初めての支援学級担任

初めての支援学級担任
~子どもの表現に寄り添って~
八尾市立山本小学校
佐藤寛幸
1.はじめに
今年度、初めて支援学級の担任になりました。今年度増学級になり、しかも昨年までの担任が転
勤・退職し、介助員以外メンバーが総替わりしました。昨年度末に前担任から子どもたち一人ひと
りの引き継ぎはあったものの、教室のどこに何があり、支援学級でどんな行事が行われ、どんな書
類を提出しなければならないのかもわからない、そんな中で新年度を迎えました。
今の学校に来て今年で6年目、どの子が支援学級在籍児童かは知っているものの、その子たちが
普段学校でどう過ごしているのかまでは知りませんでした。全く初めてのことばかりなので、まず
は作文や絵、さまざまな言動などを子どもたちの「表現」ととらえ、子どもたち一人ひとりのこと
を知ることから始めました。そして子どもたちや保護者とどうつながっていくか試行錯誤しながら
取組を始めました。
2.支援学級でいつもしていること
本校の支援学級では、1年生以外の子どもたちは国語と算数を支援学級で学習しています。図工
や家庭科の調理実習なども、必要に応じて入り込んで支援しています。1年生は支援学級担任が通
常の学級に入り込んで支援をしています。週に1時間合科の授業を設け、工作や貼り絵、買い物学
習やサツマイモ作り、調理実習などをしています。各学年と支援学級との交流会があるので、その
練習をする時もあります。しかし、合科の時間が1時間目に設定されているため、通常の学級での
朝の会が長引いたり遅れて登校する子がいたりするので、合科の時間に全員がそろうことは滅多に
ありません。
昨年度までは支援学級の学級通信「さくらだより」を月1回発行していました。今年は担任が全
員替わってしまったのと、少しでも子どもたちの学校での様子を知らせたい、支援学級の保護者と
仲良くなりたいという思いから、担任3人で協力して「さくらだより」をほぼ毎日発行することに
しました。
(私が編集発行、3人で協力してネタ集め)子どもたちの普段の様子、子どもたちのつ
ぶやき、子どもたちが書いた作文、絵、写真などを載せ、スペースがあれば詩を載せています。支
援学級の子どもたちに言葉の力をつけてほしい、言葉を楽しんでほしいという思いから、できるだ
け多くの詩を紹介することにしました。
3.子どもたち一人ひとりの表現に寄り添って
○Aくん(2年生)
1年生の時、通常の学級で彼を担任しました。本が大好きで、一度読み始めると最後まで熱心に
読み続けます。初めてのことに対する警戒心が非常に強いです。友だちが大好きで一緒に遊びます
が、人とのかかわりがあまり上手でないので、いつもトラブルになってしまいます。気分にむらが
あり、なかなか机に向かって学習できませんでした。1年生の時は支援学級に来ても遊んでばかり
でした。
入学当初は小学校生活に慣れずパニックを起こして暴れることが多かったのですが、2年生にな
り暴れることはほとんどなくなりました。しかし勉強するまでに非常に時間がかかります。進級当
初は勉強をほとんどせず遊んでばかりでしたが、「○時になったら勉強しよう。それが終わったら
遊ぼうよ。
」と約束事を決めると、少しずつ学習できるようになりました。
昨年通常の学級で担任した時に日記や作文に取組ました。その時、Aくんも書いてくれました。
昨年使っていた日記用の紙を渡すと、次の文を書きました。
タイをつったこと
A
タイをつった。いっしょに いったのは、オレと おとうさんと おかあさん。はじめに つったの
が オレで あとが おかあさん。あと かえったら タイめし くった。おいしかった。タイが おと
うさんの ゆび たべよった。しかも はり ちょっと とるの じかん かかった。
家族で釣りに行ったのがうれしかったことが文章からよくわかります。釣ったタイを使って食べ
たタイめし、とてもおいしかったのでしょうね。「おとうさんの
ゆび
たべよった」という表現
がとてもおもしろいです。料理される前のタイの最後の抵抗だったのでしょう。Aくんの「たべよ
った」という表現から、その時の驚きがよく伝わってきます。
2学期になり新しいクラスに慣れたのか、クラスの友だちとかかわることが増えてきました。A
