職 務発 明 ・職 務 著 作 について 特 許 法 一 部 改 正 の お 知 ら せ 2015 年 12 月 13 日 浅野国際特許事務所 国際知的財産戦略研究所 1. 職 務 に 係 る 創 作 職務に関する創作については、①職務発明および職務考案(ともに技術的 ア イ デ ア )、職 務 意 匠( 製 品 デ ザ イ ン )、② 職 務 著 作( 著 作 物 )の 制 度 が あ り ま す。なお、職務商標はありません。 こ の う ち 、① 職 務 発 明 お よ び 職 務 考 案 、職 務 意 匠 は 同 じ 内 容 で す 。そ こ で 、 以下、職務発明と職務著作について解説します。 2. 職 務 発 明 の 概 要 職 務 発 明 と は 、① 従 業 者 等 が し た 発 明 で あ っ て( ① を 自 由 発 明 と 言 い ま す )、 ②その性質上当該使用者等の業務範囲に属する発明で(①+②を 業務発明と 言 い ま す )、か つ 、③ そ の 発 明 を す る に 至 っ た 行 為 が そ の 使 用 者 等 に お け る 従 業者等の現在又は過去の職務に属する発明(①+②+③を職務発明と言いま す 。 特 許 法 35 条 1 項 ) で す 。 発 明 を す る と 、発 明 者 で あ る 従 業 者 等 に 、特 許 を 受 け る 権 利 が 発 生 し ま す 。 特 許 を 受 け る 権 利 を 有 す る 者 は 、特 許 出 願 で き ま す 。そ し て 、出 願 し 、審 査 を 受け、登録されると、特許権が発生します。 従業者等は、自由発明・業務発明・職務発明いずれについても、使用者等 に 、特 許 を 受 け る 権 利 や そ れ に 基 づ い て 取 得 し た 特 許 権 を 譲 渡 で き ま す(「 事 .... ..... 後 承 継 」 と 言 い ま す )。 ま た 、 職 務 発 明 に つ い て は 、 あ ら か じ め 使 用 者 等 に 、 特 許 を 受 け る 権 利 や そ れ に 基 づ い て 取 得 し た 特 許 権 を 譲 渡 で き ま す(「 予 約 承 継 」 と 言 い ま す 。 特 許 法 35 条 2 項 )。 一 方 、 特 許 を 受 け る 権 利 や そ れ に 基 づ い て 取 得 し た 特 許 権 を 譲 渡 し た 場 合( 事 後 承 継・予 約 承 継 と も に )等 に は 、従 業者等は、相当の補償を受ける権利を有します。 .... また、職務発明については、特許を受ける権利やそれに基づいて取得した ........ 特許権を譲り受けなくても、使用者等は、無償で当該職務発明を業として実 施 す る 権 利 を 有 し ま す ( 法 定 通 常 実 施 権 。 特 許 法 35 条 1 項 )。 大 枠 は 上 記 の 通 り で す が 、職 務 発 明 に つ い て は 、2015 年 に 法 改 正 さ れ ま し た 。2016 年 4 月 1 日 施 行 と 思 料 さ れ ま す 。そ の た め 、改 正 法 施 行 前 後 で 以 下 のように処理が異なります。 3. 職 務 発 明 ( 改 正 法 施 行 以 前 ) 改正法施行以前に権利承継された職務発明については、現行法が適用され ます。 上 記 2.で 「 相 当 の 補 償 」 と 述 べ ま し た が 、 現 行 法 で は 、 従 業 者 等 は 「 相 当 の 対 価 の 支 払 を 受 け る 権 利 」 を 有 し ま す ( 特 許 法 35 条 3 項 )。 ... そ し て 、相 当 の 対 価 に つ い て 定 め る 場 合 に は 、諸 状 況 を 考 慮 し て 、不 合 理 と 認 め ら れ る も の で あ っ て は な ら ず ( 特 許 法 35 条 4 項 )、 対 価 に つ い て 定 め が ない場合または不合理と認められる場合には、対価の額は、①その発明によ 1 り使用者等が受けるべき利益の額、②その発明に関連して使用者等が行う負 担、貢献及び従業者等の処遇、③その他の事情を考慮して定めなければなり ま せ ん ( 特 許 法 35 条 5 項 )。 