【教育相談】学級になじめない児童への支援

学級になじめない児童への支援
個別支援と学級集団の育成を通して
研究員
研
究
の
概
藤岡第一小学校
栗本
美紀
要
本研究は、学級になじめない児童A男に対して、ソーシャルスキルトレーニングや構成的グループ・
エンカウンターを活用しながら、A男が学級になじめるよう個別指導をしたり、A男を受け入れる学級
集団を育成したりしながら、A男が学級になじめるように支援を行ったものである。その結果、A男の
交友関係が広がり、級友達もA男を受け入れ、お互いが認め合える学級集団を作ることができた。
Ⅰ
対象
Ⅱ
問題の概要
小学校 1 学年
男子
A男
A男は、担任に過剰に抱きついたり、甘えて手をなめたりするなど行動に幼児性が見られる。また、自
分の思い通りにならないとわがままを言う、自分の順番が待てずに前の人を押しのけて自己中心的な行動
をとるなどの行為が見られる。そのため、当番や係活動を級友と行うときにトラブルが多い。
教員への過剰な接し方や級友の気持ちを考えない行動に対して、
「A男君へんだね。」
「A男君だめだよ。」
と級友から指摘されることがある。級友や同学年の児童との関わりより、大人との関わりを求め、仲のよ
い児童以外との関わりに対しては緊張し、チックの症状が出ることがある。これらのことから、A男は、
学級になじめていない状態にある。
Ⅲ
1.
問題の理解に必要な資料
家庭環境及び生育歴
父・母・本児の3人家族である。父親、母親ともに正社員として働いている。父親は穏和で、母親は父
親に対して、「A男に対しては、あまり口出しをしない。」と言っていた。母親は、A男を出産してすぐに
職場復帰をし、
「幼稚園へ入園する前の間、A男は祖父母に預けられ、大人の中でやりたいことはすぐに受
け入れられながら育った。」と言っていた。また、両親共々仕事をしていることから、A男に対して、「甘
やかしてしまっている部分が多々ある。」と話していた。両親のA男への理解は、「A男は人見知りがなく
元気、好奇心旺盛で、テンションがすぐに上がり調子に乗ってしまうところがある。しかし、繊細な面も
あり、緊張したり気になることがあったりするとチックの症状が出る。」ということであった。「早くクラ
スになじんで仲良しの友達を見つけてほしい。」との希望もあった。幼稚園では、「落ち着きがなく、集中
力に乏しく我慢ができないため、トラブルが多い。」という申し送りがあった。
チックの症状は、多いときには多種みられ、家庭では、スキンシップを図ることで緩和させるとのこと
であった。現在は、病院へ通い治療を続けている。
2. 学校生活
通院以外の欠席は見られず、元気に登校している。入学当初から、担任に過剰に抱きついたり、甘えて
手をなめたりするなどの行為が多数見られた。日直の仕事など進んで仕事をするが、ペアの友達が先に仕
事をやっていると、仕事を強引に横取り
する姿が見られた。級友と遊ぶ時には、
自分 の思 い 通り に なら な いと 級友 を非
難したり、訴えたりしてくることが多い。
休み時間は、幼稚園からの仲良しの児
童と遊ぶことが多い。それ以外の人との
関わりは教員が多く、学年外の教員でも
70
60
9
名前を覚え、積極的に関わろうとする。
4月には、座席が近い男児(C男)に、
50
乱暴 され た こと が 怖く て チッ クの 症状
40
が多数みられた。遠足では、初めての級
友との班行動で、緊張しこわばった表情
を見せていた。学級内では、A男の行動
に対 して 「 A男 く ん赤 ち ゃん みた いだ
結果のまとめ
自己肯定感
3
⑤
④
⑪
13 ⑥
11
7
4 ⑨
1
⑫
12
①
30
2
65
⑩
10
②
⑧
8
⑦
20
ね。」と言ったり、A男がわがままを言
って泣きわめく姿を見て、「A男くん、
あんなに泣いているよ。」と話したりし
10
ていた。
5 月に 学 級の 雰 囲気 と 自己 肯定 感を
0
把握する質問紙(図1)を行った。この
結果から、A男(11)は学級の雰囲気が
0
10
20
30
40
50
60
学級の雰囲気
図1
よくない、居心地が悪いと感じていることが
学級の雰囲気と自己肯定感を把握する質問紙
(5月4日実施)
