二極化する総合型地域スポーツクラブにおける因子分析によるニーズ調査 〇菅原友奈、桂信太郎・井形元彦・坂本千明(高知工科大学) Keyword:総合型地域スポーツクラブ、自立型運営、依存型運営、因子分析、ニーズ調査 【背景】 こうした総合型地域スポーツクラブも、自立しながら独 文部科学省によれば「総合型地域スポーツクラブとは、 自の運営で成果を上げる団体がある一方で、自主財源に乏 人々が、身近な地域でスポ-ツに親しむことのできる新し しく補助金に依存する団体も多いと指摘している。また、 いタイプのスポーツクラブで、 (1)子どもから高齢者まで 黒川(2015)は、行政とクラブの共同関係を構築し、住民主 (多世代) 、 (2) 様々なスポーツを愛好する人々が (多種目) 、 導の方向を目指すべきと指摘している。本稿では、こうし (3)初心者からトップレベルまで、それぞれの志向・レベ た先行研究と、関係各所へのヒアリング調査および文献や ルに合わせて参加できる(多志向) 、という特徴を持ち、地 入手資料から、①全国及び高知県における総合型地域スポ 域住民により自主的・主体的に運営されるスポーツクラブ」 ーツクラブの現状と課題を抽出し、②高知県の総合型地域 であるという(同省 HP) 。また、同省は、平成 7 年度から スポーツクラブ 31 クラブ(23 市町村)へのアンケート調査 15 年度まで、地域のコミュニティの役割を担うスポーツク および量的分析(因子分析)を行うことで、③総合型地域 ラブづくりに向けた先導的なモデル事業として、地域住民 スポーツクラブへの期待やニーズに関する調査分析を行う。 の自主的な運営を目指す「総合型地域スポーツクラブ育成 【研究・調査】 モデル事業」を推進し、それ以降は、日本体育協会が引き 高知県における総合型地域スポーツクラブは、31 クラブ 継いで同事業を推進している。平成 27 年7月現在では、全 (23 市町村)あり、そのうち法人格取得クラブ 10 クラブで 国で 3,550 クラブが運営もしくは運営準備されているとい ある。高知県の総合型地域スポーツクラブは教育委員会が う状況で、住民の健康促進や活力増進という側面から、地 バックアップしているが、他県では企業などのバックアッ 域活性化に大きく貢献している。 プで成り立っているクラブもある。会員の年齢層は就学前 【研究方法・研究内容】 ~90 代と幅広い。体育館や職員などの経費はサークル会費、 先行研究は、黒川祐光(2015)は「総合型地域スポーツク 月額などで賄っている。補助金なども利用しながら経営を ラブの自立運営に関するー考察―三重県内総合型地域スポ しているクラブが多数存在する。活動が活発なクラブは目 ーツクラブに着目して―」 『地域活性研究』である。 に見える活動を行っている。 図表1 総合型地域スポーツクラブとは(出所:高知県教育委員会健康スポーツ課提供資料(2015)による) 例えば、新聞に取り上げられる、イベントなどである。 総合型地域スポーツクラブの利用者は、種目や開講教室 クラブによって会員の年齢層や、対象としている人が違っ によって差はあるものの、小中学生や年配者、専業主婦な ており、ひとつひとつのクラブに特色がある。規模が小さ どの利用者が多い傾向がある。また、健康維持やストレス いクラブでも住民(会員)が求めているものを提供してい 解消のための利用が多く、週に 2~3 回の利用者が多い。 るクラブは活発である。自分たちのクラブの身の丈に合っ 他人とのコミュニケーションを図る目的はそれほど多くな た活動を行うことが重要である。当面の課題は、会員の確 いようだ。また小中学生は、将来の夢に向かって利用する 保、財因の確保、会員のニーズに答える、専属指導者の確 ケースも目立つ。次に、アンケート調査をもとに因子分析 保である。今後は、高知県は少子高齢化に伴い人口減が続 を行った。 いている。そのため、クラブ数増加は見込まれないが、高 (1)アンケート調査 齢者や運動をしたい人に向けて総合型地域スポーツクラブ 属性は、性別、年代、職業、スポーツ種目、運動頻度に を広めることで会員数が増える見込みは十分にあると考え ついての属性と、目的やニーズ、施設選択のポイントを設 ている。そこで我々は、総合型地域スポーツクラブに対す 定した。また、健康維持、体力の維持・向上、気分転換、 るニーズ調査や因子分析のためにアンケート調査を行った。 ストレス解消、ダイエット、リラクゼーション、他人との 性別、年代、職業、スポーツ種目、運動頻度についての属 コミュニケーション、護身、記録更新・大会出場、体を鍛 性と、目的やニーズ、施設選択のポイントについて、それ える、自らの達成感・満足、リハビリ、将来の夢、地域活 ぞれ 15 項目を設定し、5 段階による評価のアンケート項目 性化、出会い、の項目について、それぞれ 5 段階評価で意 を設定した。 識している度合いを問うた。また、総合型スポーツクラブ 【調査の分析と結果】 を利用する(選択する)ポイントについて、施設が新しい・ まず、県内 33 施設の中で、自立志向型の総合型地域ス きれい、サークルの数、専属指導者がいる、友達がいる、 ポーツクラブとして評価の高い施設から順に、マネージャ 料金、駐車場がある、地域活性化、スタッフの対応が良い、 ーに対するヒアリング調査を行った。また同時に、その施 いろいろなスポーツができる、自身の健康維持、自身のス 設に利用者に対してアンケート調査を実施した。 トレス軽減、家族の交流、時間、やりたいスポーツがある、 の各項目を設定し、5 段階による評価のアンケート項目を 設定した。 図表2 高知県内の総合型地域スポーツクラブ(出所:高知県教育委員会健康スポーツ課提供資料(2015) ) これらの項目は先行研究も参考に筆者らで追加したもの である。 因子負荷量の絶対値 0.40 以上を示した項目をもとに因 子を解釈した。 (3)解釈 因子F1,F2にて、年代による違いを見たものが図 1 (2)因子分析 次に、アンケートから得られたデータをもとに、因子分析 である。これから、10 代は、因子F1がマイナスで因子F を行った。各項目のうち、因子負荷量の共通性の分散が大 2がプラスであることから「気分転換・健康維持」という きい上位の形容詞対を対象に主成分分析による、スクリー よりも、 「記録更新・出会いつくり」に重きを置いている。 プロットの結果から、2因子解を適当とした。因子の抽出 40 代以上は、その逆であり、 「記録更新・出会いつくり」 法は最尤法、回転法はバリマクス回転(varimax:カイザ というよりも、 「気分転換・健康維持」に重きを置いている ーの正規化) 、因子負荷量は次の表の通りである。 のがわかる。 図表3 因子負荷量(筆者作成) 図表4 年代による施設の捉え方の相違 図表5.スクリープロットの結果 【考察・今後の展開】 ここでは 1 箇所の施設についての分析結果を示したが、 他施設についても同様の分析を試みており、これらのデー タをさらに詳細に分析し、二極化する総合型地域スポーツ クラブの現状や課題を整理するとともに、自立志向型を目 指すための組織の要因やメカニズムを明らかにしてきたい と考えている。 【引用・参考文献】 [1]黒川祐光「総合型地域スポーツクラブの自立運営に関 するー考察」 『地域活性化研究』,pp.203-212,(2015) [2]高知県庁HPおよび文科省HP [3]高知県教育委員会スポーツ健康教育課提供資料(2015)
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