特許を受ける権 自由発明 業務発明 職務発明 発明者(従業者等) 発明者(従業者等) 発明者(従業者等) 無 効( 特 許 法 35 条 2 無 効( 特 許 法 35 条 2 有効 項) 項) 但 、相 当 の 対 価( 特 許 法 利の原始帰属者 予約承継の条項 35 条 3 項 ) 事後承継の条項 有効 有効 有効 但、相当の対価 但、相当の対価 但 、相 当 の 対 価( 特 許 法 35 条 3 項 ) 承継がない場合 ライセンス等なく、 ライセンス等なく、 使用者等は無償で実施 使用者等は実施不可 使用者等は実施不可 可 能( 特 許 法 35 条 1 項 ) 以下、職務発明取扱規程のうち予約承継および対価に関する条項の例を挙 げ ま す ( 経 済 産 業 省 特 許 庁 『 新 職 務 発 明 制 度 に お け る 手 続 事 例 集 』 177 頁 ~ 187 頁 ( 2004 年 ) よ り 抜 粋 )。 な お 、対 価 の 支 払 時 点 、金 額 の 決 定 方 法 お よ び 金 額 に つ い て は 、労 働 政 策 研 究 ・ 研 修 機 構 『 従 業 員 の 発 明 に 対 す る 処 遇 に つ い て の 調 査 』( 2005 年 ) 32 頁 ~ 35 頁 な ど を 参 照 く だ さ い 。 第○条(発明の届出および職務発明の認定等) 1 会社の業務範囲に属する発明を行った従業者は、速やかに発明届(第○号 様式)を作成し、所属長に届け出なければならない。 2 所属長は、従業者から前項の届出を受けたときは、次の各号に定める事項 に つ い て の 意 見 を 付 し 、速 や か に ○ ○ ○ ○ 部 長( 知 的 財 産 部 門 の 長 )に 回 付 し なければならない。 一 届け出られた発明が職務発明に該当するか否か 二 当該職務発明に係る権利を承継することの要否 三 当該職務発明をした者それぞれの寄与率 四 当該職務発明について特許出願することの要否 3 所属長は、前項の場合において職務発明に係る権利を承継する必要がある と判断するときは、次の書類を○○○○部長に提出するものとする。 一 当該職務発明に関する明細書案(第○号様式) 二 当 該 職 務 発 明 に 関 し て 共 同 出 願 契 約 が 存 在 す る と き は 、そ の 共 同 出 願 契 約 書 第○条(権利の承継) 1 会社は、職務発明に係る権利を承継する旨を当該職務発明を行った従業者 に 通 知 し た と き は 、意 思 表 示 そ の 他 何 ら の 手 続 を 要 せ ず 、当 該 職 務 発 明 に つ き 特許を受ける権利を当該従業者から承継する。 2 2 会社が職務発明に係る権利を承継しない旨を通知した場合には、会社は、 当該職 務発明についての通常実施権を留保するものとする。 第○条(権利の処分等) 1 会社は、職務発明について特許を受ける権利を承継したときは、当該職務 発 明 に つ い て 特 許 出 願 を 行 い 、若 し く は 行 わ ず 、又 は そ の 他 処 分 す る 方 法 を 決 定する。 2 会社の特許を受ける権利を承継した職務発明について特許出願を行わない 旨 の 決 定 は 、会 社 の 当 該 職 務 発 明 に つ い て の 特 許 を 受 け る 権 利 を 承 継 し な い 旨 の決定とはみなさない。 3 出願の形態及び内容については、会社の判断するところによる。 4 職務発明について特許を受ける権利を会社に譲渡した従業者は、会社の行 う特許出願その他特許を受けるために必要な措置に協力しなければならない。 5 会 社 は 、特 許 を 受 け る 権 利 を 承 継 し た 職 務 発 明 に つ い て 、特 許 権 を 取 得 し 、 又 は 特 許 権 を 維 持 す る 必 要 が な い と 認 め た と き は 、当 該 特 許 を 受 け る 権 利 を 放 棄し、当該特許出願を取り下げ、又は当該特許権を放棄することができる。 第○条(対価の算定方法) 1 会社は、第○条の規定により職務発明について特許を受ける権利を発明者 から承継したときは、発明者に対し次の各号に掲げる対価を支払うもの とす る。 一 出願時支払金 二 登録時支払金 2 前項の対価は、○○○○部長が認定した発明者寄与率に基づき、各発明者 に配分されるものとする。 