くんは大好きなポケモンのことを文に書いて友だちに教えるようになりました。Aくんは1年生の
時は作文を縦罫線の紙でしか書かなかったのに、今回はマス目の紙に書いています。
(図 1)Aくん
の成長を感じました。
先日運動会がありました。昨年は運動会の練習の時ずっと教室に
いて一度も顔を見せませんでした。しかし今年は練習すべてに顔を
出し、大玉ころがしの練習2回とかけっこの練習1回に参加しまし
た。運動会当日は運動場の隅にはいましたが、競技には残念ながら
参加できませんでした。
(大玉ころがしの時は入場門の近くまで行っ
たのですが、あと一息のところで参加できませんでした。
)昨年は運
動会の様子をずっと教室の窓から見ているだけだったので、一歩前
進だと思っています。来年は何か一種目でも参加できたらと願って
います。
○Bくん(2年生)
Bくんはいつもニコニコしていて、おしゃべりをよくしてくれま
す。トーマスとアンパンマンが大好きで、絵本を読み聞かせるとい
図 1
Aくんの作文
つも大喜びします。歌うことも大好きです。ひらがなはまだまだ読めない字があるものの、耳から
聞いたことをよく覚えています。体が不自由で学校では車いす(姿勢保持いす)で生活をしていま
す。
支援学級でBくんと毎日接してみると、ちょっとしたBくんの変化に気づき、日々の成長に
驚かされることばかりです。しかし支援学級でBくんと毎日接してみると、できることが思った
以上に多いことがわかり、とても驚きました。Bくんは毎週1、2回放課後に機能訓練を受けてい
ます。私も何度か訓練の様子を見学に行きました。訓練をがんばれば将来自力で歩くことができ、
トイレにも一人で行けるようになるという話を聞きました。訓練で見てきたことを授業に取り入れ
るようにしました。
『発達の扉』という本の中に「発達年齢」と「生活年齢」のことが書かれていました。Bくんに
は好きな子が何人かいて、支援学級で勉強していると「Lちゃん、かわいいねん。好きやねん。」
などと話してくれます。Bくんはみんなから「かわいい」と頭をなでられてかわいがられています
が、Bくんは間違いなく8歳の男の子なのだとその時感じました。ひらがなのカードを並べて、ク
ラスメイトの名前を作る練習をしています。その授業の最後に必ず好きな子の名前を作っています。
Bくんはその時大喜びで並べます。最初は間違えていましたが、少しずつ間違えずに並べられるよ
うになってきています。
Bくんは絵を描くのが好きです。手が自由に動かないので、こちらが手を添えて一緒にトーマス
の絵を描きます。Bくんも他の子と同じように「できるようになりたい」と願っているのです。
Bくんはお話したいことがいっぱいあるので、口頭作文(子どもが話したことをこちらが書き取
ること)をしました。何編か紹介します。
(6月3日)
学校おわってから
してたら
二色のはまに行った。海のとこ
いっぱい
お水がきて
きっしょい虫が
いって
足スリッパはいた。チャプチャプ
おったで。
(6月10日)
にしごおりでハマーしました。ビューンって
はしった。ハマー
くさむらで
早く
はしって
バックした。リモコンおした。
おうちで
Iちゃん
目つぶって
ねてた。そんとき
Jちゃん
ゲームしてた。
(7月16日)
海で
かあちゃんと
とうちゃんと
りに いきました。とうちゃんと
べるとき
手
とうちゃん
ひざに
とうちゃんの足と
べんとうを
すわって
たべました。それで歩いて貝をと
海に入ったんです。おぼれたんです。ゴホンゴホンなった。た
毛
たくさん
とうちゃんの手
あったんです。じっちゃんの足と
すなまみれになってん。どろまみれに
って おふろ入ってん。
「いやや。
」って言った。おふろ入れへんかったから
られた。車で
アルファードとかゴロンして
じっちゃんの
なってん。かえ
かあちゃんに
おこ
あそんだ。
(夏休みのこと)
かがわけんの
レオマワールド行った。ホテルでプールいった。こうえん
のった。Iちゃんは
空とぶやつ
ードと
いった。レストランいって
モビリオで
のった。じいじと
ばあばと
ごはん
いった。ゴーカート
いっしょに
たべた。チョコレート、ホットケーキ