わかる。質問紙をみると学級に不信感をもつ
回答が多々みられた。就学時検診の発達検査では知的発達指数は 98 であった。
Ⅳ
問題の理解
A男は、幼い頃は過保護に養育され、祖父母の家で生活することが多かった。同じ年の児童との関わり
よりも大人社会の中での居心地のよさや両親を求める寂しさから、学校でも教師との関わりばかり求めて
しまうものと考えられる。また、すぐに気持ちを察してもらったり、好き勝手な行動をしても許されたり
している。そこから、A男のわがままで自己中心的な行動があらわれていると考えられる。
これらのような生活環境や養育態度から、同じ年齢の児童と自発的、積極的に遊んだり、学級の中で要
求を制止されたりする経験の中で、級友と協調することが身についていないと考えられる。これらのこと
から、A男は、学級になじめていない状態にある。
Ⅴ
指導方針
1.A男の自己中心的な態度を改めるためにソーシャルスキルトレーニングを取り入れ、A男には他者と
のよりよい関わり方を身に付けさせ、集団へ適応させていく。
2.同じ年の児童と関わることが苦手なA男に、自分のことや他者のことに目を向けさせるために、構成
的グループ・エンカウンターを取り入れ、級友との関わりから自分の感情に気付かせたり、他者の考え
に目を向けさせたりしていく。また、お互いが認め合える学級集団を作ることで、A男が安心して級友
と関わり合えるようにする。
表1
学期
主に行ったソーシャルスキルトレーニング、構成的グループ・エンカウンター計画
時期
■ソーシャルスキルトレーニング(ねらい)
A男の姿
学級の姿
□構成的グループ・エンカウンター(【目的】ねらい)
1学期
級友との人間関係を作る時期
・級友に興味を持
■上手な話し方(適切な距離で話す)
ち、関わろうと
■上手な聞き方(相手の方を見て最後まで聞く)
する。
・級友同士楽しく
遊ぶ。
□すきなものなあに(【他】友だちの好きなものをしる)
□クリスマスツリー(【信】グループの団結力を高める。困難な課題を達成す
るために、それぞれが知恵を出し合い協力することを体感させる)
□なんでもバスケット(【他】自分と同じような嗜好の級友を知り、級友と集
団で遊ぶ楽しさを知り、学級への所属と級友への理解を促進する)
□じゃんけん列車( 通年 【他】いろいろな友だちとのスキンシップを図る)
□だいこんぬき(【信】身体接触を伴う活動を通して児童相互の心理的距離を
短時間に縮めリレーションづくりのきっかけを作る)
※□ちょもらんま( 通年 【他】友だちのよいところをみつける)
□どろけい(【信】仲間と協力をして作戦を考える)
2学期
級友との人間関係を広げる時期
・仲良しの級友を
・級友のよいとこ
■どうぞありがと(なにかしてもらったらすぐにお礼を言う)
見つけ仲良く遊
ろを見つけ、伝
■声のかけかた(優しい言い方で声をかける)
ぶ。
え合う。
■理由の聞き方(疑問に思ったら、相手に理由を聞く)
・級友と仲良く係
■めざせ!マナー名人!(必要な場面で言葉を反射的に言えるようになる)
や当番の仕事を
□ぱちぱちカード(【他】自分ががんばったことやしたことを友だちに受け入
する。
れてもらい成就感をもつ)
□ブレーンストーミング(【自】自分の思いつきや考えを否定することなく自
由に発言する活動を通して、抵抗なく発言できる学級の雰囲気をつくる)
□ゴリオゲーム(【信】友だちとのリレーションを深め、学級全体の支持的風
土を高める)
2学期
級友との人間関係を進んで築いていく時期
後半~
■グループで遊ぼう(遊びの計画を立てる)
仲良くしようと
3学期
■なかなおりカード(けんかをしたら自分と相手の行動を思い出して、悪かっ
する。
たところをやり直す)
□さいころトーキング(【他】友達一人一人を見つめ、認め合い、自分と共通
点を発見することにより、学級全体の凝集性を高める)
・誰とでも進んで
・お互い認め合え
る。
・級友と協力しな
がら学校生活を
送る。
□他己紹介(【他】自分の考えを知り、伝え合う表現を養う。多様な考えに気
づき、お互いを認め合える人間関係を築く)
表1の構成的グループ・エンカウンター『ちょもらんま』とは学級独自に開発して行った活動であり、
友達のよいところを見つけ、伝え合うことをねらいとしたものである。
