太陽近傍の若い星団における超低質量天体の統計

太陽近傍の若い星団における超低質量天体の統計(SONYC)IV:
NGC 1333 における浮遊惑星の直接撮像
SCHOLZ, Alexander (ダブリン高等研究所) BONAVITA, Mariangela (ダブリン高等研究所)
MUZIC, Koraljka (トロント大学)
GEERS, Vincent C.
(チューリッヒ工科大学)
JAYAWARDHANA, Ray (トロント大学/国立天文台) 田村元秀
(国立天文台)
星の初期質量関数(IMF: initial mass function)は、天体
物理学における最も重要な課題のひとつである。とりわけ、
IMF の最小質量側は、過去 10 年間に研究が進んだしかし、
その統計的議論のためには、数多くの領域において、褐色
矮星よりも軽い星まで含む IMF の観測を行うことが必要で
ある [1]。
SONYC(Substellar Objects in Nearby Young Clusters)とは
「近傍の星形成領域において、
わずか木星質量の数倍の質量
までの超低質量天体の頻度と性質を調べる」ためのサーベ
イプログラムであり、これまでに 3 編の論文を輩出した。
本報告では、ペルセウス座にある年齢約百万年の星形成
領域 NGC 1333 における、新たな結果を SONYC 論文シリー
ズの一環として報告する [2]。
新しい観測では、すばる望遠鏡の FMOS を用いて、こ
れまでのすばる望遠鏡等での深い撮像観測から選び出した
100 個以上の低質量天体候補の分光観測を行った。その結
果、スペクトルタイプが M6 以降の褐色矮星を新たに 10 個
図 1.恒星と褐色矮星の数の比の,NGC 1333 と他の領域における値との比
較.四角は,恒星を 0.08 から 1.0 M,褐色矮星を 0.03 から 0.08 M とカウントして計算したもの.丸は,恒星を 0.08 から 10 M,褐
色矮星を 0.02 から 0.08 M とカウントしたもの.
発見した。そのうち、3 個が M9 以降のスペクトルタイプで
ある。なかでも、一個は L 型星で、その質量は 6 木星質量
程度の浮遊惑星と考えられる。
このように、サーベイの深さ、広さ、フォローアップの
多さの観点から NGC 1333 領域は超低質量星の統計を議論
する上で最適な領域のひとつとなった。この領域には、ス
ペクトルタイプが M5 以降、有効温度 3200 K 以下の天体が
合計で 51 個存在する。そのうち 30 個から 40 個が恒星質量
未満である。従って、NGC 1333 領域では、褐色矮星の個数
が恒星の半分程度も存在する。これは他の星形成領域にお
ける両者の比よりもはるかに多い(図 1)
。領域における褐
色矮星と恒星の個数の違いは、褐色矮星形成における環境
の効果があることが示唆される。いっぽう、NGC 1333 領域
における褐色矮星の空間分布は、中心の半径 1 pc 以内に集
中しており(図 2)
、これは恒星の分布と類似している。赤
外線超過から推定される褐色矮星の星周円盤保有率は66 %
図 2.NGC 1333 領域における YSO の分布.クロスはスピッツアー望遠
鏡で超過のある 137 天体.四角は確認された褐色矮星.分光の結
果褐色矮星でないと確認できたものは点で示してある.
未満であった。
参考文献
[1] Tamura, M., et al.: 1998, Science, 282, 1095.
[2] Scholz, A., et al.: 2012, ApJ, 744, 6.
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