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2.『大国インド、その実像と今後 ~インドを視るポイント~』 株式会社三井

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2.『大国インド、その実像と今後
~インドを視るポイント~』
株式会社三井物産戦略研究所
主任研究員
国際情報部
藤森 浩樹
【インドの基礎知識】
インドの基礎知識は皆さんご存知と思いますのでリマインドする程度に簡単に説明させ
ていただきます。基礎的な要素のうち、世界最大の人口を持つ中国と並んで 10 億人以上の
人口を持ち、日本の約 9 倍の面積を持っている世界最大の直接選挙もある自由民主主義体
制の国です。非常に大国であるということです。ただ、一人当たりのGDPは 599 ドル(05
年)程度で、いわゆるBRICs と呼ばれるブラジル、中国、ロシアに比べるとかなり見劣
りするという状況です。
地域は東西南北と4つに大きく分かれます。それぞれに中心都市があります。北部は政
治都市のデリー、西部は商業都市のムンバイ、南部にはIT都市のチェンナイ、バンガロ
ールという都市もあります。南部のこれら両都市はソフトウェアの開発拠点と考えていた
だければ結構です。東部にはカルカッタがあるのですが、鉄鉱石等いろんな分野がありま
す。
さて、インドといえば紅茶ですが、紅茶が取れるところはアッサムなど東北部になりま
す。大まかに言ってこれら4つの地域区分となります。
産業構造ですが、雑誌の Business Week と Fortune が発表した企業ランキングでは、189
位から 983 位までに 12 社入っています。企業というのは国営ガス会社、新興財閥の石油化
学会社、国営石油会社、IT企業、日用品(石鹸など)を作っている会社(これもほとん
ど国営)、情報通信会社(いわゆる携帯電話の会社)などです。インドの企業部門の特徴は、
政府が株式を持つ公営会社、国営会社と新興の財閥、石油化学、石油精製会社、IT企業
が上位を占めているという点です。
もう1つ、中国と違うインドの特徴は、ヒンズー教、カースト制というものに根ざした
社会だということです。都市人口が全体の 5%で、この中で例えば中国の場合、都市部に労
働力の移動、人口移動が見られると思いますが、インドではないわけではありませんが、
極めて少ないと考えられます。大都市に人口が集中しているわけではないし、大きな労働
力の移動が起こっているわけではありません。それは何故かと言うと、このヒンズー教が
8割以上を占めて、大都市以外の農村に住んでいます。しかもイスラム教、シーク教、仏
教信者も存在しますが、この人たちもカースト制に苦しみ、改宗していると考えていただ
いていいと思います。
もちろん、世襲職業制度であるカースト制度以外で職業が変わる場合もありますが、大
まかにいって、なかなか変わりません。結婚も同じです。
例えを挙げます。インドに進出している複数の日系企業の現地スタッフに、実際に話を
聞くとだいたい 5%くらいがカーストを超えた結婚をしています。そのうち半分くらいが疎
外されてしまう、結婚が壊れてしまう。つまり極めてカースト制とヒンズー教に根ざした
社会と世界が残っているということです。
もう一つの基本的なインドの特徴が、多様性の中にもまとまりが見られる、ということ
です。多宗教然り、多言語も然り、その中をまとめているのがカースト制かもしれない、
と私は考えています。もちろん、いわゆるカースト外のアウト・オブ・カーストの人口も
あります。それは 16%くらいです。
これは 20 年くらい前のことと聞いていますが、例えば、カーストの上位の人が自動車に
乗っていてアウト・オブ・カーストの人を轢いてしまった。その場合、そのまま行ってし
まう。つまり人間として見ていない。そういう世界がほんの 20 年くらい前までは残ってい
たのです。
政治の話に移ります。約2年前にマンモハン・シンという人が首相になりました。首相
になったのですが、政権の経済的な部分の方向性、経済政策に大きな変化はありませんで
した。この前の方は、BJPといって、ややナショナリスティックなヒンドスタン主義を
掲げる政党でした。それが国民会議派といって、インドの政治を戦後担ってきたガンジー
の流れを汲む政党に政権が移行しました。野党側から伝統的な与党に戻ったんですが、保
守的な政策はとらなかった。国民会議派は戦後、ガンジーの流れを汲むので、やや、米国
と距離を置き、共産主義ではないが社会主義的な政策をとってきました。それが 90 年代に
経済の自由化をし、世界経済の中にインドが入っていこうという方向性を示した元の政党
に戻ったということなので、極めて柔軟に対処しています。シン首相は、ターバンを巻い
ていますが、シーク教徒という少数派でインド西部の方の出身で、オックスフォード大学
を出て、中央銀行の総裁にも就任、90 年代の経済自由化の実務化の部分を担った人です。
この人を首相に指名したのが、ソニア・ガンジーで、ガンジーの孫のお嫁さんです。
ガンジーにはインディラ・ガンジーという女性の首相になった娘がいて、その息子がラ
ジブ・ガンジーです。ラジブ・ガンジーもインディラ・ガンジーも暗殺されてしまったの
ですが、このラジブ・ガンジーのお嫁さんがソニア・ガンジーです。
この方は面白くて、実はインド人ではありません。イタリア人です。ラジブ・ガンジー
がイタリアに留学したときに見つけたお嫁さんです。つまり、国民会議派の総裁ソニア・
ガンジーは政権を執ったのですが、いろいろあってインドは保守的な国なので自分は身を
引きました。で、マンモハン・シンを指名した。それがこの2年間、極めてうまくいきま
した。もう少し申し上げると、海外からの投資やアメリカとインドの関係進展の話も彼女
が後ろに引いたことによって極めてうまく実務化レベルまでいくようになりました。いろ
いろなところでいろいろな話をするような体制になっている気がします。女性というのは