「ちょもらんま」とは世界一高い山
チョモランマのことであり、その児童の良いところ、頑張っているところなどを「ちょも」とする。
日直が朝、級友の名前カードを「ちょもらんまボックス」から取り出し、1日その級友の良いところ、
頑張っているところを観察し、帰りの会に発表する活動である。1学期から継続して行っている。
(なお、指導経過文中のソーシャルスキル・トレーニング、構成的グループ・エンカウンターの活動名に
は『
』がついている。)
Ⅵ
指導経過
1.級友との人間関係を作る時期
4月 26 日
座席が後ろの級友C男に背中を鉛筆でつつかれたことがきっかけとなり、授業中にチックの症状(声を
出す)が多数出るようになった。隣の座席の女子から「うるさい。」と非難され、そのことに対して担任に
「A子ちゃんが、ぼくのことうるさいって言った。」と訴えてきた。A男自身が自分のチックを気にし、級
友たちがA男を不審に思っている様子がうかがえたので、学級全体に、チックがA男の癖であることやこ
の癖でA男自身が困っていることを話した。級友の中に「みんないろいろな癖をもっているね。」と話す児
童がいた。
6月 22 日
『すきなものなあに』の班作りでは、なかなか班に入ることができずにいたが、A男の生活班の級友が
いる班に「A男くん、あの班に入ったら?」と声をかけ、班の級友にも「A男くん入れてくれるかな?」
と声かけをした。班の友達も快くA男を受け入れA男は自分の好きなものを言い、楽しく活動をしていた。
6月 26 日
以前、保健係の級友と仕事の取り合いになったことがあった。その時学級全体に「係活動は、ペアの友
達と協力して行うことが大切だよ。」と話をした。次の日、A男のペアの級友は、健康観察表を保健室に届
ける際、A男を待っていた。A男はペアの級友とうれしそうに仕事をしていた。学級では、お互い声を掛
け合って仕事をする児童が増えた。
7月2日
『クリスマスツリー』では、A男は、台の上に次々と上がる活動の中で、順番を守って積極的に活動に
参加していた。級友達の中には、A男が登るときに、少しスペースを空けてA男が登りやすいように工夫
する児童がいた。
7月3日
学級で『どろけい』をしたところ、A男は、ルールを破った級友と口論となり、その級友をたたいた。
担任が間に入り「ルールを破った方も悪いけど、たたいたA男君も悪いんだよ。困ったら、たたいてしま
う前に先生に言ってね。」と話をした。学級全体には、ルールを守って遊べるように話した。A男は、トラ
ブルの後、ルールを守って楽しく遊ぶことができた。A男と口論となった級友もその後、A男と一緒に活
動ができた。
7月5日
学級活動で遊びを決める話し合いの場面では、A男は、班の中で「絶対に鬼ごっこがいい。」と譲らなか
った。「みんなが違う遊びがいいと言っているけど、A男君はどうかな。」とA男の気持ちを聞いてみたと
ころ、A男は、渋々ながらもあきらめることができた。班の級友は、A男の自己主張に困った様子であっ
たが、A男が承諾してくれた後は、A男に話しかける様子が見られた。
7月 19 日
1学期のお楽しみ会で『なんでもバスケット』を行った。A男がオニになり、最後罰ゲームをして変な
顔をみんなに披露した。A男は、シェアリングの時に楽しかったと話し、その後穏やかに過ごすことがで
きた。級友の中には、A男の罰ゲームを見て「A男君、おもしろいね。」と話す児童がいた。
2.級友との人間関係を広げる時期
1学期初めに比べると、A男は生活班や当番、係の級友と自分から関わろうとする姿が見られるように
なってきた。級友達もA男を受け入れ、活動をともにする姿が見られた。班活動を中心としながら、さら
に人間関係が広げられるように計画を立てた。(表1)
9月4日
始業式から体調を崩し、3日欠席をした。母親からの連絡帳では、A男は学校に登校することが心配で
チックの症状が出ているとのことだった。A男が心配なく登校できるように、休んだ日にA男の班の級友
にお休みカードにひと言書かせた。休んだA男に対して、班の級友は「A男くん早くなってね。」「A男く
ん、元気になってね。」という手紙を書いた。休み明けの登校は、最初は緊張している様子だったが、徐々
