創造都市を創るアート

セッション1
創造都市と文化的多様性
創造都市を創るアート
チャールズ・ランドリー シンクタンク「コメディア」代表
Charles Landry
1948年、ロンドン生まれ。イギリス、ドイツ、イタリアで学び、1978年にコンサルタント会社シン
クタンク「コメディア」を設立。英国政府や、地方公共団体、国内外の諸機関から180以上にのぼる
職責を与えられ助言をおこなってきた。また、ワシントンにある世界銀行で文化と都市戦略に関してア
ドバイスをおこなってもいた。都市の文化戦略の国際的な権威。主な著作に、The Creative City: A
Toolkit for Urban Innovators (Earthscan / Kogan Page 2000)[邦訳『創造的都市─都市再生
のための道具箱』(後藤和子監訳 日本評論社 2003)]がある
加速化する多様性
昨日、創造都市には4つのアプローチがあると申しまし
たが、それをベースに話を続けていきたいと思います。ま
た、世界のグローバル化における中心的な問題として、そ
うした変化から生まれてきた多様性についてお話しします。
世界地図は、欧米、おそらくアメリカが中心になって表
現されています。シリコンバレーにはGreat Americaという
名前がつけられている道路もあります。私が説明するまで
もなく、明らかに世界は変化しています。例えば世界の港
を見ても、カーゴやコンテナには昔とまったく違った名前
がついています。
そこで、創造性の多様性ということで、世界の見方をか
えてみたいと思います。ヨーロッパから来た人たちは見解
をかえていく必要があります。いったい何が重要なのか、
そしてその開発の中心、駆動力となっているのはどこなの
かということも考えるべきでしょう。
こういった展開のなかにあるひとつの問題として、われ
われがこの状況に満足しているのかどうかということがあ
ります。それに関連してわれわれのイマジネーションを活
用しているのか、つまり、人々のもっている潜在力をちゃ
んと活用しているのかを考えてみたいと思います。
多様性については、往々にして多様性とそれに対する問
題として扱われますが、そうではなく、多様性と文化的な
文脈のなかでどういう状況がおこっているのかということ
を考えてみましょう。
例えば、企業が各地にひろがったとき、最初は多様性と
いうのは問題かもしれません。しかしながら、究極的には
それは非常によい点につながると言えます。それから、こ
うした複雑性から、どのようにその多様性やあいまいさを
管理していくかを考えていかなければなりません。明らか
にいろいろな文化的な背景をもった多文化の人たちが、ひ
とつのものをいろいろな方向から見るときに、どのように
それを管理すべきか考えることが、多くの人にとって大き
な課題になるのです。
しかし、この変化の速度はかなり速く、すべてが加速化
しています。創造力を使うことについても加速化していま
30
す。それに対応していくためには、人間が直面している都
市における問題を解決していかなければなりません。革新
とは言いませんが、かなりの速度で変化しているわけです
から、対応するのも難しいはずです。もちろん、世界をよ
り包括的なかたちで見ていくと、状況がかわってきていま
す。そうなってくるとみなさんの頭痛の種になるかもしれ
ません。
いくつかの例をご紹介しましょう。シカゴの有名な彫刻
家カプアの作品には、世界の多様性があらわされています。
それは知識としてはいってきますが、ストレスやひずみが
でて、そのまますぐには受けいれられないという状況があ
ると思います。その結果、人々は自分の殻のなかに戻って
しまうかもしれません。さらに世界が加速化すると、すべ
てがラッシュアワーのような状況になります。
ルーマニアのブカレストでは、おもしろい広告を見まし
た。“No Stress”と書かれた横の葬儀屋に、24時間営業
“Non Stop”と書かれているのです。いまから5分後に亡く
なったとしても10分後には埋葬してもらえるのかもしれま
せん。ノンストップな状況なのです。私がここで強調した
いのは、このような多様性の変化がおこっているというコ
ンテクストのなかでは、われわれが議論すべき問題を解決
するために必要な思考の質をもつことや、あるいはそれを
