法面緑化 - 日本大学理工学部

平成 26 年度
日本大学理工学部
学術講演会論文集
H2-5
在来種植物を用いた法面緑化モニタリングの実証実験に関する基礎的研究
Fundamental Study on Proving Test for Slope Greening Monitoring
Using Native Species Plants
下辺 悟1, 中村 直純 2, ○白石 駿一 3, 齊藤 準平 1
Satoru Shimobe1, Naozumi Nakamura2, Syunichi Shiraishi3 Jumpei Saito1
Abstract: Recently, the environmental greening attracts attention to mitigate the environmental problems such as the heat
island effect and air pollution. In this study, considering the slope greening for the excellence of scene and mitigation of the
environmental problem, the physico-chemical properties of the Pit sand, Kanto loam and Granular culture soil as greening
base soils were firstly investigated. In addition, the Water retentivity and permeability required as greening base soils were
also examined using the real time monitoring technique proposed by authors.
1.はじめに
(5)透水試験
近年,ヒートアイランド現象や大気汚染などの環境
簡易定水位試験装置より,流出した水分量などから
問題を緩和するために環境緑化が注目されている.環
透水係数を求め,試料の透水性を検討する.
境緑化の種類には法面緑化や壁面緑化,屋上緑化,道
(6)試料および保水セラミックスパネルの蒸発試験
路緑化および駐車場緑化などがある.その中で法面緑
熱風法による蒸発試験を行い,緑化基盤土に用いる
化には乾燥等に強い外来種が植栽されているが,その
試料および,多孔質材料である保水セラミックスパネ
外来種は日本古来の生態系を壊すと危惧されている.
ルの保水性を検討する.
本研究では,上記の環境問題の緩和や景観の良好さ
(7)緑化モニタリングシステムの実証実験
のために法面緑化を念頭におき,緑化基盤土として選
緑化モニタリングシステムの対象土としては,盛土
定した山砂,関東ローム,粒状培養土の物理・化学的
に一般的に利用されている山砂,関東ローム,そして
性質を調べ,緑化基盤土として特に要求される「保水
本研究室での既往研究を参考に土性等を判断して粒状
性」と「透水性」を検討する.そして,在来種で多年
培養土を選定した.土の含水量やサクション等の経時
草の指標植物の成育状態を見るため,法面緑化のモニ
変化を,ADR,MT,土中温度計,表面温度計,土壌
タリングシステムの実証実験を行った.
pH 計,土壌硬度計,日射計,塩分濃度計を用いてモニ
2.試験方法
タリングする.指標植物は,在来種で多年草の「タマ
(1)基盤土の基礎実験
リュウ」
,「カタバミ」の2種類を植栽する.また,研
緑化基盤土として用いる山砂,関東ローム,粒状培
究室内の既往研究で明らかになった保水性を良くする
養土の各種基礎実験を行い,その物理・化学的性質を
保水セラミックスパネルを用い,瞬時リアルタイム・
把握する.
モニタリングシステムの手法で,船橋校舎7号館南側
(2)キャリブレーション試験
広場での実証実験を行い,植栽機能についても調査・
ADR 土壌水分計(以下,ADR と略称)により,各
検討を行った.その管理方法は,定期的に法面緑化に
試料の含水量のキャリブレーションカーブを作成し,
おける当該基盤土の上述した各種計測を行い,降雨等
その含水特性を検討する.
による影響も含めてモニタリングするものである.
(3)締固め試験
JIS 締固め試験を行い,その締固め特性を調べるとと
もに, 最適締固め点(wopt,ρdmax)を検討する.
(4)保水性試験
マイクロテンシオメーター(以下,MT と略称)を
用いて土のマトリックポテンシャル(サクション)を
測定し,ADR を併用したその水分特性曲線から試料の
保水性を検討する.
Figure 1. Schematic diagram of a slope greening monitoring
sysem.
1:日大理工・教員・交通 2:大和ハウス工業 3:日大理工・学部・交通
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平成 26 年度
日本大学理工学部
当該モニタリング期間は,2013 年9月 28 日から 12
月 31 日の約3ヶ月である.また,緑化モニタリングシ
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とから,関東ロームは植物の生育に適した土壌硬度を
保っていることがわかる.
80
山砂 体積含水率
粒状培養土 体積含水率
関東ローム 体積含水率
山砂 マトリックポテンシャル
粒状培養土 マトリックポテンシャル
関東ローム マトリックポテンシャル
3.試験結果と考察
(%)
pF 3.0
90
山砂 全データ 給水過程
(%)
40
100
pF 1.8
20
10
測定期間: ‘2013.9.28~2013.12.31’
関東ローム 全データ 給水過程
70
0
9/28
粒状培養土 全データ 給水過程
山砂 2013 給水過程
60
関東ローム 2013 給水過程
w
体積含水率 θ
1000
w
し,含水量や保水性を検討した.
