HIV感染症 プライマリケア 診療ガイド

これなら大丈夫!
HIV感染症
プライマリケア
診療ガイド
Ver.2
「HIV感染症プライマリケア診療
ガイド」を監修するにあたって
HIV感染症・エイズというと大学病院や総合病院
でしか診療できない“特殊な疾患”というイメージが
あるかも知れません。しかし近年は治療薬の進歩
によって,患者さんの多くは抗ウイルス薬を内服し
続けることで元気に日常生活を送り,仕事も続ける
ことができ,健康な人と同じくらい長生きできる時代
となりました。
現在,広島大学病院でも2~3ヶ月に一度診察の
ために外来通院し,定期的な血液検査と投薬調整
を行っている患者さんがほとんどです。脂質異常症,
糖尿病や高血圧などの生活習慣病を合併する患
者さんも多く見られます。日常診療では慢性疾患と
しての管理が主体で,むしろ地域の先生方のお力
を発揮して頂けることの方が多いのです。今後社会
全体の高齢化に伴ってHIV患者さんも高齢化を迎
え,合併症を抱える方が増えることは避けられませ
ん。その時にこそ医療機関の連携が必要となりま
す。
この診療ガイドでは専門病院でなくともHIV感染症
の患者さんを診療できるよう,HIV感染症に関する
基礎知識,日常診療の管理,曝露事故対策などを
わかりやすく記載しました。この冊子が先生方の日
常診療のお役に立てれば幸いです。
広島大学病院 輸血部 齊藤誠司
HIVとAIDSの違い
生まれつきでは
なく
体を異物から守
るシステム
うまく働かない
S
Acquired
後天性
Immune
免疫
Deficiency
不全
Syndrome
症候群
H
Human
ヒト
人間に感
染する
I
Immunodeficiency
V
Virus
ウイルス
A
I
D
1
様々な症状
免疫不全
免疫を働
かせなく
する
病原体の
一種
•
エイズを引き起こす原因ウイルスがヒト
免疫不全ウイルス(HIV)です。HIVに感
染して,何年かすると“エイズ”という状
態になります。
•
“エイズ”と呼べる状態になるには,診断
基準(世界保健機構,厚労省)を満たす
必要があります。
•
診断基準を満たすには23の日和見疾患
(6ページ参照)のうち一つ以上発症する
こと,があります。
•
HIV感染症を診断したら,第5類感染症
として所轄の保健所に7日以内に報告し
ます。
•
市町村の保健所では無料・匿名HIV抗
体検査を行っています。
HIV≠AIDS
2
HIVによる免疫不全とは
好中球
好酸球
白血球
(末梢血)
好塩基球
単球
リンパ球
Tリンパ球
パ球
CD4+
CD8+
Bリンパ球 CD19+
CD20+
NKリンパ球,その他 この細胞にHIV
は感染する!
3
CD4リンパ球=司令官
CD4リンパ球数 (個/μL)
=白血球数×リンパ球 (%)×CD4陽性リ
ンパ球 (%)
正常値 700~1300 (個/μL)
•
HIVは細胞性免疫をコントロールしてい
るCD4陽性Tリンパ球に感染・増殖し,
アポトーシスを誘導します。
•
免疫の司令官を失った体内では,過去
に獲得した免疫も失われ,易感染性と
なります。
•
その結果,健常者では発症しない感染
症(日和見感染症)やウイルスが関連す
るがんを引き起こします。
4
HIV感染症の経過
HIV感染
CD4陽性リンパ球数
∬
抗体
ウイルス量
∬
∬
1~3カ月
急性期
見逃しやすい‼
5
数年
1~3年
無症候期
AIDS期
見つかり
にくい…
死亡
23のエイズ指標疾患
A.真菌感染症
赤色は頻度が多いもの
*は注釈あり(詳細は成書参照)
①.深在性カンジダ症* ,②.クリプトコッカ
ス症* ,③.コクシジオイデス症*
④.ヒストプラズマ症* ,⑤.ニューモシスチ
ス肺炎
B.原虫感染症
⑥.トキソプラズマ脳症* ,⑦.クリプトスポリ
ジウム症* ,⑧.イソスポラ症*
C.細菌感染症
⑨.化膿性細菌感染症* ,⑩.サルモネラ
菌血症* ,⑪.活動性結核* ,⑫.非結核性
抗酸菌症*
D.ウイルス感染症
⑬.サイトメガロウイルス感染症*
⑭.単純ヘルペスウイルス感染症*
⑮.進行性多巣性白質脳症
E.続発性腫瘍
⑯.カポジ肉腫,⑰.原発性脳リンパ腫
⑱.非ホジキンリンパ腫* ,
⑲.浸潤性子宮頸癌*
F.その他
⑳.反復性肺炎,㉑.リンパ性間質性肺炎
/肺リンパ過形成,㉒.HIV脳炎 ,㉓.HIV
消耗性症候群
6
HIV感染症の昔と今
昔
(20-30年前)




エイズパニック!