前に出たがる人が多いと聞いていますが、ソニア・ガンジーは 65 歳くらいだと思いますが、
少し下がったのです。実務的、経済的なことはマンモハン・シン首相に任せて、政治的な
部分はソニア・ガンジーが後ろから、というような雰囲気を出しています。
経済的なことはさておき、皆さんこういったことにご関心があるのではと思って次の話
をしたいと思います。
【インドは第2の中国になり得るのか】
基本的には、インドはサービス産業の世界的な中心になる可能性はありますが、中国の
ように世界的な工場になるかというと、なかなかなりにくいと思います。まず、激変する
可能性が少ない。ただ、一部にかなり様変わりのような部分はあります。
もう一つは、プラス面として、旧英国の植民地ですから、ある程度の英語は通じます。
英語くくりのビジネスもかなり盛んです。それから非中華的な世界で、中国やアジアから
かなり距離がある。その分、ビジネスは極めて欧米に近いと考えていただいていいと思い
ます。
と、言いつつも、日本のことだけを考えると、歴史が証明するように東京裁判での話や
中村屋のボーズ、これは最近、本が出ていますが、日本とインドの間には、外交上のバリ
ア、ハードルというのは歴史的にはありません。
もう一つは、中東に極めて近い。今、この原油高で、アジアと中東の間で、政府間で話
をしようという動きが出ています。そこで、産油国と消費国の対話というのをアジアと中
東で、スタートしました。今年で2、3年目になるのですが、最初の中東産油国とアジア
の消費国の会議はデリーで開催されました。インドは中東と歴史的にチャンネルを持って
いるのです。インドがアジアと中東の間の話を通しているというようなことも聞いていま
す。
対外的な話をしましたので、非常に面白い国際関係上の動きを取り上げていきたいと思
います。ここ1年間くらいでインドと世界各国間で 10 回の首脳会談をやっていますが、こ
のうちインドのシン首相が出向いたのは3回(ロシア、ASEAN、オーストラリア)で、
あとの国々は皆、インド詣でをしました。
どんな話をしたかというと、最初は貿易の話だったのですが、昨年の後半くらいからそ
れがエネルギーと原子力という話題になっています。どういうことかというと、昨年8月
以降、何が最大の国際的な問題になったかといいますと、イラク核問題です。国連総会が
9月くらいにあるのですが、8月くらいにシン首相とブッシュ大統領が話をして、ブッシ
ュ大統領が、インドにはイランと距離を置いてほしい、イランの封じ込めをするのに協力
をしてほしい、その代わりインドに原子力発電技術をやるよ、という合意をしたのが、大
きな流れをつくりました。
インドは日本と同様、エネルギーを自給できません。3分の1は自国でまかなえますが、
3分の2は輸入に依存しています。主にインドは中東から輸入しています。日本は8割、
9割くらいのエネルギーを中東に依存していますが、インドも6割くらい中東に依存して
います。それは、イランとサウジです。その部分を、アメリカが原子力発電の技術をやる
から勘弁してくれ、イランの封じ込めを一緒に手伝ってくれということを依頼しました。
ブッシュ大統領も今年の3月にインドを訪問しましたが、それと前後して、欧米各国がイ
ンドに対して原子力発電の技術を売りたい、例えばウランを売りたい、もう少し言えば、
経済発展をしたインドに対して取りっぱぐれがないから、いろいろなものを売りたい、そ
の大きなものがもちろんエネルギー関連の技術、それから飛行機、兵器です。
例えばロシアは、1年前に中古の空母をアップデートして最新鋭のミグ飛行機を付けて
インドに売っています。台湾も空母をアメリカから買っているのですが、極めて高く買っ
ています。アメリカから高く買わされています。でも、インドはうまく中古の部分をアッ
プデートさせて買っています。軍事の専門家によれば非常に面白い動きだということです。
台湾はそれで年度の防衛予算が通らなくて、もめたりしています。インドは違います。効
率的にやっています。豪州のハワード首相が中国にウランを売るとか売らないとか言って
いましたが、インドにも売りたいようなことをほのめかし始めています。非常に面白い動
きです。
もう一つは先ほど申し上げたように、インドはエネルギーの3分の2を外に依存してい
ます。そこで大きなプロジェクトが今注目されています。それはイラン→パキスタン→イ
ンド、つまりパキスタンを経由して、イランからインドにガスを輸入する、そのためのパ
イプラインを引くという大型プロジェクト計画が持ち上がっています。それをアメリカは
やめさせたい、やめさせたいが、その見返りは何だということをインド側から言われて、
この原子力の話になっています。しかしながら、インドは非常にしたたかです。今、イン
ドとイランとパキスタンの間でパイプラインの話をずっとしていますが、止める、降りる
ということはインド側からは言っていません。だから話し合い・協議は続いています。
それから、これもアメリカをすごく刺激する話なのですが、上海協力機構というのがあ
ります。先々週くらいだと思いますが、先月もあったと思います。先月は外務大臣の集ま
り、先々週は首脳同士の集まりで、中国とロシアが中心になっています。いわゆる安全保
障上の機構で、これにインドは去年から、イラク、パキスタンとともに正式ではないけれ
どもオブザーバー参加しています。アメリカから相当なチャチャが入ったということで正
式参加は見送りになっています。見送りにはなりましたが、インドはしたたかにアメリカ
から原子力発電技術をもらい、お金ももらい、兵器もこれから買うでしょう、飛行機も新
しいものを買うでしょう、それについてのファイナンスももらいます。と同時に、先ほど
のガスパイプラインについてイランとの話も止めていない。それについてアメリカも強制
的には言えない、というふうな形になっています。軍事力は小さいのですが、政治的なソ
フトパワーというのでしょうか、そういうものを持っています。ですから日本もいろいろ