反映させることは明らかに困難になってくるということで
す。
もうひとつの議論すべき問題は、われわれがいま、手に
している都市は完全に正気を失った状況なのかということ
です。われわれ自身をふりかえって見ても、都市がいかに
構造化され、部分化されているかということは、健康にか
かわる問題でもあります。例えば、車の数は予測以上にど
んどん増えています。世界中で2億台の新車がつくられて
いるということは、古い車とほとんど同時に新車がでてき
ているということです。何とか整理をしなければなりませ
ん。しかし、それはもしかしたらいい解決策ではないかも
しれません。こうした状況は、われわれが直面している問
題を反映しています。いったい何が問題なのかはわかって
きています。都市に集まる人口が増えてきて、都市間が連
携してつながり、都市流入という問題がでてくるのです。
この状況下で、都市の開発についてのガイダンス的な倫理
観、つまり、ネガティブな意味ではなくポジティブに変化
させるためのガイドラインはないのでしょうか。
では、意思決定をするときに、その基盤となるような新
しい景観をたてるためには何を考えればいいのでしょうか。
ここでは、complicateとcomplexのふたつを区別していきた
いと思います。都市というのは、非常に機械的で複雑です。
とはないでしょう。そこに大きな開きがあります。都市の
第1ステップ、第2ステップ、第3ステップというステッ
意思決定においては、その部分がずれていて、そのために
プ・バイ・ステップのかたちで理論的に開発が進んでいて、
なかなかうまくいかないと言えます。
この工学的なアプローチは美徳として考えられてきました。
まず創造性についてですが、第1ステップとしてはわれ
しかし、規制のかかった枠組のなかで仕事をしていくとい
われとしてはもう一度、あらゆる意味での好奇心をよびお
うやり方が、現在でも通用するかどうかはわからない時代
こさなければなりません。そして、創造力をきかせ、都市
になっているのです。
がどのようになりえるのかを考える。そのような想像力、
complicateというのは学術的な複雑さです。他方、
好奇心を使うことによって創造性というものが生まれてく
complexというのは相対的な複雑さを意味します。例えば、
るでしょう。そうなれば、革新をおこすことができるはず
子どもを養育していくために、子どもをかえていくのと同
です。
時に私もかわっていくわけです。ですから、相対的な思考、
もうひとつ、多様性にも関連しますが、いわゆる異分野
あるいは理論的な考えだけではなく、相対的な考え方が必
との連携についても考える必要があります。Multidiscipli-
要になるわけです。もちろん、そのなかで選択肢が与えら
nary、学際的というのは、各分野の専門家が集まってそれ
れますから、人々はいろいろな選択があるということでま
ぞれの分野のなかで仕事をすることをさします。例えば、
た心配します。下り坂をどんどん転げ落ちることにならな
高速道路をつくるとすると、その道路の専門家は8メート
いかと考えるわけです。
ルの幅が必要だと言うかもしれません。しかし、Interdisci-
今度は生態系について考えてみましょう。まず自然の生
plinary(多分野にまたがる)であれば、専門家同士がいい
態系と人間との関係という問題があります。それから、特
道路をつくるためにお互いに交流し、意見を共有するわけ
に価値観が違うという状況もあり、これが大きなジレンマ
です。そこで、関係性が重要になってくるわけです。ここ
になるのです。このような価値観の違うものをどのように
でも文化の多様性ということが関連してきます。
融合させていくかが課題です。多様性といったときに白人
このような場においては、親密に感じられる場所をつく
と黒人というだけでなく、若い人たち、高齢者など、いろ
っていかなければなりません。小さな場であると感じられ
いろな形態の多様性というものがあると思います。年老い
るようにしなければならないのです。刺激を与えることは
た女性を見て、しわしわのおばあさんと見るのか、すばら
大きな場を意味するかもしれませんが、大きな場において
しい高齢者と見るのかという見方の違いがあります。
は寛容さも必要です。景観のなかに、そういう寛容性を感