感染力が強い?!
治療法がない…
非加熱血漿由来凝固因子製
剤により多くの血友病患者さ
んが感染した
 多くの患者さんがエイズを発
症して死亡…
かつては未知の感染症として恐れられ,
血液製剤由来による感染で,多くの血
友病患者さんの命が失われました。
7
今




エイズへの関心が低下…
感染力は比較的弱い
治療は1日1回内服が主体
同性間性交渉による男性感
染者が多く,輸血・血液製剤
での感染は,ほぼない
 患者さんは長期生存できるよ
うになり高齢化
現在は治療法が進歩し,副作用や相互
作用の少ない治療薬によってエイズを
発病することなく,ほとんどの患者さ
んが健常者と同じように日常生活を
送っています。
8
HIV検査
•
•
•
•
•
本人の同意を得て検査する
プライバシーの保護(検査結果は例
え家族やパートナーであっても本人
の同意なしで伝えない)
検査前後のカウンセリング(第6章メ
ンタルヘルスの項参照)
妊婦検査の結果は母子手帳に記載
しない
就労時・就学時の検査は行わない
(厚労省健康局疾病対策課長通知より)
<ワンポイント> 性感染症が
ある場合,その既往がある場
合,もしくは疑われる場合に
保険診療上,スクリーニング
検査は実施可能です。
9
<検査の保険点数>
スクリーニング検査
HIV-1,2抗体定性 123点,定量 127点
確認検査
WB法(HIV-1) 280点,(HIV-2) 380点
HIV-1 PCR法 520点
<ワンポイント> スクリーニン
グ検査を行わずに確認検査を行
うと保険診療上,査定されます
のでご注意ください。
*詳細は
『HIV検査について』
『初めてでもできるHIV検査の勧め方,告知の仕方』
広島大学病院 エイズ医療対策室発行を参照
10
HIVの生活環と抗HIV薬の働き
②核酸系・非核酸系
逆転写酵素阻害剤
④プロテアーゼ
阻害剤
●
●
●
●
●
●
①融合・侵
入阻害剤
③インテグラーゼ
阻害剤
単剤での投与では,HIVは容易に
耐性変異を獲得しますので,必ず
多剤併用で治療を行います。
11
①融合・侵入阻害薬(CCR5阻害薬);HIV
が感染細胞に侵入する際に使用されるケ
モカイン受容体(CCR5)へのウイルスの結
合を阻害する。
②核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)・非
核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI);HIVRNAの宿主DNAへの組み込みに関わる
逆転写酵素の働きを阻害する。
③インテグラーゼ阻害薬(INSTI);逆転
写されたプロウイルスDNAの宿主DNAの
組み込みを阻害する。
④プロテアーゼ阻害剤(PI);ウイルスの
タンパク前駆体を切断する酵素を阻害す
ることで,ウイルス粒子の成熟を抑える。
12
初回治療の推奨レジメン
<インテグラーゼ阻害剤ベース>
DTG/ABC/3TC(トリーメク配合錠®)
DTG(テビケイ®)+TDF/FTC(ツルバダ配合錠®)
推 EVG/cobi/TDF/FTC(スタリビルド配合錠®)
奨 RAL(アイセントレス®)+TDF/FTC
<プロテアーゼ阻害剤ベース>
DRV rtv(プリジスタ®+ノービア®)+TDF/FTC
<プロテアーゼ阻害剤ベース>
ATV rtv(レイアタッツ®+ノービア®)+TDF/FTC