な外交をするに当たって参考になる動きをしているというような気がします。
外交上、インドで一番変わったのが印パ関係です。9.11 があり、パキスタンがアメリカ
にとって安全保障上重要な地域になったので、これだけはやめてくれ、という話をインド
側にもしていて、いわゆるカシミール問題です。この地域からインドは軍事的な整備をや
めています。インドとパキスタンは国境で交流をしています。少しずつ貿易も始まってい
ます。ただし、そのスピードは非常にスローです。しかもスローな部分をリードしている
のはインド側です。インドは自分の得になるようにここの領域を動かしています。逆に言
えば今の国際情勢において、インドを介して主要各国、米国、欧州、ロシア、中国、そし
て日本、またはその他の国が、インドを対第3国のカードとして使いたい。それに対して
パキスタンは何も言えない。切り札がない状態になっています。相対的にそれが印パ関係
のスローダウンになっています。全面的なダウンではなく、対話はしているのですが、前
にはなかなか進んでいないのです。インドペースのままで終わっているという状況になっ
ています。もちろんこれはインド側もアドバンテージがあるということは分かっています。
要は印パで戦争をしてしまうと、経済、貿易の足を引っ張る、マイナス影響になるという
ことを危惧している訳です。
もう1つ。インドは中国とも話をつけていて、中国とインドの間の貿易を2倍、3倍に
していこうと要人同士で話しをしています。その結果、中国とインドの国境問題はまった
く棚上げになっています。チベット問題もそうです。中国とインドがこれからいさかいを
起こすことは考えづらい状況になっています。
【インド経済】
少し経済の話をしたいと思います。経済の中でのポイントは、低成長からかなり変換し
てきていることです。民間消費が非常に好調に回っています。米国中心ですが、欧米から
の直接投資がかなり入っています。金額は中国に入っているのに比べて非常に規模は小さ
いのですが、今までインドに入っていた直接投資の金額から比べるとかなり規模は大きく
なっています。
この原油高を反映して、先ほど申し上げたように国内の原油に対する依存が3分の2と
いうことで、国内消費が盛り上がっているのに比例して、国内のエネルギー需要というの
も高まっています。原油輸入がかなり大きくなっています。経常収支がこの2、3年の間
に変わって赤字に転落しています。この点が今後のリスク要因として指摘できます。
もう1つ特徴的なのは、インドの成長率を見ると、とにかくこの 10 年くらい全体として
はプラス成長です。一番変動しているのが農業です。農業が経済全体に占める割合がかな
り変わっています。10 年前は5割でした。今は2割です。旱魃とか大洪水があって、この
国は綿花、米、小麦等を生産する、かなりの農業国なのですが、マイナスになっています。
農業面がマイナスになっても全体の経済はプラス、という部分が見られます。これがこの
10 年で大きく変わったところです。20 年前とは違います。極めて堅調に推移しています。
インドと中国を比べると、経済規模が中国は 1.4 兆ドルだと思います。インドはその半分
以下の 5000 億から 6000 億ドルの間だと思います。成長率のスピードは、例えば先進国を
思い出していただくと、日本が2~3%、欧州が2%以下、アメリカがいっても4%です
から、それよりも高い成長率ではあるということです。
ここ 10 年、15 年の成長率を見ますと平均 6%です。中国の 10%程度の極めて高い水準の
成長よりは劣りますが、世界的にみて、比較的高めの成長をインドも続けているのです。
特徴的なのがサービスセクターの部分です。IT、ソフトウェア開発で外国からの受け取
りが増えています。IT輸出と言っていいのかどうか分かりませんが、つまりソフトウェ
アを開発してその部分の見返りの受け取り金額がこの 10 年間で 70 億ドルから 2005 年で 150
億ドルへと倍になっています。
もう一つは、インドルピーが強くなっています。それでも輸出が増えているということ
は、相当国際競争力があると考えていいと思います。全体的なIT産業の規模は、だいた
い 200 億ドルから 220 億ドルで、今年は 280 億ドルくらいまでいっていると思います。も
う一つ最近変わったところは、輸入が4、5年前に比べ2倍強に増えています。その大部
分が原油輸入で、2003 年までは経常収支が黒字だったのですが、
2004 年は少し赤字になり、
2005 年はやや貿易赤字幅は拡大しています。
このようにインドルピーが強くなっているにも関わらず、外貨収入は増えています。で
すから、商社がインドで取引するにあたって、インドの資金繰りがまずくなる、いわゆる
通貨危機になるような状態は少なくとも5年くらいの間はないだろう、そのような可能性
は極めて低いと考えています。
国際収支のファイナンスの部分をどうやっているかということですが、先ほどの経常赤
字の部分と、IT輸出の部分のほかに、対外証券投資と直接投資の資本の流入でうまくカ
バーしています。先月、先々月くらいからちょっと金利が高くなり、いわゆるBRICs
と呼ばれるところからやや資金が逃げているのですが、私が見ますに、一方的にインドか
ら資金が逃げているかというとそうでもない。先ほどIT企業というのをご紹介しました
が、彼らの収益率は非常に高いのです。粗利益率で 30%くらいで、キャッシュフローがす
ごく豊富です。そういう企業がありますので、すべての証券投資が一方的に、インドから
流出し続ける、とは考えづらいのです。彼らはそれを十分承知していて子会社を上場した
り、M&Aしたり、活発なビジネス活動がみられます。日本と違いビジネスの分野では極
めて西欧的でM&Aがかなり盛んです。インドの企業が欧米のソフト企業を買ったり、イ
ンド資本の製薬会社が、例えばドイツやアメリカ、東ヨーロッパから来ています。それは