都市を開発するときにどう考えていくかということも同
じさせるような要素がなければなりません。寛容性があっ
様です。ですから、古い考え方をかえていかなければなり
てこそ人々はエネルギーがわいてくるのです。それは、都
ません。それをまず、抽出して、かえていかなければなり
市が市民に対して提供できるものです。そうすることによ
ません。
ってほとんどの人たちがつながることができます。モント
いくつか例にあげてみます。この新しい世界においてわ
れわれはリスクを冒さねばなりません。何かあやまちを犯
リオールのグラフィティのように、もしみなさんが一所懸
命にそれを願えば、夢は実現するでしょう。
しても人のせいにしないということです。つまり、能力不
足だから失敗することと、そうではない失敗があり、能力
Cross Cultureの重要性
的な失敗であれば、その能力の評価となるわけです。
もうひとつ、サイロ的なメンタリティから脱出しなけれ
これは全体論的な考え方、全人的な思考です。店舗にた
ばなりません。例えば、縦割り型の考え方です。都市の組
とえれば、相互に尊重する寛容性のボトルと、共感のボト
織化によってすべての部署の間がバラバラになっている状
ルがならんでいるわけです。これはすばらしい場をつくる
況は問題であり、それをつないでいかなければなりません。
ための資質です。すばらしい場には同時に革新性がありま
だからといって、ひとつの歌をみんな一緒に歌わなければ
す。
ならないということではありませんが、それを認識してお
では、もし文化、非常にグローバルなひろい文化のなか
くことが重要なのです。アイデンティティが違う人たちが
にいるならば、どのようにお互いのコミュニケーションを
集まっていることを認識しなければならないのです。
とっていけばよいのでしょうか。重要なのは、このような
また、最低限、いろいろと政策的に学際的なアプローチ
Cross Cultureは若いときからおこるべきだということです。
をしていかなければなりません。連携が必要です。つまり、
若いころからCross Cultureを体験していれば、成長すると
多くの都市がこういう対話をする準備ができているかどう
ともにひろがり、高齢者になってもCross Cultureの生き方
か、そして、再評価ができるかどうかということです。
で生き続けることができるでしょう。共通の活動、共通に
ロッテルダムを例にあげましょう。まちには、川ごしに
お互い顔をあわせていて、同居していこうといううごきが
追及できるものをもつことが、われわれが若いころから
Cross Cultureを学んでいくことの目的です。
あります。しかし、ほとんどの都市は、お互いに別の方向
戦渦にあったころのクロアチアとボスニアは文化の中心
を見ていて、意図的に対話をしようとデザインされていま
でしたが、いまは都市の治癒をしている過程かもしれませ
せん。
ん。ですから、ネガティブなことだけでなく、ソリューシ
思考するときには、その瞬間の問題、あるいはその後10
秒間の問題は何かと考える傾向にありますが、それをかえ
ていかなければなりません。もっと状況を大きくとらえて
いかなければなりません。
これまで都市における問題を心理学的な側面から見たこ
国
際
シ
ン
ポ
ジ
ウ
ム
﹁
新
・
都
市
の
時
代
︱
創
造
都
市
の
発
展
と
連
携
を
求
め
て
﹂
︱
セ
ッ
シ
ョ
ン
1
︱
創
造
都
市
と
文
化
的
多
様
性
ョンのひとつの要素ともなります。白人でもみなそれぞれ
人種が違いますから、多文化間の祭典なのです。
ヨーロッパからアジアへ渡るイスタンブールの橋には、
イスラーム諸国がテロリズムを宣言したと書いてあります。
このような多文化間の交流を考えていかなければならない
31
並存しています。グローバル化した世界のなかでは、宗教、
のです。
また、文化の違った人たちの結婚もCross Cultureのひと
価値観、文化といったテーマに対して解決を迫られていま
つだと思います。Cross Cultureの理解というのは、こうし
す。民主主義やエンパワーメントということがテーマの中
た結婚がひとつの例にあげられると思います。そして、み
心です。例えば、ベルリンの壁には、ホーネッカーとブレ