代 DRV rtv+ABC/3TC(エプジコム配合錠®)
替 <非核酸系逆転写酵素阻害剤ベース>
EFV(ストックリン®)+TDF/FTC
RPV/TDF/FTC(コンプレラ®)
<インテグラーゼ阻害剤ベース>
RAL+ABC/3TC
<プロテアーゼ阻害剤ベース>
ATV rtv+ABC/3TC
そ LPV/r(カレトラ®)+TDF/FTC
の LPV/r+ABC/3TC
他 <非核酸系逆転写酵素阻害剤ベース>
EFV+ABC/3TC
<TDFおよびABC使用不可時>
RAL+DRV rtv
LPV/r+3TC
13
Single tablet regimen(STR)
1日1回1錠
食事に関係なし
DTG/ABC/3TC (トリーメク®)
50mg/600mg/300mg 1錠
1日1回1錠
見かけ上の血清
Cr上昇あり
脂質代謝への影
響ややあり
食事に関係あり
EVG/cobi/TDF/FTC (スタリビルド®)
150mg/150mg/300mg/200mg 1錠
血清Cr上昇が見られる
低体重ではTDFが腎臓に負担
1日1回2錠
食事に関係なし
(テビケイ®)
DTG
50mg 1錠
+
TDF/FTC (ツルバダ®)
300mg/200mg 1錠
薬物相互作用が少ない
脂質代謝への影響がない
見かけ上の血清Cr上昇あり
まれに頭痛・悪心
低体重ではTDFが
腎臓に負担
HIV感染症「治療の手引き」第19版、2015年12月
日本エイズ学会HIV感染症治療委員会
14
こんな時どうしたらよいですか?
Q. 仕事が多忙で途中で薬を飲み忘
れたことに気づいたのですが,どう
したらよいですか?
A. 2時間以内であれば血中濃度への
影響は少ないので,気づいた時点で
飲んで下さい。
Q. 夕食後に薬を飲むことになっ
ていますが,今日は飲み会があり
ます。どうしたらよいですか?
A. 飲酒自体は薬への影響はあり
ません。いつも通り服用してくだ
さい。酔い過ぎによる薬の飲み忘
れには気をつけて下さい。
15
Q. 風邪をひいたのでかかりつけの
内科医院に受診したいと思います。
薬の組み合わせが問題になるとのこ
とでしたが大丈夫でしょうか?
A. 薬によっては飲み合わせが悪い
ものもあります。医師,薬剤師に確
認して下さい。
Q. 服用後,吐いてしまいました。
すぐに飲んだ方が良いですか?
A. 服用後に嘔吐した場合は、再度
服用することは避けてください。
次の服用時間に嘔気がなくなり服
用できるようになったら,次の時
間の薬を服用してください。
16
専門医療機関(エイズ拠点病院等)から
紹介されてくるケースは?
土日の受診
仕事が多忙で,土日もしくは平日夕方
にしか受診できない患者さんがいます。
生活習慣病の治療
脂質異常,高血圧症,糖尿病などを合
併する患者さんも多く,かかりつけ医の
先生による管理が欠かせません。
よくある対応
拠点病院に通院している患者さんがか
ぜ・頭痛・腹痛・不眠などで受診したい
場合。
17
定期の注射
肝炎を合併する患者さんもいます。治
療上,グリチルリチンやインターフェロ
ンなどの定期注射を必要とします。
往診
血友病による関節障害や中枢神経病
変の後遺症で移動が困難な患者さん
がいます。訪問診療による投薬,注射
を必要とします。
透析
抗ウイルス薬の副作用による腎障害
や糖尿病のため腎不全となるケース
があります。遠方のため拠点病院への
通院が困難な患者さんがいます。
18
日常診療で行うことは?