に表情が柔らかくなってきた。次の日の母親からの連絡帳には、お手紙がとってもうれしかった。とA男
が喜んでいた。とのことであった。
9月 13 日
運動会の表現を練習する中『ぱちぱちカード』を行った。「何を書い
たのかな。」と質問したところ、A男は進んで挙手をし「B子ちゃんの
(とらまいの)横飛びの動きがかっこよかったです。」と発表をした。
B子は、A男に「A男くん運動会がんばろうね。」と書いたカードを書
き、笑顔で「どうぞ。」と声をかけていた。A男は、シェアリングの時
には「とってもうれしかった。」と発表した。
図2
ぱちぱちカード
9月 14 日
A男は、特別支援学級の児童B男が、清掃時に何をしたらよいのかが分からないので、手をひいて「次
は机を拭くんだよ。」と声をかけていた。しかし、強い口調で話していたので『声のかけ方』を行った。
「優
しく言うとB男君もうれしいよ。」と話をすると、
「次はこっちをふこうね。」と柔らかい口調で話をしてい
た。
9月 19 日
運動会の練習の時、はちまきが縛れないので、同じ学童の級友に「はちまきしばって。」と頼むが、その
級友がなかなかしばってくれなかった。困っていたA男をみた級友の女子が「A男くん、どうしたの。し
ばってあげるよ。」と声をかけた。A男は「ありがとう。」と言っていた。
9月 20 日
以前C男に乱暴されてチックの症状がひどくなったことがあったので、母親からの要望もあり、座席を
離していた。そのC男が発熱をして学校を連日休んだ。A男は「C男くんのお休みカードにお手紙を書こ
うかな。」と話した。「何で書こうと思ったのかな。」と訪ねると、「ぼくが休んだときにみんなが書いてく
れたお手紙がとってもうれしかったから。」と話した。C男へのお手紙には「早く元気になってね。」と書
いていた。
9月 25 日
給食が食べ終わらないF男を見て「F男くん給食食べ終わるかな。」と心配をしたので「食べ終わるとい
いね、応援したら。」と声をかけた。A男はF男に「もう少しで食べられるよ。」と声をかけていた。
9月 26 日
「先生、E男君(隣の座席)から、A男くんはやさしいねって言われたんだ。」と報告に来た。「いい友
達がいてよかったね。」と声をかけたら、笑顔で「うん」と答えた。クラス全体にもお互いがよさを伝え合
うことが出来るように、みんなの前でこの出来事を報告した。翌日、級友の中に「○○ちゃん優しいね。」
と声をかける児童がいた。
9月 27 日
清掃時にC男の机の辺りで水をこぼした児童がいた。A男は「C男くんの机の下がぬれているよ。」と話
してきた。「拭いてあげると喜ぶよ。」と声をかけると、ぞうきんを持ってすぐに床を拭いていた。
10 月3日
「G男くんに、ぶたれた。」と訴えてきた。2人に話を聞くと、G男はただぶつかっただけで誤解である
ことが分かった。クラス全体で『理由の聞き方』を行い、まずは相手になぜそんな行為をしたのかを聞く
ように話し、練習をした。A男はG男との誤解が解け「ぼくのことをぶったんじゃないと言うことが分か
ってよかった。」と話していた。
10 月5日
今まで、休み時間になると担任の周りにまとわりついて来ていたA男が、E男と休み時間に自由帳で迷
路をして遊んでいた。A男に「E男くんと仲良しになったんだね。」と話すと「とっても仲良しになったよ。」
と答えた。E男は、自分で書いた迷路を「A男くん、この迷路はおもしろいよ。」と勧めていた。
10 月 10 日
3連休明けに体調を崩して欠席をした次の日元気に登校した。欠席の手紙をもらったことについて聞く
と「とってもうれしかった。特にペアのE男くんからのお手紙が何よりもうれしかった。」と話していた。
10 月 11 日
10 月から転校生が入ったので、早く学級になじむように『ブレーンストーミング』を行った。A男は最
後のシェアリングの時に「他の班の意見と同じものがあって面白かった。」と話していた。A男と同じ班の
級友が「A男君が活躍していたよ。」と発表し、A男はうれしそうな表情をしていた。
授業中、漢字練習の丸付けをペアで行ったとき、A男は、隣の席のE男の文字を見て「E男くんの男っ
ていう字、上手だね。」と話していた。E男はA男の文字を見て「A男くん、この字はこうに書くと上手に