どういうことか、もう少し大きな話をしますと、ミッタル製鉄という世界的な会社があり
ます。会長はミッタルという、インド国籍がないインド人ですが、アルセロールという、
もうひとつの世界的な製薬会社の買収を計画しています。ミッタルがどういうふうにやっ
て大きくなったかというと、M&Aでしかも欧州のスクラップ化したような製鉄所を安く
買い叩いたのです。この2、3年で国際商品相場が上がって、鉄鋼製品が値上がりし、鉄
鋼製品、鉄鉱石需要の拡大で倍々利益になっています。キャッシュフローもかなりありま
す。もっと政治的な部分を申し上げると、ロシアの製鉄所とくっついてアルセロールの買
収云々みたいな話もしています。ということで欧州側は非常にびっくりしています。欧州
側ももちろん、鉄の再編で欧州の統合EUというのができました。自分たちの血と汗を流
してせっかくあそこまで鉄の技術を残したアルセロールを持っていかれるのは非常に嫌が
っていると私は思います。
再び、エネルギー分野の話に戻るのですが、先ほど申し上げたように、インドはエネルギ
ー分野でかなりの部分を占めるようになっています。つまり、産油ではなく消費の方です。
原油需要だけをとってみても、インドはドイツなどと同じくらいの原油を消費するような
大国になっているということです。これがこの 10 年くらいの大きな変化になっています。
インドも中国と同じようにエネルギーの確保のために相当一生懸命しています。例えば
2006 年 1 月に、リビアでインドのガス会社、石油会社で採掘権を取っています。日本と競
り勝ってまでも取っています。日本も三菱商事と石油資源開発が取っているのですが、イ
ンドも取っています。インドに6つくらいの石油資源会社があるのですが、これを2つか、
1つにまとめたいとインド政府は考えています。インドのエネルギー国営企業も中国と同
じように世界展開したいというようなことを考えていると聞いています。
次に投資の方に移らせていただきます。
インドへ投資している国は、インドが英国の植民地だったこともあり、英国、米国がほと
んどです。それから欧州という形になっています。日本も最近は相当検討しています。そ
れから日本のライバル、ある分野では日本のライバルではなくなってくる韓国からの投資
も相当あります。あとはモーリシャスで、モーリシャスはいわゆるタックス・ヘブンで、
印僑といってインド人なのですがインド以外に住んでいる非居住者インド人がここに一旦
お金を持ってきて、インドに投資しています。これら印僑の投資規模は、なかなか無視で
きなくなっています。もちろん米国系印橋、欧州系印橋の方がほとんどだということです。
インドの国内の中でどんな地域に投資が行われているかというと、北部の政治都市のデ
リーとその周辺、それから南部、それから西部のムンバイ、その辺りで 7 割くらいを占め
るということです。当然、インド全土に投資が行われている訳ではなく、やはり都市の中、
経済の動いている中核都市に投資は流れているわけです。
日本の対インド経済関係では民間の中で何が大きいかと申し上げるとやはり自動車にな
ります。製造業がほとんどという形になっています。ちなみにもう1つここで忘れてはい
けないのは、ODAの動きです。3年くらい前に日本は中国への円借款をサスペンドしま
した。その結果、インドが日本の円借款の最大の受入国になっています。金額的に申し上
げますと、私の記憶で年間 1200 億円から 1400 億円の間です。相当な額です。多分これが、
これから 10 年くらい続くと考えていいと思います。国際協力銀行もここにウェイトをおき
つつあります。主に何の円借款をするかというと、日本は原子力発電所はつくれませんが、
いわゆる発電所のアップグレイド、水道設備、道路、もう1つは日本の交通システムです。
三菱商事がやっているのですが、デリーに地下鉄が通りました。うまくできまして、他の
ムンバイとかバンガロールにも同じ地下鉄を通す計画ができています。マネージメントも
極めてうまくいっていて、デリーの交通渋滞を緩和したりして、新たな通勤ルートの開発、
新たな都市開発という動きになりました。都市交通システムというか、この部分では日本
はかなりマークされてくると思います。それはもちろんそれは逆に言えば、日本が今一生
懸命力を入れている自動車の部分があまりうまくいっていないから、というような気がし
ます。
【米国の対インド投資】
マイクロソフト、インテル、シスコなどが大きな投資をしています。例えば、マイクロ
ソフトですとマイクロソフトの次世代だとか次の次の世代の基本的なコンピューターソフ
トの開発の一大拠点としています。マイクロソフトのアメリカ以外の研究開発拠点の中で
最大規模です。
またGEにはジョン・ウェルチという有名な経営者がいたと思うのですが、ジョン・ウ
ェルチの名前を掲げた研究所をわざわざバンガロールに造っています。
半導体のインテルはどんなことをしているか正確にはよく分かりませんが、多分、開発・
設計をやっていて、半導体に関しては台湾系の企業も水面下でいろんな形で動いていると
聞いています。
米国はどの地域に投資しているかというと、先ほどの地域区分でいうとデリーではなく、
南部のバンガロール、それからチェンマイ、ハイデラバードなどに投資しています。現地
に実際に行けば分かると思いますが、まるで大学のキャンパスです。芝生が青々と茂って、
噴水があって、私が案内されたインフォシスというIT企業の本社には、森前首相が訪問
して、そこでちょっとゴルフのパットをしたというような非常に遊び心がある、余裕があ
るキャンパスです。建物のみの日本のIT企業とは違います。キャンパスの中の移動もゴ
ルフで使うカートで移動します。
シンガポールのインド投資はかなり勢いがあります。シンガポールは華僑の国です。中
国の工業団地ブームのときにも中国の不動産を確保してシンガポールの企業を引き連れて
いったりしています。
【インドのビジネス】
インドのリアルなビジネスのお話にいきますと、ITは米国中心、自動車は日本中心と
