形データについて 20m ピッチの点についての残差
を検証した.その結果,最大でも 50cm 以内,標準偏差
でも 20cm 以内と高精度であることを確認した.
図-2 キロ程の整備イメージ
また,各部門が管理する鉄道設備の台帳データはキロ
程をキーとした基本データとし整備した.今回整備した
データは以下の通りである.
・基本データ
線路中心線
表-1 線路中心線の精度検証
軌道中心線上 20m位置
図化と現地測量
水平位置
0.180
標準偏差(0.25)
0.473
最大値(0.50)
サンプル数
902
3.システム概要
本システムは,データをサーバ上で一元管理し,JR
キロ程(キロポスト,距離更正点)
西日本グループ内のネットワーク上端末からアクセスす
線路諸元(曲線,勾配)
る GIS(地理情報システム)として整備した.クライアント
鉄道設備(トンネル,橋りょう,踏切,信号機)
端末は当初 JR 西日本管内の約 200 箇所へ配置し,現
在ではグループ会社を含む約 400 端末で利用され,月
・オルソ航空写真
幅約 600m,地上解像度 10cm/ピクセル
間 2,000 アクセスを越え運用中である.
システムセンター
JR西日本
電子線路平面図
システム
(在来線)アナログ撮影
F/W
(新幹線)DMC 撮影
WISE-NET
G-NET
・線路平面図
F/W
線路敷地内について3次元図化
G会社
線路敷地外について2次元で整備
社内端末
(在来線)幅 200m,1/2,500
(新幹線)幅 300m,1/1,000
・電子地図(1/2500)
JR 西日本管内全域
山間部でも等高線の情報が豊富
住所情報が整備されている
・ビデオデータ
約 5000km×2(上下)の運転席映像
GPS による位置測位
グループ
会社端末
図-3 システムのネットワーク構成
代表的な機能を以下に示す.
表-2 システムの機能概要
1)地図閲覧機能(データ読み込み、地図操作)
2)設備位置の検索機能
3)各種図形範囲の計測機能
4)利用者によるレイヤ追加と作図・共有機能
5)図面の印刷・台帳データの出力機能
6)データ更新・セキュリティ管理などの管理機能
事を実施した場合,工事前の状況が確認でき過去のデ
ータを時系列で閲覧できるようになった.
図-4 システムの画面イメージ
4.システム特徴
一般的な GIS 機能(閲覧,検索,計測,作図,出力)に
図-6 背景画像の履歴管理イメージ
加え,様々な部門の課題に柔軟に対応できるようシステ
ムを構築した.
4.2.ストレスのない操作性
航空写真や列車先頭ビデオといったデータは台帳デ
4.1.将来的な拡張性
ータと比較すると容量が大きく動作速度に大きな影響を
データ・ハードウェア・システムの各場面で拡張性を意
与える.増設する端末については今後グループ会社で
識した設計とした.今回整備した基礎データだけではな
の利用もあるため,ネットワークの通信速度が遅い場合
く,今後整備していくと想定される保守管理図面・航空写
にも利用できる必要があった.また,鉄道図面に特化し
真などの履歴画像・現地映像・写真など様々なデータを
た表現に合う操作方法が想定されるため,一定の処理速
登録できるインターフェースや別のシステムデータと連
度で動作し,快適な操作性を実現するようハードウェア・
携できる自由度の高いデータ設計を実施した.
ソフトウェアの面で工夫した.
ハードウェアについては,端末数が導入時以上に追
電子線路平面図システム
Aシステム
連携
基礎データ
現地映像
現地写真
報告書
になる.これらの負荷を分散させる処置としてサーバ機
器の構成はその役割によって6台に分割し,独立で処理
連
追加
事故台帳
加されることが想定され,大量の処理をサーバが行うこと
追加
携
Bシステム
を行い,サーバ間で相互連携させることでアプリケーショ
ン側とハードウェア間で効率的に大量のデータが処理で
保守管理図
規制管理図
用地管理図
きる環境を構築した.