書けるよ。」と教えていた。
10 月 12 日
国語で、自分の考えをペアで発表し合う活動を、E男と行っていた。全体で「発表したり聞いたりして
気付いたことはないかな。」と担任が話しかけると「E男くんと同じ意見でうれしかった。」と話していた。
10 月 16 日
「(同じ班の)C子ちゃんに、やさしいねって言ったよ。」と話をしてきた。理由を聞くと「いつも手伝
ってくれるから。」と話した。
「A男くんの班の友達はいい子がたくさんいるね。」と話すと、うれしそうに
「うん」と答えた。今までは、給食の時担任に話しかけることが多かったが、班の級友との話に夢中にな
ることが多くなった。
10 月 17 日
級友とぶつかったとき「(ぶつかったのは)わざとじゃないよ。ちょっとぶつかっちゃったんだ。ごめん
ね。」と級友に話していた。
10 月 22 日
帰りの会では、今日の『ちょもらんま』の級友の対して「H男くんのちょもは、漢字ちょもです。どう
してかというと、先生に直されたものを一生懸命に直していたからです。」と発表した。
10 月 26 日
遠足の出発前に、B男がリュックの中にプリントが入れられず困っていたので、入れるのを手伝ってい
た。B男に「ありがとう。」と言われて「とってもうれしかった」と話していた。
10 月 31 日
隣の席の級友が担任の方を見ていなかったので、そっと肩を持って教えてあげる姿が見られた。
11 月2日
『友達との約束は守る』では、昼休みに遊ぶなかま作りをしているときにどの級友の中にも入れなかっ
た。しかし、女子グループの級友が「A男くん、一緒に遊ぼう。」と声をかけた。昼休みには、計画通りに
楽しく遊ぶ様子が見られた。「楽しく遊べたよ。B男君がはぐれちゃって大変だったよ。」と笑いながら話
していた。
11 月5日
A男のチュックの症状やなれなれしい態度にたいして、1~3年生の児童に嫌なことを言われ続けてい
たことが最近分かり、学童をやめたという報告を母親から受けた。A男は学校でもその子達に会うのを恐
れている、また、中学生まで見据えると心配だ。という相談であった。学校で起きたことではなかったが、
それぞれ個別に話をし、事実確認後指導をした。A男には後日「先生が話をしたから心配ないよ。困った
ことは我慢をしないですぐに先生やお家の人に話をするんだよ。」と話をした。話を聞き、ほっとした表情
を見せた。「2組の子達はいじめないので教室は安心して過ごせる。」とA男が話をしていたと母親が話し
てくれた。
11 月8日
音楽の時間鍵盤ハーモニカのテストを行った。鍵盤ハーモニカが合格できなかった級友に向けて、みん
なは声をかけたり、歌を歌って応援したりしたので「みんなが応援すると、合格ができるんだね。」と話し
た。A男は鍵盤ハーモニカが苦手なので、自分の番になり、不安そうな表情を浮かべていた。級友達は「A
男くん、がんばって。」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」とA男を励ました。演奏中は歌を歌って応援した。
みんなに励まされて照れくさそうにしていたが、演奏は合格し「やった-。」と大きな声で言っていた。み
んなが応援してくれたことに対して「とってもうれしかった。」と話していた。
11 月 14 日
音楽係の仕事を頼んだ。昼休みにペアの級友と協力して仕事に取り組んでいた。「ペアのD子ちゃんと、
協力して色ぬりをしたよ。」と笑顔で報告に来た。
3.級友との人間関係を進んで築いていく時期
2学期、班活動を中心に、級友と関わる時間が増えてきた。また、A男は仲良しになりたいと思う級友
も見つけられた。学級内では、
『ちょもらんま』で具体的に級友のよさに目を向けた発言をする児童が増え
てきた。これを受け、A男が積極的に人間関係を築いていけるように計画を立てた。(表1)
11 月 16 日
図工の終了時間に、A男が自分の班の級友の机を進んで直していた。また、昼休みには、級友とどんぐ
りを拾って遊んでいた。担任が外に出ると「先生。ぼくは、どんぐりを拾ってみんなと遊んでいるんだ。」
と笑顔で報告をし、その後一緒に遊んでいた級友の所に戻って遊んでいた。
11 月 21 日
学級全体で『どろけい』をして遊んだ。シェアリングの時、A男は「警察になったとき、みんなで、は
