新時代の精神科病院

新時代の精神科病院
~治療効果のある病院建築を目指して~
弊社は、精神科病院の設計を20年間ほどの中で複数回経験させて頂きまし
た。その中で、外科・内科等とは少し異なる幅広い機能付けや、それだからこ
そ多岐にわたる建築の目的を感じることが多くありました。
私たち建築設計者は、治療の場としての機能性を高めると同時に、患者様や
医療従事者の皆様が快適に時を過ごせる建築設計を望んでいます。前者は、さ
まざまな基準や、それらを先取りした工夫が求められますが、精神科では後者
の建築空間そのものが治療の場としての働きを持っていると感じるのです。
このような考えを、宇治おうばく病院の先生に話したところ、即座に肯定的
な意見を頂いたのです。病床面積を8平米としたことで療養環境が大きく改善
されたと伺うことが多いのですが、本来、デイルームやトイレなど患者様の日
常生活に不可欠な部分に、また、患者さんが最終的に安心しくつろげる場所で
ある病室について建築設計者としてもっと、注意深く検討することが求められ
ていると考えます。
このような考えのもと、弊社は「治療効果のある病院建築」という新たなテ
ーマを持ち、これからも精神科病院・障害者の施設づくりに取り組みたいと考
えています。
ここでは、平成20年に竣工したオレンジホスピタルを例に、治療効果のあ
る精神科病院建築設計について現在の弊社の考え方についてまとめました。
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医療法人美喜和会
オレンジ・ホスピタル
■新時代の精神科病院を目指して■
入院患者様が明るく、のびのびと入院生活が過ごされることをイメージ
できるバリ島風の開放的な建物デザインとしました。
ほとんど老人病院化していた既存の病院を建替えるに当たって、採算性や医療法
・医療制度の改正に対応する病院を目指し、急性期特化とストレスケア病棟を創
設することが決められました。
㈱ゆう建築設計
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1.オレンジ・ホスピタルの概要
病院らしくない安らぎを感じられる外観デザイン・患者様の暮らしの質の維持できる病棟デザイン
医療法人美喜和会 オレンジ・ホス
ピタルは、昭和40年開業の老朽化
した既存精神科病院を平成20年に
新しい敷地に移転新築して誕生しま
した。
患者様の合理的な治療と高い生活の
質の維持を目指し、各病棟は中庭を
囲む2病棟がスタッフステーション
を介して繫がる構成です。この交差
部分には重要な機能部分があります。
敷地は、高槻市の山手住宅街の北側
の緑豊かな文教地区で、近くには、
平安女子大学や関西大学があり、自
然環境と近代的施設の融合による景
観が創出されています。
この病棟計画は、閉鎖環境の中でい
かに開放性を獲得するかに焦点が当
てられ、平面構成とともに1床当た
り8㎡の余裕ある病棟計画です。
また、精神一般病棟に加え、新たに
急性期病棟とストレスケア病棟が創
設され、認知症治療病棟ととともに、
多様な患者様に対応可能な病棟構成
とされています。
本病院は、新しい開かれた精神科病
院を目指して計画され、機能分化徹
底し、治療の場・暮らしの場の改善
という観点から設計しています。
病院構成
建築概要
◆運営主体
:医療法人美喜和会
◆病床数 : 240床
◆所在地
:大阪府高槻市大字奈佐原
◆1階
◆規模構造
:鉄骨構造地上4階建て
:外来・通所リハビリ・居宅介護・厨房
管理部門
◆敷地面積
:15,865.32㎡
◆2階
:認知症治療病棟・精神急性期病棟
(一部ストレスケア病棟含む)
◆延床面積
:3,713.84㎡
◆3階
:精神一般病棟
◆建築面積
:9,186.56㎡
◆4階
:洗濯室・屋外庭園・展望台
◆移転新築
:平成20年11月
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2.オレンジ・ホスピタルの全体構成
建築コンセプト
開かれた精神科病院として、
患者が広がりのある空間で
治療を受けられる計画としま
した。見晴らしのよい病室の
出窓とともに、安全に外気に
接することのできるバルコ
ニーがある中庭を取り囲む
平面構成としていて、治療の
場と暮らしの場を両立するこ
とを目指しました。
●1階 外来・通所・管理部門
木質系でデザインされたエント
ランスから左右に外来部分と通
所部分、さらにエレベータホールの
奥には給食、管理部門の機能、
救急の搬入機能が配されてい
ます。また、外来の手前には、
事務室・医事課、その奥には、
訪問看護部分があります。
玄関ホールの奥には、厨房と救
急搬入口があり、エレベータにより、