なさんは驚かれるかもしれませんが、多文化間の結婚は軍
ジネフがキスしている絵画が描かれています。このような
関係者に多く見られます。軍関係者のCross Cultureの結婚
つながりが必要なのです。
多様性というのは、創造性にもいろいろな形態があると
は、一般の人の8倍と言われています。
複数のアイデンティティをもつ例をあげましょう。例え
いう意味です。
ば、エジンバラでタータンの布をほとんど販売し、11店も
店舗をもっているゴールド氏は、シーク教徒です。オース
都市の成功の4つの尺度
トラリアのクリケットのファンなので、オーストラリアの
国旗を頭に巻いている姿からは、彼の人となりをうかがい
では、日本人、中国人、ウェールズ人、カナダ人、ある
知ることはできません。固定観念(ステレオタイプ)は文
いはケベック人の創造性は、英国あるいは英国人の創造性
化の多様性に対してはまったく役立たないのです。
とどのように違うのでしょうか。
また、イスタンブールには「トレンディ」という店舗が
例えば、東京の原宿にはきわめて日本的なところがあり、
50軒ほどあり、マネキンのモデルをつくっています。いわ
ファッションの中心地になっています。とてもおもしろい
ば文化クラスターなのです。その隣にはモスクがあります。
可能性をもったファッションと言えるでしょう。こういう
店のすぐ隣にはモスクが建っています。アラブの女性が店
ものを見てみると、あまり単純化して考えてはいけないと
頭の裸のマネキンの前を通ったらどう感じるのでしょうか。
いうことがわかります。創造性というのは単純化できるテ
しかし、文化の多様性というのはこういう意味あいをもっ
ーマではありません。それは過去に基づいて構築するとい
ているわけです。さらに、もちろん寛容性を都市にもちこ
うことなのです。創造性や多様性について語るとき、それ
むということは重要です。お互いに何らかのかたちでつな
はやはり過去を抜きには構築できないでしょう。そして、
がりをもつという点で寛容性は必要です。
過去を何らかのおもしろいかたちで未来に結びつけていく
しかし、物理的に見えない場合もあります。マラケシュ
作業に創造性はかかわってくると思うのです。
の通りとアムステルダムの様子を見てください。ずいぶん
新しい人たちが都市の成功をどのように考えるかについ
違います。日本にもおもしろい文化的伝統があり、公的な
ては、4つの尺度があります。ひとつは人材の流入、流出
生活と私的な生活について興味深い伝統をもっています。
の程度です。才能をもった人たち、才能をもつ可能性のあ
る人の流出入の状態。それから、その都市がイマジネーシ
ョンをもちえるか、想像的になりえるか、また連携しえる
かという可能性も重要な成功の尺度です。例えば日本は学
歴の高い社会であり、この学歴の高い人がどのくらいいる
のかということは、ひとつの尺度ではあるかもしれません。
しかし、先ほど言ったような都市の成功の尺度というのは
GDPの伸び率とはまた違った新しい尺度なのです。
多様性によって、さらに繁栄や幸福が高まるかどうかと
マラケシュ
アムステルダム
いうのは大きなテーマです。学術的なセンスでは言いきれ
ませんが、そのとおりだと実証できると思うのです。よっ
てこのふたつ目の尺度、要するに創造性とイノベーション
は、多様性をもつことによって刺激されることがあると思
います。
もうひとつ重要な点があります。それは帰属感です。移
動性の話をこれまでしてきましたし、昨日、ザッキローリ
さんが「グローカル(グローバルかつローカル)」とおっし
ゃいました。古い伝統や、すべての伝統がその場所に対し
日本
コーヒーですら、ひょっとしたらたくさんの問題に対し、
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てオーセンティックでなくてはならないと言っているわけ
ではないのです。アイデンティティなどを考えると確かに
ひとつの解決策を提示してくれているかもしれません。コ
問題も含んでいますが、文化を考えるうえでこれは抜きに
ーヒーや食べ物というのは、人々がそれをとおしてつなが
はできないのです。
りあう最初の一歩であることが多いのです。食べ物から都
それから、もうひとつ言えることは、すべてほかの条件
市の公共スペースを考えてみると、人々は簡単につながり
