プレビュー時代の終焉

2015年11⽉2⽇
⽇本株ファンドマネージャーの視点
『プレビュー時代の終焉』
※このレポートでは、⽇本株ファンドマネージャーが注⽬しているトピックなどを毎週お届けします。
企業の四半期決算の終盤になると、セルサイドのアナリストレポートは「プレビュー」真っ盛りとなります。株式アナ
リストの「プレビュー」とは⽂字通り「事前に⾒る」という意味ですが、対象は「今⾛っている四半期」でその四半期
の利益⽔準の感触をつかむことをプレビュー取材といいます。「プレビューフォーキャスト」といわないところが⾯⽩
いところで、予想に注⼒するというより、馴染みの企業へのヒアリングで四半期業績の感触をつかむことを⽬的にして
いるため、「中⻑期の予想」という要素はほとんど⼊っていません。
短期筋の話なのでスルーしたいところですが、セクターによっては皆でこれをやるため、この種の早⽿情報に株価は短
期的には⼤きく反応します。同じような⽅法で多くのアナリストがヒアリングをするため、その予想が最終的に正しい
かどうかはさておき、株価はそのプレビューの内容次第で1週間単位で動きます。また、この取材は同じ取材先に同じ
ことをヒアリングするため、午前中か午後かといったタイミングも重要となるようです。
⼩型株はアナリストカバレッジが極端に少なく、プレビューをする⼈がいないため、⼩型株を⾒ている私にとってこの
問題は他の多くのファンドマネジャーほど重要でありません。さらに投資の⽬線は3-5年後のため、プレビューの内
容で投資判断を変えることはありません。また⼩型株は流動性が低く、四半期ごとに⼤きく売買するのは不可能なため、
プレビューという発想⾃体がナンセンスです。
ただ⼤型株はプレビューにより、どんどん短期志向になっていることは肌で感じています。それはそうです。⼈間、皆
リスクを最⼩化しリターンを最⼤化しようとします。アナリストが市場分析などから積み上げた⾃分の予想を相⼿に伝
えるのは、失敗するリスクをはらみます。プレビューで直近のことを⾔う⽅が、間違えるリスクは⼩さくなります。そ
の結果、プレビューに注⼒するアナリストが増え、またそれを求める投資家が増え、「プレビュー」という本物かどう
かわからない怪物があちらこちらで⼀⼈歩きするのです。結局、いかに早くプレビューをつかむかが、多くの⽇本株
ファンドマネジャーの付加価値の源泉となっていきます。
プレビューに良い点があるとすれば、不安定な事実であるにしても早めに株価に織り込むことによって、市場の効率化
を推進することです。⼀⽅で、私はこの「プレビュー取材」が市場の短期志向をあおり、アナリストの思考能⼒を退化
させていると感じています。経験の浅いアナリストに多いのですが、⽬先の業績動向はすらすら答えられますが、来期
以降の⽅向性を質問するととたんに返答の声が弱まることがあります。⽬先の数字を追いすぎてその背景を考える余裕
がないということです。ベテランのアナリストの多くは来期以降のビジョンを聞けば当然⾃分なりの考えを持っており、
その上で短期の数字を考えています。ベテランアナリストやファンドマネジャーは記憶にあると思いますが、⽇本の決
算発表は10数年前までは半期と通期しかありませんでした。今のように頻繁に決算数字の「答え」は発表されず、
IRの体制も整っていなかったため、プレビューには注⼒しませんでした。現在の状況はアナリストという名のインタ
ビュアーを育成しているようにも思われます。
ただ最近は改善の傾向もでてきました。電気機器や化学、輸送⽤機器といった景気敏感セクターは業績にブレが⼤きい
ため、株価は短期業績とプレビューに振られやすい傾向にあります。これらのセクターの⼤⼿企業の中には、「ショー
トターミズムの是正」を理由にプレビュー取材を受けるのを⽌めた企業が現れてきました。また外資系証券会社の中に
は、プレビューを⾏わない⽅針の会社もあるようです。なかなか⼀度根付いた⼿法は、受益者であるアナリストが⾃ら
辞めるのは難しいと思いますが、着実に終焉に向かっています。
最近何⼈かのアナリストにプレビュー取材がなかったらどう思うかと質問してみると、困るというアナリストがかなり
いました。そしてそのような企業をネガティブ視するというアナリストもいました。なぜ企業がわざわざ慣習をやめる
のか、真剣に考える時期がきているのではないかと思います。
株式運⽤部
永⽥ 芳樹
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