がんプロニュース

秋田大学次世代がん治療推進専門家養成プラン
がんプロニュース
No.4
平成26年3月19日発行
【発行】
秋田大学次世代がん治療推進専門家養成プラン事務局
HP:http://www.med.akita-u.ac.jp/~ganpro24/
がんプロでは活動をお知らせし、皆さんと「がんプロ」についての情報を共有し、相互の交流を深めてい
きたいと考えております。皆様の更なるご協力を賜りたくお願い申し上げます。
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リビング・ウィルの進歩したもの 浅沼 義博
次世代薬剤師の育成へ~ジェネラリストとスペシャリスト~ 三浦 昌朋
秋田大学次世代がん治療推進専門家養成プラン
秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻臨床看護学講座
教授 浅沼 義博
リビング・ウィルの進歩したもの
次世代がん治療推進専門家養成プランの事業の一つとして、2014年1月13日に秋田
ビューホテルで特別講演会「緩和ケアを地域に広げるために」~広島県緩和ケア支援
センターの取り組み~ 本家 好文先生(広島県緩和ケア支援センター長)がありま
した。私は年齢が同じということで座長をさせてもらいましたが、1時間の講演は熱意と経験と業績に裏打
ちされた見事な内容でした。また、その後の質疑応答もすばらしく、大勢の聴衆の方々も満足してもらえた
ものと考えます。
さて、その講演の最後に数枚のスライドを使って本家先生がお話しされたことがアドバンス・ケア・プラ
ンニング(ACP:Advance Care Planning)でした。これは、従来はエンディングノートとかリビング・ウィ
ルといわれてきたものですが、それらを更に進歩させたものです。このACPはカナダ・アルバータ州で広く
先進的に試みられているが日本ではまだ知られていないというお話であり、それを広島県医師会と広島大、
広島県、広島市でつくる広島県地域保健対策協議会(地対協)がスタートさせるということでした。
さて、先日本家先生からメールが届き、地対協が本家先生を委員長とする「終末期医療のあり方検討特別
委員会」を設置したこと、そしてこのACPについてこの度市民にやさしく説明する「手引き」と「私の心づ
もり」を各8,500部作成し、医師会員はじめ、広く市民に配布したことを知りました。
ところで、このACPがリビング・ウィルと違う点はどこでしょうか?一体どこが進歩したのでしょうか?
あるデータでは終末期においては約70%の患者で意思決定が不可能とされています。また、治療が不可能
な化学療法(抗がん剤)中のがん患者の70~80%は治癒が不可能であることを理解していないというデータ
もあります。
ここから「もしもあなたが話すことができなくなった時のために、あなたの医療に関する希望を、あなた
の愛する人や医療者が知っておくことが大切です」という本家先生のメッセージが生まれてくるのです。リ
ビング・ウィルも患者が自分自身で自分のことが決められなくなった時のために意識の清明なうちに自分の
希望を家族に伝えておくことですが、ACPではそれを愛する人と医療者(かかりつけ医)と3者で文書に残
し共有するという点で進歩しているのです。私も23年前に父(75才)を肺癌で亡くし、3年前に母(87才)
を大腸癌で亡くしました。ともに広範な癌転移を伴っていました。無駄な延命治療は望まないという生前の
両親の考えを尊重して、点滴による栄養補給は希望しない旨を私(長男)から主治医に伝えさせていただき
ました。従って意識レベルが低下し、経口摂取ができなくなってから数日後にはふたりとも眠る様にして亡
くなりました。家族に医療従事者がいればこの様な手順を踏むことは可能でしょうが、そうでない場合には
やはり家族は患者の病態の理解が十分できず、また主治医にもこちらの希望を十分に伝えられないことにな
るのは自明です。その様な不幸な状況を克服するには、患者・家族とかかりつけ医とが十分に認識を共有し
それを文書に残すというこのACPは極めて良い方法だと思います。そのきっかけとして活用されるべきもの
が「私の心づもり」です。インターネットからも入手可能ですが、以下にプリントとして供覧させていただ
きました。この機会を通して、本家先生のメッセージを皆様に伝えることができれば、私も座長としての役
目を果たせたかなと思っています。
【発行】秋田大学次世代がん治療推進専門家養成プラン事務局
【供覧】広島県地域保健対策協議会 http://citaikyo.jp/other/20140303_acp/index.html