病棟搬送を容易にしています。
●2階・3階 病棟部門四角い
病棟はコーナー部分を中心に
大きく3つの部分を意識し、
夫々をユニット的扱いの想定し
ています。また、病室を外回り
に、内側には中庭を囲むオープ
ンな共用部を設け、広がりある
病棟空間としています。2病棟
の交錯部分に保護室群を設け
ています。
●4階 洗濯室・庭園と展望台
集中型の洗濯室と患者が安全
に出られる見晴らしのよい展望
台と屋上庭園を設けています。
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4.病棟の構成と特徴
認知症 U
認知症 U
保護室 U
■安全で開放的な病棟を目指して
病棟は中庭を囲む病棟が2連となるワンフロアー2病棟形式としている。
繋ぎの部分にスタッフステーションがあり、この2のステーションは容易
に連携がとれる構成です。またこの部分に保護室や観察室が設けられ
ています。
急性期 U
外気にふれられるバルコニーですが、利用頻度が課題です。
認知症 U
★U=ユニット
転落防止の高いガラス手すり。
ストレスケア U
急性期 U
蛸壺的ユニットケアは人員・採算的に難しいと判断され、コーナーごと
にデイルームを含み準ユニット型病棟としました。
病棟WCは分散型ですが、廊下から直接入る点は今後の課題です。
スタッフステーションはオープンカウンターを採用しています。
自由に出入りできる中庭に
面するデッキ。
中庭側のデイルーム1。
中庭に面した共用部分にはデイルームや生活機能回復訓練室が設け
られ、広がりのある病棟構成となっています。また、安全にでることので
きる中庭側にはバルコニーが設置されています。
また、中庭は1階より2階、2階より3階と面積を増し、1階にまで十分に
光が差し込む開放的なデザインとしています。
中庭を見下ろす。
中庭側のデイルーム2。
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■閉鎖病棟の開放性
◆スタッフステーションのカウンター
◆眺望のよい病室
眺望のよい病室は建物外周部分にあり、出窓が設けられています。
4床室では窓側と内部側のベッドは明かり障子風の衝立家具で仕切
られ、プライバシーと機能性を両立しています。次のページにも説明
があります。
低いカウンターは、病棟内部の開放感と患者とスタッフの対
等な関係を醸成しています。セキュリティとしてカウンター及
びデスクの幅を確保し、容易に乗り越えられない構造として
います。また、スタッフステーション内部は隣接する病棟の
それと連続していて連携が取りやすい構成としています。
◆中庭に面したデイルーム
中庭を取り囲む共用部分のコーナーには明るいデイルームがあり、四角
の病棟は3のコーナーを中心とするユニット的扱いとなっています。中庭
を取り囲む明るく自由なオープンスペースを構成しています。
2のスタッフステーション
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■4床室のアメニティ
◎個室風多床室の検討(ゆう設計で他のプロジェクトで行った事例)
◆病室の中心となる4床室
入院患者様のプライベート空間をいかに確保するか
の観点から、前後のベッド間にライティングデスクと
収納が取り込まれた家具で仕切っています。
程よい光が透過する障子風の間仕切り壁を設けてい
ます。
個室風多床室は、患者様の尊厳ある生活の質維持
に重要なテーマです。ゆう建築設計では、各ベッドに
専用の窓のある、4床室の設計も既にしていますが、
今回の計画では面積増を抑えることの観点から、家
具による間仕切りによる方法を採用しました。
全ベッドに専用の窓がある4床室
自由なベッドの向きの4床室
入院患者様の安心できるプライベート空間の創設が重要であると考えます。
患者様の生活面からは個室がベストですが、現実的対応として個室風多床室を検
討しています。この計画では、家具による間仕切りによるものですが、他の施設
(外科・内科病院)では、上記のようにさまざまな工夫をしています。
課題のある病棟分散型トイレですが、検討過程では、
病室内に扉を設けることや現在の計画案では、分散
と集中を加味した考え方などの工夫が検討されてい
ましたが他病室の患者様の利用を考え廊下に出入り
口を設けています。。
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■ストレスケア病棟
ストレスケア病棟は差額ベッド料金を加味した計画となります。しかし、その金額には限度があり、収支計画上急性期病棟内に設置
しています。ここでは、出入り口を急性期病棟のそれとは分け、まったく別のゾーンの個室によるストレスケアユニットを構成していま