表-3 システムの機能概要
図-5 システムのデータ連携イメージ
サーバ名称
アプリケーションサーバ
データベースサーバ
ストリーミングサーバ
キャッシュサーバ
バックアップサーバ
また各現場で利用している位置情報(キロ程や緯度経
度)をもつ設備情報等を CSV データとすることで利用者
が自由に地図へ取り込む機能を構築することにより,各
台数
2台
1台
1台
1台
1台
役割
機能管理
台帳管理
映像配信
背景画像配信
データ保護
現場で管理するデータ等を地図上で確認できるように
なった.
更に、背景画像データの履歴情報を管理する仕組み
本システムの要求事項としては主に以下の項目があっ
た.
を構築し,過去の航空写真や線路平面図を履歴データ
・ネットワークが切断されるような災害時でも利用できる.
として登録した.一例として新線や新駅など大規模工
・鉄道図面独自の表現に合わせた表示が行える.
・キロ程と座標と住所がリアルタイムに表示できる.
・大縮尺の図面をシームレスにストレスなく扱える.
4.4.柔軟なシステム連携
本システムは,全社で共有する情報基盤としての利用
・増加するクライアントのライセンスが不要.
を想定している.それゆえ各部門で管理される個別シス
・自由なカスタマイズが可能である.
テムと「キロ程」をキーとして連携できるインターフェース
を準備した.一例として,JR 西日本で整備している雨量
これらの要求は市販の GIS エンジンでは対応出来な
計や地震計は、指令や駅など一部の箇所で確認できた
かったため,地図を表示するエンジン部分を新規開発し
情報を,本システムと連携することにより,指令・本社・現
対応した.
場など複数部門でリアルタイムに共有できるようになった.
その他に土木や建築の設備管理システムとの連携を現
独自エンジンを開発することで,一度読み込んだ画像
在進めているが,連携用のインターフェースを実装した
データは端末にキャッシュデータとして保存する仕組み
ことにより各部署で同じように図面を整備する必要がなく,
とし,ネットワークの制限を極力受けずに通常時だけで
個別システムを構築する費用も大幅に削減する効果が
なく異常時でも大量データを鉄道独自の表現で動作す
あったと考えている.
る軽快な操作性を実現した.
4.3.高いメンテナンス性
システム運用の課題として端末数の増加に伴う保守作
業時間の増加がある.これを解決するためクライアント端
末が起動時にサーバへ問合せを行い「システムのバー
ジョンアップ」・「基礎データの更新」といった状況を判断
の上,必要な場合は自動受信する仕組みを用意した.ま
た,JR 西日本グループ会社によるハードウェア監視を実
施することでウィルス対策やウィンドウズ環境を自動更新
図-8 土工システムとの連携画面
し最適なハードウェア環境を 24 時間 365 日の監視体制
でサポート,定期的なバックアップを実施することで万が
5.おわりに
一のデータクラッシュにも対応できる体制を実現した.こ
今回,鉄道における情報共有基盤として電子線路平面
の他,定期的な情報配信サイトとしてポータルサイトを用
図システムを構築し,基礎データの全社共有化が計れた.
意することで高いメンテナンス性を実現した.
本システムの導入効果として,事故などの異常発生時
に現場状況を判断する際の参考情報として,航空写真
や平面図,周辺の環境などのデータを各部門で共有す
ることができるため,初動の情報を迅速に入手することが
可能となった.
課題として,データ更新を次年度以降も継続的に行うこ
とで情報が陳腐化しない運用管理を行う必要がある.ま
た,今後は各設備管理システムとの連携や現場作業員・
列車車輌といった移動体の位置情報を取り組むなど本シ
ステムで共有できる情報を広げていくことでグループ会
社を含めた全社的な情報共有基盤としての活用を進め
て行きたい.
図-7 情報配信ポータルサイト