が同じだったとしたら、発明の力というものは都市におい
あえます。
て刺激されないということです。同一性はなかなかそのよ
一方で、難しいエリアもあります。デトロイトは完全に
うな発明性を刺激してくれないのです。さらに、都市にお
破壊されています。しかし、ひとりのクレイジーでおもし
いていろいろなことが新しくつくられていますが、それを
ろいアーティストが、自分の活動をとおして、非常に興味
つくるにあたって過去の方向性ふまえたうえでつくってい
深い建物をつくったりして、完全に荒廃した地域の再生に
るものが多いと思うのです。ですから実際にできあがった
一役かっています。また、トロントではいろいろな宗教が
ものを見ると過去のものでしかありません。
これは最近完成した裁判所
を喚起し、都市の特徴を導きだし、そして感情を喚起し、
です。これを外から見ると
さらに健康にも影響するということを忘れてはなりません。
もう無実を証明する前に、
アートとは都市をつくる技なのだということを忘れてはな
自分は有罪判決を受けたか
らないし、過去にとらわれたり、限定的に考えるのではな
のような気持ちになってし
く、未来に向かってのビジョンをもつ必要があります。さ
まいます。フロリダにはそ
らにまた人々の参加やかかわり、ユーモアということも市
のほかにも、同じように心
の仕組みのなかに含みこまなければなりません。
理的に自分は罪人だと思わせるような裁判所があります。
もちろん、健康に生活するということも重要な都市づく
実際には裁判所というのは罪を裁く場であるべきなのに、
りの技(アート)の一要素であります。いろいろな優先順
こうした建築物をこのような外観にしたために、かえって
位があって、それをうまくジャグラーのように扱い、調整
罪の刺激をあたえるはめになっていると思います。しかし、
をしなければならないわけです。そのためには、都市を単
裁判所や警察は市民がかかわりをもっていける場でなくて
なる箱とは考えない、ソフト領域の人々、つまりコンテン
はならず、その外形をデザイン・設計するうえでは、その
ツを重視する領域に対して投資をしていく必要があります。
ような考えが必要だと思います。アデレードの新しい裁判
また、目に見えないリソースも活用しなくてはいけません。
所では、芸術作品が飾られています。ある病院はピッツバ
そうすると、開放性ということにたちかえってきます。そ
ーグで犯罪率が高い場所のひとつなのですが、それはぜん
して都市の物語ということです。人々が都市をつくり、共
ぜん驚くにあたりません。犯罪がおこってもおかしくない
に都市の物語をつくっていく、それが市民の発揮する創造
ようなデザインになっているからです。別の病院の焼却所
性ということでしょう。
は非常に大きいものです。もうすでに気分が悪いのに、病
公の領域というのは、もちろん公的責任ということがあ
院の焼却所がどうしてそんなに大きいのかという人もいる
り、さらには、説明責任を負わなければなりません。しか
でしょう。病院のなかも同様です。人が健康になるべき場
し、プライベートな領域においては彼ら自身の責任も必要
所であるはずなのに、来ると病人がどんどん生みだされて
なわけです。英語における“価値”という語は、いろいろ
いる工場のような気がします。暗い廊下のなかに倫理委員
なつながりをもった言葉です。例えば、経済的な価値が倫
会の部屋があるのです。ヘンではないでしょうか。つまり、
理的な価値を創出するうえで、その経済的な価値につなげ
人々の気分というのはこのような外形から大きな影響を受
ていかなければならないということもあります。都市とい
けるわけです。病院の倫理委員会だったら別のデザインが
うのはいわば生きたアート作品と言えるのではないでしょ
できるはずでしょう。大学もしかりです。学校とは知識を
うか。
探求し深める場であり、好奇心やイマジネーションの場と
では、ここで少し問題設定の仕方をかえてみましょう。
考えて建物をつくるのであれば、もっと別のデザインが可
これまで私たちは創造性や多様性が今後、重要だという話
能なはずです。同じことが、下水道処理浄水場に関しても
をしてきました。では、その反対はどうなのでしょうか。
いえます。大阪の水道の処理場というのは、みなさんが好
つまり、創造的に考えない、あるいは多様性を意識しなか