抗HIV薬の継続
ウイルス量がコントロールされ,CD4リン
パ球数が安定している患者さんでは,1
~3か月毎の通院が目安です。
問診




内服の飲み忘れ,飲み遅れ回数
飲み忘れた原因,対処法
体重の増減,食事内容,運動量
必要時;就労環境,睡眠状況,パート
ナーや家族との関係性,最近の性交
渉歴など
<ワンポイント> 飲み忘れを注意
するのではなく,その原因と対処
法を患者さんと一緒に考えていく
ことが大切です。
19
検査
受診毎もしくは6ヶ月に1回程度を目安
 血算(分類有り)
 CD4/CD8 リンパ球数
 HIV-RNA定量検査(RT-PCR法)
 生化学一般(肝機能,腎機能,電解質,
脂質,必要なら血糖値,Hb A1c,尿検
査など)
 必要時;梅毒検査,赤痢アメーバ抗体,
ウイルス性肝炎のスクリーニング
 年1回程度推奨;動脈硬化症の評価
(PWV/ABI),骨密度測定
処方時にはお薬手帳にて抗
HIV薬と併用禁忌薬がないか
チェックして下さい。ご不明
な点は紹介元医療機関へお問
い合わせください。
20
検査結果の解釈は?
①<20
②20~500が続く
③>500が続く
治療奏功
経過観察
経過観察
服薬指導
数回の検査
結果で判断
薬剤耐性検査を
考慮
服薬アドヒアラ
ンスの再確認
専門施設へ相談
<ワンポイント> 『ブリップ』
と呼ばれるウイルス量が数十~
数百コピー程度の一過性の上昇
を経験することがあります。
21
<200
日和見感染の
リスクがある
ため予防内服
考慮
200~500
ウイルス量が
コントロール
できていれば
経過観察
>500
経過観察
<ワンポイント> CD4リンパ球
数は白血球数やリンパ球の比率
に影響されるため,毎回30%程
度の増減は見られます。AIDS発
病者や高齢患者ではCD4数が長期
に渡り少ない例もあります。
22
合併症の治療は?
生活習慣病





脂質異常症
高血圧症
糖尿病
喫煙による合併症
動脈硬化症
<ワンポイント> 抗HIV薬による脂
質異常症が起こりやすく喫煙率も高
いことから,将来の心血管系疾患の
発症に注意が必要です。ぜひ禁煙外
来への受診を勧めて下さい。
23
頻度の高い疾患
 慢性腎臓病
 骨量減少,骨粗鬆症
 非エイズ指標悪性腫瘍(肺がん,肝
細胞がん,肛門がん,ホジキンリン
パ腫,精巣腫瘍,皮膚がん,頭頸部
がん)
<ワンポイント> HIVと肝炎ウイル
スの重複感染例では慢性化率,発が
ん率が高くなります。定期的な肝が
んのスクリーニング検査を行う必要
があります。
24
性行為感染症とワクチン接種は?
性行為感染症








梅毒
肝炎ウイルス (HAV, HBV, HCV)
尖圭コンジローマ
赤痢アメーバ感染症
淋菌
性器クラミジア感染症
性器ヘルペス
毛じらみ
<ワンポイント> 梅毒は再感染
が多く,また無症状でも感染し
ている可能性がありますので,
年1-2回程度のスクリーニング検
査(RPR法)を勧めます。
25
推奨ワクチン
 HBVワクチン(4週間隔で2回、20-24
週経過後に1回の計3回)
 HAVワクチン(2-4週間隔で2回、初
回接種24週後に1回の計3回)
 肺炎球菌ワクチン(13価は1回、23価
は5年ごとに再接種)
 インフルエンザワクチン(毎年1回)
<ワンポイント> CD4<200ではワ
クチン接種による抗体獲得率が低
いことがわかっています。また
BCG,生ポリオなど生ワクチンの
接種は禁忌です。
26
HIV感染者に起こりやすい問題は?