いうふうな話になっているように思います。また、韓国ですが、LG、それからサムソン
はインドの家電業界に相当入り込んでいます。テレビ、エアコン、冷蔵庫、掃除機、携帯
電話では、韓国のこの2社が相当のシェアを占めています。だいたい6割くらいを占めて
いると考えていいと思います。ですから、日本の家電はもう負けています。中国の家電メ
ーカーのハイアールも一生懸命やっていますが、なかなかシェアを取っていません。ノキ
アはインドでのシェアは最大ですが、韓国2社のシェアを合わせると負けています。そう
いう状況です。
もう1つ。自動車のヒュンダイは、インドで 10%くらいのシェアを持っていて日本のト
ヨタやホンダよりも四輪の世界では上になっています。インドの製造業の市場の中で、日
本はライバル韓国よりややちょっと後ろを走っています。
先ほどお話したインドのIT産業の中で、輸出のうち、ITが相当シェアを伸ばしてい
るという話だったのですが、経済全体でIT産業が占める割合といったらたった 5%程度で
す。雇用者数は 10 億人以上の人口のうち 100 万人ちょっとです。IT産業が伸びているの
だけれども、果たしてインド経済全体を大きく動かしているのかというと、どうかなとい
う感じです。確かに輸出額は大きいのですが、国内経済の跳ね返り、例えば民間消費にど
れだけ貢献しているかということについては、考えざるを得ない部分もあるということで
す。
今度は自動車の話です。
自動車のマーケットは非常に面白く、私はホンダの二輪車、四輪車、トヨタの四輪車の
工場に行ってきました。インド人のエンジニアもワーカーもきびきび動いていました。非
常に真面目です。ただ1つ気がかりなことがありまして、ちょっぴり労働争議が起きたり
するということだけは注意しなければならない、ということです。
インドの自動車産業で特徴的なのは 200 万台くらい売れているうちの6、7割が小型車
です。小型車が市場の大半です。この5、6年、1割くらいの年率で延びています。その
理由はいろいろありまして、まず、インドの自動車産業が政策的に開放されて税金が下が
りました。この税金は購入者が払うのではありません。販売する企業が払います。32%か
ら 24%になりましたが、
つい最近 16%まで下がりました。ですから販売価格が下がります。
もう一つは外資系企業が多数入っていることです。今、内外 17 社あります。欧州の企業、
日本企業、米国企業、韓国企業がいます。それから現地企業のスズキマルチがあります。
これらの企業が販売面でかなり競争して販売価格が低下しています。それから皆さんご存
知のように、最近ちょっと世界的に金利が上がっていますが、この 10 年くらい世界的に低
金利でしたからインドも低金利でした。2桁の金利が1桁になりました。ですから、例え
ば私が聞いているのは、5年くらいのローンを組んで、家を買うつもりで車を買う人も多
いそうです。
この国は先ほどから申し上げているカーストという面白い制度があり、女性がお嫁さん
に行くときにゴールドを持っていきます。結婚の儀式が終わるといきなり車やオートバイ
の販売が伸びるそうです。本当かどうかは分かりませんが、そのゴールドが車やオートバ
イに変わっていると言われます。いや、変わっているはずだと自動車産業の方から聞きま
した。こういったことが重なって、現状、自動車の販売は伸びているし、生産も伸びてい
ます。
この結果、インドはアジアで日本、中国、韓国に次ぐ4番目の自動車大国になっていま
す。ASEAN全体とインドは大体同じくらいです。
皆さんご承知かどうか分からないのですが、ASEANでは自動車の集積地というとタ
イなのです。どうしてかというと、ピックアップトラックの製造に特化しているからです。
けれども、インドでは先ほどから申し上げているように小型車に生産が集中しています。
トヨタは「世界戦略車の小型車をここで造ってやる」、というふうに少なくともインド現地
のトップの方はおっしゃっていました。ホンダも本気で小型車をどうやってやるかを考え
ています。なぜかというと今まで小型車としては、タタ・モーターズが造っている Indica
という車があり、これは 1000cc クラスです。ヒュンダイが造っている Santro という車も
1000cc クラスで、この他にフォードも造っているのですがこれも 1000cc です。スズキマル
チはアルトという軽自動車を導入しています。あとスイフトというもうちょっと大きなモ
デルを導入しているのですが、このスズキマルチとタタとヒュンダイといった小さな部分
で大体7割を占めます。つまり他のメーカーは何で戦っているかというと、ホンダは日本
のシビックみたいな車を造っています。少しスポーティーで、名前はシビックではなくて
シティです。トヨタはどんな車を造っているかというとSUVです。つまり、2200cc とか
2400cc の若者が乗るような大きな8人乗りのモデルを造っています。もちろん輸入でも車
を売っていまして、それはカムリです。これからインド市場を攻めるにつき、何を日本の
自動車企業の皆さんが考えているかというと、いかにしてこの小型車市場に攻めていくか
ということです。
あともう一つはオートバイについてです。車の市場規模が 200 万台で、オートバイが 600
万台です。オートバイも 50cc のオートバイではなく、125cc~250cc くらいまでの中型で3、
4人家族が乗れてしまうようなものです。ですから金額がやや高い。下手をすると日本円
で 30 万円~70 万円する。今、自動車の小型車も 80 万円くらいまで下がっています。です
から、もう少し小型車の価格が下がれば、ひょっとしたらモータリゼーションの可能性を
自動車企業の方々は考えているだろうと思います。
日本経済研究センターと一緒になって、予測をしたのですけれども、2020 年までには 310
万台の市場になるのではないかという計算をしています。では、ハードルは何か。道路で
す。道路交通がいろいろ問題になりまして、都市だけをとってみると非常に混雑していま