3 第 1 項 の 対 価 は 、別 に 定 め る 実 施 細 則( 以 下「 実 施 細 則 」と い う 。)に 基 づ き算定するものとする。 第○条(対価の支払時期) 第○条に定める対価は、出願時支払金については出願後速やかに支払うもの とし、登録時支払金については登録後速やかに支払うものとする。 第○条(発明者からの意見の聴取) 1 発明者は、会社から支払われた対価に異議があるときは、その対価の受領 日 か ら ○ 日 以 内 に 、知 的 財 産 部 に 対 し て 異 議 申 立 書( 第 ○ 号 様 式 )を 提 出 す る ことにより異議の申立てを行うことができる。 2 知的財産部は、発明者が前項の規定により異議を申し立てたときは、その 異 議 の 内 容 を 検 討 す る に 当 た っ て は 、発 明 者 に 意 見 を 述 べ る 機 会 を 与 え な け れ ばならない。 3 4. 職 務 発 明 ( 改 正 法 施 行 以 降 ) 改正法施行以降に事後承継された職務発明、予約承継を定めたうえで改正 法施行以降に発生した職務発明については、改正法が適用されます。 ................. 改正法では、職務発明について予約承継させたときは、特許を受ける権利 は 発 生 時( 発 明 時 )か ら 使 用 者 等 に 原 始 帰 属 し ま す( 改 正 特 許 法 35 条 3 項 )。 予 約 承 継 さ せ な い と き や 、自 由 発 明・業 務 発 明 に つ い て は 、原 則 通 り 、特 許 を 受ける権利は発明者である従業者等に原始帰属します。 ま た 、 上 記 2.で 「 相 当 の 補 償 」 と 述 べ ま し た が 、 改 正 法 で は 、 従 業 者 等 は 「 相 当 の 金 銭 そ の 他 の 経 済 上 の 利 益(「 相 当 の 利 益 」と 言 い ま す )を 受 け る 権 利 」 を 有 し ま す ( 改 正 特 許 法 35 条 4 項 )。 ... そ し て 、相 当 の 利 益 に つ い て 定 め る 場 合 に は 、諸 状 況 を 考 慮 し て 、不 合 理 と 認 め ら れ る も の で あ っ て は な り ま せ ん ( 改 正 特 許 法 35 条 5 項 )。 法 改 正 に よ ... り 、上 記 考 慮 す べ き 状 況 等 に つ い て は 、経 済 産 業 大 臣 が 指 針( ガ イ ド ラ イ ン ) を 定 め る こ と に な り ま し た ( 改 正 特 許 法 35 条 6 項 )。 当 該 ガ イ ド ラ イ ン は 、 改正法施行以降に告示として公表されます。 自由発明 業務発明 発明者(従業者等) 発明者(従業者等) 職務発明 発明者(従業者等) 特許を受ける権 但、予約承継のときは、 利の原始帰属者 使 用 者 等 に 原 始 帰 属( 改 正 特 許 法 35 条 3 項 ) 予約承継の条項 無 効( 特 許 法 35 条 2 無 効( 特 許 法 35 条 2 有効 項) 項) 但 、相 当 の 利 益( 改 正 特 許 法 35 条 4 項 ) 事後承継の条項 有効 有効 有効 但、相当の利益 但、相当の利益 但 、相 当 の 利 益( 改 正 特 許 法 35 条 4 項 ) 承継がない場合 ライセンス等なく、 ライセンス等なく、 使用者等は無償で実施 使用者等は実施不可 使用者等は実施不可 可 能( 特 許 法 35 条 1 項 ) 以下、職務発明取扱規程のうち予約承継に関する条項の例を挙げます(経 済 産 業 省 特 許 庁 『 平 成 27 年 特 許 法 等 の 一 部 を 改 正 す る 法 律 に つ い て 』 6 頁 ( 2015 年 ) よ り 抜 粋 )。 【 改 正 特 許 法 35 条 3 項 が 適 用 さ れ る 規 程 例 】 職 務 発 明 に つ い て は 、そ の 発 明 が 完 成 し た 時 に 、会 社 が 発 明 者 か ら 特 許 を 受 け る 権 利 を 取 得 す る 。た だ し 、会 社 が そ の 権 利 を 取 得 す る 必 要 が な い と 認 め た ときは、この限りでない。 