高速道路における融雪対策の効率化について 関口 和史 *1 石垣 正人 *2

高速道路における融雪対策の効率化について
関口
和史
*1
1.はじめに
石垣
正人
*2
ンストップ自動料金収受システム)などの料金収受設備を
高速道路の除雪は、除雪車、トラクターショベル等によ
る機械除雪を原則としている。しかし、トンネル坑口、イ
設置しているトールゲート周りにおいて除雪作業が困難で
あるため、融雪設備を配置している(写真3)
。
ンターチェンジ、サービスエリア、パーキングエリア(以
下「IC」
、「SA」
、
「PA」という)など、機械による除
雪作業が困難な場所に融雪設備を配置している。
融雪設備は、散水方式、電熱線方式など設置場所の特性
に応じて採用している。今回は散水方式の融雪設備に関し、
間欠運用による散水量の縮減、融雪制御用の降雪検知器に
ついて融雪制御以外への利活用、そして道路以外の散水融
雪設備設置による人的負担軽減対策について報告する。
2.融雪設備の配置
まず、新潟県内の高速道路における主な融雪設備の配置
について説明する。
写真2 トンネルへの雪の持込み
(1) トンネル坑口
高速道路本線の除雪作業は、一般的に除雪車3台1編成
により、追越車線の積雪を走行車線へ、走行車線の雪を路
肩へ排除するいわゆる「梯団除雪」により行う(写真1)
。
図1 トンネル坑口における融雪設備の配置
写真1 梯団除雪
梯団除雪によって追越車線の雪が路肩へ排除されるまで
の距離は、概ね 100m である。このため、路肩がないトンネ
ル内にも雪が持ち込まれてしまい、車線が狭くなってしま
うことから走行安全性が損なわれてしまう(写真2)
。この
持込み雪を軽減するため、トンネル坑口に融雪設備を配置
: 散水融雪敷設箇所
している(図1)
。
(2) IC
写真3 ICにおける融雪設備の配置
ICでは、通行券の発券機、料金収受ブース、ETC(ノ
*1 東日本高速道路株式会社 新潟支社 施設課 *2 東日本高速道路株式会社 新潟支社 長岡管理事務所
(3) SA・PA
3.2 節水対策の検討
SA・PAにおける除雪は、主にトラクターショベル
降(積)雪強度は、時々刻々変化するものである。そ
により行っている。駐車マスについては、お客さまが駐
のため、降雪強度に応じて散水量を調節することができ
車している間作業を行うことができないため、駐車マス
れば散水融雪設備における節水を果たすことができる。
の一部に融雪設備を配置している。また、トイレや売店
現在、散水融雪装置における散水量の調節は、主に「イ
への人の動線となる場所にも配置している。
ンバータ制御方式」と「間欠制御方式」とがある。
(4) その他
「インバータ制御方式」は、井戸ポンプの回転数を可
前述した(1)から(3)のほか、ジャンクション(以下「J
変すること、つまり散水量に強弱をつけるものである。
CT」という)における本線を跨ぐオーバーブリッジや、
一方、
「間欠制御方式」は、一定時間井戸ポンプの運転を
ETC専用のスマートICなど道路構造に応じて融雪設
停止し、その時間を調整するものである。
備を配置している。
両方式を比較した場合、
「インバータ制御方式」は散水
量が少ない場合において、必要範囲の融雪効果に懸念が
3.散水融雪設備
あったこと、また、投資コストを比較した際に「間欠制
3.1 散水融雪設備の現状
御方式」が有利であったことから後者を採用することと
散水融雪設備の単位面積当たりの散水量q〔ℓ/㎡・min〕
は、次式により決定される。
=
した。
3.3 間欠制御方式
h ∙ ρ(334 + 2.1|t | + 4.2 ∙ t )
6 × 4.2 ∙ α ∙ κ(t − t − t )
h : 時間降雪深〔cm/h〕
ρ : 降雪の密度〔g/㎤〕
間欠制御方式を実現するシステムは、降雪と気温を検
知する降雪検知器と、降雪信号により井戸ポンプの運転
を間欠制御する制御部とからなり、既設のポンプ盤に組
み込むことができる(写真4)
。
t : 降雪の温度〔℃〕
(絶対値とする)
t : 噴水するときの水温〔℃〕
t : 散水された水が側溝に流れ落ちるときの水温〔℃〕
κ : 融解係数(海岸・平野部:0.7、山間部:0.8)
α : 通行車両による攪拌効果係数
(交通量 100 台/h、路面露出率 100%の値で 1.3 程度)
t : 通行車両による水温低下〔℃〕
従って、気象条件にもよるが設計時間降雪量の融雪に
必要な一定量を散水した場合、それ以下の降雪時には、
必要以上の散水を行っていることになる(図2)
。例えば、
時間降雪量 5〔cm/h〕の融雪能力を持つ散水量の融雪設
写真4 間欠制御システム(降雪検知器(左)と制御部)
備の場合、時間降雪量 1〔cm/h〕の降雪時には、20%の水
降雪検知器は、降雪々片に光を当て、その反射光によ
量で融雪可能ということになる。
積雪深
〔cm/h〕
↑
り雪の量を計測する「雪片カウント式」で、従来品に比
べ落ち葉や鳥の糞による不具合が少ない。但し、投受光
部前面1m弱において検知するため、その範囲の降雪が
▽融雪可能積雪深
遮られないよう建物や樹木などとの位置関係に配慮しな
5.0
: 降雪量(積雪深)
4.0
: 過剰散水量
ければならない。
制御部は、
気温 3.0℃以下になると降雪検知信号を
「弱」
「中」