んで訪問される場所のひとつだと聞いています。会議場な
ったとしたら、どのような代償を払わなければならないか
どについても、そこで将来、会議をもちたいという気にな
というように問題設定の仕方をかえる方が賢い方法ではな
るか、あるいは別のところで会議をしたいと思うかを考え
いでしょうか。それはまた世界において最もよい都市では
る必要があります。
なく、世界のためによりよい都市、最も優れた都市になる
べきだということです。
都市づくりの技(アート)
例えばバルセロナの戦略の中心になっているのは「生き
生きとした」ということです。「生き生きとしている」とい
都市づくりという「技(アート)」を考えると、将来のこ
うのは「共に生きる」ということです。そして、バルセロ
とをまず考えなければなりません。先見の明が必要です。
ナ市がこの20年の中心のテーマにしているのは、さまざま
単に都市というのは道路の集まりではないし、そういうと
な条件を整備するということです。それをとおして人々が
らえ方にとどまっていてはいけないのです。また、イマジ
互いに会い、一緒に生きることができるような条件整備を
ネーションをもち、健康だとかあるいはそのほかのテーマ
していこうということが戦略の鍵になっています。
について、健康と物理的な計画や設計をいかに結びつける
MITでフランク・O・ゲーリー(Frank Owen Gehry)
かという動力も必要です。さらにまた、経済的な潜在力も
がつくった建物は、おそらく人を集めようと考えた建物だ
落としてはならない。そして、一般市民のかかわりも確保
と思うのです。風水的には非常にひどかったらしいですが、
しなくてはならないのです。アートという言葉を使ってき
いろいろなスペースが一緒になっていて、どこも丸い形に
ましたが、これは非常にひろい意味で使っています。つま
なっています。要するに、ハードに考えるのではなくソフ
り、うまくおこなうということです。こちらの場に示され
トに思考しているのです。建築に関する考え方は大きな問
たように、古い世界と新しい世界を組みあわせるような
題ではありますが、彼の建物は50∼100年間もつのではない
「技」ということでしょう。
国
際
シ
ン
ポ
ジ
ウ
ム
﹁
新
・
都
市
の
時
代
︱
創
造
都
市
の
発
展
と
連
携
を
求
め
て
﹂
︱
セ
ッ
シ
ョ
ン
1
︱
創
造
都
市
と
文
化
的
多
様
性
かと思います。
しかし、もうひとつ忘れていけないのは感情です。都市
コペンハーゲンのある地域は92%の人口が別の文化的背
の計画を考えるうえで、その都市を感情的に魅力的で満足
景をもった人たちで占められています。壁が、その地区に
感がある都市にしたいという都市計画は聞いたことがあり
おけるコミュニケーションの場所になっています。自分た
ません。次にどこにどのような高速道路をつくるかという
ちのまちがどのようにうなればいいと思っているのか、さ
ことではじまってしまっています。アートというのは記憶
まざまな多様な文化を共存できる場所にするにはどうした
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らいいのかについて、ヒントを与えてくれるような壁の絵
になっていると思います。
私にはスピリチュアリストという側面があるかもしれま
せんが、理念的な話をしてきました。リーダーシップもも
ちろん重要です。リーダーシップには3つのかたちがある
と思います。ひとつ目は通常のリーダーシップで、例えば
駐車場のスペースをもっと広げようといったようなもので
す。ふたつ目はイノベーティブなリーダーシップで、これ
までとはぜんぜん違うようなかたちでイノベーションをお
こしていく。最後は新たなリーダーシップで、将来の物語
をみんなで語っていこうとさせるようなリーダーシップで
す。そして、一歩一歩将来に向けてみんなで進んでいこう、
将来を形成しようとするのです。
賭けや幸運も重要かもしれません。しかし、都市づくり
というのは偶然の産物ではありません。さまざまな政治的
な選択肢のなかから摘みとって、積みあげていくものなの
です。ありがとうございました。
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