【 改 正 特 許 法 35 条 3 項 が 適 用 さ れ な い 規 程 例 】 発明者は、職務発明を行ったときは、会社に速やかに届け出るものとする。 会 社 が 前 項 の 職 務 発 明 に 係 る 権 利 を 取 得 す る 旨 を 発 明 者 に 通 知 し た 時 に 、会 社は当該職務発明に係る権利を取得する。 4 5. 職 務 著 作 職務著作とは、①法人等の発意に基づき、②その法人等の業務に従事する 者が職務上作成する著作物で、③その法人等が自己の著作の名義の下に公表 す る も の で す ( 著 作 権 法 15 条 1 項 )。 ......... 職務著作の作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限 . り 、職 務 著 作 の 著 作 者 は 、そ の 法 人 等 と な り 、著 作 者 人 格 権 も 著 作 財 産 権( 著 作権)も法人等に帰属します。 別 段 の 定 め を し た 場 合 は 、原 則 通 り 、職 務 著 作 の 著 作 者 は 、業 務 従 事 者 と な り 、著 作 者 人 格 権 も 著 作 財 産 権( 著 作 権 )も 業 務 従 事 者 に 帰 属 し ま す 。著 作 者 人格権は譲渡できませんが、著作財産権(著作権)は全部または一部を譲渡 できます。 な お 、相 当 の 対 価・相 当 の 利 益 に つ い て 、著 作 権 法 上 の 規 定 は あ り ま せ ん 。 もっとも、すべての職務著作の対価が給与等に含まれているとまでは言い難 いので、業務従事者の報酬について個別に定めることもできます 。 以 下 、職 務 著 作 に つ い て の 別 段 の 定 め の 例 を 挙 げ ま す( 拙 稿「 職 務 著 作 要 件 論 - 職 務 著 作 成 立 の 許 容 性 を 探 る - 」 月 刊 パ テ ン ト 2010 年 7 月 号 91~ 118 頁 よ り 抜 粋 )。 【著作者人格権についての規程例】 本件著作物の著作者は、 〔 業 務 従 事 者 名 〕と す る 。著 作 者 人 格 権 は 、 〔業務従 事者名〕に帰属する。 〔 業 務 従 事 者 名 〕 は 、〔 業 務 従 事 者 名 〕 の 名 誉 声 望 を 害 さ な い 限 り 、 本 件 著 作物について著作者人格権を行使しないことをあらかじめ承諾する。 本 件 著 作 物 を 改 変 す る 場 合 は 、あ ら か じ め〔 業 務 従 事 者 名 〕の 同 意 を 得 な け ればならない。 第 2 項 の 承 諾 及 び 前 項 の 同 意 は 、 反 対 の 意 思 を 表 示 し な い 限 り 、〔 業 務 従 事 者 名 〕の 承 諾 及 び 同 意 を 得 た 者 か ら さ ら に 許 諾 を 得 た 者 及 び 権 利 承 継 人 に も 及 ぶものとする。 【著作財産権(著作権)についての規程例】 本 件 著 作 物 の 著 作 者 は 、〔 受 注 者 名 〕 と す る 。 本 件 著 作 物 の 著 作 権 は 、完 成 と 同 時 に 、 〔 受 注 者 名 〕か ら〔 発 注 者 名 〕に 譲 渡 されるものとする。 本 件 著 作 物 に つ い て の 翻 訳 し 、編 曲 し 、変 形 し 、脚 色 し 、映 画 化 し 、そ の 他 翻 案 す る 権 利 及 び 2 次 的 著 作 物 の 利 用 に 関 す る 原 著 作 者 の 権 利 も 、前 項 の 著 作 権 の 譲 渡 と 同 時 に 、〔 受 注 者 名 〕 か ら 〔 発 注 者 名 〕 に 譲 渡 さ れ る も の と す る 。 【著作物の所有権についての規程例】 本 件 著 作 物 の 所 有 権 は 、 完 成 後 す み や か に 、〔 業 務 従 事 者 名 〕 か ら 〔 法 人 等 名〕に譲渡されるものとする。 浅 野 国 際 特 許 事 務 所 で は 、職 務 発 明 お よ び 職 務 著 作 に つ い て 、会 社 の 実 情 に 合 わせ様々な観点から検討した規程を作成しております。どうぞご相談ください。 5
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