・もしもの時のために伝えておきたいことAdvance Care Planning(ACP)私の心づもり
【発行】秋田大学次世代がん治療推進専門家養成プラン事務局
【発行】秋田大学次世代がん治療推進専門家養成プラン事務局
秋田大学附属病院
薬剤部教授・薬剤部長 三浦
昌朋
次世代薬剤師の育成へ
~ジェネラリストとスペシャリスト~
医薬品は情報があって初めて、患者さんに用いることができます。効能効果、副作用、相互作用、小児・妊婦
授乳婦への安全性など、1つの薬の中には宇宙があり、無数の情報が含まれています。さらに薬の中には、それ
を発売までに導いた研究者や製薬企業の汗と涙、そして夢が詰められており、患者さんにとっては希望が込めら
れています。
私たち薬剤師は、こうした思いを背負い、正確な情報を患者さんや医師・看護師の方々にお伝えしています。
このように1つの薬だけで数多くの情報がありますが、今市場には2万もの医薬品があらゆる領域で使用され
ています。そこで医師のように薬剤師も各専門領域に分かれ、各領域で用いられる薬物治療に対して高度な知識
と技能を持つようになりました。
今、病院には、がん薬物治療に詳しい薬剤師、感染症治療に詳しい薬剤師、緩和、糖尿病、経管栄養、漢方、
精神疾患、透析領域など、それぞれの領域での薬物治療に詳しいスペシャリストが各々いて、分からないとき
は、カンファランスでお互いの意見や知識を共有し合っています。私たち薬剤師は1つのチームとして薬物治療
を提供しています。
数学は好きだけど、国語は苦手、各薬剤師にも得意、不得意領域があります。私は新入局者に対して最初に、
「どの専門領域に興味がありますか?」と必ず問います。その応えには時間とお金を惜しみなくかけます。「回
診への参加」「キャンサーボードへの参加」「研修会・学会への参加」「県外他施設への研修」など、今流行り
の体験型カタログギフトを手にした彼らは、さらに専門性を高めようと自ら勉学に励むようになります。
「がん専門薬剤師」
これはがん薬物治療に対してエキスパートの薬剤師です。彼らは抗がん剤の取り扱い・調製から薬剤選択、副
作用対策・マネジメントと豊富な高度な知識と技能を持っています。
「がんプロフェッショナル養成プラン」は、薬剤師中心にがん専門薬剤師を育てようとするこれまでの世界と
異なり、チーム全体で薬剤師を育てようとする制度です。各領域の専門の医師たちが私たち薬剤師に、「一緒に
秋田県からがん患者さんを減らしましょう」、「一緒に最高のがん治療を提供しましょう」と、手を差し伸べて
くれています。私たちは今、最高のパートナーを手にしています。
がん専門薬剤師は病院に限らず、保険薬局にもニーズがあります。がん発症リスクの1つであるお酒、お酒に
強い遺伝子を持っているか否か地域の薬局で調べて、早期対策を取るなど、血糖値を測定するように薬局でも簡
便に検査データを調べられる機器が続々開発されています。また病・診・薬で情報を共有化しようとする試みも
各都道府県でなされ始めています。そのような中で、データを正しく解釈できるエキスパートの薬剤師が求めら
れています。一方で、例えば保険薬局にがんサロンがあり、抗がん剤治療や支持療法の相談を受けられる専門の
薬剤師がいるなど、漢方薬局のような専門薬局が、がん薬物療法に限らず今後街なかに出てきます。
しかし一方で、幅広い領域で高水準の薬物治療に貢献できるジェネラリスト薬剤師も必要です。専門性が強く
なると、縦糸が濃くなり、それを繋ぎ合わせる横糸の存在が必要になります。病院と薬局ではジェネラリストと
スペシャリストの必要バランスが異なり、病院薬剤師はスペシャリスト中心ですが、薬局薬剤師はジェネラリス
トが中心になると考えます。いずれも両者がいることが理想です。「がんプロフェッショナル養成プラン」では
臨床腫瘍学講座教授 柴田浩行先生や地域がん包括医療学講座教授 本山悟先生方と共にがん薬物治療のスペ
シャリストを養成して参りますが、一方で我々は医学教育学講座教授 長谷川仁志先生や総合診療検査診断学講
座教授 廣川誠先生方と共にジェネラリストも養成して参ります。
目の前の患者さんに対してベストな薬物治療を提供できる薬剤師でありながら、一方で今後薬物治療を受ける
かもしれない県民に対して、安心して最高の薬物治療を提供できる体制を整えていく必要があります。そのよう
な未来を見据えた次世代薬剤師を「がんプロフェッショナル養成プラン」では養成して参ります。
5年先、10年先を考え、時間をかけながら薬剤師を育てていく必要があります。経営だけにとらわれず、それ
を支える人材育成にも力を注ぐべきであり、「薬剤師の中の薬剤師Ph of Ph」の育成を目指して、是非この制度
を活用して頂ければ幸いです。研修生をお待ちしております。