たべた。カラオケいった。じいじは「きたのりょうば」うたった。くらくなって
えに カップヌードルの
ちがえて
のんだら
いった。アルファ
ねてた。ねるま
カレーたべた。からいやつ。レモンティーのんだ。じいじの
ジョリパで
ゲー
くすり
ま
はいた。
Bくんが話してくれたことをこちらが書き取り、「さくらだより」に載せて紹介しました。何回
かするうちに「~も書いといて!」と言うようになり、自分の話したことが文章になり他の人に読
まれることを楽しみにしていることがわかりました。ゆっくりですが、Bくんも着実に成長してい
ます。
○Cくん(6年生)
いつも笑顔でニコニコしています。3年生まではこちらが声かけをしてもニコニコするだけで返
事してくれることはありませんでしたが、4年生ぐらいから名前を呼んだり声を発することが多く
なりました。Cくんは仮面ライダーの本を読むのが大好きです。支援学級で早めに学習が終わると、
仮面ライダーの本を読みながら一人でたたかいごっこをするのを楽しみにしています。遊んでいる
最中に私たちの姿を見かけると、私たちの方をずっと見ながら一人で遊んでいるのですが、「一緒
に遊ぼう」と声かけをして寄っていくと嫌がります。Cくんなりの遊びのルールがあるようです。
ある日、2年生のAくんが仮面ライダーの本を読んでいました。CくんはAくんの様子を遠くか
らじっと見ているだけです。本当は本を返してほしいのに「読みたいから返して!」と言えないの
です。
(Aくんも、Cくんが読みたがってるのを知ってて、わざと返さない。
)前にAくんを怒った
ことがあったのですが、その時Cくんは怒られているAくんを見て喜んでいました。自分がAくん
に何も言えないから、自分の代わりに怒ってもらえたのがうれしかったのでしょう。しかし、それ
ではだめだと思い「Cくん、『本返して!』って自分で言ってごらん」と声かけしました。しばら
くして、Cくんは小さな声で「かえして…」と言えたのです。
Cくんは書くことが苦手です。今までそういう経験をしてこなかったのかもしれません。6月に
児童会主催のフェスティバル(クラスでお店を出す)が終わったあと、フェスティバルのことを話
してもらい、支援学級担任が書き取ったものを自分で書き写しました。
(図 2)
自分が話したことが文章になる、Cくんにもこういう経験が必要なのだと感じました。
図 2 B くんの作文
Cくんは今年、運動会で組体操をがんばりました。自分の腕で体を支えることができずに最初は
苦労しましたが、慣れてくるとクラスの友だちの協力のおかげでいろいろな技を教師の補助なしに
できるようになりました。運動会本番では素晴らしい演技を披露し、みんなの感動を誘いました。
自分の力でやりとげたという自信が、Cくんの生き生きした表情から感じられました。
○Dくん(5年生)
支援学級で一番のしっかり者です。ポケモンが大好きで、支援学級に置
いてあるブロックでいろいろなものを作って楽しんでいます。しかし、自
分のできないことがあると「できない!できない!」とパニックを起こし
ます。パニックを起こしているDくんを見ると、(Dくんも賢くなりたい
んやな。けど、そう思ってても勉強がわからんから、そのギャップに苦し
んでるんやろな。プリントを何がなんでもしないといけないと、自分で自
分を追い込んでいるんだろうな…)と感じました。Dくんには普段の学校
図 3
Cくんの絵
での学習だけでなく、もっと自己肯定感を高める取組が必要だと感じました。
Dくんはポケモンが好きで、自由帳に好きなポケモンを書き写しています。それをコピーしてさ
くらだよりに載せました(図3)。「えーっ、いややー。」と言いながらも、Dくんはうれしそうな
表情をしていました。
2学期の始めに、Dくんが夏休みのことを書いてくれました。
淡路島
D
夏休みに淡路島に行った。かぞくとおじいちゃんとおばあちゃんとで六人で行った。
ホテルに行った。まず最初にプールに行ってクロールしようと思ったけれど人がいっぱいでちょ
っとしかできなかった。上を向いてプカプカ浮いた。気持ちよかったです。ホテルの部屋で兄ちゃ
んとあばれた。
それからイオンに行った。ポケモン下じきと遊戯王カードを買ってポケモントレッターでゲーム