さみうちをしようとしたんだけど、失敗しちゃったんだ。」と話していた。
11 月 27 日
級友が泣いていたところ、A男は泣いている級友の肩にそっと手を置き「だいじょうぶ。」と声をかけて
いた。「困っている友達に優しく声かけられて偉かったね。」と褒めるとうれしそうな顔をしていた。
11 月 28 日
今までは、担任の所へきて「先生遊ぼう。」と言っていたが、最近、休み時間遊ぶ級友をさがすようにな
った。この日は、A男が声をかけても誰も遊ぼうとしないので「A男君が遊ぼうって言っているよ。外に
出て遊んでおいでよ。」と声をかけた。普段A男と遊ばない級友が担任の声かけに応じ「じゃあ遊ぼう。」
とA男に声をかけた。A男は、いつも遊ばない活発な級友に声をかけられ笑顔で校庭に出かけた。お昼休
み後は「みんなでレストランごっこをしたんだ。楽しかったよ。」と話していた。
11 月 30 日
体育の跳び箱のテストを行った。A男がテストを行う際、級友達は「がんばれA男君。」「できる。でき
る。」と応援をした。A男は、跳び箱は跳べなかったがうれしそうな表情をしていた。
12 月3日
給食の時間、同じ班の普段行動をともにすることのない活発な性格のH男がA男に、
「A男君、好きなテ
レビはなに。」と聞いた。A男は「ぼくは、逃走中が好きなんだよ。」と笑顔で答えていた。昼休みは、級
友と外で鬼ごっこをしていた。
12 月4日
体育の時間、縄跳びが上手に結べず戸惑うA男に数人の女子が駆け寄り「A男君、手伝うよ。」と手を貸
していた。その後縄跳びを結ぶ練習を重ね結べるようになり、みんなの前で結んでみせると「A男君やっ
たね。」「がんばったね。」と言っていた。A男はうれしそうな表情をしていた。
12 月5日
生活科のたからもの大会の的あてゲームをY男が、持ち帰ることになった。A男はじゃんけんで負けて
しまい残念がっていたが「Y男くんの家に遊びに行ってもいいかな。」と聞いた。Y男も「遊びにおいでよ。」
と答えていた。
12 月6日
昼休み、A男は、C男を含めた級友達十数人と楽しそうに鬼ごっこで遊んでいた。
「ぼくは、体を動かす
のが好きだから、みんなと鬼ごっこするのが楽しいんだ。」と話していた。今までは、担任が「みんなで遊
ぼう。」と言わないと集まらなかったが、最近は、級友達同士で鬼ごっこをする姿が見られるようになった。
Ⅵ
研究の成果と今後の課題
結果のまとめ
自己肯定感
1.研究の成果
A男は、ソーシャルスキルトレーニングで人
との 関わ り方 を練 習 した こと を様 々な 場面 で
70
実践する姿が見られた。また、1学期は、休み
時間になると、常に担任の所へきて遊びたがっ
60
たが、2学期後半になると級友と遊ぶ約束をし
50
て、集団で遊ぶ姿が見られるようになった。学
級では、チックの症状も少なくなってきた。
学級の様子としては、お互い褒め合ったり、
応援し合ったり姿も見られ、特に『ちょもらん
3
7
学級になじめてきたことが見て取れる。また、
級友達もA男を温かく受け入れ、お互いが認め
合える学級集団が作れたと言える。12 月に行っ
た、学級の雰囲気と自己肯定感を把握する質問
12
⑦
④
30
13
6
②
⑧
5
⑪
1
⑥
8
20
10
0
0
10
20
30
40
50
60
学級の雰囲気
図3
学級の雰囲気と自己肯定感を把握する質問紙
(12 月 17 日実施)
・自己中心的な行動を取ることがあるので、その都
度ソーシャルスキルトレ-ニングの考え方を取り入れながら、個別に支援していく。
・登校班や学童保育などで上級生に嫌なことをされ、学校に行きたくないと母親に訴えることがあったの
で、学校での交友関係が広げられるように支援していく。
《参考文献》
河村茂雄・品田笑子・藤村一夫編著
岡田 弘編集
⑨
⑤
①
紙(図2)の結果(11)からも、学級内での居
心地が良くなったことが分かる。
2.今後の課題
14
⑫
40
ま』では、お互いのよさに目が向けられるよう
になってきた。
これらのことから、A男の交友関係が広がり、
49
⑩
11
10
2
『学級ソーシャルスキル』 2007 年 図書文化
『エンカウンターで学級が変わる』 1996 年 図書文化