先端複合材料の開発動向を見に行こう ミシンメーカーの挑戦

先端複合材料の開発動向を見に行こう
SAMPE JAPAN 2009 ②
★ ミシンメーカーの挑戦
「複合材って、繊維製品なんだよな──」という基本的なことを改めて実感させてくれた
のが、刺繍機メーカーのタジマ工業(本社=名古屋市東区)が出展していた、複合材用繊
維成形ミシン TCWM-T01 だった。複合材に用いる繊維を基材に縫いつけるためのミシンで、
実演ではナイロン生地を基材として、炭素繊維をポリエステル系で縫いつけていた。プリ
フォーム(樹脂を含浸させる前の、繊維だけの状態)の大量生産用機器として、日本での
販売強化を目指している。
↑ナイロン生地に、ポリエステル系で炭素繊維を縫いつけていく。
同社は多頭式刺繍機メーカーで、10 数年ほど前にエアバスからの引き合いがあり、複合
材向け専用機の開発に乗り出した。これまでヨーロッパの企業や大学、研究機関より 10 数
台ほど受注している。
展示機種は昨年開発した新機種で、刺繍範囲は 1,200mm×750mm で、最高回転数は
1,000rpm。
早い時期から、同社のドイツ代理店がシュトゥットガルト大学と、テキスタイル技術を
応用した炭素繊維複合材のプリフォームの製造方法を共同研究しており、今回の展示会は、
その成果 PR の場とも位置づけていた。開発スタッフは「航空機などの部品の素材として、
必要な強度を実現できるように繊維を縫いつけるノウハウを、国内企業、研究機関や大学
とも共同で研究したい」と話していた。
航空機だけでなく、自動車、風力発電用風車、医療など、幅広い分野で提案を進めてい
る。また展示機種は、炭素繊維だけでなく、ガラス繊維やアラミド繊維も同じように縫い
つけることができるほか、ヒーター線などのワイヤ形状も縫いつけることが可能で、スマ
ートコンポジットへの応用研究も進んでいる。
↑1枚目の写真から、短時間でこの量まで作業をこなすスピードと多頭化技術
により、プリフォームの量産マシンとしての地位確立を目指す。
★ カーボン複合材で軽量化
レクサス LFA
東京モーターショーで注目を集めたトヨタ自動車のスーパーカー「レクサス LFA」は、
車体にカーボン複合材を導入し、軽量化を実現した。SAMPE 会場では、カーボン複合材を
用いた骨格部分を取り出して展示していた。
レクサス LFA は、通常の自動車であれば板金が用いられる 300 点以上の部品に、カーボ
ン複合材とアルミ合金を用いている。車両重量は 1,480kg。
展示品は骨格を半分にしたもので、カーボン複合材とアルミで構成されている。骨格の
重量は 189kg(展示品重量は、その2分の1。以下同)で、そのうちカーボン複合材が 131kg
(アンダー109kg + アッパー22kg、含アルミインサート)
。単純に同じものを金属素材で
生産した場合、重量は約 400kg になるが、金属ではカーボン複合材と同じ剛性を得られな
いので、実際に自動車を造る場合は、それ以上の重量になるという。
レクサス LFA の開発は 2000 年にスタートし、当初は複合材の使用は計画されていなか
ったが、4年前にカーボン複合材の導入が決定された。レースカー以外でカーボン複合材
を用いるのは、トヨタでは初めてとなる。ただし電気自動車などへの布石ではなく、車両
材料技術部担当者は「これはこれとしてチャレンジした」と話していた。
↑スーパー・スポーツカー「レクサス LFA」の車両ボディ。カーボン複合材の投入
で、重量は金属製だった場合の半分以下に軽減された。
↑カーボン複合材の部品ごとの加工法などを図示したパネル
文責:石原達也(ビジネス航空ジャーナリスト)
ビジネス航空推進プロジェクト
http://business-aviation.jimdo.com/
略歴
元中部経済新聞記者。在職中にビジネス航空と出会い、その産業の重
要性を認識。NBAA(全米ビジネス航空協会)の 07 年および 08 年大
会をはじめ、欧米のビジネスジェット産業の取材を、個人の立場でも
進めてきた。日本にビジネス航空を広める情報発信活動に専念するた
め退職し、08 年 12 月より、フリーのジャーナリストとして活動を開
始。ヨーロッパの MRO クラスターの取材を機に、C-ASTEC とも協
力関係が始まり、現在に至る。