す。道路自体が少ないから集中するということもあるのですが、もう一つ、人力車とか家
畜、交通ルールをほとんど無視しているとか、そういったことで、交通インフラ、ソフト
の部分を含めてあまり整っていません。例えば高速道路に牛が通る。高速道路といっても
日本の高速道路のように舗装されていなかったりします。もちろん、道路の境目みたいな
ものはあるのですが、誰でも自由に横断できます。つまり四足動物と混在しているという
世界です。もちろんモンスーンもありますので、水没したといったこともかなりあります。
インド政府は 20 年くらいで地域間交通プロジェクトというか、しっかりした高速道路を造
るのだということを言っています。
【インド経済の弱み】
弱みって何だろうというふうに考えますと、やはり農業大国という面が見え隠れします。
貧困と農民というのが合わさった人口がだいたい約5億人います。その方々がどういうふ
うな商品を買っていくのかという予測が困難です。つまり中間所得層というのがいるのか
どうか分からない。
とにかく、貧困層というのが大きく、しかも田舎に住んでいる。だから都市だけをみて
いても、全体の今後を予想する場合、注意しなくてはならない、と考えます。
それから先ほど申し上げたようにインフラです。日本企業が進出するにあたっては、物
を作る時はインド政府、または地方政府の力を借りずに、ある程度自前で自家発電なり水
を買っておくなどしないとダメです。したがってよくあるケースは、インドの財閥が造っ
た工業団地などに入ることです。または、工業団地そのものを日本企業で造るかどうかと
いうことを本気になって考えないと、日本の国全体としてインド投資がグローバルなポー
トフォリオの中でスムーズに、長く持続していかないのだろうなという気がします。
進出した後は、exit、policy という点でなかなか難しい場合もあります。やはり、この
辺は手が付けられていません。インド人を雇う場合、労働者側は労働組合をつくる権利が
発生します。だからインドでオペレーションするにあたって、インド人のコンサルタント
もいっぱいいますが、その辺の変なコンサルタントを使うとまったくやられてしまいます。
きちんとしたコンサルタントを使っても、例えば、自動車の企業などは年に1、2度スト
ライキなどが発生することもめずらしくありません。もちろん、手はずがないわけではあ
りません。例えばよく聞くのは、結構インド人は権力に弱いので、現地の治安関係の方に
間に入ってもらうなどです。もう一つはインド人というのは非常に余暇が限られた文化で、
テレビが唯一の文化です。だからサムスンとか、ヒュンダイはインド人向けの大型テレビ
を造ってかなりのシェアをとっている。その代わりとして日本人ができるのは昔の日本企
業のようにお祭りをする、運動会をする、つまり会社で宴会を開くということです。これ
はすごく喜びます。家族まで連れてきていい、となると尚喜びます。それだけで、俺はい
い会社に入った、と思う傾向はあります。ロイヤリティーはイギリスが植民地で成功して
いるため非常に強いです。だからその辺をうまく使うことが必要なのかなと思います。
あと一つ、これはまったく個人的な意見を言わせていただきます。今、東アジア共同体
構想について、日本の首相も含めて集まっているのですが、話し合いだけで終わっていま
す。今後は要人が集まったときに、これは民間の責任でもあるのですが、政府を動かすよ
うなプロジェクトを1つやったらいいと思います。私が思うのは飛行機と軍事的な衛星で
す。それとGPSなんかの通信ネットワークを日本とインドが核となって、アメリカと話
し合いを付けて、アジアで分業化するのがいいと思います。なぜかというと飛行機はこの
20 年で世界の需要が約2兆ドルです。そのうち3分の1、つまり 6000 億ドルがアジアの市
場です。しかし、6000 億ドルでアジア産の飛行機を造れない。日本というのはゼロ戦の技
術があるので皆造りたい。もちろん 6000 億ドルのうち全部はやる必要はないと思います。
安全保障の関係で、爆弾を積んでアメリカまで飛んでしまうと困ると向こうも考えていま
すから、その辺は政治の方々のサポートも受け、話をつけないといけませんし、難しいと
思います。でも、プロジェクトとして、電力とか運河とか、道路とかというのではなくて、
アジアにとって、日本にとって、製造という部分で新たな分野への一つの挑戦になると思
います。しかも、アジア開発銀行とか国際協力銀行とか日本政策投資銀行で次の案件がな
い。貸し出し場所がない。しかも日本はアジアにおいては金融資産を潤沢に持っています。
IT技術を活かした航空シミュレーションなどのシステムもインドで開発してもらう。マ
レーシアにも航空機部品の一部を製造してもらうなど、いろんなことを考えてもいいので
はないでしょうか。もう一つはそれに加えて、GPSです。皆さんご承知のようにアメリ
カと日本はGPSについて共同で開発しています。でもその共同開発システムは、緊急の
場合、アメリカの軍事の方を優先するのです。しかも、盗聴される可能性があります。そ
れに気づいた欧州はガリレオというのを独自に掲げて、独自にGPS同様のシステムを開
発してやろうとしています。それなら、アジアでも少し検討してもいいのではないか。そ
んなことを考えてもいいのではないかと思います。アジアでも中国、インド、日本はロケ
ットを上げています。それに衛星を上げてネットワークでアジア版のGPS、アジア版ガ
リレオみたいなものをやってみたらいいのではないでしょうか。
【質疑応答】
Q: 農村人口が 95%で、しかも農業のGDPに占める割合が 50%から 20%に下がってい
る。人口移動はほとんどないに等しい。しかし実体経済から言えば、民間消費が引っ
張っている。しかも極貧層が3億から4億いる。これはどういう経済なのでしょうか?
次に、今のところはオブザーバーのようですが、上海協力機構にコミットするイン
ドの狙いというのは何でしょう?