精神疾患






睡眠障害
抑うつ傾向,うつ病
不安障害
適応障害
薬物依存症,アルコール依存症
HIV関連神経認知疾患 (HAND)
<ワンポイント> HIV関連神経認知
疾患(HAND) …HIVは中枢神経系へ入
り込みやすく,その機能障害・組織
破壊をもたらします。それにより認
知障害・運動障害・行動異常などを
引き起こし,日常生活に支障をきた
します。近年では無症候性~軽度の
認知障害が増えています。
27
これからのエイズ診療
患者さん
の問題
患者さんが身近な医療機関で安心して治療
を続けていけるよう,地域の医療機関どうし
が連携して患者さんを支えていく診療体制
が必要です。
28
HIV感染の針刺しリスク
各ウイルスの感染性
血液1ml中の
ウイルス量
(コピー/mL)
針刺し1回
あたり
HBV
HCV
HIV
107-9
105-7
103-5
約30% > 約3% > 約0.3%
体液別の感染リスク
髄液
血液
胸水
腹水
精液
>
膣分泌液
心嚢水
血性体液
羊水
膿
感染性体液
29
>>>
尿
便
痰
唾液
汗
涙
標準予防策 (Standard Precautions: SP)
標準予防策の対象物
HIVが認められる
・血液
・体液(汗を除く)
・分泌物
・排泄物
・粘膜
・損傷した皮膚
・血液
・精液
・膣分泌液
・母乳
・血交じり唾液
手が汚染
>
手袋
体が汚染
ガウン
エプロン
顔の粘膜
が汚染
マスク
ゴーグル
30
血液・体液曝露事故発生時の対処①
まず落ち着いて曝露部位を大量の流水
と石けん(眼球曝露の場合は流水)で洗
浄します。
流水がない場合は刺激の少ない速乾性
の手指洗浄ジェルでも構いません。
予防内服の必要性を判断し,必要と判
断されれば速やかに内服を開始します*。
*右のフローチャート参照(詳細は
広島県地域保健対策協議会ホー
ムページより閲覧可能)
<ワンポイント>事故を起こした職
員のプライバシーには配慮して下さ
い。またHIVのみでなくHBVやHCVも
考慮して対応する必要があります。
31
体液曝露事故の発生
応急処置・現場責任者に報告
曝露由来患者(以下患者という)はHIV抗
体が陽性か否か
陰性
予防内服は
不必要
不明かつHIV抗体陽性が強く疑われる
希望しない
抗HIV薬の内服
で
き
る
だ
け
早
く
陽性
一
抗HIV薬の内服
般
希望する
医 希望しない
療
①被曝露者の採血
機 経過観察
②患者の採血と情報
関
(内服中の抗HIV薬,薬剤
等
耐性,B型肝炎など)
③紹介状の作成
①~③を持参して受診する
経過観察
希望する
①患者へのHIV検査の説明
及び同意
②患者の採血
③被曝露者の採血
④紹介状の作成
②~④を持参して受診する
拠点病院等への電話連絡・診察依頼
HIV
曝
露
後
予
防
対
応
協
力
施
設
拠
点
病
院
拠点病院等に受診(ただし,被曝露者が妊娠している場合はブロック拠点病院に受診する。)
(*1)
被爆曝露者のHIV検
査・予防内服の説明及
び同意
患者のHIV検査
陽性
陰性
予防内服は
不必要
被曝露者のHIV検査
抗HIV薬の内服
しない
する
(*1)と同じ
経過観察
抗HIV薬(3剤)受領・内服
※事故後,2時間以内に拠点病院に受診ができず,協
力医療機関に受診した場合は,後日,拠点病院に受診
する
拠点病院に受診(協力医療機関に受診した場合)
内服継続の判断
医療従事者等における体液曝露事故後のHIV感染防止マニュアル
(平成26年 広島県地域保健対策協議会)より
32
血液・体液曝露事故発生時の対処②
推奨レジメン
TDF/FTC (ツルバダ配合錠®)
1日1回・1回1錠
RAL (アイセントレス®)
1日2回・1回1錠
<副作用・注意事項>
ツルバダ®・・・腹部膨満感,腎障害など。
アイセントレス®・・・頭痛など。吸収率が低下し