「強」の 3 段階で認識し、それぞれ次のとおり井戸
3.0
ポンプを運転する。
「弱」 : 5 分運転 10 分停止、
2.0
「中」 : 10 分運転 5 分停止、
1.0
「強」 : 連続運転
「弱」
「中」
「強」それぞれの降雪強度〔cm/h〕は、任意
→ 時間
図2 設計時間降雪量と実際の降雪
に設定することができるため、設置場所ごとの散水融雪
設備の融雪能力に応じた間欠運用が可能である。
3.4 試験運用
4.建物屋根積雪対策
北陸道 大積PA及び関越道 山谷PAにおいて、間欠
制御システムを組み込み試験運用を実施した。
5〔cm/h〕の融雪能力を有する山谷PAを例にとると、
建物は、決められた積雪荷重に耐えうる構造を有して
いる。それを超える積雪に至った場合には人力による雪
おろし・除雪作業を行う必要がある。特に多くのお客さ
制御部で識別する降雪強度〔cm/h〕は、
「弱=0.7」中=
まにご利用いただく休憩施設の建物は、雪おろし作業が
2.5」
「強=3.5」に設定した。3.1 で触れたとおり融雪能
必要となる前に、雪庇処理を行う必要があるなど、人的
力が降雪強度以外にも影響すること、散水配管、ノズル
負担が大きい。
の老朽化による散水量低下が懸念されたため、試験運用
そこで、関越道 山谷PA下り喫煙所においてお客様の
としての設定値は余裕を持たせたものとしている。この
動線を考慮し、落雪屋根形状を入口と反対側建物後方へ
運用イメージを図3に示す。
片勾配として南魚沼地域で良く見られる屋根上部に散水
配管を設置した(写真7)
。 また、屋根上の融雪をした
積雪深
〔cm/h〕
↑
5.0
水により建物周りの積雪を融雪できないかと考え、建物
間欠運用による
散水量の低減
: 降雪量(積雪深)
を経由して行われるようにした。
: 過剰散水量
4.0
周りを写真8のとおり、屋根の融雪水の排水が建物周り
屋根からの雪おろし作業と共に、建物周りの除雪も不
要とすることができた。
3.0
2.0
1.0
→ 時間
図3 間欠運用イメージ
写真5に試験運用状況を示すが、試験前と同様に融雪
を行うことができ、間欠時間に凍結することもなく、融
雪性能に問題が生じていないことが確認できた。今回の
試験運用における効果は、表1のとおり、両PA共2割
程度の運転時間の削減ができた。
写真7 喫煙所屋根への融雪用散水配管の設置
写真5 山谷PA散水融雪状況
表1 散水融雪間欠試行運用の削減効果
降雪時間
散水時間
削減率
〔h〕
〔h〕
〔%〕
大積PA
514.4
392.8
△23.6
山谷PA
666.1
545.3
△18.1
写真8 建物周りの融雪状況
5.降雪検知器の活用
間欠制御システムの導入に伴い降雪検知器の検知方式
が「雪片カウント式」となり、3.3 に述べたとおり従来品
に比べ誤動作等不具合が少なくなった。そこで、融雪制
削減を目指した(図4)
。
御用の降雪検知信号を別の用途に活用できないか検討し
た。
5.1 簡易LED表示板への連動
高速道路本線の道路情報板は、主にIC、JCT、ト
ンネルの手前に設置し、交通規制などの道路情報を提供
している。冬期間においては、それを補うため簡易LE
D表示板を設置しており、その表示内容の操作は管理事
務所の雪氷対策室の操作用パソコンで人の手により行っ
降雪信号
ている(写真9)
。
図4 道路情報板への降雪信号の転送
これは平成24年7月に開通した北陸道 栄スマート
ICに試験導入し、検証を重ねた結果着雪を防ぐ機能に
問題無いことを確認している。
6.まとめ
散水融雪設備の間欠運用は、運用コストの削減ばかり
でなく、近年地下水の汲み上げ過ぎによる地盤沈下が社
会問題となっていることから、順次導入を進めている。
一方これまで人力に頼っていた建物屋根の除雪作業など
写真9 簡易表示板の設置(右下:操作PC)
トンネルは、入口と出口において気象状況がまったく
ことなる場合があり、トンネル入口では降雪がなくても
出口には降雪のある場合がある。特に長いトンネルにお
いては、積雪のないトンネル内を走行するスピードでト
ンネルから出た場合、そこが積雪していると非常に危険
である。このため、トンネル手前で出口側における降雪
情報をお客さまに提供することにより、トンネル出口に
おける車速を抑制していただけるよう注意を促したいと
考えた。
トンネル坑口には2.(1)に紹介したとおり、融雪設備
が設置されており、長いトンネルの場合、両坑口にそれ
ぞれ井戸ポンプと融雪制御システムを有している。その
制御用降雪検知信号を降雪検知器とは反対側の坑口に設
置している簡易表示板に転送するようにした。降雪検知
信号をうけた簡易表示板は、自動で「トンネル出口積雪
注意」を表示する。これにより降雪のタイミングを逃す
ことなくお客さまへの情報提供を実施することができた。
5.2 道路情報板盤面ヒータ制御への活用
道路情報板は、降雪により表示面に着雪しないようヒ
ータを搭載している。その制御は、温度センサにより行
っており、設定温度以下になると降雪の有無にかかわら
ず動作する仕組みになっている。
そこで、降雪検知器の降雪信号を道路情報板に転送し、
降雪時にだけヒータが動作することにより使用電力量の
についは、昨今の作業者不足などの情勢を踏まえ、屋根
形状の見直しや散水融雪配管の配置などを推進し、安
全・安心な高速道路空間を確保するよう努めていきたい。