A: 最初の質問ですが、これはインドのいわゆる消費者層というのはどのくらいなのか。
いろんな方がいろんなことをおっしゃっているのですが、これは極めて難しいと思い
ます。中国には2億人、中間所得層といわれるテレビを買え、ある程度のマンション
に住み、自動車を持っているという層がいるという話なのですが、インドも潤ってい
るのです。例えば、インドの現地資本、今まで石油関係をしていた会社がわざわざ 30
ヶ所でスーパーマーケットを造り始めています。
もう一つは、中間所得層がどれくらいの所得レベルなのかという実質的なサーベイ
がありません。月収が 100 ドルだけだとしても、以外に豊かなのです。日常的な物価
レベルから言うと日本の5分の1とかいう話なのです。デリーとかムンバイとかの郊
外でランチを食べると、今、1ルピー2.5 円なのですが、だいたい3ルピーとかそのく
らいで食べられます。つまり日本円で言うと 10 円以下です。それでナンとインドカレ
ーが食べられます。
お答えになっていなくて申し訳ないのですが、中間所得層がどれくらいいるかとい
う話ですと、5000 万人から1億人くらいは少なくともいるのではないでしょうか。や
や大きな場合の見積もりでは、2億人くらい、という話をいろいろな研究会で聞いて
います。
2番目の上海協力機構の話ですが、私はイランとインドの関係で、上海協力機構は
相当前から注目しています。この前、記念大会を開きました。何かあった場合に、イ
ンドはアメリカを牽制したいんだということですね。アメリカから一応武器を買うと
いう姿勢は見せていますが、先ほど申し上げたようにやはりロシアから買うと思いま
す。理由を申し上げると、冷戦の時、インドは米国にアプローチしたのですが、まっ
たく振り返ってもらえなかった。それで仕方なく、ロシアと手を結んだ。つまり、貿
易関係の場合、ロシア製の武器も買う、その資金もロシアから借りるといったことで
す。中国ともそれまでは喧嘩していたけれども、先ほど申し上げましたが、国境問題
とチベット問題を棚上げして、曲がりなりにも話は付けました。それではオブザーバ
ー参加くらいだったらいいだろう。米国の出方によっては、正式参加もありえる。先
ほど話しましたように、米国-イラン関係の動きをよく見て、イランからのガスパイ
プラインも引く。インドはそういう外交関係を操れます。これはこれ、あれはあれと。
2国間の外交関係に他の部分の動きはまったく別個のものだと主張し、それを逆にカ
ットするような外交路線、国際関係を築いていくような気がします。
Q:
2点質問があります。まず自動車産業の話。国内で売っているというのは分かった
のですが、国外への輸出に目を向けられるのかどうか。
2点目が、例えば日本企業がインドで工場を建てようとする際、規制みたいなもの
があるとすればどういうところか、コメントいただければありがたいです。
A:
基本的にインドの自動車企業で、輸出比率が高いのはフォード、ヒュンダイ、タタ
です。フォードは極めて高く、生産量のうち 40%くらい輸出しています。その次に高
いのがヒュンダイという順です。基本的にはその3社を除くと、自動車産業はインド
国内をまず見ていると考えていいと思います。ただ、今後は原油高の中で、小型車が
自動車産業のトレンドだとすると、インドで安く造って、その周辺国、それからオイ
ルマネーで潤っている中東にしっかり売るとか、アフリカに売るとか、または金属マ
ネーで潤っている豪州に売るとかいうことが考えられます。もちろん、東南アジアで
も、ピックアップトラックばかり造っているタイとかに、小型車であればインドから、
という動きが出てくるかもしれません。もう一つ、インドとタイの間では、今、FT
Aが整っていまして、自動車関連の関税が低減され、数年後に関税ゼロという話にな
っていますので、いろいろな流れがこれから起きる可能性があります。現実に、例え
ば、どのメーカーもエンジンまではまだ造っていませんが、トランスミッションとか、
かなりエンジンに近い部分まで現地で造っています。トヨタは、トヨタ自動織機がト
ランスミッションを生産していますから、ここをトランスミッションの世界的な拠点
にする可能性はあるかもしれません。これはどういうことかというと、トヨタの工場
に行ってきましたが、工場のうちの使っているのはほんの4分の1です。あとの4分
の3は丸々空いていました。ホンダは空いている建物がかなりありました。カウント
しただけで、5つくらいありました。今、3万~4万台造っているのですが、「あと2
万台くらい平気で造れますね」と言ったら、笑って答えてくれませんでした。
ということで、自動車企業がどういう時点でどういうことをするか、いろいろ考え
ていると思いますが、日本企業については今のところは国内でどうするか、という段
階です。シェアがまだ5%くらいなので、それを確保してから外に出てくるのかな、
という気がします。
もう一つ立地のことを申し上げますと、ホンダ、スズキはニューデリー、トヨタが
バンガロール、輸出比率の高いヒュンダイとフォードはチェンナイです。チェンナイ
の港から1時間以内で十分行ける所です。ですからやはり立地によって考えることは
違うんだなという気がします。
参入規制については、自動車は完全に自由化しています。逆にインセンティブをつ
けているところがあって、例えばトヨタはバンガロールに拠点を持っていますが、州
政府が完全に土地をトヨタのために用意して、水、電力供給も相当協力しています。
ですから自動車に関しては、参入規制というよりもインセンティブを受けられる所に
立地するというような動きになっています。IT産業も多分そうだと思います。流通
や金融などは一部参入規制があります。
Q:
スズキ自動車が先に進出して、他の日本のメーカーは行っていなかった時もスズキ
はいたから、スズキの軽自動車のシェアが最近になって伸びているということを聞い
たのですが、そういうことはあるのですか?