ますのでマグネシウム,アルミニウム含有制酸
剤と併用は避けてください。
33
 内服開始はできるだけ早くから
(遅くとも72時間以内)
 内服期間は4週間
 72時間以内に被暴露者のHIV抗体検
査を実施
 2週間後に内服できているかを確認
 6週後,3ヶ月後,6ヶ月後に再検
 労災保険の療養給付対象,申請のた
めに事故発生に関する記録を作成
妊娠やB型肝炎がなく,院内に在庫
がある場合にはそちらの薬剤を服用
して頂いても構いませんが,その際
は一度拠点病院にご相談下さい。
参照; ACC:血液・体液曝露事故(針刺し事故)発生時の対応
http://www.acc.ncgm.go.jp/doctor/eventSupport.html
34
HIV感染者が利用できる医療制度
1,身体障害者手帳(免疫機能障害)
身体障害者福祉法が定めている様々なサー
ビスが利用可能となります。基本的に4週間あ
けた2回の検査結果が必要です。
HIVによる免疫機能の障害により,
1級:日常生活がほとんど不可能なもの
2級:日常生活が極度に制限されるもの
3級:日常生活が著しく制限されるもの
4級:社会での日常生活が著しく制限されるもの
必要書類
□ 身体障害者手帳交付申請書
□ 指定医師の診断書・意見書
□ 顔写真(縦4センチ×横3センチ)2枚
□ 認印
身体者障害者手帳を取得することで自立支援
医療,重度心身障害者医療費助成制度による
医療費助成を受けることができます。
35
2,自立支援医療(更生医療)
対象:身体障碍者手帳取得者 ‣年1回更新
自己負担金:1割負担で,所得に応じて上限2万
円迄/月
対象機関:指定医療機関,指定薬局
該当治療:抗免疫療法,抗ウイルス療法など
必要書類
□ 自立支援医療申請書 □ 要否意見書
□ 保険証 □ 認印 □(所得証明書)
3,重度心身障害者医療費助成制度
対象:手帳1,2,3級に該当し,所得制限あり
自己負担:基本的に無料(各自治体によって対象
や助成内容・自己負担額は異なるため要確認)
対象機関:すべての医療機関
必要書類
□ 重度心身障害者医療費 □ 助成制度申請書
□ 保険証 □ 認印 □(所得証明書)
36
HIV診療を行う上で必要な登録申請
指定医療機関の登録
障害者自立支援法第58条第1項に基づく
自立支援医療(育成医療・更生医療)を行う
場合,医療機関及び薬局は障害者自立支
援法第54条第2項に基づき指定を受ける
必要があります。
指定医師の登録
身体障害者手帳申請にかかる診断書
を書くことができるのは,身体障害者福
祉法第15条に規定する医師(「指定医
師」)に限られます。
※窓口となる行政機関は市町村によって異なるた
め,確認が必要です。提出書類は各機関のホーム
ページにてダウンロードできます。
37
指定医療機関認定までの流れ
指定の為に必要な提出書類を準備する
提出書類を決められた行政の窓口へ提出
審査部会にて判定
審査結果が通知される
審査から認定までの期間はおおよそ1ヶ月となり,
指定年月日は原則として指定の決定がなされた
月の翌月初日となります。
38
HIV感染者をとりまく心理・社会的問題
周囲に未告知
 差別・偏見への恐れ
 精神的孤立
 家族・パートナーとの関係性
セクシュアル
マイノリティ
 同性愛者,両性愛者,トランスジ
ェンダー
 対人関係構築への影響
 幼少期からのいじめ
 自尊感情の低下
 生きづらさ
プライバシー保護
セクシャリティへの配慮
39
HIV感染以前から
抱える問題





精神疾患
パーソナリティ障害
依存症(薬物,アルコール)
不安定な就労
脆弱な経済基盤
メンタルヘルスの悪化
受診中断・服薬アドヒアランス
の低下
40
精神科受診・カウンセリング
メンタルヘルスチェックリスト
□ 入眠困難,中途覚醒など睡眠障害の
出現
□ 食欲低下
□ 抑うつ気分,意欲の低下