す。内装は、木質を積極的に使い、WCのみのある個室と、WCと浴室のある2種類の部屋を用意しています。キッチンのあるデイ
ルームがあり、全体的にホテル風のデザインで病院臭さが極力排除されています。
*ストレスケア病棟の必要性が叫ばれた当初は高い個室料の設定がなされるケースが多かったのですが、サテライトクリニックとの
協働等を考慮しても稼働率も余り増えず、精神一般病床と同棟の医療報酬では採算上課題が多く、今後は合理的な計画が求めら
れています。
ストレスケア病棟
専用入り口
急性期病棟入り口
急性期病棟
ストレスケア病棟のデイルーム。キッチン
も設置されています。
ストレスケア病棟
二重扉(電気上設置)
病室は全て個室で、TVやイ
ンターネットの準備がされて
います。
2Fの急性期病棟60床。12室のストレスケア病棟が含まれています。
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5.保護室を考える
■保護室の構成
観察廊下は議論のあるところですが、不要との
結論です。2階はバルコニーがその代替機能を
持っています。
◆保護室の内装
保護室では内装材や設備などについてはできる限り特異なデザインを避
けるため、WC便器についてはFRP製品の洋便器が用いられています。
症状に応じて扉の開閉により病室のみを使う場合と、洗面まで使う場合
に分けられるように洗面部分を出入り口部分に設けています。
◆急性期では奥のベッドルームのみの利用、また症状によってはWCも
利用抑制ができるようにしています。落ち着かれてからは、洗面スペース
の利用も可能となるよう、扉の配置、開閉を行えます。
◆複数ある保護室ゾーンにはデイルームスペースを設けています。また、
複数の保護室を設け、個室病室として使用することを可能にしています。
◆当時は、監視カメラは丸型の天井から出っ張ったものが採用されてい
ますが、昨今は平面型も考案され監視感を減らせるものが開発されてい
ます。
◆保護室ゾーンとして、本来の隔離目的の保護室群と個室的利用の準
保護室ゾーンとの区分けができる構成としています。
隔離室ゾーン
EV
準保護室ゾーン
観察室
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6.アクセシビリティーの良さを目指す
■高いアクセシビリティ
アクセシビリティを高めるためには、親しみやすい外観デザインとともに1F受付から外来部門の考え方が重要です。
玄関ホールや待合スペースは、直接受付から見えず監視的な構成を避けています。外来は、中庭前で内科と精神科
に分かれ、患者様が入り易い雰囲気のデザインとしています。
◆開放的な外観デザイン
◆内科を併設する外来部門
ここでは、南国風のデザインとともに、玄関
部分の小スケールのデザインを心がけました。
外来を訪れる患者さまに、精神科の敷居を低く感じ
させるよう内科の並診を行っています。
また、外来導入部から内科と精神科を分けています。
精神科
内科
手を差し伸べるようなキャノピーと回廊
小スケールのキャノピー
くつろげる受付前の
応接コーナー
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1Fの救急導線
◆1F のエントランスから東西のウイングの中央部分を通る動線の機能。
正面玄関からの患者外来動線①・裏からの救急及び食材等
搬入動線②・訪問看護動線③・職員動線④の4つの入り口
からの動線が設けられています。
エントランスの奥にはサービス部分があります。ここでは、厨房への
食材等と救急患者搬送受け入れ機能があります。
救急搬入機能
②
救急患者動線は処置室とともに救急車の留め置き場と救急隊員の
休憩室が設けられています。また、搬送された患者は処置後裏側か
らエレベーターホールから、2階の救急病棟に搬送される計画として
います。
厨房能
③
2Fの保護室への導線
隔離室ゾーン
④
救急処置から近いエレベータ
EV
観察室
準保護室ゾーン
①
急性期病棟
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7.木質系の材質
■木質系材料の資料
病院全体を木質系によるあたたかい雰囲気の内外装財を使用しています。手が触れる内装は木質系内装材を多用しています。また、外部や目
から遠い部分には木質に見える材料を使用しています。
1階外来部門の木質を多用したデザイン
木質系材質感を重視した外観
手すりは一体型の木製を使用し、壁材と
塗装のコーディネーションを図っています。
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