A:
経緯から先に申し上げますと、ガンジーという名前を先ほど出しましたが、マルチ
というのはガンジー家肝いりの会社なのです。そのマルチを育てようというインドの
国策もあって、日本の技術を入れたいと複数の自動車メーカーに話に行きました。そ
の中で「インドなんか」と言われまして、20 年前ですから。その中でそれでも行くと
決めたのがスズキだったと聞いています。それ以来、スズキはマルチと技術的にも資
本的にも関係が深くなっていったようです。私が聞いているのは、去年の8月くらい
だった思いますが、スズキの資本が過半数以上ということに対して裁判沙汰一歩手前
というところまでいったのですが、最終的には、スズキが経営の本筋、主導権を握る
というのが決まりました。ただ、インド側もそれに対してやや抵抗もあったようです。
しかし、やはりスズキが日本のメーカーということもインド側は十分考慮し、今後の
ことも考えたいということでしょう。また、インド国内ではマルチというブランドも
確立されています。さらに、今は世界戦略車のスイフトという車が相当伸びていると
聞いています。マルチ・スズキはシェア自体は低下しているのですが、販売台数は伸
びています。つまり、10 年くくり、20 年くくりでいうと、インドの自動車産業を引っ
張ってきたのはスズキマルチだということは間違いない。自動車産業自体をインドの
国として、ある程度世界での競争力を持つために開放していくんだ、ということでス
ズキとマルチをお見合いさせたという経緯だと思います。
言い換えれば、地場の資本はマーケットで確立させておいて、ある程度育てた上で
外からその業界を開放していくというやり方だと思います。それが 10 年とか 15 年と
いう時間がかかるので、分かりにくいところがあるのですが、そういった形で経済が
発展を遂げ始めている。自動車業界はその典型だと思います。
Q:
今、中国の工場のワーカークラスの給料が月1万円くらいだと言われているのです
が、インドでは、幾らくらいでしょうか。
A:
賃金がどのくらいかというのは、今ちょっと思い出せないのですが、基本的に申し
上げると、日本企業に勤めるような方は限られています。まず、英語ができることが
絶対条件です。それから、少なくとも大学を出ている大エリートです。このくらいの
方の賃金は中国の労働者の賃金と遜色ないと思います。だから安くないと思います。
安くないけれども、きちっと働きます。残業までします。残業以上に働く場合もあり
ます。インド進出の日系企業にヒアリングすると、どの企業でもインド人現地スタッ
フにパワーポイントを作らせると5、6時間くらいで 100 枚くらい平気で作ってしま
います。そういうレベルの方がたくさんいて、そういう方の賃金は高いと思います。
逆に自動車工場の賃金については、後ほど送らせていただきますが、世界標準から
比べて安いと思います。ただし、インドの中で比べると、自動車企業は他業界の工場
よりも高いと思います。トヨタの現地人従業員に「トヨタの車を持っているか」と聞
きました。案内してくれたワーカーより少し上のミドル・マネジメントクラスの 30 歳
くらいの方でした。「いや僕はホンダのオートバイに乗っている。まだ独身だ。まだ車
はいらないからホンダに乗っている」と言っていました。
「車は何が欲しい?」と聞い
たら「いやあ、トヨタの車は高いから、スズキのアルトかスイフトか。もう少し行っ
たらホンダかな?」と笑っていました。そりゃトヨタは高いです。トヨタの造ってい
るSリミテッドは日本円で 400 万円ですから。そういうレベルです。私が4月にイン
ドに行ったときに、タクシーの運転手と話しをしました。4人家族で、軍人の次男で
北部の出身、マンションに住み、車も中古で持っていて、エアコンはないが、冷蔵庫
を持ち、洗濯機も持っているとのことでした。ホテルの制服を着て、トヨタのカムリ
くらいを運転するドライバーなのですが、そのくらいの水準です。どんなマンション
かは分かりませんが。ただ、奥さんは教師で共働きだということでした。そういう方々
でも、中古でも小さい車と洗濯機と冷蔵庫くらいは持っています。
渡辺理事長:
最初の質問をずっと考えていたのですが、巨大な国が市場経済化していく、巨大な
社会主義国家が市場経済化していく場合にそういうことはよく起こりうるだろうと思
うのです。中国は社会主義から市場経済、これはよく知られていることですけれども、
インドもご承知のように社会主義型社会から市場経済です。しかも、中国もインドも
共に分権的な傾向がもともと伝統的に強い、現在でもなおそうです。そうなるとマー
ケット自身も市場経済化を起こしていく過程で一挙にそれが進まない。そうすると全
体を平均値で見ると解釈のできないことがたくさん出てくるということです。中国も
そうです。これは王さんが話してくれたことですが、3層経済ということを言ってい
て、1本 10 円や 100 円の歯磨きもあるし、1万円の歯磨きもあって、どれもが売れて
いるという。インドのことを私も知っているわけではありませんが、そのようなこと
はありえます。三層の経済がそれぞれ循環しています。それを平均して出した値にさ
したる意味はないということはあるのではないかと思います。
私たちは発展した市場経済の中に住んでいるので、ついそういう目で見てしまう癖
があると思うのですが、勝手ながらそういうことをイメージしました。
また、もう一つの上海協力機構ですが、これは、私の見立ても同じではないかと思
うのですが、要するにアフガニスタンとイラクが米軍の侵攻以来、中央アジアが米軍
の制空権下に置かれました。中国は海と奥地をだいぶ前から米軍に押さえられていま
す。なんとかそれを牽制しなければいけないということで出した、一つの非常に緩や
かな協力機構だと思います。ましてや同盟になる可能性はないだろうと思います。ア
メリカを牽制する共通の目的を持った国ならいらっしゃい、ということです。インド
も独創的なバランスを考えながら外交をしている国なので、本気で上海協力機構のメ
イン・プレーヤーになろうとは考えていないのではないかと思います。アメリカに対
抗するような同盟関係になるとは到底思えません。50 年先とかもっと先のことは分か
りませんが。そういう意味で、インドが軽い気持ちで入っている。受け取る方も軽い
気持ちで受け取っている、という印象があります。
(平成 18 年 6 月 23 日開催)
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