□ 不安が強く,落ち着かない
□ パニックになる
□ 引きこもっている
□ 不定愁訴が多い
□ 記憶力・判断力・理解力の低下
□ アルコール,薬物などへの依存
□ 自傷行為
□ 自殺企図や自殺念慮
精神科受診・カウンセリング
を勧めましょう
41
カウンセラーの仕事
 HIV検査の前後や陽性告知の際に
カウンセリング※を行います。
 患者さんの精神状態をアセスメント
し,精神科受診の必要性の判断と
助言を行います。
 患者さん自身に対しても,精神科へ
の受診ガイダンスとフォローアップな
どの支援を行います。
 患者さんが抱える生活上の問題に
ついても解決法を一緒に考えていき
ます。
※派遣カウンセリング制度が利用できます
⇒HIV/AIDSについて研修を受けた臨床心理士な
どの専門家が心理社会的支援を提供するために
病院などに派遣される制度です。詳細は各自治
体に問い合わせください。
(http://hivandcounseling.com/wp-content/uploads/2012/06/ctebiki22.pdf 「派遣カウンセリング制度利用の手引き」参照)
42
~患者からのお願い~
特定非営利活動法人りょうちゃんず
理事長 藤原 良次
このたびは,広島大学病院藤井輝久先生をはじめ,
広島大学病院エイズ対策室のHIV診療担当先生方の
ご尽力により,「これなら大丈夫!HIV感染症プライマ
リケア診療ガイド」が作成されたことは,非常に喜ばし
いことでございます。
この機会に,HIV・エイズ患者として一言申し上げた
いと思い貴重なページを頂きました。
HIV感染症は慢性疾患になったと言われる昨今では
あります。しかし,地域によっては患者は遠くの拠点病
院へ受診しなければならず,風邪や管理がさほど難し
くない慢性疾患と同じように,かかりつけ医で診療して
もらいたいと多くの患者が願っています。
エイズ治療ブロック拠点病院やブロック内拠点病院
等と先生方が密な連携をとっていただければそれも可
能であると確信しております。また万一の針刺し事故
対応も正しい知識を持ち合わせ適切な対応を行えば,
拠点病院との連携のもと,あわせて大丈夫です。
いずれにしても,先生方のHIV感染症への関心が
我々患者の生きるパワーとなります。日々の診療でお
忙しいとは存じますが,先生方のお力を少しでもお貸
し頂ければ幸いです。
43
~
MEMO ~
44
~
MEMO ~
紹介元(併診)
医療機関
病 院
診療科
担当医
連絡先
科
℡
E-mail:
45
<参考文献およびウェブ>
1)広島大学病院 エイズ医療対策室発行: 『HIV検査につい
て』,『初めてでもできるHIV検査の勧め方,告知の仕方』
2)鯉渕智彦ら:抗HIV治療ガイドライン2015年3月
3)広島県地域保健対策協議会:医療従事者等における体
液曝露事故後のHIV感染防止マニュアル(平成26年度)
4)国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター
ホームページ:血液・体液曝露事故(針刺し事故)発生時の
対応
これなら大丈夫!
HIV感染症プライマリケア診療ガイド
Ver.2
2016年2月 発行
厚生労働省エイズ対策研究事業
「HIV感染症の医療体制の整備に関する研究班」
分担研究者
広島県エイズ受託研究事業
「中国・四国ブロックエイズ医療システム構築に関する
調査研究」
研究代表者:藤井 輝久(発行者)
編集者:広島大学病院 エイズ医療対策室
齊藤 誠司,金崎 慶大,浅井 いづみ,城下 由衣
ご質問、ご提案は下記連絡先へ
広島大学病院 エイズ医療対策室
〒734-8551 広島市南区霞1-2-3
Tel/Fax 082-257-5351
http://www.aids-chushi.or.jp
非売品
※無断複写・・転載を禁じます。
46