民法の基本⑥

ひめぎん情報 ■ 2015.秋
民法の基本⑥
~条件・期限・期間~
愛媛銀行 金融コンサルティング部
弁護士 岡本 真也
1.条件・期限の経済的機能
といいます(135条)
。
契約は、
双方の意思表示が合致した時点(合
なお、条件は合意により、その効力の発生・
意した時点)で成立し、その効果が発生する
消滅を条件成就より前に遡らせることができ
のが原則です。しかし、合意と同時に効果が
ます(127条3項)
。また、期限のうち始期は、
発生すると不都合な場合もあります。たとえ
期限まで履行できないだけで効力は発生して
ば、医師の親が医学部生の子のために診療所
いるのですが、合意により期限まで効力を発
を建ててあげると約束して、医師国家試験に
生させないようにすることができます。
合格しない間に建てなければならないのは不
上記1の例のうち、医学部生の例では停止
都合です。また、家を買うのに、代金全額を
条件、家売買の例では確定期限の始期を付け
すぐに支払わなければならないというのも非
ることになります。
現実的です。このような場合に、法律行為に
条件や期限を付けると、効果の発生を遅らせ
3.条件に関する各種規制
ることができます。
⑴ 条件に親しまない行為
婚姻や離婚等の身分行為に条件を付ける
2.条件と期限の違い
ことはできません(例えば、医師になれば
条件とは、法律行為の効力を、発生するか
結婚するという約束をしていても、数年後
否か不確実な事実にかからせる特約のことで
に実際に医師になった時にそれに拘束され
す。このうち、成就によって効力が発生する
るべきではありません)
。また、取消・追認・
条件を停止条件、効力は最初から発生するが、
解除等の単独行為にも原則として条件を付
成就によって効力が消滅する条件を解除条件
けることはできません。相手方の地位が不
といいます(民法(以下省略)127条1項2項)
。
安定になるからです。
期限とは、法律行為の効力を、将来発生す
⑵ 既成条件
ることが確実な事実にかからせる特約のこと
既成条件とは、客観的にすでに確定して
です。このうち、到来時期が決まっているも
いる事実を条件とすることです。法律行為
の(例:平成27年9月1日)を確定期限、到
の当時、条件が成就していたのであれば、
来することは確実だが、いつか確定していな
停止条件付の場合は無条件に、解除条件付
いもの(例:今度雨が降った時)を不確定期
の場合は法律行為自体無効になります(131
限といいます。また、到来すれば履行できる
条1項)
。また、法律行為の当時、条件が
ようになる期限を始期、消滅する期限を終期
不成就で確定していたのであれば、停止条
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件付の場合は法律行為自体無効に、解除条
件付の場合は無条件になります(同2項)
。
⑶ 認められない条件
りません。
⑶ 期限の利益の喪失
以下の場合、期限の利益を有する債務者
a.不法条件…例えば、人を殺すことを条
はその利益を主張することができなくなり
件とする契約。法律行為自体無効とな
ます。これを期限の利益の喪失といいます
ります(132条)
。
b.不能条件…成就不能な事実を条件とす
る場合。不能な停止条件付法律行為
は無効であり、不能な解除条件は無条
件となります(133条)
。
c.純粋随意条件…条件の成就が単に債
務者の意思のみにかかる場合。たとえ
ば、
「私の気が向いたら100万円をあげ
(137条)
。
・債務者が破産手続開始の決定を受けた
とき。
・債務者が担保を滅失、損傷、または減少
させたとき。
・債務者が担保を供する義務を負う場合
に、それをしないとき。
⑷ 期限の利益喪失約款
る」など。法律行為自体が無効となり
銀行取引約定書など多くのビジネス契約
ます(134条)
。
書では、一定の事実があれば期限の利益を
⑷ 条件成就の妨害
喪失する旨の特約がなされています。これ
条件が成就することによって不利益を受
を期限の利益喪失約款といいます。137条の
ける当事者が故意にその条件成就を妨げた
特約ですが、契約自由の原則を根拠にその
ときは、相手方はその条件が成就したとみ
有効性が認められています。
なすことができます(130条)
。
5.期間
4.期限の利益
条件・期限とは性質を異にしますが、民法
⑴ 期限の利益とは
では期間の数え方が規定されています。ここ
たとえば、売買契約では目的物の引渡し
では原則として初日不算入で算定されること
と代金支払は同時履行であることが原則で
(140条本文)
を覚えておきましょう。たとえば、
すが、AがBから家を買うに際し、BはA
9月1日の1週間後といえば、9月8日にな
に対して家を平成27年9月1日に引き渡す
ります。
が、AはBに対してその際に1割の頭金だ
け支払っておけば残りは平成28年3月31日
6.民法改正要綱仮案
の支払でよいという場合、Aは9月1日か
法務省「民法(債権関係)の改正に関する
ら翌年3月31日まで期限の利益を有してる
要綱仮案」における条件・期限に関する改正
ことになります(136条1項)
。
案のうち、大事なものを1つ紹介します。
⑵ 期限の利益の放棄
一方で、Aは期限前に残代金を支払うこ
条件が成就することによって利益を受け
とができます。これを期限の利益の放棄と
る当事者が不正にその条件を実現させたと
いいます。もっとも、期限の利益の放棄に
きは、相手方は、その条件が成就しなかっ
よって相手方の利益を害することはできな
たものとみなすことができます(最高裁判
いとされており(136条2項)
、利息付金銭
例の明文化です)
。
消費貸借契約で期限前弁済をする場合は、
期限までの利息を付して弁済しなければな
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・不正な条件成就