予測体積含水率 θ
Figure 2 に出力電圧 Vwet と体積含水率 θw の関係を示
80
60
*
(1)ADR を用いたキャリブレーション試験
50
粒状培養土 2013 給水過程
30
20
10
Figure 4 より,降雨が発生すると,体積含水率・マト
リックポテンシャルの値がともに大きく変動し,晴天
が長期間続き土壌が乾燥してくると,マトリックポテ
0
0.2
0.4
0.6
0.8
出力電圧 Vwet (V)
1
1
10/8 10/18 10/28 11/7 11/17 11/27 12/7 12/17 12/27
日時 D (月/日)
Figure 4. Change in matric potential and predicted
volumetric water content
三次回帰式(関東ローム 全データ
給水過程)
三次回帰式(粒状培養土 全データ
給水過程)
三次回帰式(山砂 全データ 給水
過程)
三次回帰式(山砂 2013 給水過
程)
三次回帰式(関東ローム 全データ
給水過程)
三次回帰式(粒状培養土 2013 給
水過程)
40
0
10000
マトリックポテンシャル h m (-cmH2O)
ステムの模式図は Figure 1 に示す.
1.2
Figure 2 . Relationship between volumetric water content and
output voltage
ンシャルの値が大きくなり,体積含水率の値が一定の
値に収束していくことがわかる.
Figure 2 より,関東ロームおよび粒状培養土は,一般
次に,試料毎に比較すると,関東ロームは他2試料
的な土壌である山砂と比べて,同一出力電圧に対する
よりも体積含水率の値が高く,マトリックポテンシャ
体積含水率が高い値を示しているため,保水性が高い
ルの値が小さい.しかし,指標植物の成育状況は,関
と推定することができる.
東ロームが最も成育状態が不良で,粒状培養土が最も
(2)緑化モニタリングシステムの実証実験
良好であった.このことから,保水性や pH,土壌貫入
Figure 3 に pH および土壌硬度貫入量の経時変化を,
Figure 4 には Figure 2 で得られた当該キャリブレーショ
*
量が植物の成育に適していた試料は関東ロームである
が,今回の実験では粒状培養土の成育状態が良好だっ
ンカーブからの予測体積含水率 θw とマトリックポテ
たことより,植物の成育には保肥性や透水性が重要で
ンシャル hmの経時変化をそれぞれ示す.
あると考えられる.また,指標植物毎に比較すると,
山砂 pH
粒状培養土 pH
関東ローム pH
山砂 土壌貫入量
粒状培養土 土壌貫入量
関東ローム 土壌貫入量
pH 6.5
pH
45
40
6
35
pH 5.5
5
30
4
25
3
20
15
2
10
1
0
9/28
良好で,実際の法面緑化の際にタマリュウのほうが適
50
測定期間: ‘2013.9.28~2013.12.31’
7
土壌貫入量 Hsoil (mm)
8
タマリュウはカタバミより実験終了後まで成育状態が
5 Hsoil=10
10/18 10/28
11/7 11/17 11/27
日時 D (月/日)
12/7
4. 結論
①植物の成育には,保水性や pH,土壌貫入量だけで植
物の成育に適していると一概に言えなく,保肥性や透
水性が重要である.
②今回の指標植物では,カタバミよりもタマリュウの
0
10/8
していることがわかった.
12/17 12/27
ほうが長期的な植栽に適している.
Figure 3. Change in pH and soil hardness penetration
③冬季緑化は降雨が少ないため,定期的な自動灌水が
Figure 3 より,山砂や関東ロームを用いたユニットは,
必要である.
粒状培養土を用いたユニットと比べ pH の変動が少な
引用・参考文献
く,一般的に植物の生育に適した pH5.5~6.5 に近い値
1)下辺 悟,金野 元康,長谷川 宗徳,齊藤 準平:緑
を保っている.
化基盤土の基本的性質と環境緑化モニタリングに関す
次に,土壌硬度貫入量に着目すると,山砂や粒状培
養土に比べ,関東ロームは全体的に高くなっている.
土壌硬度貫入量は概ね 10~25mm であり,植物の根系
の伸長に適した土壌硬度貫入量は 10~27mm であるこ
480
る基礎的研究,第 56 回日本大学理工学部学術講演会,
pp.604-605,2012 年 11 月.