をして遊んだ。トレッター一こもらった。イオンの中でマクドナルドで食べました。夜に花火を見
に行った。すぐ近くで見たのでドーンドーンと大きな音だった。のどがかわいたのでサイダーを飲
んだ。
二日目に朝ごはんを食べた。海に行った。浮き輪で足をバタバタした。8時半にイベントが始ま
るので行った。かっこいいかばんをゲットした。黄色のワンピースのカバンだった。
車で帰った。
分からない漢字を支援学級担任に教えてもらいながら書きました。(漢字がわからなかったら、
ひらがなで書いてもいいのに…)と思いましたが、Dくんはどうしても漢字で書きたかったのでし
ょう。Dくんのその思いは大事にしたいですし、Dくんが自分の思いを自由に書けるように取り組
んでいきたいです。
○Eくん(1年生)
絵と電化製品が大好きです。とても人懐っこくて、みんなからかわいがられています。マイペー
スで教室を飛び出すこともあり、教室まで連れ戻される姿を見かけることもあります。Eくんが「E
くんワールド」という絵を描いてお話をしてくれました。
(図4)
Eくんのキャンプじょう
Eくんワールドの
もりの
つの
なかには
ひみつの
なちゃんと
んげんは
ん。(いつも
カレーと
スライムが
しま。
おはなしを
いっぱい。
している。な
ブルースライムと
おともだち
に
4にんです。
かんどうく
ないている。)ちゃいろは
ペンペ
そうりょうくん。レストラン
エビフライを
キャンプじょうに
(口頭作文)
いっぱい。ひみ
おちごん。オレンジは
ルー。むらさきは
ょうに
やくそうが
ろっくんと
Eくんと
みどりは
で
えです。ちっちゃい
むら。おへやに
Eくんは
E
図 4
Dくんの絵
たべる。
じゅうみんも
いきたいなぁ。Fくんと
おるで。キャンプは
Gくんと
いっかいも
いってない。キャンプじ
Hくん(Gくんの双子の兄)も
いっしょに
きて
もらう。あんないは
Kせんせい。
一年生にとっては自分の世界を作ってお話をする経験も必要なのかもしれません。
○Fくん(1年生)
絵とおしゃべり(独り言)がとても大好きで、
支援学級でいつも好きな絵を描いています。
(右図)初めてのことに対する不安が大きく、
お母さんと離れるのが入学当初は辛かったよ
うです。学校では支援学級担任にべったりで、
その担任と離れる時もかなり不安そうにして
いましたが、学校生活に慣れてくると約束を守
って一人でがんばって過ごせるようになって
きました。教室での授業が嫌になるとすぐ隣に
ある支援学級にやってきます。そして好きな絵
図 5
Eくんの絵
を描いたり支援学級担任とお話をしたりして
過ごしています。
ずっと独り言を言うのでどうしたものかと思い、Fくんの様子を見ていました。すると一人でい
る時は何もしゃべらず、誰かが同じ空間にいるのがわかると独り言が始まることに気がつきました。
つまり、独り言はFくんなりのコミュニケーションであることがわかったのです。そうすると、F
くん独特の独り言が「せんせい、~だよ」と言っているように聞こえてきました。二学期に、Fく
んと漫才みたいな会話をして楽しみました。Fくんはそのことがおもしろかったようで、私を見る
たびに冗談を言ってきます。少しずつFくんの話し言葉が変わってきつつあります。
4.おわりに
支援学級担任になって7ヶ月が過ぎました。子どもたち一人ひとりのことはおよそわかってきま
した。子どもたちも新しい支援学級担任に慣れてきたようで、少しずつ自分を出せるようになって
きました。しかし子どもたち同士をつなぐこと、支援学級の子と通常の学級の子をつなぐこと、保
護者同士をつなぐ取組がまだまだできていません。
私が学んでいる民間教育サークル「なにわ作文の会」の先輩が「障がい児教育は教育の原点」だ
と言っていました。支援学級担任になって最初はとまどうことばかりでしたが、結局は通常の学級
を担任していた時とやっていることは変わらないことが気づきました。
これからも子どものことを知り、子どもに寄り添い、人と人とをつなぐ仕事をしていきたいと思
います。
5.参考文献
(1)白石正久(1994)『発達の扉〈上〉子どもの発達の道すじ』かもがわ出版
(2)白石正久(1996)『発達の扉〈下〉障害児の保育・教育